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21 世紀は地球修復の時代」 世紀は地球修復の時代

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21 世紀は地球修復の時代」 世紀は地球修復の時代
2002 年度
第 13 回早稲田大学寄付講座 2002.7.17
「環境と経済の新世紀」−熱帯雨林保全への取り組み−
岡部敬一郎氏
北山
今日はコスモ石油の会長兼社長の岡部敬一郎氏にお話をしていただけることになり
ました。コスモ石油では環境保全に限らずさまざまな社会貢献活動を展開していて、例え
ば森林を保全する、熱帯雨林を保全するといったようなところでも、かなりのエネルギー
を割かれています。
最初に岡部さんのご紹介をさせていただきます。1956 年に京都大学の経済学部をご卒業
になった後、当時の丸善石油にご入社になっています。1986 年に丸善石油が大協石油、コ
スモ石油と合併し、新しいコスモ石油として出発しました。これに伴ってコスモ石油株式
会社取締役にご就任になった後、1993 年には代表取締役社長にお就きになり、その後 1999
年からコスモ石油株式会社代表取締役会長兼社長にお就きになっています。また、石油各
社で構成されている石油連盟の会長も務められていらっしゃいます。
今日は「熱帯雨林保全への取り組み」というテーマでお話いただけるということですが、
特にわれわれは石油がどこにどのように眠っているのか、どのように採掘するのかという
ことをあまり知らないので、そのあたりのことも含めてお話いただけるということですの
で、楽しみにして下さい。では、よろしくお願いします。
「21 世紀は地球修復の時代」
岡部
皆さん、こんにちは。私は企業人であると同時に、石油業界に身を置く者でありま
す。しかしそれだけでは不十分で、一市民として、地球人としての認識をもっていないと
いけないと、いつも痛切に感じています。そんな中で私は最近非常に重要になってきた環
境という問題を中心にして、
「環境を考える経済人の会 21」という会に参加させていただい
ていて、皆さんのような 21 世紀を担う方々に対してこういうかたちでお会いし、お話がで
きるということを非常にうれしくはりきっています。
今日のテーマは「熱帯雨林保全への取り組み」ですが、イメージとしては大げさな取り
組みだとお感じになるかもしれません。たしかにその実行の趣旨、意義というものは非常
に大きいと確信しております。しかし、やることについては地道に、着実に一歩一歩とい
う考え方での取り組みで、これは後ほどビデオでも紹介しながら、できるだけ重ならない
ようなかたちで展開していきたいと思っています。
先ほど先生からご紹介がありましたように、私は石油人です。私は年間4回程度中東に
行きます。そんなところから最近、油田の岩層を持って帰ってきました。そういうものを
紹介しながら石油の何たるかも含めてお話したいと思います。
© B-LIFE 21 2002 早稲田大学寄付講座
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3年前、京都大学に物理学の先生でノーベル賞を受賞された福井謙一さんという方がい
らっしゃいました。この方とお付き合いがあり、この方が「21 世紀は地球修復の時代だ」
というすばらしいお言葉を発せられました。つまり、20 世紀はわれわれにとっていろいろ
な繁栄もありましたが、戦争による悲劇もありましたし、人口が増加して貧困もあったと
いうことで、陰と陽というものが組み合わされた中での 20 世紀だったと思います。それだ
けに、石油も含めて資源をふんだんに使って大量消費、大量生産、大量廃棄という考え方
の中で過ごしてきただけに、21 世紀から 22 世紀にかけて、これから生まれてくるであろう
方々からは、当然われわれに対して「20 世紀の人たちはなんでこういう無駄なことをやっ
たんだ。われわれの生活しやすい地球をつくってくれ」というような声がメッセージとし
て私の耳に、おそらく皆さんの耳にも伝わってくる昨今ではないかと思います。
それだけにわれわれは 20 世紀を冷厳に見つめて、21 世紀に向かってどちらかといえば負
の遺産的な部分を、いかに軽減していくということに、全地球を上げて取り組んでいくこ
とが非常に大事な問題ではないかということを、ベースとして皆さんに訴えておきたいと
思います。
さて、20 世紀を振り返ると、前半は戦争の世紀でした。もちろん最終的には原子爆弾を
中心とした核兵器によって終焉をむかえましたが、その過程における相当な科学の進歩が
一方でありました。そして、後半は科学に加えて、化学というものが大いに加わって、そ
して技術開発があり繁栄を謳歌してきたのではなかったかと思います。
私は戦前、戦時中は九州の片田舎にいて、環境も良く、風光明媚な中で環境の「か」の
字も思い煩うことなく自然の中に溶け込んだ生活をしていたのですが、戦後は京都へ向か
うというかたちでスタートしてきました。それが昭和 31 年、1950 年代です。そのときに
学生の方々は、やれマルクス経済学だ、共産主義経済学だ、あるいはケインズだ、あるい
は近代経済学だ、というかたちがあったと思うのですが、私は近経でもない、マル経でも
ないというわけではありませんが、当時、ハーバード大学のレスリスバーガーという先生
を中心にして企業の実態調査をしながら、いかにして企業の人間関係というものを大事に
していくかということが、企業の業績向上につながるのだという確信の中でやられていた
学問がありました。つまり、
「Management & Moral」訳して「経営と勤労意欲」です。こ
れは、社長になった今でも役に立っていますし、また、皆さんがこれから社会に出て、環
境問題を含めていろいろな事を行っていく場合でも大事なことであろうと思っています。
つまり、人間はとかく争いをします。その際、自分の意見を、どうも「こうだ、ああだ」
という断定的なかたちでおっしゃる方がいるでしょう。つまり、主観を客観性があるがご
とく装って話をする方です。これがささいな争いの原因になったりするのです。ちょっと
最後に「・・・と思いますよ」というささやかな言葉を付け加えることによって、主観を主観
として広く意見することによって、相手との対話が図れる。このような話法も必要だと思
います。皆さんの大学でも、これから組織に入っても、正式な、例えばゼミナールもあれ
ばインフォーマルな組織もあるということで、会社の人間社会の中では当然親しい人、趣
© B-LIFE 21 2002 早稲田大学寄付講座
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味の同じ人などいろいろなかたちのインフォーマルな組織とフォーマルな組織があり、そ
れがどういうように調和していくかということも大事だと思います。
徒然草の中に「物言わねば腹膨る(ものいわねばはらふくる)
」という言葉がありますが、
やはり不満、意見というものはどんどん言いながら、どこかで調和を図ることによって、
自分の主張もしながらある一つの自粛も含めて組織の一員として活動する。個性を活かし
ていくということが非常に大事だと思います。
価値の多様化の中で、環境問題を進めていかなければいけません。先進国もあれば発展
途上国もある。豊かな国があればそうでない国もあるという状況の中で、環境問題をこれ
から取り上げていくとすれば、そうした今私が申し上げたようなことは、問題提起、解決、
実行の過程では非常に大事な問題ではないかと思っています。
対症療法ではなく抜本的な転換が必要
さて、20 世紀前半の二度の世界大戦を経て、20 世紀後半は、冷戦、二極(アメリカとロ
シア)対立の時代と定義づけられると思います。マルクス(Karl Heinrich Marx : 1818-83)、
エンゲルス(Friedrich Engels : 1820-95)による共産党宣言があって、そこからマルクス
