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哺乳動物中枢神経系の軸索再生 視神経再生の研究を中心に 渡部眞三

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哺乳動物中枢神経系の軸索再生 視神経再生の研究を中心に 渡部眞三
哺乳動物中枢神経系の軸索再生
視神経再生の研究を中心に
渡部眞三
再生不能と考えられてきた成熟哺乳動物の中枢神経線維も,末梢神経系の環境下では再
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生する。網膜視神経細胞の軸索である視神経も末梢神経を断端に移植することにより再生
が促され,さらに脳内でシナプスを再形成することができる。視神経細胞のタイプのうち
α細胞の再生能がとくに高いことが,ネコを用いた実験で明らかになった。軸索切断後の
神経細胞の生存を助長し突起伸展を促進する神経栄養因子,軸索切断によって発現が誘導
される遺伝子群などの最近の知見を含め,哺乳動物の中枢神経系の軸索再生について概説
する。
【視 神 経 再 生 】 【末 梢 神 経 移 植 】 【Schwann細
は じめ に
脊 椎 動 物 の 神 経 組 織 は, 神 経 管
tube) 由来 の 中枢 神 経 系 と神 経 堤
(neural
(あ る い は 神 経 冠 ;
胞 】 【哺 乳 動 物 】
た 神 経 線 維 を銀 染 色 法 で 染 め て , 神 経 細 胞 が 末 梢 神 経
系 の 環 境 下 で軸 索 を再 生 し う る こ とを最 初 に実 証 した2)。
neural crest)由来 の 末 梢 神 経 系 に二 分 さ れ る 。 中枢 神
そ の 後 ,Aguayoの
経 系 は脳 , 脊 髄 と網 膜 か らな り, 末 梢 神 経 系 に は脳 神
域 に 末 梢 神 経 を移 植 す る こ と に よ っ て , 中枢 神 経 線 維
経 , 脊 髄 神 経 , 末 梢 神 経 節 , 副 腎 髄 質 な どが 含 まれ る。
が 再 生 す る こ と を現 代 の 標 識 技 術 を用 い て証 明 した3)
。
この よ う に2つ
の 神 経 系 は発 生 学 的 に も解 剖 学 的 に も
区別 さ れ る が , 哺 乳 動 物 に お い て は切 断 さ れ た 神 経 線
維
(
軸 索 ) が 再 生 す る か 否 か と い う 点 に お い て も異 な
って いる。
グ ル ー プ は 中 枢 神 経 の い くつ か の領
さて,網 膜 の視 神 経 細 胞
retinal ganglion
(あ る い は 神 経 節 細 胞 ;
cell)は中 枢 神 経 系 に 属 して い るの で ,
そ の 軸 索 で あ る視 神 経 も切 断 さ れ た ら再 生 しな い。 し
か し視 神 経 も末 梢 神 経 系 の 環 境 下 で 再 生 す る ことは,So
成 熟 した 哺 乳 動 物 の 中枢 神 経 線 維 は切 断 され る と再
とAguayoに
よ っ て 示 され た4)
。 彼 ら は ラ ッ トの 視 神 経
生 しな い が , 末 梢 神 経 線 維 は 条 件 が 整 え ば再 生 し て く
を網 膜 内 で切 断 して切 断 部 に末 梢 神 経 を 自家 移 植 した。
る。 こ の違 い は中 枢 の 神 経 細 胞
(neuron) と末 梢 の神
4∼18週 後 に蛍 光 色 素 を 移 植 末 梢 神 経 に 注 入 し , 網 膜
(ganglion cell) そ の もの の 性 質 の 違 い で は
伸 展 標 本 で 多 くの視 神 経 細 胞 が 逆 行 性 に標 識 さ れ て い
経節細 胞
な く, そ れ ら を と り ま く環 境 , と りわ け神 経 線 維 の 皮
