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保健医療サビス論体系の構築に向けて

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保健医療サビス論体系の構築に向けて
保健医療サ῏ビス論体系の構築に向けて
ῌῌ医療サ῏ビスの経済的評価を中心にῌῌ
長 田
ῌ
浩
もってその経済的評価をめざすのに必要な概念を
はじめに
解明することに目的を定める῍
近年ῌ わが国において医療の質῎看護ケアの
῍
ῒ質評価ΐ やそれらの経済的評価に関する研究が
財貨ῌサ῍ビスの経済的評価の一般論
盛んになっている῍ ただしῌ 私の見るところῌ そ
この目的を果たすための予備的考察としてま
れら研究のうち経済学の発想や方法を活かしてい
ずῌ 財貨῎サ῏ビスの経済的評価ῌ すなわちそれ
るものはῌ きわめて少ない῍ 看護ケアを含む医療
ら商品の価値の捉え方についてῌ 伝統的経済学の
サ῏ビスを擬似的市場財または擬制商品と捉えῌ
考えをもとにして一般的に確認することから始め
それを他種の商品と同様に経済学的に認識しよう
よう῍ こうすることによりῌ 擬似的市場財または
とすればῌ 医療῎看護サ῏ビスにもῌ 使用価値と
擬制商品としての医療サ῏ビスの経済的評価のし
いう質的側面とῌ 交換価値という量的側面とがῌ
くみを捉える手がかりが得られるであろう῍
一体のものとして備わっているῌ と認識できる῍
なぜ伝統的経済学の考えをもとにするかについ
しかるにῌ これまで行われてきた医療῎看護サ῏
て言えばῌ 現代の主流派経済学もῌ 非主流の経済
ビスの評価に関する研究のほとんどはῌ 上のよう
学もῌ 商品価値の認識法としてはῌ 量的側面に
な認識῎確認が希薄であった῍ いくつかの研究
偏ったりῌ 質的側面を取り上げる際に量的側面と
はῌ もっぱら ῒ質評価ΐ を論じῌ また別の諸研究
の深い関連にまで及ばなかったりしているからで
ではῌ 質的側面との関連を付問にしつつ交換価値
ある῍ この場合ῌ ῒ量的側面ΐ はῌ 商品価値が形成
に関連するコスト問題を論じた῍ 医療サ῏ビスの
される要因としてのコスト問題ῌ コストをベ῏ス
質的評価とコスト問題との関連を明快に論じた研
に形成される価値῎価格の問題を含む῍ つまりῌ
究はῌ 管見の限りῌ 見当たらないのである ῍
現代の経済学諸派にあっては商品価値の分析῎解
1ῑ
本稿ではῌ 経済学の立場から医療῎看護サ῏ビ
明はῌ 価格決定のしくみῌ 価格変動のしくみを中
スの質的側面と量的価値評価との関連を追求しῌ
心にしたものになっていてῌ 価格の決定῎変動と
商品の質との関連はほとんど追求されることがな
1ῑ
例えばῌ 中木高夫῎安川文朗῎水流聡子 ῐ2000ῑ はῌ
看護コストの問題を多角的に分析し論じている点ῌ 有益
だけ取り上げているΐ と書いている ῐ高橋美智編 ῐ1996ῑ
な研究と言える῍ ただしῌ 看護の ῒ質ΐ の問題とコスト
195 ペ῏ジῑ῍ その一文に続けてコメントして曰くῌ ῒ但
問題との関連についてはほとんど扱っていない点ῌ 惜し
しῌ 現状ではῌ 質とコストの関係を論じることに慎重で
まれるのである῍ またῌ 中野夕香里 ῐ1995ῑ はῌ ブック
あることが必要でありῌ 読む側もそのようにありたいΐ῍
レビュ῏で取り上げた Nancy O. Graham ῐ1990ῑ の紹
それはなぜかῌ 理由と事情の分からない著者としてはῌ
介文に ῒコストや支払制度と質との関連についても少し
戸惑いを禁じ得ない῍
῔ ῍ῌ ῔
経済科学研究所
第 32 号 ῐ2002ῑ
紀要
いのである῍
なわち使用価値の内実はῌ 各種の財貨ごとに独自
ただしῌ 今日ῌ 財貨῎サ῏ビスの経済的評価の
のものとして認識される῍ 他種の財貨の例ではῌ
問題として商品価値を伝統的経済学の立場から捉
万年筆ῌ ボ῏ルペンῌ 鉛筆などが ῒ筆記用具ΐ と
えることにはῌ 長所とともに限界がある῍ 長所はῌ
総称されるようにῌ 紙に文字や図などを記すこと
今挙げた点ῌ 商品の価値の質的および量的側面を
ができるという有用性ῌ 使用価値を有するῌ と認
統一的に捉えることにある῍ 限界としてはῌ ῒ経済
識される῍ またῌ 雨傘やレインコ῏トはῌ 身体が
学の父ΐ たるアダム῎スミス以来 3 世代ほどの
雨に濡れるのを防ぐという有用性ῌ 使用価値を有
ῒ古典派ΐ 経済学者たちの経済分析にはῌ 18῎19
しているῌ と言える῍ 以上の諸例を経済学的にみ
世紀の経済状況を反映してῌ サ῏ビスに関する要
ればῌ マフラ῏と鉛筆と雨傘とで有用性 ῐ使用価
素が乏しかったことが指摘できる῍ これはῌ 経済
値の内実ῑ が異なるということῌ すなわち商品の
学者たちの分析力や認識力の限界というよりもῌ
種別はῌ 各商品の質の相違と捉えられる῍ つまりῌ
むしろ当時の経済発展度がῌ 近代的産業としての
各商品の使用価値はῌ それら商品価値の質的側面
サ῏ビス業の登場を見ていない段階であったこと
を表しているのである῍
に起因する限界であった῍ こうした経済状況下ῌ
質の相違はまたῌ 同種の財貨の間でも認識され
ῒ古典派ΐ 経済学者にとって ῒ商品ΐ と言えばῌ す
る῍ 例えばῌ マフラ῏の中にも高級῎中級の物が
なわち農業や工業で生産される財貨のことであっ
区別される一大要因にῌ いわゆる ῒ品質ΐ がある῍
た῍ この点を踏まえた上でῌ 商品価値の質的およ
同様にῌ 鉛筆や万年筆ῌ 雨傘やレインコ῏トῌ そ
び量的側面に関する彼らの認識法を確認しῌ その
れぞれについても ῒ品質ΐ の高低が区別される2ῑ῍
認識がῌ 今日のサ῏ビス財 ῐ商品としてのサ῏ビ
さ てῌ も う 一 方 の キ ῏ ワ ῏ ド ῎ 交 換 価 値
スῑ にどの程度適用可能かを検討することにしよ
ῐvalue in exchangeῑ はῌ 商品価値の量的側面を
う῍
なすものである῍ ῒ使用価値ΐ の場合と同様の表現
をするならῌ ῒ交換時に認識される価値ΐ というこ
ῌ1῍
古典派の商品価値分析の 2 側面
とになる῍ 商品の交換価値を認識することはῌ 2
さてῌ アダム῎スミスを起点とする古典派経済
つの次元でなされる῍ 第 1 はῌ 本質的なまたは素
学の商品価値の理論はῌ どのような趣旨のもの
朴な次元としてῌ 諸商品を交換するのに貨幣を用
かῌ 今日的事例を用いて説明するならῌ 次のよう
いないと想定しῌ または実際に貨幣なしに商品交
に言える῍ さきほどから ῒ商品価値の質的および
換を行う場合である῍ 交換価値を認識するもう一
量的側面ΐ という述べ方をしてきたがῌ その両
つの次元はῌ 貨幣を仲立ちにしたῌ 間接的な商品
ῒ側面ΐ とはῌ ῒ使用価値ΐ および ῒ交換価値ΐ の
交換を想定する場合である῍
まず第 1 の次元の場合ῌ 例えばῌ 漁師の有する
ことである῍
スミス価値理論のキ῏ワ῏ド῎使用価値
魚 10 尾とῌ 農民の有する米 5 キログラムが交換
ῐvalue in useῑ はῌ 原語の含意を表面に出して表
されるケ῏スを見よう῍ このケ῏スではῌ 魚 10
現するならῌ ῒ使用時に認識される価値ΐ と言え
る῍ 例えばῌ マフラ῏という財貨ではῌ それを襟
首に巻いて使う時ῌ 防寒に役立つがῌ その ῒ有用
性ΐ または ῒ効用ΐ がῌ マフラ῏の ῒ使用価値ΐ
2ῑ
この ῒ品質ΐ と使用価値との関連についてはῌ 伝統的
経済学ではほとんど扱われてこなかった῍ そもそも経済
学者たちはῌ しばしば使用価値の分析を軽視または無視
してきた῍ “ 経済学のなかでは使用価値を軽視しῌ それを
と認識されるのである῍ 言いかえればῌ 防寒とい
う有用性がマフラ῏という財貨の使用価値の内実
を示すῌ ということである῍ こういう有用性ῌ す
῔ ῌῌ ῔
ῒ商品学ΐ の領域へ追いやることが伝統になっている ” な
どと言われてもきた῍ その ῒ商品学ΐ のわが国の例ではῌ
河野五郎 ῐ1984ῑ がῌ 使用価値と品質と関係ῌ 品質と価
格との関係を詳しく追求している῍
保健医療サビス論体系の構築に向けて 長田
尾 の価値 と 米 5 キログラム の価値 とが
たる 600 円で米が 1 キログラム 魚が 2 尾買え
等しいとされるのであるから 魚 1 単位 米 1 単
るのであるから
600 円魚 2 尾米 1 キログラム 6
