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19 論理療法 - 日本学校教育相談学会|JASCG

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19 論理療法 - 日本学校教育相談学会|JASCG
 Ⅵ 言 語 的 アプローチ
19 論理療法
片野智治 1 到 達目標 ( 1 ) 論 理 療 法 の 概 略 を 理 解 す る 。 ( 2 ) 論 理 療 法 の 理 論 に つ い て 学 ぶ 。 ( 3 ) 論 理 療 法 の 主 な 技 法 に つ い て 学 ぶ 。 【 キ ー ワード】 説得療法,論理実証主義,簡便法,イ ラ シ ョ ナ ル ビ リ ー フ ( 非 論 理 的 ビ リ ー フ ,
iB) , A B C 理 論 2 論 理 療 法 の 成 り 立 ち ア ル バ ー ト ・ エ リ ス ( Dr.Albert Ellis ,1913~2007) は 2 度 来 日 し て い る 。 日
本 学 生 相 談 学 会 ( 1987) と 日 本 カ ウ ン セ リ ン グ 学 会 ( 1998) の 招 聘 に 応 え て く れ
た の で あ る 。 彼 が 創 始 し 実 践 し 続 け た “ Rational Emotive Behavior Therapy” ( 略 称 REBT)
を 日 本 に は じ め て 紹 介 し た の は 國 分 康 孝 Ph.D.で あ る 。 國 分 は そ の エ ッ セ ン ス を
「 考 え 方 を 変 え れ ば 悩 み は 消 え る 」 と い う 題 で 紹 介 し た ( 『 愛 育 心 理 研 究 』 1967
年 6月 号 ) 。 米 国 に 留 学 中 で あ っ た 國 分 は 紹 介 原 稿 を ア メ リ カ か ら 送 っ た と い う 。 筆 者 が エ リ ス に お 会 い し た の は 1998年 東 北 大 学 に お け る 日 本 カ ウ ン セ リ ン グ 学
会 第 37回 大 会 ( 実 行 委 員 長 長 谷 川 啓 三 ) の 時 で あ る 。 真 夏 の 大 教 室 で 数 時 間 に 及
ぶ講座に参加していた私は,湿気と暑さに耐えながら,立ちながら聴講した。大
入 り 満 員 の 大 盛 況 だ っ た の で あ る 。 こ れ を 契 機 と し て 私 は 論 理 療 法 に 魅 せ ら れ た 。 「 人 生 意 気 に 感 ず 」 「 当 た っ て
砕けろ」「虎穴に入らずんば虎子を得ず」「人生は楽しむものだ」「くよくよす
るな,いじいじするな」「情にほだされるな」「この世の中には八方ふさがりは
な い 」 と い っ た よ う な エ リ ス の 人 生 哲 学 の 片 々 を 自 ら 唱 え る こ と が 多 く な っ た 。 エ リ ス の 幼 少 期 は 不 幸 で あ っ た 。 両 親 は 離 婚 し , 彼 が 腎 炎 で 死 の 瀬 戸 際 に あ っ
たときでさえ,見舞いには来ず,ひとりでこの艱難辛苦を生きた。またこの幼少
の体験は彼をして女性恐怖症にした。彼はニューヨーク州立大学で学びながら,
ある課題を遂行した。ブロンクス公園でベンチにひとり座っている女性を見つけ
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ては,1分間で自己紹介し,デイトの約束をとりつけるというものであった。こ
の 試 行 を 100回 以 上 続 行 し た と い う 。 こ の 課 題 遂 行 の 過 程 で , 女 性 は 決 し て 怖 い 存
在 で は な い と 思 え る よ う に な っ た 。 女 性 に 対 す る 認 知 が 変 わ っ た の で あ る 。 3 論 理 療 法 ( 略 称 REBT) の 特 徴 こ こ で は 先 ず 論 理 療 法 の 特 徴 に つ い て 叙 述 す る 。 こ れ は 説 得 療 法 で あ り , 論 理
実証主義哲学とエリスの人生哲学が濃厚であること,そして簡便法の3点を特徴
と し て 挙 げ た い 。 ( 1 ) 説 得 療 法 ( 論 駁 法 ) REBTを 好 ん で 用 い る カ ウ ン セ ラ ー は 臆 せ ず に ク ラ イ エ ン ト を 説 得 ・ 論 駁 す る 。
例えば,証拠はどこにありますか,なぜですか,理由は何ですか,どうしてそう
