...

848KB - JICA

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

848KB - JICA
〈ブラジル、ロシア、インド向け直接投資と投資環境〉
変貌するブラジル向け外国直接投資
リオデジャネイロ駐在員事務所 首席駐在員
リサーチャー
相川 武利
山村 洋
ンダメンタルズの改善がある。以下マクロ経済指
第1章 回復基調のブラジル向け
外国直接投資
標に関し、国内部門、対外部門別に見てみる。
(1)国内部門
1.比較的安定した投資環境(改善する
経済のファンダメンタルズ)
①1996年∼2003年までのブラジルの年間平均実質
経済成長率1.87%に対し、2004年には4.9%を実現
し、今後数年に亘って3%以上の経済成長が見込
*1
世界の外国直接投資(以下「FDI」
) は、2000
まれている。過去のハイパーインフレ時代に蔓延
年の1兆4000億ドルをピークに、主に先進国向け
したインフレインデックス体質が、執拗なまでの
のフローが急減したため、2003年には5,800億ドル
インフレターゲット政策を通じて、また自由化に
まで減少、2004年になって5.5%増の6,120億ドル
よる物資や資金の流入を通じて、あるいはITに
まで4年振りに回復した。途上国向けFDIは、
よる経済システム効率化を通じて、次第に解消し
2000年2,460億ドルをピークに2002年には1,950億ド
つつある。今年から来年にかけてのインフレ率は
ルまで漸減したものの、2003年には増加に転じ、
5%∼6%になると予測されている。もともと豊
2004年には前年比47%増で2,550億ドルまで増加し
富な天然資源が賦存し、部品をはじめ工業化が進
ている。ブラジル向けFDIの途上国向けFDI全体
んでいるブラジルにおいて、変動相場制を維持し
に占めるシェアは2000∼2002年の平均値で11.5%
つつインフレが収束したことは、持続可能な経済
を占めていたが、2003年には5.8%まで後退した
成長にとってプラス効果が大きい。ちなみに、政
後、2004年には流入額は2003年の101億ドルに対
府は最終的なインフレターゲットとして3∼4%
し80.2%増の182億ドルとなり、同シェア7.1%ま
を目指している。
で回復している。
②1998年のIMFからのSRF(Supplemental
2005年以降今後も堅調なペースでブラジル向け
Reserve Facility)資金借入条件としてプライマ
FDI増加が見込まれる背景には、前政権から継続
リーサープラス目標が設定され、カルド−ゾ政権
的に行われたマクロ経済運営や世界的な一次産品
以来、緊縮的な財政政策を継続した結果、1999年
高騰による対外部門の強化を通じた、経済のファ
∼2002年まではGDPの3%強、2003年∼2004年は
図表1 国内部門マクロ経済指標推移
96年
97年
GDP(10億ドル)
775
808
GDP実質成長率(%)
2.66
3.27
インフレ消費者物価指数(%)
15.76
6.93
インフレ総合物価指数(%)
12.13
8.02
年末純公的債務GDP比率(%)
33.29 34.29
利払い前財政収支GDP比率(%)
−0.09 −0.94
最終財政収支GDP比率(%)
−5.88 −6.07
指標金利年度末(年率%)
―
38.00
注)ブラジル中央銀行の推計値(05年6月末時点)。
出所)ブラジル中央銀行。
*1
98年
99年
00年
787
535
600
0.13
0.79
4.36
3.20
4.86
7.04
4.36
10.73 14.25
41.71 48.70 48.80
0.01
3.07
3.47
−7.93 −10.49 −4.43
29.00 19.00 15.75
01年
02年
03年
510
460
507
1.31
1.93
0.54
6.84
8.45
9.3
10.17 12.95
8.71
52.61 55.52 57.20
3.64
3.96
4.40
−5.22 −10.24 −3.64
19.00 25.00 16.50
04年
605
4.9
7.60
12.41
51.17
4.60
−2.47
17.75
05年
(注)
630
3.4
5.1
50.00
4.25
2005年1月11日付News Release「UNCTAD World FDI Inflow」
。
2005年5月 第26号
71
4%強のプライマリーサープラスを達成してい
133億ドルの黒字、2003年には倍増の248億ドルの
る。純公的債務の対GDP比率も2003年の57.2%を
黒字となった。2004年にはレアル高に転じ、また
ピークに改善しており、今年から来年にかけて
農牧産品の国際価格の値崩れにもかかわらず、中
50%の水準を切ると見込まれている。
国の輸入増大の恩恵から337億ドルの新記録に達
③プライマリーバランスの改善を受けて、これか
した。今年に入ってのレアル高基調にもかかわら
らは財政収支最終均衡を目指すべきとの議論が最
ず(1∼6月で12.9%上昇)
、360億ドル前後の貿
近、国会を中心に提起されるまでになったが、こ
易黒字となる見込みである(中銀は300億ドルと
れは財政不執行のいわばレッセフェール状況下で
推計)
。堅調な輸出の背景には、中国をはじめと
の昨今の経済成長を奇貨として、本来必要な硬直
する一次産品需要に牽引 されたことに加え、工
的財政支出の見直しを棚上げにしてしまう危険が
業製品の輸出指向の商品開発が進んだこと、政府
ある。民間就労者の年金に対する国庫負担額が
の輸出振興策(大統領外遊時のビジネスミッショ
*3
*2
*4
2004年にGDPの約2%に達しており 、年金改革
ン、APEX の強化など)もあり、経営者に輸出
がなされない限り負担金が年々増加すること、ま
マインドが広がったことが指摘できる。また、貿
た国債の実質利回りが13%を超え利払負担が大き
