...

「長期停滞論」と自然利子率の低下

by user

on
Category: Documents
10

views

Report

Comments

Transcript

「長期停滞論」と自然利子率の低下
みずほインサイト
米 州
2014 年 6 月 9 日
「長期停滞論」と自然利子率の低下
欧米調査部シニアエコノミスト
政策金利の長期水準見直しは過度な緩和のリスクも
03-3591-1219
小野
亮
[email protected]
○ サマーズ元米財務長官の「長期停滞論」は、2000年代後半の「巨大な信用バブルと完全雇用・物価
安定の並存」と、未だに続く「大幅な需要不足」という2つの深刻な事象から出発
○ 「マイナス2~3%への自然利子率の低下」という仮説に立つことによって初めて、これらの事象が
説明できるという。仮説が正しければ、長期的な政策金利は過去ほどには高くない
○ ただ長期的な政策金利の予想はすでに金融危機直後に下方シフトずみ。また巨大なバランスシート
による緩和効果を踏まえると、すでに自然利子率がゼロ近傍にあることも織り込まれている
米国経済の回復期待が揺らいでいるようだ。象徴的な出来事と目されているのが、米長期金利の低
下である(図表1)。米金融政策が出口に近づき、急騰リスクが懸念されてきたにもかかわらず、なぜ
今年に入ってから低下しているのか。複数の要因が指摘されているが、米金融政策に対する示唆とい
う点で特に注目されるのが「潜在成長率の下方屈折」が背景にあるという見方だ。
というのも、潜在成長率が低ければ、物価安定・完全雇用達成時の利子率も低いということになり、
米連邦準備制度理事会(FRB)にとって、出口戦略のあり方を練り直す必要が生じる可能性があるため
図表1 米国債10年利回りの推移
(%)
3.0
2.5
2.0
1.5
2013/1/1
2014/1/1
(資料)Bloomberg
1
だ。物価安定・完全雇用達成時の利子率は中立的均衡金利、あるいは自然利子率と呼ばれ、実際、今
年3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でも「(自然利子率が低下している)蓋然性が高い」という議
論が出ている。少し遡ると、昨年11月にサマーズ元米財務長官がこの問題を指摘し、大きな注目を浴
びた。サマーズ氏の主張は「長期停滞(Secular Stagnation)論」として知られるようになった。
本稿では、はじめにサマーズ氏が「長期停滞論」の中で、なぜ自然利子率の下方屈折という仮説を
提示したのかを紹介する。次に最近の米長期金利の動向分析と、民間エコノミストによる政策金利の
長期予想を用いて、自然利子率の低下がどのように織り込まれているのかを検証する。最後に米金融
政策への示唆を考察する。
1.サマーズ元米財務長官の「長期停滞論」
「長期停滞」(Secular Stagnation)とは「経済が均衡状態に戻ることは容易ではなく」1、均衡の
回復には予想以上に長い時間がかかる状況を指す。2008年秋の金融危機から5年以上が経過するにもか
かわらず、米国経済は大幅な需要不足に悩まされ続けている(図表2)。失業率は6%台前半まで低下
してはいるが、長期失業や部分的失業、潜在的失業など通常の失業率には表れていない重要な問題が
残っており、イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長の悩みの種となっている2。
ところがサマーズ氏は、すでに2000年代半ばには、米国経済が現在につながる深刻な問題に直面し
ていたのではないかという。当時を振り返ってみると、米国では緩和的な金融環境の下で深刻な信用
バブルが生じ始める一方で、大幅な超過需要は発生せず、インフレ率は安定していた。「巨大なバブ
ルですら、過剰な需要を生むには十分ではなかった。」3
見方を変えれば、もし当局が信用バブルの
図表2 米国の潜在GDPと実質GDP
(兆㌦)
18
17
潜在GDP
16
15
実質GDP
14
13
12
2003 04
05
06
07
08
(資料)米国商務省、米議会予算局(CBO)
2
09
10
11
12
13
