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PBC では、ほぼ疾患特異的に抗ミトコンドリア抗体が出現します。我々は

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PBC では、ほぼ疾患特異的に抗ミトコンドリア抗体が出現します。我々は
PBC では、ほぼ疾患特異的に抗ミトコンドリア抗体が出現します。我々は、PBC 症例
のT細胞が、抗ミトコンドリア抗体の対応抗原であるピルビン酸脱水素酵素 E2 コンポ
ーネント(PDC-E2)を認識することを明らかにして、さらに、PDC-E2 抗原反応性 T 細胞
は、大腸菌の PDC-E2 抗原にも交差反応性を示すことから、外来抗原で感作された T
細胞が自己抗原に反応をはじめることで自己免疫疾患が進行する(感染を契機に自
己免疫現象が誘導される)という、いわゆる分子擬態の可能性を示しています
(Shimoda et al, 1995, J.Exp.Med)。カリフオルニア大学との共同研究で、この PDC-E2
抗原反応性 T 細胞は末梢と比較すると肝臓や肝臓局所リンパ節では約 100 倍多く存
在することがわかっています(Shimoda et al, 1998, J.C.I.)。PBC 症例の 5%程度で抗ミト
コンドリア抗体を産生しないものがありますが、これらにおいても自己 PDC-E2 抗原に
反応する T 細胞が多く存在しています(Shimoda et al, 2008,J. Autoimmune)。さらには
ヒト PDC-E2 抗原に反応する T 細胞は、大腸菌のみではなく、多くの細菌の、主には
PDC-E2 抗原にも交差反応性を示し、特定の感染ではなく多くのありふれた感染が
PBC 発 症 の 原 因 に な る 可 能 性 が 明 ら か と な っ て い ま す (Shimoda et al, 2000,
Hepatology)。
抗ミトコンドリア抗体の対応抗原は PDC-E2 が主なものですが、これ以外にもオキソ
グルタルサン脱水素酵素 E2 コンポーネント(OGDC-E2)、protein X などがあります。ま
た PBC では抗ミトコンドリア抗体以外に抗 gp210 抗体や、抗セントロメア抗体などの自
己抗体の出現を認めることがあります。PDC-E2 抗原に反応する T 細胞は、これら
OGDC-E2、protein X、gp210、セントロメア抗原の多くに交差反応性を示しています
(Shimoda et al, 2003, Gastroenterology)。これは、抗体(B 細胞)レベルでは自己抗原
が多彩に存在する場合でも、T 細胞、それも抗体産生を促すヘルパーT 細胞レベルで
は、単一の抗原を認識してその情報が多彩な B 細胞に伝播される結果 B 細胞に対応
した自己抗体産生が出現するという、いわば様々な自己抗原の中での分子擬態の可
能性を提示したものです。実際に PBC 症例の肝臓には OGDC-E2 抗原に反応する T
細胞が存在し、OGDC-E2 抗原反応性 T 細胞は PDC-E2 抗原や protein X に交差反
応性を示しています(Tanimoto et al, 2003, J. Autoimmune.)。このように自己免疫では
ごく限られた異常が元になって多くの因子が活性化しているのかもしれません。ここを
ピンポイントで抑えることができると副作用が少なく効果的な治療が開発できると我々
は考えています。
自己抗原 PDC-E2 反応性 T 細胞を詳細に検討した結果、健常者からも頻度は落ちる
もののやはり末梢に自己抗原反応性 T 細胞が存在すること、PBC 症例の自己抗原反
応性 T 細胞は CD28 分子を欠落し、抗原提示細胞からの 2nd シグナルである共刺激
を必ずしも必要としない(共刺激非依存性)一方、健常者の自己抗原反応性 T 細胞は
CD28 分子を保持し、共刺激依存性であることが多いことを我々は明らかにしていま
す(Kamihira et al, 2003, Gastroenterology)。ただし抗原が変化すれば共刺激依存性も
変化することから、健常者での共刺激依存性という現象は自己抗原に限定して観察
されるようです(Kawano et al, 2007, J.I.)。
健常者の末梢に自己抗原に反応する T 細胞が存在することは一見自己免疫疾患発
症の前段階のようです。これはいったいどういう意味を持っているのでしょうか?我々
は健常者由来の自己抗原反応性 T 細胞の解析を詳細に行うことで、これら共刺激依
存性の T 細胞は、簡単にアナジーに陥り、このアナジーが誘導された T 細胞が驚くべ
きことに免疫制御能を獲得していることを明らかにしています(Shimoda et al, 2006,
Gastroenterology)。すなわち、健常者の末梢に存在する自己抗原に反応する T 細胞
は自己免疫疾患発症に関係しているのではなくて、これらの T 細胞が免疫制御を担
