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一般演題1「胆道」

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一般演題1「胆道」
一般演題 1「胆道」
1-1
腹腔鏡下胆嚢摘出術後 4 年目に発症した落下遺残結石による難治性腹腔内膿瘍の 1 例
○桐山 茂久、東郷 直希、山本 直之、須崎 紀彦、山出 尚久
新宮市立医療センター 外科
【緒言】腹腔鏡下胆嚢摘出術後 4 年経過した後に発症した落下遺残結石による腹腔内膿瘍に対し手術を行っ
た症例を経験したので報告する.
【症例】症例は 60 歳男性.2007 年 11 月に胆嚢結石症に対し,他院で腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行されていた.
2011 年 12 月に腹部膨満感・腹痛を主訴に近医を受診した.CT で肝 S6 付近に約 6cm の腫瘤様病変を指摘さ
れ,当院内科に紹介となった.造影 CT 等で肝膿瘍と診断され,経皮的膿瘍ドレナージ及び抗生剤投与で
軽快し退院した.しかし,2012 年 1 月,7 月,8 月に膿瘍の再燃を認め,その都度,経皮的膿瘍ドレナージ
を要したため,外科的治療の可否につき当科紹介となった.以前からの CT を見直すと,膿瘍内に高吸収
域を呈する多数の陰影と腹腔鏡下胆嚢摘出術時に使用するクリップと思われる物体を認めた.前医に確認
したところ,腹腔鏡下胆嚢摘出時に胆嚢壁損傷があったとのことであり,以前に行われた腹腔鏡下胆嚢摘
出術時の落下遺残結石が核となった腹腔内膿瘍と考え手術を行った.右季肋下切開で開腹し,肝後区域を
脱転すると,膿瘍壁を認めた.これを開放すると膿瘍腔内に 3-8mm 大の結石を多数認めたため,落下遺残
結石による腹腔内膿瘍と診断した.結石を残らず摘出し,膿瘍腔内を十分に洗浄後,ドレーンを留置して
手術を終了した.術後経過は良好で,術後第 10 病日に退院となった.術後 1 年 9ヶ月の現在,膿瘍の再発
を認めていない.
【結論】腹腔鏡下胆嚢摘出術では,炎症の強い症例などで剥離の際に胆嚢壁を損傷し,結石が腹腔内に落下
することは少なくはない.通常は結石が遺残しても問題となることは少ないが,稀に本症例のように腹腔
内膿瘍を形成するという報告もみられる.多数の結石を有する胆嚢結石症の治療に際しては,胆嚢壁損傷
に注意するのはもちろんだが,落下結石があった場合には可能な限りの回収も必要であると考えられた.
― 55 ―
一般演題 1「胆道」
1-2
術前診断が可能で腹腔鏡下胆嚢摘出術が有効であった胆嚢捻転症の 2 例
○権 英寿、田中 賢一、野木 雄也、有馬 純、岡本 大輝、保原 祐樹、藤川 正隆、
新関 亮、中江 史朗、土師 誠二
大阪府済生会中津病院 外科
【背景】近年、胆嚢捻転症に対する腹腔鏡下手術の有効性が報告されているが、術前診断は容易ではなく、
実際にはその適応は限られているのが現状と思われる。今回我々は術前に胆嚢捻転症と診断し、腹腔鏡下
胆嚢摘出術を施行した胆嚢捻転症の 2 例を経験したので、若干の文献的報告を踏まえ報告する。【症例】症
例 1 は 71 歳男性、主訴は心窩部痛。来院時に腹部 CT にて右肋弓下に腫大胆嚢を認め、急性胆嚢炎と判断、
入院加療となったが、翌日に腹部症状の増悪を認めた。腹部 CT 再検にて胆嚢の左側偏位を認めたため、
胆嚢捻転症と判断した。症例 2 は 66 歳女性、主訴は心窩部痛。腹部 CT にて正中側に偏位した腫大胆嚢を
認め、胆嚢捻転症を考えた。症例 1、2 ともに腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行、術中所見にて胆嚢捻転による壊
疽性胆嚢炎と診断された。術後経過は良好であり、早期退院が可能であった。
【考察】当院では高度な炎症
が予想される急性胆嚢炎や壊疽性胆嚢炎に対してはこれまで開腹術を適応することが多かったが、胆嚢捻
転症による壊疽性胆嚢炎に対する腹腔鏡下手術は安全に施行可能であり、術前診断が可能ならばより積極
的に実施すべきと考えられた。
― 56 ―
一般演題 1「胆道」
1-3
PTGBD 後でも「準早期」に LC を施行する当科の治療戦略
○雪本 龍平、柏崎 正樹、太田 英夫、徳山 信嗣、斎藤 明菜、柳澤 公紀、久保 維彦、
小林 研二
兵庫県立西宮病院
【目的】急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン 2013(TG13)において、手術リスクが高い場合には胆嚢ド
レナージが推奨されているが、経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)後の手術時期に関しては推奨の記載は
ない。当科では、中等症以上の AC に対して PTGBD を施行した場合、炎症消退後に一旦退院とし、数ヶ
月後待機的に LC を施行する方針であったが、2012 年から治療期間短縮を目指し、PTGBD 施行例において
も発症 10 日以内に LC を施行する「準早期 LC」を導入したので、新たな治療戦略の妥当性を検討した。
【対象と方法】対象は 2008 年 4 月から 2015 年 3 月までに当科で LC を施行した 547 例。うち AC 症例は 84 例。
発症から LC までの期間により 3 群(早期 LC 群;発症から 3 日以内、準早期 LC 群;発症後 4 日から 10 日、
待機 LC 群;発症から 11 日以降)に分類し、また PTGBD 施行の有無で 2 群に分類し、手術時間、出血量、
術中偶発症、術後合併症、術後在院日数を比較検討した。
【結果】AC 症例 84 例においても、開腹移行率は 3.6%、術中偶発症なし、術後合併症は総胆管結石遺残な
ど 6.0%で feasible であった。AC 症例 84 例を早期 LC 群 30 例、準早期 LC 群 24 例、待機 LC 群 30 例で手術成
績を比較したが、3 群間に有意差を認めなかった。AC 症例 84 例を PTGBD 施行群 41 例と非施行群 43 例で
比較すると、前者は有意に高齢で重症度が高かったが、手術成績には有意差がなかった。さらに、PTGBD
施行群 41 例を早期 LC12 群例、準早期 LC 群 13 例、待機 LC 群 16 例で比較したが、手術成績に有意差はなかっ
た。
【結論】来院時期や重症度により早期 LC の適応とならない AC 症例に対して、初回入院中に施行する準早
期 LC(発症 4 日から 10 日以内の LC)は、PTGBD 施行例を含めても feasible であり、AC の全治療期間の短
縮に寄与する有用な治療戦略と考えられた。
― 57 ―
一般演題 1「胆道」
1-4
当院における胆嚢・総胆管結石に対する腹腔鏡下総胆管切開切石術の検討
○相馬 大人、弓場 健義、濱田 哲宏、小林 哲郎、大橋 秀一
大阪中央病院 外科
【緒言】本邦における胆嚢・総胆管結石症に対する治療方法として , 腹腔鏡下胆嚢摘出術に加えて内視鏡的
乳頭切開術や内視鏡的乳頭拡張術の併用が広く行われているが,乳頭機能の障害による胆管炎や胆管結
石の再発が問題となる . 一方 , 腹腔鏡下胆管結石切石術(Laparoscopic common bile duct exploration: 以
下 ,LCBDE)は , 乳頭機能の温存が可能な治療法であるが , 手術手技が煩雑であり , 術後胆管狭窄などの合併
症の問題が存在する . 当院では , 乳頭機能温存の観点から , 総胆管径や結石個数にかかわらず,原則的に胆管
切開法による LCBDE を施行しており , 今回,その臨床成績から本術式の妥当性を検討した 【
. 方法】H13 年 9
月から H27 年 5 月の期間に手術を施行した胆嚢・総胆管結石症の 95 例(男性 56 例 , 女性 39 例 , 平均年齢 64 歳)
につき , 以下の項目を検討した .1)術中所見 : 手術時間 , 出血量 , 開腹移行率 , 術中合併症など ,2)術後経過 : 術
後合併症 , 在院日数など ,3)術後胆管狭窄の有無 , 術前後の胆管径).【結果】1)手術時間は 187 ± 53 分(mean
± SD), 出血量は 29 ± 31g であった . 術中合併症は無く , 開腹移行は 4 例で , うち 3 例は上腹部手術既往によ
る高度癒着症例で ,1 例は高度炎症のため胆嚢十二指腸瘻を形成していた症例であった .2)術後合併症は , 本
法の導入期に胆汁漏を 2 例みとめいずれも腹腔鏡下に再手術を要した . 術後在院日数は 13 日(中央値 , 3∼45
日)であった .3)術後胆道狭窄の症例は無く , 胆管径は術前 7.3 ± 2.5mm で,術後 7.2 ± 2.6mm であり , 術前
後で有意差を認めなかった 【
. 結語】本法は , 腹腔鏡下の精緻な胆管縫合の技術を要する術式であるが ,1 回の
手術で治療が完結できる点,乳頭機能が温存できる点など利点の多い術式であり,胆管径に関わらずに適
応できる有用な術式であると考えられた.
― 58 ―
一般演題 1「胆道」
1-5
細径総胆管症例に対する治療戦略
○田儀 知之、嶌岡 成佳、田畑 智丈、水谷 真、千野 佳秀、佐藤 功、藤村 昌樹、
飯田 稔
第一東和会病院 内視鏡外科センター
総胆管径が太く積み上げ型の結石が多かった総胆管結石症も生活環境の欧米化に伴い、小結石で胆管径の
細い症例が増加している。当院では乳頭筋機能温存を第一に考え、2008 年より腹腔鏡下総胆管切開切石術
(LCBDE)を第一選択としてきた。今回切石の限界と考えられる 6-7mm の細径総胆管症例に対する治療戦
略を 3 つの症例で提示し治療戦略を考察する。1 例目は C-tube を留置するのみで終了し、術後にニトログ
リセリン灌流療法を行ったが排石せず胆管炎を生じ、最終的に EST を行った症例。2 例目は経胆嚢管的に
切石できた症例。3 例目は胆嚢管を縦切開し、切石できた症例である。3 症例を経験した我々の治療方針と
して、切石の限界症例の場合にも LCBDE が可能であることが示唆された。ただし、そのためには困難な
症例に対応できるスキルを普段から高めておく必要がある。また、胆管狭窄などの合併症について長期予
後を観察する必要がある。
― 59 ―
一般演題 2「膵臓」
2-1
当科における腹腔鏡下膵体尾部切除術の検討
○中島 慎吾、生駒 久視、森村 玲、大
英吾
京都府立医科大学 消化器外科
【はじめに】2010 年より膵体尾部に良性・低悪性腫瘍を有する症例に対して、腹腔鏡手術を導入した。当
科における腹腔鏡下膵切除術の周術期成績について検討した。【方法】当科で、2010 年 4 月から 2015 年 3
月までに施行した腹腔鏡下膵体尾部切除術(以下 Lap-DP)17 例、腹腔鏡下脾温存膵尾側切除(以下 LapSPDP)5 例を対象とした。Lap-SPDP の適応は上記に加え脾動静脈温存可能な症例とした。【結果】LapDP・Lap-SPDP の手術時間と出血量の平均はそれぞれ 374min・499min、55g・157g であった。膵瘻は
ISGPFGradeA をそれぞれ 7 例・4 例認めたが、GradeB,C は認めなかった。ドレーンの留置期間はいずれも
平均 5 日(4-8 日)であった。開腹移行症例は認めなかった。2007 年 4 月から 2015 年 3 月の同適応で行った
Open-DP 群 9 例(O 群)と Lap-DP 群 17 例(L 群)で手術時間と出血量について比較したところ L 群のほうが
有意に手術時間は長かった。出血量は少ない傾向にあった。O 群 v.s L 群 :182 v.s374(min)
(p<0.001), 167
v.s54(g)
(p=0.0668)。また、両群ともに GradeB,C の膵液瘻は認めなかった。
【結論】腹腔鏡下膵体尾部切
除術は安全に導入運営することができた。
― 60 ―
一般演題 2「膵臓」
2-2
通常型膵癌に対する単孔式審査腹腔鏡の標準化と有用性
○朝隈 光弘、清水徹之介、井上 善博、廣川 文鋭、林 道廣、内山 和久
大阪医科大学 一般消化器小児外科
【目的】切除可能膵癌と診断され根治手術を目的に開腹しても、微小肝転移や腹膜播種などの潜在的遠隔転
移によりそのまま閉腹する事をしばしば経験する。ガイドラインでは審査腹腔鏡はレベルⅣ a での推奨で
はあるが標準化はされていない、との記載がある。当科では 2012 年より開腹直前の単孔式審査腹腔鏡を導
入し、標準化したので報告する。【方法】2009 年 1 月より、2014 年 12 月まで術前に切除可能通常型膵癌と
診断され、治癒切除目的に手術室に入った 97 例を対象とした。2012 年 1 月以降に開腹直前の単孔式審査腹
腔鏡を導入した 42 例を Lap 群、それ以前の開腹から開始した 55 例を Open 群とし、非切除となった症例の
在院日数、化学療法開始日までを主評価項目とし、有用性を検討した。【成績】Lap 群では 42 例中 6 例(14%)
Open 群では 55 例中 12 例(22%)で何らかの因子で切除不能であった。術後在院日数はそれぞれ 20.1 日± 3.4
vs 5.0 日± 4.8 で化学療法開始日までの日数は 20.0 日± 4.0 vs 33.1 日± 2.8 と有意差を認めた。根治手術は膵
頭十二指腸切除もしくは膵体尾部切除が施行され、審査腹腔鏡を含めた平均手術時間は Lap-PD 508 分±
22.1、Open-PD 473 分± 21.8、Lap-DP 304 分± 39.4、Open-DP 345 分± 31.2 と有意差を認めなかった。
【結論】切除可能通常型膵癌が、開腹後に unresectable となるケースには、術前精査検出限界以下の肝転移、
腹膜播種の他に大動脈周囲リンパ節転移、主要血管周囲浸潤、等が挙げられる。審査腹腔鏡は有用である
はずが、手術時間の延長などの理由で標準化困難だと考えるが、単孔式審査腹腔鏡で H 因子と P 因子の検
索に留めることにしたことで標準化可能であった。本方法を導入しても合計の手術時間に差を認めず、手
術から化学療法開始までの日数は短縮し、有用であると考える。
― 61 ―
一般演題 2「膵臓」
2-3
腹腔鏡下尾側膵切除術を施行した嚢胞成分を伴わない
膵 Solid-pseudopapillary neoplasm の 2 例
○松本 逸平、松本 正孝、村瀬 貴昭、中多 靖幸、亀井 敬子、里井 俊平、石川 原、
中居 卓也、竹山 宜典
近畿大学医学部 外科
【緒言】膵 solid-pseudopapillary neoplasm(SPN)は低悪性度腫瘍で、多くが若年女性に発症し腹腔鏡下尾
側膵切除術(Laparoscopic distal pancreatectomy; LDP)の良い適応である。今回嚢胞成分を伴わない非典
型的な画像所見を呈した SPN に対し、超音波内視鏡下
刺吸引法(EUS-FNA)で術前診断し、LDP を施
行し得た 2 症例を経験したので報告する。【症例 1】37 歳女性、検診の腹部 US で膵に異常を指摘された。腹
部造影 CT にて膵体部に遅延相で造影される 35mm の充実性腫瘤を認めた。
【症例 2】18 歳女性、上腹部痛
を自覚し近医を受診、腹部 US で膵に腫瘤性病変を認めた。腹部造影 CT では膵体部に遅延相で造影される
30mm の充実性腫瘤を認めた。
【結果】いずれの症例も画像所見のみでは開腹下でのリンパ節郭清を伴う膵
切除を要する膵内分泌腫瘍や膵腺房細胞癌などとの鑑別は困難であり、EUS-FNA を施行した。EUS-FNA
では類円形の小型核を有する細胞が散見され、血管を軸にした乳頭状配列を示す小細胞塊が認められ、免
疫組織染色でβ -catenin が核、細胞質に陽性で2例とも SPN と術前診断し得た。1例目は脾臓合併切除を
伴う LDP、2 例目は脾臓温存 LDP(Warshaw 手術)を施行し、経過良好であった。
【結語】膵充実性腫瘍は
多岐にわたり、その治療方針、術式選択決定に鑑別診断は極めて重要である。今回、EUS-FNA は術式選
択に極めて有用で、低侵襲かつ整容性に優れた LDP が可能であった。
― 62 ―
一般演題 3「胃①」
3-1
腹膜炎術後に腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行しえた 1 例
○山下公太郎、宮崎 安弘、牧野 知紀、高橋 剛、黒川 幸典、山崎 誠、中島 清一、
瀧口 修司、森 正樹、土岐祐一郎
大阪大学大学院医学系研究科 消化器外科学
腹部手術歴があれば腹腔鏡下手術の適応は慎重に検討すべきだが、腹壁癒着剥離等には腹腔鏡下手術が強
みを発揮することも少なくない。我々は腹膜炎術後症例に対し腹腔鏡下幽門側胃切除術(LDG)を安全に
実施しえたので報告する。症例は 64 歳男性。S 状結腸癌術後縫合不全に対し開腹ドレナージ、人工肛門増設、
閉鎖の 2 年半後、内視鏡検査にて早期胃癌(体下部大弯後壁 :0- Ⅱ c;cT1bN0M0StageⅠA,tub1)と診断した。
上中下腹部正中切開創及び臍左頭側に人工肛門閉鎖創を認めるが CT 画像にて右上腹部には腹壁癒着は疑
われず、第一ポート挿入は可能と考えた。open method にてアプローチすると同部位には癒着を認めず、
バルーンタイプ 12mm ポートを留置、10mmHg で気腹し腹腔内を観察した。正中創直下に小腸、結腸、大
網の癒着を認めたが、右側腹部には 5mm ポート 2 本を留置可能であり、腹壁癒着の剥離を進めた。適切な
剥離層の保持により気腹下腹壁癒着剥離は比較的容易かつ安全であり、骨盤腔を除く全ての腹壁癒着を内
視鏡下に剥離することができた。上腹部に手術操作や炎症は及んでおらず、癒着解除後には通常通り LDG
を施行しえた。手術時間 :294 分、出血量 :35g。術後合併症なく退院。第一ポートを安全かつ適切に挿入で
きれば、腹部手術歴があっても腹腔鏡下手術が選択肢となりうると考えている。
― 63 ―
一般演題 3「胃①」
3-2
ハイリスク肥満症例における胃癌に対する HALS 胃全摘術
○石川 彰、
口 一郎、秋山 洋介、谷川 隆彦、蓮池 康徳
医療法人医誠会医誠会病院 消化器外科
【はじめに】ハイリスク肥満症例における胃癌に対して、手術侵襲軽減のため、用手補助腹腔鏡下胃全摘術
(以下 HALS-TG)を施行したので報告する。
【症例】71 歳の女性(BMI30)で胸痛を主訴に当院へ救急搬送
された。精査にて手術適応の大動脈弁閉鎖不全症を認めるとともに、胃体上部の進行胃癌を認めた。腫瘍
による通過障害、貧血も認めることから、脳伷塞、狭心症、糖尿病、慢性腎不全等の既往もあり、ハイリ
スク肥満症例ではあったが、手術を計画した。【手術】5 ポートおよび上腹部正中に 6cm の小切開をおき、
HALS とした。通常当院ではエネルギーデバイスは超音波凝固切開装置(以下 LCS)のみで行っているが、
本症例では主に Maryland 型 LigaSureTM を使用し、郭清は通常より手控えた D2(-No.10)とした。食道空
腸吻合は完全鏡視下にサーキュラーステープラーを使用し、Roux-en Y 再建とした。【考察】手術侵襲軽減
のため腹腔鏡下手術を選択したが、内臓脂肪のため術野展開には難渋することが予想され、HALS とした。
Maryland 型 LigaSureTM の先端は適度に弯曲しており、刃渡りも長く、層の大きな剥離に適しており、大
網や胃脾間膜の処理にも有用である。また先端のキャビテーションがないため、安全に HALS を行うこと
ができる。その一方で先端の形状は LCS と比較して大きく、
膜一枚の切離や、繊細な剥離には適しておらず、
郭清の際には適宜剥離鉗子や LCS へ持ち替える必要がある。ただ本症例のような内臓脂肪が多く、郭清も
手控える方針であれば、ある程度術中通して頻用可能と考えられた。再建は腹腔内の術野スペースが極端
に狭かったため、完全鏡視下に食道空腸吻合を行った。当院では食道断端にかがり縫いを行い、アンビル
を留置して、サーキュラーステープラーによる端側吻合を標準としている。【結語】ハイリスク肥満症例に
対して、術式やデバイスの選択を工夫し、HALS-TG を行った。
― 64 ―
一般演題 3「胃①」
3-3
幽門狭窄に対する鏡視下胃空腸バイパス術の妥当性
○尾島 敏康、中森 幹人、中村 公紀、勝田 将裕、早田 啓治、松村 修一、加藤 智也、
北谷 純也、川井 学、山上 裕機
和歌山県立医科大学 外科学第 2 講座
【緒言】胃癌膵癌にともなう幽門狭窄に対する腹腔鏡下胃空腸バイパス術は現在多くの施設で行われている
が,小開腹手術に対する有用性は明らかではない.今回,私達は当施設における鏡視下手術手技を供覧す
るとともに,その成績につき述べる.【手術手技】2012 年までは 7cm の小開腹による胃空腸バイパス術(順
蠕動手縫いもしくは 3 列リニアステープル惻々吻合,ブラウン吻合付加)を基本としていたが,13 年以後
は腹腔鏡下に胃空腸吻合(3 列リニアステープル 60mm による惻々吻合 ブラウン吻合付加なし)を施行し
てきた.輸出脚の狭窄を防ぐため,逆蠕動方向での胃空腸吻合を行い,ステープル挿入孔は 3-0 ブイロッ
クによる鏡視下手縫い閉鎖を原則とした.