易構造の大きな変化として原油の自給化達成のイ
くのしかかっている現実問題を直視していない。
ンパクトは特に昨今の原油高騰への耐性要素とし
いずれも早急に解決する問題ではないが、高金利、
て注目される。経常収支は累増する貿易黒字によ
年金問題に対する政府、世論の問題意識も高まっ
り、90億ドルにも及ぶ記録的な配当送金にもかか
ており、解決のためには財政の中身の効率化を図
わらず(詳細は次項2.参照)
、2005年は、3年
るしかないという常識的な解決が期待される。
連続で黒字になると見込まれる。この結果、外的
要因による外貨変動に対する耐性は2∼3年前に
(2) 対外部門
比べ一段と増している。民間企業は、ドル安の機
①恒常的赤字構造であったブラジルの貿易収支
会に対外債務を半減させており、同時に輸出が伸
は、レアル安と大豆・穀類をはじめとする世界的
びている結果、対外要因変動に対する脆弱性の指
なコモデティーの価格高騰が相俟って、2002年に
標である「対外債務の輸出比率」も大幅に改善し
図表2 対外部門のマクロ経済指標推移
96年
97年
輸出額
47.7
53.0
輸入額
53.3
61.4
貿易収支額
−5.6
−8.4
経常収支額
−23.5 −30.8
経常収支GDP比(%)
−3.0
−3.8
輸出GDP比(%)
6.2
6.5
対外債務(公+民)グロス
179.9 200.0
対外債務/年間輸出額(倍数)
3.8
3.8
Debt Service Ratio
47.4
61.5
外貨準備
60.1
52.1
外準/輸入額(カ月分)
13.5
10.2
年度末為替レート
1.04
1.12
FDI ネット流入額
10.8
22.2
注1)ブラジル中央銀行の推計値(05年6月末時点)。
注2)金額の単位:10億ドル。
出所)ブラジル中央銀行。
*2
98年
99年
00年
01年
02年
03年
04年
51.1
57.6
−6.5
−33.4
−4.2
6.5
223.8
4.4
78.7
44.5
9.27
1.21
24.0
48.0
49.3
−1.3
−25.4
−4.8
9.1
225.9
4.7
126.5
36.3
8.8
1.79
31.3
55.1
55.8
−0.7
−24.7
−4.2
9.4
216.9
3.9
88.6
33.0
7.1
1.96
33.1
58.2
55.6
2.6
−23.2
−4.6
11.1
209.9
3.6
84.9
35.9
7.7
2.32
22.6
60.5
47.2
13.3
−7.7
−1.7
13.0
210.7
3.5
82.7
37.8
9.6
3.63
16.6
73.1
48.3
24.8
4.1
0.8
14.4
214.9
3.0
72.5
49.3
12.2
2.89
10.1
96.5
62.8
33.7
11.7
1.9
15.8
201.3
2.1
53.8
52.9
10.1
2.65
18.2
05年
(注)
108.0
78.0
30.0
4.6
0.7
17.1
201.9
1.9
49.8
62.0
8.9
16.0
2004年の実績は民間から徴収する保険料(拠出金)5.4%(対GDP比)に対し、国庫の支給額は7.3%。国庫の負担額は実額で320億
レアル、GDPの1.9%に相当する。
*3
中国向け輸出は、2003年の前年度比80%の増加に引き続き2004年でも20.0%の増加を示し、金額シェアでは、米国、アルゼンチン、
オランダに次ぎ第4番目で全体の5.6%のシェアを占めるに至っている。
*4
72
Brazilian Export Promotion Agency。
開発金融研究所報
てきている。
14.8%の高レベルを計上している(ちなみに、
②外貨準備については、本年3月にIMFプログラ
2003年の大手5銀行の加重平均資本利益率は
ムを終了し、7月にはSRF分51億ドルを全額プリ
21.4%)。自己資本を多めに維持し高い金融コス
ペイしたが、年末の外貨準備高は566億ドルを維
トの銀行借入を抑え、資本利益率を確保している
持する中銀見通しである。クレジットトランシュ
ことは注目される。2004年の実質経済成長率は前
(現残高158億ドル)にかかる最終償還にあたる
年比4.9%であり、一段と高い利益率であると推
2007年末以降には外貨準備高は漸増していくもの
測される。
と予測される。
(2)利益の対外送金
2.増加する企業収益
従来、ブラジルの国際収支の対外送金項目のう
ちローン、ボンドの利息送金額が大きく、利益送
(1)資本利益率と銀行借入率
金は余り目立たなかったが、図表4の通り直接投
金融機関を除く企業の資本利益率と銀行借入率
資累積残高も増え(2004年末推定値1,662億ドル)
、
に関して、経済紙Valor Economicoの特集(2004
対外利益送金が大きく増加している。2005年の利
年7月)から抜粋した2003年売上上位1,000社の平
益送金は90億ドルを超えるとされる(中銀推計
均値で見てみる。1,000社の売上総額は9,357億レ
値)
。
アルで2003年のGDPの60%に相当する。2003年の
以下、各年末のFDI残高に対する年間利益送金
実質経済成長率は0.54%と最低の水準であったに
額から利益送金率を試算してみたところ、2001年
もかかわらず、1,000社の加重平均資本利益率は
∼04年の単純年平均で4%の水準となった。他方、
図表3 2003年1000社の主要業種別資本利益率と銀行借入率
主要業種
資本利益率
銀行借入率
主要業種
砂糖・アルコール
15.5
49.3
石油・冶金
アグロビジネス
23.2
50.8
鉱業
食品
20.3
47.5
製紙・パルプ
飲料
29.2
54.5
化学・石化
貿易業
54.5
70.5
製鉄
電気・電子
−3.9
22.3
通信
発電・配電
7.2
53.5
繊維・皮革
建設
21.8
52.6
自動車・パーツ
機械
8.7
