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研究会研究報告 - 日本科学教育学会
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
ISSN 1882-4684
日本科学教育学会
研究会研究報告
2015 年 11 月 14 日
佐賀大学
一般社団法人 日本科学教育学会
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
目 次
未来を見つめる科学教育
「歩く」事象に基づいた算数科「速さ」の導入指導―グラフ電卓と距離センサーを活用して―
.............................................................................................................................................. 川上 貴・米田重和・浦郷 淳・立石耕一・石井 豪
1
小学校理科におけるモデルの活用に関する実践的研究―第 6 学年「体のつくりとはたらき」単元を事例として―
....................................................................................................................................................................藤本菜菜・四十谷寿子・本多 優・甲斐初美
7
中学校理科「生命を維持するはたらき」呼吸モデル実験の改善に関する研究~新しい呼吸モデル装置
LuNG model 及び実験方法への教師及び学生による評価~........................................................ 西野秀昭・灘岡佑紀・後藤 恵 13
韓国の初等科学教育に関する基礎的研究―教科書の内容分析を通して―...................................................木村有紀子・坂本憲明 19
小学校における天動説の立場からの「月の満ち欠け」に関する授業の実践とその効果
...............................................................................................................................................................................................長谷川恭子・吉田 歩・森藤義孝 25
「雪」をテーマにしたプレゼンテーション学習を推進するテキスト開発と全市コンテストの実践
............................................................................................................................................................................................................................... 朝倉一民・高橋庸哉 31
中学生が授業導入時の事象の観察から生成する疑問―油脂の凝固に関連した疑問を事例にして―
..........................................................................................................................................................................................................................廣 直哉・内ノ倉真吾 35
中学生を対象にした火山・防災アンケート調査................................................................................................................... 濵上康弘・土田 理 39
能動的な学習を支援する実験予習動画を用いた授業実践―中学校理科実験における有効性の検証―
............................................................................................................................................................................................................................... 諸留有志・土田 理 43
理科教育における帰納的・演繹的思考力の育成についての教授論的考察―実践例と単元例に焦点を当てて―
...............................................................................................................................................................田平陽子・秋次裕輔・阿久根康太郎・世波敏嗣 47
動物園来園者の科学的観察を支援するための紙芝居を利用したワークショップ:
旭山動物園のアザラシ展示における観察行動の質的検討
............................................................. 田中 維・山口悦司・稲垣成哲・江草遼平・楠 房子・奥山英登・木下友美・坂東 元 51
Live Biblia: タンジブルインタフェースを用いた博物館における展示案内システムの開発
......................................................................................................................................................................... 江草遼平・齋藤万智・楠 房子・稲垣成哲 57
天草に分布する佐伊津層の教材化と授業実践........................................................................................津留ありさ・高嶌栞織・田中 均 61
鍵教材とプロセス・スキルによる小・中学校理科カリキュラムの構造化................................................................................... 渡邉重義 67
生物基礎における観察実験の再検討Ⅲ―原核細胞と真核細胞の比較―........................................................矢守健太郎・渡邉重義 71
阿蘇山中岳映像の教材化......................................................................................................................................................................... 飯野直子・金柿主税 77
大学数学講義での受講生のニーズ分析手法.........................................................................................................................高木 悟・上江洲弘明 81
リーダー人材の育成に向けた取り組み―高専生の科学教育支援活動を通して―.................................................................. 山崎充裕 87
― 4 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
「歩く」事象に基づいた算数科「速さ」の導入指導
―グラフ電卓と距離センサーを活用して―
Eliciting the Concepts of Speed through Walking: Utilizing a Graph Calculator and Distance Censor
○川上 貴 1,米田重和 2,浦郷 淳 3,立石耕一 4,石井 豪 5
KAWAKAMI, Takashi1㻌 KOMEDA, Shigekazu2㻌 URAGO, Atsushi3㻌 TATEISHI, Koichi4㻌 ISHII, Go5
西九州大学 1,佐賀大学 2,佐賀大学文化教育学部附属小学校 3 4 5
Nishikyushu University1, Saga University2, Elementary School Attached to Saga University3 4 5
[要約]本研究では,算数的活動の一層の充実に向けて,現実事象と算数とのつながりを重視す
る立場から,グラフ電卓と距離センサーの機器を活用した,小学校第 6 学年における「速さ」の
導入指導を開発し,実践した。本稿では,3 時間の導入授業を通して,感覚的に「速さ」を捉え
ていた児童が,現実事象,グラフ,数量間の関係,式を相互に関連づけながら,漸次「速さ」を
数学的に捉えていく様子について報告した。
[キーワード]速さ,グラフ電卓,距離センサー,現実事象,算数的活動
おける「速さ」の導入指導を開発し,実践した。
1.算数的活動の一層の充実に向けて
算数教育において,「速さ」に関する指導方
法の開発は,授業実践上の重要な課題の一つと
本稿では,その授業の構成とクラス全体の様子
について報告する。
して取り組まれてきた(例えば,廣瀬2007)。
「速さ」の指導では,視覚的に捉えにくい「速
2.研究の背景
さ」を扱うなかで,計算公式の指導に陥らずに,
()「速さ」の導入指導について
児童が「速さ」の概念を創りあげていくプロセ
平成 20 年版学習指導要領解説算数編(文部
スをいかに実現させるかが課題となる。
科学省2008:171)では,「速さ」を「実際の
平成 20 年版学習指導要領では,平成 10 年版
場面と結びつけるなどして,生活や学習に活用
の学習指導要領に引き続き,算数的活動の充実
できるようにすることが大切である」と記され
が図られてきた。だが,算数的活動で強調すべ
ている。実際,現行の算数教科書(全 6 社)の
き事項については改善の余地がある。例えば,
「速さ」の導入をみると,人や動物や電車等の
日本数学教育学会教育課程委員会検討 WG
「速さ」を比較する場面が取り上げられている。
(2014)では,次期学習指導要領に向けて,
「算
そして,
「速さ」を数値化する必要性を喚起し,
数・数学の創造的活動」を算数的活動・数学的
単位量あたりの大きさの考えを用いて,
「速さ
活動の中で一層強調する必要があることを提
=道のり÷時間」あるいは「速さ=時間÷道の
言している。また,算数・数学科の次期学習指
り」の式を導く展開になっている。しかしなが
導要領改訂の方向性の一つとして,「実社会と
ら,それらの教科書では,最初から変数として
の関わりを意識した算数的活動・数学的活動の
「時間」と「道のり(距離)」が示されており,
充実等」が示されている(文部科学省2015:
時間と道のりの数値が示された表をもとに単
34)。これらの「算数の創造」と「実社会との
位量当たりの大きさを計算し,導かれた「速さ」
関わり」という項目に共通しているのは,
「現
の数値の大小を比較することに留まっている。
実事象と算数とのつながり」である。
それゆえ,現実的な場面を取扱ったとしても,
そこで本研究では,上記の教育課程編成の動
活動の中心は「速さをどう計算するか」といっ
向を踏まえるとともに,現実事象と算数とのつ
た「数学の世界」に閉じてしまう危険性を孕ん
ながりを重視する立場から,グラフ電卓と距離
でいる。
センサーの機器を活用した,小学校第 6 学年に
― 1 ―
「速さ」の導入指導に関して,杉山(2008)
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
は,感覚と数値とを対応させた数値化を実現さ
判断,修正の過程」を繰り返し行ったことを報
せるために,「速さ」を構成する変数の吟味や
告している。さらに,算数における試みとして,
それら変数間の関係の考察を丁寧に取扱う必
川上ほか(2015)では,「速さ」未習の 5 年生
要性を述べている。また,太田(2007)は,距
の事例分析を通して,グラフ電卓と距離センサ
離と時間が示された教科書の問題を取り上げ
ーを活用した「速さ」の導入方法について検討
ながら,
「現実の世界」と「数学の世界」との
している。川上ほか(2015)では,歩く動作と
つながりを児童に意識化させるためには,
「距
結びつけながら「速さ」を意味づけ,グラフで
離と時間が比例関係にある」と仮定して考えて
視覚的に捉える導入方法の可能性を明らかに
いる点に注目させることを提案している。この
する一方で,「速さ」の導入で欠かせない単位
ように,現実事象とのつながりを意識した「速
量あたりの大きさの考えや「速さ」の公式化の
さ」の導入指導においては,変数の選択や変数
考えの取扱いを課題として導出している。本研
間の関係の吟味を行ったり,比例関係という仮
究では,こうした課題の克服を目指して,グラ
定を意識したりすることが重要となる。
フ電卓と距離センサーを活用した「速さ」の導
()グラフ電卓と距離センサーの活用
入指導を小学校算数科の第 6 学年「速さ」の単
児童が現実事象と結びつけながら「速さ」の
元の中に位置付けた。
概念を構成するためには,「速さ」を実感した
り体感したりできる場面の設定も必要である。
3.グラフ電卓と距離センサーを用いた「速
さ」の導入授業の設計
そこで本研究では,「速さ」と現実事象とを結
びつける道具として,グラフ電卓と距離センサ
()「比例」の単元との連携
ー(図 1)に着目する。
前述した通り,現実事象とのつながりを意識
した「速さ」の導入指導においては,変数の選
択や変数間の関係の吟味を行ったり,比例関係
という仮定を意識したりすることが重要とな
る。さらに,本導入授業では,グラフ電卓に示
されたグラフやデータから「速さ」の関係式の
導出まで目指している。これまで児童は,第 4
学年の折れ線グラフの単元において時系列グ
ラフの基本的なよみとりを学習しているが,グ
ラフ表現と式表現の変換については,あまり経
験していない。そのため,本研究では,
「速さ」
図 グラフ電卓と距離センサー
の単元の前に「比例」の単元(3 時間)を設定
これまで,グラフ電卓と距離センサーを用い
した。表 1 がその単元計画であり,第 3 著者と
た取組として,中・高等学校の数学の授業にお
第 4 著者が設計した。本単元を通して,比例の
いて,歩く事象の変化とグラフを生徒が関連づ
定義や,比例関係を表す式やグラフの意味や特
けたことが実証されている(例えば,佐伯ほか,
徴について学習することを意図している。
2013)。また,理科教育の立場から,土田(2014)
は,グラフ電卓と距離センサーによって,現実
世界での身体の動き(実験)と描写される理論
時
1
モデル(グラフ)の往還が活性化され,学習者
表 「比例」の単元計画(全 時間)
の現象モデルが絶え間なく洗練されることを
で実践した土田ほか(2010)では,小学生が,
― 2 ―
3
「科学的手法の一つである,観察,解釈,適応,
2
指摘している。実際,小学校の理科実験の文脈
授業の目標
・コピー用紙の枚数を 2 つの数量に着目して
考えることができる。
・比例関係を y  (決まった数)  x と表すこ
とができ,グラフに表すことができる。
・グラフから数量や数量の関係をよみとるこ
とができる。
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
()「速さ」の授業の構成
の前を自由に歩き,グラフ電卓の使い方に慣れ
始めに,「速さ」の単元全体の構成について
るとともに,表示されるグラフの意味について
概説する。本単元では,移動する長さと移動に
あ~
問いをもつことを意図する。次に,図 2 の○
かかる時間という異なる 2 種の量の割合で捉
え の 4 つのグラフをグループで再現する。
○
最後
え,「速さ」という新しい量をつくり出し,そ
に,4 つのグラフの再現方法について実演し合
の量の比べ方と表し方について理解できるよ
い,「速さ」
,「速い」
,「遅い」,「速さが変わら
うになることを主なねらいとした。単元計画は
ない」,
「速さが変わる」などの「速さ」の概念
表 2 の通りである。なお,グラフ電卓と距離セ
に係わるキーワードを板書にまとめる。
ンサーを用いた「速さ」の導入授業は,第 1
あ
時~第 3 時に当たる。この導入授業については, ○
著者全員で協働して設計し,第 4 時~第 8 時に
ついては,第 3 著者と第 4 著者が作成した。
表 「速さ」の単元計画(全 時間)
時
1
・
2
・
3
4
5
・
6
7
8
い
○
う
○
授業の目標
え
○
・グラフ電卓と距離センサーの使い方に慣れ
るとともに,指定されたグラフを再現する
ように歩くことを通して,歩く速さについ
て興味・関心を高める。
・
「速さ」が長さ(距離)と時間という2量に
よって決まることを歩く活動に基づいて捉
えることができる。
・歩く事象を表したグラフより,「長さ(距
離)」,
「時間」,
「速さ」の3つの量の関係式
を求めることができる。
・歩く事象とグラフ表現を関連づけることを
通して,現実事象に基づいて「速さ」に関
する概念を構成することができる。
・
「時速」
,
「秒速」,
「分速」の用語とそれらの
意味や関係を捉えることができる。
図 再現するグラフ(第 時)
第 2 時では,各自の机と椅子が設置された多
目的教室で行い,実演用にグラフ電卓と距離セ
ンサーを 1 組のみ用意する。
第 2 時の始めには,
あ ~○
え のグラフを
前時の復習を兼ねて図 2 の○
再現し,4 つのグラフの特徴とそれぞれの歩き
方を比較する。児童は比例のグラフを学習して
い のグラフが比例のグラフであり,
いるので,○
「速さが一定」であることに気づくと考えられ
・速さと時間の関係から,道のりを求めるこ
とができる。
・速さと道のりの関係から,時間を求めるこ
とができる。
・時間と印刷枚数から,仕事の速さの比較方
法を説明することができる。
る。次に,「一定の速さ」の意味と「速さ」を
構成する変数,すなわち,グラフの縦軸と横軸
お から○
きま
の意味に着目させるために,図 3 の○
でのグラフを再現し,3 つのグラフの特徴とそ
れぞれの歩き方を比較する。
・これまでの「速さ」の学習を算数レポート
にまとめることができる。
次に,第 1 時から第 3 時に焦点をあてて,授
お
○
か
○
業の構成の概略について記述する。第 1 時では,
児童 3~4 名を 1 グループにし,全部で 12 グル
ープを編成する。各グループにグラフ電卓
2)
と距離センサーを 1 組ずつ配布し,歩くスペー
き
○
スを確保するために体育館で実施する。ストッ
プウォッチと巻尺も全グループ分を用意し,児
童の求めに応じて配布できるようにしていく。
第 1 時の最初には,グループ毎に距離センサー
― 3 ―
図 再現するグラフ(第 時)
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
お と○
か のグラフに焦点をあてて,表
最後に,○
に距離と時間の 2 つの数量の関係をまとめ,比
例の式を用いて表す。さらに,
「速さ」の違い
をグラフの傾きとも結びつける。
第 3 時も第 2 時と同様に,各自の机と椅子が
設置された多目的教室で行い,実演用にグラフ
電卓と距離センサーを 1 組用意する。第 3 時で
は,単位量あたりの考えを引き出すために,グ
図 歩く活動の様子
ラフの見た目や実際の動きだけでは判断が難
く と○
け のグラフの再現に取組み,
しい図 4 の○
ど
ちらのグラフの歩き方の方が「速さ」が速いか
を投げかける。最後に,
「速さ」は単位時間(距
離)あたりの距離(時間)であることを「速さ
=距離÷時間」または「速さ=時間÷距離」と
いう式を用いて定式化する。
く
○
け
○
図 2+3 シートを用いたグラフの比較
に再現されたグラフ同士を比較する活動が生
図 再現するグラフ(第 時)
まれた(図 6)
。これによって,グラフの形の
みを拠り所にして再現していたのが,グラフの
4.グラフ電卓と距離センサーを用いた「速
さ」の導入授業の実際とその考察
傾きや距離などの数学的な側面にも着目して
再現しようとするグループが現れた。各グルー
授業は,佐賀県にある国立大学附属小学校第
プの詳細な分析については稿を改めたい。
6 学年(2 学級)を対象に,第 3 著者と第 4 著
図 2 の 4 つのグラフの再現方法を発表し合う
者がそれぞれ実践した。授業は,残りの著者が
場面では,表 3 にあるように,各グラフの歩き
観察し,教室の前から児童全体を,後方から教
方の特徴に関する発言がみられた。
室と板書を中心にビデオ録画した。そして,児
童のノートはすべて複写し記録として残した。
本稿で焦点を当てるのは,実施したうちの 1
表 各グラフの歩き方の特徴
グラフ
学級(38 名)であり,第 4 著者の授業である。
本稿では,表 2 の単元計画にある第 1 時~第3
あ
○
・途中からスピードが変わる
・最初速く,後ゆっくり
い
○
・一定の速さ,テンポ
・同じペース ・ゆっくり一定
あ と最初同じテンポ,速さ
・○
・ゆっくり,ちょっと速く
・止まる ・3mまでを 2 秒で止まる
時の「速さ」の導入授業の実際について,クラ
う
○
ス全体の様子に焦点をあてて記述する。
()第 時
グループ別で歩く場面では,どのグループも,
え
○
グラフ電卓のボタンを押す児童,歩く児童,グ
ラフや歩く動作を観察する児童に分かれ,役割
を適宜交代しながら取り組んでいた(図 5)。
あ ~○
え のグラフを印刷した
途中から○
主な発言
・1mまでを 5 秒で歩き,その後,5mまで
を 2 秒で歩く
・曲がってるとこから速く
あ と反対で最初は遅く
・○
様々な傾きのグラフを再現させたことで,児
OHP シー
トを配布したことで,OHP シートをグラフ電
童は,自らグラフを比較し,
「速い」
「ゆっくり」
卓の画面の上に載せ,再現すべきグラフと実際
「一定」
「同じペース」といった児童なりの「速
― 4 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
さ」に関する表現を用いて捉えることができた。
く速さの違いを表に整理して,倍比例の関係や
さらに,横軸が時間,縦軸が距離を表している
時間と距離の関係を考察し,時間と距離の関係
ことに気づいている児童もみられた。
が比例になっていることを再確認するととも
()第 時
に(図 7),言葉の式と単位量あたりの考えを
あ ~○
え のグラ
導入では,前時に扱った図 2 の○
用いて時間と距離の関係を定式化した(図 8)。
フを指名した児童に再現してもらい,クラス全
そこでは,
「時間×2=距離の 2 は,1 秒あたり
体で歩き方とグラフの様子を観察した。そして,
の距離」であることを児童と確認し,「一定の
4
いの
つのグラフの歩き方を比較することで,○
速さ」とは「単位時間あたりに決まった距離を
グラフは「一定の速さ」で歩いているのに対し
進むこと」が導かれた。既習の比例の考えと単
て,残り 3 つのグラフは「途中で速さが変わる」
位量あたりの考えを併用してグラフ,表,式と
歩き方であることに気づき,板書にまとめた。
いった数学的表現を媒介しながら,児童と共に
次に,教師は「一定の速さ」とは何かという
「速さ」に係わる関係を見出したわけである。
問いを取り上げ,本時のねらいを「一定の速さ
お ~○
き
について調べよう」と設定した。図 3 の○
のグラフを提示し,指名した児童にクラス全体
の前で再現してもらうことで,
「一定の速さ」
で歩くと直線になり,「少しずつ速く」歩くと
お と○
かの
曲線になることに気づかせた。特に,○
グラフは「右上がりの直線になる」ことから「比
図 表を用いた比例関係の考察
例」のグラフであるという気づきも生まれ板書
お と○
か のグラフのどちら
した。さらに,教師は○
の歩き方の方が速いか投げかけ,傾きが急にな
っているグラフの歩き方の方が速いことを,実
際の歩く動作と結びつけて確認した。
さらに,教師は,グラフの縦軸と横軸の単位
が何かを問いかけたところ,「横軸が時間で縦
図 式と単位量あたりの考えによる時間と
軸が距離」という意見がおよそ半分を占める一
距離の関係の定式化
方で,「横軸が距離で縦軸が時間」という意見
や「縦軸が速さで横軸が時間」という意見など
以上のように,第 1 時では,歩き方の特徴に
も見られた。これらの反応からは,第 1 時の歩
基づいて「速さ」を感覚的に捉えていたのに対
く活動では,縦軸と横軸を把握してグラフを再
して,第 2 時では,比例の考えを活かし,
「グ
現しているように見える児童でも,経験的に判
ラフ」の特徴や表から見出せる数量の関係に基
断している可能性があることを示唆している。
づいて「速さ」を捉えることに移行していった。
なお,クラス全体が「横軸は時間で縦軸が距離」
ただし,
「一定の速さ」を式や数値で表現した
う のグラフ
であることに納得したのは,図 2 の○
ものの,実際の歩く動きに戻す機会が十分にな
を用いた説明であった。そこでは,ある児童に
かったため,次時の始めに補充することにした。
よって,
「静止」している部分は距離であって,
()第 時
時間は進んでいることが発表された。こうした
か のグラフを正確に再現しよ
最初に,教師は○
軸や目盛りに着目した説明がなされ,全体で共
か のグラフを再
うと投げかけた。クラス全体で○
感することができたのも,事前に行った「比例」
現する歩き方を何回か観察することで,
「 秒
の単元の中でグラフに対する見方が養われて
あたり mずつ進むように歩くこと」がこの場
いたからだと考えられる。
合の「一定の速さ」であることを感得させるこ
お と○
か のグラフにおける歩
授業の後半では,○
か のグラフのよ
とができた。再現の場面では,○
― 5 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
うにならなかった歩き方及びグラフの特徴と
比較していくことで,
「グラフの傾き」,
「歩き
方」
,
「時間と距離との関係」を結びつけてノー
2) 授業では,土田ほか(2010)と同様に,グラ
フ電卓に表示されるグラフの縦軸と横軸のラ
ベルが見えないように設定した。
トにまとめる児童が見られた(図 9)。このこ
謝辞
とは,児童が現実事象と数学的表現を関連づけ
授業実践に当たり,鳴門教育大学の佐伯昭彦准
教授,佐賀大学文化教育学部附属小学校の荒川尚
教諭にご協力を頂いたことを感謝申し上げます。
本研究は,JSPS 科研費 26780509(代表者:
川上 貴)の助成を受けています。
ながら「速さ」を捉えていることの証左になる。
引用・参考文献
図 「速さ」に関する児童の関連づけ
さらに,教師の方で,
「5 秒で 5m」であって
も比例にはならないグラフの歩き方を実演し
たことで,児童は,距離と時間とが比例すると
みなすことで,初めて単位量あたりの考えを適
用することができ,
「 秒で mすすむ」ことが
導ける点にも気づくことができた。
く と○
け のグラフを
授業の中盤では,教師は,○
提示し,どちらの歩き方の方が速いか問いかけ
ながら,授業の目標を「速さ,時間,距離の関
係をまとめよう」と設定した。グラフを重ねて
傾きの微妙な違いで判断する児童や公倍数の
考えを用いて距離や時間の一方をそろえる児
童や単位量あたりの考えを用いて判断する児
童などが見られた。授業の最後には,教師が「
秒あたりに何mすすんだ」ことを何と言うのか
を問いかけたところ,児童らは「一定の速さ」
と答えた。さらに,「一定」の意味について問
うと,
「mに 秒」
「きれいに分けて」
「速さの
平均」という返答があった。児童が平均の速さ
の考えを見出したわけであるが,こうした考え
の背景には,本時の始めに確認した「mを 秒ずつ歩く動作」や,比例にならないグラフの
教師の実演が鍵となっていた。なお,授業内で
は,速さ,時間,距離の関係の式を扱うことが
できなかったため,次時で扱った。
註
1) 写真のグラフ電卓は,TEXAS INSTRUMENTS
社の TI-84 Plus Pocket SE,距離センサーは同社
の CBR2 であり,授業で使用したものと同型で
ある。グラフ電卓に表示される横軸は 0 秒から
9 秒までの時間を示し,縦軸は 0mから 5mま
での距離を示す。
廣瀬隆司: 算数教育における「速さ」の概念獲得
過程に関する研究, 日本数学教育学会誌 数学
教育学論究, 89, 9-43, 2007.
日本数学教育学会教育課程委員会検討 WG: 学習
指導要領算数・数学科改訂に向けての検討課
題, 日本数学教育学会誌, 96 (11), 10-21, 2014.
川上貴・鐘ヶ江滉一・青山雄太郎・森山誠仁・
大森智史・永淵幸輝: グラフ電卓と距離セン
サーを活用した「速さ」の導入に関する検討―
「速さ」未習の児童の「文脈化」に着目して―,
2015 年度数学教育学会春季年会発表論文集,
69-71, 2015.
文部科学省: 小学校学習指導要領解説―算数編
―, 東洋館出版社, 2008.
文部科学省: 教育課程企画特別部会 論点整理
( 案 ), 2015, http://www.mext.go.jp/component/b_
menu/shingi/toushin/_icsFiles/afieldfile/2015/09/2
4/1361110_1.pdf (平成 27 年 10 月 7 日現在)
太田伸也: 第 12 章 子どもにもっと考えさせるに
は, 長崎栄三・滝井章 (編著)「よい算数の授業
をつくる」, 146-155, 東洋館出版社, 2007.
佐伯昭彦・土田理・末廣聡・中谷亮子・松嵜昭
雄: 歩く事象の変化とグラフを関連づける表
現力を高めるための実験授業―他者を意識し
た「グラフの伝書」作り―, 日本数学教育学会
誌, 95 (11), 2-10, 2013.
杉山吉茂: 初等科数学科教育学序説, 東洋館出版
社, 2008.
土田理: 探究基盤型理科授業とモデリング―理
論モデルから現実世界を読む―, 日本科学教
育学会第 38 回年会論文集, 27-30, 2014.
土田理・宮崎幸樹・佐伯昭彦・氏家亮子・末廣
聡: グラフ発見学習における小学校児童の実
データ解釈と判断の事例, 日本科学教育学会
研究会研究報告, 25 (2), 11-14, 2010.
