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インド洋大海戦 上 - C NOVELS.com

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インド洋大海戦 上 - C NOVELS.com
旭日の鉄十字
上
インド洋大海戦 □
三木原慧一
Keiichi Mikihara
立ち読 み 専 用
立ち読み版は製品版の1〜20頁までを収録したものです。
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イラスト 上田 信
図版・地図 安達裕章
DTP 欄外画字
上巻 目次
第三章
第二章
第一章
世界は二人のために
―
罪なる心
―
パンジャンドラム
―
合衆国海軍撃沈指令
―
終わりの始まり
―
第四章
どうにも止まらない
―
プロローグ
第五章
究極の絶縁状
―
クリミナル・マインド
第六章
21
9
59
207 177 139 95
90°
E
100°
E
110°
E
120°
E
台湾
20°
N
海南島
フィ
ルソン島
リピ
ベンガル湾
ン
マニラ
アンダマン諸島
パワラン島
マ
ニコバル諸島
レー
半
セレタール
島
パレンバン
メナド
セレベス島
ボ
ル
ネ
オ
島
ス
マ
ト
ラ
島
スラバヤ
ジャワ島
ド
10°
S
洋
20°
S
オーストラリア
90°
E
100°
E
110°
E
120°
E
インド洋要図
40°
E
60°
E
70°
E
80°
E
50°
E
20°
N
紅
海
インド
アラビア海
ソコトラ島
湾
アデン
10°
N
ソマリア半島
セイロン
アフリカ
0°
アッズ環礁
ディエゴ・ガルシア島
10°
S
イ
20°
S
40°
E
マ
ダ
ガ
ス
カ
ル
島
ン
トアマシナ
50°
E
60°
E
70°
E
80°
E
旭日の鉄十字 インド洋大海戦 上
プロローグ
終わりの始まり
―
いた。
﹁警告⋮⋮警告⋮⋮敵機動部隊、接近中! 全爆撃
隊は可及的速やかに発進せよ。繰り返す⋮⋮﹂
ていた。滑走路の掃除を続けつつ、大型四発爆撃機
中佐の言を待つまでもなく、爆撃隊は発進を続け
を飛び立たせるのは正気を疑われる姿だが
。
―
﹁端っこを片付ける分には問題ないってわけさ、坊
ごうおん
島を覆う轟音は不気味さを増していた。
や﹂
やP の左エンジンカウリングを閉じた。
発物の破片、燃料補給車の残骸を片付ける光景は、
闘能力を発揮、サラマンダーよろしく、インド洋上
P ライトニング。
38
ルト・バッジョ合衆国陸軍中佐の甲高い声が響いて
キロを軽く超える長大な航続性能を持ち、双発エン
今や〝無能な働き者〟の筆頭として悪名高いロベ 全備重量七トン余に達する重戦ながら、二〇〇〇
一連の緊迫感に唯一水を差すのがスピーカーだ。 その性能は卓越していた。
せる。
を最大速度六三〇キロで突き進むはずだ。
がった。搭乗員さえ来れば、この予備機は完全な戦
他にも点検箇所は残っているが、実質これで仕上
38
激しい戦いがこの場に迫っていることを思い起こさ
ブルドーザーが唸り、滑走路上にばらまかれた爆
うな
主滑走路の掃除は続いていた。
は、死んでも死にきれない。
も⋮⋮否、だからこそ、こんな爆発で命を落として ディック・ゲイリー最先任上級曹長は、つぶやく
は敵コマンド部隊の仕掛けた時限爆弾の類いとして
発砲音は止んでいたが、爆発は続いている。一切
