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(4) 海外の状況
1) 世界の「植物に関する自然環境問題」の概況
1992 年 6 月にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(地
球サミット)で、「生物多様性条約」が採択され、また、森林の多様な機能の維持及び
持続的経営の強化等を規定した「森林に関する原則」が採択されました。しかし、そ
の後も地球規模の環境問題は、必ずしも改善されてはいません。人口の増大や経済
活動の高まり等により、熱帯雨林をはじめとした世界の森林は、破壊され続けてい
ます。また、土壌劣化は、農地の持続的な利用可能性をうち消しています。
次に、グローバリゼーションの進行の結果、従来の分布地域を越えた生物種の移
動が生じ、生態系に顕著な影響を及ぼしています。地球上の多くの種が、すでに失
われたかあるいは絶滅の危機に瀕しています。
さらに、新たな戦争や紛争が起こり、直接的に戦争に関わる国のみならず、その
近隣諸国および地域を流れる河川の下流域においても、自然環境への悪影響が生じ
ています。また戦争に関連した難民が、生存のために自然環境から急激な収奪を行
わなければならない状況も生じています。
一方、1997 年に開催された国連気候変動枠組条約第 3 回締約国会議(COP3)にお
いて、植林が温室効果ガスの吸収源として認められました。このため、海外におけ
る植林が排出権取引 (Emission Trading)、共同実施 (Joint Implementation)、ク
リーン開発メカニズム (Clean Development Mechanism CDM)等の国際協力事業によ
る二酸化炭素削減のためのプロジェクトとして有望視されています。
2) 世界の各地域での環境問題の概況
① アジア・太平洋地域
この地域は人口密度が高く、急速な経済成長と産業化が続くことで、将来、環境
破壊がさらに進み、森林(熱帯林、マングローブ林)が減少し、環境汚染が拡大し、
生態系の多様性が減少すると予想されます。
② 西アジア地域
この地域では、水資源と土地の劣化がもっとも緊急な問題です。本質的に脆弱な
生態系のなかに過剰な放牧をしているため、この地域の放牧地は荒廃しています。
また、干ばつ、集約的な農業、貧弱な灌漑技術や無制限な都市化も、悪影響を与え
ています。
③ ヨーロッパおよび中央アジア地域
西ヨーロッパでは、環境悪化の抑制策により、環境問題のうちのいくつかは顕著
に改善されつつあります。しかし、自動車からの排出ガスによる都市の大気汚染は
残っています。中央アジア地域では、政治面の変化が産業活動の縮小を引き起こし
た結果、環境への負荷も減少しました。
④ アフリカ地域
貧困は、この地域を脅かす環境悪化の主要な原因であり、また結果でもあります。
主な環境問題は、森林破壊や土壌劣化、砂漠化、生物多様性の減少、水不足、水質
汚濁と大気汚染などです。また、都市問題も新たに発生し、世界各地の都市で見ら
れるような環境や健康の問題が広がっています。多くの国々ではこれらに対する対
策費が予防措置に必要な経費よりもはるかに大きくなることが懸念されています。
⑤ ラテンアメリカおよびカリブ諸国地域
この地域では 2 つの主要な環境問題が際だっています。ひとつは都市環境問題で、
すでに地域人口のほぼ 4 分の 3 が都市に住んでいます。しかし、大都市の多くでは
大気汚染が人々の健康を脅かし、水不足が恒常化しています。もう一つは、アマゾ
ン流域における、森林資源の枯渇と破壊であり、これに関連した生物多様性への脅
威です。この地域には世界最大の耕作可能な土地がありますが、土壌劣化により多
くの耕作地域が危機に直面しています。一方、多くの国が自国の温室効果ガスの排
出抑制に対して相当な可能性を持っており、再生可能エネルギーの供給や、貴重な
二酸化炭素の吸収源を作りだす森林保全や植林計画の可能性があります。
⑥ 北アメリカ地域
北アメリカの住民一人あたりは、他のどの地域の住民よりも多くのエネルギーと
資源を使用し、環境と住民の健康に深刻な問題を引き起こしています。厳しい法規
制や管理制度の改善により、環境への影響を減らすことに成功していますが、農薬・
有機汚染物質・有毒化合物などの暴露や、非在来種の導入による生物多様性の脅威
が問題になっています。
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3) わが国の国際環境協力
① 政府系機関の取り組み
ア. JICA(独立行政法人
国際協力機構)http://www.jica.go.jp/Index-j.html
政府系機関「国際協力機構」では ODA(政府開発援助)などの資金を用いて活動を
行っています。JICA の活動は、農業や工業、教育など多岐にわたりますが、植林活
動など、自然環境に関する活動も多々行われています。
イ. 国際協力銀行
http://www.jbic.go.jp/
円借款契約により、チュニジア共和国での総合植林などのような援助をおこなっ
