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学部交渉のTwitter実況について理事会第12回会議で採択された小論文

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学部交渉のTwitter実況について理事会第12回会議で採択された小論文
学部交渉におけるTwitterの役割について
東京大学教養学部学生自治会理事会1
平成27年12月23日
序
東京大学教養学部学生自治会は、平成27年度学部交渉において、その模様をTwitterを通
じて準即時的な公開を行う予定である。これまでに、東京大学教養学部学生自治会理事会と
東京大学教養学部学生委員会との間で複数回の予備折衝が行われたが、東京大学教養学部当
局は、学部交渉の模様をTwitterを通じて公開することに対して否定的な見解を示している。
本論は、東京大学教養学部学生自治会の進める学部交渉の公開性向上の持つ意義を明かすた
めに、そもそも学部交渉とはいかなる存在であるかを大学の自治から紐解き、また現代社会
におけるTwitterの持つ利点を解説した上で、東京大学教養学部学生自治会が想定する
Twitterを通じた模様の公開がいかに学生・学部当局双方にとって有益であるのかを述べ
る。
学部交渉の意味および公開性向上の持つ意義
学部交渉そのものについて述べる前に、大学のおける学生の地位について述べる。日本国
憲法23条2 に規定される「学問の自由」を制度的に保障するものとして解釈されている「大
学の自治」は、日本国憲法制定当初は、「教授会の自治」を意味しており、学説・判例双方
において、学生に固有の権利を認めることはなかった3。しかしながら、昭和40年代の大学
紛争以降は、学生について、固有の権利を持つ大学の不可欠の構成員として捉える学説が主
流であり4、また特に東京大学においては、昭和44年1月10日に交わされた「七学部集会に
1
東京大学教養学部学生自治会第131期理事会第12回会議において採択されたものである。
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日本国憲法23条「学問の自由は、これを保障する。」
3
大井文夫 編『法学教室増刊 基本判例シリーズ1 憲法の基本判例(第二版)』(有斐閣、1996
年)pp.112-115
4
部信吉『憲法 第六版』(岩波書店、2015年)pp.172-173
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おける確認書」十の25に代表されるように、大学の自治とは、教授会のみならず学生によっ
ても形成されていると解釈されている。よって、少なくとも今日の東京大学において、学生
が大学の自治に関して固有の権利を持つこと、ならびに学生は大学の不可欠の構成要素であ
ること、この二点は確固たる事実として認められよう。
さて、大学の自治に学生が固有の権利を持って参画する理由として特に重要なものとして
は、以下の三つがあげられる。
まず一つ目は、学生個々人が持つ自己決定権を保持するためである。日本国憲法は、その
中において個人の尊重を根本規範として掲げている6。確かに、日本国憲法の第一の名宛人
は政府であるが、我々は日本国憲法を優れた人権カタログとみなしうるのであって、自律性
の求められる大学構成員の関係においても、その理念は、常に適用されなければならないと
解釈することが可能である。さて、個人の尊重という理念から、当然の帰結として各学生が
自己決定権を持つことになるが、さらに各学生の自己決定権の集合体として、学生全体の自
己決定権、すなわち学生自治権という権利が存在する。その上で、学生自治権というこの固
有の権利を保持するための「手段」として、学生による大学の自治への参画が想定されるの
である。大学の自治に参画できない、つまり大学運営に参画しなければ、学生無視の政策が
一方的に大学当局により進められ、結果として学生の自己決定権という固有の権利が脅かさ
れる虞があるが、これを防ぐための手段として、学生が大学の自治へ固有の権利を持って参
画する、ということである。この観点に基づけば、あえて大学当局が大学の自治に学生を参
画させる理由が無いように誤解しかねないが、しかし先述の通り、学生による自治権は、あ
くまで各学生の持つ自己決定権に基づくものであり、大学当局が濫りに学生の自治権を制限
することは許されず、故に当然の帰結として学生による大学の自治への参画を制限すること
も許されないことは注意しなければならない。
二つ目は、学生も大学運営の担い手であるために、大学の自治への学生の参画は、権利よ
りも寧ろ義務としての要素を持つということである。大学において学術的営為を担う存在と
しては、専ら研究者教員が想定され、実際に彼らが大学における学術的営為を担う中心的存
在であることは間違いない。しかしながら、研究者教員のみならず、学生もまた「教員に助
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東大闘争の末期に教養学部学生自治会を含む多くの学生自治会と東京大学当局との間に「七学部集
会における確認書」が結ばれた。このうちの十の2において「大学当局は、大学の自治が教授会の自
治であるという従来の考え方が現時点において誤りであることを認め、学生・院生・職員もそれぞれ
固有の権利を持って大学の自治を形成していることを確認する。」とされている。
6
日本国憲法13条前段「すべて国民は、個人として尊重される。」
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けられながら真理を探究する(自らにとっては新たな知の獲得)営為者」7として位置づけ