― 6 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
小学校理科におけるモデルの活用に関する実践的研究
-第 6 学年「体のつくりとはたらき」単元を事例として-
Practical study about use of the model in science of an elementary school
: As a case of the unit of the 6th grade on the structure and function of a body
○藤本菜菜 A, 四十谷寿子 B, 本多優 C, 甲斐初美 A
FUJIMOTO, NanaA,
AITANI, HisakoB,
HONDA, YuuC,
KAI, HatsumiA,
福岡教育大学 A , 射水市立小杉小学校 B , 飯塚市立平恒小学校 C
Fukuoka University of EducationA , Kosugi elementary schoolB , Hiratsune elementary schoolC
[要約]
本研究では, 第 6 学年「人の体のつくりと働き」単元における体内の臓器のつくりやはたら
きの理解を促すため,立体的人体モデルと,班での組み立て用に改良したそのミニモデル,および,ア
ニメ―ションモデルを活用した授業実践を行い,これらのモデルの効果を検証することを目的として,
調査を行った。その結果から,次の 2 点が明らかとなった。1 点目として,呼吸や栄養摂取,排出の学
習よりも先に,血液循環の学習を行ったことで,物質が体内外に各臓器の血管をとおして出入りするこ
とをとらえさせることができた。特に,授業後に, 血液循環の重要性を認識できていたことから,各臓
器で血管をとおして物質がやりとりされる様子をイメージさせるためのアニメーションモデルが効果
的に機能したと考えられる。2 点目としては,授業後に主な臓器の配置についての理解が定着していた
ことから,立体的人体モデルのミニモデルを用いて,班ごとに各臓器を組み立てさせる活動を取り入れ
たことの一定の効果があったと推察される。
[キーワード]小学校理科,モデルの活用,授業実践,教材開発
1.研究目的
りやはたらきの理解を促すために考察された立
小学校学習指導要領において,理科では,子ど
体的人体モデル(四十谷,2014)とアニメ―ション
もたちに,「実感を伴った理解」を図らせること
モデル(本多,2015)を活用しながら,授業実践を
が目標とされている(文部科学省,2008,p.9-10)。
行い,モデルの有効性について検証していくこと
ここでの実感を伴った理解とは,具体的な体験を
とする。
通して形づくられる理解,主体的な問題解決を通
して得られる理解,実際の自然や生活との関係へ
2.授業構想
の認識を含む理解の 3 つの側面から説明されてい
1)第 6 学年「人の体のつくりと働き」単元にお
る。しかし,学習対象が体内の臓器のつくりやは
ける教科書の学習展開に関する課題
たらきである「人の体のつくりと働き」の単元に
「人の体のつくりと働き」単元は,呼吸,栄養
おいては,呼吸や消化などの具体的な観察・実験
摂取,排出,血液循環の 4 つの内容から構成され
によって得られる情報が限られているため,観
ている。これらは,ヒトの個体維持の営みのため
察・実験などの具体的な体験を通して得られる実
の 4 つの機能として言い換えることができる。ま
感を伴った理解を図ることが困難であると考え
た,本単元では,これらの機能を実現する構造と
られる。また,問題解決の主たる部分を推論によ
して,呼吸に関する主な臓器である肺,栄養摂取
って補わなければならないため,適切なモデルの
に関する主な臓器である胃,小腸,大腸,肝臓,
活用を検討していく必要がある。
排出に関する主な臓器である腎臓,血液循環に関
そこで,本研究においては,体内の臓器のつく
する主な臓器である心臓が取り扱われている。図
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
機能
血液循環
構造
心臓
呼吸
肺
栄養摂取
胃
小腸
大腸
排出
肝臓 腎臓
図 1 単元における機能と構造
1 は,これらの関係を整理したものである。当然
のことながら,呼吸,栄養摂取,排出は,血液循
環を抜きには,機能することはできない。そこで,
本単元の学習においては,人の体は生きていくた
めに,呼吸や栄養摂取,排出を行っているが,そ
れらが機能するのは血液循環のしくみがあるか
らであるということを理解させることが最も重
要であると考える。
図 2 単元の流れと理解のための手立て
ところで,大日本図書(有馬他,2015),学校図
書(霜田他,2015),教育出版(養老他,2015),東京
本単元の標準配当時間は,11 時間である(星野,
書籍(毛利他,2015),啓林館(石浦他,2015),信濃
2015)が,事前・事後テストや単元テストの時間を
教育出版(癸生川,2015)の小学校理科の 6 社の教
勘案し,8 時間で構成した。構想した単元の流れ
科書を比較すると,血液循環に関する学習は,呼
と理解のための手立てとなるモデルを整理した
吸あるいは,栄養摂取の学習後に取り扱われてい
ものが図 2 である。
る。これは,血液循環よりも呼吸や栄養摂取の方
本単元において,主として理解させたいことは,
が,生きるために必要な生命活動として,子ども
血液循環によって,呼吸や栄養摂取,排出が機能
たちにとっては馴染み深く,それらの機能が容易
し,それらの機能を実現するための様々な臓器の
に推論できるためであると考えられる。しかしな
構造があるということである。そこで,単元の流
がら,生きるためには,呼吸や栄養摂取によって
れは,図 2 に示すとおり,生きるために必要な酸
得られる酸素や栄養が体の隅々に行きわたる必
素や栄養をどのように体の隅々に行き渡らせて
要性があることを前提としなければ,酸素や栄養
いるかという課題設定をしながら,最初に血液循
が毛細血管中の血液に取り込まれる必然性を理
環を取り扱い,その後,呼吸,栄養摂取,排出の
解できない。したがって,必然性を持たない「酸
順に,体内外の物質のやりとりのしくみを取り扱
素や栄養は血液に取り込まれるもの」という情報
うものとする。これにより,血管が様々な臓器と
については,単なる機械的暗記を促すしかなくな
つながっていることを前提に,呼吸,栄養摂取,
ってしまうと考えられる。このような授業展開で
排出の学習を進めることが可能となる。また, 呼
は,子どもたちに有意味に概念を構築していくよ
吸や栄養摂取の学習の際に,酸素や栄養を血液に
うな学習姿勢を保持させられなくなるのではな
取り込む理由についても容易に理解することが
いかと危惧される。
できると考えられる。
2)第 6 学年「人の体のつくりと働き」単元に
②各授業の具体的構想
おけるモデルを用いた授業の構想
児童の学習前の認識調査において,タンポポ,
①単元構想の概要
スギ,カブトムシ,メダカ,カエル,ワニ,アヒ
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
考察させることによって,運動を行うと体中に酸
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
素や栄養などが含まれる血液を送らなければな
らないという考えを引き出し,心臓は体中に血液
を送るはたらきをしていることについておさえ
るものとする。
次に,呼吸の授業では,吸う前の空気と吸った
後の空気の酸素と二酸化炭素の濃度を調べる実
動物である
分からない
動物でない
験をとおして,呼吸は,酸素を血液に取り込み,
図 3 動物の分類
いらなくなった二酸化炭素を体の外にはき出し
ル,ウサギ,ヒトの 9 つを動物であるかどうかに
ていることを推論させたい。特に,肺のつくりの
ついて回答させると,図 3 に示すような結果にな
説明を行うときには酸素は肺からどこへ取り込
った。このことから,30%の児童は,ヒトを動物
まれるのか,また,いらなくなった二酸化炭素は
と見なしておらず,アヒル,ワニ,カエル,メダ
肺までどのように運ばれてくるのかと問うこと
カ,カブトムシのように,下等な動物になるにつ
で,血液との関係を考えさせるものとする。ここ
れて,動物ではないと認識する児童が増加してい
では,肺におけるガス交換のアニメーションモデ
る。一方で,本単元では,人以外の他の動物の体
ル(本多,2015)を用いて説明を行う。
のつくりと働きについての考えをもつようにさ
また,栄養摂取の授業では,だ液によるでんぷ
せることも求められていることから(文部科学省,
んの分解実験をとおして,だ液などの消化液には
2008,p.62), 本単元の学習を行うにあたっては,
でんぷんを別の物に変えるはたらきがあること
動物は,動くことのできる生物であるという動物
をとらえさせるものとする。また,小腸で取り込
の定義を確認させておく必要がある。
まれた栄養についてもどのようにして体中に運
そこで,見通しの授業では,まず,動物と植物
んでいるかを推論させることで,血液循環との関
の分類をさせ,動物を植物とは異なる生物である
係を意識させる。その後,食べ物が口から取り込
ことをとらえさせた後,これらの動物たちに共通
まれて,便として出てくるまでの過程については,
している生きるために必要な行動とその理由を
消化吸収のアニメーションモデル(本多,2015)を
考えさせるようにする。おそらく児童は,食べ物
用いて説明する。
を食べることや呼吸することについて挙げると
そして,排出の授業においては,体の中ででき
考えられるため,それに対し,なぜ食べ物を食べ
た不要なものは血液中に存在し続けるのだろう
たりや呼吸をしたりしなければならないのかに
かという問いから,尿や汗に着目させ,便とは異
ついて問うことで,「食べなければ力が出ない」
なる尿のでき方について,血液循環と関連づけて
や「頭が働かない」,
「苦しくなる」という考えを
とらえさせたい。その際,腎臓での不要物排出の
引き出すようにしていきたい。その上で,食べた
アニメーションモデル(本多,2015)を用いて説明
ものや呼吸をして取り入れたものを脳や手足な
を行う。
最後に,まとめの授業では,図 4 に示す四十谷
どの体中の隅々まで送り届けるために,体の中は
どのようになっているのだろうかと問うことで,
考案の立体的人体モデル(四十谷,2015)と,その
血液循環の学習へとつなげていくものとする。
ミニモデル(図 5)を用いて,臓器の位置関係や血管
さらに,血液循環の授業では,心臓のしくみに
による臓器間のつながりについて話し合わせな
ついて考えさせるために,心拍数と脈拍数の測定
がら,組み立てさせ,描画絵を用いてまとめさせ
を行う。運動前後の心拍数と脈拍数を測定し,心
る活動を行わせるものとする。ちなみに,ミニモ
拍数と脈拍数が連動して変動することの理由を
デルは,班で組み立て活動を行うことを目的とし
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
下段の調査 2 は,体の中のはたらきについて文章
で自由に書くように指示した。調査時間は,調査
1,2 を合わせて 15 分である。
分析の方法として,まず,体の中の様子をかか
せる調査 1 では,血液循環,呼吸,栄養摂取,排
出の 4 つに関係する心臓,血管,肺,食道,胃,
図4 四十谷考案のモデル
(左:内臓諸器官,
右:血液循環有)
小腸,大腸,肛門,肝臓,腎臓,ぼうこうなどの
図5 班活動用のミニモデル
(左:内臓諸器官,
右:血液循環有)
臓器を描画によって位置がわかる形で名称を記
述しているものをカウントした。描画のみの場合
て,四十谷のモデルを元に,1/8 スケールにして
は,位置や数,臓器間のつながりなどの表現から,
作成したものであり,1体あたり,およそ 1,000
明らかに特定の臓器を示していると判断される
円前後の材料費で作成可能である。
もののみをカウントした。次に,体の中のはたら
きについて文章で書かせる調査 2 では,血液循環,
3.調査の実際
呼吸,栄養摂取,排出の機能に関する,血液循環,
1)調査時期および調査対象
拍動,血流,呼吸,ガス交換,消化,吸収,貯蓄,
授業実践は,2015 年 5 月中旬から 6 月中旬まで
排便,排尿の 10 個の観点に関する記述をカウン
の期間で,F 市内の小学校,第 6 学年 4 クラスを
トした。分析対象は,授業前後の調査を受けた 4
対象として行った。
クラス 141 名である。
2)調査概要および分析方法
3)調査結果および考察
体内の臓器のつくりやはたらきの理解を促す
まず,図 7 は,調査 1 の結果を示したものであ
ために考察された立体的人体モデル(四十谷,
る。図 7 のグラフにあるように,授業後には,血
2014)と,班での組み立て用に改良したそのミニモ
管,食道,肛門を除く,心臓,肺,胃,小腸,大
デル,および,アニメ―ションモデル(本多,2015)
腸,肝臓,腎臓,ぼうこうのような主な臓器につ
を活用した授業実践の成果を明らかにするため
いては,少なくとも 60%以上の児童が,表現する
に,授業前後に,図 6 に示すような記述式の調査
ことができている。授業前後で比較すると,小腸,
を行った。図 6 にあるように,上段の調査 1 は,
大腸,肝臓,腎臓,ぼうこうについて記述できる
ヒトの体の外枠が描かれており,体の中の様子を
児童が大幅に増加していることがわかる。また,
絵や文章で自由にかかせるようにさせた。また,
児童の回答例を示したものが,図 8 と図 9 である。
(人)
140
120
100
80
薄い色…授業前
濃い色…授業後
60
40
20
0
図 6 調査用紙
図 7 体の中の様子の調査結果
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
図 8 児童の回答例(左:授業前,右:授業後)
図 9 児童の回答例(左:授業前,右:授業後)
それぞれ,左は授業前,右は授業後に行った調査
のと推察される。特に,子どもの表現は,ミニモ
の結果である。図 8,図 9 に示すように,どちら
デルの配置に模したような表現が多く見られた
の児童も今回学習した主な臓器をすべて描くこ
ことからも,組み立て式の立体的な人体モデルを
とができている。特に,図 8 の児童は,心臓と他
活用した効果があったのではないかと考えられ
の臓器とのかかわりを表現しており,図 9 の児童
る。
は,心臓から各臓器へとつながる血管を 2 本表現
また,図 10 は,調査 2 の結果を示したもので
していることから,血液循環を理解していると読
ある。児童の表現の分析からは,最も重要な機能
み取れる。
を中心に記述している傾向が見られたことから,
しかし,このように血管を心臓と各臓器をつな
図 10 のグラフにあるように,血液循環の機能に
ぐ形ですべて記載できている児童は,ごく少数で
関する記述が比較的多いことがわかる。特に,酸
あることから,血管については,色を変えて表現
素や栄養を体内に行き渡らせる血流や拍動の機
させるなどの調査の工夫を行うことで,潜在的に
能を記述している児童が多いことから,血液循環
理解できている児童をカウントできるのではな
に関する機能の重要度を認識している様子が見
いかと考えられる。一方で,自由記述式というこ
て取れる。一方,調査時間の関係から,児童が調
のような難易度の高い表現を要求しているにも
査 1 に時間を取り過ぎ,調査 2 の回答が途中であ
かかわらず,血管,食道,肛門を除く主な臓器を
る者も多かったことから,結果的に,呼吸,栄養
少なくとも 60%以上の児童が表現できているこ
摂取,排出の機能に関する記述数が少なくなって
とを考えると,授業実践の一定の効果があったも
しまっている。つまり,児童に,考えられる多く
のはたらきを記述する
(人)
ことを求めなかったた
90
め,血液循環に関する機
100
80
能のみを記述している
70
児童が他のはたらきに
60
50
薄い色…授業前
濃い色…授業後
40
30
20
ついて理解しているの
かどうかを,確かめるこ
とができなかった。自由
10
0
記述式の調査の限界で
あると考えられる。
図 10 体の中のはたらきの調査結果
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
4.全体の考察と今後の課題
引用及び参考文献
本研究では, 第 6 学年「人の体のつくりと働き」
四十谷寿子:小学校理科の生命概念構築に関する
単元における体内の臓器のつくりやはたらきの
基礎的研究,福岡教育大学理科教育教室卒業
理解を促すため,立体的人体モデルと,班での組
論文, 2014
み立て用に改良したそのミニモデル,および,ア
有馬朗人:新版たのしい理科 6 年,pp.36-57,大
ニメ―ションモデルを活用した授業実践を行い,
これらのモデルの効果を検証することを目的と
日本図書,2015
石浦章一他:わくわく理科 6,pp.22-41,啓林館,
して,調査を行った。その結果から,次の 2 点が
2015
癸生川武次:楽しい理科 6 年,pp.20-39,信濃教
明らかとなった。
まず,1 点目として,呼吸や栄養摂取,排出の
学習よりも先に,血液循環の学習を行ったことで,
育出版,2015
霜田浩一他:みんなと学ぶ小学校理科 6 年,
pp.28-46,学校図書,2015
物質が体内外に各臓器の血管をとおして出入り
することをとらえさせることができた。特に,授
星野昌治他:新版たのしい理科 6 年教師用指導書
業後に, 血液循環の重要性を認識できていたこと
朱書編,pp.44-67,大日本図書,2015
から,各臓器で血管をとおして物質がやりとりさ
本多優:生命概念構築における効果的なモデルの
れる様子をイメージさせるためのアニメーショ
活用に関する研究―第 6 学年「人の体のつく
ンモデルが効果的に機能したと考えられる。
りと働き」単元に着目して―,福岡教育大学
2 点目としては,授業後に主な臓器の配置につ
いての理解が定着していたことから,立体的人体
理科教育教室卒業論文,2015
毛利衛他:新編新しい理科 6 年,pp.28-47,東京
モデルのミニモデルを用いて,班ごとに各臓器を
組み立てさせる活動を取り入れたことの一定の
書籍,2015
文部科学省:小学校学習指導要領解説理科編,大
効果があったと推察される。特にこのミニモデル
は,呼吸器系,消化吸収系,排出系のそれぞれの
日本図書,2008
養老孟司他:未来をひらく小学校理科 6,pp.22-49,
パーツを 1 つずつ配置していくことができるため,
それぞれの構造と機能がリンクした形で理解で
きたのではないかと考えられる。しかし,心臓か
ら数本の血管が出ている血液循環系の組み立て
については,血管の長さで,貼りつけるべき臓器
を判断させることを想定していたが,児童には,
難易度が高かったようであった。そこで,血管と
臓器の各貼りつけ箇所には,番号をつけておいた
り,血管に貼りつける臓器の名前を書いておいた
りする工夫などを行う必要がある。児童が自分た
ちで貼りつけられるようになってから,このよう
な手立てを減らしていくことで,血管と臓器のつ
ながりを意識していくことができるのではない
かと考える。
今後は,さらに,モデルを改良し,実践成果を
積み重ねていきたい。
― 12 ―
教育出版,2015
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
中学校理科「生命を維持するはたらき」呼吸モデル実験の改善に関する研究
~新しい呼吸モデル装置 LuNG model 及び実験方法への教師及び学生による評価~
Proposal of Improved Model Experiments for Human Respiratory System
in Science Class of Lower Secondary School
Based on the Assessment by Teachers and University Students
西野秀昭 灘岡佑紀 後藤恵
NISHINO, Hideaki
NADAOKA, Yuki
GOTOH, Megumi
福岡教育大学
Fukuoka University of Education
[要約] 中学校理科「生命を維持するはたらき」で,呼吸のしくみを学ぶ際に用いられるモデル装置
「へーリングの模型」及びそれを模したペットボトル等での簡易な装置の学術的な問題点について,
医学書等を参考にしながら実際の呼吸のしくみと乖離している現状を明確にした。
そのことを踏まえ,
これまでと同様に安価に,かつ簡易に作製できるモデル装置「LuNG model」を新しく開発し,このモ
デルを用いた実験,及び胸式呼吸・腹式呼吸のしくみを自分の体で実感する実験方法を提案した。その
学習効果を,教師及び教師志望の大学生へアンケート調査を行って予想した。その結果,LuNG model
を使う場合には,より高い学習効果とともに,これまでのモデル装置に比べてヒトの呼吸のしくみを
より正しく学べるとの評価であった。一方で LuNG model で学んだ後,自分の体を使って胸式呼吸と腹
式呼吸を別々に学習する実験方法は,特に学生で「あまりできない・できない」との回答もあり,自分
の体の各部を意識することの難しさに課題が残った。
[キーワード]
呼吸,モデル装置,肺,胸膜,横隔膜,水の粘着力,腹式呼吸,胸式呼吸
1.はじめに
ル装置での実験が紹介されている(有馬他,2012)
福岡県の中学校で最も多く採択されている理科
(図1)
。しかしこのモデル装置を,実際のヒトの
教科書(以降,教科書)
(有馬他,2012)において,
呼吸に関わる体内の構造(例えば,Cohen, 2005)
「生命を維持するはたらき(以降,2 章)
」の前の
と比較すると,横紋筋と腱中心からなる横隔膜の
1 章で,細胞が生物の体をつくる基本単位であり,
動き方が実際とは逆になっている事,モデル装置
細胞が集まって器官ができ,それぞれの器官が生
では胸郭内に肺が満たされていない事,肺が胸膜
物の生命を維持する上で,さまざまな大切な役割
を介して横隔膜に密着していない事,等の違いに
を持っていることを生徒は学ぶ。それを踏まえ 2
気がつく(西野・後藤,2015)
。このような実際の
章では,体内の器官が生命の維持にどのように役
呼吸のしくみとの相違に基づき,実際の呼吸のし
立っているかを生徒は学ぶ。その始めに「呼吸」
くみをできるだけ忠実に再現しようとしたモデル
における肺のはたらきが採り上げられている。す
装置は,理科教具として販売されているものも含
なわち,酸素を細胞へ供給するため,あるいは細
めて見出すことが出来ない。また実生活では,ヒ
胞の呼吸でできた二酸化炭素を体外に運び出すた
トは横隔膜による腹式呼吸と,肋間筋による胸式
めに肺に空気が出入りするためのしくみの理解を
呼吸を使い分けたり共に使ったりしている
(越智,
目標にしている。教科書 2 章の観察・実験「やって
1990;Cohen, 2005;坂井・河原,2011)が,その
みよう 肺が空気を出し入れしているしくみを考
ような役割分担を呼吸のしくみと関連させて理解
えよう」を見ると,
「へーリングの模型」
(例えば,
できるようには教科書では構成されていない(有
高橋,2007)を模したペットボトルを使ったモデ
馬他,2012)という現状がある。
― 13 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
って理解できる新しい観察・実験として提案した。
3)LuNG model 及び実験方法への評価:本研究で
提案しているモデル装置は,現在の教科書としく
みに違いがあるため,中学校の教師や生徒にアン
ケート調査を行うことができない。そこで,教師
は,中学校へ児童を送り出す小学校の教諭(10 名)
図 1 教科書における呼吸のしくみのモデル装置
及び,
中学生を生徒として受け入れる高校教師
(10
(引用:有馬他,2012) 写真左:ペットボトルの
名)を調査対象とした。いずれも生命・生物領域
モデル装置の肺にあたる風船は胸郭を満たしてい
の教員研修を活用し,提案しているモデル装置や
ない;写真中:肺に空気が入る際には横隔膜が伸
実験方法をスライドと実物モデルで説明を行った
びている;写真右:押しつぶしは,外肋間筋が縮
後,質問紙によるアンケート調査を実施した。ま
むことによって胸郭が膨らむことと逆の操作。
た,本研究代表者が所属する福岡教育大学での教
員免許取得に必須の科目の受講学生
(1 年生50 名,
2.研究の目的
3 年生 20 名,計 70 名)を対象に教員と同様のア
1)教科書の呼吸モデル装置が,
「ヒトの肺はどの
ンケート質問紙調査を行った。
特に大学 1 年生は,
ようにはたらいているのだろうか.」
(有馬他,
4 年ほど前は中学生であったことから中学生の実
2012)という疑問の解決に対して,ヒトの体のは
感に近い回答が期待される。教師へのアンケート
たらきの実際を反映しているか再検討を行う。
調査は,教員研修の実施主体である教育委員会の
2)見出された問題点を踏まえ,実際の呼吸のし
許可を事前に取得して実施した(図 2,図 3)
。
くみを考慮した新しいモデル装置を提案する。さ
らに生活実感を伴って呼吸のしくみを理解できる
4.結果と考察
よう,
モデルに加え新しい実験方法の提案を行う。
これまでの呼吸モデル装置とヒトの呼吸のしくみ
3)
新提案のモデル装置や実験方法の効果予想は,
との比較:教科書の「やってみよう 肺が空気を出
教師や学生による評価をアンケート調査
(質問紙・
し入れしている〔本来は,肺に空気を出入りさせ
無記名)することで検証する。
る(西野・後藤,2015)
〕しくみを考えよう」では,
ペットボトルを使ったモデル装置での実験が紹介
3.研究の方法
されている(図 1)
。しかしこのモデル装置を,実
1)これまでの呼吸モデル装置とヒトの呼吸のし
際にヒトの呼吸に関わる体内の構造(Cohen,
くみとの比較:呼吸のしくみを学ぶための現在の
2005)と比べると,幾つかの違いが見られる(図
モデル装置の構造を調査した。ヒトの呼吸のしく
4)
。まず,実際は横隔膜が縮むと肺に空気が入る
みを支える組織や器官の構造とはたらきを,医学
が,現行モデルでは横隔膜の伸縮が逆で,横隔膜
解剖図等で精査した。両者を比較した結果を踏ま
が伸びることによる,とのミスコンセプションに
え,現行モデル装置の問題点を明らかにした。
至ってしまうことが危惧される。詳細に見ると,
2)現行呼吸モデル装置の問題点を踏まえた新し
まず肺は自身の弾性によって縮もうとする(図 4,
いモデル装置及び実験方法開発:現在のモデル装
4)のを逆に,肺を包む二重の胸膜の,相対的に低
置の問題点を解決するための新しいモデル装置
圧な漿液を含む胸膜腔側への吸引力と漿液の水に
「LuNG model」の開発を行った。その際,ペット
よる胸膜への粘着力で阻まれて胸郭内の大きさに
ボトルや風船等,身の回りの物で作製できる現行
膨らまされている(図 4,11)
。その胸膜上部は胸
モデル装置と同様に安価に作製できることを基本
郭と結合組織によって繋がり(図 4,11)
,即ち胸
とした。また,LuNG model で呼吸のしくみを学ん
膜に包まれた肺をぶら下げるようになっている。
だ後,
「自分の体」を使って意識しながら胸式呼吸
胸膜下部は横隔膜に密着していて(巌佐他,2013)
や腹式呼吸を行う実験方法を提案した。いずれも
(図 4,11~14)
,脚踏み型の空気入れ(図 4,17
医学的根拠に基づいた概念と共に生徒が実感をも
右下)ように,横隔膜の側面の横紋筋が収縮して
― 14 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
図 3 腹式呼吸モデル・胸式呼吸モデル「自分の体」
図 2 肺呼吸「LuNG model」に関するアンケート
に関するアンケート〔「LuNG model」で呼吸のしくみ
(腹式呼吸)を学習した後という設定〕
腱中心の位置が下がると,モデル装置のような空
間の気体の減圧ではなく,胸膜と肺の間に広がろ
うとする隙間,即ち閉じていた肋骨横隔洞や肋骨
コンセプトは,学校での作製しやすさ,利用しや
縦隔洞が開かされてできた隙間を埋めるように滑
すさを視野に,できるだけ簡易で安価にできる事
り込まされることで肺は膨らまされている(図 4,
を心掛けた(図 4,18~22)
。作製は簡単で,ペッ
13・14)
(越智,1990;坂井・河原,2011)
。
トボトル本体の側面に溝が複数入っているものの
このように現在のモデル装置と実際の呼吸のは
下半分を切り去り,切り口をハサミ等で滑らかに
たらきを支える体の組織や器官の動きの違いがい
して半分に切った大きめのゴム風船を溝に沿うよ
くつか見出されるが,このような観点で注目して
うに取り付ける。このゴム風船が横隔膜なのは現
改善を行った例は,文献でもインターネット上で
行モデルと同じだが,フィルムケースのフタを底
も見つけることができなかった。
また実生活では,
から貼り付けて腱中心を模している(図 4,19・21)。
横隔膜による腹式呼吸と肋間筋による胸式呼吸を
また,横隔膜の直ぐ下には腹膜に包まれた内臓,
使い分けたり共に用いたりしているが,そのよう
即ち肝臓や胃,
十二指腸や小腸・大腸があることか
な役割分担も,呼吸のしくみと関連させて理解で
ら,この内臓を水ようかんなどの空き容器を逆さ
きるようなモデル装置にはなっていなかった。
まにして表現した(図 4,18~21)
。LuNG model
現行の呼吸モデル装置の問題点を踏まえた新しい
では,横隔膜が伸びている時は,この水ようかん
モデル装置及び実験方法の開発:このような現状
空き容器で表現した内臓があるためと,肺が縮も
を踏まえ,より実態に近いモデル装置「LuNG
うとする弾性で伸びた横隔膜の位置が上がってい
model」を開発した.
