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バルク回帰並列処理:依存のあるループの並列実行方式

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バルク回帰並列処理:依存のあるループの並列実行方式
Vol. 42
No. SIG 12(HPS 4)
情報処理学会論文誌:ハイパフォーマンスコンピューティングシステム
Nov. 2001
バルク回帰並列処理:依存のあるループの並列実行方式
川
端
英
之†
谷
口
宏 美††
津
田
孝 夫†
本論文では,ループ運搬依存を含むループの効率的な並列化手法を提案する.依存のあるループの
並列化においては,ループ中で繰り返し実行される命令列(ループボディ)全体の計算処理を prefix
計算における要素演算と見なしてアルゴ リズム変換によって並列化する方法がある( 回帰演算の並列
化手法の適用)
.回帰演算の並列化手法は,pipeline 法や doacross 法の適用が困難なループに対して
も有効であるなどの特徴を持つが,その単純な適用は総計算量の大幅な増加を引き起こし,プロセッ
サ数が少ない並列計算機では必ずしも高速化につながらない.これに対し,本論文で提案する手法は,
依存のあるループへの回帰演算の並列化手法の適用において「ループ運搬依存の量」に着目したルー
プ変換を導入する.これにより並列化にともなう計算量の増加を抑え,数台∼数十台程度のプロセッ
サから成る並列計算環境において効率の良い並列実行を可能にする.疎結合計算機や SMP 計算機を
用いた実測では,pipeline 法や doacross 法が適用できないループに対してプロセッサ数に比例した
高速化が可能であることが確かめられた.
Bulk Recurrent Parallel Processing:
A Method of Parallel Execution for Non-doall Loops
Hideyuki Kawabata,† Hiromi Taniguchi†† and Takao Tsuda†
In this paper, we propose an efficient method to parallelize non-doall loops. Parallelization techniques for linear recurrences are applicable for many non-doall loops which are not
amenable to such methods as pipeline method and doacross method. However, naive application of parallelization for recurrences to non-doall loops can cause additional volumes of
computation for parallel execution of the loops, so that speedup on computers with small
number of processors is not necessarily guaranteed. In order to tackle this problem, we introduce a loop transformation technique into the parallelizing method for recurrences. The
transformation is based on the idea of reducing “the amount of loop-carried dependence,” and
suppresses the growth of the amount of computation. Experimental results show the method
is efficient for loops which can not be parallelized by doacross method on both shared-memory
SMP systems and distributed-machine environments.
化手法が検討されている.
1. は じ め に
ループ 運搬依存のあるループを複数のプ ロセッサ
プログラムの高速実行のための最適化手法として,
( 以下,PE と略す)で並列処理させるためには,各
PE の協調によって命令実行順序制約を守りつつ計算
並列化技術の向上に対する要求は尽きない.プログラ
ムの並列化は様々な粒度において行われるが,特にプ
を進める必要がある.最も簡単な並列処理方式として
ログラムの実行時間を大きく削減できる可能性が高い
は,ループ運搬依存の影響を受けない部分と本質的に
といわれるループの並列化に対しては,多くの取組み
ループ運搬依存にかかわる部分とを分離し,前者のみ
がなされている
1),2)
を doall 並列実行する方法(ループ分割)があげられ
.並列処理による高速化において
は,並列化率をいかに向上させられるかが重要であり,
る.しかし,依存関係のパターンや処理内容と PE 数
ループ運搬依存があるループに対しても,様々な並列
との関係によっては必ずしもループ分割が有効とは限
らない3) .
ループ運搬依存のあるループの並列実行方式として
† 広島市立大学情報科学部
Faculty of Information Sciences, Hiroshima City
University
†† 広島市立大学大学院情報科学研究科
Graduate School of Information Sciences, Hiroshima
City University
広く知られたものに,doacross 法および pipeline 法
がある.doacross 法では,実行順序に制約のある命令
間で同期をとりながら各 PE が並列に計算を遂行する.
pipeline 法では,ループ中で繰り返し実行される命令
111
112
情報処理学会論文誌:ハイパフォーマンスコンピューティングシステム
Nov. 2001
列(ループボディ)を複数のステップに分割し,各々
アルゴ リズム変換に起因する演算量の増加分を,演算
のループボディの処理の繰返し( イタレーション )を
パイプラインや長命令語の空きスロットへ押し込める
ステップ単位で時間的にずらして行うことにより依存
試みにある.一般のベクトル命令との比較ではその高
関係を保つ.doacross 法および pipeline 法は,PE へ
速化率はわずかであるといわざるをえない.
の処理のマッピング方法には違いはあるが,いずれも,
以上のとおり,ループ運搬依存のあるループの並列
計算順序を変更することなく処理の途中で必要に応じ
化を考えるとき,広く一般に利用可能な数台∼数十台
て同期をとりながら計算を進める方式であるという点
規模の並列計算機において効果的な並列実行を行うた
めの枠組みは確立されているとはいい難い.これに対
では類似のものである.
しかしこれらの並列実行方式は以下のような欠点が
し本論文では,線形回帰演算の並列化手法を応用した,
ある.doacross 法や pipeline 法では,並列実行に際
少ない PE 数からスケーラブルに高速化できるループ
して頻繁に同期をとる必要があるため,効率良い並列
並列化手法を提案する.
処理のためには同期処理がきわめて高速になされる
必要があり,疎結合計算機のような同期コストが大き
い計算機では高速化が容易ではない.また,いずれも
ループボディ内の処理を分割する並列化であるため,
本論文で並列化対象とするループは,ベクトル ai ,
qi および行列 Pi を用いてループボデ ィを
ai = Pi · ai−1 + qi
の形に書き換え可能なループである(バルク回帰ルー
(ループ分割による並列化と同様に )各イタレーショ
.このループは各イタレーショ
プと呼ぶ;3 章参照)
ン内に閉じた参照の局所性を無駄にしてしまう.加え
ン内での計算全体を prefix 計算における一演算単位と
て,ループ中で逐次的な処理を必要とする部分をその
見なして並列化できるが,本手法ではその変換の過程
まま残して逐次処理するため,実行時間を左右するク
でループに最適化処理を施す.処理の中心は,
「 ループ
リティカルパスに計算処理が含まれる.このため並列
運搬依存の量」すなわちイタレーション間で授受され
度の上限が低く抑えられる.特にループボディの末尾
る値の個数を削減するループ再構成である.これによ
から先頭へのループ運搬依存がある場合には,これら
り,単純な回帰演算の並列化において問題となる計算
の方法では並列化による高速化が望めない.
量の大幅な増加を抑え,少数の PE からでも PE 数に
このほか,イタレーション間の依存距離に応じた並
列度を得る方法4) もあるが,一般に高い並列度は望め
ず,依存距離が 1 の場合には並列化できない.
比例した高速化を実現する.
本手法の有効性を確認するため,疎結合並列計算機
および SMP 並列計算機において,いくつかのループ
以上あげた方法と対比されるものに,ループに対し
について実測を行った.その結果,PE 数 2∼32 での
てアルゴ リズム変換を適用することにより並列性を高
計測において,ループボディが小さいループでもその
める方法がある.代表的なものとして,ループ中から
繰返し回数(ループ長)が大きければ PE 数に比例す
総和計算や最大値検索などの reduction 計算や回帰演
る高速化が可能であることが確かめられた.SR2201
算に内在する prefix 計算を抽出してプログラム変換を
における 8PE での実測では,単純な回帰演算並列化
施す並列化手法があげられる.これらの計算は,演算
手法を適用した場合と比較して,3.4 倍の速度向上が
順序の変更を許すことによって大きな並列性を引き出
得られる例も観測された.
すことが可能で,分割統治法,巡回縮約法などの様々
な並列アルゴ リズムが研究されている
5)∼12)
.
