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Behaviour Support Plan
はじめに
障害のある人に対する虐待はどこでも起きる可能性があるのです。
そう言われても、ピンとこない、そんなことはないと思う福祉関係者は多いのではないでしょうか。そんなこ
とは、悪質な一部の施設でのことであって、多くの施設では虐待なんて行われてはいない。そう思ってはいませ
んか?
あなたの支援している障害のある人は、今は何も言っていないけれど、もしかしたらあなたの対応に苦痛を感
じているかもしれません。虐待されていても言えないで、心の痛みを隠しているのかもしれません。あるいは、
必死に自分なりに何かを訴えているのに、周囲の人々が障害者の訴えをくみ取れていないだけなのかもしれませ
ん。
施設でも家庭でも職場でも学校でも病院でも、障害のある人は虐待されています。これまでに発覚した多くの
事例がそれを物語っています。初めから虐待が表に出るケースなんてなくて、ひどい目にあいながら障害のある
人は沈黙しているものです。障害者の家族ですら目をそらし、あきらめてしまっているのです。勇気を出して、
身近な支援者や、県や市町村など関係機関に相談しても相手にされなかったり、黙殺されてしまったりするケー
スも残念ながらたくさん報告されています。相手にされないから、ますます障害者は無力感のアリ地獄の中であ
きらめてしまっているのです。
なぜ、公的な関係機関は黙殺するのでしょうか。なぜ、福祉管理者は虐待の事実を打ち消そうとするのでしょ
うか。障害者なんて殴られてもいいんだと思っているような人はいません。でも、まさか自分のところで起きる
わけがない、でも起きたら大変だ、ないことにしておきたい…と思うことはありませんか。あるいは、どうして
いいのかわからないので、障害者の助けを求める声に耳をふさいでいることはないですか?
なのであれば、SOS を受けた時にどうすればいいのか知りましょう。あなた一人で、あなたの施設だけで、
なんとかしようなどと思わず、同僚や身近な関係機関と協力しながら障害者を救ってほしいのです。
このマニュアルは行政機関ではたらく人、
障害者福祉事業所(施設)に携わっている人のために作成しました。
職場の中で虐待の芽を確認し、話し合い、同僚や身近な社会資源と協力しながら障害者を救ってほしいのです。
職員全員で虐待の芽を摘みながら、よい福祉チームを育て、その中で一人一人のスタッフも育ってい欲しいので
す。障害者の沈黙に今一度しっかり耳を傾けてください。ほんの少しの勇気と知識があれば障害者を救うことが
できるのです。
1
目次
第1部
身体拘束編
第1章
身体拘束に関するガイドライン… ……………………………………………………… 4
(添付資料)行動支援計画……………………………………………………………………………………… 12
第2章 オーストラリア ビクトリア州ヒューマンサービス省
「障害のある人は拘束や隔離についてどう考えるか」……………………………………… 21
(資料 1)Positive Sotutions in Practice………………………………………………………………… 25
(資料 2)Behaviour Support Plan………………………………………………………………………… 31
第 3 章 身体拘束・行動制限の廃止に向けた取組… ………………………………………………… 37
第2部
調査編
障害者施設における支援のあり方と身体拘束に関する調査……………………………………… 45
第3部
虐待防止編
第1章
障害者の虐待とは……………………………………………………………………………… 68
(1)虐待とは何か… …………………………………………………………………………………………… 68
第 2 章 福祉職員・支援員として障害者虐待を未然に防ぐ具体策… …………………………………… 77
(1)職員・支援員の障害者観の共有……………………………………………………………………………
(2)支援理念の向上… …………………………………………………………………………………………
(3)個別支援計画の具体的実践… ……………………………………………………………………………
(4)虐待防止のための自己チェック表… ……………………………………………………………………
(5)各種会議の運営… …………………………………………………………………………………………
(6)支援や援助マニュアルの共同作成… ……………………………………………………………………
(7)ヒヤリハット体験を生かす… ……………………………………………………………………………
(8)苦情解決委員会の活用… …………………………………………………………………………………
(9)PDCA サイクル活用… ……………………………………………………………………………………
77
77
78
78
80
80
80
81
82
第 3 章 法人・福祉事業所(施設)
の組織的な人権擁護管理の具体的対策… ……………………… 83
(1)法人の倫理綱領… …………………………………………………………………………………………
(2)行動規範… …………………………………………………………………………………………………
(3)虐待防止指針… ……………………………………………………………………………………………
(4)人権擁護委員会の設置… …………………………………………………………………………………
(5)人権擁護のための計画的研修体制の整備… ……………………………………………………………
(6)労務管理上の人的配置および勤務体制… ………………………………………………………………
(7)職員に対する心の相談・メンタルヘルス…………………………………………………………………
(8)定款・服務規程・就業規則における禁止行為の明記および具体的処分・罰則…………………………
83
83
85
85
89
90
90
91
第 4 章 オープン化した職場・事業所にするために… ……………………………………………… 92
(1)福祉サービスを利用する仕組みへの環境づくり… ……………………………………………………
(2)福祉サービスの第三者委員の活用… ……………………………………………………………………
(3)オンブズマン制度の活用… ………………………………………………………………………………
(4)福祉サービス第三者評価事業… …………………………………………………………………………
(5)第三者が出入りできる環境づくり(家族・ボランティア・実習生等)… ………………………………
(6)外部の指摘に対する管理者としての心構え… …………………………………………………………
92
93
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95
97
98
第 5 章 虐待を発見・発生した場合の対応… ………………………………………………………… 100
(1)対応がわからないと隠すしかなくなる。虐待の芽を摘む方法と合せて対応の手順を決めておくことが重要です… …… 100
(2)虐待の気づき… …………………………………………………………………………………………… 102
(3)相談・苦情・通告の受理… ………………………………………………………………………………… 102
(4)アセスメントの開始… …………………………………………………………………………………… 103
(5)利用者支援・職員対応・関係機関報告・再発予防………………………………………………………… 105
おわりに………………………………………………………………………………………………… 110
第
1部
身体拘束編
第1章身体拘束に関するガイドライン
第2章障害のある人は拘束や隔離についてどう考えるか—平易な英語版
第 3 章身体拘束・行動制限の廃止に向けた取組
3
身体拘束編
第1部
第
1
1
章
身体拘束に関する
ガイドライン
はじめに
利用者に対する身体拘束・行動制限で悩まれているあなたへ
利用者が興奮して、他の利用者を叩いたり、噛みつき行為があった時や自分自身の顔面を強く叩き続けるとい
う行為があった時に、他の利用者、本人の安全を確保する目的であなた自身の身体で利用者の身体を拘束したり、
一時的に居室に施錠をするなど行動制限をやむを得ず行うことがあります。
そのようなとき、あなたは自分自身の行為が利用者に対する人権侵害や虐待にあたるのではないかと、日々悩
まれているのではないでしょうか・
このような利用者の安全の確保や生命を守るために行われている身体拘束や行動制限は、支援現場では日常的
に見られます。
しかし、このような利用者に対する行動制限や身体拘束が日常化し、そのことが契機となって利用者に対する
身体的虐待や心理的虐待へと発展して、施設全体の虐待事件となる事例が残念なことに多く見られます。
このような利用者に対する権利侵害や虐待を未然に防ぐと共に、支援上の課題である利用者の行動面での課
題を解決し、その課題に隠されている利用者の真のニーズを理解して、より積極的に利用者の QOL(生活の質)
を高める支援へと繋げていくことが私たち支援者に求められている真の支援だと思います。
今回、利用者に対する支援者が行っている行動制限、身体拘束についての判断基準とその手続きを示すととも
に、支援上課題となる利用者の行動面での課題を未然に防ぎ、また解決し、その根底にある真のニーズを実現す
るための利用者の QOL を高めるより積極的な支援アプローチについてのマニュアル(
「行動アセスメント」
「行
動支援計画」
)の策定を試みました。
ベンクト・ニィリエ(Nirie.B.)は、
「QOL を高めることは、その結果として人権が守られていることに繋がる」
と言っています。
利用者の示す行動上の課題は利用者側だけの問題ではなく、私たち支援者の支援上の課題でもあるといえま
す。
なかなか解決できない利用者の行動上の課題に向き合い、その解決とより質の高い QOL を実現することは、
支援者にとって大変困難な忍耐が要求される事柄ですが、そのことをして、支援者としての成長が約束されてい
ることも事実であります。
どうかこの「身体拘束に関するガイドライン」を活用して頂き、利用者の豊かな暮らしの実現と支援者として
のあなたの専門性の更なる向上を実現して下さい。
2
身体拘束とは?
私たちが日常の支援の中で行っている行動制限や身体拘束についての人権上の問題について理解するために
は、身体拘束とはいったい何かについて、理解することが必要となります。
そこで、身体拘束についての説明をしたいと思います。
「身体的虐待とは、暴力や体罰によって身体に傷やあざ、痛みを与える行為、身体を縛りつけたり、過剰な投
薬によって身体の動きを拘束する」ことです。
4
第
1 章 身体拘束に関するガイドライン
具体的には、平手打ちをする、殴る、壁に叩きつける、つねる、無理やり食べ物や飲み物を口に入れる、やけど・
打撲させる、柱や椅子やベッドに縛りつける、医療的必要性に基づかない投薬によって動きを抑制する、施設側
の都合で睡眠薬などを服用させるなどです。
しかし、特に行動上に様々な「課題」がある知的障害・自閉性障害を伴う人たちなど、障害のある人たちに対
する行動制限や身体拘束に係る定義については、現在、統一された考え方が示されていません。
障害者基本法では、
「すべて障害者は、個人の尊厳が重んじられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権
利を有する」と規定されています。
そこで、先述したように、より利用者の QOL の向上を目指して、障害のある人たちの虐待防止、権利擁護の
観点から、行動制限や身体拘束についてのガイドラインを示すことの必要性と重要性を踏まえ、今回、障害のあ
る人に対する「身体拘束に関するガイドライン」を策定しました。
どうか支援現場での「身体拘束ゼロ」に向けた取り組みを目指すスタートラインにあなたも立って下さい。
(1)高齢者福祉における身体拘束の基準について
先程も述べましたが、現在、障害者サービス分野における身体拘束をはじめとする行動制限の係る定義や全国
的に統一された考え方は示されていません。
しかし、高齢者福祉分野においては、介護保険指定基準において禁止の対象となる具体的行為が以下のように
示されています。
① 徘徊しないように、車椅子や椅子、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
② 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
③ 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
④ 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
⑤ 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限す
るミトン型の手袋等をつける。
⑥ 車椅子や椅子からずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y 字型抑制帯や腰ベルト、車椅子テーブル
をつける。
⑦ 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるような椅子を使用する。
⑧ 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
⑨ 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
⑩ 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
⑪ 自分の意思であけることのできない居室等に隔離する。
(2)障害のある人に対する身体拘束について
このように高齢者に対する禁止となる身体拘束については明確に示されています。
そして、現在、高齢者福祉分野では、ここで示されている禁止対象である身体拘束ゼロに向けた取り組みが進
められています。
この高齢者に対する身体拘束の禁止項目については、障害者福祉分野においても禁止項目であると考えます。
しかし、それ以外の施設で行われている日常的な利用者に対する行動制限や身体拘束については、あなたも常
に権利侵害や虐待に該当するのかどうかという疑問をもたれていることだと思います。
例えば、ある利用者が他の利用者に対して殴りかかる、咬みつく、蹴るなどのいわゆる「他害行動」を制止す
るために、支援者が自分自身の身体で利用者の行動を制止する、落ち着くまで居室に施錠をして本人を隔離する
5
第1部
身体拘束編
などの対応をすることがあります。
支援者としては、本人と他の利用者の安全と命を守るために、また他の人の人権を侵害しないためにも、やむ
を得ず他のより良い解決方法が見つからない中で悩みながら行っているという現実があります。
しかし、障害があるなしに関わらず全ての人々には自分自身の意思で自由に行動し生活する権利があります。
そして、利用者の人たちは「どこで暮らすのか」
「誰と暮らすのか」
「どの様な支援を受けるのか」など、様々
な自分自身の生活についての自己選択と自己決定をする基本的な権利があります。
そのように考えるとある場面では、私たちが日常行っている行動制限や身体拘束を伴う行為は人権侵害である
と考えられます。
「では現在の支援現場の中で、私たち支援者は利用者の安全を守るために、どのように支援すればいいの?」
とあなたは質問されると思います。
そこで、そのような利用者の安全と命を守る目的でなされている支援者の利用者に対する行動制限と身体拘束
について、本人の人権に配慮した基本的な考え方と、その上でやむを得ず行わなければならない利用者の行動制
限・身体拘束を実施するうえでの手続きについて次に示したいと思います。
3
やむを得ず利用者の身体拘束を
行わなければならない時の支援と手順
(1)やむを得ず行う行動制限・身体拘束と人権侵害・虐待について
利用者や他の人の安全や命を守るために支援者が日常的に行わざるを得ない行動制限や身体拘束が人権侵害
や虐待にあたるかどうかが今回の「身体拘束に関するガイドライン」を策定する上での重要なポイントです。
それについて、このように考えました。
「利用者の行動面での課題を解決するため、本人の QOL 向上に基づいた支援計画の策定がなされた上で、や
むを得ず行う行動制限・身体拘束については、本人の人権に配慮した一定の手続きとルールの中で容認する」と
の現段階での基準を提示することとしました。
ですから、後で示す「行動支援計画」の策定とそれに基づいた支援がなされていない中で行われる行動制限と
身体拘束については、権利侵害や虐待にあたると考えました。
何故なら、
「行動支援計画」に基づいた利用者の行動面の課題解決に向けた支援がなされない中で繰り返され
る行動制限や身体拘束は、利用者の真のニーズ実現に向けた支援には結びつかず、むしろ心理的ストレスをます
ます増幅させ、結果として行動面での「障害」を強化することになります。
そのことは結果的には、心理的虐待、人権侵害になるとの考えです。
(2)
「行動支援計画」作成にあたって
①支援上の課題となる行動面の課題、いわゆる「問題」行動について
今までいわゆる利用者の示す行動上の「問題」について、
「支援上の課題である行動面での課題」という大変
回りくどい表現をしていましたが、これには重要な意味があります。
それは、
「問題」行動が利用者自身の問題ではなく、支援者も含めた環境側の問題であるという「問題」行動
についての基本的な視点があるからです。
「問題」行動は「環境と要因との相互作用の結果である」と言えます。
要因とは、例えば自閉性障害のある人の場合の障害特性である「社会的相互作用」
「コミュニケーション」
「想
6
第
1 章 身体拘束に関するガイドライン
像的活動」の質的障害や見通しの困難性や感覚の異常などの障害特性です。
例えば、
「ざわざわした場面が苦手」な利用者がいたとします。
日中活動に出かけるときに下足室で靴を履き替えなければなりませんが、同時に多くの利用者が下足室に集
まって来ます。本人にとっては大変不快な環境となります。
しかし、本人はコミュニケーションの困難性から、支援者に苦情を訴えることができません。どのように解決
すれば良いのかの方法(適切な方法)がわかりません。
そして、イライラが高まって横にいる利用者に咬みついてしまいました。
この事例に基づいて要因を考えると、
本人の「ざわざわした騒がしい場面がいや」という「感覚過敏」の特性、
苦情を伝えることが困難であるという「コミュニケーション」の困難性、どのように解決すれば良いのかがわか
らない「想像力」の困難性が考えられます。
ですから本人の要因と「ざわざわした騒がしい場面」と支援者の本人の特性を理解した上での適切な支援の欠
如という環境との相互作用によって、
「咬みつく」という「問題」行動が誘発され、間違った学習をしてしまっ
たことになります。
支援者が要因と環境を分析して、それだったら自分の居室から靴を持って行き、下足室を通らないように本人
の動線を整理するという支援をすれば、
「問題」行動を誘発しなくてもすみますし、周りの人からも肯定的な評
価を得ることができます。
この「行動支援計画」の最も重要な狙いは、
「問題」行動の背景にある「要因」を明らかにして、
「問題」行動
を誘発させない支援、すなわち予防的な支援を基本としています。
このような「問題」行動の要因を探るためには、日常の行動観察が重要です。
「行動支援計画書(D)行動分析シート」
(P18)を活用すれば、容易にその要因を特定することができます。
②真のニーズに基づいた支援
「行動支援計画」で大切にしていることは、
「問題」行動の防止と行動改善という「問題」行動に焦点を絞った
支援だけではなく、それぞれの利用者の強みや長所など、よりポジティブな面を探り出し、そこから真のニーズ
を発見して、その実現に向けた QOL の向上のための支援を進めることにあります。
先程、事例で示した利用者の場合、
「ざわざわした騒がしい場面や環境が苦手」ですので、本人がくつろいで
暮らせる静かな住環境の支援や見通しを持って支援者に頼ることなく主体的自立的な行動ができるように本人が
理解できるスケジュール表を作成して、それを手がかりに活動できる支援をすることが重要です。
そのことで本人の自尊心を育てること、エンパワメントの支援に結びつきます。
また本人のコミュニケーションのレベルに合わせた他者とコミュニケーションができる「写真」や「文字」
「絵」
などを活用した「コミュニケーションカード」を作成すれば、困ったときや自分自身の要求を他者に伝えること
が可能となり、人とやり取りすることで暮らしやすくなり、生活の質が向上することになります。
また様々な環境の意味理解ができるための環境の様々な構造化が重要な支援となります。
この「構造化」の支援について、次に詳しく説明します。
③わかりやすい環境の支援
環境をわかりやすくする手法の一つに「構造化」という考え方があります。
状況がわかりにくい人に対してわかりやすい場面を用意して意味のわかる状況を作れば適切な行動ができる
という「構造化」の考え方は、自閉症の人だけでなく、重度の知的障がい者にも有効です。
「構造化」では、
「①いつ ②どこで ③なにを ④どのくらい ⑤どのように ⑥終わったら次は何」の6つ
の情報を伝えなければなりません。
この 6 つの情報をわかりやすくするために 4 つの「構造化」を図ります。
7
第1部
身体拘束編
○時間の構造化
「いつ」
「どこで」
「なにを」という情報を、文字や絵、写真など、または実物等、一人ひとりの理解レベルに
応じてスケジュール提示します、また、提示の範囲も、1 日単位から半日単位、次の予定のみ等、利用者の理解
度によって提示します。
スケジュールの意味理解ができてくると、変化が苦手な人でも、予めスケジュールカードを差し替えることで
混乱なく受け入れることができるようになります。
このように本人が理解できるスケジュールを提示することで「見通し」を持ってもらうことが大切なのです。
○空間の構造化
「どこで」
「なにを」を伝えます。
テープや衝立で境界線を作り、活動場所を視覚的にわかりやすくします。
利用者の中には、情報が多いと混乱する場合があるので、刺激になるような物は予めとりのぞいておくとわか
りやすくなります。
また、一つの場所を多目的に使用すると混乱しますので、例えば、作業をすることろはワークエリア、おや
つはフードエリア、遊びはプレイエリアというように場所と活動を一致させると利用者にとってわかりやすくな
ります。
○手順の構造化
「なにを」
「どのくらい」
「終わったら次は何」をワークシステムを使って、
左から右、
上から下の順で、
色や数字、
○や△等の図形をマッチングすることにより、視覚的にわかりやすくします。
○材料の構造化
手順書、指示書によって「どのように」をわかりやすく、視覚的に伝えます。
簡単なプラモデルの設計図のようなものです。また、サボタージュ場面(例えば、あえて材料の一部を抜いて
おくこと)により、適切な要求の方法を支援することもできます。
(
「福祉サービス事業所における利用者支援のあり方に関するガイドライン~より良いサービスの提供を目指
して(強度行動障がい等の状態を示す方への支援)~」平成 22 年 9 月 大阪府福祉部障がい福祉室より)
この個別的なニーズに応じた「構造化」の支援を行うためには「行動支援計画(B)支援内容アセスメント(1)
」
(P14)で分析し、
「行動支援計画書(C)支援計画実施・報告シート(1)
(2)
」
(P16 〜 17)に反映させて下さい。
④アセスメント
利用者の障害特性や個別的なニーズを把握するためにはアセスメントが重要です。アセスメントは支援の基本
となります。
特に以下の点が重要な評価項目となります。
a.好きなこと苦手なこと
b. 得意なこと・強みと弱み
c.コミュニケーションレベル(表現性コミュニケーション、受容性コミュニケーション)
d.ひとつひとつの場面や状況をどのように理解しているのか?
e.何がわからないのか?
f.どのような刺激に敏感か鈍感か
g.健康上の課題、合併する障害
アセスメントについては、
「行動支援計画書(A)利用者アセスメントシート(1)
(2)
」
「行動支援計画書(B)
支援アセスメントシート(1)
」
「行動支援計画書(B)環境・対応アセスメントシート(2)
」
(P12 〜 15)を活
用して下さい。
8
第
1 章 身体拘束に関するガイドライン
⑤身体拘束について
「行動支援計画」に基づく支援過程の中で、やむを得ず身体拘束を行わなければならない場合、その判断基準
や手続きについては、以下の通り定めて実施する必要があります。
身体拘束等の禁止については根拠法令として、
「指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関す
る基準」があります。
○「福祉サービスの提供にあたっては、利用者又は他の利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない
場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為を行ってはならない」
○「やむを得ず身体拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを
得ない理由その他必要な事項を記録しなければならない」
「緊急やむを得ない場合」の対応とは、あらゆる支援の工夫のみでは十分に対処できないような、
「一時的
に発生する突発事態」のみに限定される。当然のことながら、安易に「緊急やむを得ない」ものとして身
体拘束を行うことのないよう、次の要件、手続きに沿って慎重な判断を行うことが求められる。
そして、以下の 3 つの要件を全て満たすことが必要です。
○切迫性
利用者本人又は他の利用者等の生命、身体、権利が危険にさらされる可能性が著しく高いこと。
「切迫性」の判断を行う場合には、身体拘束を行うことにより本人の日常生活等に与える悪影響を勘案し、
それでもなお身体拘束を行うことが必要となる程度まで利用者本人等の生命または身体が危険にさらされ
る可能性が高いことを、確認する必要がある。
○非代替性
身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替するサービスの方法がないこと。
「非代替性」の判断を行う場合には、いかなるときでも、まず身体拘束を行わずに支援する全ての方法の可
能性を検討し、利用者本人等の生命または身体を保護するという観点から、他に代替手法が存在しないこ
とを複数のスタッフで確認する必要がある
また、拘束の方法自体も、本人の状態像等に応じて最も制限の少ない方法により行われなければならない。
○一時性
身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること。
「一時性」の判断を行う場合には、本人の状態像等に応じて必要とされる最も短い拘束時間を想定する必要
がある。
以上の 3 つの要件を基本として、
「行動支援計画(E)行動制限・身体拘束の実施について」
(P19 〜 20) には
以下の点を明記します。
a.拘束的介入が用いられるべき状況
b.具体的な方法
c.1 回あたりの使用時間
d.選定された方法が利用者本人にもたらす利点
e.選定された方法が利用者本人にとって、最も拘束度合いの低いものであることの具体的証明
⑥「行動支援計画書」作成の対象となる身体拘束とは?