10
プロローグ――終わりの始まり
11
Lockheed P38 Lightning
乗員
最大速度
武装
ジン搭載による安定感の高さは群を抜いている。
は低い。片肺でも長距離飛行が可能な点は、単発機
太平洋の戦いは広大だ。海に墜ちれば生存の確率
と比べて大いに心強い利点の一つといえる。
加えて安定した上昇性能。
これは、左右に逆回転するプロペラのおかげだ。
大半の単発機が絶対に逃れられないトルクの影響を
相殺、滑らかな上昇が可能になった。
カタログ仕様ではP を超える上昇率を持つ機体
機体は、ゲイリーが知る限りP くらいなものだ。
まで一定の上昇角をひたすら維持しつつ上昇できる
は多岐にわたり存在するが、高度八〇〇〇メートル
38
格闘性能は劣っていた。
半面、ライトニングは、旋回を始めとする機動性、
は限られる。
2を用いれば、まともにこれと対抗できる敵戦闘機
機首に集められた五門の改良型ブローニングM2A
安定した上昇性能を生かし、高速を以て敵と戦い、
38
周辺諸国の国力、爆撃機の性能からみる
限り、当時の合衆国は本土防空の必然に乏
しい立場にあったが、陸軍航空隊は本機に
高高度邀撃機の性能を求めた。これは緊迫
する国際情勢と将来戦備の兼ね合いからの
要求であった。
排気タービンを装備した高速戦闘機とし
て誕生した本機は、高高度性能もさること
ながら、高速度を生かした一撃離脱戦法に
徹することで、多くの戦果を挙げている。
11.5 m
15.9 m
5,800kg
アリソン V1710-49/53
液冷V型12気筒
離昇出力1,325 hp×2
1名
630 km/h
12.7 mm機関砲×5
全長
翼幅
自重
発動機
牛のように太ったネコを思わせる鈍重さだ。
といえる。
―
生かした戦い方こそ、P を生かす最も適切な戦術
カブツを見あげる。
冷星型複列一四気筒。排気量三〇リットル。あるい
は、一八三〇立方インチと呼ぶべきか。
は
チで換算、発動機固有識別番号に与えている。
張りあげた。
をB リベリーター大型爆撃機が疾駆する様は、戦
〇馬力×四⋮⋮四八〇〇馬力でインド洋の離れ小島
襲撃が⋮⋮﹂
﹁滑走路がいつまでも無事だと思うな! 現に敵の
をあげるが、ゲイリーは無視した。
中堅の域に入っている整備兵の一人が不満げな声
﹁あれをですか、曹長?﹂
しておけ!﹂
﹁念のためだ。例のオモチャも取り付け準備だけは
ゲイリーは独りつぶやきつつ、整備兵たちに声を 航空ガソリンを大量に食みつつ、離昇出力一二〇
だが⋮⋮﹂
﹁問題は、そいつをこなせる若造が少ないってこと 合衆国の発動機は、その多くが排気量を立方イン
38
徹底した一撃離脱、高速と優れた長時間上昇性能を プラット・アンド・ホイットニーR1830。空
それだけ被弾面積が大きいことを意味する
―
かき消された。整備兵たちが主滑走路を疾走するデ
低空、低速におけるP の機動性は、食べ過ぎで 最先任上級兵曹の怒鳴り声は、次の瞬間、轟音に
38
単発機の五割増しに達する主翼面積を考えれば
12
ゲイリーは眼を細めた。
驀進していく。
ばくしん
それが目の前を通過、滑走路の端近くまで一気に
加速された全備重量二〇トンを超える大型四発機。
フラップを二〇度まで下げ、時速二五〇キロまで
時下そのものだ。
24
13
プロローグ――終わりの始まり
Consolidated B24 Liberator
全長
翼幅
自重
発動機
20.5 m
33.5 m
14,790kg
