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ヨーロッパの日本語教育における CEFR 浸透についての実態調査【調査

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ヨーロッパの日本語教育における CEFR 浸透についての実態調査【調査
ヨーロッパの日本語教育における CEFR 浸透についての実態調査【調査グループ】
第1章
1
調査グループの調査研究の背景と意義
はじめに
2003 年から約 1 年半の期間で国際流基金の委託事業として行われ、2005 年 3 月に『ヨー
ロッパにおける日本語教育と Common European Framework of Reference for Languages』を出版
した AJE-CEFR プロジェクトから 10 年がたった。その間、CEFR(「欧州言語共通参照枠」)
の知名度はあがり、CEFR に準拠した日本語教育を考える場も広がってきた。しかし、欧州
各国の歴史や言語を踏まえて作られた「欧州言語共通参照枠」を、日本語教育の場に導入す
る難しさを感じている日本語教育関係者もいる。CEFR には、日本語教育に関しては使える
部分が少ないという声も聞こえる。CEFR、特に「Can Do Statements」(「Can Do リスト」)
への注目度が高く、「Can Do」の先走り感が拭えない。
その一方で、ヨーロッパにおいては、エラスムスなどの留学生枠を通して、日本語関係の
学生の移動がますます盛んになってきている現実がある。それに従い、学生の日本語能力の
記述に CEFR を参照、あるいは活用する機関も増えてきている。
しかし、実際のところ、ヨーロッパにおける日本語教育機関において、CEFR はどのぐら
い浸透してきているのか。どのような経緯を経て CEFR は浸透してきたのか。CEFR の浸透
は、具体的には日本語教育のどの部分に反映しているのか。そして、CEFR が浸透した結果、
どのような影響が見られたのか。また、それらの現状はヨーロッパにおける日本語教育に、
どのような可能性と今後の展望をもたらすのであろうか。
このような疑問に答えるためには、かなり大規模な調査が必要となる。個人の研究では、
情報収集網や分析対象に限りがある。そこで、調査グループは日本語教師会のプロジェクト
の一部として立ち上げられた。本調査の意義とは、ヨーロッパにおける日本語教育の現時点
での全体像と基本情報を、数年後にさらに研究するための資料として提供するという点にあ
る。以下はその報告である。
2
2005 年 AJE-CEFR プロジェクトの概観
まず、本調査の比較対照となる 2005 年に発行された AJE-CEFR プロジェクトの報告書の
内容を概観することから始める。2003 年に始まった AJE-CEFR プロジェクトの目的は、欧州
評議会が制定した CEFR を把握し、それが域内の日本語教育に及ぼす影響や効果を展望する
ことにあった(2005, p.5)。この時点で CEFR を外国語教育に導入していたのは、主として欧
州におけるヨーロッパ言語の教育機関である。その為、2005 年のプロジェクト報告書では、
CEFR 誕生までの歴史的背景、CEFR の基本姿勢と内容、ヨーロッパ言語ポートフォリオ(ELP:
European Language Portfolio)の紹介を第 1 章とし、多くのページを割いている。
1
第 2 章では、ベルギー、フランス、ドイツ、ハンガリー、アイルランド、オランダ、スイ
ス、英国の 8 国における教育事情一般、及び日本語教育事情が取り上げられている。これら
8 国の中で、2005 年の時点で既に CEFR を積極的に参照、活用しはじめていたのは、ベルギ
ー及びハンガリーの日本語教育機関であった。また、ELP の導入に限って言えば、ドイツ、
アイルランド、スイスの中等教育における日本語教育機関が、積極的にその導入に取り組ん
でいる、と報告されている。
最終章である第 3 章は「これからの日本語教育の可能性」と題し、日本語教育の課題とし
て、日本語教育の広がり、学習者の変容、評価基準の必要性、日本語教師の抱える問題点が
述べられている。日本語の学習者像の変容として、学習者の低年齢化、大衆化、多様化とい
う点があげられている(p. 238)。そして、日本語学習者の変容に合わせて、学習者の移動
(mobility)、透明性(readability)、比較可能性(comparability)をも考慮した言語能力を評価
する共通の評価基準の必要性が唱えられている。また、CEFR が日本語教育へ示唆するもの
として、その言語観、言語学習観、言語教育観の理解、その政治・経済的背景を含んだ言語
政策、そしてその汎用性が挙げられている。さらに、現場への浸透に向けての動きとして、
専門家の選出、カリキュラム、シラバスのデザイン、教材の開発、教員の研修、養成といっ
た段階の必要性を論じている。
最後に、ヨーロッパから日本語教育界への提言として、ドイツ語の Profile Deutsch やフラ
ンス語の Un Référentiel のような共通基準に基づいた参照本を作成することが提唱されてい
る。共通枠組みの制定、その実用にむけてのガイドライン、教育ツールの作成ができるよう、
日本語教育における連携体制が望まれる、と結んでいる。
3
ヨーロッパにおける日本語教育の過去 10 年の変遷
2005 年の報告書の内容を上記で概観したが、その発行から 10 年の間に、ヨーロッパ全体
として日本語教育にどのような変遷が見られたのであろうか。2005 年の報告書には国際交流
基金「2003 年海外日本語教育機関調査」結果概要からの統計が引用されている(p.227)。そ
れによると、その時点において、世界全体で日本語教育に携わる機関数は 12,222 機関であり、
そのうち、東欧(旧ソ連の中央アジア諸国を含む)も含めたヨーロッパの日本語教育は、機
関数 1,361 機関となっている。また、ヨーロッパにおいて日本語教育にたずさわる教師数は
3080 人、学習者数 81,002 人と記載されている。それ以前の 1998 年の調査結果より学習者数
が 29.5%伸びていることが、特筆に値すると述べられている。また、教師に関しては、非母
語話者教師が増えていく傾向にあることが記されている。
国際交流基金の日本語教育機関調査は、2003 年度以降は 3 年ごとに結果が発表される1。
今回の調査を行う上で一つの指針となるので、一番最近の調査である 2012 年の結果を、2003
1
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/result/index.html を参照のこと。
2
年のそれと比較してみよう。2012 年の調査結果においては、東欧も含めたヨーロッパにおけ
る日本語教育を行っているとされる国は合計 40 カ国である(西欧 20 カ国、東欧 20 カ国、中
東のトルコと中央アジアのカザフスタン)。また、機関数は合計 1,414 機関で、2003 年度の
時点から 53 機関増えている。また、教師数は 3839 人で 759 人の増加、学習者は 101,544 人
で 20,542 人の増加となっている。
4
CEFR の浸透と実態調査の必要性
上記で見たように、ヨーロッパにおける日本語教育の機関数、教師数、学習者数、全てに
おいて、この 10 年で増加が見られる。このことは、2005 年の時点と比較し、さらなるヨー
ロッパの日本語教育の多様化を示唆している。
確かに、2005 年の調査からの 10 年は、ヨーロッパの日本語教育における変動期とも言え
る。2005 年までがヨーロッパ言語を中心とした CEFR の流れだとしたら、その後の 10 年は、
日本語を含めたヨーロッパ言語以外の言語においても、CEFR を何らかの形で参照、あるい
は活用する流れが起こった時期だと言える。学生の移動もそれに拍車をかけている。EU が
助成しているエラスムス・プログラムなどのヨーロッパ域内留学制度などを使って、学習者
の移動(mobility)がさらに増えている可能性もある。その影響が日本語教育に何らかの形で
反映していることは、想像に難くない。
10 年という時間を経て、ヨーロッパにおける日本語教育の実情はどのように変わったのか。
多様な日本語学習歴や背景をもった学習者の言語能力を正しく捉え、日本語教育の継続を図
るよう、日本語教育機関や関係者間で連携が行われるようになってきているのだろうか。
本調査では、現時点のヨーロッパにおける日本語教育の基本情報と全体像をまとめ、数年
後、さらに研究するための資料を提供することを第一義としている。日本語教育の現状を正
確に把握し、それぞれの教育機関が直面している課題を明らかして初めて、今後の方向性や
可能性を検討することができる。その意味においても、ヨーロッパにおいて定期的に現状・
実態調査を行うことは必要だと考える。
3
第2章
アンケート調査
1 目的と研究課題
「調査グループ」が行う調査の目的は、大きく分けて 2 つであった。まず、第一の目的は、
欧州の日本語教育機関における CEFR の浸透状況を調査することにある。2003 年から約 1 年
半の期間で国際流基金の委託事業として行われ、2005 年 3 月に『ヨーロッパにおける日本語
教育と Common European Framework of Reference for Languages』を出版した前回の AJE-CEFR
プロジェクトでは、当時、CEFR がまだあまり浸透していなかったため、調査の対象国は 8
か国に過ぎなかった。前回の CEFR プロジェクトから 10 年弱経った現在、CEFR の浸透状況
もかなりの広がりを見せており、更なる調査が必要とされている。
「調査グループ」では、欧
州各国、各地域における初等教育から中等、高等教育及び成人教育に至る日本語教育機関で
の CEFR の浸透状況に関する情報を集約し、それを AJE 会員が共有できる形で還元していく
ことを、第一目的とした。
第二の目的は、CEFR の参照・活用に関する解釈や、様々な形での CEFR 実践に関する考
察を収集・整理し、欧州の日本語教育と CEFR の今後を考える上での基礎的情報を整備する
ことにある。一言で「CEFR の参照・活用」と言っても、どのように参照・活用しているか
というのは、様々な解釈がある。また、何をもって「CEFR を参照・活用している」と言え
るかが問題になることもある。実態調査をもとに、その情報を整理し、まとめることを目的
とした。
上記の目的をもとに、調査グループでは以下を研究課題とした。
【研究課題】
1.
欧州の日本語教育機関において CEFR はどのぐらい浸透しているか。
2.
CEFR の参照・活用はどのぐらいされているのか。
また、上記の研究課題を細かく調べるための二次的研究課題として、以下をサブ課題とし
た。
【サブ課題】
1.
CEFR はどのぐらい理解されているか。
2.
CEFR の何がどのぐらい参照・活用されているのか。
3.
評価としての CEFR と他の評価との擦り合わせはどうなっているか。
4.
