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Development of Robotics materials to improve thinking ability and creativity Yasufumi Kawarada 横浜国立大学教育人間科学部紀要Ⅳ(自然科学)№10 別刷 Reprinted from THE NATURAL SCIENCES Journal of the Faculty of Education and Human Sciences Yokohama National University No.10, FEBRUARY, 2008 発想を広げ、思考力を高めるロボット教材の開発 川原田 康文 Development of Robotics materials to improve thinking ability and creativity Yasufumi Kawarada 子どもたちの生涯にわたる力を伸ばすため、自ら問題を発見し、筋道を立てて理解していく力を 養うための教育実践に、ロボット教材は最適であると考える。その理由として、実際の動きが体験 できる(興味付け)とセンサー(入力)及びアクチュエーター(出力)の関連を、それらを介在す るプログラムで制御する(論理的思考)が実践できるところにある。そこで、神奈川県立総合教育 センターとの共同で、ロボット教材の開発を行った。 キーワード:ロボット教材 思考力 フローチャート式プログラム 1.はじめに 現在、教育に求められている力は、現行の学習指導要領にもある「生きる力」である。その母体 となるものは何か。様々な議論が行われてきているが、学習者が自ら学習していこうとする力、そ して課題にぶつかっても思考錯誤を繰り返しながら立ち向かっていく力である。自発的に向上し続 けようとする力がある限り、その人間は成長し続けるものである。相互にコミュニケーションを取 りながら成長できるものであると考える。 2.問題解決能力の視点からみたロボット教育 技術・家庭科の技術分野の学習の進め方を大き く分けると2つに分けることができる。一つは、 ステップをふんで進めるタイプであり、もう一つ はループの中で繰り返し進めるタイプである。そ れぞれを図に表すと、図1のようになる。一般的 に技術分野の学習では、木などを使った製品づく りの学習は左側のタイプであり、ロボット学習は 右側のタイプである。これは、学習内容により異 なると考える。問題解決の学習は、何度でも元に 戻り、繰り返し学習することで能力が高まると考 えられ、右側のタイプの学習の方が有効的である と考える。そして、何か課題に向けて取り組むと 図1 技術分野の学習の進め方 28 川原田 康文 き、一つ一つのステップの順序を間違えずに行うことが大切である。ロボット学習にプログラム学 習を組み入れることで、アルゴリズムの考えも定着させることができ、“つくる”という思考の広が りがさらに増大する内容になると考える。 3.技術分野におけるロボット教育 技術・家庭科の技術分野では、以前より作業を中心として、問題解決の学習指導を展開してきた。 木や金属などの材料を使ったものづくり、機械部品や電気部品を使ったものづくり、センサーを使 った計測・制御、栽培などもすべてこの課題解決の学習指導として実施している。現行の学習指導 要領では、木、金属など材料別に学習を展開していたものを、目的や考え方を重視し、複数の材料 を使い学習の展開をしている。最近では、ものづくりと情報の学習をドッキングさせ、それぞれ学 習に関連づけを持たせ、進めている実践事例も数多くみられる。現在の子どもたちの様子、社会の 変化をみていると、このような学習はさらに取り入れていく必要があると考える。なぜなら、日頃 の生活の中での学習体験が単純化し、それぞれの学習内容を関連づけることができない状態がみら れるからである。そのような意味で総合的な学習の時間は、とても有効的に働いていると考える。 では、技術分野の学習ではどうであろうか。ものづくりと栽培の学習、機械部品や電気部品を使っ たものづくりや栽培と計測・制御の学習が考えられる。前者は、いろいろな展開が容易に考えられ るが、後者は、その学習に適した教材、題材の開発が必要である。