る こ と を見 い だ した。 そ の後Aguayoの
グ ルー プ は , ハ
膜 で あ る髄 鞘 を形 成 す る細 胞 (
中 枢 で は希 突 起 膠 細 胞 ;
ム ス タ ー の 脳 内 で 再 生 視 神 経 の 終 末 が シ ナ プ ス を再 形
oligodendrocyte,
胞 , 後述 )の
成 す る こ と を, 形 態 学 的 ・生 理 学 的 方 法 で 証 明 し て い
よって指 摘 さ
る (
後 述 )。
末 梢 で はSchwann細
違 い に よ る (図1)。 こ の こ と はCajalに
れ1)
,Telloが
Masami Watanabe,
Physiology,
Axonal
136
脳 内 に移 植 し た末 梢 神 経 内 に 新 た に 生 じ
Institute
Regeneration
愛 知 県 心 身 障 害 者 コ ロ ニ ー 発 達 障 害 研 究 所 生 理 学 部 門
for
in
Developmental
the
Central
Research,Kasugai,Aichi480-03,Japan]
Nervous
System
of
Adult
Mammals
(〒480-03春
日 井 市 神 屋 町713-8)
[Department
of
Ⅰ
Ⅱ
哺乳動物中枢神経 系の軸索再生
37
と軸 索 伝 導 速 度 か ら, ネ コ視 神 経 細 胞 をY( 図3A)
,X
(図3B) ,Wの3タ
間で
α=Y,R=X,
イ プ に 分 類 し た 。 続 く10年
そ の他 =Wの
関 係 が 証 明 され8)
,形態
学 と生 理 学 との 分 類 が 生 物 学 的 な意 味 を もつ こ とが 示
さ れ た 。 ネ コ網 膜 で確 立 され た この 分 類 法 は, 哺 乳 動
物 の 網 膜 視 神 経 細 胞 の 分 類 の 基 準 とな っ て い る。
サ ル の 視 神 経 細 胞 の形 態 学 的 タ イ プ の うち,Paraso1
細胞 (
α 細 胞 に相 当 ) とMidget細
が 全 体 の90%
胞 (
β 細 胞 に相 当 )9)
を 占 め て い る10)
。Midget細
胞 は80% を
占 め10)
, 中 心 窩 で 最 も密 で , 形 と色 を コー ドして い る こ
とが 明 らか に な っ て い る11)
。 したが って,今 あな た は
Midget細
胞 で 脳 に 伝 達 さ れ た 情 報 で こ の総 説 を読 ん で
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い る こ とに な る 。 ネ コ の α細 胞 と同 じ くParasol細
胞
は 色 を 伝 達 し な い が , テ レ ビ画 面 の ち ら つ き の よ う な
早 い 動 き に 応 じ る。
図1 軸 索切 断 と末 梢 神 経移 植 に対 する, 神 経 細胞
(neur-
on) の 反 応 の 模 式 図
軸 索 を切 断 され た神 経 細 胞 は 最 終 的 に 変 性 す る が , 末 梢 神 経 系
の環 境 下 で は 軸 索 を再 生 し, 生 存 す る 。
筆 者 ら は, 上 に 述 べ た ネ コの 視 神 経 細 胞 の 形 態 学 的
タ イ プ (α, β, γ な ど) に よ っ て 軸 索 再 生 能 に差 が あ
る か , さ ら に 再 生 視 神 経 細 胞 が 本 来 の 形 態 と機 能 を保
持 して い るか を, 最 初 に検 討 した 。 実 験 の方 法12)は, 麻
酔 ガ ス を 吸 入 させ た ネ コ の視 神 経 を眼 窩 内 で 切 断 した 。
上 に述 べ た 末 梢 神 経 移 植 に よ る視 神 経 の再 生 実 験 に