教師研修はどのように行われているのか。
研究課題の答えを得る為、調査グループではアンケート調査とインタビュー調査という手
法でデータを集め、分析を行った。以下アンケート調査から報告する。
2
調査方法
4
ヨーロッパの日本語教育機関を対象としたオンライン調査を行った。調査内容を選定する
にあたり、まず 2012 年の中間報告で試案を提示し、内容に対するコメントを AJE 会員より
受け取った。それをもとに調査内容を見直した。さらに、質問紙の全体的な体裁、指示の明
確さ、回答に必要な時間、また、内容でもれている点がないかどうかも、よく確認した上で、
アンケート調査の最終版とした。オンライン調査をするにあたって、一番使い易いソフトウ
ェアと考えた Survey Monkey を用いた。また、インターネットのアクセスができない場合を
考え、メールの添付でも答えられるアンケート調査のワード版も準備した。さらなる、使用
上の不備を調整した後、実際のオンライン調査の試行は 2013 年 6 月 20 日から 7 月 10 日とな
った。既に夏休みに入っている方もいたことや、一機関内の意見の統一を図るのに時間がか
かったなどで、不都合もあったが、それでも多くの日本語教育機関の代表者の方から回答を
得ることができた。
2.1
対象と有効回答数
オンライン調査の対象者は個人ではなく、欧州の日本語教育機関の代表者とした。その理
由として、今回の調査は日本語教育機関における CEFR の浸透度を見るという目的があった
から、という点があげられる。特にアンケート調査は量的調査に焦点をおくため、個人より
も機関を対象にした方が欧州全体の動きを把握しやすいのではないかと判断した。
有効回答数は、2013 年の締め切りの時点で 24 カ国 174 機関であった。しかし、回答数に
偏りが見られたこともあり、締め切りを伸ばし、個別に機関の代表者に回答をお願いするこ
ととした。その結果、最終的な有効回答数は 28 カ国、231 機関となった。内訳は図 1 に示し
た通りである。
5
60
50
48
38
40
36
30
26
20
11
10
9 8
7 7
5 4 4
3 3 3 3 3 2 2
1 1 1 1 1 1 1 1 1
0
英
国
図1
2.2
国別回答機関数
調査項目
研究課題を調査項目に反映しようとした際に一番問題になったのは、何をもってCEFR「浸
透度」とするかという点であった。共通参照枠やCan Doだけにとどまらない視点の必要性は
早くから指摘されていた。CEFR「浸透度」に関する領域や視点として、様々な論点が考えら
れた。CEFRの理念である複言語主義と複言語教育の欧州の日本語教育における位置や、CEFR
浸透の旗手を探ること、現場におけるCEFRの文脈化・土着化の実態、複言語教育の実例、ポ
ートフォリオ導入の実態、CEFRの進める流動性の具体化における問題点、CEFR浸透の実践
者の教育、啓蒙、などである。
最終的には、基本情報として機関名、教育段階、教員数を聞いた後に、5分野に渡った項目
に関してアンケートを行った。その5分野とは、
「1. CEFRに対する理解」、 「2. CEFRの参照・
活用」、
「3. ポートフォリオの活用」、
「 4. 評価基準としてのCEFR」、そして「5. CEFR研修」
である。
項目ごとに複数の設問がなされた。回答形式は、回答選択式(リカート・スケール、正誤
式、多肢選択式)と回答記述式を併用する形式を用いた。例えば、
「あなたの機関の日本語教
員の間で、CEFR はどのぐらいよく知られていますか」という設問に対しては、
「非常によく
知られている」から「全く知られていない」
「分からない」という多肢選択式で答えてもらっ
た(図 2 を参照のこと)。
6
図2
回答形式例
全ての設問にはコメント欄を設け、記述回答も受けられるようにした。例えば、
「あなたの
機関の日本語プログラムで、CEFR が参照・活用されていますか」という設問に対して、
「現
在活用はしていないが、活用を考えている」というような場合には、「はい」「いいえ」とい
う 2 択の答え以外に、コメント欄が役に立つと考えたためである。設問は全 38 項目で、記入
時間は内容にも異なるが、平均 15 分から 20 分を目指して作成した。
3
結果
3.1
回答機関に関する基本データ
まず、回答した 231 機関における基本データについて述べる。質問項目 1 から 4 では、記
入者の情報および機関名について聞いた後、機関が属する教育段階と日本語教員数、その内
訳を聞いた。回答数は 231 機関、未回答数は 0 であった。
回答機関の属する教育段階に関しては、図 3 に示したように、高等教育の副専攻(74 機関)、
成人教育の機関(71 機関)がそれぞれ全回答数の約 30%を占めた。日本語を主専攻とする高
等教育機関(49 機関)が約 20%、初等、中等教育の機関の合計(42 機関)も約 20%ぐらい
であった。「その他」とした教育機関には、以下のような回答があった。
•
学部生と成人、高校生を同時に受け入れた夜間の大学による日本語講座
•
大学での課外活動としての講座
•
卒業単位には含まれない、言語・文化学習のための 3 年間の独自のコース
•
日本で仕事をしたい人のためのビジネスコース
7
•
1 ヶ月集中アジアンプロジェクトの中での選択必修集中コース
•
企業または、外務省・国防省などの公的機関における日本語、文化、習慣、生活一
般の講義と講座、組織内研修
•
語学センター、語学学校
•
幼児対象の継承語教育
•
小学校 3 年齢までの総合的な日本語能力を伸ばすことを主旨とした教育
以上のように、教育段階については、当初考えていたより様々な形態があった。また、日本
語補習校といった継承語教育に関わる機関では、初等、中等、あるいは高等という分け方が
当てはまらない場合も見受けられた。
教育段階に関する結果は、ヨーロッパにおける日本語学習者の関心の広がりと、日本語学
習者像が低年齢化、大衆化、多様化していることを示している。この点については、2005 年
の調査でも指摘されているが(2005, p.228)、学習者の年齢、動機、背景がますます多様化し
ていることを支持する結果となっている。
教育段階
「あなたの機関は以下のどれに該当しますか」
初等教育
4.3%
13.8%
中等教育
21.1%
高等教育:日本語主専攻
31.9%
高等教育:選択科目
高等教育:その他∼下の欄に形態を記入してくださ
い
9.5%
30.6%
成人教育
継承語教育:初等教育
継承語教育:中等教育
継承語教育:高等教育
継承語教育:その他∼下の欄に形態をご記入くだ
さい。
2.6%
1.7%
0.9%
0.9%
その他
図3
13.4%
Q3 の回答(回答数 231: 未回答数 0)
8
質問項目 4 では日本語教員に関して、その数と内訳を聞いた。機関内での教員数は機関ご
とにばらつきが見られ、
「他の日本語教師はいません」という回答から常勤、非常勤合わせて
22 人という機関まであった。雇用形態については、常勤と非常勤の教員数がほとんど同数で
あった。図 4 からもわかるように、どちらの雇用形態においても、日本語母語話者の数が非
母語話者の教員数の約 1.5 倍というパターンが見られるのは、特記すべきであろう。
日本語教員数
152
常勤日本語母語話者
100
常勤日本語非母語話者
166
非常勤日本語母語話者
96
非常勤日本語非母語話者
図4
Q4 の回答(回答数 231: 未回答数 0)
以下では、1. CEFR に対する理解、 2. CEFR の参照・活用、3. ポートフォリオの活用、 4.
評価基準としての CEFR、そして 5. CEFR 研修、という 5 分野の回答を提示する。
3.2
CEFR に対する理解
CEFR の欧州の日本語教育機関における浸透を調べる上で、一番重要な点はその理解度で
ある。質問項目 5 から 9 においては、CEFR という名称が日本語教育機関においてどのぐら
い浸透しているか、その政治的、教育的背景がどのぐらい知られているのか、CEFR の章に
おけるどの部分がよく知られているのか、を調べた。
質問項目 5 では「あなたの機関の日本語プログラムでは、CEFR はどのぐらいよく知られ
ていますか」という一般的な設問がされた。この質問に対する回答機関数は 222、未回答機
9
関数は 9 であった。結果は、図 5 に見られるように、
「非常によく知られている」と「よく知
られている」の回答合わせると約 65%(144 機関)だった。「ほとんど知られていない」「全
く知られていない」、という回答は全回答の 12%(26 機関)だった。2005 年の調査が CEFR
とは何かを把握する時点から始まったことを鑑みると、CEFR の存在は過去 10 年の間に、多
くの機関に浸透してきたと言える。
CEFRに対する理解度
「あなたの機関の日本語教員の間で、CEFRはどのぐらいよく知られています
か。」
全く知られていない
2.2%
分からない
2.7%
非常によく知られて
いる
12.1%
ほとんど知られてい
ない
9.4%
あまり知られていな
い
21.1%
よく知られている
52.5%
図5
Q5 の回答(回答数 222: 未回答 9)
ただし、同じ機関内でも、異なる日本語プログラムを担当している教員が「よく知られて
いる」と「ほとんど知られていない」という異なる回答をした例も見られ、CEFR の浸透度
に見方のずれが起こっている可能性もある。また、何をもって「知られている」としている
かについても、機関によってばらつきがあるかと思われる。また、
「私はよく知っているが他
の先生は殆ど知らない」「教員によって異なる」のようなコメントに見られるように、機関
内でも浸透度に温度差があることが見受けられる。母語話者教員と非母語話者教員で差が見
10
られるとのコメントも多く見られた2。しかし、「機関の中のみならず、教師会で毎週 CEFR
勉強会が行われている」のように、CEFR が非常に浸透していると思われる機関からのコメ
ントもあった。一方で、「日本語教師が自分以外にはいない」、とコメントした機関も幾つか
見受けられ、CEFR の浸透には教員の個人差が反映している可能性がある。
以下は、この質問項目に書き込まれたコメントである。
【コメント】
•
教員によって異なる
•
私はよく知っているが他の先生は殆ど知らない
•
回答者ともう一人の同僚をのぞいて、当学科では CEFR はあまり知られていません
•
だいたい日本語教育に携わっている教員(つまり日本語母語教員)は知っていると
思いますが、そうでない教員が知っているかというと懸念があります
•
日本語母語話者教員は CEFR を使っているが、非母語話者教員の理論、翻訳にはあ
まり関係がない
•
日本語母語話者 4 名については、専門で外国語教育を勉強している者、その後の教
師研修等で学んだ者を含めて、良く知られているレベル以上ですが、非母語話者教
員については不明です
•
CEFR について知っている教員は非常勤日本語母語者教員 3 名。そのほかの教員 6
名は知らない
•
専任の間のみ
•
機関の中のみならず、教師会で毎週 CEFR 勉強会が行われている
•
コースを設定する際には CEFR の基準に沿ってカリキュラムが組まれている
•
必ず CEFR に基づいた記述が求められている
質問項目 6 では、
「あなたの機関の日本語教員の間で、CEFR の政治的・教育的背景(CEFR
第 1 章)はどのぐらい知られていますか」という設問がされた。この質問に対する回答機関
数は 223 で、未回答機関数は 9 であった。図 6 にその結果を記す。全回答の 43%(96 機関)
の機関が、
「非常によく知られている」あるいは「よく知られている」という回答を選択した。
「あまり知られていない」とする機関は 32.7%(73 機関)で、
「ほとんど知られていない」
「全
く知られていない」「分からない」という回答の合計が約 25%(54 機関)を占めた。この質
問項目の回答の広がりの理由として、質問項目 5 と同様、個人差が大きく影響をしていると
考えられる。コメントにも同様の点が多く挙げられていた。以下に抜粋して記す。
【コメント】
•
教師によって異なる
•
個人差大
2
この点については、ハンガリーのインタビュー調査でさらに詳しく取り扱っているので、一例として、それを
参照してもらいたい。
11
•
こちらに長い先生は知っているが、日本から 2 年契約できた先生たちはあまり知ら
ないと思う
•
教員 2 人の契約が異なるため、集まる事が難しく、CEFR の第一章についてどの程
度知っているかという話はなされていない
•
以前同僚と CEFR について話したのですが、話が通じませんでした
•
4 名が完璧にわかっているとは言いがたいが、教師会の研修で何回か勉強している
し、機関の中でも全言語の研修会が行われているので、大体のことはわかっている
と思う
CEFRに対する理解度
「あなたの機関の日本語教員の間で、CEFRの政治的・教育的
背景(CEFR第1章)はどのぐらい知られていますか。」
分からない
5.4%
全く知られていない
5.4%
ほとんど知られてい
ない
13.5%
非常によく知られて
いる
4.0%
よく知られている
39.0%
あまり知られていな
い
32.7%
図6
Q6 の回答(回答数 222: 未回答 9)
質問項目 7 は、
「あなたの機関の日本語教員の間で、CEFR の言語学習・教育に対する理論
的背景(CEFR 第 2 章)はどのぐらいよく知られていますか」という設問であった。この質
問に対する回答機関数は 222、未回答機関数は 9 であった。この質問に対する回答のパター
ンは、質問項目 6 とほとんど変わらなかった。
12
CEFRに対する理解度
「あなたの機関の日本語教員の間で、CEFRの言語学習・教育に対する理論
的背景(CEFR 第2章)はどのくらいよく知られていますか。」
分からない
5.8%
全く知られていない
4.9%
ほとんど知られてい
ない
11.7%
非常によく知られて
いる
3.1%
よく知られている
38.6%
あまり知られていな
い
35.9%
図7
Q7 の回答(回答数 222: 未回答 9)
そこから、CEFR の政治的・教育的背景が日本語教員間で知られている際には、理論的背
景も合わせて知られている、ということが言える。コメントには、質問項目 6 のコメント同
様、個人差がある点を述べたものが多かった。重複するコメントが多いので、ここでは割愛
することとする。
質問項目 8 は、
「あなたの機関の日本語教員の間で、CEFR のどの部分がよく知られていま
すか」という設問であった。この質問に対する回答機関数は 222、未回答機関数は 9 であっ
た。ここでは、CEFR の第 1 章から第 9 章という選択肢に加え、
「特にどの部分と言うことは
難しい」という選択肢も入れることによって、なるべく多くの回答を得るようにした。また、
複数回答も可能とした。そのせいもあるかもしれないが、図 8 からも分かるように、回答に
はばらつきが見られた。
回答における選択肢の率を見ると、
「共通参照レベル」とした回答が 50%(120 機関)を超
え、一番多かった。政治的背景、理論、言語能力についての説明は 30%弱(約 60 機関)の
