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認知発達障害の ある子どもは - HUSCAP

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認知発達障害の ある子どもは - HUSCAP
Title
適応困難メカニズムの解明をめざして:認知発達障害の
ある子どもは、なぜ新しい環境に慣れにくいのか
Author(s)
大松, 絵美; 片桐, 正敏; 澤木, 梨沙; 蔦森, 英史; 牧, 孝幸; 増
子, 梨絵; 室橋, 春光
Citation
Issue Date
DOI
Doc URL
北海道大学大学院教育学研究科紀要, 96: 167-225
2005-06
10.14943/b.edu.96.167
http://hdl.handle.net/2115/28960
Right
Type
bulletin
Additional
Information
File
Information
96_P167-225.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
北海道大学大学院教育学研究科
紀婆第
1
6
7
9
6号 2
0
0
5i
f
.6月
適応困難メカニズムの解明をめざして
一一認知発達障害のある子どもは,なぜ新しい環境に慣れにくいのか
英史光
絵英春
松森橋
大蔦
j
少*
片桐正敏*
j
畢木梨
牧 孝
増子梨絵*
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[姿 ~l 認知機能の獲得とその使用に何らかの図難さをもち,環境に適応することに課題を
有するこどもやおとなへの対応の方法を採るため,種々の課題においてその生物学的側頭
からの分析と検討の方法について考察した。特殊教育・臨床心理学研究グループにおける
理論化と検討の歩みを概観した後,目ヨ難のありかたに応じた分析と検討を試みた。さきま百の
対象とした降客は,自閉症,
注意欠協多動性障害,半側空間無視,であり,反
I)などを検討手段として用いた。新しい環境
応、時間,心拍,機能的核磁気共鳴画像 (fMR
に適応するためには,適切な党首星水準とその維持のための調節機能,対象と自己の関係把
握に関わる空間情報の処理機能,脳の局所的処理を統合するための高次情報処理機能,円
滑な笑行のための系列処理化機能,適切な目標達成のための行動制御機能,などが必要で、
あり,これらの機能獲得のありかたや認知発達の諸相におけるこれらの機能のありかたに
ついて,さらなる解明が求められる。
{キーワード 1~~い統合処理機能,最適遂行水準,覚醒認節障害,系列学習,空間認知機能,
行動制御機能
鰭雷
私たち特殊教育・臨床心理学研究グループは,奥田三郎教授の特殊教育講産開設以来,適応
臨畿のメカニズム解明,特に視知覚系を軸とした適応メカニズムの検討を行ってきた。適応の
圏難は,生体を取り巻く環境に対して,主体的に対応することを妨げる事態が生体内に生じて
いることを基礎として発生する。私たちは,まず,その生物学的恭盤を捉える方法を求めて研
*北海道大学大学院教育学研究科教育臨床講座修士課税(特殊教育・臨床心理学研究クゃループ)
村北海道大学大学院教育学研究科教脊臨床言語版教授(特殊教脊・臨床心理学研究グソレープ)
1
6
8
究を続けてきた。
私たちが現在取り組んでいるメインテーマは,認知機能の獲得あるいはその使用になんらか
の困難さをもち,環境に適応することに課題を有している子どもやおとなたちへの対応の方法
を探ることである。適応を妨げる要因は,生物学的要因から社会的要因まで存在し,それらの
相互作用の結果として,適応の困難は発生する。
私たちは,現在,認知発達に課題をもっ子どもたちと毎週土緩 Bにかかわりながら,その前
後に議論を積み重ね,一人ひとりの子どもの適応メカニズムについて思案し,対応方法を検討
しようとしている。あるいは,視知覚系における適応の問題,例えば,半側空間無視といった
ありかたをさぐる道を検討しようとしている。
子どもたちが抱えるものは,人間関係のつまづきであり,学ぶことの難しきである。子ども
たちは,通常,新しいものを求め,世界に羽ばたく存在であることを期待される。しかし,発
達にかかわる困難を有する彼らの多くが,新しい環境におかれて戸惑い,自らの評価を下げる。
成人が障害をもっ場合においても,事情は同じである。
私たちは,発達期に生ずる認知障害の難しさにたじろぎながら
r
人Jの本質を時折垣間見せ
る彼らのふるまいに惹かれ,彼らに学ぶことを続けてきた。
私たちがみている子どもたちは,広い意味で認知発達にかかわる囲難さを抱えている。学習
障害,注意欠陥多動性障害,高機能自関痕,高次脳機能障害などと呼ばれるありかたである。
近年,これらの嘩害の一部は軽度発達障害と括られることもあるが,軽度と震度の違いは,行
動範囲に関わる量的差異を反映はするが,生活の困難さの違いを示すものではない。これらの
を抱える子どもあるいはおとなたちの,新しい環境に対する適応、困難のあり得るメカニズ
ムについて,私たちは議論しあい,対応を考えようとしてきた。新しい環境とは何か慶応と
は何か,またその国難とは何か……これらの問題を考えることは,その披本からの検討を迫る
ものでもある。我々は,これらの議論を基に,生物学的レベルでのメカニズム解明を目指し,
より確かな対応方法を見いだす道を選ぴ,検討を続けてきた。
本小論は,本研究グループに所属する修士課程 1王子の諸君を中心とした,未熟で、はあるが,
さまざまな子どもやおとなたちへの臨床的対応と,実験的手法をベースとした論理とのせめぎ
合いの中から生み出された,ささやかな議論の記錬の一部である o ここに拙い文章ではあるが,
日頃躍めているアイデアを集め,披漉して広く意見を求めたいと思うものである。
1
6
9
適応関難メカニズムの解明をめ Fして
本論文の構成は以下の通りである。
第 1節適応、国難メカニズムの解明への道のり
特殊教育・臨床心理学研究グループ。の歩み
第 2節
軽度発達時書をもっ子どもの新しい環境における適応の問題について
一一「自閉疲スペクトラム j に位置する子どもたちを念頭に一一
第 3節
(室橋春光)
発達障害児の最適遂行水準維持の難しさと環境適応の問題
(片梱正敏)
(増子梨絵)
第 4節新しい環境への苦手さと,常時行動・こだわり
一一自問症児の覚醒調節の障害からのアプローチ
第 S節
(大松絵美)
学習障害見における新しい環境への適応の困難さ
一一系列学習との関連性
(蔦森英史)
第 6節 新 し い 環 境 に 適 応 す る こ と に 関 す る 考 察
一一半側空間無視の 1
)ハビリテーションを通しての検討一一
第
(
牧
7節 認知的文脈により顕在f
ちする AD/HDの国難性と教育的支設の可能性
AD/HD症状の程度で異なる健常成人の行動抑制時における神経活動
O~妻木梨沙)
1
7
0
第 1範
適応、困難メカニズムの解明への道のり
一一特殊教育・臨床心理学研究グループの歩み
橋春光
奥田(19
6
7
) は,生物学的存在である、ヒトグが B常的存在である、人グとなり,さらに価
値的存在である、人間グとなる過程において,臨床心理学的治療 l
土、人グレベルで行われると
した。「、ヒドは,通常,、人グとして,自我意識性と社会意識性とに特徴づけられる心制と体
制とが相呼応しつつ,いわゆる社会的動物として行動し,社会生活裡に具体的生をいとなむ J
のである
r
適応異常とよばれる、人グの行動形態を変容し,正常化させる条件の設定を案出工
夫すること」が,臨床心理学の課題である。そのためには
r
適応異常についての科学的体系と,
それに即応する治療技術体系の確立」が必要で、ある。しかし
r
今日の実験心理学としての行動
学は,診断治療に,依拠するに足る基礎学として役立っていない」ために,その道のりは長く
険しいものとなることが想定された。
1
9
7
2
)は
狩野・北島 (
い」であり
r
適応障害の診断と処置を科学として位置づけることが教室共通の希
r
心理検査,診断技法,処寵法を厳格に適用し検討を加え,理論の妥当さを吟味し
て改善をはかり自らの知見を提出することが課題」であるとした。しかし
r
通常理論の多くは
概念規定が不明確で、検証しうる手続きに欠け,症状の推移の解釈にとどまる診断技法は,治療
を指示しうる特定性をもたず,多義的な障害分類の範簡を出ない j のである。
適応障害についての科学的体系の基礎となるべき心理学は,心的過程が受容し産出する機構
fiiJを,どのように受け取
を問題としてとりあげる方法を育ててきたといえる o それはいわば, r
1
9
7
2
) は,臨床心理学においては別の問題
るか」という問題のたてかたである。狩野・北島 (
のたてかたがあるとする。それは,くかかわりの強さ>,刺激との接触の強度であり,結合の時
間性という視点である
rひとのひとにたいする関係の強きの時間性,ひとの事物に対する関係
の強さの時間性,この関与によって生ずる変遷に注目した」のである。適応に困難を示す子ど
もたちは,環境にどのようにかかわるのか,その子どもにとってなにがく刺激的〉であり,そ
の接触のありかたは時間とともにどのように変移するのか。このありさまを分析し検討するこ
とが,適応の閤難のメカニズムの解明の糸口となる o 刺激とかかわりをもつことは,きわめて
1
9
7
2
) は,刺激との接触の強さを測定する
基礎的な生物に共有する事象である。狩野・北島 (
示標として,脳波,とくに α 波を選んだ。「脳波は,心の内容でなく,少なくとも,心の動きの
強さについて語りうるものをもっ」と信じたのである。
1
9
6
7
)は,生活体を構造としてとらえ,内外の条件を絶えず調整する系として規定し,
狩野 (
一定の状況の作用のなかで適応の組艇を修正し自らの活動の仕組を変容すると想、定した。環境
とのかかわりは感覚器官を通じて行われるが,動物においては視覚系が通常,重要な役割を果
たしている。環境とのかかわりにおいて適応の凱麟は,課題として生体内に生じる。視知覚系
刺激に即応し,事笑を反映する性質と刺激の特徴を概括し,安定する対象規定の性質とを
は r
備える」。視知覚系における課題解決は,系内においては必然的に生ずる過程であり,矛盾の解
消される方向に調整が進行して系内の安定化がはかられる。しかし,視知党系は生活体として
1
7
1
適応図難メカニズムの解明をめざして
の直接的な課題解決をなしえず,それは生活体内の諸系の結合のしかたを変える学習によって
可能となる。これは,最も基本的な知的機能の発現でもある(狩野, 1
9
6
7
)。
北島(19
6
5
) は,認知処理の初発点と終末点ともいえる定位反射と慣れの概念を,知覚博報
処理過程として検討した。 S
okolov(
1
9
6
3
) の定位反射成立機構の神経モデルを出発点として,
間式系の心理学的モデルを想定した。知覚情報処理系には,多次元的な図式が含まれ,有機体
が出会った刺激布援の一部あるいは大部分が国式と整合しないとき,定位反応を生ずる。新奇
な布置をもっ入力刺激は図式と葛藤を生じ,皮質活動の機能的水準を動揺させ,皮質下賦活系
との調和が破壊されて情緒的行動を発現させることになる。
狩野・北島(19
7
2
) は,視知覚の発動と衰退のメカニズムと概念化の進行についての理論的
検討と,課題解決機構のモデル化を試みた。積れの過程は
r
虫色えず変動する環境刺激のうちの
恒常性を把持し,浮動する無意味刺激を棄却し,生体内部の安定をはかり,自捧性の形成に資
するとともに,刺激の一般イむを可能とする道につながる J のであり,この微細な認知プロセス
の中に学習の基礎的メカニズムを想定しうる。この想定のもとに,規知覚の発動と衰退の過程
がモデル化された。すなわち,
i)視知覚の活動の強度は,適応機構解発の条件に依存する。
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sに依存する。
i
i
) 視知覚の進行は,刺激受容の準備態 r
r
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rとして発動し,先行学習により過剰学潔
視知覚活動は,警報的役割をもっ差奥反応を t
された視覚性概念の影響を受ける。「ひとの集団の形成する共同生活空間において,刺激の特定
局面の構造を選択的に対象化し,環境の中に位置をあたえる活動を基礎とし,ここでは,ひと
の成長にともなう言語系からの知覚への規定が大きい」のである。そして,視知覚活動の賦活
の持続は,料激の複雑度と準備態の関係に依存する。準備態は
理にさいしての認知の広がりと
r
活動の賦活度として,刺激処
したものの利用の効率に対応する。すなわち意識水準,
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eの程度として記述しうる J。また準備態は
r
刺激一反応の学留度,熟知
度,先行経験の保存と概念化の内容にかかわる J
o
モテソレと作業仮説を基盤として一連の実験群が組織され, α 波を示擦とした桟知覚活動の分
9
7
0年代には,刺激出現に対応して脳活動が生起することの電気生理学
析と検討が進行した。 1
的表現である誘発電位の測定技法が発展した。狩野・北島 (
1
9
7
2
) の理念を継承し,誘発電位
を新たな示標とした視知覚活動の微調的分析が開始され,知覚融合に関する新知見の提出と
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)。
なって結実した (
(
1
9
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2, 1
9
9
5
) は,知覚との対応が比較的明確な規覚誘発電イ立を,心理学の対象としての
視知覚機構を探究する道具として捉え,視知覚と視覚誘発電位との関係を詳細に論じた。視覚
誘発電位・事象関連電位を指標とした視知覚の微視的発生ならび、に成立過程の解明は,当研究
グループにおいて継続的に検討され今日に至っている。
主主橋 (
1
9
8
4
a,b
)は,視覚誘発電位研究に基づく視知覚成立過程の図式的モデルを提案した。
前頭・中心あるいは頭頂領導出の潜時 1
00-300msの陰性及び陽性成分は,視覚性図式モデル
における原型形成相を担う神経活動に必要な,脳内状態の変動を反映する。また後頭領導出の
j
替持
150-300msの陰性及び陽性成分は,視覚性関式形成相を担う神経活動に必要な脳内状態
の変動を反映する。そして課題刺激の反援呈示法を用いた実験群の結果から,後頭領より導出
される頂点潜時 2
7
0ms近辺の楊性成分が,国式の基本的構成原則を原型に委ねさせる保護機
能を反映すると想定した。室橋 (
1
9
9
5
) は,精神遅滞をもっ子どもへの適用を試み,課題解決
1
7
2
に向けた認知成立により多くの活動と時間を要すること,特に原型形成が課題に適したかたち
で行われにくいことを恕定した。
1
9
9
5
)は
吉塚 (
i発達障害とは大脳回路構築とその機能不全で、あり,辺縁系制j
締による適応
行動の田復が大目巡回路網に機能を与え,整イ蔵をもたられと考えた。発達期における脳内神経
団路網の構築については,今なお不明なことがらが多く存在する
O
初期に構築される皮質下系
と,皮賛下系および生後環境の影響を受けながら徐々に形成されていく大脳皮質系は,相互作
沼をもちつつ独自の機能を自己組織化する。神経由路網の構築における発達障害のありかたを
知ることが,特に発達初期における対応のありかたを考えることにつながるであろう。
生体における神経団路構築の詳細を知ることが園難な現在, Hebb(
1
9
4
9
)の理念を継承する
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tたちの回路網形成にかかわる理論化とシュミレーションの試みは,検討のひと
つのありかたである(日 man
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2
)の概念が,発達
蹄害における遺怯子機能と環境の相互作用過桂のありかたについても,示唆を与えるであろう。
とは,すぐれて社会心理学・社会科学の対象ではあるが,社会的通念でしかない。 WHO
による国際生活機能分類 (
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ICF) が示すように,人の構造と機能にありかたに対して社会の諜する制限・制約が「障害」な
のである。「障答」に対して完結する生物学的モデルは存在しないのであり,脳内諸系のコミュ
ニケーションにかかわる特性と杜会環境の相互作用のありかたのちがいが,社会による制限・
制約を生ぜしめるのである。
本研究グループでは,生活体がいかに脳内諸系の調整を行いながら環境との i
慶応をはかろう
としているのか,
という視点から心理学的基礎モデルを構築してきた。今後は,ある環境にお
ける脳内諾系の調盤のありかたとその困難きが生ずる場合について,具体的に分析・検討を進
める必要があろう。
ADHD,自閉症,精神遅滞をはじめとした,認知発達における調整の臨難さに関
0年の簡に飛躍的に増加した。機能的核磁気共鳴画像法や高密度事象関連電
わる研究は,この 1
位制定法などの新たな脳活動の概定技術により,脳内諾系のコミュニケーションのありかたを
具体的に分析することも可能になってきた。それらの技指の成果として,脳内諸系簡の調整の
閤難さを説明しようとするモデルが数多く提案され,活発な議論が行われている。本研究グルー
プにおける,より妥当性の高いモデルの提案と支援技術の開発には,いまだ道は遠い。臨床的
事例検討による適応圏難の本質的理解と,それに迫りうる諜題設定に基づいた調整メカニズム
の検討を行いながら,脳内諾系と環境問の調整国難のありかたのモデル構築に向けて努力して
いきたい。
[引用文献]
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古塚孝 (
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学習の恭礎理論系と脳波資料の集積
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北海遊大学教育学部紀婆, 1
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) 適応機能としてみた字見知覚活動の特性について
祝党誘発言窓伎を示擦とした課題解決事態
における視知覚成立過程の分析一ーその 1 北海道大学教育学部紀要, 4
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視知覚活動の分析一一北海道大学教育学部紀婆, 6
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i
o
nw
i
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ho
f
fr
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st
op
r
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m
u
l
a
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i
o
n
.V
i
s
i
o
nR
e
s
e
a
r
c
h,1
5,2
6
7
2
7
2
.
経(19
9
2
) 祝知覚と視覚誘発電位(I) 北海道大学教育学部品己要, 5
7,2
9
1
1
6
.
句
諸富
諸富
陵 (
1
9
9
5
) 祝知覚と視覚誘発泡位 (
I
I
) 北海道大学教育学部紀要, 6
7, 1
9
5
2
1
7
.
奥間三郎(19
6
7
) 臨床心理学における、人。の問題 北海道大学教育学部紀委, 1
3, 3
41
.
Sokolov,Y
e
.N
.(
1
9
6
3
)P
e
r
c
e
p
t
i
o
nandt
h
巴c
o
n
d
i
t
i
o
n
巴dr
e
f
l
e
x
.PergamonP
r
.
