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調査報告書 - 水道技術研究センター

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調査報告書 - 水道技術研究センター
2005年 日中水処理技術国際シンポジウム
及び中国水道技術視察調査
報 告 書
2005 年 12 月
財団法人 水道技術研究センター
Japan Water Research Center
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
目
次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第 1 章 視察調査概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1. 視察調査目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2. 視察調査機関・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3. 参加者名簿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4. 視察日程・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
3
3
4
5
6
第2章 シンポジウム・視察調査報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1. 広州市南洲浄水場について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2. 厦門日中水処理技術シンポジウムについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3. 厦門市高殿浄水場について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4. 上海市松浦原水場について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5. 上海市建設委員会講演会について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
9
14
20
23
26
第3章 訪問都市について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1. 桂林・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2. 広州・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3. 厦門・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4. 杭州・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5. 上海・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
29
34
37
42
45
視察調査を終えて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
49
おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
51
添付資料
1、2005 年日中水処理技術シンポジウムプログラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2、2005 年日中水処理技術国際シンポジウム論文集(日本語)・・・・・・・・・・・・・・・
1
3
特別講演
日本における浄水技術開発の最新成果
財団法人 水道技術研究センター
理事長
藤原
正弘・・・・・・・・・・・・・・
4
分科講演
水道事業への業務指標活用について
横浜市水道事業管理者 水道局長 金近 忠彦・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
江戸川をモデルとした水道水源異常水質予測システムの構築
武蔵工業大学 助教授 ○長岡 裕、宇佐美和也
財団法人 水道技術研究センター 藤原 正弘、清塚 雅彦・・・・・・・・・・・
i
10
14
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
技術論文
相模川における取水堰の水理模型実験
神奈川県内広域水道企業団相模原浄水場 場長補佐 富井 正雄・・・・・・
阪神水道企業団における地球環境問題への取り組み
阪神水道企業団尼崎事業所 所長 納庄 秀成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
都市部水需要分析に関する研究
(株)石垣 国際営業部 技術顧問 陳 建湧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
日本の膜ろ過の導入状況と2段MF膜ろ過システム
東レ(株) 高木 亮太、松家 伸行
水道機工(株) 矢田 修平
水道機工(株)研究開発部 課長 ○古屋 弘幸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
日本における浄水場排水処理
月島機械(株)環境プラント計画第1部 グループリーダー ○落合 隆
月島機械(株) 銅谷 陽、山根 陽一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
前処理が膜ろ過に与える影響に関する研究
財団法人 水道技術研究センター 主任研究員 林 野・・・・・・・・・・・・・・
中国の環境関連機器の市場における日系企業の最新動向
上海市政工程設計研究院 沈 裘昌
前澤工業㈱国際部 課長代理 ○黄 建元・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
15
24
29
36
40
44
48
3、2005 年日中水処理技術国際シンポジウム論文集(中国語目次のみ)・・・・・・・・・
53
4、新聞、雑誌、ネット報道・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
57
5、調査先パンフレット・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
67
6、調査写真(DVD-ROM)
ii
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
はじめに
調査団長
(財)水道技術研究センター
理事長
藤原正弘
日中水処理技術国際シンポジウム(第5回)の開催に合わせ、中国の水道施設・技術の
状況について調査をするため、(財)水道技術研究センターが主催して中国水道技術視察調
査を実施した。
第5回日中水処理技術国際シンポジウムは 2005 年 11 月 9 日∼11 日、中国廈門市で開催
された。このシンポジウムは中国土木工程学会水工業分会給水委員会(CWIA)
、中国城鎮供
水協会科学技術委員会が主催し、当センターなど5団体(中国側2団体、日本側3団体)
が協力して行われた。
本シンポジウムは、第1回が 2001 年に上海市で「21世紀における飲料水処理技術の課
題と将来展望」をテーマに、第2回も 2002 年に同じく上海市で、日中国交30周年記念行
事の関連で行われた。第3回は 2003 年に長春市で、第4回は 2004 年に上海市で上海市建
設管理委員会科学技術委員会が主催者となり、同時に、上海市政工程設計研究院50周年
記念行事として「日中水道技術交流会」が開催された。
今までと同様日本からも水道事業体や民間企業の担当者、研究者が参加し講演・発表が
行われた。シンポジウムは成功裏に終了し、次回以降も日中の水道技術の交流促進のため、
引き続きこのような形で開催されていくことが期待される。
この機会に、広州市、廈門市の浄水場、上海市では黄浦江取水プロジェクトを見学する
機会を得た。中国の大都市水道の代表的な浄水場を見学することができたと思う。今回は
大都市水道の浄水場だけを見学したが、広々とした敷地に整然と施設が整備されているき
れいな浄水場であった。採用されている浄水技術もかなり高いレベルにあると思う。
上海市では汚染が進行している黄浦江の原水をできるだけ上流の汚染の少ない地点か
ら取水し、それをポンプアップし導水管で浄水場に導水する大型のプロジェクトを見学し
た。
上海市は経済発展も著しいものがあり、水道原水について水量はともかく水質は問題と
いえよう。高度浄水処理、膜処理などのニーズが高く、日本との技術交流が望まれている。
上海市水道の事業に日本の水道関係企業も何らかの形で関与出来ればと期待している。
日本から16名の参加があり、団員の勉強意欲は旺盛で夜遅くまで議論し、また、和気
あいあいと楽しく有意義な調査を無事終えることができた。ここに調査団を代表して、シ
ンポジウム開催主催者である CWIA 給水委員会の方々や視察先で熱烈歓迎して頂いた関係
各位に厚くお礼申し上げる。
1
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
2
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
第1章
視察調査概要
1. 視察調査目的
中国土木工程学会水工業分会給水委員会(CWIA)
、中国城鎮供水協会科学技術委員会が
主催し、水道技術研究センター(JWRC)が協力する日中水処理技術国際シンポジウムが
2001 年から毎年行われています。今年は第5回目となります。シンポジウムと同時に開催
される中国水道研究発表会に中国国内から学識者、水道事業体及び企業が多数の参加が予
想されています。日中の水道技術の交流のみならず、水道ビジネスを開拓する機会にもな
ると考えております。
今年も、日中水処理技術国際シンポジウム(第 5 回)の開催に合わせまして、中国水道
技術視察調査を企画致しました。調査の主な目的は以下のとおりです。
・ 日中水処理技術国際シンポジウム参加します。中国側の水道技術研究発表から中国
水道技術開発の現状を調査します。
・ 同シンポジウムで論文を発表します。日本の水道技術の開発状況を中国へ紹介しま
す。
・ 中国南部諸都市の水道施設を視察します。特に、日本においては早くから分質給水、
二元給水の概念を提出していますが、なかなか実現できていない現状にあります。
広州市にある中国最大の高度処理浄水場および専用配水管による分質給水、二元給
水の状況を調査します。
・ 中国水道界と技術交流。シンポジウムに参加する中国の学識者、水道事業体、コン
サルタント、企業の方と交流を図る。
3
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
2. 視察調査機関
本調査団は厦門市で開かれる 2005 年日中水処理技術国際シンポジウムに参加したほ
か、上海市建設委員会科学技術委員会が主催する水処理技術報告会に参加し、中国の3都
市の次の機関を視察調査した。
広州市:広州市自来水公司
南洲浄水場
高度処理能力 100万 m3/日
厦門市:厦門市自来水公司
高殿浄水場
浄水能力
上海市:上海市原水公司
松浦原水場 取水能力
上海市政工程設計研究院
60万 m3/日
540万 m3/日
中国都市建設コンサルタント(市政工程設計院)の
最大手、職員 1430 人(2003年)
、売り上げ額:7億元(2003年)(約1
05億円)
4
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
3. 参加者名簿
水道技術研究センターのほか、大学、日本水道協会、水道事業体、浄水処理、排水処理、
電気計装設備企業などから16名参加した。
名簿は表 1-1 のとおりである。
表 1-1 参加者名簿(敬称略)
ID
名前
団長
企業名
(財)水道技術研
藤原 正弘 究センター
副団長
金近 忠彦 横浜市水道局
A 班長
長岡 裕
武蔵工業大学
所属
役職
理事長
水道事業管理
者 水道局長
工学部 都市基盤工学科
助教授
編集部
環境プラント計画第1部 第2グルー
プ
記者
グループリーダ
ー
公共システム技術第 1 部公共プラント
技術第一担当
課長
浄水部相模原浄水場
場長補佐
国際本部国際営業部
技術顧問
B 班員 西田 昭男 荏原商事(株)
金沢支店エンジニアリング部
次長
B 班員 古屋 弘幸 水道機工(株)
研究開発部
課長
尼崎事業所
所長
総務部経理課
課長補佐
C 班員 信友 義弘 (株)日立製作所
情報制御システム事業部社会制御シ
ステム設計部海外システムセンタ
センタ長
C 班員
環境事業本部 国際部
課長代理
浄水技術部
主任研究員
浄水技術部
主任研究員
A 班員 本多 和幸 水道産業新聞社
A 班員 落合 隆
月島機械(株)
A 班員 環 省二郎 (株)東芝
B 班長
B 班員
神奈川県内広域
富井 正雄 水道企業団
陳 建湧
(株)石垣
C 班長
納庄 秀成 阪神水道企業団
(社)日本水道協
C 班員 瀬川 定良 会
事務局
事務局
黄 建元
前澤工業(株)
(財)水道技術研
三井 康弘 究センター
(財)水道技術研
林 野
究センター
5
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
4. 視察日程表
視察日程を表 1-2 に示す。図 1-1 は訪問都市の地理位置を示す。
表 1-2 視察日程表
日次
1
月 日
(曜)
発着地/滞在地名
東京(成田)
州
日(土) 広
広
州
桂
林
11 月 5
発
着
発
着
発
着
交通機関名
現地時刻
09:50
13:25
17:30
18:30
摘
要
N H -9 2 3
空路、広州経由桂林へ
C Z -3 2 9 2
専用バス
到着後、ホテルへ
(桂林 泊)
2
11 月 6
日(日)
3
4
滞在
11 月 7 桂
日(月) 広
11 月 8
日(火)
5
桂林
桂林市内水関連事情視察
林
州
広
厦
州
門
(桂林 泊)
発
着
発
着
09:30
10:25
午 後
C Z -3 2 3 5
専用バス
18:05
19:10
C Z -3 8 0 5
専用バス
●業務視察
○広州市南洲浄水場視察(広州 泊)
11 月 9
日(水)
桂林→広州へ
広州→厦門へ
(厦門 泊)
●日中水処理技術国際シンポジウム
厦
門
滞
在
: 開会式、基調講演(中国側)、
終 日
特別講演((財)水道技術研究セ
ンター 藤原 理事長)
: 分科講演(日中各発表者) *
通訳付き
(厦門 泊)
6
11 月 10
●第 10 回中国全国水道研究表会
日(木) 厦
7
門
滞
在
中国側発表
終 日
(厦門 泊)
午 前
11 月 11
●業務視察
日(金)
○<厦門市高殿浄水場等視察>
厦
門
滞
在
● 日 中 水 処 理 技 術 国 際シ ン ポ ジ ウ
午 後
ム: 技術発表会(日本側) *通訳
付き: 閉会式、懇親会
(厦門 泊)
6
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
表 1-2 視察日程表(その2)
日次
8
月 日
(曜)
発着地/滞在地名
摘
要
11 月 12
日(土) 厦
杭
9
発
着
交通機関名
現地時刻
門
州
発
着
07:30
08:35
MF8525
専用バス
資料整理
州
海
発
着
午 前
午 後
専用バス
専用バス
杭州→上海へ
(杭州 泊)
11 月 13
日(日) 杭
上
●業務視察
○黄浦江上流取水プロジェクト等視
察
(上海 泊)
10
11 月 14
日(月) 上 海 滞 在
午 前
専用バス
●業務視察
○上海市建設委員会科技委員会講演
上 海 発
東京(成田)
着
発
着
16:35
20:20
N H -9 6 0
会
上海→成田へ
成田着 解散
写真 会場のホテル前の団員たち(16 名)
前列左から:環 省二郎、黄 建元、富井 正雄、長岡 裕、藤原 正弘、金近 忠彦、西田 昭
男、落合 隆、三井 康弘
後列左から:林 野、陳 建湧、本多 和幸、納庄 秀成、信友 義弘、古屋 弘幸、瀬川 定良
7
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
上海市建設委
松浦原水場
日本へ
日本より
厦門市国際シンポ
高殿浄水場
広州市南洲浄水場
図 1-1 訪問都市の位置
8
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
第2章
シンポジウム・視察調査報告
1. 広州市南洲浄水場について
A班: ○武蔵工業大学
長岡 裕
水道産業新聞社 本多 和幸
○月島機械(株) 落合 隆
(株)東芝
環 省二郎
1.はじめに
広州市は、広東省中部の南海に面した珠江デルタの中央部に位置し、人口は約 994
万人(市街地約 853 万人、国勢調査人口)
、面積は約 7,435k㎡(市街地約 3,719k㎡)
である。 気候は、亜熱帯モンスーン気候に属し、年平均気温は 21.7℃、年間降水量は
1,982.7 ㎜、平均湿度は 77%で、日照時間が長く、四季を通じて緑が豊かで花々が咲き
乱れ、
「花城」とも呼ばれている。
2200 年を超える歴史や文化を誇る
中国でも有数の古都であり、西暦 226
年に呉の孫権が合浦郡以北を分割し
て広州としたことからその名を得
た。遠く秦代から中国の南の玄関口、
そして「海のシルクロード」の出発点
として嶺南地区の政治、軍事、経済、
文化の中心地として栄え、中国の南大
門として広く知られており、中国南方
の重要な通商都市、交通の要衝、港湾
都市であり、華南地区最大の国際的貿
易港として、世界の国と地域に通じて
写真1 広州市を流れる珠江
いる.。国際文化都市として、福岡市
をはじめ 10 カ国 10 都市と友好都市を締結し交流を行っているほか、大分市をはじめ
23 カ国 34 都市と友好的な交流を行っている。
2.広州市水道概要
広州市の水道は年間 13 億m3 という恵まれた降水量を背景に、約 100 年の歴史がある。
現在の浄水能力は、7 つの浄水場を合わせて日量 448.5 万 m3 である。南洲浄水場に高度処
理を導入しているが、残りの浄水場全てに高度処理を導入し、水質の改善をしていく計画
である。コンピュータで管理する水質分析と測定の施設はほぼ完成しており、今後は管網
の整備に投資し、ユーザーの出口まで水質を監視する計画である。
○執筆者または発表者、以降同様
9
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
2.南洲浄水場
南洲浄水場は、広州市の浄水場の中で一番規模が大きく、2004 年 9 月 30 日に試運転を
した、美しい庭園と調和したデザインの新しい浄水場であり、市財政および銀行からの借
り入れ金によって建設された。設備規模は 100 万トン/日で、現在ほぼ設計能力どおりの運
転をしている。水源は広州市を流れる珠江であり、浄水場より 26km上流で取水し、2.2
mの導水管 2 本により導水しており、水質は
それほど悪くない。処理方式は凝集沈澱ろ過
+オゾン+活性炭である。処理水の基準は、
中央政府建設省の基準(EU の水質基準と類
似)を満足するようにしている。また、市民
に飲料用水と生活用水を 2 種類の系統で送
水することを計画している。具体的には、近
隣の大学センターへ飲用水の供給がある。
[浄水工程]
原水 → 前オゾン処理 → 排水池 →
写真2 南州浄水場管理棟前で
前塩素 → 硫酸pH調整 →
沈澱池(8 列、長さ 120m横流式)→ 砂ろ過 → 後オゾン → 粒状活性炭(48 列) →
後塩素 → 配水池
[汚泥処理工程]
濃縮槽 → 遠心脱水 → 埋め立て
※案内してもらえなかった
[コントロールパネル]
・ 取水−導水−浄水場に関する数値の掲示が主体であり、水の流れが点滅表示されてい
るだけで、ポンプ・バルブ等のシンボルが無いグラフィックパネルである。取水ポン
プは 6 台で 2 本の導水管で導水されている。
・ 操作卓デスクは見学させてもらえなかった。また、写真撮影も禁止であった。
・ 原水状況 濁度:19.59NTU、pH:7.25、流量:40,293m3/h、圧力:0.236MPa
・ 浄水状況 濁度:0.072∼0.089NTU、pH:0.56∼0.89、残留塩素:2.42∼2.4mg/L
活性炭層出口における微粒子数:45∼52 個/mL
昨日の送水量:810,250t、
浄水を試飲したが、温度が高いわりには、まずまずの味であった。
[フロック形成→沈澱池]
・ 凝集剤:PAC、迂流式のフロック形成池
・ 沈澱池は 2 層構造(上層:沈澱池、下層:配水池)、長さ 120m、傾斜板無し、8 列
・ スラッジはサイフォン式吸引機により移動させながら排出
[ろ過池]
・ ろ層圧:1.2m、ろ速:8m/h
・ 35 時間サイクルで逆洗(エアレーション併用)
、表洗はなし
[活性炭層]
・ 生物活性炭となっている、ろ層厚:1.8m∼2.0m、逆洗: 1 週間に 1 度程度
10
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
・ 交換については実績がないが(まだ運転して 1 年)、寿命は3年―5 年なので、そのと
きに交換するか再生するかを検討する。
[オゾン処理]
・ オゾン注入率:1.5mg/L
・ 出口オゾン濃度:0.2mg/L
・ 排オゾンは熱処理(350 度)により処理
し 0.1ppm 以下とする
・ 活性炭層に入るまえにオゾンは吸引し、
処理している。
3.質疑応答
写真3 団長・副団長が試飲中
施設見学後、日中双方より活発な質疑応答
がなされ、予定時間を大幅に超過するほどであった。質疑応答の内容を以下に記す。
[日本側]
質問:2 重配管の詳細を教えてほしい。
回答:2000 年∼2002 年に通常の建設がされた。2002 年に広州市市政計画により、市政府
の指示により大学センターに供給することになった。高度処理の建設により、中国
建設省の基準以上の水質を達成し、これを新しい大学に供給するために新しい管網
を建設した。大学センターの建設により 2 次元給水が建設された。高度処理は飲料
水供給システムに入っている。他の地区には、高度処理水と他浄水場の通常処理水
がミックスされている。
質問:高度処理の導入による水道料金の値上
げは?
回答:今は通常処理のみでも高度処理でも同
料金で 1.2 元/m3 であるが、大学セン
ターのように 2 重配管し たところ
は、2 倍の料金を請求したい。
質問:オゾンを 2 回かける意味合いは。
回答:前オゾンは、藻類対策と微生物(大腸
菌)対策の意味である。また、消毒副
写真4 日本側
生成物の生成を抑制するために、塩素
よりも良いと考える。後オゾンは、通常のオゾン+活性炭の組み合わせの意味であ
る。
質問:日本では、臭素酸濃度を 2μg/L を超えないようにしているが?
回答:基準は 10ppb だが、現在の水質は 2ppb である。
質問:オゾン活性炭における活性炭の再生などの管理は?
回答:5 年から 7 年が通常の活性炭の寿命である。われわれはまだ 1 年しかたっておらず、
経験がないが、再生よりも交換のほうが安いと考えている。
11
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
質問:後オゾンの後、活性炭池に入る前に残留するし、活性炭池でも飛散する。通常日本
では、すべて排オゾンは処理するが、こちらはオープンであるが?
回答:国内の基準では、人に対する残留オゾンは 0.1ppm 以下であるが、問題はないと考
える。皆さんが訪問したときもオゾンをほとんど感じていないと思う。
※排オゾン処理棟内ではオゾン臭が強く感じられた。
質問:活性炭池の後の微粒子カウンターの数値があったが、
どのように管理しているのか?
回答:1つは濁度に関する 2 重の管理という意味、もう一つは処理水の濁度を管理すると
いう意味がある。
質問:南州浄水場の玄関で高度処理した水を飲んだが、大変おいしく、あのような水を市
民全員が飲めるといいのだが、私たちのホテルの水はまずい。何か理由が考えられ
るか?
回答:この浄水場は広州市の南に位置し市の南部に給水しているが、ホテルは北部地区で
別の浄水場の水が給水されている。
質問:広州市での水道料金の徴収方法は?
回答:水道局の営業所に 2 ヶ月に 1 回行って支払う方法と、口座振替の方法がある。
質問:用途別でマンションに供給している高度処理水は将来増量されるのか?
回答:飲み水などは 1 人 1 日 60L の使用量であるが、全体では 300L 以上なので、今のま
までは不足する。他の浄水場も順次改造し高度処理にしたいと考える。
[中国側]
質問:日本では、オゾン・活性炭のあと微生
物 は計測しているのか?
回答:微生物のリークが出ないようにする
か、出てもいいようにしている。
質問:日本の、浄水場出口の濁度管理は。
回答:0.1 度である。
質問:日本での配水配管材質は?
回答:パイプの材質はほとんどがダクタイル
鋳鉄管で、横浜市でも 80%がダクタイ
写真5 中国側
ルである。
質問:日本全国の高度処理の%と具体的なプロセスは?
回答:日本全体では、大都市のみで高度浄水をしている。大雑把に言って、大阪方式と東
京方式がある。浄水量に関するデータは今は無いが、詳細はアモイで発表する予定
だ
質問:前オゾンと後オゾンであるが、日本での添加方法を教えてほしい?
回答:阪神水道では、オゾンは 0.25mg/L になるようにフィードバック制御している。最
大で 3ppm の添加率である。横流式では、散気管で、Uチューブもある。
質問:日本での管路内の水質管理の技術は?
12
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
回答:管路内の水質管理は、残留塩素管理が中心である。濁質沈降に関しては、洗管も実
施する。
質問:日本では、どのようなメーカーのオゾン発生器を使っているか?
回答:三菱電機、富士電機などが多いが、外国製も使っている。
質問:日本でのオゾン発生器の冷却水の濃度と管理は?
回答:塩化物の制御のことと思うが、
(中国は硬度が高い)
、日本は軟水なので特に制御し
ていない。
質問:東京の市民は普段蛇口の水を飲みますか?みなさんが飲まれた水と東京の水を比べ
るとどうでしょうか。
回答:東京の人は水道の水を飲むが、ペットボトルをスーパーマーケットで購入し、飲む
こともある。水質的には水道水とボトル水はほとんど同じであるが。ここの水と東
京の水は味の比較はいい勝負と思う。あの水が蛇口をひねれば出るということであ
ればいい。
写真6 横流沈澱池
写真7 活性炭ろ過池
13
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
2.
