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香川大学教育学部
香川大学教育実践総合研究(BIλll.£&,c.j?a.7iaacゐ.£)ε
「9.瓦昭awM加祠,16:67−76,2008
図形の提示順序が児童の四角形の弁別に与える影響
長谷川 順一
(数学教育講座)
760-8522 高桧市幸町1−1 香川大学教育学部
Effects of Order of Presentation of Geometric
Figures on
Students' Discrim泊ation of Quadrilaterals
HAsEGAwA
Facu叫of
Educalion, Kagawa
Junichi
university,1-j,Saiwai-cho,Takamatsu
760-8522
要 旨 小学校中・高学年の見童を対象として,三角形・四角形の弁別に関する調査を行っ
た。このとき,三角形や長方形から先に回笞する問題紙と不等辺四角形から先に回答する問
題紙の2種類の問題紙を用いた。その結果,中学年,特に4年生の児童では,長方形などか
ら先に回答すると不等辺四角形を四角形であるとする判断が阻害されることが明らかになっ
た。これらの結果について総合的に検討すると共にそこから得られる図形指導への示唆に
言及した。
キーワード 図形の弁別 四角形 長方形 不等辺四角形 算数
1
はじめに
る。
麻柄らによれば,小学校1年生及び幼椎園児
現在,三角形・四角形の概念は小学校第2学
を対象とした実験的研究の結果,正三角形や正
年で扱われている。算数敦科書では三角形や四
方形を用いるよりも不等辺三角形・四角形を用
角形の図形を分類する課題を示し,その際の分
いて「かどが三つ(四つ)あるのが三角(四角)
類の観点を見童に意識化させることを通して,
だ」と敦示する方が,三角形・四角形の弁別の
「3本(4本)の直線でかこまれた形を三角形(四
成績が有意に高く(麻柄・伏見,1982),三角や
角形)という」として,三角形,四角形の語が
四角は等辺であることなどへの「こだわり」を
導人されている。その後,「へり」が直線では
もつ幼椎園児に対しては,先ず正三角形や正方
ない図形や閉じていない図形は三角形や四角形
形を用いて三角や四角を教示し,その後それら
とはいわないことも扱われる。このようにして
を徐々に不等辺三角形や四角形に変形して敦示
三角形や四角形の概念を学習しても,同じよう
する方がより効果的であったという(伏見・麻
な四角形であってもその向きなどによって四角
柄,1986)。教示の際に事例として用いられる
形と判断されたりされなかったりすることがあ,
不等辺三角形・四角形あるいは正三角形・正方形
る。また,不等辺四角形は四角形であると判断
の何れが概念学習に有効かが児童によって異な
されないことがある(長谷川・香川,1994)。ど
ることに対して,伏見は,正三角形や正方形を
のようにして基本的な図形概念の理解を図るか
事例とすると内包は把握されやすいが外延の拡
は,図形の教授法を考える際の重要な諜題であ
大には結びつきにくく,不等辺三角形や四角形
−67−
を事例とすると外延の拡大には結びつきやすい
とを目的としたものである。そのため,2種
が内包の把握は困難であるとする説を提案して
類の問題紙を作成した。一つは,長方形や三角
いる(伏見,1990,1992)。
形から不等辺四角形へと図形を配置した問題紙
中原(1995)は小学校4年生∼中学校2年生
である。今一つは提示順序のみを逆にし,不等
の児童・生徒を対象として,「次の四角形の中
辺四角形から長方形や三角形へと図形を配置し
で,平行四辺形(あるいは,台形,ひし形)の
たものである。但し,三つの調査で用いた図形
なかまであるものには○をつける」問題などを
の数はそれぞれ異なっていた。図1に示した18
もとに,台形,平行四辺形,ひし形に対する相
個の図形は調査2で用いたものであり,図形に
互関係理解の観点から調査研究を行っている。