位の交換価値は それぞれ次のように表される
魚 1 尾の交換価値0.5 キログラムの米 1
となり これから前記の 1 2 と同じ式が導
米 1 キログラムの交換価値2 尾の魚 2
かれ 魚と米 それぞれの交換価値が 互いに他
この両式の左辺には 交換価値 という語が記
の商品の一定量 使用価値量 によって表現され
されているが 右辺には米魚という商品種類が
ることになる あるいは それ以外の多種の商品
記されているだけである点 若干の補足説明を要
との間接的交換を想定し 互いの直接的交換を想
するであろう 両式の前提には
定せずに 各商品の交換価値が価格として現れて
10 尾の魚の価値
いるとみなして 次のように表記してよいことに
5 キログラムの米の価値 3
なる
という等式が想定されている ここの 価値 は
魚 1 尾の価格 交換価値 300 円
交換価値とも使用価値とも明示されていないが
米 1 キログラムの価格 交換価値 600 円
両側面とも含んでおり 考察者の思考局面によっ
ῌ2῍
てどちらか一方が前面に意識されることになる
使用価値と ῎品質῏ の基本認識
上記の 1 式は 3 式の両辺を 10 で割って導
ῌ 1 の中ほどの一文への注記 2 に述べた
かれたものであって この場合 魚の交換価値が
とおり 現代経済学では使用価値について論じら
米の分量で表されている この右辺の米について
れることがきわめて少ない ここでは 後に行う
厳密に書くなら 0.5 キログラムの米が担う使用
医療看護サビスの質に関する論議の準備も兼
価値の量 とでもすべきところ 後半を省いてあ
ねて 財貨の使用価値と 品質 について基本的
る 2 式についても全く同様のことが言え 左
な考察をしておく
辺の米の交換価値が 右辺の魚が担う使用価値の
サビスについてはともかく 財貨については
古くから使用価値と交換価値という 2 つの側面
量によって表現されているのである
貨幣の介在を想定しない商品交換では 交換価
があると認識されてきた 最も古いところでは
値が両商品相互の交換比率の逆数としても認識さ
アリストテレスの 国家論 に 実質上 使用価
れる 3 式にみるように 交換比率は
値と交換価値のことが論じられている と河野五
魚 米2 1 すなわち 2/ 1 4
郎 1984 が紹介している3 経済学としては さ
または米 魚1 2 すなわち 1/ 2 5
きに紹介したように アダムスミス以来の古典
であり 魚からみた交換比率 2/ 1 すなわち 2
派経済学から本格的に論じられてきたが 現代に
4 式の逆数 1/ 20.5 が魚の交換価値になっ
おいても使用価値の方はその認識法や概念が確定
ている[ 1 式] 米からみた交換比率 1/ 2 していないと見られる 使用価値をいかに学問的
5 式の逆数 2 が米の交換価値になっている
に認識するか どのように定義づけるかについ
[ 2 式] て 2 通りの考え方があり そのいずれもが定説
交換価値認識のもう 1 つの次元では 貨幣の介
となっているわけではない 1 つの考え方は 使
在を想定または前提するが 魚と米との直接的交
用価値 すなわち財貨の有用性 または効用とす
換を現実的にイメジしなくても 1 キログラム
るものであり もう 1 つは 財貨の有用性はその
の米に 600 円 1 尾の魚に 300 円という価格が
ものの固有の性質によって生じるもので ある
ついていれば 両商品の交換価値の相対的大きさ
は 次のように認識できる 両価格の最小公倍数
ῌ῍ 3
河野五郎 1984 36 ペジ
経済科学研究所
第 32 号 2002
紀要
物の有用性は その物を使用価値たらしめる4
この場合 ある財貨が 物質としては変化するの
とする考え方である
ではないが 同じ財貨がもつ社会的意味が違って
使用価値に関するこの 2 通りの考え方の違い
くることを言いあらわす言葉である つまり 使
は 言いかえると 財貨 有用性 使用価値の 3
用価値と品質とは 同じ物質財貨においても社
者の関係をどう理解するかの違いである このよ
会的意味を異にするものなのである 財貨がもつ
うな理解の違いが生じ また現代の学者に混乱が
所属性のうち効用に結びつく属性が品質である
生じている原因は そもそもマルクス 1867
すなわち品質は 商品の使用価値の具体的内容
資本論 にあると見られる 例えば その第 1
あるいは現象形態である 商品学の教えるところ
巻第 1 章第 1 節の中に 鉄 小麦 ダイヤモ
では そもそも品質は 商品の物質的属性をその
ンドなどという商品体そのものが 使用価値また
効用との関係からとり出したいくつかの性質を客
は財貨なのである とあり また彼は 諸商品体
観的に捉えようとする努力によって明らかにされ
5
6
とも言う この両
るものである それは 1 つには効用との関連に
者を比較すると 前者では使用価値は財貨であ
おいて等級をつける品位につながるものと もう
る 後者では使用価値は物の有用性である と捉
1 つは同じ尺度で定めた均質性を要求するものと
えていることになる
の いわば縦横の関係のなかに存在する とくに
の使用価値を度外視すれば
このことを念頭に置いて 財貨 有用性 およ
前者は品質の測定が 後者はそのバラツキが問題
び使用価値の関係を捉えなおしてみると 次のよ
になる そしてバラツキをもちながらも一定水準
うに言える 例えば 電球と蛍光灯とは 照明器
の品質が確保されるには その財貨を生産する労
具として有用であるという点では同じ使用価値の
働の標準化平均化が維持される必要がある こ
内実を有しているが しかしその有用性を発揮す
うした事情は 多少の修正や付加を伴えば 財貨
る 使用価値を実現する ための物的形態 財貨
だけでなく医療看護 その他のサビスにも当
の形 は異なっている また例えば 食器皿と壁
てはまるであろう この点については 後に論じ
掛け皿とは物的形態 財貨の形 が同じ または
ることにする
酷似しているが 有用性の内実としての使用価値
は異なる このように考えると 財貨 の形 有
ῌ3῍
諸交換価値が高くまた低く評価される
事情
用性 および使用価値の関係は 明らかになるで
あろう
上の例では 米作労働と漁業労働との間に困難
以上 使用価値の概念が 有用性 財貨との関
度複雑さにさほどの格差はないものとして交換
係から見て一筋縄ではとらえ難いことを見てき
価値を考察した また 米作にしても漁業にして
た このことを踏まえて さらに使用価値と品質
も生産設備機器の装備の面で大きな格差を想定
との関係を考えてみる 品質抜群 品質保証
しないで仮説の交換価値価格を示した A. ス
とは 学問的にはどのように考えられるのか 河
ミスが交換価値の説明にまず用いた事例は 初
野五郎 1984 によれば 品質とは使用価値の
期未開の社会 における鹿とビバとの商品交
と捉えられる 転化 とは
換であり8 そこでは労働投入量によって交換比
転化形態である
7
率が決まるとし 農産物や工業製品の価値も基本
的に労働投入量によって決まる 労働こそが 本
4
K. マルクス 1867邦訳書 1982 ῌ73 ペジ
5
K. マルクス 1867邦訳書 1982 ῌ61 ペジ
6
K. マルクス 1867邦訳書 1982 ῌ64 ペジ
7
河野五郎 1984 40 ペジ
源的な購買貨幣 である という議論を展開した
8
῍ῌ A. スミス 1776邦訳書 1959 一 49 ペジ
保健医療サビス論体系の構築に向けて 長田
古典派経済学者の中でも スミスの次世代の D
種類いかんによらず 会社や工場の別によらず
リカドゥは 機械化によって直接的投入労働が
ほぼ同一水準の率が想定される傾向がある この
節約される事態を考慮に入れつつ交換価値価格
傾向 を現実的に支えるのは 各企業人が わが
の水準を考察した これは 現代にも通用する
社が求める利潤の幅は 同業他社の求めるのと同
考え方と言える 現代的状況を前提に さまざま
じ また他業種の会社が求めるのと同じで 世間
な商品について客観的にみて相対的に高い価格が
の消費者に向かっても適正なものと言える とす
つく場合 逆に低い価格がつく場合の 要因を考
る意識である この意味で 期待利潤率 は 適
察してみる ここで考察の焦点とするのは 各商
正利潤率 とも言われる この考え方によれば
品の価格を交換価値の現実的姿と見て 一商品の
7 式は次のように書きかえられる