しかしながら,多くの並列 prefix アルゴ リズムは,
多数個の PE を仮定して計算ステップ数を削減しよう
とするもので
5),11)
,たとえば N 個の要素の計算に対
なお本論文では,並列化対象とするループはループ
運搬依存の依存距離が 1 であるものとし,ループ中に
制御依存が存在するものは除外する.並列化はソース
レベルのプログラム変換により行う.並列実行環境が
共有メモリを有するか否かは問わない.
して N ステップ逐次アルゴリズムを O(log N ) ステッ
以下,まず 2 章では,本手法のベースとなる線形回
プで解くなど ,著しい高速化の可能性を示唆するもの
帰演算の並列実行方式の概要について述べる.3 章で
の,プログラム変換によって一般に総計算量は増大す
は,バルク回帰ループの並列化手法とその最適化手法
る.このため,小規模な PE 数の計算機では高速化に
について述べ,4 章では実測評価に基づく考察を行う.
つながらない場合が多い13) .
5 章でまとめと今後の課題を述べる.
prefix 計算の高速化については,ベクトルプロセッ
サを用いたハード ウェアによるアプローチもある14) .
その基本的なアイデアは,回帰演算の並列化のための
Vol. 42
No. SIG 12(HPS 4)
for (i = 1; i ≤ N ; i + +) {
ai = pi · ai−1 + qi ;
}
図 1 線形一次回帰演算
First order linear recurrence.
Fig. 1
/* step1 */
t = a0 ;
for (i = 1;
i ≤ m;
i + +) {
t = pi · t + qi ;
}
/* step1 */
u = pkm+1 ;
v = qkm+1 ;
for (i = km + 2;
i ≤ (k + 1) · m;
i + +) {
u = pi · u;
v = pi · v + qi ;
}
/* step2 */
send t to PE1;
/* step2 */
receive t from PE k − 1;
t = u · t + v;
send t to PE k + 1;
/* step3 */
for (i = 1;
i ≤ m;
i + +) {
ai =pi ai−1 + qi ;
}
/* step3 */
akm = t;
for (i = km + 1;
i ≤ (k + 1) · m;
i + +) {
ai =pi ai−1 + qi ;
}
2. 準備:線形回帰演算の並列化手法
2.1 線形回帰演算における並列性
線形一次回帰演算は図 1 に示すループで表現でき
る.ここで pi , qi (i = 1, 2, . . . , N ) はループ不変変数
である.このループの各イタレーション間には依存距
離 1 のループ 運搬フロー依存が存在しており,ai の
値を求める計算は個々の i についてまったく独立には
実行することはできない.しかし,
ai
1
ai ≡
, Pi ≡
113
バルク回帰並列処理:依存のあるループの並列実行方式
pi qi
0 1
(a) code for PE0
と置くと,その回帰の様子は以下のように表せる.
(1 ≤ k ≤ p − 2)
ai = Pi · ai−1
= Pi Pi−1 · · · P1 · a0
図 2 線形回帰演算の並列実行コード
Fig. 2 Parallel code for linear recurrence.
(1)
行列積は結合法則を満たす二項演算であり,式 (1) は
図 1 の一次回帰演算が prefix 計算と見なせることを
示している.
Table 1
2.2 線形回帰演算の並列実行方式
表 1 各 PE への計算のマッピング
Mapping of computation for each PE.
PE
0
step1
am
率的に実行できる線形回帰演算の並列実行方式として,
1
p̃2m , q̃2m
計算量を O(N ) に抑えた単純な分割アルゴ リズムを
2
p̃3m , q̃3m
ここで,数台∼数十台規模の並列計算機において効
示す.次章で述べるバルク回帰並列処理手法も,ここ
で述べるアルゴ リズムをベースとしている.
(j)
Pi
≡ Pi Pi−1 · · · Pj+1
(m)
(2m)
...
(m)
(2m)
...
am+1 , . . . , a2m
a2m+1 , . . . , a3m
((p−2)m) ((p−2)m)
, q̃
(p−1)m
(p−1)m
a(p−2)m+1 , . . . , a(p−1)m
—
a(p−1)m+1 , . . . , aN
p−1
(0 ≤ j < i ≤ N )
step3
a1 , . . . , am
...
p − 2 p̃
まず,
(b) code for PE k
と置くと,式 (1) は次のように表現できる.
(j)
ai = Pi
つまり式 (2) は次のように表現できる.
· aj
(2)
(j)
を引き延ばすことができる様子を表している.なお,
(j)
Pi
の各成分は,
(j)
p̃i
≡
i
≡
i
{(
からなるコードで行うことができる.各 PE への計算
i
のマッピングは表 1 に示すとおりである.図 2 や表 1
pl ) · qk }
l=k+1
を用いて以下のように置ける.
(j)
Pi
=
(j)
式 (3) を用いて,PE 数が p である環境で図 1 のルー
述べる.この計算の並列実行は図 2 に示す 3 ステップ
pk
k=j+1
(3)
プによって a1 , . . . , aN の N 個の値を計算する手順を
k=j+1
(j)
q̃i
(j)
ai = p̃i aj + q̃i
式 (2) は,付加的な計算によって回帰演算の依存距離
(j)
p̃i q̃i
0 1
において,m ≡ N/p とする(簡単のため N は p の倍
(m)
.たとえば PE1 は,step1 で p̃2m
数であるとする☆ )
および
(m)
q̃2m
の値を計算し,step3 では am+1 , . . . , a2m
の値を計算する.図 2 の (a) および (b) はそれぞれ
☆
実際は各 PE の担当範囲は任意の区間にできる.
114
step1
step2
なる時間である.tl = β · tf (0 < β) と仮定し,α(p)
step3
PE0
communication
PE1
が微小であるとすれば,高速化率 S(p) ≡ tseq /tp は
およそ以下のようにまとめられる.
PE2
computation
PEp-2
(2tf + 3tl ) · N
(5tf + 5tl ) · (N/p) + α(p)
2 + 3β
·p
5 + 5β
S(p) ≡
PEp-1
time
Fig. 3
Nov. 2001
情報処理学会論文誌:ハイパフォーマンスコンピューティングシステム
t+α
t
図 3 回帰演算の並列実行の様子
Progression of parallel linear recurrence execution.
(4)
つまり,S(p) は p にほぼ比例し(比例定数 2/5∼3/5 )
,
PE 数が 2∼3 程度以上の環境では逐次実行よりも高
PE0 用,PE k(1 ≤ k ≤ p − 2) 用のコードである.PE
速化できるといえる.なお,α(p) は p の増加にほぼ
p − 1 は図 2 (b) のコード のうち step1 全体と step2
比例して増えるので,最大の高速化率には限界がある.
の send を行わない.変数 t,u,v はいずれも作業用
また N が十分に大きくない場合は,総実行時間に占
の局所変数である.send や receive は,PE 間通信や
める並列処理にまつわるオーバヘッド の割合が増え,
共有メモリアクセスなどによる PE 間でのデータ授受
高速化につながらない可能性が高い.
を示す.配列変数は,共有メモリ環境では共有変数と
見なせばよいが,分散メモリ環境であればあらかじめ
3. バルク回帰並列処理手法
データを分散しておく必要がある☆ .図 3 に,この方
本章では,ループ運搬依存のあるループに対する効
法による回帰演算の並列実行の様子を示す.図中,横
率的な並列化手法について述べる.以下,並列化の対
軸および縦軸はそれぞれ時間の経過および PE の番号
象とするループについて述べた後,線形回帰演算の並
に対応する.太実線矢印および太点線矢印は,それぞ
列化手法を単純に適用した場合についての考察を行い,
(j)
れ ai の計算および p̃i
(j)
および q̃i
の計算の進行の
続いて,少ない PE 数で高い台数効果を引き出すため
様子を示し,細点線矢印は,PE 間通信の様子を示し
の最適化手法とその効果について述べる.