付した記号は,アルファベットの順に長方形
その結果,台形やひし形に理解の困難性がある
や三角形から不等辺四角形へと図形を配置した
ことを指摘し,図形の概念構成は,基本的に
問題紙での提示順序を表している。これらの図
は,④イメージが中心となる段階,⑤イメージ
形の内,調査1では6個の図形を,調査3では
と論理が混在する段階,④論理が中心となる段
7個の図形を用いた。なお,図1に示した図形
階の過程をたどるとしている(「イメージ」とは,
は,主としてこれまでの授業研究などから得ら
言葉で述べられた数学的な定義である「概念定
れたものである(長谷川,1985
義」とは異なり,例えば「台形とは台のような
1991 : 長谷川・香川,1994)
形」のような視覚的イメージを中心とした「台
このようにして作成した2種類の問題紙を各
形」に関する経験の総体をいう)。また,思考
学級でランダムに配布するようにした。問題紙
水準の観点からも検討を加え,事例研究をもと
の配布と回収は学級担任の先生に依頼したが,
に敦授上の提言を行っている(中原,1995)。な
ランダムな配布のために 2種類の問題紙を学
お,中原が用いた間題文では「次の四角形の中
級の人数分だけ交互に積み重ねて封筒に入れ,
で」とされていたが,提示された不等辺四角形
各先生にお渡しした。学撒担任の先生には通常
は四角形とは判断されない可能性もある。図形
の配布物を配布する要領で,問題紙の配布を
概念については他にも様々な検討がなされてい
行ってもらった。
る。
問題紙は表紙を含め4枚からなり(片面印
本稿では,三角形・四角形に対する論理とイ
刷),表紙には氏名の記入欄の他,消しゴムは
メージによる児童の判断に留意しつつ,「三角
使わない,前のページにもどってはいけないな
形・四角形」の学習終丁後の小学校中・高学年の
どの注意事項が記してあった。表紙の次のペー
児童を対象とし,三角形・四角形の弁別を扱っ
ジの冒頭には,調査1と3では,「つぎの,①
た三つの調査の結果を報告する。調査では,提
から⑥(調査3では①から⑦)の形は,三角形
示する図形は同じであるが,提示順序のみを逆
でしょうか,四角形でしょうか。それとも,三
にした2種類の問題紙を用い,問題の提示順序
角形でも四角形でもない形でしょうか。正し
が図形の弁別にどのような影響を与えるかを中
いと思う番号に一つ○をつけましょう。」との
心に検討した。以下では調査結果を報告すると
問題文を記し,各図形ごとに,「左の形は,①
共にそこから得られる図形を扱う授業に対す
三角形です。(2)四角形です。(3)三角形で
る示唆に言及する。
も四角形でもありません。」の三つの選択肢を
; 長谷川・高橋,
示し選択回笞させるようにした。調査2では,
2 調査とその結果
「つぎの,①から⑩の形は,三角形でしょうか,
四角形でしょうか。それとも,三角形でも四角
2,1 調査の目的と方法
形でもない形でしょうか。『この形は,( )』
先に述べたように,三つの調査は,図形の
の( )の中に三角形と思うときは三,四角
提示順序が図形の弁別に与える影響をみるこ
形と思うときは四,三角形でも四角形でもない
−68−
用いるが,図1の図形の内,(bバD(gバI)(o)
(a)
に対しては「三角形」,㈲(c)(e戸h)(i)(j戸m)
(n)(q)(r)に対しては「四角形」,(d)(kバp)
に対しては「三角形でも四角形でもない」とし
(d)
たものを「正答」とし,それ以外は「誤答」と
した。
2.2 調査1
/\
2000年3月上旬,公立小学校の3∼5年生を
対象として調査を実施した。このときの敦育諜
程は旧指導要領(平成元年版)に基づくもので
(h)
あった。調査1では,図1に示した図形の内,
(f)三角形,(c)台形,(d)「へり」の丸い図
形,(m)不等辺四角形,(q)不等辺四角形,(r)
j
り
不等辺四角形((m)と合同)を用いた(「(f)
三角形」のように「三角形」などの語を付した
が,これは分かりやすくするために記したもの
であり,児童がそのように考えることを表すも
(k)
