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女性雇用促進協会の実践 A - Kyoto University Research Information

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女性雇用促進協会の実践 A - Kyoto University Research Information
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19世紀イギリスにおける成人教育活動としての女性の職
業支援 : 女性雇用促進協会の実践的取り組みから
柴原, 真知子
京都大学大学院教育学研究科紀要 (2010), 56: 1-14
2010-03-31
http://hdl.handle.net/2433/108494
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
京都大学大学院教育学研究科紀要 第56号2010
19世 紀イギ リスにおける成人教育活動 としての女性の職業支援
一 女 性 雇 用促 進 協 会 の実 践 的 取 り組 み か ら一
柴原真知子
は じめ に
本 論 は 、19世 紀 半 ばのイ ギ リス にお いて展 開 され た没 落 中産 階級 女性 を対 象 と した職 業支 援活
動 に注 目 し、そ の成 人教 育活 動 と しての諸 側 面 を考察 す る もの であ る。この作 業 を通 して 、「
働か
な い」 女性像 が社会 的 に確 立 した ヴィク トリア期 にお いて 、女性 の職 業 的 自立 の獲i得を後押 しよ
うと した活 動 が、いか な る成 人教 育 的特 質 を もつ もの であ った か を明 らか に したい。具体 的 に は、
イ ギ リス 初 期 フ ェ ミニ ズ ム に 位 置 つ く女 性 雇 用 促 進 協 会(SocietyforPromotingthe
EmploymentofWbmen)の
実践 的取 り組 み を考 察 の対象 とす る。
「
成 人教 育」 は 、一般 的 に 、成人 に特 化 した 学習 機会 の提 供 及び 学習 支援 を指 し、欧 米 を 中心
に発 達 した もので あ る。 そ こに内包 され る独 自の価 値 は、産 業 革命 を世 界 に先駆 けて経 験 した イ
ギ リス社 会 にお い て顕 著 に発 達 した もの とみ な され 、 これ まで の多 くのイ ギ リス成 人教 育史 研 究
で は、 労働者 階級 を主体 として19世
紀 を中心 に展 開 され た 自己教 育運 動や 、彼 らを対 象 と した
教 育活 動 にお け る、非職 業 的 で教養 主義 的 な側 面 が特 に注 目され て きた1。先 行研 究 か ら、イ ギ リ
ス成 人 教育 は 、階級 分化 が 著 しく進 ん だ 当時、 労働 者 階級 の生 活上 の課 題や 葛藤 、 社会 運動 な ど
と密 接 に 関わ りな が ら、 ボ ラン タ リズ ム の精 神 に基 づ き民 間 にお いて活 発 に展 開 され た営み と し
て理 解 す る こ とが で きる。そ して 、この歴 史的発 達 の積 極 的跡 づ けは、20世 紀初 頭 にお ける成 人
学 習者 理解 とその 学習 プ ロセ ス、学 習成 果 な どにつ い て の体 系 的叙 述 の提起 を導 いた の で あ る2。
しか し、 この よ うな成 人 教育 の知 見 の体 系化 にお い て一 定の役 割 を担 っ て きたイ ギ リス成 人教
育 史研 究 は、労働 者 階級 の中 で も上 層 の男性 を学習 主体 と して き た にも関 わ らず 、 それ が もつ 限
界性 と問題 につ い て は無 自覚 であ った とい え る3。 これ に対 し、 例 え ばR・ ベ ンは 、18世 紀 の成
人 学校 か ら現代 ま での イ ギ リス成人 教 育 の実践 及 び政府 委員 会 報告 等 を女性 の視 点 か ら問 い直 し、
女性 は成人 教育 活動 に様 々な形 で 関わ って きた に も関 わ らず 、 そ こで の学習 者理 解 や学 習 内容 は
性別 役割 分 業 を反 映す るもの であ った と した。 ま た、 自 らが成 人教 育活 動 に 関わ った経 歴 の ある
D・ トンプ ソ ンは、 女性 が働 き手 で あ り、 男性 と協働 ・協 同 す る存在 と して運動 に参 加 してい た
時期 か ら、む しろ母 や妻 としての役 割 を 引き受 け 、運動 自体 か ら逸 脱 して い ったプ ロセ ス を描 き
出 した4。労働 運動 と切 り離す こ との で きない イ ギ リス成 人教 育 の歴 史 的発 達経 緯 を考 えれ ば 、女
性 の学 習 に も同様 の問題 が 指摘 され 得 る もの と考 え る。
これ らの先行 研 究 か ら、 「
イ ギ リス成 人教 育 史研 究 」 の枠組 み で は 、女性 が 学 習者 の 実践 を取
り上 げた として も、男性 に対す る副 次 的 ・補 完 的存 在 と して描 き 出 され る とい う限 界性 を指 摘 す
る ことが で きる。筆 者 は、 この点 を認識 した上 で19世
一1一
紀 に展 開 され た女性 の職 業 支援 活動 に注
京 都大 学大 学 院教育 学研 究科 紀要
第56号2010
目 した い。 同活 動 は 、当時 のイ ギ リス社 会 で 「
二重 の矛 盾 」5を抱 えなが ら、 自活 の手段 をも って
生 き る こ とを必 要 と した没 落 中産 階級女 性6を対 象 と した もの であ る。これ らの 女性 の生 活現 実 は、
M・ ウル ス トン クラ フ トに よる萌芽 的 な女性 解放 思 想 とイ ギ リス初 期 フ ェ ミニ ズ ム運動 の 、 中核
で あ った とい え る。 なぜ な ら両者 とも、 これ らの女 性 の生活 現 実 を根拠 と して 、市 民社 会 の人 間
解 放 の原 理 の 中 にあ る矛 盾 を社 会 的 に提 起 し、 そ の矛 盾 の克 服 を して こそ 、男性 と同等 な人 間 と
しての 女性 の解 放 が実現 しえ る とみて いた と考 え られ るか らであ る。
農 業革 命 及び 産業 革命 を経 た イ ギ リス社会 で は、 それ ま で家族 を経営 体 と して きた小 生産 者層
にお い てそ の生 産 と消費 が個 人 単位 へ と移行 した。その過 程 で、19世 紀 には大 多数 の労働 者 階級
と、少 数 の 中産 階級 とに著 し く分化 し、小 生産 者層 の 多 くが没 落 の危機 に面 した。同時並 行 的に 、
職 業 ・労 働構 造 は複 雑 化 し、 中世 以来 の 地 主 階級(ジ ェ ン トル マ ン)の 職 業 と して の 「
専 門職
(profession)」が上 部 に 、 巨大 な層 で あ る 「
労働(labour)」
様 な領域 に特化 した 「
職 業(occupation)」
が 下部 に形 成 され 、そ の 中 間 に多
が発達 した ので あ る。
この 「
職 業」 を支 えてい た価 値観 は 、特 に、 下層 中産 階級 と上層 労働 者 階級 の人 び との価 値規
範 と生活 意識 に大 きな影 響 を与 え た。個 々人 は、 自らの努 力 に よ り 「
職 業」 上 で の成 功 を得 る こ
とで、 旧来 の封 建 的な 身分秩 序 に縛 られ る こ とな く自由 に人 間的 な発達 を遂 げ、高 い社 会 的地位
を獲 得 しえ る とい う認識 が、 「
職 業 」 と積 極 的 に結 びつ くよ うにな った ので あ る。 実際 、19世 紀
半 ば には、 従来 は ジ ェン トル マ ンの子弟 の た めの教 育機 関 で あった パ ブ リック ・ス クー ルや オ ッ
クスブ リッジ が、度 重 な る改革 に よ り、多 くの中産 階級 男性 にア クセ ス可能 とな った。
しか し、 「
職 業 」 はそ の担 い 手 と して男 性 を前提 とす る価値 観 で あ り、 この よ うな公 的領 域 の