ている.PE0 は step1 では配列要素へのストアをしな
れよう.また PE0 の step1 は他の PE の step1 より
3.1 バルク回帰ループ
ループ内で行われる計算が式 (5) に示す回帰演算で
表されるとき,そのループは( n 元 l 次)バルク回帰
短時間で済むと予想できる.
ループであると呼ぶことにする.
いので,step3 よりも step1 の方が短時間で済ませら
図 2 や図 3 から分かるように,この並列処理方式
ai = fi (ai−1 , ai−2 , . . . , ai−l ) + qi
(5)
では,頻繁な同期や通信は不要,ループ長はループ開
ここで ai は n 個の変数から成るベクトル,fi は i
始時に確定するならば並列化が可能,計算処理を複数
のみに依存して定まる係数による ai−1 , ai−2 , . . . , ai−l
のプロセッサでほぼ均等に分散できるため計算負荷に
の線形結合,
qi は定数ベクトルである.ここでは簡単
限れば原理的には並列性に上限がない,などの特徴を
のため,n × n 行列 Pi によってループボディが式 (6)
持つ.
で表される n 元一次回帰の場合,すなわち,ループ
ここで,この並列実行手順で必要とされる実行時間
を見積もる.浮動小数点演算 1 回に要する時間を tf ,
配列要素 1 つのロード やストアに要する時間を tl と
運搬依存の依存距離がすべて 1 である場合に限定して
話を進める.
ai = Pi · ai−1 + qi
(6)
すると,図 1 の計算を逐次的に行う際の実行時間は
式 (6) で表されるバルク回帰ループは,2.2 節で示し
tseq ≡ (2tf + 3tl )N と見なせる.一方 PE 数 p での並
た線形回帰演算の並列実行方式を適用してそのまま並
列実行に要する時間は,図 2 および図 3 から,およそ
列化することができる.
tp ≡ (5tf + 5tl )(N/p) + α(p) である.ここで α(p) は
図 3 中の α で,PE 間での同期やデータ授受に必要と
☆
たとえば図 4 (a) に示すループは,前進代入によっ
て図 5 のように書き換えることができる.ここで,
ai ≡ ai
全配列要素を複写するのでないならば各 PE 用のコード におけ
る配列参照の添字式は局所メモリ参照用に修正する必要がある
が,本論文で示すコード 例では明記しない.また PE0 以外が
receive によって得た値は図 2 では便宜上 step3 にて配列要素
にストアしているように記述したが,実際はローカル変数に一
時的に保持しておけばよい.
qi ≡ 0
および
T
bi
0
ci
zi
di
zi wi
,
T
Vol. 42
No. SIG 12(HPS 4)
for (i = 1; i ≤ N ; i + +) {
ai = xi · ci−1 ; /* a */
bi = ai + di−1 ; /* b */
ci = bi · yi + zi ; /* c */
di = ci · wi ;
/* d */
}
a
loop independent
dependence
b
loop carried
dependence
c
d
(a) loop code
for (i = 1; i ≤ N ; i + +) {
ai = xi ci−1 ;
bi = xi ci−1 + di−1 ;
ci = xi yi ci−1 + yi di−1 + zi ;
di = xi yi wi ci−1 + yi wi di−1 + zi wi ;
}

図 4 (a) のループの変形後
Modified non-doall loop.
0
0

0
0
xi
xi
0
0
0
xi yi
xi yi wi
Pi ≡ 
0
/* step1 */
t = a0 ;
for (i = 1;
i ≤ m;
i + +) {
t = Pit + qi ;
}
/* step1 */
U = Pkm+1 ;
v =
qkm+1 ;
for (i = km + 2;
i ≤ (k + 1) · m;
i + +) {
U = Pi · U ;
qi ;
v = Pi · v + }
/* step2 */
send t to PE1;
/* step2 */
receive t from PE k − 1;
t = U · t + v ;
send t to PE k + 1;
/* step3 */
for (i = 1;
i ≤ m;
i + +) {
ai =Piai−1 + qi ;
}
/* step3 */
akm = t;
for (i = km + 1;
i ≤ (k + 1) · m;
i + +) {
ai =Piai−1 + qi ;
}
(b) dependence
graph of (a)
図 4 ループ運搬依存のあるループ
Fig. 4 A non-doall loop.
図5
Fig. 5
115
バルク回帰並列処理:依存のあるループの並列実行方式
(a) code for PE0

0

1 

yi 
yi wi
(b) code for PE k
(1 ≤ k ≤ p − 2)
図6
Fig. 6
(7)
と置くと,図 5 のループボディは式 (6) で表せる( 4
元バルク回帰)
.すなわち,図 4 (a) のループは,ルー
バルク回帰ループの並列実行コード
Parallel code for bulk recurrence.
2n + (n + 2)β
·p
(2n + 3)(n + β)
(8)
プボディ全体を 1 つの演算単位とする線形回帰演算と
S1 (p) は式 (4) の S(p) と一致している.
式 (8) から,式 (6) によって表されるバルク回帰ルー
見なした並列化が可能である.
プは並列実行によって PE 数 p にほぼ比例した高速
3.2 バルク回帰ループへの単純な並列化の適用
ここで,2.2 節で述べた線形一次回帰演算の並列実
行方式をバルク回帰ループに適用する場合の計算量を
化率が得られることが期待できる.しかしその際の比
例定数の値は非常に小さい場合がある( β の値による
.
が,S2 (p) では 2/7∼4/7,S4 (p) では 2/11∼6/11 )
見積もる.まず図 2 の並列コード を n 元バルク回帰
β が一定のとき,n が増加するにつれて Sn (p) は減少
qi お
ループ用に修正すると図 6 となる.図中,ai ,
する(その減少の仕方は β の値が小さいほど 急速で
よび v は n 次元ベクトル,Pi および U は n × n 行
ある)
.また,p は n + 2 以上の値でなければ Sn (p)
列である.また m ≡ N/p とする.代入記号や演算子
が 1 を超えず,n の値が大きいループの並列化による
は適宜,行列やベクトルに対する代入あるいは演算と
高速化は PE 数が少ない並列計算機では難しいという
見なす.図 6 から,PE 数 p での並列実行に要する時
ことが予想される.
間はおよそ tp ≡ (2n2 + 3n)(ntf + tl )m + α(p) と見
なお,図 4 (a) と図 5 の対比からも分かるとおり,オ
なせる☆ .式 (6) によるループの逐次実行に要する時
リジナルのループをバルク回帰の形にするためのコー
間は tseq ≡ (2n2 tf + (n2 + 2n)tl )N であるので,2.2
ドの変更は「共通部分式削除」の逆操作であって,代入
節同様の仮定の下で,高速化率 Sn (p) ≡ tseq /tp は以
文間のループ独立な依存関係を緩和する代わりに演算
下のとおりとなる.
量を増大させる.またこの変換過程で,オリジナルの
Sn (p) =
(2n2
(2n2 tf + (n2 + 2n)tl )N
+ 3n)(ntf + tl )(N/p) + α(p)
ループにはなかった係数ど うしの計算処理が新たに必
要となる☆☆ .これらの演算量の増加は並列化後のコー
ド の実行時間の増加に直接つながる.つまり,ループ
☆
n 次ベクトルの内積に要する演算回数を 2n − 1 とした.また,
n の値は,図 6 中の U および v がキャッシュに十分収まる程
度の大きさであると仮定している.
☆☆
たとえば図 5 のループ 中の di への代入文における変数 ci−1
の係数である xi ,yi ,wi の積を計算するコストは Sn (p)(式
(8) )の算出の際には考慮しなかった.
