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海外市場の獲得を目指す (PDF:1358KB
海外市場の
獲得を目指す
事例
1
海外取引、ゼロからの出発!
技能と信頼で世界につながるモノづくり
株式会社金子製作所
父が切り拓き、兄が踏み固めた道
プルに「つくりたい」という気持ちで、兄の思想がそれを後押し
金子: 金子製作所は 1955 年に私の父が創業し、長年、精密
してくれました。兄の教えは今も受け継がれ、現在の航空機や
部品の切削加工に取り組んできました。最初は光学機器をつ
医療機器向けの多品種少量の技術力となっています。最近、
くる大手メーカーの下請け工場でした。高度成長の最中、小さ
海外から仕事を受けるようになったのも、兄の読み通り、高度
な町工場も汗を流して頑張れば何とかなった時代です。
でニッチな私達の技術が必要とされている証です。
父を継いだ私の兄は、特定の業界や顧客への依存から脱
家電製品など、消費者向け製品の部品は設計が簡単で、
却を図り、30 年以上前に航空・宇宙分野に進出して、複数の
今は世界中で安く製造できます。一方、医療機器や航空機の
大手航空機メーカーの仕事を開拓しました。医療機器の部品
部品は品質・性能が最優先されます。結果として、製造の視
の仕事は、父の時代、約 40 年前から続けています。顧客が医
点では加工・量産が難しいものが多くあります。基幹部品は人
療に参入し、私達も医療機器の光学部品をつくり、顧客と一
が顕微鏡を見ながら仕上げを行います。大変ですが、それが
緒に医療機器市場に挑んできた歴史があります。
私達の得意とする仕事です。金子製作所の強みは技術よりも、
個々人に宿る技能にあります。60 年の歴史で培ってきたもの
兄は消費者向け製品の部品製造という仕事の将来性に疑
が現場に息づいています。
問を持ち、40 年前、すでに「ニッチ分野」「多品種少量」に着
目していました。それで私達は航空機や医療機器をつくるよう
医療機器分野では、顧客と一緒に挑戦した製品カテゴリが
になったのです。実際に、金属切削加工だけでは徐々に限界
成長したことも幸運でした。おそらく、参入分野が他の消耗品
が見え始め、多くの中小工場は樹脂の成型に進出しました。
だったら、今頃アジア新興国の工場に追い抜かれていたでし
そのほうが簡単に大量生産できます。それで儲かった時期も
ょう。現在、私達の部品は世界でも競争力が高い医療機器の
ありますが、現在、多くの同業者は苦境にあります。兄はイスラ
一部となり、顧客の攻めの研究開発戦略に牽引され、私達も
エルに渡り、資源のない国が生き延びる方法を勉強し、売上
ずいぶん鍛えられてきました。
に汲々とするのではなく、企業が生き延びる道を考えていたの
だと思います。そして、規模だけを追わずに、技術を磨き、多
海外市場への挑戦
品種少量に挑む方向に舵を切りました。
秋山: 現在、私達は海外の医療機器メーカーと一緒に仕事
ができるようになりました。2010 年から海外との直接取引が始
“KANEKO”に宿る技能
まり、今後の私達に必要な技術や、医療機器分野で取り組む
金子: 私は父や兄のもとで、製造部門を担当してきました。
べき方向性も見えてきたと感じています。
モノづくりが好きで、多品種少量は変化に富み、やりがいを感
私は 2009 年 11 月、ある海外取引のセミナーに参加し、そ
じました。航空・宇宙分野に参入した時も、難しく考えず、シン
れが海外進出のきっかけになりました。それまでは部品をつく
るだけの企業に海外展開は無理だと思い込んでいました。セ
ミナーで講師の先生に質問し、自分達の海外進出の可能性
について意見を聞きました。私は、「あなた達には無理です
よ」という一言を予想していましたが、先生は「それはやってみ
ないと分からない。来年の 2 月、海外で有名な医療機器の展
示会があります。出展してみてはどうですか?」と言ってくれま
した。準備期間はわずか 1 ヵ月半ですが、私はその場で出展
㈱金子製作所 代表取締役社長 金子 晴房氏(左)
取締役 総務部長 秋山 朋子氏(右)
を決め、社長の反対を押し切って、出展準備を進めました。
20
Ⅰ 医療機器産業で新事業創出に挑む [STRATEGY]
社長は本当にモノづくりが好きで、高度な技術や難しい案
件に夢中になるところがあります。そして、下請け企業は受注
の増減に一喜一憂する運命ですが、私はもっと主体的に計
画・生産する企業を目指したいと考えていました。日本にいて
も、顧客の生産が海外に移れば仕事がなくなります。現実に、