身体拘束及び隔離を伴う介入は薬物を使った拘束、機器を使った拘束及び隔離を指します。
9
第1部
身体拘束編
利用者本人が操作することができないような形のドアや窓の施錠も含まれます。
以上の身体拘束や隔離を伴う拘束について、やむを得ない場合に使用するときには、
「行動支援計画書(A)
」
「行動支援計画書(B)
」
「行動支援計画書(C)
」
「行動支援計画書(D)
」および「行動支援計画書(E)行動制限・
身体拘束の実施について」を作成して、決められた手続きを経て実施しなければなりません。
しかし、日常的に繰り返される安全上の理由等に基づいた支援者の身体を使った身体拘束や行動制限について
も、その拘束が毎日・1 ヶ月以上にわたって拘束的介入や行動制限がなされている場合、上記の各「行動支援計
画書」の作成とそれに基づいたモニタリングと支援が必要となります。
(3)手続き
各「行動支援計画」の作成のポイントについて述べてきましたが、その後の身体拘束等を伴う支援の実施につ
いては、以下の手続きが必要となります。
①身体拘束についての判断を含めた各「行動支援計画書」の作成
緊急やむを得ない場合に該当するかどうかの判断は、以下に示す「行動支援検討委員会」で行い、同時に身体
拘束をせざるを得ない利用者の行動上の要因等を分析し、行動改善に向けた各「行動支援計画書」を同時に「行
動支援検討委員会」で協議して、策定します。
②関係行政機関(福祉事務所等)への「行動支援計画書」の提出
各「行動支援計画書」を関係行政機関に提出して、説明と同意を得ることが望まれます。
③関係行政機関の事業所への現地調査
事業者から各「行動支援計画書」の提出を受けた関係行政機関は、速やかにその事業所の現地調査を行うこと
が望まれます。
④利用者本人・保護者に対する説明と同意
利用者本人・保護者に対して、各「行動支援計画書」を提示し、その内容の説明を行い、同意を得ます。
その説明の場には、行動支援責任者と「行動支援検討委員会」の委員複数名が出席する必要があります。
また説明会での利用者本人・保護者からの意見や要望も記録に残します。
同時に利用者・保護者に対して地域の相談支援事業者の情報も提供して、支援内容について相談できることも
伝えます。
⑤支援経過の記録
「行動支援計画書(C)支援計画実施・報告シート(1)
(2)
」に基づく支援について、その内容を記録します。
特に身体拘束を行った場合は、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況、緊急やむを得なかった理由を
記録しなければなりません。
⑥「行動支援検討委員会」の開催と支援の振り返り
「行動支援計画書(C)支援計画実施・報告シート(1)
(2)
」に基づく支援を開始後、
「行動支援検討委員会」
を定期的(最低月 1 回)に開催して、支援経過を振り返り(評価)
、次の支援へと繋げて行きます。
⑦支援経過の定期的な報告
支援経過については、少なくとも 6 ヶ月に 1 回、利用者本人・保護者、関係行政機関に報告と説明を行います。
また支援の中で新たな身体拘束等、
「行動支援計画書(C)
」
「行動支援計画書(E)行動制限・身体拘束の実施
について」の大幅な変更がある場合は、速やかに報告・説明・同意を得なければなりません。
10
第
1 章 身体拘束に関するガイドライン
(4)
「行動支援検討委員会」について
①行動支援責任者の任命
管理者は職員の中から行動支援責任者(サービス管理責任者等)を任命します。
②「行動支援検討委員会」の構成メンバー
「行動支援検討委員会」は、以下のメンバーで構成されます。
①管理者
②行動支援責任者
③当該利用者を直接支援する支援員
④医療・心理専門職(医師、看護師、PT、OT、臨床心理士等)
(5)
「行動支援計画書」の作成と記録
「行動支援計画書」は、行動支援責任者が「行動支援検討委員会」を召集、開催して、構成メンバーとの協議
の上で作成します。
上記「行動支援検討委員会」における協議の経過については、必ず記録します。
利用者支援における身体拘束及び行動計画手続きのチャート
施設利用者が示す激しい行動
本人・周囲の生命・安全を損なう行動
緊急やむを得ずの身体拘束の
検討
3 つのガイドライン
①切迫性
②非代替性
③ 一時性
行動支援検討委員会の設置
監督官庁への報告
と支援の要請
現場における利用者支援チームの発足
行動支援計画の立案
(A )利用者アセスメントシート
(B )支援内容アセスメントシート
(C )支援計画実施・報告シート
(D )行動分析シート(随時)
行動支援検討委員会への報告
監督官庁への報告
と制度改善の要請
利用者 QOL のための施設改善計画書
11
身体拘束編
第1部
添付資料
行動支援計画書 A
行動支援計画書(A)
利用者アセスメントシート(1)
利用者氏名:
性別:
記入者:
年齢:
記入日:
障害名:
程度区分:
障害手帳:
事業所名:
事業種別:
生年月日:
年
月
日
印
年
月
(IQ=
日
)
事業所住所:
連絡先:
担当者名:
サービス管理責任者名:
利
最
用
近
の
の
経
状
過
況
行
動
① 社会性、対人行動
1) 人との関係の取り方:
特
性
2) 社会的なルールの理解:
・
能
力
な
ど
② 表現のコミュニケーション
1) 表現手段:□ことば(単語・二語文以上)、□文字(単語・二語文以上)
、□サイン言語
□ジェスチャー、□絵・写真、□物を使う、□直接動作、□発声、□その他
(1)
2) 自発的に表現する内容:
③ 理解のコミュニケーション
1) 効果的な指示・伝え方:□言語指示(単語・二語文以上)、□文字(ひらがな・漢字)
□簡単な文、□ジェスチャー、□絵・写真、□物の提示、□見本の提示、□手添え
2) 認知レベル(わかるもの)
:□物の区別、□物の名称、□形・色の区別、□形・色の名称
□形・色のマッチング、□ひらがなを読む、□簡単な単語(名詞・動詞)が読める
□簡単な文が読める、□お金の区別、□金銭の大小、□数える(一けた・二けた)
□時計が読める(アナログ・デジタル)、□簡単な足し算・引き算ができる
□交通標識の意味、□信号の意味、□卓上ゲームのルール、□危険の認識
12
第
1 章 身体拘束に関するガイドライン
行動支援計画書(A)
利用者アセスメントシート(2)
行
動
④ 職業/学習スキルと態度
1) 得意な作業・教科とその理由:
特
性
2) 苦手な作業・教科とその理由:
・
能
3) 集中して課題に取り組むための配慮・工夫:
力
な
ど
⑤ 身辺自立【特異な行動があれば記入】
(2)
※P=自立、E=芽生え(ある程度できる)、F=できない
1) 食事
□P、□E、□F
【
】
2) トイレ小
□P、□E、□F
【
】
3) トイレ大
□P、□E、□F
【
】
4) 歯磨き
□P、□E、□F
【
】
5) 入浴
□P、□E、□F
【
】
6) 着替え
□P、□E、□F
【
】
7) バスや電車 □P、□E、□F
【
】
⑥ 余暇スキル、興味関心、好き嫌い
1)ほめられるのは好きですか?
□はい、□ふつう、□いいえ、□不明
2)音楽やテレビ、パソコンは好きですか? □はい、□ふつう、□いいえ、□不明
3)運動・スポーツは好きですか?
□はい、□ふつう、□いいえ、□不明
4)お金をもらうのは好きですか?
□はい、□ふつう、□いいえ、□不明
5)買い物や外出は好きですか?
□はい、□ふつう、□いいえ、□不明
6)行事やパーティーは好きですか?
□はい、□ふつう、□いいえ、□不明
7)ふだんの自由時間の過ごし方
【
】
8)コレクションしているもの
【
】
9)好きな食べ物・飲み物
【
】
10)嫌いな食べ物・飲み物
【
】
感
□音:
具体的に【
】 服
□あり □なし
覚
□光:
具体的に【
】 薬
具体的に
の
□味覚: 具体的に【
】 の
問
□触覚: 具体的に【
】 有
題
□におい:具体的に【
】 無
□その他:具体的に【
】
13
身体拘束編
第1部
行動支援計画書 B
行動支援計画書(B)
支援内容アセスメントシート(1)
利用者氏名:
生年月日:
年
月
事業所名:
日
性別:
記入者:
年齢:
記入日:
印
年
月
事業種別:
スケジュール調査(ふだんの生活の流れと、支援が必要な点)
<平日>
<休日>
起床
起床
午前
午前
午後
午後
夕方
夕方
就寝
就寝
睡眠リズム
生活
環境
①居住場所
□安定、□不安定
睡眠リズム
□良い、□ふつう、□悪い
説明:
②日中活動場所 □良い、□ふつう、□悪い
説明:
③地域活動や休日の過ごし方 □良い、□ふつう、□悪い
説明:
支援
体制
①居住場所
□良い、□ふつう、□悪い
説明:
②日中活動場所 □良い、□ふつう、□悪い
説明:
③地域活動や休日の過ごし方 □良い、□ふつう、□悪い
説明:
14
□安定、□不安定
日
第
1 章 身体拘束に関するガイドライン
行動支援計画書(B)
環境・対応アセスメントシート(2)
現
状
①支援者の障害特性理解
□十分である、□ふつう、□不十分
説明:
の
支
援
②個別の評価(アセスメント)
□十分である、□ふつう、□不十分
説明:
内
容
③本人に適した課題・活動の提供
□十分である、□ふつう、□不十分
説明:
④本人に適した「見通し」の提示
□十分である、□ふつう、□不十分
説明:
⑤本人に適したコミュニケーションツール □十分である、□ふつう、□不十分
説明:
⑥本人の不安や混乱を避ける対応・配慮
□十分である、□ふつう、□不十分
説明:
⑦本人の嫌悪刺激を避ける対応・配慮
□十分である、□ふつう、□不十分
説明:
こ
【対象となる利用者の行動】
支
れ
援
ま
に
で
お
の
【これまでの行動改善対策の概要】
け
行
る
動
今
改
後
善
の
対
展
策
【効果と課題】
【本人・家族の希望】
【事業所・支援機関の要請】
望
15
第1部
身体拘束編
行動支援計画書 C
行動支援計画書(C)
支援計画実施・報告シート(1)
利用者氏名:
記入者:
事業所名:
記入日:
エリア名:
担当者名:
印
年
月
日
利用者支援チーム:
行
環
動
境
の
要
記
因
【いつ】
【どこで】
述
【どういう状況で】
行
【障害特性の視点】
動
の
理
由
【環境や直接対応との相互作用の視点】
・
原
因
改
【過ごしやすい生活環境の提供】
善
計
画
案
【本人への直接対応の見直し】
の
概
要
【その他の対策】
※成功の可能性
□高い、□中ぐらい、□低い
※機能性、実用性 □高い、□中ぐらい、□低い
※緊急性
16
□高い、□中ぐらい、□低い
第
1 章 身体拘束に関するガイドライン
行動支援計画書(C)
支援計画実施・報告シート(2)
利用者氏名:
記入者:
印
事業所名:
記入日:
エリア名:
担当者名:
年
月
日
利用者支援チーム:
改
【行動改善目標】
善
計
画
【環境改善目標】
目
標
【開始予定日】
年
改
【目標達成予定日】
月
日
年
月
日
【実施プラン1】
善
計
画
の
【実施プラン2】
内
容
実
実
施
施
経
経
過
過
①
②
目
標
達
成
状
況
【報告日】
年
【報告者】
月
日
印
17
第1部
身体拘束編
行動支援計画書 D
行動支援計画書(D)
行動分析シート(1)
利用者氏名:
記入者:
事業所名:
記入日:
エリア名:
担当者名:
印
年
月
【ターゲットとなる行動の記述】
行
【日時】
年
動
【直前の状況】
月
日 am/pm
:
【場所】
【本人の行動】
【周囲の対応】
記
録
①
行
【日時】
年
月
日 am/pm
:
【場所】
【日時】
年
月
日 am/pm
:
【場所】
動
記
録
②
行
動
記
録
③
検
討
メ
モ
予
防
プ
ラ
ン
18
日
第
1 章 身体拘束に関するガイドライン
行動支援計画書 E 行動制限・身体拘束の実施について
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19
第1部
身体拘束編
行動支援計画書
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20
第
第
2
2 章 障害のある人は拘束や隔離についてどう考えるか
オーストラリア ビクトリア州ヒューマンサービス省
章 上級プラクティショナー局(Office of the Senior Practitioner)
障害のある人は拘束や隔離についてど
う考えるか—平易な英語版
拘束や隔離とは ?
すべての人は、自由にどこにでも行く権利があります。しかし時に人は、自分を傷つけたり、他の人を傷つけたり、
わざと物を壊したりするような行動をとることがあります。このような行動は「課題」となる行動という言葉でよ
ばれます。そこで周りの人はこうした行動を止めようとすることがあります。それを「拘束」といいます。
拘束には2つの種類があります :
• その行動を変えるために、薬を飲ませること
• 紐やベルトのようなものを使って、人を動けないようにさせること
人々の行動を止めるのには、もうひとつの方法があります。それは隔離と呼ばれます。隔離とは、人が出られな
いような部屋や場所に閉じ込めることです。
ビクトリア州では、たくさんの障害のある人々が、拘束されたり、隔離されたりしています。
• 行動を変えるために薬を飲まされる人がいます。
• 支援スタッフから押さえつけられる人がいます。
• 家に閉じ込められたり、食器棚に鍵をかけられている人がいます。
• 友達や一緒に住んでいる人がこうしたことをされているのを見ている人がいます。
上級プラクティショナー局(OSP)は、障害のある人が、隔離や拘束についてどう思っているのかを知りたい
と思いました。そこで、特別なプロジェクトを立ち上げ、調べてもらうことにしました。調査をお願いしたのは、
RMIT 大学の4人での研究者です。なお、
そのうちの 2 人は障害があります。この人たちは研究者と呼ばれています。
研究者たちは大学に、この調査をする許可を求めました。この許可は「倫理規定」とよばれます。調査によって誰
も傷つけられないことを確認するためです。
研究者は何をしたのか ?
研究者たちは、障害のある 21 人に聞き取り調査をしました。その人たちの経験を話してもらうためです。皆でお
昼ご飯を食べてから、参加者は3つのグループに分かれます。それぞれのグループではビデオを見て、それについ
てどう考えたかを話しました。研究者は、そこで話された内容を録音しました(これは最初に全員から許可をもら
いました)
。
4本のビデオでは、拘束や隔離の場面を演じていました。
1) 男の人が部屋に閉じ込められていて、支援者はわざとドアの鍵を開けなかった。
2) 男の人が、冷蔵庫に鍵がかかっているので中のもの取り出せないことに怒っていた。それを見ていた支援者は、
「大好きなTVでサッカーの試合を見るのは禁止だぞ!」と言って脅した。
3) 女の人が危険なものを飲もうとした。それを見た支援者は腕をつかんで、彼女を止めた。そして彼女を落ち着
かせるために薬を飲ませた。
4) 男の人がいきなり他の入居者を殴った。それを見た何人かの支援者が駆け寄ってきて、何も聞かずに男の人を
床に押さえつけた。
研究者たちは、皆でビデオについて話した後、気持ちが落ち込んだり、動揺したりしている人がいないか確認を
しました。動揺した人たちがいたので、安心できるように助けました。研究者は1週間後に参加者に電話して、大
21
第1部
身体拘束編
丈夫か確認もしました。
障害のある人たちは、拘束と隔離についてどんなことを言ったか ?
彼らは、ビデオを見た後、その内容について、いろいろなことを言いました。
ドアに鍵をかけたり、薬を飲ませたり、床に押さえつけたりすることは、問題ないと考えた人たちがいました。支
援者は、安全を守るためにそうしたのだろうと考えたからです。
ビデオに出ていた人は勝手に外に出ようとするから、悪いことをしたから、仕方ないと思った人もいました。別
の人は、支援者が障害のある人を押さえつけているビデオのことを「
(それが支援者の)お仕事だから、仕方ない」
と言いました。
しかし中には、ドアに鍵をかけたり、薬を飲ませたり、床に押さえつけたりするのはよくないと考える人たちも
いました。ある人は、
「こうした行動(施錠、投薬など)に、怒りを感じる。支援者は障害のある人に選ばせるべき
だ」と言いました。
障害のある人は、
自分も同じような拘束をされたことがあると言いました。他の障害のある人が「課題となる行動」
をとったり、拘束されたのを見たことがあるという人もいました。
そういったことが起こったとき、抗議した人もいました。しかし多くの人たちは、抗議しませんでした。そうす
ることでトラブルに巻き込まれるのではないかと考えたからです。そしてこの件に関しては、自分に何もできるこ
とはないと考えた人もいました。
多くの人は、自分には立場を主張する権利があるということを知りませんでした。彼らは拘束と隔離に対して、
自分にできることがあるということに気がついていませんでした。
研究者は、最終的に何と言ったのか ?
これらの調査から研究者たちは、障害のある人が拘束や隔離についてどう考えているかを多くのことを学ぶこと
ができました。今回判ったことの多くは、問題とすべき事柄でした。
多くの障害のある人たちは、自分の持っている権利について知りませんでした。よくないと思っても、どう苦情を
述べていいのかわからない人たちもいました。苦情を述べることができないと感じている人たちもいました。苦情
を述べても何も変わらないと思っている人もいました。拘束は人々の安全のめに行われるので、してもよいと考え
ている人もいました。
しかし、多くの研究者や他の人々は、
「拘束をするべきでない」と言っています。人を拘束することは、権利を奪
うことであり、拘束によって人がより安全な状態になることはないからです。
研究者は、事態を改善するためにどうするべきだと言ったか?
研究者たちは、障害のある人たちにとってよりよい状況をつくるためのいくつかの提案をしました。
• 障害のある人は、いつも自分が多くの安心できる環境にあると感じられるべきである。
• 支援者が手薄だと、多くの問題が起こっている。もっと自分たちのことを判って支援者が増えていれば、人々
は安心感を得ることができる。
• 障害のある人は、自分が受けているサービスについて、どう思うか、意見を言えることが可能であるべきである。
また、
障害のある人は支援者についての意見を言うことが可能であるべきである。また、
他の福祉事業所を訪問して、
そこで行われているサービス内容について、意見を言えるべきである(これを「評価」といいます)
。
• 障害のある人は、どこに住むか、誰と生活するか、支援者が誰であるか、また自分らしく生活するためにどれ
だけの支援がいるのか、それらを自分で選ぶことができる必要がある。
• 障害のある人には選ぶことが保障されているべきである。たとえ選択することが難しいことでも同様である。
• 障害のある人は、その人に適した個別計画を持ぅているべきである。有意義な目標をもち、それに到達するた
22
第
2 章 障害のある人は拘束や隔離についてどう考えるか
めの支援が保障されるべきである。
• 障害のある人は、自分のもっている権利を知る必要がある。
• もっと自らの権利擁護ができるようにする必要がある。
• 障害のある人は、もっと苦情が言えるようになることを保障されるべきで
ある。心配事があれば、電話で、家族や友達、あるいは相談機関にそれを話すことができるように保障すべきである。
• 支援者は、もっと障害のある人の権利と拘束について理解すべきである。どういう状況では拘束という手段を
用いてはならないかを知るべきである。
また、拘束の代替となる対処方法を知らなければならない。
• 障害のある人は、地域に住む人たちのことをもっと知る必要がある。地域の人たちは、障害がある人の安心感
を高める手助けができる。
• 人は誰でも話を聞いてくれて、理解しようとしてくれる人を必要としている。
• 動揺し、怒ってしまうことがある障害のある人をどうあればよりよく支援できるのかについて、皆が考えるべ
きである。拘束と隔離をせずに、障害のある人を支援するにはどうすればよいのかを考えるべきである。
また、研究者たちは、すでに拘束を受けた人を支援することが大事だとも言っています。拘束されたことは、長
い間にわたって人々の心を傷つけることがあります。彼らは自分の身に起こったことを適切に消化していくために
助けを必要としているかもしれません。
ある障害のある人は、
「自分は安全でありたい。今は、安全だと感じられない。拘束をとめるために何かがなされ
なければならない。
」と言いました。障害のある人が、安全で拘束という手段から自由な人生を送るためには、多く
のことが変わらなければなりません。
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13 36 77 をお使い下さい)
、あるいは e メール:[email protected] にてご連絡を下さい。
Office of the Senior Practitioner
What people with disabilities think about restraint and seclusion – Plain English
What is restraint and seclusion?
Everybody has the right to move around freely. But sometimes people hurt themselves, hurt other people, or break things on purpose. These ways
of behaving are called using ‘behaviours of concern’. Other people might want to stop the person from doing these things. Stopping people from
doing things is called
a ‘restraint’.
There are two different types of restraint:
•tablets or a medicine drink to change somebody’s behaviour, and
•things like straps and belts that stop people moving.
There is another way of stopping people from doing things. It is called seclusion. Seclusion is locking people in a room or a place where they can’t
get out.
Lots of people with disabilities in Victoria have been restrained or secluded.
•Some people have been made to take tablets that change their behaviour.
•Some people have been held down by support staff.
•Some people have been locked in their house or had their cupboards locked.
•Some people have seen these things happen to their friends and housemates.
The Office of the Senior Practitioner wanted to know what people with disabilities thought about restraint and seclusion. They asked some people
23
第1部
身体拘束編
to do a special project on what they thought. Four people at RMIT University did the project. Two of the people had a disability. The four people will
be called the researchers.
The researchers asked the University for permission to do the research. This permission is called ethics. It is a way of making sure that nobody
gets hurt doing research.
What did the researchers do?
On the main research day the researchers invited 21 people with disabilities to come and talk about their experiences. The people had lunch and
the researchers got people into 3 groups. The people watched some videos and talked about what they thought about the videos. The researchers
tape-recorded what people said (they got everyone’s permission first).
There were 4 videos of people pretending to be restrained and secluded:
1)A man was locked in his house and the staff wouldn’t unlock the door.
2)A man’s fridge was locked. He got upset and staff punished him saying “You won’t be allowed to watch the footy now!”
3)A woman tried to drink something dangerous. Her staff stopped her by grabbing her arm. They made her take tablets to calm her down.
4)A man hit his house-mate, and then a few staff ran in and pushed him to the ground.
The researchers made sure that everybody felt okay after talking about the videos. Some people felt upset, and the researchers tried to help them.
The researchers called some people a week later to make sure they were feeling okay.
What did the people with disabilities say about restraint and seclusion?
The people had lots of different things to say about the videos that they watched.
Some people thought it was okay to lock doors, make people take tablets, and hold people down. They thought that staff did it to keep people safe.
Some people thought that the people in the videos were being bad. One person said “that person asking to go out is being difficult.” One person
talked about the video of the staff holding a person down. They said “that’s [their] job. What can they do?”
But some people thought that it was NOT okay to lock doors, make people take tablets, and hold people down. One person said “makes you angry
at staff. Staff should give you a choice.”
Some of the people with disabilities said that they had been restrained. Some said they had seen other people use behaviours of concern, and seen
other people restrained.
Some people complained when things happened to them. But lots of people didn’t complain; they thought they would get in trouble. Some people
thought there was nothing they could do about it.
Lots of people did not know that they had rights. They did not know that there are things that can be done about restraint and seclusion.
What did the researchers say in the end?
The researchers learned a lot about what people with disabilities think about restraint and seclusion. A lot of the things that they learned were
very worrying.
A lot of people did not know what their rights were. Some did not know how to complain. Some people did not feel like they could complain. Lots of
people thought it would make no difference if they complained. A lot of people thought it was okay to restrain people; they thought it kept people
safe.
But a lot of researchers and people say that there should be no restraint. They say this because restraining people means taking people’s rights
away; it does not make people safer.
What did the researchers say needs to happen to make
things better?
The researchers had some ideas that might make things better for people with disabilities.
•People with disabilities should always feel safe
•There are lots of problems when there are not enough staff around. People need to have more staff that they know so they can feel safe.
•People with disabilities should be able to say what they think about their services. They should be able to say what they think of their staff.
People with disabilities could visit other services and report on what sort of job people are doing. This is called evaluation.
•People with disabilities need choices: where they live, who they live with, who their support staff are, and how much help they need to live their
lives.
•People need to be able to make choices, even tricky choices.
•People with disabilities should have personal plans. They should have good goals and support to reach their goals.
•People with disabilities need to know their rights.
•There needs to be more self-advocacy.
•People with disabilities need to be able to complain. They need to be able to use their telephone to talk to family, friends or advocates about their
worries
•Staff need to know more about rights and restraint: they need to know when it is not okay to use restraint; they need to know what to do instead
of using restraint.
•People need to get to know people in their community. People in the community can help people feel safer.
•Everybody needs people who will listen to them and understand them.
•Everyone needs to think about better ways to help people who get upset and angry. They need to think about helping people without using
restraint and seclusion.
The researchers also said that it is important to help people who have been restrained. Being restrained can make people feel sad for a long time.
Those people might need help to cope with what has happened to them.
One person said “Want to be safe. Don’t feel safe. Something should be done to stop that.” Lots of things need to change to help people with
disabilities live their lives safely and without restraint.
Do you want this in Braille? Do you want it on a CD to listen to?
If you do, you can email [email protected] or call us on 03 9096 8437.
If you would like this publication in an accessible format,
please phone 9096 8427 using the National Relay Service
13 36 77 if required, or email [email protected]
24
第
2 章 障害のある人は拘束や隔離についてどう考えるか
資料 1
OSP_gettingitrightfromthestart 1208
Office of the Senior Practitioner
Positive Solutions in Practice:
Getting it right from the start: The value of good assessment
Issue No. 3, 2008
While many assessments can only be given by psychologists, functional behavioural assessment (FBA) is one kind of
assessment that can be completed by disability support workers, parents and anyone who has received some training in
FBA. Getting it right from the start: The value of good assessment has been written for disability support staff and others
(such as carers, parents) who may not be familiar with FBA. This is an introduction to the basic principles of a good
assessment. This article is not intended to be a teaching tool. There are numerous books, training manuals and other
resources that are commercially available on this topic. The following case study will be used to illustrate some of the
important aspects to consider when assessing the function of behaviours of concern.
Rose is a 20-year-old who is very unhappy with her life. Her parents asked her to leave home because they could no longer
cope with her angry behaviour. She had no close friends, no job, and felt there was little purpose to her life. She wanted
the good things in life, but had no real idea about how to get them. She enjoyed contact with her support worker, but when
that person left for the day she felt lonely, bored and sad. Her main way of coping with this terrible sense of isolation,
boredom and sadness was to get away and find a road to lie on and wait for oncoming traffic. Inevitably a nice caring
person would come to her assistance and provide her with company and reassurance she longed for and help her forget
temporarily about the problems in her life.
Rose’s story illustrates:
1. All behaviour is functional—it serves a purpose.
In many cases behaviour is learned, and it continues because the behaviour results in some kind of outcome the person wants.
When asked why Rose put herself and others at risk by lying on the road in front of on-coming traffic she said: “To get out of a
situation I don’t want to be in”. While clearly she needs some assistance to learn better ways of coping, her behaviour was
functional—it got her out of a situation she didn’t like and got her what she wanted; ie., social interaction with a caring person.
2. Behaviour is predictable if (A) happens, (B) behaviour will follow.
Mostly people do things for a reason; for example people work to get money, choose to live with others for company, pump
weights to tone their body. Often if the behaviour serves a good purpose (consequence), people repeat it.
Rose liked to have 1:1 support and be kept busy, as soon as her 1:1 support person left for the day, her way of coping with the
loss of that person was to find another person.
3. People can learn new behaviours
Rose learnt that when she wanted to get out of a situation she didn’t want to be in, i.e., being alone, being bored, etc, she
could select from a number of other activities she liked, such as cooking, using the computer, having a chat with someone in
the house to cope. If she needed to talk to someone during the night she was given a crisis telephone number to use.
“Supporting people to achieve dignity without restraints”
25
身体拘束編
第1部
OSP_gettingitrightfromthestart 1208
Getting it right from the start: The value of good assessment
Issue No. 3, 2008
Challenging behaviours and Behaviours of concern
All behaviours serve a purpose, but some behaviours that people show are challenging because it is difficult to understand
exactly what the person is trying to achieve. A challenging behaviour might include someone who plays music too loud and
disturbs neighbours and everyone else in the house. Behaviours of concern are more than challenging, they are a concern or
worry because they are dangerous for the person and others. (Although playing loud music is annoying and may disturb the
sleep of others, it won’t actually cause significant harm to others). Rose’s behaviours were of concern because people driving
cars had to stop suddenly or swerve to one side of the road to avoid hitting her. The likelihood of causing significant harm to
herself or another person was high.
Functional behavioural analysis
Functional behavioural analysis or functional behavioural assessment (FBA) is a systematic way to analyse behaviours of concern
and work out what causes the behaviour and how it could be changed to more appropriate behaviour that achieves the same
function. This is what is needed if you are to get the intervention right from the start. An intervention that is based on an FBA is
more likely to produce better results.1 A FBA requires you to ask and answer the following questions:
1.
What is the
behaviour of
concern?
(defining the
behaviour in terms
of what you see)
What is the behaviour of concern? (describe the behaviour in terms of what you see).
