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中長期的な視点(展望)を持った財政運営について

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中長期的な視点(展望)を持った財政運営について
中長期的な視点(展望)を持った財政運営について
平成25年度 市町村課 財政グループ
研修生卒業研究報告書
土屋紘志
目次
はじめに
1.地方公共団体を取り巻く歴史的背景
2.地方公共団体のあるべき姿
第1章 財政指標と将来の展望
1.現在活用されている財政指標
(1)将来負担比率
(2)財政力指数
(3)経常収支比率
(4)実質公債費比率
(5)資産老朽化比率
2.財政運営にかかる将来の展望
第2章 中長期的な財政状況の推計
1.変動的経費の把握
2.固定的経費の把握
3.変動的経費にまわせる財源の把握
第3章 推計結果及び指標化
おわりに
はじめに
1.地方公共団体を取り巻く歴史的背景
昭和61年から平成3年までと言われる好景気であった「バブル経済」の崩壊後、日
本経済の景気は低迷するとともに、税収が減収し、また、深刻な経済問題が表面化され
た。政府は累次の公共投資を中心とする大規模な経済対策を講じたが、期待されたよう
な経済の回復にはつながらず、国・地方の債務残高は増加することとなった。
その後、平成13年からのゼロ金利政策等の実施により、
「いざなみ景気」に入ったが、
経済成長率は低く、また、長引く経済不況の懸念から、賃金上昇に波及しなかったこと
などにより個人消費は盛り上がらず「実感なき景気回復」と呼ばれるものとなった。そ
こに、平成20年のリーマンショック及びその後の欧州政府債務危機により生じた世界
経済の信用収縮と成長鈍化は日本経済に大きな影響を及ぼし、デフレから脱却できない
状況が続いた。
バブル経済崩壊以降「失われた20年」という言葉が象徴するように、未だに回復基
調には乗り切れていない状況であり、現在は、長期にわたるデフレと景気低迷から脱出
するため、金融政策・財政政策・成長戦略の「三本の矢」(いわゆるアベノミクス)を一
体として推進している。
そのような状況の中、当然ながら地方公共団体においても、長引く不況や進展する高
齢化、少子化等により大きな影響を受け、非常に厳しい財政状況となった。地方公共団
体は、そういった厳しい財政状況や地域経済の状況を背景に、簡素で効率的な行財政シ
ステムを構築し、自らの行財政運営について透明性を高め、公共サービスの質の維持向
上に努めるため、積極的に行政改革に取り組んできたところである。
しかしながら、平成18年に北海道夕張市の事実上の破綻が発覚したことで、地方公
共団体の財政状況の悪化の現実に世間の注目が集まり、地方公共団体の財政再建制度を
見直す動きが加速し、新たに「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」
(以下「健全
化法」という。
)が平成19年に公布された。
この法律では、毎年度財政状況をチェックし、早期健全化基準(イエローカード)と
財政再生基準(レッドカード)の2段構えで早期の財政再建を図るものであり、その判
断する指標として、実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率及び将来負担比
率の4種類の指標が定められている。その中でも、特筆すべき指標は将来負担比率であ
り、これは、毎年の公債費といったフロー情報ではなく、地方債残高などのストック情
報に基づき算定する指標として導入された。
2.地方公共団体のあるべき姿
健全化法の施行により、地方公共団体は今まで以上に将来を見据えた経営能力を求め
1
られることになり、また、地方分権が進む中、自主的・自立的に健全な財政運営を行っ
ていかなければならなくなった。そのためには、中長期的な財政状況を把握し、安定し
た財政運営及び運営計画を策定すること、さらには、銀行等の民間資金から低金利で資
金調達するためIR活動による情報発信を行うことが必要となってくる。こういった取
組を進めていくことにより、全国的に人口減少の一途をたどっている中においても、真
に住民が求める、そこに住み続けたいと思われる地域社会を実現できると考える。
そこで、本稿では様々な統計数値や健全化法による指標などを用い、中長期的な財政
状況を推計し、その重要性について考察する。
なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の個人的見解であることをお断りしておく。
2
第1章 財政指標と将来の展望
1.現在活用されている財政指標
冒頭で財政状況を表す指標として将来負担比率について触れたが、他にも多数の財政指
