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2014年度の活動報告書はこちらから
2014 年度 NGO と企業の連携推進ネットワーク
報告書
2015 年 5 月
特定非営利活動法人 国際協力 NGO センター(JANIC)
1
1.
NGO と企業の連携推進ネットワークとは
NGO と企業の連携推進ネットワークは、持続可能な社会の実現に向けた地球規模の課題解決にむけ、NGO と企業が双方
の特性を認識し、資源や能力等を持ち寄り、対等な立場で協力して活動する機会を推進することを目的に、2008 年に結成され
た。本ネットワークは 3 カ年計画を基に活動している。
第 3 期(2014~2016 年度)3 カ年計画
持続可能な社会の実現に向けた地球規模の課題解決を目指し、NGO と企業の「違いを力に」質の高い連携を進める。
重点項目
主な取り組み
成果指標
①地球規模の課題を知る
・ グ ロ ー バ ル イ シ ュ ー ・ 最 新 の CSR の 潮 流 ( ポ ス ト 2015 、
定例会・シンポジウムで実
ISO26000、CSV、GRI G4、ビジネスと人権など)、旬なトピックスを
施する
定例会やシンポジウムのテーマとして取りあげる
・定例会やシンポジウム以外に、テーマ別の勉強会を開催する
年 1 回程度、実施する
②NGO と企業の違い・特性
・定例会において、必ずグループディスカッションやグループワー
定例会で実施する
を理解する
クを盛り込む
・オリエンテーションや定例会において、「NGO 概論」、「ビジネス
オリエンテーション・定例会
の発想、思考」、「企業の組織行動」、「NGO と企業の連携」などを
で実施する
テーマとして取りあげる
・NGO と企業のお互いの理解を促進するための機会(NGO の事
年 1 回程度、機会を設ける
務所ツアー、企業主催のイベントへの参加など)を設ける
③質の高い連携事例を共
・定例会やシンポジウムの場で、先駆的な質の高い連携事例を
定例会・シンポジウムで実
有し、創造する
紹介する
施する
・最新連携事例を HP や連携ガイドラインに掲載し、幅広く共有す
年 1 度は更新する
る
④ポスト 2015 の実現に向
・有料コンサルテーションを実施する
年 10 件、実施する
・企業ネットワーク組織がオブザーバーとして参加する
新規で 2 団体が参加する
・NGO のアドボカシーグループと連携し、セミナー/イベントなどを
年 1 回程度、実施する
けて、関連機関との連携を
強化する
開催する
⑤地方の NGO や中小企業
・政府、国連機関、自治体、メディアなど多様なセクターとの関わ
定例会・シンポジウムで実
りを持つ
施する
・地方でシンポジウムを開催する
年 1 回実施する
・東京以外の地域における、NGO と企業の連携を促進するため
年 1 地域、立ち上げ協力を
のネットワークの立ち上げに協力する
行う
・地方の NGO や中小企業の事例を、定例会・シンポジウムで取り
定例会・シンポジウムで実
あげる
施する
との連携を強化する
2
2.
メンバー
2014 年度は NGO33 団体、企業 26 社、アドバイザー3 名のメンバーで活動を行った。運営は国際協力 NGO センター(以下
JANIC)が事務局を担っており、6 名のコアメンバーには本ネットワークの活動を円滑に行うための活動方針の決定やプログラ
ムの策定、また CSR や SR 全般に広い知見をお持ちのアドバイザー3 名には本ネットワークの活動にあたって様々なご助言
をいただいた。本年度のメンバーは下記の通りである。
<NGO メンバー(33 団体)>
(特活)アイキャン
(特活)シェア=国際保健協力市民の会
(特活)ADRA Japan
(特活)シャプラニール=市民による海外協力の会
(特活)アフリカ日本協議会
(公社)シャンティ国際ボランティア会
(特活)エイズ孤児支援 NGO・PLAS
(公社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
(特活)ACE
(特活)地球の友と歩む会
(特活)NGO 福岡ネットワーク
(特活)チャイルド・ファンド・ジャパン
(公財)オイスカ
(特活)日本国際ボランティアセンター
(特活)オックスファム・ジャパン
(特活)ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパン
(公財)ジョイセフ
(特活)ハンガー・フリー・ワールド
(特活)グッドネーバーズ・ジャパン
(特活)ピープルズ・ホープ・ジャパン
(公財)ケア・インターナショナル ジャパン
(公財)プラン・ジャパン
(公財)国際開発救援財団
(特活) ブリッジ エーシア ジャパン
(特活)国際協力 NGO センター(JANIC)
(特活)ホープワールドワイド・ジャパン
(公財)国際労働財団
(特活)ミレニアム・プロミス・ジャパン
(特活)国境なき子どもたち
(特活)横浜 NGO 連絡会
(特活)JEN
(特活)ワールド・ビジョン・ジャパン
JANNET(障害分野 NGO 連絡会)
<企業メンバー(26 社)>
旭硝子株式会社
株式会社東芝
味の素株式会社
TOTO 株式会社
株式会社茨城製作所
トヨタ自動車株式会社
沖電気工業株式会社
日産自動車株式会社
オリンパス株式会社
株式会社博報堂
花王株式会社
パナソニック株式会社
株式会社学研ホールディングス
株式会社日立製作所
国際石油開発帝石株式会社
富士通株式会社
ジヤトコ株式会社
株式会社ブリヂストン
ソニー株式会社
株式会社ベネッセホールディングス
武田薬品工業株式会社
株式会社丸井グループ
株式会社電通
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
東京海上日動火災保険株式会社
株式会社リコー
3
2014 年度 NGO と企業の連携推進ネットワーク コアメンバー・アドバイザー
<コアメンバー>
兵頭 康二氏
(公社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 事務局次長 兼 法人連携部長 【リーダー】
赤堀 久美子氏
(株)リコー 環境推進本部社会環境室 CSR グループ
山本 匡浩氏
(特活)ADRA Japan ファンドレイジング担当
武鑓 史恵氏
(特活)グッドネーバーズ・ジャパン ファンドレイジング部
西山 美希氏
(特活)シェア=国際保健協力市民の会(SHARE) 事務局次長
小林 雅宏氏
(株)日立製作所 CSR・環境戦略本部
【サブリーダー】
【サブリーダー】
<アドバイザー>
・赤羽 真紀子氏/CSR Asia 日本代表
・黒田 かをり氏/一般財団法人 CSO ネットワーク 事務局長・理事
・新谷 大輔氏/株式会社三井物産戦略研究所 研究員
3.
2014 年度活動概要
2014 年度の本ネットワークの活動は、2014 年度からの 3 ヵ年目標である「持続可能な社会の実現に向けた地球規模の課題
解決を目指し、NGO と企業の「違いを力に」質の高い連携を進める。」ことを踏まえたものとなっている。具体的には全メンバー
が参加して行う計 4 回の「定例会」の開催と、計 2 回の「シンポジウム」開催を中心に実施した。活動概要は下記の通りである。
4.
2014 年度活動詳細(議事録)
2014 年度に開催したコアメンバー会合(6 回)、定例会(4 回)、シンポジウム(2 回)の詳細は、下記の通りである。
カテゴリ
2014 年度活動概要
コア会合
6 回開催
定例会
4 回開催

第 1 回「子どもの権利とビジネス原則」~NGO と企業の連携の視点から~(6/30)

第 2 回「ポスト MDGsにおける NGO と企業の連携」
~どこよりも早く、ポスト MDGs開発枠組みの全体像をとらえる!~(9/26)

第 3 回「マルチステークホルダーで課題解決に取り組む」(12/18)

第 4 回「防災分野での NGO と企業の連携」
~東日本大震災の経験から、今後の防災について考える~(3/27)
シンポジウム
2 回開催

仙台シンポジウム開催(2/20)
「東北“タッグ”で国際協力に新風を吹き込む!」
協力:(特活) IVY 資金:助成金

参加者:22 名(内 NPO6 名、企業 1 名、行政 3 名、学生・教員 7 名、その他・不明 5 名)
東京シンポジウム開催(2/23)
「~社会を“巻き込む”チカラ~」
参加費徴収:2,000 円(NGO と企業の連携推進ネットワークメンバー半額)
参加者:113 名(参加者 85 名、登壇者 8 名、事務局・運営メンバー20 名)
4
第 1 回定例会 プログラム
2014 年 6 月 30 日(月) 14:00~17:30
場所:早稲田奉仕園 日本キリスト教会館 6ABC 号室
「子どもの権利とビジネス原則」
~NGO と企業の連携の視点から~
Ⅰ.はじめに (25 分)
14:00~14:25
開会あいさつ(5 分)
(特活)国際協力 NGO センター
事務局次長 富野 岳士
参加者全員の簡単な自己紹介(10 分)
[進行]事務局
今年度の連携ネットの枠組みとスケジュール(10 分)
[進行]事務局
Ⅱ.コアメンバー互選(10 分)
14:25~14:35
コアメンバー互選
[進行]事務局
コアメンバーあいさつ
Ⅲ.講演(70 分)
14:35~15:45
[講演 1](30 分)
[講演 1]
「子どもの権利とビジネス原則」から見る NGO と企業の連携
(公社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
質疑応答(5 分)
事業本部 政策提言マネージャー 堀江 由美子氏
[講演 2](30 分)
[講演 2]
「次世代の子ども達のための CSR 活動~ソニーの事例から~」
ソニー(株)
質疑応答(5 分)
CSR 部 CSR マネージャー 杉村 菜穂氏
休
憩
(10 分)
※はじめに写真撮影!
Ⅳ.ワークショップ(90 分)
15:55~17:25
「 NGO と企業が子どもの権利実現に向けて連携するには」
[コーディネーター]
・導入プレゼン:子どもの権利は自分とどう関係がある?(15 分)
(特活)ACE
・ビジネスと子どもの権利を振り返り、WS 方法の説明(5 分)
代表 岩附 由香氏
・ワークショップ(70 分)
Ⅴ.おわりに(5 分)
17:25~17:30
・メンバーからの報告等
[進行]事務局
・事務連絡
5
開催レポート
I.はじめに
開会あいさつ(5 分)
富野 岳士((特活)国際協力 NGO センター 事務局次長)
今年度は、本ネットワークは 7 年目の活動となり、第 3 期の 3 ヵ年計画(2014 年~2016 年)の 1 年目に入る、。基本方
針に、「『違いを力に』」質の高い連携をしていく」とあるように、本ネットワークの最大の特徴は、NGO と企業という違うセ
クターが一堂に集い、様々なテーマでディスカッションを行うことである。それぞれの強み・弱みを学びながら、補い合う形
の連携をしていくことで違いを力に変えていくことができると考える。そして同じ目標に向けて協働・連携していくための推
進役に、このプラットフォームがなれたらよいと思う。今年度も定例会を 4 回予定しているので、皆さまのご参加を賜りた
い。今日のこの場が協働・連携の第一歩と思い、積極的に交流をしていただきたい。
今年度の連携ネットの枠組みとスケジュール(10 分)事務局より
【NGO と企業の連携推進ネットワークが目指すもの】
持続可能な社会の実現に向けた地球規模の課題解決にむけ、NGO と企業が双方の特性を認識し、資源や能力等を
持ち寄り、対等な立場で協力して活動する機会を推進することを目指している。今年度より第 3 期 3 ヵ年計画(2014 年~
2016 年)に入るが、基本方針「NGO と企業の『違いを力に』質の高い連携を進める」をもとに 5 つの重点項目を踏まえて
今後 3 年間活動をしていく。
【2014 年度参加メンバー】
今年度は、現時点で NGO メンバーが 32 団体、企業メンバーが 23 社であり、TOTO(株)とジャトコ(株)が新規企業メンバ
ーとして加入した。また、今年度からオブザーバーとして(特活)経済人コー円卓会議日本委員会が参加する。
【2014 年度活動枠組み】
■定例会:4 回開催(6 月、9 月、12 月、3 月)予定
テーマ案:子どもの権利とビジネス原則、MDGs とポスト MDGs、防災分野での企業と NGO の連携、 BOP ビ
ジネス、 マルチステークホルダー・エンゲージメント、トップ/従業員の巻き込み・・・など
■シンポジウム:東京 1 回/地方(仙台)1 回開催
■コアメンバー会合: 6~7 回開催
■タスクチーム:必要に応じて立ち上げる
■その他:オリエンテーション、テーマ別勉強会、連携ガイドラインの更新・・・ など
II.コアメンバー互選について
コアメンバーとは、本ネットワークの活動を円滑に行うために参加組織の中から互選し、本ネットワークの活動の企画・
立案、活動スケジュールの調整等を行うものである。2 ヶ月に 1 回程度コアメンバー会合を行い、各定例会のテーマや本
ネットワークの今後の方針などを話し合う場となる。
昨年度コアメンバーの(公財)ケア・インターナショナル ジャパンの高木様、(公財)オイスカの長様、(特活)ハンガー・
フリー・ワールドの渡辺様、ファイザー(株)の鈴木様、計 4 名が任期満了につき、新規コアメンバーの互選を行う。以前コ
アメンバー会合で定めた互選のプロセスとして、その時のコアメンバーから推薦リストを全メンバーへ ML 等で提示し、そ
の他に推薦したい人はいないかどうか一定期間を設けて意見を募る。その後、全メンバーの意見も反映した候補者リス
トを作成し公表。全メンバーが参加できる形(ML,定例会など)で候補者リストへの意見を聞き、新規コアメンバーを決定
6
する。
上記コアメンバー互選プロセスの結果、本定例会上で今年度のコアメンバーが以下の通り決定した。(*新規)
•
植木 美穂氏
•
松崎 稔氏
•
*武鑓 史恵氏
•
*兵頭 康二氏
•
*山本 匡浩氏
•
*赤堀 久美子氏
(特活)ACE 政策提言事業、ネットワーク構築・協働事業担当
オリンパス(株)CSR 推進部 CSR シニアスペシャリスト
(特活)グッドネーバーズ・ジャパン ファンドレイジング部
(公社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 連携推進本部長兼法人連携部長
(特活)ADRA Japan ファンドレイジング担当
(株)リコー 環境推進本部社会環境室 CSR グループ
III.講演(各 30 分+質疑応答 5 分)
1.「子どもの権利とビジネス原則」から見る NGO と企業の連携
講師:堀江 由美子氏((公社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 事業本部政策提言マネージャー)
(公社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンとは
国連「子どもの権利条約」を理念とした、子ども支援専門の国際 NGO。戦争で親や家を失って傷ついた子どもたちを、
敵味方関係なく支援したイギリス人女性教師エグランタイン・ジェブが、1919 年に英国で設立した。現在は独立した 30 カ
国の加盟国があり、世界 120 カ国以上で子どもの支援活動を展開している。日本では 1986 年に設立され、アジア、中東
地域に直接駐在員を派遣し、国内でも東日本大震災以降は宮城、岩手、福島に事務所を置き、被災地での支援活動を
行っている。
「ビジネスと人権」:近年国際的な人権尊重の流れ
当時の国連事務総長コフィー・アナン氏が 1999 年に世界経済フォーラムで提唱し、2000 年に国連グローバル・コンパ
クトが発足。その設立に貢献したジョン・ラギ― ハーバード大学教授が、2005 年国連事務総長特別代表に就任し、
protect(保護)/respect(尊重)/remedy(救済)の枠組みを提唱した。これが 2010 年の ISO26000、2011 年国連「ビジネスと
人権に関する指導原則」に繋がる。2011 年に「OECD 多国籍企業行動指針」に人権に関する章が新設され、2012 年「子
どもの権利とビジネス原則」が発表された。
※国連「子どもの権利条約」とは、世界で最も多くの国々が批准している条約であり、18 歳未満を子どもと定義して、
国際人権規約が定める基本的人権をベースに子どもが成長発達の過程で必要とする権利を包括的に定めたもので
ある。子どもを単に保護の対象ではなく、権利の主体として定めている点に特徴がある。
「子どもの権利とビジネス原則」は、なぜ作られたか
人権とビジネスを繋げる枠組みは作られたものの、子どもの権利と企業の責任を明確に繋げる枠組みがなかったた
めである。配布資料の「子どもの権利とビジネス原則の位置づけ」は、より広いビジネスと人権の中に、子どもの権利とビ
ジネスがどのように位置づけられるかという関係性を示したものである。
「子どもの権利とビジネス原則」の策定プロセス
2009 年に子どもの権利について十分なフォーカスが当たっていないということで、セーブ・ザ・チルドレン スウェーデン
事務局長が国連グローバル・コンパクトの代表者に持ちかけたことがきっかけとなった。
2010 年にセーブ・ザ・チルドレン、国連グローバル・コンパクト、ユニセフの連携体制が発足。2011 年には 10 カ国で 600
を越える政府、企業、市民社会と対話を実施。9 カ国 400 人の子どもとの対話をもってドラフトのレビューを行い、2012 年
7
3 月にロンドンで発表、その後 40 カ国で発表された。日本では 2014 年 5 月 16 日に「子どもの権利とビジネス原則」国内
発表会が開催された。企業からの事例紹介として、IKEA Japan、味の素、Yahoo Japan が発表した。
子どもの権利とビジネス:児童労働だけが問題ではない
世界の人口の 1/3 は子ども(約 22 億人)であり、そのうち児童労働に関わっている子どもは 1 億 6800 万人、予防可能
な病気が原因で 5 歳未満に亡くなる子どもは年間 660 万人、学校に行けない子どもは 5700 万人いる。いまだ多くの子ど
もが基本的な権利を侵害されている状況がわかる。ビジネスセクターの経済や社会への影響力がますます大きくなる中、
ビジネスが子どもの権利に及ぼすあらゆる側面について認識を深めていくことが重要と考えられる。
「子どもにやさしい企業」は、持続可能な企業
企業が人権について取組むときに、主にリスクマネージメントの観点から取組むケースが多いと見受けられる。下記か
ら、子どもの権利に積極的に取り組むことは持続可能な未来のための必要な投資と言える。
① 安定した生産性の高いビジネス環境を作り出すためには教育水準の高い社会の構築が必要不可欠。
② 子どもや家族を大切にする職場環境は従業員の採用や維持、モチベーションの向上に繋がる。
③ 社会的責任投資も拡大傾向にある中、投資家への信頼に繋がる。
④ 企業が活動するコミュニティや政府、その他多様なステークホルダーとの信頼性にも繋がる。
⑤ 子どもの権利侵害による評判リスクは高い。
⑥ 子どもは企業にとって将来の顧客であり、製品の使用者であり従業員として重要なステークホルダーである。
子どもの権利とビジネス原則を使ってどのように NGO と企業の連携を深められるか?
NGO も企業も「子どもの権利の保護」という責任を持つため、パートナーシップを組むことによって、より子どもの権利
の実現を推進することができる。ここにおける NGO の役割は、企業の子どもとの関わりや子どもの権利に対する意識・
理解を深めること、権利侵害が見られるときは警告を発したりすること、地域コミュニティとの架け橋になること、活動計
画やデューデリジェンスのプロセスが効果的かモニタリングを行うこと、子どもの声や意見を直接企業に届けることなど
が考えられる。
セーブ・ザ・チルドレン サポートモデル
意識向上、インパクト評価、統合と行動、成果モニタリングと報告というプロセスから構成されている。人権や子どもの
権利に取組むということは、これだけやれば終わりということではなく、こうしたプロセスを繰り返し行いながらコアビジネ
スに取り込んでいくことが重要である。
Centre for Child Rights and CSR
これは 2009 年にセーブ・ザ・チルドレン・スウェーデンが北京で社会企業として設立した。企業が子どもの権利とビジネ
ス原則を実践できるようにアドバイザリーサービスや調査、研修等を行っており、NGO がどのように企業と連携していく
かのヒントが多くある。子どもの権利とビジネス原則への取組みは、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンとしてもこれからで
あり、持続的に取り組むための体制や連携について議論しているところである。子どもの権利とビジネス原則は、ビジネ
スセクターが持っている人権や子どもの権利によい変化をもたらす潜在力を引き出すためのツールであり、NGO が一緒
に取組むことで子どもの権利の実現に向けた新たな価値を作りだすことができる。これから多くの企業そして NGO の皆
さまと一緒に連携していきたい。
8
「子ども権利とビジネス原則」
原則1 子どもの権利を尊重する責任を果たし、子どもの権利の推進にコミットする
これは全ての企業に適用されるべき基本的な原則である。企業のコアビジネスに子どもの権利を明確に位置づける
ことが求められている。
原則2 すべての企業活動および取引関係において児童労働の撤廃に寄与する
多くの企業が生産拠点を途上国に置き、購入・販売も途上国で行う中で、子どもが家計の収入に貢献するために働く
ケースが後を絶たない。サプライチェーン・マネージメントやモニタリング、発覚した場合の明確な措置などが多くの企
業で取組まれている。
原則3 若年労働者、子どもの親や世話をする人々に働き甲斐のある人間らしい仕事を提供する
特に若い従業員あるいは子どもの親や扶養者に、働き甲斐のある人間らしい仕事を提供することが、子どもの権利
の実現、また従業員のマネージメントやモチベーションに非常に重要である。
原則4 すべての企業活動および施設等において、子どもの保護と安全を確保する
途上国では、例えば子どもが工場の敷地内で家族と一緒に住んだり、プロダクションラインの近くにいたりすることが
多いため、子どもへの暴力が起こりやすい環境となっている。子どもの保護と安全を確保する対応や意識向上が必
要となってくる。
≪グローバルな旅行会社の事例≫
全てのサプライヤーとの契約に性的搾取追放の条文を入れたり、従業員研修に子どもの保護の研修を加えたり、性
的搾取を見かけたりした場合のホットラインの設置を行ったりといった対応をしている。
原則5 製品とサービスの安全性を確保し、それを通じて子どもの権利を推進するよう努める
子どもが多くの製品の直接的、間接的消費者であるため、健康を害する可能性のある物質や食品や暴力やステレオ
タイプを助長するような製品やサービスへの十分な配慮を必要とされる。
原則6 子どもの権利を尊重し、推進するようなマーケティングや広告活動を行う
子どもには広告を客観的に分析して判断するという力が限られているので、影響をダイレクトに受けやすい。差別や
暴力を助長するような広告や洗脳するような手法を使わないよう十分な配慮が必要である。
≪あるヨーロッパの洗濯用洗剤ブランドの事例≫
子どもの遊ぶ権利や表現の自由などをコマーシャルを通して、子どもが服を汚しても遊びや運動によって探究心を満
たすことは重要であると訴える取組みを行った。
原則7 環境との関係及び土地の取得・利用において、子どもの権利を尊重し、推進する
多くの企業の活動は、環境や地域コミュニティの自然資源や交通アクセスなどにも大きな影響をもたらす。子どもにと
っては学校に行けなくなるなど、最低限の生活環境を奪う深刻な問題を引き起こす。子どももコミュニティの重要な一
員であるので、子どもの視点も考慮することも重要と考える。
原則8 安全対策において、子どもの権利を尊重し、推進する
多くの企業は工場や店舗で警備員を雇って安全対策を行っているが、特に途上国では警備員による子どもへの暴力
や虐待が起こるリスクが高く、全ての警備スタッフに対して子どもの保護の研修や、地域コミュニティを巻き込んだ監
視や通報などの取組みが求められている。
原則9 緊急事態により影響を受けた子どもの保護を支援する
緊急事態の際に企業が子ども達の保護をサポートできるように日頃から準備しておく必要がある。災害や紛争におい
て子ども達は特に暴力や虐待の対象になりやすいことを考慮に入れることが大切である。
原則 10 子どもの権利の保護と実現に向けた地域社会や政府の取組みをする
子どもの権利条約とは、主に各国政府の子どもの権利の実現に対する責任をまとめたものである。その国の中で活
9
動する企業としても、地域や政府の取組みをあと押しすることが求められる。当然の義務として、税金を納めること。ま
た、その国の市民社会や NGO、労働組合と対話を持つことなどである。
補足:セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 専務理事・事務局長 千賀 邦夫氏より
CCR&CSR は北京で政府系の企業のアドバイザリーをしている。中国政府が社会課題に対して無関心と思える中、ど
のような形で取り組んでいくのか注目である。3 ヵ月程前の NHK「クローズアップ現代」の放映で、「人権とビジネス」という
テーマの中で、企業にとって人権はリスクがあり NGO や市民社会から弾劾される恐れがあるので気をつけるようにという
意味合いの取りまとめだったため、非常に残念に思えた。自分たちが行おうとしているのは、企業を責めるのではなく、
いろいろな事例を紹介することにより、どういう形でそれぞれの事業を行っていくことが成功例に繋がっていくか情報提供
をすることであり、世界中の事例を紹介していく上で協働出来ないかということである。
【質疑応答】
A: 子どもの権利条約をアメリカが批准していない理由とは?