られるのであって、学生は、学問の自由を持つ限りにおいて、研究者教員と対等なのである。
よって、東京大学憲章における東京大学の基本目標「真理の探究と知の創造を求め」の主体
者も、学生を含む東京大学の構成員と解釈される。このように学生は、教職員と同様に大学
運営の主体者であり、主体者としての責任を引き受けなければならないのであるから、学生
が大学運営へ参加することは、権利のみならず義務ですらあるのだ。
三つ目は、学生が参画することでより大学の自治が擁護されやすくなるということである。
昨今、政府による大学の自治を破壊せんとする施策が進められているが、学生は、その数の
多さもあり、潜在的に大きな力を持っているのであって、教員とは異なった立場にあるから
こそ、その立場を活かして大学の自治を擁護することが出来る。また大学内部の問題であっ
ても、例えば学事暦やカリキュラム改革に際して、教授らとは違った立場からの意見を出す
ことにより、より良いものが作られることなどが想定される。このように、学生は、教員と
は異なった立場を活かして、大学の自治を擁護することが出来る。
故に、学生が固有の権利を持って大学の自治に参画することは、当然の権利であり、義務
でもあり、そして大学の自治全体に対しても資するものである。
これまでの議論を踏まえて、東京大学教養学部における学部交渉の役割を考えてみる。
学部交渉は、何よりも東京大学教養学部における学生自治ならびに大学の自治双方の象徴
として理解されよう。学部交渉を学生自治の象徴であると捉えるとは、学部交渉を学生に固
有の自治権を保持するための学生による手段と見做すことであり、大学の自治の象徴である
と捉えるとは、大学の全構成員がなんらかの意思決定をするための手段と見做すことである。
故に、学生自治の観点からは自らの権利を「擁護」するために、大学の自治の観点からは自
らの権利ないし義務を「行使」するために、学部交渉においては、広汎な学生の参加が望ま
れる。しかしながら、近年の東京大学教養学部の学生の間においては、学生が固有の自治権
を有していること、ただしこの権利は学生による不断の努力によって保持されるということ、
および学生は大学の自治を構成する不可欠の要素であり、大学の意思決定に際して固有の権
利と義務を持つ存在であるとの認識は浸透していない。ただし、この原因については、学生
側、特に学生自治会を運営する者の責任が第一に想定される一方で、近年の教養学部ならび
7
廣渡清吾「大学のステークホルダーと大学コミュニティー 」(『IDE - 現代の高等教育』 (567),
2015年)
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に東京大学当局の行った学生無視ないし軽視の振る舞い8にも一定の原因を認めることが出
来よう。さて、このような事情により、残念ながら、今年度の学部交渉(本交渉)に、東京
大学教養学部の広汎な学生が参加することは想定されない。しかしながら、東京大学教養学
部における学生自治ならびに学生の大学の自治への参画は、これからも機能するべきであり、
また直ちに学生自治会が解散・消滅したり、あるいは学部交渉が消滅したりすることは想定
されないことを鑑みれば、今年度ないし来年度の実際の参加者数に反映されるか否かにかか
わらず、将来の学部交渉を主に質的に向上させる、すなわち学生自治と大学の自治を発展さ
せるための手段を講じることは絶対に必要である。この手段としては、多くの学生に対して、
学生自治と大学の自治の象徴たる学部交渉の存在ならびに内容を啓発することが、最重要で
ある。ここにおいて、学部交渉の公開性向上が持つ意義は明らかにされた。
学部交渉の公開性向上においてTwitterが果たす役割
これまでに学部交渉が学生・大学当局双方にとっていかなる意味合いを持つかを明らかに
した上で、学部交渉の公開性向上が重要であることを明らかにしてきた。本章では、学部交
渉の公開性向上において本交渉の模様をTwitterにて「実況」することの重要性を説明する
ため、従来の広報媒体が抱える問題点をあげつつ、Twitterの特徴がこの問題点を十二分に
解決することを述べる。
学部交渉の存在ならびに内容を広報する従来からの媒体としては、公式Webサイト、ビ
ラ、ポスター、立て看板などが存在する。しかし、これら従来の広報媒体とTwitterの決定
的な違いは、場の共有と即時性という二点にあり、またこの二点において従来の広報媒体は
Twitterに対して致命的に及ばない。そして、この二つの特徴は、「より多くの学生が大学
の自治に参画しやすくなる」ことと、「デマを防げる」こととの二つの大きな効果をもたら
す。
では、Twitterによって、「より多くの学生が大学の自治に参画しやすくなる」とはどう
いうことだろうか。これは主に二つの理由による。
一つ目の理由は、Twitterユーザーが情報の受け手となると同時に発信者ともなれるとい
うことである。Twitterには「リツイート」という機能が存在しており、この機能を用いる
ことで、わずか1、2秒の内に、「リツイート」という名称の通り、他人が行ったツイート
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駒場寮の一方的廃寮、学部交渉で確約された学生用ロッカー一人一個化の反故、三鷹国際学生宿舎
の室数不増加、昨年度の一方的なカリキュラムならびに学事暦の改革等
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を改めて自分がツイートするのと同じこと、すなわち自らも受け取った情報の発信者となる
