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Team H 勉強会資料 ~国際関係論 第二版( 1989)~

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Team H 勉強会資料 ~国際関係論 第二版( 1989)~
Team H 勉強会 2008/7/31
国際関係論 第二版
Team H 勉強会資料
~国際関係論
第二版(1989)~
稲木聡啓
目次
序論
第一章 国際関係論の展開
第一節 研究対象
第二節 国際社会の展開 -その1-
第三節 国際社会の展開 -その2-
第四節 本書の観点と方法
第二章 国際関係の主体
第一節 主体 -その1―
第二節 主体 -その2-
第三節 目標
第四節 国力(national power)
第五節 対外政策の形成
第六節 統合と分化
第三章 協力と対立 -国際関係のミクロ分析,その1-
第一節 協力と対立の複合(complex)
第二節 外交
第三節 外交官
第四節 交渉以外の手段
第五節 軍備管理
第六節 信頼と不信
第七節 国際法
第八節 国際道義と国際平和
第四章 偏見と文化 -国際関係のミクロ分析,その2-
第一節 国民としての統合
第二節 ナショナリズム
第三節 偏見
第四節 文化摩擦
第五節 文化交流
第五章 国際組織 -国際関係のマクロ分析,その1-
第一節 国際組織の発展
第二節 国際連合(United Nations)
第三節 平和維持機能
第四節 地域的機構
第五節 民間国際組織
第六章 国際体系 -国際関係のマクロ分析,その2-
第一節 システムとしての国際社会
第二節 カプランの国際体系論
第三節 ローズクランスの国際体系論
第四節 社会システム論的接近
第五節 レーニンの帝国主義論
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Team H 勉強会 2008/7/31
国際関係論 第二版
第七章 戦後国際社会の流れ
第一節 東西冷戦
第二節 アジアの動乱
第三節 東西平和共存
第八章 この世界を見よ
第一節 人口問題
第二節 食料問題
第三節 資源・エネルギー問題
第四節 環境問題
第五節 南北問題の展望
第六節 新しい価値と理念
・・・と,とても目次は多いですが細かく分かれているだけです.
全体としては,国際関係論の概観を網羅的に解説する方向性です.
まず,その研究手法や対象領域について概説し,その後国際社会における各主体について概念を説明し
ます.それらの概念を踏まえた後にミクロ的な相互関係(1 国内もしくは 2 国間の一部での関係)につい
て逐一論じます.次のマクロ的な分析では,国際社会全体にまたがる相互関係(国連その他国際組織な
ど)に加え,それらをまとめて分析するシステム論を扱います.
最後に,これらを踏まえて今までの歴史を概観し,現在の問題について触れることになります.
序論
国際関係論とは?
→未だ一つのディシプリン(個別科学)としてパラダイムは確立していない
横断的(インターディシプリナー)に研究を深化していくべきか
一つのディシプリンを成就させるべきか
・・・つまりは著者の独り言.
国際関係論とは国家の次元を超えた(この言い方にもなかなか深いものがあります)世界全体の問
題や民衆レベルの現象のすべてを対象とするべき,であるからして分野の複合や固有の手法の確立
というものが求められていくという考えともいえます.
1. 国際関係論の展開
概略
国際社会の特徴とその発展(戦争行為を通したホッブス的理解?)
これまでのアプローチの手法,現実主義と理想主義
本書の手法,方針
→ディシプリンの予測 システム論と“科学的”アプローチ 還元―綜合
マクロ―ミクロ
国際社会とはなにか?
○国際社会の6つの特徴 (国内社会との比較)
・共通の道徳的判断を反映する法律の不在
・このような法律の制定,変更を行う政治機構の不在
・このような法律の執行機関の不在
・このような法律の下に紛争を解決する司法機関の不在
・下位集団(国内社会だと個人など)の暴力行使を抑制する公権力の不在
・不条理な行動をとらないという暗黙の了解(秩序状態)の不在
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国際関係論 第二版
権力的に無政府的(ホッブスの自然状態との比較)
○疎なるシステムから密なるシステムへ
社会による拘束(闘争の抑制)と集団生活の利益のトレードオフ
→ルール化の広がり
密なる組織の具体的要因とは?
・科学技術の発達と知識集積
・移動の増大
・国際社会の組織化と労働者や民間の組織の拡大
・核兵器による相互抑止力
だが,この傾向とは反対に実際には紛争は増大している
・ナショナリズムの高揚
・地域紛争の促進
・人口爆発
国際システムの特徴の概観
○階層システム
漢族による朝貢関係
→中央を正統とした階層による国際関係の歴史
○西欧的国家システム
ウェストファリア条約(1648)
//三十年戦争の講和条約で,条約締結国は相互の領土尊重と内政への干渉を控えることを約した
//つまり,この主体同士は“対等な”
“主権”を持つ存在になった
//教皇・皇帝(カトリック)という超国家的,普遍的な主体によるヨーロッパ統一が断念された
グロティウス,ヴァッテルなどの国際公法
→17C~18C において,特異な国際関係が成立
・法体系:主権,国家間の対等を原則とする精密な国際法理論
・権力闘争:国家同士の勢力均衡
・資本制生産:レッセフェールを基にした工業化
(国際秩序への)アプローチの手法,立場
○理想主義
平和概念の追求
規範的な価値体系
○現実主義
現状分析
勢力均衡・権力政治
○実際の国際法や国際組織の推移
グロティウス「戦争と平和の法」
・ 諸国家が法の抑制下
・ 秩序と正義を求める人間性に発する自然法
・ 国家の意思と合意に基づく国家間の法
→正義の戦争と不正義の戦争は区別しうる
ヴァッテル「国際法」
・ 諸国家の独立と平等を基本概念
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国際関係論 第二版
・ 行動原理は勢力均衡
→国際公法による秩序の確立を目指す
これに対して,国際制度の設立に基づく秩序化
世界評議会,世界法廷,国際陸海軍などの構想
(ヨーロッパを一つの国際社会としてまとめる思想)
→実際には国際関係の現実(権力闘争)を反映する形でしか実現不可能
マキャベリズムなどの権力闘争を主眼に置いた考え方
勢力均衡(パワーバランス)→パワーの概念はあいまい
階級闘争理論(マルクス・レーニン主義)
→人間社会の発展を生産関係と生産力の矛盾から生ずるものとし,すべての社会現象(国際関係を
含む)をその矛盾としての階級闘争の表れとして全体的に解釈
生態系システム
トマス・ロバート・マルサス:食料と人口についての研究
→ドメラ・メドウス「成長の限界」などにつながる
本書の視点と方法
国際関係の多面的な理解には,複数のディシプリン(個別科学)からの分析の総合が必要
→これらのディシプリンの統合への趨勢を予想し,期待される理論体系を示す
○システム論的方法
1)システム論の哲学(世界観)
世界は主体と対象に二分
主体は世界に対して働きかけ,対象を概念化してそれを検証することによって理解をする
→“認識”とは主体と対象の関係性による産物
2)方法論
研究対象は一個の全体
この全体の性質はその要素に還元不可能(全体は個々の和以上) cf.創発性
Ex)身体の防衛機能とは,一つ一つの白血球の性質や働きの和とは違った概念
マルチエージェントなモデルによるシミュレーションなど?