経済学というものが確立されていった流れの中で、一方で 1929 年の大恐慌後大きな不況が
起きて、1936 年には 160 年も続いた正統的な経済学、すなわち、アダム・スミス(Adam
Smith : 1723-90)からミル(James Mill : 1773-1836)を通じて最後ピグー(Arthur Cecil
Pigou : 1877-1959)に至る、改革・改良の資本主義、改革・改良の経済学が、革命の経済
学といわれるマルクス経済学に対抗した時代が続いたのです。皆さんはどう思うかわかり
ませんが、最終的には結局資本主義が勝った、共産主義が負けたと言うようですが、私は
別の見方を取っています。
つまりゴルバチョフの登場ということです。共産主義に対する一つの意識の強さ、体制
意識というものを越えた彼の人間性というものが冷戦構造を壊して今日の繁栄につながろ
うとしたと私は感じています。ゴルバチョフは鄧小平の集団農場の問題に対する成功を見
ながらも、自分はそれをやらない。あるいは天安門事件に相当するような軍事的威圧もや
らなかった。ゴルバチョフが 1985 年に登場したとき、1979 年から 1989 年までの 10 年続
いたアフガニスタンへの侵攻によって旧ソ連の経済は極度に疲弊した状態にありました。
彼は経済の改革のためにもまずは政治の改革だということで、いわゆるペレストロイカを
始めました。
政治改革の柱は、情報公開(グラスノスチ)です。情報公開によって様々な問題を表面
化させ、政治・経済改革の大きな流れを作りだそうとしたのです。旧ソ連加盟の共和国が分
離・独立の動きを加速させた際も、ある意味では確信犯的に見て見ぬふりをし、軍事鎮圧を
行いませんでした。これはゴルバチョフという政治家の人間性によるところが大きかった
のだと思います。そして今日、共産主義は崩壊し、資本主義を中心とした経済システムが
主流になりました。
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市場原理を中心にした現在の資本主義を、果たして皆さんはどう思われますか。市場と
いうものが弱者の淘汰という状況の中で何でもありの市場によって、アメリカのグローバ
リズムではありませんが、やはりそこに弱者救済的な国の政策も欠如して、今や非常に混
乱した世界的なグローバリズムが進んでいます。
その裏では市場経済競走の中に隠れた部分として人口の増加と、それから来る貧困とい
う問題が、20 世紀後半の繁栄の 50 年の中に、今も脈々と流れているのです。ですから、先
ほど福井謙一先生が言われましたように「繁栄は確かにした。しかし、先進国と発展途上
国の間にあまりにも経済格差が起きた。富の不公平が起こった」ということです。
人口が 20 世紀の初めには約 16 億人でしたが、現在約 60 億人ですので4倍になっていま
す。穀物の生産は米、とうもろこし、麦を中心にして8倍になっています。人口は4倍の
ところに食料は8倍になったにもかかわらず貧困があるということは、やはりそこに大き
な配分の問題があるのです。経済システムの中における配分の問題があるわけで、そうい
うことから結局、例えば1kcal の牛肉を作るのになんと 20kcal のとうもろこしを使うとい
った、われわれも含めた先進国の飽食によって一方で貧困が起こっているという地球全体
のアンバランスがあります。
ある人が計算をしたところ、バングラデシュ的な生活レベルで計算した地球は、120 億∼
130 億人住めるかもしれない。しかし、アメリカ的な生活をしたらもはやすでに 30 億人を
割る人口しか住めないはずだ。それでは日本的な生活ではどうかというと、かなり豊かに
なっているので、50 億∼60 億人程度なら住めるかもしれない。地球のいろいろな資源その
他のキャパシティと、人間の生活基盤との関係を考えたときに、このような計算をした人
もいらっしゃいます。それほどに今地球全体は飛躍的な人口の増加と、増加の中における
一方での先進国的繁栄と、その裏側としての発展途上国の苦痛、苦悩という問題が大きく
クローズアップされてきた。この中で、この環境問題というものが取り上げられてくると
いうことだと思います。
今日本の経済を見たときに、皆さんご存知のように少子化、高齢化の問題、依然として
失われた 10 年による景気低迷の問題、あるいは企業、政治における不祥事の問題、あるい
は金融資産のレベルの問題、あるいは金融不安、いろいろな銀行の不安定な金融資質の問
題があります。今の日本は戦後のいろいろな制度、システムが基本的に通用しない。つま
り対症療法では通用しない。これを超えた抜本的な問題を考えるべきです。それぞれ国民
の一人一人が、国をあげて発想の転換、常識の転換、価値観の転換ということを考えてい
かなければいけないという時代に直面しています。
そんな中で、前述した福井謙一先生がおっしゃったように、21 世紀の最大の、地球人類
最重要のテーマとしての環境問題において従来の考え方から脱却した発想の転換をもって、
価値観の転換をもってこの問題に臨んでいかなければいけないと思います。
さて、環境と申し上げましたが、私が会社に入った後の昭和 30∼40 年代にかけての高度
成長時に、今もって問題になっている水俣病、そして四日市における亜硫酸ガスが原因に
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なった喘息、そしてイタイイタイ病が問題となっていました。これは3大公害と言われて
います。このような初期の段階においては、環境以前に公害ということで、加害者と被害
者が明確であるのだけれども、被害が明確になるまでには若干時間がかかった。つまり高
度成長時に企業側がどんどん工場運営をやっていった。そして亜硫酸ガスがたくさん出た
ということによって、そういう問題が起こってきたのです。その公害問題については、一
つは法律、二番目は行政指導、三番目は当然企業の自主的な意欲、こういうことによって
解決してきました。そういうことで、いわゆる公害と思しき産業構造の中における、周辺
社会との関係における問題というのは、ある程度は解決されてきたという状況がありまし
た。
それぞれの責任を確認しあったリオ・サミット
その中で、1992 年にブラジルのリオデジャネイロで地球サミットが行われました。そこ
で環境問題、あるいは人口の増加に対応した貧困問題をどのように解決していくかという
ことが話し合われました。具体的に言えば、今、地球の全人口の2割近い 10 億∼12 億人の
人間が極度の貧困にあえいでいます。その人間をなんとか早い時期に半減していくように
地球全体が努めていこう。先進国には先進国の役割があり、発展途上国には発展途上国の
役割があるけれども、共通の中にも差異のある責任ということで、当然、先進国が主導的
な立場を取って温かい目で発展途上国を見ながら対応していく必要がある、というような
ことで一応の合意形成が行われました。
その翌年 1993 年に、日本では環境基本法が制定されました。1967 年に制定された公害
対策基本法を衣替えし、まず日本国内における環境負荷の低減に努めると同時に国際的な
協調もしながら、全地球規模で環境問題を前向きに取り組んでいこうではないかというこ
とを基本理念として謳いました。
それに関連していろいろなリサイクル法ができました。容器、資源などという問題に対
するいろいろな細かい法律もできてきました。われわれはリサイクルという問題について
は特に江戸時代に学ぶ必要があると思います。例えば浴衣です。浴衣が洗い晒しになった
ら今度は寝巻きにする。寝巻きでもだめになればオムツにする。オムツがだめになれば雑
巾にする。雑巾がだめになれば、やむを得ず燃料として焚く。そういった江戸時代の智恵
によるリサイクル。八代将軍・吉宗将軍の時代、人口 2,600 万人以下で 200 年以上続いた
ゼロ成長の中で、前年の太陽エネルギーの範囲内で次年の生活をするというかたちの中で、