1
7
4
第 2節
軽度発達障害をもっ子どもの新しい環境における
適応の問題について
…ー「自期症スペクトラム J に位援する子どもたちを念頭に一一
片桐正敏
1.はじめに
「どうして軽度発達障警をもっ子どもたちは, うまく環境に適応することが難しいのか?J
この聞いと,そしてその間いに対する答えを解決する方略は,障害児教育を,とりわけ軽度
発達障害を持つ子どもたちを支援している支援者(サボーター)にとって永遠に解決されない
かもしれない課題であると同時に,常に追い求めなければならない課題でもある。障害児教育
にかかわる研究の目的は,この命題と戦っている現場の臨床家に対して,支接の方略を提案す
ることにある。すべての子どもたちに適応可能な一般f
ちした方略を提案できれば良いが,それ
は不可能で、ある。素靖らしく魅力的であり,時には放符である,一人ひとり違った人間という
生物に対して,どのようなアプローチが有効かと尋ねられれば,その人,その人にあった方法
を丁寧に考えてゆくことしかない, と答えるしかないであろっ。ただ,その人にあった方法を
支援者が考えやすくするよう援助することはできるかもしれない。そのような枠組みを作るこ
とが私たちの課題であろう。
第 2節では,環境の i
慶応が難しい軽度発達障害を持つ子どもたち(特に高機能自閉症,アス
ペルガー症候群および「非言語性学習障害」など
I自閉症スペクトラム」に位置する子どもた
ち)を念頭に置きながら,社会的な環境の読みとりについてこれまで、挙がっている理論を検証
し,環境の適応性の困難さについて考察する。
2.環境適応の由難な諸原閤
軽震発達欝害(特に「自閉症スペクトラム J
) を持つ子どもたちの環境適応の失敗例を挙げて
みたい。身近な例として学校現場では以下のような問題が見られる。
-今までとは違う!蓄に盛ることができない
・突然の予定変更に対応、できない(パニックになってしまう)
.指示通り動けない
・新しい集留に入れない
-珂じ行動しかとれない,または会〈違う行動をとる
・相手の気持ちを読んで、,対応を考えられない→トラブルを起こしてしまう
いずれも私が経験した例である。共通するのは,学校という一つの社会的なコミュニティを
形成している場において,上手く状況を理解して,その場に郎した行動を取るのが難しいとい
うことである。彼らの抱える開題としては,不安の問題(不安の強引,場の理解,状況の理解,
他者の気持ちの理解が難しい,強い固執性(こだわり),フレキシビリティ,人間関係の開題,
複雑な環境の問題,般化の問題などを一般的に挙げることができるが,その中でも場の理解,
適応関難メカニズムの解明をめざして
1
7
5
状況の理解,他者の気持ちの理解が難しいという印象がある o F
r
i
t
h(
1
9
8
9
) は「分担と協力,
謝る,約束をして守る,ものを借りて返す,衝動のコントロール,親しさの程度に応じた接し
方」が統制群と比べて得点が低<, '自閉症見が他人の感情反応を理解する能力は,意味が特別
できる感情表現をする能力とともに,特に劣る J ことを挙げ,対人コミュニケーションの障害
が中核症状であると指摘した。軽度発達障害(自閉症スペクトラム)は認知障害であり,発達
障害であると考えるならば,彼ら,彼女らの認知発達,さらには神経科学的な恭盤をはっきり
と捉えた上でのエビデンスに基づいた治療教育が求められる。現在,自閉症における代表的な
認知発達における障害の考え方として以下のようなものがある o
-心の理論・共同注意の揮害叙説,マインドブラインドネス仮説 (
B
a
r
o
n心 ohen
,1
9
8
5, 1
9
9
5,
F
r
i
t
h
,2
0
0
1など)
O
z
o
n
o
f
f
,1
9
9
1など)
・実行機能障害仮説 (
s
・ い中柾性統合仮説 (
F
r
i
t
h
,1
9
8
9, Happe, 1
9
9
4など)
W
i
l
l
i
a
m
s, 2
0
0
1など)
・模倣の発達障害仮説 (
・視覚処理系の障害仮説 (
G
e
p
n
e
re
ta
,
.
l 2
0
0
2,班i
l
n
e,2
0
0
2など)
その他,諾用論的な問題や感情認知障害仮説などもあり(石坂, 1
9
9
8
),仮説の多さは,それ
だけ自閉症の難しさを物語っている。
また脳神経科学的な問題として,前頭葉機能不全仮説のほか,扇桃体障害仮説,脳幹欝害仮
説,小脳障害仮説,頭頂葉障害仮説などが提案されているが,本小論では主に認知発達的な開
題に触れ,必要に応じてこれらの問題を参照することとする o
基本的には,どこかに一つの責任病巣があり,そこの問題とするのではなし複数にまたがっ
ており,それがさらに多様な臨床像として顕現すると考えるのが妥当である。また,子どもた
ちは常に成長しており,何らかの療育や教育など環境の要因を受けて育っているため,仮に脳
における特定の責任病巣があったとしても,成人の脳損傷による障害とは明確に異なる。
3.蕊閉症研究から認知発達を考える
Baron-Cohen(
1
9
9
5
)は,共陪(共有)注意、は独立した認知モジュール SAM(
S
h
a
r
e
d
A
t
t
e
n
t
i
o
n
Mechanism)によって担われており,他者の知覚状態に関するあらゆる有用な情報を用いて三
項関係を形成するとしている。この有用な情報とは,人間に生得的に備わっているとされる ID
(
In
t
e
n
t
i
o
n
a
l
i
t
yD
e
t
e
c
t
o
r
) と呼ばれる意関検出器から出力された情報(目的や欲求という原始
E
y
e
D
i
r
e
c
t
i
o
nD
e
t
e
c
t
o
r
) と呼ばれる視
的・意思的な心の状態に関する運動刺激)と, EDD (
線検出器から出力された情報である。彼は IDと EDDに問題はないが, SAMに開題があるた
め,結果的に「心の理論」の発達に障害を持っと考えている o ただし,彼は EDDについては,
自閉症を持つ子どもたちがアイコンタクトをしている時に健常児と同じ覚醒パターンを示すか
どうかは研究されていないとしており,自問疲の覚醒問題についても示唆している。 B
a
r
o
n
-
Cohenや F
r
i
t
hらは,さらに理論を発展させ,社会性障害とコミュニケーション障害の認知状
MindB
l
i
n
d
n
e
s
s
Jであると仮定している。この概念は,正常の人たちは 'mindr
e
a
d
の原因を '
--精神状態が自己や他者に属することを理解できる(これらを「心の理論」または「心理化」
と言っている )
Jが存在するという前提に立ち,この能力カキ鯨佐な理論的推論によって生み出さ
1
7
6
れるものではなし専用の神経認知メカニズムに依存している,と仮定している (
F
r
i
t
h,2
0
0
1
)。
とくに F
r
i
t
hは脳画像研究の知見から,ミラーニューロンのメカニズムについて言及しており,
心理化に関連する早期の進化過程, という考えを述べている。自開症のミラーニューロンとの
関連について W
i
l
l
i
a
m
sら (
2
0
01)は,模倣との関連から社会的認知機能が働くようになるため
の要素として,前顕葉皮質の「ミラーニューロン J (
M
i
r
r
o
rNe
u
r
o
n
s
:M Ns
) の発達的な障筈
について言及している o 彼らは,言語能力や心の理論,共同注意,模倣,さらには実行機能の
, R
i
z
z
o
l
a
t
t
iら(19
9
6
) の猿の研究で
発達を妨げるものとして MNsを想定している o MNsは
発見された神経システムである。このニューロンは,ある動作を行うときのほかに,その伺じ
動作を観察するときにも活動が見られ,鏡の佐賀にたとえて「ミラーニューロン J と呼ばれる。
その一群のシステムが腹側運動前野にあり,これらは,対象物の操作や,実行する動作と観察
する動作が一致しているときに応答するとしている o 人間ではブロードマンの 4
4野にあたり,
2
0
0
4
)の fMRIの研究から,この 4
4野を中
人間ので前頭自の表情に対する活動を見た佐藤ら (
心とする部位が動的表構の処理に関わっている可能性を示唆した。佐藤は,ヒトにおいても,
4
4野を中心とする右下前頭回の特定領域にミラーニューロンによって構成される,他者の表情
や動作の観察と,自己の表'1意表出と行為の実行を対応、づける神経機構が存在する可能性を指摘
している(佐藤, 2
0
0
4
)。これらの研究は,自閉症の表情知覚やその他の認知機能の発達の開題
を考える上でも興味深い。
きて, BaronCohenなども触れた視線検出についてであるが,顔認知に関する研究から様々
嶋
な議論がされている o Kannerは 1
9
4
3年,既に自関症が「他者の顔を見ない」という行動を報
している。だがそれと一致しない研究も見られることから,神尾 (
2
0
0
4
) は「他者の顔を見
ない」という特徴は,児の年齢や対面相手によっても変わり,顔認知を支える顔を見る行為に
ついても,発達的視点からの再解釈が必要で、あるとしている。そこで神尾は,顔や表'請にある
「顕著性 (
s
a
l
i
e
n
c
e
)J に注目し,自閉症者はこの顔の「顕著性」処理機構を持たないため,顔に
より自動的に生起きれる情動的反応、が希薄なために,環境内のあふれる事物の中にあって,顔
が特別な地位を占めていない, と述べている o このことは,特別な知覚処理も,情動を介する
特別な対人認知処理も受けにくいことを示している(神尾, 2
0
0
4
)。陪じように K
l
i
nら (
2
0
0
2
)
は,高機能自閉症をもっ大人が,自然な社会状況を見るときには統制群が自をみるのと同様の
パターンを示した一方,目ではなく口を見たことを明らかにした。このことから彼は,自然な
状祝に組め込まれていた顕著な社会的な手がかり(特に表情)への低い方向付けが,自問疲に
おける中核欝警であると主張した。視知覚の開題については,このような顔の問題についての
研究から,低次の知覚処理の問題に普及したものもあり, G
epnerら (
2
0
0
2
)は,自関疲の限球
R
a
p
i
dv
i
s
u
a
l
m
o
t
i
o
ni
n
t
e
g
r
a
t
i
o
nd
e
f
i
c
i
t
) 彼説を提唱
運動を分析し,急速視覚運動統合障害 (
している。
Ozonoffら(19
9
1
a
) は,実行機能 (
e
x
e
c
u
t
i
v
ef
u
n
c
t
i
o
n
) の障害が白関疲の原因であると考
えている。実行機能とは,自分の行動を環境に合わせて適切にコントロールする能力のことで,
プランニング,行動抑制,プランの修正,ワーキングメモリなどが関係する ο 彼らは実行機能
W
i
s
c
o
n
s
i
nCardS
o
r
t
i
n
gTest,Towero
fHanoD, 1次の「心の理論」課題と 2次の
課題 (
群に与えたところ,統制群の平均より低いパ
「心の理論」課題など数種の課題を自簡症群と統制j
フォーマンスが認められた自関疲群の課題関での割合は,実行機能では 96%, 2次の「心の理
閤の宇u
別分析によっても,これらの識別カは
論」課題では 87%であった。また自関症群・統制j
1
7
7
巡J
.
t殴難メカニズムの解明をめざして
有意に高かった。このことから
2次の「心の理論」課題の障答が,実行機能障害よりも自閉
症グループにより特異的ではないとしている。ただ,彼の笑行機能の障害説は心理化の障害説
を否定しているものではなく,大脳皮質の前頭前野の損傷を両者の障害の要因としている
(
O
z
o
n
o
f
f,1
9
9
1
b
)。
弱い中枢性統合については, F
r
i
t
h(
1
9
8
9
) が,自閉症の「全体的統合力」の問題について触
れている。人関の正常な認知システムは,できるだけ広範な刺激を統合し,できるだけ広範な
文脈を一括して捉えようとする翻有の傾向があり,統合に向かう強力な中枢神経活動による動
盟が存在するとして,このことを「中枢性統合 (
C
e
n
t
r
a
lC
o
h
e
r
e
n
c
e
)J とした o F
r
i
t
hは,情報
処理過程の一つの特徴は,さまざまな情報を統合して脈略の中でより高次な意味を構築するこ
とにあるが,自関症は鱗片的な処理過程が得意で,全体的な意味の理解は不帯意であることか
ら,彼らは中枢性統合が弱い (WeakC
e
n
t
r
a
lC
o
h
e
r
e
n
c
e
;WCC) とした。それらが思考と対
人行動における分離性を引き起こすことを指摘し
r中枢機能の統制を欠き,その結果,彼らの
世界は断片的な経験からなる脈絡のないものになる J,と述べている。いわば,認知的な全体へ
のバイアスが弱いという特徴が自閉症に見られるというものである。これらは自閉症だけでは
e
n
s,2
0
0
4など) また,統合運動の鶴値研
なく,学習障害にも見られるとい 7立場もある (No
0
究から,視覚における m
a
g
n
o
c
e
l
l
u
l
a
r経路の損傷を示唆し, m
a
g
n
o
c
e
l
l
u
l
a
r経路は全体の様相を
捉えるのに適した処理経路であることから, ~~い中叡性統合との問題を指摘している (Milne
ら
, 2
0
0
2
)。しかし,一方で Baron-Cohen(
2
0
0
2
)は,特定の高い分野の能力を示す自関症の事
例から,弱い中枢性統合だけでは説明できない問題があることを指摘し,自閉症の認知におけ
るシステム化 (
s
y
s
t
e
m
i
s
i
n
g
)の概念を取り入れ
r自閉症における極端な男性脳理論j を打ち立
てている。
4
. 乱立する理論と自閉症の本態
むについても,基本的
模倣や実行機能の問題,さらには弱い中枢性統合と自関症のシステム f
には対立するものではなく,相互に関連することも多い。「理論の統合化」をすることにより,
相互の理論を補強してより臨床像に近いものにしてゆくべきであろう。 Noensら (
2
0
0
4
)は
,
実行機能J, r
中松!生統合」の 3理論について言及し
「心の理論J, r
味で自関症を社会的コミュニケーションの開題として捉えており
r
心の理論」は,狭義の意
r
実行機能」と「中枢性統合J
については,それよりもより広義の意味でこれらの問題を捉えることができるとした上で r中
枢性統合」は,自閉症と学習障害の合併における行動的な特徴を説明する最良の可能性を提供
するものであるとしている。後らの立場としては,自関症の認知スタイルである「弱い中枢性
統合」からこれまで述べられてきたような理論を包括して説明しようとしている o 石 坂 (
1
9
9
8
)
は,様々なモジュールが統合されたり照合される,もっと中枢にあると仮定されている情報処
理システムの障答か,そのような情報を実地に応用する際の樟害である可能性が強いとして,
脳内における「中枢システム J (石坂は「中枢システムは,入力機構すなわち知覚レベルの情報
処理システムと出力機構すなわち運動レベルの情報処理システムの間にあり,情報の照合や統
合をする機構」としている)の問題について
している o さらに, Dawsonら (
2
0
0
2
)は,自
閉症を持つ人たちやその家族の遺伝子研究から広域表現型 (
b
r
o
a
d
e
rp
h
e
n
o
t
y
p
e
) という概念を
用いて
6つの自閉症の広域表現型の形質を提唱している。それは,
1)自を見るような顔の特徴や動きなどの顔の処理
1
7
8
2)社会的動機付けの問題に関わる社会的な交友関係や社会的報酬における敏感さ
3)運動模倣の能力
4)内側側頭葉一前頭葉サーキットを介する記憶の諸様相
5)実行機能(プランニング,柔軟性)
6)言語能力(言語の障害,音韻論と震なり合うような言語の諸様相)
であるが,これらは自閉症に関する研究ばかりではなく,今まで述べてきたような複数の理論
についての関係性にも示唆を与えるものとなるであろう。
これまでの議論を考えると,環境適応の国難な諸原因は社会的・対人コミュニケーション,
特に他者の気持ちの理解にあり,それは注意や行動を何らかの問題によってうまくコントロー
ルすることができないためであると考えられる。神経心理学的な原因としては,上述したミラー
ニューロンの他,限議に面した前頭葉皮質 (
o
r
b
i
t
of
r
o
n
t
a
lc
o
r
t
e
x
),上側頭間,そして扇桃体
崎
BaronCohen
,1
9
9
9
)や脳幹の器質的な損傷を示唆したもの (
R
o
d
i
e
r,
の異常を示唆したもの (
田
2
0
0
0
),自閉症者の小脳において,プルキンエ細胞の減少,グルタミン酸系の異常,セロトニン,
ド、ーパミン,ノルエピネフ 1
)ン,オピエ一九そしていくつかの他のニューロトランスミッター
P
u
r
c
e
l
lAE,e
ta
,
.
l 2
0
0
1
) などがあり,今後の研究によってさ
における異常を報告したもの (
らなる証拠を積み重ねてゆく必要がある。また B
aron-Cohenの共同注意の撞害モデルは,乳児
の発達に見られる社会的参照にも影響があると考えられる。自関性障害児に関して,知的レベ
ルの高低に関わらず,社会的参照にある特異的な問題があらわれている (
Bacon,e
ta
,
.
l 1
9
9
8
)
という研究もあり,これら共向性意と社会的参照も含めてトータルな発達の問題を考えてゆく
必要がある。
5
. 他者の気持ちを理解する認知一神経発達メカニズムのモデル
omassello(
1
9
9
9
)の意園理解と模倣の関係について考えてみることとする。彼は模
ここで T
m
u
l
a
t
i
o
n(行動の結果を自力で,試行錯誤して
倣を mimic 見た行動をそのまま再現する), e
再現する), i
m
i
t
a
t
i
o
n(行動の意図を考えて再現する)という 3つに分類している。今までの議
m
u
l
a
t
i
o
nが正常で、 i
m
i
t
a
t
i
o
nが難しいと
論から基本的に自開症を持つ人たちは, mimicと e
えられる。私はこの模倣による他者理解について,これまで述べてきた知見も含め,自閉症の
神経発達を次のように考えてみた。 (
F
i
g
.
1参照)
生まれたての乳児が新生児模倣(新生児が大人の顔動作を模倣する)をすることが知られて
いる。その後
r
無様式知覚」が発達してくるようになると,一つの知覚様式に受信された情報
を別の知覚様式へ変化する能力を利用して自己と他者に関する多様な知識を統合してゆくよう
F
i
g
.
l 自額控の模倣
①
Mimic
j
正常
│自関症の共同注意欝害説!