「Lu」は肺の英語名「Lung」
る様子を,空き容器へ押しつける事でゴム風船の
に由来しているが,
「N」と「G」は,本研究代表者
横隔膜が伸びている状態として表現する(図 4,
と分担者の姓の英語名の頭文字である。その開発
20)
。横隔膜が縮むと腱中心の位置が下がり,内臓
― 15 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
が押し下げられる。押し下げられた内臓は実際に
は腹側に押し出されることになるが,
これは
「LuNG
巌佐庸・倉谷滋・斉藤成也・塚谷裕一編集:岩波生物
学辞典 第 5 版,159, 岩波書店, 2013
metabo model」
(図 4,21・22)で内臓の風船が横
西野秀昭・後藤恵:中学校理科「生命を維持するは
に膨らむことで表現している。LuNG model の最大
たらき」
における呼吸モデル実験の改善に関する
の特徴は,ペットボトルの口からゴム風船の横隔
研究 ~呼吸モデル装置の現状調査及びヒトの呼
膜までの全容積が肺の体積を表していることであ
吸のしくみとの相違点について~,平成 27 年度
る。横隔膜腱中心の位置の下・上で肺の体積が増・
日本理科教育学会九州支部大会発表論文集, 42,
減し,肺で空気が入・出する様子を,ペットボトル
26-27,沖縄県市町村自治会館,2015
の口に取り付けた風船や玩具の吹き戻し(図 4,
19・20)
,または model の中に入る水溶液の体積を
比べる(図 4,20)ことで理解することができる。
また,胸式呼吸と腹式呼吸を別々に「自分の体」
で体感する実験も提案した(図 4,23・24)
。息を
越智淳三:分冊解剖学アトラス 内臓Ⅱ,143, 文
光堂, 1990
坂井健雄・河原克雄:カラー図解人体の正常構造と
機能,62, 日本医事新報社, 2011
高橋長雄:からだの地図帳,38,講談社, 2007
止めた状態でお腹や胸を膨らますことが出来るか
どうかで, 肺に空気を入れるにはお腹を膨らます,
表 1 「LuNG model」への評価
即ち横隔膜を下げて肺の体積を増やす必要があり,
大学1年
大学3年 高校生物教師 小学校教諭
人数 % 人数 % 人数 % 人数 %
34
68
8
40
8
80
8
80
15
30
9
45
2
20
2
20
1
2
0
0
0
0
0
0
0
0
3
15
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
50 100 20 100 10 100 10 100
人数 % 人数 % 人数 % 人数 %
2
4
0
0
1
10
0
0
1
2
2
10
2
20
0
0
7
14
3
15
0
0
1
10
26
52
8
40
3
30
3
30
14
28
7
35
4
40
6
60
50 100 20 100 10 100 10 100
人数 % 人数 % 人数 % 人数 %
30
60
9
45
5
50
7
70
16
32
8
40
5
50
1
10
2
4
3
15
0
0
2
20
2
4
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
50 100 20 100 10 100 10 100
識することの難しさが予想された(図 3, 表 2 )
。
Q1
できた
少しできた
どちらでもない
あまりできなかった
できなかった
計
Q2
思う
少し思う
どちらでもない
あまり思わない
思わない
計
Q3
思う
少し思う
どちらでもない
あまり思わない
思わない
計
5.おわりに
表 2 胸式&腹式呼吸モデル「自分の体」への評価
また肋間筋を引き上げることで胸を膨らませ肺の
体積を増やす必要があることが体感できる。
LuNG model 及び実験方法への評価:教師及び教師
を目指す学生による評価を得た
(図 2,
表1,
図 3,
表 2)
.LuNG model を使う場合には,より高い学習
効果とともに,これまでのモデル装置に比べてヒ
トの呼吸のしくみをより正しく学べるとの評価で
あった(図 2,表 1)
。一方で,LuNG model で学ん
だ後,自分の体を使って胸式呼吸と腹式呼吸を
別々に学習する実験方法は,特に学生で「できな
い」との回答もあり,生徒が自分の体の各部を意
現行教科書の肺モデル装置は,
例えば横隔膜
(ゴ
ム膜)が伸びて空気が肺に入るなど,しくみ理解
を誤ってしまう可能性が考えられる。本研究で提
案した呼吸モデル装置は呼吸のしくみの実際を反
映しており,正しく呼吸のしくみを理解できる簡
易で安価な新しいモデル装置であると考えられる。
引用及び参考文献
有馬朗人他 57 名:理科の世界 2 年,90-91,大日
本図書, 2012
Cohen, B.J.:Memmler’s The Human Body in Health
and Disease, 10th ed., 65, Lippincott Williams
& Wilkins, 2005
大学1年
大学3年 高校生物教師 小学校教諭
Q1
人数 % 人数 % 人数 % 人数 %
できた
28
56
5
25
5
50
4
40
少しできた
13
26
6
30
2
20
4
40
どちらでもない
2
4
2
10
1
10
0
0
あまりできなかった 5
10
7
35
1
10
0
0
できなかった
2
4
0
0
1
10
2
20
50 100 20 100 10 100 10 100
Q2
人数 % 人数 % 人数 % 人数 %
できた
11
22
4
20
2
20
4
40
少しできた
15
30
4
20
3
30
3
30
どちらでもない
8
14
2
10
4
40
0
0
あまりできなかった 9
18
8
40
0
0
1
10
できなかった
7
14
2
10
1
10
2
20
50 100 20 100 10 100 10 100
Q3
人数 % 人数 % 人数 % 人数 %
できる
11
22
1
5
2
20
2
20
少しできる
14
28
5
25
3
30
5
50
どちらでもない
14
28
3
15
4
40
3
30
あまりできない
10
20
11
55
1
10
0
0
できない
1
2
0
0
0
0
0
0
50 100 20 100 10 100 10 100
― 16 ―
図 4 「LuNG model」及び胸式&腹式呼吸モデル「自分の体」への評価アンケート質問紙調査のための解説スライド(1~12)
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
― 17 ―
LuNG
― 18 ―
図 4 「LuNG model」及び胸式&腹式呼吸モデル「自分の体」への評価アンケート質問紙調査のための解説スライド(13~24)
LuNG model
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
韓国の初等科学教育に関する基礎的研究
―教科書の内容分析を通して―
A basic study on elementary science education of Korea
Through content analysis of textbooks
木村有紀子 坂本憲明
KIMURA, Yukiko SAKAMOTO, Noriaki
福岡教育大学 理科教育講座
Fukuoka University of Education
[要約]本研究では,隣国であり,教育課程の改訂が頻繁に行われている韓国に着目し,初等科学
教科書の分析を中心として,事例的にその内容を明らかにした。韓国の初等科学教育では,科学
概念を理解することのほかに,科学探究をするための,基礎探究能力( 項目)と統合探究能力(基
礎探究能力を含む 項目)を育成することを目指している。教科書の巻頭では,一つずつの能力
についての解説が行われ,第 ~ 学年群においては,実験ごとに使用する基礎探究能力が具体的
に示されている。また,単元「生態系と環境」に着目してみると,初等段階において生産者,消
費者,分解者などを取り扱い,生態系に関する説明をしている等,日本の理科教育よりも早い段
階で取り扱っているものがあった。さらに,初等教育段階において,酸性雨の実験や,簡易浄水
器の製作など,環境に関する内容も具体的に取り扱われていた。
[キーワード] 教育課程,初等科学教科書,探究能力,生態系
はじめに
している。また,金・渡邉は, 年改
韓国では,日本の学習指導要領に相当するも
訂教育課程が韓国における従来の「探究」活動
のを「教育課程(교육과정)
」と呼び, 年に
を継承・強調したものであり,初等科学教科書
文教部(現在の教育部)より初めて告示された。
においても,より充実を図るものとなっている
それから約 年おきに改訂されてきた教育課
ことを示している。そこで,本研究では,
程であるが, 年頃から ~ 年おきに改訂
年改訂教育課程における初等科学教育に着目し,
されている。また, 年から 年にかけ
さらにその内容を具体的に明らかにしていく。
ては, 年で改訂され,頻繁に教育課程の改訂
そして,我が国の理科教育との比較を行うこと
がなされている。その特徴は,教科重視のカリ
で,両国の初等理科教育に関する考察を深めて
キュラムにはじまり,生活経験重視のカリキュ
いきたい。
ラム,人間重視のカリキュラム,学習者重視の
2. 年改訂教育課程
カリキュラムと変遷し,現在は,創意的な人材
年改訂教育課程は,校種別に「初等教育
の育成に力を入れた, 年改訂教育課程とな
課程」,
「中学校教育課程」
,
「高等学校教育課程」,
っている(교육과학기술부,D)
。
が存在し,編成,運用すべき学校教育課程の共
孔()は,67($0 VFLHQFHWHFKQRORJ\
通的,一般的な基準が示されている
HQJLQHHULQJDUWPDWKHPDWLFV教育が近年の教
(교육과학기술부,E)。具体的には,追求
育課程に影響を与えていることに言及し,その
する人間像や,各教科の目標,教科別授業時間
教育を適用した科学授業が,小学生の科学学習
数などが書かれている。また,教科ごとにも「科
動機,科学に係る態度及び自己効能感に肯定的
学科教育課程」
,「数学科教育課程」のような各
な影響を及ぼしている可能性があることを指摘
教科の教育課程があり,具体的な学習内容につ
― 19 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
いて記載されている。
~ 学年群の教科は他学年群とは異なっており,
年の改訂では,
「学年群(학년군)
」や「教
科学科の内容は「賢い生活」に含まれている。
科群(교과군)
」の設置がなされた。学年群とは,
初等教育における教科(群)別授業時間数は
教育課程の運用に柔軟性を付与できるよう,小
年間 週を基準とし, 年間の「学年群」にま
学校1年生から 年生までを,独立した6つの
とめて示されている。この時間数は「基準授業
学年で区分するのではなく,~ 学年,~ 学
時間」であり,学校の特性や学生・教師・父兄
年,~ 学年の 学年で括って運営することで
の要請及び必要に応じて,学校が自主的に授業
ある。教科群とは,教科の目的や探究対象や探
時間数を 範囲内で増減して運営することが
究方法が類似している教科を一つの教科群とし
できるようにしている。例えば,~ 学年,科
て統合することで,弾力的に教科を運営するこ
学・実科の授業時数は 時間が基準となって
とができるようにしている。
いるが,~ 時間の範囲で行うことが可能
また,創意的な人材育成のための,
「創意的な
となる。また,学年群別総時間数は最少授業時
体験活動(창의적체험활동)
」が新設された。
「創
間数を示している。初等教育の授業は 分を原
意的な体験活動」は,自立活動,サークル活動,
則として行うが,学生の発達段階や学校の実状
ボランティア活動,進路活動などの思いやりや
等を考慮して,学校が弾力的に編成・運営する
分かち合い等を実践する時間である。この創意
ことが可能になっている (교육과학기술부,
性については「人間の暮らしの質的水準を向上
G)
。
表1 初等教育における教科(群)別授業時間数
(교육과학기술부,G)
させるのに役に立ち,価値ある文化の特性や文
明の利器を創り出そうと,自然現象や生命の世
区分
界について,新しい見解で洞察したり,柔軟な
発想の転換と思考の転換を通じて価値ある指摘
をしたりして,科学的・文化的アイデアと産出
教
国語
科
社会道徳
群
物を生産することができる能力(1)」と解釈され
数学
科学実科
ている(교육과학기술부,F)。
体育
3.韓国の教育制度
芸術(音楽
韓国の義務教育は, 歳から 歳までの 年
~ 学年
国語
賢い生活
英語
育で,初等学校において行われる。 歳から 数学
正しい生活
美術)
間である。 歳から 歳までの 年間は初等教
~ 学年 ~ 学年
楽しい生活
歳までの 年間は,中等教育のうちの前期中等
創意的体験活動
教育で,中学校において行われる。後期中等教
学年群別授業時間数
育は 年間で,普通教育中心の教育課程を行う
普通高等学校(各分野の英才を対象とする芸術
4. 年改訂教育課程の初等教育段階におけ
高等学校や体育高等学校,科学高等学校等も含
る「科学」の取り扱い
む。
)と,職業教育を提供する,職業高等学校(農
「科学」は初等学校 年生~中学校 年生ま
業高等学校・工業高等学校・商業高等学校等)
で,すべての学生(2)が学習する教科である。
において行われる(文部科学省,)
。
教育課程における「科学」の目標は,
「自然現象
初等教育の教科編成及び授業時数を表1に示
と事物に対して,興味と好奇心をもって探究し,
す。「教科群」の設置により,社会科と道徳科,
科学の基本概念を理解し,科学的思考力と創意
科学科と実科(日本での家庭科に相当)がそれ
的問題解決能力を育て,日常生活の問題を解決
ぞれ統合し一つの教科群となっている。小学校
― 20 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
することのできる科学的素養を育てる。
」となっ
ミュニケーション能力を学生に育成させるよう
ている(교육과학기술부,D:)
。
求めている(교육과학기술부,D)。
また,各学年群においては,達成基準が明確
「科学」の内容体系は,大きく分けると,
「物
に記述されている。第 ~ 学年群は,活動中心
質とエネルギー」と「生命と地球」の つの分
の科学の授業を通し,科学探究に必要な基礎探
野で構成されており,各分野では つの単元が
究能力を育てること,第 ~ 学年群は,基礎探
各学年群に設定されている(表2)。「火山と地
究過程とともに,統合探究過程が含まれる活動
震」,
「燃焼と消火」のように,類似しているも
を通して,科学探究に必要な探究能力を育てる
のや対になっているものを一緒に学習させてい
ことである(교육과학기술부,E)
。さら
る単元が一部みられる。
「科学科教育課程」には
に, 年改訂教育課程での創意的な人材育成
一つずつの単元に対して,学習内容,当該単元
の影響を受け,科学では,学生の水準に従い,
を学習する意義,他の単元との関連性,学習内
観察,実験,調査,討論などの多様な探究活動
容の到達基準,具体的な探究活動が記述されて
を中心に学習を進めていき,個人の活動だけで
いる(表3)。探究活動には,実験・観察だけで
なく,グループ活動を通して,批判性,開放性,
はなく,ものづくりや情報処理をし,分類する
率直性,客観性,協調性などの科学的態度とコ
活動も含まれている。
表2 初等科学教育の内容体系(교육과학기술부,F)
物質とエネルギー
生命と地球
第 ~ 学年群
・物体の重さ ・磁石の利用
・物体と物質 ・混合物の分離
・液体と気体 ・鏡と影
・音の性質 ・水の状態変化
・地球と月 ・植物の一生
・動物の一生 ・火山と地震
・動物の生活 ・植物の生活
・地表の変化 ・地層と化石
第 ~ 学年群
・温度と熱 ・電気の作用
・溶解と溶液 ・いろいろな気体
・酸と塩基 ・レンズの作用
・物体の速さ ・燃焼と消火
・天気と私たちの生活 ・地球と月の運動
・植物の構造と機能 ・生き物と環境
・太陽系と星 ・生き物と私たちの生活
・私たちの体の構造と機能 ・季節の変化
表3 科学科教育課程「生き物と環境」(교육과학기술부,G)
学習内容
学習内容の
到達基準
探究活動
この領域は,一定の空間で生活している生物と,生物の生活に影響を及ぼす非生物的要素を含む
生態系と関連した内容を扱う。この領域を学習することで,私たちが生きている地球の生態系を秩
序正しく維持することが重要であることを学ばせる。
この領域では,光,温度,水などの環境要因の影響を受けて,生物の生活に変化が生じた事例と
生物が環境に適応した事例を通し,生物と環境の関係を理解させる。生態系を構成する要素間の相
互作用,生態系平衡などについて理解し,環境汚染による生態系の破壊について調べ,環境開発と
環境保全の均衡と調和が必要であることを認識させる。
この領域は,~ 学年群の「動物の生活」
,
「植物の生活」の後に続く学習である。
① 光,温度,水などの環境要因が生物に及ぼす影響を知り,生物が環境に適応するということ
を理解する。
② 生産者,消費者,分解者,非生物的環境要因のような,生態系の構成要素を知り,その要素
は互いに関連することを理解し,生態系平衡の重要性を理解する。
③ 環境汚染の原因を知り,環境汚染による生態系破壊の事例を理解し,人間の生活が生態系に
及ぼす影響を知る。
④ 生態系保全の必要性と生態系保全のための人間の努力について知る。
① 環境と生物の関係を調査する。
② 生態系に関連した遊びを通して,生態系の構成要素を調べる。
③ 生態系保全の方法を調査する。
― 21 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
5.教科書「科学과학」の構成
されている。本文は第 ~ 学年での「何が必要
韓国の初等教育の教科書は,国定教科書であ
でしょうか」,「どのようにしましょうか」,「考
り,教育課程に沿ったものとなっている。科学
えてみましょう」,
「科学の話」のほかに,
「もっ
の教科書(図1)については,教育部(교육부)
と探究してみましょうか」や「創意活動」が加
が作成した一種類である。初等教育科学の教科
わっている。第 ~ 学年の探究能力は前学年群
書は各学年 冊ずつの計 冊で構成されている。
の6つの基礎探究能力のほかに,統合探究能力
また,
「実験観察(실험관찰)
」という補助的教
として,問題認識・仮説設定・変数統制・デー
科書も教育部より作成されている。「実験観察」
タ変換・データ解釈・結論導出・一般化が加わ
は,実験や観察の結果を記入するノートの役割
っている。これらの能力も教科書の巻頭におい
をするだけでなく,ものづくりをするときに使
て,それぞれ説明がなされている(図3)。「私
う素材や動物や植物の写真カードもついている。
も科学者」では単元で学んだことを活用したも
このほか,教師用指導書も作成されている。
のづくりをするようになっている。
第 ~ 学年の各教科書は つの大単元で構成
されており,各大単元は ~ 個の中単元からな
っている。本文では,科学概念を説明し,観察,
実験等の探究活動をすることを促すために,主
に つの項目が設定されている。
「何が必要でし
ょうか」では,準備物の確認,
「どのようにしま
しょうか」では,探究過程と探究能力の提示,
「考えてみましょう」では,科学的な思考を育
図1 韓国の教科書(左)と実験観察(右)
(교육부,)
てるための質問がされている。第 ~ 学年の探
究能力は基礎探究能力であり,観察・測定・分
類・推理・予想・話し合いの つである。これ
何が必要でしょうか
探究能力のアイコン
らは,教科書の巻頭において,どのような能力
であるかが説明されているだけでなく,それぞ
れの実験に対しても,用いる能力が図2のよう
どのようにしましょうか
にアイコンで示され,学習者が探究活動を行い
考えてみましょうか
やすいように構成されている(金,渡邉,)
。
また,中単元の終わりには,
「科学の話」という
図2 教科書本文の構成例「植物の生活」
(교육부,)
トピックがあり,先端科学や生活の中の科学な
どを紹介し,科学に対する興味・関心が湧くよ
うな内容を盛り込んでいる。例えば,
「動物の生
変数統制
活」の単元では,動物の動きから学び,ロボッ
データ変換
トを作っていることや,絶滅危惧種等について
記述されている。
第 ~ 学年の各教科書は ~ の大単元で構
成されている。各単元は つの項目で構成され
データ解釈
ている。「おもしろい科学」では,導入として,
単元の内容に関係あるゲームや実験をしている。
図3 教科書巻頭における探究能力の説明文例
(교육부,D)
「科学実験」は,各単元 ~ の科学実験で構成
― 22 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
表4 「生態系と環境」の学習内容(교육부,E:)
おもしろい科学
科学実験
科学の話
私も科学者
友達と共に生態系ゲームをしてみましょうか?
① 生態系とは何でしょうか?
② 生態系で生物はどのように相互作用をしているのでしょうか?
③ 生物の生活に影響を与える非生物要素を調べてみましょうか?
④ 生物は環境にどのように適応して生きていこうとしているのでしょうか?
⑤ 人間の生活は生態系にどんな影響を及ぼすのでしょうか?
⑥ 環境汚染は生物にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
⑦ 環境をきれいにするためにはどのようなことをしなければならないのでしょか?
① 多様な生態系の姿,生態系保持のための努力
② 生態系で生物の相互作用―競争,共生,寄生
③ 捕食者から生き残る
④ ミミズで食物ゴミを処理して土を肥やす
生態系復元プロジェクトを計画してみましょうか?
6.単元例「生態系と環境」
子と,ろ紙に水を湿らせ,その上で育てた白菜
表4は教科書「科学61」,単元「生態系と
の種子の発芽の様子を観察させる。そして,希
環境」の学習内容についてまとめたものである。
硫酸が白菜の発芽にどのような影響を及ぼして
科学実験の項目では,実験室で行う実験活動
いるのかを学習する。実験⑦では,環境をきれ
ばかりでなく,資料をもとに話し合い,自分た
いにするための工夫として,水の浄化を取り上
ちで答えを導き出す活動が実験観察として含ま
げ,ペットボトル,活性炭,綿,きれいな砂を
れている。例えば,科学実験①では,教科書の
用いて,簡易浄水器を作成し,泥水やせっけん
絵から,生物的要素や非生物的要素を探したり,
水,油等を何度もこし,溶液の変化を観察させ
生物がどのように養分を得て生きていくのか調
る。そして,簡易浄水器の原理について考え,
べたりする活動を通して,生産者,消費者,分
簡易浄水器を利用した例を探し,環境保全のた
解者などの定義(表5)や生物的要素と非生物
めの,人々の努力を学習する。
的要素の相互作用について学習する。科学実験
日本の理科教育と比較してみると,小学校段
⑤では,新聞やテレビ,身の回りで見た自然環
階で生産者と消費者との関係について学習して
境が破壊された事例とその原因について話し合
いる日本に対し,韓国では,分解者との関係ま
い,実際に身の回りの事例を調査し,マインド
で取り扱い,生態系の説明を行っていることが
マップを作成する。そして,人々の活動が生態
分かった。しかし,韓国の初等教育段階では,
系にどのような影響を及ぼすのかを考える学習
日本の中学校3年生で学習するような物質の循
を行い,環境保全のために私たちができること
環は取り扱われていない。韓国では,上述の初
を考えるようになっている。
等段階の内容を受け,生態系の学習がどのよう
実験室で行うは科学実験③⑥⑦の3つである。
に展開されていくのかについて,さらに中等教
科学実験③では,生物にとって,非生物的環境
育の教科書も分析してみる必要がある。また,
である光,水,熱が生きていくうえで必要なも
韓国では,環境的要素を含めた体験的な学習を
のであるということを学習するために,日光に
取り入れている。現地調査だけでなく,酸性雨
当てて育てた植物(もやし)と日光に当てずに
の実験や簡易浄水器の製作は,日本の理科教育
育てた植物の成長の様子を1週間程度観察する
では取り扱われていない活動内容である。教科
(水についても同様)
。科学実験⑥では,環境汚
書の文中においても,
「環境汚染」や「環境復元」
染の原因の一つである,酸性雨を取り上げ,ろ
などを重要語句として取り扱っており,初等段
紙に希硫酸を湿らせ,その上で育てた白菜の種
階から環境教育の視点が盛り込まれている。
― 23 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
表5 「生態系と環境」本文中の太字語句と説明(교육부F)
生物的要素
非生物的要素
生産者
消費者
分解者
生態系
食物連鎖
食物網
生態系平衡
適応
環境汚染
環境復元
人間を含めた生物
日光,空気,水,土など
生きていくのに必要な養分を自らつくる生物(植物)
自ら栄養をつくることができず,他の生物をエサにして生きていく生き物(動物)
死んだ生き物を分解して,他の生物が利用できるようにする生物
どんな場所でも,生きているすべての生物的要素と非生物的要素が相互作用すること
生態系で生物的要素は互いに食べる・食べられる関係によって連結されている。この鎖のような連結
のこと
生態系で消費者である動物は,様々な種類の動物をエサにしているため,いくつかの食物連鎖が互い
にからまってあみのように見えること
ある地域で,植物の種類と数が食べる・食べられる関係を通じて,一定に維持されること
生物が環境に合わせて生きていく現象
人間の活動によって水,土,空気などの自然環境や生活環境が損なわれる現象
汚染されたり,壊されたりした環境をもとに戻すこと
7.今後の課題
韓国初等教育での環境教育との比較を通して―
平成 年度福岡教育大学理科教育教室学位論文,
本研究では,これまで,韓国の教育制度及び
初等教育段階における「科学」の取扱いについ
S
て, 年改訂教育課程の概要や使用されてい
橋本,劉:韓国における理科教育―卓越した児童・
生徒の育成―,理科教育学研究,9RO1R
る教科書の内容を調べてきた。そして,単元「生
態系と環境」を事例として学習内容を明らかに
文部科学省:諸外国の教育統計 年度版,
してきた。今後はさらに,この単元の学習がど
劉,橋本:韓国における科学の学力の捉え方,
「今
のように展開されていくのかについても調べて
こそ理科の学力を問う―新しい学力を育成する視
いき,そのことを踏まえて初等科学教育の中に
点―」,東洋館出版社,SS
おける「生態系と環境」の位置づけについて考
교육과학기술부:초등학교교육과정해설총론
察する。また,他単元の学習内容も分析し,韓
SSD
国の初等教育の学習内容について明らかにして
교육과학기술부:초등학교교육과정해설총론
いくとともに,韓国の科学教育の背景,歴史的
E
変遷および探究能力の捉え方等についても調べ
교육과학기술부:초등학교교육과정해설총론
ていきたい。
SF
교육과학기술부:초등학교교육과정해설총론
注及び引用・参考文献
SG
1)原文には句読点がないが,和訳の際に付した。
교육과학기술부:과학교육과정S,D
2)韓国では校種を問わず学校に通う子どものこ
교육과학기술부:과학교육과정SE
とを「学生」と呼ぶ。
교육과학기술부:과학교육과정S,F
교육과학기술부:과학교육과정S,G
金,渡邉:探究スキルに注目した韓日小学校理科
교육부~ 학년군과학 教科書の比較研究,「日本理科教育学会第 回全
교육부~ 학년군실험관찰 国大会論文集」
,S
교육부~ 학년군과학 ,SS
孔泳泰 韓国の新しい理科学習指導要領の特徴
교육부과학 -SSD
(Ⅰ),科教研報,9RO,1R
교육부과학 -,SE
孔泳泰:教科中心 67($0 プログラムの開発及びそ
교육부과학 -SSF
の教育的な効果,科教研報,9RO,1R1
田中力:小学校教育における環境教育の在り方―
― 24 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
小学校における天動説の立場からの「月の満ち欠け」に関する授業の実践とその効果
The practice and the effect of the teaching about "the waxing and waning of the moon"
from the viewpoint of the Ptolemaic theory in the elementary school
長谷川恭子,吉田歩, 森藤義孝
HASEGAWA,Kyoko
YOSIDA,Ayumi
MORIFUJI,Yoshitaka
福岡教育大学,吉名小学校,福岡教育大学
Fukuoka University of Education,Yoshina elementary school, Fukuoka University of Education
[要約]
平成 20 年の小学校学習指導要領の改訂により,
「月の満ち欠け」に関する内容が,小学校第 6 学年に
おいて再び取り扱われるようになった。吉田らは,天動説の立場から,小学校第 6 学年「月と太陽」で
取り上げる「月の満ち欠け」について,月早見板の作成活動を取り入れた授業を構想し,実践を行った。
本研究では,小学校第 6 学年の「月の満ち欠け」に関する効果的な学習指導法の検討を行うため,吉田
らの授業を受けた子どもを対象に,月の満ち欠けに関わる理解がどのように維持され,あるいは崩壊し
ているのかを明らかにした。
キーワード: 月の満ち欠け,月早見板,天動説,小学校理科
1. はじめに
科編に示されているとおり,
「月と星」では,
「月
科学概念は,学校における意図的教育によって,
は日によって形が変わって見えること」
,
「月は 1
直ちに,子どもの中に内面化されるようなもので
日のうちでも時刻によって位置が変わること」を
はない。子どもの概念は,意図的な授業がなされ
指導しなければならない。
「月と太陽」では,
「月
たにもかかわらず,しばらくの間,素朴な内容を
の輝いている側に太陽があること」,
「月の形の見
含み続けてしまう傾向がある
1)。Nussbaum
は,
様々な年齢段階の子どもを対象とする面接調査
え方は,太陽と月の位置によって変わること」を
指導しなければならない 3)。
によって,彼らが構成している地球概念の内容を
周知のとおり,小学校段階における天文分野の
明らかにしようと試みた。その結果,子どもにと
学習は,天動説を基本として進められる。したが
って最も身近な天体である地球についてさえ,適
って,上述の「太陽と月の位置」は,天動説に基
切な科学概念の構成が困難であることを指摘し
づき,地球上から見た太陽と月の位置関係を意味
ている。このような科学概念の構成にかかわる困
していると理解できる。しかし,現行の小学校の
難性の指摘は,特に,天文分野について数多くな
教科書では,「月の満ち欠け」について,天動説
されてきている 2)。
の立場からの説明が十分に示されておらず,発展
ところで,平成 20 年の小学校学習指導要領の
的な内容として,地動説を前提とする説明が示さ
改訂により,平成 10 年の小学校学習指導要領で
れている。このことにより,「月の満ち欠け」に
削除されていた「月の満ち欠け」に関する内容が,
関する学習は,当該単元以前の天文分野の学習と
小学校第 4 学年の「月と星」
,そして,小学校第 6
の間に深刻な不整合を生じていると思われる。
学年の「月と太陽」において,再び取り扱われる
2. 吉田らの授業実践
ようになった。現行の小学校学習指導要領解説理
― 25 ―
吉田ら 4)は,天動説の立場から,小学校第 6 学
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
年「月と太陽」で取り上げる「月の満ち欠け」に
として,月の満ち欠けに係わる調査を実施するこ
ついて,月早見板 5)の作成活動を取り入れた授業
ととした。本研究では,被験者のうち,吉田らの
を構想し,実践した。実践授業は,悪天候により,
授業を受けた生徒 84 名を X 群,吉田らの授業を
当該単元の標準的な配当時間であった 8 時間より
受けていない生徒 94 名を Y 群と呼ぶこととする。
もやや少ない 5 時間で行われた(月や太陽の観察
調査の時期は,2015 年 5 月である。この時期に
については,授業時間以外の時間を活用させた。
)
。
おいて生徒は,中学校第 3 学年に配当されている
まず,吉田らは,地球上からの視点で月の観察
活動を行わせた。その成果を月早見板の形で整理
天文分野の学習を行っていない。
(3) 調査内容
させ,月の形,太陽の位置(時刻),及び太陽と
調査は,吉田らが実施したポストテストの基本
月の位置関係(地球上の観察者を基点としたとき
構造を引き継ぎ,質問紙法で実施することとした。
の太陽と月の角度)の間に成り立つ関係性を捉え
調査問題は,質問 1 から質問 4 の問題で構成し,
させようと試みた。
質問 1 から質問 3 では,吉田らの授業を受けたか
吉田らの実践では,「月と太陽」の学習後に実
どうかを問うこととした。また,本研究では,図
施したポストテストの結果より,太陽と月の位置
1 に示すとおり,
「月の満ち欠け」概念を,「月の
関係から月の形を予測したり,月の形から太陽と
形(A と略記)」,
「太陽の位置(時刻)(B と略記)」,
月の位置関係を予測したりすることができるよ
「太陽と月の位置関係(C と略記)」の下位概念
うになっている児童が多数存在していることが
によって構成されているものと捉えることとし
明らかとなった。特に,教科書でよく取り扱われ
た。そこで,表 1 に示すとおり,調査問題の質問
ている新月,満月,半月(上弦の月と下弦の月)
4 の 2 から 8 において,正誤判断問題と自由記述
については,約 8 割の児童が月と太陽の位置関係
問題を用意し,それぞれの中で,「月の形を解答
と月の形の見え方を適切に関係づけて理解でき
ることが明らかとなった。
3. 研究の目的
本研究においては,小学校段階における天文分
野の学習が天動説を基本に据えていることを踏
まえ,その立場を一貫させながら実践された吉田
らの小学校第 6 学年「月の満ち欠け」に関する授
業実践の効果を,調査研究によって明らかにする。
4. 研究の内容及び方法
図 1 月の満ち欠けを理解するための下位概念
表 1 調査問題(質問 4)の概略
(1) 調査の目的
本調査では,吉田らの授業を受けた子どもを対
象に,およそ 3 年の時間経過を経た段階で,月の
満ち欠けにかかわる理解がどの程度維持されて
いるのかを明らかにする。
(2) 調査対象及び時期
小学校第 6 学年で吉田らの授業を受けた児童は,
現在,中学校第 3 学年に所属している。そこで,
吉田らの授業を受けたK小学校の児童の多くが
進学するK中学校の第 3 学年の生徒 178 名を対象
― 26 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
させる問題」,「太陽の位置を解答させる問題」,
(2) 下位概念の理解の実態
本研究では,図 1 に示したとおり,
「月の満ち
「太陽と月の位置関係を解答させる問題」をそれ
ぞれ 2 問ずつ設定することとした。
欠け」概念を 3 種類の下位概念によって構成され
5. 調査結果及び考察
るものとして捉えた。そこで,各被験者の解答か
既に示したとおり,質問 4 では,
「月の形を解
ら,当該被験者の下位概念の理解の実態を捉える
答させる問題」
,
「太陽の位置を解答させる問題」,
こととした。図 2 は,正誤判断問題と自由記述問
「太陽と月の位置関係を解答させる問題」をそれ
題に分けて,下位概念の理解の実態をまとめたも
ぞれ 2 問ずつ設定することとした。そこで,本研
のである。
究においては,各下位概念の理解を問う 2 問のう
表 3 に示されているとおり,
正誤判断問題では,
ちの 1 問以上に正答した者を,当該の下位概念を
被験者の多くを,下位概念である A,B,及び C
理解している者と位置づけることとした。
の 全て を理解 して いると 見な すこと がで きる
(1) 質問 4 における正答率
「ABC」に位置づけることができた。一方,自由
質問 4 における各群の正答率は表 2 に示されて
記述問題では,被験者の多くが,下位概念である
いるとおりである。表に示されているとおり,質
A または C を理解していると見なすことができた
問 4 の 1 では,両群の 6 割以上の被験者が正答で
が,B を理解している者は,正誤問題に比べて少
きた。質問 4 の 2 の正答率は,X 群は約 7 割,Y
なかった。また,表 3 に示されている通り,下位
群は約 6 割であった。質問 4 の 3,4,5,6,7,
概念の形成に関して X 群と Y 群の間で大きな差は
8 の問題では,両群ともに,質問 4 の 2 と比べて
見られなかった。
被験者の中で,
B の理解がよくない理由として,
正答率が低かった。このような結果が得られた理
由としては,質問形式の違いがあげられると考え
「月の満ち欠け」の指導内容に原因があると考え
る。すなわち,質問 4 の 2 のように,提示された
る。吉田らが授業を行った当時の各教科書会社に
月の満ち欠けの規則性にかかわる 3 つの変数が適
おける「月と太陽」の学習の流れは,図 3 に示す
切かどうかを判断することは比較的に容易であ
とおりである 6)。この図に示されているとおり,
るが, 3 以降のように,月の満ち欠けの規則性に
かかわる 3 つの変数のうち,2 つの変数を提示さ
れた場合,残り 1 つを無数の可能性の中から 1 つ
に絞って解答することはやや困難になると考え
られる。
表 2 調査問題(質問 4)における正答率(%)
X群
Y群
問題番号
1
2
3
4
5
6
7
8
(1)
(2)
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
65.5
64.3
70.2
67.9
72.6
65.5
73.8
70.2
40.5
32.1
14.3
6.0
32.1
17.9
63.8
66.0
64.9
63.8
66.0
55.3
62.8
54.3
36.2
25.5
4.3
6.4
34.0
14.9
図 2 下位概念の理解の実態
― 27 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
図 3 学習の流れ(教科書)
太陽の位置に注目させて考えさせる学習場面は,
つの変数を自由に操作できる児童の姿が見られ
月が照らされている側に太陽があることや,太陽
た。しかし,3 年を経過してみると,そこで構築
の照らし方によって月の形が変わって見えるこ
された理解は,必ずしも十分に維持されてはいな
7)。
かった。したがって,吉田らの授業実践の効果は
とを観察や実験で確認するときのみであった
すなわち,
「月の満ち欠け」の学習では,A や C
限定的であったといわざるを得ない。このように,
の理解にかかわる活動は多く取り扱われている
授業直後に授業効果が見出されるのは当然であ
が,月の形と月の位置から太陽の位置を推測した
るかもしれない。実施された授業の意味は,子ど
り,観察したりするといった B を形成するための
もの認識の長期的な変容の中で検討される必要
活動は積極的に行われていないのである。このこ
があるように思われる。
とが,今回の結果をもたらした主たる原因である
7.引用文献及び註
1)大辻永(1993)
,
「天体としての地球」
,内田正男監訳,
と考える。
「子ども達の自然理解と理科授業」,東洋館出版社,
pp.210-234
また,今回の調査では,X 群と Y 群の正答率の
2)大辻永(1993)
,
「天体としての地球」
,内田正男監訳,
間に際立った差異が認められなかった。すなわち, 「子ども達の自然理解と理科授業」,東洋館出版社,
pp.210-234
吉田らの授業を受けた生徒の優位性を見出すこ
3)文部科学省(2008)
,
「小学校学習指導要領解説理科編」
,
大日本図書,pp.66-67
とはできなかった。吉田らの実践は,天候の問題
4)吉田歩他(2013)
,
「小学校における月の満ち欠けに関
する理科授業の検討」
,福岡教育大学教育総合研究所,
「教
もあり,標準配当時間を下回る時間で実施された。 育実践研究」,第 21 号,pp.75-82
5)月早見板とは,地球上からの視点で月の観察活動を行
このことが,十分な学習効果が見出せなかった理
わせた成果を,月の形,太陽の位置(時刻),及び太陽と
月の位置関係(地球上の観察者を基点としたときの太陽と
由であるかもしれない。さらに慎重に,天動説に
月の角度)で整理させたものである。月早見板の作成に関
基づく当該単元の授業の意義について,検討を進
しては資料 1 に掲載する。
6)吉田らが授業実践を行ったときの小学校の教科書は,
めていきたい。
以下のとおり 6 社から発行されている。
・有馬朗人他,
「たのしい理科」,大日本図書,2011.
6. おわりに
・大隅良典他,
「わくわく理科」,啓林館,2011.
・毛利衛他,
「新しい理科」
,東京書籍,2011.
吉田らは,天動説の立場を一貫させながら,第
・日高敏隆他,
「みんなと学ぶ小学校理科」
,学校図書,2011
・養老孟司他,
「地球となかよし小学理科」
,教育出版,2011.
6 学年「月と太陽」の授業実践を行った。授業直
・癸生川武次他,
「新編楽しい理科」
,信濃教育出版部,2011.