知恵に知恵を絞った江戸時代に学ぶ循環型社会の形成ということが、これからも非常に大
事になってくると思います。
さて、それでは地球規模の環境問題というのはいったいどういうものなのかということ
について、ある人が整理した問題を引用させていただくと、8項目に分かれるということ
です。今一番、巷で大きな問題となっているのは、地球温暖化ということです。二番目は
オゾン層の破壊という問題です。三番目はヨーロッパを中心にした酸性雨の問題です。こ
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れについては、果ては中国と日本の関係が出てくるかもしれません。四番目は熱帯雨林に
も関係する砂漠化の問題です。そして、われわれが今日取り上げようとする熱帯雨林の破
壊の問題です。六番目には生物多様性の破壊の問題です。そして、七番目に海洋汚染の問
題。八番目は、これは地域限定的な部分もありますが、有機物質の廃棄に伴う越境による
被害。この八つの問題が、地球環境問題を大別した大きなテーマとして位置付けることが
できるのではないかと思います。
さて、そのような中で熱帯雨林破壊の問題については、後ほど当社の取り組むプロジェ
クトを中心にしながらビデオでご紹介しつつ、あとで補足的にお話するので、簡単にそれ
以外の問題の要点概要を申し上げます。
まず、オゾン層。地球の寿命が 35 億∼45 億年と言われている状況の中で、5億年前から
海にいた生物も地上に出てきて生きることになって、今日のわれわれ人間社会が形成され
ています。その間にオゾン層が何十億年かかかって地球の周りにできました。今地球の周
りの大気圏を表層的な密度で計算すると約8km の帯になります。その中にオゾン層はたっ
たの8mm です。これが何十億年かかかって地球の周りを覆うことによって紫外線を除去
する。それでわれわれは生きることができるということなのです。それが、産業革命以降
のわずかな期間でわれわれの生活の犠牲になって、北欧中心にオゾンホールができて、そ
こから紫外線が漏れてくる。それによって皮膚ガン、白内障といった問題が北欧を中心に
して起こっています。これは対策資金が比較的少額であったため、意外に速やかに地球規
模で調整をされてすでにモントリオール議定書や、ウィーン条約といった実効性のある枠
組みが出来上がっています。
オゾン層の破壊の原因はフロンガスです。フロンガスというのは冷媒用として電気冷蔵
庫などに使いますし、半導体の洗浄にも使う。ある意味では今世紀最良、最高の化学物質
と言われた時期があります。それが今や地球を破壊する元凶になっているということです。
このオゾン層問題については、すでに規制措置が取られていますが、この物質が大気に出
てなかなか分解しないので、今対策を打った問題は何十年後にならなければ効果が発揮で
きないという問題もあります。例えば、ヨーロッパあたりに行くと、小学生に「今日は 30
分以上の日向ぼっこ、日光浴はだめですよ。ご注意下さい」ということが、真剣に語られ
るということもあるほどに紫外線の恐さが北欧を中心にあるということです。
加えて酸性雨の問題ですが、これは日本においても先ほど四日市喘息のお話をしました
が、亜硫酸ガスの SOX、NOX というものを中心にして、これが酸化されて硫酸や硝酸とい
うかたちになって雨になって降ってくる。それによってヨーロッパではすでに被害を受け
ていて、湖から魚が消えたというような大きな被害もあってヨーロッパを中心とした地域
限定的でありますが、酸性雨に対するヨーロッパ域内の対応ができていて、これも法律等
によって削減をしていくということが行われたようです。
そして、海洋汚染などは当然赤潮が起こったり、重金属類があることによって魚の生態
系が変わるといったような、文字通り海洋に吐き出されたものによる海洋汚染が、海流そ
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の他の関係で広がっていくという問題があります。
そして、熱帯雨林の減少、温暖化にも直接的、間接的に関係する生物多様性喪失の問題。
今世紀においては1年に4万∼5万種類の生物が消えていったという状況ですので、計算
すると 50 万∼100 万近い生物種が絶滅してしまう。この問題というのは、可逆性のない一
つの方向に行けばもはや取り返しのつかない大きな問題で、そういう意味において生物多
様性の喪失の問題についても、これは熱帯雨林の問題、つまりその中に相当な生物が住ん
でいる。温暖化を軽減することによって気候変動が変わらずに鳥なり、動物の住まいがあ
る程度保存、維持されていくということにつながるわけで、生物多様性の問題というもの
を温暖化や熱帯雨林も関係する密接な問題ではないかと思っています。
したがって、温暖化、熱帯雨林破壊の問題をテーマにして、われわれとしては環境プロ
ジェクトとしての主題である熱帯雨林への取り組みを考えていて、この問題の説明をビデ
オの中でさせていただきます。われわれはどんな考え方で、どういう大勢判断の中でこの
問題に取り組んだか。あるいはいろいろな細かい苦労談等もありますので、しばらくビデ
オをご覧いただければと思います。
<ビデオ上映>
熱帯雨林が広がる国々に古くから伝わる焼き畑農業。本来は森の回復力を利用した自然
と調和した農法でした。しかし、熱帯雨林の保有国は一般に貧しく、人口の爆発的な増加
に伴い自然の回復力を超えたペースで焼き畑を広げざるを得なくなりました。今、世界の
森林の半分を占める熱帯雨林は、焼き畑や商業伐採の影響で毎年日本の面積の3分の1に
あたる、約 1,250 万 ha ずつ失われています。このまま破壊が進めば 70∼80 年後には確実
に地球上から熱帯雨林が消滅してしまいます。熱帯雨林の消失は地球温暖化の原因となる
CO2 の吸収源を奪うと同時に、生物の種の多様性を減退させたり、土砂崩れなどの支援災害
を誘発するなど深刻な環境破壊の要因になっています。
現在、コスモ石油は南太平洋の島嶼国、パプアニューギニアやソロモン諸島で焼き畑に
替わる農業として定地型の有機農業を推進する環境保全プロジェクトを行っています。環
境破壊の根底にある飢餓や貧困など、発展途上国の問題に向き合い、地球環境の保全を目
指しています。
20 世紀初頭、世界の人口は約 16 億人でした。それが現在では約 60 億人。わずか 100 年
の間に4倍にも膨れ上がってしまいました。このままのペースで行けば、50 年後の 2050 年
には 100 億人近くになります。一方、われわれの主食となる米、麦、トウモロコシなどの
穀物の生産量は、100 年前に比べて8倍になりました。1人あたりの穀物生産量が2倍にな
っているにもかかわらず、地球上では年々飢餓が深刻化しています。その理由は、生産さ
れた大部分の穀物は発展途上国の飢える人たちには回らず、先進国の過食や美食に費やさ
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れてきたためです。
もちろん食料だけでなくエネルギー資源も同じです。全世界の人口 60 億人の中で、先進
国が占める割合は約 20%、およそ 12 億人です。この 20%の人口で世界の総生産の 85%を
占めています。つまり、2割の人間が地球の富の8割以上を独占し、残ったわずか2割の
食料や資源で8割の人たちの生活を賄っているのです。途上国で慢性的に飢餓に苦しむ人
口は8億人にも及んでいます。日本を含め、一部の先進国は急激な発展を遂げ、以来、物
質的な豊かさを享受し続けてきました。先進国の大量生産、大量消費の一方で、途上国で
は爆発的な人口増加を招き、貧困や飢餓などの諸問題が深刻化し、環境破壊を加速されて
いる実態を忘れてはなりません。
途上国の抱える食糧不足や貧困などの問題は、熱帯雨林破壊の最大の誘因になっていま
す。直接的な要因として、先進国が建築材やパルプとして利用するための商業伐採、焼き
畑、薪炭材の過剰摂取などが上げられます。中でも焼き畑は人口の爆発的な増加にともな
