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1 研究主題 富山市立豊田小学校 教諭 坂本典子 1 はじめに ボールを用

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1 研究主題 富山市立豊田小学校 教諭 坂本典子 1 はじめに ボールを用
研究主題
仲間との関わりを大切にしながら、意欲や思考力を高める体育学習
∼第3・4学年 ネット型ゲームの実践を通して∼
富山市立豊田小学校 教諭 坂本典子
1 はじめに
ボールを用いたゲームや運動では、子供たちに仲間と力を合わせて競争することの楽しさや喜びを味
わわせることで、
「運動を楽しみたい」
「もっと上手になりたい」
「仲間を応援したい」という意欲を高め
たり「どんな規則なら自分にもできるかな」
「相手チームに勝つために作戦を考えたい」という思考力を
高めたりすることができる。
このことを意識しながら、高学年を担任した時、ボール運動の授業に取り組んだ。しかし、高学年で
は一人一人の力の差が大きく運動を得意とする子供たちが中心となってパスを回したり作戦を立てたり
する姿ばかりが目立った。また、運動は苦手であってもチームで作戦を立てる場面では自分の思いを表
出できると考えていたが、なかなか作戦が思い浮かばずに意見を出すことができない子供の姿も見られ
た。
ただ、このように考えてみたときに、
「運動が苦手だから作戦を立てることができない」のではなく、
「運動の特性を十分理解できない」
「これまで作戦を立てた経験がない」などの理由があるのではないか
と思われた。それは、これまでの学習において考えて動くことや、意欲を高めて活動するといったこと
が系統立てて積み上げられておらず、子供自身が考えを構築する素地が十分に培われてはいないように
考えられたからである。このことから私は、改めて子供にとって系統性を踏まえた学習が大切であると
考えた。
今回、ゲーム領域における系統性を考えた際、低学年では、ボールゲーム(ボール遊び・ボール投げ
ゲーム・ボール蹴りゲーム)を学習するが中学年でネット型ゲームに発展する学習はない。そのため、
中学年での学習がそのまま高学年に生かされていくことになる。そこで、中学年で初めて学習するネッ
ト型ゲームにおいて、仲間と関わる中で、子供たちにはボールをつなぐことやゲームの特性を理解して
作戦を立てることなど様々な経験を積み重ねさせたいと考えた。そしてその中で子供が学習への意欲を
高め、考えを深めていく姿を期待した。
このような考えに基づき研究主題を設定し、これまで取り組んできた2つの実践をもとに主題の解明
に努めたい。
2 研究の仮説
【仮説1】
子供の高まる姿を想定しながら単元を構想し、教材や学習の進め方、手立てなどを工夫すること
で、子供は楽しみながら意欲的に学習活動に取り組むようになる。
1
【仮説2】
子供同士のかかわりが生まれる場の設定や言語活動の工夫を行うことで、子供は仲間との学び合
いにおいて、思考力・判断力を発揮し、主体的に学習に取り組んでいこうとする。
3 実践事例とその考察
今回、研究を進めていくにあたり、2つのネット型ゲームを構想した。
【実践事例1 平成26年度 第3学年 「つないでアタック!フロアボール」
】
初めてネット型ゲームに取り組むにあたり、ボールを床に転がしながら、
「レシーブ、セット、アタッ
ク」の連係を学習するフロアボールを教材とした。
【資料①−1・2】フロアボールでは転がるボールを
操作するので、運動の苦手な子供も安心してゲームに取り組むことができると考えた。また、その安心
感から、ボールを操作する際の構え方や体の移動の仕方など基本的な動きの習得や、相手からの返球に
どう対応するかについて考えたり、仲間と作戦を立てたりする楽しさを知ることで、意欲や思考力を高