厦門日中水処理技術シンポジウムについて
B 班 神奈川県内広域水道企業団
富井
○(株)石垣
荏原商事㈱
○水道機工(株)
正雄
陳 建湧
西田
昭男
古屋 弘幸
中国土木工程学会水工業分会(CWIA)等が主催、
(財)水道技術研究センター、水道産業新聞ほかの協
力で「2005年日中水処理技術国際シンポジウム」が、
11月9日から11日まで中国福建省厦門市(アモイ)で
開催された。また、中国の第10回全国水道研究発表
会と併設されたシンポジウムには日本から16名が参
加し、中国各地からの参加者は100名を越えた。急激
な発展に伴う水道水源の汚染、水不足に悩む中国
は、日本の水道技術に深い関心を寄せている。
○主催・協力
CWIA、中国城鎮供水協会科学技術委員会、JWRC 等
○会議期間
05/11/09∼05/11/11
○会議場所
中国福建省厦門(アモイ)市 厦門賓館
○参加者
日本側 16 人
中国側 約
100 人
1)中国福建省厦門(アモイ)市(会場)
厦門(アモイ)市は、五つの経済特区の一つであり、省レベルの経済管理権限を与えら
れている都市の一つでもある。アモイは有名な華僑の故郷の一つで、現在、海外に居住し
ているアモイ出身の華僑は 35 万人ほどといわれている。
総面積は 1565 平方キロメートルで、海域面積は 300 平方キロメートル以上で、国際的
な港都市でもある。
全市総人口は約 150 万人で、そのうち都市部の人口が 60%以上を占めている。
2)参加メンバー
中国側は、中国科学院の院士、大学の教授をはじめ、水道事業体の実務経験者や、研
究所の研究者、設計会社のエンジニア等、いわゆる官、学、民の精鋭達の集まりである。
日本側の参加者は水道技術センターの藤原正弘理事長が団長に勤め、横浜市水道事業管
理者金近忠彦局長を副団長として、武蔵工業大学の長岡裕助教授ら、16 名が参加した。そ
のうち発表者は 8 名である。
14
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
(写真は会場の厦門賓館で一部の参加者の記念写真)
3)開会式
11月9日 AM8:30 からシンポジウムの開会式が行われ
た。
開会式には、
シンポジウムの
主 催 者 体 表
CWIA 給水委員
会委員長戚盛豪
先生の挨拶をは
じめ、開催地代
表である厦門水
務集団有限公司
の鉄志毅、陳慶
児ら幹部は挨拶を行った。その後、来賓の代表挨拶として水道技術研究センターの藤原理
事長が行った。
15
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
(写真は開会式で藤原理事長が挨拶する様子である。右上は CWIA 給水委員会委員長戚盛
豪先生)
4)講演内容
○基調講演
「過マンガン酸カリウム及びその複
合剤を用いて、飲み水の汚染除去技術」
中国科学院院士
ハルビン工業大学教
授 李 圭白
中国の水道は厳しい水源汚染に直面
している。我々はこれを水質災害と言
っている。今後は、流域単位での水源
の修復と浄水処理での対応が不可欠で
ある。
浄水処理としては、新型の凝集剤の
積極的な採用、投入量の制御、微粒子
計を用いて濾過水の濁度管理等従来浄
水方法の改善とともに、膜処理のような最新処理技術の利用がこれから中国浄水処理の主
流となる。
最後は、末端蛇口の水質を向上させるため、水源、浄水場、配水管網等一連の水道シス
テムとしての整備が欠かせない。特に浄水場での水道水の安定性処理と老朽管路の更新、
整備が当面の課題である。
○特別講演
「日本における浄水技術開発の最新成果」 (財)水道技術研究センター理事長
正弘
日本の産官学が英知を結集して取
り組んだ国家的プロジェクトである
ACT21,eWaterプロジェクトの概要と
成果を紹介した。特に、e−Waterプロ
ジェクトの大容量膜ろ過技術の研究成
果から、膜ろ過技術は高嶺の花ではな
いことを強調した。また、水道水源の
監視技術に関する研究結果から、水道
の弱点である水源水質リスクに迅速な
対応が理論上は可能であることを説明
16
藤原
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
した。e−Waterプロジェクトの次のプロジェクト取り込みも概略説明した。
最後に、「研究の成果はオープンにしている。中国でも使える技術が多々あろうかと思
う。今後とも友好関係を深めたい」と結んだ。
○分科講演
「水道事業への業務指標活用について」
-水道事業ガイドラインの活用横浜市水道事業管理者
水道局長・金近
忠彦
「水源水質別の浄水高度処理技術について」
清華大学教授・王
占生
「浸漬型 PAC-MF 複合プロセスの微汚染水に対する処理効果」
ハルピン工業大学教授・于
水利
「浄水場排水の回流の最適化とその安全性についての研究」
厦門水務集団有限公司・費
霞麗
「除鉄、除マンガンの生物濾層の最適な厚みを求めるに関す
る研究」
清華大学
環境科学とエンジニアリング学部・李
17
冬
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
「江戸川をモデルとした水道水源異常水質予測システムの構
築」
武蔵工業大学助教授・長岡 裕
5)発表セッション
午後は、日本側の発表セッションが行われた。日本側の論文発表は以下の6編ある。
①
相模川における取水堰の水理模型実験
神奈川県内広域水道企業団
②
③
④
⑤
⑥
富井正雄
阪神水道企業団における地球環境問題への取り組み
阪神水道企業団
納庄秀成
㈱石垣
陳 建湧
都市部水需要分析に関する研究
日本の膜ろ過の導入状況と2段MF膜ろ過システム
水道機工㈱
古屋弘幸
月島機械㈱
落合 隆
日本における浄水場排水処理
前処理が膜ろ過に与える影響に関する研究
林
(財)水道技術研究センター
野
発表直後の質問としては、神奈川県内広域水道企業団の富井氏には、事業体の活動内容
や模型実験に関する条件についての質問、石垣の陳氏には、中国における水需要予測に対
するコメント要求、月島機械の落合氏には、日本国内での脱水機の方式別の普及状況につ
いてなどがあった。
また、時間的な都合もあり、発表直後には出されなかった質問については、セッション
の休憩時間を利用して同会場内で活発な討議が行われていた。
6)
パネルディスカッション
発表セッションの後に、日中の代表によるパネルディスカッションが行われた。パネラ
ーは以下のとおり。
<パネリスト>
中国側・・・
日本側・・・
中国土木工程学会水工業分会給水委員会
戚 盛豪
中国城鎮供水協会科学委員会
宋
同済大学
許 建華
(財) 水道技術研究センター
藤原正弘
18
仁元
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
横浜市水道局
金近忠彦
月島機械㈱
落合 隆
パネルディスカッションの中では、日中の技術交流の必要性、交流を深めるにはどのよ
うな方法があるか、また今後解決すべき問題などについて協議を行った。
藤原氏からは、日本の高度成長期における水道技術の発展と、現在の中国のめざましい
発展を重ね合わせ、原水水質の違いやコスト的な問題こそあれ、日本の技術は中国へ積極
的に投入していく必要があるとの見解を述べた。また、今後の更なる発展を期待すると述
べた。
宋氏からは中国の実情を述べ、浄水処理の強化、地方への取り組みなど残っている課題
に対し、日本との連携が必要と述べた。また、技術交流のみならず、資本投資や株式の保
有、設計や維持管理などでも協力できていければよいとの見解を述べた。
金近氏からは、地域の事業体としての水道のあり方を述べ、また、これまでの横浜市に
おける国際交流について、上海市との交流事例を挙げた。また、これまでの交流が一方的
であったので、今後はお互いに学ぶ姿勢が必要であると述べた。
戚氏からは、現在の中国水道の普及状況についての説明と、今後の更なる発展を目指す
国内の姿勢について述べた。現在、中国国内の水道も水質基準の強化により、水道水質が
向上しているとの報告がなされていた。また、これまでの日本企業との交流について説明、
今後もこのようなシンポジウムを通じて共通点を見いだしていきたいと述べた。
落合氏からは、メーカーとしての中国への取り組みを説明し、今後は中国との情報交換
を多くしていくことが必要と述べた。また、今後は安価で高性能な装置が求められていく
のは確かだが、環境対策には費用がかかることを理解する必要があると述べ、LCCやL
CAの観点からの考慮も必要と述べた。
許氏からは、有機物汚染についての研究に関し、生物前処理の有効性について述べた。
これらの研究に関して、日本の小島貞男先生との長年にわたる技術的な交流をについて説
明を行った。
質疑の部分では、中国側より、農村部における水道の普及に対し、日本の技術的な経験
についての説明を求められた。これに対しては藤原氏より、日本の簡易水道および小規模
の普及率を説明、そしてこれらが水道普及率の向上に大きく貢献していることを説明し
た。また、これらの普及率向上に関しては国の補助が深く関与していると説明した。
また、現在の日本国内の問題点については、①水道技術者の不足、②地方中小事業体の
財政難の2つを挙げ、①には膜が有効であること、②については補助制度の拡充で対処す
ることが考えられると回答した。
19
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
3. 厦門市高殿浄水場について
B 班 ○神奈川県内広域水道企業団 富井 正雄
(株)石垣
陳 建湧
荏原商事㈱
西田
昭男
水道機工(株)
古屋
弘幸
1.はじめに
廈門市は、中国の東南沿海にある美しい
海と緑につつまれた海浜観光都市で、中国
の経済特別区の1つに数えられており、省
都の福州に次ぐ福建省第2の都市である。
(戸籍人口 137 万人,常駐人口 205 万人 2003
年)中国有数の貿易港としても、また華僑
の投資によっても栄えており、中国国内で
も観光リゾート都市として有名である。高
殿浄水場はシンポジウムに参加した中国の
技術者とともに視察調査を行った。
写真 1 中国の技術者との共同視察
2.廈門市水道の概要
1926 年に当初
5,000m3/日規模から始ま
った。
1950 年代に3つの浄水場を建設した。
1978 以降、中国における経済特区になって
新しい浄水場を建設し、現在市全体で6つ
の浄水場があり、あわせて 100 万 m3/日の処
理を行っている。
20 世紀の初頭、水源水質は良好であっ
た。処理フローは従来から凝集沈澱+砂ろ
過方式で設備の自動化の改良を行ってきて
いる。
写真 2 管理本館中庭の水質監視池
国の水質基準に対して、99.9%適合し
ている。近年、都市開発が進み、人口の増加等で原水水質が悪化してきている。また、国
の水質基準も厳しくなってきた。現在の処理水質水準を維持すべく日々努力をしている。
3.高殿浄水場
高殿浄水場は、廈門市で最も大きな浄水場で現在 600,000m3/日の処理量である。これま
で3次にわたって拡張を行ってきている。
20
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
1次 1982∼1984 年
60,000m3/日
2次 1989∼1992 年
240,000m3/日(増設)
3次 1996∼1997 年
300,000m3/日(増設)
主要な設備は海外から導入している。フランスの設備を導入していたが近年は日本製設
備が入ってきている。
水源は2つで 50km 先から導水している。導水施設の1つは当初、開渠で汚染物質が流
入するため暗渠に改良した。もう1つは当初より暗渠で布設してある。
原水濁度は、普段は 30∼40NTU で、凝集剤にはPACを使用している。凝集剤の使用
量が少なく 5ppm 程度である。フラッシュミキサーはなく、水車式のラインミキサーで混
和している。
フロック形成池は機械的攪拌装置を用
いず、上下迂流式を採用している。また、
沈澱池は、傾斜板を用いない横流式沈澱
池である。スラッジのかき寄せ装置はな
く、サイホンを用いて排出している。サ
イホンを用いて排出するため、沈澱池の
池状構造物を地上においたように突出さ
せ排水路を沈澱池両サイドに設置してい
る。(写真
3)サイホンは、沈澱池の躯
体上部に設置したレールの上に設置さ
れ、1日1回の頻度で沈澱池縦断方向を
写真3 フロック形成池と横流式沈澱池
往復している。
急速ろ過池は、(写真
4)砂ろ過でろ
過速度は6∼8m/h(144m/日∼192m/日)
で運用している。洗浄間隔は 20∼24hr で
エアレーション洗浄を用いている。ろ過
池躯体の内壁は、日本では少ないタイル
張りである。また、沈澱池は屋外にある
が、ろ過池には屋根を設置されており、
雨水混入や日照による生物の発生を防い
でいるものと思えた。
浄水濁度は、常時 0.1NTU 未満、国内
写真 4 急速ろ過池(屋根付)
トップレベルの水準である。各行程での
濁度は、原水 30∼40NTU→沈澱池出口 2NTU→ろ過水濁度 0.1NTU 未満
逆洗排水の一部は、低濁度時に原水に返送して沈澱フロック形成の核に利用して凝集不
良の改善を図っている。
塩素消毒を用いて残留塩素は、0.8∼1.0mg/L
排水処理設備は特なく、沈澱池排泥、ろ過池洗浄排水は直接河川に放流している。
21
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
近年の浄水場における課題は、原水水質で農薬及び微量有機物質が多くなり、臭いと味
に問題が発生している。また、水源域の市街化が進み汚染物質の増加とともに人口増加に
伴う処理能力が追いつかない状況である。
凝集剤の混和方式、フロック形成池の方式、沈澱スラッジの排出方式などは、きわめて
維持管理におけるメンテナンスフリー
を目指した方式と言える。
高殿浄水場を視察しての感想は、
原水濁度に対して凝集剤注入量が少な
いと同時に適正な混和が行われていな
いため、フロックの形成が十分でない
ように思われた。しかし、池状構造物
の内面タイル張りは施設建設時の初期
投資は大きいが耐久性の面からは有効
な手法であり、また沈澱スラッジのサ
イホンを用いた排出は、維持管理時の
写真 5 場長(左)と金近副団長(右)
経済性に配慮した設計で参考になった。
22
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
4. 上海市松浦原水場について
C班:○阪神水道企業団
1.
納庄秀成
日本水道協会
瀬川定良
㈱日立製作所
信友義弘
前澤工業㈱
黄
建元
はじめに
上海では、都市発展に伴い急増する水需要に対応するため、その水源開発として、黄浦
江上流から取水して上海まで水道用原水を導水するプロジェクトが実施された。実施主体
は、上海市原水股份有限公司で、黄浦江や長江から取水した原水を上海市内の水道会社に
供給している。今回、視察したのは、原水取水場のひとつである松浦原水厂である。
2.
上海市原水股份有限公司の概要
公司は、1992 年、上海市水道の原水施設と月浦の長江取水部を基盤として、原水を上海
市の水道会社に供給する企業として上海市建設委員会により設立された。現在の施設能力
は 630 万 m3/日であり、上海市のすべての水道会社に原水を供給している。
水源は、長江と黄浦江で、長江系と黄浦江系あわせての原水供給能力は、当初 250 万
3
m /日であったのが、拡張工事により、1998 年には、630 万 m3/日となり、現在も増設計
画がある。施設の建設資金は、株式市場から 3 度の増資により約 31 億元(RMB)が調達され
た。
黄浦江、長江、松浦の 3 箇所の原水厂があり、管渠により上海市内の 15 箇所の水道施設
に原水を供給している。なお、料金は、1 m3 当たり 0.3∼0.4 元(1 元:約 15 円)である。
3.松浦原水厂の特徴
松浦原水厂は、黄浦江から取水す
る主力の原水取水場であり、1期工
事は施設能力 230 万 m3/日の施設と
して 1987 年に完成した。その後、増
設により 1997 年に 540 万 m3/日の
施設能力となった。
原水取水場の敷地は川に隣接して
ある。取水管(φ3000×4本)は地
中から川に突き出す形で設置されて
おり、水深4mに設けられた取水口
(φ8000×4本)からサイフォン作用
により場内の受水池に水を引き込ん
写真1
23
調整池外観
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
でいる。取水口の周囲は、川を行きかう船から取水口を保護するため鋼製の防護柵が築か
れている。
受水池に入った水は、大型
の斜流ポンプ(23,400 m3/h×
揚 程 16.5 m × 1,400Kw × 12
台)で、高所の調整池に送ら
れ、そこでばっ気処理を行っ
たのち、自然流下でRCの導
水渠(3.75m×3.25m×4条)
に流される。最も遠方の導水
先は約40kmの距離があ
る。
原水は、かなりのにごりが
あり、水質的にも良好とは言
えないようである。水質改善
写真2
のため、ばっ気処理だけでな
揚水ポンプ
く、生物担体を設置することも検討中とのことであった。
松浦原水厂の従業員数は52名で、夜間・休日は5名で運転管理されている。原水水質
の危機管理として、原水を通した水槽に魚を飼うことで原水の安全性を監視している。
4.
おわりに
中国では各地で慢性的な水
道水量の不足状態が続いてお
り、単に浄水場などの水道施
設の整備が遅れているという
ことだけではなく、水源の確
保が深刻な問題となってい
る。水源確保においては、質
にも考慮が必要で、遠方の汚
染されていない良好な水源か
ら原水を引いてくるか、環境
保全に力をいれて水源水質の
写真3
黄浦江取水口
向上をはかるか、あるいは、
浄水処理技術によって対応するかの選択肢があるが、総合的な観点で考え、ほかのインフ
ラ整備との整合性もとっていかなければならない。現在の問題点として、昔、自由に埋設
した管渠が都市開発の支障となっていると聞いた。先を見通した計画が必要なことはいう
までもないが、めざましいスピードで社会は大きく変貌しつつあり、これだけの変化に適
切に対応していくことは並大抵のことではないと感じた次第である。
24
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
日本では、量的にはほぼ充足
しているとはいえ、質的な面や
経営基盤強化の必要性から広域
化を進めていかざるをえない状
況にあり、また、人口が減少し
ていく中での水道施設の再構築
を考えるにおいて、日本にはな
い水道用原水の広域供給という
事例は参考となる。
松 浦 原水 厂 の見 学に お いて
は、場長の王さん自ら丁寧にご
案内いただいた。感謝申し上げます。
写真4
25
調整池内部
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
5. 上海市建設委員会講演会について
C 班:
阪神水道企業団
納庄秀成
日本水道協会
瀬川定良
(株)日立製作所 信友義弘
○前澤工業(株)
黄
建元
1.報告会概況
2005 年 11 月 13∼14 日にかけて上海に滞在し、上海市における水道事情に関する調査な
らびに原水取水源を視察し、また上海市政工程設計研究院にて「藤原正弘博士報告会」と
いう名義で特別報告会を行った。
報告会に参画された上海側のメンバーは、以下のとおりである。
上海市建設与交通委員会科学技術委員会:徐 君倫
厳 炯偉
上海市政工程設計研究院:湯 偉
副主任兼秘書長、
研究開発部 副主任、
院長、
王 育
副院長、
張 辰
総工程師(技術統括本部長)
、
戚 盛豪 資深高級工程師(前・総工程師)、
沈 裘昌 副総工程師(水道技術本部長)
、
「水道事業」分院の各院長、総工程師ら、
天津・中国市政工程華北設計研究院:徐
国勳
上下水道研究所副総工程師、
同済大学教授生徒や上海市「市北水道」
、
「市南水道」など参加者ら約 150 名。
2.「藤原正弘博士報告会」内容
開会式では、座長・沈裘昌副総工
程師と、主催者を代表して湯偉院長
および徐君倫秘書長がそれぞれ挨拶
し、調査団を歓迎した。
続いて藤原理事長が国の水行政の
所管や民間委託の現況、水道法の概
要など、日本の水道事業に関する基
本的な事項を説明した後、高度浄水
処理の導入状況を説明。中国では最
近、大都市を中心に高度処理の浄水
場が増えているという事情もあって
写真 1 報告会演壇
か、中国側の参加者も熱心に耳を傾け
た。このほか、膜ろ過の導入状況や e-Water の研究成果など、最新の浄水技術についても
詳しく解説した。
26
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
また、上海は 2010 年に万博の開催
を控えインフラ整備が急速に進んで
いるが、藤原理事長は今後の上海の
水道整備についても提言を行った。
高度処理の推進や万博会場への高品
質専用水道管の布設など、日本の愛
知万博との比較を交えながら具体的
なアドバイスを送った。
加えて、調査団の副団長を務めた
金近忠彦・横浜市水道事業管理者も
当日急きょ講演を行うことになり、
水道事業ガイドラインのPIについ
写真2
報告会会場
て、そのコンセプトや横浜市の取り組
みを説明した。また来年開催予定されている「横浜市国際水道技術シンポジウム」も PR
した。
3.報告会の主催者とは
「上海市建設与交通委員会科学技術委員会」
は建設管理委員会内のシンクタンク組織であ
り、
「上海市政工程設計研究院」
は都市開発やインフラ整備における各種のコンサルタント
業務・研究を行う機関である。
2004 年 11 月 24 日に上海で(財)水道技術研究センターと上海市政工程設計研究院との
協力協定が調印され、また藤原理事長が科学技術委員会の海外技術顧問に招聘された。
4.その他
今回視察団の活動の締めくくりとし
て、14 日主催者より「昼食・送別会」
が行われ、上海市水務局沈依曇副局長
(水道事業担当)が視察団全員と名刺を
交換し、今後交流における熱い議論を
繰り広げた。
5.感想
「2005 年中日水処理技術国際シンポ
ジウム(アモイ)
」は、新世紀に入って
今回で 5 回目を迎えた。年に一度、2
∼3 日間開催されるこのシンポジウム
写真3
沈・上海市水務局副局長と金近副団長
は、2001∼2005 年の 5 年間という短期間の開催にもかかわらず、水処理技術を通じた日中
の国際交流という視点から十分な成果をあげている
27
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
中国では、2020 年中国都市化目標による水道量の拡大と質の向上が見込まれ、また、施
設の更新時期を迎えている。本シンポジウムのために派遣された視察調査団が、このよう
な中国という巨大なマーケットに対する、日本側の総合的な取り組みの必要性を再確認で
きたことは、今年の一つ重要な成果である。
しかしながら、近年、民間の世論でも日中関係の「政冷経熱」が盛んに議論されており、
このことが中国市場を巡る日本企業と欧米企業との競争にどのような影響をもたらすかも
注目される。したがって、技術交流を進めるに当っていくつかの課題が提起されたが、そ
れだけではうまく進むとは限らない。技術交流を進める上での日中双方での課題およびそ
れを乗り越える為の方策について、どのように考えればよいか。さらに、交流は双方にと
ってメリットが無いと継続しないこと、今後も情報交流を積極的に進めること、日中が前
向きに努力することなどを結論として導けば、短期間での交流の成果をあげることができ
ると考える。
最後に、視察中よく聞かれた金近局長自ら中国語での「明年、横浜、再見!」という言
葉より、シンポ・報告会の通訳担当として、生涯を通じて形成されている教養・価値観・
感性などによって、考える力・感じる力・表す力の基盤となる新しい専門知識を「再充電」
する必要があると感じた。
28
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
第3章
訪問都市について
1. 桂林
水道産業新聞社
本多 和幸
午前7時 50 分成田空港に集合予定だった初日、途中合流の長岡先生、古屋さん、陳さ
ん、黄さんを除く 12 名が時間通りに無事顔をそろえました。空港でのささやかな結団式を
終え、一行は成田発9時 55 分の NH923便に乗り込み、まず広州に向かいました。そこ
で桂林行きの中国国内便に乗り換えるわけです。
5 時間後、広州新白雲国際空港に到着。2004年8月にオープンした新しい空港で、
非常に広大なスペースを持っています。これまで広州の空の玄関口だった旧白雲空港と比
べると、敷地は 10 倍、建築面積は4.6倍だということ。飛行機からターミナルまでのバ
スからもそれは十分うかがえました。中に入っても、その広さに驚かされます。
ここで長岡先生と合流。乗り換え時間は3時間ほどの余裕がありましたが、旅の最初と
いうことで念のために搭乗手続きを早めに済ませます。桂林行きの飛行機CZ3292便
は 17 時 25 分発、到着予定時間は 18 時 30 分でしたが、なんと実際は 18 時 5 分には到着し
てしまいました。着陸も非常に荒く、空軍を退役して旅客機のパイロットになる人が多い
という話でしたが、なるほどと思わせる操縦ぶりでした。
桂林は亜熱帯に位置しますが、到着したこ
ろには真っ暗。空港ターミナルはライトアッ
プされ、その日本とは全く違う色彩感覚に、
外国に来たことを実感します。ピンクや紫な
ど、日本的な感覚では不健全な(?)場所で
よく見られる色の光が建物を包んでいるのが
印象的です。ここで合流したのが桂林での現
地ガイド、朴さん。この方は非常に印象深い
人物で、この旅の期間中、ことあるごとに調
写真 1 桂林空港
査団メンバーは彼を思い出すことになりまし
た。
桂林の最初の印象は、とにかく「暑い」の一言に尽きます。調査団メンバーは、寒さ対
策を第一に考えて準備してきた方がほとんどだったため、体温調節には苦労しました。事
前にこうした気候がしっかり分かっていれば、皆さんもう少し荷物が少なくても良かった
かも知れません。
街の中華料理屋で食事をした後、いくつかのグループに分かれて行動。私は「徒歩で市
内散策」のグループについていきました。それほど大きな都市ではないのですが、中心部
は街の至る所がライトアップされており、なかなかきれいです。なかでも、双塔という小
29
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
さな湖に浮かぶ2つの塔は一際美しく、メン
バーもしばしその景色に見入り、これをバッ
クに記念撮影ということになりました。
しかし、観光地ということで「百円、百円」
と言いながら花を売りに来る子どもも多く、
これと同種の物売りが、この後ずっと調査団
メンバーを苦しめる(楽しませる?)ことに
なります。
写真2
双塔
この日のホテルは桂林大宇飯店(S
HERATON
GUILIN
HO
TEL、左の写真)
。SHERATON
系列ですが所有は韓国企業だというこ
とです。私たちが宿泊した棟はメイン
ロビーからかなり離れており、初日は
ロビーや食堂までの通路が迷路のよう
写真3
桂林大宇飯店
に感じられ、たどり着くのに苦労する
ほどでした。しかし、さすがに5つ星
のホテルだけあって、部屋は広々としてなかなか快適だったと言えるでしょう。
朴さんの話では、ホテルの周りはあまり治安が良くないということでしたが、飲食店を
中心に、遅い時間になってもなかなかの活気でした。一番遅くまで外にいたメンバーは、
街の屋台で土地の食べ物を味わい、初日のスケジュールを締めくくりました。
2日目はなんと6時 45 分にホテルを出発し、鍾乳洞(冠岩幽洞)の見学と、山水画の
題材として有名な漓江の川下りを満喫しました。ここで朴さんより「漓江下りのガイド」
として一人の女性が紹介され、私たちに同行することになりました。実はこの人はガイド
というよりは、道中の写真を撮ってそれを売り物にするカメラマンだったのですが。
バスに乗り込み鍾乳洞に向かうと、標高100∼200㍍ほどの鋭角な山々が連なる様
子が見えてきます。それらの中に分け入るように、非常に狭く状態の悪い道をたどり、よ
うやく鍾乳洞への渡し船のある船着き場へ到着。ここでは地元で採れたと思われる果物を
持った子供やお年寄りが「百円、百円」と言いながら寄ってきました。隙を見せるとあっ
という間に取り囲まれるので、なかなかやっかいですが、何とか振り切り船に乗り込み、
まずは鍾乳洞の見学です。
日本の鍾乳洞とは違い、ここでも原色のライトアップが施されていました。確かに幻想
的なのですが、自然の神秘と言うには少し違和感があるようにも感じます。当然のことで
すが、やはり文化が違えば色に対する感覚も違うということが実感されます。
30
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
それからもう一つ特筆すべきなのは、鍾
乳洞の中を電車(?とにかくレールの上を
走る乗り物)や船で移動することです(左
の写真)
。これはディズニーランドも真っ青
という代物で、なかなか貴重な体験だった
と言えるかも知れません。また、鍾乳洞の
出口には高さ 30 数㍍のエレベーターもあ
り、これは鍾乳洞の中のエレベーターとし
ては世界最大のものとしてギネスブックに
も登録されているそうです。
写真4
外に出ると8人乗りの自動車で船着き場
鍾乳洞内観光電車
まで移動し、また元のルートでバス駐車場
まで帰ります。そして一路、漓江下りの乗船ポイント、楊堤へ。漓江下りには複数の乗船・
下船ポイントがあり、最長のものは竹江から船に乗り、陽朔で降りる約 45 キロのコースで
す。これは半日ほどかけて下るということですが、今回私たちが乗ったコースはおそらく
最短のもので、下船ポイントは陽朔の上流に位置する興坪というところでした。
実際に船に乗ってみると、や
はり景色は素晴らしく、時間を
忘れて写真撮影に熱中してしま
いました。ガイドとして紹介さ
れた女性も一生懸命写真を撮っ
てくれます。期待したほど写真
は買ってくれなかったようです
が。途中有名な山もいくつかガ
イドの朴さんから紹介されまし
た(写真は九馬画山)が、景色
と同様に驚かされたのが川の物
売りです。彼らは竹を4∼5本
結んだだけの筏を器用に乗りこな
写真5
漓江下り
し、進行中の船に横付けすると、
「千円、千円」と叫びながら大きな扇子や水晶の塊を見せてきます。筏には、小さい穴が開
けてあり、サンダルを収納できるようになっており、彼らの知恵と技には感心させられる
ものがありました。
一方では、網を使って船の上の観光客からお金をもらおうとする子ども達もたくさんい
ました。はじめは川で遊んでいるのかと思いましたが、そうではなかったようです。彼ら
も「100円」や「10円」などと声をかけて魚採りの網を船上に伸ばしてきます。船内
は確かに日本人ばかりでしたが、桂林のような奥地でも日本人観光客を相手にお金を儲け
31
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
る手法が確立され、定着していることに多少驚きました。欧米人や韓国人などの観光客も
中にはいるでしょうが、彼らにも同様の手法を適用しているのかどうか、興味があるとこ
ろです。
また、船内でもお土産の購入には苦労しません。給仕が売り子になるという寸法で、2
日目にして中国独特の値引き交渉にも慣れてきた調査団一行は、ここの売上にかなり貢献
したはずです。ガイドの朴さんも商魂を見せ「印鑑の材料を無料で提供するので、彫り代
1000円だけで立派なものが手に入ります」とアピールします。手頃な値段で、かさば
らず、もらった人も迷惑にならないお土産だということで、こちらも売れ行きは好調だっ
たようです。
漓江の川下りコースは慢性的に船が渋滞しているということですが、興坪に到着してか
ら下船まで、約2時間待たされることになりました。この日は興坪で大きな市が開かれて
いたらしく、これも影響していたようです。その間船の上から他の船の様子も見ていたの
ですが、驚くべきことに川の水で食器やテ
ーブルクロスを洗っている様子が見えま
す。この下船ポイント周辺は水深も浅く、
水の流れも滞っているような状況で、閉鎖
性水域のようなものです。私たちはこの日
の昼食を船内で食べましたので非常に不安
になりましたが、そう言えば出てきた食器
はビニールでパックしてありました(左の
写真)
。これは川の水で洗ったのではなく、
写真6
船内の食器
殺菌済みだったのだと信じたいところです。
この後、桂林市内に戻り、唐代からの有名
な観光名所だという七星公園と、その近
くの象鼻山を訪れました。七星公園は園
内に点在する7つの岩山が北斗七星に似
た形で並んでいることから名付けられた
そうですが、中は動物園になっており、
散策だけでなく動物とのふれあいも楽し
めます。生きた虎の背にまたがって記念
撮影するコーナーなどもあり、調査団メ
ンバーも勇気ある何名かは虎の上で写真
を撮りました。
一方、象鼻山は漓江沿いにあり、象が鼻
写真7
を伸ばして水を飲んでいるように見えるこ
32
象鼻山
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
とからこう呼ばれるようになったそうです。確かに面白い景色ではありますが、この岩を
見るためだけにお金を払わなければならず、有料ゾーンの外からは見えないように様々な
工夫がされています。こうした徹底ぶりにもなかなか感心させられました。
夕食は初日と同じく、市内の中華料理店にてということになりましたが、ここで停電が
起こるというハプニングがありました。中国の他の都市と同様に、桂林でも電力不足は深
刻だそうで、
そうした状況を肌で感じる機会となりました。
「電力が足りないならあんなに
派手な街のネオンをやめればいいのに・・・」という風にも思うのですが、それについては現
地の人にしか分からない思いもあるのかも知れません。
2日目の夜のスケジュールについては朴さんから提案があり、桂林市内のナイトクルー
ズを320元、桂林雑伎団を280元で予約できるということでした。ただ、前日市内散
策に出たチームのメンバーはナイトクルーズの正規の値段が100元であることを知って
いましたので、朴さんにとっては残念ですが、希望者が雑伎団のみ見学ということになり
ました。それでもナイトクルーズの例から考えると、かなりの額がどこかに消えていると
思われるのですが・・・。
朴さんは「上海や北京、瀋陽など有名な雑伎団はいっぱいありますが、お客さんから聞
いた話では、今は桂林の雑伎団が一番いいという話です」と嘘にはならない巧みなPRを
展開し、こちらの気分を盛り上げます。私個人は雑伎団というものを見るのが初めてだっ
たので比較の対象はありませんでしたが、確かに人間技とは思えないアクロバティックな
動きやバレエのような優雅な踊りなどを融合させ、エンターテイメントとして楽しめるも
のでした。ただ、私たちのグループの中にはいくつか他の雑伎団をご覧になったことのあ
る方もいらっしゃいましたが、それらとの比較のコメントはここには載せないことにしま
す。
こうして調査団は桂林での全日程を無事に終え、翌3日目は8時40分桂林発のCZ3
231便で広州に出発しました。
水を売り物として
表 1 桂林市水道水質
いる桂林では、水環
境保護に力を入れて
いて、未処理の水を
川への放流は禁じら
れています。水道水
は日本のように濁度
0.1 度以下にならな
いものの、良い水質
が保たれています。
地元の新聞は水道水
の水質を公表してい
ます。ちなみに、私たちが滞在期間の水質は表1のとおりです。
33
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
2.
