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第8章 インドネシアにおける国際収支と銀行部門の構造変化

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第8章 インドネシアにおける国際収支と銀行部門の構造変化
国宗編『国際資本移動と東アジアの新興市場諸国』調査研究報告書 アジア経済研究所 2009 年
第8章
インドネシアにおける国際収支と銀行部門の構造変化
小松 正昭
要約:
本論では、まず中長期的な視点から、1997年の金融危機以前と以後で、インドネシ
アの国際収支、銀行部門の構造がどのように変化したのかを検討した。国際収支について
みると、危機前の構造は経常収支赤字基調と資本・金融収支の大幅黒字基調であったが、
危機以後は経常収支の黒字基調と資本・金融収支の赤字基調へと変化している。2000
年代初めからは、経済の回復に伴って、徐々に資本の流入が増加し、資本・金融収支は黒
字へと変化しつつあった。しかし、資本・金融収支を構成するポートフォリオ投資および
その他投資の動向は、金利裁定に基づいて激しく変動するという性格を持っており、イン
ドネシアの資本・金融収支の構造は、現在でも脆弱である。また銀行部門は、危機以降金
融仲介機能を十分に回復していないままである。このような状況の下で、海外投資家を新
しいオーナーとする銀行は、収益率を上げるために、消費者金融を中心に貸し出しを伸ば
すというビジネスモデルに転換しつつあるように見える。
2008年第4四半期以降、サブプライム問題に端を発する世界経済の危機は、インド
ネシアにおいても大変深刻な影響をもたらしている。この事実は、インドネシアの国際収
支構造が引き続き脆弱であることを明らかにしている。また国際的な国際収支支援システ
ムも危機後十分に整備されているとはいえない。これらの面で早急な対応が必要である。
キーワード:インドネシア、国際収支、資本移動、金融仲介
はじめに
1.
インドネシアでは 1997 年の金融危機以前と以後とで、国際収支構造、金融構造が大き
く変化した。危機以前には高く評価されていた経済自由化政策、とりわけ金融自由化政策
は、その政策の成功の故に巨額の海外資本の流入と急激な銀行部門の拡大をもたらし、こ
れらの部門に脆弱性をもたらしたと考えられる。本論では危機以前と危機後の国際収支構
造、金融構造の変化の内容と原因を調べ、それがどのような課題を提起しているのかにつ
いて明らかにしようとするものである。特に国際収支上の資本・金融収支(IMF統計で
はこれまで資本収支と呼ばれてきた項目が資本・金融収支に分けられたが、ここでは資本
収支、金融収支をほぼ同義語として使っている)については、これまではグロスベースの
詳細なデータが不備であったために分析が困難であったが、今回明らかになったグロスベ
ースのデータをもとに、より詳細な検討を試みた。また、国際資本移動の動きは国内銀行
部門にも多大な影響を及ぼしており、これらの点についても検討を行うものである。この
ような構造変化を分析することによって、アジア金融危機という未曽有の危機の経験から
何を学び、その結果国際収支および銀行構造がどの程度改善されたかについて検討してみ
たい。
本論では、基本的には国際収支および銀行部門の構造変化に関する長期的な分析を行っ
ているが、最後の節では、サブプライム問題以降の急激な経済変化を踏まえた短期的な課
題についても分析を行っている。
国際収支構造の変化と資本移動
2.
2.1.
国際収支構造の変化
まずインドネシアの国際収支の全体的な推移をIMFの International Financial Statistics
の統計をもとに見てみよう。IMFの統計に基づくと断る理由は、後で説明するように統
計によって資本・金融収支の値が異なるからである。
1997 年のアジア危機以前は、経常収支の赤字基調が続いており、一方で資本・金融収支
が黒字基調となっていた。資本・金融収支をみると、1980 年代前半までは資本・金融収支
の主な項目は対外援助であったが、1980 年代後半からは経済の高成長、金融自由化政策な
どを背景として巨額の民間資金流入が起こり、民間資本が主要な役割を果たすようになっ
た。民間資本流入は援助資金や輸入金融のように直接的に輸入材や投資財をファイナンス
するものだけではなく、後で説明する金利裁定に基づく投機的資金を多く含んでいたとみ
られる。これらの資金は、インドネシアの民間企業部門、資本市場、銀行市場に流れ込み、
経済ブームの中で民間部門の投資と消費をファイナンスし、同時に輸入を増加させ経常収
支赤字を増大させたと考えられる。
(注1)
(表―1 参照)国際収支表を見るとこの動きが
よくわかる。1990 年代前半には、直接投資と共にポートフォリオ投資やその他投資(主と
して銀行借り入れ)が、資本・金融勘定の大きな部分を占めるに至っている。特に注目す
べきは、これらの資本・金融勘定の項目の合計は、経常収支赤字を大きく上回っており、
資本・金融勘定が輸入などの実物取引と独立的に動き始めていることが推測できる。また
資本・金融勘定の増大は、ほぼ同時期に輸入の増加とも連動していた。
(表―2 参照)
1997 年の金融危機は、
その後のインドネシアの国際収支構造を一変させた。
1997 年、
1998
年には金融危機によって資本逃避が発生し、資本・金融収支は大幅な赤字となった。これ
に伴って投資と輸入が大きく低下し、経常収支は大幅な黒字となっている。特に危機後
2000 年代の初めまでは資本流出が続き、資本・金融収支を形成するすべての項目、直接投
資、ポートフォリオ投資、その他投資が赤字となっていた。資本・金融収支の各項目が赤
字となった理由は以下のとおりである。直接投資がマイナスになっているのは、海外企業
の撤退だけではなく、主として直接投資に含まれている借入金について返済が発生してい
るためである。
(注2)ポートフォリオ投資がマイナスになっていることについては、非居
住者による過去の投資の売却が続いていたことを意味し、その他投資のマイナスは、これ
までの借り入れに関する返済が、新規借り入れを凌駕していたことを意味している。この
ような巨額の資本流出は、銀行部門、企業部門に流動性危機をもたらし、経済活動を収縮
させた。危機前には資本流入が経済ブームをけん引していたが、危機後は資本の流出が経
済の急激な縮小をもたらしたのである。経常収支の黒字は、資本流出の結果、主として投
資と輸入が削減されたことによって生じたものであって、経常収支の構造が改善されたた
めではない。問題は、このような国際収支の構造が、危機後 10 年を経た今日、どのように
変化してきているかである。
2.2.