い熱帯雨林破壊要因の 40%以上を占めるようになりました。本来自然と調和しながら営ん
でいた人々の暮らしも、人口の急増で耕作地の拡大を迫られ、自然の回復力を超えたペー
スで新たに熱帯雨林を燃やさざるを得なくなりました。熱帯雨林の破壊は途上国の貧困を
世界が放置したことのつけであるとも言えます。
森が破壊されるのは、そうしなければ生きていけない人たちがいるからです。彼らの生
活環境を変えない限り、食糧不足や熱帯雨林の破壊は止まりません。途上国の人々の生活
を安定させ、質的向上を図ることが熱帯雨林保全のための第一歩なのです。われわれは焼
き畑に替わる定地型の有機農業を進めることで食糧不足や貧困を解消し、地域紛争を防ぐ
など社会的効果を生み、それが熱帯雨林の保全につながると考えました。2025 年まで人口
増加の 90%以上は途上国から起こります。人口 100 億人時代の地球環境保全を考える上で、
途上国対策が重要とされる理由です。
コスも石油の環境プロジェクトサイトは南太平洋の島嶼国、かつて第二次世界大戦のと
き日米両軍が死闘を繰り広げた激戦地で、日本と歴史的に深い関わりがあります。また、
経済、環境、文化などあらゆる側面で国境を越えたグローバル化が進む今日、大洋州とア
ジアは共に協力し合うパートナーとして重要な関係にあります。
プロジェクトサイトの一つ、パプアニューギニアは大洋州の中でも最も広い国土を有し、
世界でも有数の熱帯雨林が広がっています。この国でも多くの熱帯雨林が焼き畑や商業伐
採が原因で失われています。かつて、日本軍があった州都ラバウルでは数回に渡る火山噴
火が重なり、町は火山灰に埋もれ壊滅状態になってしまいました。それに加え、近年、大
規模な地震にも見舞われ住民の生活はとても切迫した状態でした。そのラバウルから船外
機で5時間ほど離れた村落グランプンビレッジがわれわれのプロジェクトサイトの一つで
す。人口約 500 人、120 家族が暮らすこの村はパプアニューギニアの平均的な村落です。電
気も水道もなく、夜はランプだけで過ごし、洗濯や水浴びは村の中心を流れる川で行って
います。このあたりはパプアニューギニアの中でも、特に焼き畑や商業伐採の影響で熱帯
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雨林の減少が著しい地域です。
もともとこのあたりの人々の主食は焼き畑によって収穫できるタロイモやヤムイモなど
のイモ類でしたが、近年嗜好が米に変わりつつあります。住民たちの中にも焼き畑をやめ、
限られた自然を守りながら安定した食料の自給を目指したいという意向があり、一部で有
機による米の陸稲栽培を始めていました。われわれも焼き畑の替わりに同じ場所で何度で
も耕作できる有機農業の有用性を確信していました。特に、米はイモ類と比べて長期間の
保存ができます。また、わずかながらでも現金収入が得られる換金性の高い作物です。し
かし、村に精米する設備がないため、せっかく収穫した米も船外機で7時間もかけて町ま
で行かなければ精米できませんでした。現金収入の少ない村人にとって船外機の燃料代だ
けでも大きな負担です。精米するための基本的な設備不足に加え、稲作に関する知識が乏
しいため稲作普及の大きな障害になっていました。
数次に渡る調査の中でわれわれが最も力を注いだのは、現地住民たちの生の声を聴き、
実情を理解することでした。目先の二ーズを満たすためのものやお金の支援ではなく、現
地の伝統を尊重しながら彼らの自立を手助けし、持続可能な地域開発を目指しました。現
地で本当に必要とされるニーズを汲み取り、適切な支援を行うためには NPO とのパートナ
ーシップが不可欠でした。われわれはアジア、太平洋州で持続可能な地域活動の啓発活動
を行っている NPO、APSB にフィールドワークなどでプロジェクトの主導的な役割を担って
もらいました。
さらに、ラバウルで有機農業普及のための研修センターを運営している財団法人オイス
カの活動を支援し、共同プロジェクトとして現地調査を進めました。
また、パプアニューギニアの農業畜産省からも全面的に賛同をいただき、プロジェクト
を支援する政策措置を講じていただくとの合意をいただきました。われわれは最初のステ
ップとして、有機農業普及のための技術者をオイスカを通じて育成していくと同時に、精
米小屋を建設し精米設備を寄贈することにしました。目の前にある切迫した状況を解決す
るための即効性の高い支援と、長いスパンで現地の人たちの自立を促す支援とを同時に行
いました。
しかし、精米小屋を建築し、精米機を設置するという作業だけでも日本では考えられな
いようなさまざまな困難に遭遇しました。手配した建築資材を村まで運ぶのに道がなく、
船で運ぶのですが、村に港がないため沖合いに船を停泊させ、そこから浜に上げるしかあ
りません。いったん資材を海に放り込み、村人総出で少しずつ建築現場まで運びました。
また、手配した機材が届くまで何ヵ月も送れたため、完成予定が大幅に延びました。わず
か1台の精米機を設置するだけでも、精米機の費用の何倍もの時間と労力を必要としまし
た。しかし、その共有した一つ一つの苦労がわれわれと村人たちとの信頼関係を深め、後
の米作りに対する意欲を高めるという思いがけない効果も生み出しました。
2001 年 12 月精米小屋の建設が終わり、無事精米機が設置されました。
開所式には村の人たちをはじめ中央政府、州政府、NPO などさまざまな組織から多くの
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方々が参加して盛大に行われました。
今まで丹精こめて育てた米を、村人たちはこの日初めて精米しました。精米機から出て
くる真っ白な米に、みんな大きな歓声を上げていました。その瞬間、われわれは村人たち
がこの日をどんなに待ち望んでいたかということを改めて実感したのです。今後、この村
を中心に半径 50km の村落の人たちがこの精米機を利用できるようになります。
精米設備を寄贈してからわずか3ヵ月後、この地域の米の収穫量が4倍になったという
報告が日本に届きました。われわれが予想した以上の効果でした。それはまさに現地の切
迫した事情の裏返しに他なりません。今後われわれは、さらにプロジェクトサイトを広げ
ていく予定です。そうなれば、より効果的に、より広い地域で定地型の有機農業が普及し
ていくことになるでしょう。わずか1台の精米機ですが、その精米機がもたらす効果は計
り知れません。
われわれのもう一つの支援国であるソロモン諸島は、1990 年代後半にガダルカナル島に
ある首都ホニアラで、伝統的土地支配をめぐる民族間の軋轢と開発の不均衡が原因で、激
しい民族紛争が起こり多くの難民が生まれました。
プロジェクトサイトの一つであるマライタ州のピユー村も、武力衝突以降、多くの避難
民が村に戻り、食糧事情が悪化しました。この国も他の途上国と同様に食糧不足、治安の
悪化などさまざまな問題がクローズアップされてきましたが、アフリカなどと比べて開発
のステージが遅れているため、これらの問題も近年表面化してきたばかりです。早い時期
に適切な対応を行えば、問題を解決できる可能性はより高くなっていきます。現在われわ
れは治安の悪化を防ぐための啓発活動や、有機農業の技術普及を目的とする研修センター
を開設するための準備を進めています。将来、これらのプロイジェクトサイトが自立し、
持続可能な地域社会を築いてもらうことがわれわれの目的です。
地球環境問題は、政府、民間企業はもちろん国民全てが取り組むべく問題です。そうし
た流れを受けて、昨今特に NPO は新しいセクターとしての役割が期待されています。政府
は政策を実現するための影響力や資金、優秀な人材を用意しています。一方企業は NPO に
比べて資金や組織力に恵まれ、また政府に比べて活動制約が少なく、柔軟な対応が可能で
す。NPO は現地事情に精通し、状況に応じた機動的な活動が可能です。今後、政府、企業、