116
Nov. 2001
情報処理学会論文誌:ハイパフォーマンスコンピューティングシステム
がバルク回帰であることが判明しても,本節で述べた
a
ような単純な並列化の適用では,上記 Sn (p) で期待
b
されるほどの高速化が達成できない可能性もある.
一方で,一般のループを n 元バルク回帰の式 (6) に
変形した際に,Pi が密行列になるとは限らない.こ
c
data dependence
d
minimum cut
of iteration
のとき,バルク回帰ループに変形後のコード およびそ
iteration
れを並列化したコード の双方について,マシン命令列
i
i+1
図7
Fig. 7
生成の際に演算量を大幅に削減できる可能性もある.
i+2
i+3
展開後の依存グラフとその分割
Expanded dependence graph.
その場合はあたかも n の値が減ったごとくに高速化
a1 = x1 · c0 ;
/* a’ */
b1 = a1 + d0 ;
/* b’ */
for (i = 1; i ≤ N − 1; i + +) {
ci = bi · yi + zi ; /* c */
di = ci · wi ;
/* d */
ai+1 = xi+1 · ci ; /* a */
bi+1 = ai+1 + di ; /* b */
}
cN = bN · yN + zN ; /* c’ */
dN = cN · wN ;
/* d’ */
率は Sn (p) よりも大きい値となる可能性もある.
3.3 効率的な並列処理—バルク回帰並列処理手法
本節では,前節で考察したバルク回帰ループの並列
実行における特性をふまえて,並列化による高速化を
より大きく引き出すための並列処理手法をまとめる.
まず,オリジナルのループを式 (6) に変形した際の
Pi に注目する.Pi に零列が含まれる場合は,図 6 の
並列コード における U の対応する列もつねに零列,
図 8 再構成後のループ
Fig. 8 Restructured loop.
v の対応する要素はつねに零となる.つまり Pi の零
列の数だけ元数 n を減じたバルク回帰ループの場合
と同等な並列コードで記述できる☆ .n の値の削減は
(1)
ループ運搬依存を削減するループ変換
Sn (p)(式 (8) )における p に対する比例定数の値の増
加を意味し,高速化率向上に効果があると考えられる.
(2)
(3)
回帰成分の抽出
一方,Pi における非零列は依存グラフ中のループ運
搬フロー依存エッジに対応する.たとえば図 4 (a) の
ループに対応する Pi(式 (7) )における非零列(第 3,
回帰成分の並列化
( 4 ) PE 内ループ融合
各々のステップについて以下で順に述べる.
( 1 ) ループ運搬依存を削減するループ変換
第 4 列)は,ベクトル ai を求める際に変数 ci−1 およ
ループの再構成によって,イタレーション間で授受
び di−1 の値しか必要としないことを意味し,それは
される値の個数を最小化する.これは繰返し空間方
図 4 (b) に示される依存グラフのノード c および d から
向に展開した依存グラフを用いて行える.たとえば
出ているループ運搬依存エッジによってイタレーション
図 4 (a) に対する依存グラフ(図 4 (b) )を繰返し空
間で授受される値に対応する.すなわち,イタレーショ
間方向に展開すると図 7 となる.このグラフをイタ
ン間で授受される値の個数( つまりは n の値)を削
レーションの進行方向に等間隔に分割すればループ
減するループの再構成をあらかじめ適用すれば,並列
を再構成できるが,このときの「カット 」に含まれ
化による高速化がより効率的に行えると考えられる.
るエッジ数が最小となるようにすればよい.なお一
イタレーション間で授受される値の個数の削減は,
般にデータ依存グラフにおいては各ノードの出次数
software pipelining
15)
に類似のループ 再構成技法に
が 1 とは限らず,同一データ値に対応するデータフ
よって,ループ中の演算量を本質的には変更すること
ローエッジが複数存在しうる.しかしカットに含ま
なく行える.software pipelining はイタレーション内
れるエッジ数の数え上げに際してそれらを区別する
の命令レベル並列性の抽出が目的であって,ここで検
必要はない(図 7 では同一データ値のエッジを束ね
討するループ再構成手法とは目的はまったく異なるが,
て「枝分かれ」で表現している)
.図 7 中の破線は,
変換結果が同等となる場合はある.
ループ運搬依存エッジ数を 1 とする分割の例である
以上を考慮すると,バルク回帰ループの並列化手順
(ループ 運搬依存エッジ数が最小となる分割は一意
は以下のようにまとめられる.本手法を,バルク回帰
ではない)
.図 7 の分割に基づき図 4 (a) のループ
並列処理手法と呼ぶ.
を再構成した結果を図 8 に示す.ループ中の計算量
☆
は,このループ変換によって本質的には変化しない.
この最適化は並列ソースコード 出力の際に明示的に行わなくて
も,マシン語コード の生成時の局所的な最適化(「 0 乗算」の削
除など )で十分になされる場合もあろう.
( 2 ) 回帰成分の抽出
手順 ( 1 ) の再構成を施したループから「回帰成分」
Vol. 42
No. SIG 12(HPS 4)
バルク回帰並列処理:依存のあるループの並列実行方式
117
を抽出する.ここで回帰成分とは,ループ 運搬フ
中,p,q ,u,v ,t はいずれも作業用の局所変数で
ロー依存によりイタレーション間で値が受け渡され
ある.
る変数のみでベクトル ai を構成したときの,式 (6)
オリジナルループにループ 分割を適用することに
に対応するバルク回帰ループである.回帰成分の抽
よって doall ループとして分離できる部分が含まれて
出は,依存グラフの分割の情報から行える.すなわ
いる場合には,その部分は手順 ( 2 ) において回帰成
ち分割をまたぐエッジに対応する変数についての回
分からいったん除外され,手順 ( 4 ) において並列コー
帰的代入文を前進代入で抽出すればよい.図 7 に示
ド の step3 に融合される.すなわち,バルク回帰並列
す依存グラフの分割から抽出される回帰成分を図 9
処理手法では,ループ分割によって doall ループが分
に示す.
離できる場合でも,ループ分割でイタレーション内の
(3)
データ参照局所性を破壊することなく,かつ,doall
回帰成分の並列化
前項で抽出した回帰成分に対し 3.2 節で述べた手法
ループの並列性を犠牲にすることなく,ループ全体を
を適用し,並列化する.
並列処理できる.
( 4 ) PE 内ループ融合
回帰成分を抽出して単独で並列化し た後,残りの
コード と融合して全体を並列化し ,各 PE 用の並
ここで,本手法が計算量削減に直接影響を及ぼす点
をまとめる.いずれもバルク回帰ループへ変換する必
要のあるステート メント数の削減に関連している.
タレーション間で授受されない変数値を算出するス
• 本手法は,手順 ( 2 )∼( 4 ) で依存のあるループか
ら回帰成分のみを抽出して並列化し,その後にその
テート メントなどである.図 9 の回帰成分に並列化
他の部分と融合する.これはバルク回帰ループへ変
列コードを生成する.ここで残りのコードとは,イ
を適用し融合処理を行った結果を図 10 に示す.図
for (i = 1; i ≤ N − 1; i + +) {
bi+1 = (xi+1 yi + wi yi )bi + (xi+1 zi + wi zi );
}
図 9 抽出された回帰成分
Fig. 9 Extracted recurrence.
換するループ のステート メント 数を回帰成分のス
テート メント数にまで削減する効果がある.
