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第5章 木造 3 階建て軸組構法住宅の地震時挙動に関する検証

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第5章 木造 3 階建て軸組構法住宅の地震時挙動に関する検証
第5章 木造 3 階建て軸組構法住宅の地震時挙動に関する検証
5.1 試験体 1、2
5.1.1 柱頭柱脚接合部の設計法が異なる木造 3 階建て軸組構法住宅の倒壊挙動
(1) 試験結果及び試験結果の比較検証
1) 振動特性
BSL 波 90%加振の前後および BSL 波 160%加振前に各試験体の振動特性を把握する
ために、加速度 15gal 程度のパルス加振を実施した。なお、BSL 波 160%加振後は試
験体 1 が倒壊に至ったため、パルス加振を実施していない。試験前の固有振動数は、
試験体 1 が 4.15Hz、試験体 2 が 4.00Hz で、ほぼ同じ固有振動数であった。その後、
BSL 波 90%加振により、試験体 1 は 3.14Hz、試験体 2 は 3.41Hz まで固有振動数が低
下し、試験体 1 が大きく低下する結果となった。この低下の違いは次項で述べる壁の
せん断変形が支配的であったか、脚部の浮き上がりによる変形が支配的であったかに
よる違いが主たる原因とも考えることはできるが、現段階ではその断定は難しい。
2) BSL 波 90%加振の試験結果
層せん断力と層間変位の関係を図5.1.1‐1に示す。なお、層せん断力は各階の加速
度に試験体の各階の質点重量を乗じて求めた。
1F
200
2F
200
[kN]
[kN]
100
50
0
0
0
-100
-100
-50
[mm]
-40
-20
0
20
40
[mm]
-200
-20
試験体1
試験体2
[kN]
100
-200
3F
100
-10
0
10
20
[mm]
-100
-20
-10
0
10
図5.1.1-1 層せん断力と層間変位の関係(BSL 波 90%加振時)
両試験体ともにせっこうボードの開口部等に割れが生じた程度で、軽微な損傷にと
どまり、見た目で違いを見出すことは難しい。層せん断力と層間変位の関係について
も、試験体による違いはほとんど確認できず、1 階の最大層せん断力も、試験体 1 が
175.1kN、試験体 2 が 176.8kN、1 階の最大変位は、試験体 1 が 22.7mm、試験体 2
が 23.2mm でほぼ同じであった。しかし、1 階柱脚の浮き上がり変位については違い
が見られ、試験体 1 の⑥通り-ほ柱脚で 5.54mm、試験体 2 の①通り-へ柱脚で 9.32mm
となった。この浮き上がり変位を、建物幅と 1 階の階高より水平変位に換算し、最大
20
層間変位に占める割合にすると、それぞれ 17.1%、33.1%と計算され、試験体 2 のほ
うが試験体 1 に比べ影響が大きい。
以上のとおり、建築基準法で規定する大地震動に相当する BSL 波 90%加振では、浮
き上がり変位が層間変位に与える影響に違いがあるものの、最大層せん断力や最大応
答変位はほぼ同じであり、目視による損傷状況の違いも確認できなかった。なお、両
試験体とも、最大変形角は 1/120rad 程度で、品確法の耐震等級 2 にふさわしい性能を
発揮していることが確認できた。
3) BSL 波 160%加振の試験結果
BSL 波 160%加振時の X 方向における各試験体の層せん断力と層間変位の関係を図5.
1.1-2に示す。約 13 秒後に各試験体ともに最大層せん断力を記録し、試験体 1 が
270.2kN(1/37rad)、試験体 2 が 241.0kN(1/79rad)で、試験体 1 が 1 割程度大きな耐力
を有していた。その後、試験体 1 は倒壊、試験体 2 は加振開始 20.06 秒後に負側で最
大層間変形の 1/7.4rad を記録し、1/30rad の安全限界を大きく上回ったものの倒壊に
は至らなかった。試験体 2 は試験体 1 に比べ最大層せん断力が小さく、さらに最大層
せん断力以降に荷重が急激に低下しているにもかかわらず、倒壊に至らなかった。こ
の原因については、(2)で詳しく考察していきたい。
1F
300
200
[kN]
200
100
100
0
0
-100
-100
-200
-200
-300
-1000
[mm]
-500
2F
300
0
500
3F
200
[kN]
試験体1
試験体2
[kN]
100
0
-100
[mm]
-300
-50
-25
0
25
50
[mm]
-200
-30 -20 -10
図5.1.1-2 層せん断力と層間変位の関係(BSL 波 160%加振時)
0
10
20
30
(2) 損傷の経緯と倒壊・非倒壊に関する検討考察
ここでは試験体 1、試験体 2 の時刻歴の抵抗挙動を明らかにするとともに、倒壊、
非倒壊を分けた原因について一考していく。
1) 1 階柱脚の浮き上がり変位の比較とすべり
主な時刻 3 点における柱脚の軸方向変位を比較したものが図5.1.1-3である。どの
時点をみても試験体 2 の浮き上がり変位が試験体 1 に比べて大きいこと、試験体 2 で
は加振方向に壁のない両端のい通りやへ通りの変位が大きくなっているのに対して、
試験体 1 ではその部分の変位は壁の側柱よりも大きくなっていないこと、がわかる。
・時刻
試験体1:13.07sec 、 試験体 2:13.07sec
・層せん断力
試験体 1:254.5kN 、 試験体 2:212.0kN
・層間変位
試験体 1:65.0mm 、 試験体 2: 64.8mm
・時刻
試験体1:13.47sec 、 試験体 2:13.49sec
・層せん断力
試験体 1:258.9kN 、 試験体 2:168.6kN
・層間変位
試験体 1:77.7mm
試験体 2: 53.9mm
・時刻
試験体1:16.02sec 、 試験体 2:16.19sec
・層せん断力
試験体 1:111.2kN 、 試験体 2:91.0kN
・層間変位
試験体 1:303.4mm 、 試験体 2: 332.0mm
試験 体1
試験 体 2
図5.1.1-3 浮き上がり変形
また、図5.1.1-4には最大層せん断力時の接合部の変位を接合部の荷重変形上にプ
ロットした。なお、HD 金物はメーカーのカタログ上の荷重変形を用いてモデル化し
たものの上に、それ以外の金物は実験を実施したので、その荷重変形上にプロットし
てある。試験体 1 では層せん断力最大で P10 金物で最大荷重を上回っているものもあ
るが、HD 金物では最大荷重以前であり、保有耐力接合がほぼ実現できていたことが
