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カウンセリング研究,1997,30

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カウンセリング研究,1997,30
Japanese Journal of Counseling Science, 1997, 30,pp.
(カウンセリング研究,1997,30,)
【 展 望 】
学
校
教
育
相
談
と
大
野
精
一
は
何
か
東京都立足立西高等学校
(Tokyo Metropolitan Adachi-Nishi High School)
School
Counseling Services
by
Teachers in Japan
Seiichi Oono
School counseling services by teachers are activities to help students with their
schooling and daily life in Japanese schools. In this article, systems and models of
school counseling services by teachers to support the services' uniqueness and
characteristics were presented. Construction of the systems and models was never started
because of teachers' busy activities to meet students everyday's needs. First, school
counseling services of almost 40 years were discussed by classifying them into three
theoretical types:mini-clinic in school, functional guidance and counseling-mind of
teachers. Also school counseing, school psychology, student counseling, and school
counseling systems in America and Europe were examined to get the hints and criteria to
the systems and models of school counseling services by teachers in Japan. And roles of
teachers in charge of school counseling services were listed based on the literature
review in the field. Finally, the total system of school counseling services by teachers
was presented, including integration of organizing, evaluating, counseling, and
promoting activities. Including special educational services to the handicapped students
in school counseling services was considered as criteria to establishment of the total
system of school counseling services by teachers. The definition of school counseling
services by teachers was presented.
Keywords: school counseling services by teachers; "counseling-mind"; guidance ;
consultation; coordination; promotion ; integration
学校教育相談は,日本の学校における教師による児童生徒に対する実践的な援助活動である。本
稿では,日々刻々の差し迫った援助実践の中で始められずにきている学校現場からの学校教育相談
の理論化(学校教育相談の独自性や固有性を明確にし,その全体像を提示すること)を試みた。先
ず始めに40年近い学校教育相談の実践を,ミニクリニック・モデル,生徒指導機能論,そして,カ
ウンセリングマインド論の3類型に理論的に整理して検討した。この議論から,学校教育相談の普
及化等の諸成果を明確にして学校教育相談理論化のための示唆を得た。また,学校教育相談理論化
のヒントやその評価基準を設定するために,学校カウンセリング,学校心理学や大学の学生相談に
関する諸研究を検討し,アメリカや一部ヨーロッパ諸国のスクールカウンセリングの実情にふれた。
そして,学校教育相談に関する文献研究に基づいて学校教育相談担当者の仕事や役割について整理
した。こうした基礎作業に基づき,学校教育相談の理論化を試み,全体的な枠組みとしては,組織
活動,評価活動,相談活動,推進活動,これらの統合活動を設定した。今後の課題の一つとして,
障害児教育を学校教育相談の体系の中に位置づけることがあり,これは援助と指導の統合をめざす
学校教育相談体系確立のcriteriaになると思われる。最後に,現在の段階での学校教育相談の暫定
的な定義を提示した。
- 1 -
大野
精一(東京都立足立西高等学校)
学 校 教 育 相 談 と は 何 か
(School Counseling Services by Teachers in Japan )
【カウンセリング研究第30巻第2号掲載 展望論文 】
目
次
英文・日本文レジュメ(p.1)
1 はじめに(pp.2-4)
2 学校教育相談実践の類型化(pp.4-12)
1)学校教育相談実践の3つの類型
2)ミニクリニック・モデルの限界
3)生徒指導機能論とカウンセリングマインド論の展開とその限界
4)学校教育相談理論化の諸課題
3 学校教育相談に関連する学問領域や諸外国のスクールカウンセラーの実情に
ついて(pp.12-22)
1)学校カウンセリング研究の成果について
2)学校心理学研究の成果について
3)大学の学生相談研究の成果について
4)アメリカや一部のヨーロッパのスクールカウンセラーの実情について
Aアメリカのスクールカウンセラーについて
B一部のヨーロッパのスクールカウンセラーについて
C日本の学校教育相談理論化へのヒント
4 学校教育相談活動の内実の充実化(pp.22-23)
5 学校教育相談理論化の試み(pp.23-38)
1)学校教育相談担当者の役割からのアプローチ
Aカウンセラー・プロモーター・インテグレーターとしての学校教育相談担
当者
B学校教育相談と生徒指導・進路指導・学業指導
2)コミュニティ心理学の発想を取り入れて
3)学校教育相談理論化の1つの試み
A相談活動(1)―カウンセリング
B相談活動(2)―コンサルティングとコーディネイティング
C推進活動―プロモーティング
D組織・評価活動―オーガナイジングとエヴァリュエイティング
E統合活動―インテグレイティング
F学校教育相談の専門家像―反省的実践家
G学校教育相談の固有領域―学習・進路・軽い適応面
H学校教育相談の今後の課題
I学校教育相談の暫定的な定義
6 まとめ(pp.38-39)
7 付 記(p.39)
8 引用文献(pp.39-49)
9 図表 Fig.1 文献から見た「相談係」の仕事
(50-51頁)
Fig.2 学校教育相談の領域図
(52頁)
Fig.3 学校教育相談活動の全体的な枠組み
(53頁)
ことが今,正面から問われているのである。
本来的にはこうした問いかけに対して当初から自覚的
[はじめに]
日本の学校には,教師(教諭・養護教諭等)による
に究明すべきではあった。そうしない限り,学校教育
40年近くの長きにわたる学校教育相談の実践と研究の
相談は単なる実践運動として,学校教育界の一エピソ
積み重ねがある。この実践と研究は,アメリカの充実
ードとして終焉する恐れがあるからである。
したスクールカウンセラー制度と対照的に,各種の制
実際に,現在までの全国各地の貴重な実践は,一部
度・施設・設備等を欠いたり,あるいは貧弱なままに,
を除いてその適切な位置づけがなされないままに,バ
そして,必ずしも学校全体の共通理解を得ることがで
ラバラに雲散霧消してしまっている。その結果,全国
きない状態の中で,学校現場で児童生徒に生じてくる
の学校教育相談研修も統一性・体系性を欠き(松原,
さまざまな問題・課題を見逃すことができなかったバ
1988b),そのために各地の学校教育相談の新しい実
ルネラブルな教師のボランティア実践活動(バルネラ
践家は,ほとんど手探り状態での出発を余儀なくされ
ブルvulnerableとボランティアの関係についての説明
ている。今,先ず必要なのは,過去・現在の全国各地
は,金子,1992)として始まったものであり,基本的
の学校で行われた(いる)真摯な実践を整理し,それ
には今もこうした地道で,営々とした実践的なサービ
を独自かつ適切に体系化する枠組みである。学校教育
ス活動が全国の学校に続いていると言える。このこと
相談の実践を体系化することにより,学校教育相談の
は,全国学校教育相談研究会や都道府県単位の学校教
アイデンティティが明確にされうるものと思われる
育相談研究会,さらに日本学校教育相談学会等の研究
(大野,1996,1997a)。
紀要に掲載されている多くの実践報告に見られる通り
本稿では,先ず現在までの学校教育相談の実践や学
校教育相談に関連する諸領域の研究成果を検討し,学
である。
一方,近年において学校教育相談と関連する分野で
ある学校カウンセリングや学校心理学等の研究・実践
が発展し(例えば,石隈,1996),さらに臨床心理士を
校教育相談に関する文献研究をした上で,学校教育相
談の1つの全体像を展望的に提示する。
そのために佐伯(1986,pp.6-11)の展望論文に関す
中心とする文部省の「スクールカウンセラー活用調査
る提言にならった。過去から未来に向けての実践研究
研究委託事業」が,1995年度から始まった。これらの
の歴史的な流れ(タテ糸)と「異なる分野での同じよ
動きは,それぞれの背景や目的があるにしても,日本
うな考え方,理論,モデル,主張」(ヨコ糸)に,
の学校でのあるべきスクールカウンセリングを求める
「それぞれの時代のそれぞれの考え方に対する「批
ものである。
判」の流れ」(ナナメ糸)を加え,さらに「タテ,ヨ
今や,学校教育相談はそのアイデンティティを鋭く
コ,ナナメの全体像のなかに自分の研究を位置づけ
問われているといっていい。日本の学校教育相談はど
る」ようにした。すなわち,本稿ではタテ糸として
こからどこに行こうとしているのか。その固有性・独
「学校教育相談実践の類型化」を,ヨコ糸として「学
自性・体系性や全体像をどのように構築していくのか。
校教育相談に関連する学問領域や諸外国のスクールカ
学校教育にとって学校教育相談はどのような意義・意
ウンセラーの実情について」を置き,それらにナナメ
味・価値を主張できるのか。学校教育相談にこうした
糸を絡ませた。結果として前者(タテ糸)にはかなり
- 1 -
- 2 -
厳しい絡み方をしたが,これはそれらの見解・論理が
相談の研究と実践に携わってきた小泉(1986b)の歴
あまりにも身近であるために,違いを明確にせざるを
史的な総括と整合的である。
得なかったからである。反面,後者(ヨコ糸)には好
第一は,ミニクリニック・モデルあるいは治療的学
意的な論評をしたが,これはそもそもトピックスが既
校教育相談とでも言いうるものであり,代表的には,
に選択的であること(選ばないことによっても評価し
登校拒否等に対して学校内の相談室や保健室等で相談
ている),あまりにもベースが異なっているので共通
担当者等が関わってきたものである。
性を強調したためである。そして最後に,「学校教育
第二は,学校教育相談を生徒指導の機能に組み入れ
相談理論化の試み」として自分の研究をこうした全体
たものであり,その中に狭義の生徒指導(集団的・管
の中で位置づけようとした。
理的・訓育的な働き)と相談的なアプローチの統合を
なお,ここでいう「理論化」とは,既にふれたが,
志向する両輪論と,相談的機能を生徒指導の中核とす
一般的には現実の実践を意味づけ,将来を展望するた
る中核論に分かれる。ただし,この系譜に属する小泉
めに必要な全体的体系的な枠組み作りのことをいう。
(1973,1978)のいう教育指導論は,もっと射程の広
こうした使い方は実践家にとってごく普通のことであ
いもので,学校教育全体の中で学校教育相談を位置づ
る(例えば,日本学校教育相談学会,1997)。以下で
けようとし,さらに学校教育相談の定義を正面から問
はこの意味で簡潔な「理論化」という語を使う。
題にして(小泉,1986a,pp.10-11),狭義には「校
実践家には,過去のデータの数量的分析から静態的
内の教育相談を中心とした,教育相談係またはスクー
に未来を予測するのではなく,現在の実践をベースに
ル・カウンセラーによる相談活動をいう」,広義には
して現時点で見通せる近接未来(可能性)を展望的に
「担任およびすべての教師が,カウンセリング・マイ
総括することで得られる新たなる実践へのエネルギー
ンドをもって教育活動をすること。カウンセリング・
と勇気は大きいものである。このことは,理論的には
マインドとは,相談的な心とか,見方,態度をいうも
下山(1996)のいう実践型研究における「循環的仮説
ので,カウンセリング関係においてとくに大切にされ
生成―検証過程」につながっていくものでもある。
る心構えといってよい」としている。これらは,本稿
と内容的には異なるところがあっても,問題意識を共
[学校教育相談実践の類型化]
1. 学校教育相談実践の3つの類型
教育相談の考え方を教育実践に生かそうとする個々
の教師の実践を別にすれば,今日までの典型的な学校
有するものである。
そして,第三は,教育論あるいは教師の資質向上論
として特徴づけてもいい周知のカウンセリング(ある
いは,カウンセラー)マインド論である。