② E
mulation)
/'
意悶理解の獲得には‘/
③
I
m
i
t
a
t
i
o
n→ hinta
t
t
e
n
t
i
o
nの成立が重要
巡rc;.、l'iSI警生メカニズムの解明をめざして
1
7
9
になる。これらの行為は,①と②の能力を用いていると忠われ,乳児が持つ情動的応答性が行
為の誘因として考えられる。自閉症は扇挑体の障害が指摘されていることから,情動的評価と
関連のある扇桃体部位の弱きが,自開疲の情動的応答性を弱め,模倣の動機を弱めてしまう可
能性もあるかもしれない。しだいに乳児は顔における選択的注意機能を利用して,養育者の情
動を感じ取り,相互の i
n
t
e
r
a
c
t
i
o
nによって「生気情動」を共有し掠々な事象が結びつけられる
(
S
t
e
a
n
,1
9
8
5
) T
o
m
a
s
s
e
l
l
oは 9カ月頃からの共同注意の発達によって,他者の意囲理解が可
0
有量になってゆくとしている。
自閉症を持つ子どもたちは,基本的に③の行動を読みとるカの問題を抱えているため,他者
を意図的存在として理解できず,その結果様々なコミュニケーションを取ることが難しし幼
児の早期に本来必要とされる社会的参痛やその他,他者との相互関係によって成長が促される
社会的能力に発達的な遅れが生じる。意関理解の獲得には共伺注意の成立が重要になってくる
と考えられ,療育に必要なこととして早期からの自問症に合った i
n
t
e
r
a
c
t
i
o
nによって母子関
係が健常と異なる育て方一一 S
t
e
r
nのいう特別な情動調律が求められるのではないかと考えて
いる。これらの過穂には心理化 (
M
e
n
t
a
l
i
z
i
n
g
),メタ表象の発達に捺して重要な意味があると
考えることができる。心理化とは,心の理論における論理的な側面であり,思う,知る,信じ
る等の主観的用語により表される。人は心理北の理論を用いて,人だけではなく人以外にも心
の状態があると考えて,行動する (
F
r
i
t
h
,1
9
8
9
)。この能力は,人がどのように行動するか,あ
るいは,怖を望んだり考えているのかを予測するためだけでなく,人が何を意味しているのか
を理解するためにも使われる (
Happe, 1
9
9
4
) 能力である。
きて,ここでミラーニューロンの障害説を考えるとすれば,①は単純なコピーにすぎず,②
では,他者が行う行動を再現すればよい。しかし人間の MNsは洗練されたニューラルシステム
の一部として存在している (
W
i
l
l
i
a
m
s, 2
0
01)ため,③での蹟きがニューラルシステムの発達
を遅らせ,さらに別の脳機能を使うことによって発達できたとしても,情動の共有や共向性意
など基礎的な社会的認知機能の発達が相対的に遅れ,その後の模倣および心理化や実行機能の
発達にも影響が及んでくる。きて,例えば正常な療育環境が整っていない人,または顔の選択
的注意機能を用いることができない視覚障害をもっこどもたちはどうなるのであろうか。前者
の場合は,仮に正常な療育環境が与えられず,養育者との何らかの i
n
t
e
r
a
c
t
i
o
nが無かったとす
ると,何らかの発達の遅れは想定できるであろう。だが,基礎的な社会的認知機能の発達神経
基盤が存在するので,その後適切な養育で自関疲をもっ子どもたちよりも発達を挽回できる可
能性は十分ある。祖覚障害の場合であるが,例えば,視覚障害をもっ子どもたちの多くはこ、っ
こ遊ぴの理解が正常に発達していくとされている。だが,
ミラーニューロンの損傷が無いとす
れば,顔ではなく声などで養育者の情動を感じ取り,正常な発達よりも渡れるとしても心的表
象を発達させてゆくことができるかもしれない。
6.軽度発達障害撃を持つ子どもの類比的推論と思考方路復説
きて, B
aron-Cohenなどの立場では,自閉症をこの心理化の欝害としているが,さらに私は
その後の推論の問題も指摘し,弱い中枢'性統合や自閉症のシステム化の問題を統合した形で理
論を組み立ててみたい。確かに自閉症はこの心理化が難しいため,実際に現実に置かれている
状況と完全に分離して考え,他者の心理的モデルに変換するという,人間の内的な認知機構を
発達させることができず,結来的には成人以降もコミュニケーションの障害を鵠えてしまうが,
1
8
0
心の理論の誤信念課題を通過してしまう高機能自閉症や 9歳以降で多くの自閉症の人たちが通
過してしまうことを考えると,ただ内的な認知機構の発達が遅れたからコミュニケーションの
を抱えてしまうという説明は難しいと考える。私は特に高機能の自閉症には,我々が持っ
ている類比的推論 (
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いる。類比的推論とは,ターゲ、ット刺激に対して,長期記憶からベースの選択一一想起を行い,
ベースとターゲットにどのよっな類似関係があるのかを認識し,対応付ける一連の推論過程を
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む隠擦に対する適切な類似物の候構としてソースを選ぶ(ソース選択)
③ソースの婆棄を自襟に写像(対応付け)
④目標に適用できるルールを生成するように写像を拡張(写像の拡張)
きて類上七的推論の観点から,健常者と自関症をもっ人たちの推論の違いを次に記した。
健常者と自閉症の推舗の違い
健常者→アナロジカルな推論
自閉寵者→ルールベースによる推論
自分の経験などと照らし合わせて,その
自分の経験は基本的にルールベースで記
中から最適な行動を選択して,場の状況
憶に保存されており,場にあったルール
に合うような形で選択した行動を上手に
適応する。
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を適用する形でコミュニケーションを
取っている。
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ユ
完全に経験と現状に求められる行動が一
完全に一致した過去の経験(記憶)と現
致しなくても良い。
状に求められる行動が一致している必要
がある。
健常者は,状況に応じてフレキシブルに対応することができるが,自関疲を持つ人たちに難
しいのは,どのような理由によるものなのだろうか。①の表象の作成は,ターゲットを設定す
る必要があり,前述した共同住意の開題のほか,顔の認知における問題(神島, 2
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),社会的
参照の特異的問題 (
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) などにより圏難が生じると恩われる o ②のソースの選択
の問題については,実行機能(プランニング,ワーキングメモリ)の問題などが関わってくる
であろう。③については,環境と心的表象として存在するソースを目標に対応付けすることが
できないとすれば, ~~い中枢性統合の文脈で説明できる。さらに④の写像の拡張については,
過去のルールから若干逸脱しでも適用することが求められる柔軟性が必要なため,厳格にシス
テムイ七(原則的にルールに支配されているもの)を追求した場合,混乱が生じる。このアナロ
ジーのステップは,厳密にこの頗番で実行する必要はなく,様々な形で相互に作用しあう。ま
た,自閉症を持つ人たちがいずれにも問題があるわけではなしまたある領域について開題が
適応困難メカニズムの解明をめざして
1
8
1
あってもそれができないのではなし弱い傾向(この弱さも個人差があり,自閉症の痕状を左
右しているかもしれない)にあるという程度であり,また体調の問題や集中力の問題などにつ
いてもパフォーマンスが変化しつる。これらのどこかに特異的な問題があると,アナロジカノレ
な賭題解決に践いてしまう可能性がある。基本的にはシステムイちする傾向のある自問症をもっ
子どもたちは,他者の心を読み (
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),以前と似たような場面を推論することは難し
いと考えることができるであろう
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例えば乳幼児期において,これらの推論能力と発達の開題について,入閣の表情を中心に考
えてみるとどうなるだろうか。鍵常児はある租度の稜味な状況(刺激)に対しでも選択的に住
を傾けて,状況を読みとり推論を行う。社会的参照を例にとると,表情に伴う情動という暖
昧な刺激に対して,自閉症をもっ子どもたちは知覚することができても,意味づけが難しいと
思われる。著名な動物学者で本人が自閉症である TempleG
randinはつい最近まで自がメッ
セージを伝えることを知らなかったと由述している(杉山, 2
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)
0 2ヶ月の乳見が人の顔の両
日と口を結ぶ三角形の部分に眼球運動が集中することは知られている(子安, 2
0
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) が,残念
ながら自関症を持つ乳児は先天的に伺じように選択的に目を見るかどうかは分からない。仮に
自閉症を持つ乳児が健常乳児と同じ反応、を示すとして, 目を見ても, 日と感情を対応付けする
ことができないと,自を見る意味がなくなってしまい,目を見ることをしなくなるのではない
だろうか。さらに, 日を見るという行為は,絞られた霊長類以外の動物においては威嚇の行為
としてとられる (
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)。自関症を持つ人たちが自をはじめとして「表情知覚J
を行う際に,それを嫌悪刺激として対応付けしてしまうと,目線をそらす行為をしてしまう (
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情認知」の失敗)のではないだろうか。 I事例だが筆者が行った広汎性発達障害を持つ子ども
の視線検出装置を用いた実験では
4枚の絵画配列テストを並び、替える際に,顔を見ずにもの
の位置(この場合, ものの位置を手がかりとすると配列順がわかりやすい)を見て正確に配列
を行った。同じテストを大学生に行ったが,大学生は顔を見て配列を行っており,反応時間は
大学生と子どもで同じか,大学生の方がむしろ遅かった。絵画配列テストは,自閤症群では健
常群と比べてパフォーマンスが低いことが知られている一方,とても素早く配列させてしまう
人たちもいる。おそらく,表情を手がかりに何らかのストーリーを組み立てようとする健常群
とは異なった方法で読みとっていることを示唆していると思われる O
におわりに
本小論では,環境の適応が難しい軽度発達障害を持つ子どもたちを念頭に置きながら,環境
の適応性の臨難さについてレビューした。類比的推論における思考方略仮説を完全に検証する
には多くの時間と実験結果を蓄積した証拠が必要となる。 K
l
i
nらは実際に自の検出に関して口
に視線を多く移すことを述べていることから,今後これらの知見を蓄積して検証する必要があ
ると考える。
もし子どもたちが今ある環境に馴染めなくとも何も困らないのだとしたら,それはそれで、良
いのかもしれない。ただ,明らかに近い将来不利益になると支援者が考えた時,やはり見過ご
すことはできないであろう。人間には得手不得手があり,たまたま社会的なコミュニケーショ
ンが苦手で、あったために,他者との距離ができてしまった。支援者は本人に理解を求め,
あなたの持つ素晴らしい能力を生かし,伸ばすために,苦手なことについて一緒に考えて
みないか?
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2
そう言って支援の手をさしのべる必要がある。
TempleGrandin (
1
9
8
6
) は自著でこう述べている o
「もしも,いつの日か,自開疲や読字困難が予防できるようになったら,潜在的に非凡な才能
を秘めた人々を,平凡な人間に変えてしまうという代償を,払うことになるかもしれないJ
発達的な問題に立ち向かうということは,弱い面だけではなしすばらしい面に対しでも光
を当てて,支援してゆくことである。それには支援者,子どもたち共に強い意志と力が必要に
なるであろう。支援者が子どもたちの問題となによりすばらしい閣を理解し,科学的な見地か
ら子どもを支えてあげられることで,支援する側もされる側も互いが楽になり,すばらしい才
能が成長すれば,
と願っている。
[引用文献]
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1
8
4
第 3節
発達障害児の最適遂行水準維持の難しさと環境適応の問題
増子梨絵
1.発達障害児にとっての「新しい環境J とは?
私たちを取り巻いている環境はさまざまな刺激があふれでいる。しかし,それらの刺激全て
に対して反応しているということはなし必要な刺激についてのみ選択的に注意を向け,適切
に処理することができる O 発達障害の原因は未だにはっきりとはわかっていないが,脳機能の
何らかの発達の遅れ,あるいは不全がその基盤になっていることは明らかである。この中には
外的な刺激に適切に注意を向けることができないという困難も当然含まれる。
新しい環境に入っていく場合,障害のない者であってもそういった場面に臆することが少な
くない。しかしこれは性格や経験など,社会的に獲得される人格形成因によっても多少の変化
があるだろう。 E
ysenck(
19
6
7
)は,外向性一内向'性という性格特性の違いは覚醒水準の差によっ
て生まれるとした。外向的な人は脳幹網様体内の賦活水準が先天的に低い。つまり g
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lな覚
醒水準が低しその結巣,認知活動に必要とされる大脳皮鷲の賦活水準が低いとされる。これ
を最適な水準にまで引き上げるためには,外的な刺激の入力を増やすことを必要とする。覚醒
水準という軸の上では内向的な人は外向的な人と対様にあると考えられており,先天的に高い
覚醒水準を抵レベルに留めようとする働きの結果として,刺激を避けるような,変化の少ない
反複的な行動をとる傾向があるとしている。このように,行動における最適な覚醒水準と,
襟にある覚醒水準の差異を埋めるためには,脳幹網様体の賦活水準と外的な刺激の入力のバラ
ンスが必要で、あり,それは個人の持っているレベルによって変動しうる。
その場面に適応、するためには,大量の新しい情報を効率的に選り分け,処理した上で最も適
切な行動をとらなくてはならない。「新しい環境=未知の'情報が大量に流入し,それを適切に処
理することが求められる状況」として本稿を進める。
2.ニの構で捉える発達障害児の問題意識
発達障害の中でも, 自閉症・アスペルガー症候群などの広汎性発達障害 (
PDD)や 注 意 欠 陥 /
多動性障害 (AD/HD) の鍛加の難しさが問題となっている。
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4
) は,純粋 PDD診断群と純粋 AD/HD診断群,さらに PDD
と診断されているが AD/HDを併せ持っている疑いのある群 (PDD+AD/HD群)の親や教師
を対象に,不注意・対人関係など,学校や家でその子どもが鴎難であることをアセスメントし
た結果,純粋 AD/HD診断群と PDD+AD/HD群では間程度に不注意や衝動性,多動性に関す
る困難が見られることがわかった。現段階の診断基準では PDD十 AD/HD群のような症状を主
する場合は PDDが診断名として与えられることになっているが,投薬や療育といった面でそ
の子どもの持つ AD/HD的な側面をいかにカバーするかなど,難しい点も多いだろう。
PDDや AD/HDを発達障害スペクトラムとして 1次元で考えるアプローチも多くなってき
ている O これらのアプローチを支持する仮説のひとつとして,発達障害児の覚醒調節の問題を
1
8ら
適応閣総メカニズムの解明をめざして
あげることができる
O
このアプローチでは, PDDでの過覚醒, AD/HDでの低覚醒が想定され
ている。たとえば C
l
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k
eら (
2
0
0
2
)は,安静関臨時の脳電図(以下, EEG)の周波数のプロフィー
ルから,混合型の AD/HDに 3つのタイプ一一低覚醒タイプ・発達遅延タイプ・過覚醒タイプ
l
a
r
k
eらは,特に DSMNにおける AD/HDの不注意優勢裂から
ーーを見出している。さらに C
楠
は過覚醒タイプが発見されず,低覚醒タイプ・発達遅延タイプの 2つに細分化することができ
ると述べている。このように,覚醒のタイプの違いが開題となる行動と深〈関わっている可能
性は高い。
3.覚躍の問題を考える
まず,覚醒とは何であるかを定義しておく必要がある。
一般に睡眠と対義語であるのが覚醒である。意識活動の水準が周期的に低下し,自発的な運
動や外界からの刺激に対する反応性が著しく低下する状態が睡眠であるのに対し,覚醒とは,
生活体が適切に行動を行うために必要な活動レベルを一定水準以上に維持する働きやその状態
を指し,かろうじて目覚めている状態から,磁度に興奮している段階までを広く示す。覚醒水
準が高いほど刺激の弁別や反応の敏捷さに{憂れ,行動に有利な条件が用意されることになり,
これが最適遂行水準(ヴ、イジランス水準)である o しかしこのようなことが言えるのはある程
度の高きの覚醒水準までであり,覚醒水準が櫨度に高い場合は興奮状態に相当し,行動に支障
足進するとともに,
をきたすようになる o 最適な遂行水準においては,特定の手がかり機能を f
それ以外の過程を効果的に抑制する作用を持つ。覚醸水準は一般的に EEGにより客観的に観
察可能である。
上記にも述べたように,
という言葉は睡眠一党躍という文脈と,覚醒時の遂行水準とい
う文脈で大きく考えることができる。両者はもちろん切り離すことができないものである。発
達障害児の持つ問題にはいろいろな原由説が想定されているが,上記のように覚醒の問題も指
摘されている。覚醒は情動や注意を支えるものであり,ヒトが生活していく上で根底的なもの
である。前述の E
ysenckのように,覚醒のタイプはそのヒトの行動パターンや性格を作り出す
大きな要因と考えられる。刺激入力を増やすために変化的刺激を求める外向者の行動パターン
えば AD/HDの行動ノ fターンと似ており,変イむの少ない反復的な行動を好む
は
,
内向者の行動パターンは PDDに見られるものと似ている。このような理出からも発達障害の
理解に覚醒という切り口からアプローチすることは有効であると考える。ここでは,覚醒の 2
つの文脈のそれぞれにおいて発達障害児で問題があるとされる点を挙げる。
4
. 発達障害児における腫眠一覚揺の問題
睡眠一覚醒のリズムは発達の中で確立されていく。睡眠一覚醒のような毎日の生活に見られ
る習慣は,どの養育者であっても日ごろから観察することが可能で、ある。このため,異常があ
れば一般的に行動的な問題が顕著に現れる学齢期段階よりも前に察知することができる。実際
に発達障害見に見られる睡眠一党躍の問題はいくつも報告されている。
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)は,知的障害を持つ子どもの約 80%に睡賦一党離の問題があると報告している さらに,
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PDDで IQの低いグループ (FIQ5
5以下)において中途覚醒が多いという報告もある (
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) 低 IQと睡眠一覚醒リズムの異常の関係は,純粋な精神遅滞のみならず,他の発
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達揮警に併存する場合であっても同様なことがいえる。 H
eringら (
1
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9
)は
, PDD群を対象に
1
8
6
睡眠に関する調査を行った結果,睡眠時間が健常児と比べて有意に短かった。さらに, PDD群
の中でも併存症として睡眠障害を持つ場合は入眠から短時閣のうちに 50%,終夜を通して 62%
に中途覚醒がある o 併存疲として睡眠障害を持たない場合でも,入眠から短時間で 20%,終夜
を通して 30%の中途覚醒があり,これは健常児群と比べて有意に高い率である。すなわち, PDD
では健常児群と比べて覚醒水滋が高〈維持される備向のあることが示唆される。また, ADHD
群に睡眠潜時反復テスト (
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に特に問題のない場合においても健常児群よりも有意に日中の賦気が強いという結果が得られ
Bouvarde
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)。このように,覚醒水準の違いが発達障害における日中の行動的な
た (
問題のひとつの要因となっている可能性がある。ただし,睡眠一党醒の問題が発達障害に及ぼ
す影響の詳細は明らかではない。
5.発達撞害児における最適遂行水準維持の問題
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rら (
1
9
7
5
) は,安諮問眼・関限時において,多動障害児の α波・ β波
陶
の振輔が増大した。パワー値については, α波においては上昇したのに対し, β 波では減少して
いたことを示した。これらのことから,多動緯害児が低覚醒であることが示唆される o また,
多動障害児においては単一試行内におけるピーク振幅のベースラインへの復帰スピードが対照
児よりも遅く,反応試行における RTも延長していた。
Chabotら (
1
9
9
6
)は
, EEGのプロフィールによって ADHDを前頭領域において EEGの徐