わかる。一方、試験体 2 では最大荷重を大きく超えており、この際端部のい通り、へ
通りの金物はすでに復元力がゼロに近いところまで変形が進んでいた。
50
い、ろ通 りの金 物
40
接合部金物
試験体1
試験体2
HD20
HD15
30
P10
20
ろ、は通 りの金 物
い通 りの金 物
ろ通 りの金 物
P06
10
0
0
10
20
30
40
50
60
図5.1.1-4 最大層せん断力時における 1 階柱脚浮き上がり変位
なお、接合部は柱軸方向の変形とともにせん断力によってすべりも生じていた。そ
の値は試験体 1 では①通り、⑫通りともに 19.5mm 程度で極めて小さいのに対し、試
験体 2 では①通りが 166.3mm、⑫通りが 28.4mm で極めて大きなすべりを生じていた。
2) 筋かいの折損と負担水平力
筋かいに取り付けたひずみゲージにより、筋かいの軸力を算出し、水平方向に換算
することで、筋かいが負担している水平力を算出した。なお、筋かいの軸方向加力実
験を実施し、平均的な値としてヤング係数 9.0kN/mm 2 を定めた。主な筋かいの負担水
平力と層間変位の関係を試験体 1 と試験体 2 について図5.1.1-5に示す。試験体 1 の
ほうがせん断力の負担が大きく、200mm 程度まで水平力を保持しているものもあるが、
総じて 100mm 以前に圧縮側では筋かいが座屈してしまい抵抗力を失っている。圧縮
側の筋かいと引張側の筋かいでは圧縮側の抵抗力が引張側に比べて 2 倍程度大きく
10kN 程度であることが試験体 1 よりわかる。試験体 2 では一部 10kN まで達してい
るものもあるが、総じて圧縮側も引張側も 5kN 程度で耐力は頭打ちになっている。
5
[kN]
5
[kN]
5
[kN]
5
[kN]
5
[kN]
0
0
0
0
0
-5
-5
-5
-5
-5
-1 0
-10
-10
-10
-10
-1 5
-400 -200
S3:④ろ-は
試験体1
試験体2
[mm]
200 400
0
-15
-400 -200
圧縮側 引張側
9.7
4.0
6.9
3.0
S5:⑥は-に
試験体 1
試験体 2
[mm]
200 400
0
-15
-400 -200
圧縮側 引張側
8.7
4.0
5.4
2.6
S8:⑦に-は
試験体1
試験体2
[mm]
20 0 400
0
-15
-400 -200
圧縮側 引張側
10.1
3.7
5.7
4.0
S9:⑨は-に
試験 体1
試験 体2
0
200
[mm]
400
-15
-400 -200
圧縮側 引張側
8.7
4.3
4.1
4.4
S11:⑫は-に
試験体1
試験体2
5
[kN]
0
0
-5
-1 0
S4:④は-ろ
試験体1
試験体2
[mm]
200 400
圧縮側 引張側
8.8
4.5
5.2
4.0
5
[kN]
-5
-1 5
-400 -200
0
-10
[mm]
200 400
0
-15
-400 -200
圧縮側 引張側
10.8
3.9
5.8
3.7
試 験体1
試 験体2
5
[kN]
5
[kN]
5
[kN]
0
0
0
0
-5
-5
-5
-5
-10
-15
-400 -200
S1:①い-ろ
試験体1
試験体2
-10
0
[mm]
200 400
圧縮側 引張側
13.1
3.7
9.3
2.5
-15
-400 -200
S2:④ ろ-い
試験体1
試験体2
5
[kN]
- 10
0
[mm]
200 400
圧縮側 引張側
5.9
4.2
4.4
4.5
- 15
-400 -200
S2:④ろ-い
試験体1
試験体2
S10:⑨に-は
試験体1
試験体2
-10
0
[mm]
200 400
圧縮側 引張側
9.6
4.8
6.3
3.7
図5.1.1-5 柱脚接合部の変形
-15
-400 -200
S7:⑦は-に
試験 体1
試験 体2
0
200
[mm]
400
圧縮側 引張側
10.1
4.1
4.9
3.6
0
[mm]
200 400
圧縮側 引張側
10.8
5.5
7.6
4.4
筋かいの向きを考慮した負担外力の合計値と、層せん断力との比較を図5.1.1-6に
示す。試験体 1 での筋かいの水平力の負担割合は 60%程度で、試験体 2 では 40%程度
である。なお、残りの抵抗力は石膏ボードや垂れ壁、腰壁、軸組などと考えられる。
300
300
[kN]
200
200
100
100
0
0
-100
-100
[kN]
-200
-200
[mm]
-300
-600
-400
-200
試験体1
0
200
試験体2
-300
-600
[mm]
-400
-200
0
200
筋かいの負担水平力
図5.1.1-6 層せん断力と筋かい負担水平力(左:試験体 1、右:試験体 2)
1)、2)より、試験体 1 は壁の持つせん断力が十分に発揮できそれが最大層せん断力
につながったこと、試験体 2 では接合部がはずれ壁の性能が発揮できずに最大耐力が
試験体 1 に比べ小さくなったことがわかる。
3) 地震入力エネルギー
ここでは両試験体に投入された地震入力を比較し、倒壊と非倒壊を分けた原因の一
考察としたい。3 質点系の一方向水平地震動下での、時刻 0 から t 秒までのエネルギー
の釣合式は、振動方程式の両辺に相対変位の微分により算出した速度を乗じることで
得ることができ式(5.1.1-1)で表される。
We(t ) + Wp(t ) = E (t )
…(5.1.1-1)
3
We (t ) =
3
i
∑∫m x (t ) x (t )dt = ∑m x2(t )
t
i
i
0
i =1
3
i
2
i
i =1
Wp (t )  ∑∫Pi ( xi ) x i (t )dt
t
0
i 1
3
E (t) = -∑∫mi z0 (t ) xi (t )dt
i =1
t
0
m i :各層の質点重量[kN]
x (t ) :地盤に対する相対速度[cm/s]
x(t ) :相対速度を微分した相対加速度[cm/s 2 ]
Pi ( x i):各層の絶対加速度と質点重量から算出される復元力[kN]
z0
:地震加速度[cm/s 2]
ここで、特に試験体 2 を対象に地震時変位を構成する変位ごとに入力エネルギーを
分離する。図5.1.1-7には変位の構成を示した。
全体変形 = a せん 断変形
+b 浮き上がりに よる変位+c 滑り変位
図5.1.1-7 相対変位の構成
相対変位 x i は、せん断変形 xSi 、 柱脚の浮き上がりによる水平変位 x Ri、滑りによる水
平変位 x ui を足し合わせものと考える。これまで考察してきた層せん断力は加速度と質