• 本手法は,手順 ( 1 ) でループの再構成を行い回帰
成分自体を小さくする.これによりバルク回帰ルー
プへ変換すべきループのステート メント数も削減さ
れる(ループ再構成による計算量の変動の詳細につ
/* step1 */
p = xi+1 yi + wi yi ;
q = xi+1 zi + wi zi ;
t = p · b1 + q;
for (i = 1; i ≤ m; i + +) {
p = xi+1 yi + wi yi ;
q = xi+1 zi + wi zi ;
t = p · t + q;
}
/* step1 */
u = xkm+2 ykm+1 + wkm+1 ykm+1 ;
v = xkm+2 zkm+1 + wkm+1 zkm+1 ;
for ( i = km + 2; i ≤ (k + 1)m; i + +) {
p = xi+1 yi + wi yi ;
q = xi+1 zi + wi zi ;
u = p · u;
v = p · v + q;
}
/* step2 */
send t to PE 1
/* step2 */
receive t from PE k − 1
t = t · u + v;
send t to PE k + 1
/* step3 */
/*
a1 = x1 · c0 ;
/*
b1 = a1 + d0 ;
for (i = 1; i ≤ m; i + +) {
/*
ci = bi · yi + zi ;
/*
di = ci · wi ;
ai+1 = xi+1 · ci ; /*
bi+1 = ai+1 + di ; /*
}
(a) PE0 用のコード
a’ */
b’ */
c */
d */
a */
b */
/* step1 */
/* do nothing */
/* step2 */
receive t from PE p − 2
/* step3 */
bkm = t;
for (i = km + 1; i ≤ (k + 1)m; i + +) {
/* c */
ci = bi · yi + zi ;
/* d */
di = ci · wi ;
ai+1 = xi+1 · ci ; /* a */
bi+1 = ai+1 + di ; /* b */
}
/* step3 */
bpm−1 = t;
for (i = pm; i ≤ N − 1; i + +) {
/* c */
ci = bi · yi + zi ;
/* d */
di = ci · wi ;
ai+1 = xi+1 · ci ; /* a */
bi+1 = ai+1 + di ; /* b */
}
/* a’ */
aN = xN · cN ;
/* b’ */
bN = aN + dN ;
(b) PE k(1 ≤ k ≤ p − 2) 用のコード
(c) PE p − 1 用のコード
図 10 バルク回帰並列処理コード
Fig. 10 Bulk recurrent parallel processing code.
118
Nov. 2001
情報処理学会論文誌:ハイパフォーマンスコンピューティングシステム
いては 3.4 節で考察する)
.
• 図 6 に示す並列コードのうち step3 および PE0 用
の step1 におけるループのボディには,バルク回帰
a
a
a
a
b
b
b
b
c
c
c
c
d
d
d
d
ループへ変換したループではなくオリジナルのルー
プボディ記述をそのまま用いることができる.これ
によって,バルク回帰ループへの変換の過程でいっ
たん増加した計算量を部分的に削減できる.
loop independent
dependence
4 章では,上の項目それぞれの効果に着目して実測
結果をまとめる.
ここで,図 4 (a) のループと,それに対して上記の最
適化手順によって並列化した結果である図 10 の並列
(a) オリジナルの依存グラフ
C
c
コード とから,計算量の具体的な比較を行う.2.2 節
で用いた記号を使う.図 4 (a) のループの計算時間は
(5 + 8β)tf N である.一方,図 10 から,並列実行に
要する時間はおよそ (14 + 12β)tf m と見積もること
loop-carried
dependence
C
a
b
c
b
c
d
a
d
b
c
b
c
d
a
D
D
loop independent
dependence
loop-carried
dependence
copy node
ができる.すなわち,PE 数 p に対しておよそ 5p/14
a
set of nodes in one statement
倍∼2p/3 倍の高速化が見積もられる.
3.4 回帰成分抽出時の計算量増加
オリジナルのループをバルク回帰ループに変形する
こと,つまり前進代入の適用が演算量を増加させる点
について 3.2 節で触れた.ところで,3.3 節で述べた
(b) 2 元バルク回帰ループの抽出結果
図 11 バルク回帰ループの依存グラフ
Fig. 11 Dependence graphs of bulk recurrence.
c
c
c
c
d
d
d
d
a
a
a
a
b
b
バルク回帰並列処理手法では,コード の並列化の過程
でループを再構成することにより,ループ運搬フロー
依存によってイタレーション間で授受される変数の個
数を削減することで,並列コードが要する計算量を削
減する方法であった.しかし回帰成分の抽出の際には
b
b
本手法でも前進代入を行っているのである.このとき
loop independent
dependence
の演算量の増加について,ループ再構成を行わなわず
(a) ループ再構成後の依存グラフ
に回帰成分を抽出する場合と比較して考察する.
B
図 4 (a) のループを例にして回帰成分抽出の際の演
B
d
c
算量増加の様子を考える.図 4 (b) に示す依存グラフ
loop-carried
dependence
b
d
c
b
a
b
a
を繰り返し空間方向に展開すると図 11 (a) が描ける.
ここで,図 4 (a) から図 5 への変形は,依存グラフ上
では図 11 (b) のようにノードの複製を行っていること
loop independent
dependence
copy node
loop-carried
dependence
set of nodes in one statement
に相当する.図 11(b) 中,破線で記されたノードは演
算の複写を示し ,C および D とラベル付けしたノー
(b) 1 元バルク回帰ループの抽出結果
ド 集合は,抽出後の 2 元バルク回帰ループを構成する
図 12 ループ再構成後のバルク回帰ループの依存グラフ
Fig. 12 Dependence graphs of restructured loop.
2 つのステート メントをそれぞれ表している.
一方,3.3 節で述べたループ再構成手法を適用した
はならない.このため,バルク回帰ループの元数が多
後の依存グラフは図 12 (a) である( 図 11 (a) とはト
いほど,図 11 (b) における複製ノードで示されるよう
ポロジー的な差異はない)
.またループ 再構成後に抽
な,計算量の増加をともなう前進代入が必要となる状
出される回帰成分( 図 9 )に対応する依存グラフは,
況が増えると考えられる.すなわち,バルク回帰ルー
図 12 (b) で表される.図 11 (b) の場合と異なり,ノー
プの元数を削減するためのループ再構成は,回帰成分
ド の複写がまったく不要であることが分かる.
抽出時の演算量増加も抑える働きがあるといえる.
バルク回帰ループを構成するためには,ループボ
ディの各ステート メント間にループ独立依存があって
Vol. 42
No. SIG 12(HPS 4)
Table 2
表 2 実測に用いた並列計算機の諸元
Specifications of experimental environment.
バルク回帰並列処理:依存のあるループの並列実行方式
†
‡
日立 SR2201
富士通 GP7000F
CPU
拡張版 PA-RISC
SPARC64-GP
I16 KB/D16 KB
I64 KB/D64 KB
L1 Cache
I512 KB/D512 KB
8 MB
L2 Cache
64( 32 個使用)
24( 16 個使用)
CPU 数
主記憶
256 MB/PE( 疎結合) 24 GB( SMP )
ライブラリ
MPI
POSIX スレッド
OS
HI-UX/MPP
SunOS 5.8
† 日本原子力研究所計算科学技術推進センター設置
‡ 京都大学大型計算機センター設置
機種名
119
のため,以下の 4 通りの並列コード を用いた.
type1 並列化するループをバルク回帰ループへ書き
換え,それを単純に図 6 にあてはめたもの.
type2 type1 の並列コードに対し,step3 および PE0
の step1 のループを,オリジナルのループボディ
に戻したもの.
type3 3.3 節で示した手順のうち,( 1 ) のループ再
構成を行わなかったもの.
type4 3.3 節で示した手順をすべて適用したもの.
なお,PE0 以外の step1 における行列計算( 図 6 参
照)はすべてスカラ局所変数を用いて記述した.
4. 実測および評価
本章では,バルク回帰並列処理手法をいくつかの
ループに適用して実測を行った結果を示し,本手法の
評価について述べる.
実測に用いた計算機は,疎結合計算機の日立 SR2201
4.1 Livermore Fortran Kernels 19 番ループ
Livermore Fortran Kernels 16) の 19 番ル ープ
( LFK19 )の主要部に対する type2 の並列コード の
実測結果を図 13,図 14,図 15 に示す.計測対象の
ループもあわせて図中に示す.