言 え る の で す か , ど こ に 書 い て あ る の で す か 。 ま た ク ラ イ エ ン ト の 持 つ ビ リ ー フ ( belief, 受 け と り 方 , 見 方 , 考 え 方 ) に 対
して次のような指摘を繰り出す。論理的に証明または実証できますか。このビリ
ーフを反証するにはどのような証拠がありますか。このビリーフの正当性を証明
する証拠はありますか。このビリーフを放棄し,このビリーフに背いた場合に,
実際に起こり得る最悪の事態とはどんなことですか。このビリーフを放棄した場
合 , 起 こ り 得 る , あ る い は 自 分 が 起 こ し 得 る 望 ま し い こ と は ど ん な こ と で す か 。 例 示 ① 「 こ の 考 え 方 は , あ な た に , た く さ ん の 不 利 な 点 を 与 え る わ け で , ど う し て
不 利 な こ と を 与 え る よ う な 考 え 方 に 固 執 し て い る の で す か 」 。 ② 「 あ な た が パ ニ ッ ク に な る と い う こ と に 関 し て , ど う 感 じ ま す か 」 。 ③ 「 パ ニ ッ ク の と き , あ な た は ど の よ う に 感 じ て い る の で す か 」 。 ④ 「 先 ず , 自 分 自 身 が パ ニ ッ ク で あ る こ と を ま ず 認 め る こ と が 大 事 で す 」 。 ⑤ 「 ~ と い う ふ う に 自 分 に い い き か せ て い る わ け で す ね 」 。 論 理 療 法 で は イ ラ シ ョ ナ ル ビ リ ー フ を 論 駁 す る ( Disputing Irrational Belief) 。
こ れ に よ っ て 新 し い 人 生 哲 学 を 学 習 し 獲 得 ( Effect) す る の で あ る 。 ( 2 ) 論 理 実 証 主 義 と エ リ ス の 人 生 哲 学 REBTを 支 え る 論 理 実 証 主 義 ( logical positivism) は 論 理 的 に , 検 証 可 能 な 事
実(実証)にもとづいて考えることを目指した思想のことである。つまり論理性
と実証性にもとづいて思考することを特徴としている。例えば「私はすべての人
から好かれなければならない」という考え方(ビリーフ)は,非論理的である。
人に好かれるということは人から気に入られるということ。すべての人の好みに
自分を合わせるということは非現実的(現実的一般性)である。人は十人十色と
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よくいわれる。「田で食う虫も好き好き」ということで,人の好みはみな違うの
である。また「私は留年した。私の人生はお先真っ暗だ。」というビリーフも非
論理的である。高校留年・中退,大学留年・中退の経験者のすべてがお先真っ暗
だという悲観的・絶望的な見方をするわけではない。この出来事に遭遇して発奮
す る 人 も 少 な く な い 。 エ リ ス の 人 生 哲 学 は 論 理 実 証 主 義 に 支 え ら れ て い る 。 ア ル バ ー ト ・ エ リ ス 著 國 分 康 孝 ・石 隈 利 紀 ・國 分 久 子 訳 ( 1996) 「ど ん な こ と が あ っ て も 自 分 を み じ め に し な い た め に :論 理 療 法 の す す め 」(川 島 書 店 ) か ら 紹 介 す る 。 例 え ば 「 幼 少 期 の 経 験 や 過 去 の 条 件 づ け が , 自 分 の 情 緒 的 な 混 乱 の 原 因 で は な い 。 私 が 自 分 自 身 を 混 乱 さ せ て い る の で あ る 」 。 「 自 分 を 情 緒 的 に 混 乱 さ せ て い る 元 凶 は 自 分 で あ る 」 。 「 私 が 何 か に つ い て 一 度 み じ め に な る と , そ の 後 は い と も 簡 単 に 自 分 を み じ め に し が ち で あ る ( 悲 劇 の 主 人 公 に 自 分 を し が ち で あ る ) 」 。 「 私 が 感 情 的 な 混 乱 を 克 服 し て , 元 に も ど ら な い と す れ ば , そ れ は 奇 跡 で あ る 」 。 「 ( 努 力 が 水 泡 に 帰 し た な ら ば ) 論 理 療 法 の 振 り 出 し に も ど り , 繰 り 返 し 挑 戦 す る こ と で あ る 」 。 「 人 生 に お い て 不 快 , 苦 痛 , 失 敗 , 拒 否 , 喪 失 は 不 可 避 で あ る 。 人 生 と は , 論 理 療
