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H24-14
千葉職業能力開発短期大学校紀要第 17 号(2012 年 10 月)
Bulletin of Chiba Polytechnic College. No.17, October 2012
カフェのひとこまプロデュース
Produce of a relax space of coffee shop
加 島 守*1
Mamoru KASHIMA
要 約 インテリア要素に関する学科と実技の習得が可能な総合制作実習(卒研)の一環として、平成 24 年度に
開店する喫茶店(神田神保町)で使用する男性オーナー用椅子とテーブルの試作をした。インテリア科最後の卒
研の特色として店舗設計の一般的な方法である建築(箱物)からインテリア(家具等)へ広がるのではなく、初
めに家具ありから店舗設計へ展開するという逆説的な考え方を用いて提案~制作まで実施した事例を報告する。
1 はじめに
平成 23 年度の職業大東京校専門課程インテリア科
最後の総合制作実習(卒研)として、家具制作を希望
する多数の学生から卒研趣旨に賛同した男女各 1 名が
メンバーとなった。喫茶店オーナー(=施主)と店舗
設計者(=施工者)を交えながら家具制作テーマの打
合せを複数回実施した。最終的には喫茶店オーナー夫
妻(50 代)から採用されたアイデアを元に、家具図面
や部品図を起した。本発表は、学生が制作した実物大
椅子とテーブルの制作過程を中心に実践報告をする。
1.1 家具から始まるカフェプラン
高校音楽教師を早期退職(57 歳)し都内にカフェ開
業という夢の実現をする施主と人のために役立つ家具
制作を望む男女学生(19 歳)との不思議な出会いがあ
った。
「カフェのひとコマプロデュース」とは、一般的
に考えられるカフェ全体を先に設計(デザイン)する
のではなく、主として椅子やテーブル等の家具デザイ
ンを先に考える。換言すればカフェのひとコマ(席)
から店舗のプランニングを進めるという意味合いも含
んでいる。カフェ店名は、オーナーのたっての希望か
ら「カフェ・ドラゴン」とした。喫茶店のイメージコ
ンセプトは、①都会のオアシス②隠れ家的な落ち着け
る空間③森の中でジャズを流す雰囲気に絞った。制作
する家具のデザインは、店のコンセプトを参考に初め
て来た来客者を何気なく驚かせ、興味を持たせる個性
的な形を要望されたため施主と複数回の打合せをして
決定した。喫茶店の場所を神田神保町とした理由は、
古書店街でもあり文化人の知人が集まる場所、母校の
学生達の音楽演奏場の提供との思いから選定された。
*1 学務援助課
School-affairs assistance division
2 カフェの調査
施主が店を開きたいと考えている御茶ノ水や神保町
ばかりでなく銀座・立川・吉祥寺や女性に人気のある
地方カフェなど 30 店舗以上を学生と同席または単独
で見学。学生(10 代)と設計者(20 代)と職業訓練指
導員(50 代)とで役割分担し、店内の間取りや雰囲気、
座席数、コーヒー味などを実地調査。また施主が目指
すカフェの雰囲気の年代的主観で討論や検討をした。
3 東京ディズニーランドの調査
喫茶店の集客イメージとして「何回訪れても楽しめ
る店」を目指す施主の意向から、東京ディズニーラン
ド(以下 TDL)が、代表例として提示された。その理
由を探るべく学生 2 名が喫茶スペースのある店舗を中
心に実地調査をした。TDL は敷地内のフィールドごと
でテーマが決まっている。またアトラクションだけで
なく飲食店にもオリジナルテーマからストーリー性を
持つ作品が多い。店舗内でショー、季節ごとに内容を
変化させるなどとリピーターを増やす工夫も数多く行
っている。本来の楽しく遊ぶという目的でなく店舗設
計の家具調査という目線で TDL に行ったことで、普段
気がつかない店舗の工夫も知ることができた。調査結
果は、家具やカフェデザインのアイデアスケッチなら
びにプレゼンテーション資料として有効活用した。
4 施主との打合せ(プレゼンテーション)
カフェやTDL調査から50点以上考えたアイデアスケ
ッチから、家具コンセプトに合うと思われる 3 点に絞
った。施主に対し東京校でプレゼンテーション(模型・
千葉職業能力開発短期大学校紀要第 17 号(2012 年 10 月)
Bulletin of Chiba Polytechnic College. No.17, October 2012