波化が見られる低覚盤群と,同じく前頭領域において EEGに活性化の見られる過覚醒群の 2
群に分類した。
H
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h(
2
0
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1
) は,事象関連電位(以下, ERP) の時間的変動について w
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e
t解析を用
いて分析した。 AD/HD群,健常児群の開方とも,遂行成績と ERP波形において時間的な変動
が認められた。しかし,実験開始直後の試行で遂行成績や ERP波形のばらつきがそれほど大き
く見られなかったのに対し,中盤では特に AD/HD群において試行間のばらつきが大きくなっ
た。このことから H
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hは
, AD/HD児の問題点のうち,特に不注意が健常児との ERPの
変動の仕方の違いを生んでいるのではないかと結論づけている。言い換えると,ある対象や事
態に対して的確に住意を向け続けることには限界があり,限界を超えた場合に問題行動が出て
しまうと考えられる。特に,新しい環境に関して考えると,通常の環境よりも多くの異なった
刺激に対する処理が必要とされるが,その処理が進行している最中に、注意持続の限界を迎えて
しまうことになる o この繰り返しによって,新しい環境では発達障害児が特に適応に臨難を示
す結果となるだろう。
6.理解・援助として考えられるニと
発達障害児に見られる,いわゆる問題行動がどのような背景に起因しているのかを周囲の入
閣が知り,理解することは,重要なことであると考えられる。例えば AD/HD児は落ち着きが
なく,注意が持続できないといった表時的な問題ばかりが取り上げられる O 覚醒という視点か
ら見ると,彼らにとって適切な注意水準を維持するためには,閤間の環境に対して刺激を積極
的に求めることが必要で、ある o その結果,刺激を求めて
f
i
翠って」いるような状態が彼らの典
型的な行動として捉えられてしまうのだと考えられる。
さらに,私たちが子どもたちと接していく上で,発達樟害と診断されていない場合であって
1
8
7
適応困難メカニズムの解明をめざして
も,環境に対してうまく適応できない子どもたちは大勢いるに違いない。新しい環境において
は特に顕著に現れることであろっが,環境にうまく適応できないことは,逆にその子どもの抱
える掴難を示唆する小さなサインとしてポジティブに捉えることも必要で、あろう
o
環境に適応
できない子どもを適応できるように,教育的に援助してあげることはもちろん必要なことであ
るが,それ以前にその環境がなぜその子どもに合っていないのか,その環境をどのように変え
ることによって適応しやすくなるのかを大人が考えてやることが第一段踏としてあるべきでは
ないかと思う
o
私は覚醒という切り口からこの問題にアプローチしたが,このアプローチの利点は幼少時の
かなり早い段階から覚醒の異常を察知しやすいものであるという点にある。たとえば,アスペ
ルガー疲候群などは学校などの集屈に入って初めて問題となることも多いが,保護者は覚醒に
問題があるともっと早〈察知してあげられるであろう。また,もうひとつの利点としては鑑別
診断の可能性である。 AD/HDと PDDで EEGのプロフィール,つまり覚醒水準が異なってい
ることが明らかになれば,診断の段階で,現段階では難しいとされる AD/HDとアスペルガー
症候群,さらにはこれらの障害の下位診断が可能となろう。さらに,その子どもが注意、を持続
することの限界を客観的に調べることができれば,課題の呈示の仕方や言1練の襟にも役に立つ
だろう。このように,覚醒からのアプローチが発達障害の理解の道具のひとつとして役に立つ
可能性がある。
7.現実問題としての援助の難し§
この稿の最後として,護助の必要性とは裏腹に,実際の学校などの現場での発達障答児に対
する理解の難しさがあることを述べたい。とりわけ AD/HDや LD
,高機能広汎性発達障害のよ
うな軽度の発達樟害児においては,彼らのできることが多しかっレベルが高かったり,生活
をしていく上での国難は見かけ上はあまりない場合もある。学校現場ーでは,たとえば知的ある
いは身体的に問題を抱える子どもは周りから障害児と認識されるが,軽度の発達障害を持つ場
合は気イすかれない場合もあるだろう。日常の学校場面などでは問題として浮上しないことでも,
修学旅行などの行事やクラス替えなどでは,まさしく未知の情報が大量に流入してくる。それ
らを的確に処理することを求められるような状況においては,彼らの困難が露呈しやすくなる。
こういった場面での彼らの行動の「奇異き」によって,イ也見や局間の保護者などから「厄介者J
扱いされたり,学年が進むにつれていじめの対象になり,保健室登校や不登校などといった 2
次的な問題が生まれている現実がある。近年ではテレビや書籍でも話題となり,一般の人々が
,
ADHDJ ,-自関症」といった言葉を耳にする機会は確かに増えたが,そのような子どもが濁り
にいる場合に実際に理解してあげられるかというと,それは現段階では難しいと思われる。大
人に対する発達障害についての啓蒙は明らかに不足している。子どもたちを取り巻いている環
境を大人が見守ってやることは可能なことであり,適応の難しい子どもたちに対しては大人の
積極的な働きかけが有効になると思われる。大人が発達欝害について正確な知識を持ち,適切
な援助を行わなければならない。そのためには,こういった子どもたちを知るための教育的な
機会が大人にも,あるいは大人になるまでのどこかの過程で要求されることになると思う。
日!用・参考文献]
Bouvard,
M.,
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1
8
9
適応闘難メカニズムの解明をめざして
第 4節
新しい環境への苦手さと,常同行動・こだわり
一一白関症児の覚鯉調節の陣寄からのアプローチ
大松絵
1
. はじめに
自閉症児が新しい場所に入っていくとき,恐怖・不安の色が濃く出て,うまく環境に対応で
きずに興奮してしまったり,刺激を遮断するように居間から離れたり,自己刺激に没顕したり,
また落ち着くための刺激を求めて動くなどの防御行動とも見えるような行動をとったりするこ
とがある。
自関疲における新しい環境
変化への対応は, CARS(
小児自閉症評定尺度)の評定項目中に
「変イ七への適応」があり,また関連するものとして「恐れや不安」という項目もあることから,
自関症の重要な特性のひとつとして位置付けられていることがうかがわれる。
白鶴症児が新しい環境を苦手とすることについて,私は覚盤調節の障害という点から考えて
いる。
2.自賜痕児の覚醒調節の酷寒
一般に生体は,覚醒水準を最適な状態に保持するために刺激入力の水準を調節する機能を有
していると考えられている。しかし,自閉症児に想定される障害のひとつである覚醒調節の障
(Dawsone
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l, 1
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9
4
)では, 自問疲鬼は環境から入力される刺激の水準が低<.例えば,
ヒトの社会的行動のような複雑度の高い刺激や,予測不能な新奇刺激は入力水準が嫌悪反応を
示して入カを排除してしまうと考えられている o それは刺激に感応し入力情報を受け入れる範
閤(活動帯)の狭さによって引き起こされるということである。 (
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)
)
覚醒調節の援者害は, 自器症見が'慢性的に過党躍であるがために刺激入力水準が低くかっ,範
間が狭いという見方と,さらに社会的,または新奇な外部刺激に対する嫌悪反応などで覚醒水
準が動揺しやすく不安定になりがちである,というニつの見方が考えられる。この揖点から見
ると,自閤痘見にとっての新しい環境といつのは,入力されてくる新奇刺激情報を排除する嫌
悪反応が出現する場面であると考えられる。嫌悪反応によって刺激を排除してしまうため,さ
らに自関症児の!慣れは生じにくく時間がかかると考えられる。嫌悪反応が生じ,急激な覚器産上
を反映した行動の一つがパニックとなるのではないだろうか。そして過覚醒状態に対して代
理的に覚醒諦節を行う行動として,常同行動が出現するとも言われている。しかし常詞行動は
高い覚醒を調節する機能をもっとされる一方,覚醒を下げる機能だけではなく,刺激が足りな
い時に出現して覚醒を上げるなど, E
I己の状態や外的刺激の状態でその機能は異なると考えら
れている(杉問ら 2
0
0
1, Hi
r
s
t
e
i
n
.W.e
ta
l, 2
0
0
1,WillemsenS
w
i
n
k
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l
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l,
田
1
9
9
8, M
i
l
i
t
e
r
n
i
.R
.e
ta
l, 2
0
0
2
)。このことについては r4
. 自閉症児の事例検討しで詳し
く述べる。
1
9
0
3.覚醒について
これまで「覚醒」を評価する際,脳波を指標とする脳幹網様体賦活系における睡眠覚醒モデ
ルに基づいた覚醒,自律神経系における覚醒,行動学的レベルにおける覚醒の 3つについて検
こ関係して変イじするとは限らないため,覚醒
討されてきた。これら 3つの現象は必ずしも相互J
を論じる擦にはいずれを問題にしているか明確にする必要がある o 十ーと神尾
(
1
9
9
9
) は自律
神経系の活動を手がかりに,自閉症者の覚醒状態の特徴を調べるため,心拍変動を用いて安静
時と暗算課題による精神作業負荷時における自律神経機能の評価を行った。各状態の覚醒状態
を平均 R
-R間臨および自律神経機能として心拍変動の幾何学的解析法を用いて評価している
(
T
o
i
c
h
ie
ta
l
,1
9
9
7
)。実験の結果,対照群では安静時よりも計算特に副交感神経活動が抑制さ
れていたのに対して,自閉症群では安静時よりも計算時に副交感神経活動が増大し,また,安
静時において自関症群の副交感神経活動は対照群よりも低下していたと報告している。すなわ
ち,自問症群では,安静時において自律神経系における覚醒が充進していると考えられる。
自律神経系の覚醒とは,ヒトのどのような状態を反映しているのであろうか。
生体にはホメオスタシスという,外界が変化してもその内部環境を一定の恒常状態に維持す
る機構が備わっている。自律神経系の本質的な役割はこのホメオスタシスを維持することにあ
るo 自律神経系はその他に内分泌系,免疫系と互いに密接に関連しながら,ホメオスタシスの
維持を果たしている。この機構はヒトなど脳の発達した動物において脳の機能, とくに視床下
部との関連が深しこの領域を介してホメオスタシスが維持されている。ヒトにおいては,精
神・心理機能と深く関連している。自律神経系は,心臓・胃・小腸・大腸・蹄・腎臓などのほ
とんどの臓器を交感神経,部交感神経によって二重に支配しており,我々は支配されている臓
器における自律反応、としてその働きを認める。自律神経系のうち,交感神経活動は運動や緊張・
興奮に伴って増大し,反対に副交感神経活動はりラクセーションや入眠により増大する。すな
わち自律神経系における覚醒とは,交感神経活動の増大あるいは副交感神経活動の低下を意味
している。
自律神経系の活動を検討するための生理指標としては,心拍変動,脈波伝播時間,皮膚抵抗
水準,深部体温などが用いられている o その中で心拍は比較的簡便に計測でき,客観的な評価
が可能で、あるとして,よく用いられている。
ここで心拍変動について説明する。
正常な心拍
(
H
e
a
r
tR
a
t
e
:HR)は一見規則正しく拍動しているように見えるが,詳しく観察
すると一心拍,つまり R夜間関が常に変動している。心拍数に表される収縮率の変調は,部交
感神経の一つである迷走神経および交感神経の調房結節に対する支配が,拾抗的になされた結
果である。したがって心拍数の増加(減少)は,迷走神経活動抑制(光進)ないし交感神経活
動光進(抑制)の,いずれか一方または両方が生じたことを意味する。交感神経は心臓活動を
促進させ,副交感神経は抑制的に作用する。いわば,迷走神経は安静状態の心臓に半ブレーキ
役として働き,また交感神経はアクセル役としてかかわるといえる。
私はこの自律神経系の活動でとらえられる覚醒の調節が,自閉症児においては不安定である
ことが,環境への不適応、を示す一回であるのではないだろうかと考えている。
適応liI難メカニズムの解明をめざして
1
9
1
4.自閉鹿児の事例検討 1
自閉症児における心拍変動と行動についての事例検討一一
さきに,常向行動は高まった覚醒を下げる作用があるが,覚醒を下げる機能だけではないこ
とについて触れたが,ここでもう少し詳細に述べる。
i
l
l
e
m
s
e
n
S
w
i
n
k
e
l
se
ta
l(
1
9
9
8
) は,ビデオ記錯した自閉症児の状態を 2名の評定
例えば W
者によって 3つの客観的気分(苦痛,高揚,平静)と,出現した常同行動の種類を 5種類(儀
式・低強度の感覚入力・高強度の感覚入力・体幹運動・四肢運動)に分類し, HRと平均持続時
間との関連性を検討した。
その結果,異なる気分に関連する常時行動はすべての変数で奥なっていた。苦痛時に見られ
た常時行動は低強度の反復感覚入力が多く,ほとんどが行動の直前に HRがピークを示してお
り,状態を落ち着かせるホメオスタシスの機能を果たしていると考えられた。また,高揚時に
は,運動的に強〈持続時間の短い常同行動の出現する傾向があった。他方,平静時の常用行動
は心拍に影響が見られなかった。このように個々の常同行動は巽なる機能をもっており,常 i
可
行動の確かな分類が必要で、あると考えられた。
また, Mi
1
i
t
e
r
n
ie
ta
l(
2
0
0
2
) は,常同行動について Wi
l
1
emsenδwinkelse
ta
l(
1
9
9
8
)で
用いられた常同行動の分類を参照して 9つに分類し,推定される情動状態と生活年齢と発達段
階
, IQとの関連を検討した。その結果,幼い自閉症児は運動,または感覚的反復行動を示し,
発達につれてより複雑な行動を示すこと,ぬと行動の重症度には負の相関が見られること,
CARSの得点と常同行動数の多さに正の相関が見られることなどを見い出し臨床疲状と神経
基盤の両方から研究することの必要性を述べている。
このように先行研究から,常間行動の多様性と,一人ひとりの症状を詳細に見てその行動が
果たしている機能を検討することが,臨床における対応につながると考えられる。そこで,
際に常用行動が頻繁に見られる一自閉症児を対象として,常同行動が覚醒水準に与える影響を
検討した例を示す。
対象児は本研究開始時小学 4年 (CA:1
0
:4
)の自閉症女児 1名であった。母親の聞き取り
調査による CARS(
小児自閉症評定尺度)の結果は 4
2
.
5点で重度自関症に分類された。下位項
目で
r
変化への対応」・「恐れや不安jはともに 4点満点中 3点であった。言語はほとんどなく
「
ご J rて」などで要求意志等を示す。本研究は,対象見の通う 1時間 3
0分 -2時間の「放課後
の自由な遊び、場」という目的で開かれている室内の遊び、場て寸子った。対象児はこの遊ぴ場で,
主にスタッフに絵本を指悲して絵を描いてもらって壁に貼り付けたり,壁一面に姑り付けられ
た絵を眺めたりして過ごしていた。またそのほかにピニルテープを細く裂いては,床で、パタパ
タさせるという感覚刺激を楽しむような行動を反復していた。心拾の計測は,対象児が計測装
置に慣れるまでの時間を設けた後, 2
0
0
4年 3月 -4月に計 4問実施された。対象児が遊び場で
行う常同行動を標的行動として,その出現時と前後 5拍の平均心拍数を算出した。対象児の常
用行動として以下のものを取り上げた。
①
ビニルテープを細かく裂し
②裂いたテープを床でパタパタさせる。
③ 壁に貼った絵を見ながら,頭上で腕や指をくねらせる。
心拍の溺定にはポラール・スポーツ心拍計 S
8
1
0
iを用いた。心拍測定時における対象児の行動
は部屋に
したビデオカメラで記録した。行動と心拍反応の時間的同期については,心
1
9
2
拍計測装置とビデオのそれぞれ内部タイマーを一致させることにより行った。計測後, S
8
1
0
iの
p
o
l
a
rP
r
e
c
i
s
i
o
nP
e
r
f
o
r
m
a
n
c
eSW
4
J を用いて,心拍データを分析した。
付属ソフトウェア r
行動,および状態の変佑はビデオ記録をもとに分析した。
計測を実施した全セッションを通し,対象児が何もしないで、座っているときの平均心拍数は
1
0
3bpmだった。これを本研究における対象児の基準の心拍数とした。
出現した常同行動は,①・②が大部分であり,セッションのほとんどの時間を δめ,③は時々
粗大運動が含まれるためにノイズがのるものが多く,分析から外したものもある。
F
(
4
6
.
2
)=5.9,p<O.OO1),前 5拍の平均心拍数 (
1
0
2
.
6bpm)
①の出現時は有意差が認められ (
より出現時の平均心拍数 (
9
7
.
1bpm)が低く (p<O.OO1),前 5拍より後 5拍の平均心拍数
(
9
7
.
4bpm) の方が低かった (p<O.OOl
)
。
舎の出現時にも有意差が認められ (
F(
51
.2
)=4.9,p<O.OOl),前 S拍の平均心拍数 (
9
8
.
3
bpm) より出現時の平均心拍数 (
1
0
1
.
7bpm)が高く (p<O.Ol),前 5拍より後 5拍の平均
心拍数 (
1
01
.1bpm) の方が高かった (p<0.05)。
③の出現時においては回数が少ないため統計分析の対象としなかったが前 5拍より出現時で
低下する傾向が見られた (
F
i
g
.
1
)。
さらに,覚醒状態の高低と常同行動の作用の関連を検討するため,対象児が遊び、場で何もし
1
0
3bpm),この値を本研究における対象児の
ないで、鹿っているときの心拍数の平均値を求め (
「基準とする心拍数Jとし,以下のように 3つに操作的に定義,分類し①と②の常同行動を分析
した。
1)ベース心拍時:常同行動が出現する直前の心拍数 5拍の平均が,基準とする心拍数::1::5
bpm
(98-108bpmJ
2)高心拍時:常同行動が出現する直前の心拍数 5拾の王子均が,
とする心拍数十 5bpm
(
10
8bpm以上〕
以上
3)低心拍時:常同行動が出現する度前の心拍数 5拍の平均が,
とする心拍数一 5bpm
(
9
8bpm以下〕
以下
1
1
5
1
1
0
S105
-
品
dコ
戸 戸 戸
密 100
f
.
.J
事P
ト
語 95
9
0
85
一ー酔ーピニルテープを裂く
(n=47)
…《シーピニルテープをパタパタする
(n=52)
_.+_.頭上で腕や手をくねらせる
(n=8)
*
:
p
<
0
.
0
5
官5
拍
出現狩
後5拾
紳
:
p
<
O
.
O
l
帥
*
:
p
<
O
.
O
O
l
F
i
g
.
l 会常舟行動の出現前後における心拍変動
1
9
3
適応、 E
苦難メカニズムの解明をめざして
ベース心拍時では,①では前 5拍 (
1
0
2
.
8bpm) より出現時の心拍数 (
9
6
.
4bpm) が有意に
低 < (p<O.OO1),前 5拍より後 5拍 (
9
7
.
2bpm) で有意に低かった (p<O.OOl)。②に有意差
F
i
g
.
2
)。ベース心拍時での①の出現回数は金 4
7間中 1
7剖,②は全 5
2問中
はみられなかった (
1
8回であった。
1
1
5bpm)より出現時の心拍数 (
1
0
5
.
5bpm)が有意に低く (p<
高心拍時では,①では前 5拍 (
1
0
1
.
7bpm)の心十自数の低下が有意傾向にあった (p<0.05)。
0
.
0
0
1
),また,出現時より後 5拍 (
前 5拍より後 5拾の心拍数は有意に低かった (p<O.OO1)。②は出現回数が少ないため統計の対
象としなかった (
F
i
g
.
3
)。高心拍時での①の出現回数は,会 4
7問中 1
1田,②は全 5
2問中 6闘
であった。
9
2bpm)より後 5拍の心拍数 (
9
4
.
6bpm)が有意に高かった (p<
低心拍時では,①は出現時 (
0
.
0
5
)。②では,前 5拍 (
9
2
.
3bpm)より出現時の心拍数 (
9
8
.
1bpm)が有意に高く (p<O.0
0
1
),
9
8
.
8bpm)が有意に高かった (
p<0
.
0
01
)(
F
i
g.4)。低心拍時での
前 5拍より後 5拾の心拍数 (
ベース心拍
8
5
前5
拍
後5
拍
出現時
i
_
.
.
.
.
.
ーピニルテープを裂く
一口ーピニルテープをパタパタする
i
F
i
g
.
2 ベース心拍時における常同行動出現時の心拾変動
高心拍
1
2
5
1
2
0
﹂
議105
、
、
、
﹄
、
、
、
、
、
2
'110
、
也
、
S115
E
・ 『ι
‘『ー←
一一繍』一
一 一 『 ‘ 『 ・ ー ・ 『 噌 』
一 ー 』 喰 - .
S100
ト
告 9
5
9
0
8
5
前5
拍
ト4・ーピニルテープ械く
出現時
後5
拍
一口ーピニルテープをパタパタする
F
i
g
.
3 高心拍時における常同行動出現時の心拍変動
l
1
9
4
低,心拍
1
2
5
1
2
0
S 115
8
'1防
護105
主100
p
ト 95
e
一
一
ー
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ー
・
ー
戸
.
酬
_
.
'
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ー
ー
←
一
9
0
8
5
前5
拍
後5
拍
出現時
ト→トピニルテープを紘
一ローピニルテープをパタパ夕刊
F
i
g
.