22.3
全業種合計平均
出所)Valor Economico紙特集「1000社のバランスシート」2004年7月版より抜粋。
(単位:%)
資本利益率
23.6
34.2
26.9
29.7
23.0
0.8
7.5
4.5
14.8
図表4 海外直接投資ストックに対する利益送金推移
ストック・流入
内数(流出額)
累計残高
95年
ストック
41,696
00年
ストック
103,014
41,696
103,014
01年
ネット流入
18,781
(2,261)
121,795
銀行借入率
49.3
32.9
34.2
28.0
56.34
43.4
47.7
32.7
43.8
(単位:百万ドル)
02年
ネット流入
16,926
(1,828)
138,721
03年
ネット流入
9,144
(3,758)
147,865
04年
ネット流入
18,305
(1,960)
166,170
04年末
残高
166,170
(9,807)
利益送金額
2,590
3,316
4,961
5,162
5,640
7,338
利益送金/残高
6.21%
3.22%
4.07%
3.72%
3.81%
4.42%
(参考資料)
利息送金額
17,621
15,275
13,020
13,364
注)現物出資による投資、並びに親子ローンは除外*5。
出所)95年、00年はブラジル中銀公表資料。01年以降のストック(累計残高)は中銀資料のネット流入額を加算し、国際協力銀行
リオデジャネイロ駐在員事務所にて作成。
*5
中銀が一般に発表するネット流入額には現物出資、親子ローンが含まれている。親子ローンの利息送金は利潤送金ではなくローン
の利息送金として計上されるため除外したもの。ちなみに、一般に公表されているFDIネット流入は、01年226億ドル、02年166億
ドル、03年101億ドル182億ドルである。2002年度と04年度の親子ローンは新規借入額よりも返済額の方が大きい。
2005年5月 第26号
73
図表4に示したように2003年のブラジルの企業
図表6 業種別直接投資のストックとグロスフロー
(金融機関を除く)の資本利益率は国際的な平均
より高い14.8%であり、利益送金率との差額は再
投資に回っているものと推測される。
第2章 変貌するブラジル向け外
国直接投資
1.部門別構成比の推移
図表5及び6の通り、1996年∼2000年(期間平
均)の対ブラジル直接投資の部門別シェアでは、
サービス業が約80%を占め、製造業は18%程度に
留まっていた。これは、2000年まで活発に行なわ
れた民営化投資の多くが、通信、金融、配電、輸
送、港湾などのサービス業に集中していたことに
よる。
その後、2001年∼2004年になると、サービス業
の期間平均シェアは53%まで下がり、製造業が対
照的に40%まで伸びた。2004年単年ではサービス
業(41%)と製造業(43%)の構成比が逆転して
いる。製造業への投資増は、ブームとなった農牧
業の機械化によるトラクター、トラックなどの増
産に加え、自動車や家電など耐久消費財が国内販
1.農牧・鉱業
原油採掘・精油
鉄鉱石・他採掘
その他
2.製造業
食品・飲料
化学製品
ガラス・セメント他
事務用品・情報関連機器
家電・電気部品
紙・パルプ
冶金・製鉄
機械・器具
電子部品・通信機器
自動車・同部品
その他
3.サービス業
配電・市ガス
卸し・小売
自由業
保険・年金
情報関連・ソフト
輸送
郵便・通信
金融
その他
合計(1+2+3)
ストック
グロスフロー
1995年 2000年 96-00 01-04
年
末
末
年
(%) (%) 平均(%)平均(%)
2.2
2.3
1.8
6.8
0.2
1.0
0.7
3.4
1.4
0.6
0.7
2.5
0.6
0.7
0.4
0.9
66.9
33.7
18.0
40.3
6.8
4.5
2.6
10.6
12.8
5.9
3.0
7.4
2.1
1.1
1.1
0.7
1.1
0.3
0.6
0.2
2.6
1.0
0.7
1.7
3.9
1.5
0.1
1.2
7.2
2.4
0.4
2.4
5.6
3.2
1.3
1.8
1.9
2.31
1.5
3.1
11.6
6.2
3.9
7.1
11.3
5.5
2.8
4.1
30.9
64.0
80.2
52.9
0.0
6.9
14.9
6.7
6.9
9.9
9.9
7.2
11.9
10.7
20.3
4.6
0.4
0.5
0.7
1.4
0.3
2.5
1.3
1.6
0.0
0.2
0.6
1.1
1.0
18.2
18.1
19.6
3.9
10.4
13.6
5.8
6.0
4.4
0.7
4.9
100.0
100.0
100.0
100.0
海外直接投資額(100万ドル) 41,696 103,014 25,760 16,875
出所)ブラジル中銀の資料に基づきECLACが作成。
売および輸出ともに大きく伸長し、主に増産のた
めの新規設備投資への外国直接投資が促進された
豆等農産品に対する旺盛な外需とブラジルの貿易
ことによるものであり、この傾向は今年になって
振興策が合致したこと、②1999年1月に起こった
一層強まっている(図表8参照)
。
*6
大幅なレアルの切り下げ の影響が徐々に現わ
他方、同期間(2001年∼2004年)にそれまでゼ
れ、2003年には年間平均為替レートがピーク(1
ロに近かった農牧業が7%のシェアまで急成長を
ドル3.07レアル)に達し、輸出にドライブがかか
示している。2003年単年では農牧業の投資シェア
ったことなどにより、農牧業が魅力的な投資対象
ーは12%に及んでいる。これは、①ブラジルの大
となったためと思われる。もっとも翌2004年には
図表5 直接投資の部門別構成比推移(1996年∼2004年)
(単位:%)
96年
97年
98年
99年
00年
01年
02年
03年
04年
農牧業
1
3
0
1
2
6
3
12
6
製造業