危機後の資本・金融収支構造の変化
表―2のIMFの国際収支統計を見る限り、危機後の経常収支の黒字基調、資本・金融収
支の赤字基調という構造は、データが公表されている2007年まで続いている。このように、
危機後10年以上を経た今日でも資本の流出が続いているのはなぜだろうか。これを考えるには、
国際収支の項目をより詳細に見ていく必要がある。特にネットベースではなく、それぞれ
の項目のグロスベースでの統計に注目する必要がある。そこで中央銀行が近年発表してい
る国際収支統計をもとに、資本・金融収支項目をできるだけグロスベースで詳細に見てい
くことにしよう。
(注3)IMFの統計と中央銀行の統計を比べると、経常勘定の数値は一
致しているが、資本・金融勘定の値が2004年以降大きく食い違っていることが分かる。I
MF統計では先に述べたように資本・金融勘定は2004年マイナス6.7億ドル、2005年マイナ
ス25.9億ドル、2006年マイナス9.9億ドル、2007年マイナス17.8億ドルと赤字基調が今日ま
で続いているが、中央銀行の統計では、2004年プラス18.5億ドル、2005年プラス0.1億ドル、
2006年プラス26.7億ドル、2007年プラス29.2億ドルと、こちらは2004年以降黒字基調となっ
ている。この差は、IMF統計に欄外に記載されているexceptional finance という項目でか
なりの部分が説明できる。中央銀行の説明によれば、この項目は主としてインドネシアの
輸出代金が国内に還流せずに海外にとどまっているものであるということである。この説
明が正しいとすると、経常勘定には通関統計から輸出として計上されているが、その代金
がインドネシアの輸出者の勘定に払われていないことになる。しかし、それではこの輸出
代金がどのような形で決済されているのかという点については明確な説明はない。
次に表―3 の中央銀行の統計をベースに、資本・金融勘定をできる限りグロスベースで
検討してみよう。まず直接投資であるが、インドネシア向けの直接投資についてみると、
2000 年以降新規投資が徐々に拡大し、過去の投資の返済部分を上回りはじめ、投資額はネ
ットでプラスに転じている。特に 2005 年以降は、大型投資案件が動いたこともあって、グ
ロスベースの資本金部分と借り入れ部分はともに急速に拡大している。統計上のもう一つ
重要な点は、2004 年以降インドネシアから海外に向けた直接投資が明示的に示されている
ことである。その金額は年間 30 億ドルから 46 億ドルに達しており、資本・金融勘定をマ
イナス方向に引っ張る要因となっている。海外向けの直接投資の一例としては、インドネ
シアのビジネスグループが中国、ベトナム、ロシアなどに投資を行っているといわれてい
る。
インドネシア国内向けの投資から海外への投資を差し引きした直接投資全体の数字
(ネ
ットベース直接投資)をみると、危機直後から続いていた赤字基調は、2004 年以降黒字に
転換している。
次はポートフォリオ投資である。まず資産側であるが、2004 年以降統計が改善され、イ
ンドネシア国内向けだけでなく、インドネシアから海外へのポートフォリオ投資が国際収
支統計に計上されるようになった。この項目については投資内容を明らかにすることはで
きなかったので、ここでは検討を省略する。
(注4)次にポートフォリオ投資の負債側は、
インドネシアに対する株式投資と債券投資にわかれている。
この両者はともに 2000 年代初
めから回復が進み、2000 年のマイナス(すなわち流出超過)から 2004 年の 40 億ドル、2005
年の 52 億ドル、2006 年の 61 億ドル、2007 年の 100 億ドルの黒字へと大幅な流入に転換し
ている。特に債券への投資が急速に増えているが、その中身は主として中央銀行証券(S
BI)と国債(インドネシア政府が銀行部門の資本注入のために発行したルピア建ての国債)
であろうと推測される。
(注5)これらのポートフォリオ投資は、危機後の混乱を経てイン
ドネシア経済が安定してきた 2000 年代半ばから、
再び流入が本格化してきたと考えられる。
その投資内容は、先に述べたように中央銀行証券、ルピア建て国債などのルピア建ての債
券であり、ルピア建て金利が高くルピアの価値が安定している場合に、裁定取引によって
流入が生ずるという性格を持っている。1997 年の危機の際にもそうであったように、ルピ
アの為替レ−トの切り下げ期待が高まれば、これらは一気に流出に転ずる可能性がある。
2007 年のポートフォリオ投資の流入額が 100 億ドル単位と大きく、かつ累積投資残高も積
み上がっていることが想像できるだけに、この点については、インドネシアの国際収支構
造の脆弱要因として注意すべきである。第4節でも説明する通り、サブプライム問題が深
刻化した昨年の第4四半期には、再びこの問題が顕在化してきている。
資本・金融収支の最後の項目として、その他投資を見ておこう。この項目についても、
他の資本・金融収支上の項目と同様に、2004 年以降統計の改善がなされ、インドネシア(主
として銀行部門)による海外向け資産増減が計上されるようになった。その金額は 2007
年には 46 億ドルの貸し出しとなっており、
決して小さな金額ではない。
中央銀行によれば、
その内容は主としてインドネシアの石油やその他製造業の輸出業者が提供するバンカーズ
アクセプタンスおよび商業銀行の保有する外貨預金であるということであった。次にその
他投資の負債側を見てみよう。インドネシアが海外の銀行から借り入れている金額と返済
金額のそれぞれをグロスベースでみると、2003 年ごろまではグロスの借り入れ金額よりも
返済額が大きかったが、近年では借入額が増大してきており返済額とほぼ同額に達してい
る。統計が入手できる直近の 2004 年から 2007 年の傾向をみると、グロスの借入額が 111
億ドルから 133 億ドル、これに対して返済額が 138 億ドルから 144 億ドルである。国際収
支のファイナンス項目である資本・金融収支の中では、グロス借入額と返済額は単年度の
フロー金額としては最も大きく、国際収支に与える影響も大きい。また近年はグロスの借
入額が増加傾向にあることから、将来の返済額は増加していくことが予想される。このこ
とは、何らかの理由で新規借り入れが低下すると、返済のみが残るので、この項目は必然
的に大幅に赤字化するということを意味している。
以上国際収支の推移をまとめると、2000 年代初めから徐々にインドネシアへの海外から
の投資が回復を始め、最近では直接投資、ポートフォリオ投資、その他投資などすべての
項目で資本流入が本格化し始めている。しかしその内容をみるとポートフォリオ投資は、
ルピア建ての中央銀行証券と国債に集中しており、次項に説明するように、為替レートの
期待切り下げ率に敏感に反応するという性格を持っている。またその他投資については、
グロスベースでみると資本・金融収支の最大の項目で、海外銀行からの借り入れとその返
済は、ともに年間 130 億ドル強となっており、今後この返済額は増加傾向にある。今日に
おいても、インドネシアの国際収支、特に資本・金融収支は、海外からの資金の変動に対
して敏感、かつ脆弱な構造をもっていると思われる。この点については、最後の第 4 節最
近の動向と短期的課題の中でより詳細に検討する。
2.2 海外資本流出入のメカニズム
前項で検討した、インドネシアの資本・金融収支が持つ脆弱な構造は、どこから来てい
るのであろうか。資本の流出入は、どのようなメカニズムによってきまるのであろうか。
資本・金融収支項目のうち直接投資は、インドネシアの場合には借り入れ部分を含んでい
るので、新規投資が減少するとマイナスになる可能性はあるが、一般的には経済ショック
に対して比較的安定的に推移する特徴をもっている。これに対して、ポートフォリオ投資
は、金利裁定によって大きく変動するという性格をもっている。その他投資については、
大型のドル建て銀行融資は、国内でシンジケートすることが困難なため、国際資本市場か
ら借り入れをせざるを得ない。またその他の企業による資金調達は、国内で資金調達する