○“科学的”アプローチ マクロとミクロ
1)マクロ的手法
対象が一個の全体としてもつさまざまな性質を概念化し,それらの性質がいかに定まるかを全
体の持つ諸性質から導く
2)ミクロ的手法
まず構成主体の性質を説明し,それを組み合わせて構成していく
*だが,構成的に作られた上位概念の持つ性質すべてが,下位概念の持つ性質などから演繹
的に導かれるという保証はない→数学で言うと不完全性定理?
→直感的に時間的変化や自己組織化についてはこれらアプローチが有効ではない
//このような問題についてのアプローチを取り入れる試みは面白い・・・?
本書では,国際関係論についてのミクロ的かつ構成論的説明を取り入れるが,基本的には観点別
の分析(レベルを異にする分析)についてそれぞれ叙述する
一個の主体(国家)レベル ― 国家間の相互作用 ― 国際体系の諸性質
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国際関係論 第二版
2. 国際関係の主体
概略
国際社会における主体について,その条件と現在の状況,概念の定義
主体→国益概念,パワーの概念について
主体の相互作用:対外政策や統合と分化について
国際社会における主体とは何か?
Ⅰ.その存在が明確に識別できること
Ⅱ.国際的な舞台で決定し,行動する一定の自由を持っていること
Ⅲ.他の行動主体と相互作用をし,その行動に影響を与えうること
Ⅳ.一定の期間にわたって存続すること
→今日では,国民国家
(ウェストファリア条約後:宗教的権威から世俗的国家の絶対主権へ→第二次世界大戦後に変容)
* 国際システムの密なるシステムへの変化(条約網や国際世論,国民国家の増大と新たな主体)
○国民概念(nation)
① 同郷人の集合 cf.民族概念
② 政治的集合
「一つの共通の法の下に生き,同一の立法府を代議機関として持つ人々の集合体」(シェイス)
③ 領域的集合
被支配者の集合も含む 植民地の住民など
外交用語,国際法におけるネーション=主権国家の人民の総体
○国家概念(state)
Ⅰ.自己の領域内の統治について他の権威からなんらの制約を受けない
Ⅱ.対外的行動において拘束されない
→主権概念へと発展
②の意味での国民概念と国家主権概念の結合=主権者としての国民,国民国家概念(狭義?)
ただし,現代では国家は③の意味のみで成立:国際連盟,国際連合は政体を問わない
相互作用は,一定の条件下では現実社会と近い(初期の西欧国際社会)
E・H・カーのナショナリズム衰退論
→実際にはナショナリズムは世界を席巻
○民族自決のイデオロギー
ひとまとまりの集団として自覚→自己の意思で政府を樹立→国民があり国家が成立
1)地球政府の可能性
2)細分化した新しい国民の誕生
→対立する二方向への変化
民族概念のあいまいさ→国民国家の多様性
Ex)アメリカ ソ連
だが,近現代では国家概念を簡潔に捉えられない(自己完結でも不可侵でもない)cf.文明史観
→国家主権の制約へ(同時に手段と能力,主体の多様化を意味する)
○国家以外の主体
1)国際機構(international organizations)
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国際関係論 第二版
2)超国家的機構 (supra-national organizations)
3)同盟および地域ブロック (alliances and regional blocs)
4)脱国家的組織および運動 (trans-national organizations and movements)
5)国家内部の集団 (sub-national groups)
6)個人
1),2)の区別は明確ではないがEUや国連が考えられる
3)は制度化の程度が低く時限的性格を持つ NATOなどが該当
4)はカトリック教会や国際赤十字など
5)はマスメディアなど独自の立場で他国政府または民間組織と相互作用しうるもの
これらの台頭は今日の国際システムを複雑化した→p46 の図
主体の意思決定と国益概念
モーゲンソー:「現実の条件から生まれる国家的利益」を指針とすべき
だが,国益概念は単一的に成立しにくい
・ 政策決定権,不確定要素,問題領域の制約
→実際には現実的でないといわざるを得ない
政策決定者が国家ないし国民の利益と考えることがすなわち国益
→絶対的判断の放棄
政治過程の産物であるこの「国益」は,別個に分析の対象となりうる
現代においては,政策決定者は明らかに国境の内外からさまざまな影響を受けており,その国内的
欲求の満足を最優先させることが常に懸命であるとは限らない cf.「新しい中世」
,主体の増加
○国益の分類
複数性
1)個人の生活向上
2)個人の安全保障
3)文化価値の創設および維持(≒イデオロギー的価値)
時間性
1)究極目標
Ex)共産圏の世界革命
2)中期目標
Ex)攘夷と開国論争 安保闘争
3)短期目標
○核心的価値の存在
核心的価値:その実現にほとんどの国民が進んで究極的な犠牲を払うような目的
→先験的価値≒イデオロギーの存在:理性的でない価値の存在もありうる
Ex)ソ連のワルシャワ条約による東ヨーロッパ防衛(鉄のカーテン?)
国際関係におけるパワーの概念
○目的達成のための手段としてのパワー(国力)
主体の行動の実績(目的達成度)ではなく,利用できる手段によって評価(潜勢力)
→多様な政治的価値を測定し,表現するための一元的な尺度を考察することは困難
a) その主体の利用しうる資源
b) それらの資源を行動に結び付けようとする動機と意欲
c) 実際にその資源を利用して効果的な行動に移すことのできる技能
cf.野球選手の実績による評価 vs.筋力や打法,投法による評価
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国力の要素割合とその変化
軍事力の急速な変化の可能性
工業力や資源力,外交能力による国力
「パワーがその本質において不可分であること」(E・H・カー)
→関係性の重要さ 多様な国力要素が複雑に複合
○(2 国間の)情況におけるパワーの作用の違い
1)プラスの価値の供与 (reward)
2)マイナスの価値の供与 (punishment)
3)プラスの価値の供与の予告またはマイナスの価値の供与停止の予告 (promise)
4)マイナスの価値供与の予告またはプラスの価値供与停止の予告 (threat)
→これらは手段ではなく情況によって決定される
→効果や効率の変化,手段の多様化は国際関係の変容の一つの現われとして捉えられる
対外政策の形成
対外政策:国家が自己の対外的目標(国益に含まれる)を国力(パワー)を用いて追求していく過程
○対外政策決定要因への伝統的アプローチ
伝統的アプローチ
・ 対外政策は主として国外的要因によって決定されうる
→最善の政策がありうる
・ 国内要因は攪乱的要因であり副次的
→政策を誤らせるものとして認識
大まかな特徴として,変化しにくい持続的な対外要因は存在し,これは常数と見ることができる
Ex)日本の海外資源への依存 英国の対ヨーロッパの地政学的理解?
