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西ドイツにおける相互会社と相互性原則

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西ドイツにおける相互会社と相互性原則
Kobe University Repository : Kernel
Title
西ドイツにおける相互会社と相互性原則(Der
Versicherungsverein auf Gegenseitigkeit und das
Gegenseitigkeitsprinzip in der Bundesrepublik
Deutschland)
Author(s)
山下, 友信
Citation
神戸法学年報 / Kobe annals of law and politics,3:89-163
Issue date
1987
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81005107
Create Date: 2017-03-30
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
山下友信
序章相互会社法の課題
第 1節 序 説
わが国における相互会社の起源が何時であるかについては必ずしも見解の一
致があるわけではないが、少なくとも第一生命保険相互会社が最初の本格的
な相互会社であったことについてはこれまた異論がないところである O その
5年が経過したわけである
第一生命が矢野恒太の努力により創設されて以来 8
が、相互会社という保険事業のための固有の企業形態はわが国の社会に確固と
した基盤を築いて今日に至っている O 歴史的な発展にはここでは立入らない
が、今日生命保険事業を営む(国内)企業 2
5社のうち 1
6社は相互会社の形態、
をとっており(第二次大戦前は 3杜)、しかも、少数の株式会社に対し圧倒的
な規模の大きさを誇っている O これに対し、損害保険の分野においては、相
(
1
)
第一生命八十五年史.n (
1
9
8
7
)1
1頁以下参照。
(
2
) 岩崎稜「ドイツ相互保険法の中核概念」生命保険文化研究所所報 5号(19
5
9
)398頁
、
7
4
)474頁、広海孝一『保険論.n(
19
8
5
)
青谷和夫監修『コンメンタール保険業法(上).n(
19
6
3頁など。
(
3
) 銀行時報社編『本邦生命保険業史.n(
19
3
3
)、保険研究所『日本保険業史総説編.n(
19
6
8
)、
同『日本保険業史会社編(上) (
下
)
.
n(
19
8
0・1
9
8
2
)、生命保険協会編『昭和生命保険
史料第 1巻 第 7巻
.
n(
1970-1975) などを参照。
(
4
) 生命保険協会・日本損害保険協会編『保険年鑑昭和五九年.n (
19
8
5
) のデー夕、イ
2年度のデータなどを参照。
ンシュアランス生保統計号昭和 6
9
0
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
互会杜の数は 2杜 と 少 数 に と ど ま っ た ま ま で あ り 、 そ の 役 割 は 必 ず し も 大 き い
とはいえない D 生命保険の分野において相互会社が支配的となっているのに
対し、損害保険の分野ではそうではないことの原因を探れば様々な理由があげ
られようが、いずれにせよ、相互会社という企業形態の理解なくしては保険
企業法を理解したことにはならないことは承認されよう
O
相互会社が発展しえた基礎条件のひとつとして当然のことながら相互会社に
関する法規整が整備されていることがあげられよう
O
第一生命の創立も、そも
3年 制 定 の 保 険 業 法 に お け る 相 互 会 社 に
そ も 矢 野 恒 太 の 尽 力 が 甚 だ 大 き い 明 治3
関する規定があったればこそ実現したといえよう
O
そして、以後の相互会社
の発展とともに相互会社に関する学問的研究も現れてきた。
(
5
)
保険年鑑昭和五九年.D (前掲注(
4
)
) のデータなどを参照。
(
6
) 生命保険事業の分野で相互会社が支配的である直接の理由は、第二次大戦後の生命
保険株式会社の再建に際して相互会社という形態に移行するという方法がとられたこ
3
)
)I
T
'
昭
とに求められる。なぜ相互会社という形態へ移行したかについては、前掲げ主(
3
)
)
和生命保険史料』第 5巻 723頁以下の諸史料のほか、『日本保険業史(上).D (前掲注(
1
9
5
2
)3
6頁は、相互会社という形態によっ
5
8頁以下参照。さらに、印南博吉『保険論.D (
たことの理由として、企業の民主化、アメリカにおける相互会社の優勢、加入者の感
情の良化、旧財閥との絶縁、労使対立の緩和ということをあげる。
(
7
) わが国における相互会社に関する実定法規は既に明治 2
2年のいわゆるボアソナード
民法草案 1330条以下にみられるが、いうまでもなくこの草案は制定にまで至らなかっ
3年のいわゆる旧商法(明治 2
3年法律 3
2号)では、 659条において「社員相
た。明治 2
互ノ保険ヲ目的トシテ設立シタル会社」について、その「社員ノ権利及ヒ義務殊ニ保
険料ノ支払、追払、会社負債ノ支払、会社利益ノ分配及ヒ計算書ノ提出ニ関スルモノ
ハ其会社ノ契約若クハ定款ニ従ヒ其不十分ナル場合ニ有テハ本法ノ規定ニ従ヒテ之ヲ
定ム」と規定し、相互会社という形態の存在を認めていた。しかし、現行法のごとき
2年に新商法(明治 3
2年法律第4
8
号)が施行
詳細な規定は存在していなかった。明治 3
されたがそこでは相互会社に関する規定はなく(ただし、 664条
、 683条 1項
、 815条
2項は、保険契約に関する商法の規定を相互保険に準用するという規定がおかれた)、
2年法律第 49号)で
この新商法のもとで保険事業の規制を規定した商法施行法(明治 3
は保険事業は株式会社のみが営みうるものとしていた (
9
6条)。しかし、その直後の
9号)により相互会社について本格的に規
明治 33年制定の保険業法(明治 33年法律第 6
定されたのである。
9
1
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
筆者の属する法律学の分野においても相互会社は、数こそ多くはないが、絶
えることなく研究の対象とされつづけてきた。その焦点は、筆者がみるところ、
0年代にかけて相互会社の法的基本構造の解明というこ
第二次大戦前から昭和 3
とであった。とりわけ、相互会社における社員の地位の性格ないし相互会社に
お け る 保 険 関 係 の 位 置 づ け と い う 争 点 が そ の 中 心 で あ っ た O その結果は、野
津博士の詳細な研究にかかる結合説のほか契約関係説、重畳説という立場を
却けて社員関係説が通説的地位を確立し、今日に至っている
D
これに対して、
0年代ころから、相互会社の一層の発展とともに相互会社における会社の
昭和 3
機関構造が議論されるようになった O それは総代会のあり方という問題に集
中的に向けられた。それ以前の相互会社の基礎的研究とは異なり、この総代会
のあり方に関する議論は、総代会のあり方に関する実務に直接関係するもので
あり、相互会社に与える影響は小さいもので、はなかったが、昭和 40
年代の大蔵
省通達により総代会の実務が修正を加えられ、あるいは、その後も総代会の
傍聴制度の創設などの改善が行われ、一応現実的問題としては収束して今日
0年代以降のコンシューマリズムは、生
に至っているといえよう O なお、昭和 4
(
8
) 服部栄三「相互保険会社における保険契約者の地位(ー)(
二 )J 法学2
4巻 3号2
3
9頁
以下、 4号4
0
9頁以下 (
1
9
6
0
) が、この点の学説について詳細に検討している。
1
9
3
5、再版1
9
6
5年)
(
9
) 野津務『相互保険の研究一一特に其の法的性質を中心として J (
1
0
0頁以下。
(
1
0
) 今日の学説の状況について、石田満「相互保険における保険加入者の地位」北沢正
啓編・商法の争点(第 2版) (
1
9
8
3
)2
6
4頁参照。
(
1
1
) 第一生命保険相互会社資料室編『矢野恒太著述一覧・相互主義主要文献目録J(
1
9
8
7
)
では、この問題に関する議論が昭和3
0年代から 4
0年代はじめおよび昭和5
0年代はじめ
に多かったことを示している。
同 昭和4
0年 4月 1
4日蔵銀4
2
4
号「相互会社運営の改善について」、昭和4
4
年 5月2
1日事
2日の保険審議会
務連絡「相互会社運営上の注意について」。これは、昭和4
0年 3月 2
答申「相互会社組織運営の改善に関する答申」にもとづくものである。
(
1
3
) 昭和5
0年 6月 7日の保険審議会答申において総代会のあり方についての指摘がなさ
れ、それによる制度の改正が各社で行われている。これについては、森瀬光毅「社員
総代会の形骸化と消費者の経営参加の強イヒ」ジュリスト 6
3
6号6
0頁以下参照 (
1
9
7
7
)。
9
2
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
命保険サービスのあり方にも少なからぬ批判を投げかけ、そのような批判は当
然のことながら相互会社としてのあり方にも及んできたのであるが、表面的
には必ずしも相互会社フ。ロパーの問題としては意識されたとはいえないように
思われる。
相互会社に関しては、現在、再び法律学上の検討対象となりつつある D 学界
からは新たな視角からの注目すべき研究が現れている
t
、実務の側からも現
在の相互会社のあり方に反省を迫る指摘がなされつつあ宮。後者は、内外の
保険事業を取り巻く環境の変化によるものである O アメリカにおいて始まった
金融革命は、わが国の金融・証券業界に多大の影響を及ぼしつつあるが、保険
業界もこのような大変動の波から決して隔絶されているわけではなく、様々な
イノヴェーションが試みられつつあることは改めていうまでもなしにそのよ
うな状況下で、保険事業に関するわが国の法規整上の問題点が次第に明らかに
同 重 要 な も の と し て 昭 和4
8年 2月の国民生活審議会報告「サーピスに関する消費者保
護について」では、消費者意向の反映の一環として、相互会社では総代の選出方法、
総代会の運営などが形式化している面があるとしたうえ、総代選挙にあたり立候補者
を受けつける、加入金額階層別に選出する、総代会への一般社員の傍聴を認める、評
議員会などのピ一アール・活用などの改善がなされるべきであるとした。この報告は
0年の保険審議会答申に大きな影響を与えたものと考えられる。
前記昭和 5
(
1
5
) 大津康孝「相互会社の基本構造」私法4
3
号2
6
9頁以下 (
1
9
8
1
)、大塚英明「保険相互
会社概念の再構成(ー)(
二)
J 損害保険研究4
5巻 3号 6
3頁以下 (
1
9
8
3
)、4
5巻 4号 1
5頁
1
9
8
4
)(以下、再構成として引用)。大塚助教授はさらに近時「フランスにおけ
以下 (
2巻 2号 7
5頁以下 (
1
9
8
6
)(以下、
る保険相互会社概念の変容とその理論」早稲田法学6
変容として引用)を公表されている。
同 まとまったものとして、日本生命保険相互会社保険業法研究会『保険業法研究会報
告 書J (
1
9
8
7
)6
0
7頁以下を参照。同書でのその他の個所の記述でも相互会社に関連す
るところカf多い。
1
9
8
6
) などを参照。アメリカの事情
同 朝 日 生 命 総 合 企 画 部 編 『 生 命 保 険 最 新 事 情J (
1
9
8
5
) がきわめて有益である。
については、古瀬政敏『アメリカの生命保険会社J (
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
9
3
されつつあり、その中に相互会社固有の問題が含まれるのである O 相互会社
による社債の発行その他債務の取入れの可否とか担保力を増強させるための
自己資本の装備の可否、変額保険の導入と関連した総代会のあり方などはそ
の典型的な例である D そして、極端な形においては、相互会社は株式会社と比
して企業経営の面において様々な不利益を背負っていることを理由とするアメ
リカにおける非相互化(株式会社化) (
D
e
m
u
t
u
a
l
i
z
a
t
i
o
n
) の波に連動していく
ことさえ、決して夢物語でなく構想されているのである
O
このような相互会社のかかえる諸問題を含めて保険事業のかかえる諸問題の
続発は、法律の改正に結ぴつくか否かは別として、保険業法のあり方の検討を
今日不可避としている O そこでは、上記のような相互会社の諸問題も検討さ
れるに違いなく、また、同時に早くから立法論的に問題ありとされてきた諸点
も狙上に上ろうが、いずれにせよ、しかし、その前提はやはり相互会社の法規
整のあり方全体あるいは相互会社の基本的構造の理解が前提とされなければな
らないということである。
(
1
8
) 保険業法における相互会社の問題点については、西島梅治「保険業法の問題点一一
問題提起」保険学雑誌4
9
2号 7頁以下 (
1
9
8
1
)、倉沢康一郎「現行保険業法の問題点」
9
2号 3
0頁以下 (
1
9
8
1
) を参照。このほか、保険業法全般についての検討
保険学雑誌 4
保険事業と規制緩和 J(
19
8
5
) があるが、相互会社プロ
を行うものとして、吉川吉衛 r
パーの問題には立入られていない。
2
5
9
号
同古瀬政敏「生命会社による債務取入れの法的根拠」インシュアランス生保版3
4頁以下(19
8
7
)。また、生命保険協会『欧米各国の生保金融業務一財務委員会金融
調査団報告書J (
19
8
5
)1
0
6頁以下参照。
位
。 倉沢・前掲(注側) 3
2頁以下。生命保険会社全般については、古瀬政敏「生保会社
5巻 2号6
5
のソルベンシー確保と早期警戒装置一欧米の動向を中心に」生命保険経営 5
頁以下 (
1
9
8
7
) 参照。
1
8
号2
1頁以下 (
1
9
8
7
) 参照。
制江頭憲治郎「変額保険の法的問題」保険学雑誌5
凶 米谷洋次「米国生保のデミューチュアリゼィション一一ニューヨーク州保険法改正
3巻 1号 8
6頁以下 (
1
9
8
5
)、日本生命保険業法研究会・前
に関連して」生命保険経営 5
1
6
)
)6
1
5頁以下参照。
掲(注(
凶 日本生命保険業法研究会・前掲(注(16)) 6
2
4頁以下。
凶前掲注(18)の諸文献および日本生命保険業法研究会・前掲(注同)など参照。
9
4
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
本稿では、あくまでもその準備作業としてであるが、ドイツ連邦共和国(西
ドイツ) (以下、 ドイツという)における相互会社法の発展と現状を分析する
ことを目的としている O ドイツの相互会社の実務と相互会社に関する法規整
は、わが国に相互会社とそれに関する法規整が移入される際にもっとも参考と
された。また、その後も相互会社の法律問題に関してはドイツ法が大いに参
考とされてきた O 現在の相互会社に関する法理論は主としてドイツにおける
学説を継受しているものといってよい。しかし、筆者のみるところ、ドイツ法
の継受は、たとえば、相互会社における社員と会社の法律関係の性質というよ
うな法律問題については徹底されているが、相互会社の法規整全体についての
参照は必ずしも十分であったとはいえない O さらに、わが国で従来参考とさ
れてきたのは、 1
9
5
1年にまとめられたキッシュの相互会社法論までの学説で
あるが、 ドイツの相互会社法には法規整、実務、学説理論のいずれの面におい
てもその後も様々な発展がみられる O そこで、改めてドイツ相互会社法を分析
することは、現時のわが国の相互会社法にとっても決して意味のないことでは
ないと考える。
9世紀前半に登場して以来不断に株式会社と
ドイツにおいては、相互会社は 1
の競争的併存の状況におかれてきた O その歴史は、保険市場における企業数の
面でもシェアーの面でも苦戦を強いられていることは否定しょうがなく、決し
てバラ色の歴史で、あったわけではない。そして、相互会社と株式会社との均質
闘
いうまでもなく第二次大戦前のドイツ法も必要なかぎりで検討する。
(
2
6
) 前掲『第一生命八十五年史.! (
注
(
1
)
)3
7頁以下参照。
(
2
カ 野津・前掲(注目))におけるドイツ法の重点的な参照など。戦後においてもドイツ
法を参照したものとして、岩崎・前掲(注(
2
)
)、服部・前掲げ主(
8
)
) などがあげられる。
大津・前掲(注同)では相互会社の問題全般についてドイツ法が相当に参照されて
いる。
倒 K
i
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h,W i
l
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m,DasR
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g
e
n
s
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i
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i
g
k
e
i
t,1951
.
