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片浦レモン研究会(神奈川県小田原市)

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片浦レモン研究会(神奈川県小田原市)
受賞団体資料
片浦レモン研究会(神奈川県小田原市)
1. 地域の概要
東京から約80キロに位置する神奈川
県小田原市。戦国時代には北条氏の居
レンジに色づき、柑橘独特の香りが漂
ませんでした。しかし、研究会発足の
うなど、柑橘が地域のシンボルになっ
翌年から私たちと消費者の会が一体と
ています。
なって、ほぼ毎年行われている即売会
などを通じ、国産レモンの安全性や美
城として名高い小田原城もある城下町
です。
2. 活動の始まりと地域農業の危機
味しさなどをPRするなど、積極的な取
その小田原西部に石橋・米神・根府
小田原市では、栽培面積が600ヘクタ
組みを行い、国産レモンの認知度も高
川・江之浦の4集落で構成された片浦地
ールにも及ぶみかんが農業生産高の第
まってきました。その結果、昨今のみ
1位となっています。さらに、30年程
かん価格の低迷を打破できる優良品種
この地区は、全体の人口が約1,900人
前までは、片浦地域の農家のほとんど
として徐々に栽培農家が増加してきて
の集落で、源頼朝が平家討伐に挙兵し、
がみかん農家でしたが、昨今の海外産
います。現在では毎年30トン前後の収
本格的な戦闘が初めて行われた戦場と
柑橘類の輸入増加や国内の有名産地と
穫量を確保できるようになるまで成長
して有名な「石橋山古戦場」をはじめと
の地域間競争等によるみかんの価格低
をしました。
する多くの歴史的資源を有しているだけ
迷、農業従事者の高齢化、後継者不足
でなく、緑豊かな山々と相和して描かれ
等々の要因によって、最盛期の昭和40
ている自然美、三浦半島・房総半島を相
年代と比較すると、大幅な減少傾向に
模湾の彼方に遠望できる風景など、かつ
あります。
区があります。
てドイツの建築家ブルーノ・タウトに
そのような中、昭和52年にOPP(カビ
「東洋のリビエラ」とも称されたことも
防止剤)が使用されたレモンの輸入が解
ある豊かな自然を有しています。
禁され、神奈川県消費者の会連絡会を
地形は背後に箱根山脈が屏風のよう
中心とした消費者の「安全・安心」に対
に連なり、東部のみが海岸に面してい
する声が非常に高まりました。みかん
る自然に囲まれた地区で、この地形的
価格の低迷や後継者不足など諸課題が
条件が「片浦」という名称の由来になっ
山積していましたが、私たちは、そう
ているとも言われています。
いった消費者の声に敏感に呼応し、地
現在では、大手スーパーへの出荷をは
元農協と連携しながら、同地域の気候
じめ、各種イベントにおいての普及・
風土に適したレモン栽培を行うため、
PRなどの取組みの結果、片浦レモンの
片浦レモン研究会を昭和53年に発足さ
認知度はさらに高まってきています。
この地区は柑橘農業経営が中心にな
っており、収穫期になると山全体がオ
しかし、取組みの成果は着実に現れ
せたものです。
私たち片浦レモン研究会は、レモン
ている反面、栽培管理が難しく、レモ
を中心とした柑橘類の栽培研究等を行
ンの木の枝にあるトゲや風の影響で、
う会として、現在では約50戸の農家が
皮の表面に「かいよう」と呼ばれる傷な
参加しています。
どができ、商品として出荷できないも
私たちが栽培しているレモンは、栽培
かつて、「東洋のリビエラ」と称された片浦地区。
「片浦レモン研究会」のメンバー(一部です。)
のも多く、丹精込めて栽培したレモン
管理の方法や農薬の使用方法等につい
が無駄なく効果的に消費できるよう、
て、会独自で決まりを作って安全・安心
その有効利用の方策の研究も必要とな
なレモンの栽培に取り組んでいます。
ってきました。
特に、農薬の使用回数については、
結果、私たち生産者と消費者、行政
年間0∼1回と統一され、海外産のレ
が一体となって研究を重ね、果汁のみ
モンと比較しても大幅に少ないものに
を利用した「小田原れもんわいん」や地
なっています。また、散布時期も12月
元企業と提携したレモンを主とした柑
∼翌年5月までの収穫時期が終了してか
橘類のジャムやソースなどの新商品を
らの散布になるため、消費者の求める
開発し、片浦レモンの新たなブランド
「安全・安心」にレモンを通じて応えて
価値の創出も図られるとともに、地域
経済の活性化や地元農業団体の活性化
います。
に大きく寄与しています。
石橋山古戦場跡石碑
源頼朝が平家討伐に挙兵後、本格的戦闘が行われ
たところです。
3. 安全・安心なレモンの普及に向けて
研究会発足当初は、生産量も1∼2
トンと少なく、栽培農家数も多くあり
− 32 −
4. 景観・環境保全へつながる取組み
昨今のみかん価格の低迷や農家の後
地域興しにまで広がりを見せています。
継者不足など、農業を取り巻く環境の