前提
1)対外目標が明確に知りうる
2)目標達成のための最適方法を知りうる
3)国家の対外政策決定に関与する人々の間で,重要な相違がない
≒経済学の合理的経済人の仮定
→グレアム・アリソン「合理的行為者モデル」
(決定の本質)
伝統的アプローチの限界
内政的制約の強さ
国内意思決定過程の多様さ
→グレアム・アリソン「組織過程モデル」「官僚政治モデル」(決定の本質)
○組織過程モデルと官僚政治モデル
組織過程モデル
・政府はそれぞれ半ば自律的な行動様式をもった幾つもの大規模な組織の緩やかな複合体
・ルーティン化された活動によって大部分のアウトプットは確定
・現実とプログラムのギャップは小刻みに修正される
・政治的指導者のイニシアチブが重要になるときがある
-大規模なプログラムの修正
-責任と仕事の総合,調整
官僚政治モデル
・政策決定者をそれぞれ機関として,その取引能力に応じた政治活動の結果として政策を解釈
・各アクターの複雑なゲームとして見る
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○国内政治モデル
前述のモデルの分析の発展として(?),政策形成システムの政治的ゲームを構造化して捉え,国
内政治の諸変数から対外政策を説明しようとするモデル
Ex)日本のパワー・エリート・モデル,与党・官僚・財界の三位一体モデル,派閥政治モデル
現状では,個々のケースに対する分析にとどまる
いずれも,政策決定者のイメージを介して対外政策が形成されるという様式
統合と分化について
ミクロ的な相互作用として,その主体の統合や分化についても分析が必要
○統合の定義:自律的な社会的単位の相互関係が変化し,その結果元の諸単位がその自立性を失っ
てより大きな社会単位の一部になる過程,ならびにその結果
○統合への批判的見解(スタンレー・ホフマン)
国際システムの
・史上はじめてすべての諸国家が真の意味で単一のシステムに繰り入れられるにいたった
→サブシステムにしか過ぎない地域的結合は,世界全体の問題に直面したとき極度の制約を受
ける
・軍事力の行使が実際上大きく制約されている
→民族自決のイデオロギーが受容されている限り,武力は分化の方向に正当化される
という性質によって,(これ以上の主体の)統合は妨げられる
○統合の理論
発生的には理想主義的な動機―国家間の権力闘争こそが戦争の根本原因―から
→今日ではひとつの客観的社会ないし政治現象として取り扱われる
1)連邦主義的アプローチ
権力に着目した考え方―権力配分の変更というとらえ方―
新しい中央権力の創出とそのための憲法的諸機構の構築として統合を考える
既存の政治諸単位が新しい政治的統一体について肯定的もしくは受容的であることが前提
→限界
2)多元主義的アプローチ
地域内の社会的コミュニケーションまたはトランザクションに着目
閾の内部での統一に肯定的態度の発生を主張
→既存の国家間における「安全共同体」状態が予想される
・複合安全共同体:政治的独立を保持したままこのような共同体を作る
Ex)カナダとアメリカ
・合同安全共同:政治的独立を各主体が解消して新しい権力中枢を樹立
これは国民国家の形成には例を見られるが,国民国家同士では事例がない
→合同にいかにしていたるかについては限界がある
3)機能主義的アプローチ,新機能主義アプローチ
政治色の比較的薄い機能分野(経済など)において統合がまず実現
スピルオーヴァー(波及効果)を通して政治的統合につながる
→スピルオーヴァーの発生状況については確定的ではない
○主体の多様化
p87 の図
脱国家的主体の成立と発展が,国民国家の変容・分化とともに進んでいる
Ex)多国籍企業
交戦団体としての国際主体
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3. 協力と対立 -国際関係のミクロ分析,その1-
概要
主体間の interaction の分類を行う
対立(協力を含む)状態へのアプローチ,理解の仕方として軍備,国際法,国際同義について考察
軍備における不信の体系や,冷戦時代の均衡についてゲーム理論的考察なども行う
協力・対立・関係性
協力と対立は純粋に成立するものではなく,関係性とはその複合によってあらわされるものである
○協力概念の種別(ハロルド・ニコルソン)
・通商的協力
→交渉や妥協によってある利益が得られ,相手との十分な諒解に達する過程
・武人的協力
→交渉や妥協は相手との闘争の一局面にしか過ぎない
前者の意味での協力が国際関係を考える上で重要と考えられる
○複合
p92 図
外交とはなにか?
前述の国家相互間の対立や協力関係を調整し,処理すること
○外交使節とその権限
特命全権大使―特命全権公使―(弁理公使)―代理公使
・不可侵権
→治外法権の特権
→他人についての庇護権
○領事とその権限
領事の職務は経済,商業,社会情勢についてのものが主になる
紛争の調停人としての権限がある
○現代の外交官
交渉や語学のようなジェネラリストとしての基本的技能に加え,地域の専門家としての面も必要
となる
→国際関係の複雑化に伴い,外務省は外交事務処理機関ではなく外交政策の策定能力も必要
ハロルド・ニコルソンによる外交官の資質
・・・いわゆる著者の若者へのメッセージ
対立状態へのアプローチ
武人的外交と商人的外交という解決への姿勢
→単なる分類
○手段の分類
・外交交渉
・宣伝,煽動,示威
・情報収集
・経済的制裁
・脅迫と軍事力の行使
どれも手段であり,目的に応じて意味合い(友好的,敵対的)が違いうる
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特に軍事においては,さまざまな分析が可能
○軍備拡張に関する考察
不信のシステム→軍備拡張競争 cf.予言の自己実現
平時においても軍事力の存在自体が外交交渉を補強するという考え方
→要するに,各国が軍備を拡張するのは国際社会が無政府状態であるから(よりよい利益のため)
ルイス・F・リチャードソンの数学モデル
相対する二国の軍備の大きさを,連立微分方程式で記述
→軍備拡張が悪循環するメカニズム
○軍備の歴史
1899 年:ハーグ平和会議
毒ガス禁止,ダムダム弾使用禁止
1907 年:ハーグ平和会議
軍縮への意欲がなく成果なし
1922 年:ワシントン条約
航空母艦および主力艦の比率制限
→のちに条約は破棄される
いずれも軍拡競争の軍事費負担の増加が要因とわかる(理想主義的軍縮ではない)
第二次世界大戦後は核軍拡が起こる
恐怖の均衡による相互けん制から ABM(弾道弾迎撃ミサイル)などによる核戦略へ
→相互確証破壊(MAD)をめぐる議論
→軍備管理の考え方
武力の削減を直接の目的とはせず,その製造,保有および使用をコントロール
ただし,ここでも軍事費の増大が大きな要因と考えられる
○ゲーム理論的考察
軍縮や軍備管理は消極的な協力(マイナスの結果を避ける協力)
積極的協力,信頼関係(ゲーム論で言う,ともにプラスになる状態?)