14
膨張を防ぐために貸出を厳しく抑制していれば、完全雇用に必要な成長などは成し得なかったことに
なる。
2000年代後半にみられたバブルと物価安定・完全雇用の並存と、未だ続く大幅な需要不足という2
つの事象から、サマーズ氏は「2000年代半ばに自然利子率がマイナス2%ないしマイナス3%に低下し
ていた」4との仮説を導き出した。そう考えると辻褄があうという。
金融環境が緩和的か引き締め的かは、実質金利と自然利子率の差によって左右される。実質金利は
「足元の名目金利―予想インフレ率」として計算できるもので、市場で決まる。一方、自然利子率は
潜在成長率や人々の選好など、経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)によって決まる。
中央銀行が政策金利を低く抑え、金融環境を緩和的にしたつもりでも、自然利子率が何らかの理由
で大幅に低下している場合(図表3)、実際の金融環境は中銀の想定よりも引き締め的となる。その結
果、低金利政策は、信用バブルを招くことはあっても消費や設備投資などの有効需要を十分に刺激す
ることができない。特に現在のように政策金利がゼロ近傍にあり、利下げによる追加緩和ができない
状態(ゼロ金利制約)にある場合は深刻だ。これは従来から「流動性の罠」として知られる問題でも
ある。
サマーズ氏によれば、そうした事態が2000年代半ば以降の米国経済に起きたことで、バブルの膨張
と物価安定・完全雇用が並存した。さらに金融危機後、FRBによる大規模な金融緩和にもかかわらず、
現在に至るまで米国経済の大幅な需要不足が続いているのも(前掲図表2)、自然利子率が大幅なマイ
ナスになっていることが原因ではないかという。
サマーズ氏が提示した自然利子率の低下という仮説は、今年3月のFOMCや、ダドレー・ニューヨーク
連銀総裁による講演(5/20)5でも蓋然性の高い仮説として指摘されるようになった。自然利子率の低
下が新たな事実であるなら、それに対する新たな政策対応を打ち出さない限り、米国経済の長期停滞
が続く。回復期待が裏切られることになってしまうわけだ。
図表3 自然利子率の低下要因
・技術革新にともなう設備投資の割安化
・人口と技術の伸びの低下、潜在成長率の低下
・消費性向の低い家計や企業への所得分配のシフトによる貯蓄余剰
・金融危機後に高まった将来に備えた予備的貯蓄
・新興国の貯蓄余剰(グローバル・セービング・グラット)
・信用の厳しさ
(資料)サマーズ講演及びFRBより筆者作成
3
2.政策金利の長期水準
大幅に低い自然利子率が今後も続くとすれば、政策金利の長期的な水準についても考え直す必要が
生じる。物価安定・完全雇用が達成される長期では、政策金利は自然利子率とインフレ予想の和に等
しくなるからだ。長期的な政策金利は緩和的でも引き締め的でもないと考えればよい。
実際ダドレー総裁は、自然利子率の低下によって、政策金利であるフェデラルファンド金利(FF金
利)も「過去の平均値である4.25%をかなり下回る水準に落ち着く可能性が高い」6と述べている。報
道によれば7、バーナンキ前FRB議長も、ダドレー総裁と同様の見方を持っているようだ。
ここで、長期金利は「満期までの各時点で予想される政策金利の平均値」(予想政策金利)と、債
券を長期保有するリスクを補償する「タームプレミアム」の和として表すことができる。したがって、
自然利子率の低下という仮説を受けて将来の政策金利に対する予想が下方修正されると、足元の長期
金利が低下することになる。最初に述べたように、最近の米長期金利低下は「潜在成長率の低下⇒自
然利子率の低下⇒政策金利の長期水準の低下⇒予想政策金利の低下」というメカニズムによって生じ
ている可能性があるわけだ。
しかし、今年に入ってからの金利変動には、そうしたメカニズムが働いている様子は確認できない。
イールドカーブを詳しく分析したニューヨーク連銀のエコミストらのデータ8によれば、遠い将来時点
の政策金利に対する予想は下方シフトしていない。遠い将来時点の政策金利の代理指標とみなせる9
年先スタート1年物利回り(無リスクのゼロクーポン債利回り)は、2009年以降の変動からみれば、ほ
......