点重量を乗じて求まるもので、PD 効果による付加的せん断力、転倒復元力、滑りの際
に生じる摩擦による復元力が含まれる。Wp ( t )は、減衰とせん断変形により吸収される
エネルギー Ws ( t )に加え、転倒復元力により吸収されるエネルギー Wg( t )、滑りにより
吸収されるエネルギー Wu ( t )のそれぞれで構成されるとみなせ、Wg (t)、Wu (t)はそれぞ
れ式(5.1.1-2)、式(5.1.1-3)から求まる。
3
Wg (t ) = ∑∫Pi ( xi ) x Ri (t ) dt
i =1
t
…(5.1.1-2)
0
ここで、 x
Ri
(t )
:浮き上がり変位 u による水平変位を微分した速度[cm/s]
x Ri(t)= u(t)× H/B
H :地面から各層までの高さ[mm]
3
B:試験体の幅[mm]
Wu(t ) = ∑∫Pi ( xi ) xui (t )dt
i =1
t
0
ここで、 x
ui
(t )
:滑りによる水平変位を微分した速度[cm/s]
…(5.1.1-3)
式(5.1.1-1)~式(5.1.1-3)より算出される各試験体のエネルギーの時刻歴波形を図5.
1.1-8に示す。
300
E(t)
We(t)+Wp(t)
Wp(t)
Wg(t)+Wu(t)
300
E(t)
We(t)+Wp(t)
Wp(t)
Wg(t)+Wu(t)
⊿E =24.53kNm
⊿Wp=23.74kN
200
m
150 ⊿E =50.81kNm
⊿Wg =3.38kNm
⊿Wp=45.09kNm
100
⊿Wu =3.13kNm
250
250
200
⊿E =56.65kNm
⊿Wp=52.16kNm
150
⊿E
=26.15kNm
⊿Wp=26.62kN
100
50
50
0
0
10
15
20
25
30
⊿Wg =25.33kNm
10
15
20
25
30
図5.1.1-8 エネルギーの時刻歴波形(左:試験体 1、右:試験体 2)
15~16 秒付近および 19~20 秒付近において、入力エネルギーの増分が大きくなっ
て い る 。 エ ネ ル ギ ー 増 分 が 最 も 大 き い の は 試 験 体 1 で ⊿ E=56.65kNm ( 15.32 ~
16.01sec)、試験体 2 で⊿E=50.81kNm(15.35~16.21sec)で、試験体 1 の⊿E は試
験体 2 よりも 5.84kNm 大きい。ここで、瞬間入力エネルギーが 1/2 周期と考えるとそ
れぞれ周期は、試験体 1 は T=1.40sec、試験体 2 は T=1.72sec となる。この周期帯は
速度一定領域であり、ほぼ入力エネルギーは同じであるが、1 割程度違いが生じていた。
この時点の⊿Wp は、試験体 1 で⊿Wp =52.16kNm、試験体 2 で⊿Wp=45.09kNm で
あり、当然、吸収エネルギーの最大値となっている。試験体 2 では、この間にい通り
側の浮き上がり変位が u=174.7mm を記録し、式(5.1.1-2)から算出できる転倒復元力に
よる瞬間吸収エネルギーは⊿Wg=25.33kNm であった。これは吸収エネルギーの 56%
を占めており、転倒復元力の寄与は大きい。全時刻を通して、試験体 2 の吸収エネル
ギーに占める Wg(t)と Wu(t)の和の割合を求めたところ、それは 40%程度で、転倒復
元力や滑りにより吸収されるエネルギーの寄与は、入力の大きくなった瞬間だけでな
く、全体にわたって大きいことがわかった。なお、単純なロッキングの場合、位置エ
ネルギーが増加後、元に戻ればそのエネルギーは解放されるが、ここでは接合部の影
響によって履歴を描いており、戻っている量は全体に比べ小さい。
以上のとおり、最大瞬間入力エネルギーは、試験体 1 が試験体 2 に比べ 1 割程度多
く、さらに試験体 2 では転倒復元力や滑りによってエネルギーの半分を吸収していた。
これは,試験体 2 は層間変形によるエネルギー吸収が試験体 1 の半分程度で足りたとも
いえる。
以上が倒壊、非倒壊をわけた一因と考えられる。
4) 転倒復元力の影響
ここでは、ロッキング挙動の復元力に及ぼす影響について考察する。ここで、図5.
1.1-7の b のロッキングに柱脚に抵抗力のある 3 質点系について考える。復元力 Q R
と変形の関係は、モーメントのつりあいより近似的に式(5.1.1-4)とする。式(5.1.1-4)
の右辺の第一項は PD 効果による付加的せん断力、第二項は試験体形状による重力に
よる浮き上がり抵抗、第三項は接合部金物による浮き上がり抵抗をそれぞれ表してい
る。
3
3
∑∑m
Q R1 = -
3
j
∑m
gδ i
i =1 j = i
+
h
n
j
∑T
gB
j =1
2h
+
k
(d )Δ bk
k =1
…(5.1.1-4)
h
Q R1 :試験体の 1 層に作用する転倒復元力[kN]
m j:各層の質点質量[kN/cm/s 2]
g:重力加速度[cm/s 2]
δ i :相対変位の差[cm]( = xi – x i-1 ) h:試験体の階高[cm]
B:試験体の幅[cm]
n:柱の本数
T k(d) :k 番目にある接合部金物の d 変位時の引張耐力[kN]
( d = κ × x R1 / h × ⊿b k )
κ:1 階の層間変形角とロッキング変形角の比
⊿
b k:回転中心から k 番目の接合部金物までの距離[cm]
ここで、まず、式(5.1.1-4)の右辺第一項を無視し、第二項と第三項で転倒復元力と
相対変位関係を算出し、その荷重に対して 1 階のせん断変形を実験から求めた。この
際、κを震動台実験の結果より定義し、試験体 1 はκ=0.20、試験体 2 はκ=0.54 とし
た。そして、この荷重変形に対して右辺第一項で求めた PD 効果を考慮して最終的な 1
層の転倒復元力と相対変位関係を求めた。転倒復元力と相対変位の関係を、試験体の 1
階の層せん断力と層間変位関係と併せて図5.1.1-9に示す。
400
300
400
[kN]
300
200
200
100
100
0
0
-100
-100
-200
転倒復元力
-300
-400
-500
[mm]
試 験 体 1 の包 絡 線
-250
0
250
[kN]
-200
-300
-400
-1000
[mm]
-500
0
500
図5.1.1-9 転倒復元力の影響 (左:試験体 2、右:試験体 1)
図5.1.1-9から試験体 1 の層せん断力は転倒復元力よりも小さいことが確認でき、
ロッキング挙動を示さないことが分かる。また、試験体 2 は最大層せん断力に達する
前に、転倒復元力に至り、ロッキング挙動を起こした。これにより、層間変位はそれ