発 達 は 、家庭 領 域 の生成 と表 裏 一体 で あ った。 女性 は 、男性 と同様 に没 落 の危機 を必然 的 な可能
性 と して抱 え なが らも、 自己実 現 の方 向性 は家庭 領 域 にお け る役 割 へ方 向づ け られ た ので あ る。
したが って 、「
決 して 生活 の た めに働 いた りす るこ とのな い」7存在 とみ な され た 中産 階級 女性 が 、
リ
ス
ペ
ク
タ
フ
ル
生活 の必 要 か ら 「
職 業 」 を求 めた と して も 「当時 レデ ィ に とって恥 ず か しくな い と見 な され た 唯
一 の職 業 はガ ヴァネ ス 」8とい う家庭 教 師 の仕 事 で あ る場 合が少 な くな か った
。
多 くの先 行研 究が 指摘 す るよ うに 、 この ガ ヴ ァネ ス職 に殺 到 した 女性 の 経 済的 困窮 の 問題 が、
19世 紀 半 ば以 降 に展 開 され た 女子 中等 教 育 改革 や女 性 の専 門職 進 出 を 目指 した女 性 高 等教 育へ
と結 び つい た。 社会 的 に一 定 の注 目を集 めた没 落 中産 階級 女性 の 問題 は、初 期 フ ェ ミニズ ム を よ
り組 織 的 な運動 へ と発展 させ たの で ある。近 年 で は、滝 内大三 が 「
イ ン グラ ン ド女性 キ ャ リア形
成史 」 とい う枠組 み で 明 らか に してい るよ うに 、 これ らの教 育 改革 の 展 開 は、19世 紀後 半 か ら
20世 紀 前半 に か けての 女性 の具 体 的な 教育経 験 や職 業選 択 に影 響 を与 えた9。
これ らの先行研 究 を踏 まえて 、筆 者 は、19世 紀 のイ ギ リス社 会 にお いて 「
働 くべ きでは ない 」
存在 と され な が ら も自活 の必要 に迫 られ た没 落 中産 階級 女性 を対象 に 、職業 を通 して の 自立の獲
得 を 目指 して展 開 され た職 業支 援活 動 に注 目す る。 それ は、例 え ば教員 や 医師養 成 運動 に み られ
た よ うな教 育機 関 を 中心 とす る もので はな か った が、 単な る女性 の仕事 斡旋 事 業 としては捉 えき
れ ない 教育 的要 素 を持 つ もの であ った。 考 察 の手 がか りとす るの は1858年
たEnglishWbman'sJournal(以
下、EWJ誌
か ら6年 間発行 され
とす る)10で あ る。同誌 は 、職 業 支援 の実 践 的側面
を担 った女性 雇 用促 進 協会 の創 設 を導 き、 そ の後 、両者 は、密接 に連携 しなが らひ とつ の活 動 を
な した。 本 論 では 、同誌 の論 考 及 び報告 書 にみ るこ とので き る同協 会 に よる職 業支援 活 動 の特徴
一2一
柴 原:19世 紀 イギ リス にお ける成 人教 育活 動 と しての女性 の 職業支 援
を、成 人教 育活 動 と して捉 え る こ とによ って 明 らかに した い。
以 下 、第 一章 で は、女 性 の職 業支 援 の思想 的背 景 と して の メア リ ・ウル ス トン ク ラフ トと初期
フェ ミニ ズム の関係 につい て整 理 し、第 二 章 では女 性雇 用促 進 協会 の特 徴及 び 事業 戦略 、第 三 章
で は、 同協 会 の実践 的 取 り組 み の成 人教 育 的特 質 につ いて 、具 体的 事例 に基 づ いて検 討 す る。
1.女 性 の 職 業支援 の 思想 的背 景
(1)ウ
ル ス トンク ラフ トか ら初期 フ ェ ミニズ ム運 動へ
本 論 で検討 す る女 性雇 用促 進 協会 は 、19世 紀 末 に初期 フェ ミニ ズム と して位 置づ け られ た運動
の ひ とつで あ る11。「
初期 」とは 、18世 紀末 にメ ア リ ・ウル ス トンク ラフ ト(MaryWollstonecraft,
1759-1797)に
よ る女 性解 放思 想 の萌芽 的 な提 起 か ら12、20世 紀初 頭 の女性 参 政権獲 得 を到 達 点
と して みた ときの一 時期 を指 す 。本 論 で論 じる同協 会 の性 質 をつ かむ た めに、 まず 、 ウル ス トン
クラ フ トの思想 と初 期 フ ェ ミニズ ムの 関係 につ いて 考察 したい。
ウル ス トンク ラフ トの女性 解 放思想 は、「
働 くべ きで は ない」存在 と され つつ も 自活 を求 め る こ
とを余儀 な く され た没 落 中産 階 級女 性 の視 点 か ら導 き出 され てきた もので あ る。 産 業革 命以 降 、
資本 主義 が急速 に浸 透 す る中 で、 中産 階級 の多 くは常 に没 落 の危 機 に 晒 され て いた。 しか し、 そ
の よ うな危機 に際 して も女性 に開 かれ てい た職 業 は、 ガ ヴ ァネ ス かお針 子 に限 られ 、 これ らの職
を得 た と して も女 性 の生 涯 を支 え うるもの で はな か った とされ る13。事業 に失 敗 した父親 を もっ
た ウル ス トンク ラフ トもまた、 自活 を必 要 と した女 性 の一 人 として ガ ヴァネ ス や学校 経 営 な どで
生計 を立て た とされ る。 彼 女 は、 これ らの経 験 を通 して得 た女性 と社会 に対 す る鋭 い観 察 眼 を も
って、政 治 的権利 の保 障や 、結 婚 と不平 等 、社会 的 偏 見、経 済 的 自立 な ど様 々 な 問題 を、女 子教
育 を軸 と しな が ら集 約 させ 、女性 解 放思 想 とい うひ とつ の 体系 と して社 会 に提 起 した ので あ る。
しか し、 白井 尭子 が 指摘す る よ うに 「
彼 女 の名 前 を 口にす る こ とは 、 ヴ ィク トリア時 代 の運動
家 に とって はむ しろ不利 だ っ た」14ため に、当時 、彼女 の著 作 は ほ とん ど無 視 され て いた。一 方 、
水 田珠枝 は、 ウル ス トン ク ラフ トの思想 は、彼 女 と同 じく 「
労働 を基軸 と した 自我 の 回復」 を切
実 に求 めた 没落 中産 階級 の女性 に よ って継承 され た と した。 しか し、続 けて 「
女性 の解 放 され た
社会 につい て展 望 を もって い なか った 」こ とを根 拠 と して、 「
か の女 た ちの努力 は、個 人 の力 の範
囲 内 に と どま る」もので あ り、「けっ して過 小評 価 しては な らない が、女性 全 体 の解放 が 問題 と さ
れ る には …女性 労働 者 の階級 的 な 、ま た女性 としての 自覚 にま た なけれ ば な らなか った 」と した15。
確 か に女性 雇 用促 進 協会 の活 動 では 、管 見 の限 り、 ウル ス トンク ラフ トの名 前 が出 され る場 合
は皆 無 で あ り、彼 女 の 思想 が積 極 的 に継 承 され た とは言 い難 い。 しか し、女 性 の生 活現 実 に根 ざ
した職 業的 自立へ の要 求 こそ が、 ウル ス トン ク ラフ ト以 来 の初期 フ ェ ミニ ズ ム運 動 を貫 い てい た
と考 え られ る。ゆ え に、本論 で検 討 す る職業 支援 活動 は、 「
個 人 の力 の範 囲 内 に と どま る」もの で
あった とはい え、様 々 な制約 の中 で行 われ た先駆 的 な営 み と して注 目され る に値 す る とい え る。
(2)ラ
ンガ ム ・プ レース ・サ ー クル の女性 解放 論 と職 業 の位置 づ け
ラ ンガ ム ・プ レース ・サ ー クル とは 、女性 の権 利 や地 位 に 関心 を もった裕 福 な 中産階 級 の女性
の友 人 関係 を通 じて形成 され たネ ッ トワー ク であ る。 ロ ン ドンの ラ ンガ ム ・プ レー ス の建物 を拠
点 と して活 動 した ことか ら、総 称 して 「ラン ガム ・プ レー ス ・サー クル 」 とい う愛 称 で呼 ばれ た
一3一
京 都大 学大 学 院教育 学研 究科 紀要
第56号2010