める基礎を身に付けることができると考えた。
【実践事例2 平成27年度 第4学年 「つないでアタック!プレルボール」
】
3年生においてフロアボールを経験した子供たちが、4年生ではどのようなネット型ゲームを学習す
ればよいのかについて考えた際、既習経験を基にできる教材を選ぶことを大切に考えた。それは、ゲー
ムの特性を理解しているからこそ、ボール操作に集中したり作戦を立てやすくなったりすることで、子
供たちは意欲や思考力をより高めて学習に取り組むことができると考えたからである。
このことから、今回フロアボールが床を転がるボールを操作するのに対して、バウンドするボールを
操作するプレルボール【資料②−1・2】を選択した。そこには、ボールをバウンドさせてゲームを進
める点は異なるが、
「レシーブ、セット、アタック」の連係やボールを追いかける動きはフロアボールの
動きとほぼ同じであることをから、子供たちにとって見通しをもって学習に取り組むことができるとい
う教師の思いと、バウンドの数やボール操作の仕方など規則の工夫次第で子供たちが考えを深めること
ができるゲームが期待できるという教師の思いがあった。また、本単元は、低学年・中学年の「E ゲ
ーム」の学習の集大成に当たり、授業を展開する際に教師は「子供自身による規則の工夫」を中心に据
えて子供たちがつくるゲームを大切にしながら取り組んだ。
このように系統立てて学習を進めていく中で、基本的なボール操作や仲間と作戦を立てる経験を通し
て、意欲や思考力を高めた子供たちの姿から仮説について検証していく。
(1)
仮説1について
子供の実態に合わせた教材・教具、規則の工夫や学習課題の提示を行うことで、どの子供も楽しみな
がらネット型ゲームの学習に取り組んでいった。この姿から意欲的に学習活動に取り組む子供の高まり
を考察する。
2
【実践事例1 第3学年 「つないでアタック!フロアボール」
】
① どの子供も楽しむことができる教材の工夫
全ての子供がボールを操作し、
その楽しさを味わうことができるように考えて教具や規則を工夫した。
【資料①−1】ネット型ゲームは、空中にあるボールを操作することが多い。空中にボールを動かすゲ
ームの場合、子供はボールの進行方向や距離、速さ、高さを考え、ボールが当たった時の痛さを心配し
ながら動くことが予想される。本単元では、床の上にボールを転がし、ネットの下を通すことにした。
このことで、子供はボールの進行方向と距離、速さについて考えればよく、空中にあるボールを操作す
るよりも平面にあるボールを動かすゲームの方が子供の学習への抵抗感が少なくなると考えた。
A児は、運動がとても苦手と思われる子供である。しかし、本単元においてA児は「フロアボール」
の特性を理解し、チームの仲間とゲームを楽しむことができるようになった。それは、この「フロアボ
ール」の規則との関係が考えられる。
初めてのネット型ゲームの学習において、まずはラリーが続くゲームになるようにしたいと考えた。
それは、ラリーが続くことで、
「どちらが点数を決めるか分からない」という楽しみと「相手チームに何
としても勝ちたい」という気持ちが強くなるからである。このことで子供にとって仲間と協力しなけれ
ばパスをつなぐことができないという状況が生まれ、
子供たちはより意欲的に運動に取り組むと考えた。
そのためには、ボール操作を工夫する必要があると考えた。そこで、特にボール操作について、子供が
運動の特性を理解し、安心してゲームに取り組めるように以下の2つの規則を提示した。
この規則によりできるようになった経緯をA児の姿からみていきたい。
【資料③】
安心してボール操作できる規則①:
「ボール操作は両手または片手で行い、転がしてボールをつなぐ」
導入時はどの子供もどのぐらい力を入れて「レシーブ、セット、アタック」をすればよいか考えなが