教育相談実践(実践を支える理論的な見通しや実践の
背後にある照合枠を含む)を理論的に類型化すると,
次の3つになるように思われる(大野,1995b)。この
2. ミニクリニック・モデルの限界
先ず,第1の類型について論じる。初期の全国学校
類型化試論は,学校現場に長年いる学校教育相談の実
教育相談研究会研究紀要掲載論文に関する研究を概括
践家にはある程度当然のもの(意識化すべき実践上の
した小泉(1987,p.18)は「昭和41年から57年ごろま
暗黙知に相当する)であるが,長年にわたり学校教育
での学校教育相談の活動は,相談係またはカウンセラ
- 3 -
- 4 -
ー中心の1対1の治療的活動が中心を占めて発展して
(例えば,学習面や進路面など)から生じてくる問題
きていることは否定できない。しかも現実にはかなり
の,しかも,その端緒(予兆も含む)も重大だからで
難しいケースに長期間とりくんでいるケースも少なく
ある。このことについては,いくつかの実証的研究
ない」という。
(例えば,いじめについては,森田・清水,1994,不
われわれ学校現場の教師は,こうした真摯な治療的
登校については,森田,1991,古市,1991,その他では,
活動から,それまでの学校教育に欠けていたもの,例
千葉県総合教育センター,1992)も支持しているとこ
えば個に応じた教育のあり方等を考えさせられ,児童
ろである。
生徒中心の援助方法やその態度・姿勢等を学び,ある
学校教育相談実践は学校教育活動にとって不可欠な
意味では学校教育に関するパラダイム転換を部分的に
要素として組み込んでいかざるを得ない。ここに,現
体験させられたのである。しかし,今日,こうした活
在も続く厳しい生徒指導状況(特に反社会的問題行動
動は学校教育相談の中心ではなくなっている。それは
への対応)も反映した生徒指導機能論と,教師という
なぜなのか。
主体に注目した資質向上論としてのカウンセリングマ
それは相互に関連する4つの主な理由による。第1
インド論とが出てくる素地があるのである。
には,ミニクリニック・モデルは,機能としても職分
としても知識体系(臨床心理学)としても,学校教育
3. 生徒指導機能論とカウンセリングマインド論の展
の中での位置づけが明確ではないのである。心理臨床
開とその限界
的であること自体では学校での飛び地(enclave)でし
第2の類型は生徒指導機能論といえるが,そのうち,
かない。教育相談室の中だけではなく,「問題への対
中核論は文部省編集の『生徒指導の手びき』(文部省,
応を学校の中,学級の中で考えて見よう」(松村,19
1965)や『生徒指導の手引(改訂版)』(文部省,19
94,p.24)という発想や「子どもの問題の発生や子ど
81),少なくとも1991年までの各種の生徒指導資料や
もの成長の過程を,子どもが生活する学校や学級とい
生徒指導研究資料に見られる「学校教育相談観」と呼
うシステムの中で考えようとする視点」(近藤,199
応している(大野,1990b)。すなわち,A生徒指導の
4)が学校教育相談には当然必要であった。第2には,
中核は理論的にも担当者論としても学校教育相談にあ
ミニクリニック・モデルでは相談室で援助する児童生
る,B学校教育相談は専門職としての相談教師が行う
徒以外の圧倒的に多くの子どもへの対応が,姿勢・態
べきものである,という考え方である。ただし,相談
度という抽象的レベルでしか見えてこないからである。
教師の養成や研修のプログラムは明確に定立されてい
第3には,ミニクリニック・モデルには,こうした児
ないのである。また,今井(1994)は,「他の生徒の
童生徒を生まないようにし,さらに多くの児童生徒を
ための指導」としてあったこれまでの生徒指導(管理
成長・発達させる本来の教育的発想(1対1ばかりで
的訓育的指導)と,その対極にある「無条件の肯定的
なく,同世代の仲間関係等を利用した効率的なグルー
受容」を中心とするこれまでの教育相談の統合(両輪
プワークも含む)に乏しいからである。そして,第4
論)が説かれていたが,これは二律背反に近いとし,
には,学校で問題になるのは結果として出てくる適応
教師本位(教師のための指導,過保護・密着の受容)
上の問題ばかりではなく,学校生活のあらゆる場面
ではなく,生徒に添う指導はどうしたら可能であろう
・
- 5 -
- 6 -
・
・
・
かと問う。この両者の指導の各々の重要性を認識した
て,尾崎・西(1984,p.i)は,「今日の児童・生徒
上で,これからの生徒指導は,前者にあっては
の実態や学校教育と家庭教育の現状を考えるとき,カ
・
・
・
・
「その生徒のための指導」,後者にあっては「行為は
ウンセリング・マインドは,教師や親にとって,きわ
認めないが,気持ちは受容」といった原理が働く限り,
めて重要な教育的機能を担うものである。もともとカ
「生徒に添う」という共通性で重なり合いながら統合
ウンセリング・マインドは,心理療法的な関係を基盤
されて,かくしてこれからの生徒指導は学校教育相談
(来談者とカウンセラーとの間の信頼や共感の関係)
が中核になる,と今井(1994)は説いたのである(傍
として成り立っている」とし,その神髄(教師の基本
点は引用者)。
姿勢)を,以下の9つの柱に要約している。
両輪論に関しては,東京都の行政的文書(東京都公
①児童・生徒の成長への可能性を信頼し,畏敬の念
立高等学校長協会,1982)に次のような適切な要約が
をもつ,②人間として対等の関係を実感し,心のひび
ある。「学校における生徒の指導方法には,管理的・
き合いをもつ,③児童・生徒の考え方・感じ方をあり
集団的・訓育的指導と,相談的・個別的・受容的指導
のままに受けとめ,共感的に理解しようとする,④教
がある。この二つは,まさに車の両輪であり,この両
え与えることに性急にならず,自分で学ぼうとする構
者の調和がとれていなければ,真の意味で基本的な生
えを大切にする,⑤知的側面だけでなく,情緒的側面
活習慣を身につけると同時に,自己理解を深め,主体
へのかかわりを大切にしていく,⑥児童・生徒を先入
的に自己決定のできる生徒は育たないであろう。そし
観や固定的な考えで見ないで,新鮮な目で柔軟に見て
て,この二つの指導は,一面では生活指導と教育相談
いく,⑦児童・生徒とともに考え,歩もうとする,⑧
という校務分掌上の役割の問題とも考えられるが,も
児童・生徒の自尊心を大切にし,追い立てないで待て
う一歩深めてみると,生活指導の教師は厳しく,担任
る,⑨共感的理解と訓育的指導とを統合していく。
や相談係は温かくというようなことではすまされず,
また同様の概括は,尾崎・西(1996)にも見られる。
根本的には,厳しさと温かさ,訓育的指導性と相談的
ただ意外なことであるが,カウンセリングマインド
指導性とが,本来的に一人の教師の中で一本化してい
という用語は,文部省の『学校における教育相談の考
なければ,真に生徒から信頼される教師になり得ない
え方・進め方―中学校・高等学校編―』(文部省,19
ということが考えられる。なぜなら,”厳しさ”は人
90)にあっては,3カ所(pp.4,77,123)しか見られず,
生への洞察から生まれるものであり,”温かさ”はそ
しかも二重カンマやカッコ付き表記がとられている。
の上に立った青年期への理解と愛情から生まれるもの
意味内容も,歴史的局面の分析,付随的命名や研修講
であるからである。」なお,東京都では,生徒指導を
座名表記でしかない。翌年1991年に同じく政府刊行物
伝統的に生活指導といっている。
として発行された『小学校における教育相談の進め
一方,カウンセリングマインド論に関しては,先ず
方』(文部省,1991)においても,意味内容の強調は
このカウンセリングマインドという用語そのものは,
見られるが(p.36),用語としては同様な取り扱いで
1972年頃に東京都立教育研究所相談部の小泉英二が使
ある(大野,1996)。今日まで学校現場における狭義
ったとするのが,最も古いものの1つである(小泉,
の生徒指導(生活指導)においてカウンセリングマイ
1989)。また,カウンセリングマインドの意味につい
ンドは,キーワードではなかったが,さらに行政やそ
- 7 -
- 8 -
れに直接・間接に影響を受ける各地の教育研究所・セ
間や教師間の関係を悪くすることもあったことである
ンターにあっても一定の距離を置きつつあるように思
(渡辺三枝子,1989)。生徒指導およびカウンセリン
われる。この語の持つ学校現場に対するメッセージ性
グはそれ自体としての独自な定義・機能等も正確に把
や影響力は検討されるべき時期に来ている。
握しておかなければならないのである(渡辺三枝子,
生徒指導機能論やカウンセリングマインド論によっ
1996)。
て,学校教育相談はようやく理論的に学校教育の中心
そして,第4に現状では,ミニ・クリニック論,生
的な領域に定立されたが,しかしながら,これらの2
徒指導機能論やカウンセリングマインド論等が学校教
つの学校教育相談の考え方・進め方は,いくつかの課
育相談の理論化に向けて総括されずに,そのまま混在
題を残しているといっていい。
し,その結果,全国各地の実践が一義的理論的に整理
先ず第1は,このままでは学校教育相談固有の対象
できない状態になってしまっているのである。
領域(構造的な領域や職域)が設定できないというこ
総じて第5に,これら3つの実践や考え方は,「学
とである。機能論やマインド論は,教育や生徒指導に
校の」あるいは「学校における」教育相談であって,
関するパラダイム転換を迫る批判原理や目標設定とし
一語で術語化される「学校教育相談」ではないのであ
ては有効に働くが,現実の学校という具体的な時空間
る(大野,1993b)。というのは,これらは学校教育
の中でそれに向かってなすべきことを,一義的には演
との関連で教育相談(カウンセリング)それ自体の吟
繹できないのである。だから,これらの学校教育相談
味が十分行われないままに,直接無媒介に学校の中に
に対する考え方は,それ自体としてはほとんど無概念
場所的に入れ込まれたり(ミニ・クリニック論),あ
と言ってよく,上位概念の「生徒指導」や「教育(ま
るいは学校教育活動の中へ抽象的な機能として取り込
たは,あるべき教師像)」に解消してしまい,独自の
まれたり(生徒指導機能論),教師という主体の活動
理論化を生み出さない。
指針(基本姿勢)とされたりした(カウンセリングマ
しかも,第2には,折角あったガイダンスの伝統を
インド論)にすぎないからである。問題は,一語でト
十分に取り入れていないことである。四半世紀以上も
ータルで語られる「学校教育相談」の固有性・独自性
前に文部省と日本職業指導協会が共催でおこなった
・全体性を体系的に示すことなのである(大野,1997
「学校カウンセリング・セミナー」には,「ガイダン
c)。
ス論」がきちんとあったのである(例えば,藤本,19
70)。このままでは,開発的な学校教育相談プログラ
4. 学校教育相談理論化の諸課題
ムを学校教育に不可避なものとして具体的・構造的・
今日までの学校教育相談の典型的な実践活動を理論
組織的に組み込むことができないし,さらに学校教育
的に3つの類型で整理した。ここから示唆される学校
相談担当者の養成プログラムも定立しにくいのである。
教育相談理論化の課題(未解決の問題や主題化されて
さらに,第3に生徒指導とカウンセリングマインド
いない問題群)は,先ず第1に日常の学校教育(学校
の安易な結びつきが,さまざまな悲喜劇を学校現場に
での生活を含む)の下に構造化・システム化された指
生じさせ,生徒指導やカウンセリングそのものへの誤
導と援助の体系として具体的に構成すること,第2に
解を助長し,その結果,学校生活で児童生徒と教師の
社会(コミュニティ)に対して一定の連携と責任を果
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- 10 -
たしうる開かれた体系にすること,そして,第3に教
一方,國分は,カウンセリングの一般的な定義(國
師(教諭・養護教諭等)の日常的な職務指針として有
分,1996b)と整合的に,学校カウンセリングを次のよ
効であること等があげられる。このために次に,学校
うに機能的に定義している(國分,1994,p.14)。「学
教育相談に関連する学問領域や諸外国のスクールカウ
校カウンセリングとは,児童・生徒が学校生活を送る
ンセラーの実情について,種々の「研究成果の賢い消
プロセスで出会うであろう諸問題の解決を援助する人
費者」(石隈,1997b)の立場から検討し,そこから
間関係である。ここでいう諸問題とは学業不振・友人
学校教育相談理論化のヒントや理論化のために不可欠
関係・進路・部活・親子問題・異性問題・不登校など
な要素(その妥当性や評価基準を含む)を確認する。
が例である。」非常に簡明でわかりやすい定義である。
ここから,國分(1994,p.14)は,「援助の方法とし
[学校教育相談に関連する学問領域や諸外国のスクー
ては現実原則志向のもの(例,ガイダンス)と快楽原
ルカウンセラーの実情について]
則志向のもの(例,治療的カウンセリング)との両極
ここでは,学校カウンセリング,日本における学校
が考えられるので,生徒指導(サイコエデュケーショ
心理学と大学の学生相談の成果やアメリカ,一部のヨ
ンを含む)や教育相談は学校カウンセリングの下位概
ーロッパ諸国のスクールカウンセラーの実情について
念になるのではないかと私は今のところ考えている」
検討する。
という。後半部分は大野(1993a)と異なる。また,
國分(1994,pp.15-6)の考える今後の学校カウンセリ
1. 学校カウンセリング研究の成果について
学校における教育相談の実践を,学校教育相談では
ングの方向・課題を展望的に提示すれば,次のようで
ある。
なく学校カウンセリングとして構成する研究方向があ
A折衷主義
る。大野(1993a)は学校カウンセリングを,学校教
「どういう目的の時にどういう生徒にはどのような
育相談を構成する重要ではあるが,しかしその一部分
アプローチがよいかという発想を取り入れる必要があ
としてとらえている。
る」が,ここで大切なのは「これら複数の理論をどう
松原(1988a,p.3)は,学校カウンセリングを空間
まとめるか,どう使いわけていくか,その原理あるい
的に「児童・生徒を対象に,学校内または教育機関で,
はモデルを自分なりに定めること」である。単なる折
スクールカウンセラー(学校教育相談員)が行うカウ
衷主義ではないことに注意しておきたい。
ンセリングである」と定義し,同様に松原(1994,p.