と され る16。以 下 で は 、同 グル ー プ の 中 心 的 存 在 で あ り、本 論 に お い て 考 察 の 手 が か り とす るEWJ
誌 の 創 刊 を 導 い た バ ー バ ラ ・L・S・ ボ デ ィ シ ョ ン(BarbaraL.S.Bodichon,1827-91)と
シー ・R・ パ ー ク ス(BessieR.Parkes,1820-1925)の
、ベ ッ
思 想 と活 動 に つ い て 考 察 す る。
ボ デ ィ シ ョ ン は 裕 福 な 家 庭 に 生 ま れ 、 若 い こ ろ か ら社 会 的 な 事 柄 に っ い て の 議 論 に 触 れ る な ど
進 歩 主 義 的 な 環 境 の 中 で 育 っ た と され る 。 彼 女 自身 が 親 の 遺 産 を 受 け 継 ぐ よ うに な る と、 未 婚 、
既 婚 を 問 わ ず 、 女 性 は 自 ら の 財 産 を 所 有 す る 権 利 が な い とい う事 実 を 問 題 視 す る よ う に な り、
1854年
には 「
女 陸 に 関 す る も っ と も 重 要 な 法 律 の 要 約(ABriofSummarxinPlainLanguage,of
theMost■mρortantLawsOfEnglandeoneerningMZomen)」
を発 表 、翌年 には既婚 女性 財 産法
案 提 出 の た め の 委 員 会 を 発 足 させ た 。
既 婚 女 性 が 自 ら の 財 産 権 を 行 使 で き な い 状 態 を 改 善 し よ う と した 同 法 案 は 、 結 果 的 に 失 敗 に 終
わ り、 議 会 提 出 に は 至 ら な か っ た 。 しか し、 こ の 活 動 に
「
賛 同 した 人 々 は他 の 多 く の 点 に つ い て
も 同 意 見 で あ る こ とが わ か っ て 、 仲 間 の 輪 が 広 が り」17、 「
特 に 女 性 の 教 育 と雇 用 の 領 域 」18へ の
関 心 を基 盤 と した ネ ッ トワ ー ク が 形 成 され た の で あ る。 これ が ラ ン ガ ム ・プ レー ス ・サ ー ク ル の
き っ か け とな っ た 。 そ して 、 ボ デ ィ シ ョ ン に よ る 「
女 性 と 労 働(MZomel2andMZork)」(1857年)
は 、 そ の 翌 年 創 刊 され るEWJ誌
の創 刊 の道 を拓 い たの であ る。
パ ー ク ス は ボ デ ィ シ ョ ン の 友 人 で あ り 同 時 に活 動 の 仲 間 で あ っ た 。1854年
教 育 に つ い て の 所 見(RemarksonthθEdueationofdi)ls)」
に は 匿名 で 「
少女の
を発 表す るな ど、教 育へ の 関心 を
高 く持 っ て い た 。 特 に 、 編 集 経 験 を も っ て い たパ ー ク ス は 「ゆ っ く り と世 論 を 変 え て い く こ と を
ね らい とす る」19定 期 刊 行 物 を よ り重 視 し、 「
女 性 が 働 く こ と」 を 中 心 的 テ ー マ と し たEWJ誌
の
責任 編集 者 とな った。
ラ ン ガ ム ・プ レ ー ス ・サ ー ク ル で は この 二 人 が 中 心 的 存 在 で あ っ た も の の 、 他 に も後 の 女 性 高
等 教 育 運 動 や 女 性 の 専 門 職 養成 運 動 、 移 民 事 業 な どに お い て 指 導 者 的 立 場 を 担 っ た 女 性 た ち が い
た20。 同 サ ー ク ル は 後 に
「ヴ ィ ク ト リア 時 代 後 半 の ほ とん ど全 て の 女 性 運 動 が 、 こ こ か ら成 長 し
た とい っ て も過 言 で は な い 」21と 評 価 され た よ う に 、 様 々 な 女 性 運 動 の 源 泉 と な っ た と い え る。
2.女
(1)設
性 雇 用促 進協 会 の結 成 と活動 展 開
立 経 緯 と組 織 的 位 置 づ け
女 性 雇 用 促 進 協 会 は1859年
に 、 ジ ェ シ ー ・ブ シ ェ レ ッ ト(JessieBoucherett,1825-1905)に
よ っ て ラ ン ガ ム ・プ レー ス に創 設 され た 組 織 で あ る 。 名 称 を変 え て 現 在 も存 続 して い る22。 同 協
会 の 創 設 はEWJ誌
に よ っ て 導 か れ た もの とい え る 。 同 誌 を 手 に した 地 方 の 女 性 の 中 に は
「
偶然
目 に し、 そ の 中 に 自分 た ち の 考 え が つ い に 取 り上 げ られ た と知 っ て 、 編 集 者 た ち に 強 烈 な 手 紙 を
送 」 り、 「ロ ン ドン の 事 務 所 ま で 駆 け つ け … そ こ に ず っ と留 ま っ て 仕 事 を 手 伝 っ た 者 も 何 人 か い
た 」23と され る 。 ブ シ ェ レ ッ トも そ の よ うに して 活 動 に 加 わ っ た 女 性 の 一 人 で あ っ た 。 裕 福 な 家
庭 に 生 ま れ た ブ シ ェ レ ッ トは 特 に 、 女 性 の 働 く機 会 の 拡 充 に は 、 組 織 的 ・実 践 的 な ア プ ロ ー チ が
不 可 欠 で あ る との 認 識 を 強 く も ち 、同 協 会 を 創 設 し、そ の 後 も個 人 的 な 支 援 を続 け た と され る24。
同 協 会 は 、 創 設 後 す ぐ に政 治 的 ・経 済 的 影 響 力 を も っ た 中 産 階 級 男 性 の 団 体 で あ る 「
全 国社会
科 学 振 興 協 会(NationalAssociationforPromotingSocialSciences)」
に 加 盟 した 。 こ の 組 織 は 、
「
法 律 、 刑 制 度 、 教 育 、 公 衆 衛 生 、 社 会 経 済 とい う行 政 に か か わ る 五 つ の 分 野 の 改 革 に 関 心 を も
一4一
柴 原:19世 紀 イギ リス にお ける成 人教 育活 動 と しての女性 の 職業支 援
った圧 力 団体 」25であ り、 同協 会 設 立以 前 よ りラ ンガ ム ・プ レー ス の女性 た ち に発 言 や議 論 の機
会 を提 供 して いた。 同 協会 は、 そ の後 も この振 興協 会 か らの強 力 なサ ポー トを得 た が、 そ の一方
で 、同振 興協 会 の シャ フツベ リー卿(LordShaftesbury,1801-85)を
自分 た ちの組織 の理事 長 と
し、ま た運 営委 員会 の 半数 を 同振興 協会 とつ なが りの あ る男性 メ ンバー とす るな ど、 自分 た ちの
活動 運 営 に携 わ る ことを許 したの で ある。
(2)活
動 理念 と事 業戦 略
1859年 の女性 雇 用促進 協 会創 設 時 の宣言 で は、 「
私 た ちが求 め てい る こ と とは何 か。 それ は、
働 く余 地で あ り、働 くこ との後押 し(encouragement)で
あ り、正 当 な一 日の働 きに対 す る正 当
な一 日の賃 金 を期 待 で き る雇 用 の未 開拓 地 で あ る」26と述 べ られ た。 特 に、 ガ ヴ ァネ ス職 以 外 で
の女 性雇 用 の 可能性 を探 る こ とに焦 点 が 当て られ た 。1858年3.月 のEWJ創
刊 号 は、論 考 「
教師
とい う職 業 」27で始 ま り、こ こで はガ ヴ ァネ ス の救済 組織 であ った 「
ガ ヴァネ ス慈恵 協会 」(1843
年設 立)の 年次 報告 か ら、 ガ ヴァネ ス職 につい て い る女 性 が経 済的 自立 を期 待 で きない だ けで は
な く、 自己の成 長や 将 来へ の見 通 しが見 出せ ない状 態 に ある こ とが指摘 され た。 同協会 は この よ
うな女性 と職 業 へ の問題 に対 す る認 識 を 同誌 と共有 し、それ は事業 方針 へ と反 映 され た。
創 設 時 の宣言 文 に よる と、 同協会 の活 動 の柱 は、職 業 に必 要 な知識 や 技術 を学べ る作 業場 を備