図面・解説)を実施。施主の改善点の提案であるデザ
インと強度の兼ね合いを検討しながら両方のリデザイ
ンを考えた。また試作品のため占いコーナーで使用す
るオーナー専用椅子とテーブルで制作することにした。
5 制作方法
リデザイン図面を元に、椅子とテーブル各 1 脚の実
物大制作を木取りから開始。
1/1 家具図面を図 1 と図 2
に示す。特色として、東京校7号館木材材料倉庫の残
材を使用し、木材の新規購入はしないことを念頭とし
「もったいないエコ精神」を課題に取り入れた。
600
500
20
540
500
20
30
550
手工具は、のみ、鉋、鋸。木工機械は、帯鋸盤、昇降
盤、角のみ番、糸鋸盤、テーブル移動式横切り盤、ベ
ルトサンダー、スピンドルサンダーなどである。塗装
は、耐摩耗性のある水溶性ウレタンクリアを 2 回下塗
りおよび研磨後にウレタンフラットで1回上塗りした。
使用する残材の一例を図 5、ベルトサンダーによる
背支え部分の加工風景を図6、
加工部材を図7 に示す。
残材から部品加工した木材は、タモ、ブナ、マホガニ
ー、カシ、シナ合板などであり全体の強度や色バラン
スを考慮し適材配置とした。幅広な座面は、雇いざね
接合を用いて、短幅材2枚を酢酸ビニルエマルジョン
樹脂接着剤(木工用ボンド)ではぎ合せ、木工用旗金
にて圧締後に所定の木工機械加工で必要な形状にした。
30
517
30
20
450
20
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490
127
50
5
200
600
523
514
700
400
600
116
120
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図 5 使用残材の例
図6 加工風景
60
30
図 1 椅子
単位mm
550
30
491
60
472
550
部材加工は、安全作
業を第一とし、手間
はかかるが、手作業
主体に作業を進めた。
図 2 テーブル 単位mm
5.1 椅子とテーブルの模型制作
家具図面から大まかな寸法イメージを把握するため、
図 7 加工部材の一例
段ボール、スチレンボード、スタイロフォームを使用
して 1/1 簡易模型を作成。完成した模型を図 3 と図 4
に示す。模型から一般的にテーブルの脚部は、テーブ
5.3 テーブルの制作
ル面とは 45 度傾いたクロス状に配置するが、
座る時の
椅子制作と同様に木材を適材適所に選定し、脚や天
足を入れる時に邪魔になることが判明。テーブル脚を
板部品などを制作した。
使用した手道具や木工機械は、
テーブル面とは水平垂直に配置する設計変更をした。
のみ、鉋、鋸、帯鋸盤、昇降盤、角のみ盤、テーブル
移動式横切り盤などである。塗装は、木質材料の本来
の柔らかい手触りを残すためにオイルフィニッシュ塗
装とした。使用残材の一例を図8、角度付き部材の加
工方法が分かりやすいように、安全装置(カバーと割
り刃)を外し縦挽き丸のこの回転を止めた状態を図 9
に示す。労働安全衛生作業法に準じて加工を進めた。
テーブルを組立てる前の部品配置を図 10、木工用旗
金と木工用接着剤で固定した状態を図 11 に示す。
木の
図 4 模型テーブル
図 3 模型椅子
枝のイメージを表現するため角度の精度が求められた。
5.2 椅子の制作
家具図面(部品図)を基に木取り表を作成し、木取
り材を材料倉庫の残材から部材ごとに選別した。荒木
取りした木材を、部材形状の加工に適した機械や手工
具を使用し脚や肘等の部品を制作した。主に使用した
図 8 使用残材の例
図 9 部材の加工例
千葉職業能力開発短期大学校紀要第 17 号(2012 年 10 月)
Bulletin of Chiba Polytechnic College. No.17, October 2012
図 10 部材組立前
から1提案に絞った。その一例を図 5 と図 6 に示す。
今後の喫茶店の店舗設計や家具のリデザインに役立
つアンケートを実施しようと学生・設計者・施主およ
び職員とで内容の検討をした。当然のことながら堅苦
しい統計的処理するデータも大事であるが、今回はわ
かりやすい質問とした。2/17-18 飯田橋展示場と 2/28
東京校学生寮 1Fロビーで実施した。アンケート内容
を表 2 に示す。特に飯田橋会場では、来客者に作品の
趣旨説明と対話を交えながらアンケートを依頼した。
図 11 部材組立中
6.家具と店舗デザインの考え方
椅子とテーブルの試作前には、課題制作実習と企業