Q: アメリカでは自由権(civilized)は批准しているが、社会権(socialized)は批准していない。子どもの権利条約と子ども
の権利とビジネス原則も社会権に含まれているため、批准していない。しかし企業は、政府が批准している、していない
に関係なく、子どもの権利の観点から包括的な取組みをしているところも多い。
2.「次世代の子ども達のための CSR 活動~ソニーの事例から~」
講師:杉村 菜穂氏(ソニー㈱ CSR 部 CSR マネージャー)
ソニーの CSR 活動について
ソニーグループの社会貢献活動におけるスローガンは「For the Next Generation」~次世代を担う子ども達のための
社会作り~である。ソニーは 1946 年創業者井深大と盛田昭夫によって設立され、「人のやらないアイデアを実現する」と
いうミッション、ビジョンのもと事業を行っている。ソニーグループ行動規範は「社員一人一人が社会に対する責任を成し
ている」こと。創業以来変わらぬ理念のもと、二つのゴール(企業価値向上、社会への貢献)の達成に向けた事業活動を
行っている。またソニーの設立趣意書には「技術を通じて日本の文化に貢献すること、そして国民科学知識の実際的啓
発を行うこと」とあり、その後世界に進出したため、現在は「グローバルな文化に貢献すること」となった。ソニーには 7 つ
の重要な CSR 課題があるが、本日はその内の一つである「コミュニティ(社会貢献活動)」を紹介する。
社会貢献プロジェクトのご紹介
数ある社会課題の中で、次世代教育支援、国際協力(MDGs)、環境保全、緊急災害支援という 4 つの分野に絞って支
援を行っている。そのとき活用するリソースはソニーの技術製品、サービス、コンテンツ、社員、そして我々では持ち得な
い知識をパートナーからお借りし、共に社会課題の解決に向けて貢献する。社会貢献活動で心がけているポイントは、
「ソニーだからこそサポートできることか」「社内外へのアカウンタビリティを全うできるか。本当に投資に対して社会イン
パクトは適当なのか。」「CSR スタッフだけ、額面(お金)だけではなく、広がりがあるか。お客様も参加できるのか。他の
社員も参加できるのか。製品、技術でサポートするということは額面以上の価値があるか。」「企業活動サステナビリティ
に影響してくるか。」などとなる。
≪具体的取組み≫
① Restart Japan ファンド(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)
東日本大震災の中長期復興支援ファンドとして立ち上げた。適切なタイミングで適宜セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
10
が被災地でプロジェクトを行っていく。グループの様々な施策としてソニーミュージックがチャリティソングの CD を販売す
る、マイレージプログラムのポイントを寄付するなど長く続けられる持続可能な施策を導入している。特徴としては一社だ
けではなく、活動を長期的に行っていく間にいろいろなパートナーが参加し、広がりを見せている。今は災害時の子ども
たちの心を支える仕組み作りにシフトしてきている。
② Dream Goal 2014
ソニーは FIFA ワールドカップのオフィシャルパートナーである。マーケティングだけでなく CSR 分野でも FIFA と連携し
社会課題の解決にも取り組んでいる。サッカーは遊びやすさ、ルールの簡単さから競技人口が世界で最も多いと言われ
ているスポーツであり、観戦人口も多く、影響力の高いスポーツである。FIFA だけでなくストリートフットボールワールド
(NPO)とも連携し、可動式サッカースタジアムを特にブラジル、南米地域の NGO に寄贈したり、参加型オンライン施策で
の課題意識啓発も行っている。
≪活動例≫
【シャコナメディアスキルズ(スワヒリ語=We can do it)】
前回の南アフリカ大会から始まった、世界 14 の NGO とのメディアトレーニング施策である。ソニーの映像機器を使い、
各地のユースにとって就労機会につながるような社会貢献活動を提供。ここでトレーニングを受けた青少年たちの作品
がホームページ上で公開されている。みなさんに「いいね!」をクリックしてもらい、多くの人に知ってもらい課題を広める
という部分でもサポートをしている。
【ストリート フットボール スタジアム】
可動式スタジアムを寄贈し、子どもたちの安心安全なサッカー環境の提供とともに、余暇の時間を健全に過ごすなど
シェルター機能としても活用してもらう。
③ EYE SEE(ユニセフ子ども写真プロジェクト)
さまざまな国の子どもたちがソニー提供によるデジタルカメラを使い、撮影を通じて自分の身のまわりを見つめ、記録
し、そして発信することの可能性や重要性について学ぶワークショップ。写真を撮影して終わりではなく、写真展や WEB
サイトを通し、子どもたち自身の声を社会に届ける機会提供の場である。また、写真展で来場者より写真への感想を集
め、撮影者である子どもたちにフィードバックを提供する相互コミュニケーション施策も展開。子どもたちにとって自分の
作品に対して遠い国からコメントが送られてくる感動、自分にも社会への影響力があるという気付きを得てもらう。
NGO セクターとの連携において
企業はただ寄付をしたいわけではない。寄付というインプットの先にどのようなアウトプットがあって、さらにその先にど
んな社会インパクトを提供できたのかを NGO セクターとの連携においても重要視している。目的達成に向け、状況に合
わせたレビューや進化を含め定期的に話し合い、責任を一緒に果たせる相手と適切な関係を組んでやっていきたい。
【質疑応答】
Q: 社会的インパクトを図るための ROI(Return On Investment)はどういったものを設定されているのか?
A: ROI は定量、定性どちらもレビューしている。例え一人の VOC(voice of customer)であっても、また判断が難しいと思
う場合でも、まずテーブル上に出して内部で検討を行っている。たとえばワークショップに参加した子ども達からの
VOC をもらうなどは心がけている。
Q: 地域社会の課題の掘り起こしをどうしているか、NGO との出会いをどうしているか。
11
A: 日ごろから勉強会に出たり、個人的に探究したり、各地域の販売会社の知恵を借りたりしている。
課題の共有も、出会いの場の提供も、ソニーと NGO 双方向から同じようにできるのが理想である。
Ⅳ.ワークショップ(90 分)
コーディネーター:岩附 由香氏((特活)ACE 代表)
導入:子どもの権利は自分とどう関係がある?
対話を通じてお互いのこと、そして「子どもの権利とビジネス」をどう思っているのかを共有することで理解を深め、次
のアクションへとつなげていく。このワークショップが終わった時に、子どもの権利とビジネスはこう解釈すればいいのだ
とみなさんがわかり、そして明日から自分もやってみようと思えることを目指したい。
下記についてグループで話し合い。
・子どもとはどんな存在か?
・子どもと大人の違いはなにか?
・子どもはどういう特性があるか?
・子どもといえば?思いつくキーワードは何か?
≪話し合いの結果あげられたキーワード≫
・なんでも吸収する白い玉
・生活力が弱い
・未来の大人でこれからの将来が長い
・子どもも一人の人間
・保護しなければならない存在
・空気を読まなくていい
・学びの時期
・環境に耐える力が弱い
・しがらみのない存在
なぜこのような話し合いをしたかというと、人という生物として、人間の赤ちゃんについてみなさんと一緒に考えたいこ
とがあるからだ。突然だが、サルの赤ちゃんが歩けるようになるまでにはどれぐらいかかるか?答えは1か月である。人
間の赤ちゃんはどれぐらいかかるか?1年ぐらいかかる。サルは人間に一番近いと言われているが、それでも一か月で
歩けるようになる。人間の赤ちゃんは生まれてすぐ立ち上がれず、ほうっておくと死んでしまう。人間というのは脳が発達
する動物であるため、脳が発達しすぎると母親の産道が通れなくなる。そのため、脳が未熟な状態で産道を通り、動物と
して何もできない存在として生まれてくる。つまり、人という生物が完成するまでは他の生物より長い時間かかるというこ
とである。
世界の人口の 3 人に 1 人が子ども。その 3 人に 1 人の子どもの声が世界にどれだけ届いているか。世界の人口ピラミ
ッドを見ると、子どもの人口が多いことがわかる。途上国は先進国に比べてさらに子どもが多い。つまり、途上国で子ども
がたくさん生まれていることがわかる。子どもの権利条約では、どの国で生まれても平等に権利があると約束されている。
しかし赤ちゃん自身は自分の権利を満たすことはできない。そのため、子どもの権利を守る責任は大人にある。世界に
は 1 億 6 千 800 万人の子どもがいるが、5 歳から 17 歳までのうち 9 人に 1 人が児童労働についている。また環境問題
12
の面でも、もし世界の全ての人が日本人と同じ暮らしをするには 2.3 個分の地球が必要とも言われている。つまり、次世
代が享受するべきものを今我々が享受しているから地球が保たれているという状態である。児童労働についても、次世
代の可能性でもある子どもを労働者としている。多くの可能性が子どもにはあるが、その可能性を潰していることになる。
子どもに投資することは、この先の持続可能な世界の実現に深く関係することだろう。
環境も経済も不安定で、予測不可能なことが多い社会に我々は生きている。そのため、日々何かが起きたときの回復
力や対応力が必要となってくる。それには多様性や他者との繋がりが非常に重要になり、そこに企業と NGO の連携の必
要性が見出される。ACE は、児童労働が構造的に組み込まれたビジネスのあり方を変えるため、企業行動を変えること
にも力を入れている。そういう意味で我々にとっての企業というのは、パートナー、すなわち、欠かせない存在である。
様々な連携活動をしているが、例えばジーンズのメーカーとの共催でエシカルファッションカレッジというイベントを行った。
いくら企業がエシカルな商品を開発しても、それを買ってくれる人がいなければ普及しないため、そういう人を増やそうと
いう思いで協働した。結果、当日は 1000 人もの参加者を迎えることができた。
ワークショップ
自己評価ワークシートを記入し、グループでシェアする。その際に子どもの頃の夢と、NGO の連携ですでに取り組んで
いる活動があればそれを紹介する。終わったグループから配布した模造紙に『本業と「子ども」との関連・NGO 活動と「子
ども」の関連』、『企業・NGO で連携「できそうなこと」アイデア出し』を行う。その後、各グループの中で出たアイデアを「職
場」、「市場」、「地域社会と環境」のどこで使用できそうか表に貼る。(写真参照)
まとめ
本日の定例会で子どもの権利の問題はすべての NGO・企業に関わることをご理解いただけたと思う。ぜひ今後も違い
を生かしてより持続可能な社会の実現に向けて連携・協働しながら活動を進めていただきたい。
以上
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第 2 回定例会 プログラム
2014 年 9 月 26 日(金) 14:00~17:00
場所:早稲田奉仕園 日本キリスト教会館 6ABC 号室
「ポスト MDGs における NGO と企業の連携」
~どこよりも早く、ポスト MDGs 開発枠組みの全体像をとらえる!~
司会:コアメンバー (特活)ACE 植木美穂
Ⅰ.はじめに (10 分)
開会あいさつ
[進行]司会
新規参加メンバー自己紹介
[進行]司会
Ⅱ.講演(70 分)
[講演 1](30 分)
■講演 1
ポスト MDGs 開発枠組みとそれにおける NGO と企業の役割
国連開発計画(UNDP)
駐日代表 近藤 哲生氏
[講演 2](20 分)
■講演 2<NGO>
ポスト MDGs に向けた NGO の提言活動について
(特活)国際協力 NGO センター(JANIC)
調査提言グループ 堀内 葵
[講演 3](20 分)
■講演 3<企業>
MDGs に対するパナソニックの取り組みから、ポスト MDGsに向けて
パナソニック株式会社
ブランドコミュニケーション本部
CSR・社会文化グループ コーポレート統括室
※質疑応答含む
事業推進東京担当 リーダー 星 亮氏
休
憩
(15 分)
Ⅲ.ワークショップ(80 分)
貧困要因を考え、連携プロジェクトを立案しよう!
[コーディネーター]
ポスト MDGs では、NGO だけでなく企業の役割も増えてくると予想さ
(特活)国際協力 NGO センター(JANIC)
れます。最新の動向を学んだ上で、貧困要因を考え、それを解決す
広報・渉外グループ
るために NGO と企業が連携して取り組むプロジェクトを立案するワ
藤森 みな美
ークショップを行います。
Ⅳ.おわりに(5 分)
・メンバーからの報告等
[進行]司会
・事務連絡
14
開催レポート
Ⅱ.講演
1. 「ポスト MDGs 開発枠組みとそれにおける NGO と企業の連携」
講師:近藤 哲生氏(国連開発計画(UNDP)駐日代表)
1.ミレニアム開発目標(MDGs)の進捗状況
進捗状況を表で見ると、地域別ではサハラ以南の地域は進捗状況が悪く、ゴール別では目標5(マタニティヘルス)は
特によくない。MDGs は 2000 年に採択され、目標達成に向けて NGO、各国政府(ドナー)、途上国の政府、市民社会が協
力してきたが、一生懸命取り組めばある程度の成果をあげられるという実感があった。
しかしながら、目標に向かって進んでいても、災害、戦争、伝染病などによって、引き戻されてしまうこともある。このよ
うなことは毎年、または 5 年ごとにリオ+20 などのレビュー会合、国連総会に進捗状況が報告され、今後のことを議論す
るのだが、その材料を提供するのが UNDP の一つの役割である。
2.ポスト 2015 アジェンダの主な論点
ポスト 2015 開発目標アジェンダ策定プロセス
ポスト 2015 以降の 15 年間、2030 年までをどうするかということについて、かなり幅広く考えられている。国連に集まっ
てくるような各国代表だけではなく、市民社会、企業、途上国政府、ありとあらゆる一般市民の方にも参加してもらい、
様々なコンサルテーションを同時進行させ、全体が網羅された形で最後に一つに束ねようというのが、潘事務総長のや
り方である。
国際社会の世論
一般市民の参加方法として web サイト My World がある。いくつかの選択肢の中で、「あなたとあなたの家族にとって最
も重要なこと」を 6 つ選ぶ。その結果が、グローバルな開発アジェンダ策定のプロセスで、世界のリーダー達に共有され
る。
UNDP グローバル・コンサルテーションと My World に寄せられた、人々が求めるポスト 2015 開発アジェンダは以下で
ある。①MDGs 達成をあきらめないこと、②不平等に対処すること、③働き甲斐のある人間らしい仕事(Decent work)と生
計手段を優先、④より良いガバナンスへの切望、⑤普遍的なアジェンダの必要性、⑥責任説明を果たすこと。
ポスト 2015 開発アジェンダの議論
ポスト 2015 開発アジェンダの議論を行っていく上で、事務局中心のタスクフォースにより取りまとめた報告書“A Life of
Dignity for All”には、6 つのビジョンと 14 の項目がある。現行の MDGs に新たに加えられた項目もあり、また人口増加を
開発の阻害要因ではなく成長要因として考えている。
SDGs の議論
リオ+20 において、MDGs のフォローアップのために策定されたものである。17 の目標と 169 のターゲットがある。特に
項目 13、14、15 は気候変動、海洋資源、生態系など環境問題に重点が置かれ、テクノロジーが必要となってくるため、企
業の役割は大きい。法による統治、平和という部分で日本は注目されており、日本の法治主義に基づく開発のアプロー
チは途上国で信頼性が高い。悪いことをすれば裁判が行われる、契約内容を履行する、履行されなければ損害賠償が
請求できる等が確保されていなければ開発はできない。
潘事務総長のメッセージ「SDGs はまだ達成していない仕事を達成するためにある。」
15
これからの動き
・2014 年 9 月 Climate Change Summit の中で、アメリカと中国が共に気候変動の目標に関してコミットしているが、米中
が同時にコミットするのは歴史上初めてである。
・2015 年 3 月国連防災世界会議。
・2015 年 9 月国連総会 ポスト 2015 開発目標が採択される。
3.ポスト 2015 開発アジェンダと NGO・企業の可能性
NGO へ:これまでの活動の知見がより広範囲に活かされることが大事。
先進国、途上国を越えて交流を進める。MDGs で蓄えた知見、教訓を公開して皆が利用可能にしていただき
たい。
企業へ:開発課題が明確になったため、どこにビジネスチャンスがあるか分かるようになったので、そこに展開していた
だきたい。全ての国が参加して策定した目標達成に貢献することによる、国際的・社会的な評価が企業にとっ
て一つの指針となってくる。貧しいところにはサプライチェーン、バリューチェーンがない。それをデザインし展
開していただきたい。
ポスト 2015 開発アジェンダのもとで NGO と企業が連携することはとても重要なことであり、対等な立場でお互いがも
っているリソース、ノウハウを活かし合っていただきたい。そして途上国、NGO、企業の「win-win-win」の関係を目指
してほしい。
<潘事務総長のメッセ―ジ>
今こそ、全ての力が合わされば、新たなリソースとパブリックセクター、プライベートセクター、ドメスティック、インターナシ
ョナル、全てのニーズがそれぞれ持っているリソースによって満たされる。
【質疑応答】
① MDGs のやり方、アプローチの良かった点、悪かった点、それをポスト MDGs の構築にどのように活かしていこうとし
ているのか。
A: 事前にターゲットとなる目標をたてて、それに対する資金の導入、技術の投入によって、どういう成果があげられ
たかを終了の時点で見極める。達成されていないものは何がボトルネックだったかをきちんと分析し、次のステップ
に進む。このようなビジネスのやり方は開発にも活かされていると思う。今回の MDGs からポスト MDGs に移る過程
で感じることは、MDGs はドナー国がお金を集めて途上国へ支援という形で作られているが、ポスト MDGs は、2030
年に地球上に住む人はどういう世界を手に入れたいかということに着目して作られている。これまでの 15 年で出来
なかったことは、アプローチに問題があった、あるいはコントロールできない外部要因(自然災害など)などいろいろ
な阻害要因があったと思うが、それを分析してリスクも明らかにした上でやっていく必要がある。しかし実際は、各国
のコミットメント次第である。
② SDGs とポスト 2015 開発アジェンダの概念の違いついて教えていただきたい。
A: ポスト 2015 はもともと MDGs が終わった後のアジェンダをどうするかというところから始まっている。それに対して
SDGs は、1992 年の国連開発会議から 20 年、持続可能な開発ができたのかという議論の中で、開発のアジェンダを
レビューしたものである。そういう意味では全く別物であるが、お互いプロセスは意識している。これを来年の 9 月の
国連総会でどうやってまとめるかをまさに今議論されている。
16
を解決するために NGO と企業が連携して取り組むプロジェクト
藤森 みな美
を立案するワークショップを行います。
Ⅳ.おわりに(5 分)
ポスト MDGs に向けて企業への期待が高まっていると言われているが、具体的にどういうところでそうなのか?