【結果】小開腹手術 45 例 腹腔鏡手術 14 例で手術関連因子を比
較検討すると,手術時間(小開腹:95 分 腹腔鏡:110 分)出血量(ともに少量)は差はなく,経口水分再
開時期(ともに POD1)にも差は認めなかった.縫合不全は両群認めなかった.胃排泄遅延を小開腹に 5 例
(腹腔鏡はなし)
,腹腔鏡手術の 1 例に輸入脚症候群(開腹はなし)を認めたが有意差はなかった.
【結語】
腹腔鏡バイパス術の小開腹手術における妥当性は検証された.腹腔鏡手術では腹腔内の微細な観察による
ステージングが可能であり,その点では有用である.
― 65 ―
一般演題 3「胃①」
3-4
Siewert type Ⅱ 食道胃接合部癌に対する腹腔鏡下噴門側胃切除後 Double Tract 再建
○新野 直樹、瀧口 修司、宮崎 安弘、牧野 知紀、高橋 剛、黒川 幸典、山崎 誠、
中島 清一、森 正樹、土岐祐一郎
大阪大学大学院医学系研究科 外科学講座消化器外科学
【背景・目的】Siewert type Ⅱ食道胃接合部癌に対しては、#4d, #5, #6 リンパ節への転移頻度が低いことか
ら、噴門側胃切除術(PG)を選択する施設が増えてきている。一方で、PG 術後の再建方法については、最
適と言われる方法の確立には至っていない。我々は、接合部癌に対する PG 術後に Double tract 再建を採
用し、同手技を腹腔鏡下に応用した。そこで今回は、その技術的詳細と短・中期成績を報告する。
【方法】手術手技は以下の通りである。腹腔鏡下に胃の授動、胃周囲リンパ節の郭清を行った後、下縦隔の
視野を広げるため、左横隔膜を Linear stapler にて切開する。食道横隔靭帯を切離し、食道傍リンパ節の
郭清を行った後、腫瘍より十分口側で食道を切離し、標本を摘出する。食道断端にはかがり縫いを行った後、
アンビルを留置し、食道空腸吻合は 25mm の circular stapler にて行う。その後、食道空腸吻合より 15cm、
35cm 肛門側でそれぞれ Linear stapler を用いて側々に残胃空腸吻合、空腸空腸吻合を行い、再建を完了す
る。
【結果】2012 年 1 月から 2014 年 7 月に、同方法を用いた腹腔鏡下噴門側胃切除 + 経裂孔的下部食道切除、
Double tract 再建術を 8 人に施行。手術時間中央値は 408 分(263-750 分)、出血量は 288ml(80-500ml)であっ
た。術後 1 例に Clavien-Dindo Grade3 の縫合不全を認めたが、その他重篤な合併症はなく、術後在院日数
中央値は 22 日(17-71 日)であった。また、術後 1 年時点での内視鏡検査では、逆流性食道炎を 1 例も認め
なかった。
【まとめ】本術式は、Siewert type Ⅱ食道胃接合部癌に対して安全に施行可能で、術後の逆流予防に有用で
あった。
― 66 ―
一般演題 3「胃①」
3-5
患者右側から行う、筋膜の層構造を意識した腹腔鏡下幽門側胃切除
No.6 リンパ節郭清手技
○川田 洋憲、金谷誠一郎、三浦 晋、奥村慎太郎、下池 典広、赤川 進、有本 明
大阪赤十字病院 外科
【目的】胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術において、No.6 リンパ節郭清は根治性を高める上で重要なポイント
である。しかしながら、この部位では筋膜の層構造が複雑で、認識を誤ると膵液瘻等の合併症につながる。
膵前面には郭清対象の胃・十二指腸球部由来の組織と、郭清対象外の膵・十二指腸下行脚由来の組織が隣
接しており、郭清組織に適切な牽引を行うことでそれらの境界を認識することが可能となる。当科で行っ
ている、患者右側から行う No.6 リンパ節郭清手技を供覧し、結果を報告する。
【方法】術者が患者右側に立ったまま大網の切離を右側に延長し、横行結腸間膜を落とすように胃十二指腸
間膜との癒着を剝離し、右胃大網静脈を根部で切離。前上膵十二指腸静脈を温存するラインで間膜に切開
を加え No.6 郭清の下縁とする。郭清すべき組織を術者の左手の鉗子で牽引することで胃・十二指腸球部へ
続く組織と背側の膵・十二指腸下行脚の組織の間に疎な結合織でできた剝離層が形成され、この層を維持
しながら剝離を頭側へ続けることで膵・十二指腸下行脚へ向かう脈管組織は温存される。右胃大網動脈が
露出される高さでは、十二指腸球部へ向かう間膜を切離し、十二指腸壁を露出し続いて十二指腸球部下縁
をトリミングして郭清操作を終える。
【結果】2011 年 4 月から 2015 年 4 月までに 299 例にリンパ節郭清を伴う腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した。
Clavien-Dindo 分類 Grade Ⅱ以上の膵関連合併症は 8 例(2.6%)であった。
【結論】当科で行っている患者右側から行う No.6 リンパ節郭清手技を紹介した。郭清組織を適切に牽引する
ことで過不足なく安全に No.6 リンパ節郭清を行うことが可能となる。
― 67 ―
一般演題 4「胃②」
4-1
腹腔鏡補助下胃切除後のドレーンアミラーゼ測定の意義
○田中 浩明、六車 一哉、豊川 貴弘、櫻井 克宣、田村 達郎、久保 尚士、大平 雅一、
平川 弘聖
大阪市立大学大学院 腫瘍外科学
【背景】現在でも腹腔鏡下胃切除(LDG)後に膵液瘻や縫合不全を生じる可能性があり、治療にはドレーン
管理が重要である。術後ドレーンアミラーゼ(d-Amy)値は、術後管理の参考にされているがその意義は
明らかでない【目的】LDG における術後合併症と d-Amy 値との関連について検討し、d-Amy 値の測定の意
義について考察した。
【対象】2008 年より 2013 年までに当科で LDG を行った 248 例【結果】幽門側胃切除が
224 例、胃全摘が 24 例。Clavien Dindo 分類Ⅲ以上の術後合併症は 24 例に生じ、膵液瘻 12 例、縫合不全 9 例、
腹腔内膿瘍 3 例、肺炎 3 例であった。D0 郭清が 2 例、D1+223 例、D2 は 23 例。d-Amy 中央値は、術後 1 日
目が 659IU/L、術後 3 日目は、251 IU/L であった。術後 CD 分類Ⅲ以上の合併症 24 例の d-AMY 中央値は、
術後 1 日目 1197 IU/L、術後 3 日目は 725 IU/Ll であったのに対し、合併症を認めなかった症例は、術後 1
日目で 640 IU/L、3 日目で 238IU/L であった。d-AMY 値は、合併症発生例において術後1日目、3日目共
に有意に上昇しており、独立した予測因子であった。d-Amy 値と術後の WBC、CRP 値との相関は認めなかっ
た。膵液瘻は、術後 3 日目の d-Amy 値と相関していたが、縫合不全との有意な関連は認めなかった。【結語】
d-Amy 値は、CD Ⅲ以上の膵液瘻の発生と関連しており、術後ドレーン管理に有用であると考えられた。
― 68 ―
一般演題 4「胃②」
4-2
腹腔鏡下幽門側胃切除を施行した患者の術前栄養が短期成績に与える影響に関する検討
○櫻井 克宣、田村 達郎、豊川 貴弘、久保 尚士、田中 浩明、六車 一哉、
大平 雅一、
平川 弘聖
大阪市立大学 腫瘍外科
【目的】今回の研究の目的は小野寺栄養指数 PNI を用いて術前栄養を評価し、腹腔鏡胃切除術の短期成績に
与える影響を検討することである。
【方法】2007 年から 2012 年に当科で腹腔鏡下幽門側胃切除を施行した患者のうち、術前栄養検査が施行さ
れた 173 例。小野寺指数 PNI を用いて術前栄養状態を評価し、PNI ≦ 45:L 群 29 例と PNI>45:H 群 144 例にわ
けて周術期成績を比較検討した。ClavienDindo 分類 Grade2 以上を合併症とした。
【結果】平均年齢は L 群 73.4 歳で H 群 64.5 歳よりも有意に高齢であった。BMI は L 群 22.1、H 群 22.3 でいず
れも有意差は認めなかった。T 因子(1/2/3/4)は L 群 21/8/0/0、H 群 128/6/5/5 であり、N 因子(N − /+)
は L 群 0/29、H 群 128/16 であった。pStage(1/2/3)は 29/0/0、129/10/5 であった。手術時間、出血量、術
後在院日数は両群で有意差を認めなかった。合併症は L 群 8 例(28%)が H 群 27 例(19%)より多い傾向を
認めたが有意差はなかった。腹腔内感染性合併症は L 群 2 例(7%)、H 群 16 例(11%)で有意差は認めなかっ
たが、術野外合併症は L 群 4 例(14%)、H 群 5 例(3%)で有意に L 群で多かった。
【まとめ】低 PNI 患者に対する LADG は重篤な合併症はなく安全に施行可能と思われる。低 PNI 患者は全身
状態を把握した術後管理が重要である。
― 69 ―
一般演題 4「胃②」
4-3
腹腔鏡下噴門側胃切除ダブルトラクト再建術における術後 1 年目の
栄養学的変化・消化管動態の検討
○柳本 喜智、瀧口 修司、宮崎 安弘、高橋 剛、黒川 幸典、牧野 知紀、山崎 誠、
中島 清一、森 正樹、土岐祐一郎
大阪大学大学院 消化器外科
【背景】上部胃癌に対する術式として胃全摘とするか噴門側胃切除とするかは未だ定まっていないが、当科
では機能温存・栄養学的側面から噴門側胃切除術を施行している。また、逆流性食道炎防止の面や腹腔鏡
下手術の導入の面から、2011 年からは再建をダブルトラクト再建術(LAPG-DT)を行っている。【方法】上
部胃癌に対して施行された LAPG-DT(22 例)と腹腔鏡下胃全摘術(LATG:140 例)について、患者背景・
手術短期成績を比較検討した。また、術後 1 年以上フォローされた症例 LAPG-DT(14 例)
、LATG(111 例)
について、体重・栄養学的変化、消化器症状・内視鏡的逆流性食道炎の有無について比較検討した。さら
に、LAPG(5 例)において、胃排泄シンチを行い、LAPG の術後機能について評価した。【結果】患者背景・
手術短期成績は、性別 : 男 / 女 =18/4 vs 99/41 例、年齢 :66(36-80)vs 65(29-88)歳、病期 : Ⅰ / Ⅱ / Ⅲ / Ⅳ :
16/4/2/0 vs 105/15/15/5、 出 血 量 :125(20-500)vs 120(20-2790)g、 手 術 時 間 :306(203-635)vs253(120365)分で両群に差は認めず、術後合併症にも差はなかった。術後 1 年目における消化器症状・逆流性食道
炎は差を認めなかったが、栄養学的な変化率は体重 :88.4(71.2-102.0)vs 84.6(65.0-105.2)%、Hb:92.9(84.0128.4)vs 91.6(78.3-173.1)%、PNI:99.1(84.6-140.2)vs 99.9(79.3-146.8)% であった。胃排泄シンチでは残胃
に固体が 49.2(1.4-77.1)%、液体が 23.3(0.9-67.7)% 流入していた。
【結語】LAPG-DT の短期・中期成績と
術後の消化管機能について報告した。LAPG は残胃へ食物が良好に流入しており、体重減少の面において、
LATG よりも栄養学的に優れている可能性が示唆された。今後さらなる症例の集積を行いたい。
― 70 ―
一般演題 4「胃②」
4-4
完全腹腔鏡下幽門側胃切除術後の再建別 QOL 評価(Billroth I 法 vs Roux-en Y 法)
○田代圭太郎、李 相雄、河合 英、革島 悟史、田中 亮、内山 和久
大阪医科大学 一般・消化器外科
【目的】当施設では M、L 領域の早期胃癌に対する標準術式として完全腹腔鏡下幽門側胃切除術(D1+ リン
パ節郭清)を施行しているが、再建方法は残胃の大きさにより Billroth I(B-I)法と Roux-en Y(R-Y)法を
選択している。しかし術後、残胃炎や逆流性食道炎を来たす患者も少なくなく今日まで再建方法別に評価
はされていない。今回、早期胃癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行された症例を B-I 群と R-Y 群に
分類し、約1年後の上部消化管内視鏡所見や患者状態を評価した結果を報告する。【方法】2007 年より 2011
年まで施行した腹腔鏡下幽門側胃切除のうち術後約1年目に評価可能であった 170 症例を B-I 群と R-Y 群に
分類し内視鏡所見での逆流性食道炎や食道裂孔ヘルニア、残胃炎、残渣貯留の程度および術後体重変化、
食事摂取量変化の各項目につき評価した。
【結果】手術時間は R-Y 群で有意に長かった。内視鏡所見では胆
汁逆流、残胃炎および残渣貯留の程度は R-Y 群と比較し B-I 群で有意に高かった(p<0.01)。逆流性食道炎
や食道裂孔ヘルニアの程度は両群で有意差はなく、体重や食事摂取量の変化も有意差は認めなかった。【結
論】残胃炎の程度と食事量や栄養状態は相関しなかった。術後 QOL は両群間に差はなく、再建法は残胃の
大きさや術前の逆流性食道炎の有無により選択されるべきと考えられた。
― 71 ―
一般演題 4「胃②」
4-5
当科での胃体上部癌における腹腔鏡補助下噴門側胃切除と腹腔鏡補助下胃全摘術の
比較検討
○安田 篤、今本 治彦、岩間 密、白石 治、新海 政幸、今野 元博、古河 洋、
安田 卓司、奥野 清隆
近畿大学医学部 外科
<はじめに>
胃上部早期癌に対し噴門側胃切除は広く施行されているが、逆流防止機構の破綻や小胃症状の問題があり、
術後 QOL を大きく損なう症例も経験することから胃全摘を選択することも少なくない。当科ではこの対策
として残胃の胃管様作成と食道裂孔挿入を付加した食道残胃吻合を行っており、良好な結果を得ている。
今回、当科での腹腔鏡補助下噴門側胃切除(PG)と胃全摘(TG)を合併症、術後 QOL の点で検討した。
<対象> 2006 年から 2013 年までの腹腔鏡補助下 PG30 例と腹腔鏡補助下 TG36 例。
<検討項目>術後合併症、術後 QOL(逆流性食道炎、体重、皮下脂肪(SFA)、内臓脂肪(VFA)。
<結果>術後合併症発生率:PG 6.7%(SSI 2 例)
、TG 16.7%(縫合不全 2 例、膵液ろう 1 例、腹腔内膿瘍 1
例、術後出血 2 例)
、p=0.2152。逆流性食道炎(LA 分類 :gradeNM/grade A/grade B/grade CD)は PG24/
4/0/2(例)
、TG 33/1/2/0(例)
、p=0.3981。
術前、術後 1 年目、術後 3 年目の各項目の%変化率(平均値)は
体重:PG 100 → 93.7 → 92.1、TG:100 → 86.7 → 85.1、P=0.3034。
SFA:PG :100 → 55.6 → 60.8、TG :100 → 48.6 → 51.0、p=0.4620 。
VFA:PG :100 → 57.6 → 57.6、TG :100 → 38.2 → 33.9、p=0.1512
<考察>症例数と観察期間が少なく、有意差を得るまでには至らなかったが、PG は合併症発生率が低く、
流性食道炎の発生も認容範囲であった。また、体重、VFA、SFA、大腰筋面積の減少も少なく、残胃を残
す有利性はあると考える。
<まとめ>噴門部早期胃癌に対する当科での PG は合併症、術後 QOL、膵機能の面で有利と考える。
― 72 ―
一般演題 4「胃②」
4-6
柿胃石による腸閉塞、腸
孔に対して腹腔鏡補助下に手術を施行した1例
○大根田康雄、竹野 淳、村上 剛平、大村 仁昭、賀川 義規、沖代 格次、
柄川千代美、武田 裕、加藤 健志、田村 茂行
関西労災病院 消化器外科
嵌頓胃石による腸閉塞および腸
腸
孔は比較的稀な疾患である。我々は、柿胃石の嵌頓による腸閉塞および
孔を発症した症例に対して腹腔鏡下手術を施行したので過去の文献考察を加えて報告する。症例は 70
歳台の女性で、約 1ヶ月前に干し柿を大量に摂取後から上腹部不快感が出現したため近医を受診した。上
部消化管内視鏡検査にて 5cm 大、3cm 大の胃石を認めたため、当院消化器内科を紹介受診された。コー
ラを摂取の上、砕石を試みたが不十分であった。4 日後に腹痛、嘔吐を認め再度外来を受診された。血液
検査にて炎症高値、脱水を認めた。腹部 CT 検査にて小腸内に air を含む便様の残渣を認め同部位より口
側の腸管が拡張を認めた。胃石性イレウスの疑いで当科に紹介となり、準緊急で手術を施行した。回盲部
から約 50cm 口側の腸管に
を起こして
孔部位を認めたため小腸部分切除術を施行した。胃石の嵌頓により血流障害
孔をきたしたと推測された。続いて胃体部を切開して胃内を観察すると、5cm × 5cm、4cm
× 4cm の胃石を2個認めた。胃石を回収後、胃の切開部は全層縫合で仮閉鎖し、支持糸を吊り上げて切開
部を自動縫合器で縫合閉鎖した。最後に胆嚢結石症に対して胆嚢摘出術を施行し、手術終了とした。術後
CT 検査にて遺残結石なきことを確認した。術後には麻痺性イレウスを併発したが、保存的に軽快し、術
後第 18 病日に退院となった。本術式は比較的容易で安全に施行することができるため、外科的治療対象と
なる胃石摘出症例に対して選択しうる術式と考えられる。
一般演題 5「肝①」
5-1
腹腔鏡下肝切除術定型化に向けた当科の取り組み
○速水 晋也、上野 昌樹、重河 嘉靖、宮本 篤、川井 学、廣野 誠子、岡田 健一、
宮澤 基樹、清水 敦史、山上 裕機
和歌山県立医科大学 外科学第 2 講座
【目的】腹腔鏡下肝切除は全世界において普及が進んでおり、当科でも 2008 年より腹腔鏡下肝切除を導入後、
108 例の症例を重ねてきた。現在当科では腹腔鏡下肝部分切除術の定型化に向けて、さまざまな術式改良
の取り組みを行っており、今回その工夫について報告する。【方法】腹腔鏡下肝切除導入後 108 例中、疾患
内訳は肝細胞癌 66 例・転移性肝癌 38 例・良性疾患 3 例・肝内胆管癌 1 例であった。左尾状葉切除 5 例・S2
切除 14 例・S3 切除 21 例・S4 切除 17 例・S5 切除 14 例・S4a+5 切除 2 例・S6 切除 21 例・S7 切除 8 例・S8 切
除 14 例・外側区域切除 13 例および S8+7 切除 2 例であった。44 例は手術既往のある再手術症例であった。
【結
果】中央値(範囲)は年齢:71(38-86)歳、手術時間:254(60-701)分、出血量:70(5-1950)ml であった。
体位は左側肝切除(S1-4)に対しては開脚位、右側肝切除(S5-8)に対しては左半側臥位を用いている。不
意の出血に備え、可及的に肝十二指腸間膜に taping を行い、離断面の出血が多い際は Pringle 法を使用する。
実質切離の視野展開としては切除側を支持糸で牽引、残肝側は Securea®(Hogi medical)を用いて圧排し
ている。切除終盤には血管テープを用いた hanging maneuver も追加する。右肝切除の際は肋間ポートも
使用し、実質切離に用いる。8 例の術後合併症を認め(7.4%)、術後在院日数は 8(4-20)日であった。【結論】
本邦では腹腔鏡下肝切除は部分切除と外側区域切除のみが保険収載されている現状である。これらの術式
に対し技術向上を行い、定型化していくことが重要であると考え、brush up を図っていく。
― 73 ―
一般演題 5「肝①」
5-2
当科における腹腔鏡下肝部分切除の現状
○瀬尾 智、波多野悦朗、池野 嘉信、田浦康二朗、安近健太郎、岡島 英明、海道 利実、
上本 伸二
京都大学 肝胆膵・移植外科
【はじめに】当科では腹腔鏡下肝部分切除(LPH)をくりぬき切除、切り落とし切除、亜区域未満の系統切
除(系統切除)の三亜型に分類し、個々の手術手技を定型化している。また、2007 年から Child-Pugh(C-P)
分類 B にも適応拡大している。
【目的】
三亜型分類の意義および肝予備能不良症例に対する成績を検証する。
【方法】①単発病変に対する LPH57 例において三亜型の臨床因子を比較した。② 2007 年以降の LPH 97 例を
対象とし、C-P 分類別に、臨床因子を検討した。posthepatectomy liver failure(PHLF)との関連をχ 2 検
定にて検討した。【結果】①くりぬき切除 34 例、切り落とし切除 19 例、系統切除 4 例で背景因子・術後在
院日数に有意差を認めなかった。系統切除は、平均手術時間 281,354,416 分と有意に長い(p=0.02)が、平
均出血量は、224.1,537.2.77.5ml と少ない傾向を認めた。切り落とし切除は、平均腫瘍径が 17.4, 32.7, 19mm
と有意に大きく(p>0.001)、切除肝重量も 19.3, 108, 61.3g と有意に大きかった(p>0.001)。S7/S8 病変の 6
例はすべてくりぬき切除であった。② C-P 分類 A:83 例、C-P 分類 B:14 例であった。平均年齢(歳)は C-P 分
類 A:64 ± 1.4、C-P 分類 B:64.8 ± 3.4 で有意差を認めず(p=0.83)、平均腫瘍径(mm)・平均手術時間(分)・