P&W R-1830-65
空冷星型複列14気筒
離昇出力1,200 hp×4基
10名
467 km/h
12.7 mm機関銃×10丁
爆弾 5,800kg
乗員
最大速度
武装
設計を担当したコンソリデーテッド社は
航続力と速度性能を両立させる新型デービ
ス翼型を採用した。この翼型は高速性に優
れる半面、翼の防御性能が乏しく、乗員悪
評の一因となった。その一方で、B17 より
高速な巡航速度、爆弾搭載量と長大な航続
性能に高い評価を与える声もあり、全般的
に合衆国より、ドイツ本土爆撃を主任務と
する英空軍の評価が高い機体であった。
量産性にも優れ、簡潔で要を得た構造か
ら製造メーカー以外の他社、特に自動車産
業において製造可能な点は、総力戦を戦う
視点から見て本機最大の利点と言える。
城塞と門をかたどった欧
―
州的なそれを見る限り、先頭を切って飛んでいった
機首のノーズアート
B は、亡命ポーランド人指揮官⋮⋮ザブランとか
いう大尉が操るリベリーターのはずだ。
﹁
〝クラクフ〟です、曹長殿!﹂
機体の愛称は、確か⋮⋮。
浮上する。前輪が空を切り、数メートル浮上した機
新兵の一人が声を張りあげるや、
〝クラクフ〟が
張感に満ちていた。
体がそのまま、そろりと上がっていく様は奇妙な緊
仮にその前に高さ数メートルの樹木でもあれば、
脚部をひっかけて墜落するのでは⋮⋮と思えるよう
な低さで飛んでいく。
それでも相手がベテランなのは、素早く主車輪と
フラップを引っこめた手際の良さから見て取れる。
二番機が轟音と共に脇を通過していく。
ザブラン機は無事上がった。見とれる間もなく、
続いて三番機が滑走路に出るや、エンジンを全開
24
じゅ ず
容易とした。
三ノット。それを生み出す機関は、ターボ・エレク
バルは平均三〇秒を切っていた。一機目が滑走路の 合成風力の視点から常に注目を受ける艦速は、三
にする。数珠つなぎの爆撃機隊が飛び立つインター
半ばに達した頃、二機目が端で発動機を吹かし、ブ
動機に伝え、艦を動かす。
トリック方式だ。蒸気圧を利用して発電、それを電
かわ
過負荷時最大二一万二〇〇〇馬力。
に達していた。
よ
そ
言葉に偽りはない。艦速はすでに三三・五ノット
ンド洋上を文字通り驀進していた。
空母の女王にして誉れ高き艦﹃レキシントン﹄がイ
―
レーキを解き放つ。
大三二・三メートルに達し、大型艦載機の離着艦を
全長約二六四メートルに達する飛行甲板。幅は最
一の長さを誇った。
﹁ディエゴ・ガルシア基地からの応答はどうなって
ハルゼー合衆国海軍中将の声が響く。
名誉を重んじる闘将、ウィリアム・フレデリック・
海軍の﹃ 翔 鶴型﹄航空母艦が就役するまで、世界 足元から不気味に響いてくる機関の唸りを余所に、
しょう かく
その艦が誇る長大な飛行甲板は、後に大日本帝国
洋上を進む空母任務部隊が存在した。
。
―
び立ち、ゆったりと大回りな旋回を始めたそのとき 艦齢一七年の老嬢ながら、レディ・レックス
ター。第744爆撃隊がディエゴ・ガルシア島を飛 公試時の過負荷値では⋮⋮三四・九九ノット。
ソロモン・ザブラン大尉率いる一六機のリベリー 速力⋮⋮通常最大値、三三ノット。
に向けて飛び立つ異能集団なのだ。
はなきに等しい。爆撃隊とは、発進の瞬間から危険 電動機定格出力、一八万馬力。
前方で不慮の事故が起きれば最後、これを躱す暇
14
いる? P の連中は島にたどり着いたのか﹂
いい聞かせるような口調に艦橋内が静まりかえる。