ぼ不変と言え、この半年間に限れば30bp上昇している(図表4①)9。
民間エコノミストによる長期の政策金利予想にも、この半年間でほとんど変化がない(図表4②)。
世界の主要予測機関の予測を集計した『Blue Chip Financial Forecast』6月号によれば、2019年時点
のFF金利は3.8%と予想されており、昨年12月号の予想値(3.7%)とほぼ一致する。
むしろ、この半年間で米金融政策の出口が近づいたことで、FF金利の今後5年の予想値すべてが上昇
しており、米長期金利を押し上げる要因となっている。ニューヨーク連銀のデータでも同様のことが
確認できる。最近の米長期金利の低下が、「自然利子率の低下という仮説が引き起こした米国経済に
対する不安の高まり」を映じているとは言い難いのである。
重要な点は、サマーズ氏が提示した自然利子率の下方シフト仮説を、民間エコノミストや金融市場
参加者がすでに数年前から共有している可能性があるという点だ。『Blue Chip Financial Forecast』
の2006年12月号に掲載されているFF金利の長期予想値は5%近く、現在の予想を1%ポイントも上回る。
民間エコノミストは、すでに金融危機の直後にFF金利の長期水準を大きく下方修正した10。一方、民
間エコノミトのインフレ率の長期見通しは金融危機前も今も変わらない。つまり、金融危機前と比べ
て大きく下方修正された民間エコノミストのFF金利の長期見通しには、自然利子率の低下が(部分的
にせよ)織り込まれていると考えることができるのである。
4
図表4 政策金利の長期水準に関する予想の推移
①ニューヨーク連銀エコノミストのデータを用いた場合
(%)
5.0
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
(注)9年先スタート1年物利回り。無リスクのゼロクーポン債。
(資料)ニューヨーク連銀のデータを用いて筆者作成
②民間エコノミストによるFF金利の長期予想
(%)
6
2006年12月号
5
4
2014年6月号
3
2
2013年12月号
1
0
2
3
4
5
6
7
(資料)Blue Chip Financial Forecast(各号)
5
8
9
10
11
(年後)
3.FRB の出口戦略への示唆
サマーズ氏の主張を見る限り、「自然利子率が大幅なマイナスになっている」としても、緩やかな
出口戦略に踏み切ることは強くは否定されないようだ。
サマーズ氏は追加緩和を「忍耐(何もしない)よりはまし」11な政策として評価するに留まり、む
しろ追加緩和によるバブルの再燃やゾンビ企業の放置という深刻なコストを伴う点を強く懸念してい
る(図表5)12。こうした懸念を踏まえると、米金融政策が緩やかに出口に向かうこと自体は許容範囲
と言えそうだ。
図表5 自然利子率の大幅悪化に対するサマーズ氏の処方箋
選択肢
サマーズ氏の評価
忍耐(何もしない)
金融緩和
直接需要を生み出す政策
今起きていることは供給が需
要を作るという「セーの法則」
の逆。需要が供給(労働投入
や資本サービス)を左右。
忍耐よりはましだが、深刻な
コストを伴う。
どのような均衡金利水準でも
需要を生み出す政策が必要。
ゼロ金利の中でどれだけ経済
活動を刺激できるか疑問。バ
ブルを生むおそれがあり、FRB
のバランスシート拡大は永続
的とは思えない。
具体的には以下3分野。
しかも需要不足は一時的では
なく持続的な供給力の低下を
生んでいる。
資産価格の上昇は格差を広げ
る懸念もある。ゾンビ企業の
リストラが進まない。
×
①民間投資を促す規制改革や
税制改革
②貿易協定、輸出規制の緩和