(1)
/`へ、、
のではない。以下同様である)。この順に図形
を提示した問題紙に回答した児童を「三角形先
行群」,それとは逆の順に図形を提示した問題
紙に回答した児童を「不等辺四角形先行群」と
いうことにする。表1は,調査に参加した児童
数を群別に表したものである。
表1 調査対象児童数
3年生 4年生
LrMS
4 4‘
4 4
4 4
Z S
CM9
三角形先行群
5年生
不等辺四角形先行群
調査結果の処理については,正答に1点,誤
答にO点を与え(6点満点),各学年各群の平
均値を算出した。図2は,その結果を表したも
図1 提示図形
のである(縦軸の数値は点数を表す)。
この結果について,学年(3,4,5年生)×群
と思うときは×と,書いてください。」との問
(三角形先行群,不等辺四角形先行群)の2要
題文を記し,各図形ごとに「この形は,( )」
因の分散分析を行ったところ,学年の主効果
との回答欄を設けた。アラビア数字ではなく
(F(2,230)=3.25,p<。05)が有意であり,学
「三,四」の漢数字で記入させたのは,辺などの
年×群の交互作用(F(2,230)=3.01‥05<p
数への着目をなるべく誘導しないようにするた
<。1)で有意な傾向がみられた。交互作用の有
めであった。
意傾向は4年生での2群間の差異が影響したも
以下では「正答」(あるいは[誤答])の語を
のである(以下では,有意水準を5%として検
−69−
5
表3 図形(m)と(r)の正答率の比較
三角形先行群
■へ
4
三角形先行群
一僣−
不等辺四角形先行群
→−
心_
\
(r)
3年生
78.6%
6屯3%
72.4%
4年生
45.5%
36.4%
70.5%
5年生
66.7%
66.7%
67.4%
(m) (r)
65.5%
9
%
5
.
\/
(m)
1
\ /
不等辺四角形先行群
65.2%
不等辺四角形であり,4年生以外の三角形先
3
3年生
4年生
5年生 行群と不等辺四角形先行群の正答率は,3年生
図2 調査1の結果
では60.7%と69.0%,5年生では57.8%と65.2%で
あった。
討する)。
また,学年ごとにそれぞれの図形について2
2.3 調査2
群間の正答率の差異を検討した(2群×(正答
調査1の結果から,特に4年生で,三角形や
数と誤答数)の2×2の分割表に対するカイ2
台形などに先に回答すると不等辺四角形に対す
乗検定,以下同様である)が,3年生,5年生
る判断が阻害されることが推測される。このこ
では2群間で正答率に有意な差がみられた図形
とを確かめるため,2002年6月,調査1の対象
はなかった。表2は,4年生の結果を表したも
校とは異なる公立小学校の3∼6年生を対象と
のである((f)は直接確率法による)。
して調査を行った。なお,この年度から新学習
指導要鎖(平成10年版)が実施された。
表2 群別正答率(4年生)
図形
この調査では,図1に示した図形の全てを用
三角形群 不等辺群
いた。図1の各図形に付したアルファベットの
Z2(1)
順に図形を提示した問題紙に回答した児童を
**
68.2% 97.7%
(c)
45.5% 59.1%
1.64 ns
「長方形先行群」,その逆の順序で図形を提示し
(d)
86.4% 81.8%
0.34 ns
た問題紙に回答した児童を「不等辺四角形先行
45,5% 70.5%
5.64*
群」ということにする。表4は,調査に参加し
36.4% 56.8%
3.70゛
た児童数を群別に表したものである。
㈲㈲削
(f)
36,4% 59.1%
゛p<.1,*p<.05,
4.56*
**
表4 調査対象児童数
p<.01
3年生4年生5年生6年生
4年生では,(f)三角形,(m)不等辺四角形,
長方形先行群 26 31 32 30
(r)不等辺四角形で三角形先行群よりも不等辺
不等辺四角形先行群 26 31 33 27
四角形先行群の正答率が有意に高かった。
調査で用いた図形の内,不等辺四角形(m)
2.3.1全体の結果
と(r)は合同な図形であった。表3は,(m)