法によれば,苦悩である。大変な苦悩ではあるが,あなたは思考と努力でもってあな
たの人生を大きく改善することができる。ただし,全部ではない!完全にではな
い ! 」 「人生は困難である。しかし,八方ふさがりでもなければ恐怖と絶望のかたまりと
いうわけでもない。ただ人生は困難であるというだけである。さて,今よりもっと楽
し い 人 生 に な る よ う に あ な た は ど ん な 努 力 を す る の だ ろ う か 」 ( 前 掲 書 , 270 ) 。 特
徴 的 な も の は 以 下 の 洞 察 で あ ろ う 。 洞 察 1 “ Life is a game. You don´t think it sincerely. ” 洞 察 2 “ Nothing is awful, but only inconvenient! ” 洞 察 3 “ Tomorrow is another day.” ( 3 ) 簡 便 法 と し て の REBT 國 分 康 孝 Ph.D.・ 國 分 久 子 M.A.ら が 参 加 し た 「 フ ラ イ デ ィ ナ イ ト ・ ワ ー ク シ ョ ッ
プ 」 ( エ リ ス の 主 宰 ) の 中 心 的 な 部 分 は 25分 の シ ョ ー ト セ ッ シ ョ ン で あ る 。 筆 者 は 集 中 的 グ ル ー プ 体 験 で あ る 構 成 的 グ ル ー プ エ ン カ ウ ン タ ー ( Structured Group Encounter,略 称 SGE) を 実 践 し て い る 。 2 泊 3 日 の 宿 泊 制 の 集 中 的 グ ル ー プ
体 験 で あ る 。 参 加 者 は 成 人 で あ る 。 全 体 シ ェ ア リ ン グ と い っ て , 1 セ ッ シ ョ ン ( 60~ 90分 ) を シ ェ ア リ ン グ に あ て る 。 こ こ で は 種 々 多 様 な 問 題 が 出 さ れ る 。 そ
れゆえにリーダーまたはスーパーバイザーが介入する。この介入法のひとつが簡
便 法 の 面 接 ( 20~ 30分 ) で あ る 。 全 員 の 中 で 試 み る 。 こ こ で は 論 理 療 法 が よ く 使
われる。リレーションづくりが必要ないので,問題把握して(非論理的なビリー
フを掴む),論駁をすることになる。つまり非論理的なビリーフを論理的なビリ
ー フ に す る の で あ る 。 19-3 日本学校教育相談学会(JASCG)
強 調 し た い こ と は , リ レ ー シ ョ ン 形 成 に 時 間 を か け な い の で あ る 。 4 論 理 療 法 の 中 核 を な す ABC理 論 ABC理 論 と は 「 悩 み 誘 発 的 な 出 来 事 Activating event」 「 出 来 事 の 受 け と り 方 ・
考 え 方 ・ 見 方 , ま た は 固 定 観 念 , 偏 見 ( ビ リ ー フ Belief) 」 「 結 果 ( 悩 み ・ ア ン
ハ ッ ピ ィ ー な 感 情 Consequence) 」 の 3 つ を い う 。 ( 1 ) 悩 み の 元 は 非 論 理 的 な ビ リ ー フ 具 体 例 に 基 づ き な が ら 説 明 し た い 。 あ る と き ひ と り の 教 員 が 管 理 職 か ら 叱 責 さ
れた。彼はひどく落ち込んでしまった。自分の言動に自信を失いかけていた。そ
こ で 来 談 す る こ と に な っ た 。 A 苦 悩 誘 発 的 出 来 事 ( Activating events ) ・ ・ 管 理 職 か ら の 叱 責 B イ ラ シ ョ ナ ル ビ リ ー フ ( 非 論 理 的 ビ リ ー フ , iB) C 悩 み ( Consequences, 情 緒 的 な 混 乱 ) ・ ・ 落 胆 , 自 信 喪 失 論 理 療 法 で は 苦 悩 誘 発 的 な 出 来 事 が 悩 み の 元 で は な く , そ の 出 来 事 の 受 け と り
方・見方・考え方が悩みの元であるとする。エリスは古代ギリシャの哲学者エピ
クテートスの影響を受けている。彼は「出来事の受けとり方が人のその後の言動