2013 年の MD&M 出展(左)、2012 年の MEDICA 出展(右)
それが日本の製造業の元気を奪っています。私は登る山が見
えれば登る、挑戦できることには挑戦する、そんな気持ちで海
震災の日々を越えて…
外の展示会に出展しました。
金子: 2011 年 1 月、福島県いわき市の新工場が竣工となりま
した。用地取得後、立ち上げに時間がかかり、操業が始まって
金子: 最初、私は海外に行きたくありませんでした。最初の
まだ日が浅い 3 月 11 日、東日本大震災が起きました。新工場
海外出展で特に成果も得られませんでした。しかし、海外のビ
は海岸から離れており、津波は到達せず、建物の被害も少な
ジネスの空気を肌で感じて、考え方が 180 度変わりました。
かったのですが、それでも厳しい局面を経験しました。
海外ビジネスは正論が通り、フェアだと感じました。これまで、
震災翌日、新工場では全員が出勤しましたが、すぐに家族
日本の商慣習では我慢することが当たり前になっていたことも
と一緒に関東に避難する社員も出て、震災発生 2 日後には出
多くあったので、実に新鮮でした。自分の中で何かが目覚め、
勤者が半数に減りました。原発事故をはじめとした混乱が続き、
以来この 3 年間で毎年 5~6 回、様々な国の展示会に出展し
誰の情報が信頼できるのかも分からない状況です。その後、
ています。いざ、実際に取引が始まると、仕事を超えて、人と
実に約半年間、新工場は操業不能となりました。業績への影
人の信頼関係ができていくのを経験しています。私や秋山は、
響は甚大です。私は、避難した社員達が納得して戻るまで待
いろいろなビジネスの担当者と信頼関係を築くことを大切にし
つことを決めました。被災地に対して、自分達ができることを探
ています。そうするとビジネスもスムーズに進みます。2~3 年
し、その 1 つが福島の雇用を守ることだと考えました。まだ若者
かけて信頼関係を築き、将来の医療機器の展望を議論し、顧
ばかりの新工場の社員を関東の本社工場の仕事に従事させ、
客の事業発展のための必要不可欠なパートナーとして認めら
しばらくの日々をしのぎました。操業再開は 10 月まで待つ必
れつつあると感じています。
要がありましたが、何とか復旧し、現在、私達の新工場はフル
稼働しています。
秋山: 日本企業が海外企業と取引できない理由として、決定
に時間がかかる点が指摘されています。「少し考えます」「会
秋山: 今後も医療は成長産業で、特に人口が爆発する中国
社に帰って相談します」ではなく、その場での“Yes”を求め、
やインドでも需要が拡大します。新興国市場にも、ぜひ、私達
即断即決、その場で即答をできない会社とは、仕事ができな
の技術を広げていきたいと思います。
いと考えられているようです。
私達は 40 年以上、日本が誇る医療機器の一部をずっと担
最初の海外の企業と取引が決まり、来日してくれた際、社内
ってきました。その蓄積を言葉で表現するのは難しいのです
に英語を話せる人がいませんでした。日本法人を持つ企業だ
が、実績は海外でも高く評価され、信頼を勝ち取っています。
ったため、通訳と一緒に来ると思っていましたが、厳しい口調
で開口一番、「なぜ英語を話せる人がいないのか?」と指摘さ
金子: 現在、売上の半分以上が医療機器関連です。次いで、
れました。ちょうど米国からの研修生を受け入れており、研修
航空宇宙分野が約 40%、その他、試作品製作などの仕事も
生の通訳でその場をしのぎ、その後すぐ英語を話せる人材を
あり、全体的に航空機・医療機器分野が伸びています。
採用しました。無事、仕事も始まり、信頼関係も深まり、先端治
将来も特定の分野に固執するわけではなく、今後もニッチ
療機器の部品も受注することができました。
で私達の技術が活かせる新しい市場に挑戦していきます。
金子: もともと社内に英語を話せる人材は皆無でしたが、4 年
株式会社金子製作所
前からインターンシップを受け入れ、社内でも“外国人アレル
【所在地】 〒339-0072 埼玉県さいたま市岩槻区古ヶ場 1-3-13
【設立】 1956 年 【資本金】 1,687 万円 【従業員】 80 名
【連絡先】 048-794-8111(代)
【事業内容】 医療機器部品・試作品、航空機の機体部品・エンジン部
品、精密機器の部品加工
ギー”のような様子はすっかり消えました。海外の展示会には
必ず若手社員を 1 人連れていきます。社内でも英会話の勉強
会を実施したり、徐々に国際感覚が芽生えつつあります。
21
海外市場の
獲得を目指す
事例
2
産業用途・動物用途から医療へ!