・メンバーからの報告等
[進行]司会
A: ポスト 2015 のアジェンダの中に企業の声をどうやって反映されるべきなのか、されているのか、企業への役割は、な
・事務連絡
どといった議論はこれから行われる。これまで開発または人道、人権問題などに携わる部分は、CSR 部門で関与さ
れていることが多かったと思う。しかし、これからは本業で、問題を取り除きながらどんどん儲けて開発を進めていっ
てほしい。これまでの CSR をやってきた経験などを本業にフィードバックして、より大きな市場でより長く操業できる
ようなビジネスプランを考えていけたらいいと思う。
③
2. 「ポスト MDGs に向けた NGO の提言活動について」
講師:堀内 葵((特活)国際協力 NGO センター(JANIC)調査提言グループ)
JANIC の政策提言・啓発活動(2014 年度)
 調査・提言活動
 国際的な NGO のネットワークとの連携
 啓発活動
MDGs の成果と課題
成果 ・ 貧困削減目標(MDG1)は 2012 年に達成。(ただし、まだ半分は貧困層が残る―引き続き貧困削減の取組みが
重要)
• 1 日 1.25 ドル以下で生活する人の割合: 47%(1990 年)→22%(2010 年)に減少
•
安全な水へのアクセス(MDG7)も達成。 (下水道、スラム地域に住む人たちの環境はまだ厳しい)
•
初等教育の普及(MDG2)は最貧国でも大幅に改善。
•
HIV 新規感染者(MDG6)は、1997 年以降に 21%減少。
課題 ・ 貧困削減目標は主に中国とインドの経済成長に資するところが大きく、地域間および国内格差は広がっている。
特にサハラ以南アフリカは達成が難しい状況。
• 下記の分野で改善が遅れている。
妊産婦の健康の改善(MDG5)、乳幼児死亡率の削減(MDG4)、都市スラムの生活改善(MDG7)
• その他、不安定な雇用、特に若年層の高い失業問題などの課題が残る。
重要なこと:MDGs は世界を変えた!→ 共通認識としてあげられる。
• 国連、各国政府、国際機関、民間セクター、学識者、市民社会など、開発に関わるすべての人が共通の目標を持っ
て、それぞれの事業・活動を実施することができた。
• 教育、保健、水衛生など、途上国の開発において重要な「社会セクター」に関するプロジェクトに、開発資金が割り
当てられた。
• 間接的な成果も生まれた。(例)アフリカの紛争の数と死者数が 2000 年以降、減少した。
日本の NGO によるポスト MDGs の議論
「ポスト MDGs に関する外務省・NGO 意見交換会」 (2012 年 3 月より機動的なものも含め 15 回以上開催)
-主に国連での交渉を担当する外務省国際協力局地球規模課題審議官組織と定期的な意見交換
-ポスト 2015NGO プラットフォームの設立(2014 年 3 月)、
7 つ(環境、開発、紹介、ジェンダー、防災、国際連帯税、ユース)の各分野から世話人を選出 、それぞれの分野の
知見を持ち合って総合的に NGO として提言を出していく。
17
Beyond MDGs Japan の設立(2012 年 8 月)(セクターを越えたプラットフォーム)
運営委員会(NGO、学会、JICA など) ネット上で意見の徴収、シンポジウムの開催などの活動
動く→動かす
MDGs 達成に向けた政策提言を行うネットワーク、スタンドアップというキャンペーンを行うネットワーク NGO である。
昨年、ポスト MDGs に向けた 5 カ条提言(資料 P.3 参照)を発表した。
・地方の NGO、青少年団体、労働組合、国内貧困問題に取り組む団体、宗教系団体、生協、その他社会運動団体な
どへのヒアリングを得て、作成。
・全国で 67 団体の賛同(企業、青少年団体、宗教系団体、労働組合等含む)を得る。
・2013 年、国連 MDGs 特別イベント前に、外務省の阿部俊子・大臣政務官(当時)に提出、ポスト MDGs に関する意見
交換(環境・障害系 NGO と連携)
2013 年 9 月国連総会 MDGs 特別イベントでの総理演説に対する動く→動かすと JANIC の共同所感を発表(資料 P.3 参
照)
2014 年 9 月 国連「気候サミット 2014」
今後の開発課題に気候変動と持続可能な開発という観点も必要になってくる。中心的な議論を占める気候変動(CO2
排出削減)について政治的な意志を醸成することを目的に開催される。日本、中国、インド、アメリカなどの首脳が出
席し、各国の削減目標に言及した。
気候サミット 2 日前にニューヨークで’People’s Climate March’(人々による気候変動に向けた行進)が開催された。
40 万人参加。)気候変動には 100%クリーンエネルギーで挑むという署名運動に 200 万人が署名をし、潘事務総長に
手渡された。
「気候サミット 2014」開催に向けた NGO 共同宣言
国連気候サミットに向けて-原発も気候変動危機もない世界へ (2014 年 9 月 19 日)
・気候変動の危機は私たちが直面する最大の課題の一つであり、地球上の生命に対しかつてない脅威をもたらして
いる。
・気候変動危機を回避するための 2015 年の意欲的な国際合意への大きな一歩になることを期待。
・一方で、原発を気候変動問題の解決策とすることに強く反対。
・原発や気候変動の強大なリスクをふまえ、原発にも化石燃料にも頼らない、持続可能なエネルギーシステムの構築
こそが必要。省エネルギーとエネルギー効率化、再生可能エネルギーの推進を。
防災分野も開発・環境とのリンクを
第 3 回国連防災世界会議 仙台開催(2015 年 3 月)
海外の市民社会とも協働しつつ、日本の市民社会が防災・減災に取り組んだ経験を、この会議で策定される今後の
国際的な防災に関する指針に反映させることを目的に、JCC2015 防災世界会議日本 CSO ネットワークを設立(2014
年 1 月)。95 団体が参加。アドボカシーやパブリックフォーラムの企画・運営を担う。
18
ポスト MDGs に向けた NGO の提言:総括①
 各国政府は「貧困ゼロ」という野心的な目標を設定し、着実に実施する政治的意志を示すべき。
 各国政府は、市民社会を含むあらゆるセクターとの対話を通じて、適切なゴール・指標・ターゲットの設定をすべき。
 SDGs オープン・ワーキング・グループ(OWG)のプロセスは、ある程度市民社会に開かれたプロセスであったと評価。
今後の政府間交渉のプロセスについても、OWG のプロセスから後退がないように、日本政府として各国および国連
総会議長に要望すべき。
 加えて、地域レベルでの会合や国レベルで集約された市民社会の意見を吸い上げるためのプロセスを用意すべ
き。
ポスト MDGs に向けた NGO の提言:総括②
 極端な経済格差をなくすための個別目標の設定を。
 一日 2 ドルの所得貧困の解消と、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ、教育の普遍化にコミットすべき。十分な資金
に下支えされた公的サービスを通じて利用者の個人負担をなくし、最も周縁化された人々にサービスを届けるべ
き。
 「ジェンダー平等と全ての女性と女児のエンパワメントの達成」およびそのターゲット、特に、「リプロダクティブ・ライ
ツ」に関わるターゲットが堅持されるべき。
 障害者が開発枠組から取り残されることのないよう、各目標の文言の堅持を。
 SDGs は、自然の恵み・生物多様性を尊び、生態系サービスをいかし、自然と共生した、弾力性ある地域社会の構
築を目指すものであるべき。
 「持続可能な開発」に向けた「人づくり」に引き続きコミットを。
 新たなアカウンタビリティ・メカニズムとデータを活用できるよう、市民社会を支援することで、格差是正と気候変動
対策に向けた取り組みを強化すべき。
ポスト MDGs に向けた NGO の提言:総括③
 一方で、急激な世界の変化(イスラム国、エボラ出血熱など)と、様々な社会・経済・文化における「発現」を「ポスト
2015」にどう反映させるか
⇒南北・国内格差の増大、不安定な経済・雇用、「原理主義」の台頭、気候変動リスク・災害リスクの増大 etc.
 欧米市民社会の資金・動員力の低下、新たな思想潮流を構想する力の低下という現実を踏まえて、日本の市民社
会として「覚悟」したうえで、新たな連携を主体的に構築することが求められる。
エマ・ワトソンのスピーチ
・ジェンダー平等を実現するためのキャンペーン「HeForShe」
・ジェンダーに基づく差別の撤回のために女性とともに男性も行動を、と呼びかけ
レオナルド・ディカプリオのスピーチ
・クリーンな水と空気は人々の権利である。
・石炭、ガス、石油関連企業に対して多大な補助金を企業に出している(特にアメリカ)。気候変動を抑えるためには補
助金は削減すべき。
二人のようなセレブリティーがアドボカシーをするというのが国連でも主流に。このような動きを注目しつつ、日本の NGO
としてアドボカシーを続けていきたい。
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【質疑応答】
① 開発 NGO が現場からの声を発信したいと思っているが、市民社会からどのように発信していけるのか?仕組みはど
うなっているか。(セーブザチルドレン)
A: 昨年も今年も国連総会の際には世界各国から NY に集まっている。しかし、NY でのみポスト MDGs に関する議論が
なされていることで、議論にアクセスしづらいと言う人もいる。政府代表と NGO が自分の国で議論できない国もある。
その点、日本政府は NGO と意見交換を重ねており、こうした取り組みを世界に広げていくことも必要ではないか。
「MyWorld」のように新しい技術を使った意見の汲み取りが発展するとよいと思う。
3. 「MDGs に対するパナソニックの取り組みから、ポスト MDGsに向けて」
講師:星 亮氏(パナソニック株式会社 ブランドコミュニケーション本部
CSR・社会文化グループ コーポレート統括室 事業推進東京担当リーダー)
MDGs に対するパナソニックの取り組み
(1)ビジネス活動による取り組み
ビジネスによって MDGs 達成に貢献するというイニシアチブであるビジネス行動要請(Business Call to Action:BCtA)に、
「アフリカとアジアの低所得層の人々のエネルギーへのアクセスを改善し、温室効果ガスを削減する取り組み」で 2014 年
6 月に参画した。具体的には、ソーラーランタン(太陽光発電による小型照明器具)のビジネスとしてである。
(2)企業市民活動(社会貢献活動)による取り組み
①ソーラーランタン 10 万台プロジェクト
アジアやアフリカの無電化人口の多い国々を対象に、これらの人々が直面しているさまざまな社会課題の解決を目的
として進めているプロジェクトである。国際エネルギー機関によると、途上国には今でも 13 億人弱の人々は電気のない
暮らしをしているという。これによって人々は保健医療面、教育面で様々な課題に遭い、基本的な電気照明がないことは
貧困の問題と非常に密接に関わっている。パナソニックは 2012 年度から 2018 年度までの7年間で、ソーラーランタン 10
万台を開発途上国に寄贈していく。2012・2013 年度累計では、アジア・アフリカの 9 ヶ国に対して、2 万 4 千台超を寄贈し
た。また、それとは別に 2011 年度以前にも累計で 1 万台を寄贈している。寄贈先のメインは NPO/NGO で、それ以外で
は国際機関、人道支援機関などである。これによって、MDG2(普遍的初等教育の達成)、MDG4(乳幼児死亡率の削減)、
MDG5(妊産婦の健康の改善)、MDG1(極度の貧困と飢餓の撲滅)、そして MDG3(ジェンダーの平等の推進と女性の地
位向上)に対して、ソーラーランタンは効果を発揮できる。また、10 万台で 13 億人のニーズにこたえることはできないので、
可能な限り原則として保健センターや学校等、公共の施設で使ってもらうようお願いしている。活用状況のモニタリングも
実施している。またこれは、パナソニックが巨額の赤字を出していた時期に立ち上げたプロジェクトであるというのも、ポ
イントである。
② ライフイノベーションコンテナ
これも、本業の技術・製品を活かした取り組みである。ライフイノベーションコンテナ(LIC)とは、輪送用の 20 フィートコン
テナに太陽光パネル、蓄電池、充放電制御装置を搭載した独立電波システムである。当社は LIC を 2011 年 10 月に、タ
ンザニアのムボラ・ミレニアム・ビレッジに対して寄贈したが、このミレニアム・ビレッジ・プロジェクトはまさに MDGs 達成へ
の貢献を目的とするプロジェクトである。なお、当社は東日本大震災で被災した宮城県(南三陸町)や、また、インドに対
しても、LIC を寄贈した。
③Panasonic NPO サポートファンド for アフリカ
アフリカ諸国で活動している日本の NGO/NPO の広報基盤を強化支援するプログラムである。2010 年より開始し、延
べ 17 団体を助成してきている。
③ TABLE FOR TWO(TFT)
これも、(ライフイノベーションコンテナ同様、)MDGs 達成への貢献を目的とする(アフリカの)ミレニアム・ビレッジが対
象の活動である。2009 年に東京の事業場で導入し、現在社内 16 拠点が参画している。
20
ポスト MDGs についてのとらえ方
基本的には、MDGs で取り上げられた課題、「貧困、飢餓、保健、教育、ジェンダー、水と衛生など」が継承されるだろう
と理解している。それに加えて「エネルギー」という新たな要素が盛り込まれる可能性があり、これは企業の立場からも重
要なことである。エネルギーという要素は当社のソーラーランタンに関する取り組みに直接関わってくるのではないかと
考えている。2016 年以降の取り組みについては、持続可能な開発目標(SDGs)は企業が企業市民活動をしていく上でも
念頭に置くべき非常に大事なアジェンダになるであろうと認識している。
終わりに
パナソニックの経営理念「水道哲学」は、貧困の克服を意味している。本業と企業市民活動の双方を通じて当社の使
命を果たしていく必要がある。ソーラーランタンに関する取り組みを安定的・拡張的に継続するためには、その事業で販
売を確保し収益をあげることが大切である。事業として軌道に乗ってこそ、貧困削減にもつながってくるのではないかと
考えている。2016 年以降も引き続き、ビジネス活動及び企業市民活動を通じて開発途上国の社会解決に貢献していき
たいと願っている。そのためには、企業だけでは限界があるとの認識に立ち、NGO の皆さん、また国際機関のみなさんと
引き続きコラボレーションしながら進めていきたいと考えている。
【質疑応答】
■質問
① ソーラーランタンについてビジネスと企業市民活動のバランスをどう取っているのか?また担当部門が違うと思うが、
どのように連携をしているのか。
A: 担当部門の違いについては、企業市民活動部門の他に、ビジネス部門としては製品の製造を担当している事業部門、
販売部門、B to G を担当する渉外部門がある。企業市民活動部門は、これら各部門と連携しながら活動を進めてい
るが、棲み分けは重要と考えている。企業市民活動部門の対象は他の部門とは異なっていると認識しており、Base
Of the Pyramid(BOP)の中でも最底辺に属する方々であろうと考えている。ソーラーランタンの市場価格は 50$ほど
だが、これはある途上国の学校の先生の一か月分の給料と同じであり、非常に高価な家電製品であると言え、BOP
の最底辺の人々には購入することがむずかしい。NGO の皆さんは、これら BOP 最低辺の人々が直面しているさまざ
まな社会課題の解決に取り組んでいると認識しており、我々企業市民活動部門はこれら NGO の皆さんとともに社会
課題解決に取り組むという位置付けになる。これに対して、事業活動、販売活動部門の対象は BOP の中でも比較的
上の方の購買力のある方々であると認識している。とはいうものの、最底辺の人々のニーズに対処するのに企業市
民活動だけではだめだとある NGO の方から指摘を受けたこともあり、今後さらに活動を深めていく必要があると考え
ている。
② 3 ページの「BOP ビジネスに対する認識の高まりが MDGs 理解の土台を形成」となっているが、文字通りこうなのか、
あるいは、MDGs への理解が社内における BOP ビジネスに対する認識を高めるのか?あるいは両方なのか?
A: 順番として、やはり BOP ビジネスありきだと考えている。やはり、営業や開発部門でもそうだが、企業の中で仕事をし
ているほとんどの人間は途上国の開発にあまり関心がないので(一部意識の高い人はいるが)、弊社において
MDGs への理解が先行するという事態は起こっていない。
③ MDGs 等を社内でどのように浸透しているのか?どれくらい啓発の効果があれば参考にしたいと。
A: あらゆる機会をとらえて MDGs という言葉を社内に発信していくこと。また、我々は 10 万台プロジェクトでウェブサイト
を立ち上げていて、その中で可能なかぎりこのアジェンダを取り上げたいと思っている。これは地道に発信していくし
かない、ボトムアップの活動である。
④ 社会貢献活動に対する資金は、リーマンショック以降で減らされたのか、それとも景気に関係なく担保されているの
か?
A: 正確な金額は記憶していないが、赤字経営の状況においてはとりわけ社会貢献活動には風当たりが厳しく、寄付な
どをかなり大幅に見直してきた。厳しい経営環境下で企業市民活動を行っていく際には、ステークホールダーの皆
様にはご理解をいただく必要がある。
21
Ⅲワークショップ
「貧困要因を考え、連携プロジェクトを立案しよう!」
講師:藤森 みな美((特活)国際協力 NGO センター(JANIC) 広報・渉外グループ)
ワークショップの目的
物語を読み、問題の原因を考えることで、NGO と企業が連携して問題解決のためのプロジェクトを立案する。本ネット
ワークの三カ年計画でも「NGO と企業の「違いを力に」質の高い連携を進める。」とあり、またポスト MDGs において民間
セクターへの期待が高まることも踏まえて、今後 NGO と企業の連携がより活発になってくると思うので、今日のワークシ
ョップがそのヒントになればと思う。
ワークショップの説明
1. 「少年ルイスの物語」を読み、ルイスが死んでしまった原因を見つける。
2. ウェブチャートを作成し、ルイスの死の原因を「社会的要因」「医学的要因」「物理的要因」「経済的要因」に整理す
る。
3. ルイスの死の原因の中からグループでひとつ断ち切る原因を選び、その原因を解決するためのプロジェクトを立案
する。
(1) どの原因を断ち切るか?
(2) そのために(誰に)何をするか?
(3) プロジェクト名
※NGO と企業が連携して取り組むプロジェクトを作ること。
グループ発表
1. プロジェクト名:Forever Louis Project
断ち切る「原因」:予防接種を打てる環境がない
何をするか:資格取得のための教育コンテンツ<ベネッセ>、遠隔トレーニング、診断システム<リコー>、自然エネル
ギーによる発電の仕組み<茨城製作所>、ヘルスセンターへの training、住民への啓発<シェア>、政府へのアドボカ
シー<Oxfam, Save the children>
2. プロジェクト名:ルイス・ワクチン・キャラバン in メキシコ
断ち切る「原因」:予防接種を受けられない、医療理解の不足(村人)
何をするか:保健教育・予防接種
オリンパス、リコー、電通でマルチステークホルダー。トヨタに車両提供、リコーはプロジェクターと印刷機、ソニーはモニ
ターを提供。また、オリンパスに絵本を作ってもらう。
3. プロジェクト名:モバイル・ワクチンカー・プロジェクト
断ち切る「原因」:予防接種プログラムがない
何をするか:破傷風教育の徹底
・予防接種の実施(モバイル car)
・予防接種の資格取得プログラム
・住民への衛生教育
4. プロジェクト名:ワクチン接種率100%プロジェクト
断ち切る「原因」:予防接種の未接種
何をするか:安価ワクチン提供、資金提供、教育マニュアル作成、村人の啓発、医療従事者へのトレーニング、住民グル
ープ組織化、国への働きかけ
5.
プロジェクト名:世界の子どもたちに予防接種を!まずはメキシコから!
22
断ち切る「原因」:予防接種、有資格者を増やす
何をするか:教育面⇒医療従事者の育成、予防接種の研修
ルールの整備⇒既存のルールによる障害を取り除く(現状把握)
設備面⇒村にクリニックを開設、保冷・保温設備
6. プロジェクト名:If not me, who?