標があり、その中でも今回の考察の参考にした指標について本節で説明することとする。
(1)将来負担比率
1年間に収入しうる税金や普通交付税などの一般財源(標準財政規模)に対して、一般
会計等における実質的に将来負担すべき負債が何倍に相当するかを表すもの。
将来負担比率 =
充当可能基金額 + 特定財源見込額
将来負担額 − (
)
+地方債現在高等に係る基準財政需要額算入見込額
標準財政規模 − 元利償還金・準元利償還金に係る基準財政需要額算入額
現時点での負債残高を指標化することで、将来財政を圧迫する可能性の度合いを示すも
のである。家計で例えると、ローン残高が年収の何年分に相当するか表しており、市町村
において、その数値が350%(政令市においては400%)を超えると早期健全化計画
の策定を義務付けられる。
(2)財政力指数
普通交付税制度の中で、一定の合理的な基準によって算定される標準的な行政サービス
に必要な需要額に対して、標準的な税率による収入額等に算入率を乗じたものの割合。
財政力指数 =
基準財政収入額
基準財政需要額
財政力指数が1より小さい地方公共団体は、基準財政需要額と基準財政収入額の差が普
通交付税として国から交付される。また、基準財政収入額の算出の際、税収等においては
実際の収入見込額に算入率の75%を乗じており、25%は算入されていない。この25%
部分は留保財源と呼ばれ、基準財政需要額で捕捉しきれない行政活動、独自性の高い事業
や交付税に算入されない公債費に充当される財源として位置づけられている。つまり、数
値が高いほど豊富な税収等を財源として行政活動を行っていると同時に、留保財源も潤沢
にあり多様な行政活動が可能になる。
(3)経常収支比率
地方税や普通交付税など経常的な一般財源収入に対して、経常経費のうち一般財源が充
3
当された支出の割合。
経常収支比率 =
経常経費充当一般財源
経常一般財源
経常経費として取り扱われているものは、人件費、扶助費や公債費の大部分と、その他
にも物件費などで毎年度発生するような経費である。経常収支比率が高くなれば、経常的
に収入する一般財源の残余が少なくなり、100%を超えると臨時的な収入をもって財政
運営を行っていることを意味する。家計で例えると食費、光熱水費や住宅ローン償還費な
どの固定支出にあたるようなもので、財政の弾力性を示す指標とされている。
なお、公営企業会計や公会計でも同様に「経常収支」という用語を用いるが、ここで使
用されているものとは異なる定義である。
(4)実質公債費比率
標準財政規模に対して、公債費等(一般会計等が負担する元利償還金及び準元利償還金)
がどの程度占めているかを表すもの。
(地方債の元利償還金 + 準元利償還金)
実質公債費比率 =
−(特定財源 + 元利償還金・準元利償還金に係る基準財政需要額算入額)
標準財政規模 − 元利償還金・準元利償還金に係る基準財政需要額算入額
借金の返済は、必ず履行すべきものであることより、この指標が意味するところは資金
繰りの程度である。数値が高くなりすぎると他の行政サービスが提供できなくなるなどの
理由により、早期健全化基準として25%、財政再生基準として35%が設定されている。
(5)資産老朽化比率
有形固定資産のうち、償却資産の取得価格に対する減価償却累計額の割合。
資産老朽化比率 =
減価償却累計額
有形固定資産-土地+減価償却累計額
現状所有している資産が年数の経過によりどの程度減価償却しているかを示す指標であ
り、今後の改修や建替えにかかる費用の予測などに活用される。なお、現在の公会計制度
では、資産の計上方法等について、複数の方法が認められており、府内のほとんどの団体
は簡易的に算出する総務省改定モデルを選択している。この場合、資産は時価評価ではな
く、過去の投資的経費の積み上げで計上される。
4
2.財政運営にかかる将来の展望
1.で述べた指標については、行政活動の結果として表れてくる決算数値等の確定した
数値を用いて算定されることから、目的に応じて各財政指標が示す数値はその団体の状況
を、極めて確定的に示してくれるところである。また、健全化法の施行は、単に指標によ
り早期健全化基準や財政再生基準を計ることだけが目的ではなく、こうした団体には計画
の策定や議会の議決等の手続きを義務付けることで財政の健全性の担保を図る役割をして
いる。つまり、各指標は極めて確定的な財政状況を示す数値であることから、住民や金融
市場等がその団体の財政状況等を把握するには有用なところである。
それでは、各地方公共団体における将来の財政運営を行っていく中では、地方公共団体
及び行政マンとして、その結果を坦々と住民等へ開示することのみでいいのだろうか。
例えば、指標の中で将来への状況を示す将来負担比率が悪くても、財政力指数などが高
い団体、つまり単年度でみると留保財源が多い団体は、30年後には将来負担比率も優良