→共通利益の創立が必要
「段階的交互的緊張緩和措置」:コミュニケーションの成立と相互信頼の樹立のため
→要は段階的に友好な協力を実現していくということ
国際法に見る協力と対立
国際法とは何か?
・国家や国際団体を対象とする法体系
・慣習法と条約などから成る
○国際法と国内法
1)国内法上位説
国内で正規の手続きを踏んだものが国際法として認められる
→現在ではこの立場の学者はいない
2)国際法上位説
ハルス・ケルゼン:国際法によって各国の領土が定められ,そこで国内法が妥当する上下関係
3)分立説
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多数説
別個の法体系である
→実際には,アメリカ憲法やなど多くの国が国際法規を自動的に国内法の一部としている
抵触の際には,一般的には重要度によって対応が変わる
→国家的危機であれば,国内法が優先される傾向にある
イギリスでは,法律―国際法―王令の順
アメリカでは,後に公表されたものが優先
○近代国際法の特徴
ウェストファリア条約による発生過程に影響され,以下の特徴をもつ
1)各国の国内体制を問わない
2)各国の主権は絶対
→すべての国は国際法の前に平等
3)神の権威を(一定度?)認めている
→あくまでヨーロッパのキリスト教文明諸国間の法として成立したもの
→秩序の維持と国際法の効力はキリスト教文化に根ざす共通性やキリスト教そのものが支えたと
考えることが出来る
○国際法の変容
1)キリスト教文化圏→非キリスト教文化圏を含む国際社会へ
2)国家は平等→産業革命後に国力に重大な不均等
という国際社会の変容は大きく国際法に影響を与えた
1)により,諸国家の法となる
→「文明」の基準へ
2)は,国家平等という理想主義的原理から現実主義的な原理に
→非ヨーロッパ諸国は国力の増大に
Ex)日本の例を考えるとわかりやすい
第二次世界大戦以後:国際法上各国は対等と考えられる
→平等主権国家説の復権
→国連での安保理常任理事国のように,国力を反映しているのでは?
→総会では主権平等の原理を貫徹 (現実主義と理想主義の折衷?)
国際法の効力は,実質的には武力を前提とした法効力だが,現在では主権国家間の利害調整が違っ
た形で実現され始めている(国際団体など)ことにより,新たな段階を迎えているともいえる
また,国際団体は同時に国際法の主体となっているとも考えられる
国際道義の存在と理論
現代において,国際道義や国際世論というものが政府の行動を制約しているように見える
Ex)ヴェトナム戦争での水爆の不使用および最終的な撤退
これらの“法ではないルール”とはどのように分析されるか
○道義に対する批判「力としての道義」
モーゲンソー
・現実主義的立場
・道徳的主張は普遍性を装っていても特定の国家の国益と無関係ではない
・国際道徳や国際世論は単なるイデオロギー
・個人の基本的存在は結局主権国家によって守られるのだから,道徳は国家によって生まれる
E・H・カー
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・力は不可分だが理論的に 3 つに分けられる
軍事的な力
経済的な力
意見を支配する力 → これが国際道義と言える
・根底には国際的に共通の理念が存在
→力としての道義(意見を支配する力)が有効足りうるのもこうした国際道義が存在するから
→普遍的な道義を認める立場といえる
○平和実現手段の変容
1)力の均衡による平和
2)紛争の平和的解決による平和
3)国際法を通じての平和
4)世界政府の実現による平和
18C~19C には力の均衡による平和が訪れたかにみえたが,これは一時的な休戦状態であり,危な
い綱渡り的状態にすぎないと言える
平和的解決は,紛争を制度化されたルールの中に「カプセル化」して,交渉に移行させるもの
→対症療法に過ぎない
これら 1,2 は現実主義の立場に立つ
3,4 の理想主義的な立場は限界が多く,常に現実的な路線への変更を余儀なくされてきた
漸進的な方法論を考えることができる
5)地域統合の積み重ねによる手法
6)機能的な連帯の深化による機能主義(functionalism)
7)国際的なコミュニケーション,文化交流によって相互理解を増進
5 は,地域的な統合を推進し,それを更に統合して究極的には世界政府につなげる発想
→地域的な統合が,ブロック化を推進する恐れもある
6 は,前述したように波及効果(スピルオーヴァー)が定かではない
7 も限界を感じることが多い
“積極的な平和”の導入
→南北問題のような「構造的暴力」に対して非暴力な方法をもって闘争していく過程
8)第三世界の開発による方法
9)平和教育による方法
平等の追求が平和の追求と不可分であるという思想
→実現可能性については・・・?
9 は,個人個人の意識の中に平和という理念を植えて,それによって政府を規制する思想
→道徳的な個人が非道徳な国家に守られるというパラドックスに挑戦している
4. 偏見と文化 -国際関係のミクロ分析,その2-
概要
現在の国家を形作るものとして国民,民族概念について説明
ナショナリズムと国民国家の形成について
主体間での偏見と文化交流についての考察を紹介
国民,民族の概念と性質
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定義
ジョン・スチュアート・ミル
→共通の親近感が存在し,彼らだけの同一の政府の下にありたいとの悲願を生む人類の一グループ
をネーションと呼び,その国民感情は人種血統の同一性,言語や宗教の共通性,そして最も強く
は共通の政治的経験つまり共通の歴史によって形作られる
スターリン
→民族とは,言語・地域・経済生活,および文化の共通性のうちに現れる心理状態の共通性を基礎
として歴史的に生じた所の,歴史的に構成された,人々の堅固な共同体である
//岡田の本には“民族”ではなく nation の定義であると書かれていた ナショナリズムから民族主義が
うまれ,そこから民族が生まれたという考え方
//どのみち定義で言うとほとんど区別はない(岡田の解釈ではそもそも民族という言葉は日本にしかな
い) その政治性に若干の違いがあるのみ?
