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数学科

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数学科
数学科<中学校第3学年>
横代中学校 教諭 久 本 健太郎
研究主題
問いをもち、主体的に学び合う子どもを育てる授業の創造
1 目指す子ども像と目指す授業像
目指す子ども像
○ 問題に数理を見いだし、解決のための数学的な課題を明らかにし、その問題を解決するための気付きを交流し、
根拠を基に話し合う活動を通して、自らの考えを再構築して問題をよりよく解決しようとする子ども
目指す授業像
○ 子ども自ら解決したい内容や目的をもつ授業
○ 課題の解決のための視点を明確に持ち、子どもが主体的に活動する授業
○ 子どもが自ら考えを集団の中で伝え合い、それぞれの考えを比較、検討し、よりよいものに高める授業
問いをもつ
視点2 主体的に学び合うことができる状況づくり
学び合い
① 具体的な観点を基にした話合い
全体を貫く問い
一単位時間
視点1 問いをもつことができる状況づくり
① 課題を明確にする気付きの交流
問いをもち、主体的に学び合う子ども
子 ど も の 実 態
2 授業研究Ⅰにおける研究の視点
視点1 問いをもつことができる状況づくり
① 図形や近似値を基にした気付きの交流
視点2 主体的に学び合うことができる状況づくり
① 他の事例を基にした話合い
3 授業研究Ⅰの実際
⑴ 単元名 平方根
⑵ 単元の目標
○ 平方根を用いると広範囲な事象を能率的に処理できることが分かり、問題の解決に積
極的に活用しようとする。
数学への
関心・意欲・態度 ○ 平方根を近似値で表す活動を通して、無限に続く小数の不思議さに関心をもつ。
○ 根号を含む式の計算に意欲をもって取り組もうとする。
○ 様々な場面を通して、数の平方根の必要性を知り、それを用いてより広く考察するこ
とができる。
数学的な
○
数の平方根の意味を深めるために、平方根の近似値を数学的な追究の方法で考察する
見方や考え方
ことができる。
○ 平方根の四則計算の方法を見いだし、確かめることができる。
○ 身の回りにある数量を、平方根を用いて表すことができる。
数学的な技能
○ 根号の中を簡単な数にすることや、分母の有理化をすることができる。
○ 根号を含んだ式の四則計算をすることができる。
11
○ 実生活での具体的な場面を通して、平方根の必要性を理解する。
数量や図形などに ◯ 平方根及び記号、平方根の四則計算の意味と方法を理解する。
ついての
知識・理解 ◯ 無限に続く小数の概念を理解する。
◯ 数を有理数と無理数に、分数を有限小数と無限小数に分類することができる。
⑶ 指導計画(総時数17時間)
1 平方根
⑴ 平方根を知る。
⑵ 平方根の値について考える。
⑶ 有理数と無理数の意味を理解する。
⑦
2 根号を含む式の計算
⑧
⑴ 根号を含んだ式の乗法・除法について考える。
⑵ 根号を含んだ式の計算をする。
【本時】5/8<視点1①><視点2①>
◇ 章末問題
②
⑷ 本時の学習
(第二次第5時)
① 主 眼
平方根の加法・減法について気付きを交流することを通して、根号の中が同じ場合のみまと
めることができることを理解し、簡単な平方根の和を求めることができる。
② 展 開
主な学習活動
◎ 研究の視点に沿った手だて 【観点】評価規準(評価方法)
1 本時の学習のめあてを話し合う。
本時の問題
面積が2の正方形の1辺と面積が8 ◎ 本時の問題の解決に見通しをもたせるために、方眼にかいた正
方形を掲示し、辺の長さの関係について観察させ、気付きを自由
の正方形1辺の長さの合計を簡単に表
に発表させる。
<視点1①>
すことができるか。
2 √2+√8 の計算について、気付きを
全体で交流し、簡単にできることを確
認する。
3 他の加法についてはどうなるか考
える。
4 本時のめあてを確認する。
めあて
根号を含む式の加法は、どんな時に簡単にできるか、考えよう。
。
」
5 他の根号の加法がどうなるか、確か ◎ 「例えば、○○の場合は・・・だから簡単にできる(できない)
という観点で説明をさせることで、それぞれの考えの理解を容易
める。
にさせる。
<視点2①>
6 考えを紹介し合う。
【思】他の平方根同士について考察し、加法について複数の計算で
(ワークシート分析)
7 全体でまとめを行い、振り返りカー 確かめている。
ドにまとめる。
授業改善の余地
子どもの実態
8 適用問題を解く。
⑸ 授業後の考察
○ 本時の問題に対し、代数的な問題を、図形
を用いて考えることによって、多くの問いを