倒
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
95
化ということが益々進行するなかで、相互会社は絶えず自らの存在意義の確認
を迫られてきたし、相互会社であるが故の不利益もある面では目立ってきつつ
ある O そのような状況化での相互会社法は相互会社のかかえる問題を知実に示
しているのである O
本稿では以上のような観点からドイツ法の分析が行われるが、それ以上にわ
が国の相互会社のあり方についての直接の結論を導き出すには至っていない。
具体的に提言をなすには筆者の準備はあまりにも不足しているといわざるをえ
ない。ただ、本書の執筆過程においておぼろげながら相互会社法のあり方の問
題点が自分なりに整理されてきたようにも思われる O 今後は、他の国の相互会
社法の研発)も含めて現代保険相互会社法論の完成に努めたいと考えている。
その意味で本稿における筆者の論述は中間的報告的なものとして受けとめてい
ただければ幸いである O
ドイツ法の分析に入る前に、第 2節以下では、わが国の相互会社法の現状と
問題点を要約的にスケッチする O それにより、第 1章以下におけるドイツ法に
ついての論述が、わが国の相互会社法との関係でどのような意義を有するかの
理解が容易になるのではないかと期待している D
考察対象であるが、相互会社法のあらゆる側面に立ち入ることは到底不可能
である O わが国の相互会社法の課題のうち、とくに重要と思われる 3つの側面
について考察することとしたい。具体的には、相互会社の法的性格と社員の地
位の問題、相互会社の管理のあり方の問題、相互会社の企業金融上の法的問題
である。この 3点の検討により、相互会社法の中心的問題点はカヴァーされ、
相互会社のかかえる課題についての理解が得られるものと考えている口
側
フランス法の研究として、岩崎稜「フランス相互保険会社法素描一一相互保険法研
究の一手がかりとして」生命保険文化研究所所報 5号 223頁以下 (
1
9
5
8
)、大塚・前掲
げ主同)などがある。アメリカ法については、法学者によるものではないが、田村祐
1
9
8
5
) が法的側面についてもきわめて詳細に検討
一郎『経営者支配と契約者主権.n (
している。また、宮脇泰「主義と組織の峻別一一アメリカ生保にみる相互主義の実態」
3頁以下 (
1
9
7
4
) も参照。
生命保険経営42巻 3号 6
9
6
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
第 2節相互会社法の現状と課題
第 1款
相互会社の法的性格と社員の地位
相互会社についての基本法規である保険業法には相互会社の定義はない。一
般には、「相互会社とは、社員相互の保険を行うことを存立目的とする社団法
人であって、保険業法の規定に従って設立されたものをいう」という大森教授
の定義には基本的な点で、は異論はないで、あろう O いずれにせよ、相互会社の
法的性格は保険業法という実定法規から読み取っていくしかないのである O そ
の結果としての通説の立場を以下整理する O
1 通説的立場による相互会社の理解
(
1
) 相互会社は社団法人である 保険業法には相互会社は法人であるとする規
O
定はあるが(保険業法4
2条・商法 5
4条)、社団とする規定はない。しかし、相
互会社の構成員を社員と称し、社員が社員総会という機関を構成し、あるいは、
構成員の権利義務の規整において他の社団と共通の面が多いというようなこと
から社団性が肯定されているものと思われる
D
しかし、このように社団とさ
れてしまうと、今度は逆に相互会社は社団であるから社団について一般的に妥
当する帰結が導かれるはずであるという発想が生じ、これが一人歩きすること
がある D 後述のように、相互会社は社団法人であるから、社員の権利について
は先取特権を認めない現行法の立場は当然のものであり、先取特権を認める立
法は困難であるというような発想に典型的に現れてくる O
(
2
) 社団法人としての相互会社の構成員たる社員は相互会社から保険保護の提
供を受ける者(以下、付保者という)である O これは、理の当然のようにみえ
るが、次のような意味を合せもっている。第 1に、相互会社から保険保護を受
倒大森忠夫『保険法.!l (補訂版、 1
9
8
5
)3
4
6頁
。
倒 青 谷 ・ 前 掲 ( 注(
2
)
)4
6
5頁など参照。
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
9
7
けること以外の目的をもっ社員は存在しえない。株式会社における株主のごと
き会社の事業により生じた利益の分配を受けることを目的とした社員は存在し
えないのである O 付保者である社員に対しては剰余金の分配がなされるが、
それは株式会社における利益配当とは本質を異にするものと考えられているこ
とは後述するとおりである O 第 2に、相互会社の社員でなくして相互会社から
保険保護の提供を受けることはできない O 相互会社の社員でないものに保険
保護を提供するために締結される契約を非社員契約というとして、非社員契約
は有効に縮結しえないということになる O その理由とされるところは、非社員
契約にかかる事業の危険が社員に転嫁されることは望ましくないということに
ある O もっとも、非社員契約を認めてもよいのではないかということが、戦後、
短期の生命保険契約の導入に際して議論された O しかし、結果としては、非
社員契約は不可能ということで、その代わりに無配当社員という形の特殊な剰
余金分配請求権をもたない社員の地位の創設という解決がとられて今日に至っ
ている O
(
3
) 相互会社は社員のために相互保険事業を行う
O
具体的には、相互会社は所
定の保険事故が社員に発生したときには所定の基準にしたがい保険給付を行
うO これに必要な財産は、社員の保険料払込義務が履行されることにより形成
される。そのかぎりでは、相互保険事業といえども保険技術に立脚する保険事
業である O ただし、その方式が保険契約という形をとるか否かという点 i
ごつい
4
)にみるような問題がある O
ては (
保険料払込義務は、保険業法では確定前払方式とされており(保険業法44条
)
、
倒 大 森 ・ 前 掲 ( 注(
3
1
)
)3
5
1頁
。
凶同前。
岡 野 津 ・ 前 掲 ( 注(
9
)
)2
5
9頁
。
同 糸川厚生=森部高英「生命保険相互会社と無配当保険(ドイツ相互保険会社形態と
J 生命保険経営 3
7巻 6号 1
1頁以下(19
6
9
) 参照。
の対比において )
同第一生命相互保険会社定款4
1条参照。
9
8
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
かつては可能であった無限責任方式の保険料払込義務はもはや許されない。払
い込まれた保険料より形成された会社財産が保険給付義務を履行するために必
要な額を超える部分については、剰余金として、これが社員に分配される O 剰
余金の分配により社員は相互会社が相互保険事業を行うために必要な費用のみ
を分担して出損すればよいことになる O 前述のように、相互会社では株主のご
とき利益の分配に与ることのみを目的とする社員は存在せず、剰余金はすべて
付保者である社員に分配される o この剰余金分配は、相互会社が株式会社より
も結果的に安価に保険保護を提供する手段であった O あるいは、相互会社で
は実費原則により保険事業が行われるというようにいわれるのもこのことをさ
す D 実費原則は、本来、保険料支払について賦課方式をとったり、会社財産
が保険給付をなすのに不足するときは社員に約定の前払確定保険料のほかに有
限または無限の追補金支払義務を課すという形でも具体化されていたが、こ
の面での実費原則は今日では廃棄されている O ただ、社員が損失を負担すると
いう方向で、の実費原則は保険金額の削減について定款で規定することを強制す
る保険業法4
6条によりきわめて限られた形では存在している O
なお、相互会社が相互保険事業を行うということには、今ひとつの意味とし
ドイツにおける 1
9世紀前半の相互会社の登場にもっとも顕著にみられた。わが国に
おける相互会社の創始をリードした矢野恒太によってもこのことが強調されていた。
矢野恒太『非射利主義生命保険会社の設立を望む.! (
1
8
8
3
)(IT'第一生命保険相互会社二
1
9
2
9附録) 4
0頁以下所収)。
十五年史.! (
7
1頁、大塚・前掲・再構成(注(15))(2
)6
9頁。
倒大津・前掲(注同) 2
側 明治 3
3年の旧保険業法では、 3
7条において、会社の債務に関する社員の責任につき、
社員の全員が無限責任を負うもの、社員の全員が保険料を限度として責任を負うもの、
社員の全員が保険料のほか一定の金額を限度として責任を負うものという三種類の方
式を可能としていた。明治4
5年の改正において第二・第三の方式を採用する会社につ
8条ノ 2を追加した。
き、定款中に保険金額削減に関する規定をおくべき旨を定める 3
4年の保険業法においては第一・第三の方式は廃棄され現行法のように
その後、昭和 1
確定保険料方式のみによるべきこととされた。
制 第一生命保険相互会社定款3
7
条参照。
同
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
9
9
て相互会社は相互保険事業以外の事業を行うことはできないということが含ま
れているものと思われる O もっとも保険業法 5条の他業の制限により保険企
業が他業を営むことはできないということになるので正面から相互会社の性質
の問題として相互保険事業しか行うことができないということが論じられると
いうことはあまりないが、これに反対することを明示に主張する見解はない。
(
4
) 相互会社と社員の聞には (
3
)で述べたような関係が形成されるが、その法的
な性質については社員関係のみが存在し、この社員関係には保険関係が包摂さ
れる O 換言すれば、相互会社と社員の聞には保険契約という契約関係は存しえ
ない。
相互会社と社員の間の法律関係をいかなるものとして構成するかが相互会社
に関する学説の最大の関心事であった。周知のように、社員関係と保険契約関
係の 2つの法律関係の併存を認める重畳説、社員関係と保険契約関係が 1個
の法律関係の中で結合しているとする結合説、保険契約関係のみが存し、た
だ法の規定にもとづき社員に会社の管理に対する参加権が付与されるとする保
険契約説、社員関係のみが存在し保険関係もこの社員関係のなかのー齢にす
ぎないとする社員関係説が、ドイツ法の影響を受けてそれぞれ主張され、対
同
正面から論じた見解はみられないが、当然のこととして理解されているのではない
かと推測される。現実には、各社の定款では、保険事業を行うことのみを目的規定と
してかかげている。第一生命保険相互会社定款 3条参照。
1
9
1
0
)9
5頁以下。
同粟津清亮『日本保険法論』粟津博士論集第 8巻 (
年) 6
2頁
。
同 野 津 前 掲 げ 主(
9
)
)1
4
0頁以下、田中誠二=原茂太一『保険法.H (新版、 1
9
8
7
同 服 部 ・ 前 掲 ( 注(
8
)
)(ー) 1
6頁以下、大塚・前掲・再構成(注同)(2) 1
5頁以下。た
だし、服部教授の保険関係説は相互会社を社団法人でも財団法人でもない第三種類の
法人であるとする見解と結合して主張され、大塚助教授の保険関係説は相互会社を財
団法人として構成する見解と結合して主張されているのであり、具体的な内容は相当
に異なる。
同 岡野敬次郎『商行為及保険法.H (
1
9
2
8
)5
0
2頁、田中耕太郎『保険法講義要領.H (
19
3
8
)
3
6頁以下、鈴木竹雄『新版・商行為法・保険法・海商法.H (全訂第一版、 1
9
7
9
)7
2頁
以下、石井照久(=鴻常夫増補) IT'保険法・海商法.H (
1
9
7
6
)1
6
4頁、大森・前掲(注側)
3
5
1頁以下など。
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
1
0
0
立したが、社員関係説が通説的地位を得て今日に至っている D 社員関係説以外
は保険契約関係の存在を認めるという点では共通性がある O これに対して、社
員関係説では保険契約の存在は否定されるので、契約にもとづくいわば既得権
は存しえず、たとえば保険給付が事後的に社員の多数決などにより社員に不利
益な方向に修正されるというような可能性があり、これが他の保険契約関係を
認める立場からは批判されてきたところである
O
現に、保険業法は、保険金
額の削減について定款で規定することを強制しており、社員関係説によればそ
の説明も容易であろう
D
あるいは、社員関係説を徹底すれば、保険金額の削減
以外にも保険関係の内容を事後的に修正する可能性が肯定されることになろ
う。しかし、通説たる社員関係説も、保険金額の削減についてはさておき(こ
れも実際に発動されることはこれまでおおよそ想定されたこともないので実質
的な意味はない)、その他の点については社員の固有権であるというような理
由づけにより保険契約が存在するのとほとんど変わりがないような解釈をとっ
ている。したがって、実際にも保険関係の変更といつようなことが問題にな
ることは全くなかったこととあいまって、この点の論争の意味はなくなってい
るといってもよい。
以上のような保険契約関係の存否という点を除くと、上記の 4説には実質的
な差異があるのであろうか。保険関係説の対極にある保険契約説にしても、法
の規定にもとづくとはいえ社団的法律関係を認めざるをえないであろう
D
重
畳説や結合説と社員関係説の対立にしても、社員関係説からの批判は、 1個の
側 野 津 ・ 前 掲 げ 主(
9
)
)1
4
1頁
。
同 そもそも普通保険約款と定款が別々に規定されていても、普通保険約款は契約条項
としての約款たる性質をもつものではなく、定款と同様の団体の団体上の自治規範と
解されることにならざるをえまい。
3
1
)
)3
5
3頁
。
同 大 森 ・ 前 掲 ( 注(
(
5
0
) すなわち、相互会社という形態である以上株式会社の保険契約者とは異なる権利義
8
)
) でも、大塚・前
務が存することは肯定せざるをえない。これは、服部・前掲(注(
掲・再構成(注同)でも認められている。
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
0
1
行為に入社行為と保険契約締結行為という 2個の行為を観念することは現実と
合わないとか、結合説のような新しい構成はなるべく使うべきでないとかい
う、あまり実質的とはいえない批判であることからもわかるように、どれだ
け意味のある論争かは疑わしいのである D その意味で、そのような古い形の論
争を続けるよりも社員の実質的な地位をより肌理細く検討すべきであるという
批判が生じてきたことは当然である O そこで社員の実質的な地位のあり方に
ついては 2において改めて検討したい。
(
5
) 相互会社は営利法人ではない。社員に対しては剰余金の分配が行われ、剰
余金の額をできるかぎり増大させようとすることが通例として目ざされている
としても、法的には相互会社は社員相互の保険事業を行うことそのものが目的
なのであり、剰余金の分配は安全のために余分に払込まれていた保険料の清算
たるの性質を有するもので株式会社の株主に対する利益配当とは本質が異なる
とされる O 営利法人でなく、他方、文化・学術・慈善等の事業を目的とする
のでもないから、相互会社は中間法人として位置づけられている。もっとも、
相互会社の営利法人性を肯定する見解も主張されている
D
剰余金の分配は社
削 岩 崎 ・ 前 掲 げ 主(
2
)
)4
2
0頁。大森・前掲(注側) 3
5
3頁は重畳説に対してあまりにも
技巧的であるとする。
2
)
)4
1
9頁。大森・前掲(注側) 3
5
3頁は、結合説に対して、異質な
同 岩 崎 ・ 前 掲 ( 注(
二者を統ーした一つの法律関係を想定するところに難点があるという。
側 服 部 ・ 前 掲 ( 注(
8
)
)(二) 6
2頁が強調する。また、大津・前掲(注(
1
5
)
)2
7
0頁も服部
教授のそのような主張に賛成する。
同 日本生命保険相互会社法規研究会『保険業法コンメンタール J (
1
9
6
9
)2
6
2頁など。
4
6頁など。
同大森・前掲(注側) 3
同 大塚・前掲・再構成(注同)(
2
)4
9頁。なお、大塚・前掲・変容(注同) 1
5
8頁以
下も参照。なお、中川正「相互保険における剰余金分配に関する法律問題一一相互保
険の研究(その二)J 広島大学政経論叢 9巻 3=4号 1頁以下 (
1
9
6
0
) では、剰余金
は社団収益への社員の参加を本質とするものであり、法律論としては剰余金分配は過
払保険料の返還ということでは説明できないとする。ただし、同時に剰余金の分配は
保険関係にもとづく保険給付と解すべきものとするが、この点は一般的な考え方とは
異なる。相互会社が営利法人かどうかについては言及されていない。
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
1
0
2
団利益の分配として位置づけられるのである D
相互会社は前記のように営利法人ではないとされてきた。また、相互会社の
行う保険事業は、前述のように保険契約ではない。また、営利の目的で保険関
係が形成されるわけでもない。そこで、相互会社は商法にいう商人にはあたら
ないとされる D したがって、相互会社の行為には商行為に対する商法の規定
は適用されない。しかし、この点についても解釈論としてはともかく、立法
論としては商法の商行為に関する規定が準用されるべきであるという主張が相
当に有力である
O
(
6
) 相互会社の社団法人性の帰結としては、社員の財産権的な権利義務の側面
についての法規整に現れているが、いわゆる共益権的な側面については社員
の社会管理への参加ということが導かれる。付保者である社員による自治とい
われるのがそれにほかならない。これは株式会社には絶対にない点であり、相
互会社の独自性主張のキイポイントである O これについては改めて第 2款で取
り上げる。
2 相互会社の社員の地位の具体的法規整と問題点
(
1
) 相互会社の株式会社に対する独自性は、以上のところからもわかるように
社員の財産権的な権利義務の側面と会社管理への参加の側面において発現す
るO 果して独自性が前向きに主張されるかは、それぞれについての具体的な法
的規整とその現実の機能とから判断されるであろう
D
それでは、前向きかどうかの基準は何に求められるか。とりあえず考えられ
制株式会社と異なるのは、社員の地位が保険関係という取引的内容を有するものとし
て形成されること、したがって営利行為を営む財源は社員の出資義務の履行として払
込まれる保険料として会社に払込まれるという点にある。
同 大 森 ・ 前 掲 ( 注(
3
1
)
)3
4
6頁など。
同同前。
側大森・前掲(注側) 3
4
7頁など。
制 後 述 の 残 余 財 産 分 配 請 求 権 ( 保 険 業 法 76条)、剰余金分配請求権(保険業法 66条)
など。
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
0
3
るファクターとしては、保険サービスを求める社員に対して安価であるととも
に、確実なサービスを提供することがまずあげられるが、国民経済的・社会的
な観点からの評価という視点もありえよう
O
社員の観点からの評価が第一に
おかれるべきものと考えられるが、そこでも安価ということと確実ということ
の聞にはトレードオフの関係があるということも容易に想像される O それが具
体的な法規整のなかでどのように処理されているかを以下考察しょう O
(
2
) そこで、社員の地位を保険業法に即して具体的にみていこう O まず、保険
関係の側面についていえば、社員の権利の面では、約定の保険給付を受ける権
利を有するが、これには保険金額の削減という可能性が保険業法により強行法
6条)、これは株式会社との聞の保険契約にお
的に規定されており(保険業法 4
いてはありえないものであることは前述したとおりである O このような削減の
可能性を強制することの妥当性については早くから疑問がもたれている
O
立
法論としては保険金額の削減の可能性は任意規定としておけば足りよう O そし
て、この点の解決は比較的容易であろう
D
保険給付を受ける権利以外の権利としては、剰余金分配請求権(保険業法 6
6
条)、残余財産分配請求権(保険業法7
6条)がある
O
これらは、株式会社と保
相互会社と企業の社会的責任論については、水島一也「転換期の相互会社経営」国
民経済雑誌 1
3
3巻 3号1
9頁以下(19
7
6
) 参照。
附 野 津 ・ 前 掲 ( 注(
9
)
) 110頁は、相互会社において追補金支払義務と保険金額削減と
6条も任意規定
の同時的排除は、敢えて相互保険の本質に反しないとされ、保険業法4
と解している。
同
側
通説たる社員関係説においては、当然のことながら保険関係と社員(団体)関係の
区別はあまり意識されず、自益権と共益権との区別の観点から社員の権利が分類され
るが、その場合には、剰余金分配請求権と残余財産分配請求権は自益権に属するもの
3
1
)
)3
55頁以下など。これに対して、結合説ないしは重畳
とされる。大森・前掲(注(
説に親近感を抱く立場では社員関係上の権利と保険関係上の権利との分類がなされ、
剰余金分配請求権・残余財産分配請求権とも社員関係上の権利とするのが一般である
が、剰余金分配請求権については保険関係上の権利とする見解もある O 日本生命法規
研究会・前掲(注側) 309頁以下参照。
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
1
0
4
険契約を締結する保険契約者にはありえないものであるといわれる O しかし、
剰余金分配請求権については、株式会社のなす保険契約においても契約上の権
利として存しうるので、実質的な相違は、株式会社においては保険事業により
生じた余剰財産の一部が株主配当として分配されるのに対し、相互会社ではそ
れがなく余剰財産はすべて付保者に分配されるという点にのみある D そこで、
相違はもっぱら残余財産分配請求権の有無ということになる o 残余財産分配請
求権が認められるのは、やはり、社団法人の一般原則にしたがうものであろう O
ところが、残余財産分配請求権は相互会社が解散して清算が行われるか、破産
するかという極限的な局面においてしか現実化することはありえないので、実
際的意味はきわめて乏しいということができる O
残余財産分配請求権が社団の社員に付与されるのと平灰を併せて社員が社団
から脱退するときには持分払戻請求権を付与されることがある O しかし、相
0条 1項によれば、社
互会社では少々様相が異っている。すなわち、保険業法 7
員が退社したときには、定款または保険約款に定められた権利を有すると規定
するが、定款では保険約款所定の権利のみを有するとし、保険約款では解約に
よる退社のときは解約払戻金請求権のみを有するというように規定されるのが
通例である
O
このことが意味するのは、解約払戻金請求権は保険数理上必要
な責任準備金の額を基礎とするので相互会社であれ株式会社であれとくに異な
らないはずであり、他方、相互会社には責任準備金に対応する資産以外の資産
ただ、たとえば、相互会社と株式会社の合併の場合(保険業法 1
3
0条参照)に相互
会社の社員にいかなる権利が与えられるかという問題の解決において残余財産分配請
求権を有していることが考慮に入れられることはあろう。
附 公益社団法人ではこのような権利はない。株式会社では持分権は観念的に存在する
が、政策的には退社が認められていない。その代りに社員たる株主は持分たる株式を
自由に譲渡することにより変形された持分払戻請求権を付与されているということが
できる。社団法人で退社の場合の持分払戻請求権が認められるのは、したがって、各
種の協同組合である(中小企業等協同組合法 2
0条、農業協同組合法 2
3条など)。この
点詳しくは、上柳克郎『協同組合法.! (
19
6
0
)8
8
頁以下参照。また、後掲注側参照。
制 第 一 生 命 保 険 相 互 会 社 定 款4
2条参照。
制
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
0
5
が存するので、結局、社員の持分払戻請求権は否定されているということにほ
かならない。そうすると、剰余金分配においても実質的な差がないとすれば、
相互会社の社員と株式会社の保険契約者との聞には全く差はないということに
なる O
他方、相互会社の社員と株式会社の保険契約者との聞には法的な相違が残さ