9
適正価格 製造コスト製造コスト
適正利
価格が別種商品に対して高めにまたは低めに決ま
る事情は何か である よって各商品価格の決
潤率 生産数量
定変動に大きな影響を及ぼす 当該商品の需要
製造コスト適正利潤 生産数量
供給状況については それぞれの商品について
8
差異が存在しない場合を想定する 例えば 比較
今日では 7 式や 8 式のような販売価格の
する諸商品の需要供給がそれぞれ均衡している
決め方は 原価主義 と呼ばれることが多い と
と想定して 純粋に生産供給の事情によって諸
ころで この 原価主義 と対比される価格形成
商品の価格が決まる場合を考えるのである
方式として近年注目されたのは 売値先決主義
一般に製造業で生産した財貨の販売価格を設定
と呼ぶことのできる方式である それは 価格破
するのに 原価コストをもとに計算する場合
壊 が盛んであった 1990 年代半ば頃 製造段階
次のような算式が用いられることがある
から戦略的に低価格商品を供給するために考え出
販売価格 製造コスト製造コスト
期待利
されたものである さきに 原価主義 の場合を
簡単な足し算の式で示したが 売値先決主義 の
潤率 生産数量
製造コスト期待利潤 生産数量
7
場合を簡単な計算式で表すと 次のように引き算
となる11
この算式で示される価格は 生産者にとっての
目標価格目標利潤目標コスト 9
生産コストを基に設定されるもので 古典的経済
つまり 初めに販売価格を決め 一定程度の利
学者によって 生産価格 と呼ばれたものに相当
潤を見込んで それを確保するためにはコストを
す る ま た 1930 年 代 に イ ギ リ ス の ホ ル と
どの程度に納めるべきか と考えるのである 一
ヒッチが製造業者を対象にした価格設定方式の実
方は足し算 他方は引き算 2 つの価格形成方式
態調査をした結果によっても 同様のしくみの計
の違いが浮かび上がる
算式が多くの会社で採られたことが判明したが
さて 財貨の価格は 別の観点からもその構成
この場合は フルコスト原理による価格 または
内訳を認識することができる それは 設定した
フルコスト価格 と呼ばれた10 この式の 期待
価格通りに売れたとして その売上金額がどのよ
利潤率 は ある時代 ある時点においては財の
うな構成要素を含むか とみる場合であって 次
のような式で表すことができる
売上金額
9
D. リカドゥ 1800 邦訳書 1952 上巻 32
46 ペジ
10
物件費人件費利潤
R. L. Hall/C. J. Hitch (1939) repr. In T. Wilson/P.
W. S. Andrews (1951) p. 113
11
῍ῌ より詳しくは長田浩 1999 3839 ペジを参照
経済科学研究所
第 32 号 2002
紀要
機械設備費原材料費 賃金利潤
られる技術水準にも 万年筆工場 雨傘工場とで
中間投入額付加価値額
差異が認められるであろう
9
この式の 3 番目の等式で 中間投入額 とある
さきに示した 9 式を生産数量で割ると
のは 最終生産物を作る途中で必要とされた物的
売上単価 機械設備費原材料費賃金
要素の金額のことであり 機械設備費と原材料費
利潤生産数量
中間投入額付加価値額
とを含む この部分は機械設備の減価償却分と原
材料の価値額から成り すでに確定していた旧い
生産数量
10
価値額が再現するように新生産物価格に入り込ん
が得られる この式にもとづいて さきに例示し
だ額とも言える 他方 付加価値額 とは 新生
たような万年筆と雨傘の価格の格差がどこから生
産物を生産するさいに旧い価値額に付加される形
まれるのか 考えてみる 機械設備費については
で生産物価格に入り込んだ価値額のことである
万年筆工場での方が大きく 原材料費については
そして 売上金額をどのような目的に使うか そ
ほぼ同じか雨傘工場での方がやや大きいものと想
の配分のことを考えるとき 中間投入額と付加価
定し 製品 1 個あたりの物件費 あるいは中間投
値額とでは違いがある それは 後者は被雇用者
入額は大差ないと想定しよう すると 万年筆と
の賃金や経営陣の所得 役員報酬 に充てられ
雨傘の価格差は 付加価値額 つまり賃金利潤
また一部は生産拡大のために新しい機械設備を買
の部分の違いから生じると言える では この違
うこと 新設備投資 にも使われることがある
いはどこから来るのか それは さきに想定した
他方 中間投入額は そのような目的には使えな
ように 高い技術をもつ労働者がより精密な機械
い部分である それは 次の生産活動に必要な原
を操作しているのは万年筆工場の方だということ
材料を買うため また機械設備の減耗分を償い
からである つまり 万年筆生産労働者の方が同
買いかえ時に備えるよう特別枠で積み立てる基金
一時間でより多くの付加価値を生み出している
減価償却基金 に充てるための部分なのである
という事情である この労働者の労働は 傘生産
価格がこうした構成と仕組みをもつことにもと
労働者の労働よりも効率的に新しい価値
付加価
づいて ある財貨に高めの価格がつき 別の財貨
値を生み出すことができる というわけである
には低めの価格がつくのは どのようにしてなの
伝統的経済学では このような事態について
万年筆生産労働者は 同じ時間内に中身の濃い
かを解明しよう
例えば さきに挙げた事例で万年筆と雨傘のこ
強められた労働を行う とか 単純労働の何倍か
とを考えてみよう 生産
供給の事情が詳細に分
された労働を行う複雑労働である というように
かっていなくても 万年筆に 1 本数千円 高品質
考えてきた そしてその複雑労働は 単純労働に
の物なら 1 万円台 2 万円台の価格がつき 他方
換算して何倍と評価されるかという問題を 複
雨傘に 1 本 900 円台から数千円の価格がついて
雑労働を単純労働に還元する 問題と捉え 何倍
いることに対して 消費者は何ら違和感を抱かな
に還元されるかという 還元 問題の解決は 生
いであろう 近年の雨傘には自動開閉装置がつ
産者たちの背後で 市場での社会的評価によって
き 多少精密な部分もあるが 全体としては 万
実際的に行われ それが価格の高さに反映する
年筆ほどの精密さはなく 製造工程で稼働する生
と考えたのである12
伝統的経済学では このような市場での交換価
産設備もさほど精密さを求められないであろう
万年筆の生産設備の方が 何工程にもわたって精
密機械が稼働しているものと想像できよう そう
した機器を操作して生産を遂行する労働者に求め
῍ῌ 12
大石雄爾 1995 2022 ペジ Deborah Fahy Bry-
ceson (1984) pp. 38-43
保健医療サビス論体系の構築に向けて 長田
値評価による価格の成立や変動 還元 問題など
的短期間のことである そうした事情もあり 経
を論じる理論的現実的な前提条件が 別の角度
済学者たちの間で そもそも サビス とは何
から考えられてきた すなわち 各種労働ごとに
かという定義について また サビス業 に含
機械化や技術の普及度などからみて標準化が進
まれる業種の範囲についてさえ 定説的な共通認
み 平均水準を認識することが可能となったこと
識がまだないという状況がある それゆえ サ
である そうではない職人の製品作りや 芸術家
ビス財の使用価値交換価値を論じることについ
の作品作りには 標準化や平均化はなじまず そ
ても 定説的な見解は存在していないかに見え
れらの製品や作品には理論通りの価格形成が行わ
る
れない とされてきた これらの場合は 需要側
ここでは サビス研究史上 とくに近年積極
の支払い能力に一方的に依存して価格が決まる
的に提出されている試論に沿って サビス財の
価格があってないようなもの と扱われてきた
使用価値および交換価値について解明しておく
のである
その 試論 とは 当面する主題 サビス財の
使用価値交換価値の解明
を直接扱ったもので
῍4῎
はないが サビスの生産と生産物 消費 につ
サῌビス財の価値評価
以上の考察では 財貨についての経済的評価
て 財貨の生産と生産物 消費 と対比しつつ解
すなわち使用価値と交換価値の 2 面性をもつ価
明し かつ財貨とサビスの生産過程を統一的に
値評価を整理し とくに交換価値または価格に関
とらえ 生産一般 という見方を確立しようとし
する評価がどのようになされるのかを解明した