23
14
13
27
17
35
41
35
43
サービス業
76
83
87
73
81
59
56
53
41
合計
100
100
100
100
100
100
100
100
100
(流入額)
15.5
22.2
24.0
31.3
33.1
22.6
16.6
10.1
18.2
注)流入額:ネット流入額。単位:10億ドル。
出所)ブラジル中銀の資料に基づきECLACが作成。流入額については、中銀資料に基づき国際協力銀行リオデジャネイロ駐在員事
務所にて作成。
*6
74
それまでの一定バンド内での固定レートから、変動相場(Floating Rate)に移行した。
開発金融研究所報
フランス、スイス、日本、英国のうち、米国とフ
図表7 国別構成比の推移(ストックとグロスフロー)
米国
EU 7カ国
ドイツ
スペイン
フランス
イタリア
オランダ
ポルトガル
英国
スイス
日本
タックスヘブン国
小計
その他
合計
ランスのみがシェアを維持する一方、ドイツ、ス
ストック
グロスフロー
1995年 2000年 96-00 01-04
年
末
末
年
(%) (%) 平均(%)平均(%)
26.0
23.8
24.4
18.4
31.0
42.5
46.1
45.3
14.0
5.0
1.8
4.0
0.6
11.9
17.2
6.7
4.9
6.7
8.4
6.9
3.0
2.4
1.3
2.2
3.7
10.7
9.2
19.0
0.3
4.4
6.4
4.5
4.5
1.4
1.8
2.0
6.8
2.2
1.1
1.8
6.4
2.4
1.6
4.6
13.1
17.9
19.4
23.0
83.1
88.8
92.5
93.1
16.9
11.2
7.5
6.9
100.0
100.0
100.0
イス、日本、英国は後退し、代わりにスペイン、
ポルトガル、オランダが台頭している。これら新
興3カ国の1996年∼2004年の平均投資シェアは全
体の22.7%を占めており、米国の20.2%を超える
勢いである。また、いわゆるタックスヘブンから
の投資シェアも約20%に達している。スペイン,
ポルトガルのサービス企業が、ユーロの低金利調
達を活用して南米に新規事業の活路を求め、民営
化対象公営企業(通信、配電、金融、都市ガスな
ど)向けに多額の資本投資を実施してきた。もっ
とも、最近では、製造業に強いドイツの官民一体
*7
となった積極投資の動きや 電気電子産業の韓
国、鉄鋼・アルミナなどの中国の動きが注目され
100.0
海外直接投資額(100万ドル) 年度末残高 年度末残高 (年間平均)(年間平均)
41,696 103,014 25,760 16,875
出所)ブラジル中銀の資料に基づきECLACが作成。
る。
3.2005年1∼5月の主要業種別、国
別推移
ドル安、農産物の価格下落などの影響で農牧業の
シェアは収縮している。
なお、農牧・鉱業、製造業、サービス業の3部
(1)
主要業種別推移
今年に入ってからも昨年来の製造業投資の増加
門をさらに主要業種別に見てみると図表6のとお
傾向が続いており、1−5月累計ベースで、製造
りである。
業が全体の50.8%を占め、サービス業は45.2%と
2.投資国別構成比の推移
ブラジル向け直接投資を投資国別に見ると、図
なっている(図表8)
。
(2)主要国別(グロスベース)FDI推移
表7の通り、主要投資国であった米国、ドイツ、
本年1−5月実績でも、米国、オランダ勢が堅
図表8 主要業種別グロスベースFDI推移(2005年1∼5月)
(単位:百万ドル)
1月
2月
3月
4月
5月
60
504
63
117
249
13
232
69
0
30
38
51
263
10
92
20
11
147
32
34
21
36
48
357
101
38
3
5
770
92
298
122
155
55
1,887
1,431
63
17
257
1,140
212
7
629
165
39
164
7
16
5
55
540
87
5
114
23
4.合計(1+2+3)
796
461
1,175
注)現物出資は除外。
出所)ブラジル中銀資料に基づき国際協力銀行リオデジャネイロ駐在員事務所にて作成。
3,082
743
1.農牧・鉱業
2.製造業
(食品・飲料)
(化学)
(ゴム・プラスティック)
(自動車・同部品)
3.サービス業
(小売)
(レジャー・文化)
(郵便・通信)
(外注産業)
*7
1−5月 構成比
累計
(%)
253
4.0
3,175
50.8
1,621
326
294
341
2,829
45.2
492
344
916
417
6,257
100.0
Thyssen KruppとCVRDのスラブ製造J/V(総投資額22億ドル、440万トン)
。
2005年5月 第26号
75
図表9 主要国のFDIネット流入フローと累積残高
米国
(流出額)
オランダ
(流出額)
スペイン
(流出額)
フランス
(流出額)
ケイマン島
(流出額)
ドイツ
(流出額)
ポルトガル
(流出額)
日本
(流出額)
カナダ
(流出額)
以上小計
(流出額小計)
その他
(流出額)
95年
ストック
10,852
00年
ストック
24,500
1,546
11,055
251
12,253
2,031
6,930
892
6,225
5,828
5,110
107
4,512
2,658
2,468
1,818
2,028
25,983
75,081
15,713
27,933
01年
02年
03年
04年
ネット流入 ネット流入 ネット流入 ネット流入
3,902
2,459
1,720
3,495
563
155
663
522
1,852
3,238
1,326
7,405
40
134
118
300
2,742
511
−174
878
25
76
884
176
1,901
1,770
820
477
12
45
5
9
1,698
1,393
962
1,386