れている D それは、生命保険株式会社の保険契約者には、その権利については
責任準備金の額について会社財産上に一般先取特権を有し、また、供託金上に
特別先取特権を有する
D
これは、責任準備金の預り金的性格にもとづくもの
といってよい。これに対して、相互会社の社員にはこのような先取特権は付
与されていない。清算または破産の場合には、既発生の保険給付請求権は他の
会社債権者に劣後して満足を受けるにすぎないし、責任準備金にかかる実質的
5条
)
。
な権利についても会社債権者に対して劣後することになる(保険業法 7
これは、相互会社の社員が社団法人の社員であるということにより、社団の損
失のリスクを負担すべきであるという社団についての一般原則をそのまま適用
したものであるといえるであろう
O
残余財産分配請求権が認められ、他方、先取特権がないということは社団法
人という観点からは一貫性がある D しかし、会社が存続するかぎりでは相互会
社の社員と株式会社の保険契約者との聞には実質的な差異はない。このことか
ら、保険会社が倒産した場合の保護が相互会社と株式会社もで異なるのは妥当
でないという主張がみられるようになっている
O
しかし、そのような主張は
実際的妥当性ということだけでは十分な説得力をもちえないことも否定できな
側生命保険株式会社における保険契約者の先取特権については、鴻常夫監修『保険業
法コンメンタール」第 2巻(19
8
7
)(西原康二=柳沢忠執筆) 6
5頁以下参照。
側同前。
同 青 谷 ・ 前 掲 ( 注(
2
)
)8
2
2頁
。
附 青 谷 ・ 前 掲 ( 注(
2
)
)4
5
7頁、大津・前掲(注(15
)
)2
7
0頁以下など。
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
1
0
6
し¥0
このような現行法に対する立法論的批判は、退社員の持分払戻請求権を認め
ないことにも向けられうる。実費原則による保険保護の提供というのであれば、
保険給付をなすのに必要な額以上の会社財産はすべて社員に分配されるべきで
ある O しかし、これは現実とは異なる O それは次のような事情による D まず、
相互会社も将来の保険給付義務を履行するために責任準備金とは別に配当にあ
てられない準備金を形成することが必要である O これは保険業法のうえでも明
確にされている O 次に、このような明示の準備金の他に明示されない準備金
が会計に関する法規整の結果形成される
O
さらに、実現された利益のうちあ
る種のものは保険業法により剰余金の分配に使用することができない(保険業
法8
6条)
0
結局、相互会社の社員が払込む保険料のうち、保険事業を行うた
めに最低必要な部分を超える部分のうち何らかの部分は会社財産としてとどま
りつづけることになる O これは、相互会社が解散すれば社員の残余財産分配請
求権として具体化することになるが、相互会社が存続していくかぎり決して社
員の具体的な権利として具体化することはない。
社員の具体的な会社財産に対する持分権を認めないことの説明は必ずしも十
分になされているとは思われない。営利法人でないということは決め手とはな
らない。相互会社と同様に中間法人とされる協同組合においても組合員の持分
同 保 険 業 法6
5条にもとづく基金償却準備金、同 6
3条にもとづく損失填補準備金。これ
らは法定準備金である。株式会社と共通するものとして、いわゆる保険業法8
6条積立
金があげられる。
X
二)
J 生命保険経営4
2巻
同古瀬政敏「保険相互会社における貸弊価値変動利益の帰属 (
1号 2
7頁以下、 2号 7
7頁以下 (
1
9
7
4
) 参照。ただし、保険業法 8
4条により、上場株式
については時価を限度として取得原価を超える評価をなすことが認められる。これに
より評価益にもとづく社員配当も可能となる。
同 保 険 業 法8
6条は資産の売却または評価益の形で臨時益を得た場合にこれを自由に契
約者に配当することを認めることは配当競争を激化するだけでなく、将来の評価損・
売却損に備えることが資産内容の健全性維持のために必要であるからであると説明さ
1
9
8
6
)1
0
6頁以下など参照。
れる。保険業法研究会編『最新保険業法の解説.! (
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
0
7
権が具体的に存するものとそうでないものがある O 相互会社の社員は間接有
限責任を負うにすぎないから株式会社のように債権者の保護が必要でありその
ために持分の返還を認めないという説明も成り立たない。通説により社員関係
しか存しないとするとそもそも解約払戻金の返還でさえ行われてはならないこ
とになるはずだからである O そのほかにも十分な説明は見い出しがたい。ただ、
社員の入れ替わりが不断に生じている相互会社にあっては持分の清算が現実に
はきわめて困難であることは容易に想像がつく
同
O
中小企業協同組合法 2
0条、農業協同組合法 2
3条(ただし出資組合)は、脱退組合員
は定款の定めるところにしたがい持分の全部または一部の払戻を請求することがで
き、この場合に、持分は脱退した事業年度の終りにおける組合の財産によってこれを
1条は、脱退した組合員は定款の
定めるとする。これに対して、消費生活協同組合法 2
定めるところにしたがいその払込出資額の全部または一部の払戻を請求することがで
きるとし、組合財産全体に対する持分権までは認めていなし」上柳・前掲(注附) 9
3
頁では、中小企業協同組合等において定款で持分払戻請求権について制限することが
許されるか否かに関して、協同組合は営利法人ではないが経済的利益をはかることを
目的とし、かつ、組合員の脱退の自由が認められている団体であるから脱退組合員の
持分払戻についての利益の保護を考慮することが必要であるとともに、組合員が協同
組合に加入する直接の目的は組合の事業を利用することであって、金銭的利益の分配
を受けることではないから、脱退した組合員の持分払戻請求権の制限ないしは剥奪は
協同組合制度の趣旨とは絶対に両立しないとはいい難いのみならず、持分払戻請求権
の制限により協同組合の財産的基礎を堅実にすることは、小規模の事業者または消費
者の経済的地位の向上を図ろうとする協同組合制度の理想を実現するのに約立っとも
1条の規定は後者の精神に立脚するものとされる)、結論
いえ(消費生活協同組合法 2
的には出資額までに制限することにかぎり許されるとする。
同組合員の持分払戻に関して、当然に組合財産の評価方法の如何という問題が重要性
をもつが、これについては、中小企業協同組合法にもとづく協同組合に関する事案で、
最高裁は、帳簿価額によるべきではなく、協同組合の事業の継続を前提とし、なるべ
く有利にこれを一括譲渡する場合の価額を標準とすべきものと解するのが相当である
2月1
1日民集 2
3巻 1
2
号2
447頁。同判決については、上柳克郎・
としている。最判昭 44年 1
民商法雑誌6
3巻 6号9
7
0頁があるが、基本的に判決に賛成している。
聞 なお、江頭憲治郎「企業の法人格」竹内昭夫=龍田節編『現代企業法講座 2n
.(
1
9
8
5
)
7
4頁は相互会社の社員の本文のごとき権利についても持分払戻としてとらえている。
4
同 有価証券の形態をとる財産については比較的容易であるといえ、これが保険業法 8
条のごとき規定がおかれる理由であろう。
1
0
8
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
社員に具体的な持分請求権がないということに関して様々な指摘がなされ
るO たとえば、責任準備金の額を超える会社財産に対しては社員の固有権に属
しないから社員総会の決議により社員への分配以外の処分も決定しうるといわ
れる O はたしてそのようにいうことができるのであろうか。他方、会社財産
がいたずらに増加することについては常に批判がなされる
O
現在行われてい
る特別配当はそのような批判に対するものであり、社員の持分権を限定的な
形で認めるのと変わらない機能を果すものといえる O しかし、特別配当がどの
ような基準にしたがいなされるべきものかは決して明確であるとはいえない。
理論的な詰めが欠けていることによるのである O
社員の持分権を認めないことは、会社財産の規模が大きくないうちは目立っ
た問題とはなりにくい。しかし、相互会社が発展し会社財産の蓄積がすすむに
つれて矛盾が露呈されてくることにならないであろうか。
社員の義務については、保険業法は、確定前払方式を強制していることにつ
いては既に述べた。この点では、株式会社の保険契約と全く差異がない。これ
についての評価は既に固まっているといえ、とくに問題はない。
同大津・前掲(注(15)) 2
7
1頁。古瀬・前掲(注(
1
9
)
) 6頁以下も、相互会社の社員は自
己資本に対し直接的な権利をもっていないとする。いずれも、責任準備金の額を超え
る会社財産(他の会社債務を除いて考えれば自己資本ということになる)は、過去の
社員の寄与にかかるものであることを実質的な理由とする。
側 昭和 3
7年 3月2
2日の保険審議会答申「生命保険経理に関する答申」以来画一的な配
当に対する批判が繰り返されてきたことはこれを物語る。現在では、保険会社の側か
らも膨大な含み益が発生しながら社員に還元できないことが問題視される。日本生命
保険業法研究会・前掲(注(16)) 4
5
8頁
。
制特別配当制度の創設の背景については、「特別配当制度に関する浅井提案と覚書」
1巻 3号 1
0
8頁以下 (
1
9
7
3
)、奥田宏「保険契約者配当」ジュリスト 7
3
8
生命保険経営4
号9
0頁以下(19
8
1
) 参照。
倒社員の具体的持分権を認めないことは、結局、会社財産の究極的な所有権者はだれ
かということを不明確にする。膨大な相互会社資産について誰の所有にも属しないと
いう状況は、その利用に対するコントロールの権限をもつのは誰かという問題を改め
て考察しなければならなくしていると考えられる。
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
0
9
(
3
) 以上の検討により明らかにされた社員の地位をまとめると、相互会社の社
員であることにより株式会社の保険契約者である場合との実質的な相違点はか
ぎりなく小さくなっていることとともに若干の相違点が残っていることが理解
される O まず、株式会社にあっては株主に対する利益配当がなされる部分だけ
保険契約者の契約者配当が少なくなるという可能性であるが、しかし、株式資
本の会社財産に対する相対的な規模の小ささのために契約者配当が相互会社の
剰余金分配と比べて目立って少なくなるという事態は生じていない。今一点と
して、相互会社の社員には自己の権利についての先取特権が認められていない
という点であり、これは明瞭に株式会社の保険契約者よりも不利益である O さ
らに、保険金額の削減の可能性があることも相互会社の社員にとって不利益で
ある O これらの不利益は、たまたま相互会社の経営が破綻することがなくてす
んでいるために顕在化しないにすぎない。
結局、現在、相互会社の社員となることは、株式会社の保険契約者となるこ
とと現実には経済的権利の側面においては何ら差がなく、法的にみればむしろ
不利な地位に立つ点が若干残っているということになろう O 保険関係上の権利
義務の側面において株式会社の保険契約者となるべく差がないようにすること
が、伝統的には相互会社法の重要な課題であったが、そのことは逆に、相互会
社の社員の社員としての権利義務の保障を(社員の会社管理に対する参加のあ
り方の検討を除けば)いかに図るかということの分析をなおざりにさせたので
はあるまいか。
いずれにせよ、上記のような帰結は相互会社の構造上当然のことなのであろ
うか。相互会社の社員のより不利益な地位が必然的なものかは既に疑問ももた
れているが、 ドイツ法の規整を素材に改めて考察したい D また、その点が解決
されるとしても、相互会社の法的性質に関する通説が今後も維持されうるもの
かは、後述のところも含めて改めて考察する必要があると思われる O
1
1
0
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
第 2款 相 互 会 社 の 管 理
相互会社が社団法人であるということから付保者である社員の会社管理に対
する参加ということが導かれる D そして、それは他の社団と同様に社員総会
という機関を構成することを中核として具体化される O 社員総会が社団の最高
機関となるかどうかは社団により一様でない O 相互会社の社員総会は、株式
会社の株主総会と同様にきわめて限られた意味においてのみ会社の最高機関で
ある d すなわち、社員総会は、会社のあらゆる事項について決議をなしうるの
ではなく、法定の特定の事項についてのみ決議をなしうるにすぎない。そして、
業務執行機関としての取締役会の権限がきわめて拡大されているのである O
このように会社管理について株式会社との接近を示しつつも、きわめて大き
い差がある O まず、相互会社の構造上必然的にそうなるのであるが、社員の地
位は個々の付保者ごとに存在し、かつ、それが株式のごとく流通して何者かに
集中するということがありえない
O
社員の数は膨大な数となることが少なく
なく、いわば 1株株主のみが散在しているかのごとき状況なのである O もっと
岡大森・前掲(注側) 3
5
5頁など。
例 公益社団法人においてはその事務は定款で理事その他の役員に委任したものを除き
3条)、最高機関性が明確である。これ
社員総会の決議により行うものとされ(民法 6
に対して、株式会社では周知のように株主総会の最高機関性はかなり限定された意味
においてのみ認められるにすぎない。鈴木竹雄ニ竹内昭夫『会社法.JJ (新版、 1
9
8
7
)
2
0
5頁以下参照。
闘 なお、株式会社においては取締役会の業務執行の適正を確保するために、取締役会
9年お
自身による監視、監査機関の充実、株主総会ないし株主の共益権の強化が昭和 4
6年の商法等の改正により図られてきたが、相互会社に関する保険業法の規
よび昭和 5
5年改正
定もこれらの株式会社法の改正に原則として連動して改正されている(昭和 2
以来の株式会社法の改正に連動して既に相互会社法も戦後大改正を受けたことはいう
までもない)。
同社員の地位の譲渡に関しては、保険業法4
7条(損害保険)、 48条(生命保険)が規
定するが、いずれも地位の譲渡には会社の承諾が必要であるとする。
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
1
1
も、社員の実質をみるときわめて多様な類型の社員が混在している O しかし、
保険業法は社員の権利義務の大小による参加の権利の格差づけは排除し、社員
は平等に 1人 1票の議決権を付与されるものとした。これが第 1の相違点であ
るD この相違点は、株式会社における資本多数決の原則を明瞭に排除するもの
である O
第 2に、保険業法は、社員総会を原則としつつも、これに代わる社員の意思
形成機関として社員総代会を設置することを認める(保険業法 51条 1項)0 そし
て、現実にすべての相互会社において社員総代会が設置されている O 社員総代
会方式が採用された場合には、社員のうち社員総代のみが社員総代会に出席し、
議事・議決に参加することができ、反面、社員総代でない社員は社員の意思決
定を行う機関に参加することはできなくなり、社員総代会への参加以外の後述
のごとき単独または少数社員権を行使するという形においてのみ会社管理に参
加しうるにすぎないのである O 株式会社においては株主には株主総会への参
加の権利が保障されていることと比べると、相互会社のこの社員総代会方式は
制個人保険と団体保険、定額保険と変額保険、元受保険と再保険など全く性格の異な
る社員が存在する。
側 資本多数決の原則に準じた保険料ないしは責任準備金等の大小に比例した議決権の
格差づけの原則を正面から主張する見解は存在しない。しかし、各種類の社員の利益
が適正に確保されるように種類社員総会を制度化すべしとする意見が青谷教授により
主張されている。青谷和夫「種類ごとの社員の特別総会の提唱一一一相互保険会社民主
1
9
6
8
)、同「社員総会のあり方につ
化のー提案」鹿児島大学法学論集 4号 1頁以下 (
いて一一相互保険会社民主化の一環として一一」相馬勝夫博士古希記念論文集『現代
保険学の諸問題.! (
1
9
7
8
)3
1
3頁以下(青谷博士にはこのほかにも伺様の提案をなす論
稿があるが引用は省略する)。
閥 単独社員権としては、以下のものがある。総会決議取消・無効訴訟を提起する権利
9条 3項・ 5
4条・商法 2
4
7条・ 2
5
2条)、設立・組織変更・合併無効訴訟を
(保険業法 3
7条・商法428条、保険業法 3
1条・商法380条、保険業法7
3条・
提起する権利(保険業法7
6条・ 6
7条・ 7
7条・商法 282条・ 420条
商法415条)、各種書類の閲覧請求権(保険業法2
4項)。社員総代会によるときにも総代でない社員がこの単独社員権を行使できるこ
とは一般に認められているものと思われる。
1
1
2
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
社員のうちのきわめて限られた社員のみしか意思形成機関に参加しえないとい
う点で全く異なる規整が行われているということになる。社員総代会という方
式が可能とされているのは、社員の数がきわめて多数に上る相互会社では個々
の社員がだれでも社員総会に出席できるとすることは会議の開催を不可能とし
かねず、また、会議の実質的な機能発揮を阻害しかねないこと、以上の反面、
社員のうち社員総会に参加する者はきわめて少ないことが当然のごとくに予想
されることを理由とするものであろう
D
大規模な法人のあり方の問題は、これまでもっぱら株式会社について考察さ
れてきた。しかし、株式会社では資本多数決の原則と株主の株主総会参加権の
保障が法的な原則となっているのであり、上記のごとき相互会社の管理とは基
本原則が異なっている D 資本多数決が排除され、社員総代会による社団法人と
しては他に各種協同組合があるが、これらの大規模社団法人における管理の
あり方についての法律学からの検討は従来なおざりにされてきた。相互会社に
も協同組合にも巨大な資産規模を擁するものが現れている今日では、社員の私
的利益保護という観点からも、また、社員を超えた団体も取り巻く社会全体に
2条ノ 2、1
0
0分の l以
少数社員権としては以下のものがある。提案権(保険業法 5
2条参照)、社
上の社員、ただし、定款の自由を認める。第一生命保険相互会社定款2
員総会召集請求権(保険業法 5
3条
、 1
0
0の 3以上、ただし、定款の自由を認める。第
1条参照)、総会検査役選任請求権(保険業法5
3条ノ 2、1
0
0
一生命保険相互会社定款2
分の l以上、ただし、定款の自由を認める。第一生命保険相互会社定款2
3条参照)、
発起人・取締役・監査役の責任追及のための代表訴訟の提起の権利(保険業法4
1条・
5
7条・ 6
2条
・7
7条、定款の自由の余地なし)、取締役の行為差止請求権(保険業法6
0条
、
7
2条
、 1
0
0分の 3以上、定款の自由の余地なし)、取締役・監査役・清算人の解
商法 2
0条・ 6
2条、商法 2
5
7条 3項、保険業法 1
3
2条 4項
、 1
0
0分の 3以上、
任請求権(保険業法 6
定款の自由の余地なし)。
6
0頁など。
州大森・前掲(注仰)) 3
制 中小企業等協同組合法 5
5条(組合員が2
0
0名以上の組合にかぎり、総代会によるこ
8条(組合員 5
0
0名以上の組合にかぎり総代会によるこ
とができる)、農業協同組合法4
とができる)、消費生活協同組合法 4
7条(組合員 1
0
0
0名以上の組合にかぎり総代会に
よることができる)など。
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
1
3
対する関係のあり方という観点からも会社管理のあり方は当然に株式会社につ
いて問題とされるのと同程度に取り上げられるべき問題である D
相互会社においても、既に会社管理のあり方は問題とされてきた O その中
心は社員総代会である O その第 1は、総代の選任ということに関する。社員総
代の選任方法については保険業法は具体的な規定をおいていないので、定款に
おいて規定されているところにしたがうことになる
O
通例は、候補者推薦委
員会の推薦する候補者が新聞紙上に公告され、これに対する異議の申立をなす
社員の数が所定の比率以上でないかぎり候補者が総代に選任される O 選任を阻
止するための必要な異議申立社員の比率は会社によって一様でないが、通例
1
0
0分の 3であり、大規模相互会社ではこの比率を充すことはきわめて困難で
あり、候補者が選任されないという例は存在したことがない。したがって、実
際には推薦委員会の推薦決定が総代の選任に外ならなくなっている O このよう
な実態があるために、推薦委員会がどのようにして構成され、また、推薦委員
会がどのような基準により総代候補を選び出すかが問題とされ、監督当局の通
達が今日ではこれらを規制している O 第 2に、社員総代会から一般社員を排
除することにより一般社員の意思が経営に反映されないことの問題が指摘され
たことに応じて、社員総会とは別に社員懇談会の開催が行われたり、あるいは、
社員総代会の傍聴制度が導入されている
D
このような改革は昭和 5
0年代はじ
倒青谷・前掲(注側)の諸論稿のほか、正回文男「相互会社の改善策」保険学雑誌
4
6
8
号4
3頁以下 (
1
9
7
5
)、近藤文二「相互会社論」生命保険文化研究所所報2
8頁 l頁以
1
9
7
4
) など。また、後掲注側の文献も参照。
下 (
一例として第一生命保険相互会社定款 1
2条以下参照。なお、このような定款の成立
1
)
) IT"第一生命八十五年史.JJ 7
0
1頁参照。
の背景について前掲げ主(
例前掲(注同)の通達および事務連絡参照。
側
側
これらについては、「契約者懇談会について一一一わが国各社の資料による総合研究」
生命保険経営4
6巻 4号 7
6頁以下(19
7
8
)、正田文男「相互会社と社員総代会傍聴制度」
3
8
号2
3頁以下(19
7
6
)。また、社員参加全般については、森瀬光毅「相互会
商事法務 7
7
1号 1
5
9頁以下
社 契 約 者 の 経 営 参 加 に つ い て ー ー そ の 立 法 論 的 考 察 」 保 険 学 雑 誌4
神戸法学年報第 3号(19
8
7
)
1
1
4
めまでにほぼ完成し、今日に至っている D これにより相互会社の管理の問題は
とりあえず緊急の課題となされていないのである O
しかし、問題が全面的に解決されているというものでないことは容易に理解
されよう
O
まず、そもそも会社管理のあり方として社員ができるかぎり会社の
管理に参加することが望ましいのか(民主化)、それとも、社員の参加は本来
的な要請とはいえず、それ以外の発想、から管理のあり方が構築されるべきか(非
民主化)は今一度基本に遡って検討されてよいのではなかろうか D 現 在 の 法
律および通達による規制は、その点の基本哲学が必ずしも明確でないために、
きわめて中途半端な状態に陥っているといえまいか。
具体的な問題点をいくつかあげよう O 社員総代の選任については異議申立の
方式がとられているが、異議の成立する要件は現実には充すことはきわめて困
難である。さらに、社員の総代候補推薦は法的な権利として保障されているわ
けではない。民主化が好ましいというのであればこのような状態は相当問題
であるということになろう
O
民主化がそれ自体尊重される必要はないというの
であれば、形式にすぎない異議申立を法的な手続としておく必要もなかろう
D
折衷的に民主化がそれ自体としては必要ないが総代選任が不適正に行われよう
としているときの安全弁として異議申立の手続がおかれているとしても、異議
申立の成立する要件はいかにも高すぎる D
(
1
9
7
5
) 参照。このほか、各会社には評議員会なる機関が設置されている。これは、
通達(前掲(注ω) によっても会社経営に関する諮問を受けあるいは意見を述べる機
構として設置することが求められている。その構成員は総代会により選任されるべき
ものとし、また、必要に応じ社員のほか学識経験者も加えうるものとする。第一生命
7条頁以下参照。
の場合については、定款2
附 非民主化とここでいうのは、社員の利益は十分な判断能力の期待できない社員の参
加を通じてよりも最適の管理者に委ねた方が図られるという考え方をいう。当然のこ
とながら管理者が任務を十分に果すことの確保手段として法的責任を課したり開示の
充実などの方策がとられるべきことはいうまでもない。
