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DDSが薬の概念を変える

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DDSが薬の概念を変える
サイズ制御で解決できることが分かってきました。
つまり、
サイズを
10 nm刻みで変えることにより、たどり着く細胞が変わることが
明らかになったのです。
狙った細胞へと
自由自在に薬を届ける
このようにして、これまで治療が難しかった病気に対しても、
がんも治る病気になる
ナノキャリアを用いることで狙った細胞へと薬を届けることが
可能になってきました。
今は主にがんの治療に用いられていますが、
例えば、がんは今や国民の2人に1人がかかる病気です。その
今後はさらにナノキャリアの構造を変えることで、脳や肝臓など
治療において、
本来は自分の細胞であるがん細胞のみに抗がん剤を
狙った臓器へと薬を届けることが可能になると思います。
そして、
届けることが難しく、深刻な副作用を引き起こすことが問題で
ナノキャリアに入れる薬を変えることで、アルツハイマー病や
した。しかし、ナノキャリアを用いることで正常細胞を傷つける
パーキンソン病など、
現在では治療困難な病気の治療法が飛躍的に
ことなくがん細胞のみをピンポイントで攻撃できることが分かった
発展するでしょう。
私はこの先10年程度でこの技術が確立されると
のです。
予想しています。
この理由はがんの周りの血管構造にあります。正常な細胞より
成長の早いがん細胞は、多くの酸素と栄養を必要とするために
新しい血管を周囲から引っ張ってくることが知られています。
そしてこの血管は、栄養と酸素が透過しやすいように、壁を構成
する細胞の間がすかすかで、正常な血管より大きな約100nmの
穴が開いているのです。そのため、この穴より小さな数十nmの
ナノキャリアを作って中に薬を入れると、血中を循環した際に、
がんによりできた血管の壁のみを通り抜けることができ、がん
細胞のみに薬を集積させることができます。
予言
es
Prophéti
DDSが薬の概念を変える
そんな魔法のようなことが
近い未来、
体の好きな場所に好きなものを届ける。
薬の概念が少しずつ
片岡先生のナノキャリアにより、
できるかもしれない。
変わり始めている。
ナノキャリアが全身を巡りながらがんのあるところだけに
集積していくため、各臓器のがんだけでなく、今までは見つける
ことが難しかった転移がんの治療も行うことができ、がんの5年
生存率を大幅に上げることができると期待されます。
生体内で起こっていることが
リアルタイムでわかる
さらに10∼15年経つと、
次はもっと大きな分野へのインパクトが
予想されます。
体の中で起こっていることを知るために、これまでは血液など
体の一部を取り出して調べていました。
しかしこれからは、
好きな
分子を体内の好きな場所へと行かせられる。
だから、
ある遺伝子が
活性化された時だけ光るような分子をナノキャリアにいれ、その
光を体外から検知することで、生体内の現象をリアルタイムで
知ることができるようになります。
つまり医療診断の方法が大きく
変わる可能性があります。体の中で起こっている現象を知る方法
ナノキャリアはトロイの木馬
論としてDDSが役立つのです。
ナノキャリアに薬を入れるメリットがもう一つあります。
それは
改変することばかりを行なってきました。これからの時代は、
ナノキャリア自体を細胞内へと取り込ませることが可能な点で
す。従来の薬はまず細胞外に存在し、その後細胞内に入ってはじ
めて機能を発揮します。そのため、細胞膜と呼ばれる細胞のバリ
アを通る必要があり、
細胞膜を通れない分子や、
細胞外で不安定な
これまでの薬作りは、分子の構造を変化させ、薬自体の機能を
薬を目的のところに届けて機能させることが重要になってくる
のです。DDS技術の発展なしにはこれからの創薬の発展はあり
得ません。
そういった意味で、
DDSはこれまでの薬の概念を変えると
私は予想しています。
分子は薬として機能できません。
しかしナノキャリアに入れることで、エンドサイトーシスと
いう経路を介してナノキャリアごと細胞内に取り込ませることが
可能になります。
「トロイの木馬」のように、細胞の中に取り込ま
副作用のない薬を
れてもナノキャリアの状態で存在し、細胞核近くに達した瞬間に
ナノキャリアが壊れるのです。核酸医薬や遺伝子は、細胞核に
私はDDS(ドラッグデリバリーシステム)、つまり薬を必要な
中のウイルスに着目しました。
ウイルスは、
自身の遺伝子がそのままで
場所で、必要な時に、必要な量だけ機能させるシステムの研究を
は生体中で安定に存在できないため、
キャプシドと呼ばれる数十nm
行なっています。薬は、例えばがん細胞のような異常な細胞(目的
(1ナノは100万分の1ミリ)
のカプセルの中に格納させた状態で体内を
細胞)
を攻撃することで病気を治療しますが、
最大の問題は人体に
移動します。
そこで、
同じように数十 nmのカプセルを人工的に作り、
投与した際に、目的細胞以外の正常細胞にも薬が行き攻撃して
ナノキャリア
(小さな運搬体)
として中に薬を入れることを考えたのです。
届ける必要があるため薬として機能させることは困難でしたが、
この方法なら細胞核の近くで一気に薬を放出できます。従来の
方法で投与しただけでは効かなかったこれらの薬も細胞内へ
送ることができ、
薬として機能させることが可能になるのです。
しまうことです。
これは副作用や、
薬の無駄につながります。
これに
対する一番単純な解決方法は目的細胞のみに薬を届けることで
すが、薬自体にそのような機能はない。だから人の手でそうした
機能を付けてやる必要があるのです。
生体へのアポロ計画
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三つの壁を超えて目的の細胞へ
ナノキャリアを目的の細胞へと届けるためには三つの壁があり
ました。
一つ目は、
体内に投与しても安全・安定でなければならない
ことです。これに対しては、ポリエチレングリコールという生体適
合性に優れた高分子をナノキャリアの材料に用いることで、生体
私の目標は、
静脈投与により全身の血流を巡る薬を、
目的臓器の目的
内でも長時間にわたって安定に存在させることができました。
細胞のみに集積させることです。
これはいわば人体という小宇宙の
二つ目として、全身の血流を巡るナノキャリアを目的の臓器に
中で、
細胞まで薬を届けるアポロ計画なのです。
そして現時点でかなりの
集積させる必要があります。さらに目的の臓器に集積できても、
ところまで実現しつつあります。
臓器の中の目的の細胞へとナノキャリアを届けなければ効果は
目的の細胞へと薬を届けるためにはどうすればいいか。
私はまず生体
得られません。
これが最後の壁です。
この二つの壁はナノキャリアの
片岡 一則 教授
KAZUNORI KATAOKA
所属/工学系研究科マテリアル工学専攻、工学系研究科バイオエンジニアリング専攻 協力教員、医学系研究科附属疾
患生命工学センター臨床医工学部門(兼任)
1974年 東京大学工学部合成化学科卒業、1979年 東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了 工学博士
東京女子医科大学助手、助教授、東京理科大学教授を経て、1998年より現職。2001年より2004年まで独立行政法人物
質・材料研究機構生体材料研究センターディレクター併任。2004年より東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工
学センター教授を併任。2005年より東京大学ナノバイオ・インテグレーション研究拠点リーダー。この間、1992年、
1996年とパリ大学客員教授。
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