術後在院日数も、23 ± 1.5 : 23 ± 1.7(p=0.92)、282.1 ± 14.2 : 309.6 ± 34.5(p=0.46)
、12.1 ± 0.6 : 11.7 ± 1.4
と有意差を認めなかった(p=0.81)。平均出血量(ml)は、230.8 ± 77.2 : 803.1 ± 186.8 と有意差を認めた
(p=0.005)
。PHLF は 12 例(12.4%, A:4 例、B:8 例)に認めたが、Grade A において C-P 分類 A:3 例、C-P 分類 B:1
例、Grade B において C-P 分類 A:2 例、C-P 分類 B:6 例と有意差は認めなかった(p=0.09)。【結論】腫瘍の局
在や径に応じた三亜型は意義があり、肝機能不良例に対しては出血対策に重点を置いた手技の標準化が必
要であると考える。
― 74 ―
一般演題 5「肝①」
5-3
腹腔鏡下再肝切除の有用性
○森村 玲、生駒 久視、中島 慎吾、小松 周平、市川 大輔、大
英吾
京都府立医科大学 消化器外科
【はじめに】肝細胞癌に対する再肝切除の有用性が報告されている。また腹腔鏡下肝切除が普及しつつあり、
当科でも再発肝癌に対して腹腔鏡下再肝切除を施行している。【方法】2012 年 5 月から 2015 年 5 月まで、当
科で施行した肝細胞癌に対する腹腔鏡下肝切除 54 例中、再肝切除症例は 8 例であった。初発腹腔鏡下肝切
症例 46 例との比較検討を行った。【結果】術前の検査所見、腫瘍の局在は両群とも差を認めなかった。腫
瘍径は再肝切群で平均 16.8mm、初発群で 26.7mm と再肝切除群で小さい傾向を認めた(p=0.023)。手術時
間は再肝切除群で平均 401 分、初発群で 467 分(p=0.462)と差を認めず、出血量は再肝切除群で平均 67g、
初発群で 378g(p=0.101)と少ない傾向を認めた。合併症発生率も差がなかった。
【症例提示】67 歳の女性。
肝 S8 の肝細胞癌に対して開腹肝 S8 部分切除を施行した。術後 1 年半後肝 S5 に 1cm 大の再発を認め、腹腔
鏡下肝部分切除を施行した。さらにその術後 10 か月後に肝 S8 横隔膜直下に 1cm 大の再発を認め、腹腔鏡
下肝部分切除を施行した。いずれも術後合併症なく 10 日程度で退院となった。
【結語】再切除例の癒着は、
気腹と拡大視野効果による良好な視野で安全に剥離可能で、再肝切除症例においても症例を選べば腹腔鏡
下肝切除は選択肢の1つになりうると考えられた。
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一般演題 5「肝①」
5-4
尾状葉肝癌に対する腹腔鏡下肝切除術
○浦田 順久 1)、金沢 景繁 1)、清水 貞利 1)、村田 哲洋 1)、野沢 彰紀 1)、田内 潤 1)、
塚本 忠司 2)、森本 純也 3)、山下 好人 3)、西口 幸雄 3)
1)
大阪市立総合医療センター 肝胆膵外科、2)大阪市立十三市民病院 外科、
3)
大阪市立総合医療センター 消化器外科
【はじめに】尾状葉の肝癌に対し , 開腹下肝切除術を施行する場合 , 視野の確保のため大きな皮膚切開や肝
授動操作が必要である . 一方 , 同部に対する腹腔鏡下肝切除術は拡大視効果といわゆる caudal approach に
より良好な視野で肝切除を施行でき , 特に肝硬変症例においては , 視野の展開や側副血行温存の点からも有
用である可能性がある . 今回我々は , 当院における尾状葉肝癌に対する腹腔鏡下肝切除術の手術手技を供覧
し,その有用性について報告する .
【手術手技】非肝硬変症例では , 外側区域の授動と左肝静脈背側を十分に展開することにより左側尾状葉の
良好な術野が得られる . また肝硬変併存例においても出来るだけ側副血行を温存して,拡大視のもとに肝
切除を施行するが,CVP や気腹圧等に十分配慮して行う必要がある .
【手術成績】当院で施行した尾状葉肝癌に対する腹腔鏡下肝切除は 17 例で , 肝細胞癌が 14 例 , 転移性肝癌が
3 例であり,術式は 15 例が部分切除で , 再肝切除症例も 4 例であった.17 例中 , 慢性腎不全の1例において
IVC からの出血のため開腹移行となったが,全例軽快退院した.単発 3cm 以下の尾状葉肝細胞癌に対する
腹腔鏡下肝切除 5 例の手術成績を,当院での同様の条件の開腹下肝切除 6 例と比較したところ,両群間の
患者背景,術前肝予備能に差は認められず,腫瘍径は開腹例で有意に大きかったものの , 手術時間 , 出血量 ,
輸血の有無 , 術後在院日数とも腹腔鏡下肝切除の成績が有意に良好であった(p<0.05).
【結論】尾状葉の肝癌に対する腹腔鏡下肝切除は , その利点が最大限に発揮されうる術式であり,側腹血行
温存の観点からも極めて有用であると考えられるが,CVP のコントロールが困難な症例においては,慎重
な対応が必要と考えられた.
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一般演題 5「肝①」
5-5
胸腔鏡補助下横隔膜経由肝切除の適応とその有用性
○中島 隆善、生田 真一、相原 司、柳 秀憲、山中 若樹
明和病院 外科
【背景・目的】胸腔鏡下肝切除は肝腫瘍の局在部位(特に横隔膜ドーム直下の肝腫瘍)、あるいは肝硬変や
腹部手術既往例などの患者因子によっては有用な術式と考えられる。今回、当科で経験した胸腔鏡補助下
横隔膜経由肝切除の手技を供覧しその適応と有用性について考察した。
【対象・方法】対象は 2013 年 5 月か
ら 2015 年 2 月の間に胸腔鏡補助下肝部分切除を施行した肝細胞癌 4 例。男/女= 3/1 例、平均年齢 72(54
∼80)歳、平均腫瘍径 2.9(2.6∼3.1)cm、背景肝 HCV / NASH = 2/2 例、Child-Pugh score 5/6 点 =3/1 例。
2 例は開腹肝切除の既往があった。腫瘍深部の safety margin 確保と肝離断中の出血を軽減する目的で、あ
らかじめ Cool-tip 針で経皮的に腫瘍尾側近傍を焼
。左側臥位とし、術前 3D シミュレーション画像を参考
にカメラポートとワーキングポート(2 本)を挿入、鏡視下 US で腫瘍位置を確認し最も腫瘍に近い肋間に
3∼4cm の小開胸を追加した。横隔膜を腫瘍直上で切開し肝表面を露出、超音波切開凝固装置、CUSA を
用いて肝切除を行った。横隔膜を縫合閉鎖し、胸腔ドレーンを留置した。
【結果】手術時間平均 228(188∼
300)分、出血量 310(5∼450)ml。1 例は胸腔内に広汎な癒着を認めたため、小開胸創を約 10cm まで延長
し直視下に切除した。術後合併症はポート創感染が 1 例で、後出血や胆汁漏、横隔膜下膿瘍などはみられ
なかった。術後在院日数は 15(11∼19)日であった。
【考察】肝硬変や腹部手術既往例で腹腔鏡下手術では
肝周囲剥離や肝授動が困難と予想される症例や、ドーム直下の肝腫瘍で腫瘍への到達距離が短い症例など
では胸腔鏡下手術が有用と考えられた。
【結語】本法はドーム直下の肝腫瘍に対し有用なアプローチ法と考
えられた。
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一般演題 6「肝②」
6-1
腹腔鏡下肝切除術における肝管巻き込み防止のための術前 ENBD 留置
○中平 伸、井上 雅史、伊禮 俊充、澤田 元太、山下 晋也、文 正浩、清水 洋祐、
富永 春海、畑中 信良
国立病院機構呉医療センター・中国がんセンター 外科
【はじめに】デバイスと技術の進歩により肝切除術が腹腔鏡下に可能となり、その低侵襲性より普及し肝葉
切除にも適応が広がっている。肝右葉切除術で右 Glisson 一括処理を行う場合、左肝管巻き込みが危惧され
る。確認のためには術中胆道造影が必要となるが、再手術症例などでは困難な場合がある。【方法】2014 年
7 月から 10 月に 19 例の完全腹腔鏡下肝切除術を施行した。肝右葉切除は 6 例であったが、前後区域 Glisson
分岐に接する大きな肝転移を有する 2 症例に術前 ENBD 留置を行った。
【結果】症例 1 は 51 歳、女性。6 年
前に直腸癌に対して直腸前方切除術を施行したが、肝転移再発をきたし化学療法にて加療を行っていた。
化学療法が継続困難となり、肝切除を考慮することとなった。多発肝転移のため手術は二期に分けて行い、
一期目は腹腔鏡下左尾状葉切除、胆嚢摘出、左右肝離断および右門脈結紮術、二期目は腹腔鏡下肝右葉切
除を行った。肝右葉 45mm 大の腫瘍は前後区域 Glisson 分岐部を圧排していた。胆嚢摘出後で術中胆道造影
困難にて術前に ENBD を留置した。予想通り右 Glisson の処理は左右分岐部から十分な距離が確保できず、
術中胆道造影補助下に切離を行った。経過良好にて術後 12 日目に退院した。症例 2 は 64 歳女性。3 年前に
十二指腸 GIST に対して膵頭十二指腸切除術を施行した。術後 2 年目に肝転移再発をきたし分子標的薬投与
を行ったが、腫瘍は増大傾向で手術の方針となった。多発肝転移は右葉のみに存在したが、最大の腫瘍は
径 110mm と巨大であった。胆管空腸吻合施行後で、術中胆道造影困難にて術前に小腸ファイバーを使用
して ENBD を留置した。術中は右 Glisson の処理に余裕があったため、胆道造影は行わなかった。経過良
好にて術後 15 日目に退院した。【結論】術前 ENBD 留置することにより安全に腹腔鏡下肝右葉切除を施行
できた。
― 78 ―
一般演題 6「肝②」
6-2
バイポーラソフトを用いた圧挫式による腹腔鏡下肝切除術
○浅岡 忠史、後藤 邦仁、和田 浩志、野田 剛広、山田 大作、小川 久貴、川本 弘一、
江口 英利、土岐祐一郎、森 正樹
大阪大学大学院 消化器外科
背景:近年における多くのエネルギーデバイスの進歩は、術中の個々の場面に応じたデバイス選択によ
り、腹腔鏡下肝切除をより安全で確実な手技として確立しつつある。一方で、その肝切除法は施設ごとに
多様化するほか、デバイス導入による医療コストの増大が懸念され、今後は定型化とともに、コスト削減
や簡素化に向けた取り組みも重要と考える。
目的・方法:今回、2015 年 4 月までに当科にて施行した 182 例の腹腔鏡下肝切除術のうち、Hybrid およ
び同時切除症例を省く完全腹腔鏡下肝切除術 73 例を対象として、術中出血(20 m 1 以上)のリスク因子に
ついてロジスティツク解析を用いて検討した。
結果:全 73 例における、年齢は 69(40-86)歳、女性 / 男性:25/48 例。術式は部分切除が 67 例(92%)で、
外側区域切除が 6 例(8%)であった。腫瘍径は 20(5-54)mm、局在は横隔膜下(S7/8)が 8 例(11%)
、横隔
膜下以外が 65 例(89%)
であった。28 例(62%)で肝門遮断を併用し、30 例(41%)が CUSA 使用群、43 例(59%)
が CUSA 非使用群であった。出血量は 20(5-1180)ml、手術時間 200(30-456)分で、術後入院期間は 13(7-87)
日であった。術後合併症(CD Ⅱ以上)を 3 例(4.1%:胆汁漏 1 例、腹腔内膿瘍 2 例)に認めた。術中出血の
リスク因子としては単変量解析にて腫瘍径(2㎝以上)
、CUSA 使用、肝門遮断の有無があげられ、多変量
解析では肝門遮断の有無が有意な独立因子であった。デバイスの簡略化に向けた、当科でのバイポーラ―
ソフトと超音波凝固切開装置を中心とした CUSA を用いない腹腔鏡下肝切除の手技について供覧する。
― 79 ―
一般演題 6「肝②」
6-3
テープガイドを利用した肝部分切除
○生駒 久視、中島 慎吾、森村 玲、小松 周平、市川 大輔、大
英吾
京都府立医科大学 消化器外科
【はじめに】腹腔鏡下肝部分切除(以下 lap-PH)では S8、S7 などのドーム直下に存在する腫瘍では難易度が
増す。我々テープをガイドに使用して難点を緩和し安全な lap-PH を行っている。その手技を供覧する。
【方
法】肝表面に予定ラインをマーキングしたのち遠位約 3 分の 1 に支持糸をかけテープを固定する。実質切離
が最深点を過ぎたらこのテープを手前に牽引し切離ラインにテンションを加えて、テープをメルクマール
に切離を行う。【結果】2012 年 4 月 1 日から 2014 年 12 月 31 日まで 84 例の腹腔鏡下肝切除を行った(mortality
0 例 mobility Clavien2 以上 0 例)
。2014 年 9 月より本方法で lap-PH を 10 例に行った。テープ使用に関わるト
ラブルは発生しなかった。【考察】開腹での肝切除では、術者の左手が切除肝をホールドし、しばしば、片
手で本のページを開いておくように術野を展開し、切離ラインにテンションをかける。この際、左手の第
二指、あるいは第三指が後方から切除ラインを手前に押し上げるように力を加えて、その指をメルクマー
ルに切離を行う。lap-PH においてはこの指が担うホールディングとナビゲーションの効果が失われるため、
切離方向を誤認したり、十分な視野が得られないといった事態に陥ることがある。そこでこの役割を果た
す目的にテープを使用した。
― 80 ―
一般演題 6「肝②」
6-4
当院の腹腔鏡下肝部分切除術の工夫
○桂 宜輝、武田 裕、中平 伸、大村 仁昭、村上 剛平、内藤 敦、賀川 義規、
竹野 淳、加藤 健志、田村 茂行
関西労災病院 消化器外科
【背景・方法】腹腔鏡下肝切除術は急速に普及している。当院では 2010 年 6 月に施設基準の認可を受けて
から積極的に取り入れており、2015 年 3 月までに 312 例施行。今回は当院の腹腔鏡下肝部分切除手術の工
夫を報告する。【結果】
(体位)導入 1 年目は右葉系腫瘍では 25 例中 10 例のみで完全腹腔鏡下に行った。導
入 2 年目以降右葉系腫瘍は左半側臥位で固定、ローテーションにて仰臥位から左側臥位にすることでほ
ぼ全例が完全腹腔鏡下に可能となった。(デバイス)切離ラインに沿ってソフト凝固にて pre-coagulation
後、肝表面を超音波凝固切開装置にて切開する。実質切離は BiClamp を用いた Clash and Clamp 法もしく
は CUSA にて行う。部分切除では BiClamp 症例が CUSA 症例に比して手術時間が短く出血量が少なかった
(p=0.0003,p=0.0366)。
(肝の授動)肝の脱転は必要最小限にとどめている。肝機能不良症例では脱転を控え
ることで術後腹水の減少が予想される。こうした工夫で再肝部分切除症例を 16 例、肝障害度 B 症例を 69 例
施行している。(肝切離)切離の方向性を見失わないように切離途中に切離ラインの全周性に血管テープを
通す。また切離ラインを正面視して切離するために、Endoloop を用いて肝円索を様々な角度に牽引するこ
とで、ポート数の増加なく切離可能である。(術中トラブル)術中トラブルの最多は出血である。出血点の
確認は吸引よりも送水が有効と考える。可能な限り全例に Pringle 法を用いて出血制御の準備をする。肝
静脈切離を自動縫合器で行う際,器械トラブルの危険性を常に念頭に置き、Endoscopic vascular clip を常
に準備している。胆汁漏を危惧するような症例の場合は、C チューブを留置する。
【結論】腹腔鏡下肝部分
切除術は様々な工夫により安全に施行可能と考えられた。
― 81 ―
一般演題 6「肝②」
6-5
肝腹側表面に局在する肝細胞癌に対する腹腔鏡下肝部分切除術
○近藤 祐一、岡田 敏弘、平野 公通、宇山 直樹、鈴村 和大、裵 正寛、麻野 泰包、
中村 育夫、末岡 英明、藤元 治朗
兵庫医科大学 肝胆膵外科
< 背景 > 肝表面近傍に局在する肝細胞癌に対する腹腔鏡下肝部分切除術は、肝予備能不良例においても良
い適応と考えられる。肝辺縁に局在する腫瘍は鏡視下アプローチが比較的簡便であるが、肝表面腹側など
に存在する場合は視野ならびに肝切離ラインの確保に工夫を要する。< 対象と目的 >2006 年以降当科にて
完全鏡視下に肝部分切除を施行した 48 例中、腹側表面に局在する腫瘍に対し手術を施行した 6 例。年齢
52-79 才。肝障害度 A:3 例 B:3 例。全例肝細胞癌症例。2 例は部分切除を 2ヶ所に施行した。1ヶ所切除 4 例の
平均手術時間は 197 分、出血量は 0-200ml。6 例の術後在院日数は中央値 15.5 日(9-21 日)
。腹腔鏡下肝 S8 部
分切除症例をビデオ供覧する。< 手術所見 > 臍直上より 12mm ポートを open laparoscopy 法にて挿入・気
腹し腹腔内を観察する。腫瘍の局在を確認後、視野ならびにワーキングポートの位置を確保すべく、肝腹
側表面の腫瘍局在部位に合わせた位置(可及的に頭側右肋骨弓下)に各ポートを配置する。術中造影超音
波検査にて腫瘍病変を確認。腫瘍より 15mm の surgical margin を確保しつつ切離ラインをマーキングし、
摘出肝表面に牽引用の黒糸をかける。肝切離は、肝表面近傍はソノサージ単独で切離し、深部はバイクラ
ンプの前凝固後にソノサージで切離する。途中 CUSA を用いて切離面に現れるグリソン枝や肝静脈を確認
する。腫瘍を feeding する比較的太いグリソン枝はへモロックで結紮後に切離する。< まとめ > 肝腹側表面
の鏡視下肝部分切除を安全に行うには①右肋弓下に沿ったカメラポートやワーキングポートの位置取りが
良視野を確保し、②肝切離ラインの設定は腫瘍を中心にダイヤモンド型にすることで鏡視下特有のポート
固定に伴う肝切離の動作制限を解消できる。また③深部の切離ラインの整合性は US の頻回使用で軌道修
正することが肝要である。
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一般演題 7「食道」
7-1
胸腔鏡下に食道切除を施行した食道神経
腫の 2 例
○富本 彩夏、竹村 雅至、中尾英一郎、瀧井麻美子、吉田 佳世、海辺 展明、仁和 浩貴、
大嶋 勉、菊池正二郎、笹子三津留
兵庫医科大学 上部消化管外科
食道に発生する腫瘍の多くは食道癌であり、良性の腫瘍はまれである。特に、末梢神経由来の食道神経
腫は発生頻度が低く、本邦では 30 例程度が報告されているにすぎない。当科では、これまで2例の食道神
経
腫に対して胸腔鏡手術を行ったので報告する。(症例1)50 歳代女性。健診の胸部単純写真で上縦隔の
異常陰影を指摘され、精査目的に当院受診し胸部 CT・超音波内視鏡検査で、胸部上部食道に発症した長
径約 5.5cm の食道粘膜下腫瘍と診断された。PET/CT では SUVmax7.25 と高集積を示した。狭窄感が強く
手術を施行することとした。胸腔鏡下に胸部食道切除を行い、後縦隔経路で胃管再建を行った。手術時間
は 328 分、出血量は 45ml であった。術後は乳び胸を認めたが保存的に軽快し、術 29 日後に退院した。病理
組織学的には食道神経
腫であった。(症例2)60 歳代女性。心不全の既往で当院循環器内科へ通院中に嚥
下困難を自覚し、消化器内科を受診し内視鏡検査で中部食道に正常粘膜に覆われた隆起性病変を認めた。
造影 CT では中縦隔に 6cm の腫瘤を認め、腫瘍口側の食道は拡張していた。PET/CT では SUVmax7.04 の
高集積を認めた。内視鏡下の生検では、c-kit・desmin・CD34 陰性、S-100 陽性で神経
腫が疑われた。狭
窄症状が強く、胸腔鏡下に食道切除・胸骨後胃管再建を施行した。手術時間は 399 分、出血量 80ml であった。
術後は無気肺を認めたが、保存的に軽快し術 24 日後に退院となった。病理組織学的には食道神経
た。
(結語)食道神経
腫であっ
腫に対しての術式は、核出術または食道切除が選択されるが、最近の鏡視下手術の
普及に伴い胸腔鏡下に行われることが多くなった。術式は腫瘍を損傷しない様に腫瘍の大きさや施設の手
技習熟に合わせて、選択することが大切である。
― 83 ―
一般演題 7「食道」
7-2
腹腔鏡下胃切除術から胸腔鏡下食道切除術への step up
○安田 貴志、今西 達也、後藤 裕信、藤野 泰宏、富永 正寛
兵庫県立がんセンター 消化器外科
【はじめに】腹腔鏡下胃切除術におけるリンパ節郭清手技は内側アプローチなどの普及により安定したもの
となっている.私は腹腔鏡下胃切除術を 30 例程度経験してから,胸腔鏡下食道切除術の研鑽を開始し,腹
腔鏡下胃切除術での郭清手技を応用しながら,2 年間で 37 例を経験した.短期成績とともに胸腔鏡下縦隔
郭清手技を提示したい.【手技】腹腔鏡下胃切除術での膵上縁郭清においては,No.12a 郭清では肝十二指腸
靭帯の背側につづく膜を面とし,固有肝動脈周囲神経を線として剥離を行う.また,No.11p 郭清では授動
させた癒合筋膜を面とし,膵上縁や脾動脈周囲神経を線として剥離を行う.このように郭清したい組織を
面に乗せた状態で,線に沿って切除するという考え方が胸腔鏡下縦隔郭清にもあてはまると考えている.