//というか nation の①と②の定義の違いと考えていいのでは?(①を民族と呼び,②を国民と呼ぶ慣例
があるとして)
○国民形成の要因について
社会集団は
1)構成員がある程度共通の関心対象をもつ
2)ある程度安定的,持続的な対面的相互作用を行っている
3)構成員の間には一定の役割文化に基づく組織性がある
4)構成員がある共通した類似の集団活動に参加している
5)構成員に対してその集団特有の規範が課せられて統制されている
6)構成員の間に一定の共通の集団に対する帰属意識が存在する
という特徴をもつ
これに対し国民は
・1-4 について平常時は弱い
・5,6 については顕著であると言える(現在に限って言えば)
→これは,主観的な要素が強いといえる
→国民は帰属意識「同一の国民であるとの意識」が不可欠な要素であるとみなすことが多い
だが,これは漠然としているのでより客観的な条件が必要となるはず
→もう一歩進んで客観的な要素を上げても,羅列主義に陥るうえ例外が多い
→客観的条件は決定要因ではなく,主観的条件のためのただの条件といえるのではないか
コミュニケーション理論,国民形成研究:客観的条件が主観的要素を作り出す過程を調べる
・コミュニケーションの実現可能性→文化の共通性
・文化の共通性:情報に与えられる意味が共通である文化圏の存在
・文化圏とはすなわち生活圏に起源をもつ
同一国家内のエスニックグループという問題
Ex)バングラデシュのパキスタンからの分離独立(1971 年)
ナショナリズムの定義と発展
ナショナリズムの定義
一つの生活圏=文化圏=コミュニケーション網としてのネーションの統一,独立,発展を希求する
意識の状態,思想及び運動と定義できる
→自己を国民国家と同一化する心理的状態につながる
19C にはナショナリズムは国際関係の進歩をもたらすものとして全面的肯定を受けた
20C 以降,新興独立国のナショナリズムによる独立が賞賛される一方,大戦を招いたナショナリズ
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ムを批判し,インターナショナリズムへの転換が叫ばれることもある
○歴史的展開
西欧におけるナショナリズム
・ローマ帝国(中世ヨーロッパの普遍性)から分化という形で地方的な特殊性,異質性を強調す
るという方向性で発生し,産業革命などによって発展した
→地域的な線引きはウェストファリア後に為されており,これに加えてナショナルな感情が発
生し発展していったという意味
・18C の西ヨーロッパで形成された市民的自由の観念と合理的コスモポリタニズム(世界主義)
の態度とがある程度結びついたものにもなった
非西欧におけるナショナリズム
・少数の知識人がヨーロッパの侵入に対する対抗として必要としたため,西欧型ナショナリズムに
対する模倣と反撥が複雑に屈折して存在することになった
Ex)自国の文化的要素の極端な賛美
・狭い地方的な生活圏からの統合の方向で発生し,外的な独立と統一を目指した
○国際的行動様式によるナショナリズムの分類
1)幼児性ナショナリズム
・外部からの侵入に非合理的に対処,排除を行う
Ex)幕末の攘夷運動,セポイの反乱,義和団
2)思春期性ナショナリズム
・国民国家の形成に一応到達した段階
Ex)アンシャンレジームから「解放」されたフランス「国民」
・国家の独立,統一と国力の増大を最高の価値とし,国家に対する忠誠を国民に要求する
Cf. 避雷針としてのナショナリズム
3)壮年期性ナショナリズム
・生活圏,文化圏,コミュニケーション網がナショナルな領域で程よく統一されている
・合理性が認められる
4)老年期性ナショナリズム
・生活圏やコミュニケーション網は国外に拡散し始めている
新興国のナショナリズム
・幼年期から思春期と言える
・土着(ナショナリズムの基礎となる土着文化)と外来(発展に必要な西洋科学)の対抗関係
Ex)イスラム圏?
・植民地時代の負の影響(民族分断,国境線)
・政情不安定を招く
偏見の構造,科学,文化交流の意義
国民集団間(民間)の国際関係としての偏見,文化交流
イメージ,ステレオタイプ,偏見
○ボールディングのイメージ論
1)日常生活のイメージ
2)科学的イメージ
3)文章的イメージ
活字,映像などを通じて形成される
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1,2 は現実や実験によって修正されうるが,3 はその対象事実が遠隔にあり事実から乖離しやすい
→外国に対する偏見やステレオタイプのイメージ
ステレオタイプ:過度のカテゴリー化
偏見:態度まで含む
→偏見の悪化は「転嫁」と「投影」の心理作用が加担+選択知覚の原理+記憶選択の原理
階級的差別のための人種差別論:「人種不平等論」
帝国主義植民地時代の人種主義:進化論の影響
国家間の対立軸としての人種
○ボガーダスの社会的距離測定尺度
→社会的グループ間の心理的距離を計測
○国際政治と文化摩擦
文化摩擦の次元
1)国家間,国民集団間での文化摩擦が,他の次元(経済,政治)などで問題を紛糾させる
→国際関係のルールは,文化の類縁性や異質性の程度によって違いうる
2)それ自身一つの体系をもった実態としての個別文化相互間の接触の次元
文化人類学の文化触変(acculturation)という概念とほぼ等しい
→文化は体系化されたものであり,一つの要素の受容は全体の改編もしくはその要素の改編に
よる受容につながりうる
Cf. フォーマルな制度,インフォーマルな制度
3)個人と個人あるいは個人と集団の間の国際的接触の次元
→個人における心理的葛藤として現象化(カルチャーショック)
異質文化に対する様々な態度:p113 図表
○文化交流の方向性
第一次世界大戦後,文化交流は国家の外交政策の一部分として考えられた=文化政策
→現在では,広い意味での民間よっても担われる文化交流が必要であり,それは文化摩擦を促
進する意味合いも減少させる意味合いもある
5. 国際組織 -国際関係のマクロ分析,その1-
概要
2 国間や相互作用ではなく,全体としての国際関係に関わる構図を分析する
主な対象として,国際組織とその役割をあげる
国際組織の発展とその役割
政治的国際組織:古来より存在したが,短期的な利害関係に基づく短命なものだった
文化的または化学的な国際協力組織:長続きし,しだいに整備される傾向がある
Ex)郵便の国際協力,度量衡の国際的標準化など
第一次世界大戦前(19C 末)にパンアメリカン連合(米州同盟)が短期であるが成立したことは,ヨ
ーロッパにおける国際政治がその範囲を広げ,かつ地域的サブシステムを生んだと解釈できる
○国際連盟の成立とその限界
さまざまな起源をもつ国際組織の総合を目指した