た斎藤重雄の論 2001
である こうした見方に
今度は サビス財 商品として取引される
基づけば 財貨の場合と同様に サビス労働に
サビス
をめぐる経済的評価について考察して
よって 生産 された 生産物 を 消費 する
みる サビス財も 商品である限り 使用価値
際 当然その 生産物 の 使用価値 も認識さ
と交換価値という 2 側面から成る価値を有する
れることになるし サビスを 消費 する人が
ただし 先に述べたように 1819 世紀にはま
生産 する人に支払う代価は 交換価値 と認識
だ近代的産業としてのサビス業がまともに扱わ
されることになる 斎藤 2001
は 理論的に厳
れることはなかった せいぜいのところ 富裕家
密に サビス 概念をとらえ サビスの生産
庭で働く召使い お抱えの御者 劇場で歌う歌手
過程 そこにおける生産物 そしてその消費につ
などについて 労働の成果を後に何も残さない
いて典型的な事例 理美容サビス 医療サ
社会的な富を生産しない不生産的労働者であるな
ビス 教育サビス およびプロスポツのサ
どと扱われた程度である13
ビス
に即して解明している14
サビス財 サビス業に関する経済学的分析
斎藤によれば サビスとは人を対象として行
が本格的に行われるようになったのは 20 世紀後
われる労働が生む成果であり 対象の上に現れる
半以降のことであった 欧米や日本などの産業構
何らかの変化である 例えば 理美容サビス
造が 第 1 次第 2 次産業の財貨生産分野以上に
についてはきれいに整髪された頭部の状態がそれ
商業サビス業などの第 3 次産業に重心が
であり その状態がサビス労働の 生産物 で
移って以降のことであった 200 数十年の歴史を
ある とされる 医療サビスなら人の疾患が治
有する経済学のうち わずか数十年間という比較
され健康になったという状態が その 生産物
とみなされる そして それら サビスの生産
13
A スミス 1776
邦訳書 1965
二
337340
14
ペジ
῍ῌ 斎藤重雄 2001
同編 2001
177198 ペジ
経済科学研究所
第 32 号 ῐ2002ῑ
紀要
物ΐ を消費するとはῌ サ῏ビスを受けて得られた
の経済的評価の困難さをもたらしている事情をま
健康状態を享受することである῍ 教育サ῏ビスで
ず挙げるならῌ 次の 2 点が指摘できる῍
はῌ 対象かつ享受主体である学生側もῌ その生産
ῌ医療サ῏ビスの生産物をどのように認識する
過程に参加するがῌ その過程の成果 ῐ生産物ῑ はῌ
かῌ その使用価値をどのように認識するかῌ
学生の頭脳に吸収された知識やῌ 身についた知的
通常の意識ではきわめて困難であること ῐわ
能力である῍ この能力をテスト勉強やその他の場
れわれの認識法についてはῌ 前項の最後から
合に使用することがサ῏ビスの生産物の ῒ消費ΐ
2 番目の段落で示してある῍ῑ
であるῌ と捉えることができるῌ という῍ またプ
῍医療サ῏ビスの価格῎料金の決まり方がῌ 他
ロスポ῏ツのサ῏ビスについてはῌ やや複雑な要
種の財貨῎サ῏ビスの場合とかなり異なって
素が含まれるがῌ 事態は次のように捉えられる῍
いること῍ 後者が市場における供給者と需要
すなわちῌ スポ῏ツ観戦において消費される ῒ生
者の意識や行動に依存しているのに対してῌ
産物ΐ はῌ ゲ῏ムの展開過程と結末を見て引き起
医療サ῏ビスの場合ῌ 市場においてではな
こされる観客の内的変化の帰結たる ῒ転換された
くῌ 厚生労働省によって診療報酬という形で
気分ΐ である῍ このようなサ῏ビスの消費῎享受
決まる ῒ公定価格ΐ であること῍
ῌは医療サ῏ビスの使用価値面に関わりῌ ῍は
において認識される価値がそれらサ῏ビスの使用
価値にほかならない῍
その交換価値面に関わることである῍ それぞれの
これらサ῏ビスの交換価値はῌ その受け手が支
評価が困難である要因についてはῌ それぞれ別の
払う料金として現れる῍ そのことは容易に認識さ
事情が考えられる῍ ῌの医療サ῏ビスの使用価値
れよう῍ この交換価値たる料金が確定しうるの
面の評価に関わる困難の要因はῌ 学問的に未発達
はῌ さきに ῐ2ῑ の最後の箇所で財貨の場合にみた
な領域のテ῏マであることである῍ ῍の価格῎料
ようにῌ 各種サ῏ビス労働ごとにマニュアルの定
金問題ῌ すなわち医療サ῏ビスの交換価値に関わ
着化や技術の普及度などから見た標準化が進みῌ
る困難はῌ 医療には市場原理が機能しないことに
各種労働ごとに平均水準の認識が容易になったか
由来するものと言える῍
らである῍ またῌ あるサ῏ビスがῌ 他種のサ῏ビ
῍1῎
スよりも割高であったりῌ 割安であったりするの
もῌ 財貨同士の場合と同様にῌ ῒ還元ΐ 問題として
医療サῌビスの使用価値面の認識と看護
の ῏質評価ῐ
現実に解決されている῍ ただしῌ サ῏ビスの交換
前章の最後で紹介した斎藤 ῐ2001ῑ の見解はῌ
価値と認識される料金にはῌ その形成ῌ 決定のし
この困難さを克服する見方を打ち出したと評価で
くみの点からῌ 2 種類のものがある῍ 理῎美容
きる῍ さきの箇所ではῌ サ῏ビスの一般論を紹介
サ῏ビスやプロスポ῏ツのサ῏ビスではῌ 市場価
する目的ゆえῌ 医療サ῏ビスの事例もごく簡単に
格という性格の料金と認識されるのに対しῌ 医療
しか扱わなかった῍ 本章はῌ 医療サ῏ビスに特殊
サ῏ビスや公立学校による教育サ῏ビスではῌ 市
なことを扱う箇所であるからῌ より詳しく看護ケ
場関係を通さぬ公共料金῎公定価格と認識される
アを含む医療サ῏ビスの生産 ῐ供給ῑῌ その生産物
ῐ医療サ῏ビスの価格に関する特殊な性格につい
ῐ成果ῑῌ およびその消費 ῐ享受ῑ について論じる
てはῌ 最終項において考察῎解明するῑ῍
ことにする῍ ここではまずῌ 生産物を消費する際
ῌ
に認識される価値ῌ すなわち使用価値に焦点を当
医療サῌビスの経済的評価に向けて
てて論じよう῍
以上の一般論を踏まえてῌ 医療῎看護サ῏ビス
前章前半において商品価値の質的側面が使用価
の経済的評価について考察することにしよう῍ そ
値であると確認したがῌ そこでは財貨の使用価値
῔ ῍ῌ ῔
保健医療サビス論体系の構築に向けて 長田
を扱い また前章の後半において医療サビスを
よく対応が迅速である timeliness ΐ公平公
含んだサビス財の使用価値に共通する点に簡単
正 equity ῔倫理観価値観規範法制
に触れたにすぎない ここで 医療看護サビ
度に則すること legitimacy ῍患者の視点患
スに特殊に認識される面を考察していこう 医療
者満足 patient perspective issues ῎医療環
サビスの提供 生産 過程において患者は治療
境の安全性 safety of the environment of care
や看護という流動的な効果を享受 消費 するが
が挙げられる16
またドナベディアン 1969 では 質の評価方
この過程で患者や家族は 医師やナスからの指
示指導に対して能動的に協力する 治療や看護
法として 構造 structure 過程 process お
の甲斐あって患者の疾病が完治して健康を回復し
よび結果 outcome に着目すべきことが先駆的
た場合は すなわち流動的な効果が固定的に定着
に提起された17 この場合 第 1 の 構造 とは
したもの 最終生産物 とみなすことができる
医療に投入される資源 マンパワ建物設
この場合 患者が享受 消費 する使用価値は患
備物品組織体制など を表す情報で捉えたも
者を快方に向かわせるために行われる治療看護
のである 第 2 の 過程 は まさに提供されて
と その結果もたらされる健康状態であるとみな
いるサビスを表わす情報によって把握され 第
し得る
3 の 結果 は 医療提供後の状態を表わす情報
ところで 医療看護サビスに関する特殊
によって把握されるものである これら 3 つは
テマとして近年盛んになっている研究がある
質を評価する際に利用する情報について発生時点
それは 看護管理学の立場からする 看護の質
に着目して分類したものである 構造 は 投入
の研究 または医療看護の 質評価 に関する
される資源 の状況を表すものであるから 結局
研究である
投入過程結果という流れの各時点で質の高低
医療看護の 質評価 に関する研究は 1960
年代末アメリカで始まり カナダや西欧諸国に普