57
161
947
96
550
537
339
705
497
91
167
90
1,484
830
177
570
208
189
25
1
433
371
1,139
223
393
133
229
20
441
771
117
551
0
218
0
41
15,003
11,880
6,426
15,690
1,795
1,202
3,038
1,255
3,778
5,046
2,718
2,615
466
626
720
705
04年末
残高
36,076
1,903
24,876
592
16,210
1,161
11,898
71
11,664
1,261
7,241
845
7,573
423
4,634
775
3,908
259
124,080
7,290
42,090
2,517
構成比
(%)
21.7
14.9
9.8
7.2
7.0
4.4
4.6
2.8
2.3
74.7
25.3
合計
41,696
103,014
18,781
16,926
9,144
18,305
166,170
100.0
(流出額合計)
2,261
1,828
3,758
1,960
9,807
注)現物出資と親子ローンは除外。
出所)95年、00年はブラジル中銀公表資料。01年以降のストックは中銀資料のネット流入額を加算し、国際協力銀行リオデジャネ
イロ駐在員事務所にて作成。
国企業が13社と全体の4分の1を占め、フランス
調で、日本は8位に止まっている(図表9及び10)
。
企業8社、ドイツ企業5社、スペイン企業4社に
4.在ブラジル多国籍企業売上上位50社
にみる特徴
続き、イタリア、ポルトガル、英国、オランダの
各企業が3社という構成である。アジア勢では日
本企業と韓国企業が1社ずつに留まっている。ま
在ブラジル多国籍企業売上上位50社のうち、米
図表10
76
た、株式シェアでは、親会社が実質100%の株式
主要国別グロスベースFDI推移(05年1∼5月)
(単位:百万ドル)
1月
2月
3月
4月
5月
1.米国
2.オランダ
3.ベルギー
4.カナダ
5.スペイン
6.フランス
7.ドイツ
8.日本
9.スイス
10.英国
主要国小計(1∼10)
346
32
0
34
29
27
29
9
16
13
535
112
14
0
11
26
4
21
24
34
8
254
513
45
0
105
42
30
73
14
2
20
844
644
1,040
648
236
10
118
50
55
4
8
2,813
72
137
0
53
157
66
18
26
15
9
553
その他
261
207
331
269
190
1,258
20.1
合計
796
461
1,175
注)流出分は含まないグロスベース。現物出資は除外。親子ローンは含まれていない。
出所)ブラジル中銀資料に基づき国際協力銀行リオデジャネイロ駐在員事務所にて作成。
3,082
743
6,257
100.0
開発金融研究所報
1−5月 構成比
累計
(%)
1,687
26.9
1,268
20.3
648
10.4
439
7.0
264
4.2
245
3.9
191
3.1
128
2.1
71
1.1
58
0.9
4,999
79.9
を保有している会社は、43社で全体の86%である
業種別では製造業が39社、サービス業が11社であ
ことは、少数株主の権利が十分保護されないとさ
る(図表11)
。
れるブラジル向け投資形態として注目に値する。
図表11
在ブラジル多国籍企業売上げ(03年)上位50社一覧表
企業名
業種
国籍
主要株主
Telefonica
電話
スペイン
Telefonica SA
Bunge
食品
米国
Bunge
Ambev
飲料
伯・ベルギー
Interbrew
Fiat
自動車
イタリア
Fiat
Volkswagen
自動車
ドイツ
Volkswagen AG
Shell
石油・ガス
蘭国・英国
Royal Dutch Shell
General Motors
自動車
米国
General Motors
Carrefour
小売
フランス
Carrefour
Nestle
食品
スイス
Nestle
Cargil
食品・飼料
米国
Cargil
Embratel
通信
メキシコ
Telmex
Chevron Texaco
石油・ガス
米国
Chevron Texaco
AES Eletropaulo
電力
伯・米国
AES Corp.
Unilever
食品・衛生
蘭国・英国
Unilever NV
Souza Cruz
タバコ
英国
B.A. Tabacco
Light Eletricidade
電力・配電
フランス
EDF
TIM Brasil
通信
イタリア
Telecom Italia
Brasmotor
電気・電子
米国
Kichen Aid
Siemens
通信・電子機器
ドイツ
Siemens AG
Endesa
電力
スペイン
Endesa
Belgo-Mineira
製鉄
ルクセンブルグ
Arcelor
Portugal Telecom
通信
ポルトガル
Portugal Telecom
EDP
電力
ポルトガル
EDP
Saint-Gobain
ガラス・建材
フランス
Saint Gobain
Coimbra/L.Dreyfus 食品・飲料
フランス
Louis Dreyfus
Dow Brasil
石化・化学
米国
Dow Chemical
Sonae
小売・薬品
ポルトガル
Sonae
Bayer
薬品・化学・石化
ドイツ
Bayer
Claro
通信
メキシコ
America Movil
Pirelli
タイヤ
イタリア
Pirelli
Bosch
自動車部品
ドイツ
Bosch
HP Brasil
IT
米国
Hewlett Packard
Kraft Foods
食品
米国
Kraft Foods LA
Alcoa
アルミ・冶金
米国
Alcoa Inc.