引き出すことができた。
○ 班で、交流し、練り合う活動では、図形か
ら導かれる代数的な性質を適切にまとめる
までにはいかなかった。
○ 生徒が発する多くの問いに対し、本時の主眼に
迫る問いに整理していく必要がある。
○ 話し合う活動の中で、ポイントの指示が曖昧で
あったため、発問の内容等を整理する必要があ
る。
○ どの既習内容や数学的な考え方を本時の学習
で活用したかを確認できるようにすることで、さ
らに思考を深めることができると考えられる。
視点1の有効性や課題、新たに分かったこと
視点2の有効性や課題、新たに分かったこと
① 多くの直観的な気付きを出し合い、既習の内容と ① 話合いの観点として、他の事例を基にすることを
関連付けたり、解決のための視点を得たりしたこと
示したことで、話合いが活発に行われたが、図形と
で、自分なりの問いをもつことができた。
代数的な関係をつなぐ工夫が必要であった。
12
2 授業研究Ⅱ
1 授業研究Ⅱにおける研究の視点
視点1 問いをもつことができる状況づくり
① 既習事項を基にした気付きの交流
視点2
主体的に学び合うことができる状況づくり
① 「いいねポイント」を明確にした話合い
2 授業研究Ⅱの実際
⑴ 単元名
図形と相似
⑵ 単元設定の理由
○ 本学級の生徒は、図形で考えたことを代数的な処理の方法に読み変えたり、一般的な性質を見いだした
りすることは難しい実態である。例えば、平方根の学習において、方眼紙にかいた大きさの違う正方形の
それぞれの辺の長さの和について考えたとき、実際にかいた辺の長さについては自分なりの考えを述べる
ことができても、どのような場合でもその法則が成り立つことを一般的に述べることができた生徒が少な
かった。また、文字式と平方根の学習後のアンケートの結果を比較すると、
「授業が楽しかった」と答え
る生徒は増加したが、
「数学の授業で自分の考えを発表できますか」という問いに対し「できる」
「まあで
きる」と答えた生徒は2割程度で、ほとんど変化がなかった。これは、自分の考えを友達の考えと照らし
合わせて、様々な場合を確かめることで性質を帰納的に見いだす経験が足りなかったこと、また、見いだ
した性質は論証で使用した図に依存するのではなく、一般的に成り立つということの理解が不十分だった
ことが主な原因と考えられる。
○ 本単元のねらいは、三角形の相似条件などを用いて図形の性質を論理的に確かめ、数学的に推論するこ
との必要性や意味及び方法の理解を深め、論理的に考察し表現する能力を伸ばすことである。また、相似
な図形の性質を用いて平面図形や空間図形の計量ができるようにすることである。
生徒は、小学校第6学年で、図形についての観察や構成などの活動を通して、縮図や拡大図について学
習している。また、投影機や情報機器の使用から、画像の拡大・縮小を身近に経験している。中学校では、
これらの学習や経験の上に立って、相似であることの意味をさらに明確にすることとなる。そのために、
第2学年に引き続き推論の根拠について学び、それを基にして演繹的に考え、図形に関する新たな性質を
論理的に確かめ、論証する力を育てていかなければならない。そこで、既習の内容を振り返ったり、既習
の内容との違いを見いだしたりすることができるようにする必要がある。また、論証においては苦手な生
徒も少なくない。論理的に考え、説明する力を育てるために、説明や質問をし合う活動を繰り返し設ける
ことが必要であると考える。
○ 指導に当たっては、直観的に見いだした図形の性質に関する気付きを大切にし、図形への興味・関心を
高めていきたい。そして、それらの気付きと既習の内容とを比較させることで、新たな性質に気付き、そ
の性質を証明しようとする態度を身に付けさせたい。そのために、自由に気付きを発表させることで問題
の理解を深め、解決の見通しを十分もたせる。問題の解決に取り組む前に十分な交流をさせることで、ど
のように説明したらよいのか、どの事柄を根拠に用いて説明したらいいのか考えさせたい。
証明や説明をする場面では、ペア学習や数学班による学び合いを行うようにする。話合いの観点が明確
になるように、評価のポイントを教師が示し、そのポイントに沿って自分なりに考え、友達に説明したり
質問したりする活動をさせる。このような活動を仕組むことで、グループで協力し、よりよく課題に取り
組む態度や数学的に表現する力を育みたい。
⑶ 目 標
○ 相似な図形に関心をもち、写真や設計図など、身の回りにある多くの相似な図
形を見いだそうとする。
数学的への
関心・意欲・態度 ○ 三角形の相似条件などを用いて図形の性質を調べようとしたり、相似の考えを
活用したりする。
○ 合同は相似の特別な場合であることに気付き、類似性や相違点を調べることが