例えば,No.112 郭清では対側胸膜,気管分岐部郭清では心外膜から剥離授動したリンパ節群の被膜,そし
て No.106recL 郭清では交感神経心臓枝を覆う血管
の膜(lateral pedicle)をそれぞれ面と捉えることで,
郭清操作が理解し易くなると考える.
【短期成績】37 例の胸部操作時間は平均 322 分,胸部出血量は平均
92ml そして術後在院日数は平均 19 日であった.3 大合併症としては,縫合不全(major)を 2 例(5.4%),反
回神経麻痺を 1 例(2.7%),
肺合併症を 1 例(2.7%)に認めた.
【考察とまとめ】鉗子操作性が制限されることや,
郭清のメルクマールとなる面上の線が熱損傷を極力回避せねばならない反回神経となる場面が生じること
など,胸腔鏡下縦隔郭清は腹腔鏡下胃切除術におけるリンパ節郭清よりやや困難であると思われるが,面
を作って線で切る,という基本的な考え方を念頭に置き,さらなる短期成績の改善に努めていきたいと思
う.
― 84 ―
一般演題 7「食道」
7-3
経口内視鏡困難な早期食道癌に対し腹腔鏡を用いて胃にアクセスポートを挿入し
逆行性に ESD を施行した 1 例
○黒野 由莉、天野 浩司、三上 城太、間狩 洋一、星野 宏光、中田 健、山本 為義、
江 正樹、木村 豊、大里 浩樹
堺市立総合医療センター 外科
【はじめに】早期食道癌で検討される治療法に内視鏡的粘膜下層剥離術(以下 ESD)があるが、口側の狭窄
等により経口内視鏡が困難な症例も存在する。下咽頭癌術後で経口内視鏡困難な早期食道癌に対し、腹腔
鏡下に胃へのアクセスポートを挿入し逆行性に ESD を施行した1例を経験したので報告する。
【症例】50 歳、男性。5 年前に下咽頭癌に対し化学放射線療法(以下 CRT)
、4 年前に同再発に対し下咽頭・
喉頭部分切除、左前腕皮弁による再建、気管切開、輪状咽頭筋切断を施行した。咽頭の変形により経口内
視鏡が通過しないため、CRT 前に造設した胃瘻から経鼻内視鏡を用いて術後再発と食道病変の有無をフォ
ローしていた。術後 4 年目に切歯 30-37cm の胸部中部食道で 1/4 周の 0- Ⅱ c 病変(生検で
平上皮癌)を認
めた。cT1aN0M0 cStage Ⅰと判断したが経口での ESD は困難であり、手術による摘出や CRT の追加も検
討したが、侵襲と根治性を考慮し胃からの逆行性 ESD を選択した。胃瘻温存のため、腹腔鏡を用いて別部
位にアクセスポートを挿入することとした。全身麻酔下で臍下に 12mm ポート、臍右側および左下腹部に
5mm、12mm ポートを挿入した。胃前壁大彎側に支持糸を 2 針かけ支持糸を腹壁外に引き出した。内視鏡
のアクセスポートとして支持糸間で腹壁を小切開し 12mm ポートを腹腔内に挿入した。支持糸間で胃壁を
切開し、挿入したアクセスポートの先端を胃壁内に挿入し支持糸と共に腹壁に吊り上げて固定した。アク
セスポートから内視鏡を挿入し逆行性に ESD を施行した。ESD 後、ポート抜去後の胃壁の切開部位は自動
縫合器で切離した。本手技で重篤な合併症は認めず、術後経過良好であった。術後病理診断は pT1a(EP)
N0M0 pStage Ⅰであった。
【考察】経口内視鏡が困難な早期食道癌に対し、経胃的逆行性 ESD は有用である可能性があると考えられた。
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一般演題 7「食道」
7-4
胸部食道癌に対する胸腔鏡下食道切除術の短期および長期成績
○豊川 貴弘、久保 尚士、大平 雅一、田村 達郎、櫻井 克宜、田中 浩明、六車 一哉、
平川 弘聖
大阪市立大学大学院 腫瘍外科
【はじめに】食道癌に対する胸腔鏡手術は難易度が高いとされるが,短期成績における利点が報告され,広
く普及してきている.しかしながら,長期成績に関する報告はまだ少ない.
【対象と方法】2000 年 1 月から
2014 年 12 月の間に,根治切除可能と判断した cStage Ⅰ - Ⅲの胸部食道
平上皮癌に対して,経胸的食道切
除を施行した 163 例を,胸腔鏡群 111 例と開胸群 52 例の 2 群に分け,術後短期成績および長期成績について
retrospective に比較検討した.
【結果】開胸群で有意に手術時間が短いものの(279 ± 59 vs 248 ± 46 min,
p=0.001)
,出血量は有意に多かった(213 ± 213 vs 400 ± 202 ml, p < 0.001)
.術後合併症は肺炎の発症率が
胸腔鏡群で有意に低かった(14.4% vs 28.8%, p=0.029)
.観察期間中央値 58ヵ月で,5 年生存率は胸腔鏡群
70.3%,開胸群 58.5% で有意差はなかった.cStage 別の 5 年生存率は,cStage Ⅰ : 78.7% vs 72.9%,cStage Ⅱ :
68.8% vs 58.0%,cStage Ⅲ : 35.7% vs 50.8% で,いずれの Stage でも両群間で有意差はなかった.再発は胸
腔鏡群で 20 例(21.7%),開胸群で 16 例(35.6%)に認め,両群間で有意差はなかった.
【結語】cStage Ⅰ - Ⅲ
胸部食道癌に対する胸腔鏡下食道切除術は,安全に施行可能である.予後への効果については今後のさら
なる検討が必要である.
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一般演題 7「食道」
7-5
食道アカラシアと早期胃癌合併例に対して腹腔鏡下手術を施行した 1 例
○中尾英一郎、竹村 雅至、小澤 りえ、瀧井麻美子、吉田 佳世、海辺 展明、仁和 浩貴、
大嶋 勉、菊池正二郎、笹子三津留
兵庫医科大学 上部消化管外科
食道アカラシアに合併する癌としては食道癌が高率に合併することが知られているが、胃癌の合併例の報
告は少ない。今回我々は、食道アカラシアの精査中に診断された早期胃癌に対して腹腔鏡下に同時手術を
行った1例を経験したので報告する。
(症例)症例は 60 歳代男性。健診で食道アカラシアを疑われ近医で
内視鏡検査を施行したところ、胃体中部大彎側に 0- Ⅱ c 型の病変を認め生検で GroupV と診断され当院へ
加療目的に紹介された。High Resolution Manometry では Type Ⅰアカラシアと診断され、胃病変は超音
波内視鏡検査で SM 癌と診断された。CT では液体貯留を伴う食道拡張を指摘されたが、腹部には他臓器
転移やリンパ節腫脹などの所見はなかった。胃癌存在部位を考慮し、治療法は胃部分切除・大彎側リンパ
節郭清と Heller-Dor 手術を腹腔鏡下に行うこととした。手術にあたり胃病変周囲に内視鏡下にクリップを
留置した。ポート配置は腹腔鏡下胃切除術と同様とした。大網切開を頭側にすすめ左胃大網動静脈を切
断し、胃脾間膜を胃壁寄りで切開した(No.4sb 郭清)。その後、7cm の筋層切開を置き、Fundic Patch を
行った。5cm の小切開から胃を体外に出し、左胃大網動静脈の血管を温存しつつ No.4d リンパ節を郭清し
た後に胃癌存在部位を含め胃部分切除を行い短軸方向に閉鎖した。手術時間は 291 分、出血量は極少量で
あった。術後は特に問題なく経過し、術7日後に退院した。病理組織学的には tub2,pT1a(M)pN0(0/19)
ly0v0pStage Ⅰ A であった。(結語)食道アカラシアに胃癌を合併する症例はまれであるが、胃癌存在部位
と進行度に応じて機能温存と根治性を考慮した術式を選択する必要がある。
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一般演題 8「粘膜下腫瘍」
8-1
単孔式腹腔鏡下胃部分切除術にて切除した胃 glomus 腫瘍の 1 例
○田村 達郎、櫻井 克宣、六車 一哉、永原 央、豊川 貴弘、久保 尚士、田中 浩明、
前田 清、大平 雅一、平川 弘聖
大阪市立大学大学院 腫瘍外科
症例は 38 歳女性。検診の胃透視検査にて胃腫瘍を指摘され当院を受診した。上部消化管内視鏡検査にて胃
角部大彎に表面平滑な粘膜下腫瘍を認めたが、びらんや潰瘍は認めなかった。腹部 CT 検査では胃前庭部
前壁に不均一に造影される腫瘍を認めた。超音波内視鏡検査では 28.1 × 24.8mm 大の低エコー腫瘤であり
胃間葉系腫瘍が疑われた。患者が早期の手術を希望したため、EUS − FNA は施行せず、単孔式腹腔鏡下
胃部分切除術を施行した。病理組織学的検査では類円形の細胞が血管周囲に増殖し、免疫染色にてビメン
チン(+)
、α -SMA(+)
、c-kit(-)
、CD34(-)、S-100(-)、デスミン(-)であり胃 glomus 腫瘍と診断され
た。術後経過は良好で術後第 8 病日に退院した。現在、無再発にて外来通院中である。glomus 腫瘍は四肢
末端の皮下や爪下に好発する良性腫瘍であり、胃原発の glomus 腫瘍は稀である。悪性症例の報告もあるが、
大半が良性腫瘍であるため、腹腔鏡下胃部分切除術は低侵襲であり本症例に対して有用であると考えられ
る。今回、われわれは腹腔鏡下胃部分切除術を施行した胃 glomus 腫瘍の 1 例を経験したので若干の文献的
考察を加えて報告する。
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一般演題 8「粘膜下腫瘍」
8-2
副腎腫瘍との鑑別を要した管外発育型胃 GIST と胃癌の合併した 1 手術例
○冨永 敏治、白井 康嗣、岩倉 伸次、前田 恒宏、玉川 孝治、中瀬 隆之、谷島 裕之、
木村 正道、碇 絢菜、堀内 哲也
独立行政法人国立病院機構大阪南医療センター 外科
【症例】63 歳、男性。幽門前庭部のⅡ a+ Ⅱ c 病変が内視鏡的治療適応外とのことで当科紹介となり、精査
にて腹部 CT で胃穹窿部の背側に 38 × 31mm の低濃度腫瘤を認めた。造影 CT 検査では早期濃染は認めず、
後期相でゆっくりと造影され、胃壁との連続性が疑われたため、胃 GIST が疑われたが、胃内視鏡検査で
は穹窿部には異常所見を認めず、左の副腎腫瘍も疑われる状態であった。泌尿器科での精査の結果、非機
能性左副腎腫瘍の可能性が高いとの診断であったため、胃癌に対して腹腔鏡下幽門側胃切除術を予定し、
胃 GIST であれば胃部分切除術を、左副腎腫瘍であれば腹腔鏡下左副腎摘出術を同時施行する予定とした。
【手術】全身麻酔下、砕石位にて型のごとく 5 ポートで腹腔鏡下に幽門側胃切除を施行し、再建する前に、
腹腔鏡下に胃を挙上圧排して術野を展開すると胃穹窿部後壁に胃壁と連続する管外発育型 GIST と思われ
る腫瘍を認めた。その他には癒着を認めなかったため、腫瘍の茎部で linear stapler を用いて胃を部分切除
し、腫瘍を摘出した。胃の血流を確認後、残胃を B- Ⅰで再建して手術を終了した。手術時間は 210 分、出
血量は少量であった。【病理組織】1.8 × 2.0mm, tub1, pT1b, med, INFa, ly0, v0,pN0 の Stage Ⅰ a の胃癌と、
短紡錘形の核を有する腫瘍細胞の束をなす密な増生からなり、細胞密度は低く核分裂像は 1 個 /50HPF 以
下で、免疫染色では c-kit(+), CD34(+),Desmin(-), S-100(-)の Gastrointestinal stromal tumor であっ
た。
【結語】副腎腫瘍との鑑別を要した管外発育型胃 GIST と胃癌の合併した症例に対して腹腔鏡下手術に
て切除しえた 1 例を経験したので文献的考察を加え報告する。
― 89 ―
一般演題 8「粘膜下腫瘍」
8-3
胃 GIST に対する単孔式腹腔鏡下胃部分切除術の手術成績と手技の工夫
○多田羅 敬 1)、金治 新悟 1)、中村 哲 1)、鈴木 知志 1)、山本 将士 1)、今西 達也 2)、
田中 賢一 3)、掛地 吉弘 1)
1)
神戸大学医学部附属病院 食道胃腸外科、2)兵庫県立がんセンター、3)淀川キリスト教病院
【目的】胃 GIST の切除は局所切除のみでリンパ節郭清が不要なことから、腹腔鏡下胃部分切除術が広く行
われている。また、術後整容性に優れていることや、術後のヘルニアなどの合併症を低減できることから、
近年、単孔式アプローチの報告も散見する。当院での胃 GIST に対する単孔式腹腔鏡下胃部分切除術の手
術成績と工夫について報告する。
【方法】当院で 2002 年 7 月∼2014 年 8 月に胃 GIST に対して腹腔鏡下胃部
分切除術を施行した 67 例の臨床諸項目を単孔群 19 例と多孔群 48 例で比較検討した。
【単孔式手術手技】臍
部に 25mm の皮膚切開を加え、EZ access(八光)を使用した。噴門近傍の病変に対しては、胃壁にかけた
支持糸の創外からの牽引や、細径鉗子を用いて肝外側区域の挙上を行い、術野展開を行っている。切除に
は自動縫合器を用いた。
【結果】単孔群の手術成績は、平均手術時間が 159.8 分、平均出血量は 13.1ml、平
均在院日数は 12.1 日であり、単孔群と多孔群で差を認めなかった。単孔群での腫瘍の主占拠部位は噴門近
傍 6 例、前壁 3 例、後壁 2 例、大弯 3 例、小弯 5 例であった。合併症は後壁、小弯症例でそれぞれ 1 例の通
過障害を認め、後壁の症例は、開腹での再手術を要した。再発は両群で認めていない。【結論】単孔式腹腔
鏡下胃部分切除術で通過障害を認めた主占拠部位が後壁、小弯の腫瘍では、胃周囲血管のトリミングが必
要であり、視野展開が不十分になりやすい。また、切除後の縫合閉鎖に伴う胃の変形は術後通過障害の原
因となるため、自動縫合器使用時のねじれへの注意や、術野展開の改善が課題である。単孔式腹腔鏡下胃
部分切除術は難易度の高い噴門近傍の腫瘍に対して、視野展開の工夫によっては安全に施行可能であった。
前壁、大弯の腫瘍に対しては多孔式群と比較して手術成績に差がなく安全に施行できており、単孔式腹腔
鏡下胃部分切除術が第一選択になりうると考えられる。
― 90 ―
一般演題 8「粘膜下腫瘍」
8-4
当院で施行した胃粘膜下腫瘍に対する腹腔鏡下胃部分切除術の治療成績
○福田 周一、藤原 由規、井上 啓介、加藤 寛章、竹山 廣志、木谷光太郎、
江 正徳、
湯川 真生、井上 雅智
近畿大学医学部奈良病院 消化器外科
【目的】当院では胃粘膜下腫瘍に対する腹腔鏡下胃部分切除術を 2010 年から導入している。2015 年 5 月まで
に行った手術症例の治療成績について報告する。
【方法】2010 年 3 月から 2015 年 5 月までに腹腔鏡下胃部分
切除術を施行した胃粘膜下腫瘍 11 例について患者背景、手術成績、予後を後方視解析した。なお、当院で
は術中内視鏡を併用しており、切除部位の同定、狭窄の有無の確認、リークテストを行っている。【結果】
年齢中央値 62 歳。性別は男性 7 例、女性 4 例。組織像は GIST9 例、平滑筋腫 1 例、神経
腫 1 例。占居部位
は噴門直下 1 例、胃体部 9 例、前庭部 1 例。形態は内腔発育型 8 例、壁外発育型 3 例。腫瘍径中央値 35mm。
手術時間中央値 165 分。出血量中央値 26ml。術中合併症は全例で認めなかった。噴門直下と前庭部の内腔
発育型病変には腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)を施行した。開腹移行を 1 例に認め、60mm 大の胃体部病
変で、胃壁欠損部が大きく腹腔鏡下での閉鎖が困難となり、小切開を追加した。術後合併症を 1 例に認め、
幽門輪近傍まで胃壁欠損部がおよび、術後、前庭部変形による一時的通過障害をきたした。全例、無再発
生存中である。
【結論】腹腔鏡下胃部分切除は安全に施行可能だが、腫瘍径の大きい病変や幽門輪近傍まで
胃壁欠損部がおよぶ症例には、慎重な術式の判断が必要と考えられた。
― 91 ―
一般演題 8「粘膜下腫瘍」
8-5
当院における胃粘膜下腫瘍に対する腹腔鏡下切除症例の検討
○亀田 千津、川端 良平、吉川 正人、松村 多恵、古賀 睦人、村上 昌裕、廣田 昌紀、
能浦 真吾、清水 潤三、長谷川順一
大阪労災病院
背景:近年、超音波内視鏡下
刺吸引生検法や内視鏡的粘膜切開下生検法などの診断技術の向上により、
胃粘膜下腫瘍に対する腹腔鏡手術が増加している。
目的:当院では 2012 年より胃粘膜下腫瘍に対して完全腹腔鏡下切除術を導入している。今回、当院にて経
験した胃粘膜下腫瘍に対する腹腔鏡下切除の治療成績について検討をおこなった。
方法:2012 年 4 月から 2015 年 4 月の期間に当科で腹腔鏡下に切除をおこなった初発胃粘膜下腫瘍例 8 例を
対象とした。
結 果: 患 者 背 景 は 男 女 比 3 対 5、 年 齢 の 中 央 値 62.5(34-76)歳、 腫 瘍 占 拠 部 位 は U 領 域 2 例、M 領 域 3
例、L 領域 3 例、腫瘍径中央値 26.5(16-65)mm、壁内発育型 5 例、壁外発育型 3 例であった。術前に全例
が超音波内視鏡下
刺吸引生検法にて病理組織検査をおこなっていた。最終病理組織診断は GIST5 例、
Schwannoma3 例で、術式は胃部分切除 6 例(うち単孔式 2 例)
、胃内手術 2 例であった。手術結果は手術時
間中央値 113(76-180)分、出血量中央値 2(1-225)g、開腹手術既往の癒着による開腹移行が 1 例あった。
単孔式の 2 例は術前に良性が疑われた症例であった。腫瘍径が 5㎝を超える症例を 1 例認めたが管外型であ
り腹腔鏡下にて切除可能であった。術後平均在院日数 9.7(7-12)日、術後合併症(Clavien-Dindo Grade Ⅱ