えた 「
少 女 と若 い女性 の た めの大 きな学校 を設 立 す る こ と」 と、「
女 性 の雇 用 に関す るあ らゆ る情
報 の伝 達 ・交 換 の拠 点 とな る こ と」28の二つ で あ った。 同協会 が 「
学校 の設 立」 と述 べ た背 景 に
は 、 当時着 手 され始 めた女子 学 校 改革へ の動 きが あっ た。 同協会 は、 当時 の女 子学校 教 育 の低 さ
の原 因 につ い て述べ た政 府 学校 調査 官 の言葉 を引用 しなが ら、 女性 が経 済活 動 を担 えてい ない こ
とが女 子教 育 問題 へ の社 会 の関 心 を遠 のかせ て い る点 を示 唆 した29。そ の上 で、 女性 の雇 用 可能
性 を確 実 に拡大 しえ る 「
大 き な学校 」 とい う支援 構想 を示 したので あ る。 とはい え、 同協会 の女
性 の職 業支援 事 業 自体 は極 め て小規模 で あっ た。 全 国社 会科 学振 興 協会 か らの 協力 は得 て いた も
の の活動 資 金 は年 間 に500ポ
ン ドを超 える こ とはな く、そ れ ゆえ に事業 へ の資金 支 出 にお いて は
「
女 性 に とっ てな じみ の ない職 業 にお け るパ イ オニ ア と して の適 切 性 」30が重視 され た と され る。
(3)雑
EWJ誌
誌EnglishWoman'sJournalの
機能 と役 割
は、「
現在 の女性 雇用 の領 域 を正 当 に拡 げて い くもっ と もよいや り方 、そ して女性 の財
産 と地位 に関 わ る法 律 を主 なテ ー マ」31とす る雑 誌 と して1858年
に創 刊 され た。創 刊 当初 は論考
を中心 と した が、女 性雇 用促 進 協会 の設 立後 は、そ の実 践 的取 り組 み の報告 や 関連 す る論考 を掲
載す るな ど同協 会 の機 関誌 的性 格 を強 めた。
EWJ誌
は創 刊 か ら6年 後 に終 刊 した ものの 、ブ シェ レッ トに よ ってEnglishwoman'sReview
誌(以 下、EWR誌)と
て発 行 され た32。EWJ誌
して引 き継 がれ 、EWR誌
は1866年
か ら1910年
は論 考 を 中心 と した の に対 し、EWR誌
とい う長 期 間 にわ た っ
は、様 々 な領域 に分化 して展 開
され た 女性 運動 及 び活動 の実践 報告 を中心 と した とい う特徴 を もつ33。短 期 間 では あ ったが 、論
考 を 中心 としたEWJ誌
は、女 性 運動 実践 の 蓄積 に乏 し く 「
職 業支 援 」 とい う発想 自体 が持 ち に
くか った 当時 、女性 職 業支援 の具体 的方 策 を揖 共す る役 割 を持 って い た と考 え られ る。 そ の論理
構 造 や 特質 につ い ては別 稿 を もっ て詳述 した い。
一5一
京 都大 学大 学 院教育 学研 究科 紀要
第56号2010
また 、 同誌 は雇 用 の他 に法律 や教 育 な ども取 り上 げ たが 、読者 投 稿欄 で あ る 「
声 の欄(Open
Council)」 で は、特 に雇 用や 職業 につ いて の投 書が よ り多 く掲載 され た。同協会 の設 立年 には 「
女
性 雇 用 につ い ての手 紙 」34として読 者 の投稿 が特集 され 、 「
働 くこ と」 が読者 に とって最 も関心 の
あるテ ーマ で あ る ことが印象 付 け られ た とともに、 そ の具 体的 な課題 が示 され た。 この よ うに、
同協 会 の取 り組 み は同誌 と密 接 に 関わ りな が ら展 開 され た の であ る。
3.実
践 的 取 り組み とその 成人 教育 的特 質
(1)「 女性 の職 業 」の 提起 と職 業 支援構 想
女 性雇 用促 進 協会 は創 設後 す ぐに、女 性 の職 業支援 の実践 的 取 り組 み に着 手 した。1863年 報告
に よる と、 同協 会 が対象 とした女性 とは 「
① ガ ヴァネ ス職 に従 事 して いた30、40、50、60代
の
女性 で 、他 の職 を探 してい る女性 、②突 然 も しくは次第 に生活 が苦 しくな った が、何 の トレー ニ
ング も受 けて こな か った女性 、 ③親 族 の も とで 『家 政』 を してきた が 、それ 以外 は何 の トレー ニ
ング も受 け て こな かっ た女 性 、④ 「
みす ぼ らくな い」また は 「
ジ ェンテ ィール な」職 業 を求 め る、
あま り教育 を受 けて こな か った17∼25歳
の若 い 女性 、⑤ ガ ヴァネ ス な どに従事 し、精 神 的ス ト
レス を抱 えて聴 覚 障害 に なっ た女性 、⑥ あ らゆ る階 層 の未 亡人。 家 政婦 か 『あま り大変 で ない場
所 での』女 性監 督 官(matron)に
な りたい と思 って い る女性 、⑦ 働 くこ とので き ない男性 と幼 い
子 どもを抱 え た妻 た ち」35であ った と され る。
同協 会 の職 業 支援 活動 が応 え よ うと した課 題 とは、 この よ うな女 性 の生活 現 実で あ った。 性別
役割 分 業 が浸透 した社 会で 、 た とえ明 らか な経 済危機 に面 した と して も、女 性 が 自活 の手段 を も
って前 向 きに生 きる こ とは決 して容 易 で はな かっ た。 そ こで 同協会 は 、後述 す る具 体的 事業 にみ
られ る よ うに 、従来 の 男性 を前 提 とした職 業 とは異 な る要 素 を もった 「
女性 の職 業 」 ともい える
視点 を提 起 し、女性 の職 業 的 自立 の可能 性 を押 し広 げ よ うと した。
しか し、様 々な職 種 にお け る男性 の組 織化 が進 め られ た 当時 、女 性 が新 しい 担い 手 とな る こ と
は 困難 な こ とで あった。 例 え ば、 同協会 が 「
女性 の職業 」 と して注 目した 印刷 業 は、活 版 印刷 の
時代 以 来 の 「もっ とも熟 練 を必要 とす る仕 事 」36と して広 く認識 され 、19世 紀初 頭 に は他 の技術
職 と比 して も高 い排他 性 と組 織性 を もった組 合 が存 在 して い た ので あ る37。そ こで 、同 協会 は事
業方 針 と して 「
従来 女性 に閉 ざされ て きた技 術職 や 商業 に女性 が雇 用 され る こ とは、極 め て重要
で 冒険 的 な こ とで あ るが、社 会 変革 は例 外 な く避 け るこ とは でき ない。(同 協会 の役 割 は …筆者)
この社 会変 革 が、健 康や 道徳 を害す る こ とな くい かに実 現 し うるかを 、モデ ル 的 な職 場 とな る事
業(classes)に
よって示 す こ と」38を掲 げた の であ る。 この よ うに して 、 同協会 の取 り組 み は成
人女 性 の抱 え る課題 を原 点 と して 、女性 と社 会 の両 者 に積極 的 ・意 識 的 に働 きか け よ うとす る、
教育 的性 格 を も った営 みで あ った とい うこ とがで き る。
その具 体 的 な支援 事 業 と して は 、以 下 に検 討 す る よ うに、①雇 用 開拓 事業 と② 学 習機 会創 出事
業 が挙 げ られ る。
(2)雇
①
用 開 拓事 業
法律 文書 複写 オ フ ィス
法 律 文 書 複 写 オ フ ィ ス(Law-CopyingOffice)と
は 、 事 務 弁 護 士(solicitor)と
一6一
い う法 廷 弁 護
柴 原:19世 紀 イギ リス にお ける成 人教 育活 動 と しての女性 の 職業支 援
士(ba㎡ster)と
訴 訟依 頼 人 との 問で裁 判 事務 を扱 う弁 護 士 の作成 す る文書 を複 写 す る作業 を行
うオ フィ スを指 す。 この事 業 は、女 性雇 用 に適 す る産業 を検 討 して い た 同協 会 に よっ て、女 性 に
も肉体 的 に無理 が な く、一 定 の賃金 を確 保 しえ る職 業 として判 断 され 、着手 され た もの で あ る39。