を観察し評価する という方法論をドナベディア
ンは提起したのである
及した 日本では 90 年代半ばに至ってもその研
このような根本概念に沿って実際に 質評価
究は遅れた段階にある と言われていた しか
を行うための方法論としては 第 1 に評価者を明
し それ以降は多角的な 詳細な研究が蓄積され
確にすること すなわち医師や看護職が行う 自
つつある 先導的立場で研究を進めてきた A. ド
己評価 か 患者評価 か 第三者評価 かを
ナベディアンは その著書 1980 において医療
定めることがある 第 2 に 収集された情報にい
の質はどのような観点で考えるべきか また質の
かなる統計処理を施して比較視点で評価するか
評価はどのような方法でなされるべきか等につい
ということがある
15
て概念整理をした 彼は 医療の質を観る要素と
して 次のように 11 の項目を挙げた
以上のような概念と方法論にしたがった研究
は 欧米で また 90 年代半ば以降のわが国で 盛
ῌῌ 一般に医療の質は ῌアクセスがよく利
んに行われてきた このような研究は 医療看
用しやすい accessibility ῍的確で現在の医学
護の質の保証 またその質の向上のために不可欠
水準に照らして正しい appropriateness ῎継
であり 今後とも重要性が増していくものと見込
続性 continuity ῏効果的 effectiveness
ῐ潜在的効能 efficacy ῑ効率的でコストパ
フォマンスが高い efficiency ῒタイミング
16
Donabedian, A. 1980 より 高橋和江 1998 20
ペジより再引用 ただし 引用文中のῌ
῎の番号
は 引用者が便宜的につけたものである
17
15
中野夕香里 1996 195 ペジ
Donabedian, A. 1969 より 高橋和江 1998 123
ペジより再引用
῍ῌ 経済科学研究所
第 32 号 ῑ2002ῒ
紀要
まれる῍ このことを前提としてῌ 本稿の目的から
りῌ 使用価値そのものとは言えずῌ 別格扱いすべ
してῌ 基本概念に関わることで若干の問題提起を
きものであろう῍
いま῍ῌ ῎ῌ ῏ῌ ῐῌ ῒῌ ῍は他種の諸サῐビ
したい῍
まずῌ ドナベディアンが ΐ医療の質῔ に関わっ
スの ΐ質評価῔ にも適用可能と述べたがῌ 他の業
て挙げた 11 項目の内容はῌ いずれもその通りで
界でこれほど詳細な項目にしたがった ΐ質評価῔
あるにしてもῌ この中にはῌ さきに述べた使用価
をしている例はほとんど見当たらない῍ とは言
値だけに関連するものではない要素も混在してい
えῌ 品質に関して評価をしたりῌ 財貨῎サῐビス
る῍ 例えばῌ ῑの ΐ効率的でコスト῎パフォῐマ
の質の向上をめざしたりすることがῌ 他業種でほ
ンスが高い῔ ῑefficiencyῒ はῌ 使用価値よりも交
とんど見られないῌ というわけではない῍ わが国
換価値に深く関わるものである῍ とくにῌ コス
ではῌ 昔から工業製品については JIS 規格ῌ 農産
ト῎パフォῐマンスを考えることはῌ サῐビス供
加工品については JAS 規格がありῌ 各業界は品
給側のコストを上回る水準で価格῎料金を設定し
質の維持に努めてきた῍ またῌ アメリカで始まっ
需要側がそれを負担する経緯の一環をなすと見ら
た QC[ Quality Control] ῑ品質管理ῒ 活動を導入
れるからである῍ またῌ ῒの ΐタイミングよく対
する企業がῌ 70 年代以降増えῌ 80 年代にはῌ 日
応が迅速である῔ ῑtimelinessῒ はῌ 需要側にとっ
本的経営の 1 特徴たる終身雇用制と相まって
て利便性が高いことを意味するのでῌ 使用価値に
TQC ῑ全社的品質管理ῒ を成功させた企業がῌ 外
関わるのは確かであるがῌ 供給側にとっては効率
国から注目されたことさえあった῍ さらにῌ TQC
的なケアの実行を意味するものでありῌ 交換価値
推進の ΐ総本山῔ と言われる日本科学技術連盟
にも関連すると見られる῍ またῌ 使用価値と無縁
ῑ日 科 技 連ῒ がῌ 1996 年 に こ れ を TQM [ Total
とは言えないがῌ 医療サῐビス以外ではῌ 市場競
Quality Management] ῑ総合的品質経営ῒ と呼称
争に参加する以上ῌ 当然の前提条件をなすものと
変更した῍ この変更をきっかけとしてῌ 日科技連
して問題とはされない要素としてῌ ῌ ΐアクセス
はῌ ISO ῑ国際標準化機構ῒ の品質保証規格῎ISO
がよく利用しやすい῔ と῔ ΐ倫理観῎価値観῎規
9000 シリῐズやῌ PL 法 ῑ製造物責任法ῒ への対
範῎法῎制度に則すること῔ が挙げられる῍ そし
応を図るとともにῌ 経営システムまでを対象にし
てΐ ΐ公平῎公正῔ はῌ 医療が公共サῐビスとし
て ΐ経営の質῔ を向上させるよう各企業に促した῍
ての性格を有しῌ 市場的基準にはなじみ難いもの
それにはῌ 経営者に品質管理῎経営品質の重要性
であるῌ という事情と関連する要素とみなし得
を再認識させる狙いがあったῌ という῍ これらの
る῍
品質向上῎維持の企業努力はῌ 市場競争を勝ち抜
他の諸要素 ῑ῍ῌ ῎ῌ ῏ῌ ῐῌ ῌῌ ῍ῒ はῌ 医
くことῌ または競争から脱落しないことの 1 条件
療独特の表現でなくῌ その趣旨を表わす一般的表
として余儀なく行われてきたものと言える῍ つま
現を用いるならῌ 他種のサῐビスの ΐ質評価῔ に
り質の向上῎維持 ῑ使用価値面ῒ がῌ 市場での販
も適用可能となるものである῍ 例えばῌ ῍は ΐ適
売 ῑ交換価値面ῒ と結びついているのである῍ こ
正水準の的確なサῐビス῔ῌ ῌは ΐ顧客の視点῎顧
の点ῌ 市場競争の行われない医療界におけるサῐ
客満足῔ῌ ῍は ΐ環境の安全性῔ とすればよくῌ ῎ῌ
ビスの質の向上῎維持とは根本的に異なる῍
῏ῌ ῐはそのままで他種サῐビスに適用可能であ
また確かに῍の ΐ適正水準の的確なサῐビス῔
る῍ 経済学的にみてῌ これら 6 つの要素とῌ ῒの
はῌ どの業種でも新人研修などである程度は教育
半面についてはῌ 諸サῐビス財の使用価値に関わ
されῌ またマニュアル等によってその水準の維持
る質的要素であると言えるがῌ ῌ ῑ顧客満足ῒ の
が図られるであろう῍ またῌ ホテル῎旅館業など
ΐ顧客῔ は使用価値を認識する消費者のことであ
では災害時に備えてῌ
῕ ῍ῌ ῕
適マῐク制が導入されῌ ῍
῏
保健医療サ῏ビス論体系の構築に向けて ῐ長田ῑ
の ῒ安全性ΐ について ῒ第三者評価ΐ がなされて
ミングよく対応が迅速であるΐ ῐtimelinessῑ こと
はいる῍ しかしῌ ῌ ῒ安全性ΐ 以外の諸要素ではῌ
はῌ 先に述べたとおりῌ 使用価値と交換価値の両
ῒ自己評価ΐ に基づいた質の向上῎維持に努めて
面に関連する῍ 交換価値面との関連について追記
いなければῌ 市場で顧客から受ける事実上の ῒ評
するとῌ どの医療従事者も迅速に対応する病院の
価ΐ によりそのサ῏ビスは購入されなくなるであ
場合ῌ 経営的観点から言えばῌ ヒトという資源が
ろう῍
効率的に利用できることを意味しῌ そうでない病
院よりも人件費のコスト῎パフォ῏マンスが高い
῎2῏
医療ῌ看護サ῍ビスの交換価値面につい
ことを意味しῌ したがってῌ efficiency の高さに
て
ついて述べた論理が当てはまりῌ timeliness の良
医療῎看護サ῏ビスの使用価値についてῌ ῒ質
さは交換価値と関連すると言えることになる῍ つ
評価ΐ と関連させて考察してきた途中でῌ ドナベ
まりῌ これら 2 項目についてはῌ サ῏ビス供給
ディアンの挙げた 11 項目の要素のうち 2 つは交
側῎経営側にとって ῒ質ΐ の向上と維持がῌ コス
換価値に関わることをさきに指摘した῍ ここでそ
ト῎パフォ῏マンスの向上を介して収益増につな
の点を手がかりにしながらῌ 医療῎看護サ῏ビス
がると言える῍
他の 9 項目についてはῌ そのようなことは必ず
の交換価値面をどう認識したらよいかῌ 考察して
しも言えずῌ むしろそれらの面の ῒ質ΐ 向上を試
みる῍
ドナベディアンが挙げた 6 番目の項目ῌ ῒ効率
みῌ その維持を図ろうとするならῌ そうしない場
的でコスト῎パフォ῏マンスが高いΐ について先
合よりコストが余計にかかりῌ 場合によってはコ