場合と国際資本市場で資金調達する場合のコストを比較して決定されると考えられるため、
内外金利差に敏感に反応すると考えられる。したがって、直接投資を除く資本・金融収支
は、金利裁定式によって基本的には決まると考えてよいと思われる。
金利裁定式の基本式は以下のとおりである。
I = I* + ( (Et+1) - (Et)) / Et + RP
ただし、
I: 国内金利 (ここでは 3 カ月物ルピア定期金利)
I*: 国際金利(ここでは 3 カ月物 LIBOR)
Et+1: 1 期後の期待為替レート、rp/$表示
Et: 当期の為替レート、rp/$表示
RP: リスクプレミアム
上式は、期待為替レートとリスクプレミアムを考慮した国内金利と海外金利の差によっ
て、資本の流れが決まることを意味している。すなわち、期待為替レートとリスクプレミ
アムを考慮したのち、国内金利が海外金利よりも高ければ、海外から資本が流入し、その
逆であれば資金は海外に流出する。期待切り下げ率の数値は推計するのが難しいので、完
全な予見(perfect foresight)を仮定して、実現した為替レートを期待為替レートとして利
用した。また、リスクプレミアムを明示的に表すデータはないので、ここでは上式の残差
としてリスクプレミアムを推計している。
(注6)
(表−4 参照)ここで推計されたリスク
プレミアムは、もし人々が期待為替レートに関して完全な与件を持っていたとすると、同
時期に人々が認識していたインドネシアに対するリスクがどの程度であったかを示すこと
になる。
まず金融危機以前の 1996 年までの 10 年間の値を見てみると、推計されたリスクプレミ
アムは 3.4%から 12.5%と極めて高い水準にとどまり続けている。この時期には、経済自由
化政策などによって、S&Pやムーディーズのインドネシアに対する格付けも大幅に改善
しており、現実のマーケットの認識していたリスクプレミアムは低下していたはずである
のに、推計されたリスクプレミアムは高いままで、現実と大きくかけ離れている。
(注7)
マーケットの認識ではインドネシアのリスクプレミアムは大幅に低下しているのに、金利
裁定式はそのように反応していないのである。このような状況が長年継続すれば、インド
ネシアへの資金流入が発生することは自然の流れである。そして 1980 年代後半から 1996
年まで金利裁定式の指し示すとおり、インドネシアへの巨額の資本流入が発生したのであ
る。
その後危機の発生によって、上式の期待為替切り下げ率が跳ね上がったため、資本は急
激に流出した。それでは、危機後しばらく経ち、経済状況がある程度落ち着きを取り戻し
た 2000 年以降は、金利裁定式の構造はどのようになっているであろうか。危機後、インド
ネシアは変動為替レート制に移行しており、このため為替レートは、かなり頻繁に切り下
げから切り上げへと変動している。
したがって危機以前のように何年もの長期にわたって、
一方的に資本が流れ続けることは、あまりないように見受けられる。しかし、表―4 は、
年ベースの数値をもとにしており、資本の流出入の動向も年ベースの値をもとに分析して
いるので、短期的な資本の流れは明確になっていない。インドネシアでのヒアリングなど
をもとにして考えると、海外投資家(国内の投資家も含む)は、インドネシア中央銀行証
券やルピア建て国債への短期的投機を行っていることは明らかであり、これらの取引は、
金利裁定をベースにした取引である。したがって、インドネシアの資本・金融収支のかな
りの部分が、金利裁定式によって、決定されていると考えられる。
(注8)
しかし、翻って考えると、このような資本の動きは、国際資本市場のグローバル化の帰
結であり、資本移動を自由化している限りほぼ不可避であると思われる。今日のグローバ
ル化した国際資本市場の中で、資本の流れをどのようにマネージするか国際収支をいかに
マネージするかは、大変難しい課題であるといえる。
銀行部門の構造変化
3.
3.1.
全体的特徴
まずインドネシアの銀行部門の推移について全体的な流れを見ておこう。インドネシア
政府は、1980年代には金利の自由化および銀行参入の自由化などの典型的な金融自由
化政策を進め、金融部門は急速に発展した。
(注9)その後1997年にはアジア金融危機
にみまわれ、銀行部門は資産の約半分を不良資産として失うという大打撃を受けた。その
後危機から10年を経た現在でも、銀行の対民間部門向け貸し出しは対GDP比でみると
25%と、危機以前の半分以下にとどまっており、金融仲介機能は回復していない。
3.2. 1980 年代から金融危機以前まで
まず金融危機以前の時期について見てみよう。インドネシアは、1980年代における
金利自由化政策と銀行参入自由化政策に代表される金融自由化政策の導入により、経済学
のテキストブックに書かれているような、典型的な金融抑圧からドラスティックな金融自
由化へ転換した国である。金融抑圧の解消によって、預金および貸出金利は、市場メカニ
ズムにしたがって上昇した。実質金利は金利自由化政策を導入した1983年を境にマイ
ナスからプラスに転換し、その後1997年の危機に至るまで大幅なプラスの値を維持し
てきた。
3カ月定期預金の実質金利を見ると、
1983年の 3.3%から1984年には 8.3%、
1985 年には 10.9%へと上昇し、
その後も 1997 年まで実質金利は 10%前後で推移している。
(表―5 参照)実質金利の上昇は、金融的な貯蓄を増大させ、M2対GDP比率を自由化
時点の 1983 年の 18%から、金融危機直前の 1996 年の 52%へと上昇させた。この点からも
明らかなように、
金融自由化政策は金融部門の急速な発展をもたらしたのである。
(注10)
また銀行部門の預金の急速な上昇に伴って、銀行の貸出も急速に上昇した。銀行部門の民
間部門向け貸し出しのGDP比率は、1983 年の 13.5%から 1996 年の 55.4%へと上昇して
いる。このような銀行部門の預金と貸し出しの上昇は、国民所得ベースで見た貯蓄や投資
の対GDP比率の動きともある程度整合している。
(表 5 の最後の二つの欄を参照)世界銀
行「東アジアの奇跡」に書かれているように、インドネシアは金融自由化政策によって経
済ファンダメンタルを正しく保ち、高貯蓄と高投資によって高成長を実現したと考えられ
てきた。M2対GDP比率に見られる金融貯蓄の上昇、民間向け貸出対GDP比率に見ら
れる金融仲介の上昇は、この時期の高経済成長率を支えた重要な要因であったと考えられ
る。
しかし、金融部門の急速な発展は一方でいくつかの問題をもたらした。その第一は、1980
年代終わりから 1990 年代初めまでの銀行部門の成長のスピードがかなり速かったことで
ある。これに対して銀行部門の健全性ルールの整備と実施、検査体制などが十分に追いつ
いていかなかった。このため銀行部門は急速に拡大したが、その資産内容はかなり問題を
含んでいた。第二に、金融自由化によって、M2対GDP比率に代表されるように量的に
は金融的な発展が進んだが、銀行制度および銀行市場のプレイヤーの行動様式は、近代的
なものに変わっていないという点である。換言すれば、国営の銀行は引き続き国営銀行の
特質を維持し続け、また金融自由化で新たに設立されたビジネスグループの銀行は、ビジ
ネスグループ企業に対する資金の導管という性格を持ち続けていた。第三に、民間部門向
け貸し出しと預金総額の比率である預貸比率が 1980 年代半ばの 1.0 強から 1990 年代半ば
には 1.3 前後に上昇したことである。このことは預金の増大をはるかに上回る貸し出しが
行われていたことを意味するが、その差の大きな部分は海外からの借り入れによってファ
イナンスされた。第四に、海外資本の流入に伴って銀行部門の短期の外貨建て負債が増大
し、為替ミスマッチと満期のミスマッチが拡大したことである。1997 年に発生した金融危
機の背景には、前節で説明した国際資本移動の要因と国内金融部門の脆弱性の二つの側面
があると考えられるが、ここで検討した銀行部門の問題点は、後者の要因をなすものであ
る。
3.2.