1)政治的な機能に加えて経済社会問題を扱う非政治的機能
ハイポリティクスとロウポリティクスの結合
国際関係における紛争と協調の両契機の総合的把握
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2)大国間の協議を核としながらも,参加国の平等と参加枠の拡大を図った
常任理事会に加えて,全加盟国が平等の評決権を持つ総会
3)メンバーシップの普遍性
加盟国は地域に限定されない
地域的取り決め(地域的サブシステムの形成)を認めない方針
→グローバリズム
国家間の相互依存の程度がそれほど進んでいなかったことが限界性につながったのではないか
平和は不可分→集団安全保障(collective security)
だが,ヨーロッパ中心であり包括的要素は少なかった
日本の連盟脱退
そもそも日本は連盟参加に乗り気ではなかったと言える(上述のヨーロッパ中心主義)
満州事変後,イギリスとフランスの穏健論とアメリカ(オブザーバー)の非妥協姿勢が対立
極東において利害関係のない小国からの同情的非難
大国であるという意識と大国による指導意識
逆に,ヨーロッパの問題について,日本は直接的な利害関係を持たない常任理事国として一定
どの役割を果たしていたと言える
経済,社会,文化面での成果
・WHO の設立と業績
・国際労働機関の発展
・貿易通商に関する協議や関税緩和などの議論
→これらの協力は国際紛争の発生を根源から立つと考えられていた
→実際には,このロウポリティクスでの利害衝突が政治的紛争を激化させた
相互依存の網の目<<経済的“自立”
○国際連合の成立と機能
戦後処理案:ヤルタ会議→サンフランシスコ会議を通して国際連合が成立
国際連合の組織図 p191 図
主要機関
1)総会
定期総会,特別総会(請求による)
そもそもの成立過程より,連合国 5 大国によって戦後の平和と安全を管理する構想
→朝鮮戦争時に安保理が拒否権によって麻痺
→「平和のための結集」決議によって総会の権限が増加
2)安全保障理事会
常任:アメリカ,ソ連(現ロシア)
,イギリス,フランス,中国(国民党→共産党へ)
→冷戦状態では 5 カ国の合意は困難となった
3)経済社会理事会
4)信託統治理事会
現在では召集されていない
5)国際司法裁判所
当事者両国の同意の上で裁判が行われ,判決は拘束力を持つ
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安保理が適切な処置をもって拘束を実行できる
6)事務局
各種専門機関
ILO, UNESCO, WHO, IMF, WTO など
○国際システムの修正と多様な国際機関の成立
国家間の紛争や対立の解決:少なくとも 1950 年ごろまでは武力に訴えることが広く許容
前提条件:
1)戦争の目的が一般に比較的限定されたものであった
2)決定的な破壊能力を人類が有していなかった
これらが失われてきたとき,広く「国家の自然状態」が耐え難いと認識されてきた
Ex)殲滅戦,核兵器,相互依存の進展
→相互依存システムという自覚
→集団安全保障(collective security):
一構成員であるある国家に加えられた攻撃は,その他すべての構成員に対する攻撃でもある
だが,これは実際に基本的な利害についての一致がないと機能しないと実証(国際連盟)
国連はこのような流れの中
超国家的ではない しかし 主権国家をある程度拘束し手段を変更させる
という意味で国際社会での主体になりきれてはいないが,無力でもない
・集団防衛 (collective self-defense) 機構の発展
Ex)NATO ワルシャワ条約機構 日米安全保障条約機構
→地域的集団安全保障機構とは違う(第 51 条と第 8 章による違い)
→同盟の発展形と考えることができる(ただし拘束はより強いと考えられる)
・予防外交(preventive diplomacy)
消防的機能:国際的紛争が大規模に拡大することを防ぐ
「平和のための結集」決議は,安保理の機能不全からこの機能を回復させたと言える
Ex)スエズ危機(国連中東緊急軍) コンゴ危機 キプロス紛争
→調停者としての役割を増大させた
地域的機構の発展
普遍的国際機構との類似:持続的 主権国家の意志から独立に行動しうることができない
普遍的国際機構との区別:加盟国が限定されている
→結局,地域的機構の発展は共通の利益をもった諸国家間の新しい相互作用のパターンを反
映している,と理解したほうがよい
・地域主義について
特定の地域内に含まれるあらゆる種類の行動主体の間の相互作用が,他と識別しうる程度に明
確で固有のパターンを示している状態
統合―サブシステム
・国連における地域的機構の扱い
国連そのもの:普遍的構成
地域ごとに固有の問題を処理するために設置
→普遍的機構の地域的分割
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広義の地域的機構
共通の関心や目的において他と区別された一定数以上の諸国家から構成
1)地理的近接性が共通の関心や目的の有力な要因
2)他の理由で諸国家が結びついたもの
Ex)OECD(経済協力開発機構)
→もとは西ヨーロッパの地域的機構だったが,後に西側先進国工業諸国の協議機構に
狭義の地域的機構
前述1)の意味が強いもの:メンバーは限定的で,機能は安定的
Ⅰ.協力的機構
Ex)米州機構 現在の EU?
Ⅱ.地域的集団防衛機構
Ex)NATO
Ⅲ.機能的機構
Ex)EC
→ハイポリティクスとロウポリティクスとで分けることもできるが,近年ではますます曖昧
民間国際組織
1)国家を通じて影響を持つ
2)国家を離れて直接に行動する
→脱国家的主体として重要となる(これは無国籍であることを意味しない)
Ex)IOC 国際赤十字 カトリック教会 多国籍企業
トランスナショナルな多国籍企業は,国家という主体をどのように変容させていくか?
・経済的側面での発展から,富の拡散,再分配の可能性
・新たな従属関係の創出(ハイマー)
→独自のダイナミクスを持つ政治過程が経済と国際システムの間にあることを見逃している
→経済レベルでのこのような主体の変化は,政治レベルのナショナリズムと衝突する
トランスナショナリズムの発達は,相互依存の深化をもたらすが,これは同時に国際政治における
力の作用が複雑化していることを示す
→国家中枢による対外政策の一元的コントロールが困難に
国際的な協調と対立に新たな形態が持ち込まれたことを認識して,新たな分析をすべき
→単純なパワーポリティクスではイメージが捕らえにくい cf.新しい中世
6. 国際体系 -国際関係のマクロ分析,その2-
概要
国際体系(システム)を総体として分析する手法について概観する
国際体系論とは?