断 端 に 同 一 の個 体 か ら切 り出 した坐 骨 神 経 を縫 合 し, 他
は ラ ッ トや ハ ム ス タ ー が 使 用 され て い るが , こ れ ら の
端 は側 頭 筋 内 に埋 入 した。8∼10週
視 神 経 細 胞 の機 能 分 化 は 明 瞭 で な い。 し た が っ て 正 常
色 素 を 注 入 し, 注 入 部 位 まで 軸 索 を伸 長 して い る視 神
な 網 膜 の視 神 経 細 胞 に 関 す る研 究 論 文 も少 な く, 軸 索
経 細 胞 を, 逆 行 性 に 標 識 し た12,13)
。
を再生 した視神 経細 胞
(
以 下,再 生視神 経細胞 ) の形
後 に移 植 神 経 に蛍 光
標 識 され た 個 々 の再 生 視 神 経 細 胞 に , 蛍 光 顕 微 鏡 下
態 お よ び 生 理 的 性 質 を , 正 常 な そ れ と比 較 す る こ と は
でLucifer yellowを
困 難 で あ る 。 これ に 対 し て ネ コ の 視 覚 系 は詳 し く研 究
視 神 経 細 胞 の形 態 学 的 タイ プを, α 細 胞 , β 細 胞 とその
さ れ て お り, と りわ け視 神 経 細 胞 の形 態 学 的 お よ び 生
い ず れ で もな いNAB細
理 学 的 な分 類 は ネ コ網 膜 にお い て最 初 に確 立 され た。 筆
に 相 当 )に 同 定 した 。3個 の 網 膜 で 割 合 を 求 め正 常 な網
者 ら は こ の よ う な 理 由 か ら, 成 熟 ネ コで の 視 神 経 再 生
膜 の そ れ と比 較 し た と こ ろ , α 細 胞 の 割 合 が 正 常 よ り
の 研 究 を 現 在 進 め て い る 。 筆 者 らの 最 近 の研 究 成 果 を
か な り高 い こ と が わ か っ た (
表1)13)
。β細 胞 の割 合 は
述 べ る前 に, ネ コ とサ ル の 視 神 経 細 胞 の 形 態 学 的 ・生
正 常 網 膜 の そ れ とあ ま り変 わ りな か っ たが ,NAB細
理 学 的 特 徴 を 予 備 知 識 と し て述 べ る。
の 割 合 は低 くな っ て い た 。
BoycottとWassle5)
は ネ コ視 神 経細 胞 を細 胞 体 の大
注 入 してそ の樹 状 突 起 を染 め だ し,
胞 (notalpha/beta,W細
胞
胞
軸 索 切 断 に対 して も α 細 胞 が 高 い 抵 抗 性 を 示 し , α
き さ と樹 状 突 起 の 形 態 と受 容 野 の 大 きさ か ら, α(
大型
細 胞 の 高 い 軸 索 再 性 能 は 軸 索 切 断 に対 す る抵 抗 性 と関
細 胞 , 図2A)
連 が あ る こ とが わ か っ た (
表1)14)。 しか し末 梢 神 経 を
, β (中 型 細 胞 , 図2B) , γ そ の 他 (
小
型 細 胞 )に分 類 し た。 同 じ こ ろStoneとFukuda6,7)
は
移 植 す る と軸 索 を再 生 す る こ と が で き る β 細 胞 は , ほ
受 容 野 の大 き さ, 光 刺 激 に対 す る反 応 の 強 さ と持 続 性
と ん ど死 滅 し て い て 軸 索 切 断 に 対 し て 最 も高 い感 受 性
137
38
蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vo1.40 No,2(1995)
くつ か の例 を 示 す 。 α と同 定
さ れ た ほ と ん ど の細 胞 の 樹 状
突 起 は 正 常 な も の と ほ とん ど
変 わ らない形 態 で あった の に
対 し, い くつ か の β細 胞 で は
樹状 突起 の一部 が 消失 して い
た。NAB細
胞 と同 定 し た も