数学的な見方・考え方
できる。
○ 三角形の相似条件を、合同条件の考察をよりどころとして見いだすことができ
13
る。
○ 三角形の相似条件や平行線と線分の比に関する性質などに基づいて、図形の性
質を考察することができる。
○ 相似な図形についての相似比と面積の関係、相似な立体についての相似比と表
面積の比、体積の比の関係についてそれぞれ考察することができる。
○ 日常の場面から相似な図形を見いだし、相似の性質を用いてその場面を考察す
ることができる。
○ 三角形の相似条件を、言葉や式などを用いて表現することができる。
○ 三角形の相似条件や平行線と線分の比に関する性質などを使って、図形の性質
を証明することができる。
数学的な技能
○ 相似の考えを活用して、直接測定できない距離や大きさを計算によって間接的
に求めることができる。
○ 相似比を使って、相似な図形では面積を求めたり、相似な立体では表面積や体
積を求めたりすることができる。
○ 図形の相似に関する用語、記号を理解する。
○ 平行線と線分の比に関する性質について理解する。
数量や図形などに
ついての知識・理解 ○ 相似の考えが用いられている場面が、実生活の中に多く見られることを知り、
その意味やはたらきを理解する。
⑷ 指導計画(総時数26時間)
【観点】評価規準(評価方法)
主な学習活動・内容
指導上の留意点
Ⅰ 図形と相似
1 相似な図形について考える。
③
⑴ 拡大・縮小について調べ、 ○ 拡大図、縮図という既習の用語
相似の定義を知る。
を用い、2つの三角形の辺の長さ
⑵ 相似比について理解し、そ
の比と、角の大きさを調べること
れを使って長さを求める。
により、どのような図形を相似と
⑶ 比の値について知り、等し
定義すればよいか気付きを交流
い比について調べる。
する。
<視点1①>
【関】相似な図形に関心をもち、写
真や設計図など、身の回りにある多
くの相似な図形を見いだそうとす
る。
(発言・行動観察、ノート分析)
2 三角形の相似条件について
考える。
②
⑴ 相似な三角形を作図する。 ○ 三角形の拡大図を作図させ、既
⑵ 三角形の決定条件を基に
習事項である合同条件などの気
三角形の相似条件を導く。
付きを交流させ、相似条件を導け
るようにする。
<視点1①>
3 相似条件を使った証明につ
いて考える。
③ ○ 「いいねポイント」を確認し、
⑴⑵ 2つの三角形が相似で
話し合わせる。
あることを証明する。
・ 相似な三角形を取り出してい
⑶ 相似な図形の性質を用い
るか。
て線分の長さを求める。
・ 与えられた角や、線分の比の
関係を図で表せているか。
・ 証明の手順に従って書けてい
るか。
<視点2①>
【技】三角形の相似条件を理解し、
それを利用することができる。
(発言・行動観察、ノート分析)
4 縮図の利用について考える。
② ○ 建物の高さなど、相似な図形の
⑴ 相似を利用して、校舎の高
性質を利用して求められること
さを求める。
に気付かせる。
【本時1/2】
<視点1①><視点2①>
○ 相似条件を利用させるために、
⑵ 縮図を利用して、直接測る
縮図をかくために必要な長さや
ことができない距離や高さ
角度がどこかを明確にさせる。
を求める。
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【見】相似な図形の性質や三角形の
相似条件を利用して、様々な図形の
性質を証明することができる。
(発言・行動観察、ノート分析)
【見】実際の生活の中に、相似な図
形を見いだし、直接測れない2点間
の距離を求めることができる理由
を、論理的に説明することができ
る。
(発言・行動観察、ノート分析)
Ⅱ 平行線と線分の比
1 平行線と線分の比について
考える。
⑤
⑴ 三角形の1辺に平行な直 ○ 「いいねポイント」を確認し、
線をひき、その図の上にでき
三角形の一辺と平行な線分の長
る線分の比について調べる。
さを求める方法について考え、話
し合わせる。
・ 数学の用語を使っているか。
・ 根拠が示されているか。
・ 線分の長さを求めることがで
⑵⑶ 前時の性質を一般化し、
きるか。
<視点2①>
「平行線と線分の比」として
定理にまとめる。
⑷ 2直線がいくつかの平行
な直線と交わってできると
きの平行線間の線分の比に
ついて調べる。
⑸ 平行線と線分の比の定理 ○ 「いいねポイント」次のように
の逆を証明する。
設定し,平行線と線分の比の定理
の逆を証明させる。
・ 数学の用語を使っているか。
・ 根拠が示されているか。
・ 証明の手順に従っているか。
<視点2①>
2 中点連結定理について考え