になっている可能性も十分ありうる。逆に言うと現在が良くても将来は悪化する可能性も
考えられる。
今後の財政運営を担っていく我々としては、これまで述べた指標だけで各団体の財政を
全般的に評価し運営していくのは消極的ではなかろうか。そう考えると、我々にとって、
財政の中長期的な状況や運営などへの目線に対する意識の向上や取組が必要ではないかと
考える。
5
第2章 中長期的な財政状況の推計
本章では、個別の地方公共団体の中長期的な財政状況に着目したい観点から、個別団体
ごとの財政収支の見通しを推計するには、実際には行政運営をする団体自身が作業(作成)
することが当然ながらより予見性の高いものとなるところであるが、筆者の思いによるこ
とから一定の前提条件を設定し個人的に推計を行うこととして、その作業にあたって、前
提条件及び毎年度の収入支出の推計方法等について説明する。
なお、本章での財政収支の推計において、毎年度発生する固定的な経費は、地方交付税
など地方財政制度により恒常的に財源保障がなされていることから、年度により大きい変
動的な経費に着目することとしている。
まず、支出の見込みについて、年度により変動がある経費(以下「変動的経費」という。
)
と、それ以外の毎年度発生する固定的な経費(以下「固定的経費」という。
)とで区分けし、
一般財源ベースで集計する。変動的経費については、投資的経費や退職手当を想定してお
り、これらの経費については、毎年度変動的であることから普通交付税の画一的に算定す
る基準財政需要額には、反映されにくい性質のものであり、一方の固定的経費については
年度間の変動が小さな経費であり、ある程度普通交付税で財源保障されていると考えた。
次に、収入については、変動的経費にまわせる財源として、普通交付税の算定に入らな
い留保財源、目的税(事業所税を除く。)、超過課税をベースに考えた。以下の3ステップ
で推計を行っている。
◇ 変動的経費(年度により変動がある経費【投資的経費、退職手当】
)の把握
◇ 固定的経費(毎年度発生する経費)の把握⇔普通交付税で算入される需要額と比較
◇ 変動的経費にまわせる財源の把握
なお、各種数値の算出においては、平成24年度決算ではそれぞれの団体において国の
給与減額等に伴う扱いが異なっていることや公会計制度に伴う財務書類が未公表の場合が
あることから、平成23年度決算の数値を用いる。
また、公営企業については、基本的には料金収入等で運営するという観点に基づき、今
回は一般会計について検討した。
1.変動的経費の把握
建設事業に係る投資的経費や退職手当は、年度により変動が大きく、そのボリュームを
年度ごとに算出する必要がある。投資的経費を算出するにあたり、建設事業に係る公債費
(元金償還のみ)についても併せて検討し、民間の複式簿記(行政においては、公営企業
会計や公会計制度で使用される複式簿記)に倣い投下資本に関する経費と考え、変動的経
6
費に計上することとした。
投資的経費については、公会計制度(総務省改訂モデル)における資産の算出の際に用
いる地方財政状況調査の普通建設事業費を基に、資産の目的別に設定された耐用年数を経
過した資産について、同規模の経費(物価変動による修正も併せて行っている。)、財源で
事業実施するものとする。なお、地方債の償還年限は基本的には耐用年数で設定するが、
耐用年数が30年を超えるものは、地方債の借入期間の上限である30年に統一した。さ
らに、公債費においては、普通交付税による事業費補正の措置があるので、資産の目的別
に以下の事業債について交付税措置率を設定した。
事業債名
交付税
対象資産
措置率
一般廃棄物処理事業債
1/2
清掃費(ごみ処理、し尿処理)
公共事業等債
2/9
防災対策事業債
3/10
消防費(その他)
学校教育施設等整備事業
2/3
教育費(小学校、中学校)
農林水産業費(造林、林道、治山、砂防、漁港、農業農村整備、海岸保全)
土木費(道路、橋りょう、河川、砂防、海岸保全、港湾、都市計画、空港)
以上より投資的経費に係るものとしては、事業実施年度で必要とする一般財源(充当率
により起債できない部分など、以下「建設費」という。)
、地方債の償還、償還に係る事業
費補正分が推計される。なお、昭和43年度以前の地方財政状況調査の電子データが存在
しないため、施設の耐用年数が44年以上で費用が算出できない部分は、除外している。
また、退職手当については、地方公務員給与実態調査を元に60歳での定年退職を前提
とし各年度の退職者数を算出し、それに退職手当の超過支給状況調査の1人当たりの実支
給額を掛けて推計した。なお、退職者数は全職員から公営企業職員を引いたものとした。
2.固定的経費の把握
経常収支比率を算出する際に分子で使用している経常経費充当一般財源を参考に、1.