機関が知っていると答え、
「どの部分というのは難しい」という回答とほとんど同じぐらいで
あった。CEFR の「共通参照レベル」が他の部分に比べ、知られているという印象を裏付け
る結果となっている。
13
CEFRに対する理解度
「あなたの機関の日本語教員の間で、CEFRのどの部分がよくしられています
か」
CEFRの政治的・教育的背景(1章)
27.4%
CEFRの言語学習に対する理論的背景(2章)
27.8%
53.8%
共通参照レベル(3章)
言語使用と言語使用者について(4章)
18.4%
25.6%
コミュニケーション言語能力(5章)
言語学習過程の説明(6章)
14.8%
言語教育における課題とその役割(7章)
12.1%
カリキュラム作成(8章)
12.1%
評定(9章)
18.4%
29.6%
特にどの部分と言うことは難しい
分からない
図8
14.3%
Q8 の回答(回答数 222: 未回答 9)
この質問項目におけるコメントにも、教員により理解度が異なること、及び、他の教員の
理解度は分かりにくい、という点が多く挙げられていた。また、理解していると記した回答
者でも、
「個人的には、大まかな理論はクリアできたと思いますが」や「個人的な理解に留ま
っている」のように「個人的」と記した上で答えている点が顕著である。教員の理解度が異
なる理由として、
「日本語を母語とする同僚とは話をすることもありますが、そうではない同
僚とは話題にも上りません」や「同僚がどうかは知りません」のように、機関として CEFR
についての話し合いがもたれているのではなく、個人か興味のある教師同士が集まって
CEFR に関する知識を共有している、ということが挙げられるだろう。また、どの部分も知
られていない、あるいは共通参照レベルの詳細については理解しているとは言えない、とい
うコメントも見られた。
一方で、カリキュラムや自己評価 Can Do を見直す際に、実践の参考になる部分には頻繁
に目をとおしている、というコメントや、あげられた項目についてはよく知っており、その
文脈化に努めている、あるいは教室という学習の場で使えることがもっと知りたいというコ
メントもあった。
「共通参照レベル」が突出して知られるようになった原因にはいろいろ考えられるが、ま
ずは CEFR の特に共通参照レベルを使うように指示された、あるいはプログラムの方針とし
14
ている日本語教育機関が増えた、ということがある。同時に、国際交流基金が海外における
日本語普及のために、まず 2009 年に試行版を作成し、翌年に刊行した『JF 日本語教育スタ
ンダード』が CEFR に準拠していることも、CEFR の浸透、特に共通参照レベルへの理解度
の高まりに寄与していると考えられる。特に、
「まるごと」の出版に合わせ、国際交流基金が
行っているワークショップに参加している日本語教師が増えたことも、今回の機関調査の結
果に反映されていると言えるだろう。
同時に、2005 年以降に CEFR 及び共通参照レベルに関して日本語で書かれた記事、学術論
文、そして書物が格段に増えたことも、特に共通参照レベルが知られるようになった大きな
理由であろう。日本国内では CEFR の共通参照レベルに準拠した外国語教育を始めた教育機
関もある。そういった日本における外国語教育も含めた一連の動きが、日本語で書かれた
CEFR に関する情報源の増加と結びつき、結果として、間接的にではあれヨーロッパの日本
語教育機関においても、共通参照レベルを中心として CEFR がよく知られるようになった要
因となっていると考えられる。一方で、理論的背景、コミュニケーション能力、特にどの部
分というのは難しいと答えた機関が 3 割近くあった点は特記すべきであろう。
以下にこの質問に対して寄せられたコメントを記す。
【コメント】
•
どの部分をよく知っているかは、教員により多少異なる
•
教員が一名のため、私個人の回答になります
•
この項目はある程度わかるようになりましたけど、もっと深く知りたいです。特に
教室で学習として使えることがもっと知りたいです。
•
個人的な理解に留まっている
•
個人的には、大まかな理論はクリアできたと思いますが
•
全体を浅く理解していると思う
•
この質問も個人差があるのではっきりとは答えにくいのですが、共通参照レベルの
基準は我が大学でも生徒の能力レベルを表す際の参考に使うことを検討中なので、
スタッフ一同理解していると思います
•
同僚がどうかは知りません
•
日本語を母語とする同僚とは話をすることもありますが、そうではない同僚とは話
題にも上りません
•
機関内での講師間のコンタクトがあまりない
•
教員 3 人の契約が異なるため集まることが難しく、CEFR のどの部分について詳し
く知っているかという話はなされていない
•
どれも知られていない
15
•
共通参照レベルの具体的な詳細についてはよく理解しているとは言えないと思う
カリキュラムや自己評価 Can Do を毎年見直すときに、CEFR の本を参考にしてい
るので、実践の参考になる部分には、頻繁に目を通している
「CEFR の理解度」の最後の質問項目 9 では、
「あなたの機関の日本語プログラムでは、CEFR
の政治的・教育的背景、言語間を理解することは、どのような点で効果をもたらすと考えら
れていますか」という設問がされた。この質問に対する回答機関数は 222、未回答機関数は 9
であった。この質問項目は、先の質問項目 8 と同様に複数回答を可とした。図 9 が回答結果
である。図にも見られるように、CEFR の理解は日本語教育の様々な場面において、効果を
もたらすと考えられている。特に効果があると考えられているのが、カリキュラムやシラバ
ス、評価に関わる部分である。
「カリキュラムやシラバスの開発・作成」
(45.7%、102 機関)、
「到達目標の記述」
(48.9%、109 機関)そして「評価基準の設定」
(29.6%、66 機関)という
選択肢は、それぞれ 50%近くを占めている。到達目標の記述、評価基準の設定という回答は、
「共通参照レベル」がよく知られているとした、質問項目 7 の結果と関連していると考えら
れる。
CEFRの理解度
「あなたの機関の日本語プログラムでは、CEFRの政治的・教育的背景、言語
観を理解することは、どのような点で効果をもたらすと考えられていますか。
(複数回答可)」
カリキュラムやシラバスの開発・作
成
45.7%
48.9%
到達目標の記述
29.6%
教材作成
23.3%
試験作成
44.8%
評価基準の設定
17.0%
教師研修
34.1%
教室活動の設定
20.6%
分からない
その他(コメント欄にご記入くださ
い)
図9
6.3%
Q9 の回答(回答数 222: 未回答 9)
16
アンケート結果を見る限りでは、CEFR の政治的・教育的背景、言語間を理解することが、
現場に効果をもたらすと考えられているようである。しかし、コメントには現実とのギャッ
プが垣間見えるものもあった。例えば、
「CEFR について知っていても、特に日頃の授業に反
映させていない」「効果をもたらすようにするためには、カリキュラム全体を変えなければ
ならない。CEFR に基づいた日本語学習カリキュラム作成まではまだ到達していない」のよ
うに、日々の教室内活動、あるいはカリキュラム全体といった目に見える形で CEFR が現場
に届くまでは至っていない、というコメントもあった。また、「CEFR は特に影響力はあり
ません」、「効果をもたらすと考えられていない」というコメントは、具体的な効果が現れ
ていないという意味では、前述のコメントと似ているとも言える。視点が少し異なるが、「国
語の授業を行うことが前提とされているので、具体的にどのように CEFR の考え方を導入で
きるかがよくわからない」というコメントもあった。CEFR の理解をもとにした具体化へ難
しさを表している。
一方、コメントの中には、
「教師も学習者も到着目標がよく分かるから授業をやりやすくな
りました」という効果を述べたコメントもあった。合わせて、具体的な効果ではなく、
「具体
的な効果はまだまだだが、多様な学生にポジティブに対応していく教師の意識」というよう
に、教師の意識や考え方への影響を示したものもあった。
以下にこの質問に対して寄せられたコメントを記す。
【コメント】
•
CEFR について知っていても、特に日頃の授業に反映させていない
•
英国中等教育では、CEFR は、目に見える形ではまったく意識されていない
•
政治的・教育的背景、言語観を理解することは建前で、共通参照レベルでの記述が
便利になることがあるというのが現状だと思う。
•
共通参照レベルを使うことは、他の言語クラスとのレベル比較や、レベル設定をす
る際に分かりやすいので導入を検討中ですが、その政治的背景などを理解すること
による効果などは分かりません。
•
効果をもたらすようにするためには、カリキュラム全体を変えなければならない。
CEFR に基づいた日本語学習カリキュラム作成まではまだ到達していない。
•
CEFR は特に影響力はありません。
•
効果をもたらすと考えられていない。
•
アドバイザーは上記の 1∼7 に関して効果があると考えているが、個々の教師がど
のように捉えているかは不明。
•
将来的にポートフォリオの作成において活用したい
•
CEFR が浸透していない為、コメントできない。
•
教師も学習者も到着目標がよく分かるから授業をやりやすくなりました。
17
•
国語の授業を行うことが前提とされているので、具体的にどのように CEFR の考え
方を導入できるかがよくわからない。
•
「効果」については一概に言えないが、上記のあらゆる面において「影響」はある
であろう。
•
CEFR 言語観・背景の影響は分からない。「何ができるようになるか」の提示など
実際面への影響は大きいと思う。
•
具体的な効果はまだまだだが、多様な学生にポジティブに対応していく教師の意識
以上が、
「CEFR の理解」に関する質問項目の回答結果、およびコメントである。次に「CEFR
の参照、活用」に関する質問項目の結果に移る。
3.3
CEFR の参照・活用
「CEFR の理解」に続き、質問項目の 2 分野目では「CEFR の参照、活用」の現状を調べる
ことにより、CEFR の浸透度を図ろうとした。質問項目 10 から 19 では、CEFR の参照・活用
の現状、きっかけ、推進者、CEFR が参照・活用されている場面や文脈、その効用、そして
参照・活用における困難な点について質問した。
質問項目 10 は、「あなたの機関の日本語プログラムで、CEFR が参照・活用されています
か」という設問だった。この質問に対する回答機関数は 222、未回答機関数は 9 であった。
図 10 が示すように、CEFR が参照・活用されているかという設問に対する回答は、「はい」
という回答は 47%(104 機関)、
「いいえ」という回答は 45%(101 機関)と、
「はい」と「い
いえ」にほぼ半分に分かれた。
CEFRの参照・活用
「あなたの機関の日本語プログラムで、CEFRが参照・活用されていますか」
分からない
8%
いいえ
45%
図 10
はい
47%
Q10 の回答(回答数 222: 未回答 9)
18
何を指して「参照・活用」と言うか、何も具体的な内容が書かれていないので、答えにく
い質問であった可能性もある。それを反映してか、この項目では、回答以外にコメントが多
く寄せられた。
まず、
「個人的には意識している」、
「私は活用しています」、
「機関としてではなく教師(個
人)レベルで参/活用されている」のように、教員個人のレベルで参照・活用しているとい
う意見が多々あった。また、
「全般ではないが一部で参照・活用」のように部分的に参照・活
用していると答えた機関も多かった。
一方、コメントの中には、具体的に参照・活用している部分を述べたものもあった。例を
以下に記す。
•
プログラムに CEFR のレベルに合わせて作成しています
•
語学責任者からは、授業参観などを通し、常に「今日習う事で何ができるようにな
るか」を生徒に提示することが求められている
•
本学でコース開設以降、最初の 1 年間を終えばかりなので、現時点でということで
お答えしています。ただ、言語モジュールではなくてむしろ非言語モジュールで用
いています
•
Can Do statement と似たレベル記述を使っています
•
LEAP で受講可能な他言語との達成目標の記述の基準として使われている
•
教師が使用する学生用の日本能力証明書のみ
•
まるごとA1 を使用
これから参照・活用をするようになるというコメントも多く見られた。例えば、「今年か
ら活用されている」、「参照しつつある段階」のように既に機関内で活用が始まっている場
合や、「英国の言語政策の一つである Language for all の影響から、主にヨーロッパ言語を教
える Modern Languages Centre と足並みをそろえるために、将来的に参照・活用されるように
なると思われる」のように将来的に活用されると考えている場合もあった。
一方、「同じ大学のヨーロッパ語の教師は全体的に CEFR を活用しているので私もだいた
い理論の理解はしていますが、決められた一定の(比較的短い)授業時間数内で JLPT の準
備と合格が大学側から要求されているため、受験準備が 多くなり、実際の CEFR の授業内で
の活用は理想的でないのが現状です」、「非常に残念ですが、活用されていません。本機関
で作成・使用されている教科書のコンセプトが異なるからということのようです」のように、
参照・活用されていないという場合のコメントもあった。
上記のコメントから分かるように、
「いいえ」と答えても、個人的には意識している場合も
あれば、
「はい」と答えた場合でも、授業で用いているがコースデザインには用いられていな
いなど、参照・活用の形態にはばらつきがあると思われる。基本的に回答者は日本語教育機
関の代表者である場合が多いので、CEFR の参照・活用に関しては積極的な教員である可能
性が高い。個人のレベルで意識して授業に臨んでいる、というコメントが多いのは、それを
19
反映していると思われる。これから活用するというコメントの多さは、今後 CEFR の参照・
活用が増えていく可能性を示唆していると言えよう。
以下にこの質問に対して寄せられたコメントを記す。
【コメント】
•
個人的には意識している
•
私は活用しています
•
3 人の教員の授業内のみに留まり、大学全体のコースデザインには全く参照されて
いない
•
非正式的な形で参照されています
•
機関としてではなく教師(個人)レベルで参照/活用されている
•
各々の教師は CEFR を念頭に入れているが、具体的なかたちで活用はされていない
•
活用し始めたところなので、「はい」とは言えないような気がする
•
回答者自身に関しては CEFR を意識してやっていることもありますが、他の教員に
ついては分かりません
•
一部参照
•
全般ではないが一部で参照・活用
•
おおよその目安としては参照・活用されているが、厳密ではない
•
はい、と答えましたが、教育の現場では実際のところ、あまり活発には活用されて