以上進行せず、せん断変形による倒壊を免れた要因のひとつであると考えられる。ま
た、試験体 2 の荷重変位関係は転倒復元力に概ね一致していることが確認できる。完
全な剛体のロッキングであれば、試験体の荷重変位関係は転倒復元力に完全に一致す
るが、試験体 2 は非線形を有していること、終局時においても接合部金物が耐力を少
なからず保有していること、柱脚に曲げ抵抗が存在していること等から、試験体 2 の
荷重変位関係は転倒復元力特性とは完全には一致していないと考えられる。これらの
ことから、試験体 2 の層せん断力は転倒復元力に達したことから、柱脚が浮き上がり、
ロッキング挙動を示したことが分かり、さらに、接合部金物の引張耐力を考慮した転
倒復元力から試験体 2 の層せん断力と層間変位の関係を、概ね推定できることが分か
った。
続いて、式(5.1.1-4)の右辺の第一項は PD 効果による付加的せん断力の影響を表現す
る項なので、試験体 1 が保有している真の層せん断力を算出するには、絶対加速度と
質点質量から算出される層せん断力 Q ma に、PD 効果による付加的なせん断力 Q PD を
加算することで推測することができる。試験体 1 の 1 階の真の層せん断力と層間変位
の関係を図5.1.1-10に示す。
300
[kN]
200
100
0
-100
-200
-300
-1000
[mm]
-500
0
500
図5.1.1-10 試験体 1 が保有する真の層せん断力
図5.1.1-10から、1/10rad を超える大変形領域において、PD 効果の影響は大きく、
1/10rad 時では、Q 1=163.6kN(Co=0.60)であった。また、倒壊直前の 1/3rad 時では、
Q ma =1.7kN で、ほぼ復元力がゼロになっているが、Q 1=91.9kN(Co=0.34)で、真の
層せん断力は保有していたことが推測できた。
(3) まとめ
接合部設計のみが異なる 2 棟の木造 3 階建て軸組構法住宅の震動台実験を実施し、
建築基準法で規定する大地震動の 1.8 倍に相当する地震波に対して、試験体 1 ではせ
ん断変形による層崩壊、試験体 2 では軸組接合部が先行破壊したことによる、ロッキ
ング挙動を起こした結果を詳細に検討した。その結果、以下の知見を得た。
1)
建築基準法で規定する大地震動に相当する BSL 波 90%加振では、固有振動数
の低下、浮き上がり変位に多少の違いがあるものの、最大層せん断力及び最大変
位、目視による損傷状況の違いは確認できなかった。しかし、抵抗挙動はことな
り、試験体 1 では大半がせん断変形であったのに対して、試験体 2 では浮き上り
による変形が 30%程度を占めていた。
2)
建築基準法で規定する大地震動に相当する BSL 波 160%加振では、さらに脚部
の変形の差が大きく出た。それによって、筋かいの水平力負担割合は試験体 1 が
60%程度で、試験体 2 が 40%程度であった。試験体 1 は壁の持つせん断力が十分
に発揮できていたが、試験体 2 では接合部がはずれ壁の性能が発揮できずに最大
耐力が試験体 1 に比べ小さくなっていた。
3)
試験体 1 の入力エネルギーは試験体 2 よりも 1 割ほど大きかった。また、試験
体 2 はロッキングによるエネルギー吸収と滑りによるエネルギー吸収で全体のエ
ネルギー吸収の約半分を占めていた。これによってせん断変形が試験体 2 では小
さくなり、これらのことが、倒壊・非倒壊を分けた要因のひとつである。
4)
接合部の抵抗力を考慮した転倒復元力を求め、各試験体が浮き上がるか否かを
判定した。試験体 1 はせん断力が転倒復元力より小さく、試験体 2 は転倒復元力
を上回り浮き上がることが確認できた。また、試験体 1 が保有している真の層せ
ん断力を PD 効果の影響を無視することで推測したところ、1/10rad を超えた変
形であっても Co=0.35 程度を有していることがわかった。試験体 2 は、脚部接合
金物の荷重変形関係から、層の荷重変形関係の包絡線を推定できることがわかっ
た。
5.1.2 倒壊・非倒壊の解析的再現
2009 年 10 月に木造 3 階建て軸組構法住宅の 2 棟同時実大震動台実験が実施された
1) 。対象の試験体は、接合部の設計の考え方が異なる以外は仕様が同じで、壁量が品確
法の耐震等級 2 を満たすことを前提条件として建てられている。つまり、試験体 1 は
耐力壁の短期許容耐力に見合うように保有耐力により接合部を設計した建物で、試験
体 2 は Co=0.2 の地震力を受けた際に生じる存在応力に対して接合部を設計した建物で
ある。実験結果は、試験体 1 では加振開始から約 6 秒までに、1 階の加振方向におけ
る筋かい 17 本中、確認できたものだけでも 7 本が折損し、折損に伴う剛性低下が著し
く、1 層がせん断変形を起こして層崩壊した。一方、試験体 2 は、筋かい折損や柱の
ひび割れ、せっこうボードの破損等の被害が見られたものの、倒壊には至らなかった。
また試験体 2 は、1 階の足元が浮き上がり、ロッキング挙動や足元が横滑りする挙動
が確認された。このように、一方は倒壊し、他方は倒壊を免れた原因のひとつに、ロ
ッキングによる試験体の応答の違いが挙げられる。
そこで本研究では、木造 3 階建て住宅に対してロッキングをするモデルとしないモ
デルを作成し、時刻歴応答解析をすることで倒壊・非倒壊挙動の再現を試みる。モデ
ル
化については、質点とばねで表現できる質点系モデルとし、せん断ばねの復元力
特性には人見らが提案する改良 EPHM 2) を用い、ロッキングの回転ばねには、剛体の
転倒復元力を基本とし、実験結果の転倒モーメント-浮き上がり回転角曲線を参考に定
めたものを用いる。
(1) 試験体のモデル化
ここでは、モデル化の概要、振動方程式について述べる。まず、ロッキングする 3 階建
ての試験体を質点系にモデル化したときの概念図を 図5.1.2-1の a.に、このモデルがあ
る応答状態の応答変位、層間変位、および回転角を表したものを 図5.1.2-1の b.に示す。
a. モデル概念図
b. 応答変位と層間変位
図5.1.2-1 ロッキングモデルとその応答
図5.1.2-1の a.のモデルは、試験体 2 を対象としている。試験体 1 については、
基礎を完全に固定したものと仮定し、このモデルに対して回転ばねを省いたせん断型 3
質点系モデルで表される。これらのモデルに対して、各層の質点質量を m i( i :地表面か
ら数えた層数)、せん断ばね剛性を k i、慣性モーメントを I θ、回転ばね剛性を k r 、階高
を H i で表せば、振動方程式は式(5.1.2-1)に示すとおりとなる。
m1
0