後のポストテストでは,月の満ち欠けに係わる三
7)平成 27 年度発行の教科書では太陽のみの観察を行っ
ているところもある。
― 28 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
資料 1 月早見板の部品と作成手順
1. 準備物(1 人分)
・OHP フィルム (カラーレーザー&カラーPPC 用) A4 検知マーク無 …1 枚
…2 枚
・モンディ ハイパーレーザーコピー A4 250G ホワイト
…1 個
・割りピン(No.6)
・12 種類の月(d 参照)
2.
(1)
(2)
(3)
作成手順
月早見板の部品である a,b,c を作成する。
a,b,c の印に沿って穴をあける。
a→b→c→a(観測者が描かれている方)の順に並べ割ピンを通して完成。
a の作り方(OHP フィルム (カラーレーザー&カラーPPC 用) A4 検知マーク無で作成)
① A4 用紙の上辺から 14.5cm,下辺から 15.2cm のところに山折り線を引く。
② 1 辺が山折り線と重なるように,A4 用紙の上辺に向け,縦 9.6cm×横 21cm の茶色の四角形を作る。
(PC で作製する場合,茶色は
透過率 50%にしておくとよい。)作成した四角形の上辺の中央(左辺から 10.5cm)に観測者である人型を描く。茶色の四角形の左
辺の隅には「東」,右辺の隅には「西」を書き込む。A4 用紙の上辺から 3.1cm のところに切り取り線を入れる。
③ A4 用紙の上辺から 3.1cm のところを切り取る。
④ 観測者の足元(茶色の四角形の上辺の中央)と山折り線の中央(A4 用紙の左辺から 10.5cm)から下辺に向けて 9.6cm のところに
割ピンをさすための穴の印をつけておく。
b の作り方(モンディ ハイパーレーザーコピー A4 250G ホワイトで作成)
①
A4 用紙に直径 18.5cm の円を描く。その円の中心に直径 12.5cm の円を描く。
②
12.5cm の円の内部を 6 等分する線を描き,それぞれに 0°~180°までの角度を割り振る。円の中心には割ピンをさす穴の印をつ
けておく。
③
0°の延長上であり,直径 18.5cm の円と 12.5cm の円の間(直径 18.5cm の円の辺から 0.8cm のところ)に太陽を描く。
④
直径 18.5cm の円と直径 12.5cm の円の間に「太陽が動く道」と太陽が回る方向を示す矢印を描く。
⑤
用意した 12 種類の月(d 参照)を太陽との位置関係を考えながら,各角度の線上に直径 12.5cm の辺から 0.3cm のところに貼り
つける。
c の作り方(モンディ ハイパーレーザーコピー A4 250G ホワイトで作成)
①
直径 12.8cm の円に幅 3.7cm 縦 2.9cm の楕円状の「でっぱり」をつける。
②
直径 12.8cm の円の中心に割ピンをさすための穴の印をつける。円の内部に「月が動く道」と月が回る方向を示す矢印を描く
③
直径 12.8cm の円の中心から「でっぱり」方向へ 3.9cm のところを幅 2.3cm,縦 4.8cm の楕円状に切り抜く。
― 29 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
a
b
c
d
― 30 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
「雪」をテーマにしたプレゼンテーション学習を推進するテキスト開発と
全市コンテストの実践
Development of a textbook and setting up a city contest for promoting the presentation learning on
the theme of "snow"
朝倉一民 高橋庸哉
ASAKURA,Kazuhito
TAKAHASHI,Tsuneya
札幌市立屯田北小学校
北海道教育大学
Sapporo City Tondenkita Elementary School
Hokkaido University of Education
[要約]札幌市では,共通に取り組む特色ある学校教育の重点として,
「北国札幌らしさを学ぶ雪の
学習」を推進している。北海道雪プロジェクトは,雪の学習を各教科や総合学習に位置づけるために,
教材化を行い,テキスト開発を行っている。雪のプレゼンテーション学習は,雪の学習の成果をまと
め,表現する言語活動である。それを支援するテキストを開発すると共に,実践のゴールとして,全
市プレゼンテーション・コンテストを札幌市雪対策室と協同で企画・実施した。
[キーワード]雪学習 テキスト プレゼンテーション コンテスト タブレット端末
1.
はじめに
札幌市では平成21年度より,「札幌市学校教
大学を核とし,研究者や教員などからなる「北
育の重点」に,共通に取り組む「札幌らしい特色
海道雪プロジェクト」(以下雪プロ)では,雪を
教材化した教科学習や総合的な学習の授業モデ
ある学校教育」として,「北国札幌らしさを学ぶ
【雪】」「未来の札幌を見つめる【環境】「生涯に
ルの構築を推進している。特に総合的な学習につ
わたる学びの基盤【読書】
」の 3 つのテーマを位
いては,新学習指導要領実施により,時数は大幅
置付けた。この 3 つのテーマは,ふるさと札幌に
に削減されたものの,ねらいそのものは変わって
立脚して「生きる力」を育み,将来の札幌を支え,
おらず,教科学習における「習得」と「活用」が
色濃く位置づけられたことから,総合における
世界で活躍する自立した市民・社会人の育成を目
指し,「札幌らしい特色ある学校教育」を推進す
「探求」的な活動はより質が高くなった。学習指
るために示したものである。
【雪】と【環境】は,
導要領では「探求的な学習」
,
「協同的な学習」
,
「体
札幌の自然環境や社会環境,文化的な環境など,
験活動の重視」
,
「言語活動の充実」
,
「各教科等の
札幌の特色を十分活かし,札幌のまちへの主体的
関連」が指導の重点として明記されいる。しかし
ながら,中々そのような展開を実現できている状
なかかわりを通した体験や学習活動の充実を図
るためのテーマであり,【読書】は,子どもの将
況は少ないのではないか。雪プロでは、雪を教材
来を見据え,生涯にわたる学びの基盤を培うため
とした授業モデル「プレゼンテーション学習」を
に,札幌市として,より重点を置く学習活動のテ
取り入れてきた。具体的には,「雪」を素材とし
ーマとしている。
た学習展開をサポートするテキストを作成する
と共に,学習のまとめとしてのプレゼンテーショ
これを受け,雪プロでは,各教科や総合的な学
習の時間における「雪や冬」を教材化できる単元
ン活動を推奨し,全市コンテストを開催してきた。
や活動の授業開発を行ってきた。これらを年2回
の研究会,HP「雪たんけん館」における学習コ
2.研究の方法
「雪の学習」普及のために,雪プロでは,ホー
ンテンツの作成,テキストやワークシートの作成
などを行い,札幌市の「雪」教育に貢献してきて
ムページ「雪たんけん館」の運営,テキストやワ
いる。
ークシートの作成,研究会やセミナーの開催を行
2)プレゼンテキストの作成
ってきた。
雪プロが「表現活動」に着目したのは「雪学習」
1)市の「雪の学習」推進を受けて
の交流を図るだけではない。次期学習指導要領の
― 31 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
キーワードとなっている「アクティブラーニング」
を学習活動の中に取り入れていきたいと考えた
からである。特に総合的な学習の時間においては,
「課題の設定」
,
「情報の収集」
,
「整理・分析」
,
「ま
とめ・表現」といった活動が主となり,中教審教
育課程企画特別部会が公表している「課題の発
見・解決に向けた主体的・協働的な学び」を発揮
できる場として求められている。このような総合
的な学習を,「雪」を題材として,札幌市の教員
が学習を進めていく一助となるように,児童が学
習時間に活用できるテキストを開発した。
テキストは9つの項目からなっており,全体で
22時間程度の学習計画を想定して作成した。
図 1 開発したテキストの表紙
① イメージマップからテーマへ
テキスト1項では雪から連想するものを記入
するイメージマップを作成し,「自然現象として
の雪」
,
「雪にまつわるイベントやスポーツ」
,
「雪
と生活」
,
「利雪」などの領域に分けて,雪への見
方・考え方を広げる活動を行っている。そうする
ことで「雪」への興味関心が高まり,「調べてみ
たい」という問いを生み出すことができる。そこ
から,自分のテーマを見つける流れとなっている。
実際の授業では,タブレット端末を使用しマイ
ンドマップを作成するアプリを活用して,雪に関
するイメージを広げていくことができた。複数で
取り組むことで,互いに考えた事象を関連付けな
がら,考えることができた。
― 32 ―
図 2 タブレット端末での活動
② 調べて整理する
テキスト4項は調べ方についての手順とワー
クシートの構成になっている。学校現場では,イ
ンターネットの普及によって,PC 室等での調べ
活動が容易になった。しかし,インターネットに
は児童が「収集・分析」することが到底できない
ほどの量の情報にあふれている。ただ漠然と自分
の課題を調べていても,解決し収束することが難
しい。調べて明らかになったことを,後に明確に
表現するために,調べる内容の基礎基本を取り上
げている。
テキストでは課題(テーマ)にかかわる「人」
,
「時間」
,
「場所」
,
「名前」
,
「理由」
,
「過程」とい
った内容に分け,
実際に調べることを
「5W1H」
の形で整理し,それらを分析して,一番伝えたい
ことを表現するように促している。雪プロが提案
する「プレゼン学習」では,4〜5人のチームで
取り組むこととしているため,「協働的な学び」
の場を設定することが大切である。同じテーマに
基づく児童で調べたことを関連づけて分類し,相
談させながら伝えたいことの柱を決めることに
している。
③プレゼンテーションの計画と作成
テキスト6項では,プレゼンソフトやタブレッ
ト端末を使ったプレゼンテーションを作成する
ことを取り上げている。札幌市はすべての小中学
校にプレゼンソフトが導入されている。また,タ
ブレット端末を導入する学校も増えてきている
ところである。ただ「プレゼンテーション学習」
においては,活動実践が多いとは言えない現状が
ある。したがって,「プレゼンテーションの作り
方の基礎基本」を4つの展開例(説明型・クイズ
型・調査報告型・主張提案型)で掲載し,指導で
きるようにしている。
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
プレゼンソフトを使うことで,どのような写真
を使うか,どのようなキャッチコピーを使うか,
どのようなアニメーションを利用するか,どのよ
うな効果音を取り入れるかなど,表現する創意工
夫の幅も広がる。単に書くだけの言語活動ではな
く,相手を意識した質の高い表現活動を展開する
ことができる。
テキストでは実際にプレゼンテーションの全
体の流れを計画したり,どのようなプレゼンシー
トを作成するかを計画したりするワークシート
を記入するようにしている。実際に子供たちは,
テキストをもとに,写真を撮影する子,原稿を考
える子など役割分担し,プレゼン作成に取りかか
っていた。
図 3 プレゼン作成の様子
④ プレゼンテーションの評価
評価に関しては,以下のような観点で評価する
ことを啓発している。
・テーマ…学習的価値、目の付け所
・資 料…資料や調査を効果的に活用
・発 表…相手を意識した表現の工夫
・スライド…文字量少,端的で効果的
・構 成…全体の展開と順序性
テキストは,自分の考えを記述できるような内
容にしている。こうすることで,プレゼンに対す
る見方や考え方が一致して,共通認識で取り組む
ことができる。テキストの配布により,学級内だ
けでなく,多くの学校で共通基準をもつことが重
要である。
雪事業」であるが,札幌市では毎年,150億円
もの雪対策事業予算を計上している。しかし,市
民の苦情件数の第1位も毎年,除雪に関しての内
容であり,市民の雪対策への理解が課題となって
いた。「雪と暮らすお話発表会」はそのような背
景の中,始まった小中学生を対象にした雪に関係
する学習の発表会・展示会である。
雪の学習プレゼンテーションにおけるテキス
トを全市に配付し,プレゼン作成について啓発活
動を,研究会を通じて行った。その結果,応募作
品数は年々増加している。特に,第6回発表会よ
りプレゼンテーション力を評価するコンテスト
形式で行うこととした。主体的・協働的な学びを
見据え,プレゼンの質を高めていくこと,審査す
ることで共通の評価観をもつことを重要視した。
図 4 プレゼンテーションコンテスト
3)プレゼンコンテストの開催
雪プロジェクトでは,2007 年より札幌市建設
局雪対策室と協同で「雪と暮らすお話発表会」を
開催してきた。雪対策室は主に札幌市内の除雪計
画を束ねる。札幌市は年間6m もの降雪があるに
もかかわらず,人口が190万を超える,世界で
も希有な都市である。その生活を支えるのは「除
図 5 作品数・発表校内訳
― 33 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
3.結果と考察
プレゼンテーション学習は個別学習や一斉学
習が多く行われていた数年前まではあまりみら
れなかった学習方法である。しかし,少なからず,
札幌市内には広がりを生み出すことができたと
考える。これは,現行学習指導要領で重要視され
ている「活用力」である思考力・判断力・表現力
の育成をどのような学習方法で育てていくかと
いうイメージが乏しいことに課題がある。また,
ICT 機器の活用にもプレゼンテーション学習を
広める課題がある。この先,ICT 機器は教室によ
り普及していくことが考えられる。2020年に
は一人一台のタブレット端末が整備される中,今
後明らかに教師の授業デザインを変えていかな
ければならないはずである。そのひとつが「協働
学習」という授業形態であり,雪プロが推進する
「プレゼンテーション学習」の普及が重要である。
したがって,雪プロでは今後も「雪」の学習の
教材開発を進め,
「雪のプレゼンテーション学習」
を広めていくことを重点としていきたい。アクテ
ィブラーニングで問われる,問題解決力や批判的
思考力,そして協働的に学んで培う実践力は,プ
レゼンテーション学習で育てていくことが効果
的であると考える。
実際にプレゼンテーション学習を実践した先
生のアンケートを実施した結果が以下の内容で
4. 今後にむけて
一昨年から札幌市による「雪に関する学習活動
実践研究校」が毎年10校指定され,各学校で雪
の学習への実践が行われている。実際に研究校の
多くが雪の結晶観察キットなどを購入して,工夫
した学習を展開している。このような学習の成果
を今年度のプレコンで発表してくれることを期
待している。
プレゼンテーションは,調べた過程で生まれた
自分の主張を伝えることが目的だが,そこには,
表情,話し方,間のとり方,声の強弱,視線…と
いった「コミュニケーション力」を身につけるこ
とが要求される。また仲間とともに同じ目的で学
習していくことは「コラボレーション力」である
といえ,いずれも「アクティブラーニング」に位
置付くものである。それは将来,社会に出た時に
必ずや必要になってくる力とも言える。そのため
にも,テキストがプレゼンのスタンダードとして
活用され,プレコンが市民への発表の場とするこ
とで雪の学習の質を高め,「表現力」を育ててい
きたい。また,プレゼンソフトなどを活用する際
に,操作方法や,どのような内容にするかを考え
ることにより,情報リテラシーや情報モラルとい
った部分も指導できる。
ある。
参考文献
◆「5W1H」や4つの型の説明が明確であり,プ
堀田龍也:プレゼン指導虎の巻,スズキ教育 レゼンテーションを初めて学習した子どもたち
ソフト,2004 年
にとってプレゼン作成のコツや筋道が分かりや
すく,非常に活用しやすかった。
堀田龍也:私たちと情報 5・6 年,学研教育み
◆プレゼンテーションの型や,効果的な伝え方の
例を子供たちにわかりやすく提示することがで
きた。5W1H を意識することで,プレゼンの内
容が良くなった。
◆スライドを作るときに参考にして作ることが
できました。どのような順で作ったらよいかが分
かりやすく書いてあったので,参考になった。
◆多くの学校が活用できるようになれば,札幌市
の子どもたちの表現力を育む一助となるのでは
ないかと思う。
◆テキストとしてたいへん優れたものであるの
水越敏行:授業づくりとメディアの活用,ジ
らい,2011 年
ャストシステム,2009 年
中川一史:ICTで伝えるチカラ,フォーラ
ム・A,2013 年
中川一史:タブレット端末で実現する協働的
な学び,2014 年
謝辞
本研究は科研費基盤研究 C(課題番号 25350227)
による。
で,雪と暮らすおはなし発表会だけに限らず,プ
レゼン入門として非常に役立つものであるよう
に思う。
― 34 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
中学生が授業導入時の事象の観察から生成する疑問
−油脂の凝固に関連した疑問を事例にして−
Students’ Generated Questions from Observing a Phenomenon as Introduction of Science Class:
- A Case Study on Questions related Coagulation of Oils and Fats ○廣 直哉 A 、内ノ倉真吾 B
HIROSHI Naoya , UCHINOKURA Shingo
鹿児島県南大隅町立第一佐多中学校 A、鹿児島大学 B
Daiichisata Junior High SchoolA, Kagoshima UniversityB
[要約]中学校1年生の「物質の状態変化」を事例にして、理科授業導入時における事象の観察
から、生徒が生成する疑問とその特質を探った。生徒は、油脂が凝固する現象を観察した
ことから、それに関連する複数の疑問を生成することができ、それらの疑問の多くを探究
可能なものであると判断する傾向が認められた。当該の疑問が探究可能であるかの判断に
は、同じ実験方法を利用して、別の物質で観察・実験を行い、その結果に基づいて一般化
を図れることを、一つの基準として採用していることが示唆されるのであった。
[キーワード]理科授業 事象提示 疑問の生成 問題設定 探究可能性
うに、意図的な指導の下に、観察・実験の結果・考察
1.はじめに
近年、理科教育においては、科学的なリテラシーや
を踏まえて新たな疑問を生成することや科学的に探究
科学的な探究能力の育成に関連して、
「問い」
や
「疑問」
可能な問題を認識できることが明らかにされてきた。
の重要性が強調されてきている。例えば、OECD の
その一方で、理科授業において子ども達が生成する
PISA2015 では、コンピテンシーの1つ「科学的な探究
「疑問(questions)
」研究のレビューに基づくと、疑問
を評価・企画する」にて、探究可能な疑問を特定し、
には、
(1)科学的な知識の構築や科学的な探究への展
解決することが重視されている(OECD, 2013)。また、
開、
(2)話し合いの活発化や議論の洗練、
(3)メタ認
アメリカの科学スタンダード Next Generation Science
知の促進、
(4)動機付けや興味・関心の喚起などの多
Standards (NGSS)でも、科学的・工学的な実践とし
様な機能、そして、驚きや探究可能な問いなどの類型
て「問いの設定・問題の定義」が位置付けられている
が指摘されている(Chin, C., Osborne, J. , 2013)。この
(NGSS Lead States, 2013)。
先行研究の知見や成果を踏まえると、理科授業の教授
我が国では、『学習指導要領』改訂に伴う目標とし
展開に対応して、子どもが生成する疑問とその特質、
ての問題設定能力の位置付けの変更(中山、2012)や
また、それらを踏まえた指導方法など、検討すべき課
理科教科書での「問い」の出現場面や種類(中山ほか、
題も多く残されている。
2014)
から推察される問題点が指摘されてきた。
また、
そこで本稿では、
中学校1年生の
「物質の状態変化」
観察・実験を伴った化学反応の一連の学習過程で、中
を事例にして、
理科授業の導入方法として利用される、
学生が生成する疑問の内容やその特徴などが調べられ
事物・事象の提示に伴って、子どもが生成する疑問と
てきた(小野瀬ほか、2012)。その他には、科学的な
その特質を探ることにしたい。
探究可能な問題であるかを意識的に中学生に考えさせ
ることで、科学的に調査可能な疑問を認識が高めるこ
2.調査の方法と対象
とが指摘されている(大多和・木下、2014)。このよ
― 35 ―
平成 27 年 9 月に、鹿児島県内公立中学校の 1 年生 1
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
学級 9 名(当該学級の全在籍生徒)を対象として、化
表 2.中学生が生成した疑問の数
学分野の単元「物質の状態変化」の 2 時限(第 1 時・
生徒が生成した疑問の最小数
4(2 名)
第 2 時)において、油脂が凝固する過程を観察して、
生徒が生成した疑問の最大数
14(1 名)
中学生が個人もしくはグループ(1 班 3 名)で生成・
生徒の疑問の合計(平均)
56(7 個/人)
検討する疑問に関連する一連の記述内容を調査した。
当該授業の展開は、表 1 のとおりであり、ここでは
(2)中学生が生成した疑問の疑問詞による分類
②疑問の生成(個人)から④疑問の類型化と再検討(グ
ループ)での記述を分析の範囲とした。
生徒が考えた疑問は、
「なぜ」
「どのように」などの
疑問詞ごとに分類すると、表 3 のとおりであった。な
お、ここでの疑問詞による分類は、必ずしも表現が完
表 1.油脂の凝固に関する学習過程の概要
全に一致するものに限定せず、同様の接続詞に置き換
① 事象提示の提示(教師による演示実験)
90℃程度まで加熱して液体となった油脂を寒剤
えても差し支えないと判断されるもの、同一の分類に
で冷却して、凝固する観察した。
含めて計数した。
表 3.中学生が生成した疑問の疑問詞による分類
② 疑問の生成(個人)
事象提示を受けて、
疑問に思ったことを生徒個人
で考えた。
③ 疑問の探究可能性の検討(個人)
疑問に思ったことが調べられるかどうか、
理由
も含めて考えた。
疑問の分類
疑問の数
な ぜ
34(62%)
どんな
7(13%)
何
6(11%)
どうしたら
6(11%)
④ 疑問の類型化と再検討(グループ)
グループ(3 名 1 班)で、個人で考えた疑問を類
生徒の疑問を分類すると「なぜ」の疑問詞を使った
型化し、探究可能性を再検討した。
ものが多く見られた。その他には「どんな」
「何」
「ど
⑤ 探究の問いの設定と共有
うしたら」の疑問詞が使われていた。
「どんな」の疑問
グループの意見をクラスで共有、
探究の問いとし
詞は、においと味に関する疑問が、
「何」の疑問詞は,
て「他の物質(ロウ)が液体から固体になるとき
事象提示で使用した物質が何かという疑問が、
「どうし
の質量と体積は、どのように変化するのだろう
たら」の疑問詞は、状態変化する温度に関する疑問で
か。」を設定した。
あった。
「なぜ」の疑問詞は、質量や体積についてや色
や固まり方などの疑問が挙げられており、疑問の内容
理科カリキュラムで求められる科学的な知識の水準、
も他の疑問詞に比べて多岐にわたっていた。理科授業
状態変化に関するオルタナティブコンセプション、科
で生成する疑問での疑問詞は、授業形態によっても異
学的な探究可能性の観点を踏まえて、生徒の疑問やそ
なりうる事例も報告されており(市村・大髙、2006)
、
れに関連した記述を分析した。
単純には言えないものの、調査対象とした中学生にと
って「なぜ」の疑問詞は、他のそれと比べて、疑問を
3.中学生が油脂の凝固の観察から生成した疑問
生成するために利用しやすい言語要素と考えられるの
(1)中学生が生成した疑問の数
であった。
中学生 8 名(1 名は第 1 時欠席)が、個人で生成し
た疑問数の概要は、表 2 のとおりであった。疑問の内
(3)中学生が生成した疑問の内容
中学生が生成した疑問の内容ごとの分類とその割合
容や質などは別にして、いずれの生徒であっても、教
師からの求めに応じて、事象の観察から何らかの疑問
は、表 4 のとおりであった。
を複数作り出すことができていたのであった。
― 36 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
表 4.中学生が生成した疑問の内容
4.
中学生が生成した疑問とそれの探究可能性について
疑問の内容類型
個数(割合)
1)油脂の質的な側面
20(36%)
8
色の変化(薄白色→濃白色)
7
凝固したときの形
3
物質の臭い・味
2
凝固したときの表面の様子
2)状態変化での温度・熱
12(21%)
6
状態変化と加熱の関係
2
状態変化と温度(融点・凝固点)
2
温度変化と時間の関係
2
加熱・冷却(寒剤)の意味
3)融解・凝固という現象
7(13%)
3
凝固が起こること
2
凝固が進行する部分・順序
2
融解が起こること
4)物質の種類
7(13%)
6
この物質は何か
1
この物質はロウであるか
5)状態変化と質量の関係
4(7%)
4
凝固での質量の変化(不変)
6)状態変化と体積の関係
4(7%)
4
凝固での体積の変化
7)その他の要因
2(4%)
1
状態変化と空気の関係
1
状態変化と時間の関係
の認識
(1)
中学生が生成した疑問とそれの探究可能性を判断
した理由
生徒が自分で考えた疑問が探究可能であるかどうか
の認識とその理由の具体例は、それぞれ表 5 と表 6 の
とおりであった。
生徒は自分の考えた疑問に対して、検証できるある
いはできるかもしれないと考えていたのは、48 個
生徒には、加熱して液体になった油脂が冷却によっ
て、凝固する過程において、油脂の状態の変化、その
ときの温度、質量、体積の変化がどうなっているかに
着目して観察させた。その結果として、最も多かった
のは、1)油脂の質的な側面についての疑問であり、そ
の数は合計 20 個(全体の 36%)であった。油脂が液
体から固体へと変化するときの色の変化については、
すべての生徒が疑問として取り上げていた。
また、状態変化と温度の関係については、これまで
の子どもの自然認識研究で指摘されてきたように
(Tiberghien, A., 1985)
、生徒の疑問が比較的多く見ら
れた観点であった。
一方、当該単元で学習する予定となっている状態変
化と質量・体積の関係については、半数程度の生徒が
疑問として着目したもの、その他の観点と比べて、単
純に事象を観察しただけでは、必ずしも疑問として共
通に認識されないことが示唆されるのであった。
― 37 ―
表 5.中学生が生成した疑問の探究可能性の認識
疑問の内容類型
できる で き る できない
(○) かも(△) (×)
1)油脂の質的な側面
9
7
4
2)状態変化での温度・熱
9
2
1
3)融解・凝固という現象
3
3
1
4)物質の種類
5
2
0
5)状態変化と質量の関係
2
0
2
6)状態変化と体積の関係
2
2
0
7)その他の要因
1
1
0
31
17
8
合 計
表 6.中学生の疑問と探究可能性の理由の具体例
1)油脂の質的な側面
固体のときは白で温めると透明になるのはなぜ
だろうか。(理由)別の物質で同じ実験をして
みれば分かるかもしれないから。
2)状態変化での温度・熱
熱するとなぜ液体に変化したのか。(理由)ロ
ウなどを使って調べてみると分かると思う。
3)融解・凝固という現象
なぜ外側から固まり、最終的には真ん中がへこ
んだ形になるのか。(理由)外側から冷めて内
側が削られていくので、外側と内側の温度を調
べるとよい。
4)物質の種類
この液体は何だろうか。(理由)手でさわった
り、においをかいだりすると分かる。
5)状態変化と質量の関係
質量が変わらないのか。(理由)実験をして、
その結果を表に表したら、質量が変わっている
のか、変わっていないのかが分かる。
6)状態変化と体積の関係
普通水を氷にすると体積が増えるが、なぜこの
液体は体積が減るのか。(理由)他の物を固体
にしてみて、体積がどうなるかを調べると答え
が出てくる。
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
(86%)であった。5 名(生徒の 63%)は、自分の考
5.おわりに
えた疑問すべてが、確証の程度は異なるものの、すべ
中学校1年生の「物質の状態変化」を事例にして、
て検証できると考えていた。検証できると考えた疑問
理科授業導入時における事象の観察から、生徒が生成
のうち、何かしらの理由が記述されていたものは、33
する疑問とその特質を探った。生徒らは、事象の観察
個(59%)であった。6 つの内容類型に共通して多く
から、複数の疑問を生成することができ、それらの疑
見られた検証可能と考えた理由は、
「他の物質で調べて
問の多くは、
探究可能であると認識する傾向にあった。
みると分かる」という記述だった。この場合に限って
その判断には、同じ実験方法を利用して、別の物質で
言えば、生徒らは、他の物質で調べていくつかの事例
観察・実験して一般化を図れることを一つの基準とし
を集め、一般化できるかどうかが、探究できること(検
て採用していることが示唆されるのであった。
証できること)を意味すると考えていたと思われる。
(2)
グループでの疑問の類型化と探究可能性の再検討
グループで個人の疑問の類型化を図ったところ、そ
れぞれ 7〜13 のカテゴリーへと集約された。その疑問
のカテゴリーごとに、
探究可能性を再検討した結果は、
表 7 のとおりとなった。
表 7.グループでの疑問の類型化と探究可能性の再検討
疑問の内容類型
できる で き る できない
(○) かも(△) (×)
1)油脂の質的な側面
4
5
2
2)状態変化での温度・熱
2
0
1
3)融解・凝固という現象
0
1
0
4)物質の種類
3
0
0
5)状態変化と質量の関係
0
0
1
6)状態変化と体積の関係
3
0
0
7)その他の要因
0
0
0
12
6
4
合 計
グループで検討した場合であっても、18 個(82%)
が探究可能なものと考えられていた。1)油脂の質的な
側面は、疑問の数は多いもの、安全性の問題や実験方
法が考えられないことから、必ずしも探究できるとは
思われていなかった。その一方で、2)状態変化での温
度・熱や、6)状態変化と体積の関係は、生徒は他の物
質を利用して測定することで、探究できるものと考え
ていた。ただ、5)状態変化と質量の関係は、質量に変
化が見られないことから、探究できないと感じている
生徒が見られるのであった。
謝辞
本研究の一部は、科学研究費補助金・基盤研究(B)
(課題番号 15H03506,代表・内ノ倉真吾)の助成
を受けて行われたものである。
引用文献
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中山迅、猿田祐嗣、森智裕、渡邊俊和(2014):科学的探
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NGSS Lead States(2013):Next Generation Science
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小野瀬倫也、佐藤寛之、森本信也(2012):理科授業にお
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改良と分析—、理科教育学研究、53(1)
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大多和浩弥、木下博義(2014):中学校理科における科学
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を認識する能力に着目して—、理科教育学研究、
55(3)
、265-277 頁。
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(2013)
:PISA 2015 Draft Science Framework.
Tiberghien, A. (1985)
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Teaching”, in Driver, R., Guesne, E., Tiberghien, A.
(eds.), Children’s Ideas In Science, pp. 67-84, Open
University Press(内田正男(監訳)
、
「教授に伴う考
えの発達」
、
『子ども達の自然理解と理科授業』、
90-111 頁、1993、東洋館出版社).