B育てるカウンセリング
4)は,「学校カウンセリングは,児童・生徒の問題を
「学校は社会化センターであって,治療センターで
中心に,学校教育を背景とした諸問題の解決や適応,
はない」ので,具体的には,キャリア・ガイダンス
人格的成長を図るための学校カウンセラーが,援助・
(あるいはキャリア・カウンセリング),構成的グル
助言する活動をいう。すなわち,対象は,児童・生徒
ープエンカウンター,授業に生かすカウンセリング,
の教育上の諸問題である。なお,大学における学生相
サイコエデュケーションがその内容になる。
談も広義には,学校カウンセリングに含まれる」とし
C集団体験
ている。
「個別面接だけがカウンセリングだと思ってはなら
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- 12 -
ない」のだから,当然にも「グループにはたらきかけ
「専門的ヘルパー」,それを役割のひとつあるいは一
て個々人の成長を促す」集団体験(グループプロセ
側面として行う「役割的ヘルパー」,そして,それを
ス)に力を入れるべきである。
職業上や家族としての役割とは関係なく自然に,自発
学校教育相談にとって松原や國分の研究が示唆する
的にあるいは結果的に行う「ボランティアヘルパー」
ことは,学校教育相談に固有な領域や方法を定立すべ
の連携の下に行われる。そして援助サービスには,一
きだということである。特に國分の主張は,抽象的に
次的教育援助(入学時の適応,学習スキル,対人関係
しか言われてこなかった開発的学校教育相談を明確に
能力などのすべての子どもを対象にした援助),二次
してくれる。実際にこの方向での卓越した学校教育相
的教育援助(登校しぶり,学習意欲の低下など一部の
談実践が出てきているのである(例えば,片野,1992
子どもを対象にした援助),あるいは,三次的教育援
-1993,水上,1994-1995)。こうした動向(先駆的な
助(不登校,いじめ,LDなどの特定の子どもを対象
研究には,伊東,1983 がある)を学校教育相談として
にした援助)が含まれる(日本教育心理学会,1996)。
自己の枠組みに入れ込むことが大切である。
援助サービスの主たる活動として,心理教育アセスメ
ント(ある問題について意思決定するためにその基礎
2. 学校心理学研究の成果について
となる情報を収集し分析するプロセス),カウンセリ
日本における学校心理学研究は,早くから学校での
ングおよび学習・発達援助,教師・保護者へのコンサ
カウンセリング実践に関してクリニック・モデルでは
ルテーション(異なった専門性や役割をもつ者同士が
なく,学校教育の側面を強調し,その援助形態も教師
援助の対象である子どもの状況について検討し今後の
同士の連携やネットワーク作りに着目してきた(一丸,
援助のあり方について語り合う「作戦会議」),そし
1994)。こうした流れの中で石隈(1996, p.228-229)
て,学校組織へのコンサルテーション(学校が子ども
は,アメリカの学校心理学の定義を拡大して日本の学
の学習と成長の場所としてよりよく機能するように働
校心理学を次のように定義している。「学校心理学は,
きかけること,なお教室などの物理的あるいは心理的
学校教育において児童生徒が学習・発達面,心理・社
な居場所づくりとの関連では,松田,1996 が多くの示
会面,進路面において出会う問題を解決し,成長する
唆を与えてくれる)があげられるのである。
ことを促進する心理教育援助サービスの理論と実践を
こうした学校心理学の成果から学校教育相談が学ぶ
支える学問体系である。心理教育援助サービスは,学
ものや学校教育相談と重なる問題関心は極めて多いが
校心理学の専門家と教師が保護者と連携して行う。心
(大野,1997d),その中でも,A教育援助論やヘル
理教育援助サービスには,すべての子どもを対象とす
パー論に学んで,学校教育相談を質の高い段階的継起
る活動から,特別な援助ニーズをもつ子どもを対象と
的構造的な専門的援助サービスができるようなシステ
する活動までが含まれる。(発達面での援助とは,発
ムとして構築すること,B今日まで学校教育相談に不
達の遅れや偏りなどの問題や障害をもつ子どもへの援
十分であった心理教育アセスメントや学習面への援助
助をさす。)」
を学校教育相談の体系に具体的に位置づけること,C
このために,石隈(1996)によれば,心理教育援助
サービスは,それを主たる仕事として専門的に行う
- 13 -
障害児教育を含めて(石隈,1995),学校教育相談を学
校教育全体にかかわる指導と援助の体系として構成す
- 14 -
ることが重要である。学校教育相談理論化にあたって
重さと深み,軽さと広がりとの両面を有する相談担当
は,学校心理学と同じくこうした基本方向を保持すべ
者が,今,求められているのである。
以上が鳴澤(1986)らの実践研究の内容であるが,
きである。
これは,大野(1985)の相談係の役割・活動内容の総
3. 大学の学生相談研究の成果について
松原(1994)は,大学の学生相談を広義の学校カウ
括と問題意識を共有するものである。
一方,全国学生相談研究会議(1991)の実践研究は,
ンセリングに含めているが,学校教育相談にとって大
学生相談固有の専門性・体系性や役割・機能を求めて
学の学生相談から学ぶことが多い。
いる点で,学校教育相談の問題意識と親近性がある。
鳴澤(1986)らの実践研究は以下のように主張する。
この点に関して,下山(1991,p.46以下)は,大学にお
従来の学生相談室の活動は,待っていて相談に応じ
ける各システム(学生集団・事務官システム・医療シ
る駆け込み寺的な性格が強く,受身型で奥の院的なイ
ステム・教官システム等)の「はざま」性から見直し,
メージをもつ密室型のカウンセリング・サービスを中
「各システムと協力し,各システムやその中にある学
心とするものであり,これでは街のクリニックと本質
生の援助のための資源をつなぎ,学生の成長を支える
的に異なるところがない。こうした活動の重要性を認
ソーシャル・サポート・ネットワークを創っていく”
めつつも,教育機関に勤めるカウンセラーの本来の職
つなぎ役”となる」ことを期待している。そのために
務とその最終的な目標は,すべての学生と教職員に対
学生相談活動を,援助活動のみならず,教育活動・コ
する精神的健康の維持・増進とその不健康への予防に
ミュニティ活動・研究活動として広くとらえているが,
務めることであり,その意味では,担当者は,カウン
これは学校教育相談理論化に示唆を与えるものである。
セラーであるばかりでなく,学校というコミュニティ
この二つの学生相談の実践研究は,学校教育相談理
の心の健康のオーガナイザーなのである。また,当然,
論化にとって直接に参考になるものである。特に,学
相談担当者は,学生個人の心のあり方(システム)を
生相談は,一部・特定の問題をもった学生のためだけ
理解し,それに働きかける機能(カウンセリング)ば
ではなく,すべての学生に共通する予防的・発達的・
かりでなく,それらの学生をとりまく人間関係,大学
教育的な面が不可欠な要素であること,そして,学校
の諸機関を含む生活システムに働きかける機能(コン
というコミュニティの全体にかかわるものとして構成
サルテーション)をもつことが必要である。こうした
されていること,この2点は学校教育相談にとって極
問題意識をもつ時,カウンセラーの活動やその重点も
めて重要なものであると思われる。
変わってくる。先ず第一に,学生相談の中心である危
機介入的援助や,その学生をとりまく援助・支援のネ
4. アメリカや一部のヨーロッパ諸国のスクールカウ
パ ー ソ ナ ル ・ コ ン ボ イ
ットワークづくり(個人の援護艦隊の修復)をめざす
ンセラーの実情について
コンサルテーションが大切である。さらに,心の健康
諸外国の例が日本の学校教育相談の直接のモデルに
増進のための教育・指導活動や,自分の勤める教育機
なるわけではない。ただ,学校教育相談の理論化にあ
関内にある病根を抽出しよりよい教育的環境を提供で
たって,諸外国において日本の学校教育相談担当者に
きるようにする調査研究活動も重要である。こうした
相当する人々(スクールカウンセラー)のあり方を視
- 15 -
- 16 -
野に入れておくことは,教育の国際化を学校教育のキ
すべき能力の一つである。」「このようなコミュニケ
ーワードに設定する日本の学校の現状には必要不可欠
-ションの開放性こそ,学校カウンセリングにとって
のことでもある。ここでは,アメリカ(カナダを含
大切なのである。しかし,これゆえにまた,学校カウ
む)やヨーロッパの一部(ストックホルムとウィー
ンセリングにはそれ以外のカウンセリングと相違する
ン)のスクールカウンセラー(キャリアカウンセラー
特徴が生ずるのである」としている。
を含む)に関して簡略に述べる。
(1)アメリカのスクールカウンセラーについて
アメリカのスクールカウンセラーについては,多く
そうだとすれば,スク-ル・カウンセラ-の役割は,
カウンセリングに加えて,例えば,ボーイとパイン
(1976,pp.34-5)のいうように,次のようなことも当
の紹介がなされている。ここではスクールカウンセラ
然に考えられよう。
ーの役割に限定すれば,ガッチとアルコーン(1976,p.