調査1と同様,正答に1点,誤答にO点を与
と(r)の各学年各群の正答率を表したもので
え(18点満点),各学年各群の平均値を算出し
ある。
た。図3は,その結果を表したものである(縦
これらの図形の対のそれぞれについて,群別
軸の数値は点数を表す)。
に2図形×(正答数・誤答数)の2×2の分割表
この結果について,学年(3∼6年生)×群
に対してカイ2乗検定を行ったが,何れにおい
(長方形先行群,不等辺四角形先行群)の2
ても有意な差はみられなかった。また,全体的
要因の分散分析を行ったところ,学年の主効
にみたとき最も正答率が低かった図形は(q)
果(F(3,228)=10.10,p<。01),群の主効果
70
18
な差がみられた図形はなかった。
メ)
17
16
15
14
18個の図形の内,長方形(a)と(e),台形(c)
/ら
と(j),三角形(f)と(g),不等辺四角形(m)
-
と(r),不等辺四角形(n)と(q)は,それ
べ /
ぞれ合同な図形である。これらの対の図形に対
\ /
\ /
13
12
11
\/
W
-
長方形先行群
する3∼6年生の正答率をみると,(m)と(r)
−●-−
不等辺四角形先行群
→−
に対する3年生と4年生の不等辺四角形先行群
1 1 1 1
3年生
4年生
5年生
以外では有意な差はみられなかった。表5は,
6年生
(m)と(r)の各学年各群の正答率を表したも
図3 訓査2の結果
のである。
(F(1,228)=8.70,pく。01),学年×群の交互
作用(F(3,228)=5.82,pぐ01)が有意であっ
表5 図形(m)と(r)の正答率の比較
た。交互作用が有意であったので単純主効果
長方形先行群 不等辺四角形先行群
を検討した。その結果,4年生で2群問に有意
(r)
差がみられた(F(1,228)=8.08,p<。01)。ま
3年生
73, 1%
65.4%
88.5%
46.2%
た,長方形先行群(F(3,228)=36.33,p<。01)
4年生
38, 7%
32.3%
90.3%
67.7%
で有意差がみられ,LSD法によって多重比較を
5年生
71
9%
65.6%
81.8%
84.8%
行ったところ,3年生と4年生,4年生と5年
6年生
86, 7%
76.7%
100.0%
92.6%
生,4年生と6年生の問で有意差がみられた
(p<。05)。不等辺四角形先行群でも有意差が
3,4年生については,不等辺四角形先行群
みられ(F(3,228)=10.67,p<。01),LSD法に
の3年生(戸(1)=10.57,p<。01),4年生
よって多重比較を行ったところ,3年生と6年
(z2(1)=4.77,p<,05)で共に一番最初に
生,4年生と6年生,5年生と6年生の問で有
提示された図形である(r)の正答率が有意に低
意差がみられた(p<。05)。4年生では不等辺
い。不等辺四角形先行群では(r)が最初に提示
四角形先行群に比して長方形先行群の平均値が
された図形であるために正答率が低かったこと
有意に低く,長方形先行群では4年生が他の学
も考えられるが,これまでの「三角形・四角形」
年の児童に比べ平均値が有意に低い。また,不
についての授業研究などから,(r)は判断が困
等辺四角形先行群では6年生が他の学年に比ベ
難な図形の一つであることが分かっている。
て平均値が有意に高いことが分かる。
全体的に最も正答率が低かった図形は,不等
辺四角形(n)や(q)であった。表6は,(n)
2.3.2 それぞれの図形に対する反応
と(q)の各学年各群の正答率を表したもので
それぞれの図形について,各学年の正答率を
ある。
検討した。その結果,3年生では(p)六角形
不等辺四角形(n)については,3年生の長
で長方形先行群(正答率96.2%)の方が不等辺
方形先行群が不等辺四角形先行群より正答率
四角形先行群(69.2%)よりも正答率が有意に
表6 図形(n)と(q)の正答率
高かった(p<。05(直接確率法))。4年生の
長方形先行群 不等辺四角形先行群
結果は次項で検討する。5年生では(n)不等