Renault
自動車
フランス
Renault
Rhodia
化学・石化
フランス
Rhodia
White Martins
工業ガス・石化
米国
Prxair
Toyota
自動車
日本
Toyota Motor
Acos Villares
製鉄
スペイン
Sidenor Int’
l
Tractebel
電力
仏国・ベルギー
Suez/Tractebel
Wal-Mart
小売
米国
Wal Mart Stores
LG Electronics
電気・電子
韓国
LG Electronics
Alcan
アルミ・冶金
カナダ
Alcan
Kaiser/Molson
飲料
蘭国・カナダ
Molson/Heineken
Mahle
自動車部品
ドイツ
Mahle
Repsol YPF
石油・ガス
スペイン
Repsol YPF
Dana
自動車部品
米国
Dana Corp
Eletrolux
電気・電子
スウェーデン
AB Electrolux
Du pont
化学・石化
米国
EI Du Pont
Doux Frangosul
食品
フランス
Doux
注1)金融部門を除く。
注2)03年度のブラジル国内での売上。換算レートは1ドルR$2.89。
出所)ECLAC ラテンアメリカのFDI年報告書2004年版。
持株シェア(%)
100
100
55.92
100
100
100
100
100
100
100
51.79
100
50
100
75.3
79.8
100
100
100
100
60.6
99.95
100
100
100
100
100
100
97.50
100
100
100
100
100
100
100
100
100
58.4
100
100
100
100
100
100
100
100
99.94
100
100
売上
(百万ドル)
7703
6382
5932
4714
4689
4284
4235
3816
3336
3287
3175
3106
3005
2803
2355
1892
1818
1803
1784
1768
1705
1693
1518
1488
1465
1352
1291
1179
1045
974
964
934
905
837
780
765
731
704
682
676
671
638
618
599
567
555
540
535
518
495
2005年5月 第26号
77
第3章 ブラジル向け投資の魅力
(2)SIEMENS社
2004年は携帯電話ブームが起こり、前年比50%
伸びを示した。今年はさらに20∼30%の伸びが期
1.潜在成長力のある国内市場
待されている。同社のブラジル市場での携帯電話
の販売台数は米国、スペインについで3番目の規
本年4月3日付の日刊O Globo紙
(Miriam Leitao
記者の経済批評コラム)において、多国籍企業に
模であり、今年のみで2億3000万ドルの投資計画
*8
がある 。
対するブラジル向け投資の魅力についてのヒヤリ
ング調査結果を報道したが、その要約を纏めてみ
た。
(3)COCA-COLA社
同社にとってブラジルは米国、メキシコに次ぐ
消費人口の多いブラジルの絶対消費量は大きい
第3位の消費国である。昨年の売上は74億レアル
が、一人当たりの消費量はまだ小さく、今後の経
(約31億ドル)で、一昨年比7%伸びており、そ
済成長見通しの中で、国民の所得水準が上がり、
の伸び率は米国の2倍の勢いである。同社の新規
さらにマージナル層の社会的参入による消費増加
投資はBRICs(中国、インド、ロシア、ブラジル)
も期待され、ブラジル市場は多国籍企業にとって
が中心となる模様。一人当たりの年間消費量はメ
魅力的な市場と一般的に捉えられている。
キシコの487杯、米国の436杯に比べ、ブラジルで
は146杯と少なく、これからまだ伸びる余地のあ
(1)FIAT社
る市場として期待。
同社にとって、ブラジルの国内市場はイタリア
本国に次ぐ大きな市場。FIAT社は全世界で年間
(4)AVON
2,500万台を販売するが、その20%相当の50万台を
化粧品メーカーの当社はブラジルに46年前に進
ブラジル市場で販売している。これはヨーロッパ
出しており、米国、メキシコに次ぐ3番目に重要
を除く販売市場の30%に相当する。今後の新規生
な市場と位置づけている。
産拠点は、ポーランド、トルコ、ブラジルの3カ
国のうちから決定される模様で、ブラジルが選ば
れれば大規模な新規投資が期待される。現時点で
(5)NESTLE
同社製品の売上で、ブラジルは米国に次ぐ2番
は今後3年間で15億レアル(約6億2500万ドル)
目の販売市場を8年前から維持している。同社は
の投資が確定している。同社によれば、ブラジル
ブラジルで400種類の製品を生産・販売しており、
はコンパクトカーでは世界で第4番目の市場であ
製品の種類では世界で最も多い市場である。さら
り、今年も昨年並みの8%の販売増が期待される
に、チョコレートの一人当たりの消費量はアルゼ
など販売上昇率が非常に大きいことが魅力であ
ンチンの年間4キロに比べブラジルでは1キロに
る。ブラジルの自動車販売台数は世界で10番目に
も満たないため、今後も大きく伸びる余地があり、
位置しており(2003年)
、2004年は前年比20万台
魅力的な市場である。
増え、160万台の販売実績を残している。自動車
保有数が5人あたり1台の割合であるメキシコ、
アルゼンチンなどに比べ、ブラジルは8人あたり
1台と低く、今後も増える余地があると見る。
(6)雑誌Euromonitorの資料
同誌の資料によると、ブラジルの衛生・化粧品
市場は、消費量で世界7番目のランキング。同じ
く子供用グッズは4番目、香水は5番目、ヘアー
関連商品は6番目と美容に熱心なブラジル人の国
*8
本年6月7日、Siemensの世界の携帯電話機部門を台湾のBenQグループに売却することが発表された(今年10月1日実行)。ブラ
ジルSiemensの場合、携帯電話機部門は年間売上の約3分の1を占める。携帯電話機部門の売却を機に、固定電話機部門で高度ブ