ら運動に取り組んでいた。そのため、ボールもゆっくり転がり、A児にとってもボールに追いつきやす
く、転がるボールの正面に立って両手でボールを打つことができた。また、ボールを両手で扱うことが
できるので、安心して打つことができることと、思う方向にも返すことができた。以下に示すのは導入
時のA児のワークシートの記録である。
<導入時:A児のワークシート>
フロアボールは簡単で僕にもできそう。でも、相手からきたボールをそのまま相手コートに返し
てしまったので、次は「レシーブ、セット、アタック」の3回でボールを返せるようにしたい。
ワークシートにもあるように、導入時から「僕にもできる」と自信をもたせることや運動への抵抗感
をなくしたことがA児にとって安心感につながり、これから始まる学習への意欲につながった。
安心してボール操作できる規則②:
「3回で相手コートに返球すること。その際、一人1回必ずボール
に触れること」
3
コートに立つ人数を3人にし、
「3回で相手コートに返球することと、一人一回必ずボールに触れるこ
と」という規則を設けた。このことで、どの子供も必ずボールに触れる機会ができるとともに、
「レシー
ブ、セット、アタック」の役割を一人一人が担うこととなる。子供たちには、
「レシーブ、セット、アタ
ック」というそれぞれの動きを経験しながら、ゲームにおけるその役割についても考えていくことがで
き、その中で、ネット型ゲームの楽しさを味わわせたいと考えた。
2/8時の学習において、A児は「ボールに最初に触るのはレシーブ、2番目はセット、3番目はア
タック」という、ボールをつなぐには役割があることを理解し、自分が「何番目で何の役目か」をゲー
ム中に判断してボールを操作しようと考え、実際に行動することができた。このとき、A児は次のよう
な感想をもっている。
<2/8時:A児のワークシート>
強いアタックをすることができた。でも、レシーブの時、コントロールが上手くできなかった。
この日のノートで、A児は「レシーブ、セット、アタック」それぞれの役割でできたこと、できなか
ったことを振り返っている。これは、ゲーム中に自分がどのように動いているか分かっている証拠であ
ると考える。また、3/8時にはボールを転がす位置についても考えている。
<3/8時:A児のワークシート>
Bさんが取りやすいボールを転がすことがあまりできなかったので、もっと早くボールにたどり
着いて転がせばよかった。もっと頑張ろうと思った。
A児のチームには、運動が得意なB児がいる。B児は強いアタックをすることができるため、A児は
B児にボールをつなぐためにどこにボールを転がせばよいか考えながらゲームに取り組んでいることが
分かる。このA児のように、運動が苦手と思われる子供であっても、規則を工夫することによって単元
の導入時から抵抗なく安心して運動に取り組むことができた。また、安心して運動に取り組むことで、
教材のもつ特性についても考えてきている。
このように、子供にとって「これならできそう」と感じ、実際に取り組んでみることで「もっとうま
くいきそうだぞ」と感じることのできるような教材を設定することで、子供は意欲的に学習に取り組み
ながら、技能や思考力を高めていくことが分かった。
② 意欲を高めることができる課題提示 ∼「つなぐ」を意識させた単元との出会い∼
ゲーム領域におけるボールを用いたゲームでは、仲間とボールをつなぐことがとても大切な技能であ
ると考える。それは、低学年では、味方同士でボールをつなぐゲームは位置付けられておらず、中学年
で身に付けた技能がそのまま高学年に生かされていくからである。
また、
「つなぐ」という言葉には、パスをつなぐという運動技能だけ
みんなにパスをする
でなく、
その技能を生かす仲間との関わりも含まれていると考えた。
そこで、単元導入時、
「つなぐとはどういうことか」と子供たちに