ています。チュニジア共和国では、森林面積の減少、砂漠化に対応するため、森林
資源の持続的利用と地域住民の経済的・社会的生活条件の向上、生態系保全、水土
保全を目指した総合植林事業が展開されています。
ウ. 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機(NEDO)http://www.nedo.go.jp/
国際共同研究先導調査の一テーマとして、例えタイ国では、東アジア地域におけ
る汚染土壌適正浄化技術調査が取り組まれています。この取り組みでは、アジア工
科大学において、タイ固有の植物を入手し、その植物による汚染物質浄化(ファイト
レメディエーション)実験が行われています。
② NGO や NPO などの取り組み
海外への環境支援では、市民からのボランティア資金や政府系・企業系助成金等
を原資にして、NGO や NPO などが活発に活動しています。活動の範囲は、教育、生活
環境など多岐にわたっており、政府機関では目の届きにくい草の根からの活動であ
ることが特徴です。生活環境の保全と植林活動など、自然環境の保全に係る活動も
活発です。
③ 企業の取り組み
企業による環境支援関連活動には、企業活動とは直接的には関係の薄い社会貢献
活動(環境貢献)、製紙会社等の生産原料の安定的確保や CO2 排出権を見越した植林
(産業植林)、自社のシステム設備等を緑化等に用いることを目的とした活動があり
ます。
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ア. 産業植林(社団法人海外産業植林センター:http://www.jopp.or.jp/)
産業用の原材料調達を目的とした植林を産業植林と言い、製紙業界の場合、原料
となる良質な木材チップを安定的に確保することを主な目的として植林を行ってい
ます。最近、電力などのエネルギー産業、自動車産業等からの事業への参入が増加
したことは、地球温暖化防止の一つの方策として森林による二酸化炭素の吸収機能
が評価されていることを反映しています。
イ. プラント・システム開発
例えば、三菱重工では次のような開発を行っています。
サウジアラビアの紅海沿岸の砂漠地域で、「持続可能な砂漠緑化」をめざして、
広さ 50 平方キロメートルの緑地帯をつくる実証プラントを建設します。まず、砂漠
地域を緑化することによって降水量がどう変化するのかをシミュレーション。ある
程度緑化すると、森が雲をよんで、雨をもたらすことがわかりました。雲を呼ぶま
では、太陽光発電や風力発電など再生エネルギーを使って、海水を淡水化、水の徹
底的な再利用を考えます。こうして緑地面積を広げていき、自然のメカニズムを活
性化し、砂漠の緑化が進む仕組みを構築します。http://www.mhi.co.jp/fla.html、
http://eco.goo.ne.jp/business/csr/ecologue/wave30.html
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4) 環境支援に係る技術
① 森林保全・植林に関する技術
ア. 混植(緑の地球ネットワーク:http://homepage3.nifty.com/gentree/index.html)
単一樹種の一斉造林は病虫害に弱いので、混植により健全な森林を形維持する技
術です。1997 年、マツの枯れ死の調査の結果、2 種類のマツ(モンゴリマツとアブラ
マツ)が混ざっているところは被害が軽く、ポプラやサージなどがあいだに生えてい
るところはさらに良好という結果も得られています。
イ. 土壌微生物の利用
(緑の地球ネットワーク:http://homepage3.nifty.com/gentree/index.html)
菌根菌はキノコの仲間で、植物の根と共生し、糖のかたちで植物から栄養をもら
う一方、植物が水やミネラルを吸収するのを助けます。苗木と同じ種類の木の林に
生えているキノコを集め、水で洗い、胞子をふくんだその水を苗にかけます。また、
林の表土をとってきて苗畑の土に混ぜる方法もあります。
② 砂漠緑化に関する技術
ア. 環境保全とアグロフォレストリー(森林農業経営)の両立
緑化・植林の大切さを現地政府と専門家、牧民とで徹底的に話し合い、意思統一
を図った後、綿密な調査を重ねて、緑化の方法を決めます。まず防風林を作ってか
らその内側を開墾して、牧草、果樹、農作物を栽培するというもので、環境保全と
アグロフォレストリー(森林農業経営)の両立を行うことで、地元牧民の生活を向
上させます。
イ. 「農地」「牧場」としての緑化
(地球緑化クラブ:http://www.ryokukaclub.com/、
Friends of Earth Japan:
http://www.foejapan.org/)
水源の近くに植林し森を作ることは、貧しい地元住民の収入の道を閉ざすことに
なりかねません。植林は防風林のみとし、付加価値の高い作物を栽培する農地化、
牧草による緑地化を推進します。
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ウ. 地球シミュレータによる緑化シミュレーション