広州
株式会社東芝 環
省二郎
3日目は広州市南洲浄水場と市内の視察である。早朝、桂林より空路で広州白雲空港に
到着後、専用バスに乗り換えて市内に向かった。広州は中国華南地区で最大の都市で、珠
江の下流に位置している。車中、ガイドの陳さんの説明によると、広州は古くから「食は
広州にあり」と言われる広東料理と、刺繍や象牙細工等の細かい手作業の工芸品で有名で
あり、近年ではトヨタと広州汽車の合弁会社が設立され、自動車産業の発展で有名である
との事であった。車の窓から見る広州の街は、近代的な高層ビルと築数十年と思われる古
いビルが混在し、過去と現在が共存する一種独特な雰囲気を醸し出していた。また、古い
ビルの外壁には皆共通して冷房の室外機が剥き出しで取り付けられていて、地震国日本で
は一寸見られない景観であった。
写真 1 広州市の街並
写真2 陳氏書院
40 分程車に揺られて最初の目的地の陳氏書院に到着。広東省の72県に住む陳姓の一族
が共同出資をして、1894 年に祖先を祭るために建てた祠堂で、後に政府に対しその目的を
カモフラージュする為に、一族の子弟が試験準備のための私塾としたそうである。現在、
院内は民間工芸博物館となっており、
陳さんの説明を聞きながら工芸品の数々を見学した。
陳氏書院を訪問後、昼食を取り一旦ホテルにチェックイン。この日の宿泊先は、珠江の
河縁に建つ白天鵝賓館。部屋に備付の館内案内には、ホテルのオープン当事には英国のエ
リザベス女王や、米国のニクソン大統領等も訪問した一流ホテルであることが書かれてい
た。一息ついたら南洲浄水場の視察に出発する予定になっていたので、顔でも洗ってサッ
パリしようとバスルームに行き両手で水をすくったが、両手が顔の 10cm手前でストップ
してしまった。強烈なカビ臭が鼻を衝いたのである。今日はお風呂には入るの止めようか
かな∼?などと思わず考えてしまった。南洲浄水場は中国で初めて高度処理を導入した所
34
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
であるが、生憎このホテルは給水区域外であることが視察時の浄水場側からの説明で判明
した。給水量 400 万tの内 100 万tだけが高度処理化されているが、残りもすべて高度処
理化を図りたいとの説明に、
「当然だよな」と思った。
写真3
刺繍画 天上人間を見入る団員
写真4
一子相伝の象牙細工
夕食は、100 年の歴史を持つ 5 つ星の店「大同酒家」で取った。広州は中国でも特異な
食文化を持つと言われているので、不安な気持ちでテーブルにつく。何気なく林さんに聞
いた所、特別な食材を扱う店はそう言う専門店があり、ここは普通の食材の料理らしいこ
とがわかり一安心。ところが長岡先生が「ヘビがたべたいな∼。猫は化けるからヤダけど、
ヘビは食べてみたい」
(先生は桂林の漓江下りの時に、ヘビ酒を飲まれている)などとおっ
しゃるので、内心ビクビク。
「そんなことを言ったら、特別に追加注文する事になるかも知
れないじゃないか」と思いつつ、早く話題が変わるのを願っていた。結局、その日は特別
な食材などは出ずに終わったが、疑心暗鬼の中での食事のためもあり、他の団員に比べて
食は細かった。
(後に厦門で恐れていたことが現実となる事を、
筆者はその時点では知る由
もなかった…)
写真5
五つ星店 大同酒家
写真6
35
夕食を取る団員達
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
翌朝、ホテルのレストランで朝食取っていると、富井さんが来られて、「朝市を見てき
ましたよ。ヘビもいたし、猫もいた。面白いから是非行ったほうが良いよ」との話。また、
近くで食事を取っていた金近局長も食事が終わって近くを通られた時に朝市の話をされ
て、樽一杯のサソリを見てきたとの事。気味悪がりやの自分としては一人で見に行くのは
心細かったが、見聞の為と朝市を見に行くことにした。ホテルを出て 5 分程歩き、細い川
と黄沙大通りを越えると、市場に出た。ビクビクしながら小路に入っていく。店には様々
な食材が並び、周囲の空気は色々な乾物の匂いが充満していた。結局、店のそばを歩くだ
けに止まり、店の中の樽を覗くことはできなかった。
写真7
市場の在る通り
写真8 店先に並ぶ食材
この日のスケジュールは、午前中市内の視察をし、夕方の便で厦門に移動する予定であ
った。視察先は中山記念堂と鎮海楼(広州博物館)、五羊石造を回った。いずれも広州では
有名な観光スポットであり、中国 4000 年の歴史の一端に触れることができ、いずれも思い
出に残る場所であった。
写真9
中山記念堂
写真10 鎮海楼
36
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
3. 厦門
荏原商事(株)
西田
昭男
広州でのスケジュールを順調に終了し、再び広州新白雲国際空港へと戻ってきた一行
は、相変わらずの入念な検査もパスし、出発までは約1時間半、皆それぞれに時を過ごし
出発を待つ。
出発して4日目、此処まで飛行機に乗らない日は1日しかない。飛行機をタクシーのよ
うに使う、国の広さを感じる。程なく搭乗時間を迎え、広い空港内を延々バスに乗りよう
やく搭乗機へ、辺りはもう暗い。無事、広州を発つ。
1時間程のフライトを経て次の目的地厦門へ到着、もう7時を過ぎている。ここは更に
暑い。
いずれの空港も広くて素晴しい、大都市ばかり経由しているせいかもしれませんが・・・。
ま
ま
ここ厦門は、今回のスルーガイド“馬さん”の地元、馬さん元気になる。厦門の紹介を
聞きながらバスは一路ホテルへ。
『ここ厦門は、中国の南東沿海にある海浜都市で面積 130Km2 の島です。
人口は 50 万人で、年平均気温は 21℃、亜熱帯気候の美しい町で、中国で最も早く対外
開放政策を実施した中国 4 大経済特区の 1 つです。
またここ厦門は、中国では 3 番目に住みやすい都市とも言われ、市の花は「ブーゲンビ
リア」
・市の木は「ガジュマロ」
・市の鳥は「鷺」
、特産品としては石材と烏龍茶が有名であ
り、また市内を走るバスは何処まで乗っても1回1元(≒15 円)で利用できる。
サラリーマンの平均的な月収は2∼4万円位。
立ち並ぶ高層ビルの殆どはマンションで、その多くは台湾の企業が社員寮として購入す
る為、いくら建てても足りない。
そして、その台湾とは海を隔て最も近いところでは、僅か 130Kmしかない。
』
そうこうしているうちに、バスは厦門賓館へ到着、これから 4 泊 5 日の、視察日程中最
も長い滞在となり、明日からメインテーマ(シンポジウム)の始まりです。
な み ふ だ じ
≪ 南普陀寺 ≫
ここは市内五老山の麓にあり、観音菩薩を
主として供養するお寺です。
福建省の南部、仏教の聖地、創設は唐代で、
な み ふ だ じ
浙江省の普陀山の南にある為、南普陀寺と称
されるそうです。
寺院内は自然の地形を利用し、前殿等の建
物を始め建造物・石碑や石刻が数多くあり、
写真1
著名な仏経典・絵画も多数保存されていると
37
南普陀寺境内
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
のことでした。
境内にある浄水器を見つけ集まる一
団、写真を撮り興味深げに覗きこむ、ま
わりからは、さぞかし不思議な光景に見
えたに違いない。
ちなみにこの装置、2種類のろ材と2
種類の活性炭更に、RO膜と5工程を経
て飲料水に、試しに一口飲んでみまし
た。温かったせいかあまり美味くはあり
ませんでしたが、お腹を壊すこともあり
ませんでした。
仏教の歴史と意外な発見に予期せぬ収
穫を得た訪問先となりました。
こ り や ま ほう だい
≪ 胡里山砲台 ≫
この砲台は海防目的で造った軍事要塞
写真 2 浄水装置と仕組み
で、大小の古い大砲が多数海に向いて設置されています。
中でも大きな大砲は2門あったそうですが、その内1門は中国大革命の時、鉄不足の為
溶かして、鉄として使われてしまったそうです。
また、この時代に鉄は、同量の金と交換出来た位高い価値だったそうです。
(大砲の重
量は 60t)大砲の周りは兵士のケガ防止に、砂と土・木それに黒砂糖を混ぜて、コンクリ
ートの代用としていたそうです。
またエピソードとして、この大砲操作するのに15人を要し、せっかく造ったのに3発
しか撃てず、しかも当ったのはその内の1発だけで、敵の船は沈まなかったそうです。
また敷地内には、当時の収容所を改修した展示室があり、刀剣や大砲など多数展示され
ています。
写真は世界最小口径 0.7cmの携帯用大砲です。ピストルの原型ではないかと思いま
す。
(大砲の重さは 180g)威力があったかは定かではありません。
写真 3 胡里山砲
写真4
38
世界最小の大砲
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
こ ろ ん す とう
≪ 鼓浪嶼島 ≫
海を隔てて鼓浪嶼島はあります。海
といっても船で2∼3分もあれば着い
てしまう距離なのですが、その船は生
活の足でもあり、1 階は座席も無くた
だ吊革が下がっているだけの空間で、
沢山の人で混み合っています。
2 階は有料で座席付です。取り敢え
ず料金 1 元を払い 2 階へ上がることに。
さすがに 2 階席は空いています。
この島は観光の名所であると同時
に、今も多くの人達が実際に生活して
写真 5 島内の風景
いる生活圏でもあり、土産物店に混じ
り生活に密着した店も数多く、一歩奥に入ると生活観に満ちた風景が目に飛び込んできま
す。
島内は、自動車は勿論、バイクや自転車までもが
使用禁止とされています。
唯一乗り物は観光用の電気自動車だけですが、島
内は歩いて行けるところばかりです。
また、ここの水道は対岸の厦門市内より海底パイ
プにより送水されているとのことでした。
多くの店舗や民家を眺めながら、高さ 92.7m、島
内の最高峰「日光岩」をめざすことに。
仕事がらだろうか此処でも、給水メーターや資材店
には興味を惹かれるようです。
入場料 60 元(¥900)払って日光岩に登る。
写真 6 島内で見かけた量水器
眺めは眼下に、昔からの島全体を見、海を挟んで対
岸には厦門市の近代的なビル群が一望で
き、新旧対照的な、まるで違った時が流
れているかのうです。
遠くで都市を包む霞みが、ほどよくそ
の違いを強調しているかのように感じま
す。
帰り道、オランダ追放、台湾奪還など
ていせいこう
民族的英雄の「鄭成功記念館」に立ち寄
りその功績の一端を垣間見る。
町並みを下り再び船乗り場へ、ここで
写真 7 日光岩より鼓浪嶼島と厦門市を望む
39
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
行きの分と合わせて往復分 3 元(¥45)支払いい船へ。
船代は、島から出るときに往復分を支払うシステムでした。
≪
市内車窓
≫
バスの車窓からは色々なものが目に入る。
日本の店もよく目に付きます。
ふと一本の鉄塔が目にとまる、よく見ると高さ
限界 4.5m・高圧危険との看板が街中の交差点の
角に、ごく普通に立っていました。
市内の雰囲気は、亜熱帯性気候地域に属する気
候や、特区に依る都市整備の為か、比較的開放的
な感があり、中心部の華やかさと、点在する文化
遺産、更に海岸地区などは、ちょっとしたリゾー
ト気分さえ感じられます。
各種シンポジウム等も多く開催されているよ
うです。
新旧がうまく調和されている綺麗な町で、今ま
での都市に比べ、時間の流れも幾分緩やかに感じ
写真 8 街中の高圧鉄塔
≪
Etc
られました。
≫
厦門では浄水場の視察、シンポジウムへの参加など、多くの経験をしました。
ここまでの桂林・広州・そして厦門と訪問した3都市はそれぞれに違った面持ちでした。
田園地帯で豊かな自然環境と観光
資源に恵まれた桂林、食と文化の
都、急速な経済発展と開発が進み町
全体に力強さを感じる反面、環境悪
化が進む広州、そしてここ厦門は、
いち早く開放政策を実施し、対外交
流の展開により、交易や新しい文化
の流入など、物造りにより発展した
都市とは違った経済発展を遂げ、整
備された都市はスマートで明るい印
象でした。
途中長岡先生が残念ながら、所用
写真 9 意見交換会会場
にて一足先に帰国の途につかれる事
に。
(お疲れ様でした)
また、最終日には夕食後、意見交換会も開かれ、環境問題を始めとし、管路・水処理な
ど、夜遅くまで意見交換が行われました。
40
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
≪
テイクオフ
≫
午前5時モーニングコールが鳴り響く。
慌ただしく準備をし、チェックアウト、ロビーで朝食の弁当を貰いバスへと乗り込む。
1人残る古屋さんが見送りに、眠たい中有難う御座います。再び夢の中へどうぞ!!
まだ暗い街中を一路空港へ、町では朝早くから朝食を売る屋台とお客があちこちに、こ
ちらでは朝ごはんは買って食べるそうです。
厦門高崎国際空港に到着する頃には辺りも明るくなり、大分慣れた搭乗手続きも難なく
済ませ、午前7時、定刻通り厦門航空MF3525 便は様々な思いを乗せ次の目的地へ向け厦
門の大地を蹴った。
41
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
4. 杭州
(株)日立製作所
信友 義弘
11 月 12 日は、朝7時の飛行機で杭州へ向かう為、本ツアーで最も早い5時半のホテル
出発です。前日は、シンポジウム最終日で、夜9時半まで懇話会が行われ、一同、睡眠不
足ながらも、無事シンポジウムを終えた安堵感から、晴々として4泊滞在した厦門を後に
しました。約1時間半のフライトで、杭州空港に降り立つと、天候は小雨まじりです。肌
寒さを感じる気温で、桂林・広州・厦門と1週間続いていた晴天は一転していました。空
港では、杭州の現地女性ガイド斯(シ)さんの出迎えを受け、杭州の紹介を聞きながら杭州
市内へと向かいました。
「天上には天国、地上には杭州」と言われるように、2000 年の歴
史がある杭州は、美しく華やかな都市であり、この日1日だけですが、随所で杭州の輝き
を見ることになりました。
まず、杭州市内へ向かうバスの窓から、3階建ての家々が目に入ってきました。豊かな
農家の家並で、どれも立派な3階建てです。決して家族が多い訳ではなく、地方から働き
に出てきた人々に、空き部屋を貸しているそうです。リッチな農民をイメージしました。
空港から 30 分足らずで銭塘江の大橋を渡ると、杭州市街です。雨なのに、やはり中国人民
の足は、自転車でした。赤・青・黄・紫・緑と各人様々にカラフルなポンチョ(合羽)をか
ぶって、何台も連なっている自転車は、華やかです。また、高級なタクシーもあるそうで、
杭州市内には、ベンツ 30 台、BMW100 台のタクシーが走っているそうです。確かに、市
内路線バスの中にも、液晶テレビを2台搭載して、乗客サービスを行っている高級感のあ
るバスも、何台か走っていました。(上海でも見かけましたが。
)
市内の交通渋滞を抜け、この日最初の訪問観光地は、霊隠寺です。霊隠寺は、インドの
僧彗理が東晋の時代(326 年)に創建して 1600 年以上の歴史があり、そのスケールの大きさ
は圧巻でした。御香の香りが漂う中、大変多くの参拝者に驚き、また、敷地内では新たな
神殿の建立も行われており、多くの人々の心の拠り所となっている場所だと感じました。
入観料は1人 70 元(日本円で約千円)と安く無いにも関わらず、平日でも3千∼1万人、春
節(旧正月)や国慶節(建国記念日)の連休には、1日で約7万人の人々が訪れるそうです。ま
た、最盛期には 3,000 人以上居た僧侶も、現在では 70 人程度と聞き、思わず、入観料収入
を計算して、その使い道に思いを馳せていました。
続いて訪れたのは、西湖の湖岸に位置する西冷印社です。西冷印社とは、書道と彫刻が
一体となった中国の金石篆刻を研究する印章学の学術団体で、1904 年に創立しています。
竹閣や三老石屋を見て、高台まで登りましたが、雨は上がったもののあいにくの曇天で、
西湖および杭州市街の一望は、今ひとつでした。宝印山房では、石碑、拓本、書画、印材
などが販売されており、朱肉などは、記念のおみやげとして好評のようでした。尚、印鑑
は、桂林で勧誘されるがままに購入した人が多く、殆んどの人が見合わせのようでした。
42
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
昼食後は、杭州観光の中心である西湖遊覧です。西湖は、面積 6.8km2、平均水深も2m
未満で、美しく穏やかな湖です。しかし、観光船は、大小様々で思った以上に多く、今日
は土曜日でもあり、観光客も溢れるようでした。杭州を訪れる観光客は、年間で約1億人、
トップは韓国人とのことですが、私達と同じ船には、日本の団体ツアー客も同乗しており、
日本人も至る所で見掛けました。遊覧は約 40 分、午後もまだ曇り空で、遠くが霞んでいま
したが、船のデッキの椅子に座っていると、風が気持ち良く、もう少し暖かければ絶好の
お昼寝遊覧でした。ところで、帰国後、水環境雑誌「中日水務信息」
(水道産業新聞社発行
の 2005 年秋季号)を見ると、表紙の写真は、杭州西湖です。表紙の説明には書いてありま
せんが、この橋は錦帯橋と説明を受けたことを思い出しました。
西湖遊覧後
は、お茶屋へと向
いました。福建省
厦門でも、お茶工
場で、烏龍茶や鉄
観音、ジャスミン
茶などの試飲をし
て買いましたが、
杭州は緑茶の龍井
茶が有名で、ここ
でも購入し、おみ
やげの半分以上がお茶と
写真1
西湖から見る杭州市街
なりました。お茶の効能もたくさん教えても
らい、素直な私は、これだけのお茶を飲むと
健 康 で 長 生 き で き そ う な 気 に な りま し た 。
(中国滞在中だけの話ですが。
)
杭州最後の訪問先は、六和塔です。銭塘江
の北側にある月輪山に聳え立つ高さ約 60mの
塔で、銭塘江の逆流を鎮めるため、また、灯
台の役割として宋代(970 年)に建てられ、修
復を繰り返し今に至っています。らせん状に
階段で上れますが、誰も無謀なことは考え
ず、外から見上げるだけにしました。六和塔
は、明らかに傾いているようでした。また、
銭塘江は、杭州に面している所でさえ川幅が
約1km もあり、海水の逆流イメージは想像し
難いものでした。
夕食は、杭州駅のホテルでしたが、2組の
結婚披露宴に遭遇しました。昼間も市内で結
写真2 六和塔
43
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
婚式の車や花嫁さんを見かけており、11 月 12 日は、中国では大変縁起の良い日であるこ
とを知りました。
ホテルでの披露宴は、オープンな環境、誰もが見れるフロアーで行われており、しかも、
2組同時にパーティションを挟んで、実に華やかにに行われていました。新郎新婦、料理
など、思わず見比べてしまいそうです。また、新郎新婦の席も、雛壇ではなく、夫々の兄
弟と一緒に円卓を囲むようになっています。私達の食事が終るころには、新郎新婦の姿は
ありませんが、参列者のボルテージは上がりっ放しで、にぎやかさを通り越した盛り上が
りを見せていました。さすが、中国・杭州です。
杭州の宿泊ホテルに到着後も、深夜11時なのに、外では大々的に花火が上がっていま
す。朝5時起床で楽しんだ杭州でしたが、1日の最後にもパワフルな中国を知らされまし
た。
44
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
5. 上海
日本水道協会 瀬川 定良
11月13日(日)早朝、杭州を出発し、ツアーバスで一路上海市に向かいました。
2時間程、高速道路を走っていると、上海郊外のマンション群がバスの窓際から見えてき
ました。近年、郊外に建設されたマンションの土地は国保有で所有権(80∼100 ㎡)のみの
購入価格は 40∼50 万元(600∼750 万円)が平均価格のようです。
また、上海中心部のマンション価格となるとその倍以上のようです。
購入する年齢層は 30 歳前後と若く、日本と同様、結婚を機に購入するそうです。バス
の窓際から対向車を見ると、ワーゲン、BMW のドイツ車が走っていたのが印象的でした。
また、車のナンバープレートを取得するだけで、日本円にして 50∼60 万円程かかるという
ので、まだまだ、高額所得者しか乗れないようです。
一般サラリーマンの通勤には、自転車を交通手段に利用する人が意外と多いそうで、特
に雨の日はカッパで身を包み、通勤するのが習慣のようです。
しょうこう
高速道路を降りて、まもなく走ると、乗り換え場所の松 江 区に着きました。同場所には
上海市政行程設計研究院の沈副総工程師(水道技術本部長)が我々一行を迎えに来ていま
した。この周辺は、上海の教育の中心となっている区でもあり、有名大学が十数校集まっ
だいがくじょう
て「大学城 」という大規模施設を形成しているそうです。
すいぱくいけ
午前中はその松江区にある「醉白池」を見学しました。
昼食時には、沈氏のご好意により、最初の上海蟹に出会うことができました。
沈氏の説明によると、夜行く
おうほうわ
店「王宝和」は純粋の上海蟹を
食べさせてくれるそうです。今
あるのは純粋ではないが、まず
まずの上海蟹であります。
早速、沈氏に上海蟹の食べ方
を教わりながら、我々は慣れな
い手つきで、果敢にチャレンジ
しました。
沈氏の手慣れた蟹さばきを
見ると、内蔵(胃)の部分を使
って一瞬のうちに、なにやら造
り始め、円卓の上の出来上がり
写真1
沈氏の上海蟹の作品
を覗き込むと、お坊さんの格好
をした芸術品が出来上がっていました。
沈氏の説明によると、純粋でなくても蟹に力(パワー)があると円卓の上に立てられる
45
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
そうです。皆さんも、夜行く「王宝和」で純粋の上海蟹で是非、試してくださいと激励の
言葉をいただきました。
初めて食べた感想は、
蟹みその部分は、クリーミーな味わいで非常に美味しかったです。
11 月は丁度、上海蟹の旬であり、雄が多い月であるそうです。
上海市の歴史は 1842 年に阿片戦争の敗北により植民地化され、1949 年の南京条約によ
り開港されるまで、約 100 年の間、苦難の時代が続きました。
その間、1921 年には中国共産党が成立し、1927 年には、蒋介石がクーデターを起こす
などの歴史の舞台となったところでもあります。
現在に至っては、重慶(人口 3000 万人)に次いで、人口 1700 万人の中央直轄市であり、
中国最大の商工業都市で、東洋と西洋が混在する東洋一の国際都市となっています。
旧租界時代のノスタルジーと、高層ビルの建設ラッシュの続く上海は、
「新しい顔」と、
「昔ながら」の顔があります。
ほ と う
とうほうめいじゅ
「新しい顔」の代表は、浦東地区の空にそびえる、アジア最大の東方明珠テレビ塔の立
つ浦東開発地区であり、同地区は、1990 年代に入って上海・浦東は国級の開発区となり、
その発展ぶりは今や世界の注目の的となっている開発区です。
浦東の 10 大プロジェクト建設は、当初の 5 年の計画を 3 年に切り上げ、さらに第 2 期と
して、浦東国際空港の着工、地下鉄2号線の開通、深水港の設置、長江河口の整備など 10
大プロジェクトも現在、急ピッチで進行中であります。
また、浦東は 4 つの重点開発区に分けられています。
①「金橋輸出加工区」は主と
して輸出入用の航空機、エ
レベーター、エアコン、電
話などを生産している区で