側 第一生命保険相互会社定款においても社員の立候補ないしは総代候補推薦の権利に
ついては規定を欠く。
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
1
5
民主化が望ましいというのであれば、現実的な理由から総代会の方式による
としても、可能なかぎりで社員の総代会への参加の手段が保障されてもよいで
あろう O しかし、保険業法の規定からみるかぎり到底そのような参加の手段が
保障されているとはいいがたい。これは少数社員権についての少数要件の規定
の仕方に象徴的にあらわれている
O
民主化が必要ないというのであれば、そ
もそもある意味では民主化原則のとられている株式会社における株主提案権な
どを相互会社にもち込む(保険業法 5
2条ノ 2)必要性があるのかどうかが検討
されてしかるべきであろう
O
社員の声をかぎられた範囲で反映させる手段を残
しておくことが安全弁であるとするのであるというのであっても行使要件は現
実離れしたものであるといわざるをえまい。
民主化ということの基準についても問題とされよう D 今日の相互会社におい
てはかつてとは比較にならない程度に多様な類型の保険が提供されているので
あり、それぞれの種類の社員ごとに会社の管理に対する利害関係は必ずしも一
様でない。利害を同ーとする種類の社員ごとにその利害を代表する総代が選任
されるべきであるといつのもひとつのあり方であろうし、逆に、相互会社では
利害の異同にとらわれず会社全体のいわば高所的観点からの決定を総代会でな
すべきで、利害関係の代表はなじまないという考え方もありえよう O 現在の総
代の選任の基準としては、社員の各層から総代が選出されるように配慮される
ということがいわれている O それがいかなる意味をもつのかは必ずしも明確
ではなく、きわめてあいまいな観点から選任がなされているといえるのではな
いであろうか。
側
前掲注側参照。また、総代会における出席の権利を当然に排斥する必要はないとい
うことになろう。前述のように社員の総代会傍聴制度が設けられているが、傍聴の可
能な社員数など制限的にすぎるというような批判は生じよう。
1
2
)
) 蔵銀昭和 4
4年 4月 1
4日は、総代候補者がどのような基準により選ばれ
側 前掲(注(
るかについては述べていない。しかし、一般には本文のごとく総代候補者を選んでい
る、あるいは選ばれるべきであるといわれている。
1
1
6
神 戸 法 学 年 報 第 3号(1987
)
総代の地位の法的性格についても近時議論されるようになっている D 社員総
代は社員の代表として総代会に参加するのであるが、会社の機関となるのでは
なく、また、社員との聞に委任契約のごとき法律関係はないので、自己の利益
のみに即して総代会において議決権を行使してもよいというのが通説的立場で
あろうが、異論が登場している O すなわち、総代は会社と委任の関係にあるこ
とを認めるのであり、その帰結としては総代は総代会における権利の行使に
関して法的な責任を負うという可能性も生じよう
D
とくに民主化は絶対的要
請でないという立場では、総代は知識・経験のない一般社員に代って有能な社
員の判断に委ねることがあらゆる面から好ましいという考え方に立脚すること
がまず想定されようが、それと総代は自己の利益に即して権利を行使してよい
ということとの聞の調和はとれているのであろうか。それとも別の考え方があ
りうるのであろうか。この点も従来十分に検討された形跡はない。民主化が好
ましいという立場においても角度こそ異なるとしてもやはり総代がいかなる地
位にたつのかは問題となりえよう
O
ところで、会社管理のあり方はこれまでに述べてきたように会社の管理をい
かに行うかが相互会社自身あるいはその社員にとって好ましい結果をもたらす
かという観点から考察されるべきことは当然であるが、それとともに、管理が
万一適正に行われないときにいかなる救済を社員に与えるべきかという観点か
らの考察もなされるべきである
。
O
保険関係については保険契約とほとんど異
大津・前掲(注(15)) 272頁。大塚・前掲・再構成(注同) (
2
)
3
5頁以下も、相互会社
財団説の立場からではあるが総代の受託者性にもとづく義務と責任を認める。
(
1
0
1
) 大塚・前掲・再構成(注同)(
2
)
3
6頁以下はそのように解する。これに対して、大津・
前掲(注側) 272頁は、総代の全体的立場をあまり強調すべきでなく、各総代が自分
自身の社員としての利益に基づいて行動することが最もよく全体の利益を実現するこ
とになる、ただし、総代の活動が社員としての利益以外の考慮に基づいてなされては
ならず保険業法 140条の存在意義はその点にあるとする。
0
2
)
. ドイツ法の分析を先取りすれば、たとえば、社員総代会の決議の暇庇を争う訴訟の
原告適格、代表訴訟の原告適格などがとくに問題となりうる。総代会決議の暇庇を争
0
0
)
。
1
1
7
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
ならないようになっており、また、保険業法にもとづく行政的監督の存在によっ
てもあまり社員の救済が必要な局面が生ずることは想定しにくいが、社員の地
位は決して保険関係にとどまるものではない。しかし、会社の管理のなかで個々
の社員が自己の権利を守る可能性は総代会の方式がとられている場合にはきわ
めてかぎられざるをえないであろう。その可能性はどのようなレベルで線引き
されるべきであろうかが問題なのである O また、救済のための法的技術につい
てもどうするのかが好ましいかが関われるべきである O
相互会社は、資本家的利害に左右されない、付保者の自治的管理が行われる
ということは相互会社が社員に対しても、また、社会全体に対しても自己の存
在意義を喧伝する際のきわめて重要な謡い文句であった
O
しかし、これに対
しては、相互会社の管理のあり方は株式会社以上にだれからもコントロールを
うけない経営者の支配を容易にしているという見方も存在している
O
いずれ
の見方が正しいのかはここでの回答の対象ではない。筆者としては、相互会社
の最低限の存在意義は社員に対して良いサービスを適正に提供するかぎりにお
いて認められうるものであり、会社管理のあり方もその観点から考察されるべ
きであると考える。そのヒントがドイツ法の分析から少しでも得られればと思
つ
。
う訴訟の原告適格は前述(注側)のように単独社員権として規定しであるので問題は、
代表訴訟や差止請求の権利である。さらには、総代会の決議にもとづく行為について
もどのような司法審査が及ぶかということも考えられる。これは、定款や決議の司法
的コントロールという問題にもつながりうる。最後の問題について団体一般の観点か
ら論ずるものとしては、山下丈「定款の内容規制について」広島法学 8巻 l号 l頁以
1
9
8
5
) がある。
下 (
1
(
0
3
) 矢野・前掲(注側) 6
3頁以下では付保者にとって相互会社が株式会社よりも有利で
あることが強調されていたにとどまり、社会全体に対する相互会社の存在意義という
観点はみられない。
1
(
0
4
) たとえば、青谷・前掲(注側) r
社員総会のあり方について J 3
50頁
。
1
1
8
神 戸 法 学 年 報 第 3号(1987
)
第 3款 相 互 会 社 と 企 業 金 融
相互会社は相互保険事業を行うことを目的とするものであり、事業に必要な
資金は社員の保険料の払込により賄われる。社員による保険料の払込以外によ
る資金調達は予定されていない。一般に企業が事業を行うときに必要な資金の
調達の手段として、企業構成員による自己資本の拠出とそれ以外の社債や銀行
借入れなどの外部者からの資金の調達とがありうる。株式会社では、社員(株
主)による資本の拠出は株式という形の企業持分の発行により行われ、外部者
からの資金の調達は、各種の形態の債務の負担により行われる D ところが、相
互会社の資金の調達はこれと相当に異なる。まず、保険料の払込を別とすれば、
社員の拠出する資本は存在しない。保険料の額が純粋に保険保護を提供するた
めに保険技術的計算により算定されるものとすれば、株式保険会社における資
本に対応する資金は相互会社では抜け落ちていることになる D もっとも、相互
会社においても株式会社の資本と類似の資金が導入されている O これが基金で
あり、相互会社の創立当時における保険料収入で賄えない事業経費にあてられ、
また、予期しない保険事故に対処するための担保資金とされるべきものとされ
る
O
このような資金調達の目的はまさに株式会社の資本に対応するものであ
る。相互会社において資本は存在しないという前提のもとで、このような目的
をもっ基金は、消費貸借契約の特殊形態をとっている
O
すなわち、基金拠出
者はあくまでも債権者であるが、債権の性質として清算に際して他の債権者に
対して劣後するという性質を付与されている(保険業法 7
5条参照)。これによ
り負債でありながら資本と同様の機能が果たされるのである O 基金は会社創立
期に上記のごとき機能を果たすことが期待されるため、会社が軌道に乗った段
(
1
0
5
) 大森・前掲(注側) 3
4
7頁以下。
)
)3
4
8頁のごとく単なる消費貸借で
同基金の法的性格については、大森・前掲(注。 1
はなく、特種の双務・有償契約であるとするのが通説である。
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
階では償却が行われるのが通例である
O
1
1
9
ただし、これに代って、償却する基
金と同額の準備金が積立てられることが求められる(基金償却積立金、保険業
法65条)。これにより基金が果していた資本と同様の機能が準備金に引継がれ
るO 準備金の財源は社員の払込んだ保険料の一部であり会社債権者の優先的満
足にあてられる。その意味では自己資本たる性格が認められる O 基金償却積立
金とともに相互会社は損失填補準備金という一種の法定準備金を積立てなけれ
ばならないが、これも同様に自己資本的性格が認められる
O
相互会社にもこのように資本と同様の機能を果す資金が存在する O しかし、
それ以外に社員から資本的資金の拠出を受けることはできない。基金という例
外も創立期以外に再ぴ形成することが許されるという規定は保険業法には存し
ない
O
これは、相互会社は保険事業のみを行うが、保険事業の性格上資本の
形成はあまり必要でないという判断に立脚しているものである O
しかし、このような政策的判断は疑問の余地のないものではない口保険事業
の必要資金は相当正確に予想できるとしてもとくに損害保険事業では予想の正
確性は生命保険事業ほどには高くない。また、今日の保険事業はかつてとは全
く異なるリスクの伴う資産運用を行っている O このようなリスクが現実化する
ことは社員の保険給付の権利の実現を阻害することになり、相互会社の存在意
義は消滅することになろう
O
そうであるとすれば、相互会社にまず合理的に必
要な範囲において準備金が形成されることは当然に要請される
O
しかし、反面、
例 日本生命法規研究会・前掲(注同) 2
68頁
。
同相互会社における自己資本については、古瀬・前掲(注側) 6頁以下参照。
同 西島・前掲(注同) 8頁は、基金が継続中の相互会社で設定可能かどうかは明確で
はないが、株式会社の授権資本の増加と比して相互会社の基金の増加は厳しい制限の
1頁以下も現行法下の基金の問題
もとにあり問題があるとする。倉沢・前掲(注同) 3
を指摘する。
(
1
1
0
) 相互会社の法定準備金の存在意義については、日本生命法規研究会・前掲(注同)
3
7
1頁・ 376頁参照。
1
2
0
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
準備金の形成による自己資本の形成は社員の剰余金分配請求権の犠牲のうえに
行われ、また、前述のように社員の会社財産に対する具体的持分権は存しない
と解されているので、準備金の額を増加させるという手段のみによることは相
互会社の自殺につながるものである
D
それに代って、相互会社の企業リスク
を負担する資本的機能を果す資金の導入を認めることが想定されよう O しかし、
それはどのような形態をとって行われるべきかは今までのところ全く検討のな
されてこなかったところであり、今後の研究が必要である O
ところで、保険企業における自己資本の必要性に着眼した財務規制は EC加
盟国において現実に導入されているし、その他の先進国でも何らかの意味で
自己資本に関する規制が検討されている。わが国ではこれまでのところ最低
資本金または基金に関する開業時の自己資本規制を除いて正面から自己資本に
関する規制は存在していないが、諸外国の保険事業規制の動向はわが国におけ
る保険事業規制にも影響を及ぼさずにはおかないであろう O その意味でも相互
会社における自己資本形成のあり方の研究が要請されるのである O
他方、相互会社の現代的経営は保険料以外の資金の調達を要請するといわれ
る。自己資本調達の新たな手段の導入が可能であるということになれば、そ
の要請にも答えられることになろう
D
しかし、現在想定され、あるいは、希望されている資金調達手段は、社債の
3
3頁は、端的に、保険計算に属さない事業上の剰余金について
はこれを明確化し、経営者の利益操作を排除する途を講ずべきであるとする。奥田・
8
1
)
)9
0頁以下は、相互会社の社員に持分権が認められないことから内部留保
前掲(注(
による剰余金の増大が単純に好ましいとはいえず、経営の安全性のために最小限必要
な程度にとどまるべきであり、その他は社員配当にあてられるべきであるとする。
1
2
) 古瀬・前掲(注側)参照。西ドイツにおける自己資本規制につき、山下友信「西ド
イツ保険監督法の展開」神戸法学雑誌 3
6巻 4号 6
5
0頁以下 (
1
9
8
7
) 参照。
(
1
1
3
) 古瀬・前掲(注側)に詳しい。また、日本'生命保険業法研究会・前掲(注(
1
6
)
)3
7
1
頁以下も参照 0
(
1
1
4
) 古瀬・前掲(注(19
)
) 4頁
。
a
1
U 倉沢・前掲(注(
1
8
)
)
。
1
2
1
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
発行に代表される他人資本の調達という手段であり、これには、自己資本の形
成とは別の法律問題があり、議論がなされつつある。相互会社に関しては株式
会社と異なり社債に関する実定法上の規定がないために社債が発行できないと
いうような技術的な問題もさることながら、そもそも相互会社が債務を負担す
ることの可否が問題とされるようになっている O この点に関して、次のような
議論がある
O
すなわち、まず、債務負担の否定説の根拠として想定される主
張の第 1として債務負担は相互会社の目的の範囲外で権利能力の範囲外にある
という主張に対しては、定款所定の目的達成に必要な行為は当然に法人の権利
能力の範囲内にあり債務負担もそのような行為に属するとして反対する。次に、
第 2の反対の根拠としての保険業法の他業禁止規定に違反するという主張に対
しては、保険事業遂行のための資金(システム開発費用など)にあてることを
目的とした債務負担、不足資金の資金繰りのための債務負担、為替リスク対策
としての外貸債務負担のいずれかであるかぎりそれも他業を行っていることに
ならず、保険業法上の問題はないとする D 第 3の否定説の根拠としての相互会
社はその健全性の維持のために債務を負担することは許されないという主張に
対して、相互会社は社員の払い込んだ、保険料の一部から形成される自己資本を
有するが、保険給付義務の担保資金として必要なミニマム・ソルベンシー・
マージンを超える自己資本の額については相互会社経営者の戦略的価値判断
に委ねられており、これを見合いとした債務負担が可能であるという D
第 1の点および第 2の点については原則として賛成したい
。同前 頁以下。
。これについては、古瀬・前掲(注側)
1
5
)
1
6
)
D
問題は第 3の
4
7
0頁以下参照。。
(
1
1
7
) 相互会社の定款所定の目的は相互会社の権利能力を制限するものと解されるが、目
的遂行に必要な行為は目的の範囲外にあると解され、かつ、目的の遂行に必要かどう
かは現実に必要かどうかではなく、客観的抽象的に必要かどうかにしたがい判断され
るとして、金銭の預託を受けることを目的の範囲内にあるとした最高裁の判決がある。
最判昭 3
0・1
1・2
9民集 9巻 1
2
号1
8
8
6頁。この判決の考え方によるならば、定款所定の
目的との関係で債務負担が権利能力の範囲外にあるという解釈は成立する余地はある
まい。
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
1
2
2
主張である。ここには、相互会社の法的性格を考えるにあたり無視できない論
点が含まれているように思われる D 上記の債務負担可能論は、自己資本にあた
る会社財産については社員に具体的な持分権は存しないという前提から出発す
るものである D しかし、この前提については全く疑問の余地がないものではな
いと考える。確かに相互会社の責任準備金の額を超える資産については現在の
社員の寄与にかかるものではなく、過去の社員の寄与による部分が相当程度合
まれている。これを現在の社員の具体的持分権の対象とすることには疑問が生
じるのは当然である
D
したがって、相互会社の社員の権利をどのように構成
するかは真剣に考察されなけれがならない問題なのである O しかし、そのこと
と会社の債務負担の可能性との聞に法律上の関係があるのであろうか。自己資
本規制の観点からの債務負担の限度のあり方と相互会社の社員の権利について
の解釈論がやや性急に結ぴつけられてはいまいかというのが現在の筆者の感想
である O
このような債務負担の可否の問題は、さらに、相互会社自身による債務負担
ではなく、子会社を利用した間接的な債務負担による資金調達の可否という形
の問題につながりうる O この場合には、相互会社が子会社をもつことはどの程
度許されるのか、また、子会社に営なませうる業務の範囲はどこまでかという
問題がさらに考察されなければならない。これら、保険企業一般についての他
業の規制のあり方という問題であると同時に、相互会社プロパーの問題という
側面を有している。すなわち、前述のように相互会社は相互保険事業を行うも
のであるとすると、子会社を通じての他業の営業はそもそも許されないのか、
それとも資産運用という保険事業に当然含まれる行為の一環としては許される
のか、後者であればその許容範囲はどこまでかというような問題である
。
O
(
1
l
)
8 大津・前掲(注側) 2
7
1頁、古瀬・前掲(注側) 6頁以下。
現在、保険会社の他業を営む会社に対する資本参加に関しては、昭和 50年 9月18日
蔵 銀2
673
号「保険会社とその関連会社との関係について J が基準となっているが、こ
1
9
)
こでは株式会社と相互会社との区別という意識は全くない。
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
第 1章
1
2
3
ドイツ法に関する序説 (1)
わが国における最初の相互会社である第一生命相互保険会社の創立者である
矢野恒太が大いに貢献した保険業法の制定作業において、また、創立者となっ
た第一生命の構築にあたり、ゴータ火災、ゴータ生命以来のドイツ相互会社の
組織や実務とともに、制定作業の進行中であったドイツ保険監督法(以下、
VAGという)の相互会社に関する規整を基本的なモデルとしたことはよく知
られている
D
その努力の結果、わが国においても相互保険というものが定着
した。もっとも、出来上った相互会社もそれに関する法規整も必ずしもドイツ
のそれとは同一で、はなかったが、相互会社の法律問題の解明に関しては、ドイ
ツ法がもっともよく参照されてきたのである。キッシュにより集大成された
ドイツ相互会社法論はわが国の相互会社法論においても忠実な支持者を見い
出し、かつ、それが通説的な地位を占めている
O
もっとも、今世紀に入って以来の独・日における相互会社の発展は相当に異
なっている O 既述のようにわが国では、相互会社は戦前から生命保険の分野で
は数こそ少ないものの株式会社と並列しながら発展してきたが、戦後は、主要
生命保険会社はほとんど相互会社形態をとることになり、相互会社の株式会社
に対する完全勝利の様相を呈している。これに対して損害保険の分野では相互
(
1
) 本章以下は、「西ドイツにおける相互会社の機関と企業金融」神戸法学雑誌3
7巻 3
号 (
1
9
8
7年1
2月) (以下、本稿では別稿として引用する)とともにドイツ相互会社法
の概観を行わんとするものである。
(
2
)
第一生命八十五年史.! (
1
9
8
7
)3
3頁以下、 4
1頁以下参照。
(
3
) 第二次大戦前の相互会社法の唯一まとまった研究である野津務『相互保険の研究』
(
1
9
3
5、再版1
9
6
5
) においても、圧倒的にドイツ法が参照されていた。
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) K
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(
5
) 第二次大戦後においては、岩崎教授の相互会社に関する研究がもっとも詳細である
が、解釈論的には K
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hの学説がもっとも大きな影響を与えているように思われる。
とくに岩崎稜「ドイツ相互保険法の中核概念」生命保険文化研究所所報 6号 3
9
7頁以
下 (
1
9
5
9
)。
1
2
4
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
会社は戦前はその例がなく、戦後も 2社が相互会社として事業を行っているに
とどまり、今日でもその状況に変化はない。これに対して、ドイツでは、生命
保険、疾病保険、損害保険のいずれにおいても株式会社と相互会社(その他に
公法上の保険企業という形態がある)はシェアーを分けあいながら競争的に併
存するという状況が続いてきた。しかし、長期的な目でみると、損害保険の分
野では相互会社の伸びが目立つのに対して、生命保険の分野での相互会社の相
対的退潮という傾向のみられることは否定しえなくなっている
O
このような
企業形態の共存的併存は、結果として相互会社のあり方についての継続的考察
を不可欠とさせることになる O キッシュまでの相互会社法論が、所与の存在と
しての相互会社について法理論的・解釈論的解明を行うことに重点があったの
に対して、戦後とくに 1
9
7
0年代以降の相互会社法論は、相互会社の企業形態
としての特徴を明らかにしたうえで、その欠点を是正するための解釈論・立法
論に比重を移してきている(伝統的理論との確執も当然にある)ことは決して
偶然ではないのであり、このような相互会社法の検討の動きは 1980年代に入っ
て益々盛んになりつつあるのである O
(
6
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) この時期の相互会社法論でもっともまとまったものは、 B
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3
4
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.がある。
(
8
) 1980年代に入って以後のモノグラフィーとして以下のものがある。 Hauth,Woln
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g,1986.また、 F
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
2
5
本稿では、このような流れにある比較的新しい時期のドイツ相互会社法論を
重点的に概観することとしたい。そこでは、 VAGとともにキッシュにより集
大成された伝統的相互会社法論は骨格を維持しながらも、様々な角度から再検
討を迫られつつあるということが許されるように思われる。それを学ぶことは、
おかれている状況こそ異なるが、相互会社という企業形態の現代的問題を学ぶ
ことにほかならず、わが国の相互会社法のあり方を探るうえでのひとつの有力
な参考資料を提供することになろう
D
本稿では、検討対象を相互性原則の意味
の評価の現状に絞りたい O
位二
swesen,Bd.13,1986は、相互会社法の現的課題についての三論文が収められている
(Hubner,S
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.