The first thing to do when conducting a FBA is to describe the behaviour so that everyone has a good
picture of exactly what the person is doing.
John was often physically aggressive towards others who shared his house. He would often punch them
as they walked past him if he felt they were too close.
John’s behaviour had been described by support staff as “Physical aggression”. This description is too
vague. “Physical aggression towards others” is still too vague, but using the description “Physical
aggression towards others by punching them with his right fist” is very clear. If the behaviour of concern
is not described in a clear way, others who support the person will not know what the behaviour to look
out for is and therefore will be unlikely to provide John with help needed when the behaviour occurs.
When does the behaviour occur? (triggers; events that happen immediately before the behaviour; or
setting events that is, event(s) or the context that may “set the scene” or context for the behaviour to occur).
2.
When does
the behaviour
occur?
Here you need to think about what times, places, circumstances or prior events the behaviour occurs?
For John this was any time when there were many people in his home and if something upset him.
Rose’s behaviour of concern occurred most often when her 1:1 support person left for the day, but it
could also occur if something upset her. On one occasion her behaviour occurred after an argument with
another housemate. It is a good idea to look at the person in different environments (work, home,
leisure) because sometimes behaviours of concern occur in some environments and not others. It is
also a good idea to consider whether there are any setting events or contexts that might explain why
someone acts as they do.
A “setting event” refers to an event that affects the person in some way; for example, Marcus may be
grieving for personal reasons; hence it may not take much for him to be easily upset or he may not agree
to undertake certain activities. Thomas may not be feeling well because he recently had a painful
surgical procedure and at the moment is not feeling 100%.
“Context” may include past experiences that may have been traumatic, threatening or unpleasant for the
person and may have led the person to respond and behave in a certain way. For example, Angeline hits
staff who come to close to her personal belongings or when they try to help her do laundry. She used to
live in a place where she did not get her belongings back after laundry. Fred uses a wheelchair and he
does not like to shower because in the past, he was placed in a shower trolley and his face was sprayed
with a shower hose that made the experience threatening to him.
1. Tasse, M.J. (2006). Functional behavioural assessment in people with intellectual disabilities. Current Opinion in Psychiatry, 19, 475-480.
“Supporting people to achieve dignity without restraints”
26
第
2 章 障害のある人は拘束や隔離についてどう考えるか
OSP_gettingitrightfromthestart 1208
Getting it right from the start: The value of good assessment
Issue No. 3, 2008
3.
What happens
just before
the behaviour
of concern?
(warning signs)
What happens just before the behaviour of concern? (warning signs; how does the person show
others that he or she are getting upset).
Mary lives in a house with three other women. She gets along really well with two of the residents
and does not like Kathy because Kathy teases her all the time. Mary uses sign language and each
time Mary signs to staff, Kathy laughs. Mary goes red in face, begins to sweat, stops signing to staff
and storms off to her room. When Mary shows these warning signs she will often look for Kathy and
shove her.
David raises his clenched fist and vocalises loudly at anyone who walks into his room unannounced.
He will then hit the person entering his room.
What happened just after the behaviour of concern? – consequences.
4.
What happened
just after the
behaviour of
concern?
Fred does not like showers or baths. In fact he really does not like getting his face wet at all. Staff
have tried explaining to Fred why showers are so important and even got him a soap that smells
exactly the same as his favourite aftershave. Every time that staff say it’s time for a shower, Fred
verbally threatens and at times can become physically aggressive towards staff; e.g. using both his
hands to push staff away. As a result staff refuse to assist Fred in the shower because they are
afraid they might get hurt. Fred has worked out that if he uses behaviours he will then get what he
wants, which is no shower (the consequence).
What is the person communicating through their behaviour?
5.
What is
the person
communicating
through their
behaviour?
Using the information about the person’s likes, dislikes, strengths and abilities etc, and information
gained from steps 1-4 of the FBA we can now piece together the person’s reasons for using the
behaviours they do. We then need to ask: What is the person trying to tell us when they use these
behaviours?
Common reasons why people use behaviours of concern can be found in the Questions About
Behaviour Function (QABF)2:
• Attention e.g. social interaction, reaction
• Escape e.g. escape from doing something
• Non-social e.g. nothing else to do
• Physical e.g. in pain, physically uncomfortable
• Tangible e.g. to get access to a preferred activity
• Sensory e.g. to experience some kind of sensation
For Rose the behaviour appeared to have two main functions:
(1) Escape; it got her away from having to deal with bad feelings or angry people.
(2) Social Interaction: it always got her the care and concern she wanted from other people.
2. QABF available at http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6VDN-40PXNCD-5&_user=727635&_rdoc=1&_fmt=
&_orig=search&_sort=d&view=c&_acct=C000040620&_version=1&_urlVersion=0&_userid=727635&md5=456ef875b463c11646c43cd
3b8b31bcc
“Supporting people to achieve dignity without restraints”
27
身体拘束編
第1部
OSP_gettingitrightfromthestart 1208
Getting it right from the start: The value of good assessment
Issue No. 3, 2008
What positive support strategies might work?
6.
What positive
support
strategies
might work?
There are a range of positive support strategies that can be used, however selection needs to be
individualised based on the person’s strengths, goals and needs. First ask what are the goals for the
person? What does the person want from their life? This information should be based on knowledge
that you have of the person; i.e., person-centred plan, lists of likes and dislikes, knowledge of a
person’s strengths and communication abilities.
For example, we know that Rose wants positive regard and care from other people. Therefore, what
does she need to learn to reach this goal?
• She needs to be supported to learn an alternative and more effective way of requesting social
interaction; that is, how to get positive attention from other people in socially appropriate ways.
In terms of requesting social interaction it may be useful for Rose’s 1:1 support worker to assist her
with setting up a scrap book in which Rose can keep her drawings in. This scrapbook can provide
Rose with topics that she can use in chats with other staff that work in the house she lives.
• Rose needs to learn more appropriate coping strategies for dealing with daily hassles; such as,
relaxation techniques, or developing plans of action or a list of things to do when bored, angry
or frustrated.
• Rose needs to be kept busy when her one-to-one support worker leaves for the day, preferably
doing things that Rose enjoys like helping to prepare dinner.
The intervention needs to be clear and it would be good for all support staff to be familiar with the
strategies so that they know how to best support Rose. Confronting Rose or telling her off probably
won’t help because Rose will still want to escape from this.
Following is a positive intervention framework that can be used as a guide to the appropriate selection of
strategies. In designing a behaviour support plan for Rose it is important to use a person-centred
approach. This means speaking with Rose and those who knew her well, about her likes and dislikes,
hopes and dreams, strengths and abilities, the impact of any physical and psychological issues and
environmental barriers.
Proactive Strategies
“Supporting people to achieve dignity without restraints”
28
Reactive Strategies
第
2 章 障害のある人は拘束や隔離についてどう考えるか
OSP_gettingitrightfromthestart 1208
Getting it right from the start: The value of good assessment
Issue No. 3, 2008
An example of an intervention framework for Rose
Proactive Strategies
Reactive Strategies
Environmental Strategies
Short term change strategies
Skills training
What is happening in Rose’s
environments?
How can the person be supported
to not use behaviours of concern?
What skills does the person need
to learn?
At home?
Support Rose by use of:
Rose needs to learn:
• Rose doesn’t like one of the
housemates.
• Active support especially during
times all housemates in house
together.
• Coping skills including relaxation.
• Would it help to move Rose to
another house? Or another
bedroom in the house where she
is less likely to come in contact
with her housemate?
• Rose doesn’t like to be alone
ever.
• Clear expectations
an activity based board of
daily/weekly activities (this will
help Rose and other housemates
remember what is coming up
and who is responsible)
• Rose likes animals, would it help
to get her a dog that can keep
her company?
At work/day placement?
• Rose currently does not access
work or a day placement.
In the broader community?
• Rose likes animals, having a
dog may increase her contact
with others in the community
on walks.
• Other opportunities.
• Teach problem-solving in a step
by step fashion, so she knows
what to do when issues arise.
- What is the problem?
- What are some solutions?
- Which are the best solutions?
- Reflecting on how well the
solution worked etc.
• Teach Rose to care and for a
dog.
What to do if the person shows the
behaviour concern?
Response plan for staff might
includes:
• List of triggers (house mate
returns home).
• List of warning signs (eg.,yelling
at housemate).
• De-escalation strategies that are
graduated that is begin with the
least restrictive intervention
such as acknowledging that
Rose is upset and distraction
“Lets go for a walk”.
• Do not confront or tell off as
this will make Rose use her
escape strategy.
• Assessment of skills, interests,
learning needs and options for
work to be undertaken.
• Undertake work training.
• Escape communication training
encouraging her to signal to staff
she wants to escape.
Help Rose increase her social
networks
Response plan for staff might
includes:
Support Rose:
• List of triggers (having an outing).
• To attend a dog training group.
• List of warning signs (e.g. getting
upset with someone, not having
enough money to buy what she
wants).
None required.
• Make sure work training takes
into account learning strengths
and weaknesses.
• To attend a cooking club.
• Explore other options around
her interests.
• De-escalation strategies such as
acknowledging that Rose is
upset and distraction “Lets sit
over here and relax for a while”.
• Encourage her to put on her
music and listen.
• Do not confront or tell off as this
will make Rose use her escape
strategy.
Finally, we need to review the interventions and ask: What worked and what needs to change?
7.
Review:
What works
and what
needs to
change?
We might have been wrong about Rose’s reasons for behaviours of concern and find out that
she lies on the road for another reason; that is, she is depressed and requires a psychiatric assessment
and may require antidepressants and regular counselling sessions for grief over the loss of her mother
when she was young. Review is an important and continual process. Depending on the outcome of the
psychiatric assessment, we would need to review the effect of the prescribed therapy after a period of
time and once again ask: What is working and what needs to change? For instance, it may be case that
music therapy is more effective for Rose than talking therapy.
“Supporting people to achieve dignity without restraints”
29
第1部
身体拘束編
OSP_gettingitrightfromthestart 1208
Getting it right from the start: The value of good assessment
Issue No. 3, 2008
Some cautionary notes
1. A FBA that is done properly can lead to improvements in the quality of life for people with a disability who show
behaviours of concern.3 A good FBA is based on careful observation, not opinion or intuition. One solution is to obtain
training in FBA.
2. It is unlikely that the intervention will be implemented if it is not included in the person’s behaviour support plan.4
A behaviour support plan clearly documents how best everyone can support the person when they show behaviours
of concern.
3. The wording of intervention strategies is important. Negative wording such as “Don’t lie on the ground” has been found
to lead to the problem behaviour, whereas, requests worded in the positive; e.g., “Please come and sit on the chair and
play a game of cards” leads to less problem behaviours.5
A good FBA requires team work.6 The best FBA is well informed and takes into account everything possible about the person
(that is, their goals, as well as their physical, psychological and learning needs). A referral to an experienced behaviour support
practitioner is recommended if additional support is required in completing an FBA.
The bottom line is that good functional behavioural assessment leads to evidence based interventions and is more likely
to make a positive difference to the quality of life of people with a disability who shows behaviours of concern.
Written by Dr. Lynne Webber, Hellen Tzanakis, & Jeffrey Chan (Office of the Senior Practitioner).7
For more information please contact Lynne Webber at [email protected]
3. Tasse, M.J. (2006). Functional behavioural assessment in people with intellectual disabilities. Current Opinion in Psychiatry, 19, 475-480.
4. Blood, E. & Neel, R.S. (2007). From FBA to Implementation: A look at what is actually being delivered. Education and Treatment of Children, 30 (4), 67-80.
5. Hanley, G.P., Iwata, B.A. & McCord, B.E. (2003). Functional analysis of problem behaviour: A review. Journal of Applied Behavior Analysis, 36, 147-185.
6. Sclafani, M.J., Humphrey, F.J. Repko, S., Ko, H.S., Wallen, M.C. & DiGiacomo, A. (2008). Reducing patient restraints: A pilot approach using clinical
case review. Perspectives in Psychiatric Care, 44, 32-39.
7. Adapted from La Vigna, G. & Willis, T. (1995). ‘Challenging behaviour: A model for breaking the barrier to social and community integration.’
Positive practices 1:1, 8-15
Authorised by the Victorian Government,
50 Lonsdale Street, Melbourne.
February 2008
“Supporting people to achieve dignity without restraints”
30
第
2 章 障害のある人は拘束や隔離についてどう考えるか
資料 2
Behaviour Support Plan
Person’s name:
Address:
Title
First Name
Surname
Behaviour Support
Plan Date:
Street no. Street
Date of
Birth:
Suburb
dd/mm/yyyy
CRIS
Number:
Postcode
Review
Date:
dd/mm/yyyy
dd/mm/yyyy Plan Prepared By:
Title
Position and
Agency/Organisation
List all agencies/
Disability Service
Providers who would
implement supports in
accordance with this
plan:
First Name
Surname
Contact
Phone:
Lead Agency/ Disability Service Provider
address:
Street no. Street
People consulted in
developing the plan:
Suburb
Postcode
Name, Position/relationship
Assessment Report/s
used: (Include title,
author and date of
reports.)
Title, author, dd/mm/yyyy
Is more than one Disability Service Provider, agency or setting proposing to use Restrictive
Interventions?
!Yes
!No
If yes, who? (List all settings/agencies which propose to apply restrictive interventions)
Approving Authorised Program Officer/s:
(List names of all APOs who approve the proposed Restrictive Interventions contained in this plan)
APO Name
Position Title
Disability Service provider
Authorised Program Officer must complete APO Approval and Checklist on Pages 2 – 3.
/Users/tact1/Documents/Microsoft /
/osp_bsp_template_doc_2007[1].doc
Office of The Senior Practitioner
Department of Human Services
1
31
第1部
身体拘束編
Behaviour Support Plan
PART A:
Authorised Program Officer Approval and Checklist
This approval form and checklist covers relevant legal obligations and responsibilities of the
APO in approving the use of Restrictive Interventions within the Behaviour Support Plan. In
approving the use of Restrictive Interventions, the APO should be satisfied that the plan
addresses the clinical and person centred support needs of the person to whom it applies.
Please sign a separate APO Approval and Checklist form as applicable to each setting/agency, which
proposes to use restrictive interventions as described within the Behaviour Support Plan.
Sec 140:
I approve the use of restrictive interventions to be applied within:_______________________
____________________ (add setting or service outlet) of:______________________ (add
name of your agency/Disability Service Provider) as proposed within the Behaviour Support
Plan, for the period ___/___/____ to ___/___/____
Additional Comments:
Use this space to add comments or recommendations you consider necessary. For example factors to be considered in
the plan when it is reviewed.
Sec 141:
I am satisfied that this Behaviour Support Plan adequately addresses the following provisions
of the Act:
Sec 141 (2): The BSP include information which:
(a) state the circumstances in which the proposed form of restraint or seclusion is to be
used for behaviour management;
(b) explain how the use of restraint or seclusion will be of benefit to the person;
(c) demonstrate that the use of restraint or seclusion is the option which is the least
restrictive of the person as is possible in the circumstances
Sec 141 (3):
I am satisfied that the person/s responsible for developing the Behaviour Support Plan
has/have consulted adequately with:
(a) client/person with a disability;
(b) person’s guardian, if there is one;
(c) a representative of all other DSP who are involved in the person’s life; and
(d) any other person integral to the development of the BSP.
/Users/tact1/Documents/Microsoft /
/osp_bsp_template_doc_2007[1].doc
Office of The Senior Practitioner
Department of Human Services
32
2
第
2 章 障害のある人は拘束や隔離についてどう考えるか
Behaviour Support Plan
Sec 143:
Independent Person
I have ensured that Mr/Ms _____________________ who is_________________ (state
relationship to client, e.g. friend, parent, relative, community member etc) was present as an
independent person on ____/____/_____ (Date) to explain to the person with a disability for
whom this BSP applies, the inclusion of proposed use of restraint or seclusion and all other
requirements as stated under Sec 143 (1) of the Act.
Sec 145 (3):
I confirm that ___________________________ (state who has sent the advice) arranged for
Mr/Ms_______________________ (insert person’s name) to receive written advice of the
inclusion of RI and/or seclusion in this BSP at least two days prior to enacting the proposed
use of restraint and/or seclusion.
Other Comments and recommendations
__________________________
Signed
_______________________
APO Name
Date: ___/___/_____
_______________________
APO Title
/Users/tact1/Documents/Microsoft /
/osp_bsp_template_doc_2007[1].doc
Office of The Senior Practitioner
Department of Human Services
3
33
第1部
身体拘束編
Behaviour Support Plan
PART B:
SECTION 1: ASSESSMENT
1.1 Nature of disability/disabilities
(Include level of intellectual disability, mental health status, medical, communication abilities, strengths and weaknesses)
1.2 Person’s goals
(Include here all individual aspects about the person, in terms of work, school, recreation. What kinds of activities does
the person enjoy?)
1.3 Behaviour/s of Concern
Based on Functional Behavioural Assessment:
a) Describe the behaviour/s of concern.
b) Briefly describe the impact of the behaviour on the person and others.
c) What are the predictors for the behaviour? (What are the situations in which the behaviour is likely to occur?).
d) Frequency or intensity or duration of behaviour (daily, weekly etc).
1.4 Observation and Analysis
a) Those who know the person well believe the behaviour of concern occurs because: (What is the function of the
behaviour ie. to avoid something, to act out confusion, to gain intimacy).
b) What environmental changes, structure and supports are needed to stop the person using this behaviour? (What
changes need to occur with and around the person in order to remove the likelihood of behaviours of concern).
c) Critical alerts: Other behaviours to be aware of.
SECTION 2: POSITIVE INTERVENTIONS
2.1 Alternative behaviours that meet the same need
a) What should the person be doing INSTEAD of the behaviour of concern? (How should the person get their needs met
in an acceptable way?)
2.2 Positive strategies
a) What strategies need to be developed? (ie. in order to teach an adaptive behaviour, what steps need to be taken?)
Provide a summary of steps with reference to the person’s individual support plan or attach a copy of the strategies.
b) Who is responsible for implementing the program?
SECTION 3: RESTRICTIVE INTERVENTIONS
3.1 Restrictive interventions
a) What restrictive interventions will be used? (List least restrictive first e.g., self-management prompt first, then to
assistance etc.)
/Users/tact1/Documents/Microsoft /
/osp_bsp_template_doc_2007[1].doc
Office of The Senior Practitioner
Department of Human Services
34
4
第
2 章 障害のある人は拘束や隔離についてどう考えるか
Behaviour Support Plan
b) Why is the restrictive intervention being used?
c) Circumstances under which the restrictive intervention will be required.
d) What measures will be used to monitor the effect of the restrictive interventions?
e) How and when is it to be reviewed?
f) Who authorises the restrictive interventions?
SECTION 4: REVIEW: EVALUATION OF INTERVENTIONS
4.1 Results of positive interventions
a) What works well in reducing behaviours of concern? (What evidence will be used to measure this?
b) What doesn’t work well to reduce behaviours of concern? (what evidence will be used to determine this?)
4.2 Results of restrictive interventions
a) What was the effect of the restrictive intervention on behaviours of concern? (in the short term and in the longer
term?)
b) What was the effect of the restrictive intervention on the person’s quality of life (might consider some of Schalock and
Alonso domains: e.g., Physical Well-Being, Emotional Well-Being, Relationships with others, being included).
SECTION 5: REVIEW
5.1 Assessment
Observation and analysis conclusion:
Do changes need to be made to existing programs / behaviour support plans?
What needs to change?
!Yes
!No
Are environmental supports or changes necessary?
Which are needed?
!Yes
!No
Is this level of restrictive intervention still required?
What level is required?
!Yes
!No
Is the restrictive intervention still required?
When was it required last? (date)
!Yes
!No
5.2 Follow-up
a) What changes need to be made to the BSP?
/Users/tact1/Documents/Microsoft /
/osp_bsp_template_doc_2007[1].doc
Office of The Senior Practitioner
Department of Human Services
5
35
STAR Charts
Date
Time
Setting where? Who
was there? What was
happening?
Triggers What
happened
immediately
before the
incident?
Action What
did the person
do? Describe
incident?
Response
What happened
then?