以上)は 1 例も認めなかった。術後の消化管症状を訴えた症例および内視鏡検査で残渣を認めた症例はな
かった。切除断端は全症例で陰性であった。GIST 症例は全例無再発生存中である。
結論:胃粘膜下腫瘍に対する腹腔鏡手術は、腫瘍径や局在、術前の病理組織検査の結果に応じて術式を選
択することにより安全に施行可能であると思われた。
― 92 ―
一般演題 9「ヘルニア①」
9-1
当院における小児鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡下修復術の特徴
○合田 太郎 1, 2)、諸冨 嘉樹 3)、庄野 嘉治 1)、石田興一郎 1)、中 禎二 1)、田村 耕一 1)、
小松 弘明 1)、野口 浩平 1)
1)
泉大津市立病院 外科・内視鏡外科、2)同 小児外科、3)大阪市立病院 小児外科
【はじめに】小児における腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術である Laproscopic Perctaneous Extraperitoneal
closure(LPEC)法は、近年広く行われるようになり、当院でも積極的に導入している。当院における
LPEC 法の特徴と成績を報告する。
【方法】当院の LPEC 法の特徴として、①第 1 ポートの挿入法、②若年成人への適応拡大がある。①:当院
では第 1 ポートを Veress 針付細径ポート(エンドパス アクセスニードル ® ㈱ J&J)による
刺法で挿入し
ている。臍窩内に 18G 針にて皮膚切開を加えた後、助手とともに臍輪近くの腹壁 3 点を把持して垂直につ
まみ上げ,腹腔内に間伱を確保して
刺挿入する。気腹前に scope を挿入し、腹腔内に入っていることを
確認し気腹している。特に女児は整容性を重視し臍輪の左右縁から 2 本
刺し、ポート創が目立たないよ
うにしている。3mm 細径ポートは創の縫合閉鎖を要さず、手術時間の短縮が可能で、縫合による臍変形も
予防できる。②:若年成人の鼠径ヘルニアに対する術式は高位結紮のみかメッシュによる tension free か
一定した見解はないが、当院では十分な説明の上で積極的に LPEC 法を行っている。
【結果】2009 年 8 月から LPEC 法を導入し、2015 年 5 月までで計 161 例に施行した。年齢の中央値は 3 歳(3
か月 -29 歳)、男:女は 92:69 であった。平均手術時間は、男児で両側 37.9 分、片側 30.4 分、女児で両側
28.4 分、片側 21.0 分であった。両側例は 161 例中 67 例であったが、術前から両側と診断されていたのは 67
例中 11 例のみで、56 例は術中に両側と診断できた。1 例に結紮糸の糸切れによる再発を認めたが、再度
LPEC にて閉鎖できた。
刺法は臓器損傷などのリスクが指摘されているが、現在まで問題となる損傷は
なく、注意して行えば安全に挿入可能であった。現在までで若年成人例 6 例(16 歳 -29 歳)に施行し、いず
れも再発なく経過している。
【結語】LPEC 法は通常法に比べ手技習得に時間を要することや、腹腔内操作を要するなどデメリットもあ
るが、整容性、対側検索などメリットも多く、有効な術式であると考える。
― 93 ―
一般演題 9「ヘルニア①」
9-2
当院における腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術(TAPP)の導入と初期成績
○中村 慶、中瀬 有遠、長田 寛之、望月 聡、藤野 光廣、北井 祥三、稲葉征四郎
市立奈良病院 外科
【目的】近年、鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡手術 trans-abdominal pre-peritoneal meshrepair(TAPP)の施
行症例数が増加している。当院では、2014 年 4 月より TAPP 法を導入しており、今回その治療成績を検討
した。
【方法】2014 年 4 月から 2015 年 3 月までに施行した鼠径ヘルニア修復術 80 例について、TAPP 法 29
例と従来から行われている前方アプローチ法 51 例の 2 群に分け、手術時間,出血量,術後合併症,術後在
院日数,術後一週間後の仏痛の有無を比較検討した。
【結果】TAPP 群は男性 23 例,女性 6 例で平均年齢
は 68 ± 14 歳であった。また、このうち 6 例が両側鼠径ヘルニアであった。前方アプローチ群は男性 46 例、
女性 5 例で平均年齢は 70 ± 8 歳であった。全例が片側性であった。平均手術時間は、両側鼠径ヘルニアを
除いて比較すると、TAPP 群が 91 ± 29 分,前方アプローチ群が 68 ± 22 分と有意差を認め、TAPP 群が長
かった。(p<0.001) 平均出血量は TAPP 群が 1.5 ± 1.2g,前方アプローチ群が 9.5 ± 10.3g と有意差を認め、
TAPP 群が少なかった。
(p<0.001) 平均術後在院日数は TAPP 群が 4.0 ± 1.2 日,前方アプローチ群が 4.3
± 3.8 日と有意差を認めなかった。また、TAPP 群では、術後合併症は SSI 2 例(6.9%)
,血腫 4 例(13.8%),
水腫 1 例(3.4%)であった。一週間後の術後仏痛は一例も認めなかった。前方アプローチ群では、術後合併
症は SSI 1 例(2.0%)
,血腫 2 例(3.9%),水腫 3 例(5.9%)であった。一週間後の術後仏痛は 12 例(23%)に
見られた。
【結論】TAPP は整容性に優れ、診断面、術後仏痛の面においても、有効な術式の一つであると
考える。当院における今回の比較検討では、TAPP は手術時間が長く、術後合併症を多く認めたが、導入
から一年以上経過した現在では、これらはいずれも改善傾向にある。経験とトレーニングを積み重ねるこ
とで、TAPP 法は有力な治療選択肢になると考える。
― 94 ―
一般演題 9「ヘルニア①」
9-3
当院における再発鼠径ヘルニアに対する治療方法
○濱田 哲宏、弓場 健義、相馬 大人、小林 哲郎、大橋 秀一
健保連大阪中央病院 外科
【はじめに】鼠径ヘルニア再発例では,各々の病態に応じた修復が必要で,定型的な手術は確立されていな
い.当院での再発例に対する治療法を検討した.【対象】1998 年からの 17 年間での鼠径ヘルニア再発例 20
例,22 病変であった.内訳は Rec Ⅰ:Ⅱ:Ⅲ:Ⅳは 4:17:1:1 であった.Type Ⅱのうち 10 病変が Type Ⅱ
-1,
7 病変は不詳であった.
【治療】Transabdominal preperitoneal approach(TAPP)を 8 例(2 例が両側)に,
前方到達法を 12 例(いずれも片側)に行った.前方到達法症例のうち 3 例は腹腔鏡下にヘルニア門を同定
したのちに前方アプローチを行った.再々発例は認めていない.【考察】TAPP では,メッシュの処理など
問題点がある場合があった.また,前方到達法を行った場合には,ヘルニアの評価がヘルニア門からの触
診に頼ることも多く,経験が必要とされる場合があった.一方,腹腔鏡下にヘルニア門の確認後にアプロー
チを選択すると,TAPP,前方到達法ともに比較的初回手術の影響が少ない小範囲の剥離操作の手術を選
択でき,有用であると考えられた.
― 95 ―
一般演題 9「ヘルニア①」
9-4
前立腺全摘術後に生じた鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡下修復術の検討
○吉岡 慎一、岡田 一幸、太田 英夫、柏崎 正樹、三木 宏文、福永 睦、小林 研二
兵庫県立西宮病院 消化器外科
【目的】最近の鼠径ヘルニアに対する手術として、視認性の良さなどの利点から腹腔鏡下ヘルニア修復術が
施行される比率が増加してきている。一方、前立腺全摘手術後において、鼠径ヘルニアは比較的多く発症
するとされているが、手術操作による剥離切開創による影響のため、後腹膜の剥離困難な部位が生じ、修
復術施行においては解剖の理解と術前の状況把握が肝要と思われる。今回我々は当院にて施行した、前立
腺全摘術後に生じた鼠径ヘルニアに対して検討を行った。
【方法】当院にて前立腺全摘術後に生じた鼠径ヘルニア 11 件を対象に検討した。
【結果】術前状態の把握として、全例で腹臥位 CT を行った。今回検討した症例ではその他の目立った異常
所見はなかったが、稀に腹壁瘢痕ヘルニアを合併する鼠径ヘルニアもあり、注意が必要である。ヘルニア
分類では 1 例のみⅡ型のヘルニアを認めたが、そのほかはすべてⅠ型であった。手術時間の中央値は 74 分
(47-108 分)で、全例で目立った出血は認めななった。修復法では、6 例で腹膜修復が困難であったため、
IPOM 変法での修復を行った。Ⅱ型ヘルニア例、腹腔鏡下前立腺全摘術が施行された症例では膀胱前腔の
剥離も可能であり、通常の TAPP 法にて修復可能であった。全例で術後は再発を認めず、経過観察中である。
【結論】前立腺全摘後の鼠径ヘルニアはバリエーションに富んでおり、状態に応じた修復法が求められる。
経腹的アプローチ法である腹腔鏡下ヘルニア修復術は視認性もよく、必要な修復範囲の把握もしやすいた
め、このような病態に対する修復法としては有用であると考えられた。
― 96 ―
一般演題 9「ヘルニア①」
9-5
鼠径ヘルニア術後再発症例に対する腹腔鏡下ヘルニア修復術(TAPP)の経験
○丸岡 慎平、岩橋 誠、吹上 理、山本 基、寺澤 宏、小林 康人
和歌山労災病院 外科
鼠径ヘルニア手術後の再発症例について検討した。2014 年から 2015 年までに、100 例の成人鼠径ヘルニア
に対し、ヘルニア修復術を施行し、そのうち 66 症例に対しては、腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP)
を施行した。再発鼠径ヘルニアに対する TAPP 症例は4例あり、その全てがⅡ型であった(Ⅱ-1 2例、
Ⅱ-2 2例)
。4症例とも以前に前方アプローチ(mesh- plug 法)による修復がなされており、腹腔内より
観察すると、腹腔内に突出した plug の内側にヘルニア門を認めた。このような症例において plug 周囲の癒
着は強固であり、再手術の際の障害となった。手術時間は 89 分から 148 分とばらつきがあったが、通常の
TAPP に比し手術時間は長い傾向にあった。癒着の少ない内側は通常どおり腹直筋背側から Cooper 靭帯を
必要十分に覆い、外側は plug の端に on lay するように新たな mesh をタッキングする様にし、留置するメッ
シュをトリミングするなど、症例によって臨機応変な修復を行うことが必要であった。
― 97 ―
一般演題 10「ヘルニア②」
10-1
腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア手術における Relia Tack™ の使用経験
○奥野 倫久、城月 順子、村橋 邦康、澤田 鉄二
大阪掖済会病院 外科
【はじめに】本邦において腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア修復術は 2012 年 4 月の保険収載以降症例数が増加して
きており、メッシュ腹壁固定用タックの逸脱や不適切固定による再発の可能性が報告されている。今回、
メッシュ腹壁固定用打針器の先端が 65 度に屈曲する Covidien 社製吸収性体内固定用組織ステープル Relia
Tack™ が開発され、よりズレの少ない適切な緊張を持ったメッシュ固定および打針の難しいメッシュ近位
側の容易なアプローチが可能と考えられたので、その使用経験を報告する。【症例】81 歳女性、腸石による
イレウスに対して、腹腔鏡補助下小腸切開載石術施行した。腹壁瘢痕ヘルニア門が外来にて術後フォロー
中、2ヶ月目に下腹部正中小切開創部に約 3cm の筋膜欠損を認め、その後、腹壁ヘルニア部門が約 7cm に
開大したため、腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア修復術を施行した。
【手術所見】左側腹部から 12mm カメラ用ポー
ト挿入、8mmHg で気腹し、腹腔内を観察すると気腹下では 15 × 10cm のヘルニア門を下腹部正中創直下
に認めた。ヘルニア内に癒着した小腸や大網を剥離するために 5mm 鉗子用ポートを左側腹部から 2 カ所追
加し、20 × 15cm のバリテックスコンポジットメッシュを Relia Tack を使用し腹壁に固定した。従来の展
開しないタッカーと異なり、腹壁の圧迫を行うことなく、腹壁に対しほぼ垂直に固定でき、また、視野展
開の確保も容易であり、十分な緊張をもったメッシュの固定が可能であった。
【まとめ】腹壁瘢痕ヘルニア
手術においてズレのないメッシュのオーバーラップと逸脱の少ない適切な打針が肝要であり、これを適切
にアシストしうる Relia Tack の使用経験と使用時のポイントについて報告する。
― 98 ―
一般演題 10「ヘルニア②」
10-2
当院における腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア修復術
○安山 陽信、清水 潤三、古賀 睦人、村上 昌裕、亀田 千津、川端 良平、廣田 昌紀、
吉川 正人、能浦 真吾、長谷川順一
大阪労災病院 外科
【目的】腹壁瘢痕ヘルニアに対する腹腔鏡下手術が 2012 年 4 月から保険収載された。当院でも同時期から腹
腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア修復術を導入した。手術成績を開腹手術と比較検討したので報告する。
【方法】腹腔鏡下手術では、側腹部から 5mm トロッカーを OPTICAL VIEW 法により挿入し、2 本のトロッ
カーを追加する。ヘルニア門の径を計測し、メッシュのサイズを決め、長軸方向に巻き付け腹腔内に挿入
後、腹腔内にてメッシュを展開し、前もって取り付けられている糸を頭側及び尾側の 2 カ所でエンドクロー
ズを用いて固定し、Absorba Tack(以下 AT)を用いて 1∼1.5cm 間隔でメッシュを腹壁に固定する。
【結果】2015 年 4 月までの開腹症例 35 例、腹腔鏡例 43 例の患者背景については、年齢 69.5 歳/69.4 歳、性別
(M/F)21/14/19/24、ヘルニア門(平均) 5.2cm /5.1cm と統計学的な差を認めなかった。手術時間(平均)
及び術後在院日数(平均)に関しては、78.3 分/48.6 分、11.2 日/4.3 日と有意な差を認めた。術後合併症は
SSI 2 例/0 例、ヘルニア再発 4 例/1 例と有意な差は認めなかった。
【結論】腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア修復術は、開腹症例と比べて手術時間が短く、術後合併症やヘルニア再
発が同等で有効な術式であると考えられた。
― 99 ―
一般演題 10「ヘルニア②」
10-3
傍ストーマヘルニアに対し,腹腔鏡下に Keyhole 法と Sugarbaker 法を併用した
腹腔鏡下 Sandwich 法を施行した一例
○木村 正道、白井 康嗣、岩倉 伸次、前田 恒宏、玉川 孝治、冨永 敏治、中瀬 隆之、
谷島 裕之、碇 絢菜、堀内 哲也
独立行政法人国立病院機構大阪南医療センター 外科
【目的】傍ストーマヘルニアは,人工肛門造設後の晩期合併症のひとつである.近年,傍ストーマヘル
ニアに対し,腹腔鏡下にメッシュを用い修復した報告が散見される。今回,腹腔鏡下に Keyhole 法と
Sugarbaker 法を併用した方法(Sandwich 法)行ったため,実際の手術手技についてビデオで供覧する.症
例は,79 歳女性,身長 152cm,体重 57kg,BMI 24.67.2013 年 2 月に Rb 直腸と S 状結腸の重複癌に対し,
腹腔鏡下直腸切断術を施行した.SSI もなく,術後経過良好であったが , 2014 年 1 月頃より,傍ストーマヘ
ルニアが出現し,その後も徐々に増大,仏痛も出現したため,腹腔鏡下傍ストーマヘルニア修復術を行う
方針とした.【方法・手技】メッシュは,パリテックスパラストーマルメッシュ(Covidien 社製)を使用した.
このメッシュにはダイレクト修復とインダイレクト修復の2種類があり,腹腔内臓器と接する面には,コ
ラーゲンフィルムが施されている.手術は開腹法で右側腹部に第一ポート(12mm)を挿入し,腹腔内の癒
着の有無を確認後,右下腹部に 12mm,右季肋部に 5mm のトラカールをそれぞれ挿入した.癒着剥離後,
腹腔内を観察すると,ストーマの頭側にヘルニア門を認め,正中には腹壁瘢痕ヘルニアも認めた.まず,
Keyhole 法(ダイレクト修復)にて傍ストーマヘルニアのヘルニア門を閉鎖した後に,Sugarbaker 法(イン
ダイレクト修復)にて腹壁瘢痕ヘルニアも修復する形で,結腸を腹壁に固定し手術を終了した.【結果】術
後仏痛も少なく,SSI もなく,術後 10 日目に退院した.術後皮下に水腫を認めたが、徐々に軽快した 【
. 結論】
パラストーマルメッシュを使用した腹腔鏡下傍ストーマヘルニア修復術は,癒着剥離困難な症例もあるが,
メッシュ感染及び創部感染のリスクが低く,仏痛も少ないため,有用な術式であると考えられる.また
Keyhole 法単独での修復術は,再発の可能性が高いとの報告もあり,腹腔鏡下 Sandwich 法を施行する事で,
再発率の低下が期待できると考えられた.