す。
②「陸家金融貿易区」は金融
区として開発が進められお
り、上海における外国為替
取引はこの地区のみで行わ
れ開発完了時には、100 社
の中資・外貨金融機関、
3000
社にのぼる大企業がオフィ
スを構える予定の区です。
③「外高橋保税区」は自由貿
写真2
易区と輸出加工区を統合さ
浦東開発地区
せたエリアで日本、アメリカ、カナダなど、現在 30 余の国家、地域から投資が行われ
ている区です。
④「張江ハイテク区」は医療、電子などのハイテク技術開発及び教育が中心の指定区で
す。
46
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
さらに、2010 年には、浦東地区の一角には国際万博博覧会が開催される予定になって
おります。
用地面積は愛知万博の約2倍を予定し、入場者数は愛知万博 185 日間、延べ 2500 万人
に対し、上海万博は 2010 年 5 月 1 日∼10 月 31 日までの 184 日間で、延べ 4300 万人を見
込んでいるそうです。
がいたん
また、
「昔ながら」の顔には、租界時代の洋風建築が立ち並ぶ外灘があります。
なんきんろ
わいかいろ
通りでいえば、目抜き通りの南京路、旧フランス租界のおしゃれの淮海路が 2 大ストリ
ートと呼ばれています。
また、租界時代も中国
人の居住区で下町情緒の
よ え ん
残る豫園商場は、いつも
活気があり、夜になると
美しくライトアップされ
ます。
上海市内の見学は、夕
刻からになり、豫園、東
方明珠テレビ塔、外灘、
の順に見学しました。豫
園は黄浦江のほとり、市
外の東南に位置する庭園
で「都市中にある山水」
と呼ばれる名園でありま
写真3
豫園商場
写真4
東方明珠テレビ塔
す。時間の関係で庭園の
見学時間内には間に合わ
ず、見物することができ
なかったのが残念であり
ました。
東方明珠テレビ塔は、
カナダのトロント、ロシ
アのモスクワのタワーに
次いで世界で 3 番目の高
さ 468mのテレビ塔であ
ります。1994 年 11 月に
完成し、
今年で 11 年目を
迎えます。
263mの展望台までは
高速エレベーターで 48
秒で到達します。
47
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
夜になると、2000 個のネオンがライトアップされ、時間帯によって色彩が変化し、上海
市内の美しい夜景を楽しむことができ、上海のウォターフロントの黄浦江と外灘の西洋建
築などが一望できました。
外灘は、上海に租界があったころ、黄浦江沿いの黄浦灘路のことを「バンド(海岸通り)」
と呼ばれ、まるでヨーロッパを思わせる建築物が建ち並び、上海独特の異国情緒をかもし
だしています。
北の一角には黄浦公園が
あり、早朝から太極拳を楽
しむ人たちで賑わっている
そうです。夜も 10 時近くな
って、名残惜しくバスに乗
り込み宿舎へと向かいまし
た。
翌日、14 日(月)は午前中、
上海市政工程設計研究院に
て「藤原正弘博士報告会」
が行われ、その後、今回の
旅行の最後に上海市政工程
設計研究院幹部と昼食を交
写真5
夜の外灘
えました。
我々のテーブルについた幹部の話で興味深かったのは、2010 年の上海万博までには、市
域の生活用水の 70%を高度処理化したい旨の説明があり、上海市の、今後の更なる経済発
展を祈念して、一路上海空港へ向かいました。
5 年後の上海万博、機会があれば是非、訪れたいと思いました。
48
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
視察調査を終えて
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査団(総員 16 名)は、
11 月 5 日から 14 日までの 10 日間、厦門市で開かれる 2005 年日中水処理技術国際シンポ
ジウムに参加し、また、中国南部の著しく発展を遂げた大都市広州市、厦門市及び上海市
の水道施設と水道技術全般について現地調査を行いました。
成田空港からは 13 名での出発でしたが、厦門市で 3 名が合流し、厦門日中水処理技術
国際シンポジウムにはフルメンバーで臨みました。
シンポジウムで、団長の藤原 JWRC 理事長が特別講演を行い、副団長の私と、長岡・武
蔵工業大学助教授が分科会講演を行いました。さらに、6 名の団員から、水処理技術につ
いてそれぞれの知見を発表しました。また、中国の李圭白・中国工程院院士をはじめ、大
学教授や水道関係者から大変ハイレベルの研究発表がありました。シンポジウム会場内外
で活発な質疑応答が行われ、日中双方が互いに両国の水道事情を知るなど大変有意義な会
議でした。
中国では臨海部開発が国の経済発展をリードしていることから、ほとんどの大都市は海
外や内陸部との交通の要衝となる大河川の下流部に位置しています。
従って、水源水質には恵まれておらず、生活排水や工場排水の処理が大きな問題になっ
ています。水道水も、カビ臭、カルキ臭が強く、高級ホテルでも臭いが気になる状態です。
いずれの都市でもオリンピックや万博に向けて高度処理の導入が喫緊の課題となっていま
した。
珠江下流にある南部最大の 1000 万都市広州市では最新鋭の高度処理浄水場を視察し
ました。美しい庭園、調和したデザインの施設群が印象的でした。
厦門市では、島内にある高殿浄水場を視察しました。数次の拡張工事により最新施設が
整備されているにもかかわらず、処理能力が人口急増に追いつけないため、沈殿、ろ過が
不十分なまま配水されているような運転状態でした。
上海市では、黄河上流の松浦取水場を視察しました。取水能力 540 万㎥/日という巨大な
ものでした。取水場のある松江区は、上海経済発展の原動力となっている新興の港湾、工
業、都市開発地域であり、水質は最悪クラスでしたが、今後 2010 年の上海万博までに 1700
万人の給水をすべて高度処理化するとの説明でした。
また、上海市では上海市建設委員会科学技術委員会の講演会に全員参加しました。藤原
団長と私が登壇し、日本の水道技術について講演しました。
厦門会議と上海講演会でも、2006 年に横浜市で開かれる水道技術国際シンポジウムを
PR し、中国の専門家の参加を呼びかけ、良い反応を得ました。
中国では広大な国土と豊かな自然に触れることができました。桂林の水墨画のような山
水、杭州西湖の綺麗な景色の将来は、すべて水処理、環境保護技術に掛かっており、水関
係者の重責を感じました。
私は 20 年前、上海を訪ねたことがありますが、あの時の市内は戦前からの低層の古い
家屋で充満し、浦東は田んぼ一望でした。今回の上海は超高層ビルが数え切れないほど多
49
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
く林立し、高速道路網も市内を縦横に走っています。浦東では、世界最高速のリニアモー
ターカーが市内と浦東新空港を 7 分でつないでおり、新空港もさらに 2 倍にする拡張工事
が進められています。
最後に、この視察調査を成功裡に終えることができ、全員大きいトラブルもなく成田に
降り立てたのは、藤原団長をはじめ団員の皆様、また事務局の方々の事前の周到なる準備、
旅行会社近畿日本ツーリストの方々のご尽力の賜物と感謝し、今後皆様がこの貴重な経験
を少しでも水道事業に役立てられることを祈って、調査を終えての感想といたします。
調査団 副団長
横浜市水道事業管理者
水道局長
金近 忠彦
50
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書
おわりに
今回の日中水処理技術国際シンポジウム(第5回目)のシンポジウム及び中国水道
技術視察調査は、16名が参加し11日間の期間でトラブルもなく無事終了すること
が出来ました。水道技術の交流のみならず、水道ビジネスを開拓する機会にもなると
考え実施しました。
主な行事、訪問先は
▣
「水処理技術国際シンポジウム(第5回目)」を廈門市で9日から11日まで中
国水道研究発表会と併設で開催
▣ 「科学技術フォーラム」を上海市で14日に開催
▣
広州市南洲浄水場視察
▣
廈門市高殿浄水場視察
▣
上海市黄浦江上流取水施設視察
であります。
シンポジウムや訪問先で、手厚い歓迎を受け調査団一同は感激致しました。その内
容については本文や紀行文を読んで頂ければと思います。この企画も5回目ではあり
ますが学識者、水道事業体、企業の方々が一体となって、シンポジウムや調査に深く
関与し、また、相手方とも議論を夜遅くまで交わしたり特色のあるものであったと考
えています。
また、技術的視察調査だけではなく、中国の歴史や風土をも体感された。例えば、
広州「陳氏書院」、桂林「漓江下り」、廈門「鼓浪嶼」
・
「南普陀寺」、杭州「西湖」など
代表的な文化遺産や景勝地を目の当たりにし、この視察調査の意義を益々深く感じた
ことでしょう。
最後に、報告書をまとめるに当たり、業務多忙の中原稿を寄せて頂いた方々に感謝
申し上げます。同時に、当シンポジウムと調査の全般にわたりご尽力頂いた団長、副
団長並びに団員、関係各位の方々に厚くお礼申し上げます。
[事務局]
(財)水道技術研究センター 三井康弘
林
51
野
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
添付資料
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
添付資料
1. 2005年日中水処理技術シンポジウムプログラム
一日目:11月9日(水)8:30∼18:15、厦門市・厦門賓館会議場
開会式・記念写真と基調・特別講演(8:30∼12:00、司会:沈
開会式:主催者代表・CWIA 給水委員会委員長 戚
(8:30∼8:40、通訳:林
幹部挨拶
裘昌・事務局長)
盛豪 挨拶
野)
(8:40∼8:55、通訳:林 野)
開催地代表・厦門水務集団有限公司 挨拶
(8:55∼9:05、通訳:林
野)
来賓代表・(財)水道技術研究センター理事長 藤原 正弘
(9:05∼9:15、通訳:林
挨拶
野)
記念写真:(9:15∼9:30、会議場前庭)
特別講演:(司会:王 占生)
A.「過マンガン酸カリウム及びその複合剤を用いる飲用水浄化技術」
中国工程院
院士
李 圭白(9:30∼10:40、通訳:黄 建元)
coffee break (10:40∼10:50)
B.「日本における浄水技術開発の最新成果」
(財)水道技術研究センター理事長 工学博士
(10:45∼12:00、通訳:黄
藤原 正弘
建元)
昼休み(12:00∼13:30)
分科講演(13:30∼18:15、座長:熊
易華)
分科講演 A:
「水道事業への業務指標活用について」
横浜市水道事業管理者 水道局長
(13:30∼14:15、通訳:林
金近
忠彦
野)
分科講演 B:
「異なる原水水質の高度処理技術」
王 占生
(14:15∼15:00、通訳:黄 建元)
分科講演 C:
「浸漬型 PAC−MF 方法による微量汚染水に対する処理効果」
厳 暁菊(15:00∼15:45、通訳:陳 建湧)
coffee break (15:45∼16:00)
分科講演 D:「広州南洲浄水場の高度処理」
広州市自来水公司
○○(16:00∼16:45、通訳:黄
建元)
分科講演 E:
「水源地の生態保護による水質改善の理論と実践」
呂 錫武(16:45∼17:30、通訳:林 野)
分科講演 F:
「江戸川をモデルとした水道水源異常水質予測システムの構築」
武蔵工業大学 助教授 工学博士
(17:30∼18:15、通訳:黄
1
長岡
建元)
裕
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
歓迎会(18:30∼20:00、厦門市水務集団有限公司)
、(通訳:陳
建湧)
二日目:11月10日(木)8:30∼18:00、厦門賓館会議場
通常の第十回中国全国水道研究発表会(中国語のみ)
8:30∼11:30 中国側 8 編発表、13:30∼17:30 中国側 8 編発表/日本側は市内視察
昼休み(11:30∼13:30)
三日目:11月11日(金)8:30∼17:30、高殿浄水場・厦門賓館会議場
施設見学 (8:30∼11:30、厦門市高殿浄水場
8:30∼9:15、厦門市水務集団公司・厦門市水道説明
9:15∼11:30、高殿浄水場見学、通訳:林
野
昼休み(12:00∼13:30)
技術論文発表(13:30∼15:00)(通訳:林
野、黄
建元)
口頭発表(13:30∼15:00、座長:三井 康弘 JWRC 主任研究員)
(1、13:30∼13:50) 「相模川における取水堰の水理模型実験」
神奈川県内広域水道企業団相模原浄水場
場長補佐
富井 正雄
(2、13:50∼14:10) 「阪神水道企業団における地球環境問題への取り組み」
阪神水道企業団尼崎事業所
所長
納庄
秀成
(3、14:10∼14:30) 「都市部水需要分析に関する研究」
(株)石垣
国際営業部
技術顧問 陳
建湧
(4、14:30∼14:50) 「日本の膜ろ過の導入状況と2段MF膜ろ過システム」
水道機工(株)研究開発部
課長
古屋
弘幸
(5、14:50∼15:10) 「日本における浄水場排水処理」
月島機械(株)環境プラント計画第1部グループリーダー 落合
(6、15:10∼15:30) 「前処理が膜ろ過に与える影響に関する研究」
財団法人
水道技術研究センター
主任研究員
林
野
coffee break (15:30∼15:45)
パネルディスカッション(15:45∼16:45)
座長:沈
裘昌・事務局長
パネリスト:藤原 正弘、金近 忠彦、落合 隆、宋仁元、戚盛豪、王占生
通訳:林
野、黄
建元、陳 建湧(5分+5分通訳)
集中討議質疑応答(16:45∼17:25)司会:沈 裘昌
事務局長
閉会(17:25∼17:30)中国側
日中シンポ懇親会(18:00∼20:00、厦門賓館宴会場)
2
隆
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
2、2005年日中水処理技術国際シンポジウム論文集(日本語)
目
次
特別講演
日本における浄水技術開発の最新成果
財団法人
水道技術研究センター
理事長
工学博士 藤原
正弘
分科講演
水道事業への業務指標活用について
横浜市水道事業管理者 水道局長
金近
忠彦
江戸川をモデルとした水道水源異常水質予測システムの構築
武蔵工業大学 助教授 工学博士
○長岡
財団法人
藤原
水道技術研究センター
裕、宇佐美和也
正弘、清塚 雅彦
技術論文発表
相模川における取水堰の水理模型実験
神奈川県内広域水道企業団相模原浄水場
場長補佐
富井 正雄
阪神水道企業団における地球環境問題への取り組み
阪神水道企業団尼崎事業所
所長
納庄
秀成
技術顧問 陳
建湧
都市部水需要分析に関する研究
(株)石垣
国際営業部
日本の膜ろ過の導入状況と2段MF膜ろ過システム
東レ(株)
高木
水道機工(株)
亮太、松家
伸行
矢田 修平
水道機工(株)研究開発部
課長
○古屋
弘幸
日本における浄水場排水処理
月島機械(株)環境プラント計画第1部グループリーダー ○落合
月島機械(株)
銅谷 陽、山根
陽一
前処理が膜ろ過に与える影響に関する研究
財団法人
水道技術研究センター
主任研究員
林
中国の環境関連機器の市場における日系企業の最新動向
上海市政工程設計研究院
前澤工業㈱国際部
沈 裘昌
課長代理 工学博士
3
○黄 建元
野
隆
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
日本における浄水技術開発の最新成果
∼e-Water プロジェクトについて∼
(財)水道技術研究センター
工学博士
理事長
藤原正弘
The Latest Results of Water Treatment Technology Research in Japan
Masahiro Fujiwara, Dr. Eng.,
President, Japan Water Research Center(JWRC)
2-8-1, Toranomon, Minato-Ku, Tokyo, Japan
1.はじめに
我が国では、水道施設が建設されてから年数が経過して、多くの浄水施設は老朽化して
おり、施設の更新や改善が必要となってきている。水質面では、Trihalomethane (THM)
等消毒副生成物の前駆物質や農薬等による水道原水の汚染問題または Cryptosporidium
による問題が懸案となっている。また、おいしい水への市民のニーズも一層高くなってき
ている。全国的に施設更新の時期を迎え、施設更新に当たっては新しい時代のニーズに合
う機能を有するように水道の施設を改良していくことが必要であり、新しい技術の開発の
推進の必要性が高まってきている。
水道技術の研究開発を実施する体制として、大学等研究機関、水道事業体、関係企業が
共同して実施する形が有効であり、当センターが中心となって新しい浄水技術の開発のた
めの産学官の共同の大型研究プロジェクトが 1991 年度から実施されてきた。MAC21、
ACT21 等のプロジェクトを経て、2002 年度からは環境配慮型の浄水技術の開発を目的に
e-Water が実施された(表1参照)
。
2.e-Water プロジェクトの概要
国からの研究費補助をうけて、民間関係企業の参加分担金も得て e-Water という水道浄
水の新技術開発のプロジェクトが 2002 年 4 月から 2005 年 3 月まで3カ年実施された。
正式には「環境影響低減化浄水技術開発研究」と呼ばれるものである、民間企業、大学等
研究機関、水道事業体などの参加による産官学の共同研究の体制で進められた。
Environmental, Ecological, Energy-saving, Economical というような面を考慮したもの
であると同時に、
“いい水”を作り出すための研究開発という意味を込め、プロジェクトの
名称として「e-Water」という愛称がつけられた。
本プロジェクトでは環境配慮型の社会実現に向けて必要となる施設の整備、既存施設の
改良に貢献できる技術開発を目指して①省エネルギー型浄水処理システム、②浄水システ
ムでの水の有効利用、③浄水システムにおける汚泥量の削減④安全な水供給を目的とした
水道水源の監視⑤事業費の削減という5つの目標を掲げた。
本研究の主テーマは3つあるが、
「大容量膜ろ過技術の開発研究」
が第1のテーマである。
膜ろ過技術は既に小規模浄水場への普及が進んでいるが、中・大規模浄水場への普及にあ
4
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
たっての課題の解決を目的としている。次いで、高効率な浄水単位プロセス及び排水処理
の高効率化を組み合わせて総体的に最適な技術を開発することを目指す「浄水処理トータ
ルシステムの開発研究」が第2のテーマ、そして、最新の計測技術や情報伝達技術を用い
て水源の水質の監視を適切に行うシステムを研究する「水道水源の監視に関する研究」が
第3のテーマである。
e-Water の研究費総額は、研究期間(3年間)の直接経費のみで6億8千万円(うち、
国費:1億7千万円、参加企業分担金:5億1千万円)となる。
3.e-Water プロジェクトの研究成果
次にそれぞれのテーマの研究内容の概略を述べる。
(1)大容量膜ろ過技術の開発に関する研究
小規模浄水場では既にクリプトスポリジウム対策として膜ろ過技術が有効であること
が実証され、実施設の普及が順調に進んでいる状況にある。中・大規模浄水場においても、
クリプトスポリジウム対策としての「急速ろ過のろ過処理水 0.1 度管理」は凝集剤の過注
入、ろ過継続時間の短縮、汚泥の非脱水性等に課題があり、とくに低温・低濁度時の運転
の困難性などから、膜処理への転換を検討しているところが少なくない。こうしたことか
ら、膜の大容量化(50,000∼200,000m3/日)における技術的課題を解決し、より高い安全
性の確保と浄水技術の信頼性を向上させるべく
「大容量膜ろ過技術の開発研究」
を行った。
具体的には、3つのワーキンググループ(以下 WG という)を設置して、大規模膜ろ過浄
水場における膜ろ過システムの構築のためのケーススタディー(処理水量 100,000m3/日)
、
膜の損傷や膜モジュールのリサイクル方法とコスト及び規格化についての検討、大規模膜
ろ過浄水場における膜モジュールのオンサイト・オンライン薬品洗浄について検討等、各
種課題に取り組んできた。これらの成果の一部は「大規模膜ろ過施設導入ガイドライン」
として取り纏められた。
(2)浄水処理トータルシステムの開発に関する研究
浄水処理プロセスにおいて、臭気・藻類対策、トリハロメタン対策、クリプトスポリジ
ウム対策等全ての面が考慮される必要がある。既存技術である急速ろ過法の最適化活用或
いは従来の急速ろ過法に代わる代替技術と排水処理の高効率化が渇望されている。ACT21
の成果である「高効率な浄水単位プロセス」及び「排水処理の高効率化」をベースにトー
タルシステムとしての最適化技術の研究を行った。
具体的には、5つの WG を設置して、神奈川県内広域水道企業団の綾瀬浄水場に設置し
た実験プラント(写真1参照)を利用して、鉄系・高分子系凝集剤の検討やトータルシス
テム実験について合同実験、浄水処理トータルシステムの評価手法及び LCA(ライフサイ
サクルアセスメント)
を活用した総合的な評価手法、紫外線消毒に関する研究のレビュー、
浄水処理における機能改善や改造事例についての事例調査、上下水道排水一体化処理(上
水道、下水道別々でなく一体として処理することによる効果等)の研究など各種課題研究
に取り組
成果の一部が「鉄系・高分子凝集剤使用ガイドライン」
「紫外線(UV)消毒ガ
イドライン」
「上下水道排水一体化処理導入マニュアル」として取り纏められた。
5
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
日表1
本にお
ける浄水 技術の 大規 模研 究開発
日本における浄水技術の大規模研究開発
年度
Pr o jec t名
1991 –
1993
M A C21
1994 –
1996
高度処理M A C21
1997 –
2001
A CT21
2002 –
2004
e-W at er
研究内容
M F / UF 膜 処 理 の 実 証 実 験
主 に NF 膜 処 理 の 実 証 実 験
高効率浄水技術開発研究
環境影響低減化浄水技術開発研
究
写真1
合同実験施設
(3)水道水源の監視に関する研究
水道水源の水質事故による汚染、近年の化学物質やクリプトスポリジウムなどの病原性
微生物による水源の汚染に対応し安全性を確保する上で、水源の監視能力を向上すること
が望まれるている。科学技術の進歩とともに通信、制御、OA 機器、省エネルギー技術等
の高度化、高機能化が図られてきている昨今、当該技術を浄水処理システムへ積極的に導
入することにより、迅速な危機管理・多様な情報公開・多次元な情報交換を達成しようと
するものである。
具体的には、水質監視を検討する上での前提となる水質リスクの範囲や分析手法につい
て WHO ガイドライン(第3版)や国内水道水質基準改定等からの状況をふまえてリスク
の分類と監視体制の検討を行った。また、監視システムの構築として、江戸川についてモ
デルによるシミュレーションを行った。
4.持ち込み研究