Duration &
frequency
36
身体拘束編
第1部
Getting-it-right-from-the-start-Star-Charts-0508
出典:オーストラリア ビクトリア州 ヒューマンサービス省
http://www.dhs.vic.gov.au/disability/about_the_division/office_of_the_senior_practitioner/publications
第
第
3
1
章
3 章 身体拘束・行動制限の廃止に向けた取組
身体拘束・行動制限の
廃止に向けた取組
現状の課題と今後の展望
身体拘束・行動制限の廃止に取り組むことの意義
現在障害分野における「身体拘束」についての定義はありませんが、自立支援法に「身体拘束の禁止」が明記
されました。介護分野における身体拘束の定義が準用されているのが現状です。しかし、ここで大切なことは定
義を定めることが目的ではなく「廃止」やその最小化が目的であるということです。身体拘束を受ける側からす
れば本人の意思でない拘束や行動制限は、周囲の人・支援する側の都合・言い訳でしかありません。そもそも身
体拘束とは何かということを根本から考えて見なければなりません。人が人の自由を奪うということは、誰人に
も許されない行為であるという認識です。例外は、刑法上の身柄の拘束、あるいは医療における緊急処置時ぐら
いでしょう。これが安易に介護施設や障害施設という生活の場で行われていいのかという問題です。
ある施設で起きた身体拘束問題で当事者団体代表の方が、
「拘束や行動制限が生活の場で行われているという
ことが問題であって、本人の障害を理由にするのならそうした行為に至らなくて済むような環境や支援を行うこ
とが国や行政、また支援者の役割ではないか。
」と、発言しておられたことが強く印象に残りました。これが身
体拘束の廃止に向けての取り組みの原点ではないかと思います。
「身体拘束」は、非人道的な行為であるという認識をもちながらも、対象者の健康や安全を考えた末
に、やむを得ず実施に至るものである。それに対して「虐待」とは、対象者に憎悪感や嫌悪感をもち、
健康や安全を危機にさらすような行為をもって、支援者の言いなりにさせようとするものである。要
するに「身体拘束」の主体は“対象者(障害のある人たち)
”であり、
「虐待」の主体は、
“支援者(障
害者を取り巻く人たち)
”と規定できるのではないか。この原則が壊され、身体拘束の主体が、当事
者から支援者に移り、生命の尊厳、安全までもが脅かされるようになった時「虐待」という言葉に変
容する。
(谷口明広)
私達支援者は、この言葉の意味を真に理解し受けとめなければならなりません。
身体拘束、行動制限の廃止に取り組む意義は、利用者の人権と尊厳を守り、利用者本位のサービス提供を目指
すという支援費制度・障害者自立支援法で示された理念の体言でもあります。また廃止やその最小化に向けた取
り組みの過程を通して利用者の尊厳が重んじられ、尊厳にふさわしい生活が実現される契機となり、土壌となっ
て、支援の質や利用者の生活の質の向上が図られることが重要であり目的でもあると言えます。
(1)組織的取り組みの重要性について
施設長(管理者)が先頭に立って、虐待の根絶を決意し、身体拘束や行動制限の廃止、その最小化に向けて取
り組む姿勢を現場職員に示すことが何よりも大切なことです。
具体的には、管理者・施設長を総責任者とする多職種で構成された「身体拘束防止委員会」
、
「生活改善委員会」
などの検討会を設置し、利用者の人権に関わるすべての支援業務や生活環境について、自由かつ率直に話し合え
る場を持つことが大切です。
特に身体拘束や行動制限にあたっては、
「切迫性」
「非代替性」
「一時性」の3要件を満たし、真にやむを得な
37
第1部
身体拘束編
いものなのかどうか、利用者の立場になって、個別に検討・評価し、その判断基準をこうした検討会の場におい
て明確に示すことが求められています。
また検討の経過や結果についても、家族はもとより、管轄する行政機関(福祉事務所や児相等)に報告・相談
するなど、出来るだけオープンにしていくことが大切です。
そうした積極的な対応が、問題の先送りや漫然たる運営を見直しさせ、当該問題の本質的な解決を導くことに
繋がると考えます。
(2)モデル事例 A 施設 生活改善委員会(身体的拘束その他行動制限廃止マニュアルについて)
当法人では、指定障害者支援施設利用契約書第 14 条 ( 身体拘束の禁止 ) 及び第 15 条 ( 虐待防止のための措置 )
に基づき、そのマニュアルを作成し、より質の高いサービス提供を行うために生活改善委員会を設置します。
1. 当法人において、身体拘束、その他利用者の方の行動を制限する行為は行わないことを原則とする。
指定障害者支援施設利用契約書 第 14 条、第 15 条に明記
2. 身体的拘束、その他行動の制限をすることが緊急やむを得ないと判断する場合、以下の手続きを経て実施する。
①生活改善委員会の開催
委員会の構成メンバー ・総責任者 ( 施設長 )
・委員長 ( 支援部長 )
・生活担当主任 1 名
・日中活動主任 1 名
・発達支援センター 1 名
② A 委員会の検討指針及び内容
利用者の方への行動制限が以下の 3 つの要件を満たす状態であるかどうかを確認する。
①切迫性
利用者の方本人又は他の利用者などの生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく
高いこと。
②非代替性 身体的拘束、その他行動制限を行う以外に代替する方法がないこと。
③一時性
B 緊急に実施と検討しなければならない場合は、1 日 3 回のミーティング会議において協議し、同委 身体的拘束、その他の行動制限が一時的なものである事。
員会へは事後報告するものとする。
C 月 1 回の開催をする。
③ 利用者の方の家族、成年後見人等への説明
「やむを得ない場合」と判断された場合は、施設長の指示に基づき、利用者の方の家族及び成年後見人な
どに連絡、面接して判断内容、やむを得ない理由を委員長+委員 1 名が説明する。
利用者の方の状態の変化の為、上記内容が変更された場合も同上の手続きを行う。
④ 家族、医師、施設長で署名の上、同意書を作成する
3. 日誌、個人ファイルへの記録
実際に身体的拘束その他行動制限を行う場合は、その態様及び時間、利用者の方の心身の状況、緊急やむを得
なかった理由を記録する。
4. 身体的拘束、その他行動制限をなくすことを目標に、生活改善委員会において継続的に検討する。生活改善委
38
第
3 章 身体拘束・行動制限の廃止に向けた取組
員会は身体的拘束、その他行動制限ゼロへ向けて日常的に創意工夫を提案する。
5. 身体的拘束、その他行動制限とは
ここで言う身体的拘束、その他行動制限とは、以下に示す厚生労働省の「( 介護施設における ) 身体拘束ゼロ
の手引き」の身体的拘束事項を参考にする。
厚生労働省
介護保険指定基準において、禁止の対象となる具体的行為
介護保険指定基準において、禁止の対象となっている行為は「身体的拘束その他入所者 ( 利用者 ) の行動を
制限する行為」である。具体的には、次のような行為が挙げられる。
1. 徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る
2. 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る
3. 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)
で囲む
4. 点滴・経菅栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る
5. 点滴・経菅栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限す
るミトン型の手袋等をつける
6. 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y 字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブ
ルをつける
7. 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する
8. 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)
を着せる
9. 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る
10.行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
11.自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する
(3)「A施設」利用者支援内容改善プログラム
39
第1部
身体拘束編
(4)実施計画
事項
第 1 段階 ( 計画 )
第 2 段階 ( 実施 )
第 3 段階 ( 評価 )
・
(新)ガイドラインの策定 (見直し) ・対象利用者ごとに
・行動制限等廃止委員会の開催 ( 毎月 )
・実施後に検討できるような記録様式
実施基準の設定
による利用者ごとの基準の見直しと廃
身体拘束・行動制限の への見直し
・事前の家族等への説明 , 同意 止に向けた検討
廃止
・補職者による事前確認の徹底
・身体拘束・行動制限の実施
・実施内容の詳細な記録
利用者一
人ひとり
の状況を
踏まえた
支援の充
実
個別支援
の充実
日中活動
の充実
生活環境の改善
職員研修の充実
40
・利用者ごとにアセスメントを実施し、
サービス場面ごとに利用者の課題、目
標を具体的に明確化
・関係職員による討議を経て , 個別支援
計画の作成
・評価に必要な情報が得られるような
支援記録様式への見直し
・標準的なサービスの実施方法 ( 支援マ
ニュアル ) の明文化
・利用者等への計画内容の説明 ・評価シートの作成
・個別支援計画に基づく支援の ・計画に基づく支援の実施状況 , 支援に
実施
よる利用者の変化についての評価 , 分
・サービス場面ごとに利用者の 析
状況 ( 変化 ) を記録
・利用者ごとの課題 , 目標の見直し
・日中活動に関する「A施設」の基本的 ・活動方針 , 目標に従った
方針の明確化
日中活動の実施
・現状の問題点の明確化
・基本的方針に基づき , 年度ごとの活動
方針 , 目標 , 活動内容の設定
・利用者から聞き取り等による利用者
満足度の把握
・活動方針に従った日中活動の実施状況 ,
目標の達成状況の評価 , 課題等の分析
・利用者の課題目標を踏まえた活動内
容の見直し
・現状の問題点の整理
・改善のための実施計画の策定
・利用者アンケートの実施による利用
者意見の集約
・改善の実施状況の評価 , 利用者アン
ケート結果も踏まえた更なる改善課題
の明確化
・実施計画に基づく改善
・職員の教育・研修に関する基本的考え方 ・研修の実施計画に基づく研修 ・研修効果の測定。研修実績についての
や研修内容を明らかにした指針の策定
の実施
評価
・指針を踏まえた年度ごとの具体的な ・研修参加者からのレポート提出 ・次年度に向けた課題の明確化
実施計画の作成
第
3 章 身体拘束・行動制限の廃止に向けた取組
虐待防止のための自己チェック表
施設で SDS(セルフ・ディベロップメント・システム)
の一環として自主的な自己啓発活動として認知し、職員が毎日の業務
を自分でチェックすることが有効です。
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(5)施設が取り組む5つの方針
身体拘束廃止に向けては、以下の5つの方針を基本とした取り組みについて、施設全体で支えていくこと
が何よりも重要である。
1. 施設長が決意し、サービス管理責任者が中核となり、施設が一丸となって取り組む。
・トップが現場をバックアップする姿勢を明確にする。
2. 多職種間での議論を活発に行い、共通の実践的意識を持つ
・身体拘束に対する考え方や対応方針について、皆で理解を進める
3. 身体拘束を必要としない状態を常に意識し、その実現を目指す姿勢を示す
・アセスメントの見直しにより、問題行動の原因を探る
4. 環境整備を図り、応援体制を確保する
・拘束廃止の取り組みを促進するため、事故防止対策と職員の応援体制を講じる
5. 常に身体拘束に代わる代替的な方法を考える
・
「緊急やむを得ない場合」を極めて限定的に捉えなおし、いかに解除するかを検討する
(6)施設が取り組む5つの方針
法体系やサービス種別を問わず、職員の配置に関して、余裕のある体制を維持できている障害者施設は多
くはないが、現場における創意や工夫によってより良いサービスを提供している施設は多い。サービスの現
場においては、以下の3つの原則に則り、より適切な支援を実践することが重要である。
41
第1部
身体拘束編
1. 身体拘束を誘発する原因を探りだし、除去する
・身体拘束を行わざるを得ない問題行動の原因を探り、その原因除去について検討する
2. 日常生活における基本的な支援等を徹底する
・
「起床する」「食べる」「排泄する」「清潔にする」「活動する」という事項等について、個々の利用
者ごとに状態像を把握し、その人に合った支援を徹底する
3. 身体拘束廃止をきっかけに「より良い支援」の実現を
・身体拘束廃止の取り組みを通じて、個別支援の実践を継続する
(7)緊急やむを得ない場合の対応
身体拘束をゼロに近づけるためには、障害特性を勘案して個々の支援計画を作成することが何より重要で
あるが、身体拘束を完全になくすことは容易ではない。したがって、緊急やむを得ず身体拘束を行う場合の
判断基準や手続きについて、以下のとおり定めておくことが必要である。
1. 3要件をすべて満たす場合であることを確認する
①切迫性
利用者本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく
高いこと
②非代替性 身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替するサービスの方法がないこと
③一時性
身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること
2. 身体拘束をするようになった判断や手続きについて整理する
・個人でなく施設全体として判断するルールや手続きを定める
・利用者本人や家族に対して、個別に十分な説明を行うルールを確立する
・拘束実施中も、3要件に該当しているか引き続き観察する
3. 身体拘束を行ったことを記録する
・緊急やむを得ず身体拘束を行う場合は、その態様および時間、その際の利用者の心身の状況、緊
急やむを得ない理由を記録しなければならない
・具体的な記録を施設職員及び家族と情報を共有する。
(8)人員配置の充実と環境整備
利用者が見通しを持ちやすい環境。適正な人員配置。そして、職員の支援力の向上が図られ、専門的関与
ができるようになれば、現状での行動制限の大半は廃止できることは間違いありません。そのためには、必
要なマンパワーの確保と居住系施設における、住環境の大幅な改善という、ハード、ソフト両面の現行運営
基準の見直しが、必要不可欠ではないかと思います。
●人員配置の充実
(表 1)入所施設における各時間帯の職員配置 (職員を1とした場合の比率 日本知的障害者福祉施設協会調査)
時間帯
利用者
職員
① 16:00 ~ 21:00
12.43
1
② 21:00 ~ 06:00
22.25
1
③ 06:00 ~ 09:00
12.48
1
デンマークでは、
「特別な人」の場合、一人の利用者に最大 10 人もの職員配置をした上で、鍵を使わない
支援を実現していると聞きます。こうした北欧の国々では、身体拘束を認めない代わりに、人的支援で見守
りができる環境が保障されています。今回の調査結果からも、利用者の方々にもう少し余裕を持った見守り
を実施できるようになれば、不必要な行動制限も減少するとの意見が多く寄せられています。現在の我が国
の税の国民負担率を考えれば、北欧のそれを比べようもありませんが、表1に示された人員配置では、職員
の疲弊は避けられず、夜間早朝等職員の手薄な時間帯における人的対応には限界があるのが明白です。
42
第
3 章 身体拘束・行動制限の廃止に向けた取組
●環境整備
自閉症、強度行動障害や重複障害者、高齢者、病弱な利用者が混在している入所施設では、多くの利用者
が一箇所に集合したり、行き来することにより、相互に過剰な刺激が生まれ、パニックや不穏行動(粗暴・
他害行為)
の誘因となります。利用者の方が安心して居ることができる場所・環境づくりが何よりも必要です。
生活単位の小規模化(5~ 6 人単位)、相部屋(4 人部屋がまだまだ多いのが現状)の解消、個室化によるプ
ライバシーの保護を実現する為に、ユニット制の運営を望む声は多いです。
現状の居住環境の制約もあると思いますが、利用者のプライバシーが確保されるよう、安全性の配慮をし
ながら、相部屋を家具やパーティションで区切るなどの工夫を凝らすなど、今できることから始めることで、
いろいろ改善できるところが見えてきます。利用者にとってわかりやすく、生活機能が構造化されることで、
障害の重い人でも、介護されているという受身な部分が減り、能動的に動けるため、ストレスも軽減されます。
また、生活単位を小規模化することは、居住性を飛躍的に向上させることができます。大切なことは、あき
らめず取り組み続けることです。
(9)小舎制ユニットケアの試み
障害者支援施設 横手踊り 43 番地「庵」での実践事例
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43
第1部
身体拘束編
●基準省令 ①
< 指定障害者支援施設 >
障害者自立支援法に基づく指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準(平成 18 年 9 月 29
日厚生労働省令 172 号)
(身体拘束の禁止)
第四十八条 指定障害者支援施設等は、施設障害福祉サービスの提供に当たっては、利用者又は他の利用
者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限
する行為(以下「身体拘束等」という。)を行ってはならない。
2 指定障害者支援施設等は、やむを得ず身体拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者
の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録しなければならない。
●基準省令 ②
< 指定障害福祉サービス事業所 >
障害者自立支援法に基づく指定障害福祉サービス事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成 18 年 9
月 29 日厚生労働省令 171 号)
(身体拘束の禁止)
第 73 条 指定療養介護事業者は、指定療養介護の提供に当たっては、利用者又は他の利用者の生命又は身
体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下
「身体拘束等」という。)を行ってはならない。
2 指定療養介護事業者は、やむを得ず身体拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の
心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録しなければならない。
(他の障害福祉サービス種別も同様)
●基準省令 ③
< 指定障害児施設 >
児童福祉法に基づく指定知的障害児施設等の人員、設備及び運営に関する基準(平成 18 年9月 29 日厚生
労働省令第 178 号)
(身体拘束の禁止)
第 42 条 指定知的障害児施設は、指定施設支援の提供に当たっては、当該障害児又は他の障害児の生命又
は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他の行動を制限する行為を行って
はならない。
(通所施設等も同様)
44
第
2部
調査編
障害者施設における支援のあり方と
身体拘束に関する調査について
調査目的;
身体拘束指針を検討するために、福祉サービス事業所における身体拘束の実態について
調査することを目的としました。調査項目は、身体拘束事態ごとの実施の有無、身体拘束に
該当する理由、および身体拘束を決定する施設内過程に関する項目として同意・記録・身体
拘束の解除の仕組みなどとしました。
調査対象および配布数・回収数;
調査の対象は福祉サービス提供事業所とし、事業所種別名簿から抽出した 5763 か所に
直接郵送法により配布しました。調査期間は 2011 年 1 月~ 2 月、回収数は 1612 通でした。
調査対象
配布数
共同生活援助
816
共同生活介護
816
就労継続支援B型
820
障害者支援施設
606
身体障害者更生施設
57
身体障害者通所授産施設
217
身体障害者入所授産施設
212
身体障害者療護施設
295
知的障害者通勤寮
96
知的障害者通所更生施設
451
知的障害者通所授産施設
608
知的障害者入所更生施設
605
知的障害者入所授産施設
164
合 計
5763
45
第2部
方法:調査項目
1.身体拘束事態については、以下のようにA群「高齢者における身体拘束禁止事項」11 項目とB群「障害者
施設で起こりうる身体拘束事項」13 項目を設定して設問しました。
表1 A群;高齢者における身体拘束禁止事項
1 ベットから転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
2 動き回らないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。 3 他害など他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
4 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
5 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
6 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、又は皮膚をかきむしったり、
自傷しないように手指の機能を制限するミトン型の手袋等を着用する。
7 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、
Y字型抑制帯や腰ベルト、車いすテーブルを
使用する。
8 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
9 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
10 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
11 本人が外に出ないように、自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。
B群;障害者施設で起こりうる身体拘束事項
1 頭を柱に強くぶつける、自らの体を激しく傷つけるなどの自傷を一時的に
職員の体で制止する。
2 周囲の人に殴る・噛み付く・ける・つばをかける・髪を引っ張る等の他害を
一時的に職員の体で制止する。
3 採血など健康診断において体や腕を一時的に抑える。
4 公道等に急に飛び出したとき、あるいは飛び出さないように職員の体で制止する。
5 てんかんによる転倒による怪我の防止のためのヘッドギヤ ( 頭部保護帽 ) を着用する。
6 自傷防止のためのヘッドギヤ ( 頭部保護帽 ) を着用する。
7 本人が嫌がる身体的自由の制限を伴う療法を行う。
8 場所の移動など、無理やり手を引っ張るような本人が嫌がる対応をする。
9 本人を落ち着かせるために、クールダウン・タイムアウト室 ( 無施錠 ) へ移動させる
支援方法を行っている。
10 本人が嫌がる定時排泄を無理にでも行う。
11 電話・メール利用できないのに無理やり GPS 携帯を所持させている。
12 監視カメラ・センサー等を設置して行動把握をしている。
13 食べ物・飲物を取り過ぎないように職員が体で制止する。
2.上記の身体拘束事態に関する設問は以下のようにしました。
①実施しているか(その理由)
②これらの行為は身体拘束だと思うか(その理由)
③身体拘束を行うときの手続きについて(マニュアルの設置、同意、説明書面、高齢者の身体拘束 3 要件の認知度、等)
1. 身体拘束廃止への手続きについて
2. 身体拘束に関する自由記述設問
46
障害者施設における支援のあり方と
身体拘束に関する調査について
設問 1 貴施設では、下記の内容の対応を行ったことがありますか?
1 ベットから転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
ある
2%(30 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
98%(1,532 件)
(件)
26
他害行為の防止
1
医師による指示
12
職員配置の不足
2
その他
3
2 動き回らないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
ある
3%(52 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
97%(1,496 件)
(件)
45
他害行為の防止
6
医師による指示
10
職員配置の不足
11
その他
1
3 他害など他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
ある
1%(9 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
ない
99%(1,544 件)
(件)
利用者の安全配慮
7
他害行為の防止
5
医師による指示
1
職員配置の不足
2
その他
0
47
第2部
4 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
ある
11%(176 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
89%(1,373 件)
(件)
165
他害行為の防止
4
医師による指示
6
職員配置の不足
5
その他
8
5 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
ある
4%(60 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
96%(1,483 件)
(件)
48
他害行為の防止
0
医師による指示
24
職員配置の不足
6
その他
3
6 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、又は皮膚をかきむしったり、自傷しない
ように手指の機能を制限するミトン型の手袋等を着用する。
ある
12%(179 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
88%(1,355 件)
48
(件)
154
他害行為の防止
11
医師による指示
30
職員配置の不足
15
その他
14
障害者施設における支援のあり方と身体拘束に関する調査について
7 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型抑制帯や腰ベルト、
車いすテーブルを使用する。
ある
23%(357 件)
「ある」と答えた人の回答理由
利用者の安全配慮
ない
77%(1,188 件)
(件)
336
他害行為の防止
10
医師による指示
32
職員配置の不足
18
その他
23
8 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
ある
2%(25 件)
「ある」と答えた人の回答理由
利用者の安全配慮
ない
98%(1,519 件)
(件)
21
他害行為の防止
3
医師による指示
1
職員配置の不足
7
その他
2
9 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
ある
10%(156 件)
「ある」と答えた人の回答理由
利用者の安全配慮
ない
90%(1,389 件)
(件)
92
他害行為の防止
2
医師による指示
5
職員配置の不足
14
その他
51
49
第2部
行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
ある
3%(46 件)
「ある」と答えた人の回答理由
ない
97%(1,497 件)
(件)
利用者の安全配慮
20
他害行為の防止
18
医師による指示
35
職員配置の不足
5
その他
3
本人が外に出ないように、自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。
ある
10%(148 件)
「ある」と答えた人の回答理由
利用者の安全配慮
ない
90%(1,391 件)
(件)
110
他害行為の防止
77
医師による指示
29
職員配置の不足
38
その他
19
頭を柱に強くぶつける、自らの体を激しく傷つけるなどの自傷を一時的に職員の体で制止
する。
ある
39%(597 件)
「ある」と答えた人の回答理由
ない
61%(936 件)
50
(件)
利用者の安全配慮
579
他害行為の防止
159
医師による指示
11
職員配置の不足
8
その他
5
障害者施設における支援のあり方と身体拘束に関する調査について
周囲の人に殴る・噛み付く・ける・つばをかける・髪を引っ張る等の他害を一時的に職員
の体で制止する。
ある
56%(858 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
ない
44%(678 件)
(件)
利用者の安全配慮
680
他害行為の防止
642
医師による指示
13
職員配置の不足
9
その他
6
採血など健康診断において体や腕を一時的に抑える。
ある
53%(818 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
47%(718 件)
(件)
691
他害行為の防止
34
医師による指示
284
職員配置の不足
3
その他
46
公道等に急に飛び出したとき、あるいは飛び出さないように職員の体で制止する。
ある
46%(705 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
54%(827 件)
(件)
679
他害行為の防止
23
医師による指示
4
職員配置の不足
5
その他
9
51
第2部
てんかんによる転倒による怪我の防止のためのヘッドギヤ ( 頭部保護帽 ) を着用する。
ある
47%(722 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
53%(815 件)
(件)
666
他害行為の防止
8
医師による指示
196
職員配置の不足
10
その他
41
自傷防止のためのヘッドギヤ ( 頭部保護帽 ) を着用する。
ある
8%(118 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
92%(1,410 件)
(件)
107
他害行為の防止
2
医師による指示
26
職員配置の不足
2
その他
9
本人が嫌がる身体的自由の制限を伴う療法を行う。
ある
2%(25 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
98%(1,501 件)
52
(件)
14
他害行為の防止
5
医師による指示
12
職員配置の不足
1
その他
3
障害者施設における支援のあり方と身体拘束に関する調査について
場所の移動など、無理やり手を引っ張るような本人が嫌がる対応をする。
ある
17%(256 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
83%(1,269 件)
(件)
169
他害行為の防止
51
医師による指示
1
職員配置の不足
21
その他
66
本人を落ち着かせるために、クールダウン・タイムアウト室 ( 無施錠 ) へ移動させる支援
方法を行っている。
ある
33%(504 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
ない
67%(1,032 件)
(件)
利用者の安全配慮
383
他害行為の防止
282
医師による指示
19
職員配置の不足
14
その他
36
本人が嫌がる定時排泄を無理にでも行う。
ある
4%(65 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
96%(1,465 件)
(件)
18
他害行為の防止
0
医師による指示
7
職員配置の不足
5
その他
29
53
第2部
電話・メール利用できないのに無理やり GPS 携帯を所持させている。
ある
2%(26 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
98%(1,435 件)
(件)
26
他害行為の防止
2
医師による指示
0
職員配置の不足
0
その他
2
監視カメラ・センサー等を設置して行動把握をしている。
ある
10%(157 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
90%(1,377 件)
(件)
134
他害行為の防止
12
医師による指示
2
職員配置の不足
24
その他
16
食べ物・飲物を取り過ぎないように職員が体で制止する。
ある
13%(198 件)
「ある」と答えた人の回答理由(複数回答可)
利用者の安全配慮
ない
87%(1,328 件)
54
(件)
148
他害行為の防止
23
医師による指示
42
職員配置の不足
3
その他
20
障害者施設における支援のあり方と身体拘束に関する調査について
設問 2 1 高齢者において下記の 11 項目は身体拘束として禁止対象の具体例です
が障害分野においても禁止対象の身体拘束と思われますか?
1 ベットから転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
思わない理由
◦安全のために必要なことがある
◦ 職員不足から(夜間)
思う
94%(1,340 件)
思わない
6%(85 件)
◦ 家 族等の合意承諾を得られればやむを得ないと思
われる
2 動き回らないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。 思わない理由
◦ 安全のために必要なことがある
◦ 介護者の立場から必要
思う
95%(1,353 件)
思わない
5%(75 件)
◦ 危険回避のためやむを得ず
3 他害など他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
思わない理由
◦ 安全のために必要なことがある
◦ 職員の配置の都合
思う
94%(1,342 件)
思わない
6%(85 件)
◦ 団体生活では必要
4 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
思わない理由
◦ 24 時間職員が見守ることが出来ない
◦ 許容範囲内と思う
思う
85%(1,211 件)
思わない
15%(214 件)
◦ ケガ等心配で仕方ない
55
第2部
5 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
思わない理由
◦ 命を守るための手段であるのならやむを得ない
◦ 医療的ケアは必要
思う
77%(1,092 件)
思わない
23%(323 件)
◦ 医療を優先に考えることも必要
6 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、又は皮膚をかきむしったり、自傷しない
ように手指の機能を制限するミトン型の手袋等を着用する。 思わない理由
◦ 24 時間職員が対応できない場合は仕方ない時がある
思う
61%(866 件)
思わない
39%(547 件)
◦ 赤ちゃんのチャイルドシートや、顔を引っかいたた
めの手袋と同じと考える
◦ 医師の指示があった場合やむを得ない
◦ 理 解が難しい方に対してはやむを得ず必要ではな
いか(異食や自傷行為)
7 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型抑制帯や腰ベルト、
車いすテーブルを使用する。 思わない理由
◦ 安全確保のため
◦ これがあるために、活動のはん囲が広がる
思う
67%(963 件)
思わない
33%(466 件)
◦ 本人が安心できる
8 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
思わない理由
◦ 安全のために必要なことがある
◦ ケガ防止が優先
思う
94%(1,344 件)
56
思わない
6%(89 件)
◦ 事故を防ぐ(職員が少ないなど)ために行うことも
ある
障害者施設における支援のあり方と身体拘束に関する調査について
9 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
思わない理由
◦安全のために必要なことがある
◦ 異食・汚染防止の為に必要
思う
84%(1,183 件)
思わない
16%(230 件)
◦ 何度も着衣やシーツ交換をする時間、人員はいない
行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
思わない理由
◦ 安全のために必要なことがある
◦ 医師からの指示通り
思う
94%(1,338 件)
思わない
6%(91 件)
本人が外に出ないように、自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。
思わない理由
◦ 24 時間職員が見守ることが出来ない
◦ 集団生活の場でしかたない
思う
89%(1,270 件)
思わない
11%(150 件)
◦ 夜間等に無断外出をふせぐためにやむを得ない
57
第2部
設問 2 2 障害分野における以下の対応は禁止対象の身体拘束と思いますか?
1 頭を柱に強くぶつける、自らの体を激しく傷つけるなどの自傷を一時的に職員の体で制止
する。
思わない理由
◦緊急対応として必要
◦ 自傷・他害の場合はやむを得ない
思う
16%(231 件)
思わない
84%(1,251 件)
◦ 職員安全確保
◦ 放任こそ虐待
2 周囲の人に殴る・噛み付く・ける・つばをかける・髪を引っ張る等の他害を一時的に職員
の体で制止する。 思わない理由
◦ 当たり前
◦ 安全配慮、他害防止のため
思う
15%(221 件)
思わない
85%(1,260 件)
3 採血など健康診断において体や腕を一時的に抑える。
思わない理由
◦ 安全確保のため
◦ 医師の指示があった場合はやむを得ないと思う
思う
24%(351 件)
思わない
76%(1,117 件)
◦ 健康にかかることなので
4 公道等に急に飛び出したとき、あるいは飛び出さないように職員の体で制止する。
思わない理由
◦(本人)
ご家族の了承を得ている
◦ 当然の行為
思う
14%(208 件)
58
思わない
86%(1,267 件)
◦ 安全確保のため
障害者施設における支援のあり方と身体拘束に関する調査について
5 てんかんによる転倒による怪我の防止のためのヘッドギヤ ( 頭部保護帽 ) を着用する。
思わない理由
◦ 安全のため必要
◦ 医師の指示及び保護者の同意があれば
思う
17%(242 件)
思わない
83%(1,221 件)
◦ バイクに乗った時のヘルメット着用と同じく必要
6 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、又は皮膚をかきむしったり、自傷しない
ように手指の機能を制限するミトン型の手袋等を着用する。 思わない理由
◦ 医師、家族の指示があれば着用
◦ 外傷の予防の為
思う
35%(503 件)
思わない
65%(936 件)
◦ 必要な行為
7 本人が嫌がる身体的自由の制限を伴う療法を行う。 思わない理由
◦ 医学的に必要であれば
◦ 積極的にやる場合あり
思う
88%(1,271 件)
思わない
12%(166 件)
◦ 耐性トレーニングとして、必要な場合もある
8 場所の移動など、無理やり手を引っ張るような本人が嫌がる対応をする。
思わない理由
◦ 新しい環境での対応が必要な時
◦ 安全確保のため
思う
80%(1,148 件)
思わない
20%(287 件)
◦ 集団的行動の場合必要
9 本人を落ち着かせるために、クールダウン・タイムアウト室 ( 無施錠 ) へ移動させる支援
方法を行っている。
思わない理由
◦安全配慮のため
◦ 落ち着かせる為には仕方ない
思う
37%(539 件)
思わない
63%(902 件)
◦ 自閉症など特性を考慮した際に必要な人もいる
59
第2部
本人が嫌がる定時排泄を無理にでも行う。
思わない理由
◦ 健康維持のため必要
◦ 医療的に必要な場合もある
思う
88%(1,280 件)
思わない
12%(172 件)
◦ オムツをはいてない場合
◦ 失禁を減らすため
電話・メール利用できないのに無理やり GPS 携帯を所持させている。
思わない理由
◦ 安全安心の為
◦ 必要な行為
思う
79%(1,137 件)
思わない
21%(303 件)
監視カメラ・センサー等を設置して行動把握をしている。
思わない理由
◦「身体」
の拘束ではない
◦ 安全確保のため
思う
80%(1,158 件)
思わない
20%(289 件)
◦ 療 育を目的にするもので有れば本人保護者の同意
得る場合
食べ物・飲物を取り過ぎないように職員が体で制止する。
思わない理由
◦ 医師の指示がある場合
◦ 過食、水中毒防止のため必要
思う
61%(870 件)
60
思わない
39%(562 件)
◦ 健康維持のため
障害者施設における支援のあり方と身体拘束に関する調査について
設問 3 貴施設における、【身体拘束を行う場合の手続】について、お教え下くだ
さい。
1 身体拘束を行う場合の手続等について明確に定める規程(マニュアル、ガイドライン等)
がありますか?