いません。主に各セメスター終了後の自己評価の際の基準として参照・利用してお
ります
•
参照しつつある段階
•
今年から活用されている
•
今はまだ使っていませんが、検討中です
•
概念が理解されつつあるのでこれから活用されるでしょう
•
英国の言語政策の一つである Language for all の影響から、主にヨーロッパ言語を教
える Modern Languages Centre と足並みをそろえるために、将来的に参照・活用さ
れるようになると思われる
•
同じ大学のヨーロッパ語の教師は全体的に CEFR を活用しているので私もだいた
い理論の理解はしていますが、決められた一定の(比較的短い)授業時間数内で
JLPT の準備と合格が大学側から要求されているため、受験準備が多くなり、実際
の CEFR の授業内での活用は理想的でないのが現状です
•
非常に残念ですが、活用されていません。本機関で作成・使用されている教科書の
コンセプトが異なるからということのようです
•
初級の講座しかないので、CEFR を意識する必要性がない、というのが現状です
質問項目 10 で回答のあった 223 機関に関して、どの教育段階の機関で CEFR が参照・活用
20
されているかという点も比較した。その結果を示したものが図 11 である。高等教育の選択科
目として日本語を教えている機関の約 58%(42 機関)、成人教育機関の 53%(35 機関)が
CEFR を参照・活用していると答えている。一方、高等教育で日本語が主専攻の機関の 43%
(21 機関)、初等、中等教育機関の 32%(10 機関)が CEFR を参照・活用している、と回答
している。日本語が選択科目である、あるいは成人教育の場合に CEFR が参照・活用されて
いるという点は、注目に値すると思われる。その理由として、高等教育の選択授業や成人教
育の場合、他の言語とのバランスを取る必要性が高く、また、新しいことが取り入れ易い、
留学生や機関からの要望が多い、などが考えられる。また、東欧諸国で CEFR 参照・活用は、
その国が EU に加盟しているか、いつ加盟したかに関係がある可能性もあると考えられる。
CEFRの参照・活用
教育段階別CEFRの参照・活用
0.7
0.6
57.5%
53.0%
0.5
42.8%
0.4
32.3%
0.3
0.2
0.1
0
高等教育(選択科目)
成人教育
図 11
高等教育(主専攻)
初等・中等教育
教育段階別 CEFR の参照・活用
次に、質問項目 11 では、「あなたの機関の日本語プログラムで、CEFR が参照・活用され
るようになったきっかけは何ですか」という設問がされた。この質問に対する回答機関数は
103、未回答機関数は 128 であった。質問項目 10 で参照・活用していると答えた機関のみの
回答になるので、回答率が低い。231 の回答のうち、半数以上にあたる 128 機関は回答して
いない。回答があった 103 機関については、図 12 からも分かるように「国、行政からの指示」、
あるいは「機関、言語プログラムの方針」がきっかけになった、という回答が合わせて約 60%
21
(59 機関)となっている。同時に、
「言語学習・教育に有用だとおもわれたから」、という答
えも 42.3%(44 機関)を占めている。「他言語のプログラムで CEFR が参照・活用されてい
るのに影響を受けて」という回答も 32.7%(34 機関)ある。
CEFRの参照・活用
「あなたの機関の日本語プログラムで、CEFRが参照・活用されるようになったきっ
かけは何ですか(複数回答可)」
13.5%
国・行政からの指針・指示
44.2%
機関・言語プログラムの方針
42.3%
言語学習・教育に有用だとおもわれたから
他言語のプログラムでCEFRが参照・活用されている
のに影響を受けて
その他
図 12
32.7%
7.7%
Q11 の回答(回答数 103: 未回答 128)
この項目には多くのコメントが寄せられた。それは、CEFR の参照・活用がさまざまなき
っかけで始まったことを反映している。まず、
「機関の方針で、全言語が CEFR を参照にプロ
グラムや授業活動を行い、2 ヶ月に一度、全言語での CEFR 研修会が行われている」、「学
校の方針」、「授業レベルを CEFR を用いて書くのは、国が始めたからで、会話の先生たち
が ELP を利用するのは教育目的」というコメントからも見られるように、明らかに国や機関
の働きかけがきっかけとなり CEFR の参照・活用が始まった例もある。それに対して「言語
教育学を学んだ教員がいる、CEFR のプロジェクトに参加した教員が何人もいる」、「外国
で日本語を教えてきた講師がほかの教師たちに活用をすすめて」、「国際交流基金主催の日
本語教師研修会で学んだから」のようなコメントからは、セミナーや個人で CEFR を学んだ
教員が参照・活用の有用性を見いだし、それが機関における CEFR 参照・活用のきっかけと
なったことが分かる。合わせて、国際交流基金の研修がきっかけとなっている場合も多々あ
る。
22
また、「日本語はヨーロッパ言語ではないが、複言語・複文化主義という観点から学習(教
育)意義に確信が持てたこと」のように、研修会において CEFR の理論的背景を学んだこと
がきっかけとなって、参照・活用を始めたというコメントもみられた。
これらのコメントから分かるのは、CEFR の参照・活用は、トップダウン式に国、機関や
言語プログラムの方針で始まっただけではなく、教師や日本語教育関係者に有用性を認めら
れてという、トップダウンとボトムアップの両方からの流れがきっかけとなっている点であ
る。
興味深いのは、
「機関内での言語のプロモーション、維持の為」という政治的な有用性を挙
げているコメントである。CEFR を用いることで言語間の連帯性を持たせ、プログラムを維
持する政治的機能を CEFR が担っている、という一端を記しているもので、ヨーロッパの言
語教育の在り方の特徴を示しているかと思われる。
以下にこの質問に対して寄せられたコメントを記す。
【コメント】
•
授業レベルを CEFR を用いて書くのは、国が始めたからで、会話の先生たちが ELP
を利用するのは教育目的
•
特に日本語学科として教育に有用だと思っているから
•
私の外国語学校で CERF はプログラムと試験の基本となっています。
•
機関の方針で、全言語が CEFR を参照にプログラムや授業活動を行い、2 ヶ月に一
度、全言語での CEFR 研修会が行われている。
•
学校の方針。
•
年々高まる大学や学生からの要求(例:フィードバックの内容の充実)に応えるた
めに、CEFR の記述は詳細に至っているので、すぐ応用できるから。
•
言語教育学を学んだ教員がいる、CEFR のプロジェクトに参加した教員が何人もい
る
•
教師研修会で取り扱われました
•
国際交流基金主催の日本語教師研修会で学んだから。
•
外国で日本語を教えてきた講師がほかの教師たちに活用をすすめて。
•
国際交流基金の日本語専門家による講義(オーストリア日本語教師会)および基金
の研修に参加した人による普及活動
•
機関内での言語のプロモーション、維持のため
•
私個人による方針
•
日本語はヨーロッパ言語ではないが、複言語・複文化主義という観点から学習(教
育)意義に確信が持てたこと。
•
複数言語、文化主義に関心があるので
23
CEFRの参照・活用
「あなたの機関の日本語プログラムで、誰が CEFRを参照・活用して
いますか(複数回答可)」
93.3%
教師
32.4%
学習者
36.2%
カリキュラム開発者
24.8%
教材開発者
26.7%
試験作成者
20.0%
教師研修担当者
その他
図 13
3.8%
Q12 の回答(回答数 104: 未回答 127)
質問項目 12 では「あなたの機関の日本語プログラムで、誰が CEFR を参照・活用していま
すか」という設問がされた。この質問に対する回答機関数は 105、未回答機関数は 127 であ
った。図 13 から、基本的には教師が主体となって CEFR を参照・活用しているということが
伺える(93.3%、98 機関)。学習者が参照・活用していると回答した機関は 32.4%(34 機関)
であった。これらの機関では、学習者に自分の到達度を図らせたり、ポートフォリオなどの
活動を取り入れたりしている可能性が高いと言える。カリキュラム開発者の割合が少し高い
ものの(36.2%、38 機関)、教材開発者(24.8%、26 機関)、試験作成者(26.7%、28 機関)の
割合とあまり変わらないのは、同一人物がこれらの作業を行うから、という可能性が高い。
この項目におけるコメントを幾つか抜粋して以下に記す。
【コメント】
•
ですが、それは私だけです。私の機関で私のほかに日本語の教師はいません。私は
ほかの言葉の先生と話し合って、日本語のプログラムを作ったり、教科書を選んだ
り、テストを作ったり、します。
•
CEFR について踏み込んだ話はなされていないため、教師・学習者・教材開発者・
試験作成者としたいが、主観となってしまうので「その他」を選択した。
•
学習者も少し CEFR のことを意識してきています。
24
•
一部の教師
•
カリキュラム、教材開発者および試験作成者=教師
•
試験作成者は、他大学院日本語プログラム(MBA コースなどでの選択科目)の
Diagnostic Test 作成にて参照。
•
CEFR のレベルを使って、毎学期の始めに、学習者に到達目標を共有し、学期の終
わりに、Can Do の記述を使ってアンケートを実施する
•
評価やカリキュラムを外部の機関または大学に提示するときに、CEFR でも記述す
る。
質問項目 13 では、「あなたの機関の日本語プログラムで、CEFR のどの部分が参照(知識
として参考にする)されていますか」という設問がされた。選択肢としては CEFR の 1 章か
ら 9 章までが提供された。この質問に対する回答機関数は 104、未回答機関数は 127 であっ
た。その結果、図 14 に見られるように、共通参照レベルを選択した機関が、全回答の 67.6%
(70 機関)と一番高かった。これは、共通参照レベルが最もよく知られている、という質問
項目 8 の結果と関連していると考えられる。
CEFRの参照・活用
「あなたの機関の日本語プログラムで、CEFRのどの部分が参照[知識とし
て参考にする]されていますか(複数回答可)」
CEFRの政治的・教育的背景(1章)
23.8%
CEFRの言語学習に対する理論的背景(2章)
38.1%
67.6%
共通参照レベル(3章)
38.1%
言語使用と言語使用者について(4章)
40.0%
コミュニケーション言語能力(5章)
21.0%
言語学習過程の説明(6章)
12.4%
言語教育における課題とその役割(7章)
22.9%
カリキュラム作成(8章)
29.5%
評定(9章)
15.2%
特にどの部分と言うことは難しい
分からない
図 14
2.9%
Q13 の回答(回答数 103: 未回答 128)
25
質問項目 14 では、「あなたの機関の日本語プログラムで、CEFR のどの部分が活用[実際
に教育現場で活用する]されていますか」という設問がされた。この質問に対する回答機関
数は 103、未回答機関数は 128 であった。図 15 にも見られるように、参照レベル関連の部分
が最も頻繁に活用されている。中でも、3 章の共通参照レベルの全体的尺度は、回答した機
関の 64.4%(66 機関)において、実際に教育現場で活用されている。続いて、活用されてい
るのは自己評定表である。CEFR を活用していると答えた機関の 43.3%(44 機関)が活用し
ていると答えている。続いて、共通参照レベルの話し言葉の質的側面に関する表が活用され
ていることが分かる(35.6%、36 機関)。質問項目の 13、14 はいずれもコメントはほとんど
なかったので、ここでは割愛することとする。
CEFRの参照・活用
「あなたの機関の日本語プログラムで、CEFRのどの部分が活用[実際に教育
現場で活用する]されていますか(複数回答可)」
64.4%
共通参照レベル:全体的尺度(3章)
43.3%
共通参照レベル:自己評定表(3章)
35.6%
共通参照レベル:話し言葉の質的側面(3章)
17.3%
言語活動と方略(4章)
26.9%
言語能力(5章)
23.1%
例示的尺度、能力記述文(4、5章)
13.5%
復言語能力・複文化能力(6章)
17.3%
言語カリキュラム(6章)
言語教育における課題(7章)
8.7%
カリキュラムの実例(8章)
9.6%
17.3%
評定の種類(9章)
AppendixC:The DIALANG Scales
6.7%
13.5%
AppendixD:The CanDo statements
25.0%
特にどの部分ということは難しい
分からない
図 15
1.0%
Q14 の回答(回答数 103: 未回答 128)
質問項目 15 では、「あなたの機関の日本語プログラムで、CEFR はどのような場面・文脈
で参照・活用されていますか」という設問がされた。この質問に対する回答機関数は 102、
未回答機関数は 129 であった。結果は図 16 に示してある通りである。活用される文脈として
26
は「到達目標の記述」が約 79.6%(81 機関)と最も多く、次に「カリキュラムやシラバスの
開発、作成」
(54.4%、56 機関)
「評価基準の設定」
(51.5%、52 機関)と続く。これらの回答
は、CEFR が特に評価、そしてそれと連携するカリキュラムやシラバスの開発や作成という
文脈で浸透していることを示している。
質問項目 16 では、「CEFR を参照・活用することは、どのくらい日本語学習・教育に役に
立つと思いますか」という設問がされた。この質問に対する回答機関数は 102、未回答機関
数は 129 であった。
「非常に役に立つ」という回答が 33%(34 機関)、
「役に立つこともある」
が 64.1%(65 機関)で、CEFR を参照・活用している機関においては、全体的に役に立つと
認識されていることが伺える。勿論、この結果については、役に立つと思うからこそ、機関
が CEFR を参照・活用し始めた、と解釈することもできる。未回答機関が 129 機関あったこ
とを留意して、結果を判断する必要もあろう。
CEFRの参照・活用
「あなたの機関の日本語プログラムで、CEFRはどのような場面・文脈で参照・
活用されていますか(複数回答可)」
カリキュラムやシラバスの開発・
作成
54.4%
79.6%
到達目標の記述
37.9%
教材作成
28.2%
試験作成
51.5%
評価基準の設定
16.5%
教師研修
36.9%
教室活動の設定
20.4%
他言語との対比
その他
図 16
2.9%
Q15 の回答(回答数 102: 未回答 129)
27
CEFRの参照・活用
「CEFRを参照・活用することは、どのくらい日本語学習・教育に役に立つと思
いますか」
33.0%
非常に役に立つ
64.1%
役に立つこともある
あまり役に立たない
ほとんど役に立たない
全く役に立たない
分からない
図 17
0.0%
0.0%
0.0%
2.9%
Q16 の回答(回答数 102: 未回答 129)
質問項目 17 では、