(1)カウンセリングを求めてくるように動機づける,
55)は,「カウンセラ-がその仕事を始めるにあたっ
(2)様々な活動の効果を測定するための調査研究をおこ
て,もっとも重大な取り組みは教職員の協力を得るこ
なう,(3)情報提供活動,(4)学校の職員等に対する相
とである。本来,この問題は多くの,そして様々な人
談役,(5)テストの実施への援助,(6)生徒の配置・組
間関係の場面を考えねばならない問題である。このよ
み分けへの援助,(7)様々な研修会をおこなう
うな教師対カウンセラ-の関係が有意義なものとなる
総じて,リーゴンとマックダニエル(1977,p.16)
には,両者の関係は本来,相互援助的関係でなければ
が要約するように,「学校カウンセラ-は,カウンセ
ならない。その上,この両者の関係に立って,中心問
ラ-,コンサルタントおよびコオ-ディネ-タ-とし
題として教師の教授方法に役立つ資料や考え方を,カ
て学校に貢献するのである。」ヤギ(1995,1996)は,
ウンセラ-が教師に提示できるような仕事が生まれな
こうした役割に関する具体的な報告をしている。
ければならない」としている。またリーゴンとマック
これらのことは,American School Counselor As-
ダニエル(1977,pp.25,64,68)は,「カウンセラ-が
sociation(1990)のスクール・カウンセラーに関する
個々の生徒のために効果的に働くためには学校内で信
役 割 声 明につながっているし,また,Schmidt(199
頼され,かつ好意をもたれていることが重大な条件で
3,p.38)は,「全般的な学校活動において不可欠の役
ある。特にカウンセラ-よりもはるかに多くの生徒と
割を取るスクールカウンセラーは,管理者や教員に,
接する教師との関係こそ,決定的なものである。なぜ
包括的なスクールカウンセリング・プログラムにおけ
なら,カウンセラ-がしたいと思うことの多くは,カ
るカウンセリング,コンサルティングやその他のサー
ウンセリング関係以外のところと関係しているからで
ビスが如何に学校の効果的な運営に貢献しているか,
ある。」さらに,「コミュニケ-ションは,重要な他
確信させることができる。このために,スクールカウ
者とカウンセラ-との間でも開かれていなければなら
ンセラーは,学習的な発達,進路の発達,そして人格
ない。そして,両者が胸襟を開いて自由に話し合える
的,社会的な発達という,3つの不可欠な領域での生
ことが大切である。コミュニケ-ションへの道を開い
徒の発達に焦点を絞ったプログラムとサービスを計画
ておくのは,カウンセラ-の責任である。コミュニケ
するのである。」としている。
ロールステイトメント
-ションを円滑にできることは,カウンセラ-の具備
- 17 -
さらにPaisleyとBorders(1995)は,アメリカのスク
- 18 -
ールカウンセリングの専門性が総合的・発達的プログ
って行われている。臨床心理学を特に専攻する必要は
ラム(コンサルテーションやコーディネーションと同
なく,むしろ「指導(ガイダンス)」が大切だとして
様に個人や大小のグループ・カウンセリングが含まれ
いる。SYOの仕事内容は,教科および進路の指導と
ている)にあり,治療や危機介入に関するプログラム
情報提供である。教科についていけない生徒,学校に
もまだあるが,今や,すべての生徒に対する第1次的
おける各選択コースの不適応生徒の指導,卒業後の進
な予防や健全な発達の促進に強調がおかれているとし
路決定に対する援助等が具体的な仕事になる。
ている。とくにその中でも,日本との対比においては
次に,ウィーンのスクール・カウンセラーについて
「健康な自己概念や適切な自己評価等」(佐野,1989,
であるが,ここでは複線的な教育制度を取り,10歳で
p.45)を育てようとしていることは注目に値する。な
就職か,進学かを見越して進路決定しなければならな
お,カナダに関しては,中等学校のスクールカウンセ
い。前者ならば,Hauptschule へ行くことになるし,
ラーの役割・委任事項を重要度の順に示すと,A個人
後者ならば, Allgemeinbildende Hˆhere Schule へ
カウンセリング,B進路意思決定,C進学・就職決定,
行き,さらに,12歳で進路コースが分かれている。日
D危機的カウンセリング,E仕事調査の方法,F学業
本の高等学校普通科に相当するGymnasiumnには,同世
上の適応,Gライフスキルの伸長,H家族カウンセリ
代の55%が在籍しているに過ぎない。とすると,将来
ング,I教師へのカウンセリング,J就職斡旋,K障
の進路をどうするか,そのためには何をどう勉強した
害者へのカウンセリング
らいいのかなど,極めて早い段階から種々の援助活動
である(日本進路指導学会,1996)。
が必要とされる。そのために小学校(Grundschule,
6~10歳),中学校(通訳上,明確ではなかったが,
(2)一部のヨーロッパのスクールカウンセラーについて
おそらく前述した進学,就職の各コースを含み,10~
大野(1987b)は,スウェーデンのストックホルム
15歳の義務教育期間の学校)には,Berater(「助言
とオーストリアのウィーンの中等学校で働いているス
する」「忠告する」ことを意味する動詞beraten の名
クールカウンセラーについて,以下のように報告して
詞形で一般に「カウンセラー」(助言者・顧問)の意
いる。
味)という教師カウンセラーがいる。現職のまま1~
先ず,ストックホルムのスクール・カウンセラー
2年間の研修を受け,生徒300~400人に1名(通常1
(SYOと呼ばれ,英語では,Study and Careers
校に1~2名)配置され,相談を担当する時間に応じ
Counselor と表現されていた)は,制度的には1971・7
て別途給与が加算支給されるそうである。
2年度から実施され,中学校,高校,成人学校,青少年
以上がストックホルムとウィーンのスクールカウン
センターにフルタイムの専門職として置かれている。
セラーの1987年時点での実情報告である。なお,イギ
通常は,各学校に1名(生徒700~800人に対して1
リスに関しては,大野(1996)のキャリア・ガイダン
人)で,ストックホルムには159名いる。教師が地方公
スの実践紹介がある。
務員であるのに対して,SYOは国家公務員である。
(3)日本の学校教育相談理論化へのヒント
SYOの養成は,大学レベルで3年間,主として教育
諸外国のスクールカウンセラーの実情といっても,
学,社会科学,労働市場,学校制度等を学ぶことによ
調査当時の,しかもほんの一部で部分的でしかないが,
- 19 -
- 20 -
ここから非常に大切なことを示唆される。それは先ず
第1に,スクールカウンセラーの対象領域が学校の日
の仕事・役割や機能に絞って見ていきたい。
こうした研究の1つとして,大野(1985)は,18の文
常生活(ルーティンワーク)に密着した学習・進路を
献(小泉,1973,神保,1975,國分・米山,1976,ガッ
中心としていることである。第2に,スクールカウン
チとアルコーン,1976,ボーイとパイン,1976,リーゴ
セラーの援助の方法・方略がカウンセリングだけに偏
ンとマックダニエル,1977,岐阜県教育センター,197
っていないことである。そして第3には,援助の体系
8,神保・中西・富山・橋口,1978,松原,1978,小泉,
が社会(コミュニティ)に向かって開かれていること
1978,ブラックラー,1979,米山,1978,原野,1981,
である(例えば,KeysとBemak,1997は,スクールカウ
小川・山中,1983,浪花,1983,小林利宣,1984,藤原,
ンセラーとスクールカウンセリング・プログラムに学
1984,内山・高野・田畑,1984)から学校教育相談担
校・家庭・コミュニティを結びつける重要な橋渡し役
当者の仕事(役割分担)を抜き出し(原文のままとし,
を求めている)。日本の学校教育相談を理論化するに
重複もある),12のカテゴリーを設定して,Fig.1のよ
は,こうした観点を含み込むことが大切であると思わ
うに分類整理している。大野(1988)はその後も学校
れる。
教育相談に関する文献紹介を続けているが,基本的に
はこの整理を現在も踏襲している。
[学校教育相談活動の内実の充実化]
学校カウンセリング,学校心理学,学生相談および
諸外国のスクールカウンセラーの実情から,学校教育
相談理論化にとって必要な基本的な枠組み(理論化へ
のヒントであると同時に,その妥当性や評価基準でも
ある)を検討した。ここでは,その枠組みに含まれる
Fig.1 文献から見た「相談係」の仕事
(大野,1985)
具体的な内実(仕事・役割や機能)について論じる。
学校教育相談の全体像をより具体的に構成するために
【論文末尾に一括掲載】
は,こうした学校教育相談の内実を収集する作業が必
要なのである。そのためには学校教育相談に関する文
献研究が適しているように思われる。というのは,学
校教育相談に対するとらえ方(理解)によってその内
実が異なってくるからであり,さまざまな文献をフォ
学校教育相談の理論化には,これらの仕事(役割・
ローすることによってたくさんの内実をカバーできる
機能)を学校教育相談全体の中に適切に位置づけるこ
からである。ただ残念のことに,文献的には学校の教
とが必要なのである。以上で学校教育相談理論化に最
育相談係の活動を中心にとらえた狭義の学校教育相談
低限必要とされる基礎作業は終わった。
が圧倒的に多いのである。こうした限界を意識しつつ,
学校教育相談理論化の1つの核とするために,学校教
[学校教育相談理論化の試み]
育活動全体に中心的に働きかける学校教育相談担当者
- 21 -
- 22 -
1. 学校教育相談担当者の役割からのアプローチ
(1)カウンセラー・プロモーター・インテグレーテー
としての学校教育相談担当者
ーターとして現在の学校教育相談活動が円滑に進むよ
うに配慮するばかりではなく,その一層の定着化を考
えながら実践していく必要がある。ただ,これらのこ
学校教育相談の理論化において,当面もっと大切な
とは一度に全部やりきれるものではないので,学校の
ことは,実態にあった学校教育相談の全体的な枠組み
現状を踏まえて長期的な展望に立って段階的に進めて
を示すこと,しかもそれが学校教育相談実践のさらな
行かざるを得ない。例えば,カウンセリング・マイン
る展開・発展に寄与することである。このためには,
ドの徹底→校務分掌への位置づけ→カリキュラムへの
学校教育相談担当者の役割でもって学校教育相談の全