ある
35%(507 件)
ない
65%(931 件)
2 本人や家族への説明については、以下のどれを行っていますか。行っているものすべてを
お教えください。
19%
(305 件)
17%
(280 件)
23%
(364 件)
拘束を行う都度、本人又は家族に説明を行い、
書面により承諾を得ている
拘束を行う都度、本人又は家族に説明を行い、
承諾を得ている(書面なし)
サービス利用開始時に前もって、又は拘束の必要が生じた時に改
めて、本人又は家族に説明を行い、書面により承諾を得ている
サービス利用開始時に前もって、又は拘束の必要が生じた時に改
めて、本人又は家族に説明を行い、承諾を得ている(書面なし)
17%
(281 件)
13%
(204 件)
説明等は行っていない
原則、説明を行い承諾を求めるが一部例外としている
(例外があれば具体的にお答えください)
0
3%
(46 件)
5
10
15
20
25(%)
2 -1 上記(2)で「①」または「③」と答えたた方へ。
本人や家族への説明書面の記載項目について、以下のどの内容を記載していますか。
すべてお教えください。
75%
(502 件)
64%
(427 件)
50%
(332 件)
46%
(307 件)
個別の状況による拘束の必要な理由
身体拘束の方法(場所、行為等)
拘束の時間帯あるいはおおむねの時間
特記すべき心身の状況
その他
0
10%
(66 件)
20
38%
(253 件)
40
60
80(%)
61
第2部
4 貴施設、あるいは、あなたは、以下の【高齢者の身体拘束の3要件】を知っていましたか?
その他
6%(80 件)
知らない
37%(532 件) 知っている
57%(822 件)
4-1 上記(4)で、「① 知っている」と答えた方へ。
貴施設では、この3要件を守っていますか。
①切迫性において
その他
14%(113 件)
守ってない
2%(16 件)
②非代替性において
守ってない
3%(23 件)
③一時性において
その他
13%(101 件)
守っている
84%(672 件)
その他
15%(117 件)
守ってない
5%(39 件)
守っている
84%(673 件)
守っている
80%(641 件)
5 あなたの事業所では拘束する際の判断についてどのようにしていますか。あてはまるもの
すべてをお答えください。
49%
(792 件)
事業所内のケース会議等で判断
36%
(577 件)
管理者が判断
23%
(363 件)
医師が判断
32%
(514 件)
現場の支援員が判断
11%
(173 件)
その他
0
62
10
20
30
40
50(%)
障害者施設における支援のあり方と身体拘束に関する調査について
6 身体拘束を行った場合の記録については、どうしていますか。あてはまるものすべてをお
答えください。
残していない
21%(232 件)
残している
79%(854 件)
6-1 「①記録を書面で残している」と答えた方へ。
記録の内容はどれですか。あてはまるものすべてをお答えください。
49%
(794 件)
様態
45%
(720 件)
時間
46%
(736 件)
利用者の心身の状況
41%
(664 件)
緊急やむを得ない理由
5%
(78 件)
その他
0
10
20
30
40
50(%)
設問 4 貴施設における、【身体拘束廃止への取組み】について、お教えください。
1 【身体拘束廃止に向けた取組み】は行っていますか?
行ってない
46%(468 件)
行っている
54%(545 件)
63
第2部
2 【身体拘束廃止に向けた取組み】の具体的内容はどのようなものですか?あてはまるもの
すべてをお教え下さい。
37%
(594 件)
外部研究会への参加
27%
(429 件)
施設内での研修会の実施
16%
(251 件)
16%
(252 件)
施設で身体拘束に係る委員会を設置
施設内で身体拘束に係るマニュアルを作成
26%
(411 件)
個別支援計画とカンファレンスを実施
12%
(201 件)
その他
0
10
20
30
40(%)
3 身体拘束の廃止が困難な理由について、あてはまるものすべてをお教えください。
41%
(654 件)
42%
(677 件)
事故防止するためにやむを得ない
ほかに有効な方法が見当たらない
26%
(415 件)
17%
(276 件)
現状の職員配置では対応できない
現状の環境ではできない
機器や設備の開発が進んでいない
利用者家族からの要望がある
家族からの苦情や損害賠償請求が心配なため
その他
0
8%
(136 件)
13%
(213 件)
10%
(154 件)
6%
(92 件)
10
20
30
40
50(%)
4 どうしても身体拘束が必要な状況が発生した場合に【実際に選択した】解決方法について、
あてはまるものすべてをお答えください。
施設内でのカンファレンス等を行う
施設内の身体拘束廃止委員会等で検討
12%
(196 件)
12%
(194 件)
参考となる図書や事例集を活用
第三者など外部機関の相談窓口の利用
27%
(432 件)
個別支援計画を作成
職員研修を行う
10%
(164 件)
その他
0
64
24%
(392 件)
35%
(559 件)
10
20
28%
(459 件)
30
40(%)
障害者施設における支援のあり方と身体拘束に関する調査について
5 どうしても身体拘束の必要な事例が発生した場合に【有効と思われる】解決方法について、
あてはまるすべてをお答えください。
43%
(686 件)
施設内のカンファレンス等を行う
37%
(597 件)
施設内の身体拘束廃止委員会等で検討
26%
(421 件)
参考となる図書や事例集を活用
28%
(453 件)
第三者など外部機関の相談窓口の利用
38%
(610 件)
個別支援計画を作成
43%
(690 件)
職員研修を行う
その他
0
10
17%
(266 件)
20
30
40
50(%)
7 身体拘束廃止の取り組みを行った事例に係る利用者及び家族の理解についてはどうです
か?どれか一つを選んでお答えください。
53%
(226 件)
概ね理解が得られた
24%
(103 件)
やはり事故の心配から、拘束を希望された
6%
(26 件)
施設まかせで無関心
17%
(72 件)
その他
0
8 廃止後の利用者の変化については、どうですか?
変化が見られた
15%(51 件)
特に変化なし
85%(288 件)
20
40
60(%)
9 廃止後の職員意識の変化については、どうですか?
変化が見られた
30%(92 件)
特に変化なし
70%(218 件)
65
66
第
3部
虐待防止編
第1章障害者の虐待とは
第2章福祉職員・支援員として障害者虐待を未然に防ぐ具体策
第3章法人・福祉事業所(施設)
の組織的な人権擁護管理の具体的対策
第4章オープン化した職場・事業所にするために
第5章虐待を発見・発生した場合の対応
67
虐待防止編
第3部
第
1
1
章
障害者の虐待とは
虐待とは何か
(1)支援理念の向上
どこでも虐待は起きる 何か特別に悪い施設で虐待は起きるのではありません。
「福祉に熱心な優良企業」といわれた会社や、障害関
係者から高い評価を得ていた施設でひどい虐待が行われていたことがいくつもありました。
ちょっとした過ちは誰にでもあります。疲れてストレスがたまっていたり、行動障害の激しい障害者に振り回
されたりしているときに、つい……。そんな経験は福祉現場にいる職員の多くがあることでしょう。
ふつうの職場でもよくあることなのです。しかし、相手を傷つけたり、無視したりすれば、抗議されたり、嫌
な顔をされたり、やり返されたりするものでしょう。ところが、重い障害のある人の中には傷つけられても黙っ
ている人が少なくありません。へらへらと笑っているように見えることすらあるのです。
そうすると、傷つけたり無視したりしている側は良心の呵責を感じることもなく、自分のしていることが障害
者を傷つけているという自覚が持てなくなります。感覚が鈍磨していくのです。これはとても恐ろしいことです。
しかし、それが恐ろしいことなのだと認識されてこなかったことが、福祉の現場で虐待を許してきたのです。
障害者の福祉を仕事にしているような人が障害者を虐待などするわけがない、という先入観を抱いている人は
意外に多いものです。
しかし、
悪意はなくても虐待は起きます。
自覚はなくても虐待をしていることはあるのです。
重い障害者がいる現場ではどこでも虐待は起こり得ます。虐待する側は気づいていないだけで、障害者は深く
傷ついている場合があるのだということを知ってください。
自覚がなくても傷ついている 何を自分はされているのか、これはいけないことなのか、虐待なのかがわからないまま傷ついている障害者が
います。重い知的障害のある女性が性的虐待を受けている場合などがその典型です。人間性の根源を踏みにじら
れていることに変わりはありません。それを認識できない弱さに付け込まれているのです。被害を受けた障害者
は心身に深い傷を負い、健康や日常生活が崩れていく場合があるのだということを知ってください。
言葉によるコミュニケーションが苦手な障害者の場合、身体的虐待や心理的虐待を受けた時、二次的な行動障
害を起こして自分の頭を叩いたり顔をかきむしるなどの自傷行為をすることがあります。周囲の人につかみか
かったり、ひっかいたり、かみついたりすることもあります。なぜ彼がそのようなことをするのか因果関係がわ
からないために、そうした行動障害を起こすのは障害者自体に問題があるのだとみなされ、さらに抑えつけられ
たり、縛られたり、殴られたり、薬を投与することで行動を抑えられたりしています。行動障害を抑制するため
には仕方がないと、そうした抑圧・暴力行為が正当化されているのです。やられている側の障害者にとってはこ
んなに理不尽なことはないでしょう。 高齢者虐待の対応マニュアルなどには
「高齢者に虐待されている自覚があるかどうかを重視する」
「高齢者の
(虐
待行為に対する)意思を尊重する」などといった記述がありますが、虐待されている側に自覚がなくても深刻な
虐待があるのだということを知ってほしいと思います。自覚がないように周囲の人々に思えるだけであって、被
68
第
1 章 障害者の虐待とは
害を受けている障害者は必死になって
「助けてください!」
と叫んでいるかもしれないのです。言葉によるコミュ
ニケーションが苦手なだけで、彼らの叫びを聞くことができない周囲の人たちに問題があるのかもしれないので
す。います。自覚がないように周囲の人々に思えるだけであって、被害を受けている障害者は必死になって「助
けてください!」と叫んでいるかもしれないのです。言葉によるコミュニケーションが苦手なだけで、彼らの叫
びを聞くことができない周囲の人たちに問題があるのかもしれないのです。
「指導」
「療育」の名の虐待(連続性の錯覚)
トイレの壁に障害者を叩きつける、顔をびんたする、トイレに閉じ込める……ある施設で行われていたことで
すが、施設側は「障害者のためには必要な指導だ」と正当性を主張して譲りませんでした。この施設に限らず、
「指導」
「療育」の名で暴力や虐待を正当化している施設は決して少なくはありません。また、こうした施設側の
主張に対して行政が毅然と対応したことはあまりありませんでした。
なぜこのような理不尽がまかり取ってきたのでしょうか。まず、知的障害者の処遇に関しては技術的にも倫理
的にもスタンダード(標準)が確立されておらず、それぞれの施設でカンや経験やコツによって勝手に行われて
きたことが指摘されます。特に自傷や他害のような行動障害に対しては、縛りつけたり閉じ込めたり、暴力で抑
制することが横行しています。施設側の処遇や生活環境が悪いために自傷や他害を引き起こしているかもしれな
いのに、
自傷や他害のある障害者は処遇が難しいと一方的に決めつけて、
「少々の抑制や体罰や暴力は仕方がない」
ということにされているのです。
ところで、初めからひどい虐待をする人はいません。行動障害にどのように対処していいかわからず、つい叩
いてしまう。人手も足りなくて職員にストレスや疲れがたまっていく中で、つい障害者に手を上げてしまう。そ
のようなときに、これでいいのかと立ち止まって反省できればひどい虐待にエスカレートすることはないのです
が、
同僚や周囲の人々が暴力や体罰を「仕方がない」と容認してしまうと、
良心のタガがはずれて、
感覚がまひし、
次第に暴力がエスカレートしてもそれを自覚することができなくなります。これを「連続性の錯覚」と言います。
虐待している側は悪いことをしているという自覚がないまま、障害者を傷つけているのです。
親はわが子を救えない?
施設や会社での虐待が起きた時に、そこで働いている障害者の保護者が施設(会社)をかばうことはよくあり
ます。通報を受けた行政の担当者は「保護者が『虐待なんてない』と言っているのだから、それでいいのではな
いか」
「保護者が『少々のことはいいのです』と言っているのだから仕方がない」と判断して動かないことがよ
くあります。
しかし、保護者は本当に「虐待がない」
「少々のことはいい」と思っているのでしょうか。そんなわけはあり
ません。わが子に障害があるとわかった時から親は落ち込んだり悩んだりします。救いを求めて、安心してわが
子を託せる相手を探しまわったりします。
だから、わが子を預けた施設や、わが子が通う会社には過剰な期待を寄せるのです。そこで少々のことがあっ
ても、見捨てられたら他に行き場がないと思うと「このくらいは仕方がないのだ」と必死になって思い込もうと
するのです。実際、障害者が安心して通える施設や会社はまだまだ不足しているのですから。しかし、本心では
不安で仕方がないのです。わが子が殴られたり、縛られたりして心中穏やかでいられる親などいるわけがありま
せん。
親が虐待を否定したり、虐待している施設や会社を擁護したりしても、それで虐待がないわけでは決してあり
ません。親はわが子のためにいろいろ尽くしますが、そのすべてがわが子のためになっているわけではありませ
ん。わが子のためと思ってやっていることの何割かは親自身が自分の不安を払拭するため、自分の達成感を満た
すためにやっていることなのです。保護者の言葉を免罪符にして、障害者本人の SOS を無視することは許され
ません。
69
第3部
虐待防止編
(2)虐待の定義
① 身体的虐待 げんこつで殴る。ビンタする。ハエたたきで顔面をひっぱたく。馬乗りになって顔面を殴る。逃げられないよ
うに柱に縛り付けて革のバッグで顔面を何度も殴りつける。ロープで縛り上げる。麻袋に詰め込んで一晩中放置
する。
こういうのを【身体的虐待】といいます。そんなことがあるのか?と思うかもしれませんが、これらはいずれ
も現実に起きた事件で行われていた行為です。
それどころか、気に入らない障害者の頭を職員が何度もスリッパでたたいた。施設長が障害者に沸騰した湯で
入れたコーヒーを無理やり3杯飲ませ、口やのどや食道のやけどで1か月の重傷を負わせた。男性の障害者の下
半身を数回けり上げ、重傷を負わせながら、
「同室の入所者による暴力が原因」と虚偽の報告をしていた…など
の虐待行為が過去の事件で明らかになっています。
② 心理的虐待 「あほ」
「ばか」
「お前なんか、もう来るな」とののしる。笑いものにする。わざと冷たい目で見て相手にしな
い……。そういう行為は【心理的虐待】といいます。体に傷や痣ができるわけではありませんが、心がひどく傷
つき、自分に自信を持てなくなり、無力感が身についたりすることにつながります。
ある障害児は普通学級に通っていましたが、教室内でもずっと黄色い帽子をかぶることを義務付けられていた
そうです。
「あの黄色い子を連れてきて」と先生もふだんから言っていたといいます。言われる側がどんなに傷
ついているか、深く考えずにやっていることは多いものです。
ある調査では身体的虐待よりも心理的虐待を受けた人の方が立ち直るまでに長い時間がかかると言います。人
間性を深いところで傷つける心理的虐待の恐ろしさは意外に知られていないのかもしれません。
障害を持った人は否定されたり無視される経験をほかの人よりも多く持っていると思います。そんなに重いつ
もりで言ってるわけではなくても、障害のある人は深く傷ついてる場合が少なくありません。否定されることが
多くて自分に自信が持てない人、言い返すことができない人(障害者)にとっては小さなことが心理的虐待にな
ることがあることを知ってください。
③ ネグレクト 食事を与えない、病気になっても治療を受けさせない、風呂に入れたり体をきれいにふいたりしない、おむつ
の交換をしない、学校に行かせない。そういう行為は【ネグレクト】といいます。障害者を保護したり管理した
りすべき立場の人が、それを怠り、障害者の生命にかかわるような取り返しのつかない事態をもたらしたり、深
い傷を残したりすることが時々起ります。
重い障害の人は自らの欲求をうまく伝えることができない場合があります。必死になって訴えているのかもし
れませんが、言葉や動作でそれを表わすことが苦手なので、周囲の人々が受け取ることができないのです。しか
し、そうした障害者こそが、ちょっとしたネグレクトで重大な事態に陥ってしまうことがあります。
障害者の中にはいつも薬を飲んだり打ったりする必要がある人がいますが、投薬を怠ったために身体に重要な
影響を及ぼすことがあります。
④ 性的虐待 あまり表面化はしないけれど、
多くの女性障害者が受けているのではないかと言われるのが【性的虐待】です。
親族などの近親者から、職場で上司や同僚から、医療スタッフから、学校で……。あらゆる場面で障害者は性的
70
第
1 章 障害者の虐待とは
虐待類型関係
ネグレクト
経済的虐待
身体的虐待
性的虐待
心理的虐待
虐待のリスクにさらされています。 重度の障害者の場合、性的虐待を受けていても、それが虐待なのか、いけないことなのか、自分は被害にあっ
ているのか、ということを認知できない場合があります。加害者側はそうした特性に付け込んで虐待するのです
が、障害者が嫌なそぶりをしないために加害者が自分のやっていることがいけないとの自覚が薄れて増長してし
まうケースがあります。
しかし、重度の障害者が自分のされていることの意味が認識できない場合でも、心身に深い傷をつくり、自尊
心が知らず知らずのうちに崩されていくのは、障害のない人と同じです。
⑤ 経済的虐待 入所施設でずっと暮らしていると、
障害年金が何百万円あるいは1000万円以上もたまっている人がいます。
障害者自立支援法で自己負担が導入されてから事情が変わりましたが、施設が障害者の年金を管理したり、保護
者会が施設からの依頼を受けて管理したりするケースは珍しくありません。
あるいは親が亡くなって障害者が多額の遺産を相続するケースもあります。成年後見人がちゃんと付いて本人
のために遺産を使えるようにするべきなのですが、まだまだ後見人の利用率は低く、年金や遺産が障害者本人の
意思とは別のところで勝手に管理されたり流用されたりしているケースは多いとみられています。
また、一般就労している障害者でも賃金を安く抑えられて長時間の労働を強いられていたり、賃金をピンはね
されたりしている例が時々明らかになっています。
これらは、いずれも詐欺や横領に問われるべき事案なのですが、障害者が自らの被害を認識できていない、あ
きらめきってしまっている、親も「働かせてもらえるだけでいい」と考えている、などといった理由から声が上
がりにくいのです。
71
第3部
虐待防止編
(3)虐待の主な具体例
(4)虐待のとらえ方
困難が生じている事実に着目する 多くの福祉現場は人手不足でストレスが多い割に職員は低賃金だったりするもので、
少々のことは仕方がない、
あまりうるさく言っても……と職員に同情的になる場合が珍しくありません。家庭でも就業先でも学校でも病院
でも、虐待の背景にはさまざまな事情があるもので、虐待をしている側だけを一方的に責めても本質的な解決に
至らないものなのかもしれません。しかし、現に虐待され苦しんでいる障害者本人を救わなければなりません。
虐待を取り巻くさまざまな問題についても考えなければならないとしても、まずは困難が生じている事実に着目
し、障害者を救済しケアすることを優先して考えましょう。の虐待行為が過去の事件で明らかになっています。
72
第
1 章 障害者の虐待とは
虐待しているという「自覚」は問わない
障害者をいじめてやろう、苦しめてやろうという悪意を持って行っている虐待はもちろんありますが、自分が
やっていることが虐待に当たるとは気づいていない場合もたくさんあります。虐待している側にその自覚がなく
ても、障害者は苦しみ生活するのに困難な状況に置かれている場合はあります。虐待している自覚がないからと
いって免責されるわけではなく、その行為が虐待に当たることを気付かせ、虐待を解消させなければなりません。
障害者本人の「自覚」は問わない 障害の程度が重くて自分がされていることが虐待だと認知できない障害者はたくさんいます。また、無力感を
身につけ、自分に自信を持てないでいる障害者の場合、虐待されてもあきらめきっている場合がよくあります。
障害者の側に虐待の自覚がなくても、SOS を自ら表現できなくても、それで放置しておいていいわけがありま
せん。むしろ、自覚がない、自ら訴えることができないことによって虐待が長期化したり深刻化するケースが多
いことを理解してください。
親や家族の意向と本人の気持は違う場合がある 施設や就労現場での虐待の通告(相談)があった場合、障害者の親の中には「これくらいのことは仕方がない」
と虐待する側を擁護したり、虐待の事実そのものを否定したりすることがあります。わが子を預けている相手に
対する屈折した心情、ほかに行き場がないという選択肢の無さが親にこうした態度を取らせるのです。そうした
弱みに虐待する側が付け込んだり利用したりしている場合もあります。親の表面上の態度で安易に納得するので
はなく、あくまで苦しんでいる障害者の気持になって虐待に取り組むことが大切です。
身体的虐待・心理的虐待のとらえ方について 知的障害者や自閉症者に対する古い価値観や誤った知識によって、障害者を見下し尊厳を認めないために身体
的虐待や心理的虐待をしている例がよく見られます。障害があるというだけで「劣った存在」と決め付け、バカ
にした言葉や態度を取る。
「頭が悪いやつは体で覚えさせる」などと体罰を容認し動物の調教のようなつもりで
叩いたり蹴ったりする。そのような施設や就労現場での虐待はこれまでにも数多く指摘されてきました。
また、自閉症の特性についての正しい知識がないために、科学的な根拠の乏しい訓練や指導によって障害者に
苦痛や恐怖を植え付け、自傷や他害など強度行動障害を誘発しているケースも多いと指摘されています。
福祉資源や就労先が足りないこともあって、家族や行政も「預かってもらっている(働かせてもらっている)
だけでもありがたい」などと思い込み、虐待の発見や救済が遅れるケースがとても多いことを指摘しなければな
りません。
経済的虐待のとらえ方について
経済的虐待については、障害のある子の賃金や年金が親の生計を支えている場合や、判断能力に問題があるた
めに障害者自身が金銭を管理することが難しい場合もあって、虐待に当たるかどうかを判断することが困難な場
合がすくなくありません。
経済的虐待に当たるかどうかは、障害者自身が納得し、その意思に基づいて財産や年金や賃金が管理されてい
るか、実際に障害者本人の生活や介助・介護に何らかの支障が出ていないか、などが判断のポイントになります。
たとえ障害者本人が納得していると思われる場合でも、これまでの家族関係や施設職員との関係や雇用主との
関係に対する心理的圧力などから、合意せざるを得ない状況であることも考えられます。本人の意思が表面的な
ものである可能性を踏まえ、複数の関係者や専門家の意見なども参考にしながら、真意を丁寧に確認していくこ
とが重要です。
73
第3部
虐待防止編
障害の程度が重くて判断能力が不十分と考えられる場合には、財産を管理している人と本人との関係や、客観
的に見て本人の利益にかなっているかどうかを考慮し、判断する必要があります。判断能力が不十分な人の場合
は後見人でなければ法律行為(財産管理や身上監護)はできないことになっています。親というだけでは成人し
た障害者の財産を勝手に管理したり処分したりすることができない、という原則を念頭に置いて経済的虐待に取
り組んでください。
ネグレクト(支援・介護・世話の放棄・放任)について
ネグレクトについては自覚がないまま虐待しているケースが多いのが現実です。障害者支援や介護についての
知識・技術が不十分なために、不本意ながら障害者の尊厳を損なうような生活に陥っている事例が少なくありま
せん。
知的障害者などの場合、親自身が障害の子がいることを知られるのが恥ずかしい、他人の世話になるのは申し
訳ないなどと思い込み、自宅に閉じ込めっぱなしような状態にしていることが現在でも少なくありません。親自
身が落ち込んで心身の健康状態が悪くなり、十分な世話や介護ができなくなっていることもよくあります。病気
になっても通院しない、不登校になりがち、ホームヘルプやショートステイなどの福祉サービスのことを知らず、
せっかく福祉サービスがあっても利用できていない、という人がいます。
こうした場合、ネグレクトを責めるだけでなく、親を支援して福祉や医療や教育などのサービスにつなげてい
くことが求められます。
また、福祉施設や住み込みで働いている障害者の場合、支援職員の不足などから、部屋に閉じ込めっぱなし、
入浴回数が著しく少ない、栄養が偏った食事など、処遇環境が劣悪で障害者の心身に悪影響が出ている例がたび
たび明らかになってきました。障害者の人間としての尊厳をきちんと認識していないことなどが背景にあること
も少なくありません。
セルフネグレクトについて
一人暮らしをしている障害者の中には、生活に関する能力や意欲が低下し、自分で身の回りのことができない
ために、客観的にみると本人の人権が侵害されている事例があり、これをセルフネグレクト(自己放任)といい
ます。
セルフネグレクトを虐待に含めるかどうかの議論は置いておくとしても、支援を必要としているという状態に
着目して、適切な対応を図っていくことが求められます。
親に知的障害のある家庭や、親に障害がなくても貧困や介護疲れなどによって家族ごとセルフネグレクトの状
態になっているケースも最近はよく報告されています。生活保護をはじめ何らかの福祉サービスを受けるための
申請が自分ではできず、その結果として長期間放置されていることが珍しくありません。
こうしたセルフネグレクトの場合、どの公的機関が対応すべきなのか判然とせず、互いに押し付け合ったりし
て救いの手が伸びないことが往々にしてあります。死亡や著しく健康を損なうような深刻な結果につながりやす
いので、相談や通告があった場合には早急な対応が必要です。
(5)障害者虐待発見チェックリスト
虐待されても障害者が自ら SOS を訴えないことがよくあります。小さな兆候を見逃さずに、早期に虐待を発
見しなければなりません。虐待が疑われる場合の「サイン」として以下のものがあります。複数に当てはまる場