携帯型X線撮影装置で海外市場を攻める
株式会社ジョブ
電源技術からX線発生技術へ
X 線は 100 年前からある技術です。電子機器や半導体の進
化によって、CT などの画像診断システムに発展し、今の医療
ジョブは、最初は電源の専業メーカーとしてスタートしました。
電子機器には全て電源があり、膨大な種類があります。私達
に不可欠な技術となりました。それらの大型装置に比べて、私
は高周波の電源を得意としてきたため、もともと X 線の中核技
達の製品は小型で、どちらかといえば昔ながらのレントゲン機
術と親和性がありました。1997 年に携帯型 X 線発生装置の研
器です。大手診断機器メーカーとは市場が異なり、小型で使
究開発に着手し、2000 年に非破壊検査用 X 線装置を開発、
いやすい製品に特化した技術開発に努めています。
OEM で事業が拡大しました。これらは産業用途で使用され、
動物用携帯型 X 線撮影装置は、同様の韓国製品と比較し
特に食品業界の異物検査用途で成長し、需要も安定していま
ても技術的に優れており、圧倒的に故障が少なく、これまで累
す。私達は様々な努力で 24 時間連続稼動する X 線の発生技
計 1,000 台以上を販売しました。私達は過去、複写機の電源
術を確立しました。この技術は、特に食品検査用途で現在も
を経験し、量産技術のノウハウを持ちます。それが品質に直結
ジョブの屋台骨になっています。
し、医療機器分野に進んだ基盤になりました。
この技術・ノウハウを活かして、最初に自社で製品化したの
私達は診断用レントゲン装置の高圧電源ユニットも製造し
が動物用の携帯型 X 線撮影装置です。動物用は競馬の世界
ています。中型や小型の X 線発生ユニットを産業用途や医療
で需要があります。国内外を問わず、競走馬は高価な動物で、
用途向けに開発・提供し、この技術が携帯型装置の心臓部に
売買保証のために脚を X 線で撮影するニーズがあります。
なっています。医療分野では、骨粗鬆症検査機器や歯科用
携帯型 X 線撮影装置を医療機器として製品化したのは最
CT に使う X 線発生ユニットも生産しています。X 線は 5 万~
近の話です。動物用も医療用も原理や技術に大きな違いはあ
10 万ボルトの高電圧を使います。それに耐える設計と、小さな
りませんが、製造するには地域の法規制に則った様々な申
容積に収める技術が必要です。そして過去、24 時間連続使
請・手続きが必要となります。
用に耐える X 線発生技術はありませんでした。そもそも診断装
置はそうした使い方を前提としていません。私達も技術開発に
携帯型装置の技術力
苦労を重ねましたが克服し、その努力が携帯型 X 線撮影装置
の品質に活かされています。
私達の製品は OEM のユニットが中心ですが、携帯型 X 線
撮影装置だけは自社ブランドで販売しています。高品質で使
海外展開に向けた布石
いやすい小型装置を世界に販売する戦略です。この市場は
ニッチで、大手メーカーには不向きです。だから、私達が積極
主力製品は非破壊検査用の X 線発生ユニットです。現在、
的に世界で販売します。
ジョブの売上の約 6 割を構成しています。日本では食品の異
物検査装置が年間約 1,800 台生産されており、その 6~7 割に
私達のユニットが使われています。食品の生産ラインは、金属
破片などの異物混入が頻繁に起こる可能性があります。日本
国民は食品への異物混入に敏感で、事故が起こればメディア
が報道し、食品メーカーの損失は数億円規模になります。食
品工場はもはや異物混入検査なくして出荷できない状況です。
技術も進歩し、X 線画像から異物を自動判定するシステムも確
㈱ジョブ 代表取締役 山本 敬一郎氏(左)
営業部 部長 小幡 義治氏(中央)
営業部 国際担当 部長 尾花 博也氏(右)
立され、魚介類の加工で骨や殻の除去もチェックできます。
動物用医療機器は、国内では最近、女性の獣医が増えて、