編入→専門カウンセラーの設置,という手順が必要で
体像を提示するのがよいと思われる。
ある。今,何をすべきか,それはどのような意味・意
大野(1986c)は,これを次のような3つの役割に
義があるか等を分析しながら実践していく。こうした
まとめた。先ず第1に,個々の児童生徒との相談を担
学校教育相談の創造的統合的な定着化の役割を「イン
当したり,他の教師に意見を述べたり,あるいは,教
テグレーテー」(統合・定着役)としての相談係とし
育研究所,病院などの校外の専門家と連携しながら相
ている。
談活動をする役割を,「カウンセラー」(相談役)と
こうした大野(1986c)の主張に対して,尾・(19
しての相談係としている。第2に,日本においてはカ
94)は,高等学校の現場教師の調査から,専任学校カ
ウンセラーという専門職が法制度的に定められていな
ウンセラーの役割の類型は教師や保護者に対する助言
いために,教師が学校での相談活動を兼務し,学校教
・援助(コンサルテーション)に関する役割,学習・
育相談に対する教職員の共通理解の形成に努めたり,
進路に関する援助的役割,連携・調整(コーディネイ
あるいは,学校教育全体の中で学校教育相談を的確に
ティング)に関する役割,心理的側面に関する役割と
位置づけ,それに即して実践する必要がある。相談活
なり,前述した大野の第1,第2の類型とほぼ同一の
動をしながら,同時に相談活動の基盤作りをしなけれ
結果となったとしている。また同じく尾・(1994)は,
ばならないのであって,こうした役割を「プロモータ
専任学校カウンセラーの学校での定着段階論(導入期
ー」(推進役)としての相談係としている。そして,
には治療的なアプローチ,発展期にはコンサルテーシ
第3に,相談係としてこうした二面的な仕事をしてい
ョンやコーディネーション,そして定着期には総合的
く場合にも,短期的横断的な目標(その時のその学校
なネットワーキング)を提案しているが,これは現在
での目標や課題)のみではなく,長期的縦断的な目標
のスクールカウンセラー事業を展望する上で興味深い
(これからのその学校の目標や課題)をも設定すべき
ものがある。
である。例えば,カウンセラーとして,ある場合には
最大の注意を払って登校拒否やいじめなどの問題に対
(2)学校教育相談と生徒指導・進路指導・学業指導
して治療的な相談活動を行うのみならず,すべての子
このアプローチの限界は明らかである。これは現在
どもを対象とした予防的・発達的(開発的)な教育相
の学校教育相談担当者の全体的な整理にはなり得ても,
談をも展開しなければ,学校教育相談が限られた一部
何を対象に,どのような方法で対処するのか,つまり,
の子どものためのものになってしまう。また,プロモ
学校教育相談の独自性・固有性が未だ明確にはなって
- 23 -
- 24 -
いないのである。端的に言って,学校教育相談を相談
が下した決断の結果,将来生ずる可能性のある事実を
係の活動のみからではなく,学校教育全体(適応指導
生徒に伝えること(シミュレーション)である(小林
・進路指導・学業指導)の視点から発想・構成する必
純一,1986)。自分はこれからどう生きていくのか,
要がある。この点に関して,大野(1989a)は高校で
未来と自分を結びつける選択力の育成(渡辺三枝子,
の実践に基づき以下のようにまとめている。
1987)こそ,進路指導の目標なのである。
A学校教育相談のより一層の具体化は今後の課題で
学校教育相談は,古くから実践や研究がなされてき
あるが,学校教育相談と生徒指導との接点に関しては,
た職業指導・進路指導論(例えば,小林達夫,1979,
例えば停滞気味の生徒会活動や文化祭について,教師
藤本,1991,日本進路指導学会,1996)を自己の体系の
が「どうすべきか」と思い悩むばかりではなく,再度,
中に適切に位置づける必要がある。
生徒指導の原点に帰るべきである。「いかに」生徒会
C学校教育相談と学業指導との接点としては,「教
をつくるか,「いかに」文化祭を実施するかに目を配
育相談を生かした学習指導」というと,主として授業
りながらも,なお,さらに生徒と教師との間で「何
の中における人間関係的な側面に重点を置いて,発問
故」「何の目的で」生徒会・文化祭をやらなければな
や応答などで生徒と教師との情緒的な交流を深める形
らないのか,そもそも生徒会,文化祭とは「何である
態の研究(例えば,尾崎・西,1996)が代表的であっ
のか」といったところの意味・意義・価値を共有し,
たが,その他に,ロジャーズのノン・ディレクティヴ
それを出発点にしながら,同じ目標を見つめ合い,生
・メソッドを根本から取り入れた「ひとり学習」が福
徒・教師間の相互交流・突き合わせを行い,共に同じ
岡を中心にして実践されている。古賀(1985)によれ
「流れ」を創り合うことこそ,生徒指導の中核である。
ば,自分で勉強を計画し,実践していく,教師はその
B学校教育相談と進路指導との接点に関しては,進
効率化を援助するだけで,子ども自ら教材(単元)の
路指導は,今も,一方で生徒の能力・適性等を評価し,
最高70%をこなし,一斉授業と比較してもあまり劣っ
他方において大学や職業等で成功(合格)するための
ていない,と報告されている。ただし,実践例はすべ
能力・適性等を分析し,それらを結合させるというパ
て小学校のものである。また,認知心理学的な学業指
ーソンズ(Persons, F.)のマッチング論(小林達夫,
導(その紹介は,例えば,大野,1987a)が注目され
1979)からなかなか脱却できないでいる。しかし,高
ている。今までの学習は,あまりにも「できる」こと
校中退,離職率の増加や大学の長期留年・転学転学科
ばかりにポイントを置きすぎていたのではないか。知
等を目の当たりに見るとき,もはやこうした方法では
識とは,「ああ!,わかったぞ。そうか。こういうも
進路指導の将来展望が切り開けないのである。進路指
のか。これ以外ではないんだ」という納得のプロセス
導とは,生徒自身が自己を知り,自分の可能性を発見
を経たものであり,自分と世界とのかかわりにおいて
し,自己の自由と責任の下に生徒が選択・決定をする
こそ,十分にその力を発揮できるもの(知識・思考の
プロセスを援助することである。生徒とともに考え,
領域特殊性)なのである。何故,私はこれを学ばなけ
同じ時間を生きながら,生徒の生きる世界を知ろうと
ればならないのか,その意味・意義・価値こそ,先ず
する。必要に応じて情報を提供し,それらを説明し,
もって生徒は明確にしなければならないのであり,そ
選択に必要な知識を与えることであり,さらに,生徒
うすることによって学習が活性化・効率化し,記憶に
- 25 -
- 26 -
も多く残ることが実証されているのである。なお,大
になっていないかということである。脱学校論者を別
友(1995)は,授業に学校教育相談を生かす場合の理
にすれば,この第2の側面が全面否定されることは少
論的・実践的な課題を展望的に整理している。
ないが,問題が価値観に関わることなので,慎重に検
討されなければならない。
2. コミュニティ心理学等の発想を取り入れて
大野(1990a,1993b)は,山本(1986)や森田(19
D今までこの当たりまでは自覚的に学校で論議され
てきたが,もう一つ重要な側面がある。それは第3に,
91)の研究を学校教育相談理論化の視点として以下の
学校はそこで児童生徒も教師も共に8時間以上生活す
ように取り込んだ。
る空間だということである。コミュニティといってい
A学校教育相談の定着化を考えるとき,「貧しい」
い。当然,児童・生徒も教師も同じ生活者として気持
学校イメージしか持ち得なかったために「豊かな展
ちよく生活したいと願っている。困っている人がいれ
望」を導き出せなかった面もあるのではないか。豊か
ば助け,一緒に喜び泣く。そうした共同体である。山
で,未来展望的な学校像(関係性の総体)を把握する
本(1986)は,こうしたコミュニティの中で援助者と
ことが学校教育相談理論化にとって大切である。
して働く人の基本的態度として次の4つをあげている。
クラス
B先ず第1に,学校は学級を中心とする文化伝達機
1人間を全体としてとらえる,2共に生きよう。共
関である。ここでは,教師と生徒という人間関係を基
に生きているのだ,3それぞれの人が,その人なりに
礎に広義の学習活動が展開される。ただし,一方的な
いかに生きていけるのか。けっして切り捨てない社会
注入学習はあまり効果が期待できず,最近では認知心
をどう追求するのか,4自分達の責任で生きよう。わ
理学の成果等を取り入れた様々な学習法が開発されて
れわれ一人ひとりの主体的参加が大切である。
いる。また,教育の人間化も有力な立論になっている
学校で子どもたちが生き生き,伸び伸びと活動し,
ところである。教育職員免許法の改正も近時あったが,
相互に思いやりと共感が生じてくるのは,こうした第
教員養成で基本的に重視されているのは,この第1の
3の側面が十分に開花・機能し,拡大・深化したとき
側面であることには変わりはない。
ではないかと思われる。
C第2に,学校は「しつけ」や「訓育」等を担う人
E学校教育相談を校内に定着化させるためには,校
格形成援助(指導)機関とでも言えるところである。
種や発達段階も考慮しなければならないが,基本的に
大人と子どもという人間関係を基礎にホームルーム
はこの第3の学校のあり方に注目せざるを得ない。学
(クラスとの対比において)としての活動が展開され
校教育相談担当者や担任教師が児童生徒を指導・援助
ている。社会規範や校内規範等を,成長途上または発
するだけではなく,それと重なり合いながらもなお,
達段階を理由として「強制」(ソフトに,時にハード
同一の時間と空間を共有する仲間・同士として,教師
に)される(社会や校内の規律・秩序の維持)。ここ
という人,児童生徒という人は助け合い,支え合うこ
で問題になるのは,学校規範等が社会のそれに著しく
とにより,学校教育相談が成立するのではないか。そ
乖離していないか(例えば,発達段階を無視したあま
して,学校を取り囲む地
りにも細かい校則,アルバイト,オートバイの免許取
種々の支援をしてくれるのである。助け合い,支え合
得等の問題),自主性・自発性・創造性等を奪う結果
うネットワーク作りこそ,今,学校教育相談にも,さ
- 27 -
- 28 -
コミュニティ
域は,こうした学校に対して
らにそこから導き出される学校作りにも緊要なのであ
る。だから,広く生徒指導に関して,学校は児童生徒
以上のことを領域的にイメージ化したものが,Fig.