0

0
0
0
m2
0
0
0
m3
0
0   y1   c11 c12
0   y2  c21 c22
 
0   y3  c31 c32


I     c41 c42
 k2
 k1  k 2

 k2
k 2  k3


0
 k3

 k 2 H 2  k1H 1 k 3 H 3  k 2 H 2
m1
0

0

0
0
0
m2
0
0
m3
0
0
c13
c23
c33
c43
0
 k3
k3
 k3 H 3
0  1  uf1 
0  1 uf 2 
y0     
0  1 uf 3 

I   0 uf 4 
c14   y 1 
c24   y 2 
 
c34   y 3 

c44    
k 2 H 2  k1 H1
  y1 
 y 
k3 H 3  k 2 H 2
  2 
  y3 
 k3 H 3
2
2
2
k r  k1 H1  k 2 H 2  k3 H 3    
…(5.1.2-1)
式中の減衰マトリクスは、i 行 j 列成分として c ij で示しており、ここでは 1 次固有振
動数 ω 1 、減衰定数 h = 0.01 の初期剛性比例型を基本として式(5.1.2-2)によって求める。
[C ] 
2h
K 
1
…(5.1.2-2)
ただし、ロッキングモデルについては、剛性マトリクスのロッキングの成分である
k 44 に乗じる係数のみ減衰定数を h = 0.004 としている。なお、0.004 はゼロに近い範
囲で挙動が再現できる数値として定めたものであり、今後検討が必要と考えている。
式(1)の右辺の第 2 項は不釣合い力ベクトル{ UF }を表している。不釣合い力は、ステ
ップ毎に線形的な数値積分による時刻歴応答解析をする場合に生じた、非線形の復元
力特性との応答値の誤差を表している。本研究では、初期から終局まで関数で与えら
れる非線形な復元力特性である改良 EPHM を用いるため、この不釣合い力を解消する
必要がある。ここでは、時刻歴応答解析において、まず不釣合い力を無視してそのス
テップの応答値を求めた後、次の時間ステップにおいて前ステップの不釣合い力を外
力として加えることで、不釣合い力を解消している。本研究におけるロッキングモデ
ルの不釣合い力ベクトル{ UF }は、各ばねの復元力特性から算出される復元力を p i( y)と
すると、式(5.1.2-3)で表される。
p1 ( y )  p 2 ( y )