の の な か に は γ 細 胞 と思 わ れ
る もの もあ った (
図2C)
ほ と ん ど のNAB細
が,
胞 の樹 状
突 起 の形 態 は今 ま で に報 告 さ
れ て いな い もので あ った
(
図
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2D)a
Ⅲ
. 再生線維からの光応答の
記録−−生理学的研究
視 神経 細胞 が軸 索 を再 生 し
た後 も, 本来 の生 理 学 的 な反
応 を示す か どうか を知 る ため
に,再 生 視神 経細 胞 の光 刺激
に対 す る反応 を, 移植 神 経 か
ら剥離 した微細 な神経 束 か ら
記録 した17)
。 典 型 的 な2例 を
図3に 示 す。 か な りの数 の細
胞 が光 に対 して正 常 なYお よ
びX細 胞 と遜色 のな い反 応 を
示 したが, 受容 野 特性 が 正常
図2 HRP細
胞 内 注入 法 で得 られ た, 再 生視 神 経 細 胞 の樹 状 突起 の 形 態
太 い 矢 印 は軸 索 を示 す。A:a細
胞 , 中 心 野 か ら の距 離4.6mm,B:
に 注 目), 中 心 野 か ら の距 離4.5mm,C:
離11.8mm,D:NAB細
γ細 胞
胞 , 中心 野 か らの 距 離4.3mm。
常 とあ ま り変 わ り は な い が, γ細 胞NAB細
β細胞
(狭 い樹 状 突 起 野
(
広 い 樹 状 突 起 野 に注 目), 中 心 野 か ら の 距
α 細 胞 , β 細 胞 の樹 状 突 起 形 態 は 正
胞の樹状突起 に は細か い突起
(
細 い 矢 印 と矢 尻 )
が 新 生 し て い る。 ス ケ ー ル,A,C,D:100μm,B:50μm。
とか な り異 なっ た視神 経細 胞
も見 られ, 軸索 再 生 の後 に生
理学 的性 質 も変 化 した こ とが
わ か った。 表1に 示 す よ うに
こ こで もY( α)細胞 の割 合が
を 示 し て い た。 ラ ッ トで も切 断 後1週
間で 中型 の視 神
高 くなって いた。
経 細 胞 が 高 い 割 合 で 死 滅 す る とい う報 告 が あ り15,16)
,ネ
コ の β 細 胞 が 軸 索 切 断 に高 い 感 受 性 を もつ こ と と関 連
Ⅳ
. 中枢でのシナプスの再形成
が あ る と考 え られ る 。 この よ う に, α 細 胞 と β 細 胞 は
軸 索 切 断 に対 す る抵 抗 性 と軸 索 再 性 能 に お い て , 形 態
再 生 した視神 経線 維 の終 末 は,脳 内で シナ プス を再
形 成 して視 覚刺 激 を伝 達 する ようにな る。Vidal-Sanz
や機 能 と は 異 な っ た 相 違 点 が あ る こ とが わ か っ た 。
神 経 細 胞 内 に注 入 す る こ に よ り, 再 生 視 神 経 細 胞 の 樹
らは視 神経 断端 に移植 した末 梢神 経 の他端 をハ ム ス タ
ーの上丘 に導 いてか ら4∼8週 後 に, 視神 経 の終 末 が上
状 突 起 の 形 態 変 化 を さ ら に 詳 細 に検 討 し た 。 図2に
丘 神経 細胞 とシナ プス結合 を形成 す る こ とを電顕 で示
セ イ ヨ ウ ワサ ビペ ル オ キ シ ダ ー ゼ (HRP) を再 生 視
138
い
Ⅴ
哺乳動物中枢神経系の軸索再生
39
孔 と と も に, 光 刺 激 に よ る縮 瞳 反 射 が 生 じ た と報 告 し
て い る21)
。 この よう に, 末 梢 神 経 移 植 に よっ て再 形 成 さ
れ た シ ナ プ ス も, 正 常 に 機 能 す る こ とが 明 らか に な っ
た。
末梢神 経移 植 に よる哺乳 動 物 の視 神 経 の再生 につ い
て,筆者 ら とAguayoの