(
9
) なお、 VAGのもとでは、相互会社には、定款により事業の範囲が限定される小相
互会社が含まれるが(具体的にある相互会社が小相互会社であるか否かは VAG53条
4項にもとづき監督庁が決定する)、これについては VAG53条ないし 5
3c条に特則
がおかれ、なかんづく 5
3条 1項は、小相互会社に対しては VAGの相互会社に関する
規定のかなりの部分の不適用を規定し、代わりに同 2項で BGBの社団に関する規定
が適用されると規定する。このような小相互会社についての特則は、小相互会社の小
規模・閉鎖性にもとづくものであり、同じく相互会社とはいっても企業類型としては
まったく異なるものといってよい。本章の以下の考察においても、この小相互会社に
ついてはとくに立入らない。
1
2
6
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
第 2章相互性原則の意味
第 1節 序 説
VAG15条は、「相互性原則にしたがいその構成員の保険を営まんとする社団
は、監督庁が「相互会社』として事業を営むことを許可することにより権利能
力を取得する」と規定するが、相互性原則とは何を意味するかについては明示
しない。歴史的に、また、国際的に相互会社(ここでは、 VAG53条以下の規
定するような小規模の相互保険組織は除いて考える)と称される共通の性格を
有する保険企業形態が存することは確かであり、その方向から相互性原則の意
味を確定することが全く不可能ではない O その場合、相互性原則の核心は、
保険保護の被提供者(以下、付保者という)が団体構成員=社員であること、
社員が保険保護提供のための資金を拠出し(その方法・態様は一様でない)、
会社の剰余金は社員に分配されること(企業損益の社員への帰属)、および、
会社の管理に対する社員の参加ということに求められることは異論がないであ
ろう。当然のことながら、 VAGにおける相互会社においてもこのような普遍
的な相互性原則が基本的にあてはまることはいうまでもない。しかし、この
(瑚相互会社法の比較法的研究としては、以下のものがある。 Brunn,G
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e誌掲載の諸論説が参考となる。
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) ただし、 B
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1では、会社管理に対する社員の参加は一般的定
義の要素に含ませておらず、経済的側面のみから定義している。
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.など。なお、相互性の様々な意味を整
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435ff.がある。
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西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
2
7
ような普遍的な相互性原則のもとでも、実は、法規整におけるさらに具体的な
部分になると様々なヴァリエーションが存しうることも確かであって、その点
を詰めなければ VAGにおける相互性原則を正確に理解したことにはならな
い。そこで、本節では、 VAGの個別規定およびそれに関する解釈論から、逆
にドイツにおける相互性原則がどのように具体化されているかを明らかにする
作業をすすめる。
第 2節付保者=社員という原則
(ア)社団法人性
VAG1
5条から、相互会社は社団 (Verein) であり、かつ、
法人であるということが明らかになる O ここでいう社団とは、 BGB2
1条以下
に規定されるところの意味における社団の意味であるとするのが通説であり
(VAGが社団という語を用いていることのみから実質的に社団と解されると
短絡されているのではなく、実質的に社団のメルクマールを備えているとされ
る
)
、 VAGに特別規定がないかぎりにおいて BGBの一般規定の適用が認めら
れることになる(社団の機関の行為についての社団の損害賠償義務に関する
BGB3
1条、社員の固有権に関する BGB3
5条などがとくに意味をもっ)。社団
であるという点では、株式会社・協同組合と共通点をもっ O
社団の構成員である社員は、相互会社においては保険保護の被提供者たる付
保者である D この点において、相互会社の社員の営利保険における保険契約者
(契約の相手方であり債権者・債務者としての関係にしかたたない)との本質
(
1
3
) K
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.(
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.(
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5
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.など。
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1
5
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.(
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4
)
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.
2
5;Prolss-Schmidt-Frey,a
.
a
.
O
.
(
N
.
1
2
),~15 Anm.4.
1
2
8
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
的な相違が見い出される。もっとも、このことと次の 2命題の成否は区別して
考えられなければならない。すなわち、第 1に、相互会社から保険保護の提供
を受けるには相互会社の社員とならなければならないかということであり、そ
して、第 2には、逆に、相互会社においては保険保護の提供を受けること以外
の目的をもった社員は存しえないかということである O
第 1の問題について VAGは明瞭な回答を与えている O すなわち、 VAG21
条 2項は、相互会社は、定款で明示に認めるかぎりにおいて、保険契約者が社
員となることのない確定的な対価による保険事業を営むことができるとする O
したがって、そのかぎりで保険保護の被提供者は社員であるという命題は既に
崩れ始めている O このいわゆる非社員契約は VAGの制定当初から認められて
いたのであるが、その立法理由は、会社の行う保険事業と関連はあるが保険技
術的に困難である屠畜保険のごとき保険や旅行災害保険などの短期の保険を相
互会社に営ませることと、再保険を相互会社に出すことを可能ならしめること
にあった。そして、非社員契約は、相互会社が本来の存在意義を発揮するため
の補助的道具であると位置づけられていたということができ、決して、相互会
社が本来の相互保険と同時に営利の目的で保険事業を営むことを無制限に認め
たものではないということができる O 立法理由においても、非社員契約にか
かる事業のリスクにより社員が不利益をうけないようにすることが必要である
ことを強調し、非社員契約が一種の付随事業的位置づけを与えられるべきこと
を明らかにしていたのである
D
ただし、 VAGは、非社員契約にかかる事業の
量的制限を明記することはせず、監督庁の行政的な監督に委ねることとした。
監督上の措置として、分離計算、特別の担保資金の確保などを示唆していたが、
これをうけて監督庁において指導した措置として、非社員契約のための特別の
(
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z,1953,S
.
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.
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
2
9
損失準備金の積立、非社員契約についての定率の自己保有などがある O 古くは、
非社員契約にかかる事業の社員契約にかかる事業に対する比率を 4対 1という
ように定款において規定することを求めていた。その後そのような厳格な要求
は廃棄されたが、戦後再度そのような量的制限を要求したこともある。
このように、様々な制約のもとにあるとはいえ、非社員契約が決して相互性
原則に反するとは考えられてこなかった O 合理的な理由があるかぎりにおい
て社員でなければ付保者たりえないという命題に固執すべきでないという判断
が採用されているのである O なお、非社員契約を営むかぎりにおいて相互会社
は株式会社と同一の地位にたつことになる。
第 2の命題に関しては、 VAGは明示には何ら規定していない。しかし、
VAG立法者が保険保護の提供を受けること以外の目的をもった社員の存在を
想定していなかったことは明らかなように思われる。立法理由においても、相
互会社においては保険関係のない社員関係は不可能であると明瞭に述べられて
いた D この命題の成否が議論されるようになったのは比較的最近のことであ
り、相互会社の自己資本の増大の方法として資本的出資を目的とした社員地位
の創設の可否という立法論の当否に関して議論が生じてきたのである。ここで
は、現行 VAGのもとではこの命題が成り立たないことだけを確認することに
とどめ、詳しくは別稿において論ずる。
(イ)社員の地位相互会社における社員の地位の理解については周知のように
(
1
8
) Prolss-Schmidt-Frey,a
.
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.
O
.(
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.
1
2
),S21Anm.8.
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.(
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2
),S21Anm.9;Gold
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z,1980,S21Anm.16.
b
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.
a
.
O
.(
N.
4
)
, S
.168のように、非社員契約はあくまでも相互性原則の
側 ただし、 K
例外として位置づけられているものと思われる。
位1
) P
rolss-Schmidt-Frey,a
.
a
.
O
.(
N
.
1
2
),S21Anm10.
同 M
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.
a
.
O
.(
N
.
1
6
),S
.
3
7は、「相互会社においては保険関係なくしては社員関係は
ありえない」と述べる。
1
3
0
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
大議論が展開されてきたが、今日では社員関係説が通説的地位を占めており、
この問題が改めて議論されることはほとんどない。社員関係説の最終的確立
者であるキッシュによれば社員の地位は次のように説明される
O
社員の法的地位は単一である。保険的権利・義務に関しても、全体が社員関
係にもとづくものであり、保険契約にもとづくものではないとされる。社団に
おいては、その追求する目的の範囲においてその社員の権利義務をあらゆる想
定可能な実質的内容で充足することができ、それにより保険契約の存するのと
同様の権利義務を社員関係の内容として取り込むことが可能なのである O この
ことの結果として、保険契約の存在の徹底した否定(入社契約による保険関係
の発生、定款と AVBの本質的同一性、相互会社固有の裁判管轄(社員関係に
もとづく権利関係をめぐる訴訟において法人の普通裁判管轄権を有する住所所
在地における裁判所の管轄を認める ZPO2
2条の適用))が導かれる。そして、
保険は社員関係なくしてはありえないということとともに、保険と関係する権
利義務は社員関係の本質的な内容であり、保険が社員関係に決定的な影響を及
ぼすことが認められる o 要するに、保険と社員関係は密接不可分の関係にある
O
もっとも、他方で、保険に関する権利義務は社員たる地位の構成要素であると
はいえ、その内部において閉鎖的な相対的に独立の複合関係を形成するのであ
凶
Prolss-Schmidt-Frey,a
.
a
.
O
.(
N
.
1
2
),920Anm.6. ドイツにおけるこの問題に関する
論争については、岩崎・前掲(注(
5
)
) 413頁以下で詳細に紹介されている。また、服
部栄三「相互保険会社における保険契約者の地位(~X二.}J 法学 24 巻 3 号 239 頁以下、
4
号4
09頁以下 (
1
9
6
0
) においても取り上げられている。
位4
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.(
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2
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.(
N.
4
)
, S
.
1
6
2
f
f
.は、「正確にいえば約款は形式的には定款中に盛り込ま
れていないとしても会社の定款の構成要素となる」と述べる。
同 K
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.
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.
O
.(
N.
4
)
, S
.
1
6
2
f
f
・-ただし、最近では、この ZP022条にもとづく裁判管轄に
ついては批判がつよまっており、監督庁も会社が社員に対する保険料請求訴訟などで
rolss-Schmidt-Frey,
この裁判管轄を援用することは望ましくないとしている。 P
a
.
a
.
O
.(
N
.
1
2
),915Anm.6;BAVR3/77,VerBAV1977,S
:
2
0
5
.
位
カ K
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.(
N.
4
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.
1
6
3
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.
.
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
3
1
り、それが保険関係 (VAG20条など)と称されるとも述べられる O それは、
保険契約により発生するものではないが、保険契約による法律関係と同じ規整
(
2
8
)
に服せしめられる O したがって、以上のことから、社員の地位の内容は、一
方では保険関係上の権利義務に、他方ではあらゆる社団において存するその他
の権利義務とに分たれることになる O そして、この後者の権利義務関係は団体
関係 (genossenschaftlichesVerhaltnis) と称される
O
各権利義務が保険関係と
団体関係のいずれに属するかであるが、議決権など会社管理に対し参加する権
利が団体関係に属することには問題がない。問題となるのは、保険料支払義
務と剰余金分配請求権であるが、一般には、前者は保険関係に属し、後者が
団体関係に属するものと解されているように思われる O
このように、社員関係説は、社員の地位という単一の法律関係を認める一方
で、その内部においては、団体関係と保険関係を明瞭に区別していたのである。
もっとも保険関係についても契約関係としてではなく、社員関係の一蹴として
位置づけられるのであるから、団体関係と同様に、団体的規制に服し、とくに、
保険関係を規律する AVB も定款変更と同じ手続により変更することができる
ことになるはずである o VAGが、定款変更と AVBの変更とをほぼ同じ手続
、 4
1条)。しかし、同時に
のもとに認めるのはその現れである (VAG39条
白8
) K
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.
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O
.(
N.
4
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,S
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6
6
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29
) K
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O
.(
N.
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,S
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1
6
7
.
側
制
Prolss-Schmidt-Frey,a
.
a
.
O
.(
N
.
1
2
),S20Anm.8.もっとも、 VAG26条は、保険料支
払義務については社員の側からの相殺を禁止するので、完全に保険契約上の保険料支
払義務とは同視できないことは明らかである。
Prolss-Schmidt-Frey,a
.a
.O
.(
N
.
1
2
),S20Anm.8.und9
.残余財産分配請求権 (VAG
48
条参照)も団体関係に属するとされる。
(
3
2
) K
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.O
.(
N.
4
)
,S
.
7
2f
.
.
同 VAG4
1条 1項は、 AVBの 変 更 に つ い て 、 定 款 の 変 更 の 手 続 に つ い て 規 定 す る
VAG39条 1項ないし 3項を準用する。この結果、相互会社においては、 AVBの変更
4
1条
についても原則として最高機関の決議を経なければならないことになっている (
2項が緊急の場合の例外を規定する)。これは相互会社の経営の機動性を阻害すると
いう批判は当然につよい。 B
r
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.a
.O
.(
N
.
7
),S
.69f
f
.
.
132
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
VAGは、これに関して注目すべき規定をおいている
O
すなわち、 VAG41条 3
項であり、定款変更および AVBの変更とも、既存の保険関係には影響を及ぼ
さないということを原則であるとする O 例外は、社員の明示の同意がある場
合および定款において既存の保険関係についても効力の及ぶ変更をなしうる旨
が規定されている条項について変更が行われた場合である O この規定からみる
と、実質的にみれば、保険関係については保険契約関係を認めるのと異ならな
いことになる O 営利保険において AVBに変更留保条項をおいた場合と同様だ
からである O 社員関係説の論者も、これが社員関係説と矛盾するものとは考え
ていない O このことからみると、社員関係説をとるということから当然に保
険関係が社団法理に服することとなるのでなく、契約法理と同一の法的原則に
服せしめることも可能であるということが確認できょう O そのかぎりにおいて
は、社員関係説と保険関係説の重要な対立点の 1つが消滅する O なお、保険金
額(保険請求権)の削減も保険関係の変更の一種であり、これについては
VAG24条が特別の規定をなすが、これについても、後述するように、保険金
額の削減の可能性すらも今日では相互会社に必然に伴うものではないと理解さ
れている O 削減の可能性が定款上排除されている場合には、社員関係説が採用
されるとしても、付保者保険関係上の権利については保険契約関係を認めるの
と実質的には全く差がなくなっているといえよう
O
同 定 款 で は 変 更 可 能 性 の 留 保 さ れ る 定 款 ま た は AVBの条項を個別的に指定しなけれ
ばならず、全規定について留保することは許されないと解されている。また、契約の
類型を変更するような変更はできないとも解されている。 P
rolss-Schmidt-Frey,a
.a
.
o
.(N.12),S41Anm.10.
同 K
i
s
c
h,a
.a
.O
.(
N.
4
)
, S
.
