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少子化を止めろ(2) フランスのベビーブームから学べることは何か 前回

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少子化を止めろ(2) フランスのベビーブームから学べることは何か 前回
少子化を止めろ(2)
フランスのベビーブームから学べることは何か
前回、わが国が直面している諸問題に対する唯一の解は、「出生数の大幅な回復」だと述
べた。この点で政府では最近、数年来のベビーブームに沸いているフランスの少子化対策
への関心が高まっている。
筆者も委員として参加している内閣府の「『子どもと家族を応援する日本』重点戦略検討
会議」でも、今年四月、尾身幸次財務大臣の要請に応じて、厚生労働省が、「フランス並み
の施策を講じた場合の必要金額は十兆六千億円」という推計値を出した。
尾身財務大臣の要請はおそらく、秋以降、消費税率の引き上げをめぐる論議が本格化す
る前の布石であろう。すなわち、「これだけ巨額の費用がかかるのだから、消費税引き上げ
は不可欠」という展開が予想される。
しかし、これまで一貫して、少子化対策の拡充に慎重だった財務省のトップが、「フラン
ス並みにやると、十兆円強が必要になる。少子化対策は待ったなしであることを考えると、
今、直ちに着手しなければならない」と言及したのは画期的なことだ。
一方で、わが国とフランスの社会経済システムは大きく異なる。したがって、単純にフ
ランスの施策をそのまま導入すればいいという問題ではない。では、わが国はフランスか
ら何を学ぶことができるだろうか。
第一に、フランスは積極的な出産促進により、人口を減少させない。一方で、日本をは
じめ「旧枢軸国」では、戦時中の「産めよ、増やせよ」アレルギーをいまだに引きずって
いる。昨年、筆者が内閣府の「少子化社会対策推進会議」で、「わが国でも、少子化対策の
いっそうの拡充とスピードアップを図る観点から、目標値を設定する必要がある」と述べ
たところ、当時の猪口邦子大臣から、「産めよ、増やせよ、に見えかねないので、難しい」
と言われた。
もちろん国による個人生活への介入は、フランスでもデリケートな問題だ。しかし、こ
の点に関するフランスの姿勢は明快だ。筆者がヒアリングをしたフランス政府高官は、「あ
くまでも国民が欲しいと考えている子どもの数が達成できるように、国は支援しますとい
う姿勢が大切だ。今、子育て世代の理想子ども数は二・八人なので、合計特殊出生率がそ
の水準に達するように政府としてはさまざまな施策を講じている」と語っていた。仮に、
フランスと同じ論理を日本で展開すれば、二・六人が目標値となるだろう。
少子化対策も他の社会政策と同様に、目標を掲げて達成状況をチェックするというサイ
クルがまわるようにしないと、わが国の出生率の回復が本格化することはないだろう。
第二に、フランスは社会党政権の時代に、週労働三十五時間制を導入した(労働者の八
割が対象)。
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同制度が子育てしながら働きやすい環境を作り出したのは間違いない。ただし、一部の
有識者が言うように日本でも週労働三十五時間制を採るべきだという議論は短絡的だ。フ
ランスでは、週労働三十五時間制が経済悪化要因の一つとして問題視されており、今後は
修正される見込みである。
ワークライフバランス(仕事と生活の調和)の本質は、時間当たりの生産性を高めるとと
もに、組織・業務体制の無駄をなくし効率化を図る点だ。残念ながら、日本ではこの本質
を理解していない職場が少なくないため、「両立支援の制度はあっても利用しづらい」とい
う従業員の不満の声は根強い。単純に労働時間を減らすのではなく、生活の質を高めるこ
とで労働の質を高めるという観点から、ワークライフバランスを推進していくべきである。
第三に、フランスでは国が責任をもって、子どもの居場所を確保する姿勢が明確だ。フ
ランスでは、出生数から逆算して、居場所の確保が必要な子ども数を推計し、中長期的な
施策を展開している。ちなみに、フランスと同様、出生率が回復しているスウェーデンで
は、法律で一歳以上の子どもがいる家庭の保育ニーズに応える義務を自治体に課している。
一方で、わが国では保育所に入ることができない「待機児童」は公称三万人とされてい
るが、実は、やむなく家庭保育をしている「潜在的な待機児童」は六十万―七十万人に上
る(筆者推計)。わが国も、子どもが病気の時の居場所、小学校低学年時の午後の居場所な
ど、もっときめ細やかに居場所を確保する必要がある。
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