― 100 ―
一般演題 10「ヘルニア②」
10-4
術前診断しえた左傍十二指腸ヘルニアに対して腹腔鏡下修復術を行った一例
○市原 慎也、加藤 幸裕、山本 篤、田中 涼太、木下 春人、河本 真大、金原 功、
阿古 英次、西村 重彦、妙中 直之
一般財団法人住友病院
【はじめに】左傍十二指腸ヘルニアは傍十二指腸窩と呼ばれる下腸間膜静脈の背側右側に生じる腹腔窩から
小腸が後腹膜へ脱出する内ヘルニアである。比較的稀な疾患で、術前診断も困難なことが多いとされてい
る。今回、術前に診断しえた左傍十二指腸ヘルニアに対して腹腔鏡下修復術を行った一例を経験したので
報告する。
【症例】73 歳男性。半年前から時折出現する上腹部痛と腹部膨満感を認め、近医にて保存的に加
療されていた。今回腹痛が増強し精査加療目的で当院紹介された。腹部 CT にて Treitz 靭帯の高さで胃と
左腎の間に拡張した小腸ループを認め,その内部には腸間膜を示唆する low density 領域と血管を認め、左
傍十二指腸ヘルニアと診断した。イレウス管を挿入して減圧を行ったのち、腹腔鏡下手術を行った。【術
中所見】Treitz 靭帯左側に 3cm のヘルニア門を認め、腸管が嵌頓していた。嵌頓した腸管を腹腔鏡下に整
復した。イレウス管より術中ガストロ造影を施行し、ヘルニア門に入り込んでいた小腸がすべて整復され
ていることを確認し、ヘルニア門を鏡視下縫合にて可及的に閉鎖した。
【考察】傍十二指腸ヘルニアは非常
にまれな疾患であるが、術前診断し、腸管減圧後に腹腔鏡下での根治手術を施行することができた。若干
の文献的考察を加えて報告する。
― 101 ―
一般演題 11「泌尿器①」
11-1
当院におけるロボット支援腎部分切除術と腹腔鏡下腎部分切除術の比較検討
○小池 宏幸、上田 祐、村岡 聡、井口 孝司、山下 真平、射場 昭典、吉川 和朗、
松村 永秀、柑本 康夫、原 勲
和歌山県立医科大学 泌尿器科学
【目的】
小径腎癌に対する腹腔鏡下腎部分切除術(Laparoscopic Partial Nephrectomy:LPN)は確立された術式
である。しかし、LPN は、症例によっては腫瘍切除や切除後の縫合において難易度の高い手技が要求され
る場合が少なくない。このような背景の下、小径腎癌に対する手術療法としてロボット支援腎部分切除術
(Robot-Assisted Partial Nephrectomy:RAPN)の導入が期待されている。当科では倫理委員会の承認を
得て校費負担による RAPN を施行する機会を得た。今回我々は RAPN 症例における周術期の成績について、
当科で施行した LPN の成績と比較検討する。
【方法】
対象患者は、2014 年 12 月から 2015 年 4 月までに RAPN を施行した 8 症例と、2007 年 8 月から 2014 年 12 月
までの期間に LPN を施行した 52 例である。それぞれの術式における手術時間、阻血時間、出血量、周術
期合併症について比較検討する。統計学的解析にはカイ二乗検定と Mann-Whitney U 検定を用いた。統計
学的有意差は p<0.05 とした。
【結果】
RAPN 群の年齢の中央値は 65.4 歳、男性 6 例女性 2 例、左側 4 例右側 4 例であった。径腹膜到達法を 6 例、
後腹膜到達法を 2 例に施行した。腫瘍径:2.8㎝、手術時間:205 分、コンソール時間:139 分、腎動脈阻血
時間:24.5 分、出血量:42.5ml であった(全て中央値)。合併症として術後仮性動脈瘤を 3 例に認めた。開
腹移行や術中輸血、腎摘除術を要した例は無かった。LPN 群では年齢の中央値は 67.5 歳、男性 34 例女性 18
例、左側 31 例右側 21 例であった。経腹膜到達法を 25 例、後腹膜到達法を 27 例に施行した。腫瘍径:2.0㎝、
手術時間:216.5 分、腎動脈阻血時間:37.0 分、出血量:50.0ml であった(全て中央値)。合併症として術後
仮性動脈瘤を 6 例に認め、開腹移行を 10 例、術中輸血を 1 例、腎摘除術を 3 例で要した。
2 群間の患者背景、周術期成績に統計学的有意差を認める項目は認めなかったが、阻血時間のみ RAPN 群
で少ない傾向を認めた(p=0.07)
【結論】
RAPN 群と LPN 群の周術期成績に統計学的有意差は認めなかったが、阻血時間において RAPN 群で短い傾
向を認めた。今後更なる症例の蓄積を経た上での比較検討が必要と思われた。
― 102 ―
一般演題 11「泌尿器①」
11-2
ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術における勃起神経温存と腓腹神経移植による
術後性機能の変化
○寺田 直樹、岡田 能幸、根来 宏光、小林 恭、山崎 俊成、松井 喜之、井上 貴博、
神波 大己、小川 修
京都大学医学部 泌尿器科
【目的】ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(RALP)における勃起神経温存と腓腹神経移植が、術後性
機能の変化に与える影響について検討した。
【方法】2011 年 4 月から 2014 年 5 月までに施行した RALP のう
ち、術前、術後 3、6、12ヶ月目に EPIC アンケート調査を施行した 122 例を対象とした。勃起神経温存は原
則として前立腺癌陽性コア率が 33.3% 以下の側において行い、患者の希望により切除した側に腓腹神経移
植をロボット支援下に行った。【結果】患者背景は年齢中央値 66(47-76)歳、PSA 中央値 7(3-38)ng/ml。
勃起神経温存無し 37 例(うち両側神経移植 3 例)、片側温存 55 例(うち片側神経移植 3 例)、両側温存 30 例。
術前 , 術後 3,6,12ヶ月の、平均 EPIC 性機能スコアの推移は温存無し 21,3,4,3、両側移植 51,20,19,22、片側温
存 27,6,7,13、片側移植 44,12,18,22、両側温存 30,9,12,15 であった。術前スコア 20 点以上の症例の術後 12ヶ月
/ 術前スコア比は、片側移植 0.62 ± 0.27、両側温存 0.53 ± 0.13、片側温存 0.43 ± 0.06、両側移植 :0.42 ± 0.07、
温存無し :0.16 ± 0.09 の順に高い傾向を認めたが、各群間に有意差は認めなかった。
【結語】RALP における
勃起神経温存により、術後 6-12ヶ月にかけて徐々に性機能が回復する傾向を認めた。腓腹神経移植による
術後性機能の改善は限定的であった。
― 103 ―
一般演題 11「泌尿器①」
11-3
腹腔鏡下およびロボット支援前立腺全摘除術後の尿禁制に影響する因子についての検討
○柑本 康夫、小池 宏幸、井口 孝司、山下 真平、吉川 和朗、射場 昭典、松村 永秀、
原 勲
和歌山県立医科大学 泌尿器科学
【目的】前立腺全摘除術の摘出標本に付着する膜様部尿道長および横紋筋量が多い症例では、術後の尿禁制
が悪いことが予想される。本研究では、病理組織学的に測定した膜様部尿道長および横紋筋量と腹腔鏡下
/ロボット支援前立腺全摘除術後の尿禁制の関連性について検討した。
【方法】対象は 2010 年 7 月から 2014
年 5 月までに腹腔鏡下前立腺全摘除術を受けた 100 名およびロボット支援前立腺全摘除術を受けた 81 名、
計 181 名である。2 名の病理医が前立腺の HE 染色標本において、膜様部尿道長(尿道の切除断端から前立
腺尖部までの距離)および横紋筋量(前立腺尖部のうち横紋筋の付着している領域の割合)を測定した。尿
禁制は術後 3、6、12ヶ月の QOL 調査票から収集し、尿パッド 0∼1 枚/日を尿禁制ありと定義した。尿禁
制の有無によって膜様部尿道長および横紋筋量を比較し、ロジスティック回帰分析によってオッズ比を算
出した。【結果】年齢の中央値は 67 歳。術後の尿禁制率は 3ヵ月:45%、6ヵ月:77%、12ヵ月:82% であった。
術後 6ヵ月において尿禁制なし群では尿禁制あり群に比較して、膜様部尿道長は有意に長かった(1.78mm
vs. 1.19mm, p=0.01)。横紋筋量はいずれの時期においても尿禁制の有無による差はみられなかった。年齢、
神経温存の有無、術式、膜様部尿道長を因子とした多変量解析では、膜様部尿道長は術後 3ヵ月(オッズ比
1.43、95% 信頼区間 1.07-1.93)および 6ヵ月(オッズ比 1.53、95% 信頼区間 1.11-2.12)の尿禁制に影響する有
意な因子であることが示された。
【結論】摘出標本における膜様部尿道長は前立腺全摘除術後の尿禁制を予
測する有意な因子であり、良好な尿禁制を達成するためには、膜様部尿道長を可及的に温存することが重
要であることが示された。
― 104 ―
一般演題 11「泌尿器①」
11-4
大腸外科医から泌尿器科医へ贈る左尿管剥離のための直腸 S 状結腸授動操作
−腹腔鏡下膀胱全摘術への応用−
○小山 文一 1, 2)、中村 信治 1)、植田 剛 1)、錦織 直人 1)、井上 隆 1)、川崎敬次郎 1)、
中本 貴透 1)、尾原 伸作 1)、藤井 久男 2)、中島 祥介 1)
1)
奈良県立医科大学 消化器・総合外科学、2)奈良県立医科大学附属病院 中央内視鏡・超音波部
腹腔鏡下膀胱悪性腫瘍手術が 2012 年に保険収載されたことにより、膀胱全摘術を腹腔鏡下に行う施設が増
加してくると予想される。膀胱全摘術では尿路再建が必要となり、尿管の広範囲の剥離授動が必須となる。
特に左尿管を広範囲に剥離するためには、S状結腸・直腸の授動操作が必要となる。また、この操作を適
切に行ことで、下腹神経・骨盤神経叢と骨盤内主要血管の把握が容易となる。今回、大腸外科医が行って
いる直腸・S状結腸の授動操作を供覧させていただき、泌尿器科の先生のご批判を仰ぎたいと考えている。
ポートは、臍部、両側側腹部、両側下腹部の5ポート。臍部ポートからフレキシブルスコープを挿入し、
左側腹部・左下腹部ポートから助手が術野を展開し、右側・右下腹部ポートから術者が手術を行っている。
岬角尾側レベルで直腸間膜右縁を切開し、直腸間膜の背面かつ下腹神経の腹側の層に入る。この層を維持
して頭尾側方向と右側から左側に剥離を進めると、直腸・S状結腸を腹側に、下腹神経と左尿管が背側に
分離できる。この操作の後に、直腸間膜左縁とS状結腸間膜左葉付着部を切開すると直腸・S状結腸間膜
が間膜ごと腹側に挙上され、尿管下腹神経筋膜に包まれた状態で、左尿管の走行がほぼ全長にわたって視
認できるようになる。また下腹神経を尾側に
ると骨盤神経叢に合流し、その外側に内腸骨血管群の走行
を確認できる。
直腸・S状結腸が十分に授動され、尿管・下腹神経・骨盤神経叢・骨盤内主要血管というランドマークが
確実に視認できれば、腹腔鏡下の鉗子操作といえども、安全で低侵襲な骨盤内手術操作が可能になると考
えている。
― 105 ―
一般演題 12「泌尿器②」
12-1
内蔵逆位症に合併した右腎癌に対する後腹膜鏡下右腎摘除術の経験
○寺川 智章、古川 順也、原田 健一、日向 信之、村蒔 基次、三宅 秀明、田中 一志、
藤澤 正人
神戸大学大学院医学研究科 腎泌尿器科分野
【はじめに】
内臓逆位症の症例では、臓器が左右反対に位置し、いわゆる ミラーイメージ の状態で存在するため一般
に手術が困難であり、特に腹腔鏡下手術は、視野も限定されるためにその難易度が上がると認識されてい
る。今回、腎癌症例に対して腹腔鏡下腎摘除術を後腹膜アプローチで行うことで、逆位した内臓による影
響を少なくできたため報告する。
【症例】
症例は 81 歳男性。検診にて右腎に 5cm の腫瘍を認め当科受診した。CT にて cT1bN0M0 の腎癌と診断する
とともに、胸腹部の臓器が左右反対に位置しており、完全内臓逆位を伴っていた。逆転した内臓に対する
操作をさけるため、後腹膜鏡下腎摘除術を施行した。大動脈と下大静脈が左右反対に位置する以外には変
わりなく、手術は通常通り終了した。
【結語】
内臓逆位を伴う腎腫瘍に対しては、腹腔鏡下手術を後腹膜アプローチで行うことにより、逆位した臓器の
影響を受けることなく、安全に遂行可能であると考えられた。
― 106 ―
一般演題 12「泌尿器②」
12-2
腹腔鏡下腎部分切除術における蛍光内視鏡システムの使用経験
○山崎 健史、田中 尚夫、井口 太郎、玉田 聡、内田 潤次、仲谷 達也
大阪市立大学大学院医学研究科 泌尿器病態学
腎細胞癌における腹腔鏡下腎部分切除(LPN)は標準手術として確立されつつあるが制癌性、機能温存、合
併症の予防の 3 つの要因を同時に達成しなければならず依然として難易度の高い手術である。近年近赤外
線蛍光システム(near infrared florescence imaging(NIRF)
)は様々な領域で使用されているが、LPN に
おいて切除の際に NIRF を使用することで腫瘍の同定が容易になり、より確実な切除が可能となったとの
報告も散見される。今回当院で施行した腹腔鏡下腎部分切除術において蛍光内視鏡での腫瘍の蛍光発色の
有無、術前後の腎機能の変化、出血量、断端陽性率等を検討しその手技を供覧する。【背景】2011 年以降に
施行した LPN93 例(NIRF 使用群 26 例、NIFR 非使用群 67 例)に関して比較検討した。腫瘍径(cm)NIRF
群 3.8 ± 2.2、非 NIRF 群 3.1 ± 2.6、RENALscore(中央値)NIRF7、非 NIRF 群 7 であった。阻血時間(中央
値)は NIRF 群 0 分、非 NIRF 群 25 分であった。また無阻血腎部分切除は NIRF 群で 19 例施行可能であった。
NIRF 使用群では腫瘍と腎実質の蛍光の差は 85% に認め、腫瘍切除において有用であった。【結論】2 群間
において出血量、術前後の eGFR の減少、断端陽性率に有意差は認めなかった。しかし NIRF 使用群で無
阻血腎部分切除が約半数に施行可能であり機能温存の点でも有用であると考えられた。
― 107 ―
一般演題 12「泌尿器②」
12-3
腹腔鏡下腎部分切除術 148 例の臨床的検討
○田中 尚夫 1)、山崎 健史 1)、井口 太郎 1)、玉田 聡 1)、石井 啓一 2)、坂本 亘 2)、
仲谷 達也 1)
1)
大阪市立大学大学院医学研究科 泌尿器病態学、2)大阪市立総合医療センター
【目的】
小径腎腫瘍に対する腹腔鏡下腎部分切除術は標準的治療として確立している。当院関連施設における腹腔
鏡下腎部分切除術を行った 148 例について臨床的検討を行った。
【対象と方法】
2007 年 8 月から 2015 年 2 月までに当院及び大阪市立総合医療センター泌尿器科で腎部分切除術を施行した
148 例を対象とし、後ろ向きに臨床的検討を行った。
【結果】
年齢は中央値 66 歳(24-90 歳)
、臨床病期は T1a 126 例、T1b 20 例、T2a 1 例、T2b 1 例、腫瘍径は中央値 2.5cm
(1.1-10cm)
、RENAL score は中央値 7(4-11)であった。手術時間は中央値 251 分(134-504 分)
、阻血時間は
中央値 27 分(4-71 分)
、出血量は中央値 80ml(5-1320ml)で、7 例に対し輸血を施行し、2 例は腎摘除術に移
行した。術後合併症は、5 例(尿漏 2 例、被膜下血腫 1 例、仮性動脈瘤 1 例、ポートヘルニア 1 例)であった。
切除断端陽性を 3 例で認めたが、観察期間中再発、転移はなかった。術後 1 か月後の eGFR 低下率は中央値
13.4%(0-50.4%)であった。
【結論】
腹腔鏡下腎部分切除術は、安全性、腎機能保護の面から認容されるものと考えられた。
― 108 ―
一般演題 12「泌尿器②」
12-4
原発性アルドステロン症に対する手術治療成績を Lateralized ratio は予測するか?
○河嶋 厚成 1, 2)、氏家 剛 1)、永原 啓 1)、藤田 和利 1)、植村 元秀 1)、木内 寛 1)、
今村 亮一 1)、宮川 康 1)、野々村祝夫 1)
1)
大阪大学大学院医学系研究科 器官制御外科学講座 (泌尿器科)、2)同 臨床腫瘍免疫学共同研究講座
【目的】原発性アルドステロン症手術前検査として、副腎静脈サンプリング(以下 AVS)は実施方法・判定
基準は標準化されておらず、臨床的意義の詳細は不明である。我々は、2008 年 1 月から 2015 年 6 月に当科
において原発性アルドステロン症に対して鏡視下手術を施行した 68 例のうち AVS を施行した 32 例を対象
とし、手術治療成績が予測可能かを検討した。
【方法】年齢、性別、BMI、高血圧罹患期間、末梢アルドステロン値、レニン・アルドステロン比、AVS
における Lateralized ratio(LR)
、Contralater al ratio(CR)を用いて、術後降圧剤中止可能症例との相関
ある因子を検討した。
【結果】全 32 例のうち 14 例において術後降圧剤を中止することができた。手術時年齢は 53.5 歳、高血圧罹
患期間の中央値は 66ヶ月、LR 値は中央値 11.4 であった。術後降圧剤中止群 vs. 術後降圧剤維持群では、手
術時年齢において 40.5 歳 vs. 54 歳(p = 0.030)
、高血圧罹患期間において 30ヶ月 vs. 130ヶ月(p=0.046)と、
手術時年齢が若く、高血圧罹患期間が短い患者ほど降圧剤を中止することが可能な傾向にあった。一方、
LR については、2 群間において 9.4 vs. 11.7 と有意な差は認められなかった。
【結論】原発性アルドステロン症の AVS における LR 比は、術後降圧剤中止予測因子とはならず、手術時年
齢および高血圧罹患期間が関係することが示された。
― 109 ―
一般演題 13「その他」
13-1
手術室スタッフの腹腔鏡下手術に関する意識の向上に向けた取り組み
○大石 達郎 1)、杉谷 知美 2)、河上 恭子 2)、山口 法子 2)、野中 功 2)、坂平 英樹 1)、
高橋 応典 1)、宮本 勝文 1)、小山 隆司 1)
1)
兵庫県立淡路医療センター 外科、2)同 手術室
【目的】腹腔鏡下手術は近年ますます増加傾向にあり、今後も様々な術式が考案され普及していくと思われ
る。しかし当院手術室スタッフの中には腹腔鏡下手術に苦手意識をもっているものも少なくなく、その理
由の一つに腹腔鏡下手術機器や術式に対する知識不足があると考えられた。今回、これを解消するため、
スタッフと協力して年間を通じていくつかの取り組みを行った。
【方法】昨年度より、腹腔鏡下手術に関するスタッフ向けの院内勉強会の開催、機器や術式別の資料の作成・
見直し、メーカー主催の手術機器説明会への参加、セミナー・学会への参加、他施設の手術見学などを行い、
さらにこれら取り組みの前後に腹腔鏡下手術に関するアンケート及びペーパーテストを行った。
【結果】初回のテストでは、平均点は 55.1 点で、使用頻度の少ない機器の認識が低いことや形状の似ている
機器や使用目的が同じ機器を混同していることが多いことが分かった。各種取り組み後の 2 回目のテスト
では、平均点は 79.6 点までアップし、手術室スタッフの腹腔鏡下手術に関する知識は深まったと思われる。
またアンケート結果でも苦手意識の改善傾向を認めた。
【結論】勉強会、説明会、セミナー・学会参加や他施設見学は腹腔鏡下手術に対するスタッフの意識向上に
つながった。また、わかりやすい資料の作成やテストを行うことによって、手術機器や術式に関する知識
も深まった。
また、新たな手術機器の開発や術式の考案など日々の進歩が著しい腹腔鏡下手術の領域では、随時、知識
の整理・更新を行うことが必要と思われるが、スタッフ個人の努力だけでそれを行うのは難しく、今回の
ようなテストは知識の整理・更新のよい機会にもなったと思われる。
― 110 ―
一般演題 13「その他」
13-2
胸腔鏡下肺癌切除時の左主肺動脈出血に対して心嚢内血管処理を必要とした 1 例
○別所 俊哉、井上 匡美、川村 知裕、舟木壮一郎、新谷 康、南 正人、奥村明之進
大阪大学大学院医学系研究科 外科学講座呼吸器外科学
【背景および目的】当科では年間 100 例の原発性肺癌症例のうち , その約 6 割を胸腔鏡下(TS)に切除し ,2008
年 2 月よりリンパ節転移のない症例に ,TS 肺葉切除(2windows+1port)を施行している .TS 肺葉切除は視野
及び手術操作に制限があり , 特に肺血管損傷による出血は致死的となりうる合併症である . 今回 TS 肺切除
時に左主肺動脈より出血を来し , 心嚢内血管処理を必要とした 1 例を経験したので報告する .【症例】50 代男
性 . 左下葉 S6 に 1.2cm 大の腫瘤陰影を認め , 肺癌疑いにて TS 左下葉切除術予定となる .TS 左下葉摘出後 , エ
ネルギーデバイスを用いて左上縦隔郭清中 , 左主肺動脈より出血を来した . 一旦生体止血材量を併用し圧迫
止血の後 , 開胸し心嚢内血管処理にて止血した . 術後は特に合併症なく , 第 12 病日に退院した 【
. 結語】TS 肺
切除時の中枢側肺動脈の出血は , 出血量も多くなり , 致死的な合併症となる可能性がある . その対処法とし
て , 生体止血材量を併用した適切な圧迫止血と心嚢内血管処理法の習熟が重要と思われる .