7
4においてもとくに立法論的な批判はみられない。ただし、
S
.203f.では保険料については VAG41条 3項の適用を認めないもののようである。
これに対して、なお、 VAG41条 3項にいう保険関係に属することがらとして、保険
料の引上げ、保険給付の引下げも含まれると解されている。 P
rolss-Schmidt-Frey,a
.
a
.O
.(N.12),S41Anm.7
同 129頁以下参照。
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
3
3
ところで、相互会社の社員の地位に関しては、今ひとつ確認しておくべきこ
とがある D それは、社員の地位は保険関係という実質的には取引関係の創出と
いうことによってのみ取得されるということであり、これは各種の社団におい
ては異例のことといわなければならない。これを協同組合との対比でみれば明
瞭であろう O 社団の構成員に対して財・サービスを提供することを目的とする
点では相互会社と協同組合との間に共通の性格を見い出しうる
D
しかし、社
員の地位をみると、協同組合においては、組合員の地位は出資により取得され
るのであり、財・サービスの提供は組合員と組合との間の契約関係により行わ
れるのである O したがって、仮りに、協同組合が保険事業を営むとすれば、保
険保護の被提供者は出資をなして組合員となるとともに組合と保険契約を締結
することになろう)。ところが、相互会社においては会社財産は社員の払い込
む保険料によってのみ形成されるのであり、その他の出資は存しえない。しか
し、そのことによって社員の地位が協同組合や株式会社におけるがごとき社団
の社員の地位と全く性質を異にすることになるものではないと考えられる O 社
員関係説によれば、保険料の支払いは会社に対する出資として位置づけられる
ので、社員の地位が会社財産に対する財産的寄与に基礎づけられることは明ら
かであり、株式会社や協同組合との同質性を認めうる O 重畳説や結合説のよう
に保険関係を社員関係とは切り離して構成する立場においては、一見したとこ
ろ社団的出資が存しないので社員の地位はいかなる根拠にもとづくかという説
側
倒
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nimUnternehmensrecht,V W1977,S
.1272
スイスにおいては、相互会社については、独自の根拠法規がなく、協同組合の一種
であるとされているが、そこでは、社員と会社の聞の法律関係は社員関係説によって
ではなく、いわゆる結合説により説明されるとされている。そして、大規模相互会社
である、認許を受けた保険協同組合についてはさらに保険契約たる側面が前面に出て
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くるものとされる。 Koenig,R
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e1966,S.
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.スイスの相互保険全般については、 Koenig,W
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1967,S.
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n,1975参照。
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
1
3
4
明が必要になるが、これも保険契約の履行後に残っていく会社財産は社員の
出拐にかかるものであり、そのような財産的寄与が社員たる地位の基礎である
ことに変わりはない。このことは、社員の地位に関する VAGの法的規整に様々
な形において現れていることは第 3節でみる O
第 3節 付 保 者 へ の 損 益 帰 属
(ア)序説
相互性原則の一環として伝統的に社員に保険事業の損益が帰属する
という原則があげられる O これは、いうまでもなく、できるかぎり安い対価
により社員に対して保険保護を提供するという相互会社の目的を達成するため
の手段として位置づけられる。本節では、この原則が VAGのもとでどのよう
に具体化されているかを、社員の権利・義務を明確にすることにより考察して
いこう。
(イ)社員の権利
社員の権利は一般に保険関係と団体関係の分離ということか
ら保険関係上の権利と団体関係上の権利とに分けられる。保険関係上の権利は、
保険契約上の権利と基本的に同じであり、具体的には、保険金請求権、解約返
戻金請求権などである。契約上の権利と異なるのは、一定の要件のもとでは
保険請求権の削減および定款または AVBの変更により事後的に変更をうける
という可能性があるという点のみである O
倒重畳説では、保険料支払義務を、狭義の保険料支払義務と追補金支払義務とに分け
て説明される。岩崎・前掲げ主(
5
)
) 419頁以下参照。これに対して結合説では、契約
行為と入社行為の 2個の行為を認めるのではないので(混合行為などと構成する)問
題は少ないのかもしれない(後出 Baumannも混合行為説をとる)。
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3.
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.(
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1
2
),~20
Anm.8u
.
9
.
位
功 P
rolss-Schmidt-Frey,a
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.O
.(
N
.
1
2
),~20 Anm.8.
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
3
5
保険契約から認められない権利が団体関係上の権利となる O 各種の社団法人
においても、社員の権利関係は一様でない。社団の性格が社員の権利義務に反
映するのである D ここでは相互会社の社員の権利を検討することにより相互会
社の位置づけも明らかになるであろう O
a 財産的権利
VAGの規定からみると社員は次のような権利を有してい
るD
(
1
) 剰余金分配請求権
VAG38条 1項は、「貸借対照表上計上される剰余金
は、定款により損失準備金またはその他の準備金に積立てられ、または、報酬
の分配に使用され、または、翌事業年度に繰越されるべきでないかぎりにおい
て、定款所定の社員に対して分配される」とする D 剰余金分配請求権は、相互
会社が営利保険に対して実費による保険(換言すれば安価な保険ということで
ある)を提供するという本来的目的を達成するという中核的手段であった。し
たがって、具体化する以前の段階の権利といえども固有権として位置づけられ
るO
‘
モ
ム.
、d
VAG38条にいう剰余金分配の対象となるのは、貸借対照表利益であるが、
その確定の権限は取締役および監査役会にあるのが原則である (VAG36a条 AktG172条・ 173条 1項)。確定された剰余金については、最高機関が分配の
決議をなす権限を有するが (VAG36a条・ AktG174条)、他方で、分配をなさ
なければならないとするのが多数説であり、最高機関の決定の自由は排除さ
れている(貸借対照表利益から分配されなくてよいのは、損失準備金その他定
款所定の準備金および役員報酬のみである)。
何3
) P
rolss-Schmidt-Frey,a
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.(
N
.
1
2
),S38Anm.13.
付4
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N
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1
2
),S38Anm.7;S
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t,1976,S
.
5
9
6 (分配されなかった利益は後に残余財産に対する持分を高める
という理由により分配を行わないとことは許されないという)。反対説として K
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a
.a
.O
.(
N.
4
)
,S
.
2
1
5など。
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
1
3
6
ところで、このような本来 VAGの想定していた剰余金分配は、団体関係上
の権利関係であるということになるが、この VAGの考えるところとは異なる
実務が形成されていることに注意しなければならない。すなわち、定款上また
は AVB上社員に対して剰余金全部あるいは最低剰余金額についての保険関係
上の請求権を付与し、これらの請求権に対する支払分は経費として、損益計算
書において表示される
D
また、さらに、付保者の平等ということから非社員
契約者に対しても剰余金の分配を行うこととされるようになっている O した
がって、最高機関の処分決議の対象となる形式的な貸借対照表上の剰余金はほ
とんど存しないことになる O かくして、剰余金の分配に関して、実質的な株式
会社との均質化は古くから達成されてきたが、形式的な面に関しても均質化が
すすんできていることが明らかになる O また、相互会社の社員の団体的な関係
における唯一実質的意味をもつものであった剰余金分配請求権がほとんどその
意味を失っているということは、社員の地位をいかなるものとして構成するか
という問題にも影響を及ぼさずにはおかないであろう O
(
2
) 会社財産に対する権利 社員は、会社財産に対して権利を有するが、こ
れは次のような局面において具体化される。
第 1に、清算時における残余財産分配請求権である D 相互会社が解散して清
算する場合の優先順位は、 1 一般債権者(ただし、社員が保険関係にもとづ
いて取得した債権も含まれる)、 2 基金拠出者の償還請求権、 3 社員の残
8条 1項・ 2項)。ただし、定款に
余財産分配請求権ということになる (VAG4
より残余財産の分配について別段の定めをなすことができる (VAG4
8条 3項
)
。
解散時の社員に残余財産分配請求権が帰属することの説明は必ずしも丁寧にな
Prolss-Schmidt-Frey,a
.a
.O
.(
N
.
1
2
),s38Anm.14.この点の詳細については、 S
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.
。
位 Hubn巴r,a
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.(
N
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8
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1
6
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f
.
.
同
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
3
7
されていないが、結果的には、株式会社と同様となっている (AktG271条 1
項参照)
0
第二に、破産に際して優先的に満足をうける権利である
相互会社においても破産事由は一般原則どおり支払不能または債務超過(一
般債権、社員の保険関係にもとづく請求権、基金の償還請求権が会社財産を超
過する場合)であり、 VAG88条 1項 2文により、監督庁が破産開始の申立を
1条の規定によ
なして破産手続が開始される O この場合、優先順位は、 VAG5
れば、 1 一般債権者、 2 破産開始時に会社に属しておりまたは直近年度に
退社した社員の保険関係にもとづく権利、 3 基金拠出者の償還請求権の順と
なる O しかし、相互会社に限らず適用される付保者の優先的な権利に関する規
定 (VAG77条・ 80条)も同時に適用される O
すなわち、 VAG77条は、生命保険企業においては、破産の場合には、保険
料積立金充当資産については、計算上の保険料積立金に対する権利は、そのた
めに保険料積立金充当資産が形成されるべきものとされる範囲において他の破
産債権者に優先して満足をうけるものとする(4項)。計算上の保険料積立金
に対する権利とは、破産開始により VAG77条 3項により取得する保険料積立
同
立法理由中では、社団が社員の利益を目的とする場合には原則として解散時の社員
に残余財産を分配すべきものとする BGB45条 3項の考え方に従ったと説明されてい
.a
.O
.(N.16),S.
46
.
る
。 Motive,a
同 ただし、株式会社・協同組合と相互会社とで残余財産分配請求権の分配基準は異な
ることに注意しなければならない。すなわち、株式会社では株式数に比例する (AktG
2
7
1条)。協同組合では、事業貸分(これについては注(10
4
)参照)に応じて分配され、
1条)。相互会社では、剰余金
さらに残る財産については平等に分配される (GenG9
)
。
分配と同じ基準により分配すべきものと規定されている (VAG48条 2項 2文
付9
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.(
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.
1
2
),Vor~50 Anm.1
.
同 なお、 VAG7
7条 2項は、「保険料積立金充当資産については、満足をうけるべき請
求権について、そのために保険料積立金充当資産への組入れが規定され (VAG66条
l項ないし 4項)、かつ、現実に組入れられているかぎりにおいて強制執行または仮
差押の対象となる」と規定し、破産以外の場合にも付保者以外の債権者の引当となら
ないとする。
1
3
8
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
金請求権 (
2
)、破産開始前に取得していた保険金請求権ないし買戻請求権であ
るが、後者については、優先権のあるのは保険料積立金の額においてであり、
これを超える請求権の額は一般破産債権となる O この優先権の性格について
は、取戻権 (Aussonderungsrecht) ではなく、別除権 (Absonderungsrecht)
類似の権利であると解されている O 社員は、破産手続内で満足をうけるので
あるから取戻権とみることはできず、他方、優先権の認められる財産は保険料
積立金充当資産に限定されるので優先的破産債権者とも異なるのである
O
こ
の保険料積立金充当資産に関する優先権の規定は、 1901年 VAGにおいて既に
設けられていたものであるが、立法理由はあまり明確には述べられていない O
他方、 VAG80条は、非生命保険企業の破産においては、未経過保険料返還
請求権および既発生の保険金請求権は破産法6
1条6
号所定の一般破産債権に対
して優先するものとする。また、既発生の保険金請求権は未経過保険料返還請
求権に対して優先するものとする O この付保者の優先権は、破産財団に属する
財産全体に及ぶもので、優先的破産債権の性質をもっ O この結果、優先順位は、
同
VAG77条 3項は、「破産開始により生命保険関係は消滅する。付保者は、破産開始
時に計算上の保険料積立金として自己に帰属する金額を請求することができる。同人
の保険関係に基くその他の権利はこれにより影響を受けない」と規定する。
(
5
2
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),S77Anm.10
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2
),S77Anm.12.
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同 M
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.O
.(
N
.
1
6
),S.
48
f
f
.では保険料積立金充当資産が積立てられる目的である
付保者のための保障を与えるために、他の財産との分離された管理と破産の際の付保
者の優先的満足が必要であると述べるにすぎない。相互会社についてもこの優先権を
適用することについてはとくに説明は加えられていなし」なお、優先権を付与する規
定をおくことにより、保険料積立金充当資産の所有権は保険者にあるのではなく付保
者が所有権を有するという説にも、また、生命保険契約は保険契約と貯蓄契約の二面
性を有するという説にも加担するものではないという説明がある。
同破産法 (
Z
P
O
)6
1条は、 l号より 5号までに優先的破産債権を列挙し、同 6号にお
いてその破産債権はすべて同順位である旨規定する。
6
カ Prolss-Schmidt-Frey,a
.a
.O
.(
N
.
1
2
),S80Anm.1
.
じ
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
3
9
K061条 1号ないし 5号の優先的破産債権に次いで、未経過保険料返還請求権
と保険金請求権ということになるが、相互会社において非社員契約の存すると
きは、 VAG80条の優先権の内部でさらに VAG51条 1項 2文が適用され、非
社員契約の請求権がまず優先して満足をうけることになる O なお、この VAG
80条の規定は、フランクフルト・アルゲマイネ杜の破綻を契機として行われた
1931年の VAG改正により新設されたものであるが、立法理由においては、と
くに相互会社にもこの規定を適用することに関するコメントは付されていな
し ~o
これらの社員の破産手続における優先権は社員の地位についての法的な説明
と調和するのであろうか。実はこの点に関しては VAGの立法理由においても
詳述されていないし、学説もほとんど立入って論じない。ただ、 VAG80条に
関しては、立法論としてのみならず、解釈論としても否定する説があった O
しかし、判例 (RGZ147, 76) は相互会社にも適用を認める O また、最近で
も、否定説は相互会社と株式会社の理論的な相違が実務上ほとんど完全に消失
したことを考慮しないものであり、相互会社の付保者の債権者地位は株式会社
の付保者のそれにますます対応せしめられ、その結果相互会社社員の優先権の
喪失はもはや正当化できないと反論される。この優先権の適用により VAG51
(
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8
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),~51 Anm.
4
.
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.
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4
は VAG80条の明文に反し、立法者意思とも反す
るが相互会社社員には優先権は認められないと述べる。
制) RGZ1
4
7,6
9は、株式会社との間での運送保険契約について VAG80条の規定が適
4
8条は運送保険については
用されるかどうかが争われたのであるが(当時の VAG1
相互会社を除き原則として監督の範囲外であるとされていたのでこのような主張がな
された)、その判決理由中で相互会社にも同条が適用される旨述べられている。
倒 P
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.(
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.
1
2
),~80 Anm.12も、相互会社の本質と合致しな
いきらいはあるが、法文が企業形態を制限していない以上相互会社にも適用せざるを
えないとする。
1
4
0
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
条および2
6条は制約をうけるが、これらの規定は、相互性原則の流出物でない
から、それにより相互原則が侵害されたことにはならないという
O
これに対して、 VAG77条については批判的な見解がない。これは、保険料
積立金充当資産の性質によるものであろうか。しかし、社員の優先債権が社団
における持分払戻の性格をもつものとすればやはり説明に困ろう O しかし、そ
のような考え方がないことの理由の推測として保険関係が契約関係と同一の位
置づけを与えられていることをあげでもあながち誤りともいえないのではある
まいか。
以上は、相互会社が清算ないしは破産により消滅する場合の社員の法律関係
であり、株式会社や協同組合のごとき社団における社員の地位と同様の側面と、
債権者としての保険契約者と同様の側面とが混在していることが明確になっ
た。これに対して、会社の存続中の社員の会社財産に対する権利は単純である O
すなわち、社員の中途退社の場合には、社員は保険事故の発生による社員関係
の終了の場合には保険金請求権、その他の退社の場合には解約返戻金または保
険料積立金の支払を受けるのみであって、会社財産に対する割合的持分権を有
しないという点ではまったく争いがない。この点も自明のごとく考えられて
いるのであって、理論的説明を加えたものを見いだすことはむずかしい。しか
し、これも推測すれば、社団の継続中は社員は社団財産に対しては割合的持分
権を有するものではなししたがって脱退しても持分返還請求権を有しないと
する BGB上の社団の原則に関する考え方が相互会社についても採用されたの
ではあるまいか。しかし、このように退社員の持分請求権が排除されるとすれ
約3
) M
uller-Goldberg,a
.a
.O
.(
N
.
1
9
),~80 Anm.8.
絡
の Kisch,a
.a
.O
.(
N
.
4
),S.138 Prolss-Schmidt-Frey,a
.a
.O
.(
N
.
l
l
),~20 Anm.17 ;
.a
.O
.(
N
.
1
9
),~20 Anm.8 (退社した社員に対して会社財産に対す
Golgberg-Muller,a
る請求権を付与する定款規定の効力にも疑義があるという)。
。
倍 Staudinger,loriusvon一Coing,Helmut,BGB,12.Auf,.l 1980,~39'Rdnr.1 1.
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
4
1
ば、社員の権利は営利保険の保険契約者の権利に益々接近するのであり(解散
による清算が現実に行われることは稀れである)、財産的な権利の面からだけ
みれば、社員関係ないし社員の地位を認めることはほとんど意味をもたなく
なっているということが確認されるのではあるまいか O
ところで、 BGBにおける社団においても、近時、経済的社団について退社
時の持分払戻請求が認められる余地があるとする見解が生じていることに注意
しなければならない。経済的社団である相互会社においてもこのような傾向
は影響を及ぼさずにはおかない。それは、結論を先取りしていえば、社員関係
の見直しということに外ならない。
b 会社管理に対する参加権
社団の一般原則において社員は社団の管理に
対する参加権を付与されるが、相互会社においても付保者が社員である以上自
明のこととして付保者に参加権が付与されている O これにより相互会社の社員
の営利保険における保険契約者との最大の区別がなされるというのが、通説的
な相互会社観であるといえる
O
ところで、別稿において詳述するが、相互会社における社員の参加権は空洞
化の一途を辿っている o 極端にいえば、若干の少数社員権は認められているも
のの一般の社員には参加権はほとんど与えられていないといっても過言ではな
なお、剰余金が分配されるとしても、問題は剰余金をいかなる基準により算定する
.a
.O
.(
N
.
8
),S
.
1
3
)、通常は、解約返戻金ないし責任
かということであり (Grosfeld,a
準備金を支払っても会社財産はさらに残るはずである。
制 BGB22条は、非経済的社団 (
I
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) でない経済的社団は特別法がない場合に
国の認可により法人格を取得するものと規定する。この法律問題については以下参照。
闘
Schmidt,Der b
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.
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.
(
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.
3
7
) をあげうる。 B
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.
7
),
S
.
2
9
f
f
.の基調も同様である。
側
1
4
2
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
い。そのことから、逆に、社団であるというこれまでは自明であった前提を疑
問とする見解が生じてくることは容易に想像される O これは第 3章において紹
介することとする (
1
5
6頁以下)。
(ウ)社員の義務
相互会社の社員は会社に対して保険料払込義務を負う O 保険
料払込義務は通常社員関係に包摂される保険関係にもとづいて発生するもので
あり、団体関係上発生するものではないと解されている
O
そのことは、保険
料率の事後的な引上げは、 VAG41条 3項の制約のもとでのみ実現しうるとい
うことを意味する。そのかぎりで、やはり、保険料の支払の局面においても
契約関係との接近が図られている O
それはともかく、保険料の支払方式となると依然として営利保険におけるそ
1
) 支
れとは大きく異なっている oVAG24条は、これを次のように規定する o 1(
出が前もって徴収される一時的もしくは反復的な保険料により賄われるかまた
は入用により賦課される保険料により賄われるかを定款は規定しなければなら
2
) 保険料が前もって徴収されるときには、定款は、さらに追補が留保
ない。 (
されるか、または、排除されるかを規定しなければならない。追補が排除され
るときには、その他に、保険請求権が削減されることができるか否かを規定し
なければならない。 (
3
) 定款は、追補または賦課について最高限度額を確定す
ることができる O 追補または賦課は、社員の保険請求権を賄うためにのみ徴さ
れる旨の制限は許されない。」
この規定のうちには、相互会社において想定されうるあらゆる保険料支払方
法が網羅されている。今日では全く意味を失っている賦課方式を除くと、前払
保険料方式においても原則は無限責任である(追補の無制限)。しかし、 VAG
は既に追補の額に最高限度額を定めることを認め、さらに、追補を全く排除す
。
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.これに対して、 K
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.(
N.