e-Water プロジェクトの特徴としては、
「持ち込み研究」と称する実験研究がある。日本
全国に15か所設置し26の課題について研究を行った(図1参照)
。これは、各研究グル
ープに所属する事業体・企業がその研究グループが定める統一的な研究計画に基づき、特
定の実験施設にそれぞれ独自の実験装置を持ち込んで行う実証実験で、各研究グループが
それぞれの責任において実施したものである。概ね予定通りの成果を上げ、これにより多
くの知見が集まってきていると共に、
多くの方々がこれら実験施設を見学することにより、
各種技術の広報の役割も果たしたと考えている。これらの持込実験の成果については、最
終報告の結果に基づき、プロジェクトの成果として評価書の発行をする。
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全国15ヶ所
大阪府水道
部
枚方市水道
局
大分市水道
局
福岡市水道
局
愛知県企業
庁
阪神水道企業
団
今市市水道
部
越生町水道
課
千葉県水道
局
福岡市水道
局
沖縄県企業
局
市原市水道
局
大阪市水道
局
神奈川県内広域水道企
業
団
横浜市水道
局
図1 e-Water プロジェクト持込実験場所
5.まとめ
この研究開発プロジェクト(eWater)は 2005 年 3 月に終了した。この成果を「成果報
告書」として取り纏めた。なお、実務面で利用しやすいよう、成果のエッセンスをガイド
ライン又はマニュアルの形で出版した。
具体的には、
「大規模膜ろ過施設導入ガイドライン」
、
「鉄系・高分子凝集剤使用ガイドライン」
、「紫外線(UV)消毒ガイドライン」
、
「上下排
水一体化処理マニュアル」の4つのガイドライン又はマニュアルである。
また技術資料として「大規模膜ろ過施設導入技術資料」
、
「評価手法」
、「機能改善・改造
事例集」
、
「安全な水供給を目的とした水道水源の監視技術に関する技術資料」
(写真2)を
まとめた。
これら e-Water の多くの成果が、水道施設の改良等の検討に際して活用され実用化され
るよう期待している。センターとしてもこれらの普及に今後とも努力をしていく所存であ
る。
写真2 成果品のガイドラインやマニュアル等
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「e-water の研究成果の紹介」
1. ガイドライン集
(以下に示すガイドライン・マニュアルを1冊に収めている)
○ 大規模膜ろ過施設導入ガイドライン
近年、より大規模な浄水場への導入が進んでいる膜ろ過法について、日本における膜ろ
過の導入状況・膜モジュール種類と基本事項、大規模膜ろ過施設の計画・設計・維持管理
やケーススタディと費用試算を掲載している。
○ 鉄系・高分子凝集剤使用ガイドライン
日本においては、アルミニウム系凝集剤が圧倒的に使用されてきたが、原水水質の多様
化、排水処理の改善、アルミニウムと人間の健康との関連性、アルミニウムの水質基準値
の強化などにより、今後、鉄系・高分子系凝集剤を使用する機会が増加することを想定し、
鉄系・高分子凝集剤の概要、水道用凝集剤の基準について、鉄系凝集剤の使用方法、使用
上の留意点、ジャーテスト方法、注入設備について、高分子凝集剤の使用方法、使用上の
留意点、ジャーテスト方法、注入設備について、実証実験実施例の紹介をまとめている。
○ 紫外線消毒ガイドライン
塩素消毒を主体とする塩素処理の補完的処理として、水道事業体が紫外線消毒を検討す
る上で実務上のガイダンスとなることを目的として、紫外線、紫外線消毒装置について、
浄水処理への適用、コスト算出、設計例および日本・海外での導入実施例を掲載している。
○ 上下水道排水一体化処理導入マニュアル
水道事業体が、環境影響低減やコスト削減を目的として水道事業と下水道事業の連携の一つ
である排水一体化処理を検討する際に、活用できるマニュアルとして、上下水道排水一体化処理
をとりまく状況・課題および関係法令について、国内の事例について、環境影響評価につ
いて、導入検討(経済性の検討、技術的な課題と対策、実施検討フロー)まとめている。
2.大規模膜ろ過施設導入技術資料
大規模膜ろ過施設の計画・設計・維持管理にあたって検討すべき事項についてまとめた
ものである。また、膜ろ過施設の導入状況の分析と、水道用膜モジュールおよび膜ろ過設
備について概説し、国内・国外における大規模膜ろ過施設の導入事例を紹介している。さ
らに、最新技術による設計と費用試算のケーススタディの結果を示した。
3.評価手法
処理システムの構築は、原水水質と求められる処理目標水質から処理プロセスの特性や
実績を勘案して適切な処理プロセスを組み合わせることによって行なわれる。そのため、
浄水処理プロセスを総合的に評価する手法が必要となる。
このような背景の下に、プロセス選定図、選定された複数の候補から、建設費、運転管
理費、敷地面積、その他の要因を総合的に考察する際の多次元評価軸レーダーチャートを
作成し、本技術資料をまとめた。
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4.機能改善・改造事例集
近年では、高度成長期に多く建設された浄水場が老朽化による更新時期にかかっており、
各浄水場とも更新・改良工事の必要性が増している。
このような背景の下に、「浄水施設における機能改善や改造事例についての事例調査」
を実施し、本技術資料をまとめた。
5.安全な水供給を目的とした水道水源の監視技術に関する技術資料
安全な水供給を目的とした水道水源監視として、水道水源水質監視システムの構築、水
質リスクの考え方、監視システムの事例、水質データの評価・運用システム、ソフトウエ
アによる水質予測シミュレーションや小規模水道施設遠隔監視システムの技術的提言等を
取りまとめている。
(2005年11月日中水処理技術国際シンポジウム)
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水道事業への業務指標活用について
―水道事業ガイドラインの活用―
横浜市水道事業管理者
水道局長
金近
忠彦
要旨:横浜市では、
「水道事業長期構想」を策定中であるが、その作業において、今年1月
に日本水道協会から規格として制定された「水道事業ガイドライン」の業務指標
(Performance Indicator)を用いて、施策の説明を行っている。
この報告では、
「水道事業ガイドライン」の導入経緯、横浜市の試算結果を用いた
若干の解説、長期計画での指標の使われ方等について概要を述べ、水道事業におけ
るその意義の一端を紹介する。
1 「水道事業ガイドライン」の導入経緯及びその特徴
ア 国内規格の必要性
現在、水道サービスに関わる国際規格の作成が、ISO/TC224 において進行中である。
この規格の特徴として、適用範囲、水道事業の構成要素、評価方法の概念が記載され
る見込みで、業務を定量化するための具体的な業務指標は簡単に例示されるにとどま
る。
ISO の規格それ自身の中で、各国、各地域により環境や水道事業の条件が異なるの
で、それぞれの国が水道規格を作成することを明記している。
このように、国際規格は、実質的には水道事業を定量化する基本概念の記述にとど
まるので、日本の実情に合致した国内規格の制定が必要となったわけである。そこで、
水道事業体が事業運営に活用できる国内規格として、
「水道事業ガイドライン」が日本
水道協会規格化され、平成17年1月に制定された。
イ 「ガイドライン」の特徴
「水道事業ガイドライン」の特徴は、適用任意性を持ち、業務指標を重視し、業務
指標を評価しないなど ISO/TC224 の考え方に準拠している。また、日本が必要とす
る安定給水や事故地震などのリスク管理、環境問題、きめ細かな維持管理及び消費者
サービスなどを組み入れてある。
この業務指標を用いて、水道事業における、施設水準、運転・維持管理の状況、給
水サービスレベル、コスト、財政、職員、環境対策などの様々な項目を定量化するこ
とができ、業務改善や議会・市民への説明などにも役立てることが可能となる。
業務指標は、「安心」22、
「安定」33、「持続」49、
「環境」7、
「管理」24、
「国際」
2 の 137 項目にわたっており、昨年厚生労働省から発表された「水道ビジョン」の考
え方を反映している。
また、すべての業務指標について、「業務指標の定義」
、「変数の定義」が記述され、
「正確性」
、「信頼性」についてコメントがある。さらに、その指標について「解説」
、
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
「留意事項」
、
「関連業務指標」
、
「適用性」のコメントがあり、理解を深めるのに役立
つよう工夫してある。
2 現状の業務指標
業務指標がどのようなものか、横浜市においていくつか具体的な計算例を挙げる。
・1001
水源利用率:63.4%
定義:水源利用率=(一日平均配水量/確保している水源水量)×100
(単位
データ:平成 15 年度年間一日平均送水量
%)
1,190,624m3/日
851,500m3/日
確保水量 実効ある水利権水量
1,026,800m3/日
企業団受水量
計算:1,190,624/1,878,300×100=63.4%
(コメント:横浜市においては、水源水量が十分確保されている。この指標は水源
のゆとり度、水源の効率性を示しており、渇水にはある程度のゆとり
が必要である。
)
・ 2104
管路の更新率:0.83%
定義:管路の更新率=(更新された管路延長/管路総延長)×100
(単位
データ:平成 15 年度年間更新管路延長
〃
%)
73,867m
8,946,300m
管路延長
計算:73,867/8,946,300=0.83%
(コメント:横浜市においては、およそ 120 年で管を更新することを意味している。
管路の信頼性確保に対する執行度合いを示すものであるので、更新計
画の策定が重要である。
)
・ 3201
水道事業に係る情報提供度:3.02 部/件
定義:水道事業に係る情報提供度=広報誌配布部数/給水件数
(単位 部/件)
データ:
「よこはまの水」4,590,000 部、「横浜の水道」30,000 部
「よこはま WATER2003」33,600 部等
平成 15 年度給水戸数
計 4,904,971 部
1,624,555 戸
計算:4,904,971/1,624,555=3.02 部/件
(コメント:水道事業に係る情報の提供度は、事業への理解や透明性の確保等を目
的として行っている広報の活動状況を示す指標である。横浜市のこの
数値が十分なものであるかはこれだけでは判断ができない。
)
・ 5001
給水圧不適正率:1.38%
定義:給水圧不適正率=[適正な範囲になかった圧力測定箇所・日数
/(圧力測定箇所総数×年間日数)]×100
(単位 %)
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145 箇所
データ:測定箇所数
圧力 0.74MPa を越える箇所・日
2 箇所・366 日
計算:[2×366/(145×366)]×100=1.38%
(コメント:圧力は給水サービスの重要なファクタであるが、配水管に設置された
圧力計で測る定点測定のため、横浜市では 2 箇所において年間を通し
て不適正な範囲にある状況が続いている。設置数と場所が問題とな
る。
)
3 長期計画における業務指標の活用
現在、横浜市では、
「中期財政プラン」
(平成 14∼18年度)と「経営改革プラン」
(平成 15∼18 年度)により財政の健全化と経営の改革に取り組んでいるが、長期的
に安定した経営及び確実な施設整備による高水準な水道事業を目指して、平成 16 年
度から「横浜市水道事業長期構想」策定作業に着手している。委員会を設置して様々
な観点から議論していただいているが、施策の説明の中で、数値を用いたわかりやす
い指標で、現状、目標値、達成時期等を明示することが求められた。
そのため、平成 17 年 3 月開催の第5回委員会では、長期構想で検討している施策
の具体的指標のかなりの部分を、
「水道事業ガイドライン」の「業務指標」を用いて
説明した。
採用したのは、「1102
水質検査箇所密度」「1103
連続自動水質監視度」「1105
カビ臭から見たおいしい水達成率」「1107 総トリハロメタン濃度水質基準比」
「1108
有機物濃度水質基準比」「2104
「3023
自己資本構成比率」
「3112
管路の更新率」「2207
直接飲用率」
「3205
情割合」
「4003 再生エネルギー利用率」
「5106
浄水施設耐震率」
水道サービスに対する苦
給水管の事故割合」など 23 項目と
なった。
その際、阪神・淡路大震災の前後における指標値の変化がわかるように、5 年ごと
にさかのぼり H5、10、15 年度を対象とした試算結果(137 項目中 129 項目算出)
を添付した。
ガイドライン以外にも独自の指標を工夫しているが、例えば、
「市民との協働事業
の推進」では、
「水源林ボランティア活動参加者数」や「防災訓練参加者人数」があ
り、
「お客様ニーズに柔軟でスピーディーに対応する組織」では、
「道路漏水事故時に
おける現場到達時間」を選定している。
このようにガイドラインの指標に加えて、それぞれ事業体の実態にあわせた独自の
指標づくりも必要であり、その工夫がより良い事業運営につながるものと考えている。
4 終わりに
試算された業務指標により、サービス、経営、施設水準やその経年変化などが明確
になることで、事業運営の効率化のインセンティブが働くとともに、職員の意識改革
が進むことも期待され、今後の業務改善につながるものと考えている。
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さらに、市民への情報開示にこの業務指標を活用し、数値による客観的な評価をして
いただけるようになると考える。近隣の水道事業体との比較も含め、市民の理解が深
まり、改善要求などの意見も出しやすくなることが期待される。
今後とも試算を継続し、ガイドラインの活用を図っていきたい。
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江戸川をモデルとした水道水源異常水質予測システムの構築
○長岡 裕(武蔵工大)
宇佐美和也(武蔵工大)
藤原正弘(水道技術研究センター)
清塚雅彦(水道技術研究センター)
1.はじめに
水道水源において、シアンの流入などの突発事故に適切かつ迅速な対応するには,原水の状況を
いち早く把握し浄水プロセス系に入る前に適切な処置を講じる必要性がある.上流で検出した汚
染物質の下流への流下状況を予測することができれば、取水停止などの措置を適切にとることが
でき、効率的な水運用が可能となる。本研究は,江戸川をモデル河川とし,上流における水質変
化が下流へ与える影響を予測する水質モデルを構築し,モデル中のパラメータを通常時の水質デ
ータから同定する手法について検討したものである。
対象区間は江戸川本川の
庄和浄水
58.5km 地点の西関宿から江戸川
西関宿
2.江戸川予測モデルの概要
(58.5Km)
水門までとした(図 1).江戸川にお
(43.2Km)
11
件で 15.87m3/s となっており、上
10Km
(17.2Km)
(0.0Km)
(9.3Km)
水は流山より下流地点に多く、農
水は流山より上流地点に多く存在
河口
(24.5Km)
江戸川水門
6 件で
3.23m3/s、および農水が
金町浄水
上水が 10 件で 41.18m3/s、工水が
三郷
ける水利用の状況を、
図2に示す。
図 1 対象区間図。( )内は河口からの距離。
している。
本水質モデルにおける基礎方程式は以下の通りである。
Q
x
A
t
AC
t
・・・(1)
0
QC
x
x
AD
C
・・・(2)
x
ここに、Q:流量(m3/s),A:断面積(m3/s)、C:対象物質濃度,D:拡散係数(m2/s)、a:係数,b:
係数、V:平均流速(m/s)
、x:距離(m) 、t:時間(s)である。
(1)式は開水路における連続の式であり、(2)式は 1 次元移流拡散方程式である.式(2)中
の拡散係数(3)式に示すようには平均流速に依存するとした.
D
aV b
・・・(3)
これらのモデルによって、濃度Cの時間および空間的変化を計算する場合、式(3)中の係数
a,b が未知数となる。また、断面積Aおよび流量Qは実測値を用いるが、断面積Aについては、
経年的な河床形状の変動による誤差、流量Qについては、水位データから流量データに変換する
際の誤差、がそれぞれ付随するため、実測値に基づく校正が必要となる。本研究では、以下の手
順によって、これらのパラメータの同定および校正を行うことを検討した。
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西関宿
58.5
中島用水 0.658
58.2
木津内樋水 2.325
54.4
金野井用水 3.695
46.7
埼玉県庄和 3.465
43.2
二郷半領揚水
9.999
39.6
今上用水 0.320
37.5
南部用水 0.103
31.0
河川内の数値は河口からの距離(km)
四角内の数値は水利権量(m3/S)
39.1
野田市水道 0.103
利根運河
28.2
流山用水 0.810
東京都三郷 13.400
埼玉県新三郷
キッコーマン工水 0.0165
28.0
27.6
メルシャン工水 24.7
北千葉広域 4.877
24.5
4.390
20.5
0.180
19.1
東京都金町 17.535
17.2
小山用水 0.014
千葉県樋之口 0.730
15.8
千葉県矢切
11.7
北越製紙 0.463
10.6
東葛飾南工水 1.589
9.6
王子製紙 0.700
2.460
江戸川水閘門
9.3
江戸川放水路
0.0
東京湾
図2 江戸川の水利用
① データの安定性、および、有毒物質による事故が河川流量が平常時において想定されること
から、平成 14 年 12 月の庄和浄水場および金町浄水場の電気伝導度データを用いる。
② 係数bは1と仮定する。
③ a=0と設定する。
④ 途中で流入する利根運河の流量を 0.75m3/s で一定であるとする。
⑤ 境界条件および流量条件として以下の条件を設定する。
・ 庄和浄水場における電気伝導度の時系列データ
・ 野田観測所における流量データ
・ 江戸川水閘門における水位データ
・ 利根運河からの流入水の電気伝導度Cin
⑥ 金町浄水場における電気伝導度を計算し、実測値と比較(主に濃度レベルを)する
⑦ 最適な Cin を決定する。
⑧ 流量データとして、Q の代わりにαQ を与え、金町浄水場における電気伝導度を計算し、
実測値と比較(主に濃度レベルを)する。
⑨ 最適なαを決定する。
⑩ 金町浄水場における電気伝導度の計算値と実測値と比較し、最適な係数aを決定する。
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計算には、CTI-MIKE11(供給元:建設技技術研究所(CTI)、DHIwater&enviroment、作環境
(推奨スペック)OS:Microsoft Windows 95/98ME/NT4.0+/2000/XP、CPU:Pentium2 200MHz
以上、メモリ:DRAM 128MB 以上、HDD:1GB 以上のフリーディスクスペース、モニタ:
SVGA(1024×768)以上)を用いた。計算のための水理モデルの条件は、表1のとおりである。
表1 計算条件
項目
水理モデル
モデル分割区間
計算ステップ
断面形状
河床抵抗
境界条件
支川流量
取水量
内容
一次元不定流計算
500m
1分
河道の断面形状については、昭和 60 年あるいは平成 14 年のデータのうち、
対象年に近いものを使用した。
河道の粗度係数は、江戸川維持流量の既往調査(江戸川水環境管理検討業務)
より初期値として 0.025 とし、適宜、修正を行った。
上流端:モデル上流端の西関宿において、西宿地点の流量観測値
下流端:モデル下流端の江戸川水閘門上流において、逆流しないように堰を設
けた上で、江戸川水閘門上流における水位観測値
利根運河では水位のみが観測されているため、水位観測値より H-Q 式を用い
て流量を推定した。なお、他の支川は流量および水位の観測は実施されておら
ず、平常時の流量は極めて少ないことから、流量はゼロとした。
できるだけ実績データに基づいたが、実績流量が存在しないものについては、
野田における計算流量が実績流量と程同じとなるように調整を行った。
3.利用したデータ
3.1 期間
モデル検証には、平成 14 年 7 月 1 日∼7 月 31 日、および同年 12 月 1 日∼12 月 31 日の表 2
に示す 1 時間データを用いた。
表 2 モデル検証の用いたデータ
流量
水位
濁度
電気伝導度
○
○
三郷浄水場
○
○
金町浄水場
○
○
庄和浄水場
野田流量観測所
○
江戸川水閘門
○
3.1 濁度および電気伝導度データ
図 3 および図4に平成 14 年 7 月および 12 月の濁度データを示す。7 月 11 日に降雨に伴う濁
度の上昇が見られ、流下に伴ってピーク位置がずれる様子が伺える。
図5∼図8に平成 14 年 7 月および 12 月の電気伝導度データおよび野田流量観測所における流
量データを示す。7 月のデータ(図5)をみると、7 月 11 日以降は降雨に伴って、排水等に起因す
る溶存物質が希釈され、電気伝導度が低下している。また、7 月 12 月ごろには濁度の極小値がみ
られるが、流下に伴ってピーク位置がずれている。また、金町のデータは常に庄和、三郷のデー
タより値が大きくなっているが、途中に流入する排水等の影響によるものと推定される。12 月デ
ータ(図6)には、約 1 日程度の周期の変動がみられるがその原因は不明である。また 3 箇所の
16
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変動を詳細にみると、流下に伴って位相がずれているようすが明確にみてとれる。
450
30
金町
金町
三郷
庄和
400
三郷
25
350
20
250
濁度(度)
濁度(度)
300
庄和
200
150
15
10
100
5
50
0
7月1日
7月6日
7月11日
7月16日
7月21日
7月26日
0
12月1日
7月31日
図3 平成 14 年 7 月濁度データ
12月6日
12月11日
12月16日
12月21日
12月26日
12月31日
図 4 平成 14 年12月濁度データ
1800
350
金町
三郷
庄和
1600
1400
300
流量(m3/s)
電気伝導度(μS/cm)
1200
250
1000
800
200
600
400
150
200
100
7月1日
7月6日
7月11日
7月16日
7月21日
7月26日
図5平成 14 年7月電気伝導度
0
7月1日
7月31日
7月6日
7月11日
7月16日
7月21日
7月26日
7月31日
図6 平成 14 年7月野田観測所における流量
350
120
金町
三郷
庄和
100
80
250
流量(m3/s)
電気伝導度(μS/cm)
300
200
60
40
150
20
100
12月1日
12月6日
12月11日
12月16日
12月21日
12月26日
図7 平成 14 年 12 月電気伝導度
4.