4 低心拍時における常同行動出現時の心掠変動
7田中 2
2回,②は全 5
2回中 2
8閤であった。
①の出現回数は全 4
①,②の常間行動について, 3つの心拍の状態で分類したときの各出現間数を Table1に示し
た
。
丁a
b
l
e1
. 3つの心拍状態での各常同行動の出現臨数
①ビニノレテープを裂く
ベース心拍時
(98-108bpm)
高心拍時
以上)
(108bpm
低 J心拍時
(98bpm以下)
計(関)
②ビニルテーフ をパタパタさせる
o
1
4
1
8
1
1
6
2
2
2
8
4
7
5
2
全体として①,③の常河行動は対象児の覚躍を低下させる働きが見られるが,②は上昇させ
る領向が見られた。しかし②,③については運動による心拍への影響も考躍が必要で、ある。ま
た,①と②はしばしば連続して出現した。全体として①は心拍を低下させ,②は上昇させる作
用があることから,対象児は自己の覚醒状態をうまく調節できずに作用の異なる常同行動に
よって安定させようとした可能性が考えられた。
②については出現率は低いが高心拍時には出現後に心拾が低下する傾向がみられた。同じ常
同行動であっても,覚醒状態によって作用が違うことが示された。高心拍時に出現した常間行
動の強度も含めて今後検討が必要で、ある。
さらに,すべての常同行動の出現率が,ベース心拍時よりも高心拍時で低かった。これは対
8
1
0
8bpmと高い状態で陛性的な過覚醒にあったためと考えられ,ベー
象児のベース心拍が 9
ス心拍時も含めて補償作用としての出現であった可能性が考えられる。
低心拍時では,①,②ともに心拍が上昇していることから,刺激欠乏であった可能性がある。
刺激欠乏状態であるならば、,他の外的刺激に注意を向ける機会になりうると考えられるが,
適応 E
自難メカニズムの解明をめざして
1
9
5
体的な対応にはさらに検討が必要である。
常同行動は,その奇異な動きなどにより,潤聞の注目を集め, ときには周囲に不快感を与え
てしまうこともある。また自傷・他傷行為として出現することもあるために, しばしば問題行
動として取り上げられる。しかし出現する常同行動を,自閉症児が自己の覚醒調節を補償する
ために行っていると捉えられるならば,自傷行為など自他に危害を及ぼすことが無い限りある
程度の容認は必要で、あると考えられる o そうすることによって新しい環境に慣れることが可能
になるのではないだろうか。
このように,覚醒調節に関係する常詞行動は,不安定な覚醒状態や情動状態を最適な状態に
援帰させるべく出現すると考えられるが,やはりそれは自らが作り出す内的刺激に没頭するこ
ととなる。自分の覚醒状態を最適にはするが,外的刺激を遮断させてしまう。自閉症克の理解
と環境への慣れを促進するためにも,ある程度の常同行動の容認は必要である。しかし,常時
行動が出現する前に過覚醒状態が考えられたとき,常同行動ではなく他の方法によって覚醸調
節を関ることはできないだf
ろうか。すなわち低い刺激水準 (
Z
e
n
t
a
l
l&Z
e
n
t
a
l
l, 1
9
81)におい
ても入力されることが可能な, 自開疲児にとっての親近性の高い'慣れた科激,または干鯨創生の
低い単純な刺激を外から呈示することで覚醒を調節できないだろうか。
そのことを,
自閉症児を対象として単純リズム音の皐示により検討する。
5.自閉症見の事例検討 2
一一精神遅滞を伴う密閉症児の覚醒状態に対するリズム音の作用一一
自問症児とのかかわりにおいて,表J
情が柔らかになり,かつ轟かになること,感動の発声が
多くなること,音楽に触発された接触要求,安堵勝、などの変化が見られるようになるという
9
8
4
)。
楽療法がある(山松, 1
音楽をリズムという視点から見ると,音楽療法が自閉症に効カをもっと考えられる背景の一
つには,音楽のリズム性が自閉症児の覚醒調節の障害と関係があるのではないかと考えた。自
閉症児にとって,音楽におけるリズムは,反復表現され予測が可能で、あるという特性をもっ。
また刺激の反復呈示は党離を下げる作用があると考えられる。
自開症児の覚醒調節の障害という視点から,
リズムの効果を検討することを目的とした検討
を行った。先ほどの対象児とは別の自閉症児 1名を対象として単純反復リズム刺激聴取時に心
拍を計測し,
リズム刺激聴、取が自律神経系における覚醒に与える影響を検討した。
対象見は本研究開始時小学 4年
(CA10: 2)の自関症女児 1名である。医療機関で 2歳 6ヶ
5(鈴木ピネ一式),震度精神運滞(新版 K式発達検査)である。
丹に自関疲の診断を受けた。 IQ2
母親の開き取り調査による
れた。下位項目で
CARS(
小児自閉症評定尺度)の結果は 4
0点で震度自鴎症に分類さ
r
変化への対応」は 3点
r
恐れや不安」は 4点であった。
また,健常小学生 1
3名(男:女 3 :1
0,平均年齢 1
0歳 Oヶ月,標準偏差1.5
3
) が比較のた
め本研究に参加した。
リズム刺激はパーカッションドラムとしてセラピーにも使われている REMOキッズフロア
タムを用いて作成しカセットテープに録音してスピーカーから呈示した。用いたテンポ・リズ
ムは,精神遅滞見のリズム同期の発達という読点からいくつかの研究を参考に(斎藤と
1
9
9
2,斎藤, 1
9
9
6,藤上, 1
9
8
5
) 同期しやすいとされているテンポとリズムを用いた。 4拍子
1
9
6
のもので F
i
g
.
5に一小部を示した。このリズムを繰り返し呈示した。
.
.
J=80
よよよよ
F
i
g
.
5 塁示刺激に用いたテンポ・リズム
対象見の通う音楽教室にて,実験者が対象児をおんぶした状態で,安静…ーリズム刺激聴取
安静を 1セットとして計 4回の計測を実施した。計測時間は対象児の状態に合わせた。安静
が保てない場合はセットの途中で中断する場合もあった。また,本研究前に,対象児が計測装
置に慣れるまで十分な装着練習期間を設けた。
健常小学生はソファに座った状態で,安静(3分)一一リズム刺激聴取(1分・ 3分)一一安
静 (3分)を 1セットとし,各 1回ずつ計測した。
心拍の測定にはポラール・スポーツ心拍計 S
8
1
0
iを沼いた。計測後, S
8
1
0
iの付属ソフトウェ
アr
p
o
l
a
rP
r
e
c
i
s
i
o
nPerformanceS W
4
Jを用いて,各状態の平均心拍数と, T
o
i
c
h
ie
ta
l(
19
9
7
)
が案出した R
-R間隔データから自律神経系機能を評価する幾何学的解析法で副交感神経機能
指襟 (
C
V
I
:C
a
r
d
i
a
cVagalI
n
d
e
x
) を求めた。
対象児の 4閣の計溺から,安静を保てず中断した 1 ・2団自を除く 3 ・4回目のデータを示
した。対象児の計制時間は 3留目で各状態約 1分間
4回目で約 2分間であった。健常小学生
の 1分間聴取データを基準に用いた。対象児の心拍数は安静持でも健常小学生に比べ高く, CVI
値は小さかった。対象児は 1
)ズム刺激聴取持に心拍数減少と, CVI値の比較的大きな増加を示
した。健常小学生では 1
)ズム刺激聴取持での心拍数・ CVI値の変動に有意差がみられなかった。
F
i
g
.
6は心拍数の変化, F
i
g
.
7は CVI値の変化を示した。
対象児の安静時における心拍の高きや CVI億の低さは,自律神経系における覚醒の高さを示
唆している。結果から,対象児は本研究で用いた単純さや予測可能性が備わったリズム刺激を,
対象児の刺激最適水準内で認知したと考えられる o さらに慢性的に過覚醒が考えられた対象児
にとってリズム刺激が反復呈示されることにより,覚醒が低下したわけであり,
リズム刺激呈
示の有効性が示唆されたといえる。健常小学生では,自律神経系における覚醒が対象児に比べ
低 <,対象児に効果があったと考えられる自律神経活動が反映される 1拍ごとの心拍変動には
影響が現れなかったと考えられる。
6.おわりに
自律神経系は辺縁系とのネットワークがあり,常勤と強く関連している。覚醒が不安定で、あ
ることは,情動もまた不安定で、あるだろう。覚醒調節が問題となる昔景には, もともと過覚醒
を示す場合と,環境刺激によって党醸が変動しやすい場合とがあると考えられる。本論文中に
おいて取り上げた対象児 2名のうち,一人(事例 2)はもともとの過覚醒が見られ, もう一人
(事例1)では河年代の健常見よりは心拍が少し高めではあったがそれ以上に,変動のしやすき
が自立った。このようにニ人の自閉症児において覚醒の高きや変動のしかたには違いがあるが,
どちらも不均衡な状態を呈していることが常時行動を出現させたり,ひとつの行動を反復する
一因になっていると考えられる。一人ひとりの自閉症の子どもが新しい環境で,また日常生活
1
9
7
適応部難メカニズムの解明をめざして
一命一一対象児3
図1
3
-0-一対象児4
図呂
-cトー健常小学生平均一+ー刊健常小学生1-13
1
2
0
1
1
0
E
A
04 1
0
0
話
ま
.
9
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リズム刺激聴取中
聴取後安静
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6 平均心強数 (bpm) の変化
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襲撃聴取前安静
丁
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口リズム刺激聴取中
聴取後安静
4
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昏
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2
.
5
健常小学生
対象児3間 B
対象見4回目
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.
7 CVIの変化
の中でどのような行動をとっているかを詳細に検討し,その子どもにとって覚醒を変動させて
いるものは何であるのか,またどんなことが自分を落ち着かせる行動となっているかを検討す
ることで,子どもが安定して行動を広げられる環境を準備できるのではないだろうか。自開疲
児がどの環境にも,適応できないわけで、はないと考えている。自問症児のメカニズムの特性を
検討したよで,不適応、を起こす環境刺激を統制するなど,環境側の配患を行うことで適応が可
能になるのではないだろうか。それは新しい環境に関しでもいえるのではないかと考えている o
また,覚醒に変動をもたらす刺激として,-新奇性・複雑性の高いもの」が考えられる o この
ような性紫を持つ刺激として,社会的刺激,つまりヒトの動きが関連する刺激が考えられる。
社会的刺激,ヒトの関連する刺激(視線や表情認知,体の動きなど)に対して扇桃体を含む辺
198
縁系が関連するため (Baron-Cohene
ta
!, 2
0
0
0
), 自由症の障害仮説の一つである i
脊動調節の
も視野にいれて考えることが必要で、あると考えられる。
社会的刺激に住意が向かわずに否定的な情緒的反応が生ずるとすることからして,自閉症児
1
9
9
4
)土
,
の刺激の最適範囲は正常に比してだいぶ狭いことが示唆されると Dawson& Lewy (
述べている。社会的刺激に注意が向かわないことが,刺激最適水準の狭さからも,また情動調
節の酷害の点からも考えることができ,また二つはまったく独立したものではないだろう。扇
桃体の異常などの画像研究などによって示された自閉症児の情動謂節の揮寄仮説が提暗される
以前から,覚醒調節の障害仮説の視点から情動に関しての何らかの問題が指摘されていたとい
える。しかし,社会的刺激と一言でいっても様々な段階がある
G
母子の愛着が確立しにくいと
われるが,自関症児といえども見知らぬ人よりも養育者のほうにより多くの接近行動をとる
ta
,l 1984),また臨床現場でも見る光景である。今後,社会的刺
ことが示され (Sigman.M e
激という大枠ではなしとトの情緒発達を考慮しながら社会的刺激を詳細に検討し,自閉症児
の覚醒と'情動がどのように変動するのかを検討することによってよりよい理解と支按を模索し
ていきたいと考えている
O
[引用文献]
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Dawson.G‘&Lewy.A. (
1
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4
) 自閉症児の覚障星と主主主主と社会情緒的療護 野村東劾・治水康夫監訳 自問
i47-69 日本文化科学校 1
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9
4
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症 そのヱド態,診断および治療 第 3宝t
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斎藤一雄・翠名信昭 (
1
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)
. 精神返滞児の 1
) ズムパターンの陀期の学習 特殊教育学研究, 2
7
(
2
), 1
9
.
叩
斎藤一雄 (
1
9
9
6
)
. 精神遅滞児のリズムパターンへの i
可郊と再生一一視覚的提示とことばを添えて一一特殊教
育学研究, 3
3(
5
), 1
5
2
0
.
護主上真由美 (
1
9
8
5
).精神遅滞児のリズム反応に関する研究
間期を手がかりに
特殊教育学会第 2
3回大
会発表論文集, 1
3
6
1
3
7
.
杉問典子・ 2
害、経修三宮・大縫重治 (
2
0
0
1
)
. 自陣傾向を示す知的障害児における常向行動の出現と党降水準の変動
発達障害研究, 2
2
(
4
), 3
1
7
3
2
3
.
十一元三・神尾陽子 (
1
9
9
9
)
. 自律衿経反応からみた自問疲者の党限状態
児童青年精神医学とその近接領域,
J
適応凶難メカニズムの解明をめざして
4
0(
4
),3
1
9
3
2
8
.
山松質文 (
1
9
8
4
)
. 障害児のための音楽療法 現代心理学ブックス 7
1 大臼本図書株式会社.
1
9
9
9
) 心拍変動の線床応用一生理的意義,病態評儲,予後予誤J
I 医学議院.
林博史編集 (
日本自律神経学会編 (
2
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0
0
) 自律神経機能検査第 3版 文光堂.
1
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2
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0
第 5舗
学習障害児における新しい環境への適応の困難さ
一一系列学習との関連性
森英史
1
. 序論
学習樟害 (
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:LD) は聞く,話す,読み,書き,計算する,推論する詑力の
うち特定のものの習得と,使用に著しい菌難を示す。これらの原因は中枢神経系に何らかの機
能障害があると推定される o その捧害に起関する学習上の特異な困難は主として学齢期に顕在
化するが,学齢期を過ぎるまで明らかにならないこともある。文部科学省の定義によると LDは
視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒欝苦手などの状態や,家庭,学校,地域社会などの環境的
な要因が直接の原因となるものではないが,そうした状態や要因と伴に生じる可能性はある o
また,行動の自己調整,対人関係などにおける問題が LDに伴う形で現れることもある。 2
0
0
2年
に小,中学校合計 3
7
0校,約 4
3
0
0学級の担任教師を対象に,文部科学省の行った実態調査によ
ると全体の 4.5%の生徒に学習閣での困難を拾えることが明らかになった九
学習障害児はしばしば新しい環境に対し抵抗感を示し,時にはパニックに陥ることさえある。
このことには学習障害児の認知特性が影響していると考えられる o
学習障害児のうち「読み,書き」困難者は D
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a (ディスレキシア)と呼ばれ,その認知
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) におけ
特牲について多くの研究がなされている。 I
y
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x
i
aの定義は以下の通りである。
るD
テV スレキシアは,神級生物学的原因による特異的な学習障害である。単語認識の正確さと流暢
さの一方或は両方の困難,綴りとデコーデイング(文字記号の音声化)の達成度の低さによって特
徴付けられる。これらの跨答を引き起こす典型的要閣は,通常他の認知能力や有効な教授内容から
期待される水準と格差のある,言諮の音韻要繁に関する欠陥である。二次的に,読解の問題や読書
行為の減少をむき起こし,諮桑や基礎知識の拡充を妨げる可能性がある。
y
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aは DSMNでは「読字障害 J,I
C
D
I
Oでは「特異的読字睦筈J に相当する。
また D
田
学習障害児は新しい環境になぜ適応できないのか。その要因を認知特性の研究が比較的進ん
でいる D
y
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i
aの枠組みで検討したい。
2
.D
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i
aに関する 4つの飯説
D
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i
aはその定義の通り,読めない,書けない,綴れないといった臨床像を皇する。 Morgan
ら が 明T
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"として報告して以来,その要国をさぐる研究が進められてきた。現在,
きの障害を説明する有力な仮説として音韻スキル障害仮説, M
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a
r欠陥仮説,
速処理欠陥板説,小脳欠陥仮説の 4つがあげられているヘ
音韻スキル障害仮説は,新しい単語を読むためには文字を音に変換せねばならず,それに必
要な音韻スキルの能力が低下しているということを示しているヘ
a
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a
r欠陥仮説が提唱されている。外側藤状体は解剖学
視 覚 措報処理の研究では M
a
上,大細臨層 (
M
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) と小細胞層 (
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) に分かれており,大
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磁
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l難メカニズムの解明をめぎして
2
0
1
細胞層は情報伝達速度が速し時間変化(時間閥波数)を抽出するのに適している。 D
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i
a
群では,低空間癌波数,低輝度,短い持続時間におけるコントラスト感度が低下していること
a
g
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u
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a
r系の欠陥が示噴きれている 2)。
から, M
高速処理欠縮仮説では視覚,聴覚のモダリティに関わらず高速に連続呈示される刺激に対し
て感度が低下することから,連続して高速に処理する能力の樺害が示唆されているべ
また D
y
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x
i
a群で運動障害の合併率が高いことを指摘し,それらは小脳欠陥に由来すると
いう小脳欠陥依説が近年提唱されている的。 N
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n(
1
9
9
9
)5) は運動欝害のスペクトラムに応じ
きの障害が生じると主張している。ここで論じられる運動の欝答は運動のバランス,
姿勢の制御のような低次な運動スキルから,新しい技能を獲得するのに必要な運動の自動イじの
ような高次な能力まで多岐にわたっている。
以上 4つの読み書きに関する仮説が提唱されているが,未だ決定的な要関を特定できていな
い。その理由としては研究に参加する被験者によって読み書きに閤難を生じる要因が様々であ
り,必ずしも要因をひとつに絞れないということが挙げられる。そのため近年ではこれらの仮
説を統合し,要因を説明しようという考え方もあるぺ
これらのうち小脳欠陥仮説では, D
y
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x
i
aの運動自動化の問題を指摘している o この自動化
というプロセスは日常生活をスムーズに送る上で欠かすことのできない重要な役割を果たして
いる。というのも臼常行っている様々なスキルの獲得は自動化というプロセスが関係してくる
からである。以下ではスキル獲得における自動化の役割じ小脇欠陥仮説を基にした D
y
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x
i
a
の認知特性について検討した。
3.スキルの熟達化の三つの段踏
私たちは日常生活において多くの作業をこなしている。例えば歯を磨く,服を着る,ハシを
使うなど無数の習熟したスキルによって普段の生活が営まれている九そのような習熟したス
キルは熟達化というプロセスを経て獲得される o 熟達化とは認知,連合,自動化という 3つの
段階からなる 8)。
認知の段階ではどのような行為を行えばよいか記憶に留め,エラーを修正することが必要に
なる。連合の段階では初期の理解にあった誤りが徐々に見つけられて取り除かれ,スキルをう
まく実行するために必要な要素描の結ぴつきが強められる。そして自動化の段階では手続きが
自動的,かつ迅速になっていく。必要とされる処理資源もより少なくなる方向へ発達し,速さ,
正確さの両次元で改善されていく。
普段の生活で行われている無数の習熟したスキルは,この自動化の段階まで進んでおり,自
動化は行動をスムーズに遂行するのに重要な役割を来たしていると考えられる。
D
y
s
l
e
x
i
aの小脳欠陥仮説では,このスキル自動化の欠陥が示唆されておりへ日常の生活にお
いて様々な行動に困難があると考えられる。ではこの自動化されたスキルは心理学的にはどの
ように処理され,私たちの行動にどのよっな役割を果たしているのであろうか。
4
. 自動化の役割
普段の生活を支えている無数の習熟したスキルは,いくつかの動作を正しい順序で組み合わ
せて行われている九すなわちスキルの熟達化は,設数の動作を順序正しく行うよう学習する系
2
0
2
列学習としてとらえることができ,認知,連合,自動化の過程を経ると考えられる。
この自動化は心理学的にどのような役割があるのであろうか。そのことは自動化した系列が
どのように処理されるのかということと関連する。この処理の説明としてチャンキングの概念
が利用されるヘチャンクとは情報処理の心理的な単位であり,被数のチャンクを一つのチャン
クにまとめることをチャンキングと呼ぶ。系列が学習され,それが自動的になる様子を F
i
g
.
1
に示す問。系列は正しく遂行できるように認知,連合の段階を経てエラーを修正しながら要素間
の結びつきが強められる。その際系列の各要素がパラパラでそれぞ、れに対して住意を配分して
系列を再生させることが必要になる (
F
i
g
.
1a
)。一方自動化の段階 (
F
i
g
.
1b
)では要素間の結
びつきが更に強められ,いくつかの系列で一つのチャンクを構成する。チャンキングが行われ,
系列をいくつか要素ごとにまとめることで、各系列に注意を配分する割合が少なくなり,自動的
に処理される
えることになる。
a
)
••••••••••
¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥
F
i
g
.
1 系列学習におけるチャンキングを示した図である。
a
) はチャンキンクゃ前のフ。ロセスで, b
) はチャンキングP後のプロセスを表している。
.
,
立 1系列を示し,上の矢印は注意を要することを表し,下の矢印 l土自動化したことを表す。
すなわち系列処理が自動化することは,その処理を遂行するのに必要な注意が少なくすみ,
それだけ他の作業に注意を振り分けることが可能になることを意味する。
私たちが物事を遂行する擦に一時的に情報を保持できる量には限界がある。それはワーキン
グメモリの容量として語られることが多い。しかし学習をつむことでスキルが上達するとチャ
ンキングなどによりスキルの自動化が進み,ワーキングメモ 1
)容量の限界を超えずにより多く
の情報を操作することが可能になる。例えば,免許とりたての入は運転に多くの注意を注がね
ばならない。しかし,その操作が繰り返し学習されることで,注意は減少し,最終的にはドラ
千ブをしながら次第に会話を楽しむなど,
をそれほど注がずとも運転が可能になる。
このように自動化はチャンキングなどにより,ある系列を遂行するのにワーキングメモリの
負担を軽減するという役割がある。
5.系列学習を検討する心理学的パラダイム
自動化も含めた系列学習の 3つの段階を検討する心理学的パラダイムとして, 2x1
0課題が
ある (
F
i
g
.