国際社会を一つの総体として研究,叙述の対象とし,その類型分類や諸類型の比較分析や,それぞれ
の類型の国際社会がもつさまざまな静態的,動態的な特性の検出と説明に関係する分野
本書はいくらかミクロ的アプローチに傾斜しているが,マクロ分析的に(演繹的ではなく)国際社会
の現象や特性を論ずる業績についてここでは触れる
国際体系論の特徴
1)国際社会の全体的特徴(特に構造的特徴)に関心をおく
2)何らかの意味でのシステム理論を応用しようと試みている
→個々の業績で著者が念頭においているシステム形式は異なっている
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○カプランの国際体系論(1957)
行動システム:
行動体を要素とし,一定の投入を行動ルールないし変換規則で産出に変換するというモデル
複雑化
・内部状態変数の導入
・行動ルールの可変性(行動変更投入変数と行動変更ルールの導入)
国際社会への適用と分析には,
1)これら変数の同定が必要
→事実上放棄
内部状態変数については,行動体分類変数を導入
(行動ルールが同じでも,行動体の種類が違えば行動の次元でのそのルールの発現の仕方が違う)
能力,情報も一つの変数セットとして想定
2)行動ルールや行動変更ルールの分析が必要
→Bは特定不可能である
→本質的規則Rを導入
このR基準にして国際システムは分類できる
行動変更ルール(T)については,特定が必要であるが,時間的不可逆性を指摘するのみ
3)連結関係
Rと産出の関係などでシステムの分類につなげる
・pの一部がyである場合
システムのある一個もしくは小数個の行動体がシステム全体の規則Rを動かしうる
この力を持つ国際行動体はシステムを支配(dominate)している
→政治システムをもつ国際システム,無政治システムと分類可能
・行動体A1の産出が主にA2の産出によってコントロールされている
「支配」の役割がある
→このような関係構造を利用して分類できる
分類
1)勢力均衡型
2)ゆるい二極化型
3)きつい二極化型
4)普遍型
5)階層型
6)単位拒否権型
→超安定的な国際システムという上位概念から出発
行動変更投入変数の値の変化を与える
最終的に安定均衡状態に達すると考えられるもの
限界
恣意的であり,規範的仮設から論理必然的に導出できる本質的規則は何もない
→つまり同義反復あるいは反証不可能なもの
○ローズクランスの国際体系論(1963)
制御システム:
行動体システムの発展形
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個々の国家をひとまとめにした撹乱体,個々の国際組織をひとまとめにした制御体など,よりマク
ロな枠組みで考えている
必要多様度の法則(the law of requisite variety)
一般に,行動体において算出の多様度は投入の多様度を超ええない
1)諸変数の同定
→容易でないため,う回路を取る
個々のシステムの分析ではなく,さまざまな種類の制御システムを対象とするメタ分析
2)変数の多様度による分類
結局ローズクランスは直感的に9つのタイプを取り出し,これらを多様度によって整理しなおす
という方向をとる
限界
操作性はなく,歴史的分析の再記述にすぎない
○社会システム論の国際体系論への応用
仮設:産業社会における社会システムの在り方が,ほぼ 100 年を単位として構造変化する
主体
個人や企業といった国家より下位の主体と国家の二つ
構造変化のプロセス
1)下位主体相互間は,ある種の「社会的ゲーム」と呼べる相互作用関係のパターンが存在
2)これに対応して,国家及び国際関係のレベルで制度が確立され,ゲームの進行を助ける
3)社会ゲームも制度も完璧足りえないので,主体は自己変革,適応を試みる
4)国内的,国際的制度的枠組みの機能不全が発生する
5)混乱の中から新しい種類の社会ゲームが考案され,普及する
という考えに基づき,分析する
・19 世紀システム
資本家による富獲得競争が基調:機械化と大量供給による安売り競争
これは,以下のような制度的枠組みを作った(ポラーニ)
Ⅰ.自己調整市場
製品のみならず生産要素(労働,土地,資本)についても市場が成立し,市場の調整が成立した
Ⅱ.自由主義国家
自由主義政治勢力は競争が可能になるように,伝統的社会に対して干渉した
Ⅲ.国際金本位制
Ⅳ.自由貿易
いずれも大英帝国の国際金融と海軍力による統制があった
システムの問題点
1)伝統的な共同体的社会秩序の破壊
2)社会的不公正の蔓延
3)全体としての非効率(恐慌など)
→下位主体は寡占化や組織革命で対応
→国家は制約のルールを設定し,競争の制御を試みた
結局,病理現象が発現
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1)長期不況
2)階級対立
3)金本位,自由貿易体制の停止
4)帝国主義政策
・20 世紀システム
19 世紀システムの病理にたいし,2 つの可能性が出された
Ⅰ.「社会主義」的解決
国内で対立する主体(個人,企業)のうち,一方を国有化して国家権力の基礎とし,他方に国家
的統制をする方法
→この意味で共産主義とファシズムやナチズムは共通性がある
社会的ゲームは「計画達成競争」となり,個人は「出世競争」「権力闘争」を行う
Ⅱ.競争を間接的に制御する新たな枠組の創出
混合体制
大組織間の致富競争が基盤だが,競争の形は混在
1)安売り競争
2)交易条件改善競争(値上げ,賃上げ競争)
3)贈与条件改善競争(モノ取り競争)
→修正資本主義ないしケインズ型システム,福祉国家の枠組み
システムの問題点
1)社会の自然的人間的実体の破壊
2)社会的不公正
経済先進国にとっての経済成長
→南の世界から供給される豊富で低廉な資源によって,相対的に希少で高価な労働を代替
途上国にとっての経済成長
→相対的に安価な労働力の増加による,生産品の獲得
3)大組織化にともなう官僚主義的硬直化,非能率
→弱者による組織化の進展
→多国籍企業化による生存能力の増加?