4
つなぐとは
心をつなぐ
応援する
投げかけた。すると、子供たちは「みんなにパスをすること」
「心をつなぐこと」
「応援すること」と答
えた。また、
「アタック」という言葉からも、すぐに「バレーボールみたい」とイメージを膨らませ、第
一触球者の動きを「レシーブ」
、第二触球者の動きを「セット」
、第三触球者の動きを「アタック」とし、
ゲーム中においても「レシーブ、セット、アタック」を合言葉にゲームを進めた。実際には子供たちに
とって「つなぐ」ことは難しく、すぐにできたわけではなかったが、
「つなぐ」ということを意識しなが
ら取り組むことで、パスをつなぐといった技能向上への意欲付けだけでなく、仲間と作戦を考える手が
かりにもなっていった。
【実践事例2 第4学年 「つないでアタック!プレルボール」
】
① 子供自身でボール操作を工夫する規則の提示
フロアボールを学習した際、教師はボールの操作の規則を考え、子供たちはそれを基にゲームに取り
組んだ。しかし、子供の技能が高まると、
「今までは両手だったけれど、次は片手で狙ったところに返そ
う」や「転がるボールではなく、バウンドしたものや、空中にあるボールを打ってみたい」など、次第
に現行の規則では物足りないような姿も見られた。
そこで、4年生のプレルボールでは、これまでの経験を生かし学習に取り組むことを考え、
「バウンド
したボールを操作すること」と「3回で相手コートに返球すること」を基本の規則とし、この2つ以外
で、ボールをつなぐ上で工夫したい規則を子供たち
使用したボール
で考えることができることとした。
まず初めに、教師は「握りこぶし及び片手でボー
ルを操作する」という、子供たちにとって敢えて一
導入時
決定後
握りこぶし
握りこぶし
片手
平手
番難しいと思われるボール操作を提示した。そうす
片手・両手
ることで、子供は仲間とパスをつなぐことを第1に
考え、ボール操作の工夫についてみつめながら規則を見直そうとするのではないかと考えたからである。
円陣パスをしてみるとパスがつながらないチームが多かったが、子供たちは何とかしてパスをつなご
うと手首の使い方を考えたり、打つ方向を工夫したりするなど試行錯誤しながらボールを操作していた。
そんな中、円陣パスがとても続くC児のチームがあった。このチームには、ボールを用いた運動が苦手
なD児がいた。このチームでは、どうすればD児もボールを操作できるかについて、チームの仲間で考
えたのである。そこで、話合いの場において、このチームの考えを紹介した。
<1/6時 全体の話合い>
C児: グー(握り拳)でボールをたたくのは難しいから、グーでもパー(平手)でもよいことに
したらいいと思う。それから、片手でも両手でもよいことにすればもっとパスがつながると
思う。
教師: どんなよいことある?
C児: パーや両手でボールをたたくと、コントロールしやすいし、次の人にパスが回しやすくな
った。
教師: Dさんは、それを試してみたの?
C児: うん。
5
話合いの後、このチームのパスを、みんなの前で見せた。すると、見ていた子供たちも「これならで
きそう」
「パスがつながりそう」とすぐにチームで円陣パスに取り組んだ。
このように、
既習の経験があるからこそ、
ボール操作や体の動きについて関連付けて考えるとともに、
規則の工夫についても目を向けながら、子供たちは学習への意欲を高めて取り組むことができた。
② 既習内容を生かした学習課題の提示
導入時の試しのゲームから、子供たちはコートの中で次の写真のよう
に陣形を取り構えていた。これは、フロアボールで学んだ、
「つなぐ」こ
とを意識した立ち位置である。
(P7【仮説2】①)この立ち位置は、3
人が逆三角形の形に立つことで、高いバウンドボールでアタックされて
も、後方に立つ子供がボールをレシーブすることができる。また、バー