1


1
p 2 ( y)  p3 ( y)


 
UF   M y C y  
  M y0  
p3 ( y)


1
 p 4 ( y )  ( p1 ( y ) H 1  p 2 ( y ) H 2  p 3 ( y) H 3 )
0
…(5.1.2-3)
なお、質点重量は 1 層が 103.50kN、2 層が 104.77kN、3 層が 61.25kN、階高は各
階とも 280cm として解析をおこなう。
(2) 復元力特性
層のせん断剛性は、実験結果の層の荷重-変形曲線に適合するように定める。復元力
特性は以下に示す改良 EPHM を用いるが、実験結果を良好に追跡できない部分があっ
たため、本論文において更なる改良を試みた。なお、試験体 1 の荷重変形関係にはロ
ッキングの影響が含まれていないものとみなして復元力特性モデルを定義し、試験体 2
の層のせん断ばねにも同じものを共通で用いる。
①改良 EPHM モデルの改良
まず、改良 EPHM の概念図を図5.1.2-2に示す。
初期 骨 格 曲線
低下した骨格曲線
Force
Fu
Fx
fx
Force
変曲点
Kd
F0
K0
耐力低下
1
Kx
Ks<1>
Fi
δu δx
a.骨格曲線
<3>
<2>
Disp. F i
Ks<2>
Kl
2
3
剛性低下
δ max<2>
δ max<1>
Disp.
b.履歴曲線
図5.1.2-2 改良 EPHM の概念図
改良 EPHM では、図5.1.2-2の a.の骨格曲線と、図5.1.2-2の b.の履歴特性が
示す除荷曲線、再載荷曲線で表される。除荷曲線では、除荷開始直後の急激な荷重の
低下や変位ゼロ点付近でのスリップ性状を追跡するために、見かけの除荷点を与える
ようなパラメータγu を設定している。そのため、スリップ性状に合うようにγu の値
を大きくすると、見かけの除荷点まで過剰に荷重が低下し、除荷開始直後の応答の精
度が悪くなる傾向がある。そこで、本研究ではパラメータを新しく設け、その問題の
解消を試みた。
まず、変更前の除荷曲線を式(5.1.2-4)~式(5.1.2-7)に示す。
Fu ( )  K ue e
 u (   ou )
1
 Fi
…(5.1.2-4)
u ( K su )  K u ( K su  xu )e u ( K su  xu )
…(5.1.2-5)
Fi  K fi f ou
…(5.1.2-6)
:変位 (mm)
 :除荷曲線の曲率
(1/mm)
u


f ou:除荷点荷重 (kN)
 ou:除荷点変位

 K , K ,  , x :除荷パラメータ

 f i  u  u u


K u  K u  1 / 200
  ou



u
…(5.1.2-7)
 1 / 200:1 / 200rad時変位(mm)  ou:除荷点変位(mm)