断ち切る「原因」:ワクチン接種をしていなかった
何をするか:予防の観点⇒ワクチンを確保する(製薬企業)、保管設備の準備(電機・IT)、ワクチン接種する人材教育
(NGO)、村人たちへの啓発(NGO)。
治療の観点⇒早期診断システム(IT x NGO、企業)、アドボカシー(JANIC)
以上
23
第 3 回定例会 プログラム
2014 年 12 月18日(木) 14:00~17:00
場所:早稲田奉仕園 日本キリスト教会館 6ABC 号室
「マルチステークホルダーで課題解決に取り組む」
司会:ADRA Japan 山本 匡浩(コアメンバー)
Ⅰ.はじめに (10 分)
14:00~14:10
開会あいさつ
[進行]司会
新規参加メンバー自己紹介
[進行]司会
コアメンバー退任・新任あいさつ
[進行]事務局
Ⅱ.講演(30 分)
14:10~14:40
[講演 1](30 分)
(特活)経済人コー円卓会議日本委員会
マルチステークホルダーで課題解決に取り組む意義について
事務局長 石田 寛氏
質疑応答
Ⅲ.事例紹介(110 分)
14:40~16:30
[事例 1](50 分)
(株)リコー 環境推進本部社会環境室 CSR グループ
プロジェクト型連携事例
シニアスペシャリスト 赤堀 久美子
『BOP 向け教育サービス事業』(リコー×SCJ×JICA)
(公社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
質疑応答
海外事業部 村田 あす香氏
(独法)国際協力機構(JICA)
民間連携事業部 連携推進課
兼 海外投融資第一課 廣嶋 純哉氏
休
憩(10 分)
[事例 2](50 分)
(特活)ACE ソーシャルビジネス推進事業担当
キャンペーン型連携事例
植木 美穂
『ストップ!児童労働 キャンペーン 2014』
JAM本部 総務・企画グループ長
(ACE×JAM×シャプラニール)
五味 哲哉氏
質疑応答
(特活)シャプラニール=市民による海外協力の会
海外活動グループ 菅原 伸忠氏
Ⅳ.感想・意見交換会(25 分)
16:30~16:55
本日の講演・事例発表を聞き、感想や意見などをグループで自由に話
[進行]司会
し合う。
Ⅴ.おわりに(5 分)
16:55~17:00
・メンバーからの報告等
[進行]司会
・事務連絡
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開催レポート
Ⅱ講演
『マルチステークホルダーで課題解決に取り組む意義について』
講師:石田 寛氏((特活)経済人コー円卓会議日本委員会 事務局長)
経済人コー円卓会議日本委員会とは
スイスのコ―というところで、日米欧の経営者達が集まった会合があったため、「コー円卓会議」という名前がついた。
日本と世界、また NGO と企業の架け橋となり、『IMPACT と SCALABILITY-戦略的にどう広げて行くか』と、『THINK だけ
でなく DO TANK-活動を企業の中でどう落とし込んでいくか』が主な活動状況である。NPO ではあるが、企業の中でど
のように CSR を浸透させていくかを、特に日米欧の経営者達が集まって進めている団体である。詳細は HP をご覧いた
だきたい。(http://crt-japan.jp/)
マルチステークホルダーで課題解決に取り組む意義
企業側にいた経験として、会社に良かれと思ったことが世間では違っていたということが起こる。しかし、マルチステー
クホルダーで取り組み、多様な視点を入れることで、会社にとっても世間にとっても良いものを作ることが出来る。その時、
もちろん企業から NGO へアプローチすることも重要だが、それぞれの NGO が持っている問題意識を、どのように企業、
そして社会に伝えるか、つまり戦略的に伝えていく(IMPACT と SCALABILITY)ことも非常に重要となってくる。そうした中
で、NGO や企業が他セクターと連携するかどうかの意思決定をするときに、下記の 4 つを考える。
1.インプット:どのような情報が入ってくるのか
2.アウトプット:一緒に連携してどういった結果を出せるのか
3.アウトカム:何がそこから得られるのか(成果)
4.インパクト:効果、影響はどれほどあるのか
また、2015 年の CSR 業界のキーワードは「格差」と「インクルージョン」であると、「第 3 回国連ビジネスと人権フォーラム」
で議論された。国際社会も、多様な価値観を受け入れ、マルチステークホルダーで課題解決に取り組むことが重要であ
るという意識を持っている。
マルチステークホルダーで課題解決に取り組むキーワード
・授人以魚 不如授人以漁
老子の言葉に 「【授人以魚 不如授人以漁】 人に魚を与えれば一日で食べてしまうが、釣りを教えれば一生食べて
いける。」というものがある。IMPACT と SCALABILITY を求めるなら、「釣り=How」を教えなければならない。NGO 側は、
企業に対して「どうしたら魚の釣り方を教えることができるか」を考えてほしい。単に社会の問題を訴えても、CSR 担当者
は理解してくれるかもしれないが、社内に持ち帰った後に上長、役員、他部門を動かすのは大変である。CSR 担当者だ
けではなく、その企業にとってどのようなメリットがあるのかを一緒に話し合ってほしい。その際に大切なことは、その話し
合いに「正しい答えはない」という前提で進めることである。社会がどのようなことに関心があるのか、企業はわかってい
るようでわかっていないかもしれない。企業のビジネスモデルのどこに問題があるのか、NGO も見えていない側面がある
かもしれない。だからこそ、学びの場として一緒に話し合い(ダイアログ)、共通理解を持つことが大事なのである。
・プレゼンス向上
NGO と企業が一緒に活動を始めた時に重要となってくるのは、いかにプレゼンスを高められるかである。活動を自組
織のホームページや報告書に載せるだけでは、インパクトを考えると心もとない。そこで、日本だけでなく海外への情報
発信をぜひしていただきたい。例えば、ビジネス人権資料センターのホームページの利用を勧める。このホームページは、
世界のビジネスと人権にまつわる情報を見ることができる、ライブラリーのような機能を持っている。ここに載せることで、
世界のトップクラスの NGO や企業がそれを見る。彼らに注目されるようなアウトプットを出すことができれば、世界の議題
にも取り上げられるだろうし、活動に対するコメントはもちろん、連携のお誘いも舞い込んでくるかもしれない。
・競争力を高める
いかに不確実、不透明な世界の中で競争力を高めていくかが重要である。ルールが決められていない世界が CSR 業
25
界にはまだまだたくさん存在する。NGO 側として考えるとき、企業の CSR のルール化に入り込んでいくことが出来れば、
企業がやろうとしていることに対して提言することができる。その際に、企業がやる気を出すような、社内の論議につなが
るようなやり方をする必要がある。素晴らしい活動をしていても、社内の論理では通じないことが多々ある。まずは信頼
関係を作り、本当に企業が社会に及ぼす影響があると気付かせるような議題にのせていけば、BCP(事業継続計画)の
話にもつながっていくはずである。
CRTJ のステークホルダーエンゲージメント
当会では、ビジネスと人権というテーマで幅広いステークホルダーとのやりとりを行っており、今年で 3 年目になる。38
社、13 団体の NGO、有識者の方々とダイアログを行い、業界ごとに何が一番大切なのかを話し合いながら選んでいく、
パブリックコメント(アウトプット)を出している。すると、いろいろな団体から良いも悪いもコメントが寄せられる。それらをど
こまで受け入れてやれるかを、企業と話し合いながら進めている。そうして試行錯誤しながら、この 3 年間なぜ企業がビ
ジネスと人権について考えられないのか、課題の洗い出しからバリューチェーン、そして課題との関連性をテーマにして
きた。企業の経営者が関心を持っているテーマと NGO のテーマをどのように関連性をつなげていくかをステークホルダ
ーとのダイアログを通して行っている。
まとめ
マルチステークホルダーとの課題解決に取り組む意義について、NGO にも企業にも完璧な答えはない。だからこそ、
お互いに話し合い、信頼関係を作りながら課題解決に向けて戦略的に取り組んでいく必要がある。大切なことは、オープ
ンであること、つまり透明性だ。そして誰とでも一緒にできるプラットフォームを活用していってほしい。問題意識を持ち、
みんなで考えていく。社会認識が理解できる共通の場、そう言ったところのマルチステークホルダーを進めていく上での
課題解決においては大切な意義になるのではないかと考える。
【質疑応答】
① 2015 年の CSR 界のキーワードは「格差」と「インクルージョン」であるというお話が出ていたが、これは NGO からする
と、2016 年以降の国際開発目標の中で「格差」と「インクルージョン」が同じくキーワードになっている。ただ、企業と
連携するときにこれが一番難しい問題となる。企業にとってビジネスが成立するところがターゲットであり、ビジネス
が成立しないところと格差が広がるのではないかという懸念がある。CSR の人達の間で「格差」と「インクルージョン」
がキーワードになってきたという背景をもう少し詳細に伺いたい。
A 企業も新しいことに挑戦することによりルールメイキングができ、情報が入り、ビジネスチャンスが出てくると思い始め
ている。しかし問題は、「ビジネスと人権」を企業ができていないことである。そこでまず、NAPs(National Action Plans)
として国が企業に強制的にやらせる。また、NGO も企業が関心を持つような働きかけをする。企業は最初から完璧に
やるのは難しいので、少しずつ先に進めるようなロードマップを作り、歩み寄りながらやっていく。さらに、1 社だけで
はなく、複数の企業や NGO 団体が集うプラットフォームのような場で議論をしていくことにより、企業側に自信をもた
せていく。NGO の活動を通じて、企業側がメリットを感じるものは情報である。NGO 側が持っている懸念や潜在的機
会、リスクを、企業がもっている経営戦略に結び付けていく必要がある。そうした中で目指すべきゴールはインクルー
シブ、格差をなくすこと。地道ではあるが、話し合いや議論を重ねることでよりよい方向に変わっていくだろう。
Ⅲ事例発表
[事例 1]プロジェクト型連携事例
『BOP 向け教育サービス事業』
講師:赤堀 久美子(株式会社リコー 環境推進本部社会環境室 CSR グループ シニアスペシャリスト)
村田 あす香氏((公社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 海外事業部)
廣嶋 純哉氏((独法)国際協力機構(JICA)民間連携事業部 連携推進課 兼 海外投融資第一課)
マルチステークホルダーで取り組む教育の質の改善(リコー赤堀)
・リコーの目指す「価値創造 CSR」
社会の課題解決を、単に寄付するのではなく本業を通じて(自社の強みやリソースを活かし)、「社会的課題の解決」と
「自社の成長」の両立を目指す取組みを行っている。
26
・インドにおける教育の現状と課題
子どもの人口が約 4 億人、初等教育のうち 9%が学校に行っておらず、56%が中退をしている。課題として、「教育サ
ービスの質の向上」「教員の意識向上、研修等のサポートの充実」「インフラ改善」が挙げられる。インド政府は 2015 年ま
でに 6-14 才の児童の就学率 100%達成を目標とし、義務教育普及のための政府機関を設立、教育の質の改善に必要
な投資を行っている。しかし、まだまだ施策が末端までは行き届いてはおらず、NGO の活動が不可欠である。
・セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)との協働
2009 年に SCJ からの提案があり、リコーが実施する新たな社会貢献を検討するダイアログへ参加いただいた。そこか
ら 2011 年に社会貢献+印刷機のマーケティングの協働プロジェクトを開始。2013 年には、プロジェクターを用いた教育サ
ービス事業のビジネスモデル構築のための協働プロジェクト(JICA 調査事業)を始めた。
・ビジネスモデル構築に向けた協働
教育支援を 3 年やってきたが、インド公立学校の課題はまだまだ多く、特に教師のレベルが低い。また、印刷機を授業
の中で活用したくても、まず教材がない。リコーとしては、教育現場に提供できる製品を活かして、教育の質を向上する
新しいソリューションが提供できないかと考えている。そこで、プロジェクターとデジタルコンテンツをキーワードに、より効
果的なデジタル教材、教師が有効に活用できる教授法を、SCJ と開発している。学校でトライアルをしながら、ブラッシュ
アップを重ね、最終的に商品として教育サービスのパッケージを提供できるようなビジネスモデルを作っていくことに取組
んでいる。
・目指す教育サービス事業のコンセプト
プロジェクターと USB のドライブだけあれば、教師がその場でデジタルコンテンツを使いながら授業をすることができる。
ただし、デジタルを一方的に流しているだけではなく、教師がいかにインタラクティブな授業ができるかも考える必要があ
る。デジタルで見たものをリアルに体験できるコンテンツや、生活の改善にも役立ち、さらに子どもたちの興味を喚起でき
るようなコンテンツを提供し、ただ教材を揃えるだけでなく実際に授業の質も改善していくようなサービスを目指している。
・関連するステークホルダーの役割
関連するステークホルダーと、下記のような役割分担で取組んでいる。
リコー ・ビジネスソリューション事業本部:調査事業統括、製品・チャネル調査、私学/塾調査、ビジネスモデル化
・CSR 部門:SCJ との調整、インパクト調査、教育改善支援
・Richo India:チャネル調査、私学/塾調査、ビジネスモデル化
SCJ ・公立校調査コーディネート(日本)、現地オペレーション(SC インド)
JICA ・資金提供、現地パートナー紹介、他者とのネットワーキング
インド政府・教員研修、パイロット授業アレンジ
学校 ・教員研修参加、パイロット授業実施
また、リコーとしては本事業をさらに様々なビジネスパートナーと一緒に進めていきたいと考えている。
・SCJ/JICA との連携の強み
SCJ は、現場でのプロジェクト遂行力が高く、確実な成果を出すことが出来る。また、教員研修や学校での授業実施
のノウハウ、現地政府とのネットワーク、現地での信用度が高いことなどが大変強みとなっている。JICA は、リコー社内
への承認の後押し(特に資金面など)、現地政府に対する信用度、現地でのネットワーク、国内でのプロジェクトの認知
度向上に大変助けられている。
・新興国・途上国教育市場へのお役立ちスキーム
今までの途上国の課題については、現地政府、支援機関、NGO、企業がそれぞれで取組んでいたが、連携してそれ
ぞれの強みを活かし、インパクトを最大化していくことをリコーとしても取組んでいきたい。このインドでの取組みをきっか
けに、他の分野にも展開していきたい。インド教育支援プログラム専用のサイトがあるので、ぜひ見ていただきたい。
(http://www.ricoh.com/ja/csr/india_edu/)
27
「株式会社リコー様と SCJ のプロジェクト型連携事例の紹介」-SCJ の視点から-(SCJ 村田氏)
・セーブ・ザ・チルドレンとは?
1919 年英国にて設立。 30 カ国のメンバーが約 120 カ国で活動している。全ての子どもにとって、生きる・育つ・守られ
る・参加する「子どもの権利」が実現されている世界を目指し、教育支援、保健・栄養支援、子どもの保護、HIV/エイズ、
紛争と災害への緊急援助などを行なっている。1986 年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが設立され、主にアジア、中東
やアフリカで活動を行っている。セーブ・ザ・チルドレンと企業との連携の形態は、募金寄付、コラボ商品、キャンペーン、
社員ボランティア活動など多岐に渡るが、今回は CSR と共同事業にフォーカスする。
・本事業での SCJ の役割
SCJ の強みは、高い専門性(教育)と現場でのネットワークである。本事業では、公立小学校 4、5 年生のデジタル教材、
五感を使って学べる教材の開発、教員研修の部分に携わっている。
【専門性‐教育コンテンツの企画・調査】
【ネットワーク‐政府教育機関の巻き込み】
・学校の教室の状態、出欠の状況、インフラの調査
・州や県レベルの政府教育機関との調整
・事前事後調査
・政府教育機関と共同で、ICT を活用した授業マニュアル
・デジタル教材を使ったパイロット授業の実施
の策定、教育コンテンツのサンプルの作成
・子ども、親、教員からのフィードバックの収集、調査結果
・小学校の教員を対象とした研修の実施
の分析
・フィードバックの収集、調査結果の分析
・活動の様子
DIET(公立学校の教材作成、教員育成を担う県の教育機関)と協働で小学校 4、5 年生の教師対象に教員研修を実施
した。デジタル教材とアクティビティやクイズを混ぜたインタラクティブな授業を行い、その後子どもたちや先生、親への聞
き取り調査も実施した。子どもたちからは、「インタラクティブな授業だったので、面白かった。」「写真や絵が多かったので、
授業についていけた。」などの声があった。先生たちからは、「欠席が減った。」「子どもたちが授業に集中するようになっ
た。」「反応がよくなった。」「子どもたちの意見を聞くことにより、子どもたちがもっとオープンに話してくれるようになり、距
離が縮まった。」などの声があった。親からも、「子どもの教育への関心が高まった。」との声があった。
・これまでの成果
これまでの成果として、まずプロジェクト・チームとしての土台の確立、強化をすることができた。またステークホルダー
との信頼関係を構築することができた。さらに、現地の巻き込みや、現地の主体性の確保ができた。
・企業との連携における基盤
「子どもの権利への理解の推進」と、「パートナーシップの性質に合わせた柔軟性の確保」がある。前者については、
特に子どもの人権への影響を評価して、マイナスの影響を最小化(=>尊重)していく部分に注力したい。後者については、
新しい形の対等なパートナーシップ、特に今回のような調査事業だと現地でのモニタリングやタイムリーな情報収集/分
析、迅速な軌道修正が必要であるため、プロジェクト・チーム内の情報共有を円滑に行う為の柔軟性をもつことが必要。
既存の枠組みにとらわれず、お互い歩み寄る姿勢が重要である。
・SCJ が考える企業との連携メリット
現地の声を反映した子どもにとっての価値の創造をすることができる。その価値を定着させ、さらに大きなインパクトも
期待できる。例えば、他の学年、教科、州という縦と横の広がりという可能性があると言う点でメリットがある。その先に、
SCJ の目指す子どもの権利の実現につなげることができる。
「企業・NGO 連携による BOP ビジネス」(JICA 廣嶋氏)
・JICA の BOP ビジネス支援
JICA はもともと途上国援助をしてきた機関であり、ビジネスという領域とは縁遠い組織であった。しかし JICA の ODA
事業だけでは、貧困層が抱えている課題には手が届かないという問題意識が強くなり、民間企業と新たに連携する取組
みを行うこととなった。JICA が長年ターゲットにしてきた貧困層、企業にとって新たなマーケット、双方の利害が一致し、
開発効果とビジネス性の両側面を担保するものが BOP ビジネスだと考えている。2011 年から基本年 2 回ペース(累計採
28
択件数約 100 件)で募集し、今までに 8 回実施してきた。JICA 事務所がある途上国を対象に、調査期間は最大 3 年間、
調査 1 件あたり上限 5,000 万円の調査資金を支援しつつ、JICA が培った事業経験や現地でのネットワークを提供しなが
ら支援している。
・リコー/SCJ 事業への期待
非常に理想的なコラボレーションの先駆例として期待している。NGO と民間企業のコラボレーションという側面では、
NGO の現場力、現地のニーズを吸い上げることは JICA でも十分カバーできないところであり、企業にとっても社内では
調達できない部分である。また、社内の事業部門と CSR 部門が相互補完しながら事業に取り組んでいる点も、素晴らし
いといえる。CSR 部門が事業になる種を探し、吸い上げてきたものに事業部門が関心を持ち、本格的な事業に入ってい
くという、双方がそれぞれの役割を果たしながら事業に繋げている。このような事例が、日本の企業の中でも増えてほし
いと願っている。さらに、とりわけ事業立ち上げの段階で企業、NGO だけでは負いきれないリスクの軽減策として、JICA
の役割がある。まず 5,000 万円という資金的支援がある。さらに、JICA が持つネットワークや情報も活用していただける。
また、対自社内、対現地の両面での信用力アップにもつながる。先行して BOP ビジネスに取組む本邦企業とのネットワ
ーキングといった面でも、ご期待いただけるのではないかと思う。
・今後の課題
46 の調査完了案件の現状についてモニタリングを行った結果、事業化済/決定済案件は 13 件、検討中が 21 件、見送
りが 12 件であった。見送りになってしまった理由としては、調査の結果、事業採算がうまくいかないと判断するケースが
多い。制度創設から時間が経過し、調査を終える案件が今後も増えていく中、今後は新たな案件の採択のみならず、調
査済みの案件を事業へつなげていく仕組みも強化していく必要がある。また採算性の確保に向けては、あくまでビジネス
の主たるターゲットは BOP 層におきつつ、中間層以上も絡めたビジネス展開(ホール・ピラミッド・アプローチ)の検討も重
要なオプションと言える。
まとめ(リコー赤堀)
マルチステークホルダー連携の課題とコツを紹介する。
課題:いろいろな立場の人が絡むため、共通の言葉で話ができる土壌つくりが必要(国際協力用語、ビジネス用語、スピ
ード感の違いなど)
コツ:共通のゴール設定、役割の明確化を初めに詰めておくこと。(チームビルディング、地道な摺合せ、密なコミュニケ
ーション)変更を受け入れながら柔軟に対応していく。
【質疑応答】
① 社内 CSR 以外の部門の人に共感してもらうのにあたって何が効いたか。また、現地ではじめはどの規模でスタートし
たのか。最後に授業の中身は社内だけでまとめたのか、それとも専門家等に監修してもらったのか。
A:関心のある担当者が見つかったことが重要だった。そこで SCJ のコーディネートの元、事業部門 4 名が 2 週間、現
地の教育現場に行ったことがとても良かった。リコー1 社ではなしえなかった政府高官との面会、学校の訪問、SCJ
から現場の教育の課題を聞くことで、新興国の課題が見えた。感度の高い人が NGO の話を聞くのが重要である。そ
のため、社内で何かやりたいという声が上がったらまず NGO の話を一緒に聞きに行くということをしている。現地で
始めた時の規模感としては、JICA に応募する前に SCJ とどんなプロジェクトにするかを検討・事前調査を行うところ
からスタートした。授業のコンテンツ作成方法は、SC のスタッフ、現地のコンサルタント、教育分野に強い事業部門
のノウハウをインドと繋げるなど、走りながら検討しているところである。
29
[事例 2]キャンペーン型連携事例
『ストップ!児童労働 キャンペーン 2014』
講師:植木 美穂((特活)ACE ソーシャルビジネス推進事業担当)
五味 哲哉氏(JAM 本部 総務・企画グループ長)
菅原 伸忠氏((特活)シャプラニール=市民による海外協力の会 海外活動グループ)
はじめに
プロジェクト型の連携の実現はなかなか難しい。それに比べてキャンペーン型の連携はプロジェクト型より参加しやす
く、また日本国内でも実施可能である。2014 年 6 月に実施した『ストップ!児童労働 キャンペーン 2014』を、植木からキャンペ
ーンの概要を説明し、五味氏、菅原氏からは組織としてどのように本キャンペーンを広げたかを紹介していただく。
キャンペーンの概要(ACE 植木)
本キャンペーンの主催者は、「児童労働ネットワーク(CL-Net)」というネットワーク組織である。CL-Net とは、日本から
児童労働問題を解決しようと、NGO、労働組合、専門家などが参加するネットワークである。会員構成は、団体・労働組
合会員が 21 組織、個人会員 9 名ほどである。ACE は会員団体であるが、事務局も担当している。
2004 年にネットワークを設立し、児童労働をなくそう!と意気込んだわけだが、マルチステークホルダーで児童労働を
なくすには何をすれば良いか考えたときに、「ストップ!児童労働 キャンペーン」を展開しようと、2006 年に開始した。6
月 12 日が国際労働機関の設定した「児童労働反対世界デー」であるため、それに合わせてキャンペーンを行っている。
最初のキャンペーンには、今年(2014 年)ノーベル平和賞を受賞したインドの人権活動家・カイラシュ・サティヤルティ氏
が来日して参加した。
2014 年のキャンペーンの時、3 つの課題が取り上げられた。
1. 日本では児童労働という言葉の認知度が低い。
2.どんな行動が必要なのか、イメージしにくい。
3.日本政府の活発な取り組みがない。
この課題に対して、「児童労働」という言葉を知っている人の数を増やし、関心をもった人が行動を起こすことを促進す
るキャンペーンを目指した。また、日本政府へ児童労働問題に向けた取り組みの強化・促進の提言をすること、そしてマ
ルチステークホルダーでこの課題解決に取り組むこととし、キャンペーンを開始した。
2014 年のキャンペーンは 6 月 1 日~7 月 13 日まで実施した。活動としては 4 点あるが、本日紹介するのはその内 2
点、「ストップ!児童労働 30 万人署名運動」と、「レッドカードアクション」である。
「ストップ!児童労働 30 万人署名運動」は、児童労働が今の MDGs の目標及び指標に入っていないため、ポスト
MDGs へ取り入れてもらえるように政府へ働きかける提言活動である。2008 年から実施しており、それまでの最大数は
28 万人だったため今回は 30 万人を目指したところ、なんと 44 万人の署名が集まった。これほどたくさんの署名を集める
には、NGO だけの力ではとても難しい。ここには、労働組合の組織力が大変大きく関係している。また CL-Net のネットワ
ークも活用し、このような成果を出すことができた。
「レッドカードアクション」は CL-Net のアイデアではなく、国際労働機関(ILO)が世界的に展開していたキャンペーンで
ある。ちょうど今年の児童労働反対世界デーが FIFA サッカーワールドカップの開催日と重なったため、ILO のキャンペー
ンに賛同する形でこのアクションへの参加を日本全国へ呼び掛けた。キャンペーンを行う際の毎年の課題として、児童労働に関
心を持っている人は毎年参加してくれるのだが、関心を持たない人の参加は呼び込めず、その先のブレイクスルーがうまくいかないというこ
とがある。今回は「サッカー」「ワールドカップ」という大きな社会的波があったため、現役選手、元選手、J リーグチーム等の協力も得て、キャ
ンペーンを広げることができた。J リーグチームのような、企業 1 社ではなかなか気軽に協力を依頼できない組織にも、NGO は迅速にアプロ
ーチできるため、NGO の巻き込み力の強さを感じた。最終的に 1,000 を超える様々な組織にこのキャンペーンを広げていただい
た。
以上のことをマルチの視点で考えると、CL-Net の会員組織:NGO と労働組合が一緒にやろうと呼びかけたところ、企
業(社員)、国際機関、学生団体、市民、店舗、J リーグチーム(サポーター)、サッカー選手、専門家などの多様なアクタ
30
ーの協力でキャンペーンを広げることができた。
「ストップ!児童労働 30 万人署名運動」について(JAM 五味氏)
JAM とはモノづくりの産業別労働組合である。そのため、メンバーは中小企業が多い。連合メンバーの中でも、JAM は
組織人数でみると 5 番目にあたり、35 万人の組織人数を持つ。モノづくりといっても、自動車などのかたまりとしてではな
く、かたまりになる前の部品づくりのことである。
組合のため、トップが言ってすぐ動くものではない。今回の署名運動も、承認を通すまでに時間がかかった。組合は保
守的であるため、一部ではなく全体でないと動かない。しかし一度動き出せばそのまま続いていく。今回の署名運動に参
加すること対して、連合の役割がとても大きかった。連合からの声掛けが、実現に至った大きな理由でもある。「JAM が
決めたことだから」と、JAM 傘下の組合も実施しようという流れになり、こうして多くの署名を集めることが出来た。
児童労働に対する理解が非常に低い中、署名を集めなければならなかったのは大変だった。そのため、「実際に我々
も間接的に児童労働に関わる可能性がある」という説明をして理解を得た。例えば、日本には児童労働がないとはいえ、
海外から材料を輸入するとき、その材料の採掘現場や加工などの工程で児童労働が行われ、間接的に児童労働に関
わっているかもしれないと伝えた。
また、数々の NGO の中でなぜ ACE を選んだのか?という意見もあった。組合員は接触する機会があまりないため、
「なぜなぜ」の部分を理解してもらうにも時間がかかった。今年は、先ほど述べた 44 万筆の内、約 8 万筆を JAM が担当
した。しかし、これは急に出来たわけではなく、理解を深める活動を行ない、2 年がかりでこのような結果になったのだ。
「レッドカードアクション」について(シャプラニール菅原氏)
フラッシュモブ※という手法でキャンペーンに参加することにした。フラッシュモブという手法がとても面白いと思ったか
ら、そして面白いものは広く広がっていくと思ったからである。また、多くの市民が参加できる機会を作りたかったのも理
由の一つ。200 万円という目標をたてて実施した。
※フラッシュモブとは、雑踏の中の歩行者として通りすがりを装って公共の場に集まり、前触れなく突如としてパフォ
ーマンス(ダンスや演奏など)を行って周囲の関心を引きその目的を達成するとすぐに解散する行為である。
ビデオ鑑賞"フラッシュモブで児童労働削減を訴えよう!"http://www.youtube.com/watch?v=S3U6_JoCxVI
2013 年の夏頃、フラッシュモブをやりたいと計画を始めた。ターゲットは 6 月 12 日、児童労働反対世界 DAY。実現する
までには、数々の苦労があった。まず使用する曲だが、最初はビートルズの All you need islLove を使おうと思っていた。
しかし著作権使用料を支払う必要があることがわかり、あきらめた。そのため、曲は「つばさをください」に決まった。次に
場所を探した。いろいろなところでフラッシュモブが行われているので大丈夫だと思っていたのだが、ほとんど断られてし
まった。そのため、最終的に早稲田奉仕園(シャプラニールや JANIC 事務所があるところ)になった。
場所がなかなか決まらなかったこともあり、時間がなく 1 か月半で仕上げなければならなくなった。場所チーム、映像チ
ーム、人集めチーム、コンテンツを考えるチームなど、複数のチームに分かれて作業を始めた。しかし人数が多くなると
コミュニケーションコストが高くなってくる。そのため、サイボーズライブという無料で使えるプラットフォームを使って、意見
交換や、情報交換を行った。
また、ゴールの共有、価値観の共有が難しかった。お金を集めることが目標なのか、関係者を増やすことが目標なの
か、波及させることが目標なのかというところを、最初からシェアする必要があった。自分が十分と思っていても、不足だ
と思っているチームメンバーもいた。
実際にやってみて、バングラデシュやネパールなどの現地でやった方がいいと感じた。今回はプロトタイプとして行っ
たが、来年以降は現地でできないかなと思っている。例えば、フラッシュモブスタディツアー!