(三菱重工、地球フロンティア研究システム、京都大学、防災科学技術研究所、
鳥取大学、上智大学:http://eco.goo.ne.jp/business/csr/ecologue/wave30.html)
砂漠地域を緑化することによって降水量がどう変化するのかをシミュレーション。
ある程度緑化すると、森が雲をよんで、雨をもたらすことがわかりました=「持続
可能な砂漠緑化」
エ. 混植(Friends of Earth Japan:http://www.foejapan.org/)
樹種は、一種類だと病気や害虫により全滅の危険がありますが、特性の違う樹を
混ぜることにより、樹は互いに助け合い、健全に成長することができます。
オ. ヘンプ(麻)による緑化(ヘンプ製品普及協会:http://www.partie.net/hpsa/)
ヘンプ(麻)は驚異的な成長力をもち、痩せた土地でも連作が可能で、土地の養
分を必要以上に吸い上げず、化学肥料や農薬も必要ありません。また、土壌改良の
力があるので、ヘンプを植えて土地の肥沃度を回復させて、それから木を植える方
法です。さらに、ヘンプの種は食用に、茎の皮は糸にできますので、砂漠の緑化だ
けでなく農民の収入にすることができます。
カ. ユニット植林(緑化ネットワーク:http://www.green-network.org/)
碁盤目状の1マスを1ユニットとし、その外枠に高木を植え、内側には現地に自
生している樹種の灌木(低木)を植え、複層林を形成するものです。この植林方法
は、防風・防砂の効果も高く、また、森の管理や病害虫に強い健全な生態系の形成
にも適しています。1区画ずつ足して面積を広げるので、森の拡大や作業道路・灌
漑施設などの設置が容易です。
キ. 草方格の利用
(日本沙漠緑化実践協会:http://www.sabakuryokuka.org/、地球緑化クラブ:
http://www.ryokukaclub.com/)
砂漠の砂の移動を止めるため、砂丘地の植林の前段階として、1m 四方の網目状に
なるように麦わらを敷き詰め、砂が風に流されないようにします。また、麦わらを
差し込む際、同時に牧草の種も地中に入るようにします。草方格自体は 5∼6 年程度
で微生物に分解され効果がなくなってしまいますが、牧草の種を蒔くことでこれが
肥料となり、しかも牧草の根により効果は持続する効果があります。
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ク. 吸水ポリマー(保水剤)の利用
(日本沙漠緑化実践協会:http://www.sabakuryokuka.org/)
植樹前に、苗の根を吸水ポリマー(保水剤)をまぶした水に浸します。これによ
って、僅かな水でも着実に育つことが可能です。
ケ. 土壌微生物の利用、部分水耕
((財)石油産業活性化センター、㈱関西総合テクノス:http://www.kanso.co.jp/)
過酷な沙漠条件下で、共生微生物と部分水耕により、化成肥料や土壌改良資材を
用いた場合と同等に樹木の育成をおこなうことができます。
コ. 空中播種(財団法人オイスカ OISCA:http://www.oisca.org/indexj.htm)
広大な面積の砂漠で、樹木の種を粘土団子に混ぜて空中播種する方法を試験して
います。
③ 熱帯雨林再生に関する技術
ア. 混植(きこりのHP:http://www.kikori.org/)
単種の植林を行なうと、3∼4 年間は非常によい成長を見た後、成長が緩慢となり、
パイオニア樹種やツタ類、灌木類の旺盛な侵入を防げられず、失敗しています。ア
マゾニア森林地帯は多様な植物が共存しているところで、一つの樹種の純林を作り
上げようとするには無理があります。
イ. 土壌微生物(菌根菌の利用)
(環境総合テクノス:http://www.kanso.co.jp/、関西電力株式会社)
植物の根に共生した菌根菌は、土の中からリン酸、窒素などの養分を吸収し植物
に供給するはたらきをもっています。熱帯雨林でも高木層の優占樹種であるフタバ
ガキ(ラワン)はきのこ(外生菌根菌)と共生することから、この菌根菌を多数の
苗木に簡便に感染させる方法(母樹感染法)を開発し、菌根菌感染苗の植栽を行い
ました。
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④ マングローブ林再生に関する技術
(環境総合テクノス:http://www.kanso.co.jp/、関西電力株式会社)
エビ養殖池乱開発によって変化した地形を修復し、以前の状態に近づけることで
自然な水の交換を取り戻します。立地に応じた最適な樹種を見つけ出し、植付け前
に苗を処理したり、適切な土壌改良資材を投与してやることで良好なマングローブ
の初期成長を達成します。 木が大きくなる間にも地元民に経済的恩恵が与えられる
ように林業(=シルボ)と養殖(=フィッシャリー)の組み合わせ、シルボフィッ
シャリーシステムの開発に取り組んでいます。
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