22
Ⅰ 医療機器産業で新事業創出に挑む [STRATEGY]
小型で軽い装置の需要が増加しています。携帯型 X 線撮影
装置は女性でも操作可能です。国内販売は好調に推移して
おり、欧州、北米、豪州などでも販売しています。販売台数は
累計 1,000 台を突破しました。
ヒト用医療機器はまだ着手したばかりです。承認を取得した
医療用携帯型
X 線撮影装置
「PORTA100HF」
製品は「PORTA100HF」の 1 機種のみです。自社製品で世界
に出るべく、2009 年に北米放射線学会(RSNA)に出展し、そ
の後、欧州の展示会にも出展しました。2012 年に携帯型 X 線
日本でつくり、世界に売る
撮影装置で世界最大出力となる「PORTA120HF」を開発し、
現在、承認取得に向けた手続きを進めています。
日本の医療は今後、在宅医療にシフトします。医師が在宅
日本では医療機器としての販売は限定的ですが、最近、被
を訪問し、レントゲンを撮影する場面も出てくるでしょう。その
災した東北地方でドクターカーに搭載された事例があります。
ため、バッテリーで駆動する技術開発に取り組んでいます。
海外は医療インフラの整備が遅れている地域が多く、開拓余
日本では医療機器として有効な場面が限られ、まだ販売は
地が大きいと感じています。現在、欧米以外に中東進出を検
小数です。そうした背景もあり、海外展開に注力しています。
討しており、先日もドバイで製品を PR してきました。その他、
今後はブラジルなど、南米進出も予定しています。動物用途
海外では病院に搬送されるまでに撮影する遠隔医療向けの
では、3~4 年前から南米戦略を検討してきましたが、現地の
用途が考えられます。
需要がまだよく分かりません。獣医学用途で大学に小数を納
医療機器の海外展開に向けて、現在、海外の代理店体制
入した段階です。中東地域は医療用途が有望だと感じていま
を整備するため、現地のパートナー候補を選定中です。先日
す。王族や富裕層はたっぷりと高度医療の恩恵を享受します
の中東訪問では 194 社の企業と面談しました。面談した企業
が、一般国民には医療が十分に普及しておらず、携帯型診断
の地域は 36 ヵ国に及び、半数が販売代理店です。海外の医
装置の需要が見込めると考えています。
療機器メーカーとも面談しました。医療機器メーカーは X 線発
日本の中小企業は、世界で通用する技術を持ちながら、海
生ユニットの顧客になる可能性があります。現在、ユニットをサ
外進出に躊躇する経営者が多いと思います。私達のリーダー
ンプル出荷し、実績拡大に向けた努力を続けています。
はもともと技術者で、若い頃に海外で映像分野の技術開発に
奔走し、グローバル感覚を身につけています。それがジョブの
医療機器の承認取得
海外進出の原動力でもあります。
動物用医療機器やヒト用医療機器に進むため、これまで、
せっかく開発した技術と製品です。狭い日本でニッチ市場
ISO13485、動物医療機器製造販売業許可、医療機器製造業
にとどまるだけでなく、私達は需要があれば、アフリカでもどこ
許可、そして 2007 年に第二種医療機器製造販売業許可を取
でも行きます。可能な限り、私達の技術と製品を様々な地域で
得しました。医療機器を輸出するには、欧州 CE マーク、米国
見て頂き、これからも販路を広げて、医療機器分野を第 3 の柱
FDA 承認が必要で、2011~2012 年に取得しています。
に育成したいと思います。
CE マークと FDA の取得は本当に大変でした。FDA の場合、
動物用は登録申請で済み、費用も少なく済みますが、ヒト用に
株式会社ジョブ
なるとハードルも費用も一気に跳ね上がり、携帯型装置 1 台の
【所在地】 〒222-0033 神奈川県横浜市港北区新横浜 1-19-8
【設立】 1988 年 【資本金】 4,000 万円 【従業員】 59 名