まとめ(ACE 植木)
キャンペーン型連携は、常識や言語が異なるマルチステークホルダーが組むことであるので、様々な組織が参加しやすい、またし
たくなる枠組みを作るのが大切だと感じる。マルチステークホルダーで課題解決に取り組むコツとして、下記を挙げる。
参加しやすいアクションを提供する
成果を見える化し、タイムリーに共有する
共感しやすいメッセージを発信する
人と組織を巻き込む
時流にのる
参加組織の強みを活かす
31
NGO としても、個別の活動があるのにキャンペーンに参加するのはどうかという考えもあるが、逆にうまく乗ることがで
きれば、マルチの力を活用して組織のミッション達成にも近づけるのではないかと感じている。企業から見ても、NGO と
いうのは誰とでも手をつなぎやすく、また巻き込み力を持っているため、NGO のキャンペーンに参加することで通常のビ
ジネスではつながりづらい組織との連携も生まれるのではないか。社内の CSR 部以外に児童労働などの課題を伝える
には、労働組合と協働するのも効果的であるし、署名を集める活動やレッドカードアクションの実施を通じて、社員が児童労働という
問題を知る社内啓発にもなる。来年もこのキャンペーンを実施し、特に企業参加の増加を目指したい。ぜひご参加いただきたい。
【質疑応答】
① 社内で NGO のキャンペーンを行う場合、協力的な部署もあるのだが、「立ってどうなるの?レッドカードを挙げてどう
なるの?」という意見も多くある。キャンペーンに企業側がのるためにどのような工夫があるか、思うものがあれば教
えていただきたい。
A.植木:立って終わりではなく、例えば立った人の人数で寄付を集めるとか、そういった次につながる仕組みを作っ
ていきたいと思っている。まずはこういった課題があるのだということを知ってもらい、ではその課題に対して
社内でどう取り組むのかという点を企業と NGO で一緒に考えていきたいと思う。
五味氏:すぐに結果が出るものではないが、やはり成果を伝えていくことが重要ではないか。すぐに児童労働がなく
なった!というような結果を出すことはできないが、「署名がこれだけ集まった」「その署名を政府に提出し
た」という報告をきちんと行う。そうすることで、次のアクションへつながっていくのだと思う。
菅原氏:このようなキャンペーンは企業の方にとって入口だと思っている。企業としても、まずは社員が参加しやす
い社会貢献活動を提供することは、社員の方の満足度向上につながるのではないか。
【コメント】児童労働問題の先に、教育問題がある。子どもの教育問題も見据えた上で、児童労働にも取り組んでいるの
だという、プラスで貢献しているようなものであれば社内のキャンペーンにも使えるのではないかと思う。
以上
32
第 4 回定例会 プログラム
2015 年 3 月 27 日(金) 14:00~17:00
場所:早稲田奉仕園 日本キリスト教会館 6ABC 号室
「防災分野での NGO と企業の連携」
~東日本大震災の経験から、今後の防災について考える~
司会:(特活)グッド・ネーバーズ・ジャパン 武鑓 史恵(コアメンバー)
Ⅰ.はじめに (10 分)
14:00~14:10
開会あいさつ
[進行]司会
新規参加メンバー自己紹介
[進行]司会
Ⅱ.基調講演(30 分)
14:10~14:40
■田島 誠氏
問題提起 東日本大震災の経験を生かし、
(特活)国際協力 NGO センター(JANIC)
マルチステークホルダーで防災に取り組むには
防災アドバイザー
Ⅲ.事例紹介(座談会)(40 分)
14:40~15:20
【ファシリテーター】
■田島 誠氏
(特活)国際協力 NGO センター(JANIC)
座談会
防災アドバイザー
【パネリスト】
「なぜマルチセクターで防災に取り組むのか?」
~民間防災および被災地支援ネットワーク(CVN)ができたわけ~
■山本 隆氏
ピースボート災害ボランティアセンター
代表理事
質疑応答
■本山 聡平氏
サノフィ株式会社
渉外本部 CSR 推進部 部長
休
憩 (15 分)
Ⅳ.ワークショップ(80 分)
15:35~16:55
CP(「不測事態対応計画(Contingency Plan)」)ワークショップ
■松尾 沢子
※将来起こりうる災害等の不測の事態に対し、人道支援の国際
基準も踏まえつつ、計画的かつマルチセクターで取り組み効果
(特活)国際協力 NGO センター(JANIC)
能力強化グループ マネージャー
的な支援につなげるワークショップ。
Ⅴ.おわりに(5 分)
16:55~17:00
・メンバーからの報告等
[進行]司会
・事務連絡
33
今回の定例会は、一部 Give2Asia の助成を受けて実施しています。
開催レポート
Ⅱ.基調講演
「東日本大震災の経験を生かし、マルチステークホルダーで防災に取り組むには」
講師:田島誠氏 (特活)国際協力 NGO センター(JANIC)防災アドバイザー
世界の潮流 求められるマルチセクターの連携
仙台で開催された国連防災世界会議でも、マルチセクターで取り組むことは重要視された。企業の参画は、防災のみ
ならず開発セクターでも非常に注目されており、世界的潮流ともなっている。
東日本大震災は、大規模広域災害であった。こういった災害は、気候変動の関係もあり世界各地で増えている。ここ
に「災害にあいやすい国」を色分けした地図がある。日本を含む環太平洋地域は非常に災害が多い。しかしこれが「災
害の被害が大きくなりやすい国」の地図になると、色分けが変わってくる。日本をはじめとする先進国は、行政を中心とす
る地域防災計画や関連法があり、ガバナンスが整っているため国内・地域内での解決能力が高く、ある程度被害を抑え
ることができる。しかし途上国はガバナンスが低く、制度や組織が整っていないため、被害が大きくなりやすい。つまり同
程度の災害であっても、国や地域によって被害の大きさは変わってくる。
日本の防災計画の基本理念は“自助・共助(互助)・公助”であり、コミュニティの中で防災に取り組んでいる。しかし、
東日本大震災のように地元のキャパシティを超えたとき、NGO/NPO や企業といった外部からの支援が必要になってくる。
ところが現行の制度では外部からの支援を想定していなかったため、多くの人や物が東日本に集まったが、うまく受け入
れることが出来ず混乱が起きてしまった。
国連防災世界会議で定められた「仙台防災枠組」でも、各所でマルチセクターという記述がある。途上国も先進国も、
マルチセクターで防災に取り組むことが必要である。
東日本大震災の教訓 明らかになった課題
JANIC では東日本大震災で得た教訓を調査し、検証、評価、提言を行ってきた。その中で市民社会の支援に関わる課
題を 3 つ挙げる。
1.
ガバナンス(制度・仕組み、組織)
2.
リソース(人・物・金、組織や人の能力)
3.
地球規模課題
一つ目の課題のガバナンスだが、まず市民社会の支援が制度的に担保されておらず、官民連携、民民連携の仕組み
が弱かった。日本の「地域防災計画」は行政主導で行うが、海外の「緊急事態対応計画」では市民社会を含む外部支援
を前提としている。小規模な災害ならば地元の行政だけでも対応できるが、大規模災害は別である。大きな災害が起こ
った直後に外部から機動力のある NGO が現地に入り支援活動を行い、そこから復旧期、復興期にかけて地元団体・企
業主導へと移行していくことが望ましい。
また、東日本大震災では避難所ごとに対応に差があることが問題であった。しかし人道支援の国際基準には、避難所
で必要とされる物資や気を付けるべきことなど、対応が明記されている。災害が起きた後にみんなで議論するのではなく、
事前に計画に入れておけば不要な混乱は起こらない。
二つ目の課題のリソースだが、NGO が東日本大震災の支援活動で最も苦労した点は、資金調達であった。もともと
NGO の財務基盤は根本的に弱いのだが、特に国・県・自治体からの資金の使途や使用期間などが制限されていたこと
も、充分な活動を行なうことが出来なかった原因である。また、限られた資金の中で活動をしているため、人材も不足し
ている。特に事業管理ができる人材、地元の事情に精通した人材、専門性の高い人材などが不足していた。
34
三つ目の地球規模課題だが、日本は原発リスクを国内問題として捉えており、グローバルに取り組む視点が欠けてい
た。放射能は国境を越え、他国にも影響を及ぼしている。実際に福島原発の汚染水や放射能は太平洋を越え、アメリカ
まで到達している。今後アジア、特に中国ではかなりの数の原発の建設を予定している。中国で原発事故が起こった場
合、果たして日本は安全だろうか。こうしたリスクについて、自国の問題としてだけでなく、グローバルな問題として捉えな
ければならない。
教訓を生かす 未来をつくる動き
東日本大震災の経験から、課題に取り組む縦(政府・行政→地域社会)と横(防災課題→開発・地域課題)の仕組みと
協働を平時から考えておこうという動きが始まっている。国際的な防災枠組みは決まったが、現場で生かされなければ
意味はない。そのためには、セクター間連携が非常に重要になってくる。さらに災害に強い国を作ることは、持続可能な
社会を作ることとつながっている。防災課題と開発課題を別物とせず、一緒になって取り組んでいきたい。
そのような中で、新たなマルチセクターのネットワークが生まれてきている。本日の事例でも取り上げられる「民間防災
および被災地支援ネットワーク(CVN)」や、JANIC が共同事務局を務めている「2015 防災世界会議 CSO ネットワーク
(JCC2015)」、「JVOAD」や「日本防災プラットフォーム」という官民連携のネットワークも作られた。様々な市民社会を強
化するしくみも出来始めている。
平成 24 年に政府の被害想定が見直された。東日本大震災の経験を受けて、最悪の状態を念頭に被害想定が変更さ
れた。南海トラフ巨大地震の被害想定(第一次報告)では、防災対策を実施することによって建物被害は 6 割、人的被害
は 9 割削減されるのではないかと言われている。日頃から備えておくことがいかに重要かがわかる。未来を良くするのは、
地域を超え、国境を越え、地域の開発課題も解決しつつ、縦と横の連携と協働を強化して、マルチセクターで防災と災害
対応に取り組むことである。
Ⅲ.事例紹介(座談会)
「なぜマルチセクターで防災に取り組むのか?」
~民間防災および被災地支援ネットワーク(CVN)ができたわけ~
ファシリテーター:田島 誠氏(特活)国際協力 NGO センター(JANIC)防災アドバイザー
パネリスト:山本 隆氏 ピースボート災害ボランティアセンター 代表理事
本山 聡平氏 サノフィ株式会社 渉外本部 CSR 推進部 部長
田島氏(JANIC)
「民間防災および被災地支援ネットワーク(CVN)」は、東日本大震災支援に関わった企業、NGO/NPO、中間支援組
織の三者が、東日本大震災の被災地への支援と今後の災害への備えで協働することを目的に立ち上げられたネットワ
ークである。本日は、CVN に中心的に関わってこられたお二方をお招きしている。まずは NGO 側の代表としてピースボ
ート災害ボランティアセンター(PBV)代表理事の山本隆氏に、PBV と災害支援との関わりについてお話を伺いたい。
山本氏(PBV)
2011 年の東日本大震災をきっかけに、世界一周の船旅を主催しているピースボートという団体から派生して出来たの
が、ピースボート災害ボランティアセンターである。もともとピースボートとして阪神淡路大震災から災害支援活動をはじ
め、今まで世界各地で行ってきた。東日本大震災では、より効果的に、継続的に支援活動をするために、災害支援に特
化した一般社団法人を立ち上げることとなった。東日本大震災では延べ 8 万 7 千人のボランティアを派遣し、現在も宮城
県石巻市の事務所を置いて復興支援活動を行なっている。その後も日本国内はもちろん、海外での災害支援活動も行
っている。
35
田島氏(JANIC)
企業として、サノフィ株式会社の渉外本部 CSR 推進部部長の本山聡平氏に、なぜ災害支援に乗り出し、どのようなこと
をしてきたのかをお聞きしたい。
本山氏(サノフィ)
サノフィは、フランスに本社を置く製薬会社である。外資系企業ではあるが日本で半世紀以上の歴史を持つ会社でもあ
り、「Work for Japan」というメッセージのもと日本社会に貢献する活動として、本業の医療用医薬品の製造販売だけでな
く社員によるボランティア活動にも力を入れている。東日本大震災発災時にも、トップからの指示もあり社をあげて災害
支援ボランティアをやろうということになった。当時ボランティアの受け入れをしていた社会福祉協議会が石巻市にしかな
かったため、そこで PVB と出会い、今に至るまで様々な形で連携して活動を行ってきた。最初は泥かき、がれき撤去など
を行っていたが、だんだんと本業を生かした支援へと移行していった。仮設住宅での生活のなかでの疾病リスクへの対
応や、心のケアの活動などを行なってきた。製薬会社として、今後起こりうる災害時に事業を継続して医薬品を供給し続
けることが第一と考えており、それを前提にその先どれだけ地域社会に私たちの思いをボランティアなどの形で届けるこ
とが出来るのかというところが、今後の課題である。
田島氏(JANIC)
「民間防災および被害地支援ネットワーク(CVN)」とはどういった組織なのか。そもそも CVN という災害支援に関する
ネットワークをマルチセクターで作った動機や必要性、作るまでにどのような苦労があったのか。
本山氏(PBV)
企業が東日本大震災において支援を行おうとした時に、何をしたらいいのかわからなかったという意見が多くあった。
PBV のミッションとしては、今後災害が起こった際に、企業が NGO/NPO や中間支援団体とスムーズに連携して支援を行
っていくことのできるネットワークを作りたいという事である。また災害にそなえ防災の側面での民間連携も今後取り組ん
で行きたい。
田島氏(JANIC)
CVN で「災害支援の手引き」を作られたが、これはどのようなものか。また作る際にどのような苦労があったのか。
山本氏(PBV)
「これがあれば災害が起きた時にまず何をすればいいのかわかる」というものを作りたかったことが、最大の理由であ
る。企業は人事異動があるため、人が変わった時点でそれまでの関係性も変わってしまうことがある。その時に、例え担
当者が変わったとしても「これを読んでおけよ」という一冊があれば、いざという時にも関係性に関わらず動くことができる
のではないかと思っている。「災害支援の手引き」には、東日本大震災で実際に取り組んだ支援が具体的に書かれてい
る。苦労した点としては、CVN のメンバーが執筆者となったのだが、事例が多く原稿がまとまらなかったこと。
本山氏(サノフィ)
いざ社員をボランティアで派遣しようとした時に、どうしたらいいのかわからなかった。CVN で話していると、各社同じよ
うな悩みを持っていた。その苦労を災害が起こるたびに繰り返すのではなく、スムーズな支援活動につなげたいと思って
いる。例えば手引きの P24 には、具体的にどのような書類を作って会社を説得するのかが書かれていたり、P25 には持
ち物、P28 には実際に社員を派遣する際のオペレーションが書かれていたりする。悩みの解決策を具体的に示すことが
必要だと感じている。
田島氏(JANIC)
企業にとって BCP(Business Continuity Plan: 事業継続計画)は自社でやるものだと思うが、そのような中で CVN に参
加する意味は何か。
本山氏(サノフィ)
同じ悩みを持つものが、一緒になって同じ課題に取り組むことが大切だと感じている。企業は企業の言葉は理解できる
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が、NGO と企業が出会う機会は少なく、NGO がどのような考えを持って、どのような活動をしているのかは知らない。ネッ
トワークの中で、異なるセクターの方々と情報を共有し、議論することで、いざという時によりスムーズに支援活動を行な
えるところに意味があると感じている。
田島氏(JANIC)
NGO 側として「災害支援の手引き」が出来てよかったことは何か。
山本氏(PBV)
この手引きを読めば、災害支援の現場ではどのようなことが行われているのかを具体的に想像できるような作りにする
ことが出来たことがよかった。またこの手引きを作る過程で、NGO も企業もそれぞれの期待と現実のギャップを知ること
ができたことも、よかったと感じている。
田島氏(JANIC)
JANIC が東日本大震災後に実施した調査がある。NGO は 68%、企業の CSR は 81%が今後もともに協力したいと回答
した。しかし、双方の期待の内容に大きな違いがあった。
NGO が企業に求める期待としては、「物・金・役務」が 73%を占めていた。一方、企業が NGO に求める期待としては、
「本業 CSR・社員ボランティア派遣」が 48%であった。このギャップについて、本山氏はどう考えるか。
本山氏(サノフィ)
企業としては、震災をきっかけに被災地支援を学んだだけでなく、社員の会社に対するロイヤリティが高まるというメリ
ットがあった。また、NGO や行政を含めて連携をしていかなければならないことを学んだ。このギャップを埋めるべく、
CVN などのネットワークを活用していきたい。
田島氏(JANIC)
復興段階に入った際に、企業にもっと頑張って欲しいという気持ちがあるが、そこは難しいだろうか。本山氏(サノフィ)
企業としては、復興段階においては本業での力を生かして被災地の課題を解決していきたい。「ビジネスやビジネス
でのスキルを生かした支援活動を通していかに地域・社会に貢献していくことができるか」が今後の企業にとって重要と
なってくる。
田島氏(JANIC)
NGO は外部支援団体として、徐々に被災地からは引いていき、地元企業・団体にゆだねていくことが重要になってくる
が、その際の企業と NGO の連携の課題とは何か。
山本氏(PBV)
課題は、NGO が企業に対してビジネスになる場を作れないことではないか。貢献や復興、絆というものも大切だが、ビ
ジネスとして提案できないことが NGO の最大の課題。NGO が、企業は何が出来るのかを知らなさすぎることが課題。お
37
互いどう win-win の関係を作れるかが重要である。
田島氏(JANIC)
最後に一言ずつ。「2011 年は企業ボランティア元年である」という記述があるが、今後どういう形に発展していくのが望
ましいか。
山本氏(PBV)
マルチセクターでお互いを理解して、win-win の関係を作り、自主的で実行力のあるネットワークを作っていきたい。
本山氏(サノフィ)
一言でいうと、BCP から災害支援までの一連の流れを企業の常識にしていく必要がある。下表 1~4 までは社内の問
題。5 以降は一社だけでなく、複数社、さらにはマルチセクターで取り組んだ方が有効であるため、NGO の知見をいれ
る。
【質疑応答】
Q.(to 本山氏)ボランティアなどの活動の他に、現地支援を継続しているか。そこから何か本業につながるネタが見つか
っているか。今後の防災に向けてマルチセクターで準備をしていくのは企業一社では難しいと思うが、どのような動きをし
ているか。
A.(本山氏)前半の質問に対しては、そこがまさに苦労している点である。医療用医薬品ということで、お医者さんの処
方を通すため一つバリアがある。疾病啓発はできるが、自社の製品とうまくつなげられてはいないことが今後の課題であ
る。後者は、個々の企業の中の努力の積み重ねでしかないのではないか。個々の企業がいかに行政や NGO と連携す
る事のメリットを社内に訴えかけていけるかがカギである。
A.(山本氏)他社がどのようなことに取り組んでいるか情報交換が出来ることが、ネットワークの最大の強みであると考
えている。そこで得た情報を基に、トップや社員に訴えていくのも一つではないか。
Q.CVN の運営にかかる資金はどのように調達をしているのか。
A.(山本氏)資金のかかる活動はほとんど各社の持ち出しである。CVN として外部から資金は得ていない。ボランティア
を受け入れるコストは、PBV が「ボランティアを受け入れて、ボランティアをしてもらう」という内容で助成金をもらっている
ため、それをベースに運営した。企業の中でボランティアを派遣するための安全の意識やアカウンタビリティなどを認識
しているリーダーを育成する研修も行っているが、それも PBV が助成金を受けて実施している。
Q.CVN の会計はないということか。
A.災害が起こった際に、有志の社員をバスで送れるような資金をどう用意するかなど、現在まさに検討している最中で
ある。
Q.海外でも災害はあるが、CVN として海外の災害支援に取り組むという考えはあるか。
38
A.(本山氏)CVN の中には海外の支援を積極的に行っている NGO や企業もいる。サノフィ・ジャパンとしては、フランス
企業の日本子会社という立場でありまずは日本にフォーカスしようということになる。海外の災害支援はフランス本社が
主導で行うことが多い。
A.(山本氏)海外から注目されている取組みではあるので、この枠組みは広めていきたい。
Ⅳ.ワークショップ
マルチセクターで備えよう!Contingency Planning ワークショップ
ファシリテーター:松尾 沢子 (特活)国際協力 NGO センター(JANIC)
能力強化グループ マネージャー
はじめに
将来起こりうる災害に対応していくためには、人道支援の国際基準も踏まえつつ、マルチステークホルダーの計画策定
と支援を実現するために、Contingency Planning(不測事態対応計画)について学ぶワークショップである。
CVN が提唱している防災真剣企業 8 つの約束には、「7.被災地、被災者を支援します」「8.継続できる仕組みをしま
す」とある中、本日はどのような災害状況に対し、どのような方法で誰を支援するのか、そのために何を準備すればいい
のか、についてお話しする。
国連機関が想定している様々な緊急事態への対応準備活動の一つの考え方・手法として不測事態対応計画(CP)の
立案がある。CP は、災害支援を実施する際に起こりうる状態や発生する問題を想定し、解決するためのツールである。
国際基準としてスフィア・ハンドブックや HAP 原則がある。これら基準では支援の到達目標はひとり一人を大切にする
こと。尊厳のある生活の実現とは、人道的に達成すべき最低限の状態を目指すこと。
【ワーク:横浜市大規模地震災害シナリオ ケーススタディ(20 分)】
ファシリテーターが準備した「横浜市の大規模地震の災害シナリオ」を参考に、以下のワークをグループごとに行う。
問 1:状況調査メモを参考に、地震発生から 1 か月後の避難所 A でどのような支援が必要とされているのかについて話し
合ってください。支援分野は自由に追加してください。優先する支援分野を二つ決定してください。(10 分)
問 2:グループ内で、分担しうる支援分野・内容を議論してください。分担できると考える団体が他にもある場合は、グル
ープ外のアクターでもいいので考えてください。なお、連携ネットでは、国際的な支援基準を満たした支援を行う方
針を打ち出しています。基準例を参考に分担を検討してください。(10 分)
【配布資料】
① ワーク開始前に配布
・横浜市大規模地震災害シナリオ ケーススタディ:避難所 A の状況(特に食糧とトイレ)
・国際基準に基づくニーズ把握:食糧、水、トイレ
・支援の質とアカウンタビリティ(Quality and Accountability) パンフレット
②
ワーク実施後に配布
・横浜市 被害シナリオ (横浜市作成「2013 年防災計画」資料)
・CP Learning Module テキスト 86 ページ「対応ギャップ確認表の作成」
39
【グループからの発表後のファシリテーターによる解説】
グループワークでは、ニーズが必要な人たちは誰かに注目して議論がされていた。また、アクターを自由に追加する
際に、行政、地域住民、ボランティア、自衛隊などの災害対応時に不可欠なアクターが出てきた。中には、日ごろから地
元の団体とつながりがある参加者の関連組織がコーディネーションできるというアイデアも出された。NGO が海外で行っ
ている住民参加の視点などを入れたグループもあった。このような議論を通じ、自分たちでできないことを放っておくので
はなく、他のアクターを巻き込んで、ニーズに応えていく計画づくりが CP の考え方であり、重視している点である。
他方、このワークを通じ、複数企業から、照明器具の提供申し出があった結果、供給過多になってしまうことも判明し
た。例えば東日本大震災では、同じ賞味期限の食糧が大量に届いてしまうなどの経験もあった。供給過多になる可能性
がある物資は事前の調整をして分担を決める、あるいは設置や利用に際して専門性(例:照明器具の設置、配線等の技
術工事)が求められるような場合は誰がその役割を担うのか、といった点についても分担を決める必要があるという気づ
きもあった。
今後、CVN などのネットワークを活用し、ぜひ今後の大災害に備えて関係者全体で事前に起こりうる災害とニーズを協
議し、支援内容を調整していくことを意識してほしい。
以上
40
NGO×企業連携シンポジウム 議事録
日時 2015 年 2 月 20 日(金)シンポジウム 13:30〜17:00
名刺交換会
17:15〜18:45
場所 仙台市市民活動サポートセンター セミナーホール
参加者 22 名
(参加者内訳 企業(1),NGO(6),学生(7),JICA 東北(3),その他・不明(5))
兵頭
○JANIC の NGO と企業の連携推進ネットワークについて
セーブザチルドレンジャパン(以下セーブ)もメンバーになっており、NGO の専門性と企業の専門性・資金を生かすため
に 2008 年より開始している。
当初は NGO20 団体・企業 5 社くらいからスタート、現在は NGO33 団体・企業 26 社ほど。
年に 4 回ほど、講師を呼んで社会課題についての講演・ワークショップを行っている。
深見
○セーブ・ザ・チルドレンについて
セーブは子供関連の民間組織では世界最大規模(119 か国)、ワールドビジョン、プランなど競合団体と比較しても規
模が大きい。全世界に 15000 人のスタッフ。国際情勢に対応する場合、保健クラスターになるのは WHO、教育では CO リ
ーダーとしてセーブとユニセフが連係している。~セーブ設立経緯など
昔に比べると今の方が支援を考えている側が慎重になっている。セーブ自身も、プランやワールドビジョンなどとの間
で取捨選択をされている。その中でいかに迅速に対応するか・誠実な対応をするかを重視。
【柏レイソルの事例】
インバウンド(企業側からの働きかけ)アウトバウンド(セーブ側からの働きかけ)ではインバウンドの事業。
2011 年 1 月、前年 J2 降格の柏レイソルは J1 昇格。その年、ユニフォームサプライヤー変更に伴い旧サプライヤーに
よるチームキットが不要になった。⇒ブラジルのファベーラの子どもたちに送れないか?とセーブが相談を受ける。そこで、
東京税関・ジェトロ・日通などに迅速に聞いた。しかし輸送コストなどの面から実現せず。
2012 年、この年レイソルは J1 優勝。これよって世界進出が視野に入り、改めて相談を受ける。2012 年からはベトナム
でも J リーグの放送が開始、ベトナム・アジアでの知名度を高めるという点でも企業側にメリットがある。ということでベト
ナム・ラオカイ省での教育支援事業が実現した。
ラオカイ省には、少数民族の子どもたちが居住しており、彼らは
ベトナム語がわからない。逆に教員はベトナム語しかわからない人
が多い。そのため、教師向けにベトナム語が分からない子どもへの
教授法トレーニングを行った。柏レイソルも育成部門を持っている
ので、ソフト・育成が大事という意見が一致。レイソルのスタッフを
41
現地視察にも同行させた。「視察」は重要である。実際の現場に一緒に行くことで理解が深まって、もっと何かできないか
なという気持ちになってもらうことができる。
翌 2013 年、ソフト支援の継続が決定。小学校の建物新築も支援、教師へのトレーニングも継続。視察のみではなくラ
オカイ省の子どもにサッカー教室も行った。サッカー教室で使えるように、事前にハノイオフィスでベトナム語を教えること
ができるセーブのスタッフがレイソルのスタッフにベトナム語でサッカー用語レクチャーも実施。ベトナムにおける新しいつ
ながりもほしいので、ベトナムサッカー協会に訪問。副会長に会うことができた
⇒迅速な対応でセーブの評価が上昇
これ以降も、金銭面での限界はあるが広報面での継続的な協力は可能ということで、年に 1 回看板試合⇒入場料の
一部をベトナム支援に使用。試合中にセーブの映像を流したり、キャプテンによる目録贈呈。スタジアム看板の設置や、
記者会見の看板などにもロゴ。セーブによる子育てのワークショップをアカデミーのコーチに受けてもらう。13 歳のチーム
に子どもの権利と世界の子どもたちの WS を受けてもらう。などなど。13-14 シーズンには、ユニフォームの背中にロゴを
いれてもらった。
○まとめ
法人との関係性を構築し、長期的にパートナーシップを継続するには?