(ネット)の近くにアタックされても、前方の子供がボールをセットす
れば、後方の子供が走り込んで勢いのあるアタックできるなど、後方に
一人立つことで、どんな返球にも対応できるというよさがある。このよ
うに、子供たちはフロアボールでの既習内容があるからこそ、ネット型
【フロアボールを生かした立ち位置で
構えるチーム】
ゲームの特性を考えるような学習課題を単元前半でも提示することがで
きると考えた。
2/6時の学習では、
「セット役の人はコートのどの辺りにパスを出せばアタックしやすいか」を学習
課題として提示した。
E児は、バウンドしたボールを操作することの難しさを感じながら学習に取り組んでいた。しかし、
これまでの経験から、E児は常に「仲間が取りやすい場所にパスを出す」という課題をもち、自分の役
割を瞬時に判断して、コートのどの辺りにパスを出せばよいか考えていた。
<2/6時 E児のワークシート>
「出したい場所におへそを向ける」ことが少しずつできるようになってきました。私がセットの役
の時、仲間がアタックしやすい場所にボールを落とすことができました。仲間もしっかりアタックが
決まってよかったです。フロアボールの時のように、バー(ネット)の手前にパスを出すと、アタッ
クする人が走り込みやすそうでした。
「アタックする人が走り込みやすそう」というのは、フロアボールでの既習内容である。転がるボー
ルも走り込んでアタックすると勢いのあるアタックができると考えているD児は、バウンドしたボール
を操作するプレルボールにおいても同じであると考えゲームの中で試したのである。
このように既習経験を考慮しながら学習を考えていくと、子供たちはそれまでの経験を手がかりに、
自信をもって学習に取り組んでいくことができる。このことは子供が学習に意欲的に取り組むことにつ
ながり、意欲的に取り組むからこそ、教材の特性を捉えた上で考えていこうとする動きが生まれるので
ある。
6
(2)
仮説2について
関わり合いの場を教師の意図的な場からより子供が主体となる場に変えていくことで、仲間との関
わりをより大切にしながらネット型ゲームにおける思考力を高めることができた子供の姿について考
察する。
【実践事例1 第3学年 「つないでアタック!フロアボール」
】
① チームで考えるきっかけをつくる全体での話合い
中学年のゲーム領域では、仲間と協力してゲームを楽しむことが大切である。チーム内で仲間の思い
や考えを確かめ合ったりアドバイスしたりする経験が、高学年のボール運動において、仲間と関わりな
がらチームの特徴にあった作戦を立てる時に生かされる。初めてネット型ゲームを学習する中学年の子
供たちが、ゲームの特性を理解してチームの動きを高めていく話合いをすることは難しいと考え、チー
ムの動きを高め、作戦を考えるきっかけとなるように、まずは教師が全体での話合いの場を設けた。
黄チームには、ボールを用いた運動が得意だが、友達に自分から進んで話しかけることが少ないF児
と、運動全般が苦手で動きを理解するまでに時間がかかるG児がいた。チームの動きとしては、ネット
の近くで第一触球してボールを後ろに転がし、ネットから遠い場所でアタックをすることが多く、ボー
ルがつながらない時もあった。そこで、2/8時には、学習課題を「3回でつないでアタックしよう」
とし、ボールのつなぎ方を考えるきっかけとなる話合いの場を設定し、N児の話を聞くことから話合い
を始めた。
<2/8時 授業開始時の全体の話合い>
教師: みんなはどんなことに気を付けてゲームをしようかなと思いますか。
N 児: 少し広がって、間隔をあけながらつなげたいと思う。
教師: 間隔を広げてってどんな風に?
N 児:
(右の図:みんなの前でマグネットを使って説明)ボー
ルをつなげる時に、少し間をあけた方が打ちやすくなる
から。前のゲームの時は広がってなくて。
教師: みんなは?