戦力は、三つ。一つは、陸軍航空隊爆撃隊、二つ目
﹁枢軸艦隊は、我々と戦う決意を固めた。こちらの
に達する戦闘機、攻撃機だ。我々が徹底した戦いを
⋮⋮我々、ハルゼー任務部隊が保持する一三〇機余
やらぬ限り、爆撃機も戦艦も容赦なく打ちのめされ
は、セオバルト少将率いる新鋭戦艦隊、三つ目が
﹁無線トラブルか?﹂
るだろう。マダガスカル島の一件を見ても判るよう
﹁あれから数度にわたり呼びかけましたが、音信不
考えられますが⋮⋮﹂
手強い存在だ。味方にすれば心強く、敵に回せば最
い
か
悪に等しい強かさを発揮する⋮⋮老獪な狐なのだ﹂
ろうかい
﹁レーダー室より艦橋。方位二一四、距離一七六、
か、です、提督﹂
﹁問題は、その点を搭乗員たちに如何に納得させる
したた
高度三〇〇〇付近に航空機反応多数。繰り返す。方
この戦いにおいて、完璧な憎まれ役を演ずると決
な視線を向けた。
めたダンカン参謀長の声に、ハルゼーは奇妙に冷静
﹁わかっている。よく⋮⋮わかっているさ﹂
告げるや彼は、送受話器を取りあげた。
なく我々の前に現れ、遠慮会釈なく爆撃、雷撃を仕
掛けてくるんだ!﹂
﹁我々がいかにためらおうが、彼等は来る。間違い
かれ ら
わざと大声を張りあげたハルゼーは続けた。
﹁だからいっただろう、諸君!﹂
位二一四、距離一七六、高度三〇〇〇付近に⋮⋮﹂
スピーカーから音声が流れる。
に⋮⋮サイジョーたちは優れた見識と能力を持つ、
﹁はっきりしません。敵の通信妨害である可能性も
通です、提督。空電の状態から考えると⋮⋮﹂
ラッドレー・ダンカン大佐が応じる。
指揮官の質問に第7任務部隊参謀長ドナルド・ブ
38
そのとき、はたとブザー音が鳴った。間を置かず
プロローグ――終わりの始まり
15
機銃掃射をかける。
線に流せるか? 上空で戦闘空中哨戒を続ける奴ら 高初速二〇ミリ弾が誘導路を進むB を捉え、激
﹁通信室、ハルゼーだ。今から俺が伝える話を、無
ンほど詰めこんだ燃料補給車に 焼 夷徹甲弾が命中、
しょう い てっ こう だん
しい爆発音が轟く。一三〇オクタンガソリンを四ト
曳光弾が続き、一瞬のうちに轟爆が発生する。日中
の気化を促す環境が完全に整っていた。
の気温が軽く三五度に達するこの島では、ガソリン
えいこうだん
⋮⋮うむ⋮⋮頼む。時間は取らせない。準備でき次
いぶか
第、知らせてくれ﹂
戦闘機搭乗員たちにそっくり聞かせたいのだ
―
24
。
―
する中、P 編隊の翼下から一斉に白煙が沸き上が
った。
頭上を駆け抜ける液冷発動機の爆音に、ウィリア
の炎と激しい爆風が周囲を圧する。
ラ
ウ
ン
デ
ル
最先任上級曹長が怒鳴る。
どう見てもP にしか見えぬ機体の群れが、一斉 同心円標識を描いたP が突如、姿を現した。
38
双発、双胴、中央胴体。
円形紋章をつけた友軍機が滑走路を攻撃していた。 滑走路に連なる掩体の一角でディック・ゲイリー
﹁ちくしょう⋮⋮なんてこった!﹂
国製兵器に、装備に、可燃物に命中する度に、橙色
オレンジ
軽巡の一斉射に匹敵するロケット弾の群れが合衆
38
ム・ミッチェル合衆国陸軍少将は思わず怒鳴った。
﹁いったい何のつもりだ、あれは!﹂
その敵の姿とは
部隊の襲撃に加え、新たな攻撃を受けたのだ。
ディエゴ・ガルシア島は再び奇襲を受けた。特殊 高オクタン航空ガソリンが爆発し、炎の塊が乱舞
げに眺めたそのとき⋮⋮。
送受話器をフックにかけたハルゼーを一同が訝し
16
に降下、増速しつつ、ディエゴ・ガルシア島に対し ラウンデル⋮⋮英軍機?