そこで、次のような観点でロボ ット教材の開発を行った。 開発の視点 1 ロボット本体は、自由な形が考えられる。 2 学習の汎用性がある。 3 リモコン型、自律型の両方のロボットが製作できる。 4 自律型ロボットに必要なプログラムは、複雑なコマンドを入力するのではなく、アイコ ンをつなげ、動きの順序が、視覚的に理解できるようにする。 5 価格は、安価である。 4.開発したロボット教材(Robo X) 中央教育審議会初等中等教育分科会 家庭、技術・家庭、 情報専門部会の7月20日の家庭、技術・家庭、情報部会の 議事録では、『ものづくりでは、単にものをつくらせるので はなく、創造・工夫する力や、活動の中で生じる問題を解 決できる力などの育成を目指した学習活動を重視する必要 性や、先を見通してものづくりに取り組む必要性がある。 さらに各校種を通して、このような学習の必要性や、高校 の情報で取り上げられているが、問題解決に必要な分析力、 計算力、表現力、計画力(アルゴリズム)、シミュレーショ 図2 Robo Xの学習システム 29 発想を広げ、思考力を高めるロボット教材の開発 ン力を身に付けさせる必要性が求められている』とある。 今回開発したロボットは、上記の開発の視点に基づ き、中教審の視点を網羅した製品になるように検討し た。現行の学習指導要領になってから学習に重複を極 力避け、構成されてきている。そのような状況では学 習の内容を相互に関連付け、少ない時間で総合的に進 める必要があることも考慮したい。つまり今回、開発 したロボットは、現在の学習状況と、生徒にとって学 習させる必要がある内容の両方を相互に関連させ、有 機的に進めることができるように考えた。学習の進め 方としては図2・3に示す通りである。 この教材を使って、それぞれの学習が、相互に関連 付けられ、進めることができると考える。また、ロボ ットのボディは、自由に考えることができるので、 様々な材料を使ったものづくりの学習とあわせて、幅 図3 Robo Xを使った学習の展開 広い学習に耐えられるものであると考える。 5.制御回路(RoboBrain) 開発にあたって、電子工作等でよくみかけるPIC(Peripheral Interface Controller)を使用 した。PICとは、コンピュータの周辺に搭載されている周辺機器の接続部分を制御するために開発 された「マイクロコントローラ(ワンチップマイクロコンピュータ)」と呼ばれるICのことである。 今回使用したPICは、Microchip社のものであり、1つのICの中に様々な機能が含まれていて,そ の中にプログラムを書き込むことで様々な動作をするのである。 ATMEL社のAVRも同様であるが非常に多くの種類がある。PICは、 今回は16F88というチップを使用した。16F88は16F84を改良したIC であり、メモリ容量等を大きくしたもの である。なお、CPUは、内蔵の発信機で、 4MHzで動作している。 図4 16F88の写真 図5 16F88のメモリの割り当て 図6 16F88のピンの割り当て また、モータドライバに東芝製のTA7291Pを使用した。このモータドライバは、1A(ピーク時2A) の電流が流せるので、模型用のDCモータ(マブチ製FA130など)を駆動することができる。 今回の学習のねらいを達成させるために、次のような特徴を持たせた。 【ハードウェアの特徴】 (1)ブートローダーの書込み機能を実装させた。これにより、別途プログラマを用意する必要がなくなった。 (2)ファームウェアのアップグレード機能を搭載した。これにより、利用者が簡単にアップグレードできるよ 30 川原田 康文 うにした。) (3)すべてのセンサーポートで、デジタル、アナログ及び通信機能つきセンサーを利用可能にした。 (4)メロディの演奏機能を搭載した。また、他の動作との同時演奏を可能にした。 (5)有線リモコンの接続を可能にした。これにより、リモコン式でも操作を可能にした。 