― 38 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
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A Qustionnarie about the Volcano and Disaster Prevention for Junior High School Students
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Graduate School of Education,Kagoshima UniversityA ŬResearch Field in Education,Kagoshima UniversityB
[IJĝ] ßĐĕ'Ŭŗú%ć"!4Ē˜ċ$ďľOÅ´8
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
理科教育における帰納的・演繹的思考力の育成についての教授論的考察
― 実践例と単元例に焦点を当てて ―
A Pedagogical Study on the Development of Inductive Thinking and Deductive Thinking in
Science Education
- Focusing on Practice Examples and Unit Examples -
○田平 陽子 A, 秋次 裕輔 B, 阿久根 康太郎 B, 世波 敏嗣 C
○TABIRA, YoukoA AKITSUGI, YuusukeB AKUNE, KoutarouB YONAMI, ToshitsuguC
佐賀大学大学院教育学研究科 A 佐賀大学文化教育学部代用附属・佐賀市立本庄小学校 B
佐賀大学文化教育学部 C
Graduate School of Education SAGA University A
Substitute Attached School for Faculty of Culture and Education SAGA University,
Saga Municipal HONJO Primary School B
Faculty of Culture and Education SAGA University C
[要約]
本庄小学校の実践例では,始めに決められた実験方法で実験を行う「共通する観察・実験」
と「自分で進める観察・実験」がある。
「共通する観察・実験」は演繹的推論であり,
「自分で進める観
察・実験」は,帰納的推論に該当する。演繹的推論のみで実験を行った場合,確定された前提が既にあ
るため,実験自体が前提確認のために行うものになってしまう。それだけでなく,問題解決能力や科学
的な見方や考え方をそれ以上高めることができない。それに対して実践例のように,帰納的推論につな
がる演繹的推論を行ったうえで帰納的推論を用いると,上記のような問題点はなくなる。また,子ども
達の知的好奇心をくすぐり,問題意識をもって取り組むことができる。演繹的思考のように結果の暗記
に止まらず,具体的な例をもとに記憶することもできると考える。以上のことから,理科の授業におけ
る実験・観察は,演繹的推論に加え帰納的推論を行うように構成すべきであると言える。
[キーワード] 初等教育段階,理科,指導法,帰納,演繹,推論
もとに,実施可能な単元例を示し、どのような学習過
1.はじめに
2008(平成20)年3月告示小学校学習指導要領の理科
の目標は,
「自然に親しみ,見通しをもって観察,実験
程を踏むと子ども達にとって分かりやすい授業になる
のかを考察していく。
などを行い,問題解決の能力と自然を愛する心情を育
てるとともに,自然の事物・現象についての実感を伴
2.帰納的推論
った理解を図り,科学的な見方や考え方を養う。
」とさ
帰納的推論とは,前提から結論を完全にではないが
れている。各学年の目標を見ていくと,どの学年にお
導く理論的推論である。枚挙的推論法のことを帰納的
いても活動を通して事物・現象の性質や働き,規則性
推論ということもある。
などについての見方や考え方を養うということが掲げ
られている。
枚挙的推論の特徴として,複数の観測されている事
例から未観測の事例や一般的法則を導くということが
活動を通して事物・現象の性質や働き,規則性など
挙げられる。例えば,
「カラスのカー君の体色は黒であ
を導き出そうとすると,そこに理論的推論が必要とな
る」
,
「カラスのラー君の体色は黒である」という前提
る。理論的推論は帰納的推論と演繹的推論の 2 種類に
があるとする。すると,
「カラスの体色は黒色である」
分類される。今回は,小学校における理科の実践例を
という結論を導き出すことができ,前提になかった未
― 47 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
実験を代表者選出後に全員の前で行う。この実験によ
観測の事例も導くことができる。
一般的によく用いられるが,注意すべき点もある。
り,
子ども達が自分の予想に対する考えを確かめたり,
例として,上記の例から「カラスの体色は黒である」
再考したりすることができる。また,自分は何を知り
という結論を導き出した。しかし,カラスの体色は必
たいのか,この後行う個々での実験にて,どのような
ずしも黒とは限らない。次に観測するカラスはアルビ
実験方法を用いると科学的に説明ができるのかを考え
ノで,その体色は白かもしれない。全ての事例を観測
ることができる。次に, 個々での実験を行う。個々で
して結論を導き出しているわけではないため,結論は
の実験では,自分の考えに応じて 3 つの実験コースか
前提が正しくとも理論的に間違っている可能性がある
ら選択し実験を行う。その際,子ども達にそのコース
ということである。
を選んだ理由を明記させる。本授業における 3 つの実
験コースは,
クラス全体での実験と同一条件で行う
「繰
り返しコース」
,粘土の形状を平だけではなく,ちぎっ
3.演繹的推論
演繹的推論とは,真であるとされる前提から結論を
たり,細長くしたりと様々な形に変えてみる「やり方
導く理論的推論であり,理論から実験や観測データの
チェンジコース」
,粘土だけではなく,紙や紐など実験
予測を立てる際に行われる。
材料を変えて行う「物チェンジコース」の 3 コースで
演繹的推論の特徴として,前提が正しければ必ず推
ある。実験中にコース変更したくなった場合は,コー
論も正しくなるということが挙げられる。例えば,
「カ
ス変更カードに
「○○すると△△になって□□になる」
ラスの体色は黒である」
,
「カー君はカラスである」と
といったように,因果関係を考えた理由を子ども達に
いう前提があるとする。すると,
「カー君の体色は黒で
明記させる。実験終了後,各々で実験結果から考察を
ある」という結論を導くことができる。
行う。その後,全体で個々の結論を出し合い,物は形
しかし,次の例のように注意すべき点もある。例え
を変えても重さは変わらないという全体の結論を導く。
ば,
「哺乳類は卵生である」
,
「カラスは哺乳類である」
授業の最後に振り返りとして,予想と比較し実験を行
という前提があったとする。
ここから導かれる結論は,
って考えたことをまとめて考えを深める。
「カラスは卵生である」ということである。
「カラスは
以上のような展開で授業は行われた。
卵生である」という結論は間違っていない。しかし,
佐賀市立本庄小学校理科の研究主題として,
「自然の
前提を考えた場合,
ほぼ全ての哺乳類は胎生であるし,
事物・現象を解き明かしていく楽しさを味わう子ども
カラスは鳥類であるため,前提は間違っている。この
が育つ理科学習」を掲げている。そのために,年次計
ように,結論が真であったとしても,前提が必ずしも
画の第 1 年次として本実践では「知りたいことを明確
真であるということはできないという特徴がある。ま
にするために,
「さぐる」過程で,観察・実験の物や方
た,真である結論を導くことができなかった場合も,
法と結果から結論に至る道筋を自分で決めさせる手立
前提のどこかが間違っているということも特徴として
てをとり,その有効性を探る。
」に焦点を当てて行われ
挙げられる。
た。
4.実践例
5.コース選択・変更
佐賀大学文化教育学部代用附属・佐賀市立本庄小学
校の秋次裕輔教諭による,第 3 学年単元「物と重さ」
観察・実験を行う際,
「共通する観察・実験」と「自
分で進める観察・実験」を行う。
の授業実践をもとに考察を行う。
「共通する観察・実験」では,クラスで共通の実験・
授業の展開としては,まず事象提示をもとに学習問
観察方法を考え,1 人またはグループごとに行うもの
題「物は形を変えると重さも変わるのだろうか。
」を立
である。これにより,後に続く「自分で進める観察・
てる。次に,この学習問題に対する予想を立て,観察・
実験」において,自分が何を知りたいのか,何を行う
実験の方法を考える。それが終わると,クラス共通の
ことで事物・現象をより的確に説明することができる
― 48 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
のかを考える手助けとなる。
例 1.第 5 学年単元「ものの溶け方」
次に「自分で進める観察・実験」を行う。自分で進
水に溶ける物の量
める観察・実験では,事前に全員で行った実験が念頭
にあるため,どのような追加実験を行うと事物・現象
方法
をより説明することができるのかを演繹的に推論して
繰り返し
やり方チェンジ
物チェンジ
・溶質を水
・お湯に溶かす
・溶質を水に溶か
に溶かす
行うものである。各々,共通実験と同一条件下で行う
材料
・砂糖
す
・砂糖
・砂糖
「繰り返しコース」
,観察・実験方法を変化させて行う
・塩
「やり方チェンジコース」
,実験・観察の素材を変化さ
・ミョウバン
せて行う「物チェンジコース」の 3 つのコースから自
分が適していると考えるコースを選択し,実験を進め
例 2.第 3 学年単元「太陽の光をしらべよう」
る。実験を行う中で,必要がある場合はコース変更の
太陽の光で水を温める
理由を記したうえで,
コース変更を行うこともできる。
繰り返し
やり方チェンジ
物チェンジ
・ペットボトル
・鏡で太陽光を集
・ペットボト
に,結論を導き出す。このように数多く行った実験か
に入った水
める際,鏡の枚数
ルに入った
ら結論を導き出しているため,帰納的推論であると言
を,鏡で反射
を増やす
水を,鏡で
える。
させた太陽光
この「自分で進める観察・実験」から得た結果をもと
方法
で温める
6.他単元の 3 コースモデル
実践例をもとに,3 コースを表でまとめると,表 1
材料
のようになる。
・鏡
・ペットボトルの
反射させた
周囲をアルミニ
太陽光で温
ウムの板で囲む
める
・鏡
・鏡
・アルミニウムの
板
表 1.第 3 学年単元「ものの重さをしらべよう」
ものの重さと形
方法
繰り返し
やり方チェンジ
物チェンジ
・粘土を平
・粘土をちぎって
・材料の形を変
ただし,地学や生物分野では観察・実験対象や方法
化させて重さ
が限られているため,3 コースに当てはめることが難
を量る。
しい。また,気象条件に左右されることがあるため,3
らにし て
重さを 量
る。
材料
このように,他の単元にも 3 コースは利用可能であ
・粘土
重さを量る。
・粘土を細長くし
る。
て重さを量る。
・粘土
コースに分類しても失敗する可能性がある。
・紙
・ひも
7.考察
・布
実践例では,始めに決められた実験方法で実験を行
・アルミホイル
う「共通する観察・実験」がある。これは,教師が提
・チェーン
示する方法であり,後の「自分で進める観察・実験」
・発砲スチロー
での子どもの思考の前提となるものであるため,演繹
ルの板
的推論であると言える。次に行われる「自分で進める
など
観察・実験」は,子ども達一人ひとりが行う 3 つのコ
ースから 1 つを選択し,具体的な実験を行い,その結
このモデルをもとに,他の単元で 3 コースを実践可
能なものを例として挙げる。
果から一般的な性質を導き出している。そのため,帰
納的推論に該当すると言える。
― 49 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
根拠をもってコース選択を行い,実験を進めたこと
人,2010 年.
で,
単に自分がやってみたいからという理由ではなく,
4.秋次裕輔著「研究要項 理科」
,佐賀市立本庄小学
問題意識をもって実験に取り組むことができる。その
校・佐賀市立本庄幼稚園『学ぶ楽しさの追及(第 1
ため,自分自身納得のできる実験結果を追求すること
年次)
』pp.134~139,佐賀市立本庄小学校,2014
ができていると考える。また,1 つのコースにこだわ
年.
らず様々な実験を行ってよいため,結論を導き出すた
5.田平陽子・世波敏嗣著「理科教育における帰納的・
めに必要な客観的事実を多く集めることができる。コ
演繹的思考力の育成についての教授論的考察―初
ース変更の際には根拠を記入しておくため,後の考察
等教育段階の帰納的・演繹的推論の指導法を中心に
で方法と結果の因果関係も結び付けやすくなる。
―」
『日本理科教育学会九州支部大会 発表論文集』
,
演繹的推論のみで実験を行った場合,確定された前
提が既にあるため,実験自体が前提確認のために行う
ものになってしまい,子ども達の思考はそこで止まっ
てしまう。それだけでなく,問題解決能力や科学的な
見方や考え方をそれ以上高めることができない。
それに対して今回の実践例のように,帰納的推論に
つながる演繹的推論を行ったうえで帰納的推論を用い
ると,上記のような問題点はなくなる。また,結果が
分かっていないため,子ども達の知的好奇心をくすぐ
り,問題意識をもって取り組むことができる。演繹的
推論のように結果の暗記に止まらず,具体的な例をも
とに記憶することもできると考える。
以上のことから,
理科の授業における実験・観察は,
演繹的推論に加え帰納的推論を行うように構成すべき
であると言える。
8.今後の課題
前述のごとく、地学や生物分野では観察・実験対象
や方法が限られている場合があり,3 コースに当ては
めることが難しい。また,気象などの条件に左右され
ることがあるため,3 コースに分類してもうまく行か
ない可能性もある。これらの諸点に関しては,今後解
決すべき課題としたい。
引用及び参考文献
1.文部科学省著「小学校学習指導要領」東京書籍,
2008 年.
2.廣松渉ほか編「岩波 哲学・思想事典」岩波書店,
1998 年.
3.森田邦久著「理系人に役立つ科学哲学」㈱化学同
― 50 ―
第 42 巻,pp.6~7,2015 年.
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
動物園来園者の科学的観察を支援するための紙芝居を利用したワークショップ:
旭山動物園のアザラシ展示における観察行動の質的検討
Supporting zoo visitors’ scientific observations through the picture-story show:
A qualitative analysis of visitors’ behavior at observations of the spotted seals in the Asahiyama Zoo
○ 田中維 A,山口悦司 A,稲垣成哲 A,江草遼平 AB,楠房子 C,
奥山英登 D,木下友美 D,坂東元 D
A
TANAKA Yui, AYAMAGUCHI Etsuji, AINAGAKI Shigenori,ABEGUSA Ryohei, CKUSUNOKI Fusako,
D
OKUYAMA Hideto, DKINOSHITA Tomomi, DBANDO Gen
A
神戸大学,B(独)日本学術振興会特別研究員 DC,C 多摩美術大学,D 旭川市旭山動物園
A
Kobe University,BResearch Fellow of Japan Society for the Promotion of Science,
C
Tama Art University,DAsahikawa City Asahiyama Zoo [ 要約 ] 動物園は,人々が動物の生態や形態を観察できることから,科学教育の場として重要な役割
を果たしている.しかし,多くの人々は余暇を過ごすために動物園へ来園し,科学の学習につながる
観察を行わない傾向があるため,観察支援を行う必要がある.そこで筆者らは,旭山動物園において,
アザラシの形態とその機能を観察することを目的として,紙芝居を利用したワークショップを実施し
た.ワークショップでは,足,鼻 , 爪を観察させた.本稿では,そのワークショップの効果を検討する
ために,9 名の子どもを対象として観察行動を質的に検討し,形態と機能を観察したと解釈できる行動
の有無を明らかにした.その結果,足の観察では 6 名,鼻の観察では 9 名,爪の観察では 5 名の子ど
もに,形態と機能の両方を観察したと解釈できる行動が確認された.
[キーワード ] 動物園,科学的観察,紙芝居,アザラシ,形態と機能
1.問題の所在
動物園では,科学教育を行うことができる
(Bell, Lewenstein, Shouse, & Feder, 2009). な ぜ
なら,動物園来園者は動物の生態や行動を観
察することによって,動物の特徴を学習する
こ と が 可 能 な た め で あ る(Dierking, Burtnyk,
Buchner & Falk, 2002).しかし,多くの人々は
余暇を過ごすために動物園に来園し,科学の学
習につながるような観察を行わない傾向がある
(Patrick & Tunnicliffe, 2013).そこで,来園者を
対象に動物の生態などを観察させる支援が必要
であると考えられる.
本研究では,特に来園する子どもの科学的観
察に焦点を当てた.子どもは表面的に特徴を観
察する日常的観察から,観察支援が行われる
と,様々な知識を組み合わせる移行期の観察を
経て,科学の学問領域と結びつけられた科学的
観察ができるようになる(Eberbach & Crowley,
2009).したがって,科学的観察に向けて,ま
ず移行期の観察を支援する必要がある.移行期
の観察には,表 1 のように「形態をパターン化
する」や「機能や行動に基づいて分類をする」
などがある.
本研究では,動物園における移行期の観察を
支援する際に,紙芝居に注目した.紙芝居は演
じ手と聞き手の間で双方向的な関わりを持って
― 51 ―
進行するという特徴がある(子どもの文化研究
所 ,2011).このことから,紙芝居を利用すると,
聞き手である子どもの理解に合わせて,観察支
援をすることができる.
すでに山橋ら(2014)は,紙芝居を用いて,
ペンギンの観察を支援するワークショップを実
施している.ワークショップでは,子どもにペ
ンギンの形態などを観察させた.半数以上の子
どもが,観察を通じて,ペンギンの形態につい
て学習していた.このことから,山橋らのワー
クショップは,移行期の観察という視点から「形
態をパターン化する」「他の資料などを用いて
形態について述べる」を有効に支援したと解釈
できる.この成果に基づき,田中ら(2015)は
アザラシを対象として,「形態と機能を関連づ
ける」を支援するためのワークショップを実施
し,その概要を報告している.
表1 移行期の観察
形態をパターン化する
他の資料などを用いて形態について述べる
形態と機能を関連付ける
名前を列挙する
気づきによって関連知識を想起する
機能や行動に基づいて分類をする
移行期の観察を習慣化する
Note. Eberbach and Crowley(2009) を 元 に 筆
者が作成
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
丸い爪で体を支える,選択肢 2:鋭い爪でひっ
かけて歩く,選択肢 3:鋭い爪で魚を捕まえる」
という内容であった.
本稿の目的は,田中ら(2015)で報告され
たワークショップについて,形態を観察した
と解釈できる行動の有無,機能を観察したと
解釈できる行動の有無の観点から,観察行動
を質的に検討し,ワークショップの有効性に
ついて明らかにすることである.
3)観察カードとシール
出題時に,解答の選択肢が描かれた紙芝居
の絵を手持ちサイズにした観察カードと,予
想・観察シールを子どもに配布した.観察カー
ドとシールは,選択肢を確認したり,予想や
観察結果を可視化したりすることを意図して
用いた.観察前に,予想シールを子どもに貼
らせた.観察中は観察カードを子どもに持た
せた.観察後は観察シールを子どもに貼らせ
た.
2. 方法
1)参加者
ワークショップの参加者は,大人7名で子
ども 9 名であった.子どもの平均年齢は 7.5
歳(SD =1.5) であった.分析対象は子ども
であった.
2)ワークショップ
ワークショップの概要は以下の通りであっ
た(田中ら,2015).本ワークショップでは,
アザラシの形態と機能を観察させた.具体的
には,
(a)後ろ足の形態と機能(以下,足),
(b)
鼻の形態と機能(以下,鼻),(c)爪の形態
と機能(以下,爪)を観察させた.実施時期
は 2015 年 3 月 14 日 か ら 3 月 16 日 の 3 日 間
であった.実施時間は 1 時間半であった.ワー
クショップは紙芝居を用いて,以下の通りに
進行した.まず,形態と機能に関する問題と
解答の選択肢を出題し,参加者に正解を予想
させた.次に,参加者にアザラシを観察させ
た.十分に観察できたら,参加者に予想を確
認させた.最後に,解答の解説を行った.
問題と解答の選択肢の内容は以下の通りで
ある.足については,「足はどんな形をして
いるかな,どのように使っているかな」とい
う問題に対し,「選択肢 1:ひれで泳ぐ,選
択肢 2:指でものをつかむ,選択肢 3:ひれ
で壁を蹴って,方向転換する」という内容で
あった.鼻については,「鼻はどんな形をし
ているかな,どのように使っているかな」と
いう問題に対し,「選択肢 1:いつでも鼻の穴
があいていて,においを嗅いでいる,選択肢
2:水中では閉じていて,水上では開いて水
を出している,選択肢 3:水中では閉じてい
て,水上では開いて息を吸ったり吐いたりす
る」という内容であった.爪については,
「爪
はどんな形をしているかな,どのように使っ
ているかな」という問題に対し,「選択肢 1:
― 52 ―
4)分析
観察中の各家族の言語的・非言語的行動を
ビデオカメラと IC レコーダーで記録した.
観察行動の内容を分類するために,言語的・
非言語的行動の記録データに基づいて,足,
鼻,爪の観察のそれぞれについて,子どもが
形態を観察したと解釈できる行動の有無と,
子どもが機能を観察したと解釈できる行動の
有無を同定した.足,鼻,爪の観察のそれぞ
れについて,代表的な行動のエピソードを作
成した.
なお,以下のいずれかの行動が確認できた
場合に,形態もしくは機能を観察したと同定
した.1 つ目は,形態もしくは機能に関する
言語的行動が発生した場合である.2 つ目は,
形態もしくは機能に関するジェスチャーや観
察カードの選択肢の指差しなどの非言語的行
動が発生した場合である.3 つ目は,周囲に
いる他者の働きかけによって,対象児がアザ
ラシを観察し,「わかった」など観察した内
容を理解していると判断可能な言語的行動が
発生した場合である.
3. 結果 ・ 考察
1)観察行動の全体傾向
表 2 には,各子どもについて観察したと解
釈できる行動の有無を示している.足の観察
に関して,2 名は形態のみ,1 名は機能のみ,
残りの 6 名は形態と機能を観察したと解釈で
きる行動が見られた.鼻の観察に関して,全
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
員が形態と機能を観察したと解釈できる行動
が見られた.爪の観察に関して,2 名は形態
のみ,1 名は機能のみ,4 名は形態と機能を
観察したと解釈できる行動が見られた.1 名
は形態もしくは機能を観察したと解釈できる
行動は見られなかった.
2)エピソード 1:B3 による足の観察
6 歳の男子(B3)による足の観察に関して,
形態を観察したと解釈できる行動と,機能を
観察したと解釈できる行動が確認された.表
3 には,B3 の観察終盤の言語的・非言語的行
動を示している.B3 は水槽の中をひれで泳
ぐアザラシを観察して,「ひれで方向転換し
てない」(02B3v)と母親(B3M)に向かって
述べている.B3M は「うん,壁を蹴っては
ないわ」(03B3Mv)と応えている.B3 は再
び泳ぐアザラシと観察カードを見比べて,
「早
く泳ぐためだ,多分」
(08B3v)と発言している.
B3 はカードの選択肢を再確認して,「絶対 1
番」(10B3v)と発言している.このように
B3 の観察では,ひれという足の形態と,泳
ぐという機能に関する言語的行動があり,B3
の観察では形態と機能のそれぞれを観察した
表 2 観察したと解釈できる行動の有無
足
鼻
爪
No.
形態
機能
形態
機能
形態
B1
◯
◯
◯
◯
◯
G2
◯
◯
◯
◯
◯
B3
◯
◯
◯
◯
◯
B4
◯
◯
◯
◯
B5
◯
◯
◯
◯
◯
B6
◯
◯
◯
◯
B7
◯
◯
◯
◯
B8
◯
◯
◯
G9
◯
◯
◯
◯
◯
Note. ◯:観察したと解釈できる行動有り,-:観察したと解釈できる行動無し
B1,G2,B3,B4,B5,B6,B7,B8,G9:9 名の子ども B: 男子 G: 女子
機能
◯
◯
◯
◯
◯
◯
表 3 エピソード 1:B3 による足の観察
非言語的行動
(01B3n:水槽の中をひれで泳ぐアザラシを観察
する .))
02B3v:あ,足で,ひれで方向転換してない . ((02B3n:M に向かって言う.))
03B3Mv:うん,壁を蹴ってはないわ.
((03B3Mn:手で壁をけるジェスチャーをする.))
04Zv:どうなっている?
((05B3n:カードとアザラシの見比べる.
))
06B3Mv:なんか,すごい.ひらひら〜って. ((06B3Mn:手で泳ぐジェスチャーをする.))
((07B3n:水槽の中を泳ぐアザラシと観察カード
を見比べる.))
08B3v:早く泳ぐためだ,多分.
((09B3n:カードの選択肢を再確認する.))
10B3v:絶対 1 番.
11B3Mv:うん,1 番だね.
Note. トランスクリプトに付した数字:通し番号,B3:6 歳の男子,B3M:母親,Z:飼育員,
v:言語的行動,n:非言語的行動,(( )):非言語的行動・注釈 言語的行動
― 53 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
と解釈できる行動が確認できた.
3)エピソード 2 :B7 による足の観察
7 歳の男子(B7)による足の観察に関して,
形態を観察したと解釈できる行動のみ確認さ
れた.表 4 には,B7 の観察序盤と終盤の言
語的・非言語的行動を示している.B7 は水
槽の中を泳ぐアザラシを一瞥すると,すぐに
「あ,わかった,答え 3,答え 3 番だ」(05B7v)
と発言している.観察終盤で,飼育員(Z)
が「何番だ?」(06Zv)と問いかけると,B7
は「3,3,絶対 3」(07B7v)と断言し,Z が
選択肢を改めて質問しても,「だって,あの
かたち 3 しかないもん」(11B7v)と応えてい
る.図 1 は足の観察カードであり,選択肢 3
の形はひれである.このように,B7 の観察
では,ひれという足の形態に関する言語的行
動があり,形態を観察した解釈できる行動が
確認できた.
4)エピソード 3 :B7 による鼻の観察
B7 による鼻の観察に関して,形態を観察
したと解釈できる行動と,機能を観察した
と解釈できる行動が確認された.表 5 には,
B7 の観察中の言語的・非言語的行動を示し
ている.まず,観察カードを用いながら,屋
外で,アザラシの鼻の穴が水中では開いて,
呼吸をしている様子を親子で観察をしてい
る((05Aln)).その後,ビデオ記録者(B7C)
に対して,B7 は「来た時にこうやって,鼻
があいてた」(09B7v)と観察カードを利用し
て,形態について述べている.その後も B7
は観察を続け,母親(B7M)に対して,「こ
れだ,3 番だった」(11B7v)と発言している.
また,B7 は,「選択肢1:いつでも鼻の穴が
あいていて,においを嗅いでいる」が不正解
であることを確かめるために,屋内の水槽か
らの観察を行う.B7 は鼻を閉じているアザ
ラシを観察し,「あ,閉じてる」(16B7v)「正
解できた」(17B7v)と発言している.
図 2 は鼻の観察カードを示している.鼻の
観察では,「鼻が開いていた」という形態の
みを観察しただけでは,選択肢が 2 つ残るた
め,選択肢を絞り込むことができない.しか
し,B7 は B7M と一緒に,形態と機能が観察
可能なアザラシを観察し,その後,選択肢を
1 つだけ選んでいる.すなわち,
「よし,わかっ
た」(07B7v)という言語行動は,直前の観察
によって,形態と機能の両方を観察して,内
図 1 足の観察カード
表 4 エピソード 2:B7 による足の観察
非言語的行動
((01B7n:水槽の中を泳ぐアザラシを見つける.))
02B7v:あ,来た . まだ,このやつがいる .
03Zv:他のも泳いでいるよ.
((04B7n:水槽の中を泳ぐアザラシを一瞥する.))
言語的行動
05B7v:あ,わかった,答え 3,答え 3 番だ.
((中略))
06Zv: 何番だ?
07B7v:3,3,絶対 3.
08Zv:1 じゃないの?
09B7v:1 じゃないよ.
10Zv:2 でもないの?
11B7v:2 でもないよ.
だってあのかたち 3 しかないもん.
Note. トランスクリプトに付した数字:通し番号,B7:7 歳の男子,Z: 飼育員,v: 言語的行動,
n: 非言語的行動,(( )): 非言語的行動・注釈
― 54 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
言語的行動
表 5 エピソード 3:B7 における鼻の観察
非言語的行動
((01Aln:水面から顔を出して,鼻を開いて呼吸
するアザラシを観察する.))
02Zv:ほら!見えた?
鼻ちょうどみえたんじゃない?
03Zv:お水につかっている時と,お水が上がっ ((03B7n:観察カードと見比べて観察する.))
た時と.
ちょぼちゃん,顔を出したよ.
04B7v:あ,本当だ.
05B7Mv:見えた?
((05Aln:水面から顔を出して,鼻を開いて呼吸
するアザラシを観察し続ける.))
06B7v:うん.
07B7v:よし,わかった.
((中略))
08B7Cv:どうやった?
09B7v:あんね,来た時にこうやって鼻があいて ((09B7n:観察カードを示す.))
た.
((中略))
10B7Mv:どれだった?
11B7v:これだ,3 番だった.
((中略))
12B7v:あ,きたきたきたきた.
((12Aln:屋内の水槽へ移動する.))
13B7v:見逃しちゃったー.
((13Aln:屋内の水槽を鼻を閉じて泳ぐアザラシ
が通る.))
14B7Mv:また,来たよ.
((15B7n:特に鼻を見るために,水槽にできる
だけ近づいて観察する.))
16B7v:あ,閉じてる.
17B7v:正解できた.
((17B7n:観察カードの選択肢を確認する.))
Note. トランスクリプトに付した数字:通し番号,Al: 家族全員,B7:7 歳の男子,B7M:母親,
Z: 飼育員,B7C:ビデオ記録者,v: 言語的行動,n: 非言語的行動,(( )): 非言語動行為・注釈 容を理解していると判断できる.したがって,
鼻が開くという形態に関する言語的行動があ
り,呼吸するという機能に関する言語的行動
もあることから,形態と機能を B7 は観察し
たと解釈できる行動が確認できた.
5)エピソード 4 :B6 による爪の観察
6 歳の男子(B6)による爪の観察に関して,
形態を観察したと解釈できる行動のみ確認さ
れた.表 6 には,B6 の観察終盤の言語的・
非言語的行動を示している.家族全員で,魚
を食べるために雪の上を歩くアザラシを観察
して((01Aln)),母親(B6M)が「つかんで
図 2 鼻の観察カード
― 55 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
表 6 エピソード 4:B6 における爪の観察
言語的行動
非言語的行動
((01Aln:魚を食べるために,雪の上を歩くアザ
ラシを観察する.))
02B6Mv:つかんでる?お魚 ?
03B6v:いや,グーしてる.丸くしてる.
04B6Mv:丸くしてる.
05B6v:丸い.
((06B6n:雪の上にいるアザラシを観察する.))
07Zv:わかった?
((08B6n:うんうんという相槌をうつ.))
((06B6n:雪の上を歩き魚を食べるアザラシを観
察する.))
10B6Mv:何番だった?
1 番,2 番,3 番.わかった?
どれだった?
丸くはないよ.1 番ではない.
2 番か 3 番だけど,
魚は魚はつかんでない
11Zv:わかったら,シールを貼ってね.
((12B6n:B6M の方へ振り返る.
))
13B6Mv:よし,じゃあ,あっちで貼るか.
Note. トランスクリプトに付した数字:通し番号,Al:家族全員,B6:6 歳の男子,B6M:母親,
Z:飼育員,v:言語的行動,n:非言語的行動,(( )):非言語的行動・注釈 る?お魚?」(02B6Mv)と問いかけると,B6
は「いや,グーにしてる.丸くしてる」
(03B6v)
と応えている.その後,機能を観察したと解
釈できる言語的・非言語的行動を確認できな
かった.以上より,B6 は爪(手の付近)の
形態を観察したと解釈できる行動のみ確認で
きた.
4. 結論
本稿における観察行動の質的検討から,ほ
とんどの子どもは形態もしくは機能のいずれ
かを観察し,約半数の子どもは形態と機能を
両方観察することができていたことが明らか
になった.以上のことから,ワークショップ
が形態と機能に関する子どもの観察を促進す
ることができたことから,ワークショップは
概ね有効であったと示唆された.
附記
本研究は JSPS 科研費 24240100 の助成を受
けたものである.
― 56 ―
引用文献
Bell, P., Lewenstein, B., Shouse, A. W., & Feder, M. A. (Eds.):
Learning science in informal environments: People, place, and
pursuit. Washington, DC: National Academies Press, 2009.
Dierking, L. D., Burtnyk, K., Buchner, K. S., & Falk, J. H.:
Visitor learning in zoos and aquariums: A literature review.