38
料タンクが続けざまに被弾した。
その場にいるだれもがそう感じた。合衆国陸軍は、 可変ピッチプロペラの一角に大穴が空き、胴体燃
スが薄紙のように貫かれる。
焼夷徹甲弾がぶちこまれ、厚さ三八ミリの防弾ガラ
二五〇リットルの容量を誇る胴体内燃料タンクに
それが突然の攻撃をしかけてきた。
過去を持つためだ。
排気タービン抜きの劣化版P を英空軍に貸与した
何のために⋮⋮なぜ、英軍が⋮⋮。
酸化アルミ皮膜を被せ、硬化焼き入れ処理を施した
超ジュラルミンに
―
24STアルクラッド合金
最も一般的な航空機構造材を炸裂弾が貫通し、胴体
を射線に捉える。
ようやく車輪を引っこめた友軍機
再び恐るべき光景が現実化した。
めす。
カーチスP
―
つける。
リッター換算一九七リットル
―
一杯に詰められた出力価100/130を誇るAN
︲F︲28、最高の航空機用ガソリンが焔を振りま
きつつ、滑走路を驀進する。
いた。炎の壁をくぐり抜け、見覚えある友軍機
―
弾丸重量117グラムを誇る徹甲弾がP を叩きの 巨大な炎の塊が乱舞する中、思わずディックは瞬
毎分八〇〇発の発射速度で二〇ミリ弾が放たれ、 再び轟爆が発生した。
40
〇六スプリングフィールド弾を完全に無視するや、 五二USガロン
双胴を閃かせ、秒速八五三メートルで進む三〇︲ 爆発音と共に増槽が滑走路を跳ねた。
ひらめ
直下に取り付けられた落下型増槽に破片と熱を叩き
始めた。ブローニングM1919が唸り、毎分六〇
〇発の発射速度で放たれる。
部下の一人が怒鳴るや、空に向けて機関銃を撃ち
ラ イ ミ ー
﹁英国兵め⋮⋮気でも違ったか!﹂
38
頭上の敵機があざけるようにバンクした。
プロローグ――終わりの始まり
17
40
ニングが舞い下りてくる。
派手なノーズアートを描いたロッキードP ライト
38
部下たちが消火器をつかむ。
﹁ボング中尉⋮⋮!﹂
っけない最期⋮⋮。それを連想したのだ。
﹁俺の〝マージ〟をやる! こいつを俺にくれ、曹
長!﹂
﹁どうぞ、中尉! こいつはあなたのものだ!﹂
﹁ありがとう!﹂
ての撃墜王は素早くP に乗りこんだ。アリソンエ
ンジンが始動、発動機回転数が毎分一四〇〇回転に
。
―
独りつぶやいた彼は、スロットルを全開にした。
﹁発艦、開始﹂
隊中尉は叫んだ。
あ
ほしいまま
⋮⋮権力を 恣 にした男が、激戦の戦場で迎えるあ
七秒後であった。
帝国海軍中尉岩本徹三は、かすかに頬を歪めた。
いわもとてつぞう
帝国海軍艦政本部とブロム・ウント・フォス社共
A
horse!
A
Horse!
my
kingdom
for
a
horse!