(n)
辺四角形で長方形先行群(50.0%)よりも不等
㈲
辺四角形先行群(81.8%)の正答率が有意に高
3年生
61.5%
50.0%
34.6%
30.8%
かった(zy1)=7.34,p<。01)。3年生及び
4年生
12.9%
12.9%
61.3%
61.3%
5年生で2群問に有意差がみられたのはこれだ
5年生
50.0%
53.1%
81.8%
75.8%
6年生
73.3%
73.3%
85.2%
88.9%
けであった。6年生では2群間で正答率に有意
71
がやや高い傾向がみられる(戸(1)=3.77‥05
(r):z2(1)=7.81,全てp<。01)。長方形先行
<p<。1)。一方,4∼6年生では二つの図形
群では,不等辺四角形に対して四角形であると
共に不等辺四角形先行群の正答率が高く,(n)
判断することが非常に困難である。
については5年生で2群間に有意な差がみられ
る(zづ1)=7.34,p<。05)。以下では,4年
2.4調査3
生の全ての図形に対する結果を検討する。
これらの図形に対して,どのように考えてそ
れぞれを判断しているのかを調べるため,「そ
2.3,3 4年生の結果
う思ったわけ」を記述する欄を設けた問題紙を
図4は,図1に示した18個の図形に対する4
用い,公立小学校の中学年の児童を対象として
年生の正答率を群別に表したものである。図4
調査を行った。但し,調査を依頼した小学校
で,横軸に示したアルファベットは図1の図形
は,同一郡内ではあるが3年生と4年生で調査
に付したものに対応する。長方形先行群は左端
実施校が異なっていた(調査1,2の調査対象
の(a)の図形から右端の(r)に向けて回答し,
校とも異なっていた)。調査の実施時期は,調
不等辺四角形先行群では逆に右端の(r)から(a)
査2とほぼ同時期の2002年6月であった。
に向けて回答していた。
この調査では,図1に示した図形の内,(f)
両群共に正答率が8割を越える図形を左端か
三角形,(a)長方形,(c)台形,(d)「へり」
ら順にみると,(a)長方形,(b)三角形,(d)
の丸い図形,(m)不等辺四角形,(q)不等辺
「へり」の丸い図形,(e)長方形,(f)三角形,
四角形,(r)不等辺四角形((m)と合同)を
(g)三角形,(i)平行四辺形,(k)「へり」の
用いた。この順に図形を提示した問題紙に回答
丸い図形,(1)三角形,(o)三角形,(p)六角
した児童を「三角形先行群」,それとは逆の順
形である。上記以外の図形(台形を含む不等辺
に図形を提示した問題紙に回答した児童を「不
四角形)については,全て長方形先行群より
等辺四角形先行群」ということにする。調査に
も不等辺四角形先行群の方が有意に正答率が高
参加した児童数は,三角形先行群,不等辺四角
い。((c):
生は34名と35名であった。
1
(n):χ2(1
形先行群それぞれ,3年生は37名と35名,4年
=11.09,(m):z2(1)=18.04,
j
(j):χ2(1
χ2(1)=18.72,(h):χ2(1)=12.9&
5.55,(q):z2(1)=15.55
100%
80%
60%
40%
20%
O%
(a)(b)(c)(d)(e)(f)(9)(h)(j)(j)(k)(│)(m)(n)(o)(p)(q)(「」
図 長方形先行群
不等辺四角形先行群
図4 4年生の結果
72
2.4.1全体の結果
方形,及び2群間に有意差のみられた(m)不
正答に1点,誤答にO点を与え(7点満点),
等辺四角形に対する正答者の[そう思ったわけ]
各学年各群の平均値を算出した。図5は,その
の記述内容を分類し,学年及び群ごとに各学年
結果を表したものである(縦軸の数偵は点数を
各群全体に対する割合によって示したものであ
表す)。
る。これらの図で,「三角形群」[不等辺群]は
それぞれ三角形先行群,不等辺四角形先行群を
表す。また,「角の数」「直線の数」は角(ある
6
いは「かど」)や直線の数を理由としてあげ,
例えば「角が4つあるから四角形です」などと