グル ー プ の研究 成 果 を述べて
きたが, こ こで 中枢 神 経線 維 の再 生 を促 進 す る因子 に
関 す る最 近 の知見 につ い て述 べ る。
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1. 軸 索 伸 長 ・再 生 を 助 長 す る 神 経 栄 養 因 子
報 告 され て い る神 経 栄 養 因 子 (neurotrophic factors)
の う ち,NGFは
末 梢 神 経 とコ リ ン作 動 性 ニ ュー ロ ンの
生 存 と分 化 を促 す こ とが 知 られ て い る 。NGFの2.5S
サ ブ ユ ニ ッ トが , 軸 索 を切 断 さ れ た 視 神 経 細 胞 の 生 存
に効 果 が あ る との 報 告 もあ るが22)
, と くに 目立 った効 果
はな い とす る主 張 もあ る23)
。 一 方 , 軸 索 を切 断 され た視
神 経 細 胞 の生 存 に はBDNF(brain derived neurotro-
phicfactor) が 効 果 が あ る と報 告 さ れ て い る15・23・24}
。ま
た最 近 ,neurotrophinグ
ル ー プ のNT-4とNT-5も
軸
索 切 断 後 の 視 神 経 細 胞 の 生 存 と, 培 養 下 で の 突 起 伸 展
を助 長 す る の に あ る との 報 告 が な さ れ た25)
。
注 目 さ れ る最 近 の 発 表 に , レ トロ ウ イ ル ス をベ ク タ
図3 移 植 し た 末 梢 神 経 よ り剥 離 し た 神 経 線 維 束 か ら 記 録
ー と し てBDNF遺
伝 子 を 星 状 膠 細 胞 (astrocyte)に ト
し た , 再 生 視 神 経 細 胞 の 光 刺 激 に 対 す る応 答
の試行
ラ ン ス フ ェ ク シ ョ ン し て 強 制 的 に発 現 さ せ , 培 養 下 の
(PSTH) で 示 す 。
ラ ッ ト胎 仔 視 神 経 細 胞 の 生 存 を 向 上 さ せ た 実 験26)が あ
光 ス ポ ッ トをユ ニ ッ トの 受容 野 に 照 射 し (0∼5秒 ),50回
の間 に 発 生 した ス パ イ クの 数 の ヒス トグ ラ ム
A: 光 の 早 い 点 滅 に応 じたon-center
1.6度 。B:on-center
X細 胞
Y細 胞 , 受 容 野 の 直 径 は
受 容 野 の 直 径 は0.6度 。光 の 早 い
る。BDNFを
点 滅 に応 じなか っ た。
照 群 のCM,
し た18)
。 さ らにKiersteadら
強 制 発 現 し た 星 状 膠 細 胞 の コ ンデ ィシ ョ
ン ドメ デ ィ ウム
はハ ム ス ター の 上 丘 神 経 細
CMよ
(conditioned medium;CM)
お よびNGFを
り も約15倍
は, 対
強 制 発 現 した星 状 膠 細 胞 の
視 神 経 細 胞 の 生 存 率 を上 げ た。 この
胞 が , 再 生 視 神 経 を通 し て 伝 え られ た イ ン パ ル ス に よ
知 見 か ら 中 枢 視 神 経 に お い て もBDNFな
っ て , 興 奮 す る こ とを 生 理 学 的 に証 明 し た19)
。
与 え る こ とに よ っ て , 軸 索 を切 断 さ れ た 神 経 細 胞 の 生
脳 内 で再 構 築 され た シ ナ プ ス を介 し て 伝 達 さ れ た 光
情 報 を, 動 物 が 認 識 して 行 動 す る こ と も証 明 さ れ て い
る 。Sasakiら
ど を外 部 か ら
存 を 高 め る こ とが で き る か も し れ な い と い う期 待 が も
た れ る。
はハ ム ス タ ー の 視 神 経 の 断 端 と同 側 の 上