4
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2
0
3は反対。
(
7
1
)
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
4
3
ることも認める O 最後の場合には確定保険料方式ということができる o また、
VAGの規定上は、保険請求権の削減すらも排除することが認められる O その
かぎりにおいては、営利保険の場合と全く差異がなくなるものである。ところ
で、相互会社が定款において以上のような保険料支払方式のうちいずれを採用
するかは決して自由に決定しうるものではなく、監督庁の規制が及ぶことに注
意しなければならない。それによれば、追補に最高限度額を設ける方式はいず
れの分野の相互会社においても認められるようである O これに対して、追補
の排除は常に認められるわけではなく、損害保険相互会社においては追補の排
除は認められないとされる O 追補の排除とともに保険請求権の削減を定める
定款規定については、監督庁は、十分準備金の積立られている大規模相互保険
会社にのみ認めるものとするが、具体的基準は明確でない O
なお、削減の決定の権限は、定款の規定する者にあるが、定款は、最高機関
に限らず、取締役に権限を付与することも許される
O
これは、削減に限らず、
追補金額の決定についても同様であり、さらに、定款では、保険料額の変更も
取締役に授権することがある O これらについては、しかし、実質的には、
AVB中の変更留保条項と同様の意味をもつので、監督庁も無制限に認めるので
はないとしている
o
いずれにせよ、すべての相互会社において実現されているわけではないにせ
よ、保険料支払の方式として完全な確定保険料方式が採用されることが相互性
同確定保険料方式が可能であることについては、以下を参照。 H
.
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?,VersR1965,S
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) G
oldberg-Muller,a
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.(
N
.
1
9
),~24 Anm.5.
(
7
4
) P
rolss-Schmidt-Frey,a
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.(
N
.
1
2
),~24 Anm.
4
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(
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5
) E
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N
.
1
9
),~24 Anm.5;B
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N
.
7
),S
.
1
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.
0
司 Prolss-Schmidt-Frey,a
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.(
N
.
1
2
),~24 Anm.5u
.
8
(
7
8
) E
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.
。
1
4
4
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
原則に決して反するものではないとされていることが明らかになる O したがっ
て、社員における企業損益の帰属ということを相互性原則の内容として無制限
に認めることは損失の帰属という方向ではできないことになる O
第 4節
(
ア
) 序説
その他の相互性原則の構成要素
VAGのもとで、以上のほかに相互性原則との関連で議論される問
題として、ここでは、保険事業専業ないしコンツェルンへの参加の問題をとり
あげておきたい。
(イ)保険専業主義・コンツェルン排除
相互会社は相互保険を事業として営む
ことを基本的目的とするものであることは明らかである
D
しかし、そのこと
から直ちに相互会社が相互保険以外の事業をなしえないということが導かれる
のではない。既にみたように、非社員契約にかかる事業は、相互保険とは全く
異質な事業であり、そのことは、相互保険専業原則が貫徹されていないことを
意味する D しかし、これ以外の事業については、
VAG5条の保険企業一般に
対する他業禁止原則により禁止されるので、議論の余地がないことになる
O
しかし、拙稿において検討したように (
f西ドイツ保険監督法の展開 J (神戸
法学雑誌
3
6巻 4号 653頁以下)、他業禁止原則のもとにあっても、保険企業が
他業を営む企業に対して資本参加をなすことは必ずしも一律に禁止されている
のではなく、いわゆる自由資産による資本参加は認められている O 相互会社に
おいても、やはり、自由資産により株式会社に対して資本参加をなすことは現
に行われているのである。
K
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h,a
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.(
N.
4
)
, S
.
2
0は、相互会社が、社員または公共の利益の目的のために保
険事業以外の経済的または文化的な事業を行うことは、それが保険事業以上の比重を
与えられるのでないかぎり可能であるとしてはいたが支持されていない。
。
倍 Prolss-Schmidt-Frey,a
.a
.O
.(
N
.
1
2
),~15 Anm.5.
同
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
4
5
また、 VAG7条による生命保険・非生命保険兼営禁止原則についても、保
険企業間では契約コンツェルジであれ、事実上のコンツェルンであれ広範囲で
許容されているが、これにより相互会社も他種類の事業を営む保険株式会社に
対する資本参加を行っている
D
要するに、相互会社といえども株式会社と同様に、営利企業としての株式会
社に対して資本参加することが一般的に可能となっているのであるが、これは
相互性原則に反しないものであろうか。一般的には、保険企業に対する資本参
加ないしコンツェルン支配については、相互会社自身の提供しえない種類の保
険商品を同時に提供することができるようになることにより保険市場における
相互会社の存立に有意義な効果をもち、また、少なくとも間接的には相互性原
則の有利な保険保護を社員に対して提供するという目的に資するとされる
D
これに対して、非保険事業を営む株式会社に対する資本参加と相互性原則との
関係については議論されることがないが、これは、資本参加が財産投資の問題
として考えられていることによるものであろう O
他方、相互会社が他の金業に対して、コンツェルン的に従属することについ
ても議論の対象となる O もっとも、相互会社が議決権の行使を可能とする株式
のごとき地位を創出することができない以上、資本参加を基礎とするコンツェ
ルンの形成は不可能であり、単なる契約コンツェルンの形成の道が残されてい
るにすぎない。そのような契約コンツェルンは実際上ほとんど意味を持ちえ
制) 相互会社の関与しているコンツェルンの事例については、 S
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5
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J
)
;同旨として、 B
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.(
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1
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・-なお、支配従属関係のない水平コンツェルンの形成
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可能性がある。これについては、 Mohr,DerG
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.
.
倒
1
4
6
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
ていないが、理論的には相互会社が他企業に服することは相互性原則に反しな
(
8
1
)
いかは当然に問題となりうるところである
D
第 5節 小 括
以上において VAGのもとで相互性原則を構成すると思われる諸規定を概観
してきた。相互保険と営利保険の均質化が叫ばれるが、それは VAGにおける
法規整においても裏づけられることが理解される D 具体的には、社員関係説が
今日通説的地位を占め、保険関係も社員関係に属すると解されてはいるが、保
険関係は極力保険契約と同一原則に服することが可能となっている(既存の保
険関係の事後的変更の原則的禁止、保険請求権削減の排除の可能性の承認、付
0 他方、団体的関係についてみると、剰余金分配請求
保者の優先権の同一化)
権を除けば清算および破産時を別として具体的な財産的権利が発現する余地は
ない。さらに、剰余金分配請求権にせよ株式会社の保険契約者配当とほとんど
変わりがなくなっているのであり、結局、相互保険と営利保険の差異は経済的
にみればほとんど完全に消失しているのであり、異なるのは、会社の管理のあ
り方のみであるといえる。次章で絡介するようにグロスフェルトが相互会社と
株式会社の異同を検討するときに、相違としてとりあげられているポイントが
ほとんどすべて会社管理のあり方の相違に由来するものであるのは、以上の
ところからみて当然といえることなのである O
側
G
r
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d,a
.a
.O
.(
N
.
8
),S
.
2
9は、相互会社が、企業契約により他企業の無制限の指
揮権に服することは、相互性の考え方に反し許されないとする(もっとも、相互会社
の社員の助長を目的としない結合に属することはできないというにとどまるので、た
とえば他の相互会社との企業契約も当然に許されないというのかは直ちには断言でき
ないように思われる)。
G
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.(
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.
1
4
f
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・
(
8
5
)
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
4
7
第 3章相互性原則の現代的評価
。
第 1節 序 説
第 2章において、 VAGのもとにおける相互性原則を概観した。その結果、
営利保険への接近が著しいことが確認された。このような相互保険と営利保険
の均質化はいわれだして久しいところであるが、そのような法的な状況のもと
で相互会社はなおも何等かの存在意義を有するのであろうか。あるいは、相互
会社のあり方に批判はないのであろうか。本節では、最近の相互会社法に関す
る研究のいくつかを紹介することにより、西ドイツにおける相互会社ないし相
互保険の今日における評価を探りたい O
第 2節 ラ イ ザ ー
ライザーの相互会社法に関する発言としては二編の論説がある[""大保険相
互会社における社員総代会の形成における自己補充方式の許容性」という論
文については、別稿において検討することとし、ここでは、「企業法における
相互会社」と題する論説の要旨を紹介する O
B
r
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l,a
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.(
N
.
7
),S
.
2
4
f
.は相互会社と株式会社の均質化を認めながら、企業形
態の相違を消滅させ、単一の企業形態を創出することには反対する。過去においては、
企業形態の相違による競争が顧客の利益につながったのであり、そのような競争の可
能性は将来的にも閉ざすべきでないというのである。もっとも、現在相互会社が株式
会社に対してとくに利点をもたらしているかについてはあまり積極的な記述はない。
9頁では、 1
9
7
2年の自動車保険については、相互会社の外野に対する報酬
ただ、同書 1
およびその他の一般管理費用は株式会社のそれよりも低かった(前者が約 40パーセン
5パーセント)という統計資料をあげている。
ト、後者が約 2
告
カ R
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)
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(
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7
)
.
側
1
4
8
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
ライザーは、まず、相互会社が協同組合と、法律技術的には相違点があると
しても、本質的には構成員の自助を目的とする点で共通性をもっとする O その
ために相互会社は、株式会社とは性格が全く異なるはずであるが、しかし、現
実には、株式会社との類似性が確認される O これは、利益の追求、利益の処分、
追補金支払義務の排除による定額保険料方式、社員間の共同体の不存在という
諸側面において確認される D むしろ、自己資本の調達の困難およびコンツェル
ン形成の困難という点では相互会社に法形態に固有の不利益があるのであり、
以上のところをまとめるならば、「大相互会社は保険株式会社に対する既往の
利点の多くを失い、多くの点ではその発展可能性を狭めている」と述べる
D
しかし、それにもかかわらず、自助主義に立脚する相互会社が存在理由を失っ
たというものではなく、とくに、それは企業法の理論のなかで確認されるとい
うことが後半部で述べられる O すなわち、伝統的な企業の担い手としての各
種会社の形態ごとに企業組織の法的構造を問題とする思考方法に換えて、より
広範な利益複合体として企業を把握し、そのあり方を探るといういわゆるドイ
ツ企業法概念(そのために会社の形態にとらわれない企業の法規整が模索さ
れる)のもとでも、企業形態の相違に着目した法規整が依然としてとられると
いう現実的な立場をとった場合に、相互会社は今後も独自の存在意義を主張し
うるというのである O それは次のように述べられる O すなわち、企業法にお
いては、企業における集中した権力の正当化根拠とその権力行使に対するコン
告9
) R
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.(
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),S
.
1
2
7
6
f
f
.
.
1
) ドイツ企業法については、龍田 節「大規模企業の法的規制について一一西ドイツ
)
J 法学論叢 6
2巻 5号 1
1
9頁以下、 6号 1
0
0頁以下 (
1
9
5
7
)、
における企業法改正論(ー)(二.
正井章搾「西ドイツにおける『企業法』の議論について」民商法雑誌 7
5巻 4号 7
4
2頁
1
9
7
7
)、木内宜彦「労働者参加と企業法一一西ドイツにおける『共同決定法』
以下 (
3巻 2号 1頁以下 (
1
9
7
9
)、正井章搾r!F企業法』に
の位置づけについて」比較法雑誌 1
関するパラシュテットの見解」熊本法学 31号 2
6
9頁以下(19
8
1
) など参照。
a
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.(
N
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3
7
),S
.1
2
7
6
f
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.
.
倒以下、 R
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
4
9
トロールという 2つの基礎条件に照して企業に対する法規整が形成されるので
あるが、この 2点において、相互会社は株式会社と対照的な地位にたつという O
株式会社においては経営者の権力の正当化根拠は株主の所有権であるが、それ
がよくコントロールしえないところに、新たに労働者共同決定制度が導入され
た理由がある。これに対して、相互会社においても一見したところ、多数の社
員が存在する相互会社では株式会社以上に社員によるコントロールは空洞化し
ているものの、剰余金分配に対する関心と退社という仕組により社員の企業活
動に対する影響が及び、かつ、総代会という機構による株式会社以上に実質的
な経営者のコントロールが現在の相互会社という形態を今後も維持させる根拠
となりうるという O その裏づけとして、 1976年共同決定法においては、相互会
社は拡大された共同決定制度の適用対象とされなかったが、それは決して立
法の過誤ではなく、まさに上述のごとき、相互会社における相対的に効果的な
コントロールの確保によるものとするのである O
同
第 3節
グロスフェルト
「企業形態のシステムにおける保険相互会社 J と題するモノグラフィ(19
8
5
年)において、グロスフェルトは、相互会社と株式会社、また、相互会社と協
同組合の比較を試みる o
(ア)株式会社との比較株式会社との均質化の側面として、組織構造(機関構
成とその権限)、市場行動、企業リスク(相互会社における追補金支払義務、
保険給付削減の空洞化)、剰余分配金という諸点を取り上げるが、それらにお
いても、それぞれ相違は残るとする O 例えば、重要なポイントであると思われ
るが、剰余金分配は、株式会社においても利益の90%は契約者配当にあてられ
側相互会社と共同決定については、別稿を参照
(
9
4
) G
r
o
β
f
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l
d,a
.a
.O
.(
N
.
8
),S
.14
0
1
5
0
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
なければならないという規制により相互会社との相違はなくなっているように
みえるが、しかし、問題は剰余金の額をどのように導くかであり、株式会社で
は、株主と付保者との利益の衝突が不可避であるのに対して、相互会社にはそ
のような状況は生じえないという
O
次に、相違点として、 1 付保者の利益(法
的構造上相互会社は付保者の利益をより指向する(社員平等原則の内在性な
ど
)
、 2 リスクと支配の関係(相互会社ではこれが一致するのに対して、株
式会社ではリスクの第一次的負担者は保険契約者であるが支配は株主のみにあ
る
)
、 3 企業に対する関係の密接さ(相互会社では社員と付保者の地位の合
致により流動性のある株式会社よりも社員の会社に対する関係が密接である)、
4 監査機関および社員の解説請求権(相互会社では付保者が監査役員を選任
し、また解説請求権を有する)、 5 定款自治 (VAG17条 1項は法の規定がな
ければ定款の自治を認め、これは株式会社とは原則・例外の関係が逆である、
また、社員の力関係の等質性により多数支配の危険に対処すべき強行規定が少
ない)、 6 議決権(相互会社では議決権の不当な集中はありえず民主的であ
る
)
、 7 コンツェルン化の可能性(相互会社は構造上コンツェルン化しにくく、
基金拠出者に会社管理への参加権を与えること、監査役員選挙についての提
案権を特定の者に付与すること、あるいは、一人相互会社というような諸手
段によってもコンツェルン化はやはりむずかしい)、 8 企業契約(相互会社
では、資本参加の方法がないために資本参加が困難なばかりでなく、無制限に
他企業の指揮に従属することは相互性原則に反する)、 9 水平コンツェルン
(
9
5
) G
rosfeld,a
.a
.O
.(
N
.
8
),11
f
f
側 以 下 、 Grosfeld,a
.a
.O
.(
N
.
8
),S
.
1
4
f
f
.
.
附 これについては、別稿参照。
r
e
n
z
e
l,a
.a
.O
.(
N
.
7
),S.114参照。 B
r
e
n
z
e
l,
倒 1人相互会社の可能性については、 B
Grosfeldとも社員が 1人となることは相互会社の解散原因になるという。
倒統一的な経営指揮が行われるコンツェルンのうち、参加企業聞に支配・従属関係が
8条 2項
。
存しないものをいう o AKtG1
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
5
1
(相互会社では不可能でないにしても資本参加ができないので緩やかな結合に
とどまる)、 1
0 経済的集中度(相互会社の上記コンツェルン不適合性により
ドイツ保険業界の集中度は低くなつでいるはずである)、 1
1 銀行に対する不
従属(相互会社では寄託議決権制度が存せず、銀行に対する従属の可能性が
ない)、 1
2 乗取(相互会社では構造上乗取がありえない)という多数をあげる O
結論として、相互会社と株式会社の聞には依然として相違があり、相互会社は、
保険業とそこにおけるリスク状況の特殊性に特別に適合した法形態であり、バ
ランスのとれた経済体制、開かれた保険市場のためにポジテイブな地位を占め
るとする
o
以上からわかるように、相互会社と株式会社との相違がもっぱら
会社の法律的構造のうち組織的な側面の相違から導かれていることがわかる O
その点では、ライザーの基本的発想と共通する。
(イ)協同組合との比較社員の地位の人的要素(資本的要素ではない)と経済
的自助思想がいずれも前面に出る点では相互会社と協同組合の聞には共通性は
あるが、 VAGは協同組舎法の規定をほとんど準用せず、株式法の規定を準用
しており、それぞれ固有の性格を有している O そして、以下の諸点で区別され
るとする
1 商品の抽象性(相互会社は目に見えないサービスを提供する
のに対して協同組合は具体的商品・サービスを提供する
O
抽象性ないし技術
性により相互会社の免許主義(協同組合は準拠主義、 GenG1
0条・ 1
7条参照)
が導かれる)、 2 事業組織の意義(協同組合では事業組織の構築の必要性が
u
O
O
) 銀行が寄託を受けている顧客の株式について顧客のために株主総会において議決権
を行使するドイツ特有の制度。 AKtG135条参照。
u
O
u Grosfeld,a
.a
.O
.(
N
.
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),S
.
3
3
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.(
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8
),S
.
3
4
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.
.
u
O
$ GenG1条 l項は協同組合の行いうる事業として、金融事業、共同販売事業、製造
事業などを(例示的にではあるが)列挙する。金融業も含まれているように協同組合
も抽象的サービスと無縁なわけではない。
1
5
2
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
(
JO
,
j
)
前面に出、そのための金融のために事業持分の引受がなされる。相互会社に
おいては付保者のリスクの調整均衡化が行われるのであり、(保険料以外に)
追加酌資本は不要で、ある)、 3 社 員 の 数 ( 相 互 会 社 は も と も と 地 域 的 限 定 な
く事業を行ってきたのに対し、協同組合は規模がより小さい
O
この相違は、
法規整の差をもたらすのであり、相互会社では、個々の社員のコントロール能
力が役割を果たすことはできないとしミう前提で法規整が考えられなければなら
ない)、 4 取 締 役 員 ・ 監 査 役 員 の 性 格 ( 協 同 組 合 で は こ れ ら の 者 は 組 合 員 で
あ る こ と を 要 す る な ど の 規 定 が あ る が (GenG9条 2項)、相互会社では社員
資格に関係なく専門技術知識を有する者がこれらの地位を占める)、
5 取締
役員の選任・解任(協同組合では組合員総会の権限が大きい)、 6 業 務 執 行
権(協同組合では組合員の業務執行への関与可能性が広い)、 7 社 員 の 意 思
形成(協同組合における方が組合員の地位が強化されているのに対し、相互会
事業持分(GeschaftsanteiI)とは、協同組合員が組合員の地位を取得するために出
資することを義務づけられるが、その最高額をいう。その意味では、 A
n
t
e
i
lという語
は用いられているが、社員の地位とは区別される。組合員は、組合財産に対して一定
の権利を有するがこれは事業貸分(Geschaftsguthaben) と称され、具体的には、出
資額に剰余金より割当を受けた額の合計額であるが、事業持分の額を最高限度額とす
る (GenG19条 1項)。そして、組合員が脱退すると事業貸分の返還が行われるが、 (GenG
7
3条 1項・ 2項)、定款によりさらにその目的で設定された準備金基金の払戻の請求
.H.-Meulen.
も認めることができる (GenG73条 3項)。以上については、 Meyer,E
ÚO~
bergh, G
o
t
t
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B
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u
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n, Volker,G巴n
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z, 1983,97 Anm.15,S19,
973;Kubler,F
r
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ich,G
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t,2
.
A
u
f
,
.
l 1985,S
.
1
4
3
f
fなど参照。
側 相 互 会 社 の 社 員 が 10万人ないし 100万人超であるのに対し、最大規模の信用協同組
合でも(10万人ないし 35万人のものもあるが)一概して 5万人程度であるとする O
Grosfeld,a
.a
.O
.(
N
.
8
),S
.