に 影 響 す る 」 と 説 い た 。 こ の 教 員 が 落 胆 し , 自 信 喪 失 に な り つ つ あ る の は , 叱 責 さ れ た と い う 出 来 事 を
とおして「自分はダメ教師である」という受けとり方をするようになったからで
あ る 。 つ ま り 「 私 は ダ メ 教 師 で あ る 」 と い う ビ リ ー フ を 持 つ に い た っ た 。 ( 2 ) い ろ い ろ な イ ラ シ ョ ナ ル ビ リ ー フ こ こ で は イ ラ シ ョ ナ ル ビ リ ー フ の 具 体 例 を 挙 げ た い 。 ・ 何 事 も 過 失 な く 立 派 に や ら な け れ ば な ら な い 。 ・ ・ ① ・ あ の 人 の せ い で 私 の 生 活 は め ち ゃ く ち ゃ だ 。 ・ ・ ④ ・ 私 の 能 力 を 認 め て く れ な い な ん て 世 も 末 だ 。 ・ ・ ③ ・ 上 司 に 叱 責 さ れ る な ん て , 私 は ダ メ 人 間 で あ る 。 ・ ・ ② ・ 人 は 私 の 欲 す る と お り に 行 動 す べ き で あ る 。 ・ ・ ① ・ 人 に 甘 え て は な ら な い 。 ・ ・ ⑤ ・ 人 生 は 思 う と お り に な る は ず で あ る 。 ・ ・ ⑤ イ ラ シ ョ ナ ル ビ リ ー フ の 分 類 ( 國 分 久 子 ) ① “ should” ,“ must” の 強 迫 ビ リ ー フ ② 他 者 非 難 ・ 自 己 卑 下 の ビ リ ー フ 19-4 日本学校教育相談学会(JASCG)
③ 悲 観 ・ 絶 望 の ビ リ ー フ ④ 欲 求 不 満 低 耐 性 の ビ リ ー フ ⑤ 現 実 的 一 般 性 ( 非 現 実 的 ) に 反 し , 不 幸 に す る ビ リ ー フ ( 3 ) iBが 生 み 出 す 不 健 全 な 激 し い 感 情 不健全な激しい感情の具体例を列挙する。これらはしばしばイラショナルビリ
ー フ に よ っ て 誘 発 さ れ , 五 臓 六 腑 を 焼 き 尽 く す 。 身 体 に 悪 い の で あ る 。 パニック,激怒,敵意,抑うつ,自己憐憫,自信喪失,自己破滅感,屈辱感,
罪 障 感 , 自 己 卑 下 , 自 己 嫌 悪 , 自 己 非 難 , 自 己 蔑 視 , 絶 望 感 , 恐 怖 視 5 REBT論 理 療 法 の 主 な 技 法 ( 1 ) 論 理 的 帰 結 法 ( 損 得 勘 定 法 ) の 例 「 た ば こ を 吸 う こ と に つ い て 考 え る と き , あ な た は 何 を 思 い ま す か 」 「 た ば こ を 止 め る こ と を 考 え る と き , あ な た は 何 を 思 い ま す か 」 有 利 な 点 と 不 利 な 点 を た く さ ん 書 き 出 し 1 日 5 ~ 10回 リ ピ ー ト す る 。 ( 2 ) 現 実 場 面 脱 感 作 法 例 え ば 犬 が 恐 い , 上 司 が 怖 い と い う 人 が い る 。 こ の よ う な 場 合 に 用 い る の が 現 実 場
面脱感作法である。骨子は現実場面を回避しない,怖い対象から逃げ出さないという
方 法 を と る 。 そ の た め に 対 象 に 直 面 さ せ る 。 犬 が 怖 い と い う 場 合 , 犬 を 可 愛 が っ て い る 様 子 を ス ラ イ ド で 見 せ る 。 ク ラ イ エ ン ト
の近くで犬と遊んでいる場面を用意し,これに立ち合う。このように現実的な場面に
立 ち 合 わ せ て , 犬 へ の 恐 怖 心 を 少 な く す る の で あ る 。 換 言 す れ ば 鈍 感 に す る の で あ る 。 ( 3 ) 論 理 療 法 的 イ メ ー ジ 法 最 悪 の 状 態 を 想 像 さ せ , 激 し い 悪 感 情 ( ア ン ハ ッ ピ ィ ― ) に し た ら せ る 。 そ の
後 今 度 は ト ー ン ダ ウ ン さ せ た 感 情 に し た ら せ る 。 例 「 日 頃 か ら 目 を か け 援 助 し て い た A さ ん に 激 し く 批 判 さ れ た 。 あ な た は 激 怒
し,敵意さえ感じている。では論理療法的イメージ法をしましょう。軽く目を閉
じてください。あなたは最高に激しい感情にひたってください。例えば,畜生!