→「社会的責任」や「値上げ,賃上げ競争」への圧力
→条件の平等化
→当事者意識の放棄
病理現象
1)スタグフレーション
2)財政危機と組織間対立
3)多極化と国家間対立
4)国際通貨,貿易体制の崩壊,変容
・21 世紀システム
社会的ゲームは比較的小規模な集団によって行われる
→富よりも知識の入手
国民国家の主権を大幅に失う可能性
→世界連邦型の政府
民営化(再競争化,再私化)の拡大
→社会的企業家の予見?小規模企業を基礎とする企業家連合
○レーニンの帝国主義論に見る国際体系論
レーニンの 19 世紀から 20 世紀世界の理解
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Ⅰ.少数の企業化への生産集中による独占の傾向
Ⅱ.金融資本の拡大によって銀行と産業の融合あるいは癒着が進展
Ⅲ.資本の過剰が発生し,資本の輸出が生まれる
Ⅳ.国内市場だけでなく,国際市場もこのような巨大資本によって分割される
Ⅴ.経済的領土獲得のため,国際政治がこの資本主義のプロセスに支配される
レーニンによるカウツキー批判
カウツキー:
帝国主義は,金融資本によって用いられる一定の政策であり,政策の一形態にすぎないからこそプ
ロレタリアートはこれと闘争しうるし,闘争すべき
レーニン:
資本主義の基礎の上では,戦争による解決のみが金融資本の不均衡を除去する手段となる
資本主義によって腐敗や日和見主義が横行するなかでは,社会改良主義のような政策は取られない
7. 戦後国際社会の流れ
歴史の叙述です.このような流れに対してどうアプローチするか,が国際関係論ともいえるのでしょ
うから,これはある意味素材をここに置いてあるだけのような気がします.冷戦時代に書かれた章で
すので,冷戦の息遣いを伝えるような雰囲気です.
○東西冷戦
米ソの対立,それぞれの立場
・ アメリカの戦後方針
戦後恐慌の回避(経済側面)を重視
→急速な兵士復員による軍需から民需への転換
・ ソ連の戦後方針
レーニン主義者は第二次世界大戦およびその後の各国の独立戦争を革命へと転化しようとする
→占領地,独立地における共産主義政権の樹立を目指す
→チャーチル「バルト海のステチンからアドリア海のトリエステに至るまで,大陸を遮断する鉄の
カーテンが引かれている」
西側諸国は陸軍では劣勢のため,空軍(核兵器含む)によるパワーバランスを取る
これにくわえ,ギリシャとトルコによる共産運動の発展
→イギリス(経済疲弊)からアメリカに対ソ連の主導権が移る
→トルーマン・ドクトリン下の「封じ込め政策」「マーシャル・プラン」
49 年には対ソ連の集団安全機構(地域サブシステム)としてNATOが成立
対抗組織としてCOMECONの成立
→冷戦構造
チェコのクーデター:共産主義の圧力によるリベラルな政党の敗北
→対立が深まり,48 年 6 月にベルリンの壁が作られる
○アジア動乱
インドネシアの対オランダ,イギリス独立戦争
アメリカを含めた国際世論はオランダに不利な立場
→国土荒廃により,マーシャル・プランを期待しているオランダはアメリカの従属下
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ヴェトナム独立
ホーチミンによる北部の共産化,南北分離独立へ
レーニンの考え
ヨーロッパにおける共産革命を成就するためには,その背後からヨーロッパ列強の権力を突き崩さ
ねばならない
→植民地の独立運動(ブルジョア民主主義を含めた解放運動)
ただし「ブルジョア民主主義者と一時的な同盟を結ばなければならないが,これらブルジョア民主
主義者が反動化して革命の機が熟したら,その機を逸せず彼らと袂をわかって,共産党が革命の主
導権を握るべき」
ビルマ白旗共産党の蜂起→結局は失敗
インドネシア共産党の蜂起→失敗
インド共産党→敗北
マラヤ共産党→イギリス軍に敗北
フィリピン共産党→鎮圧
人民中国の向ソ一辺倒
→アメリカは防衛ラインをアリューシャン―日本―沖縄―フィリピンに設定
→中国に対しては敵対せず
日本:ドッジ・プランによる社会不安の解消成功
○東西平和共存
スターリン死去による共産圏の動揺(53 年)
フルシチョフによるスターリン批判(56 年)
東欧における自由化の高まり→軍事力によってソ連圏を保つ
共産主義の方針転換:武力闘争から平和共存へ
米ソ間の勢力圏容認と核兵器不使用のシステムによって均衡:パックス・ルソ・アメリカーナ
第三世界の結集と南北問題の発生
→アメリカの思考:貧困地域に共産主義が広がる
→アメリカ独自の政策に加え,国連およびOECDを通した開発
ヴェトナム戦争の勃発
アメリカはケネディ時代に南ヴェトナムへ介入を始める
対して北ヴェトナムのハノイ政府は,サイゴン政府の腐敗とアメリカの介入に反発
ナショナリズムが解放戦線(共産党支援)と結びつく
経済成長下の工業化に反対する急進リベラリズムと反戦運動が結びつく(アメリカ)
73 年,パリ協定によって全陸上兵力撤退を決める
→ヴェトナムにつづき,ラオス,カンボジアでも社会主義勢力の支配に
パックス・ルソ・アメリカーナの動揺
軍事費の重圧などにより,米ソで第一次戦略制限交渉が始まる:デタント
→ニクソン,フォード,カーターと引き継がれていく
中国の文化大革命,対ソ批判を通した中国の方針転換
→キッシンジャー,ニクソンの訪中へとつながる:米中国交回復へ
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経済面では混乱が深まる
ニクソンショック(71 年)
変動相場制への移行(73 年)
サミットの開始へとつながる
中東問題の影響が強まる
第四次中東戦争(73 年)
→石油ショックへ
OPECを中心とした新たなパワーの創出
70 年代:国際政治では緊張緩和
国際経済では動揺,対立の激化
80 年代にはアフガン紛争などを通して国際政治の緊張が再発
レーガンによる軍拡の再開
8. この世界を見よ
扱っている話は面白いというか基礎的で網羅的です.ところどころに重要な考察,視点がちりばめら
れている気がします.少々昔の話も多いので割愛.
(参考文献,関連図書)
新しい中世 日経ビジネス人文庫 (田中明彦)
地政学入門 中公新書 (曽村保信)
名著に学ぶ国際関係論 有斐閣 (花井,他)
民族という名の宗教 岩波新書 (なだいなだ)
歴史とは何か 文春新書 (岡田英弘)
ゴルゴ13 リイド社 (さいとうたかを)
(今後読みたい本)
銃・病原菌・鉄 (ジャレド・ダイアモンド)
Essence of Decision (Graham T. Allison , Philip Zelikow)
大国の興亡 (ポール・ケネディ)
文明の衝突 (サミュエル・ハンチントン)
外交 (H・ニコルソン)
国際経済学 (クルーグマン,オブスフェルド)
Toward a Comparative Institutional Analysis -Comparative Institutional Analysis, 2- (青木昌彦)
Authority and Markets: Susan Strange's Writings on International Political Economy (Susan Strange)
国際経済関係論 (ジョーン・E. スペロ)
史的システムとしての資本主義 (I.ウォーラーステイン)
新脱亜論 文春新書 (渡辺利夫)
歴史学の名著 30 ちくま新書 (山内昌之)
ゴルゴ13 リイド社 (さいとうたかを)
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