u
 :低減指数

式(5.1.2-4)中の指数関数の底として設定されている自然対数の底 e を、新たにパラ
メータとして y と設定した。これは、除荷開始時から変位ゼロ点の特定点 F i に向かう
過程でのスリップ性状になるタイミングを設定するもので、他のパラメータと併用す
ることで除荷曲線の精度を上げることが可能となる。この変更した除荷曲線を用いて、
精度の検証をおこなった。変更前の解析結果を図5.1.2-3の a.に、変更後の解析結
果を図5.1.2-3の b.に示す。変更後のモデルが除荷勾配を良好に追跡できているこ
とがわかる。
20
解析
30
実験
force[kN]
実験
force[kN]
30
20
解析
10
10
disp.[mm]
0
0
50
100
disp.[mm]
0
0
a.変更前(γu=0.8)
50
100
b.変更後(γu=0、y=50)
図5.1.2-3 除荷曲線変更前後の追跡結果
さらに、本研究では以下の変更をおこなっている。
1)剛性低減率α d の制限値を 0.3 から 0.6 に変更
2)最大荷重時変位を経験した場合、正側と負側で個別に算出した剛性低減率α d の
うち常に最小の値を用いる制限を解除
3)最大荷重時変位を経験した場合、正側と負側の最大経験変位に対して、その絶対
値が大きい側に対して小さい側の最大経験変位が 60%に満たない場合、大きい
側の 60%の変位を小さい側で経験したものとみなす(既定値は 80%)
4)除荷曲線が指向する変位ゼロ点の特定点 F i について、除荷点変位が 400mm 以
上のとき、特定点の荷重を 30kN に固定
5)剛性低減率α d を評価するための繰り返し回数を 1 回に固定
改良 EPHM が元々合板壁を対象としたモデルであるのに対し、本研究では筋かい耐
力壁を対象としており、実験結果においても最大荷重時変位付近での繰り返し変形に
よる剛性低下はほとんどみられなかった。これらは、片側の剛性低下を反対側にも関
連づけすると過大評価となる問題を解消するための措置としている。
②改良 EPHM のパラメータ設定
改良を重ねた改良 EPHM を用いて、震動台実験の各層の層せん断力-層間変位曲線
に合うようにパラメータを設定した。このときの改良 EPHM のパラメータを表5.1.
2-1に、実験結果の層間変位を強制変位として改良 EPHM の履歴特性により算出さ
れる復元力と層間変位の関係を実験結果と比較して図5.1.2-4に示す。図で示され
るように、良好に実験結果をモデル化できたと考えられる。
表5.1.2-1 改良 EPHM パラメータ(単位 [荷重:kN 変位:cm])
パラメータ
1層
2層
3層
K0
160
160
100
Kd
3
7
4
F0
240
200
250
Dx
10. 8
15
15
Kx
-7
-6
-6
Fx
340
340
340
fx
50
20
20
Kfi
-0.12
-0.12
-0.12
Kλu
0.02
0.01
0.01
λλu
-0.00001
-0.0003
-0.0001
Xλu
4
7
8
γu
0
0
0
γl
0.1
0.1
0.1
y
3
3
3
300
1層
200
100
0
0
-100
-100
実験
解析
2層
200
100
force[kN]
100
解析
force[kN]
200
実験
force[kN]
300
実験
解析
3層
0
-100
-200
-200
disp.[mm]
-300
-800
-400
0
disp.[mm]
-300
-60
400
a. 1 層
-40
-20
0
20
40
-200
60
-40
disp.[mm]
-20
b. 2 層
0
20
c. 3 層
図5.1.2-4 実験結果層せん断力-層間変位曲線と改良 EPHM 復元力-層間変位曲線
③ロッキング回転ばねの設定
剛体浮き上がりの推移を図5.1.2-5に示す。剛体の重心に作用する外力に釣り合
う力として転倒復元力が働く
3) 。ある程度外力が作用すると、剛体は浮き上がり、そ
の後は剛体を浮き上がらせるのに必要な外力は小さくなる。そして、重心位置の水平
変位が基礎幅の半分となった時にゼロとなる。このときを転倒限界状態と呼ぶ。ここ
で、この一連の転倒復元力について、回転中心O点まわりのモーメントの釣り合いか
ら求めた転倒復元力 P を式(5.1.2-8)に、モーメント-浮き上がり回転角関係で表した図
を図5.1.2-6に示す。
P  mg tan(   )
…(5.1.2-8)
δ<
P2
P1
mg α
r
mg
δ=
B
2
P3
mg
H
O
B
2
B
2
B
2
a. 浮き上がり前
O
θ<α
b. 浮き上がり状態
O
θ =α
c. 転倒限界状態
図5.1.2-5 剛体の浮き上がりの推移
図5.1.2-6 剛体の転倒復元力
一方、3 層建物を剛体と仮定するには、まず 1 質点系モデルに縮約したときの等価
質量と等価高さ
4) を求める必要がある。固有値解析により固有モード i
u j、刺激係数 iβ
を求め、等価質量を式(5.1.2-9)で、等価高さを式(5.1.2-10)により算出した。また、1
次モードの場合の結果を表5.1.2-2に示す。なお、表中の括弧内の数値は、全体の
質量、および高さに対する割合を示している。
40
N
sM
(
N
) 
 m・u ・
i s i
s
i 1
(
 m・u )
2
i s i
i 1
N
 m・u
…(5.1.2-9)
2
i s i
i 1
N
(
sH 
N
)   m・ u・H
 m・ u・H ・
i s i
i 1
s
M
i
s
i s i