で算定される公債費を差し引き、また、臨時的な人件費も固定的経費として計上するなど、
「毎年度発生する」という意味合いに則する形に修正したもので、以下のとおり地方財政
状況調査等の数値を元に算出した。
固定的経費=14 表(1,7,15,18 行)3 列 + (1,3,4,5,6,15 行)5 列
+ 公営企業(法適)等に対する基準外繰出
− 1. での退職手当の当該年度分
− {27 表 25 行(3,4 列) + 28 表 21 行(13,14 列)}
− {45 表(6,9,10,13 行)1 列 − 14 行 1 列}
7
3.変動的経費にまわせる財源の把握
2.の計算式で算出された固定的経費については、ある程度普通交付税で財源保障され
ていることを勘案し、基準財政需要額内の固定的経費に相当する部分(基準財政需要額(臨
時財政対策債振替前)から公債費、事業費補正や投資補正、単位費用に含まれる投資的経
費を差し引いたもの)と比較する。基本的には基準財政需要額で算入されている部分より
決算での固定的経費の方が多く、その差に留保財源等が充てられていると考え、残りの留
保財源等が1.の変動的経費にまわせる財源として考えた。
(基準財政需要額に算入されて
いる投資的経費については、どの団体においても標準的に発生する性質のもので、変動的
経費にまわせる財源ではないと考えた。)なお、固定的経費は性質上変動しにくく、また、
普通交付税で財源保障されている部分が多いことを勘案し、乖離差は年度間で均一である
と考えた。固定的経費は、普通交付税、基準財政収入額、留保財源で相殺した上で、残り
の残余額を推計に計上した。
なお、算出する際、留保財源等の税収については、労働力の中心となる15歳から65
歳の生産年齢人口に比例するものとした。
2.
、3.の算定方法についての概略図を下記に示す。
8
第3章 推計結果及び指標化
投資的経費などの支出を上側、留保財源などの収入を下側として年度ごとに棒グラフに
し、その収支差額を折れ線グラフに示すこととした。折れ線グラフが下側にあるときは黒
字状態で、逆に上側にあるときは、赤字状態を表しており、約30年先までの収支見込み
が確認できる。下図はある団体Aについて例示したものである。
(団体A)
収入側を見てみると、今後の生産年齢人口の推計に伴い減少しており、後年度において
は、留保財源が固定的経費だけで消費され、変動的経費にまわせる財源としてほとんど残
らない状態に陥る。一方支出側は、約7年後までは、年度による増減はあるものの横ばい
状態であるが、その後は建設費や公債費の増加により現在より高い水準で推移していく。
これは、バブル景気やその後の経済対策などで公共事業を行ってきた反動によるものと考
えられる。収支差額を見ると、右肩上がりで、ある時点から支出超過の状態になっている
ことが分かる。
9
さらに検証を行うために、別の2団体(B、C)について下記に図示した。
(団体B)
(団体C)
それぞれの団体において、収支推計が立てられており、今後の財政状況としてはB団体
が良好で、C団体が悪化していくということが分かってくる。
さらに、各団体をより精度よく比較するために規模是正を行い、また現時点で支払って
いくことが決まっている公債費(地方債残高)を併せて考慮するために、将来負担比率の
算式を参考に、下記の数式で指標化し、これをN年度における土屋紘志式将来負担比率と
して、検証することとした。
現在の(将来負担比率の分子
−退職手当負担見込額
+充当可能特定収入(都市計画税)
)
土屋紘志式
将来負担比率
=
+ΣN 年度までの収支累計額
現在の将来負担比率の分母
10
算出される指標は、ストック情報とフロー情報を合わせており、最初(曲線の切片)は
将来負担比率ベースであり地方債残高などのストック情報がメインとなっているが、後年
度になるほど既存の地方債の償還が終了することで、フロー情報つまり単年度ごとの収支
を表すことになる。年度ごとに土屋紘志式将来負担比率を算出し、団体別に今後の推計を
行い折れ線グラフにしたものを下図に示す。
ここでは、分かりやすい3パターンについて分析を行うこととする。一つ目(実線や二
重線の団体)は、現状において将来負担比率が低く、今後の推計においても数値があまり
変わらないもしくは、改善されていく団体であり、比較的安定した財政運営が見込まれる。
二つ目(点線の団体)は、右肩上がりの上昇基調で平成52年度の土屋紘志式将来負担比
率が150以上の団体であり、将来において非常に厳しい財政運営を強いられる。なお、
将来の見込み方について団体固有の状況や今後の行革による効果まで反映できないため、
仮の基準として150以上と設定したものである。三つ目(一点鎖線の団体)は、平成2