丘 を末 梢 神 経 に よ っ て架 橋 し, 同 時 に 健 常 側 の視 神 経
を 切 断 し て お く と,2∼3月
後 に 光 に よ る忌 避 行 動 を 学
習 す る こ と を確 認 した20)
。 またThanosは
神 経 と視 蓋 前 野
2. 軸 索 再 生 に 果 た すSchwann細
胞の 役割
冷 凍 し て解 凍 す る こ とに よ っ てSchwann細
胞 を死 滅
, ラ ッ トの視
させ た 末 梢 神 経 を移 植 して も, そ の 中 に 中 枢 神 経 細 胞
(
視 覚反射 の中継核 ) を末梢 神経 で架
の 軸 索 は再 生 して こな い27)
。 さ らに, 視 神 経 を切 断 した
橋 し て お く と, 視 神 経 が 切 断 し て あ る 反 対 側 の 眼 の 瞳
ラ ッ ト眼 球 内 にSchwann細
胞 を移 植 す る と, 視 神 経 細
139
40
蛋白 質 核 酸 酵 素 Vol.40 No.2(1995)
表1 再 生視 神 経 細胞 お よ び軸 索 切 断 後 生 存 して いる視 神 経 細 胞 集 団 に おけ るY/a,
X/β の割 合
再 生 し た 視 神 経 線 維 を取 り囲
み ,19%
(
正 常 で は約100%
)
の 線 維 で 厚 い 髄 鞘 を形 成 して
い るの が観察 され (
図4) , さ
らに (
髄 鞘 の 内 径 )/(
髄 鞘 の外
径 ) の 比 は正 常 線 維 の値 に近
か っ た29)。
そ れ で はSchwann細
胞 の
何 が 軸 索 の 再 生 に必 要 で あ ろ
うか 。Schwann細
胞 が 何 らか
の 栄 養 因 子30,31)
,神 経 栄養 因
子 の レ セ プ タ ー32)や 細 胞 外 基
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質 因 子 を産 成 し て い る可 能 性
が想 定 され る。Taniuchiら
が
発 表 し た モ デ ル は, これ ら の
な か で も と くに ユ ニ ー ク で あ
る。 著 者 ら は末 槽 神 経 を切 断
し て1週
後 に は 軸 索 と接 し て
い るSchwann細
胞 表 面 に,
正 常 時 の20倍
以 上 のNGFレ
胞 の 生 存 が 高 ま る こ と も報 告 され て い る28)
。 これ らの こ
セ プ タ ー が産 成 さ れ て い る こ と を, 免 疫 組 織 化 学 的 手
とは, 軸 索 の再 生 にSchwann細
法 で 証 明 した33,34)。この こ とか ら著 者 ら は, 細 胞 表 面 の
胞 の役 割 が 重 要 な こと
を示 して い る。 事 実 , 移 植 神 経 にあ るSchwann細
胞は
レ セ プ タ ーがNGFを
捕 えて 局 所 的 に濃 縮 し, 再 生 中 の
軸 索 に渡 す とい う モ デ ル を提 唱 して い る34)。同 様 な こ と
が 再 生 中 の 中 枢 神 経 線 維 とSchwann細
胞 の 間 で行 なわ
れ て い る か ど う か の検 証 は, 今 後 の研 究 成 果 に 期 待 さ
れ る ところで ある。
NGFレ
セ プ タ ー 以 外 に も,Schwann細
胞 の表面 に
軸 索 再 生 を促 進 す る 因 子 が あ る と考 え ら れ る。 培 養 し
たSchwann細
胞 の シ ー ト上 で 神 経 細 胞 の突 起 伸 展 が促
進 さ れ る こ と は前 か ら知 られ て い た が , この 促 進 効 果
はSchwann細
胞 の 細 胞 外 マ ト リ ッ クス で は な い こ とが
報 告 され て い る35)。
3. 軸 索 切 断 に よ っ て 視 神 経 細 胞 に誘 導 さ れ る 遺 伝 子