金融危機以後
1997 年の金融危機による海外資本の逆流、為替レートの大幅下落、そして経済の急激な
縮小によって、インドネシアの銀行部門は機能不全に陥った。為替レートの下落と資本逃
避によって、銀行部門からは巨額の資金が流出し、経済は流動性危機に陥り、同時に多数
の銀行取り付けが発生した。また為替のミスマッチのため、為替レートの切り下げによっ
て商業銀行バランスシートの負債側の海外借入れが(ルピア建てで)急速に膨らみ、銀行
の純資産を急速に低下させた。インドネシアの企業部門は、銀行部門以上に海外借入れに
依存しており、資金流入の突然の停止、為替ミスマッチ、経済の急速な縮小などによって
企業は経営困難に陥った。これらの結果、銀行部門の不良資産は急速に膨らみ、銀行の多
くが機能不全、実質的な倒産状態に陥った。商業銀行部門のバランスシートを見ると、銀
行部門の不良資産引き当てが始まる前の 1998 年 6 月時点では、
対民間向け貸出残高は66
9兆ルピアであったが、引き当てがほぼ完了した1999年12月時点では226兆ルピ
アへと3分の1に以下に減少している。
すなわち、
銀行部門の対民間貸付の約3分の2が、
不良資産となったと考えられる。この不良資産の償却の過程で、銀行部門の資本金は大幅
マイナス、1999年6月にはマイナス215兆ルピアとなり、政府が国債発行によって
資本金を注入し、銀行部門の再建を行った。この後の政府による資本注入と銀行再建がほ
ぼ完了した2000年末の商業銀行部門のバランスシートの構造は次のようなものである。
総預金673兆ルピアに対して民間向け貸出が273兆ルピア、政府の資本注入による国
債保有が430兆ルピアでとなり、資産の大半が国債保有となっていることが分かる。
(表
―6 参照)
その後の銀行部門の状況を見てみると、経済が落ち着きを取り戻した 2000 年前後から、
対民間向け貸し出しは徐々に増加し、政府国債保有は減少してきている。この動きを預貸
比率(民間部門向け貸出の総預金に対する比率)でみると、同比率は危機前の1990年
の 1.3 がピークであり、危機後不良資産の償却によって1999年には 0.39 まで低下し、
その後2007年には 0.7 に回復している。
(表―7参照)ここからもわかるように200
0年以降対民間部門向け貸し出しは回復基調にあるものの、直近でも預貸比率は 1.0 を大
きく下回っており、銀行の仲介はいまだに十分に回復していない。一方で、このコインの
裏側である銀行部門の国債保有の総預金に対する比率は、危機前のゼロから2000年の
ピークには 0.41 に達し、その後徐々に低下し2007年には 0.36 となっている。
(注11)
次に銀行の準備率の推移をみると、1980年代後半から1990年代半ばにかけて、
銀行は貸出を急速に増加させ、準備率は法定準備率ギリギリの水準の 3.4%に低下した。危
機以後は、銀行は危機の経験から貸出に慎重になり、高い流動性を維持している。200
7年の準備率は約17%で法定準備率の3倍に達している。次に資本金比率(CAR)み
ると、危機以前は13%から14%と予想より高い。
(注12)これは多分に会計基準や不
良資産の定義が明確でなかったために、不良資産の分類がきちんとできていなかったため
であろうと思われる。危機後には不良資産が急増し、1998年、1999 年には資本金比率
はマイナスになった。その後政府の資本注入政策により、同比率は20%前後の水準にまで
回復し、最近までこの水準が続いている。法定の資本金比率はBIS規制に基づく 8 パー
セントであるから、二倍以上の資本金を持っていることになる。すなわちインドネシアの
銀行部門は、法定準備率の 3 倍の超過準備と、法定資本金の二倍の資本金を抱えている。
これは銀行部門の収益率、特に資本収益率(ROE)圧迫する原因となっている。ではな
ぜ銀行部門は、
危機から 10 年たってもこのような過剰流動性と過剰な資本を抱えているの
であろうか。
3.3 危機後の銀行ビジネスモデル
危機後現在に至るまで 銀行部門が過剰流動性と、過剰な資本を抱えている理由には、
借り手である企業側の要因と、貸し手である銀行側の要因がある。第一の要因は、借り手
企業側の資金需要が必ずしも危機前の旺盛な水準にないことである。第二の要因は、外資
系企業およびいくつかの大手企業は、海外から相対的低金利での借り入れが可能であり、
また海外に留めている自己の資金を利用することが可能であるということである。
このような銀行部門の構造に加えて、銀行の所有形態の変化は、銀行のビジネスモデル
に影響を与えつつあると考えられる。まず銀行の産業部門別貸出を見てみよう。
(表―8参
照)金融危機前には、銀行は総貸出残高の約 30%を製造業向けに、約 25%を流通業(小売・
卸売など)向けに、約 30%をサービス業向けに貸し出していた。残りの約 15%は、農業、
鉱業、その他産業向けであり、その他産業には消費者金融が含まれている。次に 2006 年の
貸し出しシェアをみると、製造業向け23%、流通業向け 20%、サービス業向け 20%とな
り、
これらの主要産業分野向けの貸し出しシェアは、
危機前と比べて大きく低下している。
一方で大きく貸し出しシェアを伸ばしたのは消費者金融向けである。消費者金融は 1999
年以前にはその他の項目に含まれており、それ以前の数値は明示されていないが、それほ
ど大きくはなかった。しかし危機後の消費者金融の伸びは急速で、2006 年には貸し出しシ
ェア 28.7%と、製造業などの他の主要産業をはるかに超える最大の借り手となっている。
この理由としては次の三点が考えられる。第一は、銀行のこれまでの主要借り手であった
大企業が危機によって崩壊してしまったことである。したがって先に述べたように、大企
業による資金需要も大幅に減少した。第二は、これまでビジネスグループのメンバーとし
てグループ企業のファイナンスを担当していた銀行は、政府のリストラクチャー政策によ
ってグループから切り離され、独立した銀行となった。このことは、銀行がかつてグルー
プ内にいたときには常に保有していた借り手の経営状況やリスクなどの情報を、今は持ち
合わせていないということを意味している。いいかえれば、情報の非対称性問題が深刻化
し、借り手のリスクを判断するためには、当然のことながら財務情報を収集し、貸出審査
を厳格に行わなければならない。第三に、銀行のリストラクチャーによって、危機後に銀
行の所有形態が大きく変化したことである。いくつかの大手の銀行はこれまでのビジネス
グループオーナーに代わって海外の投資家による所有となった。これらの海外投資家たち
は、銀行に投資した資金からの収益により大きな注意を払う。この結果、銀行は、製造業
などへの貸し出しが停滞する中で、より高収益を期待できる消費者金融に進出したと考え
られる。
表―9に示されているように、消費者金融への貸出金利は、国営銀行を除けば通常の運
転資金向けの貸出金利よりも高い。
(注 13)消費者金融は、主として自動車、オートバイ、
耐久家電などを対象としている。現地調査のヒアリングではこの分野での貸し出しについ
ては、これまでのところ多額の不良債権が発生するなどの問題点は指摘されなかった。し
かし、これまでの銀行のビジネスモデルは変化しつつあるように見えた。特に消費者金融
については、
貸出審査および資金回収方法が大きく変化しているようである。
貸出審査は、
主として自動車やオートバイの販売業者と連携して行うケースが多い。また貸出資金およ
び担保となる物件の差し押さえに多くの人的資源が必要であり、資金回収部隊としてかな
りの新たな人員を直接間接に雇用しているということであった。
また差し押さえなどには、
借り手の住む地域の有力者などの協力が必要であるということも指摘された。
以上から危機以降の銀行部門のビジネスモデルは大きく変化しつつあるように見える。
かつての世銀の「東アジアの奇跡」で指摘されたような、銀行部門による輸出製造業およ
びそれに関連する部門への資金仲介、高投資、輸出にけん引された高成長というモデルは
後退し、銀行部門はその多くを消費者金融向けに貸し出しを行い、利益を確保しようとし
ている。
(注14)2008年までの状況を見る限りでは、かつての高貯蓄、高投資、高成
長という連鎖は戻っていない。今後このようなかつての「東アジアの奇跡」の連鎖が戻っ
てくるのか、それとも新たな成長パターンを描くことになるのかは、現時点では明確でな
い。
4.