同オ フ ィス は、 同協会 が マ ライ ア ・ライ(MariaRye,1829-1903)に
資金 援 助す る形 で1860
年 に開設 され た40。同年 の事業 報告 に よれ ば 、10名 の女 性 が働 き、 うち8名 はす でに十 分活 躍 で
きる ライ ター 、2名 は見習 い 生 で あった とされ る。 ライ は、 「もち ろん ライ ター た ちはい つ もの女
性 ら しい文 章 の書 き方 をや め て新 た に学 び直す(unleam)の
に何 週 間か を要 す る。 弁護 士 の署
名 や 略語 、 専 門用語 を理 解す るの に さ らに数 週 間 を要す る」 としなが らも、業務 の遂行 に は 「
単
に適 切 な トレー ニ ング を受 け る こ とが必 要 なだ けだ とい う確信 を強 くもつ よ うに なっ た」41と述
べ 、学 習機 会 の充足 によ って女性 で も十 分 に担 え る職業 で あ る こ とを強 調 した。
同事 業 の特徴 は 、い か に して 女性 が法 律文 書 複写 に従 事す るか を 「ステ ップ 」 として示 した点
にあ る。 そ こでは 、 「
協 力 して くれ る町 の事 務弁 護 士 を見つ け」 「
職 業 の慣習 につ いて教 えて も ら
える よ う」 にす る ことか ら、 ロ ン ドンで一 定期 間必 要 な知識 ・技術 を習 得す る こ と、地 方 に戻 り
自 らの オ フ ィス を持 つ こ とま でが順 を追 って提示 され た。同時 に、法 律文 書複 写 は女性 の能力 上 、
決 して 無理 な業 務 では ない 点、 自宅 で のオ フ ィス の開設 が 可能 で あ る点 、 ロン ドンで の寄宿 先 も
同協 会 で手 配 可能 で ある点 、男性 と同等 の 賃金 が期 待 され る点 な ども示 され た42。
この よ うに 同事業 は 、女性 に 自活 の具 体 的手 立 てを提 供す る もので あ った。 実際 、 同事業 は地
方 での 「
専 門職 も しくは商業 を営む 家族 が突 然 、家長 の軽 率 さや 死 に よって 自活 の手 段 を奪 われ 、
慈善 や 友人 や 隣人 の 良心 に支 援 を求 め な けれ ばな らない よ うな こ と」43とい う課題 応 え うる 「
模
倣 しや す く、成 功す る可能性 が大 きい」44事業 とされ 、 同協 会 の地方 展 開 の軸 とな った。
プ
②
レ
ス
ヴ ィク トリア印刷 所
ヴィク トリア印刷 所(VictoriaPress)と
は、1859年 にエ ミ リー ・フェイ ス フル(EmilyFaithful,
1835-1895)に よ って、 印刷 業 にお け る女性 雇用 の促 進 を 目的 に設 立 され 、EWJ誌
や 全 国社 会科
学振 興 協会 の 紀要 な どを発 行 した印刷 所 で あ った45。女 性雇 用促 進 協 会 は、 印刷 所 開設 時 に一人
年 間10ポ ン ドの資金 提 供を して5人 の徒 弟 を 同印刷 所 に送 り込 んだ と され る。
1860年 の報告 に よる と、 同印刷 所 に は16名 の女性 が 印刷 工 、植 字 工 、見習 い として働 いて い
た とされ る。 これ らの 女性 の詳 細 につ いて 同誌 は 明 らか には してい な いが 、印刷 工 の父 親 の下 で
12年 間働 い て きた経 験 を もっ た アイル ラ ン ド南 西部 の リメ リック出身 の 女性 の 一例 が紹 介 され
た。 この女性 は、組 合 に属す る こ とが で きな かっ たた め に、印刷 所 を運 営 して いた 父親 の死 と と
もにそれ を閉鎖 した。 そ の よ うな ときに地方 新 聞 に掲載 され た同印刷 所 につ い て の記事 を読 み 、
直接 訪 ねた とい う46。
同様 に父親 か ら印刷 業 につ いて 学 んで きた女 性 は、他 に3名 い た とされ る。
しか し、同 印刷 所 の存在 は、既 存 の 印刷 業 の組合 か らの強 い反 対 を受 けてい た とされ る47。同
印刷 所 に は、 印刷 業 につい て の知識 ・技 術 を教 え る男性 協力 者や 被 雇用 者 がい た が、組 合 を挙 げ
て の反 対活 動 の た めに名 前 を偽 って 協力 した男 性植 字 工 もい た とい う48。この よ うな女性 の印刷
業へ の反 対 が表 明 され た際 に根 拠 とされ た の は、 印刷 業 は女性 に は生来 的 に適 さず 、健 康 や精神
面 で害 を及 ぼす とい うもので あっ た。 これ に対 して同 印刷所 は、 当時 の印刷 業 で は一般 的 に印刷
の過 程 で用 い られ る薬 品や通 気性 の悪 い建 築上 の 問題 な どが健康 に悪影 響 を もた らしてい る点 に
一7一
京 都大 学大 学 院教育 学研 究科 紀要
第56号2010
注 目 し、残 業や休 憩 時 間、休 憩 の場 の 工夫 、立 ち仕 事 の多 い印刷 所 で ス ツール を導入 す るな ど女
性 が健康 的 に働 ける職場 づ く りに取 り組 ん だ とされ る49。
組 織力 の強 い組 合 が既 に存 在 してい た印刷 業 の領 域 で、新 しく雇 用 を開拓 しよ うと した 同印刷
所 の課題 や 工夫 な どの詳 細 な情 報 は、 それ 自体 、読 者 の女性 の 自活 を促 す もの と して捉 え られ て
い た と考 え られ る50。印刷 業 で は顕著 で あ った ものの 、そ の他 様 々 な職 業 にお いて女 性 を排 除 し
て きた慣 習 や価 値規 範 が存在 して いた 当時 、 同印刷 所 の取 り組 み は、 それ らが 実体 の伴 うもの で
は ない 点 を、実 例 を持 って示 す もので あ った ので あ る。
(3)学
①
習 機会 創 出事 業
成人 ク ラス と中産 階級 女 子 スクー ル構 想
成 人 ク ラス とは 、ブ シ ェ レ ッ トに よる成人 女性 を対象 と した 算数 と簿 記 の ク ラス で あ る。1860
年 に開設 され1875年
まで継 続 した51。報告 に よれ ば、同事 業 は 「
多 くは労働 貧 民のす ぐ上 の階層
に属 す る」52下層 中産 階級 女性 の声 を反 映 した もので あ った とされ る。 彼 女 らは 自活 の 手段 を必
要 と しな が ら、「ビジネ ス につい て の知識 を、偶 然 に よっ てか 、も しくは男性 親族 か らの断片 的 な
情報 を拾い 上 げ る ことに よっ て身 につ け る」53程度 で あ り、それ を学 ぶ機 会 を求 めて い た とい う。
この よ うに して設 立 され た成 人 ク ラス は、昼 間 と夜 間 に分 かれ 、 それ ぞれ8∼15名
ほ どの規模
で あ った。1861年 報告 で は受講 者 は 「
算数 、 簿記 、事 務員 に必 要 な書 き方 につ い て教 育 を受 け、
そ の他 ビジネ ス生活 に慣 れ るため の知識 を身 につ け る。 試験 を受 け、修 了証 を授 与 され れ ば、彼
女 た ちの名 前 はス クール にあ る登録 簿 に記入 され 、雇 用 者 はそれ を参 照 で き るよ うに なって い る。
最初 か ら トレー ニ ン グに来 て い る人 た ち に加 えて 、時折 、 夫 の会 計 簿 をつ け られ る よ うに な る こ
とや 、標 準英 語 の基礎 を向 上 させ る こ とを 目的 と して ク ラス に くる女性 もい る」54と述べ られ た。
ま た授 業料 は、女 性 が 「自分 の小 遣 い か ら支 払 わ な けれ ばな らない」55点 を考慮 して設 定 され た
もので あ る と した。
以 上 の ク ラス事業 は 、 ブシ ェ レ ッ トがそ の創設 時 よ り発表 してい た 「中産 階 級女 子 ス クール構
想 」の一部 をなす もので あっ た。この構 想 は 、成 人 ク ラスの提 案 と ともに発 表 され て いた ものの 、