12月31日
0
12月1日
12月6日
12月11日
12月16日
12月21日
12月26日
12月31日
図8 平成 14 年 12 月野田観測所における流量
水質モデルのパラメータ同定結果
図9、図10にパラメータ同定結果を示す。利根運河からの流入水の電気電気伝導度は 2,000
μS/cm、流量の補正係数αは 1.4 と同定された。また、拡散係数に関わる係数aの値は明確に同
定することは困難であり、図にはa=10 と a=100 の結果を示した。
17
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
350
340
α=1.4 C=2000(μS/m)(a=10)
290
α=1.4 C=2000(μS/m)(a=100)
330
285
金町電気伝導度実測値
280
310
電気伝導度(μS/cm)
電気伝導度(μS/cm)
320
300
290
275
270
265
280
270
260
260
255
250
12月1日
250
12月5日
α=1.4 C=2000(μS/m)(a=10)
α=1.4 C=2000(μS/m)(a=100)
12月6日
12月11日
12月16日
12月21日
12月26日
12月31日
図 9 平成 14 年 12 月電気伝導度データ
観測データ
12月6日
12月7日
12月8日
12月9日
12月10日
図 10 平成 14 年 12 月電気伝導度データ
のパラメータ同定結果
のパラメータ同定結果
5.まとめ
庄和浄水場および金町浄水場における電気伝導度時系列データを用いて、水質モデルのパラメ
ータ同定手法について検討した結果、以下の結論が得られた。
(1) 河川の 2 地点の電気伝導度データの時系列データを用いて、流れの状態に関するパラメ
ータを同定することが可能である。
(2) 支流からの流入がある場合は、その負荷量の影響の評価が必要であるが、ある程度はそ
の影響を推定することが可能である。
(3)流量データの修正(流下時間の修正)はある程度の精度で可能であった。
(4)拡散係数の同定は、短周期(1 日程度)の変動データを用いれば可能である。しかしなが
ら、より精度の高い同定方法を今後検討することが必要である。
謝辞
水道原水のデータを提供していただいた各水道事業体に感謝の意を表する.また,本研究は,厚
生労働科学研究費補助金による環境低減化浄水字術開発(e-Water)第 3 研究グループ委員会の研
究の一環として行ったものである。
18
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
相模川における取水堰の水理模型実験
富井 正雄(神奈川県内広域水道企業団)
1.はじめに
表-1 相模大堰の諸元
神奈川県内広域水道企業団は、首都東京の
南西部に位置する神奈川県において、横浜、
2
流域面積
1,680km
流路延長
113km
河川の 計画河川勾配
諸元 計画高水流量
川崎、横須賀3市の水道局と県営水道局(12
市 9 町)に水道水を供給する水道用水供給事
堰上流:1/580、堰下流:1/830
7,300m3/s(1/150確率)
3
豊水量
46.4m /s(22年間平均)
業体である。経済発展に伴う県内の急速な人
平水量
28.1m /s(22年間平均)
位 置
相模川河口より12.0km地点
口増加と水需要の増加に対処するため、4水
型 式
可動堰
道局は共同で3次の水源開発を行ってきたが、
河川幅495m(可動部293.5m)
3
堰諸元 取水位(及び敷高) T.P+10.0m、(敷高:T.P+7.4m)
更なる需要に対処するため企業団を設立
洪水吐
(1969 年)し、現在、企業団として第2次の
調節ゲート付洪水吐 純径間40.0m×扉高2.75m×2門
水源開発と水道施設の整備を実施している。
主魚道 幅 3.5m×2(左右岸共)、勾配1/20
純径間42.0m×扉高2.75m×4門
土砂吐
純径間21.0m×扉高3.25m×1門
魚 道 副魚道 幅 2.0m×2(左右岸共)、勾配1/20
企業団の第2次の水源開発は、県の中央を
呼び水施設(左岸:呼び水管、右岸:呼び水水路)
流れる相模川の上流にダムを建設し、河口か
取水口 高さ2.0m×幅18.0m
ら 12km地点に取水堰(相模大堰)を設け、原水を新浄水
場へ取水・導水するものである。本報告は、取水堰の実施
設計に先立ち、計画段階において実施された水理模型実験
(以下「実験」という。
)の概要と完成後の堰周辺の現況に
相模大堰は、計画1日最大取水量 1,379,000m3 の原水を
取水する堰で、諸元は表−1のとおりである。
2.水理模型実験の目的と背景
実験は、概略設計で提案され
た堰の基本形状及び、堰上下流
河道整備計画の妥当性の検討を
Flow
取水口
堰付近の流況・河床変動の水理
Flow
相模大堰
目的として行われたものである。
河川改修や堰の設置等による
実験対象範囲(No 9.0km まで)
ついて報告するものである。
No 15.0km
No 12.0km
可動部 293.5m
河川幅
495m
現象には3次元的な流れの要素
が影響することとなる。また、
河川低水路全幅に施設
が設置されるため、河床の変動
図2 堰部平面図
図-1
実験対象位置
についても河川の上・下流域に影響を及ぼすこととなる。このような流況・河床の変動は
机上の水理検討のみでは正確に現象を把握することは困難であるため、相模大堰の規模、
19
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
施設の重要度を考慮し、相模川の対象区間 6.0km(河口から 9.0km∼15.0km)を水理
模型で再現し、実験により相模川の水理特性、堰が相模川に与える影響、相模川が堰に及
ぼす影響及び堰建設によ
り
生じる諸問題について把
握
することとした。
(図−1,
2,
3)
3.実験計画と模型製作
(1) 模型縮尺
模型縮尺の決定にあた
っ
ては、①流れの性質(相
図−3 堰部河道縦断図
似則)
、②施設規模、③河床材料の粒径等、及び④経済性を考慮する必要がある。模型縮尺
が小さすぎるとフルードの相似則が満足できず、模型河床材料の粒径(0.6mm 以上)につ
いても選定が困難となる(1/56 以上)。また、小規模河床形態の相似を満足させる必要が
ある(1/58 以上)。しかし、模型縮尺を大きくしすぎると施設規模が大きくなり経済性も
悪くなる。これらを勘案して模型縮尺を 1/50 とした。
(2) 移動床の設定
水理模型は固定床模型では河床へ与える影響が把握しにくいことから移動床による実験
を行うこととした。しかし、模型の製作において河川断面全てを移動床で製作することは
困難であるため、堤防、高水敷等、洪水において河床変動の生じない区域は、固定床とし
て製作した。
(3) 平面形状
平面形状は、河川横断測量等及び航空写真により設定した。(図−4)
(4) 河床材料の選定
模型に用いる河床材料の選定のため、実験対象区間で計 36 地点の河床材料を採取し、
範
15.0km
14.0km
帰還 水路
囲
13.0km
12.0km
11.0km
10.0km
沈砂 池
9.0km
粒径分析を行った。
河川中央部の河床川材料について見ると平均粒径は 20∼40mm 程度の
流 入部 助走 区間
分
布
Flow
移 動床
固定 床
流 量測 定堰
水 位調 節ゲ ート
河道 整備 部( L =1 20 m)
図4 模型概略図
に
し
て
お
り平
均は 34mm 程度である。河床材料の比重は 2.58∼2.75 程度の分布となっており、平均値
は 2.66 である。模型の河床材料としては、粒度分析を行って現地河床材料を 1/50 として
20
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
再現できる模型河床材料を選定し採用した。
4.全体模型実験
表−2 模型ケース
4−1 実験内容と検討項目
全体模型を用いて現況河川と堰設置後の河床状
河道形態
堰の有無
①
現況河道
況・流況等を比較し、堰設置後の影響について検討
②
現況河道・仮締切り 3期、一部
す
る。①河道整備計画の検討:堤防護岸等の計画を鮮
③
低水路一部整備
有り
明
④
全川整備河道
無し
⑤
全川整備河道
有り
にする。②仮締切り時の問題点に対する対策工の検
③堰設置河道における問題点の把握と対策工の
無し
表-3 洪水種類と測定項目
討:取水口付近の堆砂状況を確認し安定取水に
洪
水
の
種
類
て検討する。④全川整備河道における問題点の
と対策工の検討。⑤堰本体形状の検討:護床工・
ロンの規模の検討。
4−2 模型及び測定項目
(1) 模型
模型ケースは表−2のとおり5ケースとした。
測
定
項
目
討。
検
1,000m3/s
仮締め切り計画流量
つい
1,500m3/s
低水路満杯流量
把握
3,000m3/s
確率年1/5
5,000m3/s
7,300m3/s
計画高水流量
河床変動測定
河床コンタ測定、洗掘・
堆砂量の測定
流況観測
流況・水位縦断
エプ
流速分布
備考:実験流量は、相似則から1/17,678となる。
(2) 洪水の種類と測定項目
洪水の種類と測定項目は表−3のとおりとした。表―2の模型ケースにおける検討項目
にあわせて実験流量をそれぞれ選定し実験を行った。
5.実験結果
(1)
現況河道
実験での流況・河床変動状
堰
況によりほぼ模型の再現性が
確認された。粗度係数は、中
東名橋脚
Flo
小洪水時では河床波の発達も
少なく計画粗度係数
n=
0.035 に比べて小さい 0.030
程度となった。しかし、流量
堰
東名橋脚
の増大に伴い粗度も増加の傾
向となりQ=5,000m 3 /s程
度でほぼ計画粗度係数となっ
た。
(2)
図−5 流況(上)・河床変動(下)状況図
仮締切り時
3期の仮締切りによる施工計画に合わせ、期別に仮締切り条件の実験を行ったが、河道
に与える影響が最も大きいのは、左岸に寄っているミオ筋部を施工する1期目である。1
期目においては仮締め切り工部において大きな洗掘が生じる結果となったが、導流壁対策
21
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
工により解消を図った。
(3)
堰設置時
堰設置に伴う堤防・低水路整備河道形状は、No.12.2km 上流区域の蛇行流の影響を受け
る。
No.12.2km 上流区域の砂州を現況のままとした改修は、低水路満杯流量時の流れにより
低水路護岸沿いが洗掘される。洗掘は護岸の安定に影響を及ぼすと共に、洗掘により発生
した土砂は、堰部・取水口前面に堆積し安定取水に影響を及ぼす結果となった。そこで、
堰設置にあたっては蛇行流の影響を低減するために No.12.4km 左岸部の水衝緩和のため
数連の傾斜型水勢工を設置した。右岸部の砂州(12.2km∼12.8km)については、上流区
域の蛇行流の影響により発達傾向にあり、河道形成の時間スケールで考えれば将来的には
砂州が形成されると思われるが、現況のような砂州が形成されるには、上流からの土砂の
供給も減少するため 10 年∼20 年の長い期間が必要であると判断された。
(4)
全川河道整備時
河道の全川整備により、No.15.0km 付近の狭窄部と下流の No.13.6km 付近の砂州によ
る影響を受けていた河道特性が消失す
るよ
うになり、全断面一様な安定した流れ
堆
るため、大きな河床変動は生じない。
低水
路満杯流量の長時間通水により砂州の
成・蛇行流の発達が見られるが、
砂州の
Flow
取水堰
には長時間が必要である。
(5)
とな
堆
形
形成
取水口
堰位置と構造について
堰設置河道実験、全川整備河道実験
より
堰が床止め機能の肩代わりをすると考
えら
れ、勾配変化点付近である No.12.0km
図6 2000 年 堆砂状況図
に堰
が設置されるのは妥当な位置である。
また、
水叩き長、護床工の規模については、
堰下
流部の洗掘状況・流況から妥当である
断された。
Flow 取水堰
堆
と判
取水口
6.実験後の検証
堰建設は3期(渇水期3ヵ年)に分
けて
建設され、実験により得られた仮締切
りの
対策等を行うことにより仮締切り部の
図7 2003 年 堆砂状況図
な洗掘もなく工事は 1998 年に竣工し
大き
た。
また、堰建設時に相模川で実施された堰上下流の河道整備は、実験で得られた結果を踏ま
えた水勢工を設置するとともに、自然環境にも配慮した多自然型川造りが行われている。
堰は建設後、既に7年が経過し、実験で知り得た相模川における水理的特性が実地でよ
うやく検証できる段階に至っている。企業団では堰建設後、堰周辺の堆砂状況の経年変化
22
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
を観測している。
(図−6、7)これによれば、上流部堆砂量に増減はあるもののほぼ安定
している。またその堆砂位置は堰の右岸側に偏っている。堰の右岸側に砂州が形成され取
水口周りへの土砂の流入が極力抑えられている状況は、当初の実験結果と概ね合致してい
る。
7.まとめ
実験で得られた相模川の河道特性が堰に与える影響等と実地での検証を行いながら安定
取水のため堰管理を実施していく必要がある。
23
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
阪神水道企業団における地球環境問題への取り組み
Global and environmental considerations in The Hanshin Water
納 庄 秀 成(阪神水道企業団)
Hidenari NOSHO(Hanshin Water Supply Authority)
1.はじめに
阪神水道企業団は、神戸市を含む阪神間 4 市の 250 万人を給水対象とする用水供給事業
体で、この形態としては最も古い歴史を有する。水源の淀川は、琵琶湖を上流に持つ日本
を代表する都市河川の一つである。
N
0
30
Lake Biwa
Kyoto
Service area
Yodo River
Tokyo
Kobe
Figure 1
Osaka
Outline of Lake Biwa - Yodo River system and Hanshin Water
この水道水源としている淀川水系の水循環に異変が生じていることを示唆したものが、
図 2 である。40 年間の水温と気温の変化で、阪神水道企業団の猪名川浄水場のデータに基
づいている。
気温は多少の変動はあるものの全体傾向としては横這いとなっている。
一方、
水温は期間を通して上がり傾向であるが、20 年ずつの前後半に大別するとより明確となる。
前半の 20 年は横這いで、後半の 20 年は右肩上がりが著しく、1.5℃の上昇が見られる。
水温の上昇は地球温暖化の現れの一つとして大きな意味を持つが、さらに水温と気温の差
に着目すれば、
1980 年頃までは 1℃ないし 2℃あった差が、
近年ではなくなってきている。
すなわち、旧来からの水循環に何らかの異変が起こり、気温の影響を受け易い部分を主流
とする水の短絡現象が生じているものと推察される。そして、水循環における短絡の発生
は、端的にいうならば、渇水や洪水の誘因となりうる。進行する地球温暖化、水循環の異
変というような環境の変化に対して、水道がこれから目指すべき方向の一つは、他ならぬ
地球環境問題への取り組みであると考える。
本稿は、阪神水道企業団が取り組んできた様々な省エネルギー対策による CO2 の排出量
削減や浄水残渣の再資源化、並びに環境問題に対する需要者とのパートナーシップを築く
ための活動についてまとめたものである。
24
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
20
Air Temp
Water Temp
Temperature(℃)
19
18
17
16
15
1960
1970
1980
1990
2000
Year
Figure 2 Changes in water and atmospheric temperatures
2.省エネルギー対策
阪神水道企業団には、主力の猪名川浄水場(916,900m3/d)と最新鋭の尼崎浄水場
(373,000m3/d)の 2 つの浄水場がある。水源水質の変化に対応するために、1993 年から
2001 年にかけて、中オゾンや活性炭流動層を主とした新しい浄水技術への転換を行ってき
た。一方、水輸送の主軸をなす導送配水管路の延長は 185km で、主送水ポンプの実揚程
はおよそ 100m となっている。
2-1 導送配水施設
ポンプ動力は回転数の 3 乗に比例するため、速度制御は動力の節減効果が著しい。阪神
水道企業団では 1960 年代から積極的に速度制御方式のポンプを導入してきた。近年では、
高圧大容量機の速度制御方式については、静止セルビウス装置より省エネルギー、省スペ
ース、作業環境に優れたインバータ方式へ移行してきている。
管路については、既設管路と並行した新規管路の布設や並列運用を行うことによって、
管路抵抗を低減化している。また、水運用センターからの計画的効率的なポンプの運転や
調整池の有効利用における夜間電力の活用によって、電力の使用量低減化と平準化を図っ
ている。
2-2 浄水施設
浄水施設に係る使用電力量では、オゾン処理施設の占める割合が最も大きい。阪神水道
企業団では 1993 年から順次、オゾン処理施設の稼働を開始し、溶存オゾン濃度の制御目
標値を 0.2∼0.3mg/L とした運転操作を行ってきた。
導入当初は市販の溶存オゾン濃度計の信頼性が乏しく、従って溶存オゾン濃度を手分析
にて測定し、その都度手動によりオゾン注入量の設定を行っていた。その後、信頼性の高
い計器の開発にも自ら関与し、溶存オゾン濃度の自動連続測定と、フィ−ドバックによる
自動制御を確立することができた。これによって、図 3 及び表 1 に示したように、残留オ
ゾン濃度の変動係数が格段に向上し、単位水量当たりの電力量も 30%以上削減することが
可能となった。
25
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
W.T.(cent.)
Phase-1
Ph ase-2
P hase -3
40
30
20
10
0
3 .5
3 .0
Ozone(mg/L)
2 .5
O zone dose rate
2 .0
1 .5
1 .0
R e sidual ozone
0 .5
0 .0
8 12
1993
4
8 12
1994
4
8 12
1995
4
8 12
1996
4
8 12
1997
4
8 12
1998
4
8
1999
Figure 3 Changes in ozone dosage and residual ozone concentration
Table1 Variation coefficient of residual ozone concentration
Residual Average
Standard deviation
Coefficient of
variation
Phase 1
0.40 (mg/L)
0.177 (mg/L)
45%
Phase 2
0.35 (mg/L)
0.093(mg/L)
26%
Phase 3
0.25 (mg/L)
0.028(mg/L)
11%
2-3 原単位の推移
供給水量と原単位の経年変化を図 4 に示す。オゾン処理や活性炭処理等、新しい浄水プ
ロセスの追加に伴う電力量及び原単位の増加要因はあるが、ポンプ更新や管路水運用、オ
ゾン注入制御等における省エネルギー対策によって、阪神水道企業団の動力原単位は 1960
年当時と同じく 0.6kWh/m3 付近にて推移している。
30
0 .7
0 .6 5
Lay of parallel pipes.
Ins tallation of highefficienc y pum p s.
20
0 .6
15
0 .5 5
10
Lay of parallel pipes .
Installation of higheffic iency pum ps.
S tart of c entral co ntrol
center.
Lay of para llel pipes.
Ins tallation of highefficienc y pum ps .
5
W a te r s upply
0 .5
S tart of ad vanc ed
w ater treatm ent.
0 .4 5
Unit c o ns umption
0
0 .4
19 56
19 61
1 9 66
19 7 1
19 76
1 98 1
1 98 6
1 9 91
1 9 96
2 00 1
Figure 4 Changes in quantity supplied and basic unit
26
Unit consumption(kWh/m3)
Water supply (×107m3/year)
25
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
3.エネルギー源と熱利用
尼崎浄水場は新しい浄水技術への転換と阪神淡路大震災からの復興を兼ねて全面改築
を行い、2001 年 4 月に新しい浄水場に生まれ変わった。浄水技術の最適化に限らず環境
技術も総合化した浄水場として運転を開始した。環境技術の特徴としては、非常用電源の
確保と浄水場で増加する熱需要への対応のため、天然ガスを燃料とした発電と共に排熱利
用を行うコージェネレーションシステム(CGS)を導入したことに特徴がある。
<本項内容は 2003 年日中水処理技術国際シンポジウムで発表済み>
4.浄水残渣の再資源化
浄水処理過程で分離される固形成分は、主に沈澱スラッジや濾過池の洗浄排水に由来す
る。場内で生じる各種排水は水質汚濁防止法の規制と水資源を有効利用する観点から、原
水として再利用するクローズドループを採用している。なお、発生するスラッジの大部分
は機械により脱水処理している。
尼崎浄水場では CGS の排熱を利用した造粒乾燥装置で、スラッジをペレット状に造粒
する。この造粒ケーキは、園芸用土としてそのまま使用することが可能であり、浄水残渣
の 100%有効利用すなわち再資源化を実現している。
<本項内容は 2003 年日中水処理技術国際シンポジウムで発表済み>
5.需要者とのパートナーシップ
事業者側と需要者側が互いのパートナー
シップに基づいて、気候への影響や省エネ
ルギーの重要性を共通して認識するととも
に、水源の水質保全や水資源の長期的確保
さらには健全な水循環の回復等への戦略を
創造していかなければならない。
水道事業者が需要者の理解を得ていくた
めの良好なパートナーシップを築くうえに
おいて、積極的な情報提供と広報活動は不
可避と考える。阪神水道企業団では従来、
安全性を確保する必要性から水道施設への
関係者以外の立ち入りを制限していたが、
2001 年4月から営業運転を開始した尼崎
浄水場は、水道や水源、環境に関する情報
を発信するための施設(見学通路、展示室
等)を整備し、安全性を前提としながらも
市民が気軽に浄水場を見学できるようにな
っている。来場者へのデイリーレポート
(図
Figure 5
27
Daily report for visitors
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
5)の配布や、インターネットのホームページを通じた情報発信とあわせて、定期的な浄
水場見学会を開催するなど、需要者が水道をより身近に感じられるような活動を続けてい
る。
6.おわりに
日本の水道における総給水量は 164 億 m3/年であり、この数字は、国内の総貨物輸送量
が 57 億㌧/年であることから、総貨物の 3 倍近くの量の水が輸送されていることを表して
いる。水道の年間の電力使用量は約 77 億 kWh で、わが国の総電力使用量 8,582 億 kWh
に対しては 0.9%であるものの、動力費が給水コストに占める割合からも省エネルギーの努
力を求められている。一方、排水処理で生じる脱水ケーキは年間約 25 万㌧で、有効利用
率は全国ベースでは 48%にしか達しておらず、環境負荷の低減すなわち循環型社会の観点
からも再資源化は不可避となっている。
水道で進めていくべき地球環境的配慮については、営業費用で賄う修繕工事の範囲では限
度がある。日本の水道は普及の時代を終えて維持管理の時代となり、高度成長期に構築され
た施設も抜本的な更新を必要とされる時期になってきている。そのため、施設更新の機会を
的確に捉えて、環境技術の総合化を推進しなければならない。配慮から指針、続いて行動計
画へと、具体的方策によるステップアップが必要である。
「21 世紀は水の時代」とも云われ、健全な水循環を取り戻すことや、水の需給バランス
をグローバルに保っていくことの重要性と困難性が指摘されている。わが国において、最
も身近に接することができる水は「蛇口の水」である。蛇口の水を通して水道利用者の一
人一人が、水源状況や浄水技術、水輸送、消費エネルギー、浄水残渣等への認識を高め、
地球環境問題に立ち向かっていかなければならない。水循環の一端を構成している上下水
道事業には、持続可能な環境と経済のために、情報管理と行動計画を積極的に展開してい
く責任がある。水道における水質管理はもとより、環境対策や情報技術を総合化した取り
組みが必要となってきている。
付記:本稿は下に示した 3 つの発表原稿を抜粋してまとめたものである。
1. Sasaki T. (2002)
Global and environmental considerations in drinking water
supply. The 2nd Japan/US Governmental Conference on Drinking Water Quality
Management and Wastewater Control.
2. 佐々木隆、木山芳雄、込山健二、津田秀樹 (2003)
物質収支の考え方に基づく浄水場
への環境技術の導入 第6回水道技術国際シンポジウム
3. 汐崎淳、佐々木隆、橋本利明、上嶋善治 (2003)
合質管理
第6回水道技術国際シンポジウム
28
需要者側の視点に立った水道水の総
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
都市部水需要分析に関する研究
― その2
水需要予測の現状と展望 ―
○陳
建 湧(株式会社石垣)
水需要予測手法の変遷
京都大学の住友教授は、「成熟水道での需要予測法に関する一考察」一文のうち「多く
の水道事業体では、すでに限りなく100%普及の状態にある一方、水道整備の根幹となる需
要の将来予測法は、過去の実績に基づく何らかのトレンド方法を採用するのが一般的であ
る。過去の実績から将来を予測するとは、合理的に見えるが、極めて重要な問題点を秘め
ている。」と成熟水道の需要予測に一石を投じた。
日本の人口予測では、下図のように2006年にピークを迎え、その後、下降傾向に変わる。
いわゆる、100%普及に近づくと、人口増が下降傾向になると給水量は横ばいまたは減少傾
向となる。その横ばいまたは減少傾向の給水実績から将来を予測すれば、水道施設能力も
横ばいまたは減少傾向となる。しかし、同じ図のなか、高齢化率が著しく増加し、反面世
帯人員は類のないスピードで減少していくことから、高齢化と核家族化社会へと着々進ん
でいる。当然、在宅時間増に伴う給水量の変化並びに、国民の水道水への意識にも左右さ
れることなど、幾つかの理由が重なり、水需要予測には従来のトレンド方法の限界が見え
てきている。
29
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
水需要予測の現状
現在、水需要予測は主に「水道施設設計指針・解説」に記載されている需要予測法で行
っている。
ここでは、これらの需要予測方法を簡単に紹介し、詳しくは水道施設設計指針・解説を
参照されたい。
従来の水需要予測では、主に全体的な予測とやや細かい用途別予測、口径別予測がある。
全体的な予測としては、(1)時系列傾向分析による推計、(2)回帰分析による推計、
(3)使用目的別分析による推計等がある。用途別予測としては(4)用途別推計があり、
そのうち生活用水、業務・営業用水、工場用水に分けって推計する。口径別予測は、管路
の口径別使用水量をそれぞれ推計する方法である。
(1)時系列傾向分析による推計
過去の水使用量あるいは原単位や、人口等の傾向が今後も続くものと仮定し、実績値
に最も良く適合する傾向線を用いて推計する方法である。傾向線は最小二乗法によって
求められ、下記の5種類の式が記載されている(水道5法とも呼ばれる)。当然これらの
式以外にも傾向線は無限に存在する。将来の計画目標や飽和値等が設定できるのは、e
ロジスティック曲線のみである。
a)年平均増減数式
y ax b
b)年平均増減率式
y
r )x
y0 (1
c)修正指数曲線式
y
K
ab x
d)べき曲線式
y
Ax a
y0
e)ロジスティック曲線式
y
1
K
e (a
bx )
(2)回帰分析による推計
水需要の変動に関係が深い社会・経済等の要因を説明変数として回帰モデルを設定し、
これに説明変数の将来値を与えて推計する方法である。回帰分析には、説明変数が単数
の単回帰分析と複数の重回帰分析がある。この方法は、時系列傾向分析と同様過去のデ
ータのみに依存しているため、将来社会・経済の大きな変化が生じないという仮定を暗
黙のうちに必要とされている。
30
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
回帰式は一般に次式で表される。
Y:使用水量(m3/日)
又は原単位(l/人・日)
Xi:説明変数(i=1,2,…n)
bo:定数項
bi:回帰変数(i=1,2,…n)
ここで回帰分析における説明変数の
例を右表に示す。
(3)使用目的別分析による推計
水使用行動等に着目して、水需要を