2である。
の自己実現のすべてを可能にする場でもないのだから,
もっと謙譲な位置を模索すべきであるし,教師をして
「学校における親」とするパターナリズムは,生徒指
導の背景にはなりにくいのである。むしろ,先述した
ように,学校という一つの同じ時空間を相互に気持ち
Fig.2
学校教育相談の領域図
(大野,1993b,1996一部修正)
よく過ごしたいというコミュニティ意識の下で,子ど
もの権利条約に見られるように,児童生徒を保護すべ
【論文末尾に一括掲載】
き対象としてのみ見なすのではなく,権利の主体とし
て考えて自己決定権を尊重すべきである。そのために
児童生徒を,周知の「説明と同意(インフォームド・
このFig.2は,地域(コミュニティ)に向けて学校が
コンセント)」を行う対象と見なすべきなのである。
開かれていることを表すばかりではなく,教育学でい
もちろん,この場合には,村瀬(1995)のいう以下の
う潜在的・顕在的カリキュラム,森田(1991)のいう
配慮が必要である。
「プライベートスペース」「参加空間」「不可視空
1児童生徒の最善の利益を求めるという基本認識,
間」や河合(1967)が紹介した「カイロス」「クロノ
2児童生徒についての的確な総合的理解,3児童生徒
ス」を含み込ませた。さらに,カウンセリングマイン
との安定した信頼関係の形成,4何を何の目的で,い
ドに対して,その基本姿勢を「エデュケーショナル・
つ,どのように誰が告げるのか,それらについては児
マインド」「ヘルピング・マインド」としたり,進路
童生徒の立場に身を添えて考えられているか,5告げ
指導の基盤を「針路援助」(在り方生き方の方向選択
る相手と気持ちを分かちあう努力,6必要に応じて,
の援助),教科指導の基盤を「学業援助」(学ぶ意欲
フォローアップと支持を,7児童生徒の必要に応じて,
や学び方への援助)等としたものである。その中心的
支えるための関係者の協力体制がとれる,8さまざま
な主張は,石隈(1997c,p.41)がまとめたように,
な知見を参照しながらも,「個別性」を重んじること,
「導く機能としての学校」(指導を行うところ)と
9児童生徒の潜在可能性に着目し,人格を認めること,
「場やかかわりとしての学校」(援助を行うところ)
:相手の本質的な課題に触れることは「生の意味」を
を分け,さらに「学習指導・生徒指導・進路指導」の
問うことにかかわることであり,それはとりもなおさ
基礎・土台として「学業援助・適応援助・針路援助」
ず説明と同意(インフォームド・コンセント)を行う
を位置づけたことである。なお,針路援助は,フラン
大人自身「生の意味」にどれほど深く触れているかを
スにおける「進路指導」を意味する語のorientation
問われているという自覚
scolaire et professionnelle に近い(藤本,1991)。
こうした総括は,半田(1996,1997)の市川市にお
また,この領域図は学校教育相談と臨床教育相談(教
けるライフ・カウンセラーとしての実践報告とも適合
育研究所・センター等の心理臨床的な援助等をいい,
している。
内山(1996)の臨床教育相談学が対象とするところと
- 29 -
- 30 -
ほぼ一致する)を分け,地域の援助資源の活用として
果たす危機介入(例えば,大野,1989b,1990c)等
コンサルテーション・コーディネーション・ネットワ
を行うべきである。その際,学校教育相談の実践から
ーキングの視点を明確にしたことである。学校教育相
しても,狭義の治療的なカウンセリングの占める地位
談は,「導く機能としての学校」と地域資源(臨床教
はそれほど大きいものではない。教師としての日常的
育相談)の「はざま」にあって両者を媒介するもので
な受容的人格的”かかわり”の比重が大きいのである。
あり,さらにまたこの両者を統合・包含するものであ
この”かかわり”は,アセスメントや人間的な配慮も
る。
含み,岡田(1993)のかかわり論やコミュニティ心理
学(例えば,山本・原・箕口・久田,1995)と組織心
3. 学校教育相談理論化の1つの試み
学校教育相談の全体像(枠組み)を,活動次元で要
約・総括すれば,Fig.3 のようになる。
理学(例えば,田尾,1991)におけるサポート論から
示唆を受けるところが多い。また,”かかわり”への
エネルギー源は相手に対する純粋な関心であり,”か
かわり”は理解の展開する場であるとともに,その質
を決定するのである。ただしかし,もしその必要が出
Fig.3 学校教育相談活動の全体的な枠組み
(大野,1996)
てくれば,危機介入をしつつ,校内外の分掌や専門機
関等と連携したり(つなげる),カリキュラムも含め
て当該児童生徒に適合的な環境を校内外に創っていけ
【論文末尾に一括掲載】
ばよい(たがやす)のである。もちろん,この”かか
わり”(相談面接の基本でもある)を適時適切に実現
できるようになるためには,それなりのトレーニング,
この含意や課題は次の通りである(大野,1996)。
知識及び学校での基盤づくり・状況判断が必要だが,
Aカウンセリングはいうまでもなく,学校教育相談
これらは,例えば臨床心理士に必要とされている力量
担当者の仕事の一部でしかない。学校教育相談担当者
とは必ずしも重ならないのである。現在,学校現場に
は,指示や助言,指導を中心とするガイダンス(例え
入っている臨床心理士と学校教育相談担当者の役割分
ば,進路や選択科目の指導・援助・相談の一部)やコ
担に関しては当面,狭義のカウンセラー・コンサルタ
ーチング(例えば,武田(1985)の実践的な研究は参
ントの役割を主として臨床心理士が,プロモーターの
考になる),さらにクラス・小グループでの構成的グ
役割を主として学校教育相談担当者が,コーディネー
ループエンカウンター(例えば,國分,1996a)やソ
ターの役割を臨床心理士と学校教育相談担当者が共同
ーシャル・スキル・トレーニング(例えば,渡辺弥生,
で担当すればいいと思われるが(大野,1995a),こ
1996の概説があるが,特に学校教育相談にとって極め
れは中村(1996,p.65)の「「心理・社会面」につい
て重要なものの1つとして,平木(1993)が紹介した
ては学校臨床心理士が,「学校固有の教育活動」と
アサーション・トレーニングがある),その時その場
「学習・進路面」については教師カウンセラーが中心
での適切な介入(指導)により情緒的な混乱に陥って
になり,「(教師への)連携と援助」については両者
いる生徒等を以前の均衡状態に戻す役割(しのぐ)を
が協力しあってその役割を担うべきではないか」とす
- 31 -
- 32 -
る研究成果とも一致している。
ることである。すなわち,組織活動化・カリキュラム
B学校教育相談担当者が単独で仕事を行える場合は
化・ルーティーンワーク化である。そのためには,ど
少ないと言っていい。学年や各校務分掌,保護者など
のようなことをどの時期にどのように行ったら,どの
と相互の持ち分を尊重し合いながら,生徒等のために
ような結果が生じたか,ということを明確にする評価
率直な協議(作戦会議)を行うコンサルテーションや,
活動が不可欠である。
学校内外の人的物的資源を相互連携・協力関係の下に
EFig.3には非常にたくさんの活動項目が並んでいる
・
・
・
・
・
・
活用するコーディネーションが不可欠である(実践事
が,これらすべてを同時かつ同じ比重で実施すること
例として,例えば,原田・府川・林,1997)。学校は一
は不可能であり,またそうするのがいいとは限らない。
つのコミュニティであり,しかも,学校は学校と地域
今この学校にとっては,どこから先に実践し,どこに
を含むより大きなコミュニティの一部なのであって,
比重を大きくすることが,学校教育相談を定着させる
その中で相互に支え合ってこそ,学校での精神的な健
ことになるのか。学校教育相談担当者は,これらの点
康(メンタル・ヘルス)を獲得できるのである(山本,
について将来を見通しながら,全体の教育活動との関
1986)。
連で統合のとれた活動(インテグレイティング)をし
C学校教育相談においては,狭義の相談活動のみを
なければならないのである。
実践していたのでは,学校で定着できないばかりか,
F教師としての学校教育相談担当者の専門家像は,
十分な活動すらできない。言うまでもなく,学校には
佐藤(1996,p.137)のいう教職の専門性の2系譜のう
さまざまな教育活動(学習指導や狭義の生徒指導,進
ち教職を「他の専門職と同様に,専門性の基礎を専門
路指導等)があり,それを見据えて学校教育相談担当
領域の科学的な知識と技術の成熟度に置き,教師の専
者は活動すべきなのである。学校教育相談担当者は,
門的力量を教科内容の専門的知識や教育学や心理学の
学校教育相談に対するなお一層の教職員の共通理解を
科学的な原理や技術で規定する」ところの「技術的熟
形成するように努めると同時に,学校教育活動と学校
達者(technical expert)」とするのではなく,「教
教育相談を不可欠なものとして結びつけるように活動
職を複雑な文脈で複合的な問題の解決を遂行する文化
すべきである。そのためには,学校教育相談の基盤作
的・社会的実践の領域として設定し,教師の専門的力
りである推進活動(たがやす)が重要であり,ここか
量を,教育問題状況に主体的に関与して子どもと生き
ら出てくるエネルギーと人間的なかかわりこそ,学校
た関係をとり結び,省察と熟考によって問題を表象し
教育相談を活性化するものである。コミュニティ心理
解決策を選択し判断する実践的な見識に求める」とこ
学が標榜する「軽快なフットワークと綿密なネットワ
ろの「反省的実践家(reflective practitioner)」と
ークと少々のヘッドワーク」のできるコーディネータ
するところに親近性を有するものである。
ー(山本・原・箕口・久田,1995,p.39)は,学校
教育相談の中心でもある。
D実践にとって大切なことは,誰が行っても同じ成
G近藤(1995,p.21)がいうように心理臨床活動は,
「!問題の発生した後に,"(問題をかかえた)個人
を対象に,#心理臨床専門家が主たる援助者となって,
果であるように定型化された仕事のパターンを作り上
$その個人が生活する場とは離れて,%”治療的”介
げ,それを学校教育全体の組織・計画の中に組み入れ
入を行う,というモデル(「個人治療モデル」「病理
- 33 -
- 34 -
モデル」「修繕モデル」などとよばれる)」なのだか
ら,これは少なくとも,学校教育相談の中心的な領域
もなっている。
以上の実践や研究から,少なくとも暫定的には,学
にはなりえない。むしろ,学校教育相談の周辺領域
校教育相談の固有領域として「学習・進路・軽い適応
(例えば,学校教育相談担当者が危機介入を行い,そ
(広くは,心理社会的領域)」を考えることが妥当だ
の上で外部専門機関の心理臨床家等とのコンサルテー
と思われる。ただし,これらの因子は,各ニーズ領域
ションやコーディネーションを実施する)として構成
であると同時に,援助に向かっての切り口である点に
した方がいいのである(大野,1995a)。では,学校
注意すべきである。学校教育相談担当者としては,例
教育相談の固有領域はどこに設定できるのであろうか。
えば,児童生徒の学習面を援助すると同時に,児童生
例えば,大野(1986a,1986b,1986c)の四年間の
徒に対して学習面から援助する(進路や適応の課題・
実践で生徒・保護者・近隣の方・担任等の相談内容は,
問題に向かって)のであり,これら3つの領域の相互
「進路」「性格」「生き方」「友人関係」「学業(学
関係に十分留意すべきである。
・
・
び方も含む)」等の進路や軽い適応,学習の問題が多
いのである。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
Hこの学校教育相談の枠組みには,直接には障害児
教育を取り込めていない。これは今後の大きな課題で
また,石隈ら(1995),鈴木ら(1995),難波ら
ある。そのために学校心理学からの知見(石隈,1993a,
(1995)や横島ら(1996)は,全国各地の小中高校の
1993b,1994)である「特別な教育的ニーズ」(spe-
教職員・保護者,および中学生・高校生のスクールカ
cial
ウンセラーに対するニーズ調査結果を因子分析し,
educational needs),SST(Student Study
Team,または,School Study Team),そして,IE
「学習・進路・心理社会的」という三次元(ただし,
P(Individualized Educational Program)や眞保(1
生徒に関しては,3因子の場合はこの3分野とほぼ一
996)の紹介するニューヨーク州の心身障害教育体系等
致し,2因子の場合には「学習・進路面」と「心理・
が中核になると思われる。援助を中心とする学校教育
社会面」の2分野となった)で整理・説明できること
相談に,個に応じた専門的な教育を組み込んだ指導と
を実証している(詳しくは石隈,1997a)。
援助の統合体系として学校教育相談を模索するにはこ
この調査(石隈,1997a,Appendix C)ではスクー
うした点こそが,決定的なcriteriaになるからである。
ルカウンセラーに関して,教職員・保護者には「教師
I実践活動にとって生きた定義は,従来の実践を意
として児童・生徒(保護者としてお子さん)を理解し
味づけ,新しい局面を切り開き,そして何よりも担当
援助するとき,いろいろな問題を考えたり悩んだりし
者を実践へに向けて勇気づけたり,そのエネルギーを
ます。あなたの身近に相談相手としてスクールカウン
わき上がらせる源泉となるものである。現在の段階で
セラーがいたらよいと思うときがあるかもしれません。
大野(1997bを一部補充)は,できるだけ中核的な部
「児童・生徒(お子さん)を理解し援助するときの相
分では日本語を使って(その意味については,佐伯,
談相手の必要性」についてのお考えをお聞かせ下さ
1986,下山,1996),学校教育相談を次のように定義
い」,生徒には「学校で,授業を持たないで,どんな
している。
ことでも気軽に相談にのってくれる人」と例解してい
学校教育相談とは,児童生徒の学習,進路,適応上
るので,本稿でいう学校教育相談活動のニーズ調査に
の課題や問題に対して,情緒的のみならず情報的・評
- 35 -
- 36 -
価的・道具的にもサポートをするため,「軽快なフッ
野,諸外国の実情について検討した。また,学校教育
トワーク,綿密なネットワーク,そして少々のヘッド
相談に関する文献研究も行なった。この結果から学校
ワーク」を活動のモットーに,反省的実践家としての
教育相談理論化のヒントやその評価基準が設定できた。
教師というアイデンティティの下で,
こうした基礎作業を前提に,学校教育相談の全体的な
・
・
・
・
Aすべての子どもにかかわり(「関わる」,狭義の
枠組みについて論じたが,学校教育相談を援助と指導
カウンセリングのみではなく,構成的グループ・エン
の統合として構成するために必要不可欠である障害児
カウンター等のグループ・ワークやソーシャル・スキ
教育の学校教育相談への組み込みは,今後の課題とさ
ル・トレーニング等を含む),
れた。また,学校教育相談に関する暫定的な定義を提
・
・
・
B一部の子どもとしのぎ(「凌ぐ」,危機介入や論
示し,今後の議論の端緒とした。
理療法等も含む),
・
・
・
C特定の子どもをつなげ(「繋げる」,学校内外の
機関等と連携・協働する),
[付
記]
本稿をまとめるにあたりましては,筑波大学(心理
そして,
学系)の石隈利紀先生に何度も貴重な助言をいただき
Dすべての子どもがもっと逞しく成長・発達し,社
ました。心より感謝いたします。
会に向かって巣立っていけるように,学校という時空
・
・
・
・
間をたがやす(「耕す」,学校づくり),
[引用文献]
チームによる実践的な指導・援助活動である。
American School Counselor Association 1990
学校教育相談に関する実践家や研究者に共通の定義
statement: The school counselor.