からの採算(基本・実施設計+施工期間)を考慮した
簡単な工程表を設計者と考え、時間的な制約のある学
表 2 家具の評価アンケート
家具の評価アンケート
生の担当内容を吟味した。その一例としては、①店舗
卒業制作の評価アンケートにご協力をお願いします。※以下の項目で該当するものに〇をつけて下さ
ロゴマーク②イメージキャラクター③椅子④テーブル
い。
⑤店舗設計(場所、賃貸料、客単価、動線計画、什器
▼あなたの年齢
②イス(DORAGU CHAIR)についての
など)⑥時間管理など。学生の指導法としては、実際
質問
の現場環境としてとらえたデザイン計画として進めた。 10 代 20 代 30 代 40 代 50 代
6.1 店舗デザイン
施主と設計者との最初の打合せ段階での、喫茶店開
店に関するカフェプランニングの概要を表 1 に示す。
表 1 カフェプランニングの概要
項目
店名
面積
内
容
カフェ・ドラゴン
項目
内
設定場所
テーマ
千代田区神田神保町の古書店街の
施主の名前が「辰雄」など等か
ビル。2Fか地下(知る人ぞ知る
ら命名
所にする)
。
総面積:15 坪(客室12 坪)
メニュー
厨房・その他3 坪程度
客席
容
4 人席(2 名席分割可能)×3=
珈琲、カレー、スパゲッテイ 他
の軽食主体
雰囲気
森の中のイメージ、所々に鳥や動
12 名 カウンター席6 名
物のぬいぐるみを置く、木の香り
合計18 名
がする。隠れ家や的な落着ける空
都会のオアシス
60 代 70 代
▼第一印象を教えて下さい(複数回答可)
。
▼あなたの性別
好き 嫌い 面白い つまらない 不思議 お
男性 女性
しゃれ ダサい
▼あなたの職業
▼使ってみた感想を教えて下さい。
学生 主婦 会社員(建築系 サービス業 IT
良い まあまあ良い 普通 いまいち 悪い
系 機械系 食品系)
▼この家具のあるカフェに行きますか?
その他(
行きたくない たまになら行く
)
その他(
)
①テーブル(T×T)についての質問
行く
▼第一印象を教えて下さい(複数回答可)
。
▼欲しいと思いますか?また、
“はい”と答えた
好き 嫌い 面白い つまらない 不思議 お
方は、いくらなら買いますか?
しゃれ ダサい
はい(
その他(
)
▼使ってみた感想を教えて下さい。
間。
良い まあまあ良い 普通 いまいち 悪い
定員数
2 名程度
▼この家具のあるカフェに行きますか?
ポイント 2
店内奥に高さ 30cm、間口 270c
)円
いいえ
▼その他一言ありましたら
占いと珈琲の全席禁煙の店
ポイント 1
店内にライトなジャズを静かに
流す。幸運のドラゴンを店の看
m、奥行き 90cm高さのステージ
板に図案化しキャラクターズグ
を作り、実にコンサートを開催可
ッズとして販売(具体案あり)
能にする。スペースの確保が無理
であれば可能な範囲でせまくす
る。普段は観葉植物で間仕切りの
占いコーナーとする。
行きたくない たまになら行く
ご協力有難うございました。アンケート結果は、
行く
家具の評価として東京校ポリテクビジョン(総合
▼欲しいと思いますか?また、
“はい”と答えた
制作発表会)にて発表します。また、この結果を
方は、いくらなら買いますか?
今後の勉強に活かしたいと思います。
はい(
インテリア科2 年 平原万実子
)円
▼その他一言ありましたら
制作した2点の家具作品を眺めながら、調査した喫
茶店の家具配置や人間工学などの学術書を参考に、店
舗設計を依頼されている現場監督者を交えて複数回に
相談をした。施主の店舗コンセプトに合致すると思わ
れる「カフェのひとコマ」について各自が複数の候補
6.2 アンケートの実施
図 12 ひとコマのデザイン
図 13 平面プランの一例
いいえ
山田 浩之
7 家具の展示会開催
①完成した家具の展示会をハンバーガー店で開催した
(2/17-18、17:30-22:00、飯田橋)
。施主夫妻ばかりで
なく来客者 26 人に設計趣旨の説明と使用後に家具評
価アンケートを実施した。喫茶店に設置される家具の
千葉職業能力開発短期大学校紀要第 17 号(2012 年 10 月)
Bulletin of Chiba Polytechnic College. No.17, October 2012
新提案は、とても楽しみであるとの評価をもらった。
く思い、教え子の美術大学生に協力依頼し快諾が得ら
お客様の素直な意見を得られたことが、今後の学生の
れ実施した。
表 3 にイメージマスコットの概要を示す。
自信にもつながり展示会開催したことの利点となった。