【連絡先】 045-473-0113(代)
【事業内容】 携帯型 X 線撮影装置(医用・動物用)、医用 X 線発生ユ
ニット(回転陽極 X 線管、固定陽極 X 線管)、非破壊検査用 X 線発生
ユニットなどの開発・製造・販売
ために 3 年かかりました。CE マークも FDA も、医療機器のクラ
スによって難易度が異なります。X 線はハイレベルな認証とな
り、CE マークも 1 年半くらいの期間を要しました。一度取れば
雰囲気が分かりますが、中小企業が経験のないところからスタ
ートし、苦労の連続でした。
23
海外市場の
獲得を目指す
事例
3
1個のモーターから世界に広がる
ステッピングモーターと技術の医療への応用
日本パルスモーター株式会社
ステッピングモーターの用途開拓
医療分野に耐える品質、対応能力
日本パルスモーター(以下、NPM)は、日本で最初にステッ
常に高速・高精度を要求されてきたステッピングモーターの
ピングモーターを製品化した企業です。以来、「動かす」「止め
視点では、医療機器向けの要求は他の分野の要求に比べて
る」「制御する」をテーマに、様々な産業分野に技術と製品を
制御速度や精度は問われない印象です。私達の感覚ではゆ
提供してきました。ステッピングモーターとは、指示された分だ
っくりとした動きが多く、その代わり、分注量の再現性、静音性、
け高速・精密に回転するモーターです。使用される分野は OA
動きの滑らかさなどが重視されます。また、私達の技術の特殊
機器、産業機械、半導体製造装置、空調機器、医療機器、ア
性からか、開発段階で医療、介護機器などの顧客側のエンジ
ミューズメント機器、防衛・宇宙分野など多岐に渡っています。
ニアと要求事項の咀嚼が難航することもあります。毎回、要求
またアクチュエータ以外に半導体製造装置などに多種の制御
事項の確認調整と経験値の蓄積を使い、その都度、課題解
用チップを自社ブランドで開発・販売をしています。
決を図っています。
その中でも、最近は特に医療機器分野向けの実績が拡大
医療分野の OEM での装置開発は、20 数年前から完成品を
しています。医療機器分野には 40 年以上前から世界中の医
製造して納入するようになりました。医療分析装置などは産業
療機器メーカーにステッピングモーターを納入しています。
用途向けの技術・ノウハウが応用可能です。装置は女性が使
また、顧客要求で開発した DNA 自動抽出前処理装置を子
用することが多く、優しく見えるデザインなどは課題でしたが、
会社のエヌピーエス㈱で製造し、OEM で世界中に供給してい
最近は顧客側が専門家による外観をデザイン要求するケース
ます。他にも、検体検査装置・体外診断装置や、それらの装
が増えています。
置に必要な消耗品を生産・供給しています。
現在、手がける装置は世界的医療機器メーカーにも採用さ
介護機器分野では、30 年ほど前から高齢化社会に着目し、
れるため、累計数百~数千台規模の受注に恵まれています。
介護機器・福祉機器に自社の制御技術を提供し、顧客と一緒
なかでも DNA 自動抽出前処理装置は、これまで販売した累
に様々な製品開発に取り組んできました。顧客と協力する形
計 7,000 台/7 年間で市場クレームがゼロとなっています。この
で得意分野の流体制御技術を応用した製品開発にも取り組
製造の品質管理を高めてきたことが、顧客企業を増やす結果
んでいます。
につながっています。
技術と品質で顧客に選ばれる
営業面でも、モーターの技術力が顧客獲得に直結していま
す。顧客側が部品を探して取引が始まるケースが多く、特に
医療機器では紹介・クチコミなどで仕事が増えています。
各種ステッピングモーターの例
医療分野もそれ以外の分野も、顧客獲得のきっかけは 1 個
のサンプルのモーターから始まります。そして、顧客の要求に
広く対応できる総合力を強みとしています。部品以外にも、シ
ステム全体の設計を提案する技術・経験・ノウハウがあり、最