したものである。前者には「頂点の数」,後者
5
には「辺の数」をあげたものが若干名含まれる。
「角と直線」は,角及び直線の数の両方を述ベ
4
たものを表す。「イメージ」は,例えば「四角
形にみえるから」「これは四角形だと思います」
3
3年生
4年生
などの記述を指す。
図5 謳査3の結果
図6,7からも見て取れるように児童の理
由の記述は必ずしも一貫したものではなく図形
この調査の対象校は学年によって異なってい
に依拠して変化している。また,「直線の数」
た。そこで学年ごとに2群間の平均値の差を検
を理由として記述したものは高々3割ほどであ
定したところ,3年生(t(70)=3.90,p<。01)。
るが,4年生の不等辺四角形先行群の(m)で
4年生(t(67)=3.06,p<。01)共に有意な差
は「角の数」を記述したものが半数近くみられ
がみられた。また,図形ごとに2群の結果を検
る。但し,例えば[四角形にみえるから]との
討した。表7,8は,それぞれ3年生,4年生
理由を記述していたとしても,なぜそうみえる
の各図形についての群別の正答率と2群問の正
かを問えば,直線の数などが述べられる可能性
答率の検定結果を表したものである(「三角形
もある。それ故,図6,7の「角の数」や「直
群」「不等辺群」はそれぞれ「三角形先行群」「不
線の数」を示した割合は,最低人数(割合)を
等辺四角形先行群」を表す。表7の(c)と(m)
表していると考えるべきであろう。
は直接確率法による)。
ここで,例えば四角形に対しては「四角形で
す」を選択し,かつ「4本の直線(辺)で囲ま
2.4.2 判断理由の検討
れている」や「角(頂点)が4つある」を理由
図6,7は,比較的正答率の高かった(a)長
としてあげたものを「数値化による判断」と
表7 群別正答率(3年生)
表8 群別正答率(4年生)
図形
三角形群
不等辺群
戸(1)
(f)
86.5%
88.6%
0.07
(a)
91.9%
94.3%
59.5%
97.1%
(d)
94.6%
94.3%
%
I
(m)
ns
**
0.00
ns
三角形群
不等辺群
(D
76.5%
88.6%
97.
37.8%
62.9%
4.50*
37.8%
77.1%
11.33**
1.76
ns
0.19
ns
(a)
88,2%
91.4%
(c)
50.0%
74.3%
4.33*
(d)
76,5%
80.0%
0.13
豺.1%
77,
7.90**
29.4%
51.4%
3.4営
35.3%
57.1%
**
56.8%
戸(1)
ns
%
I
(c)
0.16
ns
図形
(r)
3.3ド
**
*p<.05,
**p<.01
4'
−73−
p <.1
*p<.05
p<.01
3年三角形群
3年不等辺群
4年三角形群
4年不等辺群
O%
20%
40%
60%
認角。数昌直線。数弧角と直線
80%
100%
80%
100%
イメージ
図6 長方形(a)に対する判断理由
3年三角形群
3年不等辺群
4年三角形群
4年不等辺群
o%
20%
40%
60%
図角。数m直線。数訟角と直線
イメージ
不等辺四角形(m)に対する判断理由
いうことにする。典型的な反応の一つとして,
3 考 察
三角形先行群について,最初に提示された(f)
三角形と2番目の(a)長方形には数値化によ
3.1 調査結果の要約
る判断を記述し,(d)三角形でも四角形でも
三角形や四角形は,基本的な図形であり図形
ない図形を除く4個の不等辺四角形については
概念である。一方,少なくとも日常生活では,
「三角形でも四角形でもない」を選択したもの
それらの図形をイメージによって判断しても生
の人数(群全体に対する割合)をみると,3年
活に大きな支障をきたすことはない。そのた
生は5名(13.5%),4年生は7名(20.6%)であっ
め,三角形や四角形の判断に対するつまづきは
た。他にも様々な正答・誤答及びその理由の記
顕在化することなく保持されることにもなるの
述のパターンがみられる。
であろう。以下に,三つの調査を通して明らか