Annapolis, MD: American Zoo and Aquarium Association,
2002.
Eberbach, C., & Crowley, K.: From everyday to scientific
observation: How children learn to observe the biologist's
world, Review of Educational Reserch , 79(1), 39-68, 2005.
子どもの文化研究所編 : 紙芝居 - 子ども・文化・保育 , 一声
社 ,2011.
Patrick, P. G., & Tunnicliffe, S. D.: Zoo Talk. Netherlands:
Springer, 2013.
田中維・山口悦司・稲垣成哲・江草遼平・山橋知香・楠房子・
奥山英登・木下友美・坂東元 : 動物園来園者の科学的観
察を支援するための紙芝居を利用したワークショップ:
旭山動物園のアザラシ展示の事例,日本科学教育学会研
究会研究報告,第 29 号,第 8 巻,41-44,2015.
山橋知香・山口悦司・稲垣成哲・奥山英登・田嶋純子・田
中千春・坂東元 : 動物園来園者の科学的観察を支援する
紙芝居の改善 : 来園者の主観的評価,日本科学教育学会
第 38 回年会論文集,543-544,2014.
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
Live Biblia: タンジブルインタフェースを用いた博物館における展示案内システムの開発
Live Biblia: Development of the Tangible Guide System for Museum Exhibitons
江草遼平 1,2,齋藤万智 3,楠房子 4,稲垣成哲 2
EGUSA Ryohei1,2, SAITO Machi3, KUSUNOKI Fusako4, INAGAKI Shigenori2
日本学術振興会特別研究員 1,神戸大学 2,ヤフー株式会社 3,多摩美術大学 4
JSPS Research Fellow1, Kobe University2, Yahoo! Japan Corporation3, Tama Art University4
[要約]本研究では,博物館におけるタンジブルインタフェースを用いた展示案内システム, Live Biblia のプ
ロトタイプシステムを開発した. Live Biblia は, 実物資料を用いた物理的なオブジェクトを媒介として,
博物館の展示情報にアクセスするシステムである. 直接観察し, 触ることのできるオブジェクトから来館
者の興味・関心を外化し, それを元に来館者の学習したい内容に関する展示マップを作成することで,
博物館における学習を支援する. 本研究で開発したプロトタイプシステムでは, 古生物を題材としたコ
ンテンツを作成し, 物理的なオブジェクトから資料の情報を呈示する機能を実装した.
[キーワード]博物館,Live Biblia,展示案内,タンジブルインタフェース
1.問題の所在
展示側の意図する展示群の連続性を掴むことができ
本研究では, 博物館におけるタンジブルインタ
ないこともある (Falk & Dierking, 2013). これらの問
フェースを用いた展示案内システム, Live Biblia の
題は, あるテーマに沿って体系づけられた展示の関
提案を行う. Live Biblia は,来館者の博物館利用
連性の把握を困難なものにし, 結果として, テー マ
に際して,多数の展示から最適な鑑賞順序をナ
全体の理解を阻害することに繋がると考えられる.
ビゲーションするシステムである.
このように, 展示の配置などハード面での解決が
ICOM (2007) の定義によれば, 博物館は, 有
困難であることから, ソフト面からの解決方法を検討
形あるいは無形の資料について収集, 保存, 研究
する必要がある. 井上 (2006) は, 資料をデジタ
またはそれを用いた教育活動を行う機能を持つ, 一
ルアーカイブス化することにより, Web 上でタグ情報
般公衆に開かれた非営利機関である. 教育活動に
を元にした事前検索を可能とするシステムの開発を
おいては, 博物館が収集した 1 次資料, またそれ
行っている. 関・日高・斎藤 (2000)では,バーチャ
を元に作成される 2 次資料を展示として公開する.
ルミュージアムに関する研究として, 複数の博物館
展示を行う際, 展示作成者は, 一定のテーマに基
の資料について, デジタル上で関連性をもとに観覧
づいてそれぞれの館が持つ収蔵品, あるいは他館
順序をソートし, 閲覧可能とするシステム提案がなさ
の持つ文化財を選定し, 来館者の理解を助ける解
れている. 来館者の博物館における学習を支援す
説 ・ 配置についての考慮が必要である (全国大学
るにあたって, 関連性を持った展示群の鑑賞順路を
博物館学講座協議会西日本部会, 2008).
呈示することが有効な手段であると考えられる.
しかしながら, 展示環境上の問題から, 関連性の
そこで, 著者らは, 実際の博物館現場において,
ある展示が離れて設置されてしまうことや, 一旦設置
来館者個別の学習に関する興味 ・ 関心から展示群
すると移動が非常に困難な展示があると考えられる.
の鑑賞順路を柔軟に呈示するシステム, Live Biblia
なぜならば, 資料の保存の問題から, 博物館空間
Ishii & Ulmer(1997)
の構想を行った.Live Biblia は,
利用上の限界, 資料の特性による光量, 温度, 湿
の提唱するタンジブルインタフェースを採用してい
度の制限などを考慮する必要があるためである (全
る. タンジブルインタフェースは, 無形である情報に
国大学 博物館学講座協議会西日本部会)。 また,
アクセスする際のインタフェースとして物理的なオブ
展示構成上の不注意などから, 来館者はしばしば,
ジェクトを利用する. 本研究では, 来館者の学習に
― 57 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
図 1.Live Biblia:システム概念図
関する興味 ・ 関心の手がかりとして, 手に収まるサ
イズの実物資料をオブジェクトとして利用する手法を
考案した.
図 1 は Live Biblia のシステム概念図である. 物
理的なオブジェクトから外化された学習者の興味 ・
関心を元に, 博物館の展示をソートし, マッピングを
行う. これにより, 既存の展示環境の制約に捉われ
ない, 来館者固有の観覧マップを作成することがで
きる. また, マップの更新に展示物の移動を必要と
せず, 展示開発の負担を軽減することができる.
図 2.Live Biblia プロトタイプシステム
2. プロトタイプシステムの概要
図 2 は, Live Biblia プロトタイプシステムのフレー
のフレームワーク
ムワークである. Live Biblia は, ノート PC, プロジェ
ク タ, RFID セ ン サ ー, RFID タ グ (Passive) 付 オ
ブジェクトで構成されている. 開発環境は, Adobe
ActionScript 3.0 及び Adobe Flash CS6 であった.
プロトタイプシステムは, 古生物をテーマとして作
成された. 古生物を採用した理由は, 以下の 2 つ
である. 1 つ目は, 古生物は, 化石を実物資料と
して利用できるためである. 2 つ目は, 一定量の古
生物資料群の関連性について, それぞれが生息し
ていた化石時代, 陸地や海など生息していた環境,
捕食方法, 進化系統といった多様な分類が可能で
あるためである.
図 3 は, プロトタイプシステムにおける RFID タグ
付オブジェクトの例である. オブジェクトに, 実物資
― 58 ―
図 3.RFID タグ付オブジェクト
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
料であるアンモナイトの化石が埋め込まれている.
で, RFID 情報の読み取りが行われる. 虫眼鏡は,
来館者は, このアンモナイトを直接触ったり, 近くで
オブジェクトを設置する場所を直感的に示す他, 化
観察することができる. オブジェクトは, 手に収まる
石を詳細に観察する際にも用いることができる.
サイズであり, 複数を見比べやすい. また, 物理的
RFID 情報がノート PC に読み取られると,プロジェ
なオブジェクトを用いる利点として, 複数のユーザ
クタからその化石に関する情報がアニメーションで表
で意見を共有するなどの活動が行える点があげられ
示される. 図 6 は, プロジェクションされるアンモナ
る. 図 4 は, オブジェクトの利用場面である. ユー
イトに関するアニメーションの例である. アニメーショ
ザである来館者の 1 人がオブジェクトを触りながら,
ン上では, 主題であるアンモナイトが強調表示され
グループで意見を交流している様子がわかる. この
ており, その生態が解説される. また, アンモナイト
ような活動を通じて, 自身の興味 ・ 関心を外化する.
と同時代の生物であるモササウルスとの捕食関係が
オブジェクトには RFID タグが埋め込まれており,
説明されている. このように, 興味を持った資料とそ
RFID センサに接近させることで RFID 情報の受け渡
の他の資料の関連性について呈示することで, 博物
しが行われる. 図 5 は, RFID センサを内蔵した装
館展示の観覧ルートを構築する一助となる. 図 7 は,
置である. 虫眼鏡の下にオブジェクトを設置すること
アニメーションの利用場面である. プロジェクタを用
図 4.RFID タグ付オブジェクトの利用場面
図 5.RFID センサ
図 6.アニメーション
― 59 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
図 7.アニメーションの利用場面
Coast Press Inc, 2013.
いてスクリーンに投影することで, 複数人の来館者
ICOM: Museum Definition, 2007 Retrieve from
で情報を共有することができている.
http://icom.museum/the-vision/museumdefinition/ (最終閲覧日 : 2015 年 10 月 21 日)
3 今後の課題 本稿では,タンジブルインタフェースを用い
井上 透 : サイエンスミュージアムネットを活用した博
た博物館案内システム,Live Biblia のプロトタイム
物館デジタル ・ アーカイブスの流通, 第 22 回年
システムの開発を行い, その詳細を報告した. プロ
会論文集, pp.76-77, 2006.
トタイムシステムでは, 実物資料を用いた物理的な
Ishii, Hiroshi. & Ulmer, Brygg.: Tangible Bits:
オブジェクトから資料同士の関連性を呈示するシス
Towerd Seamless Interfaces between Peaople, Bits
テムが実装された.
and Atoms. In the Proceedings of Conference on
Human Factors in Computing Systems '97, pp.1-7.
今後の課題としては, 博物館内で展示順路をナ
Los Angeles, CA: ACM, 1997.
ビゲーションする機能の開発, 実装を行うことが挙げ
られる. また, 博物館において実際に来館者の利
関 良明 ・ 日高哲雄 ・ 斉藤典明 : コンテンツ連携
用データを集め, Live Biblia の博物館学習支援効
技術を応用したディジタル展覧会システム, 電子
果について有効性を検討する.
情報通信学会技術研究報告 OFS, オフィスシス
テム 100(102), pp.29-34, 2000.
附記
全国大学博物館学講座協議会西日本部会編 : 新し
本研究は,JSPS 科研費 24240100 の助成を受け
たものである.
引用文献
Falk, J. H. & Dierking, L. D.: The Museum
Experience Revisited . Walnut Creek, CA: Left
― 60 ―
い博物館学, 芙蓉書房出版, 2008.
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
天草に分布する佐伊津層の教材化と授業実践
Development and Practice of Teaching Materials of Saitsu Formation in Amakusa
津留ありさ*高嶌栞織**田中均***
TSURU Arisa*TAKASHIMA Siori** and TANAKA Hitoshi***
熊本大学教育学研究科*福岡市立野芥小学校**熊本大学教育学部***
Faculty of Education and Master’s Course in Education Kumamoto University*
Noke elementary school**Faculty of Education Kumamoto University***
[要約]暗記のイメージの強い地学,特に地質学において,
“思考する”教材の開発を行った。筆者の
卒業論文において,天草諸島に分布する佐伊津層には,その地域に分布しない礫組成を堆積物として
含んでおり,その後背地について考察した。この内容を教材化し,授業では「佐伊津層に多産するチ
ャート礫はいつ,どこから,どのようにして佐伊津層に堆積したのか?」を課題とし,佐伊津層の礫
を複数種サンプルとして子どもたちに示した。また,課題を考察するにあたって必要な地質学的なも
のの見方・考え方を指導した上で,生徒に思考させるような教材化を行った。
[キーワード]地学教育,佐伊津層,後背地,天草,布田川断層
1. はじめに
1)研究史
学習指導要領解説理科編において,岩石や地
佐伊津層は,大塚(1966)により命名され,
層等の取り扱いは,フィールドワークを通して
その後,大塚(1970)により再定義された。林
行うことが望ましいとなっているが,都市部の
(1960)は,化石珪藻群に海棲種が全く含まれ
学校では,近くに地層や岩石が露出している露
ず,淡水棲種が優勢であることから湖水域が存
頭が少ないために、多くが露頭写真等で授業を
在したと述べている。また,首藤(1958,
進めることが多い。本研究では,発展教材とし
1963)は,中・北部九州の堆積盆地の半地溝的
て,天草諸島の佐伊津層(天草下島本渡の北に
性格について大分-熊本構造線の影響によるも
分布)の特異な礫岩層を対象とした。その礫岩
のとした。さらに、大塚(1970)は,佐伊津層
層を構成する礫種構成は,チャート,花崗岩,
が,花粉化石や植物遺体化石より口之津層群下
結晶片岩,酸性凝灰岩など,宇土半島を含む天
部層に相当し,その堆積時代が前期更新統(約
草諸島には分布しない岩種が多く含まれてい
150 万年前)であることを明らかにした。また,
る。このような礫岩種がどこから運ばれてきた
首藤(1958,1963)の研究に基づき,大分-熊
のか(後背地),さらに,いつ,どのようにして
本構造線が大矢野島北西まで延びることを推定
佐伊津層が堆積したのかを考察し(形成史),そ
し,佐伊津層含む口之津層群が構造線と関連し
の過程において,活断層の活動と大きく関わっ
て堆積されたとした。また,岡口・大塚
ていることが明らかになった。本研究ではそれ
(1980)は,口之津層群に堆積するジルコンの
を教材化し,地質学的なものの見方・考え方に
フィッション・トラック年代から,絶対年代を
触れさせるとともに,地層形成の時間的変化と
1.76m.y.とした。
関連付けて考察させることを意図して授業実践
2)地質概説
を行った。
A)分布
天草下島北東部(本渡市北部~五和町)にか
2. 天草諸島の佐伊津層について
けて分布し,苓北町志岐にも一部分布する。
― 61 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
B)岩相・層序及び地質構造
町以南では走向は東西で,北方へ 5~10°の緩や
佐伊津層は,層厚約 200mの累層である。新生
かな傾斜をなしている。つまり,佐伊津層はゆ
代古第三紀層坂瀬川層を傾斜不整合におおい,
るやかな向斜構造をなしている。(大塚,1970)
中位の層準に厚さ 4~5mの黒灰色軽石質凝灰岩
地質図を図 1,露頭と柱状図を図 2 に示す。
(御領凝灰岩)を一層はさみ,これにより上
部,下部に分けられる。両部層を通じて砂礫
層・シルト層及び凝灰岩を主とした地層群によ
って構成されており,一部ではこれらの上位を
阿蘇溶結凝灰岩が不整合におおっている。以
下,下部層,御領凝灰岩及び上部層についてそ
れぞれ記述する。
(下部層)下部層は主として佐伊津層分布地
域の北半分に分布する。基盤岩を不整合におお
う凝灰岩質砂層にはじまり,上部をおおう御領
凝灰岩までに河川堆積,もしくは湖沼堆積物を
示唆する 5 つの堆積輪廻から成っている。
(御領凝灰岩)大塚(1970)により命名さ
れ,層厚 7mの火砕流堆積物で,佐伊津層を上部
と下部に分ける。特徴的な黒灰色軽石質凝灰岩
で,佐伊津層の鍵層となる。五和町南山浦から
打越にかけて分布するほか,志田ノ原や中ノ井
図 1 天草御領付近の地質図
出にも点在する。大塚(1970)では,御領凝灰
(渡辺・益田,1983 より引用)
岩は鏡下の観察において含角閃石両輝石安山岩
起源のもので,紫蘇輝石が多いことから,口ノ
津層群大屋層に対比されている。
(上部層)上部層は佐伊津層分布域の南半分
に分布する。上部層の上半分には火山砂層,層
灰岩層,凝灰岩層などの火山砕屑物が卓越して
いる。堆積構造としては channel-fill
structure,クロスラミナ,礫の覆瓦状構造の発
達が見られ,河川の堆積環境が推定される。ま
た,比較的薄い葉理が連続して重なることか
ら,一部は湖沼での堆積物であることが推定さ
図 2.佐伊津層の柱状模式図
れ,林(1960)により,化石珪藻群に海棲種が
(長谷・池田,2009 より引用)
全く含まれず,淡水棲種が優勢であることから
C)産出化石及び地質時代
も湖水域が存在したことが支持される。
林(1960)は含有化石珪藻の構成から堆積時
代を下部鮮新世としているが,大塚(1970)で
は花粉分析により前期更新世であるとしてい
地質構造は,佐伊津町以北でほぼ東西の方向
で南へ 5~15°のゆるやかな傾斜をなし,佐伊津
る。また,珪化,炭化した立ち木化石,埋没樹
― 62 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
を報告しており,小本ほか(1968)ではステゴ
状分布していることが明らかになった。この直
ドン象の臼歯化石が報告されている。また,
線状の堆積物の分布様式と布田川断層(地震調
2013 年 4 月 6 日に,北林栄一氏(元大分県玖珠
査研究推進本部 地震調査委員会,2013)が調和
町立日出生中学校教諭)が佐伊津層で多くの足
的な関係にあることから,それらが密接な関連
跡化石を発見し,その後の白亜紀資料館の調査
があると判断した。布田川断層は大分-熊本構
により,佐伊津層下部からは,ゾウ類,サイ
造線に関連した断層であり,南方から北方に流
類,シカ類とみられる偶蹄類,ツル類とみられ
下してきた緑川は,布田川断層と合流した地点
る大型鳥類の足跡化石が確認され,佐伊津層上
より流路を WSW 方向に急変させ有明海に注いで
部からも,シカ類とみられる偶蹄類の足跡化石
いる。チャート,酸性凝灰岩はその多くが秩父
が確認されている。
帯中帯(黒瀬川帯)に分布しており,佐伊津層
D)対比
においては,主にチャートの供給源を秩父帯,
佐伊津層は,大塚(1970)で諏訪原層の上位
変成岩や花崗岩の供給源を肥後帯に求めるのが
に設定されていた。しかし,渡辺・益田
妥当である。また,図 4 の重力異常分布図(九
(1983)により諏訪原層が佐伊津層の一部とさ
州地域の活断層の長期評価)では,宇土地区か
れる御領凝灰岩堆積物より上部,つまり佐伊津
ら佐伊津地区まで西南西に延びるブーゲー異常
層上部層と対比された。また,大矢野層も御領
帯が確認されており,そこに布田川断層が天草
凝灰岩の下部,つまり佐伊津層下部と対比され
下島に向かって位置していると考えられてい
た。御領地域および関連地域の層序表を図 3 に
る。この事実から,以下に記すように佐伊津層
示す。
の後背地や活断層と関連させた形成史をまとめ
ることができる。
図 4 ブーゲー異常分布図
図 5 は佐伊津層周辺の地質,断層,河川の関係
図 3 御領地域および関連地域の層序表(渡辺・
である。
益田,1983 より引用)
3)調査結果
調査により,宇土半島の北部に位置する網田
地域において,少量のチャートや花崗岩礫を含
む河川堆積物が確認できた。また,大矢野島北
部にもチャートや結晶片岩等が確認でき,それ
らの特徴的な河川堆積物は ENE-WSW 方向に直線
図 5 調査地周辺の地質と断層,河川
― 63 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
(1)秩父帯に主に分布するチャートや酸性凝灰
岩,肥後帯の変成岩や花崗岩等が緑川により佐
伊津地区まで運搬された。
(2)北流していた緑川の位置が布田川断層と重な
る地点より流路を西へ転換し,布田川断層に沿
う河川が宇土半島北側の網田付近,大矢野島の
北側の諏訪原を経て,佐伊津地区まで連続し,
秩父帯や肥後帯からチャート,花崗岩,変成岩
礫等が運搬された。
(3)佐伊津付近を河川の終着点として,そこに河
川から湖沼環境を示す佐伊津層が堆積した。
3. 佐伊津層の教材化
図 6 に授業の指導案(略案)を示す。指導案
中の展開において,三段枠組としているのは
「導入」
,「展開」
,「調査」で区別している。本
稿では,指導案中の学習活動 4~6 について取り
上げる。
(1)指導案中 4
図 7 の写真を提示し,鑑定で用いられた岩石が
図 6 指導案(略案)
写真の露頭である佐伊津層から採取されたもの
であることを伝えるとともに,そもそも現在地
層として在る堆積物はどのようにして堆積した
のか簡単に整理した。そして,鑑定を行った岩
石,特にチャートに着目して,深海堆積物であ
るチャートが現在なぜ地層中に堆積するのかと
いう課題提示を行った。チャートは日本列島形
成の過程において,深海堆積物が付加したもの
である。付加堆積物は高校の学習範囲であるた
図 7 岩石を採取した露頭遠景と近景(この露頭
め,授業では日本列島形成の過程について説明
の位置は図 8 の調査地点 4 付近にあたる)
を行い,現在チャートが露頭として現れること
思考の基礎になる情報は,筆者が実際に調査
について理解をはかった。
した場所や,周辺の地質体を地図上に示し(図
(2)指導案中 5
8),また,その場所で得られた結果を写真と文
ここで,課題として「佐伊津層に多産するチ
字で提示した(図 9)
。
ャート礫はどこからきてどのようにして堆積し
たのか?」を提示した。課題の単純化のため,
佐伊津層の後背地は秩父帯であることは情報と
して提示し,
「どのような経路で,どのようにし
て堆積したのか?」を考えさせることとした。
― 64 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
4. 授業実践の結果と考察
授業は正味 80 分程度で行った。以下の図 11~
14 に授業の様子とアンケートの結果を示す。
厚 い 層の 上 部 に 薄 い
層 の 繰 り 返 し …何 が
読み取れる??
図 8 授業時使用した思考の基礎となる位置図
図 11 導入:地質現象の見方・考え方の説明
図 9 調査地で得られた情報と写真(一部)
ちなみに,使用した写真については,導入で提
示した地質現象をとらえた写真と同一のものも
軟らかいから
全部たたいて
あり,既習事項を使って思考することをねらっ
石灰岩かな…
みようよ
ている。提示した情報の中で,思考のカギとな
るのが,図 10 の水系異常の考え方である。
図 12 演習:佐伊津層産出の岩石鑑定
断層
図 10 断層と水系異常
布田川断層で
チャートがここと
河川が曲がって…
ここにあるけん…
図 13 思考活動:佐伊津層のチャートはどのよ
断層が河川を曲げるようなことがある。これに
うにして堆積したのか推理する
ついてはアニメーションを用いて河川が断層に
よって屈曲する様子を提示し,理解の手助けと
した。そして,最終的には布田川断層の活動時
期が現在推定されているより以前である,佐伊
津層形成時の少し前であると考察できることに
繋げた。これらの情報から課題について班で推
理を行わせた。
図 14 生徒のワークシートの一部
― 65 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
アンケートでは参加者 20 名(中学3年生 17
ぜ?どうして?と疑問をもち,思考し,学びへ
名,保護者 3 名)に①興味・関心,②理解度,
と繋げられる児童生徒を少しでも増やしたい。
③「授業の前と後で,礫岩などの堆積物や活断
そのようなきっかけとして本教材が効果を発揮
層の見方について何か変わりましたか?」とい
するよう改善したいと考えている。
う質問を行った。
①の興味・関心についてはおもしろかった,
参考文献
興味深かったという項目について,興味の度合
林行敏(1960):中部九州における化石珪藻群
を 100%換算して答えてもらい,75~100%が 18
集,Ⅳ,天草群島.地学研究 6,328-332
名,50~75%が 2 名だった。
町田 洋・新井房夫・百瀬 貢(1982)
:阿蘇 4
②の理解度については,同様に 75~100%が
火山灰の分布と層序・年代,火山 第2集,
17 名,50~75%が 3 名であり,
「イメージしにく
vol.27, no.2,151-152
い部分があった」
,「もう少し考える時間がほし
長谷義隆・池田和則(2009):熊本県天草下島佐
かった」
,「内容が少し分からなかった」という
伊津層産の植物化石,御所浦白亜紀資料館館
意見もあり,授業のやり方,時間配分にさらな
報,10,1-6
る工夫が必要であると思われた。
岡口雅子・大塚裕之(1980): 口ノ津層群にお
③については全員が「はい」選び,
「暗記する
ける凝灰岩層および竜石層中のジルコンのフィ
ものであった地学が思考する面白さを感じるこ
ッション・トラック年代,第四紀研究,19,
とができた」
,「岩石の見分けが少しできるよう
(2),75-85
になった」,
「地質学に興味がわいた」と肯定的
小本ほか(1968)
:天草の地質,熊本地学会
な意見を多数得ることができた。
誌,No28,2-37
大塚裕之(1966)
:口之津層群の層序および堆積
5. おわりに
物―口之津層群の地史学的研究―1,地質学雑
誌,vol.72,371-384
小中学校における地質学の範囲の学習では,
アンケートの結果にもあった通り,暗記のイメ
大塚裕之(1970)
:北西部九州有明海南部地域の
ージを持つ児童生徒が多いように感じる。筆者
更新-最新統の層序学的,堆積学的研究,鹿児島
も小~中学校時代にはそのように感じていた。
大学理学部紀要(地学・生物学),No.3,35-65
筆者は研究や地質学の学びを進めていくにつ
首藤次男(1958)
:九州の中・後期新生界の堆積
れ,地質学の見方・考え方が理解できるように
―構造的特性,新生代の研究,vol.28,8-18
なり,こんなにも地質学は面白いのか,と大学
首藤次男(1963)
:九州の新第三系,化石,第5
で初めて実感した。教科としての地学の面白さ
号,111-122
は,児童生徒にとって形は様々であると思われ
地震調査研究推進本部地震調査委員会:九州地
る。例えば,地質学的に珍しいような場所,景
域の活断層の長期評価(第一版)(2013)
観がすばらしい場所は,観光地として多くの人
渡辺一徳・益田悦郎(1983):いわゆる中位段丘
が訪れ,諸所に教育を目的とした案内,説明を
堆積物としての小串層及び大江層について,熊
目にするだろう。多くの人は受動的にそれをた
本大学教育学部紀要,自然科学,32,29-37
だ読んで終わるかもしれない。しかし筆者は,
渡辺公一郎(1982):熊本県大矢野島~宇土半島
そこでただ「モノ」として暗記するだけではな
に分布する鮮新世火山岩類のフィッション・ト
く,
「なんでだろう?」
,「どうしてだろう?」と
ラック年代.九州大学工学部集報,62 巻,5
思考する面白さを感じてほしい。何にでもな
号,561-566
― 66 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
鍵教材とプロセス・スキルによる小・中学校理科カリキュラムの構造化
Making a Network of Contents in Science Curriculum in Elementary and Junior High School
using Key Teaching Materials and Process Skills
渡 邉 重 義
WATANABE, Shigeyoshi
熊本大学教育学部
Faculty of Education, Kumamoto University
[要約]
小・中学校の理科教科書の記載内容を調査して,理科カリキュラムの系統を具体化す
るための鍵教材を抽出した。複数の単元で扱われていた「水」「光・日光」「温度」等の要素を
用いて,単元間のつながりを系統表の中に図示した結果,関連性を導く視点や教材・教具を明
らかにすることができた。また,プロセス・スキルなどの要素を参考にして科学的な問題解決
スキル(案)を提案し,
「測定」等のスキルで単元間の関連性を示した。
[キーワード]
鍵教材,構造化,プロセス・スキル,問題解決スキル,理科カリキュラム
1.はじめに
2.調査方法
理科カリキュラムは,その時代の社会的背景,
鍵教材の抽出は,A 社の小学校理科教科書
自然科学の進歩と流行,教育思潮等によって常に
(2008 年学習指導要領対応)を材料にして行い,
見直され,修正されている。2008 年の学習指導
各単元の記載内容から鍵となる教材・教具や用語
要領の改訂では,「内容の一貫性」がキーワード
の候補を抜き出し,異なる学年や単元で繰り返し
になって「エネルギー」「粒子」「生命」「地球」
登場するものを抽出して分類した。次に小学校の
を軸にした学習内容の系統化が行われた。理科カ
理科教科書で鍵教材に位置づけられる教材・教具
リキュラムの系統化は,理科教育の現代化運動が
や用語が,A 社の中学校理科教科書でどのように
起こった 1950~1960 年代にも行われており,
「物
扱われているのかを調べた。そして,小学校学習
質」「エネルギー」「生命・進化」「時間・空間」
指導要領解説理科編(2008)に掲載されている
という科学の基本概念とその下位概念が提示さ
小・中学校の内容の系統性を示す表を用いて,鍵
れた。1970 年の中学校指導書理科編では,基本
教材が扱われている単元に印を付けて,それらの
概念およびその下位概念と各単元の関連性を表
単元間のつながり方と,リンクの鍵となる教材,
す構造図が示されている。これらの 2 つの構造化
考え方,キーワード等を検討した。
は,基本概念と単元との関連を示すものであり,
プロセス・スキルについては,SAPA のプロセ
単元間の関連性の総括的な理解にとっては有効
ス・スキルを基本として,長谷川ら(2013)の「探
であるが,基本概念と各内容との関係や学習活動
究の技法」を参考にしながら,科学的な問題解決
との関連性は不明確である。そこで,本研究では,
のスキル(案)を考案した。そして,A 社の小学
理科カリキュラムの系統性を具体化するために
校および中学校理科教科書を材料にして,プロセ
「教材」
「プロセス・スキル」の 2 点に着目し,
ス・スキルと学習内容の関係について分析を行い,
学習内容の関連図(カリキュラム・マップ)を作
理科カリキュラムの構造化に結び付く視点を探
成することを目的として,小学校理科カリキュラ
った。
ム を関 連付け るた めの鍵 とな る教材 とプ ロセ
ス・スキルを抽出した。
― 67 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
3.結果と考察
が示唆された。
1)小・中学校理科における鍵教材
理科カリキュラムの系統性を具体化するため
の鍵教材について,下記のような特徴をもつもの
と設定し,該当する教材・教具や用語を小学校理
科教科書から抽出した。
鍵教材
・科学的な概念形成に結び付く教材
・科学的な思考を導く教材
・教育内容の関連を導く教材や観察実験の教具
図1 「水」と小・中学校の理科カリキュラム
その結果,上位概念の「粒子」「エネルギー」
「生命」「地球」の複数の概念に関連した教材と
図 2 は,「光・日光」に関連した内容の関連性
して,「水」(14),「空気」(8),「光・日
を示している。「光・日光」については「粒子」
光」(8),「温度」(8),「金属(鉄など)」
概念を除く 3 つの各概念で,系統性を導くような
(5)等を抽出することができた(数値は小学 3
観点を見出すことができたが,「水」のように概
~6 年の合計 31 単元において,その教材が扱われ
念全体を統括するようなものではなく,いくつか
ていた単元数)。「光・日光」「温度」は小学 3
の教材・教具や考え方でつながりが認められ,そ
~6 年の全学年で扱われ,「温度」は上記の 4 つ
れらが「光エネルギー」に集約するような関係性
の概念すべてに関連していた。「電気」「重さ」
を示すことができた。図 1 は,先に学習したこと
「体積」「動物・植物」「災害」等は,特定の概
が他の内容につながるような教材配列を示して
念に関連した複数の単元に登場した。
いるのに対し,図 2 は「光エネルギー」という見
小学校理科の鍵教材となる可能性のあるいく
方につながるという前提で,日なたと日かげ,光
つかの教材について,中学校理科教科書での取り
電池,光合成等の学習を行う必要性があることを
扱いを調べ,小・中学校の理科カリキュラムにお
示している。つまり,小学 3 年で日光や鏡で反射
ける関連性を系統表に示したものを図 1~4 に示
した光が気温・地温を上昇させる体験は,中学 3
す。
年の「光エネルギー」の学習にとっての原体験に
図 1 では,「水」を扱っている単元に赤丸を付
なることが鮮明になる。
けて表示している。「水」に関連した内容は,中
学校理科教科書でも合計 33 単元中 13 単元で扱わ
れていた。「水」の扱われ方は,概念ごとに特徴
があり,「粒子」概念では「液体としての水」,
「生命」概念では「生命を支える水」,「地球」
概念では「循環する水」という視点で,系統性が
具体化できた。また,小学 4 年「水の三態変化」
と中学 1 年「水の状態変化」の学習は,「エネル
ギー」(水が水蒸気になったときのエネルギーの
利用),「生命」(植物の蒸散),「地球」(水
の循環/雲・霧の発生など)の他の概念に関係す
る内容と関連性が高く,重要な鍵教材になること
― 68 ―
図 2 「光・日光」と小・中学校の理科カリキュラム
図 3 は,「温度」が関係した単元の関連性を示
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
すもので,「熱エネルギー」に学習内容が集約さ
という操作が,学習内容の関連を連想させるよう
れるつながりは、図 2 の構造とよく似ている。各
な役割を果たす可能性がある。一般的なアルコー
上位概念についてみると,エネルギー:「光」「電
ル温度計だけでなく,デジタル温度計,放射温度
流」,粒子:「加熱操作」「化学変化」,生命:
計,データロガーなどが用いられこともあるの
「気温と環境」,地球:「日光」「気温」等の事
で,使用目的や実験方法から観察実験の内容を分
象で系統性を具体化することができた。また,小
類したり,関連付けたりすることもできるであろ
学 3 年は「暖まり方」,小学 4 年は「気温」で上
う。
位概念の間のつながりがあり,「発熱」を鍵にす
ると,「光」「日光」「電流」「化学変化」等の
内容が関連することもわかる(「発熱」の関連性
については図 3 に表現していない)。図 3 は「温
度」についての関連性を示すものであるが,小学
4 年の「水の三態変化」の学習から.「熱する」
と言う表現が用いられ,小学 6 年の「電気の利用」
では電熱線に電流を流すと「発熱する」ことを学
び,中学 1 年では「物質の状態変化」に関連して,
粒子モデルを用いて熱と温度の関係が説明され
図 4 「温度計」と小・中学校の理科カリキュラム
ている。中学 2 年では「電流」の学習で,「物体
の温度を変化させる原因になるもの」が「熱」と
用語に注目すると,小学校理科教科書では,
「は
定義され,「熱量」という用語も登場する。つま
たらき」が 10 単元で用いられていたが,「生命」
り,温度と熱は関連付けて扱う必要のある鍵教材
概念と関連した内容では「機能・役割」の意味で
であり,小学校における「温度の変化」「暖まる・
用いられ,それ以外では「作用」の意味で用いら
冷やす」という表現から,中学校の「熱の出入り」
れていた。中学校理科教科書でも,小学校と同じ
「熱エネルギー」という考え方に結び付けるため
ような用い方をされていて,「根・茎・葉のつく
の教材化や学習デザインが必要になることがわ
りとはたらき」(中 1),「力のはたらき」(中
かる。
1),「生命を維持するはたらき」(中 2),「電
流のはたらき」(中 2)等の表現があった。
2)科学的な問題解決スキル(案)
理科学習に必要な問題解決スキルを設定する
ために,最初にⅠ.科学的な思考に関連したスキ
ル,Ⅱ.観察・実験に関連したスキル,Ⅲ.科学
的なコミュニケーションに関連したスキル,とい
う 3 つのカテゴリーを設けた。次に問題解決のプ
ロセスを基本として,Ⅰには①問題を発見する/
把握する,②仮説を設定する,③計画する,④予
図 3 「温度」と小・中学校の理科カリキュラム
想する,⑤データを分析する/解釈する,⑥考察
教具では,温度計が小・中学校の合計 16 単元
する,Ⅱには⑦観察する,⑧実験する.Ⅲには⑨
で扱われていた(図 4)。扱われている単元は,
伝達する,⑩評価する,という合計 10 のスキル
図 3 とほぼ重なるため,温度計を用いて測定する
を提示し,そのスキルの下に,条件を制御する,
― 69 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
比較・分類する,測定する,数値を用いる等の基
しかし,測定スキルの習熟や向上につながるよう
本的なスキルを選択して配置した(表 1)。下位
な取り扱いは少ないこと,目的・対象に応じた測
のスキルの中には,①~⑩の複数のスキルに関係
定方法の適切性の検討が十分に行われていない
するものがある。
ことが課題にあげられる。
表1
科学的な問題解決スキル(案)
Ⅰ.科学的な思考に関連したスキル
①問題を発見する/把握する
比較分類する 情報を利用する
②仮説を設定する
比較分類する 情報を利用する 推論する
モデルで表す
③計画する
条件を制御する 情報を利用する
④予想する
情報を利用する 推論する
⑤データを分析する/解釈する
比較分類する 表やグラフを作成する
数学的に検証する モデルで表す
⑥考察する
比較分類する 情報を利用する 推論する
図 5 「測定」スキルと小・中学校の理科カリキュラム
Ⅱ.観察・実験に関連したスキル
⑦観察する
五感を用いる 観察機器を用いる 比較分類する
測定する 数値を用いる 記録する
⑧実験する
条件を制御する 実験機器を用いる 比較分類する
測定する 数値を用いる 記録する
4.おわりに
本研究は,教科書の記載内容を材料にして鍵教
材やプロセス・スキルでの内容の関連性を調査し
たものであり,内容の関連や系統を導く可能性を
Ⅲ.科学的なコミュニケーションに関連したスキル
⑨伝達する
適切な用語・表現を用いる 表・グラフ・モデルを用いる
論理的に説明する 操作的に定義する
⑩評価する
報告された内容の優れた点と不十分な点を指摘する
結果と考察の論理性や結論の適切性を吟味する
実験方法の改善や新たな課題を提起する
すべて提示したものではない。例えば,「月や金
星の満ち欠け」の学習は,光の反射に関連した知
識が応用されて,理解が深まるのではないかと考
えられる。今後の課題として,学習内容に含まれ
る他の学習内容と関連させることができる要素
を明らかにして,多様なリンクが表現されたカリ
3)小・中学校理科教科書と「測定」スキル
図 5 は,理科カリキュラムにおいて「測定する」
キュラム・マップを提示していきたい。
操作が行われる単元を示している。現行の A 社の
付 記
教科書では,栽培・飼育や継続観察等との関係で
小学 3・4 年において長さ(大きさ)や温度を測
本研究の一部は,科学研究費助成事業「鍵教材
定する機会が多いこと,条件設定のための測定と
とプロセス・スキルを接点にした理科カリキュラ
結果の測定があることがわかる。また,図 3 や図
ム・マップの作成」(課題番号 26350238)の助
4 で示したように複数の学年で温度の測定が行わ
成を受けて実施した。
れるが,電流,体積,質量,方位の測定も各概念
文
の系統性に結び付く鍵になることがわかる。さら
に中学校段階では,エネルギー概念に関連して
「力」の測定が行われる。「測定」には対象に応
じた器具が必要になるため,「ばねばかり」「て
んびん」「メスシリンダー」「検流計・電流計・
献
長谷川直紀ほか(2013)小・中学校の理科教科書に
記載されている観察・実験等の類型化とその探究
的特徴-プロセス・スキルズを精選・統合して開
発した「探究の技能」に基づいて-,理科教育学
研究,Vol.54,No.2,pp.225-247.