あいつはなんという奴だ。絶対に許せない。あのような態度には耐えられないと
いった最高に激しい怒りや敵意の感情にしたってください」。「次ぎに,残念で
はあるが,絶対に許せないというほどでもない。とても耐えられないというほど
で も な い , と い っ た 感 情 に ひ た っ て く だ さ い 」 。 「 あ な た は ど の よ う に し て 感 情 を 変 え ま し た か 」 。 「 あ な た は 感 情 を 変 え る た
めに,何を自分に言い聞かせましたか」。「自分の感情が落ち着いていく過程に
お い て , あ な た は , 自 分 自 身 に , 何 と 言 い 聞 か せ て い ま し た か 」 。 19-5 日本学校教育相談学会(JASCG)
こ の 原 理 は 内 心 で 言 っ て い た 文 章 記 述 を 変 換 す る の で あ る 。 ( 4 ) 強 化 法 ・ 罰 則 法 と い う 行 動 に 働 き か け る 方 法 例 ① 「 で は , こ れ か ら あ な た の た め に 強 化 に 移 り ま す 。 あ な た は 毎 日 何 が し た い
で す か 。 好 き だ か ら 毎 日 や る こ と , と い う の が 何 か あ り ま せ ん か 」 。 「 毎 日 晩 酌 を や り た い で す 」 。 「 で は , あ な た は 毎 日 ~ ~ を 練 習 す る ま で は 晩 酌 を し て は い け ま せ ん 」 。 ② 「 で は , あ な た は 嫌 い な こ と , や る こ と を 避 け て い る こ と は 何 で す か 」 。 「 家 事 手 伝 い や 掃 除 で す 」 。 「 で は , あ な た は も し こ の 練 習 を し な か っ た な ら ば , 翌 日 1 時 間 ば か り 必 ず
家事手伝いと掃除をやりなさい。だから,あなたはちゃんとこの練習を毎日
す れ ば , そ ん な こ と を す る 必 要 は な い の で す 」 。 このように論理療法は強化法や罰則法といった行動に働きかける方法を当初か
ら 用 い て い た 。 そ れ ゆ え に 認 知 行 動 療 法 な の で あ る ( エ リ ス , 1998) 。 で は 用 意 さ れ た ワ ー ク シ ー ト 「 私 の 秩 序 感 度 」 を 複 数 の 仲 間 と 取 り 組 ん で , 自
分 の ビ リ ー フ を 点 検 し て み て く だ さ い 。 6 論 理 療法の相談活動への生かし方 < 事 例 ① > 人 の 目 が 気 に な り 過 ぎ て 不 安 と 緊 張 を 高 め る A子 A子 は , 前 の 高 校 を 1 年 の 途 中 で 中 退 し , 翌 年 の 春 , 単 位 制 の Y校 に 入 学 し て き ま し
た。入学直後からクラスの集団行動についていくのに疲れ,また不登校になってしま
う の で は , と い う 不 安 が 高 ま っ て き ま し た 。 5月 の 連 休 明 け に 相 談 室 を 訪 れ 定 期 面 接 が
始 ま っ た 。 # 1 ( 5 / 8 ) 『 』 ~ A 子 の 発 言 [ ]~ カ ウ ン セ ラ ー の 発 言 『 グ ル ー プ の 行 動 に つ い て い く の に 疲 れ ま し た 。 1 人 が 好 き だ け ど , そ う す る と
孤立してしまうので,それもできません。授業のとき席が決まっているのもつらい。
何を話したらいいか,あわせるのに疲れてしまうんです。前の学校もだんだんつらく
な っ て 中 退 し ま し た 』 [自 分 が ど う 思 わ れ て い る の か が 気 に な る ん だ ね 。 あ な た と 同 じ 悩 み を 持 っ た 人 が 他
にもいますよ。保健室や相談室を居場所として活用しながら,何とか今をしのぎまし
ょ う ] # 2 ( 5 / 1 5 ) ~ # 6 ( 6 / 1 9 ) 『 グ ル ー プ の 中 に い る と , み ん な 軽 口 を 叩 き あ っ て い る の に , 自 分 に 対 し て だ け よ