最近の動向と短期的課題
これまでマクロ経済、国際資本移動、金融仲介などについて、中長期的な視点からそれ
らの構造変化を検討してきた。最後にインドネシアが直面している短期的な課題、すなわ
ち、近年のアメリカのサブプライムローン問題に端を発する世界経済のリセッションと国
際的資本移動が、インドネシアにどのような問題をもたらしているかについて検討してお
きたい。インドネシアにおいては、サブプライム問題の影響は昨年の 10 月以降に表れてき
たもので、現時点では昨年の第 4 四半期の経済統計、特に国際収支統計は公表されている
ものがほとんどないため、ここでの議論は主として、今年 1 月初めに行った現地調査の際
のヒアリングをもとにしている。
ここでの結論は二つである。第一はインドネシアの国際収支構造は引き続き脆弱である
ということである。第二はアジア危機以降、このような国際資本移動に端を発する危機に
対して、IMFの改革やチェンマイ・イニシアティブなどに代表される 2 国間の対応策が
進められてきたが、それらの対応策は必ずしも十分ではないということである。われわれ
はアジア金融危機という未曽有の危機を経験し、途上国および先進国の双方はその経験に
多くを学んだと考えられてきたが、結論的に言うとそのような議論は不十分だったのでは
ないかということである。
インドネシアは、サブプライム問題が深刻化した昨年 10 月以降、巨額の資本流出と為替
レートの減価の圧力にさらされている。これに対して中央銀行は巨額の為替介入を行いル
ピアの減価を防止しようとしている。為替レートは 2008 年初めの 1 ドル約 9000 ルピアか
ら年末に 1100 ルピア強に約 20%減価した。中央銀行は 10 月の一月間で 70 億ドルを超え
るドル売りルピア買い介入を行ったが、その後の介入の額は明らかになっていない。流動
的外貨準備(金その他の非流動的外貨準備を除く)の残高は 2008 年 9 月時点で約550億
ドル程度であったから、ひと月間で約13%の外貨準備を失ったことになる。なお、この
後11月12月にもこの傾向が続いているので、外貨準備はらに減少していると推測でき
る。また、このような巨額の介入がなければ、変動為替制度の下でルピアは 20%を超える
大きな減価に直面していたはずである。もし為替レートがより大幅に減価していたとすれ
ば、市場の不安は高まり、より多くのルピア売りドル買いを招き、それは本格的な危機を
もたらしていたかもしれない。
それではなぜこのような資本の流出と為替の減価が起こったのだろうか。それは、表―
3の中央銀行発表による国際収支の資本・金融収支を詳細に検討することによって明らか
になる。表―3では 2007 年までしかデータがないが、最近の 2006 年と 2007 年の金融収支
の構造をベースに何が問題となっているのかを考えてみよう。まずその前に経常収支を確
認しておこう。2008 年には世界不況の結果、世界的に貿易は大きく縮小し、さらに原油価
格が大幅低下したことによって、インドネシアの中央銀行の予測によるとインドネシアの
経常収支はほぼゼロと予想されている。国際収支をサステイナブルに保つためには、これ
に見合った資本・金融収支、すなわちネットでゼロか若干のプラス程度の資本の流入があ
ればよいということになる。そこで資本・金融収支について、表−3の 2006 年および 2007
年の数値と 2008 年第4四半期以降のFDI、ポートフォリオ投資、その他投資のそれぞれ
の動向から推測される暫定的な状況を比較することによって、どのような問題が発生する
可能性があるのかを検討してみよう。まずFDIであるが、これについてはサブプライム
問題によって多少の影響はあったとしてもそれほど大きな影響は受けないと考えられる。
これに対してポートフォリオ投資の負債サイドについては、サブプライム問題で深刻な打
撃を受けた海外の投資家が、新規のポートフォリオ投資をストップしていることは明らか
である。それに加えて、これまで実施したポートフォリオ投資を引き揚げる可能性が大で
ある。2006年、2007年の海外投資家によるポートフォリオ投資は、株式投資が年
間約20億ドルから36億ドル、証券投資が42億ドルから64億ドルで、年間の合計投
資額は61億ドルから100億ドルに達する。現在の国際資本市場の状況では、海外資本
家がインドネシアに向けて新規のポートフォリオ投資を行うとは考えにくいので、年間で
みると61億ドルから100億ドルの新規ポートフォリオ流入の減少が発生する可能性が
ある。さらには海外投資家すでに保有し得いる株式と証券の売却を進める可能性があり、
その一部はすでに現実に起こっている。次にその他投資の負債サイド、主として借り入れ
についてみてみよう。2006年および2007年の年平均のネットの数字はそれほど大
きな額ではないが、それをグロスの借入実行額と返済額に分けてみると、年平均の借入実
行額111億ドルから132億ドル、返済額は年平均140億ドル強となっている。この
うち約40億ドル程度はインドネシア政府の多国間、2国間援助による公的な借入と推測
できるので、残りの70億ドルから90億ドルがインドネシアの民間部門による国際金融
市場からの借入である。この部分については国際金融市場の状況が悪化し、それに伴って
インドネシアの為替レートの減価や外貨準備の減少が顕著になると、民間からの新規借り
入れが急速に困難の度合いを増すことが想像できる。一方で、年々の返済は続けなければ
ならないので、年間返済額140億ドルは引き続き流出を続ける。以上をまとめると、2008
年には経常収支はほぼゼロとなることが予測されているので、資本流入停止およびこれま
での海外ポートフォリオ投資の売却が発生すると、大雑把に見つもって年間約200億ド
ルの資本・金融勘定のマイナスとなり、したがって同額の国際収支の赤字、外貨準備の減
少となる。このような状況の発生は、インドネシア国内の人々の資本逃避に波及し、本格
的な危機をもたらす可能性は否定できない。さらに付け加えると、現実に昨年9月から1
0月の一月間ですでに約70億ドルが流出しているとみられる。
このような状況に対して、1997年のアジア危機以降改革を進めてきた予防策は有効
に機能しているのであろうか。IMFについては多くの改革論議がなされ、新たな貸出窓
口が用意されている。また東南アジア地域では、チェンマイ・イニシアティブなどの地域
間スワップ協定が整備され、日本は中心的な役割を果たすことが期待されている。しかし
現実にこれらの新しいシステムが十分に機能するのか、特に危機を未然に予防するシステ
ムとなっているのかについては必ずしも明瞭ではない。IMFの新しいシステムおよびチ
ェンマイ・イニシアティブに基づく2国間スワップ協定は、危機を予防するに十分な金額
であるのか、どのような条件のもとで発動できるのか、またどの程度迅速に発動できるの
かなど疑問点は多い。現在日本との間に結ばれている二国間スワップ協定の枠約50億ド
ルは、サブプライム問題後の新たな国際金融市場の現状からみて、金額的にあきらかに不
十分である。
(現在インドネシア政府はこの枠の増大を要請している)またその引き出し額
がスワップ枠の20%を超える場合、すなわち10億ドル以上のスワップの利用は、IM
F のスタンドバイを条件としている。IMFスタンドバイを発動することは、とりもなお
さず危機に陥っているということと同義語であって、スワップ全額が危機の予防として利
用できるわけではない。このような点から現状の予防策は必ずしも途上国側からは利用し
やすいものとなっておらず、予防的効果は必ずしも十分とはいえないように見える。
もう一つサブプライムローン問題をきっかけとして、インドネシアの国内の銀行にも流
動性の問題が発生している。9月にバンク・セントラルという中規模の商業銀行が倒産し
て以来、資金の”flight to quality”が発生し、銀行間市場において資金がうまく還流していな
い。
前節で説明したように大手の銀行はこれまでもかなりの過剰流動性を保有してきたが、
2008年10月以降、さらに手元流動性を積み増している。その一方で資金を必要とす
る中小の銀行には資金が還流せず、流動性不足に陥る銀行が発生している。このような状
況では、中央銀行がマーケットオペレーションによって市場に流動性を供給するという通
常の金融政策は、有効性を発揮できそうにない。何らかの新しい対応が必要になると思う
が、現在の新中央銀行法の下では、中央銀行の行動は由一の目標であるインフレ目標の追
及に縛られており、他の目標に向けて果敢に対応する状況にはないように思われる。
5.