に述べたことを言いかえればῌ こう言える῍ すな
スト῎パフォ῏マンスが低くなることも想定され
わちῌ このことはῌ 少なくとも患者にとっての
る῍ 例えばῌ ドナベディアンが 10 番目に挙げた
サ῏ビスの質 ῐ使用価値ῑ の高さに直結するもの
ῒ患者の視点῎患者満足ΐ ῐpatient perspective
ではない῍ コスト῎パフォ῏マンス高く効率的に
issuesῑ の面で ῒ質ΐ の向上῎維持を図るためにῌ
サ῏ビス提供した結果ῌ そのサ῏ビスに限ってみ
ある病院の看護部がῌ 経験年数の長い看護職の配
ればῌ 価格 ῐ料金ῑ よりずっと低いコストで済みῌ
置率を高めῌ 正看対准看比率を高めて患者の希望
大幅な利潤が確保されῌ ひいてはῌ 次回からは価
に 沿 え る こ と を め ざ す と い う 戦 略 ῐス ト ラ テ
格 ῐ料金ῑ を下げて顧客を増やすことにつながる
ジ῏ῑ をもったとしよう18ῑ῍ その場合ῌ 他の項目
のならばῌ むしろこの項目はῌ 交換価値 ῐ価格ῑ
への好影響はともかくῌ この項目自体に関わって
に関連するものと言える῍ ただしῌ 現行の医療制
言えばῌ この戦略を実施するとῌ よほど上手に診
度῎診療報酬体系の下ではῌ 医療機関独自の判断
療報酬制度を活用しない限りῌ コスト῎パフォ῏
で価格῎料金を下げることはできないのでῌ effi-
マンスはῌ そういう戦略をとらない場合に比べて
ciency が交換価値 ῐ価格ῑ の水準と直結するわけ
低くなることが予想される῍ また例えばῌ 11 番目
でもない῍ しかしῌ 他の項目での ῒ質評価ΐ が高
の項目 ῒ医療環境の安全性ΐ ῐsafety of the envi-
くῌ それら要素のおかげで需要者 ῐ患者ῑ にその
ronment of careῑ を高めるにはῌ 物的資源をより
医療機関が選ばれῌ 扱い患者数が増加傾向にある
多く投入したりῌ 手間を惜しまず環境整備を心が
の な ら ばῌ efficiency の 高 さ はῌ い わ ば ῒ高 品
質῎高価格ΐ ゆえの高収益と実質的に同じことに
帰結するのでῌ efficiency の高さが交換価値に関
18ῑ
内布敦子他 ῐ1998ῑ 25 ペ῏ジに看護ケアの ῒ構造指
標ΐ の 11 番目としῌ ῒ看護婦が患者の希望に添えるスト
ラテジ῏をもっているΐ ことが挙げられている῍ 本稿῎
連すると言える῍
ドナベディアンが挙げた 7 番目の項目ῌ ῒタイ
῔ ῍ῌ ῔
本文ではῌ それに関して述べられている ῒ仮説ΐ を引い
たのである῍
経済科学研究所
第 32 号 2002
紀要
けたりといったことが必要となり 短期的かつ局
ある 仕事の大変さ は サビスに要する時間
所的にみれば コストパフォマンスが低下す
と労働密度などを考慮して総合的に評価すること
ることもあり得よう
で把握されるものである 緒方らによれば この
ῌ 3 の後半部分において 財貨に関する交
概 念 を 初 め て 規 定 し た の は Hsiao ら で Re-
換価値の評価の問題 価格問題の考え方を基本的
source Based Relative Value Scale RBRVS
に示したが それはサビス財についても当ては
資源に基づく相対的価値尺度
の研究の中で医
まり 医療看護サビスにもある程度は当ては
師の仕事を相対評価によって測定する際 時間の
まることである とくに 医療看護サビスの
ほか 精神的肉体的努力 判断 専門的技術
経済的評価を確定するための研究の方向性を示唆
そしてストレスを含む 4 評価次元を設定し 労働
するのは 複雑労働の単純労働への 還元 とい
密度の代理変数とした という 4 つの評価次元
う考え方と それを考える理論的かつ現実的な前
とは 身体的疲労 精神的疲労 手順の複雑さ
提条件として各種労働ごとの標準化の進展が必要
お よ び 時 間 で あ る と い う た だ し 緒 方 ら
という考え方とである 標準化の進展について言
2000 の場合 訪問看護サビスの評価次元に
えば 近年 医療看護の現場にクリティカル
設定したのは 身体的疲労 精神的疲労 および
パスが導入されてきたことに着目したい クリ
時間の 3 つである
19
ティカルパスは よく財貨生産や住宅建築の工
こうした枠組みで さまざまな仕事の 大変さ
程表に喩えられるように 疾病ごとに治療ῌ看護
を相対的に評価する際 緒方ら 2000 で その
ῌリ ハ ビ リ テ シ ョ ン の 進 め 方 を タ イ ム ス ケ
基準に選ばれたのは 足浴である 足浴の仕事の
ジュルとして標準化したものである こうした
大変さを 50 として バイタルサインの測定 入
標準化が広く進んだとして 次には 還元 問題
浴介助 全身清拭 胃管の挿入交換 膀胱留置
へと進むことが期待される そのためには 例え
カテテルの交換 褥瘡処置 中心静脈栄養法の
ば看護ケアの複雑さ困難さの平均水準を何らか
管理 癌性疼痛の管理など 19 種類のサビス労
の手法で確定し その水準と他の諸労働のそれと
働の大変さを数値で表すこととした その数値
相対比較する方法を開発すればよい 例えば 介
は 何倍大変かと判断し 足浴の 10 倍の大変さ
護保険制度により行われている介護サビスや家
なら 500 20 倍なら 1000 1/ 10 なら 5 という
事援助サビスとの比較 簡単な財貨生産労働
具合に 大変さをくっきりと捉えるために極端な
や スパなどでのレジ打ち仕事との比較など
数字で表すように工夫されている 緒方らは こ
が考えられる
うした判断を 20 ヵ所の訪問看護ステションの
このような指向をもつ看護ケアの評価に関する
ナス 110 人を対象に調査表を用いた面接調査
研究は 管見の限り皆無であるが その第 1 歩に
を行った という この調査結果を大まかに見る
なりうる可能性をもつ研究が つい最近始まって
と 足浴の 4 倍から 6 倍程度の中程度の 大変
いる それは 緒方泰子他 1999 および緒方他
さ と評価されたサビスは 入浴介助 全身清
2000 で展開された 看護ケアの相対的価値づ
拭 胃管の挿入交換 膀胱留置カテテルの交
けというものである 緒方らは 仕事の大変さ
換など 9 種類のサビスであり その 10 倍以上
という概念を用いて 訪問看護ステションで行
の高度な 大変さ と評価されたのは 中心静脈
われる諸サビスの相対的価値づけを試みたので
栄養法の管理 癌性疼痛の管理など 4 種類のサ
19
広 井 良 典 2000 59 64 ペ ジ で は ク リ テ ィ カ
ビスであった20
ルパスとは別の脈絡での 医療の標準化 が論じられ
20
ている
῍ῌ 緒方泰子他 2000 979984 ペジ
保健医療サ῏ビス論体系の構築に向けて ῐ長田ῑ
その調査結果についてこれ以上詳しく紹介する
ことはしないがῌ ここでこのような調査がῌ 看護
῍3῎
ケアの交換価値評価にとっていかなる意義をも
医療῎看護サ῏ビスの経済的評価がῌ とくにそ
ちῌ またいかなる限界をもつのかῌ 要点を指摘し
の価格面で実際上ῌ どのようになされてきたのか
てみよう῍ 足浴の大変さを基準にῌ 19 種のサ῏ビ
はῌ 診療報酬体系を見ればῌ おおよそ分かる῍
診療報酬と医療サῌビスの経済的評価
スが ῒ何倍ΐ 大変であるかῌ と考える点はῌ ῒῑ
ῒῒΐ の初めの箇所でῌ 医療῎看護サ῏ビスの経
ῐ3ῑΐ の後半部分で紹介したῌ 複雑労働が単純労
済的評価の考え方が困難である事情を 2 点挙げ
働の ῒ何倍ΐ に還元されるかという考え方に似て
たがῌ そのῐとしてῌ 医療サ῏ビスの価格 ῐ料金ῑ
いる῍ しかしῌ この両者の考え方には決定的に異
が特殊なしかたで決まることを述べた῍ 他種の財
なる点がある῍ それはῌ 後者では異業種の労働同
貨῎サ῏ビスではῌ その価格῎料金がῌ 市場にお
士で比較されるのに対してῌ 前者で比較されるの
ける供給者と需要者の意識と行動によってῌ 両者
が同じ看護ケアの内でさまざまな種類の仕事であ
の利害が調整される形で自ずから形成῎決定され
るという点である῍ 足浴を基準にして諸サ῏ビス
る῍ それに対してῌ 医療῎看護サ῏ビスの場合ῌ
の相対的な大変さを測ることはῌ いわば訪問看護
政府 ῐ厚生労働省ῑ 付属の中医協の審議においてῌ
ケアの平均的な ῒ大変さΐ を認識するのに役立つ
供給側 ῐ診療側委員ῑ と需要側 ῐ支払側委員ῑ の