NPO がそれぞれの特性を活かし、互いに協力し合えばより効果的な活動を行っていくことが
期待できます。
われわれの進めるプロジェクトは途上国の持続可能な地域開発と、環境保全との両立を
視野に入れたものです。この種のプロジェクトの環境保全効果が国際社会で広く認知され
れば、京都議定書における柔軟性措置の一つであるクリーン開発メカニズム(CDM)などの
対象に組むことも可能です。実現すればプロジェクトに経済性が付加され、単なる社会貢
献活動の枠を越え、ある種の投資対象として環境貢献活動に新たな企業の参入も期待され
ます。先進国は伝統的な社会から発展し、大量消費社会へ、そしてリサイクルの推進や地
球市民的な意識の向上など、成熟した社会へと近づいてきました。次に目指すのは持続可
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能な社会ですが、途上国がこれまでの先進国と同じ道をたどっていけば、地球はその限界
を超え破綻してしまいます。先進国は急激な経済成長の過程で誤ってきた経験を踏まえて、
途上国に対してこれ以上ツケを押し付けることなく、持続可能な社会に向かって発展する
ことを支援しなければなりません。そんな中で、一企業のできること、一個人ができるこ
とを模索していかなければいけません。
石油は人類に大きな恩恵をもたらしてきたと同時に、大きな負担も残してきました。物
質的な豊かさの追求が地球環境に負担を強いるという事実を、私たちは過去から学びまし
た。こうした負の側面を可能な限り軽減し、次の時代に真の豊かさとして引き継いでいく
ことが、石油に向き合いながら 21 世紀を生きる私たちの責務であると考えています。コス
モ石油は地球のために今できること、今すべきことを一つずつ始めています。
<ビデオ終了>
企業が率先して支援に取り組むことで、ODA
ODA をさらに引き出すことが必要
企業が率先して支援に取り組むことで、
岡部
コスモ石油のマークはご存知かと思いますが、一番外側が地球、優しい緑を想定し
て、その内側には青い空、宇宙を想定しています。そしてエネルギー、赤を想定して、そ
して中心に純白なコアのわが社を想定するという非常に環境にふさわしいマークだと自信
を持っています。今ビデオを見ていただいて、「こんなことならもっと国でやるべきじゃな
いか」という感じがあるかとも思いますが、国にはいろいろな制度、約束事、いろいろな
問題があるので、まずはわれわれ企業ができるところからやることによって、政府の支援
制度、支援政策というものを引き出していく。そして輪を広げ、力をつけていくというこ
とが非常に大事だと思います。
たまたまこのプロジェクトに関しては、今日私の補佐をしていただいている桐山浩氏と
河田聡史氏を伴ってきています。今ビデオの中に出ていたご本人です。河田君は 13 年前に
早稲田大学を卒業して私の元に来たわけです。ODA という日本の発展途上国支援制度は皆
さん、ご存知でしょう。その中には無償制度も無償補助的な支援もあれば、いろいろな技
術支援もあり、あるいはお金を貸すこともあります。銀行のように高い金利で短い期間で
回収するのではなく、できるだけ長くゆるやかに返済猶予をしながら対応していくという
制度です。その ODA による技術支援の中に青年海外協力隊というものがあります。河田君
は「これをやりたいから会社を辞めさせてくれ」と言ってきたのです。私どもの会社は残
念ながらこうした状況に対応できる制度がなかった。そこで早急に私の一存で制度をつく
って、休職扱いにして青年海外協力隊として行きました。これは決して会社の損失ではな
い。むしろ人材を失うことのほうが損失で、休職期間は政府のほうから ODA 予算で人件費
の一部補填もしていただけます。彼は今ビデオに出ていたソロモン諸島に1年以上出かけ
て、マラリアにかかりながら現地で一つの村落の形成に貢献したというすばらしい経験の
持ち主です。
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ソロモンにそういう取っ掛かりがあったということと、そしてもう一つは、私自身も環
境問題にずいぶん前から関心があり、そういう中で温暖化問題が浮上してきた。特にオラ
ンダのように非常に陸地の標高が低いところももちろんですが、太平洋のソロモン諸島の
北東にキリバス共和国、ナウル共和国、ツバルという島嶼国があるのですが、この辺の島
は非常に小さくて、そして海面が温暖化のためにどんどん上がってきて、今や国ごとなく
なりそうだということで、オーストラリア、あるいはニュージーランドに移民を申し出て
いますが、今なお、解決できていないという厳しい状況にあるわけです。そういうものを
見てきたということ。そして先ほどのビデオにもありましたが、太平洋州の外務省の局長
にも知己があり、いろいろとお話する機会もあったということも含めて、なんとかわれわ
れの力の範囲内で着実に、地道にやることはないかということを考えていったときに、こ
の熱帯雨林と温暖化に関連した問題というのは非常に大事であり、その被害を非常に被っ
ている太平洋の小さい島々に対して目を届かしていくということは、地球貢献としても大
事な問題だろう。先ほどのビデオの中で労力と時間と申し上げましたが、決してそれはわ
れわれ日本のような高い労力ではなく、奉仕的な現場の労力ですし、時間も現場としての
一致団結した一つの時間の提供ですし、派手なことをやっているようですが、あの精米機
の小屋をつくっても 500 万円もかからないという、ささやかな援助ということでスタート
しているわけです。われわれ企業が派手にものを使って、企業の損益を無視してやってい
るということでは全くない。むしろこういうきめ細かな対応を実行しながら、国の支援を
もっと引き出していくということが大事です。
ODA に関しては、
日本では今1兆 2,000 億円程度使っています。日本もかつては後進国、
発展途上国だったわけです。そのときにヨーロッパのドイツを中心にしてマーシャルプラ
ン(ヨーロッパ復興計画)というものがあり、アメリカは経済規模の2%程度のとてつも
ないお金を援助してヨーロッパの復興にあてました。日本の場合は、ガリオア資金
(GARIOA=Government Appropriation for Relief in Occupied Area Fund)やエロア資
金(EROA=Economic Rehabilitation in Occupied Area Fund)ということで、むしろア
メリカの軍事予算を中心にして助けていただいたということが、今日の繁栄の礎になって
います。そんな中で ODA1兆 2,000 億円というのは、国民経済の規模からすると 0.2%と
いうことで、かつてのアメリカが欧州に出したマーシャルプランの 10 分の1にも満たない
金額です。それでも絶対枠として1兆 2,000 億円ということです。
ODA について若干触れると、日本の場合は今アメリカを抜いて世界一です。しかし、全
く無償でやるという分については、フランスや北欧の国に劣るということです。日本の場
合なぜ非常に大きいのかというと、中国を中心にして有償の貸付をやっているからです。
長い据置期間、低金利、返済期間も超長い。これを Grant Element(GE=援助条件の緩や
かさを表示するために使われている指標。商業条件の借款は GE ゼロ%とし、条件が緩和
されるに従って GE の%が高くなる:事務局注)という言葉で言い、普通銀行でやる貸付
は 25%グラント・エレメント比率になっていて、いろいろな要素による計算によってグラ
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ント・エレメントの比率が 60%を超えた場合は、これは ODA 支出であるとみなすという
ことで、それを計算して入れることによって日本の場合は大きいのです。中国も経済大国
になりつつある状況の中で、「なぜあのようなところにそういうお金を?」と私は疑問を持