【制御ボードの仕様】 CPU:マイクロチップ PIC16F88 入力:シリアル入力×1(プログラム転送、PC通信) センサー入力×6(デジタル、アナログ、通信機能つきセンサーで排他利用) スイッチ×2(スタートボタン、ストップ兼リセットボタン) 出力:DCモーター(1A)×3 スピーカー×1(メロディ演奏用) 動作表示用LED×1 ユーザープログラムサイズ:動作プログラム=256ステップ、メロディ=80音を3曲 動作電圧:5Vまたは3.3V 電源電圧:9~12V(ブートローダー書込み時) 6V(内部5V動作時) 4.5V(内部3.3V動作時) 基板サイズ:50mm×80mm 制御ボードの実体写真(図7)及び回路図(図8)は次の通りである。 図7 制御ボードの実体写真 発想を広げ、思考力を高めるロボット教材の開発 図8 制御ボードの回路図 31 32 川原田 康文 表1 電源用端子・モーター用出力端子・センサー用端子の入出力電圧及び電流の値 電源用端子 モーター用 出力端子 センサー用端子 仕様電圧 6V~12V 0~3V ※ ※ ブートローダーを転送するときは、9V 以上の電圧が 必要。 モーター用出力電圧は、制御用半固定抵抗器でも調整 可能 5V 表2 作成したセンサー タッチセ ンサー 光学セン サー (マイクロ スイッチ使 用) (レンズ付 き反射形 フォトリ フレクタ 使用) フォト イ ンタラプ タセンサ ー 距離セン サー (フォトイ ンタラプタ 使用) (シャープ 製赤外線 センサー 使用) 温度セン サー 照度セン サー (IC温度セ ンサー使 用) (フォトト ランジス タ使用) 6. ソフトウェア(RoboBuilder) 中学校の技術・家庭の技術分野の指導内容にもあるが、細かな命令(言語)を覚えるのではなく、 仕組みを理解し、その考え方を理解し、いろいろな考えを持たせることが望ましい。そこで、命令 をアイコン化にして、ブロックのように並べていくフローチャート式プログラミ ング環境のプログラムができるように考えた。例えば、右のような車を前進させ るには、両輪を順回転させなければいけない。また、右にゆっくりと回転するに は、左の車輪を順回転、右の車輪をすこしだけ順回転させることで右方向に回転 させることができるのである。このように考えた動きをさせるためには車輪をど の方向に回すのか、センサーはどうあるべきなのか、反応したときどのように動 発想を広げ、思考力を高めるロボット教材の開発 33 きを変えればいいのか、自分の考えで動きを予想し、プログラムを組み立てることが大切であると 考えた。 【ソフトウェアの仕様】 (1)マルチタスク機能の実装(最大8タスクの同時実行) (2)マウスのみで、すべての操作(値の入力を含む)を実現 (3)作成したプログラムを日本語の文章とBASICプログラムで表示可能 (4)センサー値の表示機能 (5)メロディの作曲及び演奏機能(最大3曲) (6)市販のロボット教材への対応 作成したソフトウェアの画面は次の通りである。 図9 ソフトウェアの画面構成 34 (1) 川原田 康文 ソフトウェアの命令一覧 下の図10が、今回作成したソフトウェアの命令の一覧である。 ・ モーターは、左回転、 右回転、減速や加速、 反転の命令 ・ センサーは、アナロ グセンサー、デジタ ルセンサー、インテ リジェントセンサ ーの命令。 ・ 接続は、すべての動 きに対応した命令 ・ タイマーなどでは、 時間、タスク、変数、 メロディ等の命令 それぞれ、上部にあるタ グで表示を変えて、選べ るようにした。 図10 (2) ソフトウェアの命令一覧 プログラムの作成の考え方 プログラムを考えるとき、目的の動作をさせるためには、どのような動き(センサーの条件とモ ーターの回転の関係)をさせればよいのかを重視したいと考えた。例えば、ラインの右側をトレー スさせるときのプログラムを作成するとき、その考え方をフローチャートで表すと、図11のように なる。そして、作成したプログラムは、図12のようになる。 図11 フローチャート例 図12 プログラム例 図11と図12からわかるように、プログラムの流れは接続の流れにしたがって戻るようになっている。 このように、ほぼ同じ形に作ることができ、自分の考えが視覚的に分かり、アイコンを並べていく ことで簡単に作成できるようにした。このプログラムを使って学習することで、原理を知り、初心 発想を広げ、思考力を高めるロボット教材の開発 35 者でも容易にプログラムを作成することができると考える。 図13 マルチタスクを使った例 図14 迷路抜けのフローチャートとプログラム例 図13は、マルチタスクを使い、2つの光センサーを使ったプログラム例であり、図14はタッチセン サーを使った迷路抜けのフローチャート例とプログラム例である。 