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カーライフサービスにおける事業機会

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カーライフサービスにおける事業機会
NRI
NEWS
カーライフサービスにおける事業機会
雨宮正和
車検整備や損害保険の分野での規制緩和や、IT(情報技術)を活用した新規企業の参
入により、カーライフサービス業界が大きく変化しつつある。特に、最近2年間は、
ITを活用したバーチャル(仮想)企業と、整備工場などを持つリアル(現実)企業と
の連携が増加している。ただし、顧客の囲い込みに成功した企業はまだ存在せず、カ
ーライフサービス事業での課題となっている。今後、顧客の囲い込み策として、個人
ドライバーとカーライフサービス事業者の間に立って、個人ドライバーに最適なサー
ビスを提供するフリートマネジメントが重要な鍵となるであろう。
■規制緩和と IT革命で期待
されるビジネスチャンス
車検整備の面では、後整備(検
査後に問題部分を整備すること)
カーライフサービスとは、「車
化により、顧客が安価な整備工場
の購入から利用に至るサービス全
に流れる傾向が強まっている。そ
表1 車検整備と損害保険の規制緩和
〈車検整備の規制緩和〉
1995 年 7月
● 前整備・後検査の原則撤
廃
● 6ヵ月点検の廃止
般」と、ここでは定義する。
の一方で、ガソリンスタンドの競
カーライフサービスは従来、規
争激化や自動車用品市場の成長鈍
制などにより、サービス事業者が
化が、ガソリンスタンドや自動車
すみ分けられていた。このため、
用品販売業者の経営を圧迫し始め
新規参入で市場シェアを獲得する
ことが難しく、業界を構成する企
業の変化は少なかった。
ている。
● 12ヵ月、24ヵ月ごとの点
検項目の半減
〈損害保険の規制緩和〉
1996 年10月
● 通信販売の解禁
97年 9月
● リスク細分型商品の解禁
98年 7月
● 保険料率の自由化
このため、ガソリンスタンドや
自動車用品販売店では、収益性の
しかし、1990年代後半からの規
高い事業への転換に向けて、整備
険で成功を収めたソニーの参入な
制緩和により、カーライフサービ
機能の充実を図っている(車検整
どの動きがある。このような損害
スの構造が大きく変化しつつあ
備では、同じタイミングに自動車
保険会社は、サービス面での差別
る。特に、車検整備と損害保険の
用品の購入や消耗品の交換などに
化ポイントとして、365日24時間
分野での規制緩和の進展(表1)
より、2∼3万円の用品販売が期
全国どこでも受けられるサービス
と、IT革命を受けてのインター
待できる)。
体制づくりや、インターネットビ
ネットサービス事業者の新規参入
による影響が大きい。
また、損害保険では、外資系損
害保険会社の市場参入や、生命保
ジネスでの新たな補償サービスづ
くりに注力している。
カーライフサービスにおける事業機会
5
■新規参入IT活用企業と既存
リアル企業の連携が増加
設や、販売した自動車用品を取り
イリーストアなどが開始した。
付けるためのリアルな整備工場が
一方、IT活用企業とリアル企
必要であったため、既存の整備工
業の連携が遅れているのが、損害
1998年以降インターネットやコー
場やガソリンスタンドといったリ
保険の分野である。よくテレビ
ルセンターを活用した企業の参入
アルな施設を有する企業との連携
CMで見かける「リスク細分型商
が増えている(図1)。中古車の
を進めている。
品の通信販売」の代表格ともなっ
カーライフサービス市場では、
一方、電子商取引の物流拠点、
買い取りや販売を行う企業が、イ
ている外資系損害保険会社は、国
ンターネットを活用したサービス
決済拠点として注目を集めるコン
内の損害保険市場のなかでシェア
を開始するとともに、新車販売で
ビニエンスストアも、カーライフ
1%前後にとどまっている。
もカーポイントやオートバイテル
サービスへの参入を進めている。
これは1つには、損害保険の特
といった米国系大手企業が、日本
コンビニ店舗と車検整備工場の間
約(事故時の車両輸送費用補償、
市場に99年にそろって参入した。
をネットワークでつないで、コン
自宅までの交通費補償、宿泊代の
これらITを活用した自動車販
ビニ店舗の最寄りの整備工場を紹
補償など)では、国内損害保険会
売企業、自動車用品販売企業は、
介したり、車検整備の見積もりを