↓
・提案されたものには真摯な対応+迅速な対応。
きちんとした人がやっているという印象を与えることができる。
・企業が行っている事業と関連した支援プラン
東芝とタンザニアの事例のように、事業との関連分野を提示する。企業の支援ポイントは社内だけでは決められな
い
・なぜ支援しなければいけないのか(ニーズ)をきちんと理解してもらう
・支援をもらったあとは、使途の明確な報告をする
・途上国ではもともと予定していたことができない場合がある、変更する場合も早め早めに
そうすると、さらにできることはないだろうか?という企業側の意識にもつながる
関係者・顧客の巻き込みは実行段階的には高い段階なので難しい。
・関係者巻き込み
通常は「CSR 担当だけがやってるんでしょ」という社内意識だが、社内でワークショップを実施したりすると理解者が
増える。あんなところの支援やめちゃおうという意見が出にくい。視察した人には社内報告会をしてもらう、セーブの人
が報告をするより企業内効果が大きい。
・顧客巻き込み
イベントの時のチラシ配布など、法人だけではなく個人の巻き込みにつながるので、より大きな活動になる。レイソ
ルだと冠試合のときにチラシを撒くと、通常の配布よりも会員入会率・寄付率が高い。良い循環が生まれている例。
42
兵頭
【ユニリーバ×セーブ震災支援】
2011 年の震災支援はほとんどが緊急支援だった。大きなお金で長期間の支援はまだ難しい。そんな中でユニリーバ
は 4 年続いている。1 つテーマを持って長期間やるというのが成功したのかもしれない。ユニリーバとの震災支援では「子
供に遊ぶ場所や機会を」というテーマの下で支援活動を進めた。
・キャラバン隊活動
2011 年 4 月 30 日開始、連休も子供が楽しめるように。避難所では体
育館など狭い所にいるという状況が続いていた。キャラバン隊のように
芝居をしたり、企業から提供されたものを配ったり作ったり、というイベン
トを提案。トラックの荷台を舞台とし、仙台の団体に芝居をしてもらった。
東京は車が無い。物資の輸送が優先でイベントに使うトラックはあまり
なかった+ガソリンもない。ユニリーバは物流も得意だったのでトラックを借りた。
この事業はユニリーバだけでなく複数企業が絡んだが、ユニリーバは物資の支援や工作(椅子作り)などもやってくれた。
生活必需品配布の際せっけん、シャンプーなども提供。ワンクリックキャンペーンも実施、クリックすると1円ユニリーバが
寄付。
多くの NGO は長くて 3 年で復興支援終了、我々は 5 年間しようと決意。「子ども保護分野の支援」をテーマに子どもの居
場所を作ることにした。具体的なテーマを設定すると企業の得意分野も生かせるので継続しやすい。
・仮説集会所居場所づくり
避難先では満足に遊ぶ環境が作れないので、仮の集会所を設置、子どもの遊び場を確保する。
・地域と共に居場所づくり
・公園整備事業
・福島子ども支援
放射能の影響により外で遊べないので、キャンプ事業。夏、冬に屋外で思い切り羽を伸ばす。
キャンプ 1 泊 2 日など、子どもの単価は高い⇒公園遊びの支援などで、より多くの被益者が関われるようにシフト。社
員も、金曜の夜~日曜の昼まで活動。毎回必ず社長と役員が自ら率先して参加。イギリス人社長だったので、社会貢献
などへの意識が非常に高かった。新入社員と役員が関わる機会にもなり、カンパニーロイヤリティも向上した。ボランティ
アや飲み会などは今までユニリーバではやっていなかった=外資なので日本型の上下のつながりはなかった。モチベー
ション・業績アップにつながった。
○まとめ
企業とのコラボで重要なのは…
・専門性
・非営利
・ニーズの適切な汲み取り
43
・企業に対しての社会貢献アピール
・企業の側からは⇒資金:ビジネスアセットメント
IT なら IT による支援で、速度とクオリティがアップするかも。
企業は消費者を知っている。どう発信すれば消費者は反応するかも知っている
※企業だったらどこでもいいというわけではない、企業のお金の使い方を選んで
コーポレートアクセプタンスガイドライン。お金の規模によって判断ライン、(課、部、役員などレベルを設定)。
企業によってはセーブの目的とそぐわない悪いお金になってしまうので注意する
⇒軍需産業、たばこ、アルコール、ポルノなど
◎質問
※レイソルは CSR 専門部署を持っていたのか?
↓
ない、チケットセールス広報など兼ねている人が担当していた。
アプローチは最初「無駄にしない」というところから、ブラジルのファ
ベーラならサッカーキットを必要としているのではないか、という仮
定を作ったうえで提案を受けた。国内では地域貢献をできたいた
けど、それ以外はできていないよねという内部課題から外へ目を
向けた。
※東北で小さい NGO が企業にアプローチしようとしても、関心がある企業が少ないし、社会貢献の部署をおいている企
業も少ない、アウトバウンドでやっていくときどうやったら?
↓
狙いを定めて個人を定めて手紙を書く。その会社で社会貢献に関与していそうな人を特定して、思いのこもった手紙を書
く。そうするとリプライは 3 割くらいで、支援に結びつくのはその中の 0.何%か。こちらから「手紙よんでもらえましたか?」と
いくぐらいの意気込みで。
支援に繋がっているのはほぼインバウンド事業。この企業とやってみたい、という場合は CSR の報告書などをインターネ
ットで調べて、分野のマッチングを考える。食関係なら食品メーカー、のようにアウトバウンドで手紙を書く。企画のメニュ
ー化をして提案する。
スポンサー契約、ロゴ貸しなどは簡単にできる。それに対してキーアカウント:1000 万規模以上の事業、これは契約を結
んで終わりではない。文字の説明よりも、社内で共有できるよう写真を多くするなど工夫は必要。月に 1 回定例会、face
to face で進めるなど。仕事にかけた時間が寄付金の多い少ないには必ずしも繋がらないということも理解してもらう。
※ホープ:木下
・管理費もコスト上必要。寄付金の何%は管理費に使うなど事前に企業に言っているのか?
↓
深見:管理費は最初から明確に伝えている、それが理解してもらえないなら受けない。以前依頼を受けた際、対応が早
いことに加えて管理費を明確に出したことも評価された。管理費がなければ活動できない、ということをはっきり伝
44
えることが大事。
兵頭:オフィスに一度来てもらって、職場・職員を見てもらい、ボランティアではない・職業でやっているということを理解し
てもらう。できないことははっきりと言う。
※ユース:大崎
・セーブの事例では大企業が多いが、中小企業による事例もあ
るのか?
↓
深見:大企業による大規模な寄付がたしかに多いが、大きな金
額のお金は使途が限定されることが多い。中小の 10、50、100 万
のような少額寄付はセーブに使い方を任せてくれることが多い。
10 年単位でくれるところもあるので、大切にしつつ時間はかけず
誠意は見せる。
兵頭:中小企業はお金ではなく技術を持っているところも多い。JICA と組んでごみ分別やリサイクルの仕方、中小企業と
のやり方はお金だけではない。
※ピースウィンズ:斎藤
・現地のプロマネとの接点・コミュニケーションはどうしているのか
↓
深見:日本人スタッフがいるところを進める、海外事業部に国ごとの担当者がいるので、そのスタッフに現地との連絡調
整を行ってもらう。比較的機能している。
【事例紹介】
石原 輝
【アマニ・ヤ・アフリカ×一ノ蔵】
○アマニ・ヤ・アフリカ 紹介
ケニア・ナイロビのスラム地域学校支援、進学費支援、経済自立支援。
洋裁・職業訓練所でのトレーニング。卒業生のグループを作って仕事を
する支援。文化交流、学校での出前授業、イベントの主催など
○一ノ蔵紹介
一ノ蔵:CSR 部が存在。使用済み切手などの回収運動も行っている。毎年蔵開放イベントを行い 3000 人ほどの来
場者を記録している。イベントの際、来場者にお猪口をプレゼントし、それで蔵内の試飲をしてもらう。お猪口プレゼン
45
トの際に、アマニのカバーに入れてプレゼント。
希望社員の給与の端数を NGO に寄付 99510 円、企業自体からも約 20 万円。小学校が火災になった際の緊急支援
ももらった年間 30 万円ほどの寄付をもらっている。
アマニ自体は 800 万円くらいの予算規模で助成金はあまりもらっていない。会員からの寄付・グッズ売り上げで予算の
多くをまかなっている、これ以上増やすのは難しい、自己資金でやっていくのが理想。
ケニアの職業訓練所 OBOG にとっては、一ノ蔵のイベントプレゼント作成が恒例行事になっている。1 個 20 シリング
=27 円⇒4000 個。1 人当たりおよそ 18000 円の収入になる。家賃が月 4000 円ほどなので、彼らの収入の大きな助け
になっている。卒業生のグループづくり、人のつながりによる助け合いのネットワークづくりにもつながる。
550 名が通う新設小学校に対して昨年は 30 万円の寄付、3 万食分の給食に。一ノ蔵のように 30 万円を 10 年間、と
続けてくれる企業を今後も大切にしたい。金額だけでなく、社員本人が会社のことを知ってくれることも大切。
※一ノ蔵としてはケニア支援をどのように捉えているか
⇒社長と友達だった、table for two の考えが広がる前に寄付をしてくれたのがきっかけ、それが徐々に大きくなった。昔
からやっている寄付の一環として意識していると思う。社員ではないので判断し難いが…
井上
【ベガルタ仙台×フー太郎の森基金】
○フー太郎の杜基金 紹介
福島県相馬市に拠点、エチオピアで植林活動。
○ベガルタ紹介
エチオピアでサッカー教室。
2011 年 1 月ベガルタの 2 人のコーチがエチオピアでサッカー教
室を行う。2010 年 11 月 JICA、フー太郎、ベガルタの 3 者協力で
マッチング。アジスアベバ市内の小学校で現地の小学生 60 人く
らいにサッカー指導、本物のボールを使って練習。その後北部ラリベラ(フー太郎の活動地)へ移動し、ベガルタ杯(サ
ッカートーナメント)の開催。優勝チームや活躍した選手に、日本から持ってきたユニフォームやスパイクなどを寄付。
○経緯
2009 年、当時 J2 だったころにユアスタが芝生改良のため宮城スタジアムで行っていたが、1 試合だけ日程が合わず
に福島市で開催することになった。地域貢献推進課の担当が、ベガルタに努める前からライフワークでボランティアを
していた。フー太郎を知っている上、ちょうど福島で試合をするタイミングなので会うことになり話が盛り上がる。
コーチで外国人コーチと関わる機会があったので、自分がコーチ派遣事業に選ばれたサッカーコーチはヨーロッパ
や南米にばかり情報が偏るので、アフリカに関してのイメージは全くなかった。行ってみないとイメージはわからない。
実際に訪問したことなどで、自身の勉強にも繋がった。
普段プログラムを考えて練習メニューを作ったりしていたが、向こうでは海外サッカーのテレビ中継を見て真似をす
る、という全く異なる環境でプレーする子どもたちを目の当たりにしたことで、自身の考え方を大きく変えさせられた。日
本のサッカーが将来エチオピア・アフリカのサッカーのモデルとなるような、形になっていけばよいと思う。
46
○2 年後にも訪問
指導法を教えてほしいという声が多かった、指導者を育てることで、子どもを指導するサイクルが生まれ、礼儀や規
律が生まれる。自身が行くことで、効果もまだ実現できていないことも両方実感できた。指導者養成、審判養成、組織
作り、大会運営、安全管理など、自分たちでやっていけるように今後も支援したい。サッカーは世界どこでも人気があ
る。取り組みやすいし人が集まりやすい⇒定期的な登校につながる。
サッカークラブと小さな団体で物資支援などであればどこでも取り組みやすい。ただし、地方のサッカークラブは予
算規模も小さく、CSR よりも他の部門に回してほしいという声も多い。(浦和レッズは年間予算 60 億円ほど、ベガルタ
は 20 億円ほど)もう 1 社、協賛企業を絡めた形などで支援活動ができれば予算にも余裕ができると思う。レイソルなら
レイソル×日立、マリノスならマリノス×日産。そういう形だとアジアへの進出などもさらに円滑にできるかもしれない。
【グループワーク発表】
○1 班
企業 :日立
NGO :アマニ・ヤ・アフリカ
案
:(お互いの支援・事業分野が違ったので案を作るのが難しかった。)
日立の商品(音楽機器)をアマニの支援先であるケニア、とくにスラムなどの普段音楽に触れることの少ない地域に送る
○2 班
企業 :―
NGO :シャプラニール仙台
案
:1 つの企業と 1 つの NGO ではなく、複数の企業 NGO が関わる・層が厚い協力関係を築くのもよいのではないか。
※ブックオフ×シャプラニールの事例なども話にあがった
○3 班
企業 :―
NGO :アマニ・ヤ・アフリカ、AISEC
案
:アフリカから留学生を連れてきて企業へ派遣
企業を探すためにはどうする?⇒商工会議所に聞いてみる?
○4 班
企業 :ベネッセ
NGO :教育系
案
:企業内に基金を作り、CSR に利用。開発途上国での遠隔教育支援
IVY ユースで教育を扱っている・セーブの人がベネッセにいたため
言語の壁を超える⇒算数と英語に絞った遠隔教育支援
○5 班
企業 :リクルート
NGO :ホープインターナショナル
47
案
:リクルート発行の雑誌にホープの人材募集兼広報のページをつくる
⇒雑誌売り上げ 10%をホープへ寄付
※グループに前職リクルートの人がいたので
【グループワーク講評】
兵頭:
企業連携は日常生活でも考えている。新聞を読んでいたり電車に乗
っていたりして気づくことが多い。
重要なのは「情報発信」。NGO はやっていることを企業に“買ってもら
わなければいけない”。企業の持つものが、一体何に役立つのかを
知ってもらわなければ。
小さなことでもいいのでどんどん提案して、やってみることが大事。
深見:
厚みがあり、相手が食いついてくれるプレゼンをどれだけ作れるか、そこがカギ。
3 班へ⇒商工会・ライオンズクラブ・青年会議所という視点が良い。一般企業のみではなく、こういったところへのアプロー
チも大切。
2 班へ⇒複数の企業・NGO をつなげるのは大事。実例として IKEA とユニセフ・セーブの合同プロジェクトが 9 月からはじ
まる。アクター数に厚みが増すと中身が深まり、プロジェクト自体の肉もついてくる。
48
NGO×企業 連携シンポジウム
~社会を“巻き込む”チカラ~
2015 年 2 月 23 日(月)
NGO
×
14:00~17:15(シンポジウム)
企業
17:30~19:00(名刺交換会)
会場:(株)電通 本社ビル 36 階 M-1,2 会議室
対象:NGO 関係者、企業関係者、一般の方
参加者:113 名(関係者含む)
参加費:2,000 円/名(連携ネットメンバー:1,000 円)
懇親会費:2,000 円
共催
NGO と企業の連携推進ネットワーク(連携ネット)
〔事務局 (特活)国際協力 NGO センター(JANIC)〕
企画協力
株式会社電通
後援(順不同)
一般社団法人グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク(GC-JN)、
独立行政法人国際協力機構(JICA)、1%(ワンパーセント)クラブ
49
1.開催概要
「NGO×企業連携シンポジウム ~社会を”巻き込む”チカラ~」
① 目的

質の高い企業と NGO の連携事例やアイデアの紹介、連携における課題、解決方法の共有

NGO と企業の出会いの場づくり

本ネットワークの活動について多くの方に知っていただく
【プログラム】
Ⅰ はじめに
14:00-14:05
開会挨拶
赤堀 久美子氏 連携ネット コアメンバーサブリーダー/
(株)リコー 環境推進本部
社会環境室 CSR グループ シニア・スペシャリスト
14:05-14:15
NGO と企業の連携推進ネットワークの
兵頭 康二氏 連携ネット コアメンバーリーダー/
活動紹介
(公社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
事務局次長 兼 法人連携部長
Ⅱ 基調講演
14:15-15:00
ソーシャル・デザイン
福井 祟人氏
~巻き込むメソッド/伝えるメソッド~
(株)電通 ビジネス・クリエーションセンター
ソーシャル・デザイン部 部長/
クリエーティブ・ディレクター
共同発表:並河 進氏、横井 祐治氏、 間宮 孝治氏
―― 休憩(10 分)――
Ⅲ 事例発表「ステークホルダーを“巻き込む”」
15:05-15:35
ヤマハ発動機(株)
山際 智氏
「クリーンウォータービジネスと
ヤマハ発動機(株)
点滴灌漑ビジネス」
15:35-16:05
渉外部 渉外担当課長 主査
(特活)シャプラニール
勝井 裕美氏
=市民による海外協力の会
(特活)シャプラニール=市民による海外協力の会
「She with Shapla Neer」
クラフトリンク(フェアトレード)チーフ
Ⅳ パネルディスカッション
16:15-17:10
今年から使える”巻き込み”力~様々な
モデレーター:福井 崇人氏
事例からメソッドを導き出す~
パネリスト:山際 智氏、勝井 裕美氏、赤堀 久美子氏
Ⅴ お知らせ、閉会
17:10-17:15
閉会挨拶
富野 岳士氏 連携ネット事務局/
(特活)国際協力 NGO センター(JANIC)事務局次長
―― 移動(15 分)――
Ⅵ 懇親会(名刺交換会)
17:30-19:00
懇親会(名刺交換会)
任意参加
50
② 議事録
I.