3
7
.
aO~ GenG2
4条 2項 1文は、取締役員は組合員総会が選任するのを原則とするものとす
るO また、 GenG24条 3項 2文は組合員総会の取締役員解任権を規定する。
側 GenG27条 l項 2文
、 43条 1項は、組合員総会が業務執行についても決議しうるも
・
のとする O
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
5
3
社では定款自治の範囲が広い)、 8 社員との関係の親密性(相互会社の方が
会社と社員の関係が希薄化しており、これが公告の方法、監査結果についての
通知のあり方などに具体化する)、 9 退社(協同組合においては退社により
組合財産に対する清算が行われるのに対し、相互会社では会社財産に対する
持分権は認められえず、保険関係の清算のみが行われる。(これは社員関係説
によるものとする)))、 1
0 解散(協同組合では事業貸分にしたがいまず残余
財産が分配されるが、さらに残った財産は頭数により分配される (GenG91条)
のに対し、相互会社では保険関係を基礎に分配される)、 1
1 資本参加(資本
参加に対する制限の態様が異なる)、 1
2 定款自治(相互会社の方が広い)。
このような相互会社と協同組合との相違点の強調は、法的性格の相違という
よりは相互会社と協同組合の実態ないし経営のあり方に関する相違に基礎づけ
られているとみることができょう O このような認識が、相互会社における会社
管理の特異なあり方の正当化につながっていくのである。
‘
w
。
0
$
GenG43条 1項は、組合員総会において組合員は 1人 1議決権を有すると規定し、
組合員 3,
000人超の組合については強制的に、組合員 1.500人以上の組合については任
意により採用される組合員総代会に関しては (GenG43a条 l項参照)組合員に対し
て選挙権が与えられ (GenG43a条 3項)、これらは強行規定とされている。
側協同組合では組合員総会の召集通知は連邦官報における公告ではなく、直接の通知
または地域的新聞における公告が必要とされる (GenG6条 4号)など。
U
l
O
) 注(
1
0
4
)参照。
U
l
U Groβfeld,a
.a
.O
.(
N
.
8
),S.
44
f
.
.
白l~ GenG 1条 2項は、会社その他の団体に対する資本参加は、組合員の営業・家計を
助長することとなるか、または、組合の唯一もしくは主たる目的をなすことなく組合
の共同の目的に資する場合にのみ許容されるとし、無制約な資本参加を認めない。
神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
154
第 4節
ファーニイとローレンツの論争
最近、相互会社の企業政策のあり方に関してファーニイとローレンツが論争
を展開した
O
ファーニイが、相互会社と株式会社の均質化傾向は認めつつ、
相互性原則理念のルネサンスということから相互会社独自の企業政策が導かれ
るとするのに対して、ローレンツは、そのような独自の企業政策が存すること
を否定する O
ファーニイによれば、相互性原則の理念が今日改めて強調されるべきである
のは、相互会社が協同組合と同様に民主主義の理念に合致することとともに(市
場における消費者の選択決定という面と、社員の共働という面とにおいて)、
商品ないし保険種類指向ではなく顧客指向の経営理念への移行に相互会社が適
合しうるからである(相互会社においては、企業と顧客の聞に市場経済的関係
と社団的関係の三重の関係があり、 2本の顧客指向のためのレールが存すると
いう)。そして、相互会社固有のあるべき企業政策として、事業範囲の見直し
(顧客である社員に利益をもたらさない収益性の悪い事業の回避)、非社員契
約にかかる事業の見直し(経営成績の悪い、とくに再保険事業の回避)、成長
本位思想の反省(健全性の維持、利益参加のあり方の反省)、無制約な外国取
引の拡大の制限という諸点があげられる O 結局、社員に対して、良質で安価な
保険保護を提供するということが、相互会社の企業政策を上記のような形にお
U
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$ Farny,D
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e Mitwirkung d
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7
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.なお、ファーニイには相互会社に関
して以下の論説がある o Farny,DerB
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. (同文は、
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nVergangenheitund Zukunft,ZfW 1975,S
V W1975,S
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9
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.にも掲載).
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母 Farny,a
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1
1
3
),ZVWS.351
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
いて制約することになるとするのである
1
5
5
O
これに対して、ローレンツは、相互性原則のルネサンスの根拠のうち、協同
組合と同様の民主主義的性格という点に関しては、 1
9
7
3年の協同組合法の改正
により協同組合も営利主義の方向に進んだことが考慮されなければならない、
また、顧客指向の経営理念という点についても、それは相互会社の経営にとっ
て決定的なものではなく、あくまでも社員に対して有利な保険保護を提供する
ことが問題なのであり、その観点からは場合によっては顧客指向の経営すら排
斥されるべきであるとする。そして、相互会社と株式会社との均質化過程が
分析されたうえ(保険技術の均質的発展、両企業形態聞の競争、統一的な監督
による)、この均質化を逆転せしめるべきでないとし、そのうえで、相互会社
に固有の企業哲学なるものは存しないという
D
とくに、利益の追求というこ
とすら、相互性原則と反するものではないとする O 投入された資本を利するこ
とのみを目的とした利益追求は株式会社のみに認められるが、実質的にはそれ
と同じことが、他の名目(相互会社の健全性を維持するためというような)の
もとに行われうるのである D ただし、合理的に保険料として必要な額以上の利
益の追求・分配を目的として社員から資金を受け入れることは相互性原則に反
すると述べていることに注目したい。ファーニイのあげた具体的問題点のそ
れぞれについても、ファーニイが相互会社固有の帰結として導いた結論は、む
しろすべての保険企業形態に共通して認められなければならないと主張され
回 以 上 、 Farny,a
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1
1
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),ZVWS.353-359.
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9
7
3年の協同組合法の改正においては、協同組合を他の企業形態との競争に堪えら
れるするように、組織の面および資本装備の点で法規整を現代化することが目ざされ
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。 Meyer-Meulenbergh-Beutien,a
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.なお、 L
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.
(
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.
8
2
),も参照.
1
5
6
る
O
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
最後に、相互会社の存在意義として、結局組織構造の相違のみが残るこ
とが指摘される O それは、社員と付保者の一致ということによるものであり、
株式会社における株主と付保者の利害関係が排除されているが、そのために付
保者の利益のみが配慮されるという利点があるものの、他方では取締役にとっ
てもそれが有利な効果をもたらすことも指摘する
O
第 5節 ツ ェ ル ナ }
ツェルナーの「大保険相互会社と株式法改正」と題する論文は、 1
9
6
5年の
新株式法の制定作業が進行しつつあった 1
9
6
4年に公表されたものである O この
論文においては、相互会社と株式会社の構造的対立性とそれに対する法律的同
胞化 (Verchwisterung)、経済的接近性という現象のなかで来るべき株式法改
正と相互会社法の関係の検討が行われる
O
相互会社と株式会社の法的構造は互いに異なるが、現実に両者の提供する保
険はほとんど変わらなくなっている O 同様の規範的な基本思想と法的現実との
分裂は相互会社の付保者の社員地位にもあらわれる。すなわち、相互会社の付
保者は社員たる地位を有することにより株式会社の保険契約者よりも会社に対
して緊密な関係にあるはずであるが、法的現実は別であり、社員という地位は
ほとんど意味をもたなくなっている(大規模化による社員たる地位の意識の喪
失、追補金支払義務の排除による付保者のリスクの制限、反面、準備金政策に
よる保険料節約機会の消失)。この社員権の萎縮は社員権の最重要なものであ
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),S.479-386.
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位
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5
7
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
る議決権の完壁な萎縮においてとくに明確であり、保険法学説にみられる相互
会社は人的会社であるという主張はもはや支持しがたい。「そのような法律的
地位をもいまだ社員として性格づけることは困難である。団体における地位は、
団体に関連した権利および義務が認められ、それらに相当の重要性がある場合
にのみ認められるのである。」そう考えれば、たとえば、相互会社においては
社員の除名が可能であるというような見解は排除されるべきことら明らかにな
るが、そのような個別的な問題にとどまらず、「大相互会社がいまだ社団、人
的結合として認識されるべきか、それとも、法的現実により実現された構造転
換は、誤った呼称のもとで、実は営造物 (Anstalt )の性格をもっ固有の私法
上の構造体を生み出したのではないかという問いが発せられなければならな
い」というのである。このような意見に対して考えられる第 1の異論は、わ
が民法理論は私法主の法人として営造物というものを知らないということであ
るが、歴史的にドイツ法においては遅い時代に偶然的に法主体が公法上のもの
と私法上のものに分けられたという事情を考えれば重要ではない。第 2に、名
称を変えてみても実質が変わらなければ意味がないとの批判に対しては、実質
的に適切な法規整は当然に課題とされると答えられる O 第 3に、大相互会社を
営造物と性格づけることは法律上きわめて類似したものとして扱われる大相互
会社と小相互会社とを対立するものとさせるということであるが、それはむし
ろ現実に起っているように明確に差別化することである
O
この観点から株式法改正をみると、まずその第 1の柱である株主総会の権限
の拡大は株式法でも小規模にとどめられているが、相互会社にとってもそれ以
営造物とは、公法上のそれのみが存在するが、それは、特定の目的のための行政施
設であり、公法上の社団 (
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) に対するものと定義されるので、私法上の
財団に対応するものと考えてよい。
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8
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
上の最高機関の権限の拡大は適切でないとされる
O
同様のことは第 2の柱で
ある少数社員権の強化についてもあてはまる O しかし、付保者の最高機関にお
ける共働の権利の完全な制限とコントロール可能性の排除はなされるべきでは
なく、ある種の利用者による営造物コントロールという考え方は実りをもたら
すであろう。ただし、その場合に株式会社における少数社員権と少数社員の共
働をモデルとするのではなく、事態に適合した利用者のコントロールが独自に
発展されなければならないとされる
O
第 3の柱である会計と開示に関しては、
株式会社にあっては、利益からの準備金積立の適正を確保することに会計規制
の意義があるが、相互会社では利益の追求そのものが放棄されているのである
から、明示・非明示の準備金の積立を制限せんとする株式法の規定の準用は最
低限にとどめられなければならないという
D
この外、営造物という観点からの立法論として、機関構成について、株式会
社のそれをそのまま移行させるのではなく、取締役員および監査役員がたとえ
ば公法人または監督庁のような第三者によっても選任されうることが有意義で
あるとする O また、協同組合的または営造物的企業については資本と労働の均
衡化を目的とした共同決定は必要がないとされる
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5
9
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
第 6節 パ ウ マ ン
相互会社に関するもっとも新しいモノグラフィーである「自己補充による総
代会による相互会社:社団と財団の混合類型」において、パウマンは、自己
補充により総代が選任される総代会の方式を採用する相互会社を社団と財団の
混合類型として位置づけ、そこから解釈論を展開する D
まず、自己補充による総代選任の適法性に関する従来の学説を検討し、自己
補充の行われる場合、株式会社、協同組合における社員総会のあり方とは異な
ることになるがそれはそれぞれの団体の相違にもとづくものであり、それによ
り自己補充が相互会社で当然に違法となるものではないが、 BGBの社団に関
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) は社団の特性で
する規定からみると社員の定款主権 (
あり、社員総会による社団事項の決定を規定する BGB32条・ 33条は指導形相
であるとする口このため、自己補充により社員の参加の機会が排除される相
互会社を純粋の社団とみることはもはやできず、「自己補充による総代会方式
をとる相互会社は、社団(Ko
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) と財団の混合類型である O 自己補充
方式は許される。存在する正当性の欠如は、国家による監督と私法上の修正と
により埋め合わされる。」という立場を明らかにする
O
混合類型の他の例とし
て、公開有限合資会社があげられる D すなわち、それは概念的には人的会社で
あるが、構造的には社団に傾いているのであり、それと同様に、相互会社も概
念的には社団であるが、構造的には財団に傾くというのである
O
ここで狙わ
れているのは、一方で自己補充方式を適法とすることにより会社の実務的必要
に答えるとともに、他方、社員の利益保護が社員の管理参加の排除により阻害
Baumann,a
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.(N.8).
Baumann,a
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.(N.8),S.
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.(N.8),S.28.
a3~ Baumann
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.(N.8),S.29.
白3~
仕
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神 戸 法 学 年 報 第 3号 (
1
9
8
7
)
1
6
0
されないような法的枠組を形成するということであろう D 後者のためのまずひ
とつの枠組として、パウマンは、相互会社における社員関係と保険関係の関係
に関して、一般的には社員関係説がとられるべきであるが、混合類型としての
相互会社については、修正が必要で、あり、結合説が妥当すべきで、「相互会社
と保険契約者との関係は、社団的要素と保険法的要素を抱摂した統一的法律関
係である。」という
O
そして、保険法的・債務法的要素(ただし、保険契約関
係そのものとはいっていない)がこれまでより強力に前面に出るべきであると
ともに、同時に、保険法的要素と交錯させられる社員の団体上の財産法的構成
要素も見直されるべきものとする
O
方法的には、保険監督制度による社員利
益の保護、定款の BGB242条による司法的コントロールが強調される(定款と
いえども約款と同様に法律行為的にその拘束力が認められるとする)。
具体的帰結として、まず、債務法的構成要素に関して、契約関係と同様の扱
いが強調される白あげられる例の第 1は、保険料変更に関する O 従来、相互
会社においては、前述のように AVBに保険料変更条項をおかず、定款に、方
法について明らかにすることなく保険料変更を取締役に授権する条項をおくこ
とが認められている O しかし、 VAG24条が保険料払込に関しては定款におい
てその方法を規定すべきことを規定していることは保険料変更についてもあて
はまるとしたうえ、前述のような保険料の変更についての定款規定は許されな
いとする O 次に AVBの変更に関しても、定款に既契約にも効力の及ぶ変更の
可能性が留保されているとときといえども (VAG41条 3項はこれを認める)、
その権限の無制限の行使に対しては BGB242条に違反し無効とすべきであると
いう (VAG41条 3項は、社団的に正当化される行為についてのみ適用される
側 以 上 、 Baumann,a
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.(N.8),S.33.
白
骨 Baumann,a
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.(N.8),S.56f.
白3~ Baumann
,a
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.(N.8),S.58f
.
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) Baumann,a
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.(N.8),S.59f
.
.
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
6
1
という)。最後の例として、社員と会社の聞の裁判についての管轄は一般的に
は ZPO22条が適用されるとされているが、混合類型としての相互会社におい
ては債務法的構成要素に関して、とくに保険料請求訴訟に関しては同条は適用
されるべきでないとする D
社員関係のうちの団体上の財産権的な側面に関しては次のような帰結が導か
れている O まず、社員が退社した場合に、通説は社員の補償請求権(持分払戻
請求権)を認めない。これは BGBの社団の一般原則によるものであろうが、
最近では BGBの社団に関しても非経済社団と経済社団に区別し、後者につい
ては社員の財産的価値権が認められ、それにより退社員の補償請求権を認めら
れうるとされておれこの理は相互会社にも適用されるという(株式会社の
財産法的規整への親近性は AktG8
'
5条以下と VAG44b ・44c条にみられると
もいれ。ただし、強行法的補償請求権を承認することは酷にすぎ、会社の私
的自治に委ねておいてよいとする)。次に、取締役・監査役会による自由な準
備金積立権限との関係において剰余金分配請求権についても構造的に社員の権
利が十分に保障されない危険があることを指摘したうえ、社員の意思の代表が
仕4
W 第 1章 1
2
7頁参照。
白
4
V AktG385d条は、相互会社の株式会社への組織変更を定め、 VAG44b条・ 4
4c条
は相互会社の全財産の清算を伴わない株式会社・公法上の保険企業への移転を定める
が、いずれにおいても相互会社の社員には会社財産に対する持分権を有するという前
提で規定されている。相互会社の株式会社への組織変更については、以下を参照。
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t,V W1969,S.907fLち な み に 、 相 互 会 社 か ら 株 式 会 社 へ の 組 織 変 更 を 規 定 す
85a条は、 1
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9年 6月2
6日の組織変更法 (
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) により新設
る AktG3
されたものであるが、その背景には、 ECにおける自己資本規整の導入の見込、コン
ツェルン従属会社化の必要ということがあった。
Ú4~ Baumann
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.(
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6
2
神 戸 法 学 年 報 第 3号(19
8
7
)
実存する場合と同様の剰余金分配請求権が保障されるように会社法的および監
督法的措置がとられるべきものとされる
O
第 7節 小 括
本章において取り上げた諸見解は、それぞれ論述の方向が別々であり、単純
な比較は不可能であるが、いくつかの指摘をしておきたい。
ライザーおよびグロスフェルトの基本的な発想には共通性がある O それは、
相互会社が提供しうる保険サービスは株式会社の提供するそれとほとんど変わ
らなくなっており、そのかぎりでは相互会社の独自の存在意義は見い出されな
いが、会社管理の側面においては積極的な存在価値を主張しうるということで
ある O これは社員の利益ということにつながるのみでなく、企業のコントロー
ルというマクロの観点からも論述されている D これは、現代のドイツにおける
通説的相互会社観であろうと思われる D しかし、サービスにおいてとくに株式
会社に対する特性を提示できないとし、会社の管理に関してのみの特性が強調
されるとすれば、その積極的評価もきわめて不安定な(見解の相違として片づ
けられる)ものになりはしないであろうか。ライザーやグロスフェルトカf強調
するにもかかわらず相互会社の管理のあり方に批判も多いことも確かなのであ
る(別稿参照)。
次に、提供する保険サービスの面では、株式会社の提供するそれと変わりは
ないというのが通説的見解であろう
O
保険学者であるファーニイのみは企業政
策のあり方として株式会社のそれとの相違を、とくに相互会社の拡大的企業政
策を批判するという方向で強調しているという点できわだ、っている。しかし、
同
Baumann,a
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.O
.(
N
.
8
),S
.
6
3
f
f
・-会社法的な側面での措置については十分な結論が示
されていなし=。補償請求権との関連で考察されるべきこととともに、安い保険料の保
険に加入するという社員の本来的意思の尊重が説かれている。
西ドイツにおける相互会社と相互性原則
1
6
3
それに対するローレンツの反論は、通説的立場を代表するものである O そして、
法律的な相違ということになると、株式会社においては株主に対する配当がな
されるのに対して、相互会社ではそれがないという点にのみ絞られることは第
2章の説明からも明らかであろう
O
しかし、これすらも、相互会社においても
実は保険料として必要な額以上の拠出が行われ、それに対する利益の配当が相
互主義のもとでも目ざされるというローレンツの指摘は注目に値する O 別稿に
おいては、相互会社の自己資本装備の可能性について論じられ、そこでは特に
資本的持分権の創出すら提案されているが、それは、ローレンツがいうような
相互会社の変質をさらにすすめることを正面から認めることに外ならない。
最後に、ツェルナー、バウマンのごとく、伝統的な相互会社観とは異質の相
互会社観が現れつつあることに注目すべきである O ツェルナーの営造物説は実
質的には財団説といってもよいであろう O パウマンも一面においては財団的要
素を認めるものであるといえるので、いずれも、社団性を肯定する通説に反対
するものである O これは、保険サービスの面で社団性を認めることの意味がほ
とんどなくなっていることとともに、会社管理に対する参加も実質的に機能し
ていないということによるものである O いずれにおいても、保険関係は、契約
関係として位置づけられる D ツェルナーとパウマンの違いは、ツェルナーにお
いては営造物性(社団性)のみを認めて、付保者を保険契約者としてのみ位置
づけるのに対して、バウマンにおいては、実質的にみれば社団と財団の混合
性を主張するので、付保者は保険契約者という地位と社員という地位を同時に
もっとする点である O パウマンのように社員権の財産的側面を意識的に検討し
た見解は従来見られなかったものであり、示唆するところが大であると思われ
るO
同
たとえば、ツェルナーが、会計規制については、株式会社と相互会社の相違を強調
するのはその現れであろう。
Fly UP