などを通じた輸出拡大
③インフラなどの公共投資
×
○
(資料)Summers(2014a)
では「自然利子率が大幅なマイナスになっている」とした場合、出口戦略の“出口”における政策
金利、つまり政策金利の長期水準は、現在予想されている水準からどの程度の見直しが必要なのか。
答えは「2%ポイント程度の下方修正」である。以下考え方を述べよう。
まず2014年3月のFOMCにおける参加者らの政策金利見通しでは、4%を長期水準とみなす参加者が最
も多く、次いで3.5%であり、単純平均は3.88%だ(図表6)。ダドレー総裁の発言を踏まえると、今
後の見通しではこれらの分布が下方修正されるかも知れない、ということになる。同様に、
『Blue Chip
Financial Forecast』6月号によれば、民間エコノミストは2019年時点のFF金利を3.8%、2020年時点
については3.7%、2021-2025年の平均値は3.8%と予想している。ほぼ、FOMC参加者の現状見通しと同
じとみてよい。
次に、こうした現在の予想がどのような自然利子率を織り込んでいるのかを計算してみよう。その
長期水準(以下の試算では2020年の値)をサマーズ氏の主張と比較すれば、政策金利の長期水準をど
の程度見直せばいいのかが分かる。
6
この作業で重要なのは、①FRBのバランスシート政策(量的緩和策)の効果と、②今後の出口戦略に
おけるバランスシート政策を、それぞれどう考えるかである。バランスシート政策による緩和・引き
締め効果を考慮せずに、政策金利の水準だけを考えることはできないためだ。
本稿では、①バランスシート政策の効果について
(a)2011年時点でFF金利を175bp引き下げたと同じ効果を持った
(b)バランスシート政策の効果はFRBの保有債券残高の対GDP比に比例する
という前提を置く。(a)は、ダドレー総裁の2012年5月の講演13を参考にした。講演では、当時のバ
ランスシート政策によって「米長期金利が50bp押し下げられてきた」ことと、「FF金利の変動と米長
期金利の変動の間には1:3または1:4の関係がある」ことが指摘されている。(b)はいわゆるストッ
クビューに基づく考え方だ。
②今後の出口戦略におけるバランスシート政策については、2016年まで再投資政策が続き、バラン
スシートの縮小は2017年以降、2022年まで続くとの仮定を置く。2011年6月に初めて定められた出口戦
略とは異なるが、その出口戦略には次のような問題があるためだ。
2011年の出口戦略では、最初の利上げが実施される前に再投資政策が停止され、バランスシートの
緩やかな縮小が始まるとされていた。ストックビューに基づけば、これは引き締めが始まることを意
味する。これに対し出口戦略では「金融政策のスタンスは金利政策で決定する」ことが「金融政策の
正常化」と位置づけられており、最初の利上げ前に再投資政策を停止させることはこうした方針と矛
盾してしまう。また、FRBがバランスシート政策に頼ってきたのは、政策金利がゼロ近傍にあり、利下
げによる緩和ができないという制約(ゼロ下限制約)に直面したためである。したがって出口戦略で
は、ゼロ下限制約からの離脱、つまり利上げこそがバランスシートの縮小よりも優先されなければな
らない。ダドレー総裁も今年5月の講演で、同様の指摘を行っている。
図表6
FOMC参加者による政策金利の長期水準
(人)
2016
長期
0.
2
0. 5
5
0. 0
75
1.
0
1. 0
2
1. 5
50
1.
7
2. 5
0
2. 0
25
2.
5
2. 0
7
3. 5
00
3.
2
3. 5
5
3. 0
75
4.