はじめに
■開会挨拶
赤堀 久美子氏(連携ネット コアメンバーサブリーダー/(株)リコー 環境推進本部
社会環境室 CSR グループ シニア・スペシャリスト)
この数年、企業の CSR に携わりながら、NGO と企業の連携の方法はどんどん変化していると感じている。NGO・企業の双方が
持続可能な社会の実現を目指し、単なる寄付や支援だけでなく、パートナーとして協働で事業を行なう事例も増えてきている。
その際、成功のキーとなるのは社内外の様々なステークホルダーを巻き込み、共感を得ながら事業を進めていくことである。
多くのステークホルダーを巻き込むことで、より多くのリソースが集まり、より大きなインパクトにつなげることができるためであ
る。本日のテーマは「社会を巻き込むチカラ」。多様なステークホルダーを巻き込むために、重要なのが「コミュニケーション力」
だが、想いを伝え、共感を得、更にプロジェクトに巻き込んでいくことは、かなりハードルが高いと感じる方が、NGO にも企業に
も多いのではないだろうか。本日は、まずコミュニケーションのスペシャリストである電通の皆様から、社会を巻き込むためのコ
ミュニケーションメソッドをご紹介いただく。その後、NGO・企業の双方の立場から、様々なステークホルダーを巻き込み、事業
を進めている実践事例をご紹介いただく。後半のパネルディスカッションでは、企業の課題である社内の巻き込み、NGO の課
題である企業の巻き込みなど、多くのステークホルダーを巻き込む「チカラ」をつけていくためにはどうしたら良いのか、具体的
な議論を深めていきたいと考えている。この半日が皆様の学びの場となり、連携を一歩進める出会い、対話の場となることを
願っている。
■NGO と企業の連携推進ネットワークの活動紹介
兵頭 康二氏(連携ネット コアメンバーリーダー/(公社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
事務局次長 兼 法人連携部長)
NGO と企業の連携推進ネットワーク(以下、連携ネット)は、社会にある様々な課題を単独ではなくマルチステークホルダー、特
に NGO と企業がそれぞれ持っている力を活かし合い、対等な立場で地球規模の課題を解決することを目的としている。連携
ネットは当初は NGO のみが加盟していたが、2 年目から企業も 8 社ほど参加するようになり、現在は NGO34 団体、企業 26 社
が参加しており、社会課題に対する企業の関心の高まりを感じる。
連携ネットは 3 カ年計画を立てて動いており、現 3 カ年計画は「持続可能な社会の実現に向けた地球規模の課題解決を目指し、
NGO と企業の『違いを力に』質の高い連携を進める」ことを基本方針としている。重点項目としては①地球規模の課題を知る、
② NGO と企業の違い・特性を理解する、③質の高い連携事例を共有し、創造する、④ポスト 2015 の実現に向けて、関連機関
との連携を強化する、⑤地方の NGO や中小企業との連携を強化する、としている。
活動形態としては、NGO、企業それぞれからコアメンバーを選び、事務局、アドバイザーとともにコアメンバー会合を年 6〜7 回
実施している。そこで連携ネットの活動計画を立て、3 ヶ月に1度定例会、そして年に 2 回のシンポジウム(東京、地方)を実施し
ている。定例会では、前半は様々な社会課題を解説、事例の紹介を行い、後半は NGO と企業が混ざり合う形でワークショップ
などを行い、連携の方法を模索している。
今回のシンポジウムには 100 名以上のみなさまにご参加いただき、大変うれしく思う。我々としては連携ネットのメンバーを増
やしていきたいと思っており、特に企業メンバーが NGO メンバーより少ないため、ぜひ参加していただきたい。企業メンバーか
ら、「信用のおける複数の NGO と出会い、信頼関係を構築することができる」、「企業目線では捉えきれない『社会的課題』に気
づくことができ、その情報を入手できる」、「ブランド価値向上につながる」などの声をいただいている。ぜひご参加いただきた
い。
51
II.
基調講演
■ソーシャル・デザイン~巻き込むメソッド/伝えるメソッド~
福井 祟人氏(株式会社 電通 ビジネス・クリエーションセンター ソーシャル・デザイン部
部長/クリエーティブ・ディレクター)
共同発表: 並河 進氏、横井 祐治氏、 間宮 孝治氏(株式会社 電通)
≪福井氏≫
私たちソーシャル・デザインチームは、2009 年電通社内で社会課題を解決するためのチームとして発足した。ソーシャル・デザ
インとは、ソーシャルグッドを生み出すための企画メソッドである。「気づき」や「疑問」を「社会をよくすること」に結びつけるアイ
デアや仕組みをデザインすること、と定義している。
すべての企業には世界をよくする力があり、特にグローバル企業は一つの国よりも影響力がある場合も多いと思っている。企
業のソーシャルグッドを伝えるだけではなく、入口を作り、そして味方を連れてきて、出口まで導くことで、企業のソーシャルグッ
ドそのものをデザイン・プロデュースしている。企業と社会課題やアイデアを掛け合わせ、さらに NGO・NPO・国際機関・教育機
関・行政・自治体・メディア・タレント・文化人なども巻き込みながら、様々なプロジェクトを行っている。
ソーシャルプロジェクト進めるにあたって 7 つのステップがある(1.問題に気づく、2.詳しく知る・感じる、3.仲間を増やす、4.アイデ
アを発明する、5.アイデアを磨く、6.実行する・アクションする、7.ふりかえる・つなぐ・まわす)。「3.仲間を増やす」ためには、“巻
き込むメソッド”が必要である。そして 4 から 6 つ目のステップでは、アイデアの発明と実行のための“伝えるメソッド”が必要に
なる。これから事例と共に、「巻き込むメソッド/伝えるメソッド」を紹介していく。
≪並河氏≫
事例①ネピア/千のトイレプロジェクト(2008~)
最初はトイレットペーパーやティッシュペーパーの価値を高めるプロジェクトを考えていたが、進めていく内にトイレがなくて命を
落としているような子どもがいる地域を応援できないか、という話になった。そこで、ネピアの売り上げの一部をユニセフに寄付
をし、ユニセフが行っている東ティモールでのトイレ作りを応援する、というプロジェクトが立ち上がった。トイレットペーパーを買
うことで、途上国の衛生問題の解決を目指している。うんちを通して社会のためになることをしていきたいというネピアの想いを
込めて、「うんちをする。僕らは生きている。」というキャッチフレーズを作った。
東ティモールの村では、始めはトイレがなく衛生環境が悪かったが、このプロジェクトのサポートと村の人たちの頑張りで、少し
ずつトイレが出来てきた。また、子どもたちに「どんなトイレが出来たら嬉しいか」を絵にしてもらい、そうして出来たトイレを、ポ
スターやトイレットペーパーのパッケージに飾った。すると外部から「いいキャンペーンだね」という声が届きはじめ、社内にこの
プロジェクトに対して共感する人も増え始めた。3 年目には社内 CSR サポートスタッフ制度が導入され、実際に社員 3 名が東テ
ィモールを訪問した。
買うことで、誰でも社会貢献に参加することができる。社会課題についてだけでなく、「解決したらこんな素敵な未来があるよ」と、
「北風」ではなく「太陽」のようなメッセージも一緒に伝えると、より多くの人に伝わっていく。
“巻き込むメソッド”
✔購入=参加できるしくみ
“伝えるメソッド”
✔「北風」よりも「太陽」
事例②日本ユニセフ協会/「世界手洗いの日」プロジェクト(2009~)
国連が 10 月 15 日を「世界手洗いの日」と定め、手洗いに関するキャンペーンで盛り上がったが、日本でほとんど行われなかっ
た。そこで、世界中で言葉を超えて伝わる方法はないかと考え、「世界手洗いダンス」を作った。
<「世界手洗いダンス」ビデオ 1>http://handwashing.jp/
医者や専門家にも相談し、確実にきれいに洗えるダンスを考えた。また世界中どこでも伝えられるように、全て擬音語で表した。
52
そして手を洗うだけではなく、途上国の衛生の問題も知ることも目的とした。ボランタリーパートナーとして、SARAYA、王子ネピ
ア、花王、LION に協力していただいた。
<「世界手洗いダンス」ビデオ 2>http://handwashing.jp/library_project_movie.html
「手をつなごう」というスローガンに「手洗い」という大きな課題を掲げて、かつ「ダンス」という誰でも参加できるものを作り、ダン
スを踊って途上国のこと、衛生のことを考えようという仕組みを作った。立ち上げた年(2009 年)に新型インフルエンザが日本で
流行っていたことも、注目された理由のひとつである。また、これがきっかけとなって SARAYA が 100 万人の手洗いプロジェクト
を 2010 年からスタートさせた。さらに SARAYA EAST AFRICA という会社を立ち上げ、現地でアルコール消毒剤の開発・販売を
行なっている。
巻き込む際に大事なことは「大きなテーマをかかげる」ことである。今回は「手洗い」という大きなテーマがあったため、NGO・
NPO や企業が一緒になってひとつの活動を行うことが出来た。そして自分が楽しいと思うこと(今回はダンス)と、やるべきこと
(手洗い、衛生問題)をかけ算することで、可能性が広がる。社会の課題(遠いもの)が自分のやりたいこと(近いもの)とつなが
ってくることに意味があると感じている。
“巻き込むメソッド”
✔大きなテーマをかかげる
“伝えるメソッド”
✔「楽しいこと」×「やるべきこと」のかけ算をする
事例③朝日新聞/Blue Table(2014~)
朝日新聞と電通ソーシャルデザインエンジンの共同で立ち上げた Blue Table というプロジェクトを紹介する。Blue Table は、企
業、学生、著名人という 3 者が同じソーシャルイシューを掲げ、それを解決するアクションを考え、そして CSV(共通価値)を生み
出す場である。社会課題の解決に取り組む学生団体や企業、著名人が、バラバラで活動していることがもったいないと感じ、
つながる場を作ろうとしたことが始まりである。実際に SARAYA と国際学生連盟が出会い、エボラ出血熱の支援プロジェクトの
協働に発展した。Blue Table はただ話し合うだけではなく、アクションの場にもなる。
違うからこそ、1+1 ではなく、もっと大きな掛け算が生まれる場所を作りたい。そして、学生は学生、企業は企業、著名人は著
名人、それぞれの立場で発信することで、相乗効果を生み出せる。こういった場がもっと増えるといい。
“巻き込むメソッド”
✔立場が違う人たちがひとつの志で集う場所をつくる
“伝えるメソッド”
✔それぞれの立場で発信することで相乗効果を
≪横森氏≫
事例④ヤフージャパン/search for 3.11(2014~)
このプロジェクトを一言で言うと、「3.11 東日本大震災の風化防止と復興支援プロジェクト」である。「検索」という日常の行為を、
社会課題を解決するアクションに変えた。2014 年、震災後丸 3 年を迎えるにあたり、日本の中で震災の風化が進んでいること、
復興が中々進まないことが社会課題となっていた。そこで、日本中の老若男女あらゆる人がもっとも低いハードルで風化防止、
復興支援に参加できる仕組みをつくることを目指した。そうして出来たものが、「3 月 11 日にヤフーで 3.11 というワードを検索す
ると、ヤフーが東北復興支援活動に 10 円を寄付する」という仕組みである。
毎日様々な人がヤフー検索を使い、そのビッグデータがヤフーに蓄積されている。3 月 11 日が近づいてくると、3.11 の検索が
増えるのだが、それ以外の言葉も検索されており、それを見える化すると面白いのではないかという話になった。だんだん震
災に関わる検索数そのものが減っている、風化している事実を見える化する(検索ワードという文字を絵で見せる)ためにビデ
オを作成した。
<「ビッグデータ編」ビデオ> http://search.yahoo.co.jp/searchfor311/2015/
結果、2014 年 3 月 11 日の 1 日で 250 万人が参加し、当初の上限額であった 500 万円から急きょ 2,500 万円に変更した。
Facebook でも 1 週間で約 98 万シェアをいただいた。2014 年は東日本大震災の復興支援のみだったが、2015 年はさらにいろ
53
いろな寄付先(まちづくりなど)を考えている。
今回のキャンペーンで気づいたポイントは、テーマにする社会課題の「大」「小」と、参加してもらうハードルの「高」「低」を考え
ながら、それらをかけ合わせた際にどのくらいのインパクトを起こせるのかをきちんと設計、デザインすることの大切さである。
また、「東北のために何かしたいけど、何をしたらいいかわからない」と感じている人たちの needs の受け皿をつくる中で、「とに
かく検索するだけ」という参加のハードルを下げられたことがよかった。参加のハードルが下がると、巻き込める人が増えていく。
伝えるメソッドは、SNS が急速に発展、広まっている中で、特に Facebook でシェアしたくなる仕組み・表現を設計することが大
事だと感じた。
“巻き込むメソッド”
✔みんなの needs の受け皿をつくる参加のハードルを下げる
“伝えるメソッド”
✔SNS 特に Facebook でシェアしたくなる仕組み・表現を設計する
≪間宮氏≫
事例⑤なんとかしなきゃ!プロジェクト(2014~)
「なんとかしなきゃ!プロジェクト」(なんプロ)は、JANIC、JICA、UNDP が実行委員会を、電通が事務局を務めるプロジェクトで
ある。このプロジェクトは、途上国の問題に文字通り「なんとかしなきゃ!」という思いで立ち上がった。
今回ご紹介する事例の舞台はカンボジア。教育を受けられない、読み書きができない、安定した職業に就けない、収入は少な
い、だから自分の子どもにも教育を受けさせられない、という負のサイクルが確実に存在している国である。そこで、今回は日
本人の“顔の見える支援”を伝えることにした。多くの日本人を取材する中で、特に日本ユネスコ協会連盟の「世界寺子屋運
動」が非常にキャッチーであったため、これを基にコンテンツを作っていった。この活動を伝えるに当たり、アーティストの倉木
麻衣氏をメッセンジャーとした。倉木氏は東日本大震災などの支援活動を実際に行っており、また今回のテーマである「子ども
たちの教育」は、パパママ世代になった彼女のファン層とも親和性が高かった。
倉木氏らしいコンテンツを考えた際に、カンボジアの子どもたちは「日本では当たり前にある授業を受けたことがない」という現
実と、倉木氏“らしさ”を掛け算したところ、「音楽の授業」というアイデアに至った。そこで、BS 日テレで特別番組を作った。
<倉木麻衣 カンボジアの詩~それが夢のはじまりになる~ビデオ>http://www.youtube.com/watch?v=5nf1Qgl7bx8
この番組を中心に、なんプロのサイトや SNS で発信、また倉木氏のファンを通じて拡散した。さらに倉木氏に「stand by you」と
いうオリジナルの歌も作ってもらい、番組の主題歌として、また 15 周年のライブや数々の音楽番組や各種メディアでも紹介され、
多くの方に伝えるチャンスが生まれた。最終的には NAVER まとめで「倉木麻衣の知られざる社会貢献・ボランティア」としてまと
められた。
とはいえ、カンボジアの寺子屋はまだまだ数が足りず、今回のプロジェクトで得たものを活かしてさらなる課題解決につなげる
ために、新しいプロジェクトを企画した。まずカンボジアの村には電気がなく、親も子どもも字が読めず、子どもたちは夢を描け
ないという問題がある。そこに日本では当たり前のようにある「絵本の読み聞かせ」を掛け合わせることで、新しいアイデアが
生まれないかと考えた。そこで生まれたのが、“ランタンで楽しむ絵本”(モーションシルエット絵本)である。
<ビデオ鑑賞>「モーションシルエット絵本『STAND BY YOU~それが夢のはじまりになる~』」
日本で販売した売り上げの一部を新しい寺子屋建設にあてるだけでなく、同数の絵本をカンボジアの家庭に送られる仕組みに
した。カンボジアでランタンや懐中電灯をあてながら、それほど明るくない場所でも楽しめ、かつ文字が読めなくても絵や光と影
の動きで親子の会話が始まるような本になっている。
“巻き込むメソッド”
✔コンテンツへの期待感でステークホルダーに「この指止まれ!」
“伝えるメソッド”
✔メディアやファンが語りやすいストーリーづくりを
≪福井氏≫まとめ
<ビデオ鑑賞>Tigers Save Tigers プロジェクトムービー
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ソーシャル・デザインが NGO と企業のためにできることは、社会にインパクトを与えること、差別化し、競合に勝つこと、そしてタ
テ割りを超えて、スタッフのモチベーションを高めることである。阪神タイガースの例を取ってみると、社会へのインパクトについ
ては阪神タイガースの勝敗はメディアにとってもファンにとっても大きなインパクトになる。そこでただ勝つだけではなく、「トラの
生息地で保護活動をしているインドのレンジャーに、今季の公式戦の勝利数と同数のレンジャーセットを寄付する」という仕組
みを作ることで差別化する。さらに、こうしたソーシャル的なテーマをプラスすることで、タテ割りを超えてスタッフのモチベーショ
ンを高めることができる。これまで紹介した“巻き込むメソッド”/“伝えるメソッド”は、NGO や企業のミッション達成のために必要
だと感じている。
Ⅲ.事例紹介「ステークホルダーを“巻き込む”」
■クリーンウォータービジネスと点滴灌漑ビジネス
山際 智氏(ヤマハ発動機株式会社 渉外部 渉外担当課長 主査)
本題に先立って、まずは世界の水の状況について説明したい。インドネシア・カリマンタン島では、都市から離れるとのどかな
町・村が広がっている。そこには水道がなく、タンクローリーで水を運び、地元の名士が所有するタンクに給水する。住民は名
士に代金を払い、水を買う。ポリタンクに入った水をトラックで売り歩く光景も見られる。その他、赤十字が設置した浄水器の水
や、雨水を溜めたもの、川の水などを利用している。またアフリカでは、水利用には大きく 3 つのパターンがある。①お金持ち:
ペットボトルの水を買う(所得の底上げによって 500ml/10 円の水も売れる)。②井戸や水道の水を宅配ビジネス(通常の 2~5
倍の価格)や販売所で買う。③川や湖から水汲みをする。
では、なぜヤマハ発動機がクリーンウォーター装置の開発、ビジネスを始めたのか。1974 年、インドネシアにバイクの工場を設
立した。その際に現地の日本人従業員から、ジャカルタの水道水が茶色くて臭い、どうにかならないかという声が多く上がり、
浄水器を自社開発し販売することになった。当初は駐在員や富裕層向けの価格帯で、水道の水をきれいにするものだった。一
方で、1万 5,000 人の従業員のうち約半数が水道のない家に住んでいた。彼らが使う川の水にその浄水器を使ったところ、すぐ
に泥がつまり使い物にならなくなった。そこで、川の水をきれいにする浄水器の開発を始めた。貧しい世帯や知識のない人でも
メンテナンスができ、薬やフィールターを必要としない、ランニングコストが安価なものを売りにしようと考えていた。通年を通し
て河川等の水を汲み上げて安定的に飲用に使える水を作れるのかどうか、現地の人々に管理運営が実際にちゃんとできるの
かどうか疑問視する社内の意見もあり、確認する必要が生じた。結果、6 ヶ国 8 ヵ所で 5~10 年のモニター調査を実施すること
となった。また、資金的サポート、対外的信用力を得る為もあって、UNDP をはじめ経産省、NEDO などから調査・研究のサポー
トを頂戴した。
そうして開発された浄水器を、どうビジネスとして成り立たせるのか。まず、水に困っている病院や学校は多く、需要は十分に
ある。しかし、そういった地域では地方政府のみならず、中央政府でも予算がない。そこで、欲しいというお客様のもとに届ける
ためには、世界銀行やアジア開発銀行、外務省、JICA、ロータリークラブ、などの持つ多種多様な資金源となる団体と連携す
る必要があると考えた。ここで、いくつかの例を紹介する。カリマンタン島では村長・議会・地方開発局・中央の公共事業省とい
った様々なアクターの了承が求められ、ようやく1基を納入することができた。新規の実績のない商品は、各機関においてもな
かなか導入していただけないのが実情で、そのために、日本政府の草の根無償援助を活用させていただく事を考え、現地で
信用のある NGO/NPO と設置後の運営面を含めて協力する体制をつくり、彼らを申請者として援助を受けるに至った。現在は
世界各国でこのスキームを活用し、さらに多くの地域で展開することを考えている。ロータリークラブに購入いただく場合には
役割分担が必要だった。ロータリークラブには買い手となって資金提供をいただき、ヤマハ発動機は装置の販売、NGO/NPO
には現地の設置場所を紹介するという各団体の長所を活かし、短所を補いない合う分担をおこなった。このように、さまざまな
やり方でビジネスの可能性を探りつつ、アフリカと東南アジアを中心に実施してきた。今後の可能性も引き続き模索している。
続いて、点滴灌漑システムについてお話ししたい。ヤマハ発動機はセネガルで発電機やポンプといった商品の販売を行ってい
るが、中国製より 5~10 割高であることから苦戦を強いられている。そんな中、出張先で畑に手作業で水をまく様子を見た。こ
55
こに点滴灌漑を入れれば、人件費の削減・就学率の向上・収入の増加につながると考えた。だが、実際に点滴灌漑システム
の販売に着手しようにも、浄水装置のときと同様に「お金がない、本当に収穫量が上がるのか」などのネガティヴな意見が多く
聞かれた。対応に困っていると、井戸掘りと農業指導に取り組むベルギーの NGO と出会い、相談することができた。その結果、
NGO が装置の代金を立て替え、生産者からは収穫後に代金を集める仕組みをつくることができた。また、現地でのネットワー
ク・信頼をもつ NGO が説明会に協力してくださることで、現地の方々の理解をスムースに得ることができた。さらに、NGO は農
業指導を通じて装置の扱い方の伝達をおこなってくださった。現在、セネガルでは約 600 村、近隣の国々にも装置の需要が広
まっている。もともと畑にはヤマハ発動機のポンプの需要はなかった。そういう意味では、NGO と協働することで新しいマーケッ
トが生まれたのではないだろうか。
アジア・アフリカを中心にビジネスチャンスが拡大している昨今、それらの地域でチャンスをつかむためには、世界的に企業
の社会的責任の高まりに応え、既存のビジネスモデルが全く通用しないエリアに挑戦し、先行企業となることが求められる。そ
の際のポイントは以下の3点が挙げられる。
① NGO/NPO、地方・中央政府、他の企業と連携することで、課題解決の大幅なスピードアップを図ることができ、不得意
分野のリスクヘッジにつなげることができる。
② 社会問題解決型・社会貢献型のビジネスを形成することで、コンセンサスが得られやすくなり、ビジネスを進めやすくな
る。
③ 地域(東アフリカ・東南アジア)というくくりではなく、ひとつひとつの国についてしっかりと考えることで、よりスムースなビ
ジネスモデル形成につながる。
■She with Shapla Neer
勝井 裕美氏(特定非営利法人シャプラニール=市民による海外協力の会 クラフトリンク(フェアトレード)チーフ)
「She with Shapla Neer」とはバングラデシュとネパールにおいて、天然成分を使って作られたフェアトレード石鹸のことである。
この石鹸のミッションは「南アジアで経済的、または社会的に厳しい状況にある女性たちがこの石鹸を作ることによって現金収
入を得、生活向上をする」ことを目指している。
シャプラニールは主にバングラデシュ、ネパール、インドで、農村開発・都市部での児童労働の削減などを行っている。農村の
貧しい女性たちの現金収入を増やし、生活向上につなげるために、彼女たちが出来る仕事は何かを考えた時に、刺繍や織物
といった伝統的な手工芸品があった。シャプラニールが商品開発・発注を行い、パートナー団体が生産者に対して技術指導・
仕事の割り振り・賃金の支払いを行い、品質管理・検品されたものを日本に輸出している。現在、7,000 万円前後(カタログ販
売・ネット通販を含む)の売り上げ、約 350 店舗の卸売先を得ている。
このクラフトリンク事業では手工芸品を扱っているが、これらは良くも悪くも壊れにくいため、買い物の頻度が多くない。そのよ