2
)。これは
、くつかの動作を正しい頗序で組み合わせて遂行するグことを要求す
る課題で, 日常のスキル学習プロセスと同様に認知,連合,自動化の三つの段階を経ると考え
られる。
具体的な課題内容は以下の通りである。参加者は同時に光る 2つのマスに対応するキーをで
きるだけ早〈正確に押すことを求められる
2つのマスは予め押す1
)
演序が決められており,正
しい順序でキーが押されると直ちに次の刺激が呈示される。頗序を間違う,あるいはキー押し
を間違った場合,最初のセットからやり夜しとなる o 連続 1
0セットが所定の回数繰り返され,
参加者は試行を通して頗序 (2x
1
0系列)を学習していくと考えられる。
適応[l3難メカニズムの解明をめざして
2
0
3
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.
2 上は 2X1
0課題を示した図である (
B
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i,e
ta.
l(
2
0
0
0
) より)。
系列学習が認知,連合の段階を経ることができれば F
i
g
.
1a
)のように正しい系列を獲得する
i
g
.
1b
)のように処理が自動イじされてパフォーマンスが向上す
ことができ,更に学習が進むと F
ると考えられる。
では 2x1
0課題で自動イむの段階に進むということはどのような結果から支持されるのであ
ろうか。 2X10課題は 1
0セットの刺激に対して特定の順番でキー押しを行う。その際,各セッ
トで 2副キー押しを行うことになり(キー押ししキー押し 2
)(
F
i
g
.3
) それぞれのキー押し
で解釈が異なる。キー押し 1ではセット内のキー押しの順序を想起する時間が含まれ,キー押
し 2では残りのキーを押すという単純な動作を反映する。もし学習が進み自動化の段階に至れ
ば,チャンキングが生じることで一つ前のセットと次のセットとの結びつきが強められ一つの
チャンクとして扱われるはずで、ある。従ってキー押し 1の反応、時間が短縮すると考えられる。
この課題を学習障害をもっ対象児に適用すれば学習障害児の系列学習のフ。ロセスを検討する
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1
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)は D
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i
aの自動化の開題を指捕しており,学習障
ことができるであろう。 N
害児においても同様の問題があるのであれば, 2X10課題でのキー押し 1の反応時聞が改善し
2
0
0
3
) は Bapi(
2
0
0
0
)11) の行った 2x10課題を用いて
ないのではないかと考えられる。蔦森 (
をもった対象児における系列学習のプロセスを検討した。
[参加者] 視覚,運動に開題のない学習樟害をもっ対象児 2名 (
1
1歳
, 1
2歳)と健常中学生 I
名 (
1
2歳),大学生 8名(男性 4名,女性 4名平均 2
1
.8歳)であった。
提示時間判
キー押し 1 キ…押し2
キ}押し 1 キー押し 2
F
i
g
.
3 刺激の提示時間と各セット内のキー押し 1とキー押し 2を示す。
2
0
4
〔
仮
説
〕
学習酷害をもった対象見において自動化のプロセスに問題があり系列のチャンキン
グで失敗するのであれば,キー押し 1の反応時間が延長すると考えられる。
[
刺
激] F
i
g
.
1のように 3x3の格子に 2マス光らせた刺激 (2x10刺激)をデχ スプレイ
の中央に呈示した。
[手続き] 前述の通りである。 2x10課題は 2
3ブロックからなる。 2x1
0系列を通して学習
できた試行の反応時間を採用し,キー押し 1とキー押し 2の反応時間をそれぞれ別々
にプロットした。
[結果と考察] 大学生,健常中学生,学習障害児いずれも一定の願序で課題を遂行することが
可能となった。一方,反応時間はキー押し 2の反応、時間 (RT2
) では大学生,健常中
学生,学習障害児ともに差が見られなかった (
F
i
g
.
4a
) が,キー押し 1の反応時間
(RT1)では大学生,健常中学生に比べ,学習障害児で延長した (
F
i
g
.
4b
)。
正しい系列を獲得できたことより,系列学習が認知,連合の段階まで進んだと考えられる。
また学習障害児では RT2では差がないことから単純なキー押しに関して問題はないが, RT1
で反応が遅れていることよりスキル獲得の自動化のプロセスで蹟いていることが示唆される。
すなわち学習障害見 2名では,系列学習においてチャンキングが進まず前のセットと次のセッ
トとの結びつきがそれほど強まらなかったため系列が F
i
g
.
1a
) のょっに処理されていると推
測される。
この系列学習は脳内ではどんな部位が関係しているのであろうか。認知の段階ではその行動
のレパートリの選択と形成が行われ,主に大脳基底核が機能する。連合の段階では選択された
レパートリが手続きの情報として大脳皮質に蓄えられる。また自動化の段時では手続きの情報
が運動の記憶として小脳に送られる (
F
i
g
.
5
)問
。
をもっ対象児で見られた自動化の失敗は,上記のプロセスのうち小脳に蓄えられる
運動の記憶と関連のあることが推測される。このことは N
icolson(
1
9
9
9
)5)が示した小脳欠陥仮
a) 30
RT2
域ト大学生平均
2
5
寸翠一中学1
年生
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適応、I!I難メカニズムの解籾をめざして
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RT1
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。
F
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g
.
4 2X1
0課題の反誌、時間を示す。
a
) は RT2,b
) は RTlである。縦軸は反応時間 (
s
e
c
),横軸には試行数を示した。
試行数が増えるに従い反応待問は減少している。三本の縦線はそのイ立讃に加の課題を
持入したことを示す。
J
¥iiIJ
明一、一雪員園
⋮
ー
ー 、ぇ一
一一一蓄一
一一脳一蜘一
一一一動れ国
一﹁し遼ら一
手続きの言日憶が蓄
えられる
一一ィ一のる一
/Ili¥
亡
:
>
F
i
g
.
5 新しい行動パターンを護得するプロセス。
説と一致している。
6.自動化の欠陥が及ぼす影響
自動化する前は系列の 1セットに対して各々
を注 i
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.
"
,
J
}
良番に再生する必要がある
(
F
i
g
.
4
a
)。学習が進み自動化の段階に至ると,系列がチャンキングされることで注意を配分する割合
が減り,自動的に処理できる部分が多くなる (
F
i
g
.
4b
) しかし学習障害児ではこのような運
0
動系列のチャンキングが進まず自動的処理を行える割合が少ないのではないかと考えられる。
もし自動化に失致するのであればワーキングメモリ容量は飽和状態になり,新しい作業に配
分される容量は非常に乏しくなると考えられる O 二重課題のように同時に二つの作業を行う場
合はその効果が顕著で、あろう。
N
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1
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)5) は健常群と D
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i
a群との関に,単一課題における成績の差はみられない
おいては D
y
s
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e
x
i
a群で有意に成績が低下することを示した。このように自動化
の失敗がみられる D
y
s
l
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x
i
a群では同時にいくつかの作業をこなすことに樹難があるとことが
示されている。
D
y
s
l
e
x
i
aにおけるスキル 8動化の失敗は, 1つの作業に対して多くの処理資源を必要とする
ために,いくつもの作業を同時に行うことが非常に罷難で,労力を伴う状態をもたらすのでは
2
0
6
ないかと考えられる。このような Dyslexiaの認知特性は,新しい環境における適応に悶難をき
たす重要な要因となりうる。
7.新しい環境における学習捧害見の適応国難
学習障害児において系列学習とその自動化の過程に開題があるならば,新しい環境での必要
な新しい手続弘行動パターンの獲得に関難をきたすと予想、できる。
様々なスキルが自動化されていないために 1つ 1つの行動に多くの処理資源が振り分けられ
ねばならない。そのため,新しく学習するスキルに配分できる処理資源は少なくなる o
また新しい環境のように学習内容が多くなれば,それだけ個々の要素に処理資源が配分され
る最も少なくなると考えられる o
学習障害児ではいくつもの作業を同時に遂行することに困難をきたすことから,新しい環境
における学習効率は大きく低下し,周圏からでは見えにくい大きな負荷がかかることが予想さ
れる。
8動化に問題があればそれだけ一つの作業に注意を配分しがちになり,必要な多くの情報を
開き逃す,見逃すといった事態も考えられる。
手続きや行動パターンを身につけられなければ,集団行動の中で人より行動が遅れる,新し
い環境で使用する道具の使い方がわからず右投左往する,何をしていいのかわからず途方にく
れるといった事態になることも予想される。
このように学習障害児は自動化に困難を示すことから,新しい環境に身をおくことは非常に
負荷の高い状況であることが考えられる。またそういった状況では数多くの失敗もする可能性
もあるだろう
o
本論文ではこのように Dyslexiaの認知特性を中心に,学習欝害児の新しい環境における適
応の困難さについて検討した。学習障害児では新しい環境に対し,健常者の予想しないところ
で負担がかかり適応困難となることが考えられる。従って慰問の人たちは,学習障害児の認知
特性に配慮したかかわり方をすることが望まれるのである。
[参考文献〕
(
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) 上聖子一彦 (
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0
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) LD (学習滋答)と ADHD (注意欠路他動性障努)講談社十 a新番
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) 順序動作の学習の脳内ネットワーク
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3
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2
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8
第 8節
新しい環境に適応、することに関する考察
一一半側空間無視のリハビリテーションを通しての検討一一
牧 孝
1.はじめに
「新しい環境Jにさらされたとき,ヒトはさまざまな閤難を抱えることがある o それは新しい
環境において,自身が経験したことの無いような対象と接するためである。ヒトはその状況に
適した行動をとるために,未経験の対象に対して適応しなければならない σ したがって,その
適応に不具合が生じるとヒトは適切な行動をとることができない。
この新しい環境と定義される未経験の対象は,新しいという言葉のみで一義的に定義しうる
ものではない。たとえば,新しい環境では周りの風景,人間関係,ひいては自分自身でさえも
あらたな存在として定義されうる。多くの場合は,この種々の環境の変化に対して,試行錯誤
を重ねながら適応していく事が可能で、あるだろう。しかしながら,交通事故,病気などによる
脳の障害に起因してこれらの適応に不呉合が生じることがある。次に,そのように脳の障害に
よって外環境への適応が臨難になる症例について述べる。
2.脳の障害と適応
2-1.高次脳機能障害
高次脳機能障害は広義には脳損傷に起因する認知障害を示す。特に,平成
1
3年度に開始され
た高次踏機能障害モデル事業においては,高次脳機能煙害は外傷性脳損傷や脳血管障害によっ
て,記憶障害,注意煙害,遂行機能障害などの後遺疲を呈する障害であると定義されており,
肢体不自由などの身体機能障害を伴うことが多いため,社会生活を送る上で大きな障害となっ
ている。
このモデル事業において具体的症状として注自されているのは,記憶揮害や注意障害,遂行
機能障害であるが,同様に半制空間無規や病識の欠落等も問題視されている。
2-2.半倶!J空間無視 (
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特に初期視覚脳領域に損傷がみられず,運動出力にも問題を抱えていないにもかかわらず,
視野欠損に起因せずに脳損傷半球と反対髄の空間・対象の報告,反応,定位に問題が生じる障
害が報告されている。半側空間無椀 (
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9
) USNは高次脳機能捧寄といわれる脳の外傷や卒中などに代表される脳
る (
0
の損傷・萎縮に起関しておこる揮筈のひとつである。高次脳機能障害には,他に失語疲や認知
症などもあげられる o これらの障害については認知神経心理学の領域で研究されており,脳画
像技術の発麗に伴い,
目覚ましい発展をとげてきた。
USNの症状は,損傷半球(主に右半球)の反対側(左側)を文字通り、無調汐することなの
であるが,一見,日常生活にそれほど甚大な影響がなさそうに思える。しかし, USNを呈する
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)の低下などもみられ,
患者は日常生活に大きな問題を抱え, ADL(
適応、図難メカニズムの解明をめざして
2
0
9
医療現場でも問題となっている。たとえば,患者は左側にある対象を無視してしまうために「自
身の左側を歩行する人,あるいは左側にある障害物にぶつかってしまうム「本来左折するべき
食事の際に
選で左折することができずに,いつまでも目的地にたどり着くことができない j, r
血の左側半分の食物を残してしまう,あるいは左側にある肌をみつけることができず右側の血
ひげ掛り,化粧,着衣において左側の行動が脱落する j, r
道路を横断す
からばかり食べる j, r
ベッドから率いすへの移乗の関難」などあらゆる行動が制限されてしま
ることができない j, r
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)。何よりこれらの疲状を呈することによって,リハビ 1
)テー
う(
ションの進行が遅れてしまい,付槌して無視症状以外の擦なわれた機能の回復や狭まった生活
範囲を広げることも連れてしまう。
USNのリハビ 1
)テーションについては現在広く検討されている。 USNの 1
)ハビ 1
)テーショ
ンにおいて重要なのは,患者に病識をもってもらうことである。患者は,壁や物にぶつかった
という記憶は持っている。しかしながら,それがどのような原因によって生じたのかという点
についてはわからないというケースが少なくない。これは,
USN患者が自分自身の抱えている
問題が左側への無視が生じているためにおこっているということに対する認識が弱いからであ
る。効果的なリハビリテーションを達成するためには,まず
USN患者に左側の空間に気づいて
もらうということが重要になってくる。
そのための方法として,一つは「トップダウン式」におこなう方法で,簡潔にのべるならば,
頭で気づき行動に移してもらうアプローチである。例えば,
USN患者は,花の絵を模写するよ
うに求められた時に, しばしば花の左側の花弁を描き落とすが,検者が「花弁をぐるりと
するまで描き続けるように」という指示を与えることで, 1
e
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Uをきちんと描くことが可能とな
る疲倒がある (
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)。お半球の損傷によって無視症状を抱えるが,残存してい
る左半球の言語機能をうまくあっかうことによって,損なわれた機能を補うことが効果的であ
る。そのためには,閥閤の人間が適切なサポートをすることが必要になる。このように,残存
機能を使って障害された認知機能を補うことによって,徐々に改善していくという方法があげ
られている。
もう一つは対照的に「ボトムアップ。式」に行う方法である。例えば,プリズム娘鏡を用いて,
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)。患者の視覚情報
患者の視覚情報を左にずらして入力する方法がある (
をずらすことによって,患者が揖覚対象を手でっかもうと反応したときにお側にずれた位置に
を伸ばしてしまれしかしながら,訓練を重ねるに従って,適した反応、を示すことができる
ようになる。結果,眼鏡を外したときには,より左側の対象に手を伸ばすことが可能となり,
USNの改善がみられることもある
o
飽には,患者の頚筋にパイプレーション刺激を与えること
によって,自分自身の身体の向いている方向を錯覚させることによって,左に注意を向けるこ
とを可能にしていく方法なども行われている o このように,患者の初期感覚処理や認知機能に
介入することによって改善を目指そうという方法である。実際にはどちらかによる方法で,無
視が完全に消失するわけで、はなしこれらの方法を適切に組み合わせていくことで,より効果
)テーションが達成されることになるだろう。
的なリハビ 1
2 3. 効果的なリハビリテーシ譲ンへのアプローチ
現在,半側空間無視研究が日本においても発展してきて,多くのことが明らかになってきて
はいるが,
USNの摘態自体やどのような 1
)ハピリテーションが理想的で、あるのかということ
2
1
0
がきちんと把握できているという段階ではない。したがって,この障害研究においては多角的
に様々な方法を用いてアプローチすることで,障害についての諸側面を調査・検討することが
必要となる。
現在,多様な手法で 1
)ハピ 1
)テーションが試みられ,その効果が報告されており,多くのヒ
ントが提供されている。そのような臨床現場ですぐに応用可能な研究から,
トップダウン式・
ボトムアップ式のサポートを行う上で論拠となるヒトの認知メカニズムの解明を試みる研究ま
で幅広く行わなければならないと考えられる。先述した通り,これらが相互に発展して行く
で,はじめて病態は明らかにされていくだろう。
本研究では,このヒトの認知メカニズムに関して,認知心理学的な手法を用いて解明して行
く事で,むSNの病態解明に寄与することを目的とした。
2-4
. 実験の背景
現在,様々なリハビリテーションが臨床現場で模索的に行われているにも関わらず,どのよ
うなメカニズムで効果が生じているのかという問題についてはあまり多くは述べられていな
い。リハビリテーションの効果がどのような認知機能に彰響し,行動が改善きれ,適応して行
くのかという点について追究する事によって,その障害の背景にある、損なわれた認知機能グ
や、効巣的なアプローチグという点を明らかにする事ができるかもしれない。例えば,ボトム
アップ式のアプローチで示したプリズム眼鏡は視覚入力にバイアスを与えることによって無視
を示す側へも注意を向ける事を可能とする。この介入法を検討することによって,視覚情報が
脳の障害に起函して損傷同側に偏って処理されており,プリズムを用いて逆方向にバイアスを
生じさせる事で症状改善が可能となったという示唆を与えた。本研究では河様にボトムアップ
的なアブローチとして用いられている身体方向操作 (
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n
) を対象として実験を
千子った。
比較的身体に近い空間の情報は主に身体を中心とした軸,枠組みによって表現される。この
枠組みを空間参照枠,特にこの場合は身体中心参照枠という。空間参照枠は空間が関わる行動・
認識でどのように決定されどのように利用されているのか,脳内でどのように表現されている
のか,また発達的にどのように変化するかはいまだ明らかにはなっていない。しかしながら,
A
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.,
半側空間無揖研究,動物実験によって頭演葉の関わりが示唆されている (
1
9
8
5
)
0
身体中心参照枠が偏位していることによって, USN患者は損傷国側への注意ノ〈イアスが生
じるため,結果的に損傷対側への注意が相対的に落ちるので無視が生じるという一つの解釈が
なされている。しかしながら,この空間参照枠が具体的にどフいうものであるのかはまだ不明
瞭である o したがって, USN患者で無視が生じる,あるいは無視が生じるための一つの要素と
して存在するかもしれないこのバイアスについて検討する上では,空間参照枠自体がどのよう
な認知メカニズムであるかを明確にすることも重要である。本研究ではこの点に着目し, USN
患者の病態へのアフ。ローチの第一歩として,健常被験者で身体方向操作を変数として用いて検
討する事によって
1
)ハビリテーションで行われている手法が具体的に認知機能にどのような
影響を及ぼしているのか,また,空間参照枠の偏位として示されるが,空間参照、枠がどのよう
な機能を持っているかを明らかにしていくことを試みた。
2
1
1
適応I'EI難メカニズムの解明をめざして
2-5. 実験
6名(男女各 8名,年齢 1
9
2
3歳,平均 2
1
.8歳)。全員右利きであった。
被験者:大学生 1
装置・刺激・聴覚及び視覚的な定位を訪ぐため,防音シールドルーム内において,暗室条件下
で、実験を行った。刺激は
1
7インチディスプレイに提示した。黒色の背景上に白色のまま直線(長
.7",編 0
.
1
つを,視角慶で左右各1.2, 0
.
9 0
.
6, 0
.
3
"の位置と 0 のイ立護の 9箇所のい
さ2
0
0
0
0
ずれかに提示した。刺激の持続時間は刺激提示から被験者のボタン抑しまでの間,刺激開始関
間関は 1
0
0
0msとした。全ての位寵条件につき等確率,ランダムI
}
僚に提示した。
被験者の頭部方向と身体方向の位置関係を一定に保つために,あごのせ台によって頭部を翻
定し,身体を椅子に回定した。あごのせ台はデ〉イスプレイと平行に設置し頭部方向はつねにテゃイ
スプレイに正対させた。身体方向は,椅子の方向を変えることによって操作した。揖距離は 1
0
0
cmとした。
手続き被験者に提示された刺激が,正対する頭部の中心に対して左右のどちらに見えるかを,
右手の人差し指と中指によるボタン押しによって報告させた。ボタン押しは強制選択とした。
身体方向はディスプレイに正対する条件と,身体を身体軸を中心に友または右に 1
5回転させ
0
る条件からなり,それぞれ呉なるブロックで、行った。
各ブロックは各刺激位寵を 2
0試行合む,計 1
8
0試行からなった。身体方向条件の順序は被験
者間でランダムとした。
結果:右と判断した割合を刺激提示位寵の関数として身体方向条件ごとにプロットした (
F
i
g
.