ロードバンド営業戦略を積極展開に転じ、サンパウロ地区のワイアレス固定電話の実質独占製造・販売権を獲得ている。
78
開発金融研究所報
民性がこの分野の企業にとって大きな魅力となっ
ラジルの売上シェアは現在3%程度に止まってい
ている。
るが、今後輸出拠点として積極的に投資が進めら
れ、シェア拡大が期待されている。
2.輸出拠点としての可能性
(3)STORA-ENSO
国内市場での販売競争においては、相対的に競
スウェーデン・フィンランド共同資本のパル
争が乏しく生産性の向上が進まない場合がある
プ・製紙メーカーのSTORA-ENSOグループは、
が、輸出指向の企業は、外国の企業との国際競争
ブラジルARACRUZ社との共同事業として
に晒され、絶えず生産性向上と商品開発に注力し
VERACEL社を設立している。同社は、12.5億ド
ていかねばならない。これまで、いくつかの例外
ルを投じてバイア州南部に一大パルプ工場を建設
を除けば、多くの多国籍企業はブラジル国内市場
し、輸出用に年間90万トンのパルプを生産し5億
をターゲットに投資した傾向にあるが、最近では
ドルの外貨を稼ぐ計画である。ブラジルに決定し
①ブラジルのマクロ経済安定、②比較的低コスト
た最大の理由は、原材料(ユーカリ)の植林コス
で熟練労働力が確保可能、③原材料、中間製品が
トが世界のどこよりも安いことである。インフラ、
比較的安価で国内調達可能、などの利点から輸出
ロジスティックスをはじめとするいわゆる「ブラ
目的の外国投資が目立つ。以下ブラジルを輸出拠
ジルコスト」を考慮しても、有利な立地条件を備
点とした4件の最近の投資プロジェクト
えているとしている。
(NESTLE、ABB、STORA-ENSO、MICHELIN)
を見てみる。
(4)MICHELIN
欧州最大のフランスのタイヤメーカー
(1)NESTLEのケース
MICHELIN社が、大型サイズのタイヤ工場新設
同社は、本年サンパウロ州の内陸部のアラサツ
に当たり、カナダ、タイ、メキシコ、ブラジルの
ーバ市に、国内第24番目の工場の建設に着手した。
4候補の中から、最終審査でブラジルのリオデジ
同工場では小児用の粉ミルクを2万2000トン生
ャネイロ市郊外に工場新設を決定した。2億ドル
産、全量をラ米諸国向けに輸出する。また、昨年
の新規投資が予定されており、生産されるタイヤ
サンパウロの内陸部のアラーラ市にインスタント
の80%が北米、南米に輸出される。さらに、2億
コーヒーの工場が始動したが、全量アルゼンチン、
ドルの国内向けタイヤの増産投資計画も平行して
ドイツ、ポーランド、ウクライナなどに輸出して
進められる模様。決定のポイントとなったのは、
いる。
労働者の質とされている。同社は熟練工をさらに
育てるため、売上の4%を工員の養成に投資する
(2)ABB BRASILのケース
としている。
スイス・スウェーデン共同資本の発電関連機器
メーカーのAsea Brown Boveri(ABB)社は、米
州のブルメナウ市に工場移転した。今年の1月か
第4章 ブラジル向け直接投資の
阻害要因
ら生産を開始し、2006年末にはフル稼働の予定。
ブラジル向け投資に当ってその障害となるいわ
国ミズリー州Jefferson Cityの変圧器工場をパラナ
フル稼働時点での日産240基の変圧器はすべて米
ゆる「ブラジルコスト」に焦点をあて、今後の改善
国へ輸出される。この理由として、①労働コスト
の見通しについて以下検討してみた。
が10∼15%安いこと、②原料のシリコン鋼などが
安価に手に入ること、が挙げられている。今後の
1.直接コストに反映する要素
ABBの世界戦略として中国、インドと並びブラ
ジルを輸出用生産拠点としている。ABBグルー
プの世界全体の年間売上高200億ドルに対し、ブ
(1)税金問題
複雑な税制と高い税率は、製品の国際競争力を
2005年5月 第26号
79
低下させている。
「税制改革」は広汎に及び、短
2.不確定要素から生ずるコスト
兵急には政府と国会内のコンセンサスが取れない
ため、3段階に分けて実施される予定である。第
*9
1段階で連邦税の簡素化 、第2段階で州ごとに
*10
(1)マクロ経済の不確定要素
マクロ経済が改善されたとは言え、①資金コスト
異なる州税の5種類への全国統一を図り 、第3
のベースとなる指標金利(SELIC)の金利、②内
段階で州税の税率が統一される予定。
需、③インフレ、④為替レート、⑤公的債務など
の基本的なマクロ経済の動向には依然として不安
(2)インフラの未整備
輸送・港湾設備の不備、不安定な電力供給など
定な要素が払拭されないことは看過できないもの
である。
が生産コストを引上げている。輸出拠点を前提に
金利動向については短期的な低下は見込めない
したプロジェクトでのインフラ未整備は投資家の
が、政府の緊縮政策が実り始め、中長期的には金
投資先国の選定に当って決定的な要因となる。財
利の低下が期待されている。内需動向については、
政の制約もあり、短期に抜本的な解決は期待でき
国内市場をターゲットにしている投資には最重要
ないが、昨年末に成立した官民共同事業法(PPP
ポイントで、比較的高いレベル3∼4%の実質経
法)による民間資本を活用したインフラ整備が期
済成長が持続することが内需の安定的な増加に繋
待されている。同法の施行細則もいくつか発効し、
がる。過去に見られた低成長と急成長のストップ
政府の対価支払い保証のための基金の設立など画
アンドゴーの繰り返しでは安定した内需拡大に繋
期的なスキームが工夫されているが、ローカル通
がらないことは経験的に立証されている。
「マク
貨収入を返済原資とするインフラ投資事業に内在
ロ経済の不安定さ」のうち、特にインフレ、為替
する為替変動リスクの制約要因が、外国からの資
レートは、事業計画の土台となるもので、インフ
金の導入にとって大きな障害となると思われ、ま
レは多くの犠牲を払いながらも収束に向かってお
た、今後複雑な入札手続もあり、来年初めのPPP
り、為替レートは1999年の通貨下落以降強含みで
第1号案件すら危惧され始めている。
安定推移している。総じて、マクロ経済運営の中