電圧計」「ものさし」「方位磁石」などが内容を
関連付ける鍵教材になると考えられる(図5)。
― 70 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
生物基礎における観察実験の再検討Ⅲ
原核細胞と真核細胞の比較
Reexamination of the Laboratory Work in Basic Biology Ⅲ
The Comparison between Prokaryotic Cell and Eukaryotic Cell矢守健太郎渡邉重義
YAMORI,Kentarou* WATANABE,Shigeyoshi**
熊本大学大学院教育学研究科熊本大学教育学部
Graduate School of Education,Kumamoto University*
Faculty of Education,Kumamoto University**
【要約】本研究では,生物基礎の教科書に記載されている原核細胞の観察材料であるイシ
クラゲ1RVWRF&RPPXQHと数種類の真核生物を用いて細胞化学的な観察を行い,原核細胞
と真核細胞を比較する方法を検討した。また,細胞の学習において原核細胞と真核細胞の
観察がどのように位置づけられているのか調査した。
イシクラゲの細胞を酢酸オルセイン等で染色したところ,以下の つの染色パターンを
示した。D:細胞全体が染色された。E:細胞全体が染色され,特に細胞の中心部が濃く染
色された。F:細胞内に 1.5μm 程度の染色された点が 1,2 個確認された。G:細胞内に 1.0
μm 程度の濃く染まった粒状の物質が複数個確認された。a では,細胞が均一に染色される
ため,真核細胞と区別できる。b の場合,染色性の違いから原核細胞と真核細胞を区別する
ことができる。しかし,c の場合は,核があるように見えるため,生徒は真核生物と勘違い
する可能性がある。
>キーワード@ 生物基礎, 観察実験, 原核細胞, 真核細胞, イシクラゲ, 比較
なければならない。また,真核細胞を観察するた
はじめに
生物基礎の学習では,生物の共通性と多様性の
めの材料の選定も重要である。
そこで,矢守・渡邉は,原核細胞の観察
視点が重要である。生物の共通性として生物基礎
で最初に学習する内容は細胞であり,原核細胞と
材料として生物基礎でよく扱われるようになっ
真核細胞の比較観察を行う。この観察活動では生
たイシクラゲ1RVWRF&RPPXQHに注目し,その細
物の共通性と多様性について考えるうえで,原核
胞化学的な特徴を明らかにした。本研究では,さ
細胞と真核細胞の構造の違いを見出すことが重
らにイシクラゲと数種類の真核細胞の核ついて
要である。しかし,生物基礎の教科書 社を調
調べ,原核細胞と真核細胞を比較する方法や,そ
べると,原核細胞と真核細胞を区別する特徴であ
の結果として得られる知見について調べた。
る核を染色し,その有無を確認する観察は少なく,
細胞の大きさ等の比較しか指示されていない。し
原核細胞の細胞化学的な観察
たがって,原核細胞と真核細胞の細胞内の構造
材料
特に核を比較できるような観察方法を検討し
実験で使用したイシクラゲは,熊本大学の黒髪
― 71 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
北キャンパスのグラウンド熊本市中央区で
メチレンブルーのみならず,核染色で使用される
年 月 日と 月 日に採集した。採集後
酢酸オルセインでも細胞全体が均一に染色され
に水道水でゴミや土を洗い流し,室内で十分に風
ていた。
乾させた。乾燥後は蓋つきのポリボトルに小分け
図 の & は E の染色パターンを示している。
にして保存した。イシクラゲは細胞が分泌する寒
種類の染色液のうち,酢酸ゲンチアナバイオレッ
天状の物質が障害となり,細胞の連なり糸状体
ト以外で同様の結果を得ることができた。酢酸オ
を観察しにくい。しかし,イシクラゲをイオン交
ルセインで染色を行うと,細胞全体が染色され,
換水に浸すと寒天状の物質が分解され,その一部
特に細胞の中心部分が濃く染色されていること
は軟らかくなる。本研究では,以上の処理を行っ
がわかる&。1RVWRF 属を含むシアノバクテリア
たイシクラゲを観察に用いた。
の細胞は,中心部に '1$ やカルボキシソームを含
使用した染色液
む核様体と呼ばれる部分があり,その周りにはラ
染色液には細菌等の観察に用いられるメチレ
メラ構造を持つチラコイド膜がある。したがって,
ンブルー,酢酸ゲンチアナバイオレットと核染色
中心部が濃く染色された結果は,このような細胞
に用いられる酢酸ダーリア,酢酸オルセイン,そ
の構造が原因となっていると考えられる。
して特異的に '1$ を染色するフクシン亜硫酸水の
図 の ',(,) に F の染色パターンを示す。F
種類を用いた。
のパターンは実験で使用したすべての染色液で
方法
確認できた。' はほぼ中心に濃く染まった部分が
細胞の染色と観察は以下の手順で行った。
あり,その周辺はあまり染まらなかった結果であ
①スライドガラスの上にイシクラゲを少量おい
る。このような染まり方は一見すると,真核生物
た。
の核が染色されたように見える。( では,濃く染
②軟らかくなったイシクラゲの群体をピンセッ
まった部分が中心部に複数個観察できた。)は '
ト等を用いて,よく潰した。
と同じ染色性を示しているが,濃く染まった部分
③染色液を 滴加えて 分染色を行った。
は細胞の外縁部に観察された。フクシン亜硫酸水
④カバーガラスをかけて観察した。
でも細胞の外縁部に発色した部分を確認できる
※,フクシン亜硫酸水のみ,材料を ℃の 1 塩
ことから濃く染まった部分は '1$ を含んでいる
酸に 分,フクシン亜硫酸水に 分,イオン交
と考えられる。イシクラゲと同じ 1RVWRF 属の一
換水に 時間浸した後,観察した。
種はゲノムを複数個有しており,細胞分裂の際に
結果及び考察
凝集する0HHNVHWDO。したがって,',
染色結果を図 に示す。イシクラゲの染色結果
(,) に見られる濃く染まった部分は '1$ が凝集し
は,その染まり方から次の 種類に分類すること
たものと考えられる。しかし,シアノバクテリア
ができた。D:細胞全体が染色された。E:細胞全
の核様体は細胞の中心部に存在するため,) のよ
体が染色され,特に細胞の中心部が濃く染色され
うな場所で凝集しているとは考え難い。
た。F:細胞内に 1.5μm 程度の染色された点が 1,
図 の * は G の染色パターンである。G のパタ
2 個確認された。G:細胞内に 1.0μm 程度の濃く
ーンはメチレンブルー,酢酸ダーリアとフクシン
染まった粒状の物質が複数個確認された。
亜硫酸水で染色を行った際に観察できた。F の場
図 1 の A と B は a の染色パターンを示すもの
合とは異なり,染色された部分は μP 程度の
である。メチレンブルー(A)や酢酸オルセイン(B)
濃く染まった粒状の物質であった。),8)ORULGD
だけでなく,実験で使用した 5 種類の染色液で同
,QWHUQDWLRQDO8QLYHUVLW\の研究報告によると,
様の結果を得ることができた。細胞質を染色する
1RVWRF 属の細胞をメチレンブルーで染色をする
― 72 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
ある。
とラメラ構造に存在するシアノフィシンと呼ば
れる同化産物が確認できる。その染色結果は,*
図 の + は酢酸ダーリアで染色した結果である
と類似しているため,濃く染まった部分はシアノ
が,* の濃く染まった物質があるのと同じ位置に
フィシンではないかと考えられる。しかし,細胞
白い粒状物質を観察することができた。この白い
内にはシアノフィシンの他に,カルボキシソーム
粒状物質の大きさや位置が似ているので,白い粒
やポリリン酸体など様々な粒状の物質が存在す
状物質はシアノフィシンではないかと考えられ
るため,それらの物質が染色されている可能性も
る。
A
B
C
E
D
F
G
H
図 イシクラゲを様々な染色液で染色した結果
$メチレンブルー.%~'酢酸オルセイン.(酢酸ダーリア.)フクシン亜硫酸水.
*メチレンブルー.+酢酸ダーリア.スケールはすべて μP.
①タマネギの鱗片の表皮を剥ぎ,スライドガラス
真核細胞の細胞化学的な観察
に乗せた。
材料
真核細胞の観察材料として,教科書でよく用い
②染色液を , 滴加え, 分染色を行った。
られているタマネギの鱗片の表皮とオオカナダ
③カバーガラスをかけて観察した。
モの葉,そしてイシクラゲと細胞の形状が類似し
オオカナダモの葉の細胞
ているムラサキツユクサのおしべの毛の細胞を
①オオカナダモの葉を 枚取り,染色液に 分
用いた。
浸し染色を行った) のみ 分染色を行った。
使用した染色液
②染色後に,イオン交換水で表面の染色液を洗浄
原核細胞の観察に使用した 種類の染色液に加
し,スライドガラスに乗せた。
え,メチルグリーン・ピロニン染色液を使用した。
③カバーガラスをかけて観察した。
なお,本研究では調製済みのメチルグリーン・ピ
ムラサキツユクサのおしべの毛の細胞
ロニン染色液ナリカ社を使用した。
①ムラサキツユクサのおしべの毛を , 本ピン
方法
タマネギの鱗片の表皮細胞
セットで切り取った。
②おしべの毛をスライドガラス上に乗せ,染色液
― 73 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
を行った $ では,核だけではなく細胞質も薄く染
を , 滴滴下し, 分染色を行った。
③カバーガラスをかけて観察した。
色されていた。% は酢酸オルセインで染色した核
結果及び考察
の形状を示している。核の輪郭は明瞭であった。
真核生物を染色した結果を図 に示す。$~) は
& は酢酸ゲンチアナバイオレットで染色した核で
タマネギの鱗片の表皮細胞,* はオオカナダモの
ある。% とは色調が異なり核の部分は青色に染ま
葉の細胞,+ と , はムラサキツユクサのおしべの
っている。核内に核小体黒矢印が観察できる。
毛の細胞である。酢酸オルセインを使用して染色
A
B
C
D
F
E
G
H
I
図 真核生物を様々な染色液で染色した結果
$~)タマネギの表皮.*オオカナダモの葉.+,,ムラサキツユクサのおしべの毛
酢酸オルセイン$,%,*.酢酸ゲンチアナバイオレットF.メチレンブルー'
フクシン亜硫酸水(.メチルグリーン・ピロニン).無染色+。酢酸ダーリア,
$,*,+,, のスケールは μP,それ以外は μP.矢印は核小体仁を示す.
― 74 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
それぞれの材料を異なるプレパラートで観察す
' はメチレンブルーで染色したときの核の染色
状態を示している。メチレンブルーは細胞質を染
るのが一般的であり,マイクロメーターを用いた
めるが,核の部分はさらに濃く染まっていた。(
測定を行わなければ大きさの比較は難しい。また,
はフクシン亜硫酸水で染色した結果である。核と
スケッチで記録した場合,顕微鏡で見た像の大き
細胞質の色調が明確に異なり,'1$ が確認できる。
さや比率を正確に再現するのは困難である。$ の
) は '1$ を青色に,51$ を赤色に分染するメチル
ように等倍で並べた写真を提示すると真核細胞
グリーン・ピロニンで染色した結果である。青く
と原核細胞の大きさの違いが比べやすくなる。
染まった核の中に 個の赤い核小体赤矢印が見
図 の % も,タマネギの表皮細胞③とイシク
られる。
ラゲの細胞④,⑤を酢酸オルセインで染色した
* のオオカナダモの葉の細胞は,$ のタマネギ
結果であり,タマネギの表皮細胞の核とイシクラ
の鱗茎の表皮細胞や + のムラサキツユクサのおし
ゲの細胞を比較しやすくなるように並べている。
べの毛の細胞に比べると細胞の大きさに違いは
タマネギの表皮細胞は酢酸オルセインで濃く均
見られるが,核の大きさはほぼ同じであることが
等に染まっている③。一方,イシクラゲの染色
わかる。
結果④は細胞全体が染色され,特に細胞の中心
+ のムラサキツユクサのおしべの毛の細胞では, 部が濃く染色されていた。したがって,③と④で
無染色の場合でも核を観察できた。おしべの毛を
は,よく似た構造に見えるが,イシクラゲの濃
酢酸ダーリアで染色すると核が凝集し無染色の
く染まった部分は,輪郭が不明瞭でありタマネギ
ときと比べると小さくなっていた。
の表皮細胞の核とは染まり方が異なることや,細
胞内での核が占める割合が特徴となり,区別する
ことが可能である。
原核細胞と真核細胞の比較
しかし,細胞内に 1.5μm 程度の染色された点
タマネギの鱗片の表皮細胞とイシクラゲの細
胞の比較を行った。図 の $ は酢酸オルセインで
が 1,2 個確認された場合(⑤)は,イシクラゲの染
染色したタマネギの表皮細胞①とイシクラゲ
色結果によっては核が存在するように見えてし
の細胞②を等倍で示している。生徒実験では,
まうかもしれない。
A
①
B
③
④
⑤
②
図 タマネギの鱗片の表皮細胞とイシクラゲの細胞の比較酢酸オルセインで染色
$細胞の大きさの比較①タマネギ②イシクラゲ%核の比較③タマネギ④⑤イシクラゲ
④は細胞全体が染色され,特に細胞の中心部が濃く染色された場合
⑤は細胞内に 1.5μm 程度の染色された点が 1,2 個確認された場合.スケールはすべて μP.
― 75 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
細胞についての学習
結果の考察について十分に吟味する必要がある。
生物基礎の第 章「生物の特徴」は,章全体を
通して生物の共通性と多様性の概念で内容の系
参考文献
統化を図っている。本研究で扱った原核細胞と真
-RKQ&0HHNVHWDO&HOOXOODU
核細胞の観察比較は,第 章の中で行われる。原
GLIIHUHQWLDWLRQLQWKHF\DQREDFWHULXP
核細胞と真核細胞の構造の違いに注目すると生
1RVWRFSXQFWLIRUPH
物の多様性が見えてくる。原核生物と真核生物の
$UFLYHVRI0LFURELRORJ\9ROSS
),8)ORULGD,QWHUQDWLRQDO 8QLYHUVLW\
両方が細胞を基本単位としていることに注目す
ると生物の共通性に結びつく。
KWWSZZZMRFKHPQHWGHILXERW%27
第 章「遺伝子とその働き」では,遺伝や遺伝
物質である '1$ が,生物の共通性と多様性の鍵と
矢守健太郎・渡邉重義生物基礎におけ
なる。観察としては,ユスリカのだ腺染色体をメ
る観察実験の再検討‐原核生物の観察材料
チルグリーン・ピロニンで染色する活動が扱われ
としてのイシクラゲ‐日本化学教育学会研
ている。メチルグリーン・ピロニンは核内の '1$
究報告 9RO1RSS
を青色に,51$ を赤~紫色に染め分ける。第 章
矢守健太郎・渡邉重義生物基礎におけ
では原核細胞と真核細胞の観察で細胞内の構造
る観察実験の再検討Ⅱ‐イシクラゲの細胞
や小器官というレベルの学習を行ったが,第 章
化学的な観察‐日本理科教育学会九州支部
では細胞内の '1$ と 51$ という分子レベルの学習
大会発表論文 9ROSS
を行う。
一方,小・中学校の学習とのつながりを見ると,
小学校第 学年で水中のプランクトンを観察して
いるが,細胞という用語は登場しない。中学校第
学年では,植物の体のつくりで葉の断面を観察
する。その注釈に細胞という言葉が用いられるこ
とはあるが,細胞についての詳しい学習は行われ
ない。本格的に細胞を学習するのは中学校第 学
年の「生物と細胞」である。この単元では,タマ
ネギの表皮細胞やヒトのほおの内側の細胞を観
察し,植物細胞と動物細胞の違いについて学習す
る。
このような中学校における細胞の学習を経て
高等学校の生物基礎で原核細胞と真核細胞の比
較観察を行う。原核生物を取り上げることで生徒
の生物や細胞に関する見方が広がることが期待
される。本研究で取り上げた原核細胞と真核細胞
を比較する観察は中学校の細胞学習と高等学校
の細胞の学習繋ぐ活動になるため、観察の方法や
― 76 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
阿蘇山中岳映像の教材化
Network Camera Images of Aso Nakadake as science teaching materials
飯野直子,金柿主税
IINO, Naoko,KANAGAKI, Chikara
熊本大学,熊本支援学校
Kumamoto University, Kumamoto Special-needs School
[要約] 阿蘇火山博物館にネットワークカメラを設置し,2009 年 5 月以降の阿蘇中岳をモニターしてい
る.教育や研究のための素材や基礎資料として,日中の 1 時間ごとの静止画を自動アーカイブし
て公開している.ここでは,阿蘇中岳画像を用いて作成している火山,気象,天文領域の学習用
の素材データベースや教材を紹介する.
[キーワード] ネットワークカメラ,タイムラプス動画,火山,気象,天文
1.はじめに
阿 蘇 山 中 岳 第 一 火 口 [ 北 緯 32.88 ° , 東 経
131.09°, 標高 1300 m]では,2014 年 11 月 25
日の 10 時 11 分ごろに 21 年ぶりのマグマ噴火が
発生した.2015 年 9 月 14 日 9 時 43 分に発生し
た噴火では,大きな噴石が飛散する様子が確認さ
図 1 カメラの設置位置と撮影方向
れ,噴火警戒レベルが 2 から 3 の火口周辺警報に
引き上げられた.また,この噴火では小規模な火
砕流の発生も確認された.その後も噴火が継続し
測画像や衛星データを解析した結果を用いて作
ていたが,いったん 10 月 13 日 10 時 40 分に停
成している火山学習・防災教育用のデータベース
止した.現在は,翌日の 14 日 09 時 06 分に発生
や,気象,天文領域の教材化を検討した結果を報
した噴火が継続している(10 月 20 日時点).
告する.
著者らは,2009 年 5 月より阿蘇中岳第一火口
の西 約 3 km の阿蘇火山博物館にネットワーク
2.地上観測とデータ処理
カメラを設置して阿蘇中岳を撮影している(図 1
先に述べた,阿蘇カメラの日中 1 時間ごとの画
中の As:阿蘇カメラ).教育・研究用の素材提供
像の自動アーカイブとは別に,5 分ごとの画像も
を目的として,日中の1時間1枚の画像を自動ア
保存している.2014 年 11 月 25 日のマグマ噴火
ーカイブして,http://es.educ.kumamoto-u.ac.jp/
以降は,衛星データで噴煙が捉えられた日につい
volc/aso/で公開している.これらの画像から,噴
て,5 分ごとのタイムラプス動画を作成している.
煙の色や高さ,移流方向を調べることができる.
噴煙活動の活発さの程度も概ねわかる.さらに,
3.衛星データ解析
火山噴煙は火山活動の指標のひとつとなるだけ
2014 年 11 月 25 日のマグマ噴火以降の噴煙につ
でなく,大気の動きを可視化するトレーサとみな
いて,水平方向の移流拡散を調べるために,地球
すこともできる.また,阿蘇カメラは東の空を定
観測衛星 Terra/Aqua 衛星の MODIS データを用い
点連続撮影しているため,日の出後の太陽の動き
て検出している.衛星データは NASA の LANCE
も捉えられており,天文の学習での利用も可能で
Rapid Response - Near Real Time (Orbit Swath)
ある.
Images [1]より,Terra(10 時頃)
・Aqua(14 時頃)
ここでは,阿蘇カメラによる阿蘇中岳の地上観
/MODIS の Lebel-1B をダウンロードして使用し
― 77 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
ている.フリーソフト HYDRA2[2]で全シーンに
て,図 2 に示すようにカレンダー形式で整理して
ついて 500 m 空間分解能の True color 画像を作成
公開している.先に述べたように,衛星画像で噴
している.灰煙がみられるシーンについては,1
煙が捉えられた日については,阿蘇カメラ画像の
km 空間分解能の熱赤外差画像(band32-band31)
タイムラプス動画も作成して掲載している.動画
と中間赤外画像(band20)を作成している.白く
を作成した日については,カレンダーの枠内を水
薄い噴煙の場合は,250 m 空間分解能の可視近赤
色や緑色で表示している.水色は噴煙が明瞭にみ
外差画像(band1-band2)を作成している.
られた日であり,緑色は参考記録として,薄い噴
ここで,熱赤外差画像は,スプリットウィンド
煙や流向の変化などがみられた日である.近年,
ウ(split-window)バンドとよばれる 11 ミクロン
日本国内各地で火山活動の活発化がみられてい
帯と 12 ミクロン帯の差分をとることにより得ら
る.九州の火山の噴煙活動の様子を知るための基
れる.火山性硫酸エアロゾルや石英物質は,11 ミ
礎資料としても利用できるように,2015 年 5 月
クロン帯と 12 ミクロン帯における氷晶や水滴と
29 日 9 時 59 分に爆発的噴火が発生した口永良部
は反対の消散特性を持つことを利用することで
噴煙や桜島噴煙も衛星データ解析領域に含める
雲との区別が可能となり,火山灰煙の検出に有効
ようにしている.
である.画像では噴煙は明るく,雲は暗く表示さ
れる.一方,火山灰をあまり含まない噴煙の場合,
2)気象
雲と噴煙の粒径に違いがある場合や植生域上を
火山噴煙は大気の動きを可視化するトレーサ
移流する場合に,可視と近赤外の差画像を作成す
とみなすこともできる.気象の学習を活用して考
ることによって噴煙領域を検出できることがあ
える教材として,日中に連続的に噴煙が放出され
る.また,可視と近赤外バンドは 250 m 空間分解
ていた日の教材化を検討した.その結果,九州の
能データを利用できるため,比較的規模の小さな
北方を高気圧が東進し,風向の日内変化が大きか
噴煙でも捉えられることがある.
った 2014 年 11 月 27 日と,西高東低の典型的な
冬型の気圧配置であり,風向の日内変化が小さか
4.教材化
った 2015 年 1 月 7 日が教材化に適していると思
1)火山
われた.
衛星画像を中心とした,2014 年 11 月 25 日以
ここでは風向の日内変化が大きかった事例
降 の 阿 蘇 中岳 噴 煙 の デジ タ ル コ ンテ ン ツ を ,
(2014 年 11 月 27 日)について述べる.この日
http://es.educ.kumamoto-u.ac.jp/sat/aso/におい
の 6,9,12,15 時の地上天気図を図 3 に示す.
九州の北を高気圧が東進していたことがわかる.