1
)。右条件では正対条件よりも右判断率が減少し,左条件では右判断率が増加した。これは右
への身体方向操作が,身体軸を右に偏位させ,同様に左への身体方向操作が身体軸を友へと偏
イ立させたためと考えられる。
各身体方向における右判断率 50%の位置を主観的等儲点 (Point of Subjective Equality,
PSE) とした (
F
i
g
.2
) PSEは主観的身体中心を反映する指標である。 PSEについても,右判
0
断率の結果と荷様に,身体方向に準拠した主観的身体中心の偏位を反映したものと考えられる。
以上より,身体方向の操作によって主観的身体恥心か操作方向へ偏位 L,主観的な左右判断
において操作方向へのバイアスが生じることが示された。これは, USN患者がリハビ 1
)テー
ションの現場で身体中心参照枠のずれを修正することによって検査成績を向上させていくこと
を示唆するとともに, USNの病態としてこのような空間のずれが関与する事を示唆させる結
1
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l 各身体方向での右判断事
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)
Fig.2 各身体方向での PSE
2
1
2
来となった。
2-6
. まとめ
認知心理学的なアプローチによって,空間参照枠がどういう性質を持つものかという事が累
積的に明らかにされようとしている。一つの試みとして,本研究のようにリハビリテーション
の効果の実態をつかむ事で逆にその障害のメカニズムを採るといっ方法が示されてきている。
多くのリハビリテーションが存在し,効巣を示しているが,その効果を本研究のように実験・
考察した研究は多くはなかった。本研究では,臨床現場で扱われる身体方向を操作する 1
)ハビ
リテーションが USN患者の空間参照枠のずれを修正する事によって,無視側への注意を慌す
事が可能となった事を示した。よって,
USNの発現には空間参照枠のずれに対しての不適応が
関連する事が示唆された。
ただし,このようなアプローチが単独で、半側空間無視といっ病態の理解につながるわけで、は
ない。たとえば,
USN患者は本研究で扱った身体方向操作によって,左側への身体方向操作に
よって無視症状の改善は示されているが,右側への身体方向操作によって悪化しない事が報告
されている。このような片側性の効果の発現から単純に空間参照枠のみが無視症状の表出に関
わっているとは考えられない。したがって,今後はこのような矛盾した効果の発現に関わって
検討して行く事で,病態を詳細にとらえる事が可能になると考えられる。
また,眼球運動に関わる障害,性意に関わる障害など多くの認知機能において
USNは研究さ
れてきたが,それぞれが単独で、そのメカニズムを想定していた。近年ようやくそれらを包括的
にとらえるレビューがなされるようになり,本研究のような比較的低次な知覚段階にも影響す
るような認知機能についての記述が今後重要になってくるだろう
o
3.発達障害を抱える子供が新しい環境においてうまく適応できないことに対しての示唆
本研究では,直接的に発達障害を抱えた子供の認知機能に対してアプローチしていないが,
このような認知神経心理学の領域からいくつかの示唆を与える挙が可能で、あると考えている o
ひとつは本研究におけるアフローチの方法で,障害に対しての 1
)ハピリテーションの効果を
詳細に検討することで,その背景にある障答を探るという方法である o この方法は,今ある状
況の直接的な評価にはつながらないが,
えられる。発達障害研究においては
を詳細にとらえていく段階では不可欠で、あると考
1
)ハビリテーションは教育的介入に相当すると考えられ
るが,現段階では,その教育的介入を本研究で、扱ったようには定最的に捉えることが難しい為
に,その応用には困難を呈するであろう。リハビリテーションの効果もそうであるが,介入に
よって検査の成績が向上したとしても笑際の生活においては全く改善が見られないということ
が多くの場合存在する。認知神経心理学では本研究で示したように,空間参照枠のずれといっ
た認知メカニズムの問題に直接関係づけることが可能で、ある。しかし,一般的におこなわれて
いる教育的介入では介入の内容はもちろん,介入後の結果についても定量的に示すことが難し
しこれまでおこなわれてきた脳の灘害に関連した認知メカニズムの問題と直接関係づけるこ
とは難しいと考えられる o ただし,教育的介入を計画する段階において,本研究のように
を想定し,介入内容・評価を考躍することで,その距離を幾分現める事は可能となり,結果,
障害を詳細にとらえていくことにつながると考えられる。
また,本稿で紹介した半側空間無視という醸害の一つの涼間と考えられる空間参照枠のずれ
適応、 B
S
I難メカニズムの解明をめざして
2
1
3
という現象は患者のみに関連したことではない。空間参照枠は発達的変イむを伴うもので,発達
心理学における空間認知研究でも扱われている。 Piagetの自己中心性を含む理論はこの研究に
影響を与えており,空間認知の発達は自己中心性からの脱却と関連していることからこの要因
を解明しようとする試みがなされている O 一般的には自己を中心とした自己中心参照枠から,
他者あるいは環境を中心とした,対象/環境中心参照枠を獲得していく事で,自己中心性から
の脱却がなされるという見解が示されている。このような空間認知機能の発達にもし遅れが生
じたならば,認知機能として問題を抱えている空間認知に特化した問題がむしろ表出せずに,
日常場関では一見適応しているかまたは社会牲にやや問題が生じているというような評髄を受
ける可能性はそれほど低くないかもしれない。しかし,そのような問題を抱えた子供の知能検
査などを見ると,実際は空間認知の樟害を疑われるよ 7なケースは十分に考えられることであ
るo
このように発達を考えると,空間認知その機能自体に与える影響だけではなしそれに伴っ
た社会的能力において開題になる可能性は十分に予想されることである上に,このように間接
的に影響するのは,機能として完成している成人よりもこれから発達していく子供において現
れる特有の問題ではないかと考えられる。
このような視知覚系における適応の問題の背景にある認知機能を検討する事は,さまざまな
領域の研究に問題を提起し,子供の発達や発達障害の問題を考える上でも重要な示唆を与える
なると考えている。今後は空間参賠枠がどのように脳内で表現されるか,参照枠開の機能
の違いはどのような認知機能に影響するか,またそれら参照枠問の変換はどのように行われる
かといった詳細について検討していき,発達的にどう変化していくかという縦断的な研究につ
いても検討していきたい。
[引用文獄]
Andersen,
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.Nature
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明
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1
4
第 7範
認知的文脈により顕在化する A
D/HDの困難性と
教育的支援の可能性
一 -AD/HD症 状 の 程 度 で 異 な る 健 常 成 人 の 行 動 抑 制 時 に お け る 神 経 活 動
i
挙木梨沙
1.はじめに
A
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:AD/HD) とは,不注意,
注意欠陥/多動性樺害 (
勾
多動,衝動性を主症状とする発達障害の一つである。アメリカ精神監学会の診断基準 (DSM-N:
AmericanP
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,1
9
9
4
) は,不住意,多動,衝動性のすべてを満たす混合
憂勢型,多動と衝動性の基準をみたす多動 衝動性鐙勢型の 3
型,不注意症状のみの不注意f
つの下位分類を示している。学齢期における有病率は 3-7.5%とされている (
C
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s
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o
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Tannock,2
0
0
2
)。疲状のうち多動は比較的早期に消失するが,衝動性や注意欠縮は長〈持続し,
青年期において 50-80%,成人期以蜂においても 30-50%が障害を示し続けるとされている
(
B
a
r
k
l
e
y,DuPaul,& McMurray, 1
9
9
0
)。
AD/HDにおける症状の発現には脳機能の障害が関与していると.例えば,いくつかの MRI
研究は大脳基底核と前頭前皮質の大きさが AD/HD群で健常対照群よりも小さいことを示し
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,Marsh
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ている (
Semrud-Clikeman,S
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d,Renshaw,Kennedy,& Biederman, 1
9
9
7
) 事象関連脳電柱
(ERP) による研究では, P
3
0
0(
P
3もしくは P
3
b
)成分について最も多く報告され,そのほと
0
B
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e,& C
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e,
んどで AD/HDでは潜時の延長と振輔の低下がみられている (
2
0
0
3;片山, 2
0
0
3
)。またドーパミン受容体やトランスポータの異常も報告されている (
G
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l,
Daly,Heron,Hawi,& F
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d, 1
9
9
7
;LaHoste,Swanson,Wigal,e
ta
,
.
l 1
9
9
6
)。
しかしながら,現時点の脳科学研究による知見は AD/HDにおける基本的な認知的欠陥や特
異的な神経学的・神経心理学的疲状などを確定するまでには至っておらず,行動的特徴に基づ
Swanson
,C
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s,Murias,LaHoste,& Kennedy, 1
9
9
8
)。こ
いて診断がなされている (
のため,現在可能となったさまきやまな脳科学的手法を用いて, AD/HDの認知神経心理学的メカ
ニズムを解明すること,そして, AD/HDはどのよっな認知処理に間難を抱えているのかを明ら
かにすることが期待されている。
1
.
1
. AD/HDにおける行動抑制機能と新しい環境に対する弱さ
B
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k
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y(
1
9
9
7
)は
, AD/HDの本質的な病態が行動の抑制障答にあるとする仮説を提唱して
いる。彼のモテ、、ルでは,
f
憂勢な(生起しやすい)反応を抑制する,生起しつつある行動を停止
する,競合する事象の存在下で反応を制御するといった「行動抑制IjJ が欠如するために, AD/
HDは呂標志向的な持動の制御を達成できないとしている。 AD/HDが毘関に影響されやすい
のは,この「行動抑制」ができないことにより,反応までの遅延期間が十分に確保されず,結
果として実行機能が正常に働かないためであるとしている。
AD/HDにおける行動抑制機能の低下仮説はさまざまな実験的研究から支持されている。例i
2
1
5
適応鴎難メカニズムの解明をめざして
えば, Go/No
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k,S
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k,S
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kなどの行動抑制課題を用いた行動実験
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y& Diamond, 1992;S
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は
, AD/HDにおける成績の低さを報告している (
& Logan
,1
9
9
0
) fM胞を用いた脳機能の計測からは,行動抑制諜題時における前頭葉機能・
0
線条体機能の異常が示され, AD/HDには行動抑制の神経基盤に脆弱性があることが明らかに
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r,Rauch,Seidman,Whalen,J
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されている。 (
Tottenham,Thomas,D
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i,Yang,e
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,
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a,Overmeyer,Brammer,
Wi1
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iams,Simmons,& B
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e, 1999;Vaidya,A
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n,
瓦i
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r,Desmond,
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,
.
l 1
9
9
8
) 健常成人被験者を対象に AD/HD疲状を評価する質問紙を用いた研究
は
, AD/HD症状の程度と行動抑制機能に強い関係があることを報告している。例えば, Wodu
s
h
e
k& Neumann(
2
0
0
3
) は AD/HD症状の程度を評価するウエンダー・ユタ評価尺度 (Ward
,
Wender,& R
e
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r
r, 1
9
9
3
)を用いて,健常成人被験者のうち低得点者を低 AD/HD症状群,
高得点者を高 AD/HD症状群に分類し,両群における様々な認知課題での成績を比較検討し
S
t
o
p
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g
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lt
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s
k
)において抑制処理が遅延
た。その結果,高 AD/HD症状群は行動抑制課題 (
0
回
し,抑制反応に高い関難性をもつことを示した。
AD/HDの逸脱行動は新しい環境において特に顕著になるとが指摘されている。例えば,新し
いクラスになると授業中の立ち歩きが増加すること,運動会などの学校行事では集毘行動に適
, AD/HDの本質的な病態が行動の抑制障害に
応できないことなどが挙げられる。前述のよ 7に
あることが示唆されており,行動抑制に関わる神経義援に脆弱牲があると考えられている o こ
の問題が新しい環境においてより顕在化するのだと思われる。
のため, AD/HDがもっ行動抑制j
しかしながら,行動抑制の遂行には多くの認知処理が系列的・並列的に関与している。これま
での研究では AD/HDはどの認知処理に問題があるのかは確定されていない。そして, AD/HD
が新しい環境で行動することが閤難となる要因,すなわち, AD/HDがもっ認知処理の踊弱性
は,どのような認知的文脈でも顕在化しているのか,あるいは特定の認知的文脈で顕在化する
のかも明らかにされていない。
1
.2
. 行動抑制とその神経基盤
行動抑制能力,すなわち,不適切な情報や反応、を抑制する能力は認知機能の発達に強〈影響
C
a
s
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y,G
i
e
d
d,& Thomas, 2
0
0
0
)。この能力は小児期から青年期にかけて発達し,
を与える (
Go/No
g
ot
a
s
kや S
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r
o
o
pt
a
s
kにおける成績はおよそ 10-12歳以時まで成人のレベルに達し
C
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r,L
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y,& C
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s,2001;D
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s
t
o
n,Thomas,Yang,Ulug,Zimmerman,&
ない (
Casey
,2
0
0
2
)。
行動抑制の神経基盤として重要性が示唆されている脳領域は前頭前野,前部帯状回,そして,
大脳碁底核である。これらの脳領域は行動抑制において奥なる認知処理を担っているが,機能
A
l
e
x
a
n
d
e
r,DeLong,&
的・解剖学的に強い相互関係をもち,行動の制御に強く関与している (
S
t
r
i
c
k,1
9
8
6
)。前頭前野では目標行動に関連する情報が内的表象として保持される そして,
O
認知的競合情報による子渉が生じた場合でも,前頭前野はその目標関連情報の表象を保ち,注
意資源を適切に配分することで行動の達成を導いている o 一方,前部帯状聞は目標行動に関す
る内的表象と外界から入力された外的表象との認知的競合を検出することに寄与している。そ
して,大脳基底核はそれらの情報に基づいて,認知的に競合する不適切な思考や行動の抑制jを
C
a
s
e
y,D
u
r
s
t
o
n,& F
o
s
s
e
l
l
a, 2001;D
u
r
s
t
o
n,
実行することに寄与していると考えられている (
2
1
6
D
a
v
i
d
s
o
n,Thomas,Worden,Tottenham,抗 a
r
t
i
n
e
z,e
ta
,
.
l 2
0
0
3
)
0
1
.
3
. G
o
/
N
o
.
.
g
ot
a
s
k
刷
.
耐
Go/No
g
ot
a
s
kは行動抑制機能を研究するために用いられてきた典型的なパラダイムであ
g
ot
a
s
kは,高頻度でい呈示される Go刺激(文字や絵)に対しボタ
る。視覚刺激による Go/No
o-go刺激(文字や
ン押しなどの反応が求められる。しかし,ランダムに低頻度で呈示される N
ot
a
s
kは呈示された刺
絵)に対してはボタン押しなどの反応、をしてはならない。この Go/Nog
・
激に応じて柔軟に行動を変化させること,そして,いっそれが求められるかがわからないとい
う予測不可能性において, AD/HDが困難を抱える「新しい環境」と共通していると考えられる。
D
u
r
s
t
o
n,Thomas,Wo
r
d
e
n,Yang,& Casey (
2
0
0
2
)は
, e
v
e
n
t
r
e
l
a
t
e
dfMRIを用いて,
No-go試行に先行する Go試行の連続回数により, No-go試行時における認知処理に違いがみ
o試行から Go試行が多く続いた後の No-go
られることを明らかにした。例えば,渡部の Nog
“
試行では誤反応が増加し,前部帯状聞や下前頭回の活動が高くなることを示した。また,先行
o-go試行時における運動連合野の活動
する Go試行の連続四数が最も多い(5回)条件では, N
が高くなることも示した。これらのことは,先行する Go試行の連続回数により操作した認知的
文脈が,行動抑制機能や運動準備レベルに影響を与えることを示唆している。
1
.
4
. fMRI
本研究は fMRIを用いて脳活動を計測した。 fMRIは BOLD(
B
l
o
o
dO
x
y
g
e
n
a
t
i
o
nL
e
v
e
l
D
e
p
e
n
d
e
n
t
)効果を利用して,脳機能画像を得るイメージング法の一つである o M R画像信号強
度は静峨場均一性に依存するため,鉄などを主成分とする金属,いわゆる磁性体が体内にある
eoxyHbがあ
とその周辺の静磁場を不均一にする。生体内の代表的な内菌性常磁性体として d
eoxyHbによって静磁場が香しされる。 T2*強調撮像では deoxyHb量が多いと MR
り,この d
信号強度が低下し,少ないと M R信号強度が増加する。神経細抱が賦活するとその賦活した神
経細胞へ酸素などの代謝物質を供給する血管系の血流が増加し,この血管系では動脈血の流入
が顕著となる。動脈血ではほとんどのヘモグロビンが酸素化されているので,この血管系の毛
細血管床から静脈へかけて deoxyHb量が希釈される。すなわち,神経細胞が賦活するとそれに
対応した領域内の deoxyHb量が減少し,その結果,その領域の静磁場が均一になり MR
強度が増加する o これが BOLD効果である。 BOLD効果はシナプス活動と最もよく相関する o
fMRIは,知覚,運動,思考,言G
'
I
意,判断, 1
'
育動などさまざまな脳機能が行われる際,脳内の
どの部分の神経が活動しているのかを画像化することが可能で、ある。イメージング法は fMRI
の他に PET
,SPECT
,MEG
,EEGがある。 fMRIの空間分解能は m mオーダーであり他の脳
機能画像化技術に比べ最も高い。時間分解能はサブ秒
秒オー夕、ーである O 分オーダーの時間
分解能をもっ PETや SPECTに比べはるかに高い。 PETや SPECTのように放射線同位元素
を用いたトレーサを体内に注入する必要がなく,放射線被爆なしに繰り返し測定が可能で、ある。
また,他の脳機能画像也技術では脳機能部位の決定のために MRI測定が不可欠で、,画像転送,
画像融合,位置合わせやずれの補正などの特殊な作業を必要とする。これに対して, fMRIでは,
すでに測定時に正確な位置決定の情報を得ているため,誤差の生じやすいこれらの複雑な作業
は必要としない。 MEGや EEGは先頂樹状突起のシナプス活動の総和である以上,その突起の
配列が同じ方向でなければ記録されないが,この点に関して fMRIは開題がない。また, MEG
適応濁難メカニズムの解明をめざして
2
1
7
は先頂闘状突起の細胞内電流を取り巻くように生じるため,頭表に対して接線方向に向いた活
動のみを反映するのに対して, f
MRIは活動の方向に依存しない。
限界や問題点として,前頭蓋底近傍,後鎮葉認など解剖学構造から測定部位に制限があるこ
とが挙げられる。また,信号機序の解明や信号処理に検討填自が残されている。そして,頭の
1mm以上の顕著な動きがあると動きの補正が有効で、ない場合がある。
fMRIの撮像方法のうち, e
v
e
n
t
r
e
l
a
t
e
dタイプを採用することにより,誤反応と正反応、を分
動きに弱<,
けて分析することが可能である o また,呈示された刺激によって分けて分析することも可能で
o
g
ot
a
s
kであれば, Go刺激に対する認知処理と, N
o
g
o刺激に対す
あるため,例えば Go/N
る認知処理を分離して分析することが可能である。
1
.