終的に製品をまるごと受託製造することも可能です。
モーターコントロール LSI
私達は、常に顧客との関係を深め、同時に顧客数を増やし
てきました。保有する技術・製品が特殊であるため、NPM の名
DNA 自動抽出装置
前が表に出ることはありませんが今話題の細胞培養関連のい
24
Ⅰ 医療機器産業で新事業創出に挑む [STRATEGY]
日本パルスモーター㈱ 営業部本部 第三営業部 執行役員 部長 浅川 辰美氏(左)
営業本部 執行役員・副本部長 第一営業部 兼 海外部 部長 田中 洋悦氏(中央)
営業本部 市場開拓推進室 竹内 大和氏(右)
術開発に取り組んできました。
くつかのテーマでも黒子の立場で、様々な開発プロジェクトに
医療も医療以外も、新製品や技術を出すと、最初に興味を
参加しています。
NPM の技術は世界でも多く使われていますが、装置開発
示すのはなぜか欧米の企業です。日本市場では、実績が重
は自社で直接海外展開したわけではありません。協業顧客様
視されることが多い印象です。欧米の企業はやはり失敗を恐
の技術が世界的な医療機器メーカーで採用されたことにより
れずに挑戦する文化があると感じます。日本の多く分野の部
世界に広がり、事業が海外で成長したことで、私達の技術と製
品メーカーも、海外進出に慎重で遅いと感じています。
品も海外に広がりました。
成長市場に向けた開発強化
それ以外にも、ステッピングモーターを部品として、世界中
の医療機器メーカーに供給しています。今後は、医療分野で
現在も、医療分野の実績は拡大しています。私達も今後、
もユニット製品を開発・展開していきたいと考えています。私達
伸ばすべき注力分野と位置づけています。医療機器分野の
のモノづくりは、大量生産・低コストよりも、品質を重視してきま
仕事は、小量多品種ですが、景気の変動に左右されず、安定
した。その姿勢によって、不良品や故障がきわめて低く、いた
する点が魅力です。拡大スピードはゆっくりでも、間違いなく
ずらに価格競争に陥らずに信頼関係を築くことを目標としてい
成長する市場です。また、いったん市場に出すことができれば、
ます。
部品も装置も寿命が長いものが多くあります。
NPM は、新しい分野に躊躇なく取り組む姿勢・風土が根づ
日本市場と海外市場
いています。流体制御技術も他社に先駆けて取り組んできま
現在、医療分野で製造している装置は、複写機とトナーの
した。医療分野でも現在、既存技術を活かし発展させる形で、
関係のように、装置本体よりも消耗品のほうが利益を生みます。
顧客と一緒に新しい診断装置の開発を進めています。今後、
海外販売はコスト圧縮が優先されるため、アジアに量産品の
私達 NPM の技術の対象分野が広がると期待しています。
製造拠点を持ちます。アジア展開にはリスクもあり、大手医療
機器メーカーや試薬メーカーとの密接な協力関係がなければ、
日本パルスモーター株式会社
製品を模倣されるリスクがあると思います。
【所在地】 〒113-0033 東京都文京区本郷 2-16-13
【設立】 1952 年 【資本金】 1 億 4,000 万円 【従業員】 約 260 名
【連絡先】 03-3813-8841(代)
【事業内容】 精密小型モータ・モータドライバ・コントローラ・電子部品
等の製造販売、自動化省力化機器・装置・システムの設計製作販売、
それらの電気・電子機器等の輸出並びに関連機器の輸入販売
日本の医療機器市場は、薬事法規制のため、製品化に時
間がかかりすぎる点が課題です。製品化を待つ間に技術を模
倣されるリスクがあります。
NPM はベンチャー企業と一緒に世界市場を開拓できました。
その点は幸運だったと思います。顧客は事業展開のスピード
が速く、私達は高いレベルの要求を満たしながら、一緒に技
25
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