合は疑いがそれだけ濃いと判断してください。これらはあくまで例示なので、ぴったり当てはまらなくても虐待
がないと判断しないでください。類似の「サイン」にも注意深く目を向けてください。
74
第
1 章 障害者の虐待とは
障害者虐待発生チェックリスト
75
第3部
76
虐待防止編
第
第
2
1
章
2 章 障害者の虐待とは
福祉職員・支援者として
障害者虐待を未然に防ぐ具体策
職員・支援員の障害者観の共有
利用一人ひとり最適な姿はちがってあたりまえです。
従来の「処遇」という言い方から「福祉サービス」へと変化したのは 1990 年(平成2)の社会福祉事業法改
正がきっかけでした。ですから 20 年以上もまえから福祉サービスの提供関係はパートナーシップをもとにした
双方向で対等な関係であることが法律で定めれれていることになります。今日、福祉サービスという言葉は定着
しました。しかし内容をさらに理解するためには福祉職員に一つの変化が必要となります。施設中心から障害者
本人中心への意識です。これまでの福祉施設のあるべき姿を求めてきた傾向から、利用者一人ひとり最適な姿は
異なり人と環境のデザインを織りなす個別支援への変化です。
2
支援理念の向上
福祉事業所(施設)
のエンドユーザーは利用者を中心とした地域住民です。
職場にはそれぞれ経営理念があります。それをわかりやすくスローガンにしたり、ビジョンやミッションを示
している福祉事業所(施設)も増えてきました。どの法人も共通していることは職員や家族などのために福祉事
業所(施設)はあるのではなく、利用者を中心にすべて地域の関係者のために運営されるべきという理念です。
企業では「エンドユーザー」という表現がされていますが、福祉事業所(施設)においては地域に暮らす、すべ
ての住民といえます。こうした意識が支援を見つめ直すきっかけとなります。
「こだわりが強く地域のお宅に勝手に利用者が上がり込んでしまい迷惑をかけてしまう」だから、施設
事 例
の出入り口の施錠は仕方ないという事例はよくあります。ある施設の A さんは、毎日のように施設を飛び
出し、近くのお宅の仏壇に供えてある果物をその場で食べてしまうトラブルを繰り返したそうです。その
施設の施設長はお詫びの品を数十個いつでも渡せるように買いそろえ、ことが起きればそれを手に取り掃
除機と雑巾と一緒にお詫びに向かいまいした。急に自宅に知らない人が入り込んでくるのですから、さぞ
かし怖かったことでしょう。市役所に苦情が入ることもしばしばです。しかしその施設長は丁寧にその利
用者の障害特性や利用者の得意なことも含め謝罪と説明をしました。1 年も過ぎたころ、そのお宅のおば
あちゃんが利用者の名前を覚えてくださり、職員が気がつかない時には、手をつないで施設まで連れてき
てくれるようになりました。おばあちゃんは散歩で出会うと声をかけてくださるようになりました。しか
し息子夫婦からはおしかりを受ける日々です。5 年がたったある日、お嫁さんからの電話でそのおばあちゃ
んが突然亡くなったことを知りました。お嫁さんは電話で「義母は A さんにきっと見送ってほしいと思い
ます、時間があれば来てくださいませんか」と言いました。A さんは初めて礼服を着てお見送りに行きま
した。ご家族から「仏壇の中でおばあちゃんは A さんと会えるのを楽しみにしているかもしれませんね」
と声をかけてくださったそうです。その施設のある地域の暮らしはとても温かいものに違いありません。
障害のある人が暮らしやすい街はだれもが暮らしやすい街だからです。エンドユーザーを利用者を中心と
した地域住民にすることで支援理念は向上します。
77
虐待防止編
第3部
3
個別支援計画の具体的実践
支援内容を支援計画へと可視化することが支援の具体的実践につながるのです。
2011 年(平成 24)4 月からサービス等利用計画作成の対象者が大幅に拡大される予定です。また病院や学校
からの地域移行支援や地域定着支援の個別給付に合わせてサービス等利用計画の作成が必要となります。本来
サービスを利用するすべての人に個別支援計画は必要です。しかし全国の障害福祉サービス利用は現在約 55 万
人で、そのうち 3 千人について個別支援計画が作成されたにとどまっています。新体型サービスに移行した事業
所でサービス管理責任者がいるところは、当然個別支援計画は作成されていますが、サービス利用計画までは作
成されていません。たとえば、入所施設は平均して毎年約 8 千人の入所希望がいると言われますが、これは本当
に本人の希望でしょうか。今後、契約に際して、なぜ入所施設を希望して利用することになったのか利用者のア
セスメントをしっかりと行い、地域移行支援や地域定着支援を支援計画の中で具体化することが大切です。
福岡市ではカリタスの家の虐待事件発生後、インフォーマルな形で行政も参加した研究会を立ち上げま
事 例
した。その背景は、虐待事件を起こした施設だけを攻め立てるだけでは虐待はなくならないのではないか、
「自分たちの施設でもできることは何か」という問いかけでした。その後研究会の提案を参考に福岡市は
入所施設にスーパーバイザー派遣事業を予算化することにしました。大学から派遣されたスーパーバイ
ザーが水中毒や他害行為等の重い行動障害の人を分析しようとしました。そこで必要となったのが「記録」
と「個別支援計画」でした。事実を記録に取る。何回起こしたか、起こす前にどんな様子だったか、誰が
対応したかといった事実の記録ができました。その記録から職員全員で事実を共有し分析をし、いったん
仮説を立てて、支援計画を練る。最終的に行動障害はなくなりました。これを予算 150 万円で実践して
います。実践の報告会には多くの入所施設が参加し、職員だけでなく園長や理事長までもが参加しました。
職員に自信が付いたそうです。何よりも利用者のことを深く見守られるようになったそうです。襲いかか
られたら防御するし、何らかの拍子に手が当たるかもしれない。しかし感情的になったり、あきらめたり、
押さえつけたりしないで明確な事実を集積し、支援計画を作り上げていく。自分たちができることの一つ
の答えです。
4
虐待防止のための自己チェック表
SDS(セルフ・ディベロップメント・システム)
の一環として、自主的な自己啓発活動であ
ることを認知し、職員が毎日の業務を自分でチェックすることが有効です。
はじめから障害者をいじめてやろう、傷つけてやろうと思って福祉の世界に入ってくる人はいないはずです。
人員不足で手が回らない、忙しくて疲れている、ストレスがたまっている、やりがいを見失っている、専門知識
やスキルがなくて行動障害にどう対応していいのかわからない。虐待する側にもさまざまな事情があります。
障害者をバカにしたり、不満やストレスのはけ口にしたりする「悪意のある虐待」には毅然として対処しなけ
ればなりませんが、多くの場合は虐待する側もどうしていいのかわかずに苦しんでいるのです。そうした相手に
は厳罰で臨んだり、頭ごなしに指導したりするのはあまり意味がありません。
自分がやっている行為の意味、それによって障害者がもしや傷つき苦しんでいるかもしれない、ということを
見つめなおすことが重要です。さらに、なぜ自分がそのような行為をしたのかを客観的に分析し、虐待が発生す
る要因を探り、どうしたら虐待要因をなくすことができるのかについて検討していくきっかけにもなります。
ここでは、
福岡県と社会福祉法人京都ライフサポート協会「庵」作成の「 職員用リスクマネジメントチェック表」
を紹介します。
78
第
2 章 障害者の虐待とは
支援者の虐待リスクサイン
疑 利用者に対し暴言を吐く。
調 利用者に対して冷淡な態度や無関心さがみられる。
調 利用者の支援や介助に対する拒否的な発言がしばしばみられる。
調 上司や同僚の助言を聞き入れず、不適切な支援方法のこだわりがみられる。
調 利用者の健康や疾患に関心が無く、知識や技術が身につかない。
調 利用者に対し、過度に乱暴な口の利き方をする。
調 利用者のプロフィールに関し、覚えていない。
調 利用者に対し横暴な態度がみられる。
調 直接処遇に関わっている場面が極端に少ない。
調 上司や保護者との接触を避けていることが多い。
調 職員研修の参加時に私用が多い。
(不参加)
調 他の職員に交じらず、1人でいることが多い。
調 常に周囲を気にしているようなそぶりが多い。
調 ケース記録等に不備が多い。
調 報告・連絡が粗雑であったり行わない。
調 遅刻・早退・欠勤が増えた。
疑 は、虐待が強く疑われる。 調 は、調査、確認を要する。
リスクマネジメントチェック表 1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
施設長
主任
年 月
スタッフ名 印
項目(備品管理/ヒヤリ・ハッと)
挨拶を、大きな声で気持ち良く行えているか?
ハサミ・裁縫セット・つめきり・包丁など利用者が使用する際にはスタッ
フの配慮が必要と思われる物の管理は適切な場所でおこなわれているか?
(本数のチェックも含む)
食器・電化製品・その他設備などに破壊はないか?(シールなどが剥がれ
るなど)
洗剤・消毒液などは適切な場所で管理されているか? 急に量が減るなど
の異変はないか? また、薬品などのストックは適切な容器・適切な場所
で管理されているか?
投薬(常備薬も含む)に関する物は適切な場所で管理ができているか? また、紛失するなどはなかったか?
確実な投薬を行えているか?
安全運転を心掛けているか?
人員確認は確実におこなえているか?
自己の身だしなみに注意をはらっているか?
個別項目( )
チェック
項目(知的障害者施設職員行動規範より抜粋)
チェック
殴る、蹴る等の行為、そのほか怪我をさせるような行為を行うこと。
身体拘束や長時間正座・直立させるなどの肉体的苦痛をあたえること。
食を抜くなど、人間の基本的欲求に関する罰をあたえること。
強制的に髪を切るなどの精神的苦痛をあたえること。
体罰を容認すること。
子供扱いするなど、その人の年齢に相応しない接し方をすること。
本人の前で障害の呼称・状態を表す用語や差別的な用語を使用すること。
利用者の言葉や歩き方などの真似をすること。
利用者の行為を嘲笑、興味本位で接すること。
利用者個人の職務上知り得た情報を他にもらすこと。
利用者の入浴、生理等の異性介助をすること。
利用者の衣服の着脱やトイレ使用の際、他から見えるようにすること。
利用者本人や保護者・家族の了解を得ずに、本人の写真、名前や製作した
作品を掲載、展示したりすること。
「さん。」をつけて呼ばず、呼び捨てやあだ名でよぶこと。
命令調になったり、大声で叱責したりすること。
利用者の訴えに対して、無視や拒否をするような行為をすること。
長時間待たせたり、放置したりすること
担当専門医の指示によらず職員自らの判断で、薬物を使用すること。
支援内容を利用者個々人の人格を無視した、職員側の価値観や都合での一
方的・画一的なものにすること。
本人の生命や健康を守るためにどうしても必要な場合を除き、利用者のい
やがることを強要すること。
本来職員がなすべきことを、作業・訓練・指導と称し、利用者にさせること。
職員自身の私用に利用者をつかうこと。
個別項目( )
79
第3部
5
虐待防止編
各種会議の運営
虐待を未然に防ぐためにはそのための組織づくりが重要です。
障害福祉サービスの大半は職員から利用者に支援という形で直接提供されます。職員の質はサービスの質を決
定する重要な要素です。その職員の質を高め維持する一つの仕組みが、
「目的と結果が見える」会議の運営です。
会議は話しやすい雰囲気とルールに従った運営が図られなければなりません。あたりまえのことですが職場での
コミュニケーションを良好にしておくことは大切です。とくに職員会議においても職員相互のコミュニケーショ
ンが図られ話しやすい雰囲気であるなら、現場からの改善のための意見がボトムアップしてきたり、利用者や家
族との情報を共有することで多くのリスクが回避でき、議事も目的に合わせて進めることができます。もちろん
各職員が自分で判断して、その根拠を発言できる能力は必要です。しかし職場でそういった「安心感」が満たさ
れなければ、適切な要求や主張は生まれないものです。
6
支援や援助マニュアルの共同作成
すべての職員が全局面のプロセスに何らかの形で関係することが虐待防止の標準化(マ
ニュアル)
のスタートです。
虐待を未然に防ぐためには、質の高い支援のプロセスをマニュアルにしておくことが重要です。しかし福祉
サービスの分野では、マニュアルを否定的に受け止めることがあります。人はそもそも個性があり、人による直
接サービスをマニュアルにすることはできないといった考えからです。しかしこれはマニュアルを正しく理解し
ていません。支援は当然個別に行われます。そのために利用者に必要なサービス利用計画や個別支援計画に対し
て、関係する職員が個別に支援できるように、共同で支援・援助マニュアルを作成することが重要なのです。そ
うすることによって利用者のニーズをパターン化された個別支援計画に押し込めるのではなく、支援者の個別性
に対応した支援が可能となるのです。
7
ヒヤリハット体験を生かす
どんなに虐待防止策を講じようとも虐待の芽はゼロにならないことを理解しておくこと
が重要です。
ヒヤリ・ハット事例の活用とは労働災害発生を確率として示す法則からうまれました。虐待事件を例にとると
1つの虐待には表面化しない虐待が29事例あり、さらに不適切な支援(ヒヤリハット事例)が 300 事例潜ん
でいるという法則です。
ヒヤリ・ハットの分析活用に関しては、厚生労働省より 2002 年(平成 14)4月 22 日「福祉サービスにおけ
る危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指針」が出されています。この指針は、
「利用者が転倒し
てけがをした」といった場合に「しっかり見守っていなかった職員が悪い」
「利用者が勝手に移動した」
「まさか
走るとは思わなかった」といった要因分析で終わらせていると、
「職員を厳重注意した」
「利用者に移動の際に職
員を呼んでもらうようにした」などといった防止策しか出ない。そうではなく事故を防止するためには、その利
用者に関する状態像の的確な把握や、それに対してどのようなサービスを実施するかという内容の明確化を図り
利用者一人ひとりに着目した個別的なサービス提供へと変えていくことが最も重要であると訴えています。つま
りこの指針は、
言うまでもなく福祉サービスの質の向上に向けた取り組みそのものです。こうした体験を活用し、
「小さな不適切な支援=ヒヤリ・ハット」を見つけることで、
「大きな虐待=重大な事故」の未然防止につなげる
ことができるのです。
80
第
8
2 章 障害者の虐待とは
苦情解決委員会の活用
「愚痴」
「要望」を単純に聞き流してしまっていると、実はそれが本当には虐待につながる
重要な内容を含んでいることを見失ってしまう危険性があるのです。
福祉事業所(施設)が利用者から積極的に選択されるためには、利用者と事業者の関係が、形式的な対等関係
ではなく、実質的な対等関係が構築されると同時に、事業者のサービス情報が適切に提供される福祉市場が形成
されなければなりません。そのためには、まず利用者と事業者の間には、情報量、交渉力などにおいて大きな格
差があり、それを制度的に補完する必要があります。その一つが「苦情解決制度」の導入です。
「愚痴」は不満のあらわれで、これをそのまま放置すると、
「強い不満」に変わります。そして不満の蓄積や表
明が「苦情」となっていきます。契約制度上での苦情解決制度が意味するものは、
福祉市場の拡大に伴い「苦情」
を、裁判を代表とする「公的解決」に任せるのでなく、積極的に「社会的解決」へとすすめることです。
私的解決(示談)とは表にある①の要望・相談から苦情への変化で「期待とサービスのギャップ」によって生
まれます。そしてAでは相手との良い人間関係・コミュニケーションによって解決が可能とされています。逆に
最初から人間関係・コミュニケーションあれば多くの場合、苦情へは発展しない距離でもあります。つまり施設
内での苦情解決委員はここの部分での解決手段といえます。
苦情の程度
③
②
①
要望
相談
私的解決
公的解決
社会的解決
B
C
A
苦情
解決
苦情
解決
苦情
解決
苦情の経過時間
「社会的解決」とは 表の②の「私的解決」の遅れによる苦情変化への対応です。社会的解決には第4章で説
明する福祉オンブズマン制度・第三者委員会(外部の社会的解決)があります。
「公的解決」とは 表の③で示すもので社会的解決が見られない場合や、利用者が納得できないことによる苦情
の変化への対応です。
職員は「愚痴」を単純に聞き流してしまっていると、実はそれが本当には虐待につながっている重要な内容を
含んでいることを見失ってしまう危険性があります。利用者やその家族等のちょっとした「愚痴・要望」を的確
に受け止め、その内容が意味している実態を整理し、その上で支援に関する問題かどうかを判断し、虐待の芽を
いち早く摘むことが大切です。
81
第3部
9
虐待防止編
PDCA サイクルの活用
支援サイクルを常に見直し、個別支援計画のモニタリングに生かすことが大事です。
自分がやっている支援の意味や経過、それによって障害者がもしや傷つき苦しんでいるかもしれない、という
事実をはやくに見つけ継続的に改善を図っていくことが重要です。個別支援計画はあるが、年度末にしかその書
類を見ないといったことでは、支援の継続的改善は期待できません。重要なことは、計画 (PLAN) →実行 (DO) →
確認 (CHECK)→処置 (ACT)をらせん状に回しながら、継続的に、どうしたら虐待要因をなくすことができ
るのかについて検討していくことです。特に処置 (ACT)で大切なのは応急処置だけでなく、虐待発生の真の原
因をその都度取り除いていく処置です。
82
第
第
3
1
章
3 章 法人・福祉事業所(施設)の組織的な人権擁護管理の具体的対策
法人・福祉事業所
(施設)
の
組織的な人権擁護管理の具体的対策
法人の倫理綱領
イノベーションを起こすために虐待防止への強い倫理が求められています。
一般企業では取り扱う商品やサービスを効率的に提供するコストダウンだけでなく、新たな価値を作り出すイ
ノベーション ( 革新)
が重要な課題となっています。そうでなければ会社の存亡にかかわります。しかし福祉サー
ビスはサービス内容が制度の中で定義されています。つまり競争が少なくイノベーション ( 革新)を起こすため
の動機が働きにくい分野といわれています。制度改革で新たなサービス単価方式の導入や規制緩和が図られ、仮
に安易な人員削減などサービスの質の低下を招くコストダウンが行われたとしても、国や地方自治体は最低基準
に違反しないかぎり、サービスの質の向上までは指導することはできません。だからこそ「倫理」がより強く求
められるのが福祉サービスなのです。
福祉サービスの提供者は社会福祉経営に携わる者として、虐待のない福祉サービスの精神や制度を強固なプ
ラットホームに据え、モーレツなスピードで進む少子高齢化社会に向けてイノベーション ( 革新)を起こすこと
が求められています。障害福祉サービスで高い倫理なくして効率を求めることは「経営」と呼ばれるものではな
いのです。
2
行動規範
具体的に職員が目指す支援の姿に虐待防止項目を明確に示しておくことが大切です。
経営理念や倫理綱領をもとに、より具体的に職員が目指す支援の姿を長期的に示すものとして行動規範があり
ます。
東京都福祉保健部が紹介している 30 項目の行動規範を紹介します。
【社会福祉法人○○会 職員行動規範】
【前文】
知的障害者は長く、社会から差別的な待遇を受け、多くの権利が無視されてきた。この間、本来ならば彼らを
支え、待遇の改善を進めるべきはずの施設並びに施設職員のなかには、それを怠るどころか、残念ながら権利を
踏みにじるような対応をしてきた事例があることを忘れてはならない。私ども○○会の歴史においても、常に利
用者の権利が守られてきたと断言できるか、改めて自戒すべきことである。
その前提に立ち、私たちは改めて○○会の基本理念「知的障害をもつ方たちが、地域社会で幸せに暮らすこと
をめざします」の実現を職員一同で共有するとともに、職員として日々の責務、並びに利用者と接するにあたっ
ての指針として本文を行動規範としてあきらかにすることとした。
【基本姿勢】
1 利用者の人間としての人格・尊厳を尊重し、その権利擁護に努めなければならない。
2 支援者としての立場を自覚し、利用者の主体性、個性を尊重しなければならない。
3 日頃から利用者の信頼を受け、かつ模範となるべき態度・行動を心がけなければならない。
【行動規範】
第1章 利用者の人格・尊厳の尊重
83
第3部
虐待防止編
1 障害の状況、能力、行動、性格、性別、年齢その他のいかなる理由によっても差別してはならない。
2 利用者本人の前のみならず、職員間であっても差別的な用語を使用してはならない。
3 個々の利用者の年齢にふさわしい接し方を心がけなければならない。
・子ども扱いしない。
・あだ名や「ちゃん」付けで呼ばない。
「~さん」と呼ぶ。
・上記のことは職員間で利用者の話をするときも同様である。
4 利用者の話し方や癖などを真似したり、嘲笑してはならない。
5 利用者に対して馬鹿にするような態度を取ってはならない。
6 利用者を好き嫌いで判断したり、態度や言葉に表してはならない。
7 利用者の人格・尊厳を無視した研究・調査を行ってはならない。 第2章 暴力・威圧の禁止
8 いかなることがあっても利用者に対して体罰をふるってはならない。
9 利用者本人並びに周囲に危険が及ばない限り、いかなる身体拘束も行なってはならない。
・ 必要と判断された場合であっても、そうしなくて済む方法を常に考えるよう心がけなければならない。
10 食事を抜くなど、人間の基本的欲求に関わる罰を与えてはならない。
11 利用者に威圧感を与える態度・行動をとってはならない。
・命
令的な口調、必要以上に大きな声、威圧感を与える表情、威圧感を与える態度(腕組み、腰に手を当て
る、など)
第3章 守秘義務の厳守
12 いかなることがあっても、業務上知りえた利用者及び家族の情報を第三者に口外してはならない。
第4章 支援者としての自覚、利用者の主体性の尊重
13 常に利用者の訴えを聞き、真剣かつ迅速に対応しなければならない。
・ 利用者の立場・気持ちに立って考える
・ 利用者を待たせない。すぐに対応できない時でも、利用者が納得したうえで必ずあとから対応する。
14 職員個人の名誉や自己表現などのために利用者を利用してはならない。
15 職員の主張をみだりに押しつけてはならない。
16 職員の都合で利用者を動かしてはならない。
・ 職員の都合で食事や移動を急がせること、職員の私的な用事を言いつけること、など。
17 利用者を無視するようなことがあってはならない。
18 利用者の前で職員だけで私語や私用の会話をしてはならない。
・利用者の前で障害特性や支援内容について話すことも控える。
第5章 利用者の信頼を受けかつ模範となるべき態度・行動
本章は、日頃から率先して利用者に対して模範となるべき態度・行動を心掛けるべきであることを示したもの
であり、利用者はもちろん、家族、関係者、職員同士など、誰に対しても常に社会人としての意識をもち、下記
のことを守らなければならない。
19 気持ちよく挨拶する。
20 明るく、やさしく、笑顔で接する。
21 日頃から、冷静な対応を心掛ける。
22 日頃から、安心感と信頼感を与える態度・行動を心掛ける。
23 落ち度がある時には、素直に認め、謝罪する。
24 言葉遣いに気をつける。
25 服装等身だしなみに気をつける
84
第
3 章 法人・福祉事業所(施設)の組織的な人権擁護管理の具体的対策
26 整理・整頓を心掛ける。
【運用】
27 本行動規範は、職員自らが基本的姿勢を向上させていくシステムのひとつとして活用される。
28 上記行動規範を違反したもの、並びに目撃したものは、必ず上司に報告しなければならない。
29 違反が甚だしい職員、改善が見られない職員に対しては、
「就業規則」の「懲戒」の項が適用される。
30 本行動規範は常任理事会において管理し、半期に一度、職員の意見を聞いた上で必要に応じて見直しを
行う。
平成 年 月 日 策定
3
虐待防止指針
行動規範等の目標と現実の差を測ることが重要です。
我が国における虐待防止指針等(マニュアル、ガイドライン、手引き)への取り組みは 2005 年(平成 17)厚
生労働省障害保健福祉部の「障害者虐待防止についての勉強会」から始まりました。この勉強会は施設や家庭等
で続発する障害者に対する虐待防止の在り方および防止のための適切な支援の在り方を検討するためのものでし
た。具体的には障害保健福祉部長の主催する、各方面の有識者や行政担当者による勉強会を開催し施策の方向性
を検討するというものです。また、障害者自立支援法で規定された権利擁護の考え方を、実際に機能させるため
の具体策を検討することも含まれていました。
当初は知的障害に関係する施設における虐待防止から出発し、勉強会の検討状況を見ながら、他の障害や家庭
内等の虐待に議論を拡げる計画で行われました。その後、
下記のように虐待防止指針等が整備されてきています。
2007 年(平成 19)3 月「山口県虐待防止マニュアル」山口県健康福祉部障害者支援課作成
2009 年(平成 21)3 月「障害者虐待防止の手引き」全国社会福祉協議会作成
2009 年(平成 21)9 月「障害者虐待防止マニュアル
~行政・支援者が障害者虐待に適切に対応するために~」NPO 法人 PandA-J 作成
2010 年(平成 22)4 月「障がい者虐待防止マニュアル初級編」
富山県厚生部障害福祉課作成
虐待防止指針は作成することが目的ではありません。残念なことですが、虐待防止指針等が作成された後にも
障害者施設における悲惨な虐待事件は繰り返し起きています。このことは虐待防止指針等が現場の職員のもとで
活用されるずに虐待の芽を摘めなかったとも考えられます。虐待防止指針等は目標としている支援と現実の支援
の差を具体的にチェックすることで虐待防止の取り組みへと生かされるのです。
4
人権擁護委員会の設置
定期的に利用者の顔が見える形での話し合いが重要です。
福祉事業所(施設)が虐待防止を進めるためには、人権擁護委員会(虐待防止委員会・権利擁護委員会等の名
称ですでに実践されているところもあります)を設置して、虐待防止委員、あるいは人権擁護委員を決めて、定
期的に会議を設ける仕組みが重要です。
(人権擁護委員会のメンバー)
利用者の人たちが「この人は話しやすい相手だ」と思える人に、人権擁護委員会の委員になってもらうことが
基本です。
85
第3部
虐待防止編
(選出、任期、改選)
「利用者が話しやすいと思える人が人権擁護委員になる」ことからいえば、利用者が協議して決める事が望ま
しいといえます。たとえばある事業団では、人権擁護委員会のメンバーを利用者の人たちが選出し、任期や改選
に関しても積極的にかかわっているといいます。
(施設内での人権擁護委員会の立場)