まとめ
本論では、まず中長期的な視点から、1997年の金融危機以前と以後で、インドネシ
アの国際収支、銀行部門の構造がどのように変化したのかを検討した。国際収支について
みると、危機前の構造は経常収支赤字基調と資本・金融収支の大幅黒字基調であったが、
危機以後は経常収支の黒字基調と資本・金融収支の赤字基調へと変化している。2000
年代初めからは、経済の回復に伴って、徐々に資本の流入が増加し、資本・金融収支は黒
字へと変化しつつあった。しかし、資本・金融収支を構成するポートフォリオ投資および
その他投資の動向は、金利裁定に基づいて激しく変動するという性格を持っており、イン
ドネシアの資本・金融収支の構造は、現在でも脆弱である。また銀行部門は、危機以降金
融仲介機能を十分に回復していないままである。このような状況の下で、海外投資家を新
しいオーナーとする銀行は、収益率を上げるために、消費者金融を中心に貸し出しを伸ば
すという新しいビジネスモデルに転換しつつあるように見える。
2008年第4四半期以降、サブプライム問題に端を発する世界経済の危機は、インド
ネシアにおいても大変深刻な影響をもたらしている。この事実は、インドネシアの国際収
支構造が引き続き脆弱であることを明らかにしている。また国際的な国際収支支援システ
ムも危機後十分に整備されているとはいえない。これらの面で早急な対応が必要である。
【参考文献】
小松正昭、
「インドネシア金融部門−金融自由化政策と今日の金融の背景」
、大蔵省財政金
融研究所編『ASEAN4 の金融と財政の歩み』1998 年、第 13 章
小松正昭、
「インドネシアの金融部門の発展と金融政策」
、寺西、福田、奥田、三重野編、
『アジアの経済発展と金融システム』
、2008年、東洋経済新報社、第2章
World Bank, “The East Asian Miracle –Economic Growth and Public Policy” 1993, World Bank
and Oxford University Press 第 1 章
Komatsu, Masaaki, “Economic Policies in the Asian Crisis Countries Before and After the Crisis
–Case of Indonesia-“ December 2002,(日本経済政策学会第 1 回国際大会提出論文
Bank Indonesia, Indonesia Financial Statistics, various issues
IMF, International Financial Statistics, CD Rom
表―1 国民所得勘定、対GDP比率
出所: IMF, IFS CDROM Nov.2008
表―2
国際収支表 (million USD)
出所: IMF, IFS CDROM Nov.2008
表―3
金融収支の内訳 (million USD)
出所: Bank Indonesia, "Indonesia Financial Statistics" various issues
表−4
金利裁定取引
Rp 預金金利
LIBOR
Rp 切下率
3 か月定期
3 months
期末
I
I*
E^
i*+change e
Risk Premium
I*+E^
1979
5.1
12.09
0.3
12.4
-7.3
1980
8.2
14.19
0
14.2
-6
1981
10.2
16.87
2.7
19.6
-9.4
1982
8.6
13.29
7.5
20.8
-12.2
1983
14.8
9.72
43.5
53.3
-38.5
1984
17.1
10.94
8
19
-1.9
1985
15.2
8.4
4.7
13.1
2.1
1986
14.6
6.86
45.9
52.7
-38.1
1987
17.5
7.18
0.5
7.7
9.8
1988
17.8
7.98
4.9
12.9
4.9
1989
17.1
9.28
3.8
13.1
4
1990
17.53
8.31
5.8
14.1
3.4
1991
23.32
5.99
4.8
10.8
12.5
1992
19.6
3.86
3.5
7.4
12.2
1993
14.55
3.29
2.3
5.6
8.9
1994
12.53
4.74
4.3
9
3.5
1995
16.72
6.04
4.9
10.9
5.8
1996
17.26
5.51
3.2
8.8
8.5
1997
20.01
5.76
95.1
100.9
-80.9
1998
39.07
5.59
72.6
78.2
-39.1
1999
25.74
5.41
-11.7
-6.3
32
2000
12.5
6.53
35.4
42
-29.5
2001
15.48
3.78
8.4
12.2
3.3
2002
15.5
1.79
-14
-12.2
27.7
2003
10.59
1.22
-5.3
-4.1
14.7
2004
6.44
1.62
9.7
11.4
-4.9
2005
8.08
3.56
5.8
9.4
-1.3
2006
11.41
5.2
-8.2
-3
14.4
2007
7.98
5.3
4.4
9.7
-1.7
出所: IMF, IFS Yearbook 2005 and IFS May 2006,IMF, IFS CDROM Sep. 2008
注:為替レートは期末値を利用した。
表―5
実質金利, M2/GDP, 民間向け貸出のGDP比 (%)
預金金利
CPI
実質金利
3ヶ月定期
上昇率
M2/GDP
民間向け
貯蓄率
投資率
貸出
(GDP 比) (GDP 比)
(GDP 比)
1979
5.1
21.8
-16.7
16.3
9.7
27.4
20.9
1980
8.2
16
-7.8
17
9.4
29.2
20.9
1981
10.2
7.1
3.1
16.7
10.2
33.3
29.8
1982
8.6
9.7
-1.1
17.7
13
27.7
27.9
1983
14.8
11.5
3.3
18.9
13.5
29
28.7
1984
17.1
8.8
8.3
20
15.7