「CEFR はどのような場面・文脈で日本語教育に役に立つと思いますか」
という設問がされた。この質問に対する回答機関数は 102、未回答機関数は 129 であった。
この質問では、選択肢の中から役に立つと思われるものを 3 つ選択してもらった。図 18 から
も分かるように、一番役に立つと思われたものは、
「到達目標の記述」で、回答の 74.5%(76
機関)を占めた。続いて、
「カリキュラムやシラバスの開発・作成」そして「評価基準の設定」
で、それぞれ 61.8%(63 機関)と 58.8%(60 機関)であった。ただし、教室活動や教材作成
にも役に立つという回答が、それぞれ 42.2%(43 機関)と 36.3%(37 機関)であることから、
CEFR を教室という現場においても役立てている機関があることが分かる。
28
CEFRの参照・活用
「CEFRはどのような場面・文脈で、日本語教育に役に立つと思いますか。
役に立つと思われるものを3つお選びください」
カリキュラムやシラバスの開
発・作成
61.8%
74.5%
到達目標の記述
36.3%
教材作成
21.6%
試験作成
58.8%
評価基準の設定
14.7%
教師研修
42.2%
教室活動の設定
26.5%
他言語との対比
その他
図 18
2.9%
Q17 の回答(回答数 102: 未回答 129)
この項目のコメントは多くはなかったが、
「完全に CEFR という枠に基づいていたら全ての
点で役に立つと思われます」というように、全てが役にたつだろうと推測している場合も見
られた。
質問項目 18 では、「あなたの機関の日本語プログラムでは、教科書・教材を選択する際、
CEFR との対応を考慮していますか」という設問がされた。この質問に対する回答機関数は
99、未回答機関数は 132 であった。回答数が 99 とさらに少なくなっている。回答機関の中で
「はい」と答えたのが、合計 63.7%(63 機関)で、「いいえ」の 31.3%(31 機関)の倍とな
った。CEFR 準拠の教科書を副教材として使っていると答えた機関が 15.2%(15 機関)であ
る。CEFR 準拠の教科書として、「まるごと」を使っていると明記したコメントも見られた。
29
CEFRの参照・活用
「あなたの機関の日本語プログラムでは、教科書・教材を選択する際、CEFRとの
対応を考慮していますか」
はい〜CEFR準拠の教科書を副教材として使ってい
る
15.2%
はい〜使用教材とCEFRの対応に取り組んでいる(ど
のような取り組みをしているかコメント欄に)
21.2%
はい〜教材の選定時にCEFRへの対応を考慮する場
合がある
27.3%
31.3%
いいえ
その他
図 19
5.1%
Q18 の回答(回答数 99: 未回答 132)
使用教材と CEFR の対応に取り組んでいると答えたのは 21%(21 機関)である。Can Do
を取り入れ、目標設定をしたり、教え方、タスクに取り入れている、というコメントが見ら
れる。また、到達目標を CEFR に対応させる、という案もあった。コメントを以下に列挙す
る。
【コメント】
•
教科書のテーマに沿って、CEFR の沿った活動を行う
•
教科書対応の Can Do を参照し、教え方、タスクなどに取り入れている
•
各学期末に、到達目標をどれだけ達成したか自己評価させる
•
各課の到達目標を CERF に対応させ設定し直す。各課の学習内容を CEFR に対応さ
せ追加または削除する。
•
教科書の各活動を Can Do で設定(現在作業中)
•
教科書の課ごとに Can Do を抽出し、それを目標設定に役立てている
•
Can Do を重視する。そのために、その課にない文法や表現もプラス
•
実際には既に CEFR への対応に取り組んだ機関のメソッドなどを取り入れています
30
質問項目 19 では、「あなたの機関の日本語教員の間で、CEFR を教育現場で参照・活用す
るのに難しいと思われている点は何ですか。また、それはなぜですか(複数回答可)」とい
う設問がされた。この質問に対する回答機関数は 93、未回答機関数は 138 であった。
CEFRの参照・活用
「あなたの機関の日本語教員の間で、CEFRを教育現場で参照・活用するのに
難しいと思われている点は何ですか。また、それはなぜですか(複数回答可)」
12.9%
複言語主義・複文化主義といった政治的・教育的背景
行動中心主義といった言語学習・教育に対する理論的
背景
15.1%
23.7%
カリキュラムやシラバスの開発・作成
到達目標の記述
10.8%
17.2%
教材作成
19.4%
試験作成
29.0%
評価・成績の出し方
教師研修
7.5%
教室活動の設定
他言語との対比
機関・教員の理解や協力
その他
図 20
14.0%
18.3%
16.1%
16.1%
Q19 の回答(回答数 93: 未回答 138)
ここでは回答数はさらに減っているが、それでも 93 機関が回答している。図 20 からも分
かるように、回答機関の 29%(27 機関)が評価・成績の出し方が一番難しいと選択している。
続いて、難しいのがカリキュラムやシラバスの開発・作成(23.7%、22 機関)のようである。
コメントには、多方面に渡る CEFR の参照・活用の難しさが書かれている。例えば、
「実際
に新しい試みをやる時間がない。できるところからやっているが。オンラインテスト作成の
計画もあるがなかなか時間がない時間がない」、
「日本語教員は私一人のため、一人では CEFR
に対応していない教科書を使いながら CEFR を参照、活用する、というのはかなり負担が大
きいです」のように時間的な問題があげられていた。特に教員が一人の場合は負担が大きい
という意見が見られた。
また、「日本語ではヨーロッパの多言語と同じような基準で対応できない面があるから」、
「日本語ではヨーロッパの多言語と同じような基準で対応できない面があるから」といった、
31
ヨーロッパ言語と日本語が異なるため、同じ基準を応用できない、という点をあげたコメン
トも複数あった。
「そもそもなぜすべての機関が CEFR を参照・活用しなくてはならないのか、という意見
もある」、「まったく必要としない教師がチームの責任者である場合」というコメントが示唆
しているように、機関内、プログラム内でも、CEFR の参照・活用に対する意見の食い違い
も難しさの一つと言えよう。
「公開講座などでは学習進度が非常に遅く、A1 以下の細かい評価ができない」、「コース
の長さによっては同じ A1 レベルでも到達目標が達成不可能な場合があるので、学習者への
情報として記述するときにためらわれる場合がある」というコメントが示しているように、
CEFR を現場に参照・活用しようとして難しさに出会っているケースも見受けられた。CEFR
の参照・活用は、役に立つと思われている一方で、どのように行うべきかについては難しい
と考えられているようである。コメントを以下に列挙する。
【コメント】
•
まったく必要としない教師がチームの責任者である場合。
•
教師研修をなくしては、教材作成や試験作成の困難さは想像できます。はたして、
教師研修をどのように、またどこでするというは実際に問題点だと思われます。そ
れから、政府が方針を固めなければ、日本語教育の担当として機関の理解や協力は
得にくいと思われます。
•
そもそもなぜすべての機関が CEFR を参照・活用しなくてはならないのか、という
意見もある。
•
公開講座などでは学習進度が非常に遅く、A1 以下の細かい評価ができない
•
必要且つ使いやすい部分だけを抽出して利用しているので困難な点については深
く考えたことがない。
•
当機関内の基準に則ったシラバス、試験、評価と、CEFR レベルとの格差があるこ
とが理由成人教育なので、試験をして評価を出すことを要求されていない。宿題を
出してそれを評価するだけなので、教師の評価の訓練が少ない。
•
コースの長さによっては同じ A1 レベルでも到達目標が達成不可能な場合があるの
で、学習者への情報として記述するときにためらわれる場合がある。
•
特に難しい点はありません。しいて言えば、生徒が従来の文法中心の言語習得方法
に慣れているため、少々戸惑っていることでしょうか。
•
限られた年間授業数では、CEFR で分けられたレベルでに到達目標に達することが
難しい。
•
受講者の年齢に開きがありすぎる。
•
私の学校は成人教育なので、特に年配の学習者が行動中心主義の語学学習になかな
か馴染めないという問題がある。
32
•
本当はどれもこれも難しい。どれもこれも少しはがんばっているという程度で、完
全に活用するのはどれもむずかしい。
•
日本語ではヨーロッパの多言語と同じような基準で対応できない面があるから。
•
ヨーロッパ言語を基準に全てが判断される点。
•
実際に新しい試みをやる時間がない。できるところからやっているが。オンライン
テスト作成の計画もあるがなかなか時間がない。
•
日本語教員は私一人のため、一人では CEFR に対応していない教科書を使いながら
CEFR を参照、活用する、というのはかなり負担が大きいです。
•
実際的な制約の中で実践を行っていくこと
•
現場の問題は、いわゆるボローニャ改革のあとから教員の事務手続きや成績、出席
の記録などに膨大な時間をとられることです。また数値評価で大学生の競争意識が
あおられるなどの風潮もあります。
次に、「ポートフォリオの活用」の質問項目の結果に移る。
3.4
ポートフォリオの活用
CEFR の教室内での活用の一形態としてポートフォリオ(ELP: European Language Portfolio)
がある。そこで、本調査では、ポートフォリオの活用という分野をもうけ、その浸透を調べ
た。
まず、質問項目 20 でポートフォリオを導入しているかどうかを聞いた。この質問に対する
回答機関数は 221、未回答機関数は 10 であった。図 20 から分かるように、回答機関の 88%
(195 機関)が導入していないと回答している。ポートフォリオを導入していると答えたの
は、11.7%(26 機関)のみだった。その内訳は、成人教育 10 機関,高等教育選択 8 機関、高
等教育主専攻 4 機関、初中等教育 2 機関、その他 2 機関という結果だった。成人教育と高等
教育選択機関で、より高い割合でポートフォリオが導入されているという結果は、質問項目
10 において、成人教育と高等教育選択機関が CEFR を参照・活用している、と答えた率が高
かったことと関連していると思われる。
33
ポートフォリオの活用
「あなたの機関では、日本語学習に欧州評議会認定のヨーロッパ言語ポート
フォリオ[ELP: European Language Portfolio]を導入していますか」
はい
12%
いいえ
88%
図 21
Q20 の回答(回答数 221: 未回答 10)
また、コメントでは、
「導入しようとしている段階」、「導入しようとしている段階」、「残
念ながらこれも導入されていませんが、現在、少しずつ変わりつつあります」というように、
これから導入をしようとしていると答えた機関があったので、ポートフォリオの導入は今後
増える可能性もある。
一方、ポートフォリオが何故活用されないかということに関しては、例えば、スペインでは
全語学で失敗した、というコメントもあった。文化による影響なのか、学生の気質によるも
のなのか、直接の理由は分からないもの、興味深い内容である。また、担当教師にはそこま
で手が回らない、という時間的な理由をあげているものもあった。
コメントを以下に列挙する。
【コメント】
•
日本語学科では秋から導入する予定です
•
私は、修士課程の一年生向けの自分のセミナーで個人的に導入していますが、同僚
はしていないと思います
•
一部のクラスで導入
•
残念ながらこれも導入されていませんが、現在、少しずつ変わりつつあります
•
やはり、初級の講座しかないので、その必要性が感じられないというのが現状です
•
導入を考えているが、学部の選択授業は 2012 年秋に始まったばかりなことと、担
当教員が 1 名の為、そこまで手が回っていない。語学選択全体のイントロダクショ
34
ン・ミーティングでは ELP について触れられているので、学生の中には見てみた
者もいるかもしれない
•
中等教育向けの日本語ポートフォリオが作成されたが、現場への導入はこれからと
いう段階
•
ただし会話の授業のみ
•
以前 ELP 導入を試みましたが、スペイン人の性格に合わないのか、全語学で失敗
しました
質問項目 21 では、使用している ELP の認定番号、開発国、対象学習者を聞いた。回答数
は非常に少なく、項目によって 7 か 8 機関からの返答しかなかった。開発国はスイスと答え
た機関が 5 機関、他はハンガリーとアイルランドであり、対象学習者は中等教育の学生か成
人学習者に分かれ、高等教育機関でのポートフォリオの導入は、個人で行っている場合以外
は、ほとんど見られないと言っていいようである。
質問項目 22 では、ポートフォリオを導入していると答えた機関のみに答えてもらった。
「あ
なたの機関の日本語プログラムでは ELP のどちらの機能を重視して活用していますか」とい
う設問がされた。この質問に対する回答機関数は 18、未回答機関数は 213 であった。図 22
にも見られるように、回答した機関の 50%(9 機関)が教育的機能を重視していると回答し
ている。一方で 30%近い回答(5 機関)が「分からない」となっていることにも注目したい。
ポートフォリオの活用
「あなたの機関の日本語プログラムでは、ELPのどちらの機能を重視して活用
していますか」
分からない
28%
どちらとも言えない
5%
図 22
報告的機能
17%
教育的機能
50%
Q22 の回答(回答数 18: 未回答 213)
35
質問項目 23 では、「あなたの機関の日本語プログラムでは、ELP のどの部分を中心に活
用していますか」という設問がされた。この質問に対する回答機関数は 19、未回答機関数は
212 であった。図 23 からも分かるように、回答機関の答えは、言語パスポート(21.1%、4
機関)、言語学習記録(21.1%、4 機関)、資料集(26%、5 機関)、それぞれに分かれた。
この項目においても「分からない」と答えた機関が 21%(4 機関)であり、言語パスポート
や言語学習記録を選んだ機関数と同じであった。この理由として、機関で統一してポートフ
ォリオの特定の部分を中心に活用している、というより、ある程度個人で自由にポートフォ
リオを導入している、ということが考えられる。しかし、回答機関数の絶対数が少ないので、
一般化できる傾向かどうかは、このデータからは分かりきれないことをつけ加えておく必要
があるであろう。
ポートフォリオの活用
「あなたの機関の日本語プログラムでは、ELPのどの部分を中心に活用して
いますか」
その他
5%
分からない
21%
言語パスポート
[Language
Passport]
21%
特にどの部分とは
言えない
6%
資料集[Dossier]
26%
図 23
言語学習記録
[Language
Biography]
21%
Q23 の回答(回答数 19: 未回答 212)
質問項目 24 は「あなたの機関では、機関独自の外国語(日本語)学習用ポートフォリオを