0
4. 0
25
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
(%)
(注)各年末における政策金利(FF金利)の予想分布。
(資料)FRB(2014/3)
7
②今後の出口戦略におけるバランスシート政策について、具体的には次のような仮定を置く。
(a)2014年末の残高は4.2兆ドル
(b)2016年まで再投資政策を継続し、保有債券残高を維持
(c)2017年以降は再投資政策を停止し、2022年には2兆ドルまで保有債権残高が減少する
(a)はプライマリーディーラーのサーベイ調査14に基づいている。(b)については、民間エコノ
ミストのFF金利予想によれば、2016年のFF金利は0.75%に留まり、ゼロ下限制約からの離脱が十分で
はないが、2017年には3.0%と予想されており、バランスシートの縮小を始められるほどゼロ下限制約
から十分に離脱しているとみなした。(c)の「5年間で2.2兆ドルの縮小」というバランスシートの推
移については、FRBスタッフによるシミュレーション15を参考にした。
以上の設定と「インフレ予想はFRBの長期目標である2%で安定する」という仮定、及び政策金利の
民間エコノミスト予想(『Blue Chip Financial Forecast』6月号)を組み合わせて実質政策金利の推
移をシミュレーションしたものが図表7である。
本稿の試算によれば、実質政策金利は、2017年にもサマーズ氏が主張する自然利子率を上回る状態
(タイト化)になってしまう。さらに、2020年の実質政策金利はゼロを小幅上回るプラスの値となっ
ている。これは政策金利の長期水準について2%ポイント程度の下方修正が必要なことを意味する。
図表7 自然利子率と実質政策金利
(%)
3
自然利子率:テイラールールの前提(2%)
2
1
実質政策金利
0
▲1
▲2
自然利子率:サマーズ氏の仮説(▲2%~▲3%)
▲3
▲4
▲5
2008
10
12
14
16
18
20
(注)実質政策金利=FF金利+バランスシート効果―予想インフレ率(2%固定)
。
2014年以降のFF金利、GDPはブルーチップ予測(2014年6月号)を利用。
バランスシート効果は以下のように算出。なおSOMA残高の推移はFRB及び
ニューヨーク連銀のシミュレーションの前提を筆者が修正したもの。
①バランスシート効果はSOMA残高GDP比に比例して決まる
②2011年のSOMA残高対GDP比は175%のFF金利引き下げと同じ効果
②2014年末のSOMA残高は4.2兆ドルで2016年末まで残高維持(再投資政策継続)
③2017年以降は再投資政策を停止しSOMA残高は自然減(線形減少)
④2022年末にSOMA残高が正常化(2兆ドル)
(資料)みずほ総合研究所
8
ただ最後に重要な問題が残っている。そもそもサマーズ氏が主張する「自然利子率はマイナス2%な
いしマイナス3%」という仮説が正しいのかどうかだ。
自然利子率の推計には様々な問題が伴い、その水準を正確に知ることは難しいとも言われる16。サ
マーズ氏が「長期停滞論」を披露した昨年11月のIMF主催の会合でも、パネル討論者の1人として発言
を求められたバーナンキFRB議長(当時)は「自然利子率は永遠にマイナスということはあり得ない」
「中・長期的には常にプラスだ」という米著名経済学者ポール・サミュエルソンから若い頃に受けた
大学での講義を引き合いに出している。
サマーズ氏の主張とは異なり「長期の自然利子率はゼロ近傍のプラス」という見方を採った場合、
政策金利の長期水準の見直しはかえって過度な緩和を生み、信用バブルを助長してしまうおそれがあ
るかも知れない。図表6で示しているように、2020年時点で実質政策金利はゼロをわずかに上回る水準
に留まっている。つまり、民間エコノミストによるFF金利の長期予想(FOMC参加者らの予想もほぼ同
じ)には、すでに自然利子率がゼロ近傍にあることが織り込まれている。言いかえれば、政策金利の
さらなる下方修正は、将来、過度な金融緩和をもたらしてしまうおそれがあるわけだ。
1
Summers, Lawrence(2014a)“Secular Stagnation, Hysteresis, and the Zero Lower Bound,” Speech at 30th Annual NABE Policy
Conference, Washington D.C. February 24 における“secular stagnation, the idea that the economy may not easily reequilibrate”
との発言から。
2
小野亮(2014)
「広範な雇用問題と米金利政策~定性的判断を越えて最初の利上げ時期を占う方法~」みずほインサイト、みずほ総
「ゼ
合研究所、4 月 14 日;小野亮(2014)
「プロが解説 米労働市場と金融政策(上)
」日経ヴェリタス、5 月 11 日;小野亮(2014)
ミナール 米金融政策の課題⑥」日本経済新聞、5 月 20 日
3
Summers, Lawrence(2013)Remarks at IMR Annual Research Conference, Washington D.C. November 8 における“So somehow, even
a great bubble wasn't enough to produce any excess in aggregate demand.”との発言から。
4
Summers(2013)における“Suppose that the short-term real interest that was consistent with full employment had fallen