群−−c-fos,c-JunとGAP-43の
発現
軸 索 切 断 に よ っ て 発 現 す る遺 伝 子 の研 究 報 告 は 最 近
図4移
植 神 経 内 のSchwann細
(星 印 ) お よ び 無 髄
胞
(S) に 囲 ま れ た 有 髄
earlygeneグ
(*) の 再 生 視 神 経 線 維
再 生 視 神 経 線 維 は視 神 経 乳 頭 に 注 入 した ビオ シ チ ン に よ っ て順
行 性 に標 識 し, ビ オ シ チ ン をstreptavidine-HRPとDAB反
可 視 化 して あ る。Schwann細
線維
140
胞 の基底膜
応で
(
矢 印) とコラー ゲン
(C)が末 梢 神 経 の 特徴 を 示 す 。 ス ケ ー ル ,0.5μm。
発 表 さ れ つ つ あ る。 視 神 経 を 切 断 す る と,immediate
ル ー プ の う ちc-fos,c-junが
視 神経細 胞
に 発 現 さ れ る が36 38), こ れ に続 い て 発 現 す る遺 伝 子 に
つ い て は まだ 報 告 され て い な い 。 さ ら に 中 枢 神 経 の 軸
索 再 生 時 に特 異 的 に働 く遺 伝 子 に つ い て の報 告 もな く,
41
哺乳動物中枢神経 系の軸索再生
で も異 な っ て い る こ とを 示 した 。 こ の 相 違 が どの よ う
今 後 の 発 展 が 最 も望 ま れ る研 究 分 野 で あ る 。
発 生 時 や 培 養 下 で 神 経 細 胞 が 軸 索 を伸 長 す る ときに ,
膜 蛋 白 質 分 子 のGAP-43(growth-associated
tein)の発 現 が み られ る39)
。 このGAP-43は
proラ ッ トの 視
神 経 切 断 後 ,6日 か ら網 膜 の視 神 経 層 にお い て その 発 現
が み られ ,8日
な細 胞 ・分 子 生 物 学 的 な性 質 の 違 い を 反 映 し て い る の
か , 最 も興 味 を ひ くと こ ろで あ る。
こ ろか ら ピー クに 達 す る40)
。 しか し なが
この 間 に ヒ ン トを与 え る報 告 と して,MeyとThanos
の ラ ッ トの 実 験41)が あ る。 彼 ら は視 神 経 を切 断 し, 同
時 に 眼 球 内 にBDNFとCNTF(ciliaryneurotrophic
ら,視 神 経 切 断 部 が 眼 球 か ら3mm以
下 の場 合 はGAP-
factor) の 一 方 あ る い は両 方 を 注 入 し て 数 週 間 お く と,
43の 発 現 が 認 め ら れ る が ,6mm以
上離 れてい る と
い ず れ の 栄 養 因 子 を注 入 した 網 膜 で も大 型 の 細 胞 の 生
GAP-43の
発 現 が ま っ た く認 め られ な い40)
。 軸索 の伸
存 率 が 高 か っ た 。 彼 ら は細 胞 体 の 直 径 だ け で タ イ プ 分
長 を妨 げ る 希 突 起 膠 細 胞 は, 視 神 経 の 髄 鞘 に含 ま れ る
け を し て い るの で , ネ コ に お け る筆 者 らの 結 果 と直 接
が 眼 球 内 の 網 膜 に は少 な い こ とか ら, 軸 索 のGAP-43
比 較 は で き な い が , 同様 な差 異 が ネ コ網 膜 視 神 経 細 胞
の 発 現 が 希 突 起 膠 細 胞 に よ っ て抑 制 され て い る 可 能 性
で も認 め られ る こ と は十 分 予 想 され る。
Database Center for Life Science Online Service
が 考 え られ る。
Ⅵ
. 今後の課題 と展望
おわ りに
It derives from external conditions-the