ことが出来る。今回の例で言えば、学生自治会事務局の行ったツイートを見た学生が、情報
の発信者として気軽に他人に情報を共有出来るということである。従来の広報媒体の欠点と
しては、情報は、発信者たる学生自治会事務局から受信者たる多くの学生へ一方的に流れる
ことであり、受信者たる多くの学生が改めて何らかの情報発信を行うことは困難であった。
これでは、学生は単に情報を受け取るだけの存在、すなわち受動的役割しか果たし得ず、こ
の受動的行為と、大学の自治への参加という能動的行為との間には大きな間
があり、結果
として学生に対して大学の自治への参加を促すことが困難であった。Twitterを用いること
により、学生は学生自治会事務局の行うツイートを見るという受動的行為のみならず、情報
の発信者となる能動的行為を気軽に行うことが出来るのであって、故に同じ能動的行為たる、
大学の自治への参加を促しやすいのである。
そして二つ目の理由が、学生の間での議論が促されるということである。Twitterは、ユー
ザーをして気軽に情報発信を可能にせしめており、学生自治会事務局が行ったツイートに対
する意見・批判等を容易に発信可能である。事実、これまでに学生自治会では、非公式に一
回、公式に一回、それぞれ自治委員会9会議において自治委員に対してTwitter実況を呼びか
けたことがあるほか、議論を呼びうる各種事項についてTwitterでの情報公開を行ったこと
がある。その結果、いずれの場合でも、大小の差はあれ、学生の間で何らかの議論や意見・
批判が半ば自然に発生した。今回の学部交渉(本交渉)においても、学生自治会事務局の行
うツイートにより、学生は多種多様な意見を表明し、学生自治や大学の自治への参画に関す
る議論が発生することが予想される。さらに議論を行った学生はもちろんのこと、この議論
を見た学生も、実際に意見を表明するか否かはともかく、何らかの意見を持つであろう。
以上のことから、Twitterを通じた実況は、学生の学生自治や大学の自治への参画意識を
啓蒙することに大いに資すると結論づけられるのである。
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また、Twitterを通じた実況による、もう一つの効果は、デマ(発信者が悪意を持って発
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信する情報に限らず、単に不正確な情報も含む)を防げるということであった。議事録を後
日自治会室ないし学生自治会公式Webサイトにおいて公開したり、あるいは机上ビラ配布
ないし立て看板によって合意内容を広報したりする行為は、必然的に後日のものとなりざる
を得ない。議事録の公開については、作成作業(文字起こしから学生自治会・学部当局双方
の合意)に一定の時間がかかるし、また机上ビラ配布や立て看板は、今年度の学部交渉(本
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東京大学教養学部学生自治会の常設の最高議決機関。クラスから二名ずつ選出された自治委員が出
席し、各種議案の審議を行う。
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交渉)の時期(冬季休業中)を考えれば、広範な学生に実際に周知されるのに時間がかかる。
しかし、学部交渉(本交渉)の結果自体は、傍聴人を通じて即時に公開されるのであって、
ここで学部交渉(本交渉)の結果が伝わる時期と、学生自治会による正式な広報が伝わる時
期との間に、信頼できる情報源からの情報が無いという間
が生じる。そして、この間
に
こそ、まさにデマが流れるのである10。また、会議の内容に対する理解が出席者によって異
なるということは往々にしてあることであり、今回の学部交渉(本交渉)にあたっても、傍
聴人の間で議事に対する理解が異なる、つまり一部の傍聴人が議事の内容を誤解し、またさ
らに誤った解釈の情報を傍聴人が発信することは十分予想される。この場合、学生自治会事
務局という署名があり、またそれ故に一定の信頼性を持つアカウントが一切情報を公開しな
ければ、多くの学生は喩え信頼性が無い事実上の無記名の情報であっても信じるしかなく、
結果として傍聴人が流した誤った情報をもとに、学部当局や学生側が誤った批判を受ける虞
がある。しかし、学生自治会事務局という信頼性のあるアカウントが、議事の内容をただち
に公開すれば、このような誤った情報は、信頼性に欠く故に淘汰され、拡散することはなく、
結果として誤った批判を受けることも無いのである。このように、Twitterによる実況は、
寧ろデマを防ぐのに大いに資するものであるのだ11。
これまで、学部交渉(本交渉)を学生自治会側がTwitterで実況することの意義を説明し
た。学生・教員双方によって要請される大学の自治への学生参加の意識を醸成するのみなら
ず、誤った情報の拡散およびそれに伴う謂れなき批判を防ぐ効果もあるのである。確かに、
Twitterは負の側面を持つが、それは他のあらゆる技術も同様なのであって、また、かつて
Twitterを原因とするトラブルは本学においても発生したものではあるが、しかしこれまで
に明らかにしてきた通り、Twitterの適正な利用は、多くの効果を持つのであって、Twitter
持つ負のイメージに囚われすぎてはならないことを最後に強調したい。
10
武田徹ほか『Twitterの衝撃』(日経BP社出版局、2009年)pp106-108
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同上
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