利用者の立場に立った意見や議論が生かされるためには、理事長や施設長が了承し、組織的に委員としての役
割を確立していくということが必要です。
委員会の立場を明確にすることで人権擁護委員会が定期的に開催され、
みすごされがちな虐待リスクにも目が向けられ、
「そういえばこんなこともあったな」などの率直な意見が出る
ようになります。形式的にならない状況(時間やスペース)を配慮することが大切です。
(利用者の参加)
人権擁護委員には、P85 の委員会規程のように職員の他、利用者の代表や家族の代表が入ることもあります。
利用者が自由に発言がしやすくなる環境を作ることが大切です。利用者の苦情を解決する形で意見をくみとるこ
ともよいかもしれません。
(施設長や管理職の参加)
施設長や管理職も参加することがありますが、管理者がいると日頃その人のもとで働いている職員は自由に発
言がしにくいものです。自由に言える環境づくりが重要です。施設長や管理職の心構えや留意すべきことは、利
用者の立場から物事を考え、話し合うことができるように委員一人ひとりを直接的あるいは間接的に支援してい
くことです。その際、施設長自身が何とかしたいという思いから、あまり議論をリードしないことも大切です。
助言を求めらることもあるでしょうが、やはり、委員の会話を一番大切にしてください。あくまでも委員の発言
を支える姿勢で参加することが必要です。たとえば、なかなか皆の前で発言できないという人がいれば、
「ちょっ
と一言」といった時間をつくっておくことも大切です。また事前にメモ書きみたいなものを無記名で提出できる
仕組みも工夫するといいでしょう。
支援する側の視点ではなく、利用者にとって生活しやすい、活動しやすいなどが基本におかれているところが
ポイントになります。
(継続的に機能させるために)
人権擁護委員会を継続的に機能させるためには、組織的(自治会のようなところも含めて)に人権擁護委員会
をきちんと位置づけて、毎月開催することが大切です。
そこでは法人の姿勢が問われます。人権擁護委員会に対する要綱をつくるなどして、課題に対して実行・点検
ができる仕組みを用意して人権擁護委員をバックアップすることが重要です。トップダウンや経験年数の長い人
の「指示」や「なれ合い」や「あきらめ」が出てきてしまうと、せっかく委員会を設置しても効果がなくなって
しまいます。特に委員会では、
「虐待の芽」の気付きにつなげて人権意識を育てることに力点を置くことが大切
です。
86
第
3 章 法人・福祉事業所(施設)の組織的な人権擁護管理の具体的対策
(参考資料1 福岡県資料を参考に作成)
●○●○事業所人権擁護委員会(例)
(委員会の目的)
第1条 人権擁護委員会は、利用者の人権擁護の観点から、適正な支援が実施され、利用者の自立と社会参加の
ための支援を妨げることのないよう、定期的に又は適時、委員会を開催し、虐待の防止に努めること
を目的とする。
(委員会委員の選出)
第2条 委員は以下のとおりとする。
1)委員長は、管理者とする。
2)委員には、○○、○○、○○を加える。
3)委員には、研修委員会、事故防止委員会の委員を1名ずつ加える。
4)委員には、必要ある場合に栄養士、法人役員、第三者委員を加えることができる。
5)委員に、利用者の代表を加えることができる。
6)委員に、家族の代表を加えることができる。
(委員会の開催)
第3条 委員会の開催を次のとおりとする。
1)委員会は、月最低 1 回以上開催する。
2)会の開催の必要があるときは、○○が招集し開催する。
(委員会の実施)
第4条 委員会は次のとおり実施する。
1)職員倫理綱領を職員に周知し、行動規範とするよう啓発する。
2)
「虐待の分類や発生プロセス」について、職員に周知することと、定期的な見直しを行い、疑いのある
項目を足していく。
3)
「虐待を早期に発見するポイント」に従い、
「虐待発見チェックリスト」結果による調査を必要あるごと
に実施する。
4)上記の実施した調査の結果、虐待や虐待の虜があるときは、虐待防止受付担当者に報告する。
5)研修委員会と日程の調整を行い、虐待防止に係る研修を年 2 回以上行うこととする。
6)事故防止委員会より、事故等の問題が虐待につながるような場合は、虐待防止委員会において対応する。
7)その他、法令及び制度の変更のあるごとに委員会を開催し、規定等の見直しを行うこととする。
(委員会の責務)
第5条
1)委員会は、虐待が起こらないよう事前の措置として、職員の虐待防止意識の向上や知識を周知し、虐待
のない施設環境づくりを目指さなければならない。
2)委員は、日頃より社会福祉法・知的障害者福祉法のみならず障害者自立支援法や障害者の権利宣言等の
知識の習得に努めるだけでなく、人格(アイデンティティー)の向上にも努めるものとする。
3)委員会の委員長・委員は、日頃より利用者の支援の場に虐待及び虐待につながるような支援が行われて
いないか観察し、必要があるときは職員に直接改善を求めたり、指導することとする。
87
第3部
虐待防止編
4)委員会は、
その他の各委員会とも連携をとり利用者の虐待の虜のある事案や支援等に問題がある場合は、
各委員会と協議し、協同で会議を開催する等、虐待防止の対応・対策及び改善を図るものとする。
(委員会の委員)
別途添付
(参考資料2 福岡県通知案を参考に作成)
平成 年 月 日
関 係 各 位 殿
「虐待防止受付窓口設置」のお知らせ
本法人虐待防止対応規定により、本事業所では利用者からの虐待通報に適切に対応する体制を整えることとい
たしました。
本事業所における虐待防止対応責任者(人権擁護委員長)
、虐待防止受付担当者及び第三者委員を下記のとお
り設置し、虐待の防止に努めることといたしましたので、お知らせいたします。
記
虐待防止対応責任者
○○ ○○
虐待防止受付担当者
○○ ○○
第 三 者 委 員
○○ ○○
○○事業所 管理者
○○事業所 サービス管理責任者
連絡先:0 ×××-××-××××
○○センター 連絡先:0 ×××-××-××××
虐待防止の解決方法
1)虐待通報の受付
虐待の通報は、面接、電話、書面などにより虐待防止受付担当者が随時受け付けます。また、直接虐待
通報を申し出ることもできます。
2)虐待防止受付の報告・確認
虐待防止受付担当者が受け付けた虐待通報を虐待防止対応責任者と第三者委員に(虐待通報者が第三者
委員への報告を拒否した場合を除く。
)に報告いたします。第三者委員は、内容を確認し虐待通報者に対
して、報告を受けた旨を通知します。
3)虐待防止解決のための対応
虐待防止対応責任者は、虐待通報者と誠意をもって対応し、解決に努めます。その際、虐待通報者、第
三者委員の立会いによる相互協議は、次により行います。
ア 第三者委員による虐待内容の確認
イ 第三者委員による解決案の調整、助言
ウ 相互協議の結果や改善事項等の確認
4)連絡先
ア ○○県運営適正化委員会:℡○○○○-○○-○○○○
イ ○○市障害福祉課:℡○○○○-○○-○○○○(代表)
88
第
5
3 章 法人・福祉事業所(施設)の組織的な人権擁護管理の具体的対策
人権擁護のための計画的研修体制の整備
研修は「負の集団力学」へむかうことの予防。そして「知っている」だけでなく「実施でき
る」
ようにするために必要です。
(道徳心でコントロールすることができなくなる三つの段階的側面)
職員誰もが一定の良心や道徳心をもって支援にあたっています。普通は虐待をしないように自分をコントロー
ルしています。そして職場の基準や自身の良識や道徳心に背けば、罪悪感を持ったりして反省をするものです。
しかし施設で起きている様々な虐待事例をみると、この良識や道徳心によるコントロールが利かなくなって発生
していることがしばしばです。集団の中で罪悪感が薄れてくるとき虐待がエスカレートするのです。
良心や道徳心でコントロールできなくなる過程には三つの段階的側面があるといわれています(Bandur 1999)
。
1つ目の段階は虐待行為そのものを肯定する側面。たとえば暴力は指導であるといって正当化したり、他の施
設や先輩職員はもっとひどいことをしていてまだ自分のほうがましだとする「比較による弁解」です。
2つ目の段階は虐待の結果を肯定的に考える側面。たとえば「叩いたとしても大したことはない」ととらえた
り、
「きびしく何度も教えたおかげで利用者との関係性が構築できた」とか、
「罰を与えることでかえって我慢が
できるようになった」とか、
「上司に指示されてやっているのだからしかたない」といった「主観的自己評価に
よる責任分散」です。
3つ目の段階は虐待の原因を被害者側にあると考える側面。たとえば「叩いてまで教えなくてはならないの
は親のしつけが悪かったからだ」と考えたり、
「わざとガラスを割って職員を馬鹿にしているから殴られるのだ」
といった責任の押し付けによる責任転嫁です。特にこの段階になると、相手の人間性を否定するようになり虐待
が激しさを増し、非人間的な呼び方をするようになるといわれています。
ある施設での虐待事例をみても、罰として角材を足に挟んで正座させるなど、開所直後から指導的立場の職員
らが暴力的な対応を指示していたり、自ら虐待行為を行っていました。そして利用者がいうことを聞かないのは
職員がなめられているからだとか、犬や猫でもトイレのしつけをすればできるようになるといった虐待の原因を
利用者側に押しつける段階まで至っていました。残念なことに利用者の人間性を否定するようになるレベルの虐
待に進行して、はじめて事件が明るみになることが多いのです。
(集団力学に対しプラスに働く側面とマイナスに働く側面)
集団を構成する最小単位は職員個人です。しかし職員が集まればそのまま単なる職員集団になるのかといえば
そうではありません。職員集団が形成されると、
職員が集まったというだけでは説明のつかない力がうまれます。
専門用語ではグループ・ダイナミックスと呼んだりもします。この集団の力学はプラスに働く側面とマイナスに
働く側面があります。
マイナスの面でいうなら、
「小規模作業所のときには評判が良かった事業所も、多事業所を束ねる大法人に成
長するとさまざまな課題が噴出した」といったことは多くの人が経験していることです。また、先輩職員の支援
がおかしいと感じても、職員の多数である「見て見ぬふり」に自分の意見を合せてしまう、そして数年もすれば
自分自身が後輩に同じ指導をしている、ということもよくおこることです。あるいは、職員全員で検討している
と自分が深く考えなくても決定されて物事がすすんでいくということや、同じ専門職同士の結束力が強まり、集
団の中で対立してしまい、支援の統制が無くなるということもあります。このような負の力学を予防したり解消
したりする方法としては職員研修がもっとも効果的です。
89
第3部
虐待防止編
(計画的な職員研修の必要性)
ですから計画的に職員研修を計画していくことが大切です。適切な職員研修方法には以下に示すように、OJT
と OFF-JT のバランスの良い実施が効果的といわれています。
OJT と OFF-JT と SDS 研修の説明
OJT
職場を通じての研修方法
(On the Job Training)
職場での上司や先輩が、職場の実務と関連させながら指導・教育する研修
OFF-JT
職場から離れての研修方法
(Off the Job Training)
外部機関で行う研修に参加する
SDS
自己啓発援助制度の研修方法
(Self Development System) 自主的な自己啓発活動を経済的・時間的な援助を受けて行う研修
2008 年「社会福祉施設の人材確保・育成に関する調査報告書」によると、OJT に加え多様な研修機会を設置
して取り組んでいる法人ほど離職率が低いことが報告されています。
職場研修推進の手順に関しては全国社会福祉協議会が出版している『福祉の「職場研修」のマニュアル」等を
参考にしてください。
虐待が行われていた施設では、明確な「支援基本方針」等の提示もなく職員研修も行われていなかったことが
少なくありません。利用者支援について、個々の職員の価値判断に任せきりになってしまい、結果として集団の
マイナスの力学が働き、虐待による支援が利用者支援の基準になってしまっていたのです。
福祉事業所(施設)を経営する上で重要なことは、その福祉事業所(施設)を運営する法人が、明確な研修体
制の整備を計画し実践することなのです。
6
労務管理上の人的配置および勤務体制
パート勤務など、身分が不安定な人ほど細やかに配慮していくことが大切です。
労務管理上の人的配置を配慮するとき、
「パート」といういい方をしないようにすることが大事です。パート
という言葉はどこか引き下げているように受けとられます。妙なあつれきをうむきっかけとならないようにした
いものです。○○スタッフの○○さんというふう呼んだほうがよいでしょう。短時間勤務のスタッフに対しても
高い専門性が必要であることは言うまでもありません。実際、パート勤務スタッフの協力がなければうまく人的
配置は回らなくなってきています。
そして、会議などでもやはり全員参加で、一緒に考えていくことが大切です。非常勤という形態であったとし
ても、自分の意見がきちんと組織で常時反映されるようなことがないと、支援の改善ははかれません。パート勤
務など、身分が不安定な人ほど細やかに配慮していくことが大切なのです。
7
職員に対する心の相談・メンタルヘルス
こころの不安は支援の不安定につながるのです。
職員自身がいろいろなストレスをためてしまったり、不安な精神状態になってしまうと、利用者の気持ちを心
静かにして聞こうという傾聴の行為ができなくなってしまいます。利用者一人ひとりをしっかりと見守るべきと
きにも、つい画一的になってしまうこともあります。あるいは、
「動かないのが悪いのだ」といって、利用者の
立場を考えない支援態度になってしまうこともあるかもしれません。このようなことを避けるためにも、職員の
メンタルヘルスは大事です。職員同士で気楽に話せるような関係を作っておくことや、上司に率直に話せる関係
90
第
3 章 法人・福祉事業所(施設)の組織的な人権擁護管理の具体的対策
を大事にしたいものです。特に、職員が悩んだときにスーパーバイズできる機能がメンタルケアの基本の一つで
あるといえます。ある施設では、施設長が必ず週1回、主任クラスのリーダーの職員へのスーパーバイズを 1 時
間程度行い、そのリーダーの職員は直接支援の職員を2週間に 1 度スーパーバイスする。さらにこの直接支援の
職員は短時間勤務の人たちを1か月に1回スーパーバイスするといいます。その結果、職場全体の悩みが減り、
メンタルな問題で退職する職員が減ったといいます。
また、最近では年間契約で外部のメンタル支援の専門機関と契約し、定期的に相談の機会を設けたり、職員が
いつでも相談に行けるようにしている福祉事業所(施設)も増えてきています。この職場はこのことを通じて「皆
さん職員を一人も置き去りにしない」というメッセージを伝えているといいます。外部の相談者を事業所に招い
たことで、職員を守りたいという意思表示ともなるのです。自分たちだけでは対応できない部分は専門家に協力
をお願いするという支援は、職員の心に伝わります。
管理者 ( 施設長)は組織全体の課題、問題をきちんとつかむことが必要となります。その際の心構えや留意点
など以下の6つのポイントを参考にしてください。
①職員に不適切な支援や態度等がみられるときには、頭ごなしに怒るのではなく傾聴するようにします。どうす
ればいいかという答えは、実はその職員自身がわかってることも多いのです。職員が自分で自分の問題を解
決していくことができるようにサポートをします。管理者が答えをいうのではなくて、
「聞いてもらっている」
という安心感を相手に感じさせることが大切です。
②もし職員の精神状態に不安を感じたとしても、一方的にすぐに病院へ行けなどと、強制しないようにします。
③主治医と連絡が取れる条件であれば、医者からどういうことを留意すべきか、職場の環境をどうすべきかなど
の助言を参考にします。
④職員誰でも起こりうることだと考えてください。もし起こったとしても、そういう問題を抱えたことをあまり
マイナスに見ないことが大切です。
⑤事業所内だけですべてを解決しようとしないことも重要です。
8
定款・服務規程・就業規則における禁止行為の明記
および具体的処分・罰則
禁止行為の明確化は罰則より教育的側面を活用することでより虐待防止につながります。
これらの事柄は監査の指摘事項で作成が義務づけられ、人権侵害等がおこった場合の対応を具体的に書かなけ
ればいけないこととなっています。具体的な処分や罰則は懲戒処分の中で諭旨解職や訓告など様々な対応となり
ます。
処分や罰則は、内容だけではなく、どういう手続きで評価されるのかをきちんと職員からも見えやすいように
しておくことが重要です。罰則規程は明確にな場合が多いのですが、評価内容や手続きが明確でないことがよく
あります。評価を明確にしたものが人事考課です。ただし人事考課がうまく機能しているという事業所もあれば、
逆にうまくいかないという事業所もあります。うまくいかないのは評価が十分明確になっていないということの
他に、管理者と職員との間のコミュニケーションが十分とれていない場合が多いといわれています。絶えず、
「○
○さん。少しこの辺もっと頑張ってね」とか、普段からいろいろなことを示唆しながら進めていくことが大切で
す。
「あの人は給与が上がってなぜ自分だけ上がらないのか。何が足りないのだ。
」など訴える職員がいるかもし
れません。普段からきちんと支援内容について具体的に「こうしたらいい」という指導をしておかないといけま
せん。いきなり「定期的人事考課を半年に1回やりましょう」と言っても、職員は納得しにくいものです。人事
考課の目的は教育的な視点でも意味があります。職員とは常にコミュニケーションを図り「こういうふうにやれ
ば評価される」というものを明確に示すことが、最大の「服務規程や就業規則」ともいえます。
91
虐待防止編
第3部
第
4
1
章
オープン化した
職場・事業所にするために
福祉サービスを利用する仕組みへの環境づくり
権利擁護、苦情解決、事業の透明性の確保は契約制度の条件です。
我が国において「福祉サービス」という言葉が使われるようになったのは 1990 年(平成 2)の社会福祉事業
法改正時からと言われています。そして 1998 年
(平成 10 年)
から開催された
「福祉サービスの質に関する検討会」
により「福祉サービスの質の向上に関する基本方針」が示されました。そこでは社会福祉基礎構造改革において、
利用者本位の福祉サービス利用制度への転換を行うに当たり、利用者が福祉サービス利用を支援するため、権利
擁護事業や苦情解決事業の透明性の確保の方策が用意されました。併せてサービスに関する基準の策定、サービ
ス評価などの仕組みの充実、強化の転換がはかられました。措置制度から大きく転換した「契約制度における権
利擁護のための制度関係」を参考にしてください。
福祉施設
入所者
措置制度の施設と障害者の関係
社会福祉基礎構造改革
福祉事業所
第三者委員
利用者
オンブズマン制度
成年後見制度
日常生活利用支援事業
人権擁護委員会
苦情解決委員会
サービス評価基準
1)
行政主導型
2)
単独施設嘱託型
3)
地域ネットワーク型
4)
市民活動型
5)
当事者活動型
A 自己評価 + B 利用者評価 + C 外部評価
事業所のオープン化にむけての制度活用
92
外部
内部
第三者評価事業(公開)
第
2
4 章 オープン化した職場・事業所にするために
福祉サービスの第三者委員の活用
人権擁護委員会の設置が虐待の気づきにつながるのです。
社会福祉法第 82 条に、
「社会福祉事業の経営者は常にその提供する福祉サービスについて、利用者等からの
苦情の適切な解決に努めなければならない」と明記されています。経営者が自ら苦情解決に積極的に取り組む際
の参考として「社会福祉事業の経営者による福祉サービスに関する苦情解決の仕組み」の指針が示されています。
苦情解決体制を整備するために「苦情解決責任者」
「苦情受付担当者」を設置すること、および事業所内の苦情
解決の仕組みを第三者が加わったものとするために「第三者委員」を設置することが示されています。
ここでは福岡県が作成した第三者委員に関する指針を紹介します。
【虐待防止対応責任者・第三者委員の職務等】
虐待防止に社会性や客観性を確保し、利用者の立場や特性に配慮した適切な対応を推進するため、第三者委員
を設置する。
○ 設置形態
ア 事業者は、自らが経営するすべての事業所・施設の利用者が第三者委員を活用できる体制を整備する。
イ 虐待防止の実効性が確保され客観性が増すのであれば、複数事業所や複数法人が共同で設置することも可
能である。
○ 第三者委員の要件
ア 虐待防止及び解決を円滑・円満に図ることができる者であること。
イ 世間からの信頼性を有する者であること。
(評議員、監事又は監査役、社会福祉士、民生委員・児童委員、
弁護士など)
○ 人 数
第三者委員は、中立・公正性の確保のため、複数であることが望ましい。
その際、即応性を確保するため個々に職務に当たることが原則であるが、委員相互の情報交換等連携が重
要である。
○ 選任方法
第三者委員は、経営者の責任において選任する。
ア 理事会が選考し、理事長が任命する。
○ 職 務
ア 虐待防止受付担当者からの受け付けた虐待内容の報告聴取を行う。
イ 虐待内容の報告を受けた旨の苦情申出人への通知
ウ 利用者からの虐待の直接受付
エ 虐待通報申出人への助言
オ 事業者への助言
カ 虐待通報申出人と虐待防止対応責任書の話し合いへの立会い、助言。
キ 虐待防止対応責任書からの虐待に係る事案の改善状況等の報告聴取
93
虐待防止編
第3部
ある利用者が夏でもマスクをしていました。なぜかといえば、その人はよだれが出るからだそうです。母
事 例
親が迷惑をかけてはいけないと小さいときからいつもマスクをさせていたのです。今のような不燃性のマ
スクではなくガーゼのマスクです。しかし、第三者委員から「夏に風邪も引いていないのに、マスクをあ
ごにしているなんて変だ」と指摘されました。その施設の施設長も職員も「ちっちゃいときからこうやっ
ているんです」と説明しました。施設長が職員になったときから、その利用者はそうしていましたし、み
んなもそうするものだと思っていたそうです。 外部の人から指摘されて改めて、一般的には変なことな
のだと気づくことができたのです。このようなことが施設ではよくあります
3
オンブズマン制度の活用
この制度の必要性や効果に関する考え方の違いから多様性な形態が生まれています。
「オンブズマン」とは元来、権力と裁量権をもつ行政による人権侵害から市民を守るために設置された、市民
の声を代弁する機関のことです。ここでの「代弁」とは、市民の声を受け止め、調査して、行政に対して提言す
ることです。公的オンブズマンが日本で初めて出来たのは、1990 年川崎市市民オンブズマン条例を制定した川
崎市でした。
「福祉オンブズマン」は特定分野のオンブズマンです。福祉サービス提供者と利用者の間では一般に、サービ
ス提供側が有意な立場になりやすく、構造的な上下関係が出来てしまいがちです。そこで利用者側の権利を守ろ
うということで福祉オンブズマンが設置されました。現在日本では、以下のような様々な形態の福祉オンブズマ
ン制度があります(
「障害者虐待防止マニュアル」PandA-J)
。
①行政主導型
福祉サービスに関する根本的な責任主体である行政が、福祉サービス全般にわたり市民の声を受け付けるため
に設置する形態です。直接的に行政に声が届き、福祉サービスの提供責任の根本に迫れる可能性があるという意
味では非常に期待できます。他方、守備範囲が非常に広いということもあり、福祉サービス利用者の声を受け止
めるうえでの「フットワーク」に難があり、積極的に苦情を申し立ててこれる人だけが恩恵を受けるというきら
いがあると思います。
②単独施設委託型
福祉施設の責任者が第三者に委託して、同施設のサービスについて、施設利用者の声を代弁してもらう制度で
す。東京都の多摩療護園 や秋田県の内潟療護園などが発祥であり、全国各地に多くの実践例があります。
施設はどうしても閉鎖的・密室的になりやすいので、第三者を入れて利用者の声を受け止めてる必要性の高い
場面と言えます。そして、
施設の責任者自らが嘱託したオンブズマンからの提言であれば軽視されにくいだろう、
と期待されています。だた、施設の責任者の人権意識が低いとオンブズマンシステムが形骸化してしまう危険性
があります。
③地域ネットワーク型
これは、上記のような個別施設のオンブズマンの危険を念頭に置いて、地域的に近くにある複数の施設がネッ
トワークを作り、そのネットワークに加盟している各施設に、利用者の声を受け止めて対応する第三者を定期的
に施設に派遣し、
そこで上がってきた問題をネットワークと協働して解決していこうとする形態です。
「○○ネッ
ト」という愛称のもとに、全国的に広がっています。
94
第
4 章 オープン化した職場・事業所にするために
この形態においては「単独設置型」のメリットのほかに、ネットワークに加盟している各施設が当事者主体な
どの理念を共有し、情報交換して、施設利用者の権利擁護に努めるとともに、相互チェックするといったメリッ
トがあります。
ただ、
ここでもネットワークの人権意識が低下していくと、
メリットが生きなくなってしまいます。
④市民活動型
福祉サービスの提供者側と特に関係性のない市民が、人権意識のもとで集まって、純然たる第三者として、福
祉サービスをチェックするシステムです。
福祉サービス提供者との関係で、
立場の「独立性」が明確なので、
市民としての一般的な人権意識を基盤とした、
強い問題提起が期待できます。ただ、対象となる福祉サービスに関する具体的な情報、利用者の具体的な状況に
関する情報を把握しにくい場合があり、そのような場合には現実的に有効な活動をしにくい面があります。
⑤当事者活動型
障害のある当事者が、福祉サービスを受ける立場の同胞として、福祉サービス利用者の声を代弁していくシス
テムです。精神障害者の分野では東京の「こらーる・たいとう」
、知的障害者の分野では、
「ピープル・ファース
ト」のメンバーがこの活動をしています。福祉サービス利用者側に立った活動としては理想的な形態です。ただ
その活動では適切な支援が必要な場合が多く、また、この形態を受け入れる福祉サービス提供者側の人権意識の
高さが前提となります。
福祉サービス事業所におけるオンブズマン制度のポイントと思える 4 つのハードル
第 4 ハードル
第 3 ハードル
第 2 ハードル
第 1ハードル
敵対可能性のある
オンブズマンの人選
指摘を真摯に
受け止める
主体的・具体的に
指摘事項対応策に
取り組む
有効活用
制度の導入
4
福祉サービス第三者評価事業
「評価されたい」
という思いが先に立ってしまわないことが大切です。
障害者やその家族が障害福祉サービスを自ら選ぶのはとても難しいものです。どの事業所、施設が自分にとっ
ていいのかわからず、いざサービスを受ける時になって「十分確認してください」と事業所のサービス提供責任