図 4 に 7 時から 15 時までの1時間ごとの阿蘇カ
メラ画像を示す.噴煙の流向は,南西から西,北,
北東方向へと変化したことがわかる.タイムラプ
ス動画は 5 分ごとの画像を使用しているのでさら
に細かい時間分解で流向変化や噴煙の色の変化
をみることができる.図4をみると,午前中は火
山灰を多く含む黒っぽい噴煙が放出されていた
が,午後には白っぽい噴煙になっていたことがわ
かる.タイムラプス動画では 12 時 30 分ごろに噴
煙の色が変化したことが示されている.噴煙の流
向と色の変化は,午前中と午後に観測された衛星
図 2 阿蘇中岳噴煙衛星画像のページ
画像(図 5,赤丸:噴煙領域)からもわかる.図
5a は 10:55 に観測された Terra/ MODIS の熱赤
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
図6
2014 年 11 月 27 日 7 時から 13 時までの
熊本地方気象台のウィンドプロファイラデータ
図3
2014 年 11 月 27 日の地上天気図
図7
2014 年 11 月 27 日の前方流跡線
外差画像である.火山灰を多く含んだ噴煙が北西
から南西方向に扇状に拡がっている.一方,14:
10 に観測された Aqua/MODIS の True Color 画
像(図 5b)では,北東方向へ流れる白っぽい噴煙
が捉えられている.このときの風向の時間変化を
熊本地方気象台(阿蘇中岳第一火口の東南東 約
図4
2014 年 11 月 27 日の噴煙の流向変化
36 km)の海抜 1500 m あたりのウィンドプロフ
ァイラデータ(図 6 中の赤枠)でみると,風向は,
北東から東,南東,南,南西方向へと変化したこ
とがわかる.さらに噴煙の動きを詳しくみるため
に,NOAA HYSPLIT MODEL[3]を用いて前方流
跡線を計算した.2014 年 11 月 27 日の午前7時
から1時間ごとに 14 時まで,阿蘇中岳上のモデ
ル高度 1300 m に放出された噴煙塊の,それぞれ
12 時間先までの流跡線を図 7 に示す.阿蘇中岳上
空では,7 時から 14 時までの間に流向が大きく変
化していたことが示されている.ウィンドプロフ
ァイラデータにみられる高層風の風向の時間変
化や前方流跡線の計算結果は阿蘇カメラ画像に
みられる噴煙の流向の時間変化や衛星画像にみ
られる噴煙の拡がりや流向と整合的である.なお,
図 5 2014 年 11 月 27 日の衛星画像
(a) Terra/MODIS 熱赤外差画像
(b) Aqua/MODIS True color 画像
ここで注意しなくてはならないのは,前方流跡線は,
ある時刻に放出された噴煙塊の放出後の軌跡を表し
ているのに対して,衛星画像に示される噴煙形態は,
― 79 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
噴火後に連続的に放出された噴煙全ての衛星観測時
刻におけるそれぞれの位置を表す流脈線であるため,
流れ場が定常流とみなせない場合は,流跡線と流脈
線(噴煙形態)は一致しないということである.以
上の結果から,本事例は地上観測画像や衛星画像に
みられる噴煙の流向の変化を天気図に示される気圧
配置や高層風などを用いて説明する気象の学習の活
用課題の教材として利用可能であると考える.
3)天文
阿蘇カメラは 2009 年 5 月以降の東の空を定点
図 9 季節による昼の長さの変化
連続撮影している.2014 年 11 月に阿蘇の噴煙活
動が活発化する前は,阿蘇中岳第一火口からとき
どき白煙がみられる程度であったため,日の出後
5.おわりに
の太陽の動きがよく捉えられていた.そこで 1 年
気象庁が展開している火山カメラの画像は,気
を通して各月の 20 日前後に日の出が撮影できて
象庁のホームページでリアルタイム(現在から 1
いた 2010 年の画像のなかから,阿蘇中岳の稜線
時間前までの 2 分ごとの画像が)公開されている
に太陽がみられる時刻の画像を抽出して図 8 のよ
が,アーカイブ画像は公開されていない.本研究
うな資料教材を作成した.画角の都合で 6 月と 12
では,独自に設置したネットワークカメラの阿蘇
月は画像の範囲外に太陽が位置しているが,1 年
中岳連続自動観測画像を用いて,火山や気象,天
を通して日の出の位置が移り変わっていく様子
文に関する素材データベースや教材を作成した.
が捉えられている.また,2010 年の各月の 20 日
今後も最新の情報をデータベースに追加してい
前後の天気の良い日について,30 分ごとの画像を
くとともに,これまでにアーカイブされている画
並べることで,図 9 のような季節による昼の長さ
像を有効利用して教材化を行っていきたい.
ここでは,阿蘇カメラ画像について報告したが,
の変化を示す教材も作成できた.
著者らは桜島や霧島山(新燃岳),三宅島の研究
成果も用いて火山学習・防災教育のための素材・
情報データベースを作成し,http://es.educ.kuma
moto-u.ac.jp/education/volc/で公開している.
謝辞:阿蘇火山映像観測は,熊本大学・阿蘇火山
博物館・包括的連携協定事業の一環として行って
います.阿蘇火山博物館のご協力に感謝いたしま
す.本研究は MEXT 科研費 21700791,JSPS 科研費
24501061,15K00924 の助成を受けて行いました.
URL:[1] LANCE Rapid Response-Near Real
Time (Orbit Swath) Images: http://lance-modis.
eosdis.nasa.gov/cgi-bin/imagery/realtime.cgi
[2] Community Satellite Processing Package: http://
cimss.ssec.wisc.edu/cspp/npp_hydra2_v1.0.shtm
l [3] NOAA HYSPLIT MODEL: http://ready.arl.
図 8 季節による日の出の方位の変化
noaa.gov/HYSPLIT.php(URL:2015/10/20 確認)
― 80 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
大学数学講義での受講生のニーズ分析手法
An Analytical Method of Students’ Needs in Undergraduate Mathematics Lectures
高木 悟, 上江洲 弘明
TAKAGI, Satoru , UESU, Hiroaki
工学院大学, 早稲田大学
Kogakuin University , Waseda University
[要約]大学での数学講義における受講生のニーズは,ただ単に教材や教授法が良ければ満足
し,悪ければ不満を持つといった「一元的な要素」だけではなく,例えばあったら満足するが
無くても仕方ないと思う「魅力的な要素」や,無ければ不満を持つがあっても当然と思う「当
たり前要素」もある.このようなニーズを分析するのに有用な狩野モデルとファジィ推論を駆
使し,さらに 度の改良を加え,受講生のニーズを分析する手法を確立した.ここでは,その
手法と結果を改善過程とともに報告する.
[キーワード]ニーズ分析,授業アンケート分析,狩野モデル,ファジィ推論
1.はじめに
2.狩野モデル
大学での数学講義における受講生のニーズは,
狩野モデルとは,狩野らによって考案された
ただ単に教材や教授法が良ければ満足し,悪けれ
品質要素の分類および特徴づけの手法として開
ば不満を持つといった「一元的な要素」だけでは
発されたモデルであり,この分析法により顧客の
なく,例えばあったら満足するが無くても仕方な
認識する品質を分類して整理することが可能に
いと思う「魅力的な要素」や,無ければ不満を なった.狩野らは,図 のような顧客の満足感・
持つがあっても当然と思う「当たり前要素」もあ
物理的充足状況の対応関係から,品質要素を以下
る.このようなニーズを分析するとき, つの のように区分した.
要素に対して「充足質問」と「不充足質問」を 問うことにより,ニーズ分類の手法を提案した
狩野モデルが有用である.第二著者は,フルオン
デマンド授業における受講生ニーズ分析にこの
狩野モデルを利用し,さらにファジィ推論によっ
て分析した.第二著者のこの手法を用いて,筆頭
著者が担当する大学での数学講義(フルオンデマ
ンドではなく対面形式の授業)において,講義の
さまざまな要素を狩野モデルで分類し,ファジィ
推論で分析した結果と問題点について考察し,そ
れから 度にわたって改良したアンケートを 年度春学期の担当授業において実施した.本稿で
は,これまでの改善過程と結果について報告し,
受講生のニーズを分析する手法を提案する.
図 物理的充足状況と顧客の満足感との
対応関係概念図
― 81 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
顧客に対し「充足質問」と「不充足質問」を行
当たり前無:無いことが当然の要素
ない,その回答によって分類する.
一元的無 :無ければ無いほど満足度があが
るような要素
【充足質問】
この要素があるとどう思いますか?
懐疑的 :懐疑的回答回答が不整合
【不充足質問】
この要素が無いとどう思いますか?
ここで著者らは,以下のような分析手法をまず
質問の回答は「とてもうれしい」
「当然だろう」
考えた.
「特に何とも思わない」
「別にそれでも構わない」
受講生に対し「充足質問」と「不充足質問」
「それは困る」の つの中から つを選択する.
で構成されたアンケートを行なう.
この調査結果を,表 のような分類マトリックス
表 のクロス集計表を作成する.
で集計を行なう.
表 における「懐疑的」
を除く各カテゴリー
に関して度数表を作成する(表 )
.
表 狩野モデルの分類マトリックス
表 度数表
別に
特に何
とても
それで
当然
充足\
一元的
困る
わない
い
ない
とても
うれし
懐疑的
魅力的
だろう
無
特に何
とも思
魅力的
無
魅力的
魅力的
魅力的
一元的
有
有
有
有
当たり
一元的
無関心
無関心
無関心
無関心
無関心
無関心
前無
無
有
前有
有
a
b
c
d
e
f
g
属度表を作成する(表 )
.
当たり
表 各カテゴリーに対する帰属度表
前有
一元的
当たり
当たり
魅力的
魅力的
当たり
一元的
有
前有
有
e/m
f/m
g/m
無関心
前有
別に
無
前無
無
a/m
b/m
c/m
d/m
(ただし,m = max{ a, b, c, d, e, f, g } )
それで
魅力的
も構わ
無
無関心
無関心
無関心
当たり
前有
帰属度から,ファジィ推論を実行する.
ない
困る
魅力的
表 の度数表から各カテゴリーに対する帰
わない
それは
魅力的
無
い
当然
当たり
無関心
も構わ
だろう
不充足
それは
とも思
うれし
ファジィルールを表 のように定め,その
一元的
無
当たり
当たり
当たり
前無 前無
前無
懐疑的
メンバーシップ関数は図 のように定める.
表 ファジィルール
表における記号の意味は以下の通りである
入力
魅力的有 :あると魅力的な要素
一元的(無)
当たり前有:あって当然の要素
当たり前(無)
一元的有 :あればあるほど満足度があがる
ような要素
魅力的(無)
無関心
無関心 :無関心であってもなくても気
にならない程度の要素
魅力的(有)
当たり前(有)
魅力的無 :無いと魅力的な要素
一元的(有)
― 82 ―
結論
積極的に取り入れない*
できるだけ取り入れない)
余裕があれば取り入れない(
どちらでもよい'
余裕があれば取り入れる&
できるだけ取り入れる%
積極的に取り入れる$
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
この結果から,学生の授業に対するニーズの中
で「質問タイム(担当教員が授業中に質問に答え
る時間・環境を作る)」が一番高く,次に「補足
プリント(授業内容を補足するプリントを担当教
員が作成し,配布する)」,
「学習支援センター(主
に基礎学力が不足した学生をフォローする専属
1


2
3
1
3
O
1
3
1
2
3
の部署である学習支援センターで質問相談でき
図 ファジィ推論における結論の
る)」であることが分かった.このことから,学
メンバーシップ関数
生が大学数学講義に対し求める付加的なものは,
授業時間内外を問わず, 担当教員や学習支援ス
加算法により結論の合成を求め重心法
タッフによる質問対応やフォローが一番である
により非ファジィ化を行ないこれを結論
ことが分かった.
とする
4.適用事例2
3.適用事例1
適用事例1より,狩野モデルを学生のニーズ分
年後期に,筆頭著者が担当する工学院大学
析に応用し,手法としての有効性が十分に確認で
での数学講義 つ
「複素関数論」
「
,線形代数学 ,,」
,
きた.ただ,アンケート回答選択肢の「別にそれ
「微分積分 ,」
,
「数学 ,,」を受講した学生 名
でも構わない」の解釈が難しく,回答者が混乱す
に対し,以下の 要素においてそれぞれ充足質問
る様子が見られた.第二著者と検討し,この文言
と不充足質問をした.
は「仕方ない」に修正することにした.また,こ
提出必須の宿題
の五者択一ではあらかじめこちらで用意した つ
コメントへのフィードバック
の中から つを選ばないといけないが,
例えば「そ
補足プリント
れは困るけど,仕方ないところもある」といった
雑談
具合に,五者択一では回答できない気持ちも回答
質問タイム
に反映できるよう,図 のように「とてもうれし
学習支援センター
い」から「それは困る」までを一直線で表して,
その等分間隔に「当然だろう」「特に何とも思わ
このアンケート結果に対し,各設問に対する
ない」「仕方ない」を配置し,回答者の思う気持
帰属度表を作成し,それにファジィ推論を適用し
ちのところに縦線を引いてもらうような回答方
て分析した結果を以下に示す(表 )
.結論の数値
法とした.このように,回答者の気持ちを一直線
は, に近いほどあった方が良く,に近いほど
上で表せるのかという問題もあるが,まずは以上
無い方が良いことを表す.
の点を改善して, 年度前期に筆頭著者が担当
する つの数学講義において, 回目の実施をし
表 適用事例1の分析結果
た.
質問タイム
補足プリント
学習支援センター
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雑談
図 回目のアンケート回答用紙一部
提出必須の宿題
― 83 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
受講生 名に対し,前回と同じ 要素におい
てそれぞれ充足質問と不充足質問をした.このア
ンケート結果に対し,前回と同様に各設問に対す
る帰属度表を作成し,それにファジィ推論を適用
して分析した結果を授業改善優先順に以下に示
図 回目のアンケート回答用紙一部
す(表 )
.
この結果について,従来は表 のような ×
表 適用事例2の分析結果
の分類マトリックスで集計を行なうのだが,今回
質問タイム
の 回目のアンケートではこれを簡素化した表 補足プリント
のような × マトリックスの場合も検討し, 学習支援センター
× の場合との違いも考察した.
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雑談
提出必須の宿題
表 × マトリックス
とても
どちら
どちら
どちら
うれし
でもな
でもな
でもな
い
い
い
い
魅力的
魅力的
魅力的
一元的
有
有
有
有
無関心
無関心
無関心
無関心
無関心
無関心
無関心
無関心
無関心
当たり
当たり
当たり
前無 前無
前無
とても
充足\
困る
不充足
前回実施の表 と比較すると,授業改善優先順
位は前回と同じであったが,前回に比べて数値が
とても
低い,つまり要求度合いが前回よりも低いことが
うれし
わかる.これは,前回が五者択一だったことでど
い
ちらかの気持ちを回答する必要があったが,今回
どちら
の改良で詳細な気持ちを反映できるようになっ
でもな
た影響が大きいと考えられる.前回と今回とで受
い
講生も異なり,クラスの雰囲気も異なるので一概
どちら
には言えないが,より学生のニーズを表した結果
でもな
になったと判断でき,少なくとも前回の回答方法
い
よりは「改良」されていると考える.
どちら
でもな
懐疑的
魅力的
無
魅力的
無
魅力的
無
5.適用事例3
当たり
前有
当たり
前有
当たり
前有
い
適用事例2の方式では,回答者の気持ちを一直
とても
一元的
線上で表せるのかという問題もあり,また回収し
困る
無
たアンケートから数値を読み取るのに非常に時
懐疑的
表 × マトリックス
間がかかった.数値の読み取りについては,第二
著者とスキャナによる読み込みなどを検討した
が,別の方法を取る方が得策であると考えた.以
上のことから, 回目のアンケート( 年度前
とても
期実施)では図 のように一直線の両端に「とて
うれしい
も困る」を ,
「とてもうれしい」を として配置
どちらでも
し,中間値の場合は回答する受講生本人に から
とても
どちらでも
とても
うれしい
ない
困る
充足\不充足
懐疑的
魅力的無
とても困る
― 84 ―
無関心
ない
までの実数値を直接書いてもらう方式とした.
魅力的有 一元的有
一元的無
当たり前
無
当たり前
有
懐疑的
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
これを 年前期に筆頭著者が担当した つ
かは,少し疑うところはあろうが,√ や√,ネ
の数学講義と, 月下旬に担当した工学院大学米
イピア数 H を使い分けているところをみると,そ
国シアトル・ハイブリッド留学参加者へのシアト
れほどでたらめな数値を記入したわけでも無い
ルでの数学集中講義クラスの合計 クラスの受講
と考えられる.いずれにしても,このような回答
生のうち,アンケート実施日に出席した 名に
者は全体の 弱に過ぎなく,分析結果にそれほど
対して,前 回と同じ 要素についてアンケート
大きな影響を与えないと考えられる.以上のこと
を取り,同様の手法で分析した.その結果を以下
から, 回目に実施したような授業アンケートを
に示す(表 )
.
用い,× の分類マトリックスによる分析で受講
生のニーズを把握し,授業改善の優先順位を決め
表 適用事例3の分析結果
る手法を提案する.
質問タイム
また,今後の方向性について 点述べる.まず
補足プリント
点目としては,第二著者が現在担当しているフ
学習支援センター
ルオンデマンド科目においても同様の授業アン
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ケートを実施してもらい,筆頭著者の担当してい
雑談
る対面授業との違いを比較したい.
提出必須の宿題
点目としては,すでに第二著者が研究を進め
ているが,W\SH ファジィによるさらなる詳細の
ニーズ分析をすることである.この点については
今回も順位の変動は無かった.つまり, 回と
第二著者,そして研究会等で興味を持たれた方々
も同じ順位であった.また,今回の分類を ×
からのアドバイスを頂きながら検討していきた
マトリックスで行なっても順位は同じだったた
い.
め,今回の方式であれば × マトリックスで十
分であると思われる.
引用及び参考文献
狩野紀昭瀬楽信彦高橋文夫辻新一:魅力的
6.まとめ
品質と当たり前品質日本品質管理学会会
以上の 回の実施により,受講生のニーズを分
報『品質』9RO1R
析する手法については,おおよそその形がまと
工学院大学ハイブリッド留学 85/
まったと考える.特に,五者択一よりもそれらの
KWWSZZZNRJDNXLQDFMSIHDWXUH
中間値を読み取れる方が,より受講生のニーズを
HGXFDWLRQK\EULGLQGH[KWPO
反映できる.また,中間値を読み取る方法につい
5DVKLG07DPDNL-8OODK$006.XER
ては, 回目の実施で非常に時間がかかった経験
A.: “A Kano Model Based Linguistic
から, 回目の実施では回答者に数値を記入して
Application for Customer Needs Analysis”,
もらった.このことにより,読み取りにかかって
,QWHUQDWLRQDO-RXUQDORI(QJLQHHULQJ
いた時間を大幅に短縮することが可能となった.
%XVLQHVV0DQDJHPHQW9RO1R
この数値を記入する項目を設けたことで,一部の
マニアな受講生からは「
( 以上 以下の)無理数
7DNDJL68HVX+$TXHVWLRQQDLUHDQDO\VLV
を記入してもいいか?」という質問もあり,実際
E\IX]]\UHDVRQLQJIRUXQGHUJUDGXDWH
に√ や√,ネイピア数 H などを記入する回答者
VWXGHQWVLQPDWKHPDWLFVOHFWXUHVDSSO\LQJ
も居た.この場合,それらの数値が実際に回答者
WKH.DQRPRGHO3URFHHGLQJVRIWKH-RLQW
の質問に対する素直な回答となっているかどう
WK,QWHUQDWLRQDO&RQIHUHQFHRQ6RIW
― 85 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
&RPSXWLQJDQG,QWHOOLJHQW6\VWHPVDQGWK
$SSOLFDWLRQVDQGWKH)LIWK,QWHUQDWLRQDO
,QWHUQDWLRQDO6\PSRVLXPRQ$GYDQFHG
&RQIHUHQFHRQ1HXUDO3DUDOOHODQG
,QWHOOLJHQW6\VWHPV6&,6,6,6
6FLHQWLILF&RPSXWDWLRQV,&'6$,&136&
WRDSSHDU
7DNDJL68HVX+ $QHHGVDQDO\VLVE\IX]]\
UHDVRQLQJDWXQGHUJUDGXDWHPDWKHPDWLFV
OHFWXUHV3URFHHGLQJVRIWKH6HYHQWK
,QWHUQDWLRQDO&RQIHUHQFHRQ'\QDPLF
6\VWHPVDQG$SSOLFDWLRQVDQGWKH)LIWK
,QWHUQDWLRQDO&RQIHUHQFHRQ1HXUDO
3DUDOOHODQG6FLHQWLILF&RPSXWDWLRQV
,&'6$,&136&WRDSSHDU
高木悟,上江洲弘明:狩野モデルによる大学数学
講義の学生ニーズ分析第 回ソフトサ
イエンスワークショップ講演論文集SDJHV
&'520
高木悟,上江洲弘明:大学での数学講義における
受講生のニーズ分析数学教育学会誌臨時
増刊 年度春季年会発表論文集
高木悟,上江洲弘明:大学での数学講義における
受講生のニーズ分析数学教育学会誌臨
時増刊 年度秋季例会発表論文集
上江洲弘明,高木悟:狩野モデルによる大学数学
講義の学生ニーズ分析第 回ソフトサイ
エンスワークショップ講演論文集
上江洲弘明:狩野モデルを応用したメディア授業
における学生のニーズ分析第 回ソフト
サイエンスワークショップ講演論文集
上江洲弘明:ファジィ分割表を応用したメディア
授業におけるニーズ分析第 回ソフトサ
イエンスワークショップ講演論文集SDJHV
&'520
8HVX+7DNDJL6 7\SHIX]]\FRQWLQJHQF\
WDEOHDQDO\VLVDQGLWVDSSOLFDWLRQ
3URFHHGLQJVRIWKH6HYHQWK,QWHUQDWLRQDO
&RQIHUHQFHRQ'\QDPLF6\VWHPVDQG
― 86 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
リーダー人材の育成に向けた取り組みー高専生の科学教育支援活動を通してー
For the development of global leaders
-Science education support to the local children by KOSEN students山崎
充裕
YAMASAKI, Mitsuhiro
熊本高等専門学校
National Institute of Technology, Kumamoto College
[要約]高専では,小中学生の理科や科学技術に対する興味関心を高めるために,科学教室等を通じ
た地域社会への貢献(科学教育支援活動)に取り組んでいる。また,今日,国境を越えて活躍できる
リーダー人材の育成が求められている。そこで,筆者は,学生が科学教育支援活動の実施主体を担う
ことによるリーダー人材育成の実現を目指し実践してきた。本稿では,筆者の実践の目的と成果につ
いて報告し,今後の課題について述べる。
[キーワード]リーダー人材,科学教育支援活動,地域貢献,ボランティア活動
目指し実践してきた。学生は,本活動の中で,様々
1. はじめに
文部科学省を中心に,「次世代を担う科学技術
な課題に遭遇しそれを解決する過程で,課題探求
関係人材の育成に向け,子どもが科学技術に親し
型や問題解決型学習を経験し,リーダー人材に必
み学ぶことができる環境を充実するとともに,理
要な能力を身に着けることができると考えてい
数に興味関心の高い子どもの能力を伸長するこ
る。
(図 1)これまで,大学等における実践におい
とができる効果的な環境を提供する」ために,学
て,教える経験や実験教室を運営する経験を通し
校,地域,大学・研究機関等が連携した様々な取
て,自身の学習意欲,コミュニケーション能力の
り組みがなされている。高専においても,科学教
向上に繋がった事例が数多く報告されている。
本稿では,筆者が行ってきた 6 年間の実践につ
室等を通じた地域社会への貢献(科学教育支援活
いて報告し,今後の課題について述べる。
動)に使命として取り組まなければならない。
また,今日,国境を越えて活躍できるリーダー
人材の育成が求められている。リーダー人材には,
科学教育支援活動
(1)論理的思考力
(2)課題発見力・解決力
課題探求型学習・問題解決型学習
(3)多様性に対する適応力
(4)確固たる価値観,自己肯定感
リーダー人材の育成
(5)コミュニケーション能力
図 1 科学教育支援活動を通して
が必要であり,こうした能力を身に着けていれば,
リーダー人材を育成する仕組みづくり
先行きが見えない今日において,どんな時代の変
化にも対応できると言われている。これらの能力
2. 本実践の内容
筆者は,まず,年に 1 回,学校施設を利用して
を育成するにあたり,アクティブラーニング等の
能動的学習が有効であるが知られている。
開催する実験イベント,近隣の小学校や公民館治
そこで,筆者は,リーダー人材育成の観点で学
体から依頼を受けて実施する実験教室を,学生の
生を実施主体とした科学教育支援活動の実現を
― 87 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
科学教育支援活動の場に設定し,積極的な参加を
・必要に応じて,自らも体験しておくこと
促した。教員が考案した授業を教員が指導し,学
○当日
生が指導補助をすることから開始し,回数を重ね
・爽やかな対応を心がけること
る毎に,学生が講師役を務める形態を増やした。
・来場者が怪我をすることがないように
次に,本活動への参加経験が多い学生に,実験教
なお,熊本高専では,地域社会における行事に
室の進行や経験の浅い学生スタッフの指導を委
関する活動および科学技術活動 30 時間以上の活
ねた。
動に対して,
「地域社会活動一,二」
(1 単位)を
また,本実践では,学生を「次世代を担う科学
技術関係人材」のロールモデルと捉え,彼らが活
認定している。ただし,本単位は卒業単位に含む
ことはできない。
躍する様子を小中学生や保護者、地域住民に見て
会場設営は科学イベント前日の授業終了後の 3
いただくことにより,地域の科学に対する理解増
時間,会場片づけは科学イベント終了後の 2 時間
進を期待している。このことは,学生の自己肯定
で行っている。
感,自己有用感の育成にも効果があると考えてい
表 1 科学イベントの準備
る。
本実践では,科学イベント,実験教室を以下の
3 月下旬
通り実施している。
教員・技術職員に対するスタッフ
募集
1)科学イベントの開催
4 月上旬
学生に対するスタッフ募集
GW 明け
スタッフの役割分担
用して科学イベントを開催しており,来場者数は
(10 日間)
担当ブース毎の準備
年々増加し,平成 25 年度より 1,000 名規模に至
前日
会場設営
熊本高専では,平成 21 年度から学校施設を利
った。スタッフとして,教員および技術職員が約
30 名,学生が全学生の 3 分の 1 に相当する約 200
2)各団体から依頼を受けた実験教室の開催
名参加し,約 30 種類の実験・工作を出展してい
熊本高専では,近隣の小学校や公民館,自治体
る。5 月第 3 土曜日の開催に向けて,表 1 の日程
から依頼を受け年間 20 件~30 件の実験教室を開
で準備を進めている。教員への負担は最小に,学
催している。対象は,小学生が主である。各団体
生への教育効果は最大になることを目指してい
からの依頼を受けて,筆者がリーダーと務める学
る。本イベントを通して,学生に科学教育支援活
生と共に依頼主との事前打ち合わせを行い,授業
動を経験させ,その魅力を知る機会にすることを
内容を決定する。全学生にスタッフ募集を行い,
目的としている。担当教員は,学生に役割分担し
10~20 名の学生が参加している。講師役は学生
責任感を養うこと,学生を労働力と捉えないこと
が務める。当日までに,材料や機材の準備を行い,
に留意している。
必要に応じて,学生同士で指導内容や指導方法の
学生に対するスタッフ募集は,E メールで全学
生に一斉送信し周知している。科学イベントの 10
確認を行っている。教員の役割は,指導補助およ
び機材の運搬(公用車の運転)としている。
日前にスタッフに役割分担している。このとき,
実験教室を重ねる中で,学生同士で,経験者が
以下の点について説明している。
初心者に指導のノウハウを伝承するように留意
○経験者の学生を中心に,科学イベント当日まで
している。(図 2)
に担当ブース毎に準備・打ち合わせをすること。
・材料や機材の確認
・作り方や原理の確認
― 88 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
2) 学生の科学教育支援活動への参加状況(平成
26 年度)
平成 26 年度の実績では,全学生の 35%が本活
動に参加している。(図 4)その 44%の学生が複
数回の活動に参加している。(図 5)男女比では,
指導経験豊富な学生
女子学生が 22%となっており,全学生数に占める
1 年生
女子学生の割合 17%に比べ若干多い。(図 6)ま
図 2 グラスを音で割る共鳴(共振)実験
た,低学年の学生が本活動の中心を担っている。
(図 7)
3)郡部地域における実験講座の開催
熊本高専では,長期休暇を利用して,都市部に
5 年生については,在学中に 1 回以上本活動に
比べて科学技術に触れる機会の少ないと思われ
参加した学生は,全学生の 63%(114 名中 72 名)
る郡部地域の小中学生を対象とする実験教室を
であった。そのうち 32%の学生は 6 回以上参加し
開催している。平成 22 年度から平成 25 年度まで
ている。(図 8)
は熊本高専の主催事業として,教員が中心となり
企画・実施してきた。平成 26 年度からは,学生
が主体となり学生ボランティアを組織し,電子情
35%
報通信学会九州支部との共同企画として開催し
ている。
65%
3. 本実践の成果と今後の課題
1) リーダー人材に求められる能力の伸長
参加(221名)
不参加(414名)
本実践において,科学教育支援活動に参加し,
学生同士で指導内容や指導方法の改善を試みる
図 4 科学教育支援活動への参加状況
中で,PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを
意識して取り組むようになった。
(図 3)また,積
極的に実験教室の企画,運営に携わる学生が現れ
たことを契機に,学生ボランティアを組織するこ
とができた。
23%
Plan
・子ども目線
Act
・授業進行
・時間配分
Do
Check
56%
・授業構成
・授業実践
・実験手順
図3
3% 3%
4%
8%
1回(124名)
2回(51名)
3回(19名)
4回(8名)
5回(6名)
6回(6名)
7回(2名)
8回(2名)
9回(1名)
10回以上(2名)
図 5 科学教育支援活動への参加回数
Plan-Do-Check-Act (PDCA) サイクル
― 89 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 2(2015)
22%
78%
男子学生(172名)
女子学生(49名)
図 6 男女比
PRUDENTIAL SPIRIT
4th Asian Conference
OF COMMUNITY
on Engineering
ボランティア・スピリッ
Education
トアワード「九州ブロッ
(工学教育に関するア
ク・コミュニティ賞」
ジア地域国際会議
2014)
図 9 学生自身による成果発表
6%
5%
35%
24%
4) 今後の課題
筆者は,参加者が科学に対する興味や関心を抱
30%
く契機を提供することが科学教育支援活動の醍
1年(77名) 2年(66名)
醐味と考えている。さらに,その興味や関心を持
3年(52名)
続させることが重要である。そのためには,科学
4年(12名) 5年(14名)
現象を見せて「面白かった」のみで終わらせない
ことが必要であり,探求型活動を伴う実験教室へ
図 7 学年別
の転換が求められる。
9%
7%4%
12%
68%
1~5回(47名)
6~10回(8名)
11~15回(6名) 16~20回(8名)
21回以上(3名)
図 8
熊本高専在学中の科学教育支援活動への
参加状況
図 10 新聞記事
3) 学生自身による成果発表
本活動で学生成果については,国際会議におい
て口頭発表を行った。(図 9)
― 90 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 科教研報 Vol. 30 No. 2
発 行 2015 年 11 月 14 日
発行人 一般社団法人 日本科学教育学会 会長 中山 迅
発行所 〒 602-8048
京都市上京区下立売通小川東入ル 中西印刷株式会社
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