― 111 ―
一般演題 13「その他」
13-3
腹腔鏡と胸腔鏡を併用し肝、横隔膜および肺合併切除を行った卵巣癌腹膜播種の一例
○中平 伸 1)、井上 雅史 1)、伊禮 俊充 1)、清水 洋祐 1)、富永 春海 1)、山崎 友美 2)、
水之江知哉 2)、原田 洋明 3)、山下 芳典 3)、畑中 信良 1)
1)
国立病院機構呉医療センター・中国がんセンター 外科、2)同 産婦人科、3)同 呼吸器外科
【はじめに】卵巣癌の横隔膜下の播種病巣に対して胸腔鏡と腹腔鏡を併用した横隔膜肝肺合併切除を行った
症例を経験したので報告する.【症例】58 歳,女性.2008 年に卵巣癌に対して基本術式を実施.2012 年に
肝転移,横隔膜下腹膜播種再発、2014 年 5 月には鼠径リンパ節腫大,肺転移が指摘された.化学療法を行
い 2015 年 1 月 CT で肝浸潤を伴った 6㎝大の横隔膜下腹膜播種,肝門部リンパ節腫大の他には再発巣を認め
ず手術を行った.手術体位は左半側臥位とし 5 本の腹部トロッカー(経胸腔トロッカー1 本)を用いた.腫
大した肝門部リンパ節を摘出し、肝右葉の脱転を行った。横隔膜浸潤部周囲にテーピングを行い、テープ
をつり上げて肝切離を完了させた.続いて 3 本の胸部トロッカーを使用し胸腔鏡補助下に腹腔側から横隔
膜を切除した.一部肺浸潤も疑われたため自動縫合器を用いて肺部分切除術を施行した.横隔膜の欠損部
は単純閉鎖可能であったので、パッチは使用せず連続縫合で閉鎖した.手術時間は 520 分,出血量は 50 g
であった.術後 5 日目に合併症なく退院した.術後の病理組織検査結果は卵巣癌の転移であった.術後 1
か月後に化学療法を開始している.【結語】本症例において腹腔鏡と胸腔鏡の併用手術は低侵襲で有効な治
療手技と考えられた.
― 112 ―
一般演題 13「その他」
13-4
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術における細径鉗子肝左葉挙上の有用性
○宮崎 安弘、瀧口 修司、新野 直樹、高橋 剛、黒川 幸典、牧野 知紀、山
誠、
森 正樹、土岐祐一郎
大阪大学 消化器外科
【目的】腹腔鏡下スリーブ状胃切除術対象患者の多くは,高度脂肪肝による肝左葉腫大を認める.我々は,
ラチェット付き細径鉗子を用いた肝左葉挙上を行っており,良好な視野展開を得られているので本手技に
ついて報告する.
【方法】臍左上にカメラポートを留置.腹腔鏡下幽門側胃切除術に準じて,5 ポートセッティングとしている.
剣状突起部から 3.5mm ポートを留置.ラチェット付き細径鉗子を挿入する.適宜把持場所を変えながら食
道裂孔部横隔膜を把持し肝左葉挙上を行う.
【結果】これまで 7 例(BMI 中央値 42.6(35.0-51.0)kg/m2)に対し,本手技を施行した.全例で問題なく肝
左葉挙上が可能で,挙上に伴う合併症は認めなかった.手術時間は 190(159-205)分、出血量は 30(10-60)
ml であった.皮下脂肪が著明に厚い患者でも,Nathanson liver retractor と比較し細径鉗子は容易に挿入
可能である.本手技により Critical point view(His 角部)を良好に維持したまま助手の両手が使用可能と
なり,自動縫合器による胃切離,および Staple line の埋没縫合が安全に施行可能であった.
【結論】腹腔鏡下スリーブ状胃切除術において,肝左葉挙上目的の細径鉗子使用により,Critical point の良
好な視野確保を得ることができた.
― 113 ―
一般演題 13「その他」
13-5
当院における morbid obesity に対する腹腔鏡下スリーブ状胃切除の短期成績
○小林 壽範 1, 2)、稲田 涼 2)、三木 和博 1, 2)、向出 裕美 1, 2)、尾崎 岳 1, 2)、道浦 拓 1, 2)、
井上健太郎 1, 2)、濱田 円 2)、權 雅憲 1)
1)
関西医科大学 外科学講座 消化管外科、2)関西医科大学附属枚方病院 消化管外科
【はじめに】わが国では 2014 年 4 月より腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(LSG)が保険収載され、肥満だけで
なく糖尿病治療としても注目されている。今回われわれは当科で施行した LSG の成績をここに報告する。
【方法】2012 年 8 月∼2015 年 3 月までの LSG を受けた 18 症例における短期予後を検討した。適応基準は
BMI35 以上であり、毎月開催される肥満ミーティング(栄養士、心理士、運動療法士、看護師、医師)に
おいて手術可能と判断された症例。
【結果】患者背景は男女比 10:8、年齢 42(24-57)歳、術前 BMI 39.8(31.1-50)kg/m2 であった。手術因子と
して手術時間中央値 223.7(143-436)分、出血量 26.5(0-257)g であり、合併症として腹壁血腫などを 3 例に
認めたがいずれも保存的に軽快した。胃角部狭窄のため内視鏡バルーン拡張を 1 例に要した。術後1年間
における超過体重減少率は 70.1% であった。18 症例のうち 9 症例が2型糖尿病既往であり経口血糖降下薬
もしくはインスリン加療を受けていたが、術後1年間を経過したところで 9 症例すべてにおいて寛解を認
めた。
【結語】LSG は安全に施行可能であり良好な短期成績を示し、肥満関連合併症である2型糖尿病に対しても
治療効果が期待できた。
― 114 ―
一般演題 13「その他」
13-6
アイソレーションバッグを用いて腹腔鏡下手術を行った巨大卵巣腫瘍の 1 例
○河原 直紀、米田 聡美、古川 直人
奈良県西和医療センター 産婦人科
【緒言】良性卵巣腫瘍において開腹術に比べ低侵襲で整容性の高い手術として腹腔鏡下手術が定着してい
る.しかし腫瘍径が大きい場合内容吸引などで小さくして体外へ取り出すが、内容液の腹腔内漏出の可能
性を常に考慮していなければならない。術後境界悪性もしくは悪性と診断された症例報告も少なからずあ
る.今回我々は巨大卵巣腫瘍に対し,アイソレーションバッグを用いることで内容液の漏出なく腫瘍を摘
出しえた症例を経験したので報告する.【症例】48 歳,5 経妊 3 経産.腹部膨満感を主訴に当院に受診した.
超音波検査では巨大な単房性卵巣腫瘍を認め,MRI 検査にて径 15cm の成熟嚢胞性奇形腫が疑われた.腫
瘍マーカーの異常も認めなかったため,腹腔鏡下手術の方針とした.しかし年齢と腫瘍径から悪性転化を
伴う成熟奇形腫の可能性も完全には否定できなかったため,腫瘍の回収にアイソレーションバックを用い
る方針とした.臍部に 2cm の切開を行いラッププロテクターを装着し鏡にて腹腔内を確認したところ,左
卵巣が腫大しており子宮が腹側に圧排されていた.上前腸骨棘内側に 2 本,臍より 15cm 下方に 1 本の 5mm
トロッカーを留置した.尿管の走行を同定後,卵巣堤索を 2 重結紮しバイポーラーにてシーリングしたう
えで切断した.ついで卵管および卵巣固有
帯を処理し左卵巣卵管を遊離した.臍部よりアイソレーショ
ンバッグを腹腔内に挿入し,これに腫瘍を収めた.臍部よりアイソレーションバッグを取り出し,腹腔内
とは完全に隔離した状態で内容液を吸引し腫瘍を縮小させて体外に取り出した.腫瘍内容液は 400ml であっ
た.術後病理診断は Mature cystic teratoma であった.
【考察】巨大卵巣腫瘍に対する腹腔鏡下手術において,
アイソレーションバッグを用いることで内容液の漏出なく手術を完遂しえた.巨大卵巣腫瘍に対する手術
に於いて内容液が腹腔内に漏出する事を完全に防ぐ目的でアイソレーションバッグを使用したことは有用
と考えられた.
― 115 ―
一般演題 14「下部消化管」
14-1
腹腔鏡下回盲部切除術を施行した回腸憩室癌の 1 例
○村西耕太朗、西村 潤一、高橋 秀和、原口 直紹、畑 泰司、竹政伊知朗、水島 恒和、
土岐祐一郎、森 正樹
大阪大学大学院医学系研究科 外科学講座消化器外科学
【背景】Meckel 憩室を除く小腸憩室は、全消化管憩室の 1.4∼3.2%程度で、多くは無症状で経過し、約 10%
で憩室炎、出血、
孔、
通を伴い緊急手術を要することがあるが、小腸憩室癌については報告例が少な
い。今回我々は、回盲部回腸憩室癌に対して単孔式腹腔鏡下回盲部切除術を施行した一例を経験したので、
文献的考察を踏まえて報告する。
【症例】66 歳男性。当院内分泌代謝内科で糖尿病、高脂血症に対して外来通院中であった。下痢が持続し、
血液検査、便潜血検査を施行し異常所見は認めなかった。その後、症状の増悪なく経過観察していたが、
1年後の血液検査で CEA 値が 57ng/ml と上昇を認めた。胸腹部単純 CT 検査で、虫垂周囲に充実性腫瘤を
認め、虫垂癌の疑いで当科紹介となった。下部消化管内視鏡検査では粘膜面に異常は指摘されず、虫垂開
口部生検で悪性所見は認めなかった。PET-CT 検査では、虫垂分岐部付近に多房性嚢胞を伴い FDG 集積
(SUVmax:3.9)を認める 45㎜径の腫瘤を認めた。虫垂癌の疑いと診断し、単孔式腹腔鏡下回盲部切除術
を施行する方針となった。術中所見では、虫垂は正常で、回腸末端付近の腸間膜に一部露出する腫瘤を認
めたが、明らかな原発部位は鏡視下で確認出来なかった。回盲部切除で腫瘍切除可能と考え、回盲部切除
術、リンパ節郭清術(D3)を施行した。切除検体を確認すると、粘膜面に肉眼上異常は認めず、回腸末端
付近の腸間膜に腫瘤を認めた。術後経過は良好であり術後 14 日目で退院となった。病理診断は、腫瘍がバ
ウヒン弁直下の憩室から連続するように深部に広がり、また憩室開口部の粘膜が回腸粘膜であった事より、
回腸憩室由来の adenocarcinoma となった。腫瘍は漿膜下層まで達し、
リンパ節に転移所見は認めなかった。
― 116 ―
一般演題 14「下部消化管」
14-2
柿胃石による腸閉塞に対し,腹腔鏡下手術を施行した 1 例
○坂田 好史、嶋田 浩介、稲田 佳紀、小澤 悟、小林 良平、青木 洋三
橋本市民病院 外科
腸閉塞の原因は様々であり,そのうち食
性腸閉塞の頻度は腸閉塞全体の 1%程度と少ないことから診断
が遅れがちである.今回,柿胃石による腸閉塞に対し,術前に診断した上で腹腔鏡下手術を施行し,術後
経過も良好であったので報告する.主訴は腹痛,嘔吐.既往歴に肝細胞癌,パーキンソン病があり,元来,
柿多色の傾向にあることから,2003 年,柿胃石に対し,内視鏡的破砕,摘出術を受けていた. 2014 年 7 月
下旬,腹痛,嘔吐を自覚したので近医を受診した.腸閉塞と診断され,入院の上,保存的に治療されてい
た.しかし,8 月上旬になっても改善しないことから当科に紹介された.初診時,腹部は平坦,軟であった.
腹部 CT 検査で腸閉塞像と小腸内に 6.5cm 大の LDA を認めた.まずはイレウス管を挿入し,保存的治療を
継続した上で,小腸造影検査を施行したところ,空腸内に陰影欠損像を認めた.空腸内位置する柿胃石が
原因で腸閉塞を発所したことを強く疑い,8 月中旬,腹腔鏡下手術を施行した.腹腔内を観察すると,腸
管の癒着はほとんどなく,左上腹部に異物を含んだ空腸を容易に確認できた.臍創部を 4cm に延長し,こ
こから異物を含んだ空腸を創外に出した.空腸に切開を加え,8cm 長の結石を摘出した.結石分析の結果,
主成分がタンニンであり,柿胃石であることを確認した.
― 117 ―
一般演題 14「下部消化管」
14-3
十二指腸癌と胃癌と横行結腸癌を合併した同時 3 重複癌の 1 例
○小原 秀太、今本 治彦、大東 弘治、安田 篤、川村純一郎、上田 和毅、肥田 仁一、
奥野 清隆
近畿大学医学部 外科
比較的稀な同時 3 重複癌症例を経験し、内視鏡的粘膜切除と腹腔鏡手術で治療し得た症例を報告する。
<症例> 75 才女性。糖尿病にて当院内科加療中であった。スクリーニング検査の便潜血で陽性であったた
め、上部消化管内視鏡施行したところ、胃角部に 0- Ⅱ a 集簇病変(tub1)と十二指腸下行脚に浅い凹凸粘膜
(tub1)を認めた。さらに大腸内視鏡を施行したところ、横行結腸 2 型進行癌(tub1)を認めたため、同時 3
重複癌の診断にて当科紹介となった。EUS にて十二指腸癌は m 癌と診断し、まず先に内視鏡的粘膜切除術
(ESD)を施行した。結果は m, ly0, v0, HM0, VM0 で根治切除されていたため、後日腹腔鏡下で同時に結腸
右半切除と幽門側胃切除(B-1 再建)を施行した。術後 B-1 吻合部の一過性狭窄出現したが短期間で保存的
に改善、その後は順調に経過し退院となった。
<考察>近年、診断の向上に伴い重複癌の発見率は増加しているものの、3 重複癌の頻度は 1.9%と比較的
稀である。今回我々は低侵襲である内視鏡的切除と腹腔鏡下手術で十二指腸癌、胃癌、横行結腸癌の同時
3 重複癌を治療し得た症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。
― 118 ―
一般演題 14「下部消化管」
14-4
直腸癌、胃癌の重複癌に対し同時腹腔鏡手術を施行した 1 例
○岩本 博光、横山 省三、勝田 将裕、中村 公紀、瀧藤 克也、堀田 司、松田 健司、
家田 淳司、出口 真彰、山上 裕機
和歌山県立医科大学 外科学第 2 講座
当科では通常大腸癌術前患者に対し上部消化管内視鏡検査を施行し、胃癌術前患者に対し下部消化管内視
鏡検査を施行している。そして重複癌を認めそれぞれに手術適応が認められた場合、同時腹腔鏡手術を施
行している。そこで具体的な手術手技について当科で直腸癌、胃癌同時腹腔鏡手術を施行した1例を報告
し、そのビデオを供覧する。
【症例】患者は 76 歳、男性。食指不振、体重減少を主訴に近医受診され、上部消化管内視鏡検査にて胃体下
部大彎前壁に早期胃癌を指摘され、当科紹介受診となった。術前に当科で施行された下部消化管内視鏡検
査にて下部直腸に 2 型進行癌を指摘された。CT 等の他の検査で全身に明らかな転移は認めず、それぞれに
手術適応と診断され、同時腹腔鏡手術の予定となった。術当日はまず腹腔鏡下幽門側胃切除術、デルタ吻
合再建術を施行し、体位変換の後、右下腹部に 1 本ポートを追加し、腹腔鏡下前方切除術した。手術時間
は 462 分で、出血量は 95ml であった。術後経過順調で、術後 1 日目から経水再開、術後 3 日目より食事再
開し、術後 10 日目に退院となった。病理結果は直腸癌が fT3N0M0 で fStageⅡであり、胃癌が fT1aN0M0
で fStageⅠA であった。
【結論】大腸癌、胃癌同時腹腔鏡手術は安全かつ腫瘍学的に適切な手術が行え、重複癌に対し有効な治療法
である。
― 119 ―
一般演題 14「下部消化管」
14-5
腹腔鏡下 S 状結腸切除術 5 年後の直腸癌に対して腹腔鏡下直腸切断術を行った 1 例
○岡 正巳、中谷 佳弘、
俊明、藤田 洋一、村上 大輔
南和歌山医療センター 外科
症例は 76 歳、男性。狭心症、骨盤骨折、脳伷塞などの既往があった。S 状結腸癌 EMR 後、sm 浸潤 1300μ
m のため平成 21 年 12 月に腹腔鏡補助下 S 状結腸切除術(DST)を行った。術後 5 年の平成 26 年 12 月の大腸
内視鏡検査で直腸 Rb に 2 型腫瘍を認め、直腸癌と診断した。再腹腔鏡手術、肛門温存手術に関して、他院
へのセカンドオピニオン、サードオピニオン受診の後、平成 27 年 3 月腹腔鏡下直腸切断術を行った。骨盤
内の大網癒着、小腸癒着は認めなかった。前回の結腸吻合部は確認できた。左腸骨動静脈の腹側から吻合
部背側にかけての癒着が強く、下腹神経前筋膜と直腸固有筋膜の間を肛門側で剥離、テープをかけた後、
癒着部を剥離した。左下腹神経は剥離することができず切除した。吻合部の口側で結腸切離した後、直腸
切断術を行い、後腹膜経路で S 状結腸人工肛門造設を行った。病理組織は adenocarcinoma(tub2>tub1),
pT2, n(-)であった。術後一時的に排尿障害を認めたが徐々に軽快、13 病日に退院した。
手術ビデオを供覧するので、ご意見、ご批判をいただきたいと思います。
― 120 ―
一般演題 15「直腸」
15-1
側方転移再発をきたした直腸 MP 癌に対して腹腔鏡下側方郭清を施行した 1 例
○太田 裕之、清水 智治、園田 寛道、植木 智之、生田 大二、仲 成幸、谷 眞至
滋賀医科大学 消化器外科
【はじめに】直腸癌に対する予防的側方郭清の適応、アプローチについては議論がある。今回われわれは予
防的側方郭清を施行せず直腸癌術後に側方転移再発をきたし、腹腔鏡下に治療的側方郭清を施行した 1 例
を経験した。【症例】61 歳、女性。検診の便潜血検査で陽性を契機に直腸癌と診断された。術前に直腸癌
Ra, cT2(MP), cN0, cM0,cStageI と診断し、腹腔鏡下低位前方切除術、上方 D3 郭清を施行した。予防的側
方郭清は施行しなかった。また子宮内膜ポリープに対して腹腔鏡下膣式子宮全摘を併施した。病理診断は
術前診断と同様で「Type1, 20mm, tub2,pT2(MP)
,int,INFb,ly1,v2,PN0,PM0, DM0, RM0, pN0,
M0, pStageI」であった。術後半年の CT 検査で右閉鎖孔近傍に大きさ 15mm の造影効果を受ける腫瘤を認
めた。PET-CT でも同部位に異常集積を認め,右閉鎖リンパ節の側方転移再発と診断した。このため腹腔
鏡下に再発リンパ節を含めた側方郭清を施行した。手術では前回手術時の創部をポート部位として利用し
た。腹腔内の癒着はほとんど認めず、超音波凝固切開装置で腫大した閉鎖リンパ節を含めて右側の側方郭
清を施行した。手術時間は 163 分、出血少量であった。術後経過は良好で術後第 8 病日に退院した。再手
術後半年を経過して再発徴候を認めていない。大腸癌治療ガイドラインによると Ra にかかる直腸 MP 癌で
側方転移率は 0%(0/149 例)であり、Rb にかかる直腸 MP 癌で側方転移率は 5.4%(20/372 例)とされている。