者にいわれても、何を確認すればいいのか、どうやって調べればいいのか、どの情報をあてにすればいいのかな
ど、わからないままに、契約書にサインをしている利用者が少なくないことでしょう。
福祉サービスは電化製品などの有形製品とは異なり目に見えにくので、サービスの質を比較したり、確認した
りすることが難しいのです。
福祉サービスは以下のような 4 つの特徴を持っていることを理解することも大切です。
①福祉サービスは電化製品のように倉庫にしまっておいて需要に応じて販売することはできません。昨日予約の
なかったヘルパーへの支援枠は埋まることはありません。
95
第3部
虐待防止編
第三者評価と行政監査との関係
実際のサービス水準
第三者評価
最低基準
行政監査
②福祉サービスはひと対ひとのサービスです。有形製品ではないため、利用者は自分が受けるサービスを事前に
確認することが困難です。
③福祉サービスは提供と消費が同時に進行します。移動支援のサービスは、支援を受けると同時に利用者によっ
て同時に消費されます。購入した電化製品はいつでも同じものが使えますが、福祉サービスは二度とやり直し
がきかないサービスといえます。
④福祉サービスは提供する側と利用する側の関係性が必要です。福祉サービスはここが異なります。電子レンジ
を使う際には購入者は何ら協力を必要とはしません。
「福祉サービスを購入する」ことは、このような特徴があるので、物を購入することのように、容易ではない
のです。同じメーカーの電化製品は規格から品質まで均一ですが、福祉サービスは同じ質を期待することが困
難な面があります。サービスの評価時間や場所(環境)や利用者ニーズや提供する人によって、が異なるのも
こうしたことからです。
ですので、利用者がサービスを選択する際の目安となったり、事業所の内容を把握することが可能となるよう
に、各事業所の評価を公表する工夫が求められています。この仕組みが福祉サービス第三者評価制度です。2001
年 ( 平成 13)厚生労働省に設置された福祉サービスの質に関する検討会において「福祉サービスにおける第三
者評価事業に関する報告書」の中でまとめられています。公表されるのは、利用者調査の結果、事業評価の結果
とされています。それぞれについてあらかじめ事業所が公表し同意した内容となっています。ただし、オンブズ
マンなどの外部評価の結果は事業所の自主的取り組みとして、公表すべき評価から除いている自治体が多いよう
です。
以下、国の事業である「福祉サービス第三者評価事業」の推進体制概略を参考にしてください(厚生労働省資
料)
。
96
第
助成・助言
厚生労働省
都道府県
情報提供
全国社会福祉協議会
4 章 オープン化した職場・事業所にするために
都道府県推進組織
全国社会福祉協議会に評価事業普及
協議会及び評価基準等委員会を設置
都道府県、都道府県社会福祉協議会、
公益法人又は都道府県が適当と認め 認証
る団体とする
以下の業務を実施
第三者評価機関認証委員会
基準の策定
第三者評価基準等委員会
事業報告等
○ 第三者評価基準及び第三者の手法
の策定・更新
○ 評価調査者養成研修及び評価調査
者養成研修の実施
○ 第三者評価事業に関する情報公表
及び普及啓発
○ 第三者評価結果の公表等
WAM NET(第三者評価事業に関する情報の掲載)
情報の利用
利
5
用
者
利用申込
情報提供
福祉サービス事業者
サービス提供
情報提供
情報の利用
評価申込
第三者評価
事業推進の
ために●●
○ 福祉サービス第三者評価事業の普
及啓発に関すること
○ その他サービス第三者評価事業の
推進に関すること
情報の利用
第三者評価機関
○ 第三者評価機関の認証
○ 第三者評価事業に関する苦情等へ
研修の実施
の対応
○ その他第三者評価事業の推進
評価
○ 都道府県推進組織に関するガイドラ
インの策定・更新に関すること
○ 福祉サービス第三者評価機関認証
ガイドラインの策定・更新に関する
こと
○ 福祉サービス第三者評価基準ガイド
ラインの策定・更新に関すること
○ 福祉サービス第三者評価結果の公
表ガイドラインの作成・更新に関する
こと
○ 評価調査者養成研修等モデルカリ
キュラムの作成・更新その他評価調
査者養成研修に関すること
情報の利用
・
家
庭
第三者が出入りできる環境づくり
(家族・ボランティア・実習生等)
多くの目で利用者の人権を見守るような環境作りが大切です。
2010 年 4 月、大阪府は、府内の社会福祉法人が運営する障害児施設で、職員 13 人が入所児童ら 21 人に対し
て体罰などの虐待を日常的に繰り返していた、と発表しました。同施設には知的障害児を中心に約 50 人が入所
していましたが、このうち5~ 22 歳の計 21 人が体罰を受けていました。虐待に関与していたのは、職員約 30
人のうち男性児童指導員5人と女性保育士8人で、パニック症状になった児童の顔を平手でたたいたり、動かな
い児童を力ずくで立たせたりするなどの体罰を加えていました。けんかをした児童を注意する際などに、服や体
をつかんで引きずったり、馬乗りになって押さえたりしたこともあったそうです。
実はこの事件の発見につながったのは、この施設で実習した短大生からの告白でした。
同施設で実習中、虐待を目撃した短大生が指導教員に相談したのです。その後、教員が府中央子ども家庭セン
ターに通報したことから事件が明るみになりました。府によると、これまでの年1回の定期監査では、同施設で
体罰などを確認できていなかったといいます。2009 年9月まで虐待などの情報が寄せられたことはなく、いつ
97
第3部
虐待防止編
から体罰が始まったかすら確認できないそうです。 2009 年4月の改正児童福祉法で、
施設内で起こる虐待を「被
措置児童等虐待」と定義し、施設の職員には通告義務を課し、自治体には防止義務が盛り込まれました。しかし、
その後にこうした事件が起こったことに、関係者は虐待の根深さを再認識させられました。
なぜ、定期監査で見抜けなかったのでしょうか。苦情はなかったのでしょうか?人権擁護委員会が設置されて
なかったからでしょうか?オンブズマン制度を取り入れていなかったからでしょうか?この事件から私たちが学
ぶのは、
「どんなに虐待防止制度を用意しようとも、虐待の芽はゼロにはならない」ということです。ひとりで
も多くの目で、利用者の人権が守られているか見守ること、がなによりも虐待の芽を早く摘んでいける方法なの
です。できるだけ多くの人に福祉サービス事業所に出入りしてもらい、新鮮な目で、やもすると気がつかないで
見すごしがちになっている虐待リスクを見てもらい言ってもらう、ということはとても大切です。
しかし最近入所施設では、親が高齢になったことで、今までは定期的にあった面会の機会が少なくなっている
といわれています。また地域との交流行事等が縮小されている傾向にあるという報告もあります。ぜひ事業所は
家族や地域のボランティアや実習生等が出入りしやすい環境にしておきたいものです。
積極的に第三者が出入りできる環境づくりを進めることにより、虐待の芽に気づき、予防する機会を増やして
くれることにもつながります。
もう一つの環境づくりの事例
事 例
ある施設では 30 名定員(実利用 36 人)のうち 18 名が自閉症で強度行動障害があります。しかし、そ
の施設は職員室の鍵を閉めていません。利用者の人たちがたくさん中に入ってきますし、休み時間は職員
より利用者の人たちのほうが多いこともよくあります。最初は、「あのファイルがない」とか、「あれはど
こいった」と探したり、「2階の倉庫にあったよ」などといったことが何回か繰り返えされました。でもそ
の職員たちは、利用者を叱ることなく、ていねいに「これはここのもの」、「ある場所に置きましょう」と
いう声をかけを続けたら、3年後にはほとんど誰も勝手に書棚をいじることをしなくなったそうです。
今でも職員室には多くの利用者が出入りしていますし、相変わらず休み時間は職員より利用者の人たち
の方が多くなるそうです。施設長はこう言います。「ここはだめといわれてしまうと逆に入りたくなって
しまう。開けちゃいけないといったら開けたくなる。だから、あえてダメと言いません。逆に職員も職員
室にこもりません。結果として鍵を掛けなくても問題は何もなくなるのです」。ただし医務室の薬箱や医
務のケースだけは鍵をしているそうです。
またあるユニット方式の建物の施設では、施設長の意図で職員室をつくっていないということです。細
い机が3つ並ぶ事務室があるだけです。パソコンが置いてありますが、職員がいるときには鍵をかけてい
ません。この施設長さんは、「職員室が立派で、職員室に職員が常にたくさんいて、鍵がかかっている施
設というのは、職員が利用者から離れていき、基本的に虐待を予防しようとすることにも無関心になって
いくのではないだろうか」と言います。
6
外部の指摘に対する管理者としての心構え
「オンブズマンが言ってるんだから、やらなきゃしょうがないじゃないか!」
これが改革の突破口かもしれません。
どんな組織においても、いいことをやっているつもりであっても、だんだん惰性に流され、問題が生じてくる
ことはよくあります。そのときに、
第三委員やオンブズマンを新たに入れて「全く違う視点で眺め直してもらう」
ことが重要です。このことは、簡単なようで意外と難しいものです。まず、大事なポイントは、新しく第三者委
員、オンブズマンが入る時に、事前の制限や依頼事項を作らないことです。期待をし過ぎるあまり「あれやこれ
やをしてください」と言うことをしない。また特別の第三委員やオンブズマンからどんな指摘がされても、管理
98
第
4 章 オープン化した職場・事業所にするために
者は毅然と受け止めるべきだということです。よくあることですが、
最初は「なんでも言ってください」とか、
「第
三者の目でいろいろ指摘されることは、利用者へのサービスをよくするのです」などと言うけれども、実際「こ
こおかしいですね」などと第三者委員やオンブズマンから言われると、
「福祉を何も知らないくせに」
「支援の事
情を知らないくせに」と否定の感情をもったりしがちです。しかし、ここが肝心です。
「今日言われたことがど
ういう根拠によって言われていることか」を冷静に、客観的に、整理することができれば、建設的な考え方で指
摘を受け止めることができるようになります。これができれば、管理者と第三者委員、オンブズマンの間に忌憚
のない関係性が生まれます。コツは、
「よい評価をされたい」という思いを先にもたないことです。外部の人の
意見が生かされなくなります。
「通常の対応を見てもらい、しっかりと受け入れる」という基本的な心構えが管
理者には強く求められていることを、再度、確認したいと思います。
(指摘されたことを、どうやってうまく活用させていくのか)
第三者委員やオンブズマンの鋭い指摘を管理者が真摯に受けとめたとしても、そのまま職員が納得してくれる
とは限らない場合もあります。指摘された事項や内容を職員たちとていねいに検討し、実践に反映していくこと
が大事なのは言うまでもありません。
またこんな例もあります。ある大企業のオンブズマンの例です。有名な評論家やジャーナリストなどが委員を
やり、その指摘は、結構鋭い。しかし現場からすると「それってなんだよ」とスタッフの中で困惑が起きること
もある。現場の事情のほうが勝ってしまいそうなことも少なくない。しかし、この社長は、困惑するスタッフを
そのままにせず、明るくこう言って、職場の変革をさらりとやりのけるのだそうです。
「オンブズマンが言って
るんだから、やらなきゃしょうがないじゃないか!」
。オンブズマンが指摘したということをうまく使い、今ま
でできなかった改善に取り組めることもあるそうです。
99
虐待防止編
第3部
第
5
1
章
虐待を発見・発生した場合の対応
対応がわからないと隠すしかなくなる。虐待の芽を摘む
方法と合せて対応の手順を決めておくことが重要です
虐待の情報を受けた場合はまずどうするのか。
ある年配の施設長が教えてくれた、このような話があります。ある時、知り合いの施設長から慌てたように、
次のような電話がかかってきた。
「うちの施設で虐待があった。暴力を振るった職員はもう警察に捕まってしまった。しかし理事長はあまり公
にするな、警察には協力するな、警察に協力するといろいろなことを調べられてしまうから、だまっていろ、と
いっている。私はどうしたらいいのか……」
。
この施設長は起きてしまった事実に対しどうすればいいかわからず、事実を隠そうとする理事長の間でおろお
ろしていました。この相談に対し、私はこう助言しました。
「まず事実確認をきちんと把握して下さい。もしその職員が事実を認めているなら、理事長に対してすぐに理
事会を開くように進言し、関係者に適切に説明するよう説得するのがあなたの仕事です」
。
その施設長はその後、落ち着きを取り戻しあらためて理事長を説得しました。最終的には理事長も「やはり警
察には協力しましょう。保護者会もきちんと開きましょう」ということになったそうです。
この理事長も施設長も、虐待が足元で起きてしまった時の対応方法がわからなかったのです。施設長がすべき
ことは虐待を隠すことではなく、関係機関に協力し、虐待されてしまった利用者の人権を守ることです。虐待対
応に関する規程等が各事業所にあるにもかかわらず、理事長、施設長や、幹部の職員や管理者がその存在や手順
をしっかり理解して使えるようになっていないことは問題です。もしそのような福祉事業所(施設)で虐待が起
きた場合、解決のための対応がなされないか、内部でひそかに処理されることが多くなるといわれています。
こうした内部解決は再発の防止につながるどころか繰り返し虐待が行われ、最後には隠しきれない重大な虐待
が起きることにつながります。残念ながら、これまでの過去の事例が教えてくれています。
そうならないために、
「虐待や不適切支援に対する相談・苦情・通告の対応フローチャート」等を用意して職
員や関係者並びに本人や家族に至るまで周知に努めることが大切です。
100
第
5 章 虐待を発見・発生した場合の対応
101
第3部
2
虐待防止編
虐待の気づき
権利擁護のための制度を活用して、本人や発見者との連携が大切です。
施設内虐待は職員による内部告発によって発覚することが少なくありません。1997 年 ( 平成9)に発覚した
白河育成園虐待事件では職員らの内部告発によって多くの知的障害者を救うことにつながりました。第 4 章で示
した権利擁護のための制度を活用して相談・苦情・通告が円滑に進むよう対応することが必要です。
3
相談・苦情・通告の受理
多くの情報の中に重大な虐待が紛れ込んでいる可能性があります。
虐待の相談・苦情・通告があったとき、適切に対応し受け止めていくことかがとても重要です。何もかも明ら
かとなって相談してくるケースは多くありません。本人が、あるいは保護者や事実を知った人たちが不安な気持
ちで事実の関係を整理できないままに相談してくることがあります。また、時には匿名で連絡をしていくことも
あります。あいまいな表現だったり、思い込みが入っていることもあります。しかし、あいまいであっても、何
らかの事実を反映した情報の中に重大な虐待が紛れ込んでいることがある、ということを理解しておいてくださ
い。せっかく本人や保護者や事実を知った人たちが勇気を出して、相談や苦情、内部告発してきた話を一方的に、
「また細かい事をいってきて、困った人たちだ」と追いやってしまったり真剣に受け止めなかったとしたら、多
くの虐待の芽を見逃してしまうことにもなるのです。まずは、相談や告発をしっかり受け止めてください。そこ
から虐待の救済や防止の一歩が始まるのです。
苦情窓口や虐待相談を受けた職員は受付記録の作成が義務づけられています。その上で、確実に管理者 ( 施設
長)へ報告する責務があります。
また今後、新たな相談支援の仕組みとして検討されているのが、基幹相談支援センターや指定相談事業所で
す。人権擁護委員や管理者のところまで確実に声が届くような工夫が大切です。今後このような中立的な相談セ
ンターを地域の機関として位置付けて活用することが急務となっています。
102
第
4
5 章 虐待を発見・発生した場合の対応
アセスメントの開始
なぜ虐待が起きてしまったのか、事実をきちんとアセスメントすることが重要です。
1)まずは利用者の安全確保 もし、虐待あるいは虐待の疑いの相談があった時には、被害を受けたと思われる利用者とそれを疑われる職員
などを可能な限り、分離させる対応が必要です。食事の席を離す、同じ作業グループにしない、該当職員等の姿
や声が聞こえない環境にするなどの配慮をしてください。事実が明らかになっていない中にも、虐待が疑われる
ケースが含まれているからです。障害のある人の場合は身体的体罰やネグレクトの被害にあっても、自ら助けを
求めることができないのです。逃げ出すこともできないのです。アメリカのある州の行政は、
「51%の嫌疑があ
れば、すぐに虐待を疑い、対応を開始しなければならない」としています。少しでも疑いがあれば、まず利用者
の身体的、心理的安全確保を図ってください。
特に身体的虐待や性的虐待が疑われる場合には速やかに医療機関で受診することも重要です。できれば診断書
を受け取るようにしてください。
2)緊急性の判断
利用者の安全確保が出来たあとに、関係者に聞き取りをしてアセスメントを始めますが、第一に虐待緊急度の
判断をしてください。生命に危険な状態や行為などの危険度を確認します。その際、必ず記録を作成することが
重要です。
事実確認のためにはさまざまな視点から明らかにしようとすることが大事です。ポイントは 4 つあります。
①本人の具体的言動
(叩かれたので、怖くて眠れないなど)
②該当職員等の具体的言動
(何も悪いことはしていない、みんなだってやっているなど)
③情報の確度
(直接見た、間接的に聞いた、他にも確認した人がいる、物的証拠がある、被害者の証言が得られるなど)
④虐待の事実関係 (あざやけがなど証拠となりうる確認、虐待の内容、種類、利用者の自覚の有無、加害者の自覚の有無、虐待
の要因、反復性はあるかなど)
103
第3部
虐待防止編
適切な聞き取りのためのスキルがあります。強引に話をさせたり、誘導してはいけません。記憶を歪めるよう
な断定した聞き取りもしないようにします。被害を受けた人にとっては何度も聞かれることにより、二次的な被
害を受けることもあります。もし、緊急性が高い場合には、施設の職員が行うのでなく、早期に外部の専門的ス
タッフに依頼することも大切です。
3)該当職員等からの聞き取り
虐待をしているとされた職員も実は虐待と思わずにやっているなどの認識不足で行っていることもあります。
誤った知識や未熟な支援技術、人手不足で不適切な援助のままに放置していることもあります。もちろん、それ
だからといって虐待が許されるものではありませんが、虐待を予防する上で、このような要因があることを十分
理解し、その上で職場全体で真正面から向かい合い克服することが大切です。
また、必要となれば毅然とした態度で聞き取りすることも必要となります。
あるグループホームの女性利用者から「体を触られた」という訴えがありました。管理者は即日、利用者の安
全確保と緊急度確認のために、女性利用者から訴えのあった職員に聞き取りをしました。その職員は、
「触って
ない」
「夏だから布団がはだけていたのをちゃんと整えに部屋へ入っただけだ」と言って、はぐらかそうとする
態度が見えました。
管理者は改めて、訴えのあったグループホームの部屋に移動して、その職員に毅然と、そしてゆったりと聞き
取りを続けました。
「深夜に男性スタッフが女性利用者の部屋に入ること自体、君はどう思うか?」
「夏に布団が
はだけることはしょっちゅう起きること、その都度、異性支援者が単独で部屋に入るようなことは行動規範に照
らしても許されることではないし、普通の生活の中で女性の部屋に勝手に入るということは、基本的にない。そ
のこと自体許されることではない。
それはかわるか?」
「そういう感覚ですべての支援を行うべきではないのか?」
「普通しないことを、なぜここでするのか」と段取りをつけて聞き取りを進めていくと、その職員はやっと、自
分の援助の不適切さを認め、利用者に謝ったということです。
104
第
5
5 章 虐待を発見・発生した場合の対応
利用者支援・職員対応・関係機関報告・再発予防
事実を明らかにしていくことは虐待を受けた利用者あるいは職員においても本当の意味
での「自尊心の回復とは何か」
を深く考えるきっかけになります。
管理者(施設長)は調査報告を受けたら、その事例に合わせて速やかに緊急理事会の招集を依頼します。理事
会の責任のもと、行政への報告や解決、再発防止の手立てを決定します。
再発予防には、
「モニタリングと個別支援計画の見直し」および「利用者・職員への計画的フォロアップと職
員研修」が必要です。
ここでは福岡県が作成した虐待への具体的対応の記録を紹介します。
105
第3部
106
虐待防止編
第
5 章 虐待を発見・発生した場合の対応
107
第3部
108
虐待防止編
第
5 章 虐待を発見・発生した場合の対応
109
おわりに
障害者の福祉サービスを提供している事業所や施設の職員の皆さん方は「虐待」と云う言葉自体に拒絶反応を
起こす方も多いかと思います。それは、障害者に対して殴る・蹴る等の暴力や金銭的横領や搾取の様に、あから
さまに目に見える象徴的な「身体的虐待」
「経済的虐待」を想像されるからかもしれません。しかし、一方で周
りの人に一見分かりにくい「心理的虐待」
「性的虐待」
「ネグレクト」等が実際多く起きている現実があります。
被害を受けた障害者や加害者である支援員も、知らない内に小さな人権侵害や虐待が気付かないまま、はびこり、
いつの間にか大きな虐待に繋がり、横行し、職員一人ではもう止められない職場の悪習慣になってしまうことも
あります。だからこそ、第 3 者の目が入る、密室にならない客観的職場環境や職員間での人権に対する牽制体制
と管理体制が必要です。
今回のこの「虐待防止マニュアル」ではその中でも「虐待」として見えにくく、
支援当事者が気付きにくくて、
習慣の中で放置されやすい不適切な「身体拘束」に着目しました。全国から身体拘束に対しての調査を行いまし
たが、明らかに虐待と言える「身体拘束」
、逆に障害者本人の命や人権、安全の為のやむを得ない支援で「身体
拘束」とは呼べないもの、一方では明確には断言できないグレーゾーンの「身体拘束」が浮き彫りになってきま
した。身体拘束に対してのガイドラインが、各地域での実践や実態と共に今後も検討・研究がなされ、個別支援
計画や行動支援計画に基づく適切な支援が丁寧にケースワークされることに役立てればと思います。職場でのス
キルアップされた支援により、利用者に対し「身体拘束ゼロ」に向けての職場環境作り、そして常に人権が尊重
された支援ができる職場をめざしていきましょう。
ところで、障害福祉で働く支援員や職員にはその持つべき資質として、優しい心、思いやり、良い障害者観、
善意、豊かな人間性等が望まれてきました。しかし、障害者の人権擁護を支援員や職員個人の資質として個人の
努力や責任に期待することだけでは、虐待は無くなりません。障害者の権利擁護・人権擁護を支援員や職員の支
援理念として定着させるためにも、障害者の福祉サービスを提供する事業所や施設・法人が基本理念とし、管理
運営体制として、事業組織の全員が障害者への権利擁護を常に意識して仕事することが重要です。人権擁護委員
会や虐待防止委員会等を設置し、日常的に自分達の職場や支援の仕方に対して、お互いに意見交換ができる民主
的な職場環境も同じく大切です。
平成 20 年に国連で障害者権利条約が発効されました、これは障害のある人もない人も同じ社会の一員として、
人権が尊重されて、尊厳をもって生活できる権利を目的としたものです。日本は平成 19 年にこの条約に署名し、
これから批准するにあたり、国内法である障害者基本法や障害者差別禁止法、障害者総合福祉法(仮称)を整備
しています。
これから、日本では障害者虐待防止法がまもなく制定される予定です。しかし、この虐待防止法の目的は、加
害者を取り締まることではなく、
虐待を未然に防止することです。福祉事業所にとっては、
支援方法のスキルアッ
プを目指し、支援者の計画に基づくチームワークによる自信ある支援が実践される事を目的としています。福祉
事業所を含め、あらゆる場所でも、障害者への虐待が無くなり、人権が護られ、誰もが誇りをもって生きてゆけ
る社会を皆さんと共に築き上げていきましょう。今後も障害ある人への支援をされる、全ての福祉サービス事業
所に向けて期待します。
「みんなの人権擁護のために!」
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研究担当者
NPO 法人 PandA- J
堀江まゆみ(白梅学園大学教授)
野沢和弘 (毎日新聞論説委員)
大石剛一郎(弁護士) 杉浦ひとみ(弁護士)
関哉直人 (弁護士)
研究協力者
古川彰彦 (福島県 福島県知的障害者施設協会会長、社会福祉法人つばさ福祉会父の夢 施設長)
松上利男 (大阪府 社会福祉法人北摂杉の子会 常務理事)
樋口幸雄 (京都府 社会福祉法人京都ライフサポート協会「庵」理事長・施設長)
加地彰子 (愛媛県 社会福祉法人澄心 「児童デイサービスぽれぽれ」施設長
(県委託)障がい児者療育支援事業 コーディネーター)
藤原茂法 (函館市 渡島・檜山圏域障がい者総合相談支援センターめい地域づくり Co)
手嶋雅史 (同朋大学社会福祉学部講師)
中山清司 (大阪府 社会福祉法人北摂杉の子会 スーパーヴァイザー)
鈴木康仁 (愛知県 蒲郡市障がい者支援センター長/相談支援専門員)
谷田敏紀 (愛媛県 NPO 法人家族支援フォーラム 地域生活支援センター「夢ポケット」所長)
渋沢茂 (千葉県 中核地域生活支援センター「長生ひなた」所長)
朝比奈ミカ(千葉県 中核地域生活支援センター「がじゅまる」所長)
野村政子 (埼玉県 行田市役所福祉課トータルサポート推進担当)
越野緑 (滋賀県 大津市立やまびこ総合支援センター)
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サービス提供事業所における虐待防止指針
および身体拘束対応指針に関する検討
発行日 2011 年 3 月 31 日 発 行 NPO 法人 PandA-J
代 表 堀江まゆみ
編集部・問い合わせ先
〒 187-8570 東京都小平市小川町 1-830
白梅学園大学 堀江まゆみ研究室 気付 PandA-J 編集部
FAX 042-344-1889
Mail [email protected]
URL http://www.panda-j.com
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本研究は、平成 22 年度障害者総合福祉推進事業費補助金事業
「障害者虐待防止に向けた調査と指針の作成および虐待防止啓発
研修プログラムの開発」
によって行った。
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