ちますが、それはそれ、これはこれということで、われわれがささやかなこういう運動を
展開することによって、ひいては ODA の予算を引き出すということによって政府も借りる。
そういうことも非常に大事だと思います。
一人一人が意識を持つことで CO2 を削減して達成に貢献
温暖化の問題と熱帯雨林の問題について少し触れますが、熱帯雨林は言うまでもなく生
物種の宝庫です。ところが人口が増えていくと、彼らはこれを焼いて、土地の肥えた間に
やるから肥料もいらないので非常に効率的で、点々とする間にまた復元されれば、それが
また回転して焼き畑農業に使っていけるということになるのです。しかし、残念ながら人
口がどんどん増えていくと、次々と焼き畑、焼き畑というかたちでやっていくことになり、
果ては先ほどご紹介したように熱帯雨林の破壊、つまり回復よりも消費のほうが大きいと
いうかたちの中で、熱帯雨林は尽きていく。そういうことによって生態系も大きく変わっ
てくるし、人口の増加によるいろいろな悲劇も起こってくるということです。
と同時に、熱帯雨林という CO2 の宝庫です。これがあることによって、かなりの量の地
球上の CO2 がここで貯められているのです。ところが、われわれは経済活動をやる。山火
事が起こる。どんどん人口が増えていくために次々と焼き畑農業によって熱帯雨林を破壊
していくから、結局はそれが燃えて CO2 になってしまう。ますますそういった人口増加に
関連したわれわれの日常生活、生産活動の中で CO2 は吐き出されている。それが地球温暖
化につながる。今の状況のままで行けば、100 年後には地球の温度が 1.4∼5.8℃くらいまで
の幅で上がっていく。海面も 10cm 弱から 50 ㎝強まで上がっていくという危険を、国際的
研究機関である IPCC の中で出されて警鐘が鳴らされています。
そういう状況ですので、われわれはそういうものを踏まえて考えていくと、熱帯雨林は、
貧困という発展途上国に対する手を差し伸べるだけの問題ではなく、大きくは地球温暖化
の問題にもつながるということで、冒頭申し上げましたように、ささやかなプロジェクト
としてスタートはしておりますが、その持つ意義なり、効果なりというものは非常に大き
いものであると確信しています。
さて、温暖化の問題ですが、京都議定書という言葉は皆さんもご存知でしょう。日本も
含めて地球全体(加盟国)で、CO2 発生量を 1990 年比で 5.2%削減していこうという計画
です。これは一応、約束にはなりました。日本は6%、アメリカは7%、ヨーロッパは8%
の削減、ロシアはプラスマイナスゼロ、オーストラリアは+8%、カナダは5%の削減で
す。ヨーロッパの場合は1国ごとではなく、EU としての共同歩調を取っているので、ポル
トガルのように 27%増えてもいいというところもあれば、自信があるのか 21.5%ほどにや
っていくというドイツ、石炭を大きく落としていく自信があるのかイギリスは 12.5%。そ
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ういう中でヨーロッパ全体が8%ということです。
ただ、1990 年比というのがやっかいなことで、日本はそこまでにすでにエネルギーの改
善を相当果たしてきたにもかかわらず、そこからのスタートですが、ヨーロッパの場合は
それ以降で急激なエネルギーの省エネが行われたということでは、先進国の数字合わせの
範囲内においては、ヨーロッパは有利だという問題があります。ただ、先ほど申し上げた
ように、酸性雨がヨーロッパ地区全体を覆った環境問題に対する地域全体の意識の高まり
から、今回の問題は非常に団結が固いということですが、日本の場合も少なくとも6%の
対応については閣議決定もして、その方向でということにはなっています。
日本の6%を紐解いていくと、
産業活動等における、本流における CO2 問題がやっと 1990
年に比べて±ゼロにしよう。そして、植林によって吸収する 3.7%で稼ごう。そして、排出
権、あるいは CDM といって開発途上国に対して先進国が手を差し伸べることによって、開
発途上国でのある計算による CO2 の発生量を抑えたものを先進国の抑制の勘定に挙げてい
こうということによる CDM という問題や、あるいは大きな余力のあるところが足りないと
ころから買ったりする、市場を形成することによる排出権取引によって賄っていこう。亜
流のところで日本は考えていかなければ、今現実に日本の場合は約3億t近い CO2 の炭素
換算発生量がありますが、半分はほぼ産業界です。あとの半分は家庭用や輸送用、あるい
はビルの業務用というかたちで発生していて、そちらのほうは残念ながら 1990 年に比べて
10%増えているのです。それで全体としてすでに今6%を越えています。そうすると6%
のマイナスということは、日本としては差し引き 12%も国際約束を果たしていかなければ
いけない。かなり大きなノルマがあるわけです。そうなると、「皆さん車の走行距離を節減
しなさい。車は一家に1台にしなさい」などということで生活を規制することはまた大き
な問題ですが、しかし、それぞれの国民一人一人が意識を持つことによってある程度の環
境問題に対する日本としてのノルマ達成に対する貢献はあり得ると思います。
アメリカの場合は、実に 1990 年に比べて相当増えている。今地球全体の CO2 の発生量
は 60 億tで人口と同じくらいです。その中でアメリカは 23%ですので、実に4分の1ほど
発生しています。中国が約 14.5%です。ロシアが約7%、日本が5%、ヨーロッパ全体だ
と約 13%です。その他をひいて発展途上国だけで 22∼23%ですので、アメリカ並みにある
のです。そうすると、先ほど言ったような「人口が増加する。生活環境はなかなか変えら
れない」という状況で考えると、22%は簡単に増える。それだけにわれわれがどのように
発展途上国に手を差し伸べるかが大事です。そのときに、発展途上国は「お前ら先進国は
大量生産、大量消費、大量廃棄で勝手なことをやって、贅沢をやって今の生活ができてい
るんじゃないか。われわれにはそれを押さえつけているのか」ということにもなるのです。
われわれ先進国は、例えば固定電話方式を通じて携帯電話につながっていったという一
つ一つ発展の階段を上ってきたわけですが、彼らには固定電話のステップを踏まずに携帯
電話というより上位の発展段階へショートカットで進んでもらった方が地球環境への負荷
は小さくなります。それをいかに実現する過程で先進国の知恵、技術支援、資金支援が重
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要になります。発展途上国にも応分の豊かさを求めてもらうように持っていくことは、わ
れわれとして大事な問題ではないかと思います。
先ほど温暖化の問題についてお話しましたが、温暖化というのはなかなか明確に規定す
ることが難しい問題です。しかし、大勢としてはやはりわれわれの生活環境の中における
CO2 の発生が温暖化の原因である。それと同時に、温暖化によって気候条件が変わる、雨
季が変わる。そういうことによって生物の生態も変わってくる。そして海面が上がってく
る。そういう問題についての地球全体の被害は、予測というよりも現実の脅威で、温暖化
の問題については冷厳に受け止める必要があると思っています。それだけに、日本も一つ
の約束を果たしていかなければならないけれども、先進国の数字合わせになるのではなく、
発展途上国にいかに手を差し伸べていくか。ひいては ODA といった日本の国力、国のバッ
クアップを引き出していくか。それによってより大きな運動を展開していくことが、今後
のわれわれとして大事な問題であると思っています。
経済の血脈である石油を中東依存している日本
さて冒頭、私は石油人ということを申しました。そこで、これをご覧下さい。これが岩
層です。水のような状態、海水のような状態で油も地層にあるとお感じだと思いますが、