社と海外損害保険会社の間で差は
車の引き渡しのためのリアルな施
行ったりするサービスを、山崎デ
少ないものの、事故時の受付時間、
事故処理の対応時間に大きな差が
生じているためである。もっとも
図1 カーライフサービス企業における最近の主な連携
自動車販売
自動車用品
販売
オートバイテル
・ジャパン
車検整備
サービス
ガソリン
スタンド
この差は、国内損害保険上位5社
損害保険
コンビニ
でも大きくなっている。
コスモ石油
今後、資金力のある損害保険会
日石三菱
ソフトバンク
社を軸に、事故対応・処理サービ
スを充実するための企業合併など
翼システム
オークネット
が増加する可能性もある。
提携工場
安田火災
海上保険の
提携工場
リクルート
(イサイズ)
安田火災
海上保険
■顧客の囲い込みが
カーライフサービスの課題
東京海上
火災保険
アーム・コーポ
レーション
プレスト
イエローハット
提携工場
コールセンター、インターネットを活用した企業
リアルな施設・店舗を持った企業
6
とその他の国内損害保険会社の間
知的資産創造/2000年3月号
カーライフサービスでの顧客の
ネットワーク
販売した中古
車の査定結果
を保証
囲い込みは、これまで会員カード
山崎デイリー
ストア
の配布が主なものだったが、必ず
しも成功しているとはいえない。
使用頻度が低いことなどから、一
部のヘビーユーザーを除けば、カ
ーライフサービスのカードは、財
図2 カーライフサービスの顧客囲い込みの方向性
布に入れない人が多い。
最近増加しているインターネッ
多
い
顧客の側に立ったサービス提供に
より、顧客を囲い込む
トやコンビニ店舗など「顧客にと
案3
複数の顧客が共有利用する
車両を一括管理し、顧客を
囲い込む
って便利な場所からサービス事業
者にアクセスを求めてきた顧客」
に対しても、有効な囲い込み戦略
が構築できていない状況である。
一部のインターネット関連企業
サ
ー
ビ
ス
の
利
用
頻
度
案2
複数の顧客を代表して費用
負担の軽減を図り、顧客を
囲い込む
(例:個人向けフリート
マネジメント)
1
案 顧客の代理人となって交渉
負担の軽減を図り、顧客を
囲い込む
(例:車検整備、保険など
の交渉サービス)
やコンビニ企業は、集客のために
相当の広告宣伝費やキャッシュバ
ック費をかけた割には、費用に見
合った顧客のリピート率を実現す
少
な
い
現在のカーライフサー
ビス顧客の囲い込み策
(例:会員カードでの
割引、限定サー
ビスなど)
重い
ることができず、事業の収益性が
カーライフサービス顧客の負担
軽い
向上しない状況に陥っている。
現状の顧客の囲い込み策には、
のカーライフサービスを束ねて顧
する車両を一括管理し、カーライ
「サービスの利用頻度」と 「顧客
客を囲い込む方向で、勝ち組企業
フコストを圧縮するサービスへと
の負担軽減度」の2軸で評価した
が出現することになろう。これま
拡大する可能性が高い。
場合、あまり魅力的なものが存在
でも、顧客の負担を軽減するため
このフリートマネジメントは、
しない(図2)。
のサービス提供が行われてきた
将来的に実現が期待されている、
インターネットを活用したサー
が、どちらかというと顧客よりも
「複数のドライバーが車両を共有
ビス事業者やコンビニが、「サー
サービス事業者のメリットが優先
するネットワーク社会」をも見据
ビス事業者へのアクセスの利便
されてきたため、顧客の感じるメ
えたサービスであり、今後、カー
性」を訴えても、顧客サイドでは、
リットは小さいものとなってい
ライフサービス業界でサービス事
アクセスした後のコスト負担、時
た。
業者がイニシアチブを握るための
間負担、交渉負担が重く、それら
顧客の立場に立つということで
負担はほとんど軽減されていない
は、特にフリートマネジメント
状況であるため、継続的な利用に
は結びついていない。
鍵となるであろう。
(商用車の車両管理、運行管理) 『NRI Research NEWS』
の個人ドライバー領域への応用が
2000年3月号より転載
ポイントとなる。現状のフリート
■顧客囲い込みの鍵は
フリートマネジメント
今後、顧客サイドに立ち、複数
マネジメントは、日本では法人向
けカーリースが主な市場となって
いる。しかし今後は、個人の所有
雨宮正和(あまみやまさかず)
産業コンサルティング部主任コンサル
タント
カーライフサービスにおける事業機会
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