シェイクスピア﹃リチャード三世﹄第五幕五場
同開発による最新鋭油圧カタパルトが作動する中、
た。
一瞬、ディック・ゲイリーは奇妙な想念に囚われ 一式二号二型射出機の作動はそれからわずか三・
国をくれてやる。
嗚呼、馬をくれ。馬を。されば、代わりに我が王
あ
ら⋮⋮!﹂
達しようとしたそのとき
38
﹁予備機が欲しい! 俺に予備をくれ! くれるな
乗員、リチャード・アイラ・ボング合衆国陸軍航空
燃える機体から転がるように降りてきた腕利き搭 にやりと笑うや、撃墜数一三を数える合衆国きっ
うで き
怒鳴り声が錯綜する中、ディックの一喝が響くや、 ボングの大声に、ゲイリーは、はっと我に返った。
さくそう
それは真っ直ぐ彼が預かる掩体を目指してきた。
18
きゅう
そう
彼の愛機、メッサーシュミットBf109Tが蒼
穹 を舞っていた。
初速一六〇キロ余に達する勢いで空母﹃翔鶴﹄よ
り放たれた彼の愛機は、ダイムラーベンツDB60
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
サー﹄
﹃ザイドリッツ﹄
。
が日本製駆逐艦とペアを
―
実際には重巡洋艦で、艦型分類も
―
多数のドイツ艦艇には、何度見てもぎょっとさせら
これだけでも異様だが、空母を守るべく存在する
れる。装甲艦
組み、輪形陣を張る。
5A液冷発動機の轟音と共に緩やかな上昇を始める。 完全にそうなっている
艦隊戦力はそれだけでは終わらない。
足元に横たわる燃料の重みをあらためて噛み締める。 敵攻撃隊の接近を真っ先に伝える役目を負っていた。
VDMプロペラのピッチを切り替えつつ、岩本は ドイツ駆逐艦の大半は対空見張り用電探を装備、
レ
ー
ゲ
ル
やまと
む さし
さく首を振る。
その後続となって進む巨艦が二隻⋮⋮。
戦艦ビスマルク、ティルピッツが大和に劣らぬ速
力で前進を続けていた。
達する速力で一路、走り続けているのだ。
日独合同、四隻からなる戦艦隊は、三〇ノットに
﹃グラーフ・ツェッペリン﹄
﹃ペーター・シュトラッ 天気晴朗ナレドモ波高シ。
我が軍の﹃翔鶴﹄
﹃瑞鶴﹄を筆頭に、ドイツ空母
ずい かく
艦隊の中央にまとめられた航空母艦の群れ。
それを実感させる光景が眼下に広がっていた。
まったく⋮⋮なんて、奇妙な世界なんだ。
⋮⋮。
それを愛機として、空に舞い上がる日本人の俺 戦艦大和、武蔵が単縦陣を組み、驀進していた。
母を意味する〝Tr ger 〟の略と聞く。
ト
最後につけられた﹃T﹄の意味は、ドイツ語で空 艦隊上空を単機で飛びつつ、岩本はあらためて小
メッサーシュミットBf109T。
プロローグ――終わりの始まり
19
不意に、岩本は思った。
すなわち
。
―
み
答を知るには、時計の針を若干戻す必要があった。
国との講和に向けた糸口をつかめるのか⋮⋮。
日独枢軸艦隊は、俺たちはこの戦いに勝ち、合衆
果たして今回の戦いは、どうなるのか。
出で得た利権の一切を放棄する恥辱を味わった。
屈辱的な講和条約を結ぶ羽目に陥りなり、大陸進
は め
あのとき、我が国はロシアに負けた。
笠﹄がたどった壮絶な運命⋮⋮。
かさ
り総員戦死を遂げた東郷平八郎。連合艦隊旗艦﹃三
とうごうへいはちろう
敵戦艦スヴォーロフの放った﹃運命の一弾﹄によ
この天候⋮⋮まるで、日本海海戦じゃないか。
20
書
店
に
て
お
求
め
の
上
、
お
楽
し
み
く
だ
さ
い
。
形
式
で
、
作
成
さ
れ
て
い
ま
す
。
こ
の
続
き
は
★
ご
覧
い
た
だ
い
た
立
ち
読
み
用
書
籍
は
P
D
F
Fly UP