開発・使用していますか」という設問だった。この質問に対する回答機関数は 217、未回答
機関数は 14 であった。この質問に対して、回答機関の 86.2%(187 機関)が「いいえ」を選
択している。「はい」と答えたのは 13.8%で、機関数は 30 だった。この結果から、全体的な
傾向としては、ポートフォリオを全く使わない機関が大半であるものの、ポートフォリオを
36
活用している機関は、さらに独自のものを開発していると言えそうである。
どのような独自の学習用ポートフォリオが使用され、誰によって開発されているのか、と
いう点については、コメントを参照したい。例えば、「アイルランド日本語教師会と
Post-Primary Languages Initiative が協力して開発」というように、地元の日本語教師会と団体
が協力して開発している場合も見受けられる。また、「JFS に基づく教科書「まるごと日本
のことばと文化」に準拠したポートフォリオを使用」のように教科書に準拠したポートフォ
リオを用いたり、「1年間の学習用プリントや日本語学習の作品をファイルの形にして使用
している」のように教師が個人レベルで、ポートフォリオを使っている例も見られる。
ポートフォリオの活用
「あなたの機関では、機関独自の外国語(日本語)学習用ポートフォリオを開
発・使用していますか」
はい
14%
いいえ
86%
図 24
Q24 の回答(回答数 217: 未回答 14)
以下は、この質問項目に寄せられたコメントである。
【コメント】
•
アイルランド日本語教師会と Post-Primary Languages Initiative が協力して開発
•
あくまで成人教育としての言語教育について私が携わったことですが、2010 年ま
では、カレッジ全体の取り組みとして学習達成度(ILR)を記録することをしてい
ましたが、現在は方針が変わったようです。
•
言語学習記録(Language Biography)と資料集 (Dossier) を合わせたようなものを
行っている。
37
•
JFS に基づく教科書「まるごと日本のことばと文化」に準拠したポートフォリオを
使用
•
学習者のレベルに該当するレベルの枠組みを参考に独自の Schmeme of Work を作
成
•
1 年間の学習用プリントや日本語学習の作品をファイルの形にして使用している
•
私自身は、ノートを指定、学生は毎回の授業の記録を日付入りで手書きで記入して
学期末に提出してもらっています。点数評価はせず、ノートを付けることに よっ
て、ひとりひとりが自分のテンポや性格にあった方法で、自分の習得のプロセスを
体感することが目的です。また、たえず、クラス全体の活動を評価しあうこと も
しており、心理的なプロセスを重視するようにこころがけています。
質問項目 25 では、
「あなたの機関の日本語プログラムでは、ELP や独自のポートフォリオ
を使用していなくても、何らかの形でポートフォリオを学習に取り入れていますか」という
設問がされた。この質問に対する回答機関数は 217、未回答機関数は 14 であった。
ポートフォリオの活用
「あなたの機関の日本語プログラムでは、ELPや独自のポートフォリオを使用
していなくても、何らかの形でポートフォリオを学習に取り入れていますか」
はい
18.3%
いいえ
81.7%
図 25
Q25 の回答(回答数 217: 未回答 14)
図 25 にも見られるように、回答機関の 81.7%(177 機関)が「いいえ」と選択し、
「はい」
は 18%の 40 機関であった。「はい」と答えた 40 機関全てからコメントがあり、どのような
形でポートフォリオを学習に取り入れているかを返答している。以下に主なものを記すが、
38
会話、文字、文化学習記録、発表など、その使用場面は多岐に渡る。また、教員がいろいろ
とポートフォリオを使える場を考えながら、活用していることが分かる。
【コメント】
•
文字(ひらがなカタカナ漢字)学習ポートフォリオ、教室活動ポートフォリオ、文
化アトリエポートフォリオ等
•
いくつかの会話の授業で学習者の自己目標設定に用いられている
•
プレゼンテーション、発表、インターネットなどを通したリサーチ
•
クラウドのサイトを使って学生がアクセスできるポートフォリオがある。
•
作文、自由研究などに使用しております
•
漢字学習、留学
•
日本語体験記録
•
コースの半分で帰国する留学生(例:JYA)の評価の一部として独自のポートフォ
リオを使用(例:DVD を使ったプロジェクト;小エッセイ)
•
漢字学習、新聞記事翻訳、文法説明など
•
言語学習のストラテジーを自律的に学習し、e ポートフォリオを作る
•
高校1年次の Transition year(Gap Year)の日本語コースで、非常に簡単な「日本
語・日本文化発見シート」を利用している。また、教師研修時に教師研修ポートフ
ォリオを利用している。
•
漢字学習用、作文用
•
教育学を選考する学習者が自らポートフォーリオを作った。
•
初級学習記録ポートフォリオ
•
学習者のレベルに該当するレベルの枠組みを参考に独自の Scheme of Work を作成
•
中級以上のレベルで部分的に(漢字学習や作文指導)使用しています。
•
ファイル形式のものは、きちんと持ってこないので、Dropbox を使って、各自の作
文、俳句、プレゼンの録画などを記録しています。
以上が、
「ポートフォリオの活用」の質問項目の結果である。次に、アンケート調査の 4 つ目
の分野である、「評価基準としての CEFR」のアンケート調査の結果に移る。
3.5
評価基準としての CEFR
評価基準の観点から見る CEFR の役割は、共通参照レベルをさまざまな場面で一般的に使
用できることである。この項目では機関で教員が CEFR を利用する場合評価基準も使用され
ているのか、それとも CEFR は導入されているが、共通参照レベル、評価基準は使用されて
いないのかを調べる。
質問項目 26 は、「あなたの機関の日本語プログラムでは、CEFR の共通参照レベルと他の
基準を対比する必要がありますか」という設問であった。この質問に対する回答機関数は 211、
39
未回答機関数は 20 であった。結果は図 25 に示した通りである。
評価基準としてのCEFR
「あなたの機関の日本語プログラムでは、CEFRの共通参照レベルと他の基準を
対比する必要がありますか」
対比する必要がある〜日本語プログラムの各コースの
レベルを記述する際、必要である
24.1%
対比する必要がある〜学習者が就職・進学等で日本
語の熟達度を示さなければならない際、必要である
対比する必要がある〜その他
15.1%
7.1%
対比する必要がない
分からない
確認したことがない
図 26
42.5%
9.0%
10.8%
Q26 の回答(回答数 211: 未回答 20)
一番回答数が多かったのは、
「対比する必要がある」で、合計約 46%(98 機関)であった。
このうち、24.1%(51 機関)が各コースのレベルを記述するときに、15.1%(32 機関)が進
学等で日本語の熟達度を示さなければならない場合、そして 7.1%(15 機関)がその他の理
由で対比を必要とすると答えている。他の理由はコメントから分かる。例えば、CEFR だけ
で既習者の日本語レベルが分かりにくいとき、学生がエラスムスなどで他の大学へ行くとき、
また、日本語能力試験を受けたい生徒がいるとき、などである。また、
「会話テストの評価シ
ートを作るときに CEFR と JFS とを対比する教員もいる」、
「『語学パス』を希望する学生がい
ると対比する必要がある」、
「話す技能に関しては OPI の基準を対比する」と答えた回答機関
もあった。
一方、CEFR 共通参照レベルとほかの基準を対比する必要がないと答えた回答者は 42.5%
(90 機関)である。また、約 20%(42 機関)は、「答えが分からない」、又は「確認をした
ことがない」と回答したが、それは今まで比較の必要がなかったとも理解することができる
であろう。
40
以下は、この質問項目に書き込まれたコメントである。
【コメント】
•
奨学金申請の際の日本語能力評価。
•
日本語既習者が登録した場合、CEFR だけでは既習内容が分かりにくい。
•
授業の成績表におおよそのレベルを記入する必要があります。
•
CEFR を用いたプログラムのある学校に属する学習者の要望に応じて、学習者の日
本語熟達度を示す際に、必要な場合がある。
•
会話テストの評価シートを作るときなどに、CEFR と JFS とを対比する。
•
義務づけられてはいませんが、学生がエラスムスなどで他の大学へ行く場合には報
告書に A2 程度…という書き方をします。
•
学位レベルの基準として定められている。
•
日本語能力試験を受けたい生徒がいる場合、対比することもある。
•
学期末の各生徒のレベル評価を記述する際に、この知識が役に立っている。
•
対比させる必要を感じる以前に CEFR が何であるか分からない教員が多い。
•
進学、就職の際には、日本語能力試験のレベルも使っている。
•
コースを取得した学生が「語学パス」というヨーロッパ共通枠のレベルを記したパ
スを希望する場合は対比する必要がある。
•
話す技能に関しては OPI の基準を対比している。
質問項目 27 は、「あなたの機関の日本語プログラムでは、CEFR の共通参照レベルを他の
基準と対比する際、問題がありますか」という設問であった。この質問に対する回答機関数
は 211、未回答機関数は 20 であった。この質問は CEFR の共通参照レベルを他の基準と対比
する場合に出てくる問題を問うものである。
41
評価としてのCEFR
「あなたの機関の日本語プログラムでは、CEFRの共通参照レベルを他の基準と
対比する際、問題がありますか。
問題がある:CEFR共通参照レベルと日本語能力試験
との対比ができない・難しい
18.9%
問題がある:CEFR共通参照レベルと日本語プログラ
ム独自の基準との対比ができない・難しい
13.7%
問題がある:CEFR共通参照レベルと機関独自の基準
との対比ができ内・難しい
問題がある:CEFR共通参照レベルと自国の国内共通
の基準との対比ができない・難しい
問題がある:その他
8.5%
5.7%
3.8%
19.8%
特に問題がない
25.9%
比較対比する必要がない
16.5%
考えたことがない
その他
図 27
3.3%
Q27 の回答(回答数 211: 未回答 20)
図 27 から分かるように、問題があると答えたのは、合計で 50.6%(107 機関)だった。そ
のうち 18.9%(40 機関)は、CEFR 共通参照レベルと日本語能力試験との対比ができない、
又は難しいと言う経験をしている。機関独自の基準や、日本語プログラム独自の基準が CEFR
共通参照レベルと比較しにくい、対比できないと答えたのは 22.2%(47 機関)だった。自国
の国内共通基準があり、その基準との比較が難しいと考えている回答機関は 5.7%(12 機関)
である。その他の理由で比較が難しいと答えた回答機関は 3.8%(8 機関)であった。この機
関の回答から、コースの試験結果と CEFR 共通参照レベルを結びつけることや、読み書きレ
ベルを CEFR のレベルに合わせられないことや、CEFR に含まれていない項目、例えば漢字
等の記述能力をどうするかという点が難しさの原因である、ということが明らかになった。
「CEFR は欧州言語をベースとしているため、日本語を対象とすると、工夫しないといけな
い場合が多々ある。」というコメントが示唆しているのは、問題の根本には、日本語がヨーロ
ッパ言語と大きく異なるためにこの「工夫」が難しいという悩みがあると思われる。
一方、「特に問題がない」と答えたのは 19.8%(42 機関)であった。この数は、様々な問
題があった 107 機関と比べると半数以下で、全回答機関の 4 分の 1 となっている。
「比較する
必要がない」、又は「考えたことがない」と答えたのは、合計 42.4%(90 機関)であった。
42
興味深いのは、
「日本語は選択外国語のひとつとして教えられており、日本語を学ぶために
他のヨーロッパの大学に留学する学生はいないので、具体的に他の基準と対比する必要がな
い」というコメントで、EU ではエラスムという EU 域内での留学生度が発達しており、選択
外国語として日本語を学習している学習者が他のヨーロッパの大学に留学する可能性が大い
にあり、その際に留学先の大学で日本語の授業を受ける可能性もあると思われる。実際のと
ころ、本稿執筆者の大学では、これまでも他のヨーロッパの大学で選択科目として日本語を
学習したエラスムス留学生を受け入れてきた。第 27 の質問から、選択外国語として日本語を
学習した大学生の EU 域内での活発な交流の促進を図ることが、ヨーロッパにおける日本語
教育の普及のためのひとつの課題、可能性として見えてきた。
以下は、この質問項目に書き込まれたコメントである。
【コメント】
•
本大学での到達目標が、専門性(言語学)の獲得とそのための日本語、と位置づけ
られている為、CEFR と質的なズレがあるように思う。
•
日本語は選択外国語のひとつとして教えられており、日本語を学ぶために他のヨー
ロッパの大学に留学する学生はいないので、具体的に他の基準と対比する必要がな
い。
•
クラスの大部分は初級クラスであり、CEFR 共通参照レベルだけでは、クラスのレ
ベル差を示しにくい。
•
読み書きレベルが CEFR と同じに持っていけない。
•
CEFR は欧州言語をベースとしているため、日本語を対象すると、工夫しないとい
けない場合が多々ある。
•
CEFR に含まれていない項目をどうするかという点で。
•
他のヨーロッパ言語と同じ到達度が要求されるが,限られた大学の時間では日本語
は不利。
•
コースの試験結果と CEFR 共通参照レベルを結びつけることが難しい。
(たとえば、
レベル 2 は当機関としては A2 に設定しているが、学年末の試験で 50 点を取った
学生と 80 点を取った学生の CEFR のレベルをどうするか)。
•
漢字等の記述能力について。
•
特に卒業試験の基準と対比しにくい。
•
他の言語に比べ、漢字等の文字の習得に時間がかかるので、日本語はいつまでもレ
ベル A という評価になってしまう。
質問項目 28 では、
「あなたの機関の日本語プログラムでは、留学等で学習者が移動する際、
CEFR の共通参照レベルを評価や能力記述に使っていますか」という設問がなされた。この
質問に対する回答機関数は、前項目と同様、211、未回答機関数は 20 であった。
43
評価基準としてのCEFR
「あなたの機関の日本語プログラムでは、留学等で学習者が移動する際、
CEFRの共通参照レベルを評価や能力記述に使っていますか」
はい
22.6%
いいえ
77.4%
図 28
Q28 の回答(回答数 211: 未回答 20)
質問項目 28 は、学習者が留学する際、CEFR の共通参照レベルが評価や能力記述に使われ
ているかを問うものである。図 27 から明らかなように、回答機関の 22.5%(48 機関)が使