to negative 2 or negative 3 percent sometime in the middle of the last decade.”との発言から。
5
Dudley, William C.(2014)
“The Economic Outlook and Implications for Monetary Policy,” Remarks before the New York Associaton
for Business Economics, New York City, Federal Reserve Bank of New York, May 20
6
Dudley(2014)における“Putting all these factors together, I expect that the level of the federal funds rate consistent
with 2 percent PCE inflation over the long run is likely to be well below the 4 1/4 percent average level that has applied
historically when inflation was around 2 percent.”との発言から。
7
Reuter(2014)
“INSIGHT-At big-ticket dinners, a blunt Bernanke sounds theme of low rates,” May 16; The New York Times
(2014)“After Fed, Bernanke Offers His Wisdom, for a Big Fee,”May 20
8
Adrian, Tobias, Richard Crump, Benjamin Mills, and Emanuel Moench(2014)
“Treasury Term Premia: 1961-Present,”Liberty
Street Economics, Federal Reserve Bank of New York, May 12
......
9
9 年先 1 年物利回り(ゼロクーポン債)は、2013 年終盤の 2.6%から 2014 年 5 月末の 2.9%へと上昇している。
10
ニューヨーク連銀のデータでも、9 年先スタート 1 年物利回り(ゼロクーポン債)は金融危機前に比べて大きく低下していること
が図表 3①より確認できる。注 8 で触れているように 2014 年 5 月末の利回りは 3%弱だが、2005 年から 2007 年半ばまでは 3%台後半
~4%台半ばの水準にあった。
11
Summers(2014a)における“This is surely, in my judgment, better than no response.”との発言から。
12
Summers(2014b)“Washington must not settle for secular stagnation,” Financial Times, January 5
13
Dudley, William C.(2012)
“Conducting Monetary Policy: Rules, Learning and Risk Management,” Remarks at the C. Peter
McColough Series on International Economics at Council on Foreign Relations in New York City, Federal Reserve Bank of New
York, May 24 における“I estimate that the current balance sheet provides the equivalent of roughly 150 to 200 additional
basis points of federal funds rate easing.”との発言から。
14
Federal Reserve Bank of New York(2014)Survey of Primary Dealers, April
15
Carpenter, Seth B., Jane E. Ihrig, Elizabeth C. Klee, Daniel W. Quinn, and Alexander H. Boote(2013)
“The Federal Reserve's
Balance Sheet and Earnings: A primer and projections,” Finance and Economics Discussion Series, 2013-1, Board of Governors
of the Federal Reserve System, September
16
Wu, Tau(2005)
“Estimating the “Neutral” Real Interest Rate in Real Time,”FRSB Economic Letter, No.2005-27, Federal
Reserve Bank of San Francisco, October 21
●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに
基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
9
Fly UP