結果 的 に ス クー ル が現 実 の もの とな る こ とは なか った。 とは いえ、 ブ シ ェ レッ トは1863年
冊子 「
若 い女 性 のた め のセル フ ・ヘル プ の ヒン ト(血
に小
お α25羅 駕 ρあ西 ∂α刀8防 皿 α2)」56を
発表 し、そ こでは女 性 の職 業的 自立 につ い て、 これ ま での彼 女 の経 験 に基づ く知見 がひ とつ の体
系 と して示 され た。
②
レデ ィー ス ・イ ンス テ ィテ ユー ト
レデ ィー ス ・イ ンス テ ィテ ユー トとは、 フ ェ ミニ ス トらの活動 拠 点 とな って いた ロン ドンの ラ
ンガム ・プ レー ス の既存 の建 物 に新 た な機能 を付 与 し、改 め て名 付 け直 した機 関で あ る。 当時 の
イ ギ リスで既 に700ほ
ど存在 してい た と され る 「
メカ ニ ックス ・イ ンステ ィテ ユー ト(職工 学校)」
か ら示 唆 を受 け た もの と考 え られ る57。職 工 学校 とは 、下層 中産 階級及 び 上層 労働 者 階級 男性 を
主 な学 習者 と して 、職 業的 な技 術 向上 の 「
実用性 」 の あ る学習機 会 を提 供 し、 さ らに幅 広 い領 域
リ
ベ
ラ
ル
な
の文 献 を扱 う図書館 や 読書 室 を備 え るな ど教 養 主義 的 な側 面 を もつ 成人 教育 機 関 として位 置 づ け
られ て きた もので あ る58。
一8一
柴 原:19世 紀 イギ リス にお ける成 人教 育活 動 と しての女性 の 職業支 援
同イ ン ステ ィテ ユー トは、職 業 を 中核 とした女性 の学 習機 会 を新 た に提 供 しよ うと した 点 に独
自性 を もつ とい える。そ の構想 は、EWJ誌1859年3.月
号記 事 「レデ ィー ス ・イ ンステ ィテ ユー
ト」 におい て発 表 され 、そ こでは少 女 と成人 女性 が集 う 「『トレーニ ング機 関』及び 『女性 の家 』
と して の条件 を満たす施設」 とい う点が強調 され た59。
同イ ン ステ ィテ ユー トの 具体 的 な機i能な どは1860年
雑誌 や新 聞な どを備 えた女性 閲 覧室 、②EWJ誌
の 「
広告 」に詳 しい60。それ に よ る と、①
オ フ ィス、③ 女性 の仕 事 の登録 窓 口、④ 会議 室 、
⑤女 性雇 用促 進 協会 、 とい う5つ の機 能 を備 えてい た とされ る。EWJ誌
のオ フ ィス に隣接 され
た 「
女性 の仕 事 の登 録 窓 口」 は、雇 用 を求 め る女性 と雇 用者 が登録 で き る もの で あ り、 ガ ヴァネ
ス と家 事使 用人 以外 の 、看護 職 や救 貧院 女性 監督 官 、秘 書 、事務 員 、簿 記係 な どの、 同協会 に よ
って 中産階 級女性 にふ さわ しい され た職 業 が登録 の対象 と され た。
当時 、男 性 はパ ブや ク ラブな どを社交 と情 報 交換 の場 と して活 用 して い たが61、女 性 は家 庭外
で人 と情報 との交流 の機 会 を持 つ こ とは少 な かっ た と考 え られ る。 そ の 中で 同イ ンステ ィテ ユー
トが、 女性 の もつ 「
働 くこ と」 へ の関心 を軸 として、家 庭領 域 以外 にお い て人 や情 報 と出会 う場
を提 供 した とい う点は 注 目され る。 現代 にお け る 「
女性 会館 」や 「
女性 セ ン ター」 に類 似す る性
格 を もつ もの で あった とい え るだ ろ う。
おわ りに
本 論 で は、イ ギ リス初 期 フ ェ ミニズ ムの 一端 に位 置つ く女性 雇用促 進 協会 の 具体 的 な職業 支援
の取 り組 み に注 目 し、 そ の成 人 教育 活動 としての特 質 と具 体的活 動 につ い て検 証 しよ うと試 み て
きた。 同協 会 の取 り組 み は、① 従来 の女 性 の職 業 であ った ガ ヴ ァネ ス職 以外 に雇 用領 域 を開拓 し
よ うとす る事業 と、② 「
女性 が働 くこ と」 を軸 と した新 しい成 人女 性 の学習 機 会 の提 供事業 、 の
2つ を柱 とす るもの で あった。本 論 で は、EWJ誌
とい う一部 の読 者 を対 象 と し短 期 間 にわ た って
発行 され た雑 誌 を考 察 の主 な手 が か りと して きた ため に、 資料 的 限界性 はあ る ものの、 同協 会 の
具体 的 事業 にみ られ た成 人教 育 的特 質 は以 下 の3点 に集約 す るこ とがで き る。
第 一 に、 女性 が職 業 を通 して 自立 を獲 得す る存 在 で あ る こ とを擁護 し、支 援 した 点 であ る。 当
時 、女性 の 自己実現 は 家庭領 域 で の役割 へ と方 向付 け られ て いた。 これ に対 して 同協会 は 、女性
の直 面 して い た生活 現 実 を根 拠 と して 、そ の よ うな既存 の認 識 の受 け入 れ を拒 み、 女性 の職 業 的
自立の 重要性 を具体 的 な取 り組 み を通 して 、女性 と社会 に訴 えか け よ うとす る もので あっ た。女
性 が職 業 に新 しい 自己の成長 の方 向性 を見 出す に は、 この よ うな 同協会 の支 援者 としての役 割 は
極 めて 重要 で あ った と考 え る。
第 二 に、 「
働 く こ と」につい て様 々 な課題 を抱 え る女性 が、それ を克服 す る第 一歩 を踏 み 出 し う
る手 立 て を提示 した点 で あ る。 法律 文書 複 写オ フィス とヴィ ク トリア 印刷所 は、 どち らも小 規模
な事 業 で あっ たが 、従 来女性 の働 き手 が認 め られ て こなか っ た職 種 にお い て、 女性 が いか に して
既 存 の規 範 や慣 習 を乗 り越 え、 新 しい担 い 手 とな りえるか を、 実例 で も って示 した 取 り組 みで あ
った。 オ フィ ス事業 にお ける 「
新 た に学 び直 す(unlearn)」
され た 手順 、EWJ誌
とい う表 現や 「
ステ ップ」 と して示
を通 して読 者 に伝 え られ た 印刷所 での 工夫 は 、女性 の職 業 的 自立 が決 して
実現 不 可能 な こ とでは ない とい う認 識 を促 し、 具体 的 な行動 へ とつ な げ よ う とす る もので あ った
とい える。
一9一
京 都大 学大 学 院教育 学研 究科 紀要
第56号2010
第 三 に、 従来 の女 性 の教 育 ・学習 の あ り方 に対 す るオル タナ テ ィブ が提起 された 点 であ る。例
えば、 ブ シェ レッ トの成 人 クラス と中産 階級 女子 ス クー ル構 想 、 レデ ィー ス ・イ ンステ ィテ ユー
トにみ られ た よ うに、 学習者 であ る女性 の課 題 に照 ら し合 わせ な が ら、それ ま で の女性 に与 え ら
れ て きた教 育 ・学習 の あ り方 を見 直 し、柔軟 な形 態 と方 法 を もった 学習機 会 を新 た に構 想 した の
で あ る。 とは い え、 これ らの取 り組 み は 「
構 想 」段 階 で と どまって い た可能 性 が高 く、 どの よ う
な実 態 を もつ もの で あった か 明 らか にす るに は、 さらな る資料 の掘 り起 こ しと検 証 を要 す る。
この よ うに 、女性 雇 用促進 協 会 とい う枠組 み は 、職業 斡旋 事 業で は捉 えきれ ない 教育 活動 と し
て の諸 要素 を も った職 業支援 活 動 で あった とい うこ とがで き る。 経 済 的 自活 の 手段 を切 実 に求 め
な が らも、「
働 くべ きで は ない」とす る既 存 の価値 や 慣習 の も とで はそ の具体 的 手 がか りを得 る こ
とが難 しい とい う、没 落 中産 階 級女 性 の生活 課題 に根 ざ した独 自のア プ ローチ をみ るこ とがで き
るので あ る。
しか し、 現段 階 では 以上 の よ うに結論 で き る ものの 、同 協会 がイ ギ リス フ ェ ミニ ズ ムの その後