C : 固まっていた。
【試しのゲームの形
N 児の示した形】
N児の話を真剣に聞いていたE児は、
1試合目からN児の示した図のように、仲間との間隔を広げて、
自分は後方で構えた。N児の「広がる」という意見を取り入れることで、黄チームはチームタイムにお
いて、仲間との関わりを増やしながらチームの作戦を考える際の基本としていった。
このように、教師が全体で話し合う内容を吟味して提示することが、子供たちの思考力を高めるきっ
かけとなった。
② 個人の動きやチーム全体の動きを高めるチームタイムの設定
ゲーム領域において子供たちは、実際のゲームに取り組む中で思考力を高めていく。しかし、ただゲ
ームをしていれば思考力が高まるのではなく、その際に仲間と動きの確認や作戦の見直しなどを行うこ
とが子供にとってとても大切な学びの場となる。
そこで、前半後半の終了後にチームタイムを設定し、実際のゲームでの動きと全体での話合いで得た
7
情報も生かしながら、チームの作戦を十分に考えられるようにした。
【資料④】
1試合目の前半で、N児が示した立ち位置を試したF児は、チーム内のボールのつなぎ方が上手くい
っていないことを気にかけていた。仲間がネットの近くでレシーブをしたり、人との間隔が狭くなった
りして、チーム内のボールのつなぎ方が上手くいっていないことを目の当たりにしていたのである。そ
こで、試合間のチームタイムで、F児は「もっと広がって立とう」と自分の思いを話したのである。
E児からの話を基に黄チームはコート全体に広がるようになった。F児が仲間に「もっと広がって立
とう」と伝えたことで、コート内の仲間との間隔を意識していなかったチームの動きを変えることがで
きたのである。E児にとってこのチームタイムは、気付いたことを伝える場として有効であった。また、
同じチームの仲間、そして少人数での話合いであるため、抵抗感も少なく進んで話す場としてとても有
効に働いたと考える。
この後、広がってボールをつなぐよさを感じながらゲームを進めていた黄チームであったが、また1
つ問題が明らかになってきた。それは、ボールコントロールが安定しないことである。仲間との間隔が
広がるほど、ボールの転がし方や転がす力によって、ボールが思うようにつながらないことも起きてき
た。2試合目のチームタイムではレシーブの仕方についてE児は課題を打ち出してきた。
<2/8時 2試合目チームタイム>
E児: レシーブの時、あまり強くレシーブする
と、ボールが変なところに行ってしまうか
ら、レシーブは「ちょこんちょこん」ぐら
いがいいと思う。
F児:
「ちょこんちょこん?」
E児: こんな感じ。
(実際にやってみる)
F児: 分かった。やってみる。
E児が言う「ちょこん」とは、レシーブの強さ
である。つまり、レシーブはあまり力を入れず、
かつボールを止めない程度の強さが「ちょこん」
という言葉で表現された。F児は、
「ちょこん」の
意味を理解できずにいたが、E児が詳しく話した
ことで、F児は理解し、ゲームで生かすことがで
きた。黄チームは、
「レシーブはちょこん」を合言葉に、ボールをつなぐリズムを生み出した。
学習が始まって間もない頃のチームタイムでは、子供たちは言葉で仲間に考えを伝え、真剣に取り組
んでいた。第一次から、前半後半の間にチームタイムを設定したことで、子供たちはチームでの関わる
場を増やし、互いの関係を少しずつ深めていったと考える。
このようにチームタイムは、仲間と共に動きを高めたり、作戦を立てて見直したりするためにとても
有効な時間となった。また、子供たちが自らチームの課題を見出し、その解決に向けて取り組む姿も生
まれた。
【実践事例2 第4学年 「つないでアタック!プレルボール」
】
① 子供の思いをチームの仲間に広げる全体での話合い
どの子供にとっても運動しやすいゲームづくりを目指して授業に取り組むが、中学年でもやはり運動
技能の差はある。学習が進むにつれ、アタックが得意な子供にアタックを任せるような作戦を立てるチ
ームがあった。フロアボールでは、自分たちで動きの課題を見付け、その解決に向けて考えられるよう
な話合いを全体で行った。プレルボールでは、よりチームの仲間の思いを理解しながらゲームに取り組
8
んでほしいと願い、心情面を含んだ全体での話合い
の場を設定した。そうすることで、高学年の思考・
判断の「自分のチームの特徴に応じた作戦を立てる
こと」
【資料④】につながると考えた。
右上の写真は、アタックの得意な仲間を生かした
作戦を立てたチームの作戦ボードとゲーム中の様子
である。このチームには、バウンドしたボールにタ
イミングを合わせて走り込みアタックすることが上
手なG児がいる。単元が始まったころは、全員がア
【作戦ボード】
【アタックの得意な仲間を生かし
た作戦でゲームをするチーム】
タックできるようにアタックする順番を決めていた。
チームの連係もよく、困った様子は見られなかったが、H児のアタックがとてもよく決まるようになっ
てから、
「G児がコートに立つ時は、G児がアタックする」という作戦を取り入れた。その作戦について、
G児以外の子供はどのように思っているのかについて全体での話合いで取り上げた。それは、これまで
G児ばかりがアタックを決めてきていたからこそ、なかなか自分の思いを打ち出すことのできないよう
な状況が子供たちの中には固定している面があると思われたので、そこを打破していこうとする教師の
思いがあった。
教師: この作戦だとGさんばかりがアタックしているけど、みんなはアタックしなくていいの?