っていると答え、77.3%(163 機関)が CEFR の共通参照レベルを評価や能力記述には使って
いない、と回答している。使わない理由として、
「日本の大学では CEFR はほとんど使われて
いない」、「日本語学習者は日本へ留学するので CEFR に関連した記述はこれまで必要なかっ
た」、「交換留学先が日本の大学だと、CEFR より日本語能力試験のレベルを参考にしている
ところが多い」というように、日本の留学先の機関との関係で、CEFR の共通参照レベルを
使う機会が少ないと思われる。
CEFR の共通参照レベルを評価や能力記述に使用しているのは 22.6%(48 機関)。このうち、
日本への留学生がいなくても、レベルチェックテストを通して学習者のレベルを認定する機
関もあれば、CEFR の共通参照レベルを部分的に評価に使用している機関もある。また、CEFR
を基に独自に作った評価表を学生や機関に渡す場合があると思われる。
以下は、この質問項目に書き込まれたコメントである。
【コメント】
•
留学した学習者はいないが、レベルチェックテストなどを通して学習者のレベル認
定(試用段階)をしている。
•
あくまでも部分的であり、全体を CEFR のレベル基準で評価だけで済ますことはあ
りません。
44
•
当学科の主な交換留学先は日本の大学なので、CEFR より日本語能力試験のレベル
を参考にしています。
•
日本語能力試験レベルを参考にしている。
•
卒業に必要な単位数の一部であり(学生の専門は経済であったり、化学であったり
する)、このような場面があることはほとんどない。
•
移動先もナショナルカリキュラムのレベル記述を使っているので、レベルを言えば
分かってもらえます。
•
現在のところ日本に留学する学生が多く、CEFR のレベルを使う機会は少ない。
•
日本の大学では CEFR はほとんど使われていない。
•
CEFR による必要がない。JLPT 一本槍で十分。但し、過去に ACTFL/OPI を併用し
たことがあるが、普段の授業で学生個々人の発話力が把握されているので、敢えて
(時間のかかる)OPI をする必要を感じなくなり、OPI は原則的に廃止した。
•
今までのところ、学生の日本留学の際に求められた評価基準は、常に日本語能力試
験のレベルでした。
•
今のところ JLPT の基準で対応できている。またセルビアからヨーロッパ内の大学
に移動することは、ほとんどなく、日本語学習者は日本へ留学するので CEFR に関
連した記述はこれまで必要なかった。
•
CEFR を基に独自に作った評価表を生徒に渡し、他の機関に行っても、この評価表
を見れば(渡せば)自分のレベルが分かると伝えている。
質問項目 29 は、「あなたの機関の日本語プログラムにおいて、留学等で学習者が移動する
際、CEFR の共通参照レベルを評価や記述に使っている場面を以下からお選びください(複
数回答可)」という設問であった。この質問に対する回答機関数は 39、未回答機関数は 192
であった。本質問では、回答機関の数が非常に少なかった。
45
評価としてのCEFR
「あなたの機関の日本語プログラムにおいて、留学等で学習者が移動する際、
CEFRの共通参照レベルを評価や能力記述に使っている場面を以下からお
選びください(複数回答可)」
留学先の機関(日本)に学習者やコースレベルを報
告・説明する時、使っている
留学先の機関(日本)が学習者やコースのレベルを
報告・説明してくる時、使用されている
76.9%
7.7%
留学先の機関(欧州)に学習者やコースのレベルを
報告・説明する時、使っている
留学先の機関(欧州)が学習者やコースのレベルを
報告・説明してくる時、使用されている
図 29
28.2%
25.6%
Q29 の回答(回答数 39: 未回答 192)
際立っているのは、質問項目 26 で「日本語プログラムの各コースのレベルを記述する際に
CEFR の共通参照レベルと対比する必要がある」と答えた機関(51 機関)が、質問項目 29
に回答を寄せた機関数(39 機関)を上回ることである。
また、コースのレベルが日本の機関から報告や説明されると答えたのは 25.6%(3 機関)
しかいなかった。つまり、日本側が CEFR の共通参照レベルを使用し、コースのレベルを記
述、対比することはほとんどないことが分かる。
ヨーロッパの機関から日本へ留学する場合は、回答を寄せた 39 機関のうち 76.9%(30 機
関)が CEFR の共通参照レベルを使用し、コースのレベルを記述、対比すると回答した。
ヨーロッパ内の移動について見てみると、学習者やコースのレベルの報告や説明に CEFR
の共通参照レベルを使用していると回答したのは、学生を留学先の機関に送り出す際が 10
機関、受け入れる際が 11 機関と、ほぼ同数であった。恐らく、これは、ヨーロッパで 1989
年から導入されたエラスムス(Erasmus)という高等教育機関のモビリティープログラムを利
用した移動に際して使用されたものであると思われる。現在、エラスムス・プログラムには、
EU28 カ国とアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、トルコ、スイスという 33 カ
国が参加しており、ヨーロッパの高等教育機関の大部分、4,000 機関以上が同プログラムの
46
メンバーとなっている。このプログラムを通じて、毎年およそ 23 万人の学生が奨学金を受け
てヨーロッパ内を移動する3。日本語以外に、例えば他の外国語や経済、コミュニケーション
などを専攻している学生が、エラスムス・プログラムに参加することもある。その時に、学
生が留学先でも日本語を学びたい場合、CEFR 参照レベルを学習者やコースのレベルの報告
や対比に使っているのであろう。
一方、日本語教育が日本学科の枠内で行われている機関では、留学先はヨーロッパよりも、
日本を希望する学生が一般的なため、こうしたヨーロッパ域内での CEFR 参照レベルの使用
がないと思われる。
以下は、この質問項目に書き込まれたコメントである。
【コメント】
•
就職のため。
•
留学した学習者がいないため、回答できない。
•
事例が無いので回答は不可能です。
•
日本の大学に CEFR や JFCan Do の話をしても通じない。
•
現実には JLPT のどれに受かっているかというのを書くほうが多い。
•
生徒には、その場合に使用するといいと伝えているが、私自身からは、報告してい
ない。
質問項目 30 は「あなたの機関の日本語プログラムでは、学習者が日本に留学する場合、
CEFR の評価以外に、どのように学習者やコースのレベルを報告・説明していますか(複数
回答可)」という設問であった。この質問に対する回答機関数は 210、未回答機関数は 22 で
あった。本質問は日本留学の際、学習者やコースのレベルを CEFR の評価を除く他のどのよ
うな方法で報告、説明するかを問うものである。
3
http://ec.europa.eu/education/tools/llp_en.htm#tab-4; http://esn.org/erasmus
47
評価としてのCEFR
「あなたの機関の日本語プログラムでは、学習者が日本に留学する場合、
CEFRの評価以外にどのように学習者やコースのレベルを報告・説明していま
すか(複数回答可)」
留学先の機関指定のレベルに応じて、学習者やコ
ースのレベルを報告・説明する
26.7%
自分の機関でしているレベルを使い、学習者やコー
スのレベルを報告・説明する
自国の国内共通レベルを使い、学習者やコースの
レベルを報告・説明する
18.6%
4.8%
日本語能力試験(JLPT)のレベルを使い、学習者や
コースのレベルを報告・説明する
一般的なレベル(例:初級、中級、上級)で、学習者
やコースのレベルを報告・説明する
言語知識(例:既習文型、学習語彙、漢字数など)
の詳細を伝え、学習者やコースのレベルを報告・説
明する
37.1%
27.1%
25.2%
使用教科書のどの課までしゅうりょうしているかを伝
え、学習者やコースのレベルを報告・説明する
35.7%
学習時間数(授業時間数)、学習年数などを伝え、
学習者やコースのレベルを報告・説明する
その他
図 30
41.4%
26.2%
Q30 の回答(回答数 210: 未回答 21)
図 30 から明らかなように、一番多く使用されている方法は、従来通りの方法で、学習時間
数、授業時間数、学習年数を通してレベルを伝えるもの(41.4%、87 機関)である。次に、
これよりは少なめだが、ほぼ同じ割合で使用されている方法が日本語能力試験のレベル
(37.4%、78 機関)と使用教科書の進み具合(35.7%、75 機関)である。コメントを見ると、
「日本の留学先がレベル報告として求めるのは日本語能力試験のみ」というものがあった。
ヨーロッパでは、かつては一般的に初級、中級、上級とレベル分けをしたが、現在、その使
用率は 27.1%(57 機関)に過ぎない。回答機関の 25.2%(53 機関)は、学習者の日本語知識
を文型、語彙、漢字数などで表している。コメントによると、日本語レベルの個人差が激し
いため、一人ひとり違う解説をつけて日本に送るところもある。
学習者やコースのレベルを報告、説明する際に、それを国の共通レベル、機関で設定した
共通レベル、又は留学先の機関指定のレベルをもとにするかどうかに関しては、回答が分か
れている。その中で一番多い回答は留学先の機関指定のレベルの使用である(26.7%、56 機
関)。自分の機関で設定したレベルを使用する機関は 18.6%(39 機関)で、一番少ないのは
48
国の共通レベル使用(4.8%、10 機関)である。ヨーロッパ内では、共通参照レベルとして
CEFR の共通参照レベルながあるので、国独自の共通レベルは少ないように見える。
以下は、この質問項目に書き込まれたコメントである。
【コメント】
•
留学先が指定する記入用紙に求められている情報が上にチェックを入れた内容に
なっている。
•
授業数が、限られているので、語学以上に、文化、伝統、物の考え方を教えること
に力を入れている。
•
留学した学習者がいないため、回答できない。
•
特定の教科書を使用していないので、いくつかの教科書を例に挙げ、その何課ぐら
いまで終了しているか説明する。
•
事例が無いので回答は不可能だが、JLPT のレベルや、具体的な既習項目を説明す
ると思う。
•
留学先がレベルを指定してくる。
•
個人差が激しいため、上記を元に、一人ひとり違う解説をつけて日本に送っている。
•
ほとんどが初心者レベルなので、留学先でクラス分け試験を受けると思うが、事前
の報告を求められたことはない。
•
皆さん個人で報告されたのではないかと思われます。
•
履歴書などの添付用に、コース名で参加証明書を f 出すことはある。
•
CEFR の評価は求められない。求められるのは JLPT のみ。また、殆どの場合日本
側大学が学生個々人につき「言語知識」タイプか「優れている、普通、やや劣る等々」
から選択する簡単な調査をするケースもある。
質問項目 31 では、「あなたの機関の日本語プログラムでは、学習者がヨーロッパ内に留学
する場合、CEFR の評価以外に、どのように学習者やコースのレベルを報告・説明していま
すか(複数回答可)」という設問がされた。この質問に対する回答機関数は 210、未回答機関
数は 21 であった。この質問はヨーロッパ内で留学するときに使用する、CEFR の評価とは異
なる、日本語学習レベルの説明方法について情報を求めるものである。
49
評価としてのCEFR
「学習者がヨーロッパ内に留学する場合、CEFRの評価以外にどのように学習
者やコースのレベルをせつめいしていますか(複数回答可)」
留学先の機関指定のレベルに応じて、学習者や
コースのレベルを報告する
1.1%
自分の機関で設定しているレベルを使い、学習者
やコースのレベルを報告する
自国の構内共通レベルを使い、学習者やコースの
レベルを報告する
日本語能力試験(JLPT)のレベルを使い、学習者や
コースのレベルを報告する
一般的なレベル(例:初級、中級、上級)で、学習者
やコースのレベルを報告する
言語知識(例:既習文型、学習語彙・漢字数など)の
詳細を伝え、学習者やコースのレベルを報告
使用教科書のどの課まで終了しているかを伝え、学
習者やコースのレベルを報告する
学習時間数(授業時間数)、学習年数などを伝え、
学習者やコースのレベルを報告する
11.9%
3.8%
21.0%
20.0%
13.3%
21.4%
24.8%
その他
図 31
50.0%
Q31 の回答(回答数 210: 未回答 21)
留学先の機関指定のレベルに応じて学習者やコースのレベルを報告する機関は、全回答の
11%(23 機関)で、自分の機関で設定したレベルを使用機関とほぼ同じ割合になっている
(11.9%、25 機関)。自国の国内共通レベルを使っている機関は、質問項目 30 と同様、非常
に数が少ない(3.8%、8 機関)。日本留学と同じように、ヨーロッパ内の移動の場合も日本語
能力試験のレベル(21%、44 機関)や、初級、中級、上級のレベルのわけ方(20%、42 機関)、
そして使用教科書の進み具合(21.4%、45 機関)でレベルを報告するのが一般的である。こ
の割合を少し上回っているのは、学習時間数、授業時間数や学習年数を通して学習者のレベ
ルを報告する方法である(24.8%、52 機関)。本質問で「その他」という回答が目だって多か
ったのは(回答者の半数)、例えば「該当ケースなし」というコメントからも分かるように、
これまでヨーロッパ内の留学先とかかわりがなかったところが多いからであろう。
コメントの中に「ヨーロッパ内へ留学する学生は基本的に日本語を学習しないので、特に
レベルを説明する必要がありません。」と記したものもあったが、これは当該機関の日本語教
50
員に対して学習者あるいはヨーロッパの機関からこのような要請がなかったということだろ
う。エラスムス・プログラムに参加する学習者数を見ると、参加者の中には日本語学習者も
いると思われるが、現状では、半年間エラスムス・プログラムで留学する学習者は、留学先
の高等教育機関、又はその近くにある日本語教育が行われている教育機関で日本語学習を続
けることができる、という情報がないように思われる。これは、学習者だけに限られず、日
本語教員も知らないということである。そこで、今後はヨーロッパ日本語教師会のネットワ
ークを使って、ヨーロッパの他の機関に留学中でも日本語学習を続けることができるように
することが必要だと思われる。
以下は、この質問項目に書き込まれたコメントである。
【コメント】
•
今までに必要だったことがない。
•
該当ケースなし
•
学習者がヨーロッパ内に留学するケースで、レベルの説明を求められたことがあり
ません。
•
日本語習得を目的としたヨーロッパ内の留学というケースはこれまでないので特
に必要がない。
•
タッチしていない。
•
日本にしか行かない。
•
事例が無いので回答は不可能だが、JLPT のレベルや、具体的な既習項目を説明す
ると思う。
•
ヨーロッパ内での留学はない。
•
CEFR のおよその対応レベル(B1∼B2 レベル等)も併せて報告する。
•
私の知る範囲では、学生自ら応募しているようですが、詳細は把握していません。