の展 開 にい か な る影 響 力 を持 ちえ たの か を論 じるほ どの実証 は得 られ てい ない。 また、 そ のイ ギ
リス初期 フェ ミニ ズム の性格 が、河 村貞 枝 に よっ て 「
ジ ェン トル ウーマ ンの フェ ミニ ズム」 と し
て表 現 され た よ うな保 守的 ・慈 善 的な もの で あった か ど うか の検 証 も必 要 で ある62。
一 方 で、 今井 けいが女 性 労働 史 か ら明 らか に した よ うに1874年 に女性 労働者 の組 織 化 に着手
した女 陸保護 共 済連 盟(Wbmen'sProtectiveandProVidentLeague)の
設 立 には、E・ フ ェイ ス
フル やJ・ ブ シ ェ レッ トが 関 わ ってい た とされ る63。この こ とか ら、没落 中産 階級女 性 の課 題 を
捉 えて いた 女性 運動 家 の 問題 意識 が、後 に労働者 階 級女 性 の課題 を も捉 えた点 が示 唆 され る。 こ
の よ うな女性 と職 業 につい て の思想 及び 関 わ った活 動 を教 育学 的視 点 か ら検 討 す る こ とを通 して、
筆者 は今 後 、現 代 にお け る成 人 学習 者 の職 業的 自立 を支 援 しえ る理 論 と実践 とはい か な るもの か
を探 求 して い きた い と考 え る。
1例 え ば 、Fieldhouse,R.,etal,.4HistoryofModernBritishAdultEdueablon,NIACE,1996
2The1919Reρort:Thefinalandinterimreportsofthe・4du7tEdueainonCommitteeofthe
MinistryofReeonstrueinon1918-1919,DepartmentofAdultEducation,Universityof
Nottingham,1980
3柴 原 真 知 子 「
イ ギ リス 成 人 教 育 史 研 究 にお け る 労 働 者 階 級 と女 性 の 位 置:R
R.Heldhouseの
.Peers、T.Kelly、
著 作 を 手 が か りに 」 『京 都 大 学 生 涯 教 育 学 ・図 書 館 情 報 学 研 究 』 第7号2008
年PP.107-122
4D .ト ン プ ソ ン 『階 級 ・ジ ェ ン ダ ー ・ネ イ シ ョ ン:チ
ャ ー テ ィ ズ ム とア ウ トサ イ ダ ー 』 古 賀 秀 男
小 関隆訳
ミネ ル ヴ ァ 書 房2001年
5水 田珠 枝 『女 性解 放 思 想 史 』 筑 摩 書 房1979年p
.97
6本 論 で 参 照 した 先 行 研 究 で は 、"middleclass(es)"に
対 す る邦 訳 と して
(・)ク
「
中流 階級 」や
「ミ ドル
ラ ス 」 な どが 用 い られ て い る。 本 論 で は 、 イ ギ リス フ ェ ミニ ズ ム を 生 み 出 し た 強 力 な 要
因が 「
没 落 中 産 階 級 女 性 」 とい う枠 組 み で 捉 え られ る女 性 の 矛 盾 や 葛 藤 で あ っ た こ と を 重 視 し 、
「
中 産 階 級 」 を そ の 邦 訳 と し て 用 い る こ と とす る。
7J .パ ー ヴ ィ ス 『ヴ ィ ク ト リア 時 代 の 女 性 と教 育:社
ル ヴ ァ 書 房1999年
8川 本 静 子 『ガ ヴ ァ ネ ス:ヴ
会 階級 とジ ェンダ ー』香川 せ つ子 訳
ィ ク ト リア 時 代 の 〈余 っ た 女 性た ち 〉 』 み す ず 書 房2007年p
9滝 内 大 三 『女 性 ・仕 事 ・教 育:イ
10EnglishWbman'sJournal誌(1858年3月
ミネ
.12
ギ リス 女 性 教 育 の 近 現 代 史 』 晃 洋 書 房1994年
創 刊 、1864年8.月
一10一
終 刊)は
、マ イ ク ロ フ ィル ム コ
柴 原:19世 紀 イギ リス にお ける成 人教 育活 動 と しての女性 の 職業支 援
レ ク シ ョ ン"HistoryofWomen"(同
志 社 大 学 ア メ リカ 研 究 所 所 蔵)に1863年8月
号 まで収 録 さ
れ て い る 。同 コ レク シ ョ ン に 収 録 され て い な い も の の 一 部 は 、CandidaAnnLacey(ed.),Barbara
LeighSmithBodtlrhonandtheLanghamPlaeeGrouρ(Routledge&KeganPaul,1986)に
リ
プ リ ン ト と し て 掲 載 され て い る 。
11今 井 け い 、 河 村 貞 江 編 著 『イ ギ リス 近 現 代 女 陸史 研 究 入 門 』 青 木 書 店2007年p.2
12メ ア リ ・ウル ス トン ク ラ フ ト 『女 性 の 権 利 の擁 護 』 白井 尭 子 訳
13川 本 静 子
14白 井 尭 子
未 来 社1980年
訳 者解 説
前 掲書
「
訳 者 解 説 」 『女 性 の 権 利 の 擁i護』 前 掲 書p
.393
15水 田珠 枝 『女 区k解放 思 想 史 』 筑 摩 書 房1979年p
16河 村 貞 枝 「
女 性 解 放 の 結 社:ラ
.294
ン ガ ム ・プ レー ス ・サ ー ク ル 」川 北 稔 編 著 『結 社 の イ ギ リ ス 史:
ク ラ ブ か ら帝 国 ま で 』 山 川 出 版 社2005年p.202
17ibid .
18ibid .,p.1
19Jordan
,E.,TheJ7VomenilMovementandMZomenilEmploymentinNinetθenthCentury
Britain,Routledge,1999,p.156
20例 え ば 、 女 性 高 等 教 育 の エ ミ リー ・デ イ ヴ ィ ス(EmilyDavies)、
「
世 界 の最初 の女 性医師 」 と
され る エ リザ ベ ス ・ブ ラ ッ ク ウェ ル(ElizabethBlackwell)、
ザ ベ ス ・G・ ア ン ダ ー ソ ン(ElizabethG.Anderson)、
女 性 医 師 養 成 運 動 を展 開 し た エ リ
女 性 を 雇 用 しEWJ誌
ィ ク トリ ア 印 刷 所 経 営 者 の エ ミ リー ・フ ェ イ ス フ ル(EmilyFaithfu1)、
を行 っ た マ ライ ア ・レイ(MariaRye)、
や ア イ サ ・ク レイ グ(IsaCraig)な
詩 人 の ア デ レイ ド ・A・プ ロ ク タ ー(AdelaidA.Proctor)
どが お り、EWJ誌
上 へ の直接 の投稿 な どはな い ものの 、看
護 師 養 成 を 推 進 した フn一 レ ン ス ・ナ イ テ ィ ン ゲ ー ル(FlorenceNightingale)や
ル イ ー ザ ・ トワ イ ニ ン グ(LouisaTwining)な
ど と つ な が りを も っ て い た 。
21河 村 貞 枝 『イ ギ リス 近 代 フ ェ ミ ニ ズ ム 運 動 の歴 史 像 』 前 掲 書 、p.60
221926年
を 印 刷 して い た ヴ
女 性 雇 用 事 業 と移 民 事 業
救 貧 院活 動 の
に 「
女 性 ト レー ニ ン グ 促 進 協 会(theSocietyforPromotingthe[1]rainingofWomen)」
に名 称 変 更 し現 在 に 至 る 。 現 在 は 主 に職 業 訓 練 を 受 け る 女 性 に奨 学 金 を 提 供 して い る。
(http:〃www.sptw.org,accessed:2009/09/07)
23R・ ス トレイ チ ー 『イ ギ リス 女 性 運 動 史1792-1928』
来栖 美知 子
出淵敬 子 監訳
み すず 書房
2008年p.76
24Blackburn
,H.,MZomenilSuffrage!AreeordoftheMZomenilSuffrageMovementinthe
BritishIsleswr'thBibgraphiealSketehesofMissBeeker,Williams&Norgate,1902,p.50
25ibid .