5
. 本研究の目的
上述のように, AD/
狂Dは新しい環境において行動を抑制することが留難であることが示唆
されている。しかしながら, AD/HDにみられる行動抑制の困難性について認知神経心理学的に
明らかにされていることは少ない。特に,行動抑制時にみられる神経基盤の脆弱性が認知的文
脈によりどのように顕定化するのかについてはあまり検討されてこなかった。
本研究では e
v
e
n
tr
e
l
a
t
e
dfMF
むを用いて,健常成人の低 AD/HD症状群と高 AD/HD症状
司
群における Go/N
o
g
ot
a
s
k遂行時の脳活動を計測し,行動抑制時における脳活動を比較検討し
た。その際に, Nog
o試行に先行する Go試行の連続開数により操作した認知的文脈の違いが,
司
行動抑制時における脳活動および認知処理にどのような違いをもたらすのかを検討した。そし
て,それが AD/HDにおける認知神経心理学的メカニズムとどのように関係するのかを考察し
た
。
AD/HDの認知機能の脆弱性がどのような認知的文紙で顕在化するのかを探ることは, AD/
HD見・者に対するより具体的な臨床的支援の提案を可能にすると考えられる。
2.方法
2
.1
. 被験者
3名 (
2
1
3
1歳,平均 2
2
.
3歳)であり,矯正を含み全員が
被験者は右利きの健常成人女性 1
課題に支揮のない視力を手ぎしていた。
2
.
2
. 刺激
刺激はパーソナルコンピュータからプロジェクタを過してシールドルーム内透過型スクリー
ンに呈示した。ヘッドコイル上につけられた眼前の鏡を用いて,刺激を調野中央に畏示した。
刺激には, r
V
Jr
C
Jr
K
Jr
L
J(
G
o刺激)と r
X
J(
N
o
g
o刺激)の 5種類を用いた。刺激は 1
図に 1つずつ,機私ランダム1
)
鼠で呈示した。 Go刺激呈示確率を 71%
,N
o
g
o刺激の呈示確率を
29%とした。全ての刺激の視角度は約 2
.
5
。であった。刺激呈示時間を 3
00ms
,SOAを 5
2
5
0ms
とした。
2
.
3
. 手続き
被験者は AD/HD症状を評価する 2つの質問紙に回答した。一つはウエンダー・ユタ詳細尺
1の費問演自のうち, Ward,Wender,&R
e
i
m
h
e
r
r(
19
9
3
) により AD/HDの
度を使用した。 6
2
1
8
l
o
n
gi
n
t
e
r
v
a
l
条件
s
h
o
r
t
i
n
t
e
r
v
a
l
条件
剛
一
三
》
-~
一
三
》
一
三
〉
一
三
〉
一
一
一
三
》
300ms
且 Go
I N
ゅ
刷
t
i
m
e
t
r
i
a
l
F
i
g
.
l 各条件の分類と刺激パラメータ
検出力が高いと報告された 2
5項目を点数化した(まったくない: 0点,たまに
2点,しばしば: 3点,しょっちゅう
き
1点,ときど
4点) もう一つには過去 6ヶ月間の行動特徴を自
0
己報告する現表症状尺度 (
B
a
r
k
l
e
y& Murphy, 1
9
9
8
) を使用した。こちらもまた点数化した
(まったく又はめったにない: 0点,時々
1点
, しばしば
2点,非常によく
3点)。そし
て 2つの質問紙の点数を合計し,低い方から 6名を低 AD/HD症状群 (
2
6
.
6
7点 SD7
.
5
5
),高
い方から 7名を高 AD/HD症状群 (
5
8
.
8
6点 SD1
1
.
6
8
) とした。
1ブロックは 4
9試行からなり
3ブロック行った。 Go試行数は 1
0
5試行, No-go試行数は
4
2試行であった。先行する Go試行の連続回数から, Nogo試行を 2条件に分類した。夜前の
蜘
No-go試行から Go試行が O国・ 1閤・ 2回しか連続しない No-go試行を s
h
o
r
ti
n
t
e
r
v
a
l条件,
o-go試行から Go試行が 3回
, 4由
, 5回連続した後の N
o-go試行を l
o
n
g
i
n
t
e
r
v
a
l条
直前の N
F
i
g
.
1
)。
件とした (
被験者にはアルファベットに対し出来るだけ速く正確にボタン押しをすること,ただし
iXJ
に対してはボタン押し反応をしてはならないことを教示した。被験者は手続きの理解が確認で
きる程度に練習試行を行った。
2
.
4
. データの計測及び解析
igna-LX1
.5TM Rスキャナを用いた。撮像シーケンスは G
r
a
d
i
e
n
t
撮像には GE社裂の S
e
c
h
oe
c
h
op
l
a
n
a
rimage法 (GRE-EPI)を使用した。各ノ fラメータは, FOV24cmX24cm;
時
m
a
t
r
i
x6
4X6
4;s
l
i
c
et
h
i
c
k
n
e
s
s5m m;s
l
i
c
egap2
.
5m m;TR3
0
0
0ms;TE4
0msであっ
f
こ
。
解析には , H
i
話機能画像分析ソフトである SPM9
9 (Wellcome Department o
fC
o
g
n
i
t
i
v
e
Neurology,London,UK) を使用した。得られた機能画像は最初のスキャンをリファレンスと
して 1
)アライン処理した。そして,
1
)アラインしたスキャンを
T
a
l
a
i
r
a
c
h& Tournoux(
1
9
8
8
)
の標準アトラスに変換するために標議化し,標準化したイメージを半値幅 8mmの G
a
u
s
s
i
a
n
f
i
l
t
e
rによって平滑化した。群レベルの分析では twosample tt
e
s
tにより賦活領域を同定し
匂
た。ボクセルレベルの調値 P <.
0
0
0
5で,かっ 8偶以上連続するボクセルを含むクラスタを有意
な賦活領域とした。
219
適応困難メカニズムの解明をめざして
3.結果
3
.1
. 行動指標
行動指標の結果を Table1に示す。 RT
it率
, FA率ともに 2群聞に有意な差はみられな
vH
かった。
3
.
2
. fMRI
本論文では, No
宮 0 試行のうち正答試行(ボタン押しがきれなかった試行)のみを分析した
s
h
o
r
t
/
l
o
n
gi
n
t
e
r
v
a
l条件)において 2群関に有意な差がみられた
結巣を報告する。各条件 (
な脳領域を Table2に示す。
Table1 低・高 AO/HO
症状群での平均反応時間, H比率および FA
率(平均土 50)
低 AD/HD症状群
s
h
o
r
t
i
n
t
e
r
v
a
l
RT (
m
s
)
4
6
9士8
0
H
i
t率(%)
1
0
0
.5
9士3
.
8
9
FA率(%) 1
高 AD
/HD症状群
o
n
gi
n
t
e
r
v
a
l
s
h
o
r
ti
n
t
e
r
v
a
l l
噌
司
4
4
2土 6
4
1
0
0
4
.
7
6土 5
.
2
2
4
8
4土 6
6
.
9
5
9
8
.
1
0土 2
8
.
1
6土 1
1
.
2
4
4
8
9土 5
9
9
7
.
7
8:
t3.14
4
.
7
6
と
ご5
.
5
0
Table 2 低・高 AO/HO症状群間の行動抑制時における脳活動の比較
Area
BrodmannAreaS
i
d
e
s
h
o
r
t
i
n
t
e
r
v
a
l条件
低 AD/HD症状群>高 AD/HD疲状群
尾状核
l
e
f
t
上前E
長田
9
r
i
g
h
t
l
e
f
t
1
0
中古t
r
l
l
質問
r
i
g
h
t
8
l
e
f
t
1
0
内側前宣資自
9
l
巴f
t
上頭頂小葉
7
r
i
g
h
t
下頭頂小葉
l
e
f
t
4
0
低 AD/HD症状群<高 AD/HD主
主
状
若
手
上頭頂小葉
l
e
f
t
7
下頭演小葉
4
0
r
i
g
h
t
縁上回
4
0
r
i
g
h
t
l
o
n
g
i
n
t
e
r
v
a
l条件
低 AD/HD症状群>高 AD/HD症状群
前部予告状濁
2
4
b
i
l
a
t
e
r
a
l
島状核
l
e
f
t
上前頭間
1
0
r
i
g
h
t
下頭演小葉
4
0
l
e
f
t
低 AD/HD疲状群<高 AD/HD症状群
前補足運動野
6
b
i
l
a
t
e
r
a
l
後部帯状回
2
3
b
i
l
a
t
e
r
a
l
上頭頂小葉
7
l
e
f
t
T
a
l
a
i
r
a
c
h
(-10,0
,1
6
)
(
2
6,5
6,3
0
)
(-6,5
8,-10)
(
2
4,1
4,3
8
)
(-28,5
2,2
) (-20,6
4,2
0
)
(-4,4
0,2
4
)
(
1
8,-66,5
8
)
(-34,-38,5
2
)
(-38,-64,5
2
)
(
4
0,-60,4
4
)
(
5
2,-50,3
0
)
(-6,2
2,2
4
)(
6,2
8,8
)
(-12,8
,1
0
)
(
2
6,5
6,2
2
)
(-34,-38,5
2
)
(-4,2
2,5
2
)(
8,2
0,5
4
)
(-4,-38,2
6
)(
6,-22,3
2
)
(-36,-68,5
4
)
2
2
0
低 AD/HD
症状群;高AD/HD
症状群
2
~ロ
l
一
∞
~~
O
ぷ
ι
吋
J
g
-時
2
E
出
2
~
-1
一2
F
i
g
.
2 高 AD/HD症状群で活動の
低さがみられた左尾状核
•••
•
•
1
.
.
1
r=-.
8
2
• ••
•
:
.
.
2
0 3
0 4
0 5
0 6
0 7
0 8
0
ADHDsymptomss
c
o
r
e
0
) に お け る %MRs
i
g
n
a
l
F
i
g
.
3 在中前頭間 (BA1
changeと AD/HD症状得点との相関
3
.
2
.
1. s
h
o
r
t
i
n
t
e
r
v
a
l条件
s
h
o
r
t
i
n
t
e
r
v
a
l条件では,低 AD/HD症状群に比べ,高 AD/HD症状群で1
L
尾状核の活動が有
i
g
.
2に差がみられた左毘状核の領域を示す。
意に低かった。 F
, BA1
0
),左右中前頭国
前頭前野における 2群関の活動の違いとして左右上前頭回(BA9
(BA1
0,BA8
),左内側前頭回(BA9)に有意な差がみられた。これらの領域での活動は低 AD/
i
g
.
3に示すように, AD/HD症状得点
HD症状群に比べ高 AD/HD症状群で低かった。また, F
と左中前頭間 (BA1
0
)における%出Rs
i
g
n
a
lchangeに強い負の相関がみられた (r=一 .
8
2
)。
3
.
2
.
2
. l
o
n
g
i
n
t
e
r
v
a
l条件
l
o
n
gi
n
t
e
r
v
a
l条件でも,低 AD/HD症状群に比べ,高 AD/HD症状群で左尾状核の活動が有
田
意にイ品かった。
i
g
.
左右前部帯状回の活動は低 AD/HD症状群に比べ高 AD/HD症状群で有意に低かった。 F
4に差がみられた左前部帯状回の領域を示す。
一方,左右前橋足運動野 (BA6)の活動は低 AD/HD症状群に比べ高 AD/HD症状群で有意
に高かった。
4.考察
本研究では, e
v
e
n
tr
e
l
a
t
e
dfMRIを用いて,低 AD/HD疲状群と高 AD/HD疲状群における
噂
o-go試行に先行する Go試行の連続関数が少
行動抑制時の脳活動を比較検討した。その際に, N
ない s
h
o
r
ti
n
t
e
r
v
a
l条件と連続囲数が多い l
o
n
g
i
n
t
e
r
v
a
l条件を設けた。そして,先行する Go
試行の連続回数により操作した認知的文脈の違いが,前群における行動抑制時の脳活動の違い
にどう影響するのかを検討した。結果として,行動指標では 2群間に有意な差はみられなかっ
たが, fMRIから行動抑制の神経基擦とされる脳領域の活動に有意な差がみられた。
2
2
1
適応 E
自警生メカニズムの解明をめざして
F
i
g
.
4 高 AO/HO症状群で活動の低さがみられた左前部帯状回
4
.
1
. l
o
n
g
/
s
h
o
r
t
i
n
t
e
r
v
a
l条件共通の群間差
両条件において
2群間の脳活動に顕著な差がみられた領域は尾状核であった。大脳基底核
は大脳皮質の非常に多くの領域から入力される情報をもとに行動の抑制を実行する (
C
a
s
e
y,
D
u
r
s
t
o
n,& F
o
s
s
e
l
l
a,2
0
0
1
)。また, Go/No
g
ot
a
s
k遂行時の小見と成人の脳活動を比較した
研究から,この尾状核を含む前頭線条体回路の成熟は抑制制御機能の発達と強〈関係すること
D
u
r
s
t
o
n,Thomas,Yang
,U
l
ug,Zimmerman,& Casey
,2
0
0
2
)。本研究にお
が示されている (
ける高 AD/HD症状群での尾状核活動の低さは, AD/HD症状と尾状核における行動抑制機能
に関連があるという先行研究の報告を支持する結果である (
D
u
r
s
t
o
n
,T
ottenham, Thomas,
D
a
v
i
d
s
o
n,E
i
g
s
t
i,Yang
,e
ta
,
.
l 2
0
0
3
;Vaidya,A
u
s
t
i
n,K
i
r
k
o
r
i
a
n,R
i
d
l
e
h
u
b
e
r,Desmond
,
G
l
o
v
e
r,e
ta
,
.
l1
9
9
8
) そして, AD/HD症状の程度による,行動抑制の実行処理機能の違いは,
0
認知的文脈に関わらず顕在化していることが示唆された。
4
.
2
. s
h
o
r
t
i
n
t
e
r
v
a
l条件のみの群間差
s
h
o
r
ti
n
t
e
r
v
a
l条件においてのみ 2群間の脳活動に鎖著な差がみられた領域は,前頭前野で
あった。低 AD/HD症状群に比べ,高 AD/HD疲状群で上前頭間 (BA9
,BA1
0
),中前頭間
(BA8
, BA1
0
),内側部頭四 (BA9
)の活動が有意に低かった。また,行動抑制時における左
中前頭回の活動と AD/HD症状得点には強い負の相関がみられた。このことから, AD/HD症
h
o
r
t
i
n
t
e
r
v
a
l
状得点が高い者ほど行動抑制時における前頭前野の活動が低いことが示された。 s
条件では,直前の N
o-go試行との聞の Go試行の連続回数が少ないため,目標である Goという
o-goという情報処理への柔軟な切り替えが求められる。こ
情報処理から,それとは競合した N
のような事態において行動を適切に制御するためには,目標関連'清報をアクティブに保持する
こと,そして,それぞれの認知処理に対し柔軟に注意資源を配分することが求められる。 fMRI
を用いた研究から,日標行動に関連する情報は前頭前野において内的表象として保持されると
考えられている。そして,それぞれの認知処理に配分される注意資源の制御にも前頭前野が寄
していることが示唆されている (
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の艶分機能に違いがあることが示唆される。この結果は s
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え間関が短い認知的文脈において顕在化すると考えられる。
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た外的表象との認知的競合を検出する神経基盤の中根として前部帯状副が示唆されている
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ために,高い認知的競合が生じると考えられる。そして,認知的競合が高い事態において,前
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)。本研究において
2群間で前部帯状盟の活動に差がみら
れたことは, AD/HD疲状の程度により認知的競合を検出する機能に違いがあることを示唆し
ている。この結果が l
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l条件のみにみられたことから,認知的競合を検出する機能の
違いは行動抑制時の認知的競合が高い文脈において顕在化すると考えられる。
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l条件においてのみ前補足運動野 (
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た。高 AD/HD症 状 群 は 低 AD/HD症状群よりもこの領域の活動が有意に高かった。 l
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l条件では,直前の No-go試行との間の Go試行の連続回数が多いため, No-go時の運
動準備レベルが高くなると考えられる。 fMRI研究から,前補足運動野は運動反応、を遂行するた
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めの準備処理に寄与することが報告されている (
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)。高 AD/HD症状群が低 AD/HD症状群に比べて前補足運動野の高い活動を示し
たことは,行動抑制時における運動準備レベルが高 AD/HD群でより高いことを示唆してい
る。そして,このような違いは l
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l条件のみに示されたことから, AD/狂D症状の程
度による運動準備レベルの違いは,反応実行が多く連続した認知的文脈において顕在化するこ
とが示唆される。
4
.
4
. AD/HDメカニズムとの関連性
これまでの多くの AD/HD研究は, AD/HDの中核障害として行動抑制機能の問題を示唆し
てきた。しかしながら,行動抑制!の遂行に関与する多くの認知処理のうち,どの認知処理が AD/
HDにおいて本質的に問題なのか,またどのような認知的文脈により問題が顕在f
ちするのかに
ついては明らかにされてこなかった。本研究では健常成人被験者を AD/HD症状尺度の得点を
もとに低 AD/HD症状群と高 AD/HD疲状群に分類し, N
o-go試行に先行する Go試行の連続
回数により操作した異なる認知的文脈において
2群聞の行動抑制時の脳活動を比較した。結
果として, AD/HD症状の程度による,行動抑制の実行処理機能の違いは,認知的文脈に関わら
ず顕在北していることが示唆された。一方,目標情報の保持機能や適切な注意資源の配分機能,
認知的競合の検出機能,運動準備レベルの制御機能の違いは,特定の認知的文派において顕在
イじすることが示唆された。これらのことから, AD/HDの認知神経心理学的メカニズムにおい
て
, AD/HDの本霊的病態は行動抑制の実行処理機能の不全で、あることが示唆される。また,認
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i慶応、 E困難メカニズムの解明をめ~して
知的文脈の変化により顕在化する脆弱的機能として,
目標情報の保持機能や適切な控意資源の
配分機能,認知的競合の検出機能,運動準備レベルの制御機能があり,それらが AD/HDの行
動抑制をより困難にしている可能性が示唆される。しかし,今回の研究は健常者を対象とした
ものであり,診断群を対象としてさらに検討する必要がある。
4
.
5
. AD/HDのある子どもたちへの教育的支援の可能性
AD/HDの逸脱行動は新しい環境で顕著になり,その原悶には AD/HDにおける行動抑制機
能の問題が関係していると考えられている。本研究の結巣は,行動抑制機能の神経義援に脆弱
性をもっ AD/HDのある子どもに対し,どのような介入が有効で、あるかについての示唆を与え
ると思われる。
AD/HDの本賞的病態は行動抑制の実行処理機能不全であることが示唆されたが, AD/HD
のある子どもが行動抑制に著しい国難を抱える要因には,特定の認知的文脈で顕在化する他の
認知機能における問題の重捜が関与していると考えられる。その認知機能とは
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反応」と「抑
制J の切り替え間関が短い認知的文脈において顕在化する、目標情報の保持機能かや、適切な
注意資源の配分機能ぺ行動抑制時の認知的競合が強い文脈において顕在化するホ認知的競合の
検出機能ヘそして,反応実行が多く連続した認知的文脈において顕在イじする、運動準備レベル
の制御機能汐である。
脆弱的機能と考えられる、目標情報の保持機能グや、適切な注意資源の配分機能グの問題を
顕在化させないためには,与える情報の負荷を軽減することが有効で、ある。そうすることによ
り,情報保持機能への負担は少なくなるだけではなし他の認知機能の遂行がより確実になる。
そして,与える情報の負荷が軽減すると情報処理に必要となる在意資源が少なくなるので,
意資源の配分機能に問題があると考えられる AD/HDには有効であろう。
1E
知的競合の検出機能かの問題を顕在化させないためには,より「わかりやすく」競合情報
を呈示することが重要で、ある。「何が今までと異なるのか Jを明瞭に示すことは,それを検出す
ることが閤難な AD/HDのある子どもに対して有効で、ある。
、運動準備レベルの制御機能グの問題を顕在イじさせないためには,行動停止の声がけのタイミ
ングを健常児・者に比べて早い段時ですることが有効で、ある。このことは行動抑制時の異常に
高い運動準備レベルを防ぎ,よりスムーズに行動を抑制しやすくなると考えられる。
[引用文献]
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