ものである῍ 看護ケアの交換価値を評価するため
利害対立を調整しながらῌ 診療報酬を改定すると
にはῌ さきにも述べたようにῌ さらにその平均的
いう形でその価格 ῐ料金ῑ が決まる῍ 市場原理に
ῒ大変さΐ と他業種の労働の ῒ大変さΐ と比較した
よって自ずから価格形成がなされるのではなくῌ
場合にῌ 看護ケアの大変さはどの程度かῌ を測ら
いわば ῒ人為的な調整メカニズムΐ あるいは ῒ擬
なければならない῍ その際ῌ 緒方らの研究ではῌ
似的市場メカニズムΐ としてῌ 中医協の審議が機
看護ケアの ῒ大変さΐ の評価次元として技術的要
能していると言える῍ すなわちῌ 医療サ῏ビスはῌ
素が入っていないのでῌ 他業種の ῒ大変さΐ と比
市場財ではなくῌ ῒ擬似的商品ΐ でありῌ またその
較するのに十分かῌ という疑問も残る῍
価格 ῐ料金ῑ はῌ 市場価格ではなくῌ 公定価格ま
しかしῌ 緒方らの研究目的がῌ われわれが本稿
たは統制価格という性格を有しているのである῍
で考察の焦点にしているようなῌ 他種労働との比
このような特殊性を帯びている医療῎看護サ῏ビ
較における看護ケアの交換価値評価ではないの
スの諸価格はまたῌ 他の業種では見られない特殊
でῌ この点を衝いて ῒ限界ΐ とするのは適切では
な構造῎体系をなしている῍ 他の公定価格ῌ 例え
ないかも知れない῍ しかしῌ われわれにはそのよ
ばῌ 公営バスの料金ῌ 水道料金ῌ 国公立教育機関
うに位置づけることができるῌ 有益な研究とみな
の授業料などと比べてもῌ 特殊で膨大῎複雑な体
し得るのである῍
系をなしている῍
膨大な項目を含む診療報酬体系はῌ 基本的な構
診療報酬体系の構造
ῌ 初診料
῏
῏ 再診料
῏
基本診療料῍
ῌ 入院基本料 ῐ旧 ῒ看護料ΐ ῒ入院環境料ΐ
῏
῏
῏ 入院料῍
ῒ入院時医学管理料ΐ を包含するῑ
῏
῏
῎
῎ 特定入院料 ῐ救命救急入院料ῌ 特定集中治療室管理料ῌ 緩和ケア病棟入院料などῑ
῔ ῌῌ ῔
経済科学研究所
第 32 号 ῑ2002ῒ
紀要
ῌ 指導管理等 ῑ退院指導料ῌ 診療情報提供料などῒ
῏
῏ 在宅療養 ῑ往診料ῌ 在宅患者訪問看護῎指導料などῒ
῏
῏ 検査 ῑ血液化学検査料ῌ 病理学的検査料などῒ
῏
῏ 画像診断 ῑエックス線診断料ῌ コンピュῐタ断層撮影診断料などῒ
῏
῏ 投薬 ῑ調剤料ῌ 薬剤料ῌ 処方箋料など῍ 個῏の薬剤価格は ΐ薬価基準῔ で別に決める῍ῒ
῏
特掲診療料 ῍ 注射 ῑ皮下注射ῌ 筋肉注射ῌ 静脈注射ῌ 点滴注射などῒ
῏
῏ リハビリテῐション ῑ理学療法ῌ 作業療法ῌ 言語療法ῌ 視能訓練などῒ
῏
῏ 処置 ῑ創傷処置ῌ 湿布処置ῌ 浣腸ῌ 胃洗浄などῒ
῏
῏ 手術 ῑ各部位に関する切開術ῌ 縫合術ῌ 切除術ῌ 摘出術ῌ 移植などῒ
῏
῏ 麻酔 ῑ硬膜外麻酔ῌ 脊椎麻酔ῌ 神経ブロック麻酔などῒ
῏
῎ 放射線治療 ῑ放射線治療管理料ῌ 全身照射ῌ 血液照射などῒ などなど
の中では例外的に ΐ出来高払い῔ ではなくῌ ΐ包括
造としてはῌ 次のように表示される῍
特掲診療料を構成する指導管理等ῌ 在宅療養ῌ
払い῔ または ΐ定額払い῔ 方式と特徴づけられる
検査ῌ 画像診断ῌ 投薬などのグルῐプにはῌ それ
ものである῍ 例えばῌ 初診の場合ῌ 問診をしῌ 検
ぞれに表の ῑ
ῒ 内に例示した各項目についてさ
査῎診断をしῌ 必要に応じて処置をしたり薬剤を
らに多くのサῐビス行為が含まれῌ それら個῏の
処方したりすることがありῌ 患者によって提供さ
サῐビス行為ごとに点数評価されている῍ 1 点 10
れるサῐビス量に多少のバラツキはあってもῌ 病
円という単価はῌ 敗戦後間もない昭和 20 年代以
院なら 1 人 250 点 ῑ2500 円ῒῌ 診療所なら 270
来 50 年ほど続いていてῌ 今日ではῌ 各項目の点
点 ῑ2700 円ῒ とῌ 全国一律に決まった額が請求῎
数はῌ 2 桁 ῑ100 円ῒ 台のものはきわめて少なくῌ
支払いされるのである῍ 表に見る ΐ基本診療料῔
3 桁 ῑ1000 円ῒ 台のものが比較的多くῌ 4 桁 ῑ1
のうち ΐ入院基本料῔ はῌ 2000 年 4 月の診療報酬
万円ῒ 台や 5 桁 ῑ10 万円ῒ 台のものも少しある῍
改定のときῌ 旧来の入院時医学管理料ῌ 入院環境
高点数のものはῌ 例えばῌ CT スキャナῐῌ ICU
料 ῑ室代などῒῌ および看護料を包括して新たに設
ῑ集中治療室ῒ といった設備῎施設を利用する行
けられたものである῍ 診療報酬体系において明示
為やῌ 肺や胃の切除など大がかりな手術の場合で
的な ΐ看護料῔ という項目が消えたことの意味に
ある῍
ついてはῌ 次の項で論じることにしている῍
それはともかくῌ 特掲診療料はῌ 医師῎看護職
ここでさらにῌ ΐ擬似的商品῔ としての医療῎看
などの診療側から見ればῌ 患者に対して行ったさ
護サῐビスの価格 ῑ料金ῒ の機能について ΐ出来
まざまな医療サῐビスごとに点数評価したコスト
高払い῔ 部分と ΐ定額払い῔ 部分ῌ それぞれに考
ῑ技術料としての人件費と物件費ῒ でありῌ 患者側
察してみる῍ さきに ΐῐ ῑ3ῒ῔ においてῌ 財貨の
から見れば受けた個῏のサῐビスへの対価 ῑ価
価格形成方式について論じたがῌ そこではῌ ΐ原価
格ῒ である῍ これら診療料の計算῎支払いの方式
主義῔ にもとづいてコストに利潤を上乗せする方
はῌ 患者ごとにどんなサῐビスがどれだけ提供さ
式 ῑ生産価格ῌ フルコスト価格ῒ と先に販売価格
れたかを合計しῌ 医療機関に支払われるのでῌ ΐ出
を決めῌ 利潤を確保すべく後からコスト枠を考え
る方式 ῑΐ売値先決主義῔ῒ とを説明した῍ 前者はῌ
来高払い῔ 方式と呼ばれる῍
他方ῌ 基本診療料に含まれる各項目はῌ 細かな
足し算ῌ 後者は引き算でコストを意識した価格設
行為ごとに分類することなくῌ 一連のサῐビス全
定を行おうとする点でῌ 好対照をなす῍ 診療報酬
体をまとめて点数評価するものでῌ 診療報酬体系
体系に反映している医療῎看護サῐビスの評価
῕῍ῌῌ῕
保健医療サビス論体系の構築に向けて 長田
を 価格面から見ると 出来高払い と言われる
な水準か そうでないのか 客観的に厳密に検討
特掲診療料については さきに述べたように 技
することは 理論的にも実際的にも行われてこな
術料としての人件費と物件費に加えた利潤相当分
かったと見られる
とで点数評価されていると言える 3 つの要素を
周知のように わが国の診療報酬体系の中で看
足し算した数字であるとみなし得るわけである
護に対する経済的評価は 2000 年 4 月の改定まで
すなわち 財貨の場合の 原価主義 に近い考え
は 基準看護 新看護料 という項目に反映し
方が公定価格として設定されている と見ること
ていた 膨大な診療報酬の項目の中では 看護
ができる 他方 医療看護サビスの 定額払
と名のつくものがきわめて少なかったけれども
い 部分については 多少の事情の違いはあるも
2000 年 3 月までは 入院患者への看護ケアは
のの 財貨の場合の 売値先決主義 に対応する
それなりの水準で評価されていた それまでのし
と見られる 例えば 特定の入院患者にだけ普通
くみは 基準看護 1958 年1993 年 新看
の場合以上に多くの種類と量のサビスをしたと
護料 1994 年2000 年 とも 看護要員の配置
しても 医療機関には一定額の入院基本料しか
対患者数 と看護職構成比 看准看補助 の
入ってこないので その一定水準の価格内にコス
状況に応じて 入院料 水準が評価されるという
トを納めないと 利潤相当分が確保されないこと
ことであった
になる この事態は 財貨の製造販売で 売値
ところが 2000 年 4 月の診療報酬改定では
先決主義 で価格設定する場合 コスト削減努力
従来の入院環境料と入院時医学管理料と看護料に
が各企業に求められるのと酷似している 財貨の
相当する要素が 入院基本料 に包括され つい
製造販売に関して 売値先決主義 の方が 原
に診療報酬体系の中から 看護料 という項目名
価主義 の場合よりも 熾烈な市場競争 コスト
が姿を消したのである この点について 看護の
削減努力が求められるのと同様のことが 医療
経済的評価ができなくなった という見方をする
看護サビスの 2 系統の価格体系について当て