これは全くの間違いで、こういう岩石状の中に油があります。実はジュラ紀、白亜紀とい
って今から、5,000 万∼1億年前に植物や動物の遺骸等が川に流れてきて、下流、入り江、
沿岸、沼などに堆積されていく。そして、地熱、地圧、バクテリア、そういうものによっ
ていろいろなかたちでつくられながら炭化水素になり、最終的には石油になっていくので
す。
河口などで出来上がった石油はそのままの状態ではなく、当然流動性があるのでさらに
地熱、地圧を受けながら動き回り、最終的にはどこにも行けないところに落ち着いたとこ
ろが、いわゆる石油の鉱脈ということです。世界全体で見ると、コーカサスからカスピ海
を通って中東に行って、インドを経由してインドネシアからオーストラリアに至るライン
が一番大きい鉱脈のラインと言われています。もう一つは、縦にアラスカから北米を通っ
てメキシコ、ベネズエラからアルゼンチン、その他南米に至るラインが二番目に大きな鉱
脈です。それに加えてウクライナからシベリアの鉱脈。この三つが三大鉱脈と言われてい
て、それ以外のところにはなかなか見つけにくいという状況の中で、現状はほとんどメジ
ャーがこれを制圧したり、あるいは中東においてはほとんど中東の国がこの油田をおさえ
ているという状況です。
地中 100m ごとに4℃ずつ温度が高くなっていきます。石油が存在するのは 60∼120℃
程度ということですので、4℃ずつで割ると 1,500∼3,000m、それからさらに深くなって
3,500∼4,000m くらいのところにも油は潜んでいます。石油が潜んでいる鉱脈や地質構造
をどうやって見つけるかということについては、炭鉱の技術が最近発達しているので昔ほ
どリスクはありませんが、実際に油があるかどうかはやはり掘ってみなければわからない。
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ありそうな鉱脈、地層を見つけたら、そこを掘っていくことによって初めて油がどの程度
の状態で、どのように出てくるかということがわかる。そういうことですので、依然とし
て油田の開発についてはお金とリスクと時間がかかるという問題があります。
われわれ日本は、現在、石油の 99%を中東に依存しています。昔、日本では日本書紀の
中に「もゆる水」という言葉もありましたし、江戸時代では臭いから「臭い生える(はえ
る)水」ということで「くそうず」という言葉もありましたが、その後、石油に名前が変
わっていって、日本の歴史の中でわずかではあるけれども油はありました。しかしながら、
結果的にはほとんどわれわれの生活の糧である、経済の血脈である石油は中東依存です。
現在まで世界全体で2兆バーレルの原油で発見されて、われわれ人類は1兆バーレルほ
ど使い切りました。あと1兆バーレル残っていると言われています。鉱脈に存在する石油
の内、自噴圧で出てくるのは 10∼15%にしかすぎません。そこで、これに水やガスを入れ
圧力をかけると、回収率が高まります。それでも 30%∼40%程度しか回収できません。最
近では技術の進歩によって条件次第では 50%近い回収ができる例もあるようです。いずれ
にしても半分は地下に眠ったままですからもったいない話ではあります。
今のところ、石油の寿命は 40 年程度、天然ガスについては 60 年程度、石炭については
200 年以上、ウランについても 70 年以上といわれています。石油について言えば、回収率
が上がったり、あるいは自動車の燃費が今の倍になったらガソリンの消費量は半分ですむ
という、消費の側の要因もあるので、必ずしも石油の寿命が言われている通りかどうかわ
かりません。ただ、基本的には有限であるということは認識しておく必要があると思いま
す。
宿命的にネガティブな企業から環境先進企業へ
化石燃料を使えば、どうしても CO2 を発生します。われわれは、利便性が高く、できる
だけ環境に優しい石油製品を皆さんにお届けすべく最大限の努力をしています。しかしな
がら、宿命的に CO2 を発生させる企業であることには間違いないということで、地球温暖
化という一番大きな地球のテーマには、残念ながらネガティブな企業です。それだけに、
われわれはネガティブな部分を少しでも和らげていくことが必要であろうと考えます。こ
れからはグリーン・コンシューマーが増え、企業にはグリーン・マネジメントが求められ
ます。消費者が商品やサービスを購入する際に、環境問題に熱心な企業かどうかというの
が重要な判断基準になりつつあります。確実にそうなるはずです。それだけにわれわれは
営業、広報、技術開発、社会貢献などあらゆる企業活動に環境というファクターを取り込
んでいこうと考えています。
当社はコスモ・ザ・カード・エコというクレジットカードを発行しています。カード会
員の皆様から寄付をお預かりし、売上に応じた当社からの寄付金を合わせて基金を作りま
した。基金から様々な環境貢献活動を支援していますが、我々とお客様と一緒になって環
境問題に対応していこうという趣旨です。
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また、原油生産の現場では石油に随伴するガスが大量に出てきますが、従来は燃焼させ
て処理していました。昨年から、その随伴ガスを燃やさず油層に戻しています。これは原
油の生産効率上昇にも寄与するので一石二鳥と言えますが、投資に膨大なお金がかかるの
と技術的にも決して簡単ではないのでこれまで世界中でほとんど行われていませんでした。
このプロジェクトは世界でも先駆け的なプロジェクトとして現地の UAE 政府を始め、様々
なところで高く評価されています。
CO2 を発生する化石燃料のネガティブな側面を極力抑制していきたいと考えています。
企業の中におけるあらゆる活動を見直して、環境への影響を考慮しながら対応していこう。
例えば、広告宣伝も環境問題を取り入れてやっていけばいいではないか。あるいは音楽会
や子供達を対象にした野外活動にテーマとして環境問題を取り上げる。必ずしも新たな取
り組みでなくても、従来の活動の中で地道に、着実に、環境という概念・理念を入れて企
業活動全体を見直していけば、無理のない環境活動ができるのではないかと私は考えてい
ます。
社内では環境先進企業を目指そうと言っていますが、マラソンに例えれば、まだレース
は序盤で、決して上位ではなく中位以下かもしれません。しかしながら、レースの終盤で
は群を抜いて先頭を走ろうと考えています。環境企業を目指そうということですので、今
会社の中では環境というボールと、発想の転換、斬新的な従来にとらわれない考え方とい
うことで、つまり環境と革新というボールを投げ合って、そのボールを受け止められない
もの、投げられないものは会社から去って下さい、と厳しく言っています。
いろいろと申し上げましたが、質問の時間もありますのでこの辺で私のお話を終わらせ
ていただいて、あとはご質問を受けながらお話できればと思っています。
余談ですが、最後に一つ。私は中東に年に3∼4回行くのですが、今行くと気温は 40℃
以上です。中東と言うとまず砂漠を連想されるかもしれませんが、砂漠ばかりではなく大
都市や緑のすばらしいゴルフ場もあります。さらに余談ですが、ラクダはなぜあんなに砂
漠の中で悠然生きていけるのかご存知ですか。ラクダというのは背中以外には脂肪はない。
背中の脂肪が栄養の宝庫で、そこからある化学反応によって水分を出しているそうです。
あのこぶは絶縁体であり、日よけになってもいる。普通の哺乳類は定温動物だけれども、
ラクダは体温が 34∼40℃程度の範囲で変化する限定変温動物であるというような特殊性も
あるそうです。中東というところは非常に遠いようでわが国と密接な関わりのあるところ
です。皆さんにも中東にも関心を持っていただきたいと思います。
今まで日本との間に直行便がなかったのですが、やっとこの 10 月から関西空港とドバイ
との間に直行便ができました。ドバイは、バーレーン以上の国際商業都市です。すでに世