期的不安定要素は減少しているとみてよい。
(3)許認可手続のコスト
ブラジルへの直接投資の阻害要因として「許可
(2)時間のかかる紛争解決
取得手続きの煩雑さ」がある。事業投資に当って、
ブラジルは投資関連係争に関する二国間協定に
許認可官庁の手続、すなわち事業許可からはじま
も、また国際仲裁連盟にも属していないことから、
り、知的所有権問題、環境許可に至るまで余りに
投資関連の係争はもっぱら国内の裁判所に係属す
も数多くの許可を取得する必要がある上に、取得
る。この点はブラジルを投資先として選定する場
*11
方法も頻繁に変わる。世銀の2004年の調査 でも、
合のマイナス点になっている。国内での係争上、
ブラジルでの営業開始までの許可手続きに平均
外国資本に対する差別はないが、ブラジル国民で
152日を要するとされており、世界でも最悪とさ
すら裁判所に対する信頼は低く、外国投資家にと
れるラ米地域の平均70日の2倍強を要する実情
っては不安定な要素となっている。さらに、裁判
が、その官僚的で煩雑な手続きの実態を物語って
手続きが煩雑な上に、限りなく上訴権が認められ
いる。
るため結審までに非常に長期を費やすことが広く
知られている。改善の動きとして、昨年末に成立
した「司法改革」により、今後迅速で公正な裁判
*9
*10
60種類近くある連邦税を5∼10種類まで絞る。
27州が各州税法を持ち、固有の税品目を分類、税率を規定している。現在把握できないほど多数のカテゴリーを5段階に絞り、各
州政府間で過度な税金の減免競争を回避する。
*11
80
Investment Climate Indicators, World Development Report(2004)
。
開発金融研究所報
への改善が期待されるが、さらに第二段階の「司
背景にある歴史的な社会構造の変革には、既得権
法改革」で透明性、迅速性が法曹界に要請されて
益との調整をはじめ大きな社会的摩擦を伴うこと
いる。他方、今年の5月に発効の「新会社更生法」
から、一時的に経済がよくなるとそのような改革
も、倒産手続や再生手続の迅速化に繋がるものと
は簡単に放置されてきた。今年の6月の汚職告発
期待されている。
に端を発した政治スキャンダルは、ブラジルの劣
悪な金権政治体質を炙り出すとともに、諸外国に
(3)規制的フレームワークのリスク
改めてマイナスのイメージを与えている。合理的
90年代の民営化は、確立したレギュラトリーフ
な企業活動の制約要因である、ハード面およびソ
レームワークの中で何とかスムースに事業が進め
フト面でのインフラ未整備や金権政治問題ひいて
られた。確立したルールは投資にとってキーポイ
は悪化する治安問題の淵源でもある貧富の構造的
ントであり、不確定、不透明なルールは投資の阻
格差などは、グローバル化に取り残された構造的
害要素となる。比較的明確なフレームワークのも
問題として顕在化してきており、解決に向けた変
とで進められてきた「通信セクター」ですら最近は
革圧力の高まりに如何に対応していくかが、外国
プライシングルールについて問題提起が起こって
投資動向の帰趨にも影響する残された課題である
おり、また「電力セクター」でのルールには、規
と思われる。
制市場と自由市場の2系列を統合するもので不確
定要素が多すぎるとされている。安定的な規制フ
〈参考文献〉
レームワークを維持し、公共事業の監督機関の独
[和文文献]
立性と監督能力を高めることで、政治的圧力・影
響を最低限に抑えることが今後の課題として残さ
日本貿易会月報2005年5月号、9-22頁、座談会
「ブラジル市場の特質と成長性」
れている。
[英文文献]
第5章 残された課題
BRICsレポートを作成したドミニック・ウィル
ソンによれば、ブラジルは他のロシア、中国,イ
ECLAC,CEPAL(2005)
,“La inversion extranjera
en America Latina y el Caribe 2004”
OECD(2005),“Economic Survey of Brazil March 2005”
ンドよりも成長のための障害が多いとし、公的債
Dominic Wilson(2003)
, Goldman Sachs Global
務、対外債務、低い投資率を挙げている。OECD
Economics Paper No.99,“Dreaming With
の2005 Economic Surveyによれば、ブラジルは既
BRICs:The Path to 2050”
に持続的経済成長の基礎を築いたとしながらも、
今後の課題として、投資環境改善、財政の質的改
善と社会投資の効果改善を指摘している。GDP
の20%前後を推移している国内貯蓄率の下で、4
∼5%の実質経済成長にGDPの25%以上の投資
が必要となる経済構造上、今後も当面は海外貯蓄
に依存せざるを得ない状況にある。投資環境を常
に改善し続け、財政をはじめ経済システムとして
効率化を図り、外国投資を引き寄せる必要がある。
世界経済がグローバル化を進め、物流コストが国
際競争力に影響し始めており、原材料に恵まれた
生産立地型の投資指向はブラジルにとって有利に
[統計資料]
Bulletin of Central Bank of Brazil(2000-2005)
,
“External Sector”
Fundacao Geturio Vargas(2005)
,“Conjuntura
Economica−June 2005”
Valor Economico(2004)
“1000
,
biggest companiesJuly 2004”
UNCTAD, (2005) News Release January 11th,
“UNCTAD World FDI Inflow”
World Bank(2004)
, World Development Report
2004,“Investment Climate Indicators”
働くと期待される一方、問題として指摘される非
効率な高コスト体質、低貯蓄率、公的債務などの
2005年5月 第26号
81
Fly UP