なお,不等辺四角形に対して[三角形でも四
になった事項を要約して示す。
角形でもない]を選択したものが数値化による
判断理由を全く考えていなかったというわけで
①全般的に三角形や[三角形でも四角形でもな
はない。そのようなものの「わけ」への記述を
い形]の正答率は高く,問題は四角形の弁別
みると,例えば(m)に対しては「変な形だか
にある。
ら」といった記述が多いが,「4本とも長さが
②中学年,特に4年生の三角形・長方形先行群
ちがうから」,[ ゛ ・。形が
の正答率は不等辺四角形先行群に比して有意
へんだからです。](取消線も原文通り),「四角
に低い。
形のように四角ある(ママ)けどちょっとちがう」
③4年生の三角形・長方形先行群の(c)台形に
などもみられる(4年生三角形先行群の児童)。
対する正答率はおおよそ25∼50%である。一
方,4年生の不等辺四角形先行群では,(c)
の正答率はおおよそ60∼80%である。
④4年生の三角形先行群で,三角形や長方形に
ついては数値化による判断を記述していても
−74−
不等辺四角形に対してはそうではないものが
よって,四角形ではないと判断されるか,既習
みられる(調査3)。
事項である角や直線の数に依拠した判断基準が
⑤合同な図形については,3,4年生で図形の
喚起され四角形であると判断される。一方,三
位置によって正答率が異なるものもみられ
角形・長方形先行群では,長方形のイメージを
る。
もとに判断するため,長方形に対する正答率は
⑥不等辺四角形の中でも特に(n)や(q)の
高い。しかし,その後提示される不等辺四角形
正答率が低い。
については,児童の把持しているイメージに一
致しないため正答率は低くなる。特に先に長方
但し,三つの調査の実施時期や教育諜程など
形が提示された場合,それによって四角形のイ
の背景は,やや異なっていた。調査1は,旧指
メージが一層固定化され,それがその後の不等
導要領のもとで,その学年で扱われる事項をほ
辺四角形の弁別には阻害要因として作用する。
ぼ学習し終えた時期に実施された。調査2,3
一方,5年生以降になると図形に関する学習
は,新学習指導要領実施初年度に学年が始
も進み,それに伴って数値化による判断が再度
まって3ヶ月ほどの時点で実施された。そのた
優位になることが推測される。
め,児童は,その学年で扱われる図形領域の内
ところで,調査3の「わけ」の分布(図6,7)
容を学習してはいなかった。また,それぞれの
をみると,不等辺四角形先行群に「イメージ」
調査実施校は異なっていた。背景は異なるもの
による記述がやや多い。先に示した[尋4み再
の,第2学年で「三角形・四角形」が扱われて
←形がへんだからです]との
以降,三角形・四角形を弁別する数学的観点が
記述にみられるようにそれはイメージによる
十分に定着しているとは必ずしもいえないこと
判断と数値化による判断の葛藤を示すものとも
は共通している。
考えられるが,その詳絹については今後検討す
以下では,図形の提示順序が児童の図形弁別
べき点の一つである。
に与えた影響を中心に検討し,「図形」を扱う
授業への示唆及び今後の検討課題に言及する。
3.3「図形」の授業に対する示峻
小学校第2学年での「三角形・四角形」の扱
3.2 図形の提示順序による影響
いについて,長谷川らは,「三角形のようにみ
前項の②③①から,第2学年で「三角形・四
える四角形作り」などの活動やジオボードを用
角形」を学習して以降の中学年,特に4年生の
いた活動が「三角形・四角形」の学習に有効で
児童の四角形の判断基準は不安定であり(中原
あることを報告している(長谷川・高橋,1991:
のいう⑤:イメージと論理が混在する段階),
長谷川・香川,1994)。しかし,第2学年以降,
提示される図形によって数値化による判断とイ
三角形や四角形などの基本的な図形概念が扱わ
メージによるそれの何れかが活性化される状態
れる機会が少なくなるに従って児童の把持して
にあるといえよう。いうまでもなく,これは中
いた数値化による判断が後退し,それとイメー