構成する使用目的ごとに将来の水需要
量を予測し、積み上げる方法である。
この方法は、生活行動面で実感として
理解し易い利点があることから、主と
して、生活用水の推計に用いられる。
生活用水を使用目的別に、洗面・便所
等の個人目的と、洗濯・炊事等の世帯
目的に大別し、実態調査等により基礎
的水量を算出し、これに水使用機器の
普及率や洗濯等の水使用行動の回数、
給水人口、世帯数等の将来値を乗じて
使用目的別に推計するものである。
この方法による推計例として、右の
表に生活用水の使用目的別計算式を示
す。この方法は具体的にイメージが湧
く反面、極々の基礎水量や回数の把握
が難しく、これらの将来の不確実性も
大きく、さらには誤差の蓄積にも注意
する必要がある。
(4)用途別推計
用途別推計は、使用水量を用途別に分類し、用途ごとに推計するものである。なお、分
類に当たっては、下の参考表に示す用途別標準分類表を参考とする。 この方法による標準
的推計手法は、参考図のとおりである。詳しくは水道施設設計指針・解説を参照されたい。
そのうち特に生活用水等の推計については、次の事項に留意する必要がある。
31
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
・ 生活用水は、水洗便所の普及、
快適性や利便性を備えた水使
用機器の普及、新しい生活習慣
に伴う水使用行動の変化及び
核家族化の進行等による増加
要因に対して、節水意識の高揚、
節水機器の開発・普及等による
減少要因が考えられる。
・ 将来の水需要は、住環境の改善
に伴う風呂、洗面所の大型化や
水使用機器の普及、シャワーの
設置と利用の増加、洗濯回数の
増加などの増加要因と、外出・
外食化傾向、レトルト食品の利
用、節水行動などの減少要因と
が重なり合って形成されるも
のであり、過去の需要動向もま
た、その時の要因の複合作用に
よって生じたものである
ことから、これらの要因に
ついては十分に調査分析
を行う。
その他の水需要予測手法
(1) システム・ダイナミ
ックスによる水需要予
測(都立大学 小泉教
授)
現在まで多くの都市にお
いて、地域・都市計画のフ
レームの下で水道計画は策
定されてきた。例えば、宅地開発、工場誘致、交通綱の整備等の結果を受けて、水道の
整備が進められるという過程が繰り返されてきた。しかしながら、水需給が逼迫してい
る地域における都市では、水道計画から地域・都市計画へのフィードバック、すなわち、
水道を考慮した地域・都市計画の再検討も必要となってきている。
このためには、水道計画主体が都市の根幹的施設である水道の立場から、地域・都市
計画をはじめとする各種計画に対して提言する必要がある。したがって、この場合の水
32
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
需要予測の目的は、都市の将来水需要が各種計画の下で、どのように変化するかを把握
することである。ここで提案する水需要予測は、都市の水需要を各種計画との関連の下
でダイナミックに把握するシステムモデルを作成し、
これにより、将来水需要変化過程を分析するものであ
る。右図に水需要予測のプロセスを示す。この方法は、
都市の水需要を予測するものであると同時に、種々の
計画の下での政策実験を行うことができ、水道の立場
から見て危険な政策あるいは好ましい政策を発見する
ためのものであるといえる。
・水需要要因の構造化
都市の水需要に影響を与えていると考えられる要因
はきわめて多く、しかも、それらの要因は互いに複雑
な関連を有している。水需要要因の抽出に関しては、
データの取得の難易、さらには経年的収集の可能性を
考慮する必要がある。これらを考慮して抽出した水需
要要因相互の関連の有無をもとに、ISM(階層構造化)
手法の応用により、水需要要因関連図を作成する。
水需要要因を人口動態に関する人口セクター、産業
活動に関する産業セクター、水需要変動に関する水需
要セクターの3種に大きく分類している。これらのセク
ター間には、人口セクターより産業セクターの業務従
業者や工業従業者に影響し、産業セクター並びに人口
セクターが水需要セクターに影響しているという関連
がある。
また、計画に関する要因としては、例えば以下のも
のが考えられる。
①給水普及率:水道計画
②水洗普及率:下水道計画
③宅地出養:都市計画
④工場敷地面積:土地利用計画
これらの計画による影響は、人口・産業セクタ
ーの各要因および水需要セクターの生活用・業務
営業用・工場用水需要を変動させ、最終的には都
市全体の水需要を変動させる。したがって、水需
要要因の関連をモデル化することができれば、各
種計画をシナリオとして設定することにより、計
画が水需要に及ぼす影響を把握することができる。
・システム・ダイナミックス
33
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
システム・ダイナミックス(System Dynamics,以下SDと呼ぶ)は、システムを構成す
る要素間の因果関係をできるだけ把握した上で、個々の要素の制御とそれに基づく関
係を差分方程式で表現し、その連結によリシステム全体の状態を表そうとするもので
ある。このSDはJ.W.Forresterによって提案されたものであり、彼は都市システムの
種々の構成要素間の相互作用に対し分析を加え、都市問題の本質を解明しようとして
いる。
システム・ダイナミックスの基本的概念はレベル、レイトおよびフローである。レ
ベルはシステム内の流れ(フロー)の集積であり、
システムの状態量を示すものである。
レイトはレベル内のフローの大きさであり、
レベルの集積量を増減させる役割をもつ。
つまり、レベルは積分値であり、レイトは微分値として認識することができる。さら
に、レイトをコントロールしたり、分析過程の情報を取り出す際には補助変数が使用
される。以上の関連図を図示すると右図のようになる。
次に重要な概念はフィードバックループである。これはレイトおよびレベル変数か
ら成り立っており、図の破線で示される様にフローをコントロールする働きを示すも
のである。そして、SDの特徴として、関数間に存在する非線形な関係を取り扱いやす
いこと、並びに時間遅れを記述しやすいことの2点があげられる。これらの特性は、シ
ステムの中に人間の行動が介在する場合にきわめて有効である。なぜなら、人間の意
志決定には非線形的な行動が多く、しかも必ず時間遅れを伴うからである。
(2) アンケートによる実態調査をもとにした水需要予測
都市における水道の多くは給水普及率の上昇に伴い、水道施設の建設に終始していた時
代を経過し、水道施設の維持管理や水道経営に重点を置くようになってきた。つまり、既
に建設された水道施設を見直すとともに、水使用者への水量・水質に関するサービスの充
実を図り、将来とも安定した水供給を継続することが、今後の重要な課題となってきてい
る。
このような課題に対処するためには、都市における水使用の実態を綿密に把握し、水使
用者の水道に対する意識をも知っておくことが必要である。
前述した従来の水需要予測では、水需要を使用目的別細分化して把握し、例えば、生活
用水の場合、洗濯、風呂、炊事、便所、手洗・洗面といった水量に分割している。しかし
ながら、現有の給水装置の構造上、一般家庭における水使用目的別水量測定調査は、ほと
んど不可能であり・計測を行ったとしてもきわめて少数のサンプルで分析することになる。
一方、アンケート調査による実態調査では、使用目的別水量を定量的に把握できないも
のの、標本抽出論に基づいた数多くのサンプルにより、都市全体の水需要構造を分析する
ことができ、しかも水使用者の意識に関する分析も可能である。
アンケート調査を行う際に、常に問題となることの一つにアンケート項目がある。この
項目は当然のことながら調査目的によって決定されるものであるが、水需要の実態を把握
するための項目はきわめて多い。しかしながら、数多くの項目についてアンケート調査を
行うと回収率が低下し、しかも結果としての回答率も低くなると言われている。そこで、
アンケート項目をISM(Interpretive Structural Modelling)手法等により構造化し、項目
34
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
をしぼる工夫もなされている。
この手法による一例として、A市における生活用水需要実態調査のためのアンケート項
目は以下の5分類となっている。
a)世帯属性:職業、家族数等
b)生活特性:家の種類、家の型式、部屋数等
c)水使用機器:水洗便所、シャワーの保有、風呂入浴回数、洗濯回数等
d)水使用者意識:水の使い方、水圧、水質、水道料金等
e)住環境:水はけ、ほこり、悪臭等
水需要予測の展望
最近社会経済の変化と共に、水需要予測も進化してきており、そのうち、供給者側の情
報提供と需要者である市民の意識が重視されるようになった。
また、経済意識を積極的に取り入れ、水需要の動向と経営の方向を両立させず、お互い
に牽制し合うものと考えて、水需要予測を行えるようになって来ている。
さらに、IT 技術の進歩に伴う水需要予測の変化も見られた。GIS を利用したブロック別
水需要予測(横須賀市水道局)
、使用目的別水量実測からみた時間変動特性の将来予測(立
命館大学)
、生活用原単位と年齢別人口構成との相関に関する一考察
(神奈川県企業庁)等、
何れも多量なデータを用いて、データベースの技術を駆使して行えるものである。
水需要予測はダイナミックス的な発想で、水需要に関わる水使用機器、水使用行動そし
て水使用意識を十分解明した上、水需要予測モデルを構築することが望まれる。
但し、生活リズムの多様化による水使用パターンの複雑化で、水需要予測モデルの構築
には多大な困難を与えられた。
これからの水需要予測は、以下のような方向に変化していく可能性が高い。
・ より詳細な調査で水使用行動と意識を反映できるような水需要予測
・ 過去のデータを出来るだけ細分化して蓄積することにより、過去データの分析で時
系列的な水需要予測
・ 水使用の変化に振り回されず、料金などの調整で水使用指導型な水需要予測
参考文献
○
「水道施設設計指針解説」
○
「事業体アンケートによる最近の配水実態解析(立命館大学)」第44回全国水道
研究発表会
○
2000年版 社団法人日本水道協会
平成5.5
「東京都多摩地域における水需要の経年変化に関する一考察(東京都立大学)」第
51回全国水道研究発表会
平成12.5
35
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
日本の膜ろ過の導入状況と2段MF膜ろ過システム
高木 亮太(東レ(株)
)
松家 伸行(東レ(株)
)
矢田 修平(水道機工(株)
)
○古屋 弘幸(水道機工(株)
)
1.はじめに
膜ろ過法は、近年、日本国内において急速に導入が進んでおり、現在までに 442 件、総
処理水量にして約 362,000m3/day の実績がある1)。これまでは中小規模の浄水場を中心に
普及が進んでいたが、近年では単一の浄水場で 100,000m3/day を超える規模への膜ろ過法
の適用が計画されつつあり1)、その課題として、単位膜モジュールの大容量化による施設
の簡易化、膜ろ過システムの簡素化、膜ろ過施設の安定運転条件の確立、膜破断検知手法
の確立、
浄水回収率の向上、薬品使用量の低減や薬洗回数の低減化などが挙げられている。
そこで筆者らは、①PVDF 製大容量加圧型膜モジュールの採用による設備の効率化・運
転管理の簡素化、②大規模施設に適した膜破断検知手段の確立、③高浄水回収率化のため
の多段(2段)膜ろ過システムの確立、④環境影響低減のための薬品洗浄条件確立とオン
サイト薬品洗浄手法確立を目的として、
横浜市川井浄水場内にてパイロット実験を行った。
本稿では、実験の概要と得られた知見について報告する。
2.実験概要
本実験は、横
浜市水道局川井
浄水場の原水を
1段目膜ろ過装置
膜モジュール
膜素材・形状
公称孔径
モジュール外寸(膜面積)
2段目膜ろ過装置
浸漬型膜モジュール
PVDF(ポリフッ化ビニリデン)中空糸 MF 膜
0.05μm
0.05μm
φ216×2,160 mm(72 m2)
φ100×1,000 mm(7 m2)
表1加圧型膜モジュール
膜モジュール仕様
用いて行った。
表1に実験に用いた膜モジュール仕様を示す。膜素材として優れた耐薬品性、高強度、高
耐久性を有する PVDF を選定した。
実験フローを図1
PAC
に示す。原水に凝集
No.2
No.1
1段目膜ろ過装置
剤をライン注入した
後、1段目膜によっ
原水
て膜ろ過をする。1
段目膜は、加圧型膜
モジュール1本を1
P
P
原水槽
浄水
逆洗水槽
P
系列とする No.1 系、
No.2 系の計2系列、
図1 実験フロー
膜モジュール2本か
ら構成されている。
P
洗浄排水槽
2段目膜ろ過装置
36
P
浸漬槽
排水
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
1段目膜の物理洗浄排水を、2段目膜である浸漬膜によって膜ろ過をし、浸漬槽内で高濃
度に濃縮された原水からさらに浄水を得る。1段目膜ろ過(加圧型膜モジュール)と2段
目膜ろ過(浸漬型膜モジュール)から構成される2段膜ろ過システムによって、高い浄水
回収率を達成することができる。
1段目膜ろ過装置の外観を写真1に、2段目膜ろ過装置の外観を写真2に示す。
実験条件を、表2に
表2 実験条件
示す。
1段目の No.1 系は、
1段目膜ろ過装置
外圧式全量ろ過
2.0∼3.5m3/m2・d
20∼30 分
PAC 5∼10mg/L
前塩素 1.0mg/L
ろ過方式
膜ろ過流束
ろ過時間
膜ろ過流束 2.5m/d で
一定、No.2 系は 2.0∼
前処理
3.5m/d で運転を行っ
2段目膜ろ過装置
吸引ろ過
0.5m3/m2・d
15∼30 分
−
(1)運転結果
図2に1段目膜ろ過
の実験結果を示す。
No.1 系は、膜ろ過流束
2.5m3/m2・d において、
5ヶ月以上にわたって
膜ろ過差圧 80kPa 未
満で推移し、薬品洗浄
原水水温[℃]
原水濁度[度]
3.実験結果
膜ろ過差圧[kPa@25℃]
た。
200
2.5m/d
150
3.5m/d
3.0m/d
2.5m/d
100
2.5m/d
2.0m/d
◆ No.1系
□ No.2系
50
0
50
40
30
水温
20
10
濁度
0
0
20
40
60
80
100
120
運転日数[日]
図2 1段目膜ろ過実験結果
37
140
160
180
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
なしで非常に安定した運転が可能であった。実験期間中には原水濁度が 100 度以上まで上
昇したことがあったが、差圧が安定して運転可能であった。また、このときの回収率は
図3に2段目膜ろ過
の実験結果を示す。膜
ろ過流束 0.5m/d、回収
率 98%以上において
6ヶ月以上の期間、膜
ろ過差圧 10kPa 未満
で推移しており、安定
した運転が可能であっ
た。回収率 99.1%にお
洗浄排水濁度[度] 膜ろ過差圧[kPa@25℃]
原水水温[℃]
93.3%であった。No.2 系では、膜ろ過流束 3.5m3/m2・d までの運転が実施できた。
80
98.6%
96.9%
99.1%
98.0%
60
40
水温
20
膜ろ過差圧
0
200
150
100
50
0
0
いても、2ヶ月以上の
30
60
90
120
150
180
210
運転日数[日]
安定運転が可能であった。
図3 2段目膜ろ過実験結果
1 段 目 膜ろ 過 の 回収 率
93.3%、2段目膜ろ過の回収率 99.1%の場合、2段膜ろ過システムの回収率は、1-(1-93.3%)
×(1-99.1%)=99.94%となり、トータル浄水回収率 99.9%以上における安定運転が可能であ
ることを確認した。
(2)水質分析結果
表3に各工程における水質分析結果を示す。1段目膜ろ過水と2段目膜ろ過水を混合し
表3 水質分析結果
原水
濁度[度]
色度[度]
E260[1/cm]
TOC[mg/L]
有機物等[mg/L]
鉄[mg/L]
マンガン[mg/L]
5.2
5
0.020
0.85
2.5
0.25
0.017
1段目膜
ろ過水
<0.1
<1
0.007
0.65
1.7
<0.03
<0.005
洗浄排水
70.4
57
0.019
4.00
25.8
4.50
0.231
2段目膜
ろ過水
<0.1
1
0.014
1.12
2.7
<0.03
<0.005
浄水
(計算値)
<0.1
<1
0.007
0.68
1.8
<0.03
<0.005
て得られる浄水、すなわち2段膜ろ過システムによって得られる浄水水質は、実験期間中
における代表的な回収率をもとに、1段目膜ろ過水質、2段目膜ろ過水質から算出した。
1段目膜ろ過水量が2段目膜ろ過水量に対しておよそ 10∼15 倍となるために、浄水水質
は1段目膜ろ過水質に大きく影響される。
1段目膜ろ過装置の原水に凝集剤として PAC を 5∼10 mg/L 注入していたこともあって、
1段目膜ろ過水では特に E260 などを指標とする有機物がよく除去されており、良好なろ
過水質を得ることができていた。物理洗浄排水については、懸濁性の物質や有機物が1段
目膜ろ過装置によって濃縮されて高濃度になっていたにも係わらず、2段目膜ろ過水は良
38
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
好な水質を得ることができ、水道水質基準を満たしていた。なお、2段目膜ろ過装置から
排出される汚泥の SS 濃度はおよそ 6,000∼15,000 mg/L 程度であった。
2段膜ろ過システムから得られると想定される浄水は水道水質基準を十分に満足すると
考えられる。
表4 薬品洗浄条件
使用薬品、使用濃度
薬品浸漬、循環時間
条件1
塩酸 0.1N、次亜 3,000mg/L
各1時間
条件2
塩酸 1N、次亜 3,000mg/L
各1時間
(3)オンサイト薬品洗浄結果
オンサイト薬品洗浄を表4に示す条件にて行った。
表5に薬品洗浄結果を示す。
表5 薬品洗浄結果
条件1、条件2ともに良好
な回復性を得ることができ
実験開始時ろ過性能
薬洗前ろ過性能
薬洗後ろ過性能
回復率
たが、条件2の方が回復率
が高かった。これは、使用
薬品である塩酸の濃度が高
かったためだと考えられる。
条件1
17.1
2.2
16.9
98.6%
条件2
16.5
2.4
17.0
103.3%
※ろ過性能[m3/h@50kPa, 25℃]
4.まとめ
大規模膜ろ過浄水場を想定した膜ろ過システムについて検討を行った結果、以下の知見
を得た。
・ 加圧型膜モジュールによる 1 段目膜ろ過と、浸漬型膜モジュールによる 2 段目膜ろ過
からなる 2 段膜ろ過システムによって、99.9%以上の高い浄水回収率を達成できる運
転が可能となることを確認した。
・ このような高浄水回収率においても、良好な膜ろ過水質を得られることを確認した。
・ オンサイト薬品洗浄について検討し、良好な回復性が得られることを確認した。
・ 本システムを採用することにより、大規模浄水場においても膜ろ過施設の効率化・簡
素化を図ることが可能である。
5.最後に
本実験は、環境影響低減化浄水技術開発研究(e-Water)において、持ち込み研究とし
て実施された。最後に本実験を実施するにあたり、多大なるご協力をいただいた横浜市水
道局および水道技術研究センターの関係者各位に謝意を表する。
【参考文献】
1) (財)水道技術研究センター、環境影響低減化浄水技術開発研究(e-Water)最終
成果報告会・成果普及セミナーテキスト、p.17-26、2005
39
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
日本における浄水場排水処理
○落合 隆 (月島機械(株))
銅谷 陽 (月島機械(株))
山根 陽一(月島機械(株))
1.はじめに
本論は浄水場において排水処理設備が必要な事由を説明し、その設備比較を述べると共に発
生する廃棄物の処理まで含めた一連の環境問題として報告する。排水処理設備については機械
脱水方式の中でも加圧式脱水機の有効性について述べ、脱水ケーキの有効利用事例も紹介する。
2.浄水場での排水処理設備の背景
人口の都市集中化に伴い、河川を主とした水環境は急速に悪化していく。日本においては1
960年代の高度成長時代、急速に水環境は悪化してきたが、まず始めに水質汚染と浄水場に
おける排水処理の必要性について述べる。
水質汚染のパターンは大きく分けて次の3つのものとなる。
1) 特定産業排水によるもの
2) 都市排水等の不特定排水によるもの
3) 湖沼、内湾などの富栄養化によるもの
水質環境基準を達成するために、具体的な汚水の排水基準を定めたものが1976年に制定
された「水質汚濁防止法」であるが、全ての排水が対象になるのではなく、特定の事業場から
出た排水について定めたものであり、排水基準は大きく分けて下記の2の観点から定めたもの
である。
1) 人の健康に被害を生ずる恐れがある物質(有害物質)
2) 生活環境に被害が生ずる恐れのある水質項目(環境項目)
浄水場からの排水の水質汚染パターンとしては1)特定産業排水によるパターンに分類され
るが、浄水処理量が多いほどその汚水量も増え、河川への影響が高いこともあり、10,000m3/
日以上の浄水場については特定事業場として取り扱われ、水質汚濁防止法の適用を受けている。
浄水過程で投入されるアルミ系凝集剤又は高分子凝集剤により凝集フロック化された汚水
を排出するが、日本においては高分子凝集剤によって残留するアクリルアミドモノマーの変性
に伴う生態系への影響を考慮し、残留モノマー濃度の基準値を厳したため、殆どがアルミ系凝
集剤を使用している。このアルミ系凝集フロックはそのまま河川へ放流しては基準である浮遊
物質量(水域により基準は異なる)を大幅に超えるため、希釈して放流することになるが、希
釈したとしても凝集剤によりフロック化した汚泥を自然界に戻すことになるため、河川内での
汚泥の沈降・堆積も含め水質汚濁が進行する。よって浄水場内で排水処理を行う必要がある。
40
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
3.排水処理設備の比較検討
排水処理の方式検討として重要な点は、排水の脱水処理により得られる①分離水(ろ液)の
清澄化、②固形物(浄水ケーキ)の廃棄性、③その維持管理性を考慮する事である。
水資源が逼迫していない場合、浄水プロセスの過程で分離水を再利用(クローズドシステム)
せず、そのまま河川放流する方が浄水プロセスの管理は容易であるが、放流するにせよ良好な
水環境を維持するためにもその処理の中で薬品注入等による水質汚染を避ける必要がある。水
環境の保護、地球温暖化防止の観点からも益々その傾向が強く、無薬注で省力化した設備を導
入する必要がある。
排水処理設備としては通常、調整、濃縮、脱水(又は天日乾燥)、処分の各工程が挙げられ
る。図1に之までに採用されてきた排水処理工程の概念図を示す。
沈殿池
ろ過池
配水池
排水池
排泥池
凝集剤混合
濃縮槽
濃縮槽
硫酸混合
調 整 工
濃 縮 工
脱水前処理
機械脱水方式
酸・アルカリ処理
有効利用
加圧脱水
凍結処理・熱処理
真空ろ過
石灰混合
遠心脱水
凝集剤混合
造粒脱水
機械濃縮
加温
天日乾燥
脱 水 工
処分
処 分 工
図1 排水処理工程の概念図
濃縮性を改善するために凝集剤添加によるフロック径の拡大や酸処理によるアルミ系凝集
剤の溶脱に伴う沈降性の改善が挙げられるが、環境負荷を考え、自然濃縮に留めるのが一般的
である。濃縮汚泥は機械脱水機により固液分離されるが、機械の種類によっては脱水性を改善
を目的とした脱水前処理を必要とする。前処理として一般的なものは酸処理による汚泥改質、
凝集剤による二次濃縮等が挙げられる
機種別に見た脱水設備の普及状況
加圧脱水機
71%
が、前処理に伴い分離液の汚染も拡大す
るため極力無薬注による処理方式を採
その他
2%
造粒脱水機
遠心脱水機
4%
9%
真空脱水機
14%
加圧脱水機
真空脱水機
遠心脱水機
造粒脱水機
その他
用したい。機械脱水方式としては加圧脱
水機、ベルト型ろ過機、遠心脱水機、真
空ろ過機、造粒脱水機等の固液分離装置
が挙げられるが、中でも無薬注処理が可
図2 脱水機の普及状況(1995年)
41
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
能なものは加圧脱水機である。日本における機種別の普及状況を図2に示す。天日乾燥方式は
自然光、対流による蒸発操作(乾燥)であるのに対し、加圧脱水機による脱水は汚泥圧力によ
る固液分離操作である。よって均質で固い板状のケーキが排出されるため、土木資材等、再利
用が可能なものとして排出される。
排水処理設備の検討に当たっては、①浄水処理方式、②汚泥性状、③浄水場規模、④立地条
件、⑤発生土処分方式によって最適なシステムを選択する必要があるが、浄水場内に広い敷地
を有しており、発生土の処分に支障がない場合においては汚泥を自然濃縮後、天日乾燥により
減容化する方策が適している。しかしながら天日乾燥による発生土は再利用性が悪いため、都
市部の浄水場における処分費の高騰、これに伴う発生土の再利用を考える場合、機械脱水設備
による排水処理方式を選択する事が好ましい。
参考ケースとして発生固形物量 10,000ton-ds/年とし、平均的に濃縮汚泥濃度が3%程度で
あると仮定した場合の排水処理設備を比較する。
表1 天日乾燥と機械脱水の比較
項目
所要日数
天日乾燥
機械脱水(加圧脱水機)
100日/cycle(冬季)
毎日運転 1日/cycle
60日/cycle(通常)
ケーキ含水率
処理能力
70∼80%
50∼60%
スラッジ負荷30kg-ds/m2
ろ過速度3.0kg-ds/m2・c
ろ過面積9,130m2
所要面積
乾燥床面積67,000m2
所要床面積4,500m2
(1000 m2/台×10台)
ケーキ性状
処分重量
ケーキ処分法
泥状
板状ケーキ
50,000ton/年
25,000ton/年
廃棄処分
園芸用・埋立用
※ 天日乾燥の所要面積は冬季1cycle 運転、春から秋に掛けて 4cycle 運転可能とし、
年間発生固形物量から算出したものである。
※ 機械脱水の所要面積は年間平均ろ過速度と 365 日運転した場合の1日発生固形
物量より求めたものである。
表1に示す通り、天日乾燥の場合所要面積で 67,000m2 必要となるものに対し、機械脱水方
式は 1000m2 加圧脱水機を 10 台設置するに必要な面積となり、4,500m2 程度となる。また処分
に要する汚泥量も半減するため、処分・運搬上の効果も大きなものとなる。
4.脱水ケーキの有効利用
現在の日本においては、ケーキの有効利用が大きな課題となっている。最終処分場の不足か
ら廃棄物処分費・運搬費の高騰もあり、廃棄物量を削減したり、廃棄物運搬への規制、リサイ
クル可能な処理方法への転換が求められている。
42
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
特に大都市部でこの傾向は顕著であり、脱水により発生ケーキ量を減らし、再利用可能な形
状にて場外へ排出する事が重要である。
ケーキの有効利用には、農園芸用土、セメント原料、窯業製品、土木資材(埋め戻し材)、グ
ランド用土等がある。しかしながら機械脱水されたケーキと言えど、そのままでは有効利用に
適さない場合が多い。土地造成・盛土・埋立用としては低含水となる加圧脱水ケーキはそのま
ま利用可能となるが、ケーキの有効利用用途を増やすためには、目的に適した性状、形態のケ
ーキを生産することが重要であり、対応する加工設備が必要となってくる。大別すると破砕、
乾燥、造粒設備が主流となる。
農園芸用土に利用する場合は、ケーキの含水率、粒径やアルミニウム、マンガン含有量に制
限があり、雑草種子、雑菌等を含まないことがあげられる。粒径は 10mm 以下にすることが一
般的であり、このために破砕設備を導入するケースが多い。含水率の低減、減量化、殺菌、雑
草の発芽抑制等を行うために乾燥設備を設ける事もある。乾燥方式としては直接加熱法と間接
加熱法があるが、直接乾燥法は脱水ケーキを回転ドラム内または移動ベルト上で、300℃以上
の熱風と直接接触させ加熱乾燥するものである。回転ドラム式では造粒効果も期待出来る。間
接加熱乾燥法は蒸気ボイラで発生させた 150℃程度の蒸気をジャケット内あるいは熱媒管内に
供給し、間接的にケーキと接触させて乾燥する。外筒または攪拌翼の回転によりケーキの伝熱
面への接触頻度を上げ、さらに造粒効果もある。
造粒は粒子の大きさや形状を利用目的に適合させるための操作であるが、装置内でケーキを
転がして球形に造粒する方法や、多孔板にケーキを押しつけて、孔から押し出して粒とする方
法が利用されている。
その他の用途についても引き取り先の要望にあった質および量のケーキを安定的に供給す
る必要があり、貯留設備を含めて有効利用に適した排水処理設備の設計が必要である。
天日乾燥の場合、ケーキ含水率が高いこともあり、有効利用するために要する処理設備が別
途必要となる。天日乾燥により廃棄されるケーキは高含水となるため、利用用途の性状に近づ
けるには設備・エネルギー共に難を強いられる。よって、石灰養生の上、セメント業者へ処分
を依頼するケースや、最終処分場に廃棄されるケースが多い。
5
まとめ
水環境を保護するため、浄水場においても排水処理設備は必要であり、最適な処理設備を検
討する事は水事業を営むものにとっての義務である。日本においてはその処理性能の向上を求
めスラッジの各種前処理から各種脱水処理を経験して、現在の無薬注加圧脱水を中心とした排
水処理技術を確立している。水環境の保護、温暖化防止、資源循環型社会の形成が強く望まれ
る現在は、排水処理で発生するケーキを有効に活用する事が望まれ、園芸用土、埋立用土とし