29.7
26.2
1985
15.2
4.3
10.9
23.6
17.6
29.8
28.1
1986
14.6
8.8
5.8
24.9
19.6
27.2
28.2
1987
17.5
8.9
8.6
26.4
21.8
32.9
31.3
1988
17.8
5.5
12.3
28.2
26
33.9
31.5
1989
17.1
6
11.1
32.6
32.5
37.5
35.1
1990
17.53
9.5
8
40.1
46.1
36.6
36.1
1991
23.32
9.5
13.8
39.8
45.8
35.9
35.5
1992
19.6
4.9
14.7
39.3
45.5
38.2
35.8
1993
14.55
9.6
4.9
43.4
48.9
32.5
29.5
1994
12.53
8.6
4
44.9
51.9
32.2
31.1
1995
16.72
9.4
7.3
48
53.5
30.6
31.9
1996
17.26
8
9.3
52.2
55.4
30.1
30.7
1997
20.01
6.7
13.3
55.4
60.8
31.5
31.8
1998
39.07
57.7
-18.7
59.5
53.2
26.5
16.8
1999
25.74
20.5
5.3
57.6
20.3
19.5
11.4
2000
12.5
3.7
8.8
53.4
19.4
31.8
22.4
2001
15.48
11.5
4
50.2
17.7
31.5
22
2002
15.5
11.8
3.7
47.4
18.9
26.8
20.9
2003
10.59
6.7
3.9
46.9
21
24.6
25.3
2004
6.44
6.2
0.2
45.7
23.8
32.2
23.3
2005
8.08
10.4
-2.3
43.4
25.1
27.5
25.1
2006
11.41
13.1
-1.69
41.4
25.4
28.7
25.4
2007
7.98
6.4
1.58
41.5
25.4
28.2
24.9
出所: IMF, IFS Yearbook 2005 and IFS May 2006, IFS CDROM Sep.'08
表―6 商業銀行のバランスシート
Trillion Rp
(1)1997 年 6 月
資産
準備金
民間向け貸出
外貨資産
政府向け貸出
その他
計
負債
17
預金
233
333
外貨建て預金
56
18
外貨建て負債
33
1
その他
65
57
資本金
41
427
計
427
(2)June 1998
資産
準備金
負債
25
預金
342
民間向け貸出
669
外貨建て預金
178
外貨資産
188
外貨建て負債
189
1
その他
251
133
資本金
54
政府向け貸出
その他
計
1,014
計
1,014
(3)December 1998
資産
準備金
負債
34
預金
418
民間向け貸出
513
外貨建て預金
117
外貨資産
116
外貨建て負債
98
政府向け貸出
その他
計
1
その他
228
99
資本金
-99
計
762
762
(4)June 1999
資産
準備金
負債
預金
462
260
外貨建て預金
108
外貨資産
81
外貨建て負債
73
政府向け貸出
92
その他
132
その他
92
資本金
-215
民間向け貸出
計
35
560
計
560
(5)December 1999
資産
準備金
負債
42
預金
474
民間向け貸出
226
外貨建て預金
113
外貨資産
120
外貨建て負債
100
政府向け貸出
269
その他
150
その他
158
資本金
-22
計
815
計
815
(6)December 2000
資産
準備金
負債
50
預金
533
民間向け貸出
273
外貨建て預金
140
外貨資産
102
外貨建て負債
93
政府向け貸出
430
その他
168
その他
130
資本金
51
計
985
計
985
(7) December 2001
資産
準備金
負債
49
預金
612
民間向け貸出
303
外貨建て預金
155
外貨資産
110
外貨建て負債
68
政府向け貸出
409
その他
138
その他
169
資本金
67
計
1,040
計
1,040
(8) December 2002
資産
準備金
民間向け貸出
外貨資産
負債
預金
662
358
外貨建て預金
140
90
外貨建て負債
52
57
政府向け貸出
378
その他
112
その他
148
資本金
94
計
1,060
計
1,060
(9) December 2003
資産
準備金
民間向け貸出
外貨資産
負債
預金
720
434
外貨建て預金
139
77
外貨建て負債
31
72
政府向け貸出
345
その他
166
その他
240
資本金
112
計
1,168
計
1,168
(10)December 2004
資産
準備金
民間向け貸出
外貨資産
負債
預金
788
550
外貨建て預金
136
68
外貨建て負債
49
88
政府向け貸出
309
その他
111
その他
201
資本金
132
計
1216
計
1216
(11) December 2005
資産
負債
準備金
114
預金
890
民間向け貸出
685
外貨建て預金
190
外貨資産
119
外貨建て負債
56
政府向け貸出
309
その他
130
その他
183
資本金
144
計
1410
計
1410
(12) December 2006
資産
負債
準備金
145
預金
民間向け貸出
772
外貨建て預金
184
94
外貨建て負債
59
外貨資産
1047
政府向け貸出
297
その他
148
その他
302
資本金
172
計
1610
計
1610
(13) December 2007
資産
負債
準備金
196
預金
民間向け貸出
971
外貨建て預金
216
71
外貨建て負債
77
外貨資産
1243
政府向け貸出
297
その他
152
その他
355
資本金
202
計
1890
計
出所: BankIndonesia, Indonesian Financial Statistics, various issues.