i
…(5.1.2-10)
i 1
N
 m・u
i s i
i 1
表5.1.2-2 等価質量および等価高さ
等価質量[kN/gal]
等価高さ[cm]
0.249
584
(90.8%)
(69.5%)
④ロッキング回転ばねのパラメータ設定
まず、実験結果の転倒モーメント-浮き上がり回転角関係を算出する。転倒モーメン
トは、実験結果の各層の層せん断力に階高を乗じたときのモーメントの釣り合いから
求めた。浮き上がりの回転角は、試験体短辺方向で見たときの左右の足元における画
像計測の鉛直方向変位データから求めた。そして、この関係に対して復元力特性のパ
ラメータを設定する。BSL90%加振時の転倒モーメント-浮き上がり回転角を示したも
のを図5.1.2-7の a.に、BSL160%加振時の転倒モーメント-浮き上がり回転角とそれ
に合うように定めた復元力特性、および剛体の転倒復元力を重ねて表現したものを図5.
1.2-7の b.に示す。図5.1.2-7の a.について弾性範囲の傾きから、初期剛性は 3×
10 9 ~6×10 9kN・mm/rad の範囲で与えられる。また、図5.1.2-7の b.のように、y
切片が 1.3×10 6kN・mm で、浮き上がり回転角が 0.014rad の時に転倒復元力に交わ
るような直線が描かれる。そして、解析では図5.1.2-7の b.の 2 つの直線上を通る
復元力特性となり、最初は耐力の大きい方のルートに交わるまで初期剛性の傾きのま
ま荷重が増加し、交わった後は荷重が低下していく。さらに変形が進み、一度転倒復
元力のルートに交わると、それ以降は初期から転倒復元力を通るように転倒復元力の
ルールを決めた。
×1000[kN・m]
0
1.5
×1000[kN・m]
1
1
0.5
0
-0.5
-1
1/1000[rad]
-1
-1
0
1
1/1000[rad]
-1.5
-40
-20
a. BSL90%加振
0
20
40
b. BSL160%加振
図5.1.2-7 転倒モーメント-浮き上がり回転角曲線と復元力特性
(3)時刻歴応答解析
ここまで示してきたモデルを対象に、時刻歴応答解析をおこなう。解析条件は、
Newmark のβ法(β=1/4)による数値積分で、時間刻みをΔt=0.001sec とする。そして
地震波は、BSL90%と BSL160%を水平方向に連続して入力する。
①せん断型 3 質点系モデル(試験体 1)の時刻歴応答解析
各層の解析結果を実験結果と比較して図5.1.2-8~図5.1.2-10に示す。図は
BSL160%加振時を示しており、1 層では正側で最大応答が実験結果の約 1.4 倍となっ
たが、負側で 490mm(1/5.7rad)程度まで良好に追跡できている。各層の最大層間変位
を実験結果と比較した図5.1.2-11を見ると、1 層の最大層間変位は全体的に、実験
結果よりも正側に大きくなっていることがわかる。また、1 層の層間変位時刻歴波形を
示している図5.1.2-12を見ると、20 秒付近まで実験結果とほぼ一致した応答を見
せ、その後負側に変形があまり進まないものの、位相特性については実験結果に似た
形状を示している。一方、2 層は負側の応答が多少大きくなったが、3 層はほとんど実
験値と同等の応答を示した。
解析
300
200
100
100
0
0
-100
-100
-200
-300
-800
[mm]
実験
[kN]
200
実験
[kN]
300
-200
解析
[mm]
-300
-400
0
400
図5.1.2-8 1 層解析結果
-60
-30
0
30
60
図5.1.2-9 2 層解析結果
150
実験
[kN]
200
実験
4
解析
解析
3
100
50
2
0
-50
1
-100
-150
[mm]
[mm]
-200
-40
-20
0
20
0
-800
40
図5.1.2-10 3 層解析結果
-400
0
400
800
図5.1.2-11 各層最大層間変位
実験
400
解析
[mm]
0
-400
-800
12
[sec]
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
図5.1.2-12 1 層層間変位時刻歴波形
②ロッキングモデル(試験体 2)の時刻歴応答解析
解析結果として、各ばねの荷重-変形曲線を実験結果と比較して図5.1.2-13~図5.
1.2-16に示す。各層とも実験結果の追跡精度は低いが、ロッキングすることで応答
は小さくなることが確認できた。回転ばねのモーメント-回転角曲線を示す図5.1.2-
16では、解析結果の転倒モーメント-回転角関係と実験結果の転倒モーメント-回転角
関係で似たような形状が得られている。また、1 層のロッキング成分を含まない水平変
位を図5.1.2-17に、含んだものを図5.1.2-18に、ロッキング回転ばねの回転角
を図5.1.2-19に示す。図5.1.2-17では、実験結果よりも解析結果の応答が大き
くなったが、ロッキング中の波のピーク付近で頭打ちとなった。図5.1.2-18では、
14 秒付近から実験結果よりも大きくなり、実験結果の追跡精度は低いと言える。図5.
1.2-19では、15 秒程度までは実験結果と同程度の浮き上がりを示したが、最も浮き
上がった 16 秒付近から追跡精度が低くなっている。
200
解析
300
200
100
100
0
0
-100
-100
-200
実験
[kN]
実験
[kN]
300
解析
-200
-300
-400 -200
[mm]
0
200
[mm]
-300
400
-60
図5.1.2-13 1 層解析結果
-30
0
30
60
図5.1.2-14 2 層解析結果
解 析転 倒モ ーメ ント
100
1.5
解析
1
50
0.5
0
0
-50
-0.5
実験
×1000[kN・m]
[kN]
150
実験
解析
-1
-100
[mm]
-150
-40
-20
0
20
1/1000[rad]
-1.5
-40
40
図5.1.2-15 3 層解析結果
-20
0
20
40
図5.1.2-16 回転ばね解析結果
実験
200
解析
[mm]
0
-200
-400
12
[sec]
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
図5.1.2-17 1 層の水平変位時刻歴波形(ロッキング成分なし)
実験
200
解析
-200
-400
[mm]
0
12
[sec]
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
図5.1.2-18 1 層の水平変位時刻歴波形(ロッキング成分あり)
実験
0.02
解析
-0.02
-0.04
[rad]
0
12
[sec]
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
図5.1.2-19 浮き上がり回転角時刻歴波形
(4)まとめ
木造 3 階建て住宅についてロッキングするモデルとしないモデルをそれぞれ作成し、
実験結果に合うようにせん断ばね、回転ばねの復元力特性を与えて時刻歴応答解析を
おこなった。せん断型 3 質点系モデルでは、1 層の正側では実験結果より応答が大き
くなったが、負側に変形が進む現象を 1/5.7rad までは良好に追跡できた。一方ロッキ
ングモデルでは、実験結果の追跡精度は低いものの、ロッキングしない場合に比べて
応答が小さくなることが確認できた。また、本研究では、ロッキング成分の減衰力や、
せん断ばねの復元力特性を暫定的に定義したものであり、今後さらなる検討が必要で
あると考えている。
参考文献
1) 河合直人ほか:木造 3 階建て軸組構法住宅の設計法と震動台実験 その 1, その 4~
その 6, 日本建築学会大会学術講演梗概集, C-1 分冊, pp.229-230, 235-240, 2010.9
2) 人見祐策ほか:大変形と繰り返しによる劣化を考慮した木造壁の復元力特性モデル
-木造建物の地震時挙動に関する研究(その 2)-, 日本建築学会構造系論文集, No.646,
pp.2299-2306, 2009.12
3) 武 藤 清 :『 耐 震 設 計 シ リ ー ズ 4 構 造 物 の 動 的 解 析 』 , 丸 善 株 式 会 社 , p.188-194,
1966.5
4) 柴田明徳:『最新 耐震構造解析 第 2 版』, 森北出版株式会社, p.76-78, 2003.5
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