ての再利用が主流となる。
【参考文献】
(1)浄水技術ガイドライン2000 財団法人水道技術研究センター
(2)水道施設設計指針2000
日本水道協会 著
(3)暮らしと水の技術
井前
勝人 著
43
著
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
前処理が膜ろ過に与える影響に関する研究
財団法人 水道技術研究センター
林 野
1.はじめに
我が国では、多くの水道施設が昭和30年代から昭和40年代に建設されて、年数が経過し
て、老朽化しており、施設の更新や改善が必要となっている。水質面では、Trihalomethane
等消毒副生成物の前駆物質や農薬等による水道原水の汚染問題、または Cryptosporidium に代
表される塩素耐性病原性微生物など問題がクローズアップされている。水道事業体ではこれら
の対応策として高度浄水処理の導入がなされてきているし、新しい膜処理技術の普及もかなり
進んできた。施設更新の場合、新しい時代のニーズに合う機能を有するように水道の施設を改
良していくには、既設の施設を活用して、膜処理など新しいプロセスを追加することも一つの
方法と考えられる。このような浄水システムに膜ろ過を組み込む場合には、各処理プロセスに
おいてどのように負荷分配を行う事が有効であるかなどをシステム全体として検討する必要が
ある。
水道技術研究センターが行われた「環境影響低減化浄水技術開発研究」
(通称 e-water )の
中で、実証実験規模の装置を用いて膜ろ過を既存処理施設に導入するための実験を行った。
本稿では、実験の概要および得られた知見について報告する。
2.実験概要
本実験は、神奈川県内広域水道企業団綾瀬浄水場で相模川の原水を用いて行った。
(1) 実験フロー
M
M
M
通常
実験は凝集沈澱処理、直接膜ろ過、活性
炭ろ過の3通りの処理プロセスと膜ろ過を
処理
原
急
水
速
組合せた系列と、対照系として直接膜ろ過
フロック形成
沈澱
砂ろ過
A
混
和
を行なう系列の4系列を設定した。系統ご
B
との処理フローは以下の通りであり、図1
系
膜 ろ 過
系
膜 ろ 過
砂ろ過
に綾瀬合同実験系統図を示す。
C
系
膜 ろ 過
A 系 : 凝集沈澱 + 膜ろ過(MF 膜)
活性炭ろ過
D
B 系 : 直接ろ過(粗ろ過)+ 膜ろ過
系
膜 ろ 過
(MF 膜)
図 1 綾瀬合同実験系統図
C 系 : 活性炭ろ過(粒状活性炭)+ 膜
ろ過(MF 膜)
D 系 : 膜ろ過(MF 膜)
※D 系は、基本的に薬品注入は行わない。
実験装置は、処理水量 360 m3/日の凝集沈澱+急速ろ過設備が2系列、処理水量 50 m3/日の
凝集沈澱設備が 1 系列、40 m3/日の直接ろ過(粗ろ過)、40 m3/日の活性炭ろ過、最大 35 m3/日
の膜ろ過装置 4 基で構成される。
B 系、C 系の直接ろ過、活性炭ろ過におけるろ材径、ろ過速度は、既存浄水場に大幅な改造
をすることなく適用できることを前提として決定した。
44
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
(2)実験の構成
実験は、予備実験と連続実験運転とで構成され、実験条件の決定には予備実験結果および
e-Water 参加事業体への原水水質アンケート調査結果から決定した(図2参照)
。
表1 各系列の主な仕様と運転条件
合同実験
予備実験
①前処理条件決定実験
A系
②フラックス決定実験
1.0 mg/L
前次亜
④循環実験
⑥連続濁度添加実験
前処理
凝集沈澱
傾斜管
直接ろ過
活性炭ろ過
硅砂
粒状活性炭
Φ1.2mm
Φ1.2mm
60cm
⑨膜の蓄積成分の調査
なし
なし
60cm
188m/日
⑧凝集条件検討実験
D系
なし
(原水濁度に応じて 2 段注入)
⑤ピーク濁度添加実験
⑦高フラックス実験
(asCl)
7.0 または 15.0 mg/L
PAC
負荷実験
C系
(浄水場の過去データに基づき定量注入)
原水水質アンケート
調査結果より条件決定
③連続運転実験
B系
131m/日
中空糸型 MF 膜(PVDF)
全量ろ過、回収率 90∼96%
膜ろ過
2.5∼4.0m3/m2/d
図2 実験の構成
表3 各プロセスの処理水水質
表2 各種実験の概要
実験種類
実験のポイント
予備
①前処理条件決定実験
ろ過原水種類および凝集剤注入量の決定
実験
②フラックス決定実験
フラックスおよび薬品洗浄条件の決定
③連続運転実験
長期実験として4系列並列運転
④循環実験
連続
実験
原水
凝集
A系 B系
砂ろ過 (凝沈)
(直ろ)
沈澱
C系
D系
(AC)
(無)
Tb
8.6
4.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
排水を回収して原水に返送
KMnO4
5.0
2.4
0.9
1.1
1.2
0.8
1.4
⑤中程度濁度添加実験
中程度の濁度を原水に添加
TOC
1.52
1.20
0.63
0.64
0.64
0.47
0.62
⑥ピーク濁度添加実験
ピーク状に濁度を添加
Fe
0.28
0.12
⑦高フラックス実験
一定期間フラックスを高める
Mn
0.017
0.009 <0.005 <0.005 <0.005 <0.005 <0.005
⑧通常凝集条件実験
綾瀬浄水場の凝集条件で運転
⑨膜の蓄積成分の調査
実験終了後に膜表面の蓄積成分を調査
Al
0.28
0.53
<0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01
0.08
0.08
0.08
0.07
各系列の主な仕様と運転条件を表1に示す。
実験は、4 系列並列運転を行なう連続運転実験が基本となり、短期的な負荷実験として、循
環実験、中程度連続濁度添加実験、ピーク濁度添加実験、高フラックス実験などを実施した。
また、連続実験の運転条件は、予備実験として前処理条件決定実験、フラックス決定実験を実
施して決定した。
各種の実験の概要を表2に示す。
3.実験結果
(1)指標物質の除去
実験期間を通した平均処理水水質は通常処理の比較用の砂ろ過を含め、濁度、鉄、マンガン
も検出下限以下であった。前処理方式によらず膜ろ過を導入することにより、粒状物質除去は
安定した性能が得られることが示された。前処理に活性炭ろ過を組み入れた C 系では有機物の
除去率は他の系列に比べ若干高い結果であった(表3参照)
。
45
<0.01
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
(2)前処理の薬品洗浄との関係
表4 各系列の洗浄回数と回復率
前処理方法の異なる各系列の薬品洗浄のと洗浄までの
A系列
B系列
C系列
D系列
薬品洗
浄回数
5回
3回
4回
9回
条件により各系列の原水が異なる場合があるので、A∼C
平均洗
浄間隔
55日
82日
69日
28日
系列はほぼ同等の性能であると考えて良いであろう。言い
回復率
96%
90%
89%
95%
期間、フラックスの回復率を表4にまとめた。
D 系列のみ他系列の 2∼3 倍の洗浄回数となった。実験
換えれば、前処理の方式は薬品洗浄の回数に余り影響を与
えないと言える。
(3)前処理の膜差圧上昇との関係
指標として比較を行った
(図4)
。
A,B,C 各系列では大きな差は
見られなかったが、直接、膜ろ
過を行った D 系列では他の系
列に比べ膜差圧が早く上昇し、
他の系列の2 ∼3倍であった
(表5参照)
。
膜ろ過原水濁度︵
度︶
クスで運転し、膜差圧の変化を
温度補正圧力︵ kPa-25
℃︶
実験では各系列を同じフラッ
D系列の温度補正
膜間差圧上昇速度を1とすると、
他の系列はその 1/3∼1/4 程度
である(表6参照)
。
図4 各系列の膜間差圧変化
表5 各系列の膜差圧上昇速度
表6 温度補正膜間差圧上昇速度比
A系
B系
C系
D系
平均フラックス
m3/(m2・d)
2.59
2.67
2.54
2.25
膜差圧上昇速度
ΔkPa/d
2.06
1.51
1.73
4.87
上昇速度/フラックス ΔkPa/m
0.80
0.57
0.68
2.16
A系
B系
C系
0.37
0.26
0.31
(0.62)
(0.44)
(0.53)
D系
1
(順調
運転時)
表7 各系列の総負荷量
これはA、B、C系列の前処理によっ
て指標物質の総負荷量低減された結果と
考えられる(表7参照)
。
(4)前処理の効果
循環実験で前処理による水質改善効
果を調査した。図5の調査結果で示すよう
に各処理系列とも、前処理による水質改善
効果が見られた。濁度は 40∼70%程度除去
A系
B系
原水
凝集
沈澱
濁度総負荷量 10,683
色度総負荷量 4,858
総負荷量
E260総負荷量
113
C系
D系
原水
直接
ろ過
活性炭 膜供給
ろ過
水
原水
5,618
10,549
1,676
12,862
2,039
7,856
1,653
5,146
1,774
5,279
1,434
4,145
77
122
85
127
54
97
※濁度負荷量算出:濁度負荷量=濁度(度)×処理水量(m3)
※色度負荷量算出:色度負荷量=色度(度)×処理水量(m3)
※ E260負荷量算出:E260負荷量=E260(−)×処理水量(m3)
され、有機物の指標でもある過マンガン酸カリウム消費量と TOC はそれぞれ 20∼50%、10∼
46
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
100.0
40%程度除去された。前処理で除去さ
80.0
ことになる。
前処理と膜ろ過で負荷の分配率は、
除去率(%)
れた分、膜ろ過への負荷が軽減された
図6∼図7に示すように、濁度につい
60.0
A系
B系
C系
40.0
20.0
ては A 系列の前処理の分配率が最も高
く、約 70%が除去されていた。次いで
0.0
濁
C 系列の約 60%の分配率であった。有
SS
度
機物の指標である E260 は A 系列は
60
E2
4消
nO
KM
費
量
C
TO
鉄
ン
マ
ガ
ン
水質項目
80%の分配率であって、C 系列に至っ
図5 前処理の指標物質の除去効果
ては 80%以上の分配率となり、フミン
質等不飽和有機物の除去には凝集、活性炭ろ過が有効であることが分かった。
D系
D系
系列
前処理
膜ろ過
B系
C系
前処理
膜ろ過
系列
C系
B系
A系
A系
0%
20%
40%
60%
分配率(%)
80%
100%
0%
図6 負荷分配率(濁度)
20%
40%
60%
分配率(%)
80%
100%
図7 負荷分配率(E260)
4.まとめ
1)前処理の有無により膜ろ過水の水質に影響は出ないが、膜差圧上昇速度に大きく影響する。
前処理により膜差圧の上昇を 40∼60%抑制することができ、特に活性炭ろ過が顕著であっ
た。
活性炭ろ過は、膜ろ過への有機物負荷分配率が少ないためと考えられ、膜差圧安定には大
きく寄与する。
2)凝集剤注入率を通常処理の 1/2∼1/3 としても膜ろ過水水質に影響を及ぼすことなく良好な
水質が得られる。
3)前処理の処理性を最大限としなくても、水質の安定と膜差圧上昇の抑制が可能である。既
設浄水施設を膜ろ過の前処理として活用できる。
謝辞
本研究は、厚生労働科学研究費補助金による環境低減化浄水技術開発(e-Water)第2研究グル
ープ委員会の研究の一環として水道技術研究センターは大学、国立保健医療科学院、企業と合
同で行ったものである。参加者の皆様と実験施設を提供していただいた事業体に感謝の意を表
する。
47
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
中国の環境関連機器の市場における日系企業の最新動向
上海市政工程設計研究院 沈 裘昌
○ 前澤工業㈱環境事業本部 黄 建元
1.中国でのビジネスの実状
「世界の生産工場」となった中国は、現地メーカーばかりでなく、日系や欧米系メーカ
ーの工場が急増している。一方で水質汚染が深刻となり、中国当局も排水対策が緊急課題
と認識し、工場排水に対する規制を大幅に強化している。そのため、中国における排水処
理という巨大市場が生まれつつある。そして何より、日系企業が中国、特にメーカーの工
場が集積する上海周辺に相次いで進出しているという事実が、中国市場の重要性を物語っ
ている。
現在、中国の排水処理市場を牽引しているのは、規制をクリアするための技術である。
規制が厳しく適用されるにつれて、このニーズは高まっている。この市場への挑戦で日系
の水処理企業に飛躍が求められている。規制対応の技術は、これまで日系企業のエンジニ
アリング能力が優位性を誇ってきた。有機系や無機系等、工場ごとに異なる排水の質や量
に的確に対応し、排水基準を満たす処理を実施する技術は、日本国内での技術とノウハウ
の蓄積を生かせた。また、中国では、国家環境保護総局が定める統一の排水基準に加えて、
省や市が独自に定める基準がある。上海近郊など工場集積地では統一基準より厳しい基準
を定めている。こうした規制が厳密に適用されるので、工場の排水対策は急務となってい
る。
現時点では、中国の工場向けの排水処理技術は、大きく 2 つに分けられる。1 つは超純
水の製造と、排水の回収・再利用を組み合わせて高度な水処理を総合的に実施する技術。も
う 1 つは、多様な業種の工場から排出される、様々な種類や量の排水に対応して、規制を
クリアするための技術である。
なお、最近になって「生物処理」や「ろ過処理」等の中核技術で中国企業の技術力が向
上し、日系水処理企業との差が縮まっている。そのため、日系水処理企業は、中国の水処
理企業との価格競争にさらされるようになった。その一方で、需要が伸びている中国メー
カーの水処理にはなかなか食い込めない。
したがって、新しいビジネスモデルの輪郭は明確であり、現地化を進め、急成長する中
国市場全体をとらえることである。この輪郭を肉づけするために、様々な挑戦が始まって
いる(表-1)。
中国ビジネスでよく指摘されるように、水処理事業でも日系企業の最大の課題は「コス
ト」となっている。中国企業は安い人件費と材料費を最大限に活用して、排水処理設備を
低価格で提供するため、日本から輸出する設備では割高になる。日系企業は、中国製部品
を使った現地生産に移行したり、過剰品質になっている部分を見直したりして、コストダ
ウンに取り組んでいる。加えて、「送金」、「許認可」、「進出地」、「パートナー・人材」
等を多くの企業が課題として挙げる。
48
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
表-1 中国の主な水処理ビジネスの概観
種類
産業用水
産業排水
上水
下水
概要
動向
膜等で高度処理した超純水を電子部品
日系企業と欧米企業が、今後本格化する半導
工場向け等に供給する
体工場の超純水装置の受注を競う
有機系や無機系等多種多様な排水に応
日系企業の技術力の優位性が小さくなり、中
じて、処理技術を組み合わせて対応
国企業が低コストで攻勢をかける
浄水場の建設から、一般家庭向けの配管
欧州企業が、比較的裕福な地域の上水道の運
を整備する等、大規模設備が必要
営を狙って、今後進出を加速しそう
ろ過や沈殿、薬剤処理等をして放流す
中国北部の水不足の懸念から、今後は下水処
る。下水を再利用する設備の需要もある
理水の再利用が促進される
コストダウンを狙って中国企業の装置を積極的に導入してきた過程で、日系水処理企業
は中国企業と信頼関係を築いた。今後は、中国で低コストで生産した製品を、日本市場に
も展開する方針であり、例えば、Z 社が約 7 割に中国製の部品を採用し、中国で委託生産
した排水処理設備のユニットを日本に輸出し始めた。
また、工場の排水処理事業から、上下水道などインフラ整備関連に事業の重心を移す可
能性を探っている。中国は 2006 年∼2010 年の 5 年間で上下水道の整備に 3,000 億元(約 4
兆円)以上の国家予算を投じる計画であり、工場の排水処理と並ぶ、もう一つの巨大市場
と期待されている。
一方で、仏デグレモン等の欧米企業は、中国の上下水道事業で着実に実績を上げ始めて
いる。ここでは日系水処理企業の存在感は乏しく、「日本企業は、技術力はあるが中国市
場への理解が不十分なため失敗するケースがある。日本企業に中国の環境産業の現状を正
しく伝えたい」という指摘もある。すなわち、情報収集力が受注という事業展開の鍵を握
る。
2.日系企業の最新動向
中国今では、経済発展、都市化の進行により環境問題が深刻化し、また生活水準の向上
などにより家庭からの廃棄物が急激に増えて、その対応に迫られている。中国政府は環境
法規を整え、規制を強化して、民間活力を利用して環境対策をこうじる策に力を入れてお
り、環境ビジネスの成立する条件が次第に出来つつある。環境被害は、水質汚泥、大気汚
染、廃棄物、騒音振動等に大きく広がっており、それを克服する環境ビジネス(表-2)は、
水質汚染防止設備、大気汚染防止設備、固体廃棄物処理施設、騒音振動防止設備、環境測
定・汚染物質測定器等の環境関連機器、あるいは消耗品としての薬品類など幅が広い。
日系企業は水質汚染防止設備で中国市場に意欲的に挑んでいる。A 社は、中国における
水処理薬品・装置に対するニーズの拡大に応じて 1995 年、水処理薬品で大連に製造拠点を
設立した。また、2001 年には半導体・液晶関連向けの水処理装置の販売・メンテナンスで
A 社(上海)を設立してビジネスの本格的に展開に備えた。中国の WTO 加盟後、日系外
資の電子機器、自動車等の上海経済圏への集中進出で水処理装置の需要が拡大したのを見
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
て、A 社は 2004 年、
「水の蘇州」
「IT の蘇州」に独資で A 社(蘇州)水処理を立ち上げた。
これによって水処理薬品・装置の製造から販売・メンテナンスまで、一貫した事業体制が
整ったことになる。
表-2 中国で環境関連機器の市場に進出した日系企業の概況
企業名(現地)
事業内容
地点
形態
設立年
1996
A 社(大連)
中国での水処理薬品・装置・販売
遼寧省
独資
A 社(上海)
中国での水処理装置の販売・メンテナンス
上海市
独資
B 社(上海)
電気・電子産業を中心とする一般専業向け水処理装置
上海市
独資
2002
の生産・販売・据付・メンテナンス
B 社(蘇州)
ユニット組立、樹脂再生
蘇州市
独資
2003
D 社(中国)
統括。水処理、ごみ処理、大気汚染防止装置事業を統
北京市
独資
2004
合
D 社(営口)
木型製作、ポンプ鋳造品の国内調達
遼寧省営口市
合弁
1993
D 社(煙台)
ボイラ、吸収冷凍機、吸収冷温水器、氷蓄熱システム
山東省煙台市
合弁
1996
北京市
独資
1993
江蘇省昆山市
独資
2000
及び空調設備の製造・販売
D 社(北京)
鋳物、金属きせいひん、鋳造設備、汎用ポンプ及び空
調設備の製造販売
D 社(昆山)
水中モーター・ポンプの製造及び販売
D 社(上海)
中国全土での汎用ポンプの販売、サービス
上海市
独資
2001
D 社(北京)
排煙処理、水処理、固体廃棄物処理、資源・エネルギ
北京市
合弁
1999
浙江省瑞安市
合弁
2003
1995
ーの有効利用システム等環境分野におけるエンジニア
リング関連事業
D 社(瑞安)
API ポンプの製造、及び中国国内における販売・アフ
ターサービス
E社(北京)
環境、熱供給、空調、給排水事業
北京市
合弁
E社(上海)
環境、熱供給、空調、給排水事業
上海市
合弁
J社(上海)
環境測定機器の製造・販売・サービス・汚染物質測定
上海市
独資
2004
K社(広州)
環境試験装置の製造・販売
広州市
合弁
1995
K社(杭州)
水質検査装置の生産
杭州市
独資
2002
K社(上海)
輸出入、国内販売、販売業務、部品調達、物流管理、
上海市
独資
1997
その他これらに付随する業務
L社(蘇州)
リサイクル事業、廃棄物処理事業他
蘇州市
合弁
2003
M社(寧夏)
活性炭及び関連製品の生産・販売
銀川市
独資
2004
B 社も、2003 年 9 月に蘇州進出を決めた。2001 年に上海に駐在員事務所、2002 年に現
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
地法人B社(上海)、2003 年 9 月に同社広州事務所設立に続く、手堅い中国事業の拡大策
である。新会社は 2004 年 7 月操業を開始し、水処理施設の製造拠点として日系企業向けに
販路を広げる一方で、日本市場向けの用水・排水処理装置の輸出拠点としても位置付けて
いる。
メッキろ過機で日本国内市場を独占している C 社も中国市場に触手を動かしていて、上
海に代表所を開いた。華東地区一円のメッキ工場に対する技術、製品情報の提供からはじ
めて水処理ビジネスチャンスを切り開く構えである。
D 社は、ODA がらみで 1990 年はじめから、水処理のみならず環境分野で大きく中国ビ
ジネスを展開してきた。水ではポンプ機場をはじめ産業排水や上下水処理技術、大気では
発電所の排ガス処理技術、廃棄物では前処理から焼却処理まで幅広い。このほかに受注プ
ロジェクトも少なくなく、山西省の水不足解消のために計画された万家寨引黄(河)ポン
プ機場や日中ゴミ焼却余熱利用プロジェクトの一環としてのハルビンゴミ焼却施設などを
手がけている。また、2004 年 6 月、D 社は D 社環境工程有限公司を北京に設立した。この
統括会社で水処理、ゴミ処理、大気汚染防止装置等の事業を統合して、どの拠点でも環境
全般の事業を手がけられるようにするための「ローコスト・エンジニアリング・センター」
という。エンジニアリングの設計体制を強化して中国での売り上げを 2003 年度 35 億円か
ら 2010 年度 100 億円にすると伝えられる。
E 社は、北京の軍事関係会社と組んで 1995 年以来、北京、上海、広州に拠点を設けて日
系企業工場の排水・排水ガス・廃棄物処理施設を手がけている。E 社水の環境保全施設を
利用している日系企業の中には北京松下、深圳 YKK、大連 YKK、天津日本板硝子、首鋼
NEC、上海京セラ、蘇州ソニー、北京資生堂等有名企業も多い。
ゴミ処理では環境プラントの大手・F 社が上海にゴミ焼却プラントを設計する合併会社
を設立した(2004 年)
。需要が減退した日本市場から中国市場開拓にシフトしようと言う
戦略転換を秘めている。
G 社は、中国の焼却メーカー・常州市環境保全設備工程公司(江蘇省)に対し、設計・
製造技術を供与してきたが、2004 年 7 月、資本参加に踏み切った。
H 社は環境機器での現地法人はないが環境ビジネスに積極的である。2001 年に杭州市、
2002 年に広州市から大型ごみ焼却発電プラントを連続して受注した。2003 年には天津大港
発電所向け排煙脱硫装置、ハルビンボイラ廠から超臨界圧蒸気タービン用コンポーネント
を、さらに 2004 年には江西省貴渓発電所向け排煙脱硫装置を受注している。
また、I 社は 2003 年に上海市電力公司向けに外高橋石炭火力発電所用石炭石石膏法排煙
脱硫設備一式を受注した。上海地区における初の本格的な排煙脱硫システムで、脱硫工程
を活用して調達の最大化を図る。中国では、沿海地区の新規の石炭火力発電所には脱硫設
備を装備することが義務付けられていて、2 年後には SOxの排出量に対する罰金が現行の
約 3 倍に引き上げられることになっている。
環境測定・汚泥物質測定器で上海に進出したのが J 社である。同社は北京、上海に事務
所を設けていたが、2002 年現地ニーズに現地で対応するために J 社を設立した。翌年、重
慶市から、環境モニタリングのネットワークを構築する設備として、重化学工業等の工場
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
煙突から出る排ガスの自動分析装置 25 式を一括受注した。
環境試験機器の K 社は上海、杭州、広東に環境試験装置の製造拠点、K 社(杭州)有限
公司は、水質モニタリング装置を手掛けている。
中国で環境リサイクル事業に、日本企業として初めて進出したのが L 社である。日系企
業からのリサイクルや廃棄物の適正処理の要望で、日系の製造企業が集積している江蘇省
蘇州市に現地法人を設立した。貴金属のリサイクル事業を電子基盤等の廃棄物処理事業を
実施する。
M 社は活性炭で寧夏自治区銀川市に進出した。活性炭は、上水、下水の水処理工場の排
煙脱硫等に使用され、環境対策に必須の素材とであり、銀川で産出する良質の石炭原料を
使い、高性能の活性炭及びその関連製品を製造する。
3.最後に
中国にとって日本は最大の貿易パートナーであり、また米国と肩を並べる対中投資国と
もなっている。WTO 加盟に伴う中国の改革・開放の進化、特に市場開放や投資環境は、
日本の対中貿易と対中投資に大きな影響をもたらすものと予想される。とりわけ、①中国
の輸入において、日本が高いシェアを占めていること、②日本の対中輸出は商品構成上、
中国の関税率の引き下げや非関税措置の削減・廃止等市場開放の主要な対象商品に集中し
ていること等の理由で、
日本が中国の市場開放から最も大きな恩恵を受けることになろう。
しかしながら、いくつかの新しい課題にも遭遇するであろう。欧米企業及び中国企業と
の競争の激化、
中国市場を巡るビジネスリスクの増大と、
対中摩擦の発生等がそれである。
例えば、1997 年に長江「三峡ダム」の発電機を巡る国際入札において、欧州企業連合が日
本企業連合に勝った理由の一つに、前者が早い段階から公的融資の供与を約束したことが
あると指摘されている。
このことに示されたように、官民協力の強化は、対中ビジネスにおける競争力の増強に
つながるものである。近年、民間の世論でも日中関係の「政冷経熱」が盛んに議論されて
いるが、これは中国市場を巡る日本企業と欧米企業との競争にどのような影響をもたらす
かも注目される。
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
3、2005年日中水処理技術国際シンポジウム論文集(中国語目次のみ)
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
中国語の論文は 67 編である。
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
4. 新聞、雑誌、ネット報道
今回の視察及び国際シンポジウムなどは中国と日本の水道界から注目され、業界の新聞
などは迅速に関連内容を報道した。特に中国の水ネット(水網)はシンポジウム会場から
いち早くインターネット上に報道した。
関連報道の一部分を抜粋して添付する。
1)中国水網(中国水ネット)2005 年 11 月 9 日 9:19 付き
http://www.h2ochina.com/news/viewnews.asp?id=33924
中国给水委员会第十次年会暨中日水处理技术交流会召开
时间:2005-11-9 9:19:00
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
中国土木工程学会水工业分会给水委员会第十次年会暨 2005 年中日水处理技术交流会 11 月 9 日在厦
门召开
出席会议的有给水委员会名誉主任钟淳昌先生、中国城镇供水协会科技委员会主任宋仁元先生、日本
水道技术中心理事长藤原正弘先生、中国工程院院士哈尔滨工业大学教授李圭白先生等中日专家、学者
100 多人。
日本水道技术中心理事长藤原正弘、中国城镇供水协会科技委员会主任宋仁元先生、中国土木工程学
会水工业分会副理事长等致辞。
会议期间将对饮用水除污技术、给水深度处理、城市供水水质标准、日本净水技术开发新成果、日本供
水企业业务指标的应用、日本江户川水质预测系统的构建、日本膜过滤技术等方面进行交流。会期三天,
于 11 月 11 日闭幕。
(中国水网现场报道)
声明:·对于水网采写新闻,请注明完整出处(中国水网 www.h2o-china.com)以及作者。
·对于转载信息,本网对其内容、文字的真实性、完整性不作保证或承诺,转载请注明原始出处!
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
2)水道産業新聞 2005 年 11 月 14 日付き
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
3)日本水道新聞 2005 年 12 月 1 日付き
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
4)水道産業新聞 2005 年 12 月 5 日付き
61
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
5)水道産業新聞 2006 年 1 月 1 日付き
62
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
6)中日水務信息
vol.5 2006 冬季号
63
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
5.
調査先パンフレット
1)広州南洲浄水場
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
70
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71
2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
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2005 年日中水処理技術国際シンポジウム及び中国水道技術視察調査報告書添付資料
2)上海市原水股份有限公司
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