まれな側方転移再発に対して安全に腹腔鏡下で側方郭清を施行し得た自験例を文献的考察とともに報告す
る。
― 121 ―
一般演題 15「直腸」
15-2
腸重積を伴う巨大直腸癌に対して術前化学放射線療法により腹腔鏡補助下手術が
可能となった 1 例
○出口 真彰、堀田 司、瀧藤 克也、横山 省三、松田 健司、渡邉 高士、三谷 泰之、
家田 淳司、山上 裕機
和歌山県立医科大学 外科学第 2 講座
【目的】術前化学放射線療法を施行することにより腸重積を伴う巨大直腸癌に対しても安全に腹腔鏡手術が
施行できるかを検討した。
【方法】
症例は 54 歳男性。排便時の出血を主訴に近医を受診、大腸内視鏡検査により肛門縁直上の Rb に
1型腫瘍を認めた。生検にて Group5, tub2 であったため、手術目的で当科紹介となった。腹部 CT, MRI に
て直腸 Ra が主占拠部位で、肛門側に重積する巨大腫瘍を認め、No.251 リンパ節に最大径 10mm の腫脹を 3
か所認めた。術前化学放射線療法として、ゼローダ 1600mg/m2 の内服 , 骨盤内 total 45Gy の放射線療法を
施行した。
【結果】腫瘍は著明に縮小し、腸重責は認められなくなった。No.251 リンパ節も最大径 4mm へ縮小を認め、
腹腔鏡補助下低位前方切除術を施行した。手術時間は 298 分、出血は少量のみであった。病理結果は Ra,
type2, 30x30mm, pSS, med, INFa, ly0, v0,pPM0, pDM0, pRM0, pN0(0/8), sH0, sM0, fStage Ⅱであった。
放射線化学療法効果判定は Grade1b であった。術後経過は特に問題なく、術後7日目に退院となった。
【結論】術前化学放射線療法により腹腔鏡手術が可能となった巨大直腸癌症例を経験したので考察を加えて
発表する。
― 122 ―
一般演題 15「直腸」
15-3
術前化学療法後に腹腔鏡下手術で R0 手術が行えた膀胱浸潤を伴う直腸癌の 1 例
○下松谷 匠、東口 貴之、谷口 正展、丹後 泰久、中村 一郎、中村 誠昌、塩見 尚礼
長浜赤十字病院 外科
【症例】65 歳男性 主訴は血便、血尿。現病歴:受診の約半年前より血便、血尿を自覚していた。近医受診
し当院消化器内科に紹介となった。CT、MRI で膀胱浸潤を疑う直腸癌と診断され、大腸ファイバーで直
腸S状部(Rs)に 3 型の全周性の狭搾を伴う進行大腸癌を認めスコープの通過はしなかった。生検で tub1
class5 であった。膀胱鏡検査では左後三角部からの圧迫を認めるものの粘膜面への浸潤はっきりせず、尿
管口は正常であった。尿の潜血反応は陽性で、尿の細胞診でクラス V、adenocarcinoma の診断であった。
既往歴:35 年前痔核手術。30 年前胃ポリープで胃切除術。 高血圧、高尿酸血症、便秘症で内服治療中。
【経過】中心静脈ポートを挿入し BEV-mFOLFOX6 を 8 サイクル施行した。内視鏡、CT、MRI では腫瘍は
縮小したが、瘻孔は遺残していると思われた。
【手術】術前に左尿管にステントを挿入し、手術は腹腔鏡下に行った。下腸間膜動脈は根部で処理し、上部
直腸まで剥離後、膀胱浸潤部の周囲で膀胱壁を 5-6cm くり貫くように超音波凝固切開装置で膀胱壁を全層
性に切除した。膀胱のくり貫き部分は V-lock を用いて 2 層に縫合閉鎖した。腫瘍の肛門側 5-6cm で直腸を
linear stapler を用いて1回で切除し、切除標本を摘出後 DST で再建した。手術時間は 3 時間 55 分、出血
量は少量であった。組織学的には Type3,31x20mm,circ, pT3-SS, tub1,int,INFb, ly1(ss), v0, pPN1a, pPM0
(112mm),pDM0(41mm),pR0, pCurA, Stage Ⅲ a. 切除した膀胱壁内には腫瘍細胞は認めなかった。組織学
的効果判定基準は Grade 1であった。術後経過は良好であった。
【結論】他臓器浸潤大腸癌においても臓器や部位により腹腔鏡下手術は可能である。術前化学療法行うこと
により根治的に切除が可能と考える。
― 123 ―
一般演題 15「直腸」
15-4
前立腺浸潤が疑われた直腸癌に対し腹腔鏡下前立腺合併腹会陰式直腸切断術を
施行した 1 例
○永原 央 1)、渋谷 雅常 1)、前田 清 1)、山崎 健史 2)、木村健二郎 1)、豊川 貴弘 1)、
田中 浩明 1)、六車 一哉 1)、大平 雅一 1)、平川 弘聖 1)
1)
大阪市立大学大学院 腫瘍外科、2)同 泌尿器科学
症例は 58 歳、男性。肛門痛、血便を主訴に他院を受診となり、ほぼ全周性の、歯状線にかかる前立腺浸
潤を伴う直腸癌と診断、人工肛門造設術を施行され、術前化学療法として mFOLFOX6 を 6 コース施行後、
当院を紹介受診となった。術前評価は PR であったが前立腺の浸潤は残存していると判断し、腹腔鏡下に
腹会陰式直腸切断術、前立腺合併切除、尿道膀胱吻合による尿路再建を行った。前立腺での出血による術
野の乱れが危惧されたため、上方郭清を施行後まず直腸後壁および側壁の剥離を十分に行い、肛門挙筋も
一部切離、前壁は前立腺が露出する直前まで剥離後泌尿器科医と交代し、腹膜外経路で前立腺を切離。そ
の後会陰側で直腸を切断して標本を摘出後、尿道再建を行った。手術時間は 475 分、出血量は 200g で輸血
は施行せず。術後は明らかな合併症を認めず、術後第 10 病日に軽快退院となった。術後 5 か月経過した現在、
明らかな排尿障害、残尿は認めず現在無再発生存中である。病理組織学的には前立腺近傍の神経侵襲を認
めるものの、前立腺実質への浸潤は認めず、外科的剥離面にも腫瘍細胞は認めなかった。また腸管傍リン
パ節に 1 つ転移を認め、最終ステージはⅢ a となった。本術式は、良好な術野が得られ、確実な切除が得
られる点で非常に有用な術式であると思われた。
― 124 ―
一般演題 15「直腸」
15-5
クローン病関連直腸肛門管癌に対し腹腔鏡下手術を施行した一例
○三宅祐一朗 1)、水島 恒和 1, 2)、高橋 秀和 1)、原口 直紹 1)、西村 潤一 1)、畑 泰司 1)、
竹政伊知朗 1)、山本 浩文 1)、土岐祐一郎 1)、森 正樹 1)
1)
大阪大学医学部附属病院 消化器外科、2)大阪大学大学院医学系研究科 炎症性腸疾患治療学寄付講座
【緒言】クローン病関連大腸癌の報告は増加している。今回、クローン病発症後 25 年目に直腸肛門管癌を
発症したが手術拒否のため悪性疑いの診断から 16 か月経過観察した症例を経験した。最終的には腹腔鏡下
に治癒切除が実施可能であったので報告する。
【症例】48 歳男性。22 歳時より小腸大腸型クローン病として前医で内科的治療にて経過観察されていた。
30 歳時に回腸直腸瘻に対して開腹下直腸前方切除、回盲部切除を施行された。その後、通院を自己中断さ
れていたが 38 歳時、回結腸吻合部の狭窄に伴うイレウスに対して開腹下回腸結腸バイパス術を施行された。
今後の継続した診療のために 2014 年 1 月に当院へ紹介受診となった。来院時、下部消化管内視鏡検査にて
下部直腸に 2cm 長の潰瘍を伴う狭窄を認め、同部より生検を施行したところ病理組織学的検査にて Group4
と診断された。手術を勧めるも本人が拒否されたため経過観察を行っていたが、2015 年5月、肛門痛が増
強したのをきっかけに同意が得られた。複数回の手術歴があり腹腔鏡手術は困難と考えられたが、腹膜播
種など非治癒因子により人工肛門造設のみとなる可能性も考慮し審査腹腔鏡も念頭において腹腔鏡下に手
術を開始した。腹壁や後腹膜には高度の癒着を認めたものの腸管同士の癒着は剥離可能であった。腹膜播
種などは認めず、腹腔鏡下に D2(proxD3)郭清を伴う直腸切断術を完遂し得た。術後合併症を認めず経
過良好であった。切除腸管の病理組織学的検査にて直腸肛門管の高分化型の adenocarcinoma と診断され、
筋層までの浸潤が認められた。
【結語】非特異的な治療経過をたどったクローン病関連直腸肛門管癌を経験した。複数回の手術歴や癌の進
行の可能性にも関わらず腹腔鏡下に手術完遂可能であり試みるべき選択肢と考えられた。
― 125 ―
一般演題 16「大腸合併症工夫」
16-1
虫垂粘液嚢胞腺腫に対する腹腔鏡下回盲部切除での Endo Catch の有用性
○横山 省三、瀧藤 克也、堀田 司、松田 健司、渡邉 高士、三谷 泰之、家田 淳司、
岩本 博光、出口 真彰、山上 裕機
和歌山県立医科大学 外科学第 2 講座
虫垂粘液嚢腫は術中操作により嚢胞内容物の漏出および散布により腹膜偽粘膜腫の原因となることから慎
重な手術操作が必要となる。虫垂粘液嚢胞腺腫2症例に対し腹腔鏡補助下回盲部切除術を施行し、病変部
からの内容物漏出・散布予防に Endo Catch を使用したので報告する。2 例とも術前に良性疾患である確
定診断ができなかったため術式を腹腔鏡補助下回盲部切除とした。ポート位置は臍部 12mm、左上下腹部
5mm、右下腹部 5mm、右上腹部 12mm で行い、小開腹は右上腹部で行った。内側アプローチから開始し、
回盲部から上行結腸、横行結腸右側を授動させたのち、腫瘍部の内容液漏出予防処置に移った。1 例目は
Endo Catch Ⅱを使用したが、袋の口径が大きく骨盤内での操作に難渋し保護せずに腹腔内へひきだしたが、
内容液の漏出なく体外へ引き出すことが可能であった。2 例目は Endo Catch Gold を使用したが、右上腹
部に小開腹創をおいたため Endo Catch Gold の着脱の脱に難渋したが、内容液の漏出なく体外へ引き出す
ことが可能であった。虫垂粘液嚢胞腺腫に対する手術法はより視野の良好な腹腔鏡補助下回盲部切除術が
よい適応と考えられる。内容物漏出予防の1つとして Endo Catch Gold があげられるが、狭い骨盤から腹
腔内での処置であり、破裂のおそれがある病変では操作に注意が必要である。
― 126 ―
一般演題 16「大腸合併症工夫」
16-2
S 状結腸癌を合併した完全直腸脱に対する腹腔鏡下直腸固定法の工夫
○前田 恒宏、白井 康嗣、岩倉 伸次、玉川 孝治、冨永 敏治、中瀬 隆之、谷島 裕之、
木村 正道、碇 絢菜、堀内 哲也
大阪南医療センター 外科
今回、S 状結腸癌を合併した完全直腸脱に対して、メッシュを用いない2つの直腸固定法の併用した腹腔
鏡下直腸固定術を実施したので報告する。症例は 80 歳・女性。20 年来の脱肛と便失禁を主訴に来院。初
診時 5cm 長の完全直腸脱を認めた。術前精査の大腸内視鏡検査で SD 部に 3 型腫瘍を認めた。2015 年 4 月完
全直腸脱を合併した S 状結腸癌に対して手術を施行した。まず、内側アプローチで S 状結腸間膜を後腹膜
から授動した後、肛門側の剥離を背側は尾骨近傍まで腹側は Denonvilliers 筋膜を左右から交通させるまで
切開剥離を行った。この時点で臍部を小開腹し、D2 郭清の S 状結腸切除術を実施した。再建は functional
end to end で行った。再気腹後、直腸固定術を施行した。直腸固定法としては、メッシュを用いない方法
を選択した。まず、吻合部の肛門側をポリエステルテープで頭側に牽引し、剥離した肛門側の直腸間膜と
仙骨前面をタッカーで4ヵ所固定する Sudeck 変法を行った。さらに、直腸前壁を左小腸腰筋に縫縮固定
する Bacon 法で2針直腸固定の補強を行った。手術時間は 270 分、出血は少量であった。S 状結腸癌の病理
診断は、mp,n0 で臨床病期Ⅰであった。術後イレウスを生じたが保存的に軽快し、術後 24 病日退院となった。
退院後も直腸脱の再燃や便失禁を認めていない。
― 127 ―
一般演題 16「大腸合併症工夫」
16-3
直腸癌術後における縫合不全危険因子の検討と治療成績
○増田 剛、永原 央、澁谷 雅常、久保 尚士、田中 浩明、六車 一哉、八代 正和、
前田 清、大平 雅一、平川 弘聖
大阪市立大学 腫瘍外科
【はじめに】縫合不全は直腸癌術後に最も問題となる合併症である。縫合不全症例のリスク因子の検討と
当科における治療成績を報告する。【対象と方法】2008 年 1 月∼2013 年 12 月に腹腔鏡下低位前方切除術を
行い DST 吻合を施行した直腸癌患者 146 例を対象とした。縫合不全の診断は、ドレーンからの便汁の漏出
やドレーン造影での瘻孔の確認、腹部 CT 検査での吻合部周囲の膿瘍の存在など、臨床所見と画像所見か
ら総合的に判断した。リスク因子として年齢、性別、腫瘍径、深達度、リンパ節転移、郭清範囲、手術時
間などの計 20 の因子と縫合不全との相関関係を検討した。術後の縫合不全予測因子として術後 3(or4)日
目の血清 CRP 値の縫合不全診断における有用性に関しても ROC 曲線を作成し検討した。また、当科では
2010 年 10 月以降、縫合不全減少への取り組み(吻合部の補強や直腸切離回数の減少など)を開始しており、
2008 年∼2013 年の年次的な縫合不全発生率についても検討した。【結果】21 例(14.3%)に縫合不全を認めた。
糖尿病、腫瘍径、腫瘍局在、直腸の切離回数、手術時間が縫合不全と有意な相関関係を認め、多変量解析
では糖尿病と腫瘍径が縫合不全の有意な危険因子であった。術後 3(or4)日目の血清 CRP 値における縫合
不全の診断においては、血清 CRP 値 7.91 mg/dl を cut off とすると、感度 76.2%、特異度 80%、陽性的中率
38.8%、
陰性的中率 95.2% であった.また縫合不全の発生率は後期群(2011∼2013 年)で 8.4% と、前期群(2008
∼2010 年)と比較し減少を認めた。【結論】腹腔鏡下低位前方切除術の DST 吻合においては、糖尿病と腫瘍
の大きさが縫合不全の危険因子であり、縫合不全に対する万全な対策が必要である。術後の CRP 高値は縫
合不全の診断に有用であり、CRP 高値であれば腹部CT検査やドレーン造影を考慮する必要がある。また、
後期群での縫合不全発生率の低下は縫合不全対策の結果と考えられ、手術因子のより詳細な検討が必要と
考えられた。
― 128 ―
一般演題 16「大腸合併症工夫」
16-4
当院における腹腔鏡下直腸癌手術の縫合不全防止への取り組み
○田村 耕一、庄野 嘉治、石田興一郎、中 禎二、合田 太郎、小松 弘明、野口 浩平
泉大津市立病院 外科・内視鏡外科
直腸癌手術において,術後縫合不全は重大な合併症の一つである.手術因子としては吻合部の腸管血流不
全や過度の緊張などが挙げられる.当院における腹腔鏡下直腸癌手術の縫合不全発生の予防と対策を報告
する.
手術は通常5ポートで行う . 内側アプローチで左側結腸から直腸までの授動を行うが,吻合部腸管に過度
の緊張がかかるときは腎前筋膜前面で膵下縁を意識して剥離をすすめておく.また,直腸の可動性を増す
ため直腸側壁から後壁の授動を十分に行う.直腸切離に際しては,ピオクタニンを用いて環状にマーキ
ングし,間膜の腸管軸に直角な剥離を心がけて愛護的に行う.KARL STORZ 社の有窓型の弯曲鉗子(以
下,ダックビル鉗子)を用いて間膜右壁から時計回りに間膜処理を進めるよう定型化している.小開腹後
の口側腸管血流確認には,辺縁動脈拍動の触知とともに ICG 蛍光法にて可視化する.血流不全が疑われた
際は,腸管追加切除の際のメルクマールに有用である.DST 吻合の際は本体のシャフトを直腸切離断端ス
テープル背側で打ち抜くようにする.吻合後は全例,air leak testing と大腸内視鏡検査を施行し,吻合部
の integrity の確認を行う.吻合部の漿膜筋層の補強や脾彎曲部の授動は必要と判断すれば,躊躇せず行う
ようにしている.ドレーンは原則としてダグラス窩に留置している.予防的な意義はないとされているが,
information として有用と考えている.
当院の腹腔鏡下直腸癌手術における縫合不全防止への取り組みを開始して以降,縫合不全を認めていない
ことから,妥当かつ有用であると考えられた.また,日本内視鏡外科学会技術認定(大腸)の取得を目指
す上でも手技の定型化は重要であるため,ダックビル鉗子の有用性を含め,手技を供覧する.
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一般演題 16「大腸合併症工夫」
16-5
腹腔鏡下に直腸間膜内腫瘍を核出し得た症例
○光藤 傑、友松 宗史、小野朋二郎、岸本 昌浩、生田 真一、張 宇浩、木村 文彦、
相原 司、柳 秀憲、山中 若樹
医療法人明和病院
【症例】66 歳、
女性。子宮がん検診にて近医受診、
経膣エコーにてダグラス窩に 5cm 大の充実性腫瘤を認めた。
精査の MRI にて右付属器腫瘤、後腹膜腫瘤を疑われたため精査加療目的で当院紹介受診となった。採血で
は貧血など認めず、CEA:1.1、CA19-9:8.0 と腫瘍マーカーは基準値内であった。CT では直腸右側に造
影効果を伴わない 55 × 45mm 大の境界明瞭な腫瘤性病変を認め、MRI では同腫瘍内に筋組織や脂肪組織と
同強度の信号を呈する部位が混在していた。神経
腫の術前診断の元に腹腔鏡下での切除が予定された。
直腸右側の後腹膜腔に表面平滑で境界明瞭な、周囲との癒着を認めない 50mm 大の病変を認めた。直腸を
含めた周囲臓器を摘出することなく腫瘍核出術を施行し得た。摘出標本の病理検査では HE 染色で紡錘形
細胞が束状構造を呈し間葉系腫瘍の診断であり、免疫染色ではα -SMA(-)、S-100p(-)
、c-kit(-)
、CD34(-)
であることより平滑筋腫と診断した。
【結語】後腹膜腫瘍は全腫瘍の 0.2%、軟組織肉腫の 5∼10%、後腹膜
腫瘍のうち平滑筋腫(肉腫)の占める割合は約 8%とされており非常に稀な疾患である。腹腔鏡下に直腸間
膜内腫瘍を核出し得た症例を経験したので報告する。
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