そ よ そ し い 。 冗 談 を 言 わ れ て も 返 せ な い か ら で し ょ う か 』 『 友 達 に 嫌 わ れ て し ま う
のでは,といつも不安です』と訴えるA子の気持ちを受けとめながら(来談者中心療
法 ) , 能 動 型 の 論 理 用 法 を 導 入 す る こ と に し た 。 19-6 日本学校教育相談学会(JASCG)
論 理 療 法 が 能 動 型 と い う 理 由 は , 課 題 を 出 す こ と , 説 得 的 で あ る と い う こ と で あ る 。 この場合のA子のイラショナルビリーフは“すべての人に好かれるべきである”とい
うことである。このビリーフがあるから,人に好かれないと自分はだめだ,と思いこ
ん で き た 。 乳 幼 児 だ っ た ら 人 の 愛 な し に は 育 た な い か ら , こ れ は ラ シ ョ ナ ル ビ リ ー フ で あ る 。
ところが高校生の場合は,愛がなくても生きられる。たしかに愛があるにこしたこと
はない。しかし,愛がなければ生きられないというわけではない。したがって,A子
の 場 合 は イ ラ シ ョ ナ ル ビ リ ー フ で あ る 。 A 子 に と っ て の ラ シ ョ ナ ル ビ リ ー フ は , ① ま ず 人 に 好 か れ る 好 か れ な い に 関 係 な く , 自 分 を 好 き に な る こ と で あ る 。 ② 高校生の愛情関係は,赤ちゃんのように無条件にもらえるものではなく,ギブ・
アンド・テイクである。努力の結果,好かれたらありがたいし,好かれなくても
元 々 で あ る 。 ③ 周りの目を気にする暇があったら,「自分はほんとうは何をしたいか」を自問自
答 し て し た い こ と を す る 。 ④ どうしても愛がほしければ,まず人に愛を与える実践があるのみである。その結
果 と し て 友 人 が で き る の で あ る 。 # 7 ( 7 / 3 ) ~ # 1 9 ( 1 2 / 1 0 ) その後,相談部主催のサマーキャンプ(2泊3日),コンビニエンス・ストアーの
アルバイトなど,少しずつ活動の幅が広がった。悲観的なものの見方をしてしまうマ
イナス志向の傾向はなかなか直らないが,イラショナルビリーフの発見や修正によっ
て , な ん と か 学 校 生 活 は 続 け ら れ そ う だ と い う 自 信 が も て る よ う に な っ た 。 < 事 例 ② > ス ラ ン プ が 長 び い て ク リ ニ ッ ク へ の 通 院 を 開 始 し た B 子 死 に た い ほ ど の う つ 症 状 を 解 消 す る た め に は , 危 機 介 入 的 な 対 症 療 法 と し て の 治 療
が必要である。しかし,一時的に治療の成果で回復しても,物事に対してイラショナ
ルビリーフを抱きやすい認知傾向をそのままにしていては,同じことを繰り返すこと
が 予 想 さ れ る 。 例 え ば , 卒 業 後 の 進 路 と し て 専 門 学 校 ( 英 語 ) へ の 合 格 が 決 ま っ た 直 後 , そ の 学 校
のカリキュラムにあるアメリカでの長期ホームステイ(1年)に親も当然賛成してく
れると思い込んでいた。しかし,父親は,短期(3ヶ月)ならば認めるという線を譲
ら ず , B 子 は 再 び 落 ち 込 ん で し ま い , 相 談 室 を 訪 れ た 。 父 親 の 不 賛 成 と い う 出 来 事 ( A ) に 対 し , 「 父 親 は , い つ も わ た し の 要 求 を 受 け 入
れるべきである」というイラショナルビリーフ(B)をもっていたために,怒りの感
情が湧いてきたのである(C)。このイラショナルビリーフについて,二人で話し合
っ た 。 「 一 般 的 に は , 短 期 ホ ー ム ス テ イ で も 親 に 認 め て も ら え る 人 は 少 な い 。 長 期 ホ ー ム
ステイであるにこしたことはないが,短期で実績を積むことによって次のチャンスを
ねらう道もある」というラショナルビリーフをもつことができるようになり,結果と