さらに、平成16年に制定された景観
変化から、荒廃農地や耕作放棄地など
法により、各地で景観に対する取組み
また、これらの取組みは、行政主導で
が著しく増加しています。
が活発化してきています。そのような
はない、研究会メンバーを中心とした
このことは、都市景観を損なうだけ
中、NPO団体の方々が小田原のみかん
地元住民たち自らの手による地域興し
でなく、地域の環境保全、地域農業者
園、特に私たちの片浦地区における園
となっているといえます。
の営農意欲にも影響してきます。
地の荒廃化を憂い、みかん園を自分た
レモン栽培を通した私たちの取組み
ちの手で再生し、かつてのみかんの花
は、農家の営農意欲を向上させるだけ
が咲くきれいな地域にしようと、活動
ではなく、荒廃農地や耕作放棄地の増
が始められています。
6. レモン研究会の今後の展望
片浦地域の農業は柑橘経営が中心で
あり、近年のみかん価格の低迷や従事
加を抑制するなどの、景観・環境保全
私たち片浦レモン研究会は、こうい
者の高齢化、後継者不足などの危機的
の観点からみても非常に効果的な取組
った取組みが始まる以前、約30年も前
状況の中、地域の共生をかけた「片浦レ
みといえ、かつて「東洋のリビエラ」と
から景観や環境保全につながる実践的
モン研究会」が発足して約30年。レモン
も称されたこともある片浦地区の都市
な取組みを行ってきました。さらに、
栽培に適した地域の気候風土にも恵ま
景観の再構築へつながる取組みに成長
NPO団体の方々の取組みに対して、一
れ、地域や行政、そして消費者に支え
しています。
緒になって取り組んでいくと共に、園
られ、安全・安心なレモンを育ててき
ました。
そんな中、私たち片浦レモン研究会
地の栽培管理等に対して惜しみない協
の情熱溢れる取組みが、その他の地元
力と適切な助言を行うなど、今まで以
農業経営の現状は依然として、従事者
農家の人々を動かし、少しずつではあ
上に研究会としても荒廃農地や耕作放
の高齢化や後継者不足など様々な要因、
りますが、みかんからレモンへの改植
棄地の解消等、片浦地区の景観や環境
農業を取り巻く環境の著しい変化によ
が進み、片浦地区の景観や環境の保全
の保全活動にも取り組んでいます。
る、荒廃農地や耕作放棄地の増加など深
に向けた取組みにもつながってきてい
ます。
研究会の中心となる活動は、安全・
刻な危機に面しているといえます。
安心な国産レモンの普及やPR活動に対
しかし、片浦レモン研究会の取組み
しての取組みです。しかし、レモン研
は、この危機的状況の解決の糸口とも
究会が積極的に様々な課題に大して取
なりうる、地域が一体となった取組み
り組むことにより、国産レモンのブラ
であり、今叫ばれている荒廃農地や耕
ンド価値の向上や地域経済、地元農業
作放棄地の増加などに対する、景観や
者などを活性化させるだけでなく、景
環境保全に対する取組みにおいても先
観や環境の保全といった地域を守る大
駆的なものとして展開しています。
きな取組みにもつながっています。
私たち研究会のメンバーは高齢者が
多く、また、後継者のいない栽培農家
5. レモンを核とした地域興し
片浦レモン
見た目の悪さが安全・安心の証
も数多くあります。約30年もの長い月
レモン研究会では、昭和55年に「レモ
日をかけて成長してきた「安全・安心な
ンを地域のシンボルに…」と研究会のメ
レモン」を今以上に普及させ、どのよう
ンバーが中心となって、地元のJR根府
に後世に引き継いでいくかが、今後の
川駅にレモンの苗木の植樹を行いまし
会の課題としてあげられます。
たが、列車が走行する際の風圧や周辺
また、安全・安心なレモンの普及が
の環境の影響により、実も葉もつかな
地域の活性化や景観や環境保全、そこ
い状況でした。しかし、研究会メンバ
に住む人々の活性化に大きく寄与し、
ーの熱心な土壌改良や栄養肥料の施肥
今後ますます、地域農業だけでなく地
によって、約50個の実を結ぶまでにな
域づくりの礎ともなるよう努力してい
り、同駅は「レモンの駅」として、地域
きたいと思います。
の住民や観光客の方々に親しまれるよ
みかん園復旧1
NPO団体の方たちのみかん園再生への取組み
うになりました。
また、研究会では地域の子供たちに
レモンのことをもっと知ってもらおう
と、研究会のメンバーが中心となって、
地元の小学校、中学校の校庭にレモン
の苗木を植樹するなど、子どもから大
人まで地域をあげて、レモンの普及・
PRに努めています。
後継者不足に悩む研究会独特の取組
みともいえますが、こうしたレモンを
核とした様々な取組みは、単に農業の
みかん園復旧2
NPO団体の方たちのみかん園再生への取組み
活性化だけにとどまらず、地域全体で
レモンというひとつの柑橘をとおした
− 33 −
会長とレモンの木
研究会が手塩にかけて育てたレモンの木の前で
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