論者もいる21 しかし それは極論であろう 看
はまると考えられる このことの意味するとこ
護料 が明示されなくなったことで 看護の評価
ろは 診療報酬の改定のたびに 包括払い の要
が見えにくくなった ことは 確かであるが だ
素が増え続けていることは 病院経営の立場から
からといって看護ケアの経済的評価を論じられな
は 次第に厳しいコスト管理が求められ コスト
くなったわけではない 例えば 1993 年97 年
削減に結びつく合理化や効率化をしていかないと
の期間 入院料 の保険診療収入全体に占める割
黒字収支の維持が困難になる ということであ
合は 2829ほどであり また 入院料 に含ま
る
れる診療行為別医療費の割合を見ると 入院時医
学管理料 給食料 入院環境料 室料 などがそ
ῌ4῍
診療報酬体系における看護ケアの評価
れぞれ 20前後を占めるのに対して 看護料は
看護ケアの経済的評価がこれまで実際にどのよ
うになされてきたのかは 診療報酬体系において
35前後を占め その比重にはほとんど変化が見
られない22
看護がどのように金銭的に評価されてきたのか
例えば室料が急激に引き上げられるなどのこと
を見るとおおよそ分かる しかし はじめに で
がなく 看護料 相当分の比重が今後もしばらく
述べ それに関する注にも言及したように 看護
はあまり変化しないとすれば 入院基本料 に占
ケアに関しては 質とコストや支払いとの関係が
あまり分析されてこなかったという特殊事情があ
る しかも 点数化されたその金額的評価が妥当
῍ῌ῍
21
竹谷英子 2001 302 ペジ
22
岩下清子他 2000 4446 ペジ
経済科学研究所
第 32 号 2002
紀要
める 看護料 相当分を 35程度と推測すること
かたで行われる この中医協の審議過程がどのよ
は可能であろう それを前提として看護ケアの経
うなものかを筆者は詳しく知らないけれども 協
済的評価について論じることも可能なのではない
議会が支払側委員 診療側委員 および公益委員
の 3 者で構成され 要するに需要側 支払側 と
か
このことを踏まえて 今後看護ケアの経済的評
供給側 診療側 の利害対立を調整しつつ 診療
価を確立するためにどういう前提が必要となる
報酬点数の改定を行う と聞いている つまり
か 考えてみる 第 1 の前提は 看護ケアの質の
この 調整 が 市場での買い手 / 売り手の利害
評価測定が客観的に可能になることであり 第
調整を経て行われる市場価格の形成過程に相当す
2 は 看護技術の定着やクリティカルパスに
ると見てよいであろう
よってケアの標準化が進むことである 第 1 の前
今後筆者にとって課題となるのは 中医協での
提によりさまざまな看護ケアの平均的な質が確定
調整 の実態を知った上で ῌ 2 で論じた
できたとして その質を維持するために 第 2 の
他種労働との比較における看護労働の交換価値評
前提の技術定着に関わって どれほどの教育や卒
価を実施する方法を確立し それを中医協での
後研修が必要かを平均的に捉えることができたと
調整 に活用する方途を考えることである さら
すれば 看護ケアの経済的評価がどのような水準
に 保健医療のサビス論体系 の構築に向けた
であるべきか いっそう明瞭になるのではない
課題として そもそも医療看護サビスの経済
か さきに緒方他 2000 の研究を簡単に紹介し
的特徴を解明した上で 今回述べたような経済的
て 看護ケアの交換価値評価 つまり価格料金
評価の論の意義を再確認することがある 医療
につながる経済的評価 への第 1 歩であると位置
サビスの経済的特徴に関しては 別の拙稿で基
づけられる と評したが この見方もこの 2 つの
本的な分析をしたことがある23 また 医療看
前提に立って可能になる と展望できるのであ
護の問題を経済学的に論じる方法に関しても 別
る
の拙稿で考察したことがある24 この 2 編の拙稿
ῌ
と本稿とを有機的にまとめ上げれば 保健医療
おわりに
のサビス論体系 がひとまず構築されることに
本文においては 財貨や他種のサビスに関す
なろう
兵庫県立看護大学助教授
る経済的評価の考え方を整理し その考え方を適
用することで医療看護サビスの経済的評価の
引用ῌ参照文献
確立に必要な研究方向を見定めた 医療看護
1
中木高夫安川文朗水流聡子 看護経済学入
サビスが財貨や他種のサビスの場合と根本的
門看護コストを考える 看護の科学社 2000
に異なる点は 後者の価格水準が市場原理に即し
年
て決まるのに対して 医療看護サビスの価格
2
水準は そうではなく 中医協の審議によって決
識 日本看護協会出版会 1996 年
まるということである
3
つまり 後者では市場価格 前者では公定価格
という違いである したがって経済的評価は 後
高橋美智監修 看護の 質評価 をめぐる基礎知
河野五郎 使用価値と商品学 大月書店 1984
年
4
Karl Marx Das Kapital, 1867 資本論翻訳委員
会訳 資本論 新日本出版社 1982 年
者では市場取引の前か後の供給側需要側による
評価が直接に価格水準に反映するというしかた
医療看護サビスに関しては市場の調整過程を
代行するような中医協の審議に反映するというし
῍ῌ῎
23
長田浩 2000
24
長田浩 1999b
保健医療サビス論体系の構築に向けて 長田
5
Adam Smith, An Inquiry into the Nature and
護ケアの質の評価基準に関する研究ῌῌ指標開発
Cannan, 6 th edition, 1950 アダムスミス / 大
ῌῌ 看護研究 31 2 1998 年
14
内布敦子他 看護ケア構造指標の試用と検討ῌῌ
1959 年
試案のプレテスト結果からῌῌ 看護研究 31
David Ricardo, On the Principles of Political
2 1998 年
Economy and Taxation, 2 nd edition, London,
15
緒方泰子他 訪問看護サビスの資源消費ῌῌ提
John Murry, 1819 デイビッドリカドゥ /
供者による相対的価値づけによる測定ῌῌ 病
小泉信三訳 経済学および課税の原理 岩波書店
院管理 36 1 1999 年
16
1952 年
7
片田範子内布敦子上泉和子山本あい子 看
Causes of the Wealth of Nations, edited by M.A.
内 兵 衛 松 川 七 郎 訳 諸 国 民 の 富 岩 波 書 店
6
13
に関する研究 日本公衛誌 47 12 2000 年
R. L. Hall and C. J. Hitch, “Price Theory and
Business Behaviour”, Oxford Economic Papers,
17
広井良典 ケア学ῌῌ越境するケアへ 医学書院
2000 年
1939, repr. In T. Wilson and P. W. Andrews:
18
Oxford Studies in the Price Mechanis, 1951
緒方泰子他 訪問看護サビスの相対的価値づけ
竹谷英子 求められる看護業務と診療報酬上の看
護評価 病院 60 4 2001 年
8
長田浩 少子高齢化時代の医療と福祉ῌῌ医療
9
大石雄爾 商品の価値と価格 創風社 1995 年
みと看護の評価 第 4 版 日本看護協会出版会
10
Deborah Fahy Bryceson, “Use values, the law
2000 年
福祉の経済社会学入門ῌῌ 明石書店 1999 年
of value and the analysis of non-capitalist pro-
19
20
岩下清子他 診療報酬 介護報酬 ῌῌその仕組
長田浩 医療サビスの経済的特徴について 兵
庫県立看護大学紀要 第 8 号 2000 年
duction”, Capital & Class, 20, Summer 1983
11
斎藤重雄編 現代サビス経済論 創風社 2001 年
12
岩崎榮編 医を測るῌῌ医療サビスの品質価値
21
とは何かῌῌ 厚生科学研究所 1998 年
῍ῌ῎
長田浩 医療経済学方法論序説 兵庫県立看護大
学紀要 第 7 号 1999 年 b
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