Role
in; Gibson,
を持つことは,教育職員養成審議会・カリキュラム等
R.L., Mintchell, M.H. 1995 Introduction to
特別委員会でカウンセリングを含む「教育相談」の最
counseling and guidance 4th ed. Englewood
低修得単位数を現行の2単位から4単位に増やす方針
Cliffs, N.J.: Prentice-Hall,Inc., pp.464-466.
が了承されている現在(朝日新聞1997年4月16日付),
ブラックラー,R.
1979
(佐治守夫ら訳)
非行
極めて重要なことであり,今後の活発な議論を期待す
少女―学校カウンセリングと地域―
るとともに,この論議の線に添った実践的な学校教育
会
相談の研修体系の確立が急務である。
leavers and the outside world. London: George
(Blackler,R. 1970
東京大学出版
Fifteen plus: School
Allen & Unwin Ltd.)
ボーイ,A.V.,パイン,G.J.
[まとめ]
本稿では,日本の小中高校の教師たちによって40年
訳)
1976
(鳴澤實
これからの学校カウンセリング―クライエン
近くにわたり実践されてきた学校教育相談を理論化す
ト中心の理論と実践
る1つの試みとして,先ず,現在までの実践を理論的
Pine,G.J. 1963
に3つの類型に整理し検討した。ここから学校教育相
the secondary school. Boston: Houghton Mifflin
談のそれまでの諸成果と今後の諸課題が導かれた。こ
Company)
れを受けてさらに関連するいくつかの学問や実践の分
- 37 -
同文書院
(Boy,A.V. &
Client-centerd counseling in
千葉県総合教育センター
1992
- 38 -
学校不適応状態への
「初期対応」に関する研究
千葉県総合教育センタ
1984
教育相談の研究―教育実践の中で
教育相談をどう生かすか―
藤本喜八
18)
1970
石隈利紀
進路指導論
恒星社厚生閣
古市裕一
1991
小・中学生の学校ぎらい感情とその
1976
(原野
学校カウンセラーの役割と実務
(Gutsch,K.U. & Alcorn,J.D. 1970
学苑
Guidance
counselors. West Nyack,N.Y.: Parker Publishing
IEP(個別教育プログラム)に基
校の支援体制の整備をめざして
石隈利紀
1995
1978
校教育相談のすすめ方―計画・組織・資料―
神奈川県第二教育
学
教育
1,47ー51
連載 学校心理学:学校心理学とスク
ール・カウンセラー
指導と評価,41(5),図書文化
社,47ー51
1996
ングとは
学校心理学に基づく学校カウンセリ
カウンセリング研究,29,226ー239
石隈利紀(研究代表者)
Co.,Inc.)
1997a
不登校児やLD児
を援助する学校心理学的サーヴィスのニーズとその
対応について(課題番号06610095)
平成6年度~
平成8年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))研
出版
半田一郎
1996
しての体験
半田一郎
>
1994
石隈利紀
in action: Ideas and innovations for school
岐阜県教育センター学校教育経営研究会編
LD(学習障害)―
センター研究報告書(サポート)
カウンセリング研究,24,123ー127
ガッチ,K.U.,アルコーン,J.D.
LDの援助システム―スクール・
づく教育を実践するために―教師のスキル向上と学
1991
社
1993b
研究と実践,1,53ー62
ガイダンス論(進路指導シリーズ
藤本喜八
広太郎訳)
石隈利紀
サイコロジストの立場から―
金子書房
日本職業指導協会
規定要因
障害児教育かなが
わ 21,4-11
ー研究報告書第302号
藤原喜悦編
ニーズに応じる教育を目指して
公立中学校での学校カウンセラーと
こころの健康
1997
11(2),18-23
生活の中の<スクールカウンセラー
学校保健のひろばNo.5
原田正文・府川満晴・林秀子
大修館書店,54-56
1997
スクールカウン
究成果報告書
石隈利紀
1997b
学校心理学―一人ひとりの児童生
徒を生かした学校教育をめざして―
日本教育相談
研究会第68回研究集会(1997年3月8日)レジュメ
石隈利紀
1997c
基調講演・学校心理学とスクール
セリング再考―コーディネーター型教育相談の実践
カウンセリング―一人ひとりの児童生徒を生かす学
―
校教育をめざして―
朱鷺書房
原野広太郎
平木典子
1981
1993
教育相談
第一法規
アサーション・トレーニング―さわ
やかな<自己表現>のために―
日本・精神技術研
1994
学校教育相談
石隈利紀
石隈利紀・小野瀬雅人・篠田晴男・宮本友広・大野精
一
1995
児童・生徒の発達に対する心理教育的援
助サービスに関する学校心理学的研究(1)
日本教育
心理学会第37回総会発表論文集,342
究所
今井五郎
教育心理学年報,36,40-44
1993a
個々の児童・生徒に添う生徒指導と
ぎょうせい
障害児教育における個別教育プロ
グラム(IEP)の意義と課題―一人ひとりの教育
- 39 -
一丸藤太郎
1994
教育臨床研究の動向
教育心理学
年報,33,112-119
伊東 博
1983
ニュー・カウンセリング―”からだ”
にとどく新しいタイプのカウンセリング―
- 40 -
誠信書
理論・実践事例集No.2)
房
神保信一
1975
学校相談心理学の展開
神保信一・中西信男・富山佳郎・橋口英俊
校相談心理学
金子郁容
会
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学
ボランティア―もうひとつの情報社
50ー55,7月号
50ー55,10月号
50ー55,1月号
50ー55,8月号
50ー55,11月号
50ー
55,2月号
1989
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國分康孝
50ー55,12月号
50ー55,3月号
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ユング心理学入門
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近藤邦夫
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待
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小林利宣編
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古賀一公編著
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「ひとり学習」の授業入門
明
1973
学校教育相談の考え方(小泉英二編
学校教育相談―その考え方と実践)
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1978
小泉英二
1986a
続学校教育相談
学事出版
学校教育相談とは(小泉英二・高
学校教育相談の理論・実践事例集No.2)
松原達哉
哉編
1987b
教育相談の発展と学校教育相談活
動の変遷(小泉英二・高橋哲夫編
- 41 -
学校教育相談の
スクールカウンセラ
ミネルヴァ書房,12ー26
学校教育相談
日本文化科学社
はしがき(松原達哉編
ンセリング講座第2巻
学校カウンセリングの組織
教育相談についての研修(松原達
学校カウンセリング講座第2巻
達哉編集
学校カウ
ぎょうせい,3ー5
1988b
松原達哉
1994
学校カウン
ぎょうせい,165-196
学校カウンセリングの必要性(松原
学校カウンセリングの考え方・進め方)
教育開発研究所,4ー5
松田孝志
第一法規,9-12
小泉英二
スクールカウンセラーと学校臨床心
セリングの組織と運営)
12ー106
橋哲夫編
1978
1988a
と運営)
治図書
小泉英二
東京大学出版会
ー:その理論と展望)
松原達哉
有信堂
誠信書房
教師と子どもの関係づくり―学校の
1995
松原達哉編
書房
著
近藤邦夫
カウンセリングの原理
理学(村山正治・山本和郎編
金子書房
小林達夫
エンカウンターで学級が変わ
小学校編(岡田弘編),中学校編(片野智治
國分康孝
255-263
誠
学校カウンセリングへの三つの提言
linked services: A school counseling role for
The school counselor,1997,44,
学校カウンセリング
14ー16
る
培風館
1976
学事出版,6ー11
こころの科学,第58号(國分康孝編),日本評論社
國分康孝監修
1967
「カウンセリング・マインド」の意
月刊学校教育相談10月号
88ー93,6
90ー95
河合隼雄
小泉英二
児童心理6
金子書房,17ー23
國分康孝・米山正信
連載 開発的教育相談の実践
月刊学校教育相談(学事出版),5月号
月号
学校におけるカウンセリングの実際
―その具体的手法と実施上の問題点―
味
岩波書店
1992-1993
1987
月号臨時増刊
金子書房
1992
片野智治
号
小泉英二
金子書房
第一法規,1-8
な構造
1996
現代高校生における居場所の内包的
平成8年度筑波大学大学院教育研究科修士
論文,未公刊
- 42 -
松村茂治
1994
教室でいかす学級臨床心理学―学級
担任と子どもたちのために―
水上和夫
1994ー1995
連載 学級経営に構成的グルー
(学事出版,8月号より,ほんの森出版),4月号
72ー77,5月号
110ー115,6月号
72ー77,7月号
72ー77,8月号
112ー117,9月号
72ー77,10月号
72ー77,11月号
72ー77,12月号
72ー77,1月号
74ー79,2月号
72ー77,3月号
114ー119
1965
生徒指導の手びき
文部省
1981
生徒指導の手引(改訂版)
1991
1996
岡田敬司
大蔵省印刷局
大蔵省印
1994
大
試論
1993
1995
新訂版いじめ―教室の病
かかわりの教育学―教育役割くずし
ミネルヴァ書房
学,第64号
中村 健
児童の精神保健にかかわる説明と
1996
こころの科
中学校におけるスクールカウンセラー
識調査を中心に―
平成7年度兵庫教育大学大学院
学校カウンセリングの理論と実際
大
難波博子・須々木真紀子・川石育子・田村明紀子・三
浦美智子・石隈利紀
ライフ・サイエンス・セン
1985
教育相談係の役割と仕事を見直す
月刊生徒指導10月号
学事
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教育相談係の行う相談活動はどう
全国学校教育相談研究会第21回研究大
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教育相談室の運営―相談室の開設
学校教育相談の理論・実践事例集No.23)
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大野精一
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相談係の行う教育相談
月刊生徒
学事出版,50-79
意義・意味・価値を考えることが
何故重要なのか―私の認知心理学読書ノートから
阪心理出版
1995
児童・生徒の発達に対
する心理教育的援助サービスに関する学校心理学的
研究(3)
大野精一
指導6月増刊号
学校教育研究科修士論文,未公刊
1983
教育現場におけるカウ
から担当者の交代まで―(小泉英二・高橋哲夫編
日本評論社,2ー11
の活用に関する実証的研究―教師と臨床心理士の意
浪花 博
1983
ンセリングのすすめ方
あるべきか
同意(インフォームド・コンセント)
実務教育出版
出版,14ー31
学文社
金子書房
村瀬嘉代子
キャリア・カウンセリン
ター
大蔵省印刷局
「不登校」現象の社会学
スクールサイコロジスト
1996
(小泉英二との対談)
1991
月刊学校教
ほんの森出版,94
グ―その基礎と技法,実際
小学校における教育相談の進め方
森田洋司・清水賢二
い―
育相談2月号
日本進路指導学会編
蔵省印刷局
森田洋司
掲示板(日本学校教育
(学校心理学に基づくスクールカウンセラー)とは
学校における教育相談の考え方・進め
方―中学校・高等学校編―
文部省
1997
小川捷之・山中康裕編
1990
川島書店
理論化準備委員会を設置)
日本教育心理学会
刷局
文部省
学生・生徒相談入門―学校カウン
日本学校教育相談学会
相談学会
月刊学校教育相談
文部省
1986
セラーの手引とその実際
福村出版
プ・エンカウンターを生かす
鳴澤實編著
日本教育心理学会第37回総会発表論文集,
東京都高等学校倫理・社会研究会
集,60ー63
大野精一
1987b
スウェーデン,オーストリアの学
校カウンセラー
全国学校教育相談研究会・会報第
56号,6ー8
344
- 43 -
都倫研紀要第25
- 44 -
大野精一
グ』
1988
本の紹介:佐治守夫『カウンセリン
月刊学校教育相談7月号
学事出版,56ー57,
以後現在(1997年4月)まで毎月号を引き続き担当
大野精一
1989a
学校教育相談―私の展望―
東京
都立墨田川高等学校堤校舎研究紀要第3号,12ー21
大野精一
1989b
いじめに対して反撃しようとする
生徒の指導について―危機介入によるアプローチ―
(成田國英・高橋哲夫編
指導実務)
大野精一
から
学校における非行問題の
「学校は生活共同体」という視点
月刊学校教育相談8月号
大野精一
1990b
学事出版,26ー29
文部省・生徒指導資料等にみる
「学校教育相談」観の変遷について
相談
(学事出版),11月号
月刊学校教育
36ー43,12月号
36ー
大野精一
1990c
したらよいか
生徒の危機状態に教師はどう対応
高校教育展望4月号
小学館,60ー
4月号
大野精一
月刊学校教育相談(ほんの森出版),
84ー92,5月号
1997d
108ー115,6月号
大野精一
1993a
学校カウンセリング
学校教育相
児童心理2月号(巻末連載学校カウンセリング
事典)
り方―学校教育相談の立場から―
教育心理学年報,
36,46-47
大友秀人
1995
理論的・実践的課題を整理する
刊学校教育相談7月号
1984
大野精一
1993b
教育展望5月号
大野精一
1995a
教育展望10月号
大野精一
1995b
学校教育相談の固有領域性
カウンセリング・マインド―
子どもの可能性をひき出す教師の基本姿勢
学校教育相談の領域と方法
1996
高校
版
尾崎勝・西君子
1996
・マインド
教育出版
尾・瑞子
1994
授業に生きるカウンセリング
高等学校における専任学校カウンセ
平成5年度筑波大学大学
院教育研究科修士論文,未公刊
Paisley, P.O.,Borders, L.D.