C : Hさんは、アタックがよく決まるし、僕はセットが得意だから、Hさんが一緒の時にはアタ
ックしやすいセットをしたいと思っている。
C : チャンスがあれば私もアタックしたいと思っているけど、相手チームに勝つためには、H児
にアタックを任せるのも作戦。
教師: Hさんは、今の話聞いてどう思った?
H児: みんながそこまで言ってくれるから、絶対アタックを決めようと思う。
この話合いにおいて、それぞれの得意な動きを生かすという観点が明らかになるとともに、最後のア
タックにどのようにつなげていくのかということを意識した子供たちは、この後のゲームにおいてこれ
まで以上に声をかけ合いながら取り組む姿を見せた。そして、仲間の動きのよさを見付けながら、自分
の得意な動きも見付けていこうとしていった。仲間の思いがあってこそ、考えた作戦が生きることを学
んだ子供たちは、チームの仲間がそれぞれどのような動きが得意なのかを見極めながらゲームに取り組
み、高学年につながるような作戦を考えることができた。
中学年において始めて取り組む運動においても運動技能の差はある。だからこそ、1つのチームが抱
く課題や思いは他のチームにおいても考えるべきことである。だからこそ教師が積極的に子供たちの中
に入って思いを聞き、そしてそれを子供同士で共有できる場を設定することで、子供たちは動きの関わ
りだけではなく、仲間との思いの関わりについても考えを深めていくことで、チームづくりの手がかり
になっていった。
9
② 状況に応じて作戦を見直すチームタイムの設定
学習指導要領解説では、ゲーム領域における中学年の
相手のアタック
がネットの近くに
落ちると、僕たちは
後ろに下がってい
たから、そのアタッ
クに間に合わない
ことが多かった。今
度はネットの近く
に一人立って三角
形になるようにし
よう。
思考・判断の内容は、
「簡単な作戦を立てること」となっ
ている。
【資料④】子供たちにとって「簡単な作戦とは何
か」を考えた時に、ゲームに生かすことができそうな作
戦が「簡単な作戦」と言えるのではないかと考えた。フ
ロアボールの時は、自分が立つ場所にボールが転がって
くるまで待つこともでき、慌ててボール操作をすること
も少なかった。そのため、立てた作戦も成功しやすかっ
た。ところが、プレルボールはバウンドしたボールを操
作するゲームであるため、相手チームがアタックしても、
【作戦の確認をするチーム】
自分たちのコートのどの辺りにボールが落ちてくるか予測することがフロアボールに比べて難しい。子
供たちは「簡単に作戦は成功しない」とゲーム中に感じていた。そこで、1試合5分間のうち、ゲーム
中に適宜、チームタイム(30秒間)を設けてよいことにした。3年生のフロアボールでもチームタイ
ムを設定したが、その際は前半後半の終了後に行った。チームタイムに取り組むことを通して、子供た
ちは仲間と作戦を立てるよさを味わっているため、4年生のプレルボールでは、状況に応じてよりゲー
ムで生かせる作戦を立ててほしいと願い、子供たちの必要な時に、仲間と動きを確認したり作戦を立て
直したりできるようなチームタイムにした。作戦ボードを使うチームもあれば、コート中央に集まって
確認するチームもあったが、子供たちが必要な時にチームタイムを取るので、この30秒間はとても活
発な話合いになった。
立てた作戦がいつも成功するとは限らない。しかし、「作戦を立てる→試してみる→見直す→試して
みる」を仲間と繰り返すことによって、ゲームに生かしやすい作戦を子供自身で見付けていくことがで
きた。そして、作戦通りに動けた時は、仲間と喜び合える。この経験が、どの子供も「作戦を立てるこ
となら任せて」という気持ちになったり、高学年になって動きが難しくなっても、仲間と関わることを
大切にしながら運動に取り組んだりすることにつながると考える。
4 研究のまとめ
○ 明らかになったこと
(1) 仮説1について
