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診療トッピクス 肝硬変の話 : 消化器科医長

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診療トッピクス 肝硬変の話 : 消化器科医長
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診療トピックス⑱
診療トピックス ○
― 肝硬変のはなし―
肝硬変と聞くと皆さんは黄疸や腹水、むくみがあって余命
また必要に応じて造影CT検査も施行されます。さらに肝癌は
いくばくもないと思われる方も多いかもしれません。しかし
再発、多発が多いので各種治療法を組み合わせる集学的治療
このような症状はかなり進行した肝硬変の症状で、
「代償期」
が主流となっており、肝機能が保たれているほど治療法の選
とよばれる初期の肝硬変ではほとんど症状はなく、10年、20
択肢も多いし回数も多くできる、つまりより十分な治療が行
年と生存される方もまれではありません。そして今日では研
えるということになります。この点からも次に述べる肝機能
究が進み、進行した肝硬変に対しては移植医療が確立しつつ
の維持が長命に重要であるということが言えます。
あるほか、
「代償期」を長期にわたり維持し長期生存を可能と
肝硬変患者において代償期の維持、非代償期からの早期回
する方法もわかってきました。ポイントは合併症の早期発見、
復のためには栄養管理と適度な運動が重要であることが近年
治療と栄養療法を中心とした療養生活です。
の研究でわかってきました。肝硬変患者では体の重要なエネ
肝硬変(Cirrhosis)とはギリシャ語の黄色で硬いという語
ルギー源であるブドウ糖を肝臓に貯めておく機能が低下します。
に由来しています。医学上は肝炎ウイルスやアルコールなど種々
このため特に長時間物を食べない状態となる早朝時に高度の
の原因による慢性肝障害により、肝細胞の破壊と再生および
飢餓状態になるといわれており、これは健常人が 3 日間絶食
結合組織の増生がおこり、正常な小葉構造が消失し、偽小葉
したのと同じ栄養状態といわれています。これが続くと蛋白、
が形成された状態と定義されており、肝臓は小さく硬くなっ
エネルギー低栄養状態(PEM)とよばれる状態に陥り、低蛋
てきます。成因としてはB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス
白血症から筋肉の低下、免疫力の低下などを来たしていきます。
やアルコールがよく知られており頻度も多いのですが、代謝
またアミノ酸代謝で発生するアンモニアは、肝臓での処理が
障害や循環障害、免疫異常によるケースもあります。なお肝
低下するので筋肉で分岐鎖アミノ酸(BCAA)とよばれるア
炎ウイルスのうち A 型と E 型では肝硬変になることはありま
ミノ酸を利用して代償しますが、BCAA が消費されて減少し
せん。
筋肉も落ちてくると処理しきれなくなり、血中にアンモニア
肝硬変の患者さんは、初期の代償期では普通に日常生活を
が溜まって肝性脳症を起こしてきます。したがって以下のよ
おくることができますが、その後進行して非代償期になると種々
うな栄養、運動療法が行われています。
の症状があらわれ入院が必要となるケースも多くなります。
①就寝前に250K程度の糖質を多く含んだ夜食をとる。
(た
とえばおにぎり2個など)
しかし治療により代償期に戻ることも可能です。肝硬変の主
②糖、アミノ酸の代謝機能が落ちているので、カロリー、蛋白
要症状は ①肝細胞の機能不全による肝不全、②腹部の血行
異常(門脈圧亢進)による食道、胃静脈瘤、③肝癌の発症とい
質摂取量を制限する。
う3点に要約できます。肝不全では黄疸、腹水、浮腫のほか肝
標準体重1K
あたりの1日総摂取カロリーは30−35Kと
性脳症による意識障害や発熱、皮膚が黒くなるといった症状
する。
もでてくることがあります。
標準体重1K
あたりの1日蛋白質摂取量は1.0−1.2
とする。
③アンモニア代謝の材料となる分岐鎖アミノ酸(BCAA)を補
肝硬変における治療、療養のポイントは以下のようにまと
給する。
めることができます。
①代償期をできるだけ長く維持する。→栄養療法、適度な
リーバクト、ヘパンED、アミノレバンENなど
運動、アルコール禁。
アルブミン合成を促進させる作用もあり、これが免疫機能
②非代償期から代償期への早期改善。→分岐鎖アミノ酸製剤、
の強化にもつながります。
④腸内細菌によるアンモニア産生を抑制するためにラクツロー
利尿剤、ラクツロースなど
③食道、胃静脈瘤、肝癌の早期発見、早期治療→定期的な
スを服用する。
腹部超音波、内視鏡検査
モニラック、ラグノスゼリーなど
⑤アンモニア代謝の場である筋肉を運動で鍛えて増加させる。
食道、胃静脈瘤については内視鏡を使った治療(内視鏡的
静脈瘤硬化療法や結紮療法)が広く普及しており成績も良好
1日30分程度、軽く汗をかく程度の歩行運動を毎日行う。
(か
ですが、破裂、出血をおこすと出血死だけでなく肝不全が急
ならず何か食べた後)
に悪化して死亡することもあり、定期的な内視鏡による食道、
肝硬変の患者さんの中には、薬の種類は多いし、しょっちゅ
胃の観察が重要です。内視鏡検査を面倒がらずに主治医から
う検査をされるというご不満をもたれている方もいらっしゃ
勧められたらぜひ受けるようにしてください。
また肝癌も頻度の高い合併症で 1 年に7%の割合で発症し
るかと思いますが、個々のくすりには1つ1つこれまで述べ
てきます。早期に小さいうちに発見されれば、手術のほかラ
たような意味がありますし、定期的な検査は合併症の発見に
ジオ波焼灼療法やエタノール注入療法、肝動脈塞栓療法など
ぜひ必要なものです。面倒と思わず主治医の指示どおりに服
いろいろな治療法が開発され一般化しています。このために
薬し検査を受けていただくようお願いいたします。
(消化器科医長 金田 暁)
も3-6ヶ月ごとの超音波検査はぜひ受けるようにしてください。
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