当することで、積極的に自己免疫の抑制をしていると考えられるのです。現在、健常
者と PBC 症例由来の自己抗原反応性 T 細胞の発生母地は同じものか、環境要因が
どのように関与してくるかなどを解析し、自己免疫疾患発症の原因についての探索を
行っています。
さて、話は少し変わります。PBC は抗ミトコンドリア抗体の出現以外に、肝臓
内の末梢胆管炎(専門的には慢性非化膿性破壊性胆管炎といいます)を病理的な特
徴とします。非代償性肝硬変は肝臓移植のよい適応となります。我々は非代償性肝
硬変の摘出肝から、胆管上皮細胞の培養系を樹立しています。ヒト PDC-E2 抗原を
負荷した胆管上皮細胞は自己抗原反応性 T 細胞に認識され破壊されることがわかり
(Kamihira et al, 2005, Hepatology)、病理学的に結果として提示される病態を培養系の
中で再現することに成功しています。
胆管上皮細胞は自然免疫系の刺激(Toll 様受容体リガンド)で様々な免疫担当細胞を
遊走させるサイトカイン(ケモカイン)を産生します。しかし胆管上皮細胞からのケモカ
イン産生に PBC と対照疾患(非 PBC 由来の非代償性肝硬変)で差を認めていません。
これはどうしてでしょうか?PBC では多くのケモカインが産生されるために PBC の胆
管周囲に多くのリンパ球が浸潤してくるはずです。そこで自己肝臓浸潤リンパ球を、
胆管上皮細胞からのケモカイン産生の培養系に添加すると、PBC 由来の胆管上皮細
胞では対照疾患由来の胆管上皮細胞と比較して多くのケモカイン産生がはじまること
を我々は明らかにしています(Shimoda et al, 2008, Hepatology)。これは胆管炎を特徴
とする PBC も対照疾患も、胆管上皮細胞自体に特徴はなく、免疫担当細胞の存在下
で胆管炎としての特徴がでてくるということです。自己免疫疾患ではよく、攻撃細胞の
異常と標的細胞の異常のどちらが疾患の原因となっているのかという議論がありま
すが、我々の結果は、標的細胞は当初異常がなく、自然免疫に感作される結果、攻
撃細胞を呼び込み、次にはこの攻撃細胞に感作されて、徐々に疾患として特徴のあ
る標的細胞の異常が、結果として誘導されることを示しています。
PBC では CX3CL1(フラクタルカイン)というケモカインが特徴的に出現することもわか
っています。我々は胆管上皮細胞以外に類洞内皮細胞、血管内皮細胞などをヒト肝
臓から分離培養する系を樹立し、各細胞群でのフラクタルカインの産生を検討してい
ます。その結果、フラクタルカインは自然免疫刺激のみでは血管内皮細胞からの産
生しかなく、胆管上皮細胞がフラクタルカインを産生するためには、別の自然免疫刺
激を受けた自己単球が産生する TNF-a が加わることが必要であることを我々は明ら
かとしています(Shimoda et al, 2010, Hepatology)。実際に PBC の胆管炎には対照と
比較して多くの単球の浸潤が認められています。現在 PBC は自己免疫疾患でありな
がら有効な免疫抑制剤がなく、ウルソ酸(UDCA)を使用しますが、我々の結果は、抗
TNF-a 抗体製剤の使用が疾患コントロールに有効である可能性を示しています。病
態のコントロールがつかず急激な肝硬変への進行が危惧される症例などに適応があ
るのではないでしょうか。
自己免疫疾患では当然獲得免疫系の異常があらわれますが、自然免疫からの感作
も重要であることが明らかとなっています。それでは実際のいわゆる NK 細胞、NKT
細胞、単球など自然免疫を担当する細胞は疾患とどのような関係にあるのでしょう
か?単球がケモカイン産生の際に重要であることは先に示されました。PBC に特徴
的な胆管細胞の破壊に直接の関与はないのでしょうか?
そこで、肝臓浸潤リンパ球を様々に刺激して自己胆管上皮細胞を破壊する系を構築
すると、ある決まった自然免疫系からの刺激の組み合わせで活性化された NK 細胞
が自己胆管上皮細胞を破壊することを明らかにしています(Shimoda et al, 投稿中)。
今後は活性化された NK 細胞を解析し、自己免疫疾患に関係した NK 細胞集団の同
定とその制御についての研究を継続する予定です。
我々は実際に生体内で起こっている反応に関係する細胞集団を試験管内で
再構築し、どのような刺激の元で病態が再現できるかを確認することで、結果としてし
か捉えられない病態の上流を探索する手技をヒトの系で樹立しています。今後もこの
手技を用いてさらに奥深い PBC の病因病態を解明するとともに、関節リウマチなどの
他の自己免疫疾患への応用を考えています。
このように我々は常に from bedside to bench を行い、最終的には from bench
to bedside ができるような研究を目標に、病棟であるいは研究棟で日々行い考え祈り
ながら、日常の「何故こうなるのだろう?」という疑問を大切にしたいと考えています。
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