•
日本語の評価を求められたことがない。
•
ヨーロッパ内へ留学する学生は基本的に日本語を学習しないので、特にレベルを説
明する必要がありません。
•
今までこうしたケースがなかった。しかし、私たちのカリキュラムでは、cefr 対応
のレべルを提示している。
以上が、「評価としての CEFR」の質問項目の結果である。次に、最後の質問分野である
「CEFR 研修について」に関するアンケート結果を報告する。
3.6
CEFR 研修について
上記で分析したコメントには、CEFR の研修会に出席して CEFR を理解するようになった、
その教育理論に興味が湧いた、など CEFR 研修について有用性を説くものが多く見られた。
そこで、
「CEFR 研修」という質問分野では、実際にはどの程度機関主導で CEFR の研修会が
51
行われているのか、どの程度の頻度で行われているのか、どのような内容か、どのような形
で行われているのか、機関外の研修会への参加を機関が奨励しているのか、などについて調
査した。
まず、質問項目 32 の CEFR の研修会や勉強会が行われているかという設問をした。この質
問に対する回答機関数は 210、未回答機関数は 21 であった。図 31 の結果を見ると、全回答
の 78.6%(165 機関)が設問に対して「いいえ」と述べている。
「はい」と答えたのは 21%で、
機関数で 45 である。
この質問は、機関主導の研修会や勉強会が行われているかを調べたものである。結果が示
していることは、CEFR の研修会や勉強会は、基本的には機関主導で行われていないことが
分かる。実際には、機関外で行われていることが多い。他言語のプログラムの勉強会や日本
語教師に限らない語学教師研修会、教師会、国際交流基金の教育アドバイザーの講義、政府
や教育庁が行う研修会などが、主たる研修会や勉強会の母体となっている。
CEFR研修
機関内でCEFRの研修会や勉強会が行われていますか。
はい
21.4%
いいえ
78.6%
図 32
Q32 の回答(回答数 210: 未回答 21)
以下は、この質問項目に寄せられたコメントである。
【コメント】
•
機関内ではないが他機関との勉強会はある
•
ウプサラ大学の研修コースに出たことがあります。
52
•
機関内で他の外国語のプログラムや学習の比較に対しての勉強会が行われていま
す。その中は CEFR についての話がありました。
•
成人教育の語学教師研修会があり、その時 CEFR について触れられたが、詳しいも
のではなかった。
•
政府、教育庁で行われています。
•
国際交流基金の教育アドバイザーの講義。またヨーロッパのエキスパートを招いて
の CEFR のセミナー実施。
•
個人参加でスイス日本語教師会の研修を受けに行く
•
所属機関では、行われていないが、ドイツ VHS 日本語教師の会で勉強会が行われ
ている
•
興味のある教員どうしの個人的なレベルで勉強が行われている
•
内部研修での CEFR に触れることは多いが CEFR のための内部研修会はない
質問項目 33 では、どのぐらいの頻度で研修や勉強会が行われているかを聞いた。この質問
に対する回答機関数は 42、未回答機関数は 189 であった。研修会や勉強会を行うとした機関
は、平均年に 2 回から 3 回ぐらい行っている。しかし、年 30 回ぐらいとした機関や年 100
回以上行っているという機関もあった。
質問項目 34 は、「機関内でどのような内容の CEFR の研修会や勉強会が行われていますか
(複数回答可)」という設問であった。この質問に対する回答機関数は 42、未回答機関数は
189 であった。図 32 を見ても分かるように、研修内容としては共通参照レベル(54.8%、23
機関)や評価基準の設定(50%、21 機関)と言った評価に関わるものが多い。その他の部分
も、ある程度は触れられている。そこから、研修では評価を主としていながらも、CEFR の
本の章を網羅するよう、研修会や勉強会が行われていることが伺える。
53
CEFR研修
「機関内でどのような内容のCEFRの研修会や勉強会が行われていますか
(複数回答可)」
複言語主義、複文化主義などを含む
CEFRの政治的・教育的背景
23.8%
行動中心の考え方を含むCEFRの言語学
習・教育に対する理論的背景
28.6%
54.8%
共通参照レベル
35.7%
カリキュラムやシラバスの開発・作成
26.2%
教材作成
23.8%
試験作成
50.0%
評価基準の設定
33.3%
教室活動の設定
その他:コメント欄にご記入くださ
い。
図 33
16.7%
Q34 の回答(回答数 42: 未回答 190)
質問項目 35 では、誰が主となって CEFR の研修会や勉強会を行っているかを調べた。この
質問に対する回答機関数は 43、未回答機関数は 188 であった。図 34 からも分かるように、
最も多いパターンは CEFR に詳しい言語教師が担当することである(48.8%、21 機関)。外部
から専門家を招待する場合も 37.2%(16 機関)あるが、機関内の専門家に頼んだり、言語教
師が担当する、ことが多い。この結果は、機関の研修にあてる予算の関係なども理由として
考えられる。
54
CEFR研修
「機関内で行われているCEFRの研修会や勉強会の講師に関して、当てはまるもの
を選んでください。(複数回答可)」
37.2%
外部から専門家を招待
23.3%
機関内の専門家に依頼
CEFRに詳しい言語教師が担
当
48.8%
18.6%
その他
図 34
Q35 の回答(回答数 43: 未回答 189)
質問項目 36 は、「機関外で行われている CEFR の研修会や勉強会への参加が機関で奨励さ
れていますか」という設問であった。この質問に対する回答機関数は 209、未回答機関数は
22 であった。図 35 からも分かるように、特に奨励されていない」、「分からない」が合わせ
て約 80%(170 機関)であった。
それに対して、奨励されている機関は 13.9%(29 機関)であった。参加が義務づけられて
いる機関や、あるいは特に奨励されていなくても、研修会や勉強会への参加には協力的であ
る機関もある。研修会への参加奨励の度合いは、特には奨励されていないが、実情は機関に
よって異なると言えそうである。
55
CEFR研修
「機関外で行われているCEFRの研修会や勉強会への参加が機関で奨励され
ていますか」 13.9%
奨励されている
67.5%
特に奨励されていない
分からない
その他(コメント欄にご記入くだ
さい)
図 35
12.0%
6.7%
Q36 の回答(回答数 43: 未回答 189)
以下は、この質問項目に寄せられたコメントである。
【コメント】
•
参加するための時間とお金はありません
•
特に何も言われない。個人の意志に任されていると思う。
•
年次契約の更新の際に研修会の参加回数が考慮されるため
•
機会があれば、参加は奨励されると思われるが、今までのところそういった機会は
なかった。
•
どちらかというと、個人選択に任されている
•
オランダ語や英語教員にはそういった予算も組んでもらえますが、非常勤の日本語
教員にはそんな予算もないので…。
•
CEFR に限らず、各教員の教育/研究専門分野の研修会への参加は奨励されており、
機関からの補助も利用できる
•
義務付けられています。
質問項目 37 では、
「機関内で CEFR に関する知識を身につけることが求められていますか」
という設問がされた。この質問に対する回答機関数は 209、未回答機関数は 22 であった。回
答した機関の 20.6%(43 機関)は「はい」と答えている。「いいえ」とはっきり答えた機関
が 36.8%(77 機関)で、「どちらとも言えない」あるいは「分からない」とした機関が合計
43%(89 機関)であった。コメントを見ても、機関が CEFR に関する知識を積極的に求める
56
というよりも、個人、あるいは教師間でその必要性を感じているという場合が多いようであ
る。
CEFR研修会
「機関内でCEFRに関する知識を身につけることが求められていますか」
分からない
6.7%
はい
20.6%
どちらとも言えない
35.9%
いいえ
36.8%
図 36
Q37 の回答(回答数 209: 未回答 22)
以下にコメントを抜粋して記す。
【コメント】
•
機関からの上からの指示や、求めは一切ないが、学生の移動や留学にかかわる仕事
を遂行する上で必要になることはある。
•
ビジネススクールでは語学教師はまったく自由。
•
知識を持っているのが前提と考えられているので、何も言われない。
•
機関側からは求められているわけではないが、欧州で教師をしている限り必要性を
感じる。
•
学校からは特に求められないが、教師間で必要があるとの認識がある
•
日本語学科では求められています
•
CEFR の実際のステータスはむしろ「形式」です。
•
ヨーロッパ言語の教員には求められていると思いますが、日本語教員には特に要求
されていません。
57
•
特に求められてはいませんが、プログラムに CEFR レベルを表記するため、教員が
個別に情報を探して、ある程度の知識を得ています。
•
課題遂行を軸にした授業実践を実施しているので、間接的な形ではあるが求められ
ていると言える。
•
CEFR の日本語教育への必要性が認識されていません。
上記で既に触れたように、
「機関外で行われている CEFR の研修会や勉強会への参加が機関
で奨励されていますか」という設問では、
「特に奨励されていない」、
「分からない」が合わせ
て 80%を越えた。また、機関内で CEFR に関する知識を身につけることが求められているか
という点に関しても、
「いいえ」
「どちらとも言えない」
「分からない」が合計約 80%を占め、
機関主導で始まった CEFR でありながら、機関そのものは教師が CEFR の知識をつけること
については、特に積極的に取り組んでいない、という姿勢が垣間見える結果となった。ただ
し、機関ごとの差はかなり大きく、積極的に CEFR の研修会や勉強会へ参加することを奨励
し、CEFR の知識を身につけるように求める機関も、少数ではあるが存在することも分かっ
た。
4
まとめ
このアンケート調査では、CEFR がヨーロッパの日本語教育機関で、どのぐらい浸透して
いるかの実態を調べた。特に、研究課題のサブ課題である「1. CEFR はどのぐらい理解され
ているか」、
「2. CEFR の何がどのぐらい参照・活用されているのか」、
「3. 評価としての CEFR
と他の評価との擦り合わせはどうなっているか」、
「4. 教師研修の実情はどうなっているか」、
という点に絞って、アンケート調査を行った。欧州 28 カ国に存在する、232 カ所の日本語教
育機関の協力を得た大規模な調査となった。ここでは、その調査結果をまとめる。
CEFR は浸透しているか、という問いに関しては、10 年前と比較して、知名度や内容の理
解に関しては、だいぶ浸透してきていると言えるだろう。そして、その浸透は、理解すると
いうレベルにとどまるのではなく、CEFR を参照・活用を試みる段階に及んでいる。
何が参照・活用されているか、という問いに関しては、やはり共通参照レベルが一番参照・
活用されているようである。これは、到達目標を CEFR の共通参照レベルで書くようになっ
た機関が増えたこととも関係していると言える。機関やプログラムの方針がきっかけで
CEFR が浸透している動きと、言語教育への有用性を感じた教員が個々にシラバスやカリキ
ュラム、教室内活動で参照・活用し、CEFR が浸透している動きが同時進行している、と調
査結果は示唆している。また、知識としての CEFR は、教員の言語観や言語教育観にも影響
を及ぼしていることが、結果から読み取れる。この機関やプログラムの方針というトップダ
ウンの動きと、教員自らの意志というボトムアップの動きの連動は、規模ははるかに小さい
にしても、ポートフォリオの導入に関しても見られる。
このような一連の CEFR 浸透の動きの中で、学習者のヨーロッパ内、あるいは日本への移
58
動において、さまざまな既存の評価基準と CEFR の擦り合わせが問題化してきている。しか
し、同時に、CEFR の共通参照レベルや能力記述を学習者の移動(留学)時に使っていない、
とする機関も過半数以上あった。この結果は、ヨーロッパ内のみならず日本を含めた地球規
模での、透明性と一貫性をもった評価基準を用いる連携、協力がまだ成り立っていないこと
を反映する、と解釈できる。一方では、新たな共通枠の必要性を感じていない機関が多いこ
とを反映する、とも解釈できる。特筆すべきなのは、CEFR の理解や参照・活用が浸透して
きている反面、学習者の移動の促進、という CEFR の根本的な目的の部分では、あまり浸透
が見られない点であろう。もっとも、評価基準グループの報告からも明らかなように、さま
ざまな国において、評価基準の現状に対応する動きが起こっている。この分野は過渡期であ
り、今後も変化が見られると考えられる。
さらに、過去 10 年間における CEFR 浸透の裏には、多くの教師研修や勉強会の存在がある
ことを、調査結果は示している。ただし、この担い手となっているのは、CEFR の参照・活
用のきっかけともなった国や機関・プログラムではなく、教師会、国際交流基金、あるいは
機関内の他言語も含めた言語教育団体といった組織と言える。合わせて、CEFR 浸透の担い
手となっているのは、CEFR の理解を深めた個々人の教員である。
CEFR 浸透の担い手という点に関して、アンケート結果からある特徴が見られた。それは、
CEFR の理解度、参照・活用(ひいては浸透)には、個人・教育段階別の機関間で差が見受
けられる、という点である。個人差についての記述は、コメントに頻繁に表れていた。同じ
機関内でも CEFR の理解や参照・活用の度合いは、各教員によって異なる。機関内の研修会、
勉強会などの機会も少ない。その為だと思われるが、教員間で CEFR について話すことは少
ない、他の教員の CEFR の理解や参照・活用は分からない、といった現場の現状がコメント
から示唆されている。
興味深いのは、教育段階別の機関間で CEFR の浸透度に差が見られた点である。調査結果
によると、専門科目としての高等教育、そして成人教育に関わる機関において、CEFR の参
照・活用がもっとも盛んであった。この結果は以下の点を示唆している。まず、これらの機
関での日本語講座は、他の外国語教育と合わせて開講される事が多い。そのため、他のヨー
ロッパ言語と足並みを
えるという意味で、CEFR の参照・活用が早く進むということであ
る。同時に考えられるのは、日本語を専門としている高等教育機関と比べ、これらの機関の
方が柔軟性に富む、ということである。言い換えれば、これらの機関の方が、言語教育界の
動きや方向性に対して、敏感に反応し、且つ対応する、と言える。今後のさらなる CEFR の
浸透を考える際、これらの機関における連携や協力が、大きな意味を持つと考えられる。
以上がアンケート調査の結果とまとめである。
59
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