1995
学校教育相談の最近の動向につい
ほん
学校教育相談―具体化の試み
1997b
学校教育相談の立場から考える
学校保健のひろばNo.5
大修館書店,38ー41
- 45 -
1977
カウンセラーとして
の教師―人間理解の実践的方法
実務教育出版
role in counseling. Englewood Cliffs, N.J.:
佐伯 ・
佐野秀樹
ほ
1986
認知科学の方法(認知科学選書第10
東京大学出版会
1989
米国の学校カウンセリングにおける
東京学芸大学紀要
1
部門,40,39-46
佐藤 学
んの森出版
大野精一
リーゴン,M.G.,マックダニエル,S.W.
専門性と個人主義について
1997a
Journal of
counseling & development, 74, 150-153
巻)
小学館,106ー108
の森出版
大野精一
School coun-
Prentice-Hall, Inc.)
小学館,36ー39
学校教育相談―理論化の試み
教育出
(Ligon,M.G. & McDaniel,S.W. 1970 The teacher's
小学館,68ー69
高校教育展望4月号
大野精一
高校
月
ほんの森出版,22ー25
(小林純一・渡辺三枝子訳)
金子書房,4
82-90
日本型スクールカウンセラーの在
seling: An envolving specialty.
61
て
(問題提起)
学校教育相談の全体像を考える
ラーの役割に関する考察
43
談
1997c
尾崎勝・西君子
大成出版社,2671ー2677
1990a
大野精一
1996
Schmidt, J.J.
教育方法学
1993
岩波書店
Counseling in schools; Es-
sential services and comprehensive programs.
- 46 -
ヤギ
Needham Heights, M.A.: Allyn and Bacon
下山晴彦
1991
研究会議編集
これからの学生相談(全国学生相談
る
キャンパス・カウンセリング)
録
代のエスプリ第293号
下山晴彦
1996
現
ヤギ
至文堂,46ー60
心理学における実践型研究の意義―
臨床心理学研究法の可能性をめぐって―
心理学評
1996
障害のある児童生徒と学校教育相談
月刊学校教育相談12月増刊号
1995
スクールカウンセリングを考え
国立精神・神経センター
ダリル
1996
国際セミナー講演記
スクールカウンセリングを考え
るⅡ:スクールカウンセリングの実践から
神・神経センター
山本和郎
論,39,315-337
眞保眞人
ダリル
1986
論と実践
国際セミナー講演記録
コミュニティ心理学―地域臨床の理
東京大学出版会
山本和郎・原 裕・・箕口雅博・久田 満編著
ほんの森出版,95ー
国立精
1995
臨床・コミュニティ心理学―臨床心理学的地域援助
100
鈴木未央・大関健道・関根たまえ・横島義昭・大友秀
人・石隈利紀
1995
児童・生徒の発達に対する心
の基礎知識―
ミネルヴァ書房
横島義昭・石隈利紀・小野瀬雅人・大関健道・難波博
理教育的援助サービスに関する学校心理学的研究
子・大野精一・半田一郎
(2)
学生,高校生がスクールカウンセラーに求める援助
日本教育心理学会第37回総会発表論文集,343
武田 健
1985
コーチング―人を育てる心理学―
誠
1991
組織の心理学
東京都公立高等学校長協会
1982
米山正信
有斐閣
高校生の健全育成
を目指して―教育相談的指導を考える―
健全育成
内山喜久雄編著
1979
日本教育心理学会第38回総会発表論文
1996
臨床教育相談学
内山喜久雄・高野清純・田畑 治
学校カウンセリングの援助―作文・
日記・交換ノートの活用―
全国学生相談研究会議編集
ンセリング
指導推進資料第3号
グ
誠信書房
1991
金子書房
1984
渡辺三枝子
1987
進路指導の心理学
カウンセリン
東京都学校教
育相談研究会・研究紀要第20号,20ー21
渡辺三枝子
1989
う語の功罪
「カウンセリング・マインド」と
月刊学校教育相談10月号
学事出版,
12ー16
1996
カウンセリング心理学―変動する
社会とカウンセラー―
渡辺弥生
1996
ナカニシヤ出版
ソーシャル・スキル・トレーニング
(SST)(講座サイコセラピー第11巻)
日本文
化科学社
- 47 -
キャンパス・カウ
現代のエスプリ第293号
日本文化科学社
渡辺三枝子
シンポジウム:中
集,76ー77
信書房
田尾雅夫
をめぐって
1996
- 48 -
至文堂
1
教育相談(カウンセリング・ガイダンス)活動
1児童・生徒への個別・集団カウンセリング
2各種の専門的援助(精神衛生的援助・心理的指導)
3専門的なカウンセリング
4教育相談の実践
5通信による指導・家庭訪問
6個別カウンセリング
7集団カウンセリング,集団ガイダンスあるいはエンカウンター方式の
集団体験の企画・実施
8児童・生徒の自主来談,電話相談
9保護者の自主来談,電話相談
:学級担任等からの依頼や児童・生徒・父母からの訴えに応じて行う実
際の相談活動(治療的活動)
;カウンセリングの実施
<必要に応じて教育相談活動にあたる
=問題行動の生徒への相談
2
コンサルティング(助言・協力)活動
1学級担任・教科担任教諭等への助言
2校長・教育長などへの助言・意見具申
3親への助言・指導
4学校の職員等に対する相談役
5生徒の配置・組み分けへの援助
6学級担任へのコンサルタント的機能
7教頭・校長などマネージメントへのコンサルタント的役割
8父兄への助言・指導の役割
9学級担任への教育相談実践上の助言と協力
:学級担任の理解と協力を得る
;学級担任が行う教育相談活動を援助する
<学級・ホームルーム担任の教師を中心とする全教師の相談活動につい
ての援助活動
3
コーディネイティング(調整)活動
1関係機関との連絡(紹介)
2他の校務分掌の係との連絡,相互の理解・協力
3外部専門機関との連絡・紹介
4校外の諸機関・組織との渉外連絡
5専門機関との連携
6各種の紹介活動の展開
7教育相談に関する諸問題について生徒指導部長と協力して問題解決に
- 1 -
あたる
4
計画立案
1教育相談の校内体制を作る上での推進役として活動
2教育相談に関する部門別計画を立案する
3教育相談に関する計画の立案・推進
5
検査・調査の実施
1心理検査等に関する業務
2テストの実施への援助
3必要に応じて全校的な心理検査の企画・立案・実施
4担任から依頼ケースについての個人検査・調査の実施
5特殊教育に関する調査・検査・紹介,小学校での入学前の知能検査の
計画・実施
6心理テストの選択・解釈・解釈結果の伝達
7生徒の実態調査
8生徒理解のためのテスト・調査・行事の実施
9生徒の実態把握のための諸計画の立案と推進
6
資料整備・データ活用
7
研修会・事例研究会の企画と推進
8
情報提供活動
1校外研修会案内
9
広報活動
1カウンセリングを求めてくるように動機づける
2児童・生徒の心の健康について指導し,教育相談活動を広める。保護
者への啓蒙を図る
3カウンセリングと関連づけながら生活指導の理解を関係者に訴える
10
相談室の管理・運営
11
評価
1様々な(相談)活動の効果を測定するための調査研究をおこなう
12その他
Fig.1 文献から見た「相談係」の仕事(役割分担)
- 2 -
(大野,1985)
コミュニティとしての地域
地 域 資 源 (臨床教育相談も含む)
コミュニティとしての学校(広義の学校)
(大人と子ども/生活者)
(場やかかわりとしての学校)
潜在的
地
カイロ
カリキ
スクールとしての学校(狭義の学校)
ュラム
(教師と生徒)
ス
地
プライ
域
(導く機能としての学校)
顕在的カリキュラム(クロノス)
域
ホーム
クラス
公共空間
ベート
資
教科指導
生徒指導
スペー
特別活動
進路指導
ス
資
学校教育相談
(教育的・発達的領域)
源
源
エデュケーショナル・マインド
参加
ヘルピング・マインド
不可
空間
(適応援助・学業援助・針路援助)
視空
間
治療的領域(カウンセリングスピリット)等
地域資源(臨床教育相談)
Fig.2 学校教育相談の領域図(大野,1993,1996一部修正)
- 3 -
統合(包含も含む)活動
組織活動(オーガナイジング)
(インテグレイティング)
評価活動(エヴァリュエイティング)
相談活動(カウンセリング)
推進活動(プロモーティング)
カウンセリング
相談活動
カウンセリング(カウンセリングや危機介入,心理テスト
等のアセスメントなど)
コンサルティング(担任,各校務分掌,保護者等への協力
・助言・協働など)
コーディネイティング(専門機関等の学校内外の人的物的
資源との連携・調整など)
相談室の管理・運営(備品や記録用紙等の保管・管理や相
談担当者の決定など)
その他(当面する生徒指導上の課題の調査・研究など)
プロモーティング
推進活動
相談活動の計画・立案(年間計画や予算の作成,次年度へ
の展望など)
校内研修会・事例研究会の企画・運営(テーマ設定,講師
依頼,広報活動,司会進行や反省評価など)
相談関係情報の提供(文献や資料の収集・配布,校外研修
会の紹介等)
相談にかかわる広報・調査・研究(相談室だよりの発行,
相談室に関するアンケート調査や研究など)
その他(次の担当者へのスムーズなバトンタッチや近隣の
中学校・各校相談担当者との交流など)
Fig.3 学校教育相談活動の全体的な枠組み(大野,1996)
- 4 -
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