また、図15に示すように作成したプロ グラムを日本語で表示、BASICでも表 示することができるようにした。このこ とにより自分が作成したプログラムが どのように進んでいくか簡単に理解で きると考える。 このように作成したプログラムを日 本語で表示することで、実際にどのよう にプログラムが進んでいくのか確認す ることができ、BASICで表することで プログラミングの言語としての知識を 身に付けさせることもできると考える。 (3) ロボットの設定 初期設定等のコマンドは、通常見えな い状態にしておくことで、画面を見やす くした。また、初期設定の命令は、左上 のロゴをクリックすると、図16のように 表示されるようにした。 図15 ソフトウェアの機能 36 川原田 康文 図16 (4) ロボットの初期設定 センサーの読み取り値 各センサーの読み取り値は、リアルタイムでその読み 取り値を表示させることができる。方法としては、パソ コンと制御ボードをコードでつなぎ、制御ボードの電源 を入れ、右上のロゴをクリックすることで表示される。 第17図は、実際にアナログセンサーで読み取っている値 の画面である。また、各センサーの読み取り値は、表3 に示す通りである。 表3 センサーの種類とその読み取り値 センサーの種類 アナログセンサー デジタルセンサー インテリジェントセンサー 7. 第17図 センサーの読み取り値 読み取り値 0 ~ 100 1 か 0 00h ~ FFh このロボット教材での授業展開例 この教材は前述した通り、課題にあわせ、自由にロボットをつくることができる点と、リモコン モードから、自走モードへの発展が特徴である。例えば、次のような展開が考えられる。 ① 課題を初めに提示し、最終目的を伝える ② 学習を通しながら、自分のロボットを設計し、部品加工をし、組み立てる ③ リモコンモードで競技会をする ④ RoboBrain を取り付ける ⑤ RoboBuilder を使ってプログラムを作成する ⑥ 必要に応じて、ロボットを改造する ⑦ 自走モードで競技会をする ⑧ 学習のまとめ この展開から、ロボットに自分の考えを組み込み、形にし、考え通りに動かす、という製作学習 を通して、学習要素としては ①設計 ②けがき ③材料取り ⑦プログラムの考え方 ④組み立て ⑤電気のしくみ ⑥動力伝達のしくみ ⑧計測・制御のしくみ があげられる。これらの学習を通して、思考錯誤を繰り返しながら、様々な学習が展開できるこ とが予想される。 発想を広げ、思考力を高めるロボット教材の開発 表4 ロボット製作例 37 38 8. 川原田 康文 おわりに 近年、ロボット教材は、非常に脚光を浴びている。しかし、自由にロボットの形状を考えたり、 材料を自由に選んだりできるロボット教材は少ない。今回、子どもたちに、「こんな学習をさせたい」 という思いを実現させるために、3人で開発を行った。ロボット教材は、学習者の夢と思考の広がり の可能性が無限にあると考える。また、プログラムも難しい言語が並ぶのでは、学習に対して興味・ 関心は低くなる。今回開発したアイコンを使ったフローチャート形式のプログラムソフトは、学習 者の考えを視覚的に表示でき、学習への抵抗感は少ないと考える。 さらに、ロボット教材を使った学習は、単なるステップ毎に進むのではなく、スパイラルに学習 が進むことによって、学習に深まりができ、思考力や表現力、またチームで取り組むことにより、 コミュニケーション力が醸成されると確信している。 現在、県内の中学校で授業検証を行っている。改良型の開発とともに、さらに研究を進めていき たい。 また、現在、RoboBrainを使った動くロボット以外の製作に取り組んでおり、少しでも多くの題 材をカリキュラムと一緒に開発したいと考える。 今回研究を進めるにあたり、神奈川県立総合教育センターカリキュラム支援課長の西原秀夫氏、 神奈川工科大学非常勤講師の木村邦明氏には多大なる協力を頂いた。この場をお借りして感謝の気 持ちを込め、御礼申し上げる。 参考文献 ・森 政弘,ロボコン博士のもの作り遊論,オーム社,2001 ・文部科学省 門部会 中央教育審議会 議事録 初等中等教育分科会 教育課程部会 家庭、技術・家庭、情報専