図 13 は SR2201 における実測結果で,ループ長と
および SMP 計算機の富士通 GP7000F( 以降,それ
使用 PE 数を変化させたときの実行時間を示している.
ぞれ SR2201 および SPARC と呼ぶ )の 2 種類であ
横軸はループ長,縦軸は経過時間(単位は秒)で,両
る.諸元を表 2 に示す.
表 2 に示したとおり,MPI および POSIX スレッド
( 以降,P スレッド と呼ぶ)を用いて実測コード を記
述した.使用した言語は C である.
軸とも対数目盛である.ループ長が大きくなるにつれ
て,使用 PE 数に応じた曲線が互いに等間隔で平行な
直線に近づいている.すなわち,ループ運搬依存のあ
るループに対し,バルク回帰ループと見なした並列処
SR2201 上で MPI を用いた実測では,各 PE に必要
理によって PE 数に比例する並列性を引き出せること
なデータを割り付けてバリア同期をとった時点から,
.ループ長が小
が分かる( PE 数が 2 より大きい場合)
各 PE がそれぞれの担当の計算を終了した時点までの
さい範囲では,横軸に平行で等間隔の直線に近づく様
時間を計測した.計時は MPI Wtime() を用い,PE 間
子が見られる.ループ長が小さいと PE 数に比例する
通信では MPI Isend() および MPI Recv() を用いた.
量の通信オーバヘッドが所要時間を支配している.
SPARC 上では P スレッド を 用いて 実測を 行っ
た.1 つのスレッド でデ ータの初期化を行った後に
なお,SPARC における P スレッド での実測でも
図 13 とほぼ 同様な傾向が見られた.ループ 長 221 ,
他の すべての スレッド を 生成するよ うにし ,最初
PE 数 16 にて,実行時間は 23.5 ミリ秒であった.た
の pthread create() の呼び 出し の直前から最後の
だしループ長が小さいときには,実行時間に占めるス
pthread join() の呼び出しから戻るまでの時間を計
レッド 起動オーバヘッド の割合が大きく,逆に同期待
測した.計時には gettimeofday() を用いた.PE 間
ちはほとんど生じていなかった.実際,1 つのスレッド
のデータの授受は別個の共有変数によって行った.
が起動されて計算処理を開始するまでに 200 マイクロ
いずれの測定でも,計測開始直前に,計算とは無関
秒以上,1 回の pthread create() 呼び出しから戻る
係の多量のデータをロード /ストアし,各 PE のキャッ
のに 70 マイクロ秒前後のオーバヘッドがあった.PE
シュをクリアした.配列要素参照については,ロード
数が 16 の場合には,最後のスレッドが計算処理を開
後に局所スカラ変数へコピーして使用するなどのメモ
始するまでには最初のスレッドが起動されてから 1 ミ
リアクセスの最適化をソースレベルで行った.演算は
リ秒以上かかっていた.1 ミリ秒といえば単一 PE で
すべて倍精度実数( double 型)で行った.
ループ長 215 程度の LFK19 の計算を終えてしまえる
コンパイラはいずれもシステム付属のものを用いた.
使用した最適化オプションは以下のとおりである.
程度の時間である.バルク回帰ループの並列処理によ
る高速化を行うには,LFK19 程度のループボデ ィの
• SR2201 : mpicc +O4
演算量が少ない場合には,PE 数に見合う程度にルー
• SPARC : fcc -Kfast GP=2 -lpthread
実測には,3.3 節であげた演算量の削減効果の比較
プ長が十分大きいことが必要である.
図 14
( SR2201 での実測結果)および図 15
( SPARC )
120
Nov. 2001
情報処理学会論文誌:ハイパフォーマンスコンピューティングシステム
18
10
type1 N=2^15
type2 N=2^15
type3 N=2^15
type4 N=2^15
type1 N=2^21
type2 N=2^21
type3 N=2^21
type4 N=2^21
linear
16
/* LFK19 */
for (i=1; i<N; i++) {
b[i] = sa[i] * stb5 + sb[i];
stb5 = b[i] - stb5;
}
1
14
12
speed up
elapsed time [sec]
0.1
0.01
for (i=1; i<N; i++) {
a[i] = x[i] * c[i-1];
b[i] = a[i] + d[i-1];
c[i] = b[i] * y[i] + z[i];
d[i] = c[i] * w[i];
}
10
8
6
0.001
sequential
#PE=2
#PE=4
#PE=8
#PE=16
#PE=32
0.0001
4
2
0
2^10
2^12
2^14
2^16
loop length
2^18
0
2^20
2
4
6
8
10
12
14
16
18
number of PEs
図 13 LFK19 の並列実行結果( SR2201 )
—実行時間
Fig. 13 Parallel execution of LFK19 (SR2201)—elapsed
time.
図 16
Fig. 16
図 4 (a) の並列実行結果( SPARC )
—高速化率
Parallel execution of Fig. 4 (a) (SPARC)—
performance.
35
35
loop length N=2^11
N=2^13
N=2^15
N=2^17
N=2^19
N=2^21
linear
30
25
type1 N=2^15
type2 N=2^15
type3 N=2^15
type4 N=2^15
type1 N=2^21
type2 N=2^21
type3 N=2^21
type4 N=2^21
linear
30
15
speed up
speed up
25
/* LFK19 */
for (i=1; i<N; i++) {
b[i] = sa[i] * stb5 + sb[i];
stb5 = b[i] - stb5;
}
20
for (i=1; i<N; i++) {
a[i] = x[i] * c[i-1];
b[i] = a[i] + d[i-1];
c[i] = b[i] * y[i] + z[i];
d[i] = c[i] * w[i];
}
20
15
10
10
5
5
0
0
5
10
15
20
number of PEs
25
30
35
0
0
図 14 LFK19 の並列実行結果( SR2201 )
—高速化率
Fig. 14 Parallel execution of LFK19 (SR2201)—
performance.
5
10
15
20
25
30
35
number of PEs
図 17
Fig. 17
図 4 (a) の並列実行結果( SR2201 )
—高速化率
Parallel execution of Fig. 4 (a) (SR2201)—
performance.
18
loop length N=2^11
N=2^13
N=2^15
N=2^17
N=2^19
N=2^21
linear
16
14
なお LFK19 はループボディにおける演算量が少な
いループであるため,type1∼type3 のコード の実測
12
speed up
結果にはほとんど 差が見られなかった.また,type3
10
/* LFK19 */
for (i=1; i<N; i++) {
b[i] = sa[i] * stb5 + sb[i];
stb5 = b[i] - stb5;
}
8
と type 4 を差別化するループ再構成処理を適用する
余地もない.
6
4.2 図 4 のループの並列処理
4
2
3 章におけるバルク回帰並列処理手法の説明の中で
0
例に用いた図 4 (a) のループに対する実測結果につい
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
number of PEs
図 15 LFK19 の並列実行結果( SPARC )
—高速化率
Fig. 15 Parallel execution of LFK19 (SPARC)—
performance.
て,PE 数と高速化率の関係を図 16 および図 17 に
示す.図 16 は SPARC において P スレッドを用いた
実測結果で,図 16 では,type1∼type4 のコードによ
る実行結果を,ループ長 221 および 215 の場合につい
は,逐次コード の実行時間に対する使用 PE 数に応じ
て重ねて示している.ループ長が 221 の場合の高速化
た高速化率を,いくつかのループ長の場合についてプ
率は PE 数にほぼ比例しているといえ,その比例定数
ロットしたものである.横軸は使用 PE 数,縦軸は高
は,type1,type2,type3,type4 の順に大きくなっ
速化率である.ループ長が十分大きい場合には,2 よ
ている.type 4 の場合の比例定数は約 0.52 で,ルー
り大きな PE 数に対して線形に高速化可能であること
プ長 221 ,PE 数 16 のときの実行時間は 49.4 ミリ秒
が分かる.SR2201 および SPARC で,ループ長 221 ,
であり,これは逐次実行に対して 8.1 倍,type1 に対
PE 数 16 における高速化率はそれぞれ 6.8 および 7.2
であった.