界中の多くの国々から 2,000 社以上が進出し、日本からもすでに 130 社が進出していると
聞いています。高速道路、ホテルなどのインフラや緑化も進んでいます。
中東をめぐる情勢は様々な不安定要因を抱えています。イスラエル・パレスチナ和平、テ
ロ、米国によるイラク攻撃懸念、不安定なサウジ王制など。しかし、われわれは中東以外
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から原油を調達することはできない。そして、日本のエネルギー供給に占める石油の比率
は 50%以上でその比率は今後とも簡単には下がらないということを考えると、自ずから中
東の重要性は理解していただけると思います。中東との関係をわれわれから若い世代につ
なげながら資源外交というかたちで、石油に限らず文化、教育、経済に至るまでの多面的
なつながりをつけていくということが、非常に大事であると思っています。
以上で私の話を終わらせていただきます。ありがとうございました。
学生
二つお聞きしたいのですが、まず経団連で企業収益の一部を環境問題にあてるとい
う「1%クラブ」というものがあると思うのですが、そちらの会社ではどのくらいのパー
センテージを貧困問題、環境問題にあてているのでしょうか。そして、これからどのくら
いまでを目指そうと思っていらっしゃるのでしょうか。
岡部
社会貢献、環境問題など短期的な収益に直結しなくても企業が取り組んでいかなけ
ればいけない課題は数多くあります。そう言う意味で、経団連の「1%クラブ」の姿勢に
は賛同しますが、我々は単にお金を出すというだけではなく主体的に様々な活動に関わっ
ていきたいと思っています。寄付だけを区別して目標を立てたり、金額を把握してはいま
せん。
学生
もう一つですが、先ほどのビデオでこれから環境問題や貧困問題を考えていくとき
には、政府と企業と NPO の関わりが必要であるとありましたが、私も本当にそれは大切だ
と思うのですが、その三つのファクターの中で一番今進んでいないのが企業だと私は思っ
ています。今回、御社の話を聞いてこんなにすごい会社もあるのだと感銘を受けたのです
が、やはりほとんどの企業ではまだまだそんなには進んでいない状態だと思います。先ほ
どおっしゃっていたような、一人一人が一地球市民だという考えがまだ企業にはないと思
います。これからそういう他の企業にも、そういった意識を広めていくためには、どうい
うことをしていけばいいとお考えですか。
岡部 一つは、先ほど言いました宣伝活動の中で PR していくこともありますし、また、今
ビデオでご紹介したような熱帯雨林の問題をいろいろな雑誌、その他で紹介しながら波及
効果を狙っていくという問題もあります。私は先ほど「環境を考える経済人の会 21」に参
加していると申し上げましたが、それとも関連して随所でいろいろなところで講演をさせ
ていただいています。当社の環境室長を派遣して他の企業でお話をさせていただくことな
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どもあります。こういう問題は、お金をかけて大仕掛けにやる前に個々の企業ベースでき
めの細かい草の根的な活動が必要だと考えています。
学生
二点お聞きしたいのですが、私も石油工学などを勉強しているのですが、近年石油
公団が解体されるという話があります。中東に関して国営企業やメジャーが幅をきかせて
いるという話でしたが、なぜ日本で和製メジャーができないのかという話をお聞かせ願い
たいと思います。
もう一点は、最近電車の中で石油連盟のポスターを見かけるのですが、石油に対してす
ごい税金がかかっているという話ですが、その件に関してはどうお思いですか。
岡部
前半の問題ですが、昨日、参議院で2時間ほど今おっしゃった公団法の廃止、改正
の問題についての議論がありました。そこで私と、早稲田大学の森田先生とジャーナリス
トの3人が、参考人として呼ばれていろいろと話し合いをしました。そんな中で和製メジ
ャーを育成していくべきだというような発言もありましたが、基本的にメジャーの場合、
長い歴史の中で開発から販売まで手がけて今日があります。今、メジャーは半期で 5,000
億円、年間で2兆∼4兆円の利益を上げていますが、収益のほとんどは上流部門で上げて
います。
残念ながら日本の場合はそうではなかった。石油ショック以降、急遽これではいけない
ということで国のバックアップ体制として、税金の一部に石油税というものがあり、それ
を一部そういった原油開発財源にあてていくということで、国がある程度の支援をしなが
ら開発をしてきたわけですが、後発の日本が参入できるような大規模油田は、残念ながら
ない。例えば、今カスピ海あたりがイラン、ロシア、アゼルバイジャン、トルクメニスタ
ン、カザフスタンとの間で囲いながらの取り合いになっていますが、流通手段もなく日本
へ直接持って来ることは困難です。中東はほとんど自分の国で原油を生産しており、わず
かにアブダビ、カタールなどが門戸を開いてわれわれに油田を提供しているというかたち
です。このような状況で和製メジャーを育成するというのは至難の業です。
今回の石油公団の廃止、新しい体制の中で石油開発に対する国の支援は縮小される見通
しです。既存の小さい会社、油田を統合しながら、少しでも規模の大きい会社に仕立て上
げていく方向ということは必要だと思います。しかし、残念ながら今のところ和製メジャ
ーどころの騒ぎではないという状況にあります。
税金の問題ですが、今5兆円を越える税金を石油業界は払っていますが、その大半は道
路特定財源としてヒモ付きで使われています。今ガソリンを 100 円でお買いになるとする
と、半分以上の 60 円が税金です。非常に高率なのでわれわれとしてはなんとかこの税金を
軽減したいと思うのですが、国の財政状態が厳しく、また、道路側の反対もあり、簡単に
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は減税もままなりません。危機的な財政状態であるということを考えると、今すぐ減税す
るというのも非現実的かもしれませんが、これ以上の増税は許容できないと思っています。
今、環境税の論議も盛んですが、ややもすると環境に名を借りて、国の官公庁が自分の縄
張りの財源を増やそうという動きもあります。道路建設は無駄も多く、緊縮化する余地は
あると思います。それによって、少しでも道路に使うガソリン税の軽減にもつながってほ
しいということを折に触れてお願いしているところですが、これもなかなか国のガードが
固く、思うに任せないというのが現状です。それだけに、なんとか国民の皆さんの声、例
えば署名運動などを借りながらこの問題に今後取り組んでいきたいと思っています。
北山 税の問題で、今のご発言の中にもありましたが、おそらく CO2 の排出削減というこ
とで炭素税ということが政府の委員会、研究会の中で提言されていますが、その問題につ
いてもやはりそう簡単には受け入れがたいというご発言だったかと受け取りました。
岡部
環境対策や環境税の必要性を否定しているのではありません。現在の政府予算の中
に効率化、緊縮化する余地があるので、まずはそこから手をつけるべきだと考えています。
「まず増税ありき」の議論は避けるべきだということです。
北山
増税ではなく、内容の環境へのシフト、あるいはその使い道をきちんと考えるとい
うような発言であったと思います。いろいろな企業がありますが、岡部会長の発言の中で
「石油会社というのは環境に対してネガティブな影響を与える事業だ」というお話があり
ました。しかしわれわれの生活を考えてみると、石油、ガソリン、灯油、これがなければ
生活は成り立たない。そういう意味で石油会社が環境問題にどのようにポジティブな姿勢
で取り組むのかというのが、この環境問題を考えていく上では大きな課題であろうと感じ
ました。岡部会長どうもありがとうございました。
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