し て 生 じ た 不 適 切 な 感 情 ( C ) か ら 解 放 さ れ た 。 19-7 日本学校教育相談学会(JASCG)
( 事 例 の 内 容 は , 秘 密 保 持 の た め に 脚 色 し て あ り ま す ) 7 留 意 点&活用のポイント 留 意 点 と し て , 説 得 療 法 で あ る の で , リ レ ー シ ョ ン づ く り を 怠 る と 精 神 分 析 で い う
「抵抗」を生じさせることになる。知的になりすぎず,ユーモアやウイットを活用す
ることである。感情交流を忘れると,生徒はABC理論を使って問題を解こうとする
意欲を失うことがある。カウンセラーはねばり強い態度で望む必要がある。イラショ
ナ ル ビ リ ー フ の 粉 砕 を 繰 り 返 し 繰 り 返 し 求 め ら れ る 場 合 が あ る 。 ① 論 理 療 法 を 活 用 す る 場 合 の 姿 勢 と は ・ 能 動 的 , 指 示 的 に な れ る ・ 欲 求 不 満 に 耐 え ら れ , 自 己 受 容 が 高 い ・ ユ ー モ ア の セ ン ス が 持 て る ・ 実 験 精 神 が あ り , リ ス ク を お か す 勇 気 を 持 っ て い る ・ 問 題 解 決 に 取 り 組 む の が 楽 し く , 論 理 療 法 の 知 識 を 持 っ て い る
② 論 理 療 法 を 学 ぶ と い う こ と は 論理療法は思考・感情・行動の3つの要素を組み合わせた問題解決志向で,チ
ャ レ ン ジ 精 神 と 論 理 実 証 的 な 態 度 ( あ り 方 生 き 方 ) が 求 め ら れ る 。 《 参 考 引 用 文 献 》 ア ル バ ー ト ・ エ リ ス 大 会 記 念 講 演 「 な ぜ REBTと し た の か 」 ( 日 本 カ ウ ン セ リ ン グ
学 会 第 31回 大 会 発 表 論 文 集 , 1998 58所 収 ) A.エ リ ス & R.A.ハ ー パ ー 著 北 見 芳 雄 監 訳 國 分 康 孝 ・伊 藤 順 康 訳 論 理 療 法 川 島
書 店 , 1981 ア ル バ ー ト ・ エ リ ス 著 國 分 康 孝 監 訳 神 経 症 者 と つ き あ う に は 川 島 書 店 , 1984 ア ル バ ー ト ・ エ リ ス 著 國 分 康 孝 ・ 石 隈 利 紀 ・ 國 分 久 子 訳 ど ん な こ と が あ っ て も
自 分 を み じ め に し な い た め に : 論 理 療 法 の す す め 川 島 書 店 , 1996 國 分 康 孝 カ ウ ン セ リ ン グ ゙の 理 論 誠 信 書 房 , 1980 國 分 康 孝 自 己 発 見 の 心 理 学 講 談 社 , 1991 國 分 康 孝 負 け な い 自 分 に な る 心 理 学 三 笠 書 房 , 1996 國 分 康 孝 ポ ジ テ ィ ブ 教 師 の 自 己 管 理 術 図 書 文 化 , 1996 國 分 康 孝 理 事 長 講 演 「 先 駆 者 に 学 ぶ サ イ コ エ ジ ュ ケ ー シ ョ ン ― 霜 田 静 志 と ア ル バ
ー ト ・ エ リ ス ― 」 ( 日 本 カ ウ ン セ リ ン グ 学 会 第 31回 大 会 発 表 論 文 集 , 1998 56
- 57所 収 ) 國 分 康 孝 編 論 理 療 法 の 理 論 と 実 際 誠 信 書 房 , 1999. 日 本 学 生 相 談 学 会 編 責 任 編 集 今 村 義 正 ・國 分 康 孝 論 理 療 法 に ま な ぶ 川 島 書
店 , 1989 ウ イ ン デ ィ ・ ド ラ イ デ ン 著 國 分 康 孝 ・ 國 分 久 子 ・ 國 分 留 志 訳 論 理 療 法 入 門 19-8 日本学校教育相談学会(JASCG)
川 島 書 店 , 1998 ヤ ン グ ラ & ド ラ イ デ ン 著 國 分 康 孝 監 訳 ア ル バ ー ト ・ エ リ ス ― 人 と 業 績 川 島 書
店 , 1998 19-9 日本学校教育相談学会(JASCG)
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