して 25%,type3 に対して 5.6%高速化された値であ
る.ループ長 215 では通信オーバヘッド の占める割合
Vol. 42
No. SIG 12(HPS 4)
121
バルク回帰並列処理:依存のあるループの並列実行方式
が大きくなり,高速化率は PE 数に比例するには至っ
ていない.ループ 長 215 における type 4 での PE 数
16 のときの実行時間は 2.07 ミリ秒であった.
図 17 は SR2201 での PE 数と高速化率の関係で
ある.ループ 長 221 ,PE 数 16 のときの実行時間は
67.3 ミリ秒であった.これは逐次実行に対して 7.5 倍,
type1 および type 3 の実行時間と比較してそれぞれ
for (i = 1; i ≤ N ; i + +) {
ai = bi + 3ci−1 + wi ; /* a */
bi = ai + 3di−1 + 7; /* b */
/* c */
ci = xi bi−1 + yi ;
/* d */
di = zi bi−1 + wi ;
}
(a) loop code
82%および 4.9% 高速化された値である.
図 16( SPARC )と図 17( SR2201 )とを比較する
と,SR2201 では type2 と type3 の間での性能差が
び type4 のコードは,それぞれ 4 元,2 元および 1 元
30
バルク回帰ループの並列実行を行っているのと同等で
25
speed up
35
type4 の比よりもソースコード の字面上でははるかに
loop carried
dependence
c
d
(b) dependence
graph of (a)
type1 N=2^15
type2 N=2^15
type3 N=2^15
type4 N=2^15
type1 N=2^21
type2 N=2^21
type3 N=2^21
type4 N=2^21
linear
for (i=1; i<N; i++) {
a[i] = b[i-1] + 3*c[i-1] + w[i];
b[i] = a[i] + 3*d[i-1] + 7;
c[i] = x[i] * b[i] + y[i];
d[i] = z[i] * b[i] + w[i];
}
20
10
計算量の比がそのまま現れているといえる.しかし ,
の際の最適化によって実際の演算回数は大きく削減さ
b
15
大きい.その点からすれば,SR2201 での実測結果は
type2( および type1 )は多数のスカラ変数による行
列積演算,すなわち多数の乗算と加算の繰返しでしか
も 0 乗算や 0 加算を多く含むため,マシンコード 生成
loop independent
dependence
図 18 複雑なループの例
Fig. 18 A complicated loop.
非常に大きい.大雑把にいえば ,type2,type3 およ
あるので,type2 と type3 の計算量の比は type3 と
a
5
0
0
5
図 19
Fig. 19
10
15
20
number of PEs
25
30
35
図 18 (a) の並列実行結果( SR2201 )
—高速化率
Result of Fig. 18 (a) (SR2201)—performance.
れうる.つまり,type2 と type3 の間の性能差が小さ
0.5
いという SPARC での実測結果は,使用したコンパイ
step1(for PE0)
ラの(指定したコンパイルオプションにおける)スカ
step1(for PE1 - PE7)
0.4
step2
ラ最適化の適用の程度が高かったことを示していると
図 16 と図 17 の示す高速化率の変化率は,3.3 節で
の見積り(比例定数 5p/14∼2p/3 )にあてはまる結果
である.
elapsed time [sec]
もいえる.
step3
0.3
0.2
0.1
用して SR2201 で実測した結果を図 19 および図 20
PE
PE0
PE1
PE2
PE3
PE4
PE5
PE6
7
type1
type2
type3
PE
PE0
PE1
PE2
PE3
PE4
PE5
PE6
7
PE
PE0
PE1
PE2
PE3
PE4
PE5
PE6
7
図 18 (b) )に対して,バルク回帰並列処理手法を適
0
PE
PE0
PE1
PE2
PE3
PE4
PE5
PE6
7
4.3 ループ再構成の適用効果の大きいループ
図 18 (a) に 示すル ープ( 対応する依存グ ラフは
type4
図 20 図 18 (a) の並列実行結果( SR2201 )
—処理の経過
Fig. 20 Result of Fig. 18 (a) (SR2201)—progression.
に示す.図 19 は PE 数と高速化率の関係を示してい
る.図 18 (a) のループは,3.3 節で述べたループ再構
軸および 横軸は,図 3 における横軸および縦軸に相
成手法を適用すると,イタレーション間で受け渡され
る変数の個数が 3 個から 1 個に減る.これは図 4 (a) の
当する.PE7 における step2 の処理時間が長いのは,
step1 の処理がないために長時間待たされているため
場合( 2 個から 1 個への削減)に比べて大きい.この
である( 図 3 参照)
.
ため,type3 と type4 の並列コード の実行時間の差が
顕著に現れると予想された.図 20 は,ループ長 221 ,
図 20 より,type1 を type2 に最適化し た効果が
おける各 PE の処理の進行の様子を示したもので,縦
step3 および PE0 の step1 に現れていること,type2
から type3 への最適化は PE0 以外の step1 に大きく
影響していることが確認できる.また,3.3 節で述べ
軸は時間の経過を示している.たとえば type1 におい
たループ再構成の適用の効果も大きく,ループ再構成
て PE0 上のスレッドは計算開始後約 0.08 秒で step1
が高速化率の向上に大きく寄与していることが分かる.
を終え,他の PE が step1 の処理を終わらせる前に開
type4 は,PE 数 16 のときに,逐次実行に対して 8.5
倍,type1 に対して 3.4 倍,type3 に対して 1.9 倍の
PE 数 8 の場合の,type1∼type4 のそれぞれの実行に
始後 0.18 秒の時点で step3 も終えている.図 20 の縦
122
18
18
type1 N=2^15
type2 N=2^15
type3 N=2^15
type4 N=2^15
type1 N=2^21
type2 N=2^21
type3 N=2^21
type4 N=2^21
linear
16
14
loop length N=2^11
N=2^13
N=2^15
N=2^17
N=2^19
N=2^21
linear
16
for (i=1; i<N; i++) {
a[i] = b[i-1] + 3*c[i-1] + w[i];
b[i] = a[i] + 3*d[i-1] + 7;
c[i] = x[i] * b[i] + y[i];
d[i] = z[i] * b[i] + w[i];
}
14
12
speed up
12
speed up
Nov. 2001
情報処理学会論文誌:ハイパフォーマンスコンピューティングシステム
10
8
10
6
6
4
4
2
2
0
for (i=1; i<N; i++) {
a[i] = p[i] * a[i-1] + q[i];
b[i] = r * a[i] + s;
}
8
0
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
0
2
4
number of PEs
図 21
Fig. 21
8
10
12
14
16
18
number of PEs
図 18 (a) の並列実行結果( SPARC )
—高速化率
Result of Fig. 18 (a) (SPARC)—performance.
step1(for PE1 - PE7)
大きい.これも,Sn (p) から,SPARC のメモリアク
step2
0.12
図 23 Doall 成分を含むループ( SPARC )
—高速化率
Fig. 23 Doall inclusive loop (SPARC)—performance.
を含めこれまでに述べたほとんどの実測結果において
step1(for PE0)
0.14
6
step3
セスコストの相対的な大きさに起因すると説明しても
よいかもしれないが,より詳細な検討を要するだろう.