1890
表―7
預貸比率、準備率、資本金比率 (Trillion Rp, %)
出所: IMF, IFS CDROM, September '08
表―8
産業別銀行貸出 (Billion Rp, %)
合計
農業
鉱業
製造業
商業
(小売、卸業)
サービス
その他
消費者金融
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
112825
122918
150271
188880
234811
292928
378134
487426
100
100
100
100
99.917
99.998
100
100
8465
10281
12057
13860
15525
17630
26002
39308
7.5
8.4
8.0
7.3
6.6
6.0
6.9
8.1
743
762
777
799
918
1693
5316
5909
0.7
0.6
0.5
0.4
0.4
0.6
1.4
1.2
33131
37289
51432
60211
72088
78850
111679
171668
29.4
30.3
34.2
31.9
30.7
26.9
29.5
35.2
33049
32944
37794
44372
54224
70586
82264
96364
29.3
26.8
25.2
23.5
23.1
24.1
21.8
19.8
20066
25870
35824
50806
66584
91655
113569
139124
17.8
21.0
23.8
26.9
28.4
31.3
30.0
28.5
17371
15772
12387
18832
25277
32507
39304
35053
15.4
12.8
8.2
10.0
10.8
11.1
10.4
7.2
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
合計
農業
鉱業
製造業
商業
(小売、卸業)
サービス
その他
消費者金融
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
225133
269000
307594
365410
437942
553548
689669
787136
100
100.07
100
100
100
100
100
100
23777
19503
20863
22332
24307
32376
36678
45003
10.6
7.3
6.8
6.1
5.6
5.8
5.3
5.7
3697
6880
7440
6095
5061
7730
7873
13896
1.6
2.6
2.4
1.7
1.2
1.4
1.1
1.8
84259
106782
116525
121035
123125
143603
169678
182432
37.4
39.7
37.9
33.1
28.1
25.9
24.6
23.2
43288
44099
48450
65978
84257
111035
134108
162396
19.2
16.4
15.8
18.1
19.2
20.1
19.4
20.6
43161
44316
49061
60983
89129
107858
134943
157638
19.2
16.5
15.9
16.7
20.4
19.5
19.6
20.0
26951
47620
65255
88987
112063
150946
206389
225771
12.0
17.7
21.2
24.4
25.6
27.3
29.9
28.7
24086
40093
58435
79805
112063
150946
206389
225771
10.699
14.904
18.997
21.84
25.589
27.269
29.926
28.683
出所: BI, Indonesian Financial Statistics, Jan 1994, Dec 1997, Feb 2001, May 2007
表―9
貸出金利および貸出スプレッド
3 か月預金金利
国営銀行
民間銀行
運転資金貸出金利
外国合弁
全銀行
国営銀行
民間銀行
銀行
外国合弁
全銀行
銀行
1987
20
23.6
22.9
22.1
1988
16.16
19.65
18.9
17.75
20.2
23.8
23.3
22.3
1989
16.2
17.63
16.62
17.06
19.7
21.7
19.5
21
1990
20.59
21.62
19.5
21
21.2
25.1
22.8
21
1991
21.25
21.99
20.11
21.88
25.1
28.2
23.7
25.1
1992
18.62
20.37
16.8
19.51
22.16
26.02
21.99
24.05
1993
12.8
15.83
11.4
14.53
19.37
21.72
16.71
20.52
1994
9.89
13.81
10.18
12.64
16.77
18.52
15.07
17.75
1995
13.93
17.37
14.68
16.8
16.86
20.13
17.68
18.88
1996
14.92
17.8
14.01
17.25
17.02
20.49
17.65
19.21
1997
20.69
20.31
14.88
20.33
18.49
23.72
20.7
21.98
1998
39.36
41.59
28.81
39.97
25.09
36.37
43.34
32.27
1999
25
26.21
21.54
25.31
26.22
32.58
29.59
28.89
2000
13.33
13.2
11.21
13.24
19.85
20.53
15.95
18.43
2001
17.47
16.94
12.35
17.24
19.15
19.16
19.09
19.19
2002
13.65
13.77
9.89
13.63
18.85
18.21
15.71
18.25
2003
7.11
7.2
6.66
7.14
16.18
14.66
11.02
15.07
2004
6.47
6.98
5.81
6.71
14.32
13.13
9.33
13.41
2005
11.71
11.95
11.67
11.75
15.71
16.95
14.5
16.23
2006
11.25
11.68
11.49
11.4
15.36
15.41
13.4
15.07
スプレッ
消費者金融金利
国営銀行
民間銀行
外国合弁
ド
全銀行
国営銀行
民間銀行
銀行
外国合弁
全銀行
銀行
1987 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
1988 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
4.04
4.15
4.4
4.55
1989 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
3.5
4.07
2.88
3.94
1990 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
0.61
3.48
3.3
0
1991 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
3.85
6.21
3.59
3.22
1992 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
3.54
5.65
5.19
4.54
1993 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
6.57
5.89
5.31
5.99
1994 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
6.88
4.71
4.89
5.11
1995 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
2.93
2.76
3
2.08
1996 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
2.1
2.69
3.64
1.96
1997 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
-2.2
3.41
5.82
1.65
1998 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
-14.27
-5.22
14.53
-7.7
1999 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
1.22
6.37
8.05
3.58
2000 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
6.52
7.33
4.74
5.19
2001
16.43
21.55
32.91
19.85
1.68
2.22
6.74
1.95
2002
16.8
21.67
34.61
20.21
5.2
4.44
5.82
4.62
2003
16.04
18.8
34.5
18.69
9.07
7.46
4.36
7.93
2004
14.62
15.93
32.9
16.57
7.85
6.15
3.52
6.7
2005
15.23
16.06
32.01
16.83
4
5
2.83
4.48
2006
15.26
17.2
35.74
17.58
4.11
3.73
1.91
3.67
出所: Indonesian Financial statistics, Apr. 2006, May 2007
注1.2000 年以降はすべての金利は各年 12 月の平均。
注 2.1999 年までは、金利は各年の平均値。
注 3.1991 年までは民間銀行は外貨取引を認可されたもののみを含む。1992 年以降はすべての
民間銀行を含む。
(注 1) この点ついては Komatsu, Masaaki, “Economic Policies in the Asian Crisis Countries
Before and After the Crisis –Case of Indonesia-“ December 2002,(日本経済政策学会第 1 回国際
大会提出論文)に詳述してある。
(注2) 直接投資が大きなマイナスとなっていたことについては、インドネシアの統計
上の説明を要する。インドネシアの直接投資の統計は、直接投資案件の総投資額の認可を
もとにして国際収支上の統計を推計しているが、総投資額には資本金と借り入れの双方が
含まれているため、借り入れ分の返済が発生し、海外直接投資額がマイナスとなる。
(注3) グロスベースの詳細な国際収支統計は 2000 年以降しか公表されていない。
(注4) 海外へのポートフォリオ投資については、一義的には統計の把握が向上したこ
とによるが、海外への投資内容が必ずしも明らかではなく、今後さらなる統計の改善が必
要であると思われる。
(注5) インドネシア政府が国際資本市場で発行するヤンキー債などはせいぜい数億ド
ル単位であるので、インドネシアに流入している債券投資は国内で発行されたルピア建て
債券への投資と推測できる。
(注6) この点については、小松正昭、
「インドネシア金融部門−金融自由化政策と今日
の金融の背景」
、大蔵省財政金融研究所編『ASEAN4 の金融と財政の歩み』1998 年、第 13
章に詳述してある。
(注7) これは、金利裁定式が、為替市場および金融市場の不完全性などの理由によっ
て、スムーズに調整されなかったためであると考えられる。
(注8) この点については今後より詳細な検討を行いたい。
(注9) この点については、小松正昭、
「インドネシアの金融部門の発展と金融政策」
、
寺西、福田、奥田、三重野編、
『アジアの経済発展と金融システム』
、2008年、東洋経
済新報社、第2章に詳述してある。
(注10) この点については、小松正昭(1998)前掲書を参照。
(注11) 中央銀行は商業行銀行に対して貸し出しを増大するように指導を行ってきた
ようであるが、それは必ずしも有効な結果をもたらしていない。商業銀行は貸出契約を行
うものの貸し出し実行は進まず、貸出未実行の残高が急激に増加する結果となっている。
インドネシアでは貸出未実行の残高に対して、コミットメントフィーをとる習慣がないこ
と、貸出未実行残高は資本金規制の対象にならないことから、貸し手の銀行は単に貸出契
約額を積み上げたものと推測される。
(注12) ここで示した準備率および資本金比率は、預金の種類、貸出のリスクウエイ
トなどを勘案したものではなく、預金総額、民間向け貸出総額をもとに計算したものであ
る。しかし、時折中央銀行が発表する数値とほぼ同水準にあり、このような大雑把な計算
でも十分に実態を反映していると考えられる。
(注13)しかし国勢銀行および民間銀行の同部門向け貸出金利はそれぞれ 15.26%,
17.2%と、想像したほど高くはない。特に外国合弁銀行の 35.74%と比べると大幅に低い。
あるインドネシア民間銀行の説明によると、国営銀行および民間銀行の消費者金融向け貸
出の中には、中小企業向けマイクロクレディットなどが含まれており、消費者金融向けだ
けを取り出すと、貸出金利はこの数値よりもかなり高いということであった。
(注14) World Bank, “The East Asian Miracle –Economic Growth and Public Policy” 1993,
World Bank and Oxford University Press 第 1 章参照。
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