哺 乳動物 にお け る,視 神経 を中心 とした中枢神 経線
維再 生 の研 究 を概 説 したが, 今後 この研 究 を どの よう
に進 め るべ きか, 筆者 の考 え を最後 に述 べ たい。
absence
presence
or
of auxiliary factors that are indispensable
to
regenerative
Cajalが
process.-Ramon-y-Cajall)
中 枢 神 経 系 で の軸 索 再 生 の 可 能 性 を示 唆 して
60年 以 上 が 流 れ た。 彼 の 予 想 が 再 確 認 さ れ て か ら, 中
1. 膝 状 体 系 視 覚 路 へ の 再 結 合
枢 神 経 線 維 の 再 生 研 究 は さ ま ざ ま な 手 法 で 進 め られ て
切 断 さ れ た視 神 経 が 末 梢 神 経 移 植 に よって再 生 し, 光
お り, そ の 再 生 機 構 の 解 明 は今 後 の 発 展 が 期 待 さ れ る
の情 報 を伝 達 で き る こ と を 述 べ て きた が , 再 生 視 神 経
分 野 の ひ とつ で あ る。 な お誌 面 の 都 合 で 言 及 で きな か
細 胞 が 光 の情 報 を最 終 的 に は脳 に 伝 達 し な け れ ば , そ
っ た が , 希 突 起 膠 細 胞 に含 まれ る 中枢 神 経 線 維 の 再 生
の動 物 の 視 力 が 回 復 し た こ と に な らな い。 す で に 述 べ
を 阻 害 す る膜 蛋 白 質 分 子 の発 見 と, そ の 作 用 に関 す る
た よ う に , ラ ッ トや ハ ム ス タ ー を 用 い て 末 梢 神 経 の架
研 究 も著 し く進 展 し て お り, こ の 方 面 か ら の軸 索 再 生
橋 に よ る 視 覚 経 路 の 再 構 築 の 実 験 は, 網 膜 一 上 丘 路 と
の ア プ ロー チ も注 目 に値 す る。 詳 し くは末 尾 の文 献42∼45)
網 膜− 視 蓋 前 野 の 経 路 で は な さ れ て い る が18 21)
,網
を参照 され たい。
膜− 膝 状 体 路 で は い ま だ 報 告 され て い な い。 ネ コ や サ
本 稿 に多 くの 助 言 をい た だいた, 小 阪 淳博 士 に感 謝 いた します。
ル の よ う に 視 覚 の 発 達 した 哺 乳 動 物 で は, 外 側 膝 状 体
へ 投 射 し て い る視 神 経 線 維 の 数 は他 の投 射 部 位 を は る
か に 凌 駕 して い て10)
, 機能 の面で重要な位置 を占めてい
る こ とが わ か っ て い る 。 末 梢 神 経 の架 橋 に よ る網 膜−
文
献
1)May,R.M.,DeFelipe,J.,Jones,E.G.:in
膝 状 体 経 路 の 再 構 築 は , 視 覚 の 回 復 , と くに 動 物 が 形
Degeneration
や 色 を 認 識 で き る よ う に な る か ど うか とい う 点 か ら重
System,pp.l-2,Oxford
要 で あ る。
前 述 の よ う に, ネ コ や サ ル の 膝 状 体 系 視 覚 路 はY/ α
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細 胞 とX/ β 細 胞 の経 路 か ら伝 達 され る。 α と β の 視 神
経 細 胞 は 形 態 や 生 理 学 的 機 能 が 異 な っ て い る5∼10)
だけ
で な く, 軸 索 切 断 に対 す る感 受 性 や軸 索 再 生 能 の う え
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