・ ネット型ゲームにおいて、自信をもち、ボールを操作することへの抵抗感を無くすような教材を
提示することで、どの子供もパスをつなぐ楽しさを十分に味わうことができる。そのことが、一人
一人の技能の習得につながり、
「運動をもっと楽しみたい」
「もっと上手になりたい」
「仲間と頑張り
たい」という意欲を高めることができる。
10
・ 教師が最初に提示する教具や規則を工夫することによって、よりパスをつなぐためのボール操作
の仕方について意欲的に考え、子供自身で決めた教具や規則を大切にしながら学習に取り組むこと
ができる。
・ 系統性のあるネット型ゲームを通して、既習内容を生かした学習展開をすることで、単元前半に
ゲームの特性に迫る学習課題を提示することができ、より子供たちの動きを高めることができる。
(2) 仮説2について
・ 初めて学習したネット型ゲームであっても、子供にとって運動の仕方が分かりやすいゲームにす
ることで、どの子供も自分なりの作戦を立て、仲間に伝えることができる。
・ 子供の発達段階を考慮し、3年生では教師が設定するチームタイム、4年生では子供自身で設定
するチームタイムを導入したことで、チームで作戦を立てたり動きを見直したりして、仲間と共に
思考力を高めていく場となる。
・ 仲間の得意な動きを生かした作戦を認めることで、自分の動きのよさにも気付くとともに、高学
年のボール運動につながる作戦を立てることができる。
● 今後の課題
高学年になると、普段から運動をしている子供とそうでない子供の運動技能差は今以上に開いてくる。
特にボールを用いた運動は基本的なボール操作をしっかり身に付けることで、運動意欲の向上につなが
る。中学年のネット型ゲームにおいて、ボールをつなぐ楽しさを味わえるように単元を構想したが、一
人一人の運動技能や思考力の高まりを支える十分な指導ができたわけではなかった。また、2つの授業
ではチームタイムを設定したが、子供たちは仲間の話をよく聞きよく考えた。そうすると、設定した時
間では足りないこともあった。
子供が体育学習において何を願っているのかを把握し、実態を捉えた上で技能を高める効果的な指導、
運動時間と話合いの時間のバランスの在り方についても考えていきたい。
5 終わりに
2年間、中学年の体育学習で学んだことを高学年につなげるためにどのような単元を構想していけば
よいか授業づくりに取り組んできた。まずは子供の実態を捉え、それを踏まえて教材・教具を工夫する
こと、そして取り組む単元の系統性を意識し、子供にとって既習の経験を生かして学習に取り組ませる
ことで、子供たちは学習への見通しを確かにしながら取り組むことができた。
また、仲間との関わりを意識した授業を構想し、自分たちの姿を確かめる場や考えを見直す話合いの
場を設定することで、普段あまり話す姿を見せない子供も、体育の時間のチームタイムになると、小さ
な声ではあるけれど、自分の考えた作戦を仲間に伝えようとしていた。また、そのような仲間を温かく
見守る子供たちの姿、声をからして仲間を応援する姿、仲間のためにパスを出す姿などが多く見られる
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ようになった。
このように、子供たちは体育科の学習に真剣に向き合いながら取り組んでいる。自分自身や仲間の動
きをどのように捉えているのか、今の動きをよりよくするためにはどうすればよいのかということにつ
いて考えていく中で、子供たちの意欲や思考力の高まりを感じ取ることができた。子供たちにとって、
これらの経験が高学年の体育学習でどのぐらい生かされるか楽しみである。
今回、子供たちから学んだことを胸に実践を重ね、今後も誰もが楽しみながら学習に取り組み、意欲
や思考力を高めることができる授業をつくっていきたい。
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