うな中、パートナー団体から元セックスワーカーの女性へ石鹸作りの技術支援、生産を始めたので、販路拡大を手伝ってほし
いと相談を受けた。そこで、石鹸の取り扱いに関して国内調査を行った上で、その石鹸を輸入・販売することを決めた。
当初、バングラデシュ、ネパールの 2 団体が石鹸を生産していたが、日本で売れる品質・デザインを備えたものはなかった。品
質の改善において、長く天然油脂を扱っている太陽油脂株式会社の技術支援の協力を得た。専門家が生産地を訪れ、直接改
善の方法をアドバイスし、生産者に具体的な改善策を考えてもらった。デザインについては、数人のデザイナーにチームに入
っていただいた。彼らにも現地を訪問してもらい、現地で手に入る素材、現地で作ることのできるデザインのパッケージを考え
た。さらに、JETRO の開発輸入企画実証事業に採用され、2011、12 年度にそれぞれ約 500 万円の援助をいただき、出張や広
報・宣伝の予算を確保した。上記のような現地との交流を通じて、生産者が主役であるというメッセージを込めて「She with
Shapla Neer」というブランドコンセプトを固めていった。
販売が開始された後も、傷や汚れなどの問題が発生した。そこで現地の生産者に太陽油脂の工場を見学し、日本で求められ
る品質を目で見て知ってもらった。また、商品が売られている伊勢丹も訪問した。すると、生産者の技術のみならず、モチベー
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ションにさらなる向上がみられた。具体的には、ヘアーキャップを被る、土壁にビニールを張るなどである。これらはシャプラニ
ールが指導したものではなく、彼女たち自身が生産現場で何ができるのかを考えて実施したものである。海外協力には被支援
者の意識を変えることが必要だということが表れた例ではないだろうか。
現在、「She with Shapla Neer」はクラフトリンクを支える大きな柱となった。従来シャプラニールが扱っていた商品はフェアトレ
ードに熱心な店舗で扱われていたが、うれしいことに、セレクトショップやアパレル店、メディアでも女性誌・ファッション誌など、
これまで扱われなかった場所や媒体で取り上げられることになった。消費者にもデザインや品質を基準に選んでいただけるこ
とが大変多くなり、それに付随して生産者のことも伝えることができた。
生産者の変化として、より多くの生産者を雇用することができ、各自の収入が 5 倍近くになったことはもちろん、自分たちの作
ったものが日本という「お金持ちの豊かな」国で売られ、女性でも家計を支えることができることが証明され、自信につながり、
周囲にも認められたということが挙げられる。太陽油脂にとっては、地域から海外へと社会貢献活動の幅を広げるきっかけと
なった。また会社のパンフレットに掲載したところ、大きな反響を得ることができ、企業として社会的価値を向上させることがで
きたと聞いている。デザイナーの方々にはやりがいをもって取り組んでいただけた。
「She with Shapla Neer」では「”She”の生活向上を目指す」という共通のぶれない目標に向かってみんなで取り組んでいった
という点が、成功のカギだったのではないかと感じている。
Ⅳパネルディスカッション
『今年から使える”巻き込み”力~様々な事例からメソッドを導き出す~』
モデレーター:福井 崇人氏
パネリスト:山際 智氏、勝井 裕美氏、赤堀 久美子氏
福井氏:今回のパネルディスカッションでは、様々な質問をしていきながらパネリストの皆様の事例を掘り下げ、そこからメソッ
ドを導き出すことを目的とする。山際氏、勝井氏にはすでに事例を発表していただいたため、まず赤堀氏にリコーの取組みに
ついてご発表いただく。
赤堀氏:まず、リコーが SCJ と協働で行っているインドでの教育のサービス事業について簡単に説明する。ここ 5 年ほどで「価
値創造 CSR」という言葉を使い、ただ寄付をするのではなく自社のリソースを活かし、社会課題の解決と自社の成長を両立さ
せるプロジェクトを展開している。成長といっても、単に利益だけではなく新たな市場・顧客の開拓、マーケティング手法の獲得、
製品のイノベーションを目指している。
インドでは子どもの人数(約 4 億人=日本人口の 3 倍以上)に対してインフラが不足し、就学していない子どもが約 9%いる。ま
た中退する割合も高い。そこで教育全体の質、施設、設備について改善する必要がある。インド政府も 2015 年までに就学率
100%を目指しているが、末端まで政策が反映されていない。現場の改善は NGO が担っているという状況である。
リコーとセーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)は 2009 年から情報交換やダイアログでの交流、2011 年には「社会貢献+マー
ケティング」のプロジェクト実施、さらに 2013 年からプロジェクターを活用したビジネスモデルを構築するプロジェクトを行ってい
る。リコーとしては、このプロジェクトをビジネスモデル構築のための調査事業と位置付けており、教育の質の向上とデジタルコ
ンテンツを用いた授業の質の改善を目指しつつ、ビジネス面では新しい教育のサービス事業を作ることを目指している。その
ために JICA から BOP ビジネスの準備調査支援を受けている。
この調査事業を実施するに当たり、リコーのマーティング事業部門が主幹となり現地でのビジネス側面で調査をコーディネー
トしている。私(CSR 部門)は SCJ とのコーディネートや教育の質の向上についての調査をサポートしている。現場では販売会
社がチャネル調査・ビジネスモデル化を行い、セーブ・ザ・チルドレン・インディアがインド政府と学校との調整を担当、教員など
を巻き込んで教員トレーニングのアレンジやパイロット授業を行っている。以上のように、リコーの専門性が高くない教育の分
野での政府を含めた現地ステークホルダーの巻き込みを SC と協働することで補っている。
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Q.福井氏(to 山際氏):
ヤマハ発動機がバイク工場を開設し、多くの日本人スタッフが現地に駐在した。そこで、駐在員の家族から水をきれいにしたい
という要望を吸い上げ、最終的には事業化した。その流れで、内部だけではなく外部へ広げる(ビジネス化)決断をしたタイミン
グについて聞かせてほしい。
A.山際氏:
当時、物の開発を中心にインドネシアで展開し、モニター調査等も行っていたが、2008 年になると、浄水器のコストダウンが
徐々に進み、一方、新興国での水の販売価格が徐々に上昇し、そろそろ事業化できるのではないかとの話になり、2008 年に
事業化し 2012 年には全面展開した。事業を担当した部署は社会貢献のセクションとは別の部署で、ビジネスの切り口から入り、
結果として社会貢献ににも役立った。民間企業のビジネスとして、損をすることになれば継続性が危ぶまれるので、収支につ
いてはなんとか±0になるように努力している。
Q.福井氏(to 赤堀氏):
赤堀氏は企業から NGO に所属後、また企業に入職するというキャリアを持ち、NGO と企業の両方の言葉が分かる方だが、ビ
ジネスとして事業を展開するのにインドという場所を選んだことに特別な理由はあるのか。
A. 赤堀氏
まず、印刷機の事業を行うにあたって、ビジネスと社会貢献の両方の切り口から検討した。CSR 部門としては途上国で MDGs
に関わる事業を展開したいと考えていた。また、印刷機事業部門はインドの学校(約 125 万校)という可能性のあるマーケット
に入り込みたいと考えた。結果的に事業部門の意向をもとにインドでチャレンジすることとなった。
Q.福井氏(to 勝井氏):
シャプラニールはこれまで民芸品・手工芸品を中心にクラフトリンク(フェアトレード)事業を行ってきたが、今回なぜ石鹸にたど
り着いたのか。
A. 勝井氏
まず、シャプラニール側に消耗品をやりたい(リピート率の向上させたい、消耗品を買うついでに他の商品にも関心を持っても
らいたい)という考えがあった。そのタイミングで現地から石鹸を販売したいという要望が上がってきた。両者の意向が合致した
から石鹸に行きついたのだと思う。
Q.福井氏(to 山際氏)
先ほどの講演の中で、各種機関に導入してもらうためには実績が必要で、実績作りのために草の根の展開をしたという話をし
ていたが、現地の知見・ネットワークを持つ NGO は数多くある中でワールド・ビジョンと連携したのはなぜか。また、連携をする
際に NGO と企業のやり方・進め方で何か不具合やギャップはあったか。
A. 山際氏
現地で大使館や JICA、現地政府、企業などに NGO を紹介してもらいに行くと、多くの団体を紹介してもらえる。その中で実際
に会いに行き、話をし、そのタイミングで一番よいと判断したところと連携することにしている。よって明確な基準があるわけで
はない。不具合やギャップについてはなかったと思う。ヤマハ発動機の事業に興味を持っており、積極的に連携してくれる団体
ならば、きちんと共通の目的を持ち連携することができる。
Q.福井氏(to 山際氏)
点滴灌漑事業で、連携することになった NGO も大使館から紹介してもらったのか。
A.山際氏
このケースはたまたま担当者がその NGO の現地駐在員がいる村を訪ね、話をする機会を持つことができたことがきっかけだ
った。
Q.福井氏(to 赤堀氏)
インドでの教育事業で SCJ と連携したきっかけはなんだったのか。
58
A.赤堀氏
CSR 部門としては自社のリソースを使って社会貢献がしたいという考えがあり、つながりのある NGO と連携の可能性を探って
いた。SCJ からはプロジェクトについての提案をいただく関係だった。その後、具体的なプロジェクトを考える段階で、SCJ を含
めたメンバーでワークショップを行い、その場で教員トレーニングをするというプロジェクト案が生まれた。教育分野ならば、SCJ
と連携しようということになった。その後、協働する中で SCJ が現場でのノウハウも豊富で、信頼度の高いプロジェクトを運営し
ていることが分かった。当社の事業部門が現場を訪ねたいという段階で SCJ のプロジェクト実施地を訪ね、より信頼性が高ま
った。こういったつながりの連続が、現在の連携の形へとつながっている。
Q.福井氏(to 山際氏・赤堀氏)
山際氏、赤堀氏はさまざまな候補の中から連携する NGO を決めているが、そう考えると、NGO とのネットワークがないとこのよ
うな事業展開はうまくいかないのか?
A.山際氏
手持ちのネットワークがなくてもその都度見つけていける。ヤマハ発動機は現在でもネットワークを持っているわけではない。
アフリカでも多くの国で事業を進めているが、その都度連携する NGO を探している。NGO も数多くなるので手持ちがなくても探
せば何とかなるのではないか。何から何まで自分たちで完結しようとすると、時間が掛かったり、無理が生じる事が多い。それ
ぞれの得意分野を持っている相手と連携する事でスピードアップとお互いのリスクヘッジになる。
A. 赤堀氏
どこで何をやるか(国や分野)によって連携する NGO は変わってくる。ネットワークがあれば、そこから聞き込みをする。なけ
ればその地域・分野に明るい NGO をこちらから探しに行く。ある場合、ない場合の両方のパターンが考えられる。
Q.福井氏(to 勝井氏)
「She with Shapla Neer」を立ち上げるにあたって、シャプラニールの中で個人の想いがプロジェクトを実現させた経緯がある。
その個人の想いについて聞かせていただきたい。
A.勝井氏
現地団体から石鹸の提案を受けた者が、現地を訪れる中で生産者である女性の厳しい表情や過去の人生について見聞きし、
これはぜひ事業化したいという想いが強くなったと聞いている。
Q.福井氏(to 勝井氏)
「She with Shapla Neer」の事業について伺ったとき、周りの方々を巻き込む力がすごいと感じた。その巻き込み方にルールの
ようなものはあるか。
A.勝井氏
誰のために、何をどうしたいのか、ということをはっきりと連携候補先に伝えた。また、プロジェクトチームを結成してから1か月
後には現地へ飛んでもらい、そこでどんな人たちが、どんな状況で、どんな想いで、どんなレベルで、どんなものを作っている
かを見聞きして交流してきた。それがその後の彼らのモチベーションにつながったのではないか。
Q.福井氏(to 勝井氏)
出張について、現地への渡航は人によってはハードルが高いものだと思う。その点は問題なかったのか。
A.勝井氏
デザイナーの方がシャプラニールの事務所に初めて訪れた時、彼はシャプラニールのことを知らなかった。しかし帰りにはデザ
イナー仲間にバングラデシュへ行く誘いの電話をかけてくれた。私たちがこの事業を何のためにやるものなのかを明確にお伝
えすることができたからこそ、パートナーにもわくわくしてもらえたのだと思う。太陽油脂にも、飛び込みのような形でお話をさせ
ていただいた。彼らは天然油脂の石鹸に対して誇りをもち、それを世に広めていきたいという企業理念があった。また、石鹸の
品質改善であれば得意分野であり、今回の事業に活かせると判断していただいた。
Q.福井氏(to 勝井氏)
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連携先に話を持っていく時点で、当時の担当者は事業を回す権限を与えられていたのか。
A.勝井氏
与えられていた。新しい分野の商品だったので慎重論もなかったわけではないが、石鹸については彼女を中心に回す
ことについて組織の中で了解が取られており、ほぼ行け行けの状況だった。
Q.福井氏(to 山際氏、赤堀氏)
このように行け行けの状況が山際氏、赤堀氏の場合もあったのか。
A.山際氏
担当しているメンバー以外には全く無かった。社内には新規事業に対する賛否両論があり、社内の理解を得るための仕
事量が半分を超える事もあった。
A.赤堀氏
ビジネスを目指してプロジェクトを立ち上げる話をした際、社内の抵抗もあった。最終的にリコーの資金は多くは使わず、JICA
(日本政府)の資金を使うということ、現場の販売会社社長も応援しているということを伝え、動かした。また、事業担当のリー
ダーが実際に現地に飛び、これからは新興国でのビジネス展開の際に課題解決に取り組む姿勢が必要だと実感し、自分の言
葉で語るようになったことが大きかった。
Q.福井氏(to 山際氏)
社内の説得するコツがあれば教えていただきたい。
A.山際氏
コツはないが、先ほど赤堀氏もおっしゃっていたが公的機関の援助は大きい。事業化するためには、社内のコンセンサ
スを得ることが必要で、その際に、公的機関からの各種サポートを得ているという実績があるのは効果が大きい。
Q 福井氏(to 勝井氏)
石鹸の事業を立ち上げ、回していく中で、組織の中の空気は変わったか。
A.勝井氏
自分たちが販売しているものが百貨店などに並ぶ価値のあるものだと気づき、自信を持つことができた。また、外部の方
や企業と連携することでこんなにも波及力があるということを学ぶことができた。
Q.福井氏(to 勝井氏)
NGO では NGO 内部で内製するということが一般的だと思うが、太陽油脂やデザイナーと一緒にプロジェクトをやるという
ことについて、どのように連携を進めていったのか。
A.勝井氏
熱い想いに対しては熱く返すということが大事だと思う。特にデザイン系の方々はとても想いが熱く、それに対してこちら
がひいてしまうとがっかりされてしまう。熱くボールを投げあうこと。
Q.山際氏(to 赤堀氏)
CSR サイドと事業サイドの担当者が事業をともに行おうとした際に、調整の中で主導権を巡るせめぎ合いは企業内で
ないのか。
A.赤堀氏
CSR 部門のスタンスは基本的に事業部門をいかに巻き込み、事業につながる社会課題解をやるかというもの。これまで
5~6 年かけ、新人研修やマネージャー研修、各部署へ直接赴いて提案をするなどの種まきを継続的に行い、CSR の価
値が社内で認知されるよう動いてきた。その結果、事業部門から、こんなことをやってみたい、ヘルスケアについてのヒア
リングはどこに行けばよいかなどの問い合わせがくるようになった。その際に CSR 部門と事業部が協働する形につなげ
る。そのため、リコーの場合は事業部門が主となる。
Q.赤堀氏(to 山際氏)
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リコーの事業は調査段階にあり、ゆくゆくは公立学校に製品を買ってもらいたいと考えている。その際に、世界銀行の
ファンドなど様々なスキームを活用する点をヤマハ発動機はとても上手くやられている。外部の資金を得るためのアプロ
ーチはどのように行っているのか。
A.山際氏
各種機関関係からの資金情報自体は見るべきところを見れば情報が掲載されている。それについて社内のグループで
普段から話し合っている。ただ、数を撃たなければマッチするところと出会う可能性が下がってしまうため、どれだけ多く
の人と出会い、話をする機会を得られるかが重要でもある。
Q.勝井氏(to 赤堀氏、山際氏)
先日、企業と共同事例に関する賞を「She with Shapla Neer」がいただくことができた。その賞の審査の中で、企業にとっ
てのメリットは何かをかなり問われた。太陽油脂は「She with Shapla Neer」の中では金銭の利益はなかった。企業のビジ
ネスが成立しなければ NGO との連携も含めて事業化はできないのか。
A.赤堀氏
CSR の立場からお話すると、社会課題解決は様々なものがあり、企業の事業はそのひとつであると考えている。多様な
やり方があっていい。ただ、新しい連携をしようとすると、資金を含めた会社のリソースを用いることになるので、会社に
対して何かしらのインパクトが必要。これをやりたいので寄付してくださいというような姿勢では、連携することは難しい。
事業との関連で、例えばマーケティング調査など、今後につながるお話ならいくらでもウェルカムだ。
A.山際氏
会社の社会貢献としては、時期によってやることが違うのでそれにぴったり合えば連携できる。事業部門の事業として
一緒にやれるかどうかは各部門がそれぞれの状況(目的や時期)で判断するので、その方向にマッチするものであれば
連携することは可能だ。タイミングが合う、合わないということはあるかもしれないが、社会貢献であれ、事業であれ、お
互いその方向性や目的が共有できれば十分連携する事は可能だ。
Q.会場からの質問(to 山際氏)
企業から話を頂くと NGO としては儲けの手段にされることを恐れる。そのような点から連携が難しいと感じる点はなか
ったか。
(to 勝井氏)
NGO 側から企業側へ連携の話を持っていく際、難しい点はなかったか。
A.山際氏
企業にも連携したいところ、したくないところがあるように NGO といっても多種多様。その点は、会って話をしてみないと
分からない。会って話をしてきた印象としては民間企業との連携は断るというところは少ないと感じた。
A.勝井氏
たしか、Web 等でのリサーチ段階では数社の候補があがっていた。そのなかの1社目として話をして、マッチしたのが太
陽油脂だった。
Q.会場からの質問(to 山際氏・赤堀氏)
事業を進めていく中で、上手くいかなかった事例や、挫折や困難があれば聞かせてほしい。
A.山際氏
困った、行き詰った話は山ほどある。例えば物を送ったはいいが受け取りができないなど、問題は山ほど起きてくるが、
はじめから全てはうまくいかないという姿勢でいると。さほど驚かなくなる。特に困ったというものは、行政がかかわる問
題だった。輸出入に関するノウハウやその国に支所をもっていても、国によって問題が様々に起こってくる。ただ、それな
りの時間と手間をかければなんとかなっていく。
A.赤堀氏
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今回のシンポジウムで紹介した事例も困難はたくさんあった。例えば事業部門の急な戦略転換で積極性がなくなったこ
とや、想いを持った担当者が変わり事業が進まなくなることもあった。また、現地政府からの許可が降りなかったことで、
スケジュール通りに進まず、事業部門や NGO とのやりとりがギクシャクしたこともある。しかし、はじめから全てうまくいく
プロジャクトはないと考え、事業地の状況を良くしたいという想いで事業を進めている。
Q.会場からの質問(to 赤堀氏・山際氏)
今日紹介された事例についての 10 年後 20 年後のビジョン・持続性について聞かせていただきたい。
A.赤堀氏
教育分野では IT 化がみられる。先生が 1 人、子どもが多数という授業のスタイルが変わるかもしれない。その中で今ま
ではできなかった教育の質の改善をリコーの IT リソースを活かして取り組んでいきたい。それができれば、さまざまなス
テークホルダーを巻き込み、教育の質を改善するシステムを作るという大上段に近づくことができる。現行のプロジェクト
を進めながら、その道筋を見つけたい。
A.山際氏
浄水装置の事業は特別大きな規模にしていく予定はない。会社全体としてみると、ヤマハ発動機の商品は高級なものか
ら必需品まで幅広く、農村などでも多く使われるため認知度は高い。そこでヤマハ商品やヤマハブランドを認知した若い
世代が、将来に向かって継続的なヤマハブランドのユーザーになっていってくれれば良いと考える。この点を含めて持続
させていければよいと考えている。
Q.会場からの質問(to 山際氏・赤堀氏・勝井氏)
NGO から話を聞くあたり、ファーストコンタクトで聞くべきこと・伝えるべきことなど、ポイントはあるか。
A.山際氏
手間とお金をどこまでかけてもよいかを確認すること。事業を進めていく中で、うまくいかないことが起こることがあるので、
その際にどこまでやれるかを互いに知っておく必要がある。
A.赤堀氏
自分たちが何をどういう想いでやりたいのかとはっきり伝えることと、相手が企業に対してとっているスタンスを知ること。
そして、企業が NGO を儲けるために使いたいのではなく、なにかしらのインパクトを社会に与えるために連携したいとい
うことを理解してもらえるかどうかを大事にしている。
A.勝井氏
企業や事業の理念や長期的な成果として何を求めているのかというところに共感できるかどうかが気になるところ。また、
考えている事業にある程度の柔軟性があることも気になる。年次計画のようなものがかっちりしすぎていると、現地の状
況を知っている側としてはうまくいかないと思ってしまう。
Q.福井氏(to 勝井氏・山際氏・赤堀氏)
今回話を伺い、守りではなく攻めの姿勢だと感じた。最後に、まとめとして企業と NGO の連携について一言アドバイスや
コツをお願いしたい。
A.勝井氏
各ステークホルダーが同じ目標を掲げ、それに対してそれぞれの持っているものを持ち寄りつつ、ぶれずに進んでいくこ
とが重要。
A.山際氏
私どもも知らない企業や NGO はたくさんあるので、お互い情報交換をし、ご一緒できるところはご一緒したい。門戸は開
いているので、皆様との会話の中で連携していきたい。
A.赤堀氏
まず、自分で足を運びいろいろな人とコミュニケーションをとることが第一歩。そこから社内外の人を巻き込むために共通
62
の目標を掲げ、地道な話し合いを続けて連携を進めていくことが成功のカギだと思う。我々も日々ブラッシュアップしなが
ら進めていきたい。
Ⅴ.閉会挨拶
富野 岳士((特活)国際協力 NGO センター(JANIC) 事務局次長/連携ネット事務局)
連携ネットのシンポジウムは今年で 8 回目を迎えた。これまでは NGO と企業がどうすればうまく連携できるかという点を
中心に内容を組み立ててきた。今年は、企業と NGO の連携はもちろん、それに加えて、多くのステークホルダーを巻き
込んでいる事例をお持ちの皆さんに登壇していただいた。ステークホルダーを巻き込むためにはコミュニケーションが必
要だということで、電通にも企画段階から参加してもらい、本シンポジウムを開催することができた。連携ネットは NGO と
企業が主体ではあるが、今後も多くのステークホルダーを巻き込んで発展していきたいと考えている。連携する、巻き込
むといっても、最初はいかに出会うかが重要になる。出会いの場を積極的に求め、汗をかき、時には痛い目に合いなが
らも、対話を続けていくことが重要なのではないか。このシンポジウム自体も多くの NGO、企業、多様なステークホルダ
ーに参加いただき、出会いの第一歩ではないかと考える。本日のシンポジウムでの学びと出会いをぜひ連携の第一歩と
していただければ幸いだ。
以上
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