学年の児童に独自の問題ではない。調査結果か
ジによる判断とが混在する状態に至っている。
らも分かるように高学年でも同様の児童がみ
そうであれば,第2学年以降においても,図形
られることには留意する必要がある。
領域の学習場面では無論,面積の学習など多角
また,③から,4年生の多くの児童は,四
形が扱われる際には,当該の図形は何角形と
角形であるかどうかを長方形のイメージをも
いったらいいか,その理由は何かなどを問うこ
とに判断していることが推測される。このこ
とによって,数値化による判断への注意を継続
とから,②の原因として以下のことが推渕され
して喚起することが求められる。さらに数値化
る。すなわち,先に不等辺四角形が提示された
による判断の中でも,当該の図形の「へり」は
場合(不等辺四角形先行群),図形の新奇性に
直線であることを確認しつつ,辺の数による判
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断を行う様々な機会を設ける必要がある。それ
謝辞 調査の趣旨をご理解下さりご協力をいた
によって,凸図形だけではなく凹図形も含めた
だきました各小学校の校長先生,担任の先生に
一般のn角形の概念理解や,数学的根拠をもと
お礼を申し上げます。また,調査に参加して下
にして判断することの重要性の理解を促すこと
さった児童の皆さんにもお礼を中します。
ができる。
ところで,調査3では「わけ」も記述させて
文 献
いた。そのため,提示されたそれぞれの図形に
伏見陽児(1990)「焦点事例の違いが児童の図形概念
対して正反応をし,かつ数値化による判断を記
の学習に及ぼす効果」シオン短期大学研究紀要,
述した児童については,「わけ」の記述は数学
第30号,pp.121-130
的判断基準の意識化を促進するものであったは
伏見陽児(1992)「提示事例の配列順序の違いが幼児
ずである。しかし特に三角形先行群では,例え
の図形概念の学習に及ぼす効果」茨城キリスト
ば長方形に対して数値化による適切な判断を
教大学紀要,第26号,pp.59-73
行ったとしても,それが不等辺四角形の判断に
伏見陽児・麻柄啓一(1986)「図形概念の学習に及ぽ
対して有効に機能したとは言い難い。授業では
す発問系列の違いの効果」東北教育心理学研究,
[わけ]をノートに記述させる場面は多いが,
第1巻,pp.1-9
授業に先立って行われる敦材研究では,どのよ
長谷川順一(1985)「初等段階における図形の概念形
うな事例をもとに判断させようとするか,どの
成に関する一考察」西日本数学教育学会数学教
ような図形をどのような順序で提示するかが重
育学研究紀要,第11号,pp.98-103
要な検討諜題であることを,本調査の結果は示
長谷川順一・高橋浩司(1991)「事例研究:小学校第
している。
2学年『三角形・四角形』の導入について」香川
三角形や四角形といった基本的な図形に対し
大学教育実践研究,第16号,pp.63-72
て数学的な判断がなし得るようになることは,
長谷川顛一・香川朋子(1994)「ジオボードをもとに
数学的な根拠を踏まえつつ,図形の相互関係や
した『三角形・四角形』の展開」日本数学教育学
包摂関係などを理解するための基礎をなすもの
会誌,第76巻第12号,pp.18-22
である。児童の直観的判断を,イメージによる
麻柄啓一・伏見陽児(1982)「図形概念の学習に及ぼ
ものから算数・数学に基礎づけられたそれへと
す焦点事例の違いの効果」教育心理学研究,第
転換していくことは,算数・数学敦育の重要な
30巻第2号,pp.147-151
課題の一つである。この点も含め,第2学年以
中原忠男(1995)「算数・数学教育における構成的ア
降の児童に対する図形概念の確立を目標とした
プローチの研究」聖文社,pp.290-320
実践的研究は今後の課題としたい。
(本研究をまとめるにあたり,一部科学研究費からの
補助を得た)
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