②2/28 東京校学生寮の1Fロビーに制作した家具を展
表 3 イメージマスコットの概要
平成 24 年開業予定のカフェ・ドラゴン 設計依頼打合せ書
示した。個人的な説明は行わず各作品のA2プレゼン
(1)2011 年 3 月まで高校教諭(音楽)だった T.K 氏から、東京都神保町
ボードを設置し自由に座る&触れてもらう場を提供し
でカフェ開業したいという店舗設計の依頼を受けた。カフェのコンセプト
た。建築系以外の学生からのアンケートを実施し好評
を得ることができた。
飯田橋展示会風景を図 14 に示す。 テーマは、いくつもあり、代表的なものを挙げると①都会の中のオアシス
(森のイメージ)②店内にジャズが流れる隠れ家的空間③20 人程度の客
テーブル下段には、卓上L
EDライトを 2 個設置した。 席④昼はカフェ、夜は定期的にミニコンサートを開催⑤ミニコンサート用
のステージで占いも行う⑥店内は暗めでウッデイな感じなどがある。
暗くなった時には、こもれ
(2)今回のイメージマスコットについて
びのような影を楽しんでも
(1)の店舗設計と同時進行で店のロゴやマスコットも依頼された。ドラ
らいたいとの意向も含めな
ゴンのマスコットで、K氏のお気に入りのマスコットはあるが、著作権の
がらデザインを検討した。
図 14 飯田橋の展示会
③東京都立工藝高校インテリア科平成 22 年度卒業生
有志による「作-つくるー展」
(2012.8.30-9.5、吉祥寺
のリベストギャラリー創)
で制作した椅子展示をした。
制作発表者のプロフィールは、
①日本大学芸術学部デザイン学
科インダストリアルデザインコ
ースの砂川明子②明治大学理工
学部建築学科の丹波慶人③日本
大学芸術学部デザイン学科建築
デザインコースの仲野沙織④東
京電機大学未来科学部建築学科
環境・設備の公受万里絵⑤東北
図 15 吉祥寺の展示会 芸術工科大学デザイン工学部プ
ロダクトデザイン学科の江島郁子⑥東京職業能力開発
総合大学校東京校インテリア科・建築施工システム技
術科の山田浩之⑦文化学園大学短期大学部生活造形学
科卒業の須藤沙耶⑧東京造形大学デザイン学部インダ
ストリアルデザイン学科の村上正馬ら 8 名である。ま
た展示会案内で使用するダイレクトメールは、東京職
業能力開発総合大学校東京校建築科・建築施工システ
ム技術科の牧野夏子がボランティアで制作担当した。
同じ高校卒で違う大学環境で学ぶ仲間が、自主的に
集い物づくりの提案の場として自費企画をした。今回
の若者のコラボレーションする前向きな姿勢は、情熱
ある作品説明時の瞳からも感じられ大変好感が持てた。
8 Cafe DORAGONのイメージマスコット
施主から家具ばかりでなく、新規喫茶店で使用する
イメージマスコットのデザインも考えてほしいとの要
望があった。東京校学生とコラボレーションを図りた
問題もあり、そのまま使うことは行かないため、そのマスコットをリザイ
ンしたマスコットを提案する。可能なら新作品の販売も考えている。
(3)マスコットデザイン (1)と(2)を参考に「cafe DORA
GON」 のマスコットをデザインする。採用時には、店舗のロゴデザイ
ン(看板)
、ぬいぐるみ(キーホルダー)
、コースターなどの商品化。
(4)デザイン期限 未定 原稿は、手書きやイラストレータ作品でも可。
9 まとめ
卒研を通して学内だけでは体験できない社会とのコ
ラボレーションが図れた。施主と店舗設計者と家具制
作者の立場の違いこそあれ、良い作品を作りたいとい
う貴重な時間を共有し学生の奮起の一助となった。試
作家具やカフェのひとコマによる新提案を着々と現在
進行形の神保町カフェ店舗の参考にしてほしいと思う。
課題制作実習を担当したインテリア科2年平原万実
子氏と山田浩之氏の努力はもちろんであるが、施主K
氏*2 の学生に対する温かな支援、マスコット担当の原
はるか氏*3 の家具アイデアへの素直な意見、施主と学
生との橋渡しや店舗設計アイデアなどでご尽力頂いた
瀬戸山剛氏*4、快く家具展示場所の無償提供を頂いた
佐藤恭平氏*5 ならびに当時のインテリア科指導員の小
川和彦先生と坂元愛史先生には、学生に対して忌憚の
ないご支援と叱咤激励を頂いたことに深く感謝する。
参考文献
1)小原二郎著、インテリアの計画と設計、彰国社刊
*2
*3
*4
*5
元私立高校 音楽教諭
元武蔵野美術大学 建築学科4年
㈱装備建工 店舗設計者兼現場監督
CAMPA NERULA代表
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