3年度の指標が高く、今後の推移としては減少傾向にある団体で、このような団体は、既
に将来負担比率で財政状況が良くないことが分かっており、現在は公債費もしくは公債費
繰出等の占める割合が高く独自施策を展開できる財源に余裕があまりないが、既存の地方
債の償還が終了するにつれ、財源が生まれてくるような団体である。
以上の3パターンを見た場合、現状の将来負担比率から大きく変動していることが分か
る。つまり、中長期的な視点により、現在の指標には表れていないが、将来の推計に大き
な影響を及ぼす内在的な要因が存在するということである。こういった要因を把握するた
めには、本稿の推計や指標の考え方を参考にして、将来的に直面する課題を表面化させる
11
ことが必要であり、またその課題に対しては中長期的な展望を持った計画を立てることで
対応していただきたい。
ここまで新たな推計及び指標について考察してきたが、あくまで一般会計のみを対象と
している。しかし、現実的には公営企業への繰出金などは、制度上も認められており、一
般会計と同様にインフラの更新時期を迎えるにあたり、少なからず影響はある。今回は、
前提条件として、公営企業は料金収入等で運営するということで推計している点に留意い
ただきたい。
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おわりに
経営能力や健全な財政維持が地方公共団体に求められる中、団体が策定する財政計画の
多くが5年から10年ほどの短期的な財政推計を基に立てられている。この財政推計を行
うにあたりその裏付けとして用いられる過去の決算状況は、現金主義・単式簿記により会
計管理、事業執行されているものである。もっとも、平成18年に「地方公共団体におけ
る行政改革の更なる推進のための指針」が策定されて以来、公会計制度を導入するなど地
方公共団体の公会計は整備されつつあるが、いまだ単年度の決算に主眼が置かれがちな状
況である。このため、各団体における短期的な財政推計では、資産や負債などのストック
情報が反映されていない。また、景気の動向や近年の児童手当法改正にみるように社会情
勢に応じて幾度となく見直される社会保障制度の改正などにより数年先の財政状況ですら
容易に見通せない要因となっている。こういった理由により団体において財政推計を行う
際、あまり注力されていないこともある。
しかしながら現実は、過去に実施された多くの公共事業によるインフラの更新時期が到
来することにより、これに係る経費が財政を逼迫する危険性を団体は抱えている。このよ
うな現実を考えれば、資産などのストック情報を踏まえた中長期的な推計を行うことが重
要と言えよう。さらには、自団体の将来のあるべき姿、あるべき財政状況を見据えたうえ
で、(1)前提条件の設定
Plan、(2)事業の実施
(4)分析を踏まえた計画の変更
Do、(3)分析
Check、
Actを行い、PDCAサイクルをローリングしてい
くことで、こういった中長期的な推計がより有益なものとなる。
現在ある指標だけにとらわれることなく、様々な視点から自団体の財政状況を把握し、
中長期的な財政の展望を持つことが安定した財政運営の実現に必要である。
また、こうした取組姿勢や経営努力について対外的にアピールすることで、低金利での
銀行等民間資金の調達のみならず、子どもたちが将来、安心して暮らせるまちとして地域
住民からの信頼を得ることに繋がっていくと考える。
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参考文献等一覧
・内閣府『中長期の経済財政に関する試算』
(2013.8 経済財政諮問会議提出)
・総務省『公共施設及びインフラ資産の将来の更新費用の比較分析に関する調査結果』
(2012.3)
・総務省『新地方公会計制度実務研究会報告書』
(2007.10)
・国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口』
(2013.3 推計)
・中尾武彦『日本の 1990 年代における財政政策の経験-バブル崩壊後の長引く経済低迷の
中で-』
(財務省 PRI Discussion Paper Series 2002.4)
・小西砂千夫『現代財政運営に必要な財政分析の手法とその具体的活用』
(地方自治職員研
修 2003.3)
・飛田博史『地方公務員給与削減の地方交付税算定への影響について』(自治総研 2013.6)
・西村直人『連結償還能力指標による公債管理について』(自治大阪 2009.4)
・中山秀人『自治体財政の実態をあらわす指標を求めて ~修正系収支比率の分析~』(自
治大阪 2006.3)
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