26`AssociationforPromotingtheEmploymentofWomen
,'Eng7ishM70mθn's,lourna1(EM7」?,
September,1859,Vol.4No.19,pp.54
27TheProfessionoftheTeacher:TheAnnualReportsoftheGovernesses'Benevolent
Institution,from1843-1856,'E照March1858,Vbl.1No.1
28ibid .
29こ こ で 引用 され た の は 政 府 学 校 調 査 官 のJ・P・
ノー リス(Norris)の
文 章 で あ る。 ノ ー リス
は 、 女 子 教 育 の 問 題 が これ ま で 見 過 ご され て き た 一 要 因 と し て 、 教 育 に 関 心 を 持 つ 人 び と は
「
教
育 とい う言 葉 で 、 経 済 の 生 産 性 に 欠 か せ な い 技 術 と知 識 の 拡 大 を 意 味 す る。 ゆ え に 、 彼 ら と っ て
は 女 子 教 育 は ほ と ん ど も し く は ま っ た く重 要 性 を も た な い 」(`AssociationforPromotingthe
EmploymentofWomen,'E照Sep.11859,Vol.4No.19,p.58)点
を 指 摘 した 。
30Jordan
,oP.cit.,P.174
31`DomesticLife
,'E照October1858,Vol.1No.8,p.75
32EWR誌
につ いて は河 村貞 枝 「
『イ ン グ リ ッ シ ュ ウ ー マ ン ズ ・レ ヴ ュー 』 誌 の 一 考 察 」 『イ ギ リ
ス 近 代 フ ェ ミ ニ ズ ム 運 動 の歴 史 像 』前 掲 書 に 詳 しい 。EWJ誌
そ の 性 格 を 述 べ る に 留 ま っ て い る。
33両 誌 と も
、 一 冊1シ
リン グ で 発 行 部 数 は1000部
一11一
∼2000部
をEWR誌
の 前 誌 と して 位 置 づ け 、
を 超 え る こ とは な か っ た た め 、 一
京 都大 学大 学 院教育 学研 究科 紀要
第56号2010
部 の 中 産 階 級 の 間 で 読 ま れ た 雑 誌 で あ っ た と い え る(Rendall,J.,`'AMoralEngine':Feminism,
liberalismandtheEnglishWbman'sJournal,'EqualorDit/ferent:J7Vomembpo7ities1800-1914,
Rendall,J.(ed.),BasilBlackwell,1987,pp.112-38,(http:〃www.worc.ac.uk/CHIC/suffrage/
document/moralena.htm,accessed:2009/09/07))。
34`LettersontheEmploymentofW6men
,'E照December1859,Vol.4No.22,p.270
35`MeetingoftheMonth
36浜
林正 夫
,'E照August1863Vbl.11No.66,p.420
『パ ブ と 労 働 組 合 』 新 日 本 出 版 社2002年p
.273
37同
38`Societyf()rPromotingtheEmploymentofWomen:InconnectionwiththeNational
AssociationfbrthePromotionofSocialScience,'E照August1860,Vol.5No.30,p.395
39`SpecialMeetingsatGlasgowandEdinburgh
,WithReferencetotheIndustrial
EmploymentofWomen,'E照November1860,Vbl.6No.33,p.147
40ibid .
41`SocietyforPromotingtheEmploymentofWomen
42ibid
,'op.cit.,pp.390-1
.
43ibid
.
44`LocalSocieties
45E
,'E照December1861,Vbl.8No.46,p.218
.Faithfu1,`VTictoriaPress,'Repr.,E㎎OctobeU860,p.282:フ
任 者 の 座 を 降 り た も の の 、 印 刷 所 自 体 は1880年
46`VictoriaPress
,'op.cit.,pp.284
47Faithfu1
,E,ThreeVisitstoAmeriea,Edinburgh,1884,p.25
48ibid .,pp.24-5
49`VictoriaPress
,'op.cit.,pp.284-5
50実
ェ イ ス フ ル は1876年
に責
中 頃 ま で 存 続 した と され る。
践 報 告 以 外 に も 、EWJ誌
に は 同 印 刷 所 を 視 察 した 様 子 を 示 した
ィ ク ト リ ア 印 刷 所 を 訪 問 し て 」(EWJ
,June1860Vol.5No.28)」
べ り:ヴ
「Mrs.Grundyと
の お しゃ
や 、読 者 投 稿 欄 で の
ィ ク ト リ ア 印 刷 所 の 視 察 者 ら の 所 見 」(EWJ,May1860,Vol.7,No.39)な
51Engk'shwomanISRevz'ew
,July1879(ThθEnglishwoman'sRe四iewofSoαialandlndustrial
「ヴ
どが 掲 載 され た 。
euestions,GarlandPublishing,1980,p.292)
52SocietyforPromotingtheEmploymentofW6men:InconnectionwiththeNational
AssociationfbrthePromotionofSocialScience,E照August1860,Vbl.5No.30,p.393
53`LocalSocieties
,'E照December1861,Vbl.8No.46,pp.218-9
54ReportoftheSocietyforPromotingtheEmploymentofWomen
,E㎎October1861,Vol.9
No.44,p.74
55一
学 期(14
、15週)に
つ き4シ
リ ン グ6ペ
ン ス で あ っ た と 報 告 さ れ て い る(`LocalSocieties,'
亙 照December1861,Vbl.8No.46,p.220)。
56`NoticesofBooks:"HintsonSelf-HelpforYoungWomen
,"ByJessieBoucherett,'亙
June1863,Vol.11No.64,p.275
57Fieldhouse
,op.cit.,p.23
58ibid .,p.27
59`Ladies'Institute
,'亙 照March1859,Vol.3No.13,pp.51-2
60W
.Blackburn,H.MZomenllSuffragθ!.4recordOfthewomenlssuffragemovementinthe
照
Britishls7esvp7'thinbgraphiea7sketehesofMissBaker,Williams&Norgate,1902,pp.248-251
61浜 林 正 夫 前 掲 書
62例
え ば 、 法 律 文 書 複 写 オ フ ィ ス を 開 設 ・運 営 し たM・
ラ イ は1862年
に は や は く も女 性 雇 用 事
業 か ら撤 退 し 、 「中 産 階 級 移 民 協 会(FemaleMiddleClassEmigrationSociety)」
役 割 を 担 う な ど 、 女 性 移 民 事 業 へ と 軸 足 を 移 し た(`ReportoftheSocietyfbrPromotingthe
EmploymentofWbmen,f()rtheYearEndingJune24th,'1862,EWJ,August1862,V()1.9No.54)。
一12一
にお いて 中心 的
柴 原:19世 紀 イギ リス にお ける成 人教 育活 動 と して の女性 の 職業支 援
63今 井 け い 『イ ギ リス 女 性運 動 史 』(オ ンデ マ ン ド版)日
本 経 済 評 論 社2003年pp
(生涯 教 育 学 講 座
(受 稿2009年9.月7日
、 改 稿2009年11.月30日
一13一
.146-7
博 士 後 期 課 程1回
、 受 理2009年12.月11日)
生)
京都大学大学院教育学研究科紀要 第56号 2010
Inquiry into the Movement for Women’s Occupational Independence
in Nineteenth Century Britain
from the Perspective of Adult Education:
The Analysis of a Society for Promoting the Employment of Women
SHIBAHARA Machiko
This paper focuses on the Society for Promoting the Employment of Women
(SPEW), which is a feminism movement in nineteenth century Britain. This
paper intends to clarify how SPEW helped lower middle-class women gain
independence through “occupations”. They were considered as ladies who should
not work, but in reality, they needed a means for living. Although SPEW and its
practices were involved with learning of women as adults, such practices for
lower middle class women have been excluded in the framework of British adult
education. In this paper, SPEW is considered as one form of adult education.
With such perspective, it would be possible to see how adult women learned and
developed in relation to work and how it was supported, and to see why such
learning and teaching activities had not been considered as adult education
throughout its history. SPEW reported its practices to English Woman’s Journal
(EWJ), which was published from 1858 to 1864. According to EWJ, SPEW
launched the following four projects. 1. Law-Copying Office, 2. Victoria Press, 3.
Adult Class for arithmetic and bookkeeping, 4. Ladies Institute. The first two
were enterprises which SPEW provided funding for, where women learned and
worked as employees. The latter two were learning opportunities which SPEW
delivered in order to meet these women’s needs.
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