4.4 doall 成分を含むループ
比例する高速化が可能であることが分かるが,その比
0
type1
type2
type3
PE
PE0
PE 1
PE2
PE3
PE4
PE5
PE6
7
結果を示す.ループ長が十分に大きい範囲で PE 数に
0.02
PE
PE0
PE 1
PE2
PE3
PE4
PE5
PE6
7
図 23 に,doall 成分を含むループ およびその実測
0.04
PE
PE0
PE 1
PE2
PE3
PE4
PE5
PE6
7
0.06
PE
PE0
PE 1
PE2
PE3
PE4
PE5
PE6
7
elapsed time [sec]
0.1
0.08
type4
図 22 図 18 (a) の並列実行結果( SPARC )
—処理の経過
Fig. 22 Result of Fig. 18 (a) (SPARC)—progression.
例定数は図 15 や図 16 のものよりも大きく,ループ
長 221 においておよそ 0.61 である.なお,同じ環境
による図 1 のループの実測では,比例定数は約 0.52
であった.バルク回帰並列処理手法は,doall 成分の
速さで実行された.
同じループの SPARC での実測結果は図 21 および
図 22 に示す.SPARC 上では,PE 数 16 の場合,逐
次実行に対して 8.6 倍の速さで実行され,type1 に対
並列性を減じることなく,ループ全体を効率良く並列
化できるといえる.
5. お わ り に
して 47%,type3 に対して 19%の速度向上が得られて
本論文では,バルク回帰並列処理手法と呼ぶ,ルー
いる.type1 から type4 への最適化の過程での処理時
プ運搬依存のあるループの並列化手法の提案を行った.
間の変化は SR2201 の場合とほぼ同様の傾向を示して
いくつかのループ運搬依存のあるループを用い,疎結
いるが,全体的に最適化の効果が小さい.この理由は
合計算機および SMP 共有メモリ計算機上で実測を行っ
明らかではないが,前節同様,type1∼type3 のコー
た結果,いずれの計算機環境においても PE 数に比例
ドに対するマシン語生成時の最適化の度合いの違いが
した高速化が達成できることが分かった.SR2201 に
原因の 1 つにあげられる.また,バルク回帰ループの
おける 8PE での実測では,単純な回帰演算の並列処
高速化率を表す Sn (p)( 式 (8) )によると,PE 数 p
理手法を適用した場合に対して 3.4 倍に至る速度向上
が一定のとき,演算コストに比べてロードやストアの
も観測された.
コストが大きい場合( β が大きい場合)にはバルク回
本論文で用いた並列処理アルゴ リズムは PE 数に比
帰の元数 n の増加に対する高速化率 Sn (p) の変化は
例する回数の通信処理を行うものであるため,PE 数
より小さいことがいえる.つまり図 22 に示される最
が増加した際の並列化率の向上には限界がある.通信
適化の効果の小ささは,Sn (p) から,SMP 並列計算
処理の改良は,明白な改良の余地の 1 つである.
機である SPARC の方が SR2201 よりも,演算コスト
に対するメモリアクセスコストが相対的に高いことを
示唆しているといえよう.
なお,同一 PE 数の際の対逐次実行の高速化率は,
SR2201 よりも SPARC の方が,本節で述べたデータ
本論文で述べたバルク回帰ループの並列化手法は,
もともと逐次的な依存関係のある処理単位間の依存距
離を付加的な計算により拡大することによって並列性
を抽出するものである.このため,wavefront 法など
が適用可能な,インスタンス間の依存関係が疎である
Vol. 42
No. SIG 12(HPS 4)
バルク回帰並列処理:依存のあるループの並列実行方式
多重ループなどに対しては,バルク回帰並列処理方式
の効果は発揮しにくい可能性がある.これについての
調査は今後の課題である.依存距離が 1 でない場合
( 多次バルク回帰)についての考察,より大きなアプ
リケーションにおける有効性の調査なども,今後の課
題としてあげられる.
参 考 文 献
1) Zima, H. and Chapman, B.: Supercompilers
for Parallel and Vector Computers, AddisonWesley (1991).
2) Wolfe, M.: High Performance Compilers for
Parallel Computing, Addison-Wesley (1996).
3) 高畠志泰 ,本多 弘樹 ,大澤範 高 ,弓場敏嗣:
Doacross ル ープ の sandglass 型並列化方法と
その評価,情報処理学会論文誌,Vol.40, No.5,
pp.2037–2044 (1999).
4) Polychronopoulos, C.D.: Compiler Optimizations for Enhancing Parallelism and Their Impact on Architecture Design, IEEE Trans.
Comput., Vol.37, No.8, pp.991–1004 (1988).
5) Egecioglu, O., et al.: Prefix Algorithms for
Tridiagonal Systems on Hypercube Multiprocessors, Proc. 3rd conference on Hypercube
concurrent computers and applications, Vol.2,
pp.1539–1545 (1988).
6) 津田孝夫:数値処理プログラミング,第 2 章,岩
波書店 (1988).
7) Nicolau, A. and Wang, H.: Optimal Schedules
for Parallel Prefix Computation with Bounded
Resources, Proc. 3rd ACM SIGPLAN symposium on Principles and Practice of Parallel
Programming, pp.1–10 (1991).
8) 梅尾博司:SIMD 上の並列アルゴ リズム,情報
処理,Vol.33, No.9, pp.1042–1055 (1992).
9) Lakshmivarahan, S. and Dhall, S.K.: Parallel
Computing Using the Prefix Problem, Oxford
Univ. Press (1994).
10) Lakshmivarahan, S. and Dhall, S.K.: Analysis
and Design of Parallel Algorithms: Arithmetic
and Matrix Problems, McGraw-Hill (1990).
11) Fisher, A.L. and Ghuloum, A.M.: Parallelizing Complex Scans and Reductions, Proc.ACM
SIGPLAN ’94 Conf. Programming Language
Design and Implementation (PLDI ), pp.135–
146 (1994).
12) Ben-Asher, Y. and Haber, G.: Parallel Solutions of Simple Indexed Recurrence Equations,
IEEE Trans. Parallel and Distributed Systems,
123
Vol.12, No.1 (2001).
13) Dongarra, J.J., et al.: Solving Linear Systems on Vector and Shared Memory Computers, SIAM (1991).
14) Wada, H., et al.: High-speed Processing
Schemes for Summation Type and Iteration
Type Vector Instructions on HITACHI Supercomputer S-820 System, Proc. Intl. Conf. on
Supercomputing, pp.197–206 (1988).
15) Allan, V.H., et al.: Software Pipelining, ACM
Computing Surveys, Vol.27, No.3 (1995).
16) Feo, J.T.: An Analysis of the Computational
and Parallel Complexity of the Livermore
Loops, J. Parallel Computing, Vol.7, pp.163–
185 (1986).
(平成 13 年 5 月 9 日受付)
(平成 13 年 9 月 19 日採録)
川端 英之( 正会員)
1992 年京都大学工学部情報工学
科卒業.1994 年同大学大学院工学
研究科修士課程修了.同年より広島
市立大学情報科学部助手.高性能計
算,自動並列化技術に関する研究に
従事.ACM,IEEE-CS 各会員.
谷口 宏美
2001 年広島市立大学情報科学部
卒業.現在同大学大学院情報科学研
究科修士課程在学中.並列アルゴ リ
ズムに興味を持つ.
津田 孝夫( 正会員)
1957 年京都大学工学部電気工学
科卒業.1979 年より京都大学工学
部情報工学科教授.1996 年より同
大学名誉教授,広島市立大学情報科
学部教授.工学博士.モンテカルロ
法,自動ベクトル化/並列化コンパイラ,並列数値処理
等に関する研究に従事.
「 モンテカルロ法とシミュレー
ション 」
( 培風館)
,
「 数値処理プログラミング 」
( 岩波
書店)等の著書がある.昭和 63 年度および平成 3 年
度本会論文賞授賞.ACM,SIAM 各会員.
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