る。
③
⑴ 三角形の中点連結定理を
導く。
⑵⑶ 中点連結定理を用いて ○ 中点連結定理の学習を通して、
いろいろな図形の性質を調
図形の性質についての理解を一
べる。
層に深め、図形について考察する
能力を伸ばす。
【知】平行線と線分の比に関する性
質について説明することができる。
(発言観察、ノート分析、
ワークシート分析)
【見】中点連結定理を理解し、それ
を様々な場面で活用できる。
(発言・行動観察、ノート分析)
Ⅲ 相似な図形の計量
1 相似比と面積、相似比と体積
の関係を調べ、それを図形の計
量に利用する。
⑤
⑴⑵ 相似な図形の面積につ
【技】相似比を使って、面積や表面
いて調べる。
積、体積を求めたりすることができ
⑶⑷⑸ 相似な立体の表面積 ○ 空間図形の相似については、平 る。
(発言・行動観察、ノート分析)
面図形における相似比や面積比
や体積について調べる。
の考えを基に交流させ性質を予
想させる。
<視点1①>
Ⅳ 相似を利用した作図
①
Ⅴ 章末問題
②
【技・知】用語や記号を理解し、様々
な問題を解くことができる。
(ノート分析、ワークシート分析)
⑸ 授業の実際
① 主 眼
直接求めることができない線分の長さを、相似を利用して求める活動を通して、三角形の相似条件に
ついての理解を深めるとともに、その有用性を実感できるようにする。
② 準 備
教師…大型テレビ、パソコン、本日の問題の掲示物、復習用のフラッシュカード
生徒…教科書、ノート、定規、ワークシート、まとめカード
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③ 展 開
主な学習活動・内容
○ 指導・支援上の留意点 【観点】評価規準(評価方法)
◎ 視点1、視点2に関わる手だての詳細
1 既習内容を確認し、本時の学習問題を
知り、めあてをつかむ。
⑴ フラッシュカード・まとめカードを ○ まとめカードで、相似の既習内容を確認させる。
使い、既習内容を復習する。
○ 3年前の文化祭で、B棟に飾った写真を見せ、問題に対する
意欲を高める。
⑵ 学習問題を把握する。
問題 A棟廊下から、中庭の反対側にあるB棟校舎の高さを測りたいと思います。
どのようにして測るとよいですか。
⑶ 離れた場所にあるものの高さを測る ○ 本時の学習に関心をもたせ、多くの考えを引き出すために、
方法を考える。
高さの求め方に関する考え方や既習事項、経験などを自由に言
・窓の大きさがだいたい△メートルで、
わせ、できるだけ多くの考えを引き出すようにする。
その○個分だから、…メートル。
・B 棟もこの校舎も同じ高さだから、この
教室の高さを測って 4 倍すればいい。
⑷ 「高さを測定する裏技」を知る。
「高さを測定する裏技」の説明
① 長さが10cmの紙コップを用意し、底を取り外します。 ② 紙コップに定規を取り付けます。
③ 高さを測りたい対象物から、10m離れます。
④ この紙コップをのぞき、高さを測りたい対象が
スコープ内の目盛り何cmか計測します。
⑤ その長さの100倍が求めたい高さです。
⑸ 用意された紙コップと、校舎までの
距離を知り、課題を明らかにする。
<視点1①>既習事項を基にした気付きの交流
◎ 既習の図形の性質を確認し、具体的な気付きを交流させることで、どのような図をかけばよいか、相
似をどのように使おうかという問いをもたせた。
⑹ めあてをもつ。
めあて
高さを求める裏技の秘密を解明し、B棟校舎の高さを求めよう。
2 高さを求める裏技の仕組みを考える。 ○ 相似を使って解決するための見通しをもたせるために、気付
⑴ 「いいねポイント」を確認する。
きの交流を基に、いいねポイントを確認する。
「いいねポイント」
① 数学の知識(図形の性質)を使って考えようとしているか。
② 根拠が論理的であるか。
(数学的な説明であるか)
③
高さを求める式を作ることができるか。
⑵ 個人で考える。
⑶ 数学班で考えを交流し、ワークシー
トに記述する。
<視点2①>「いいねポイント」を明確にした話合い
◎ 問題解決に向けて、話合いを進めるために「いいねポイント」を観点
とするように指示した。
◎ 机間指導を行い、いいねポイントに沿って話合いが進んでいるかを確認す
る。また、考えがまとまっている班の生徒は、考えがまとまっていない班へ
説明しに行くように指示して、ヘルプタイムを設定する。 【いいねポイントに沿った話合い活動の様子】
3 高さを求める裏技の仕組みを全体で交 ○ 班の意見を模造紙に書かせ、黒板に貼らせる。また、説明を
流し課題を確認する。
他の班にさせ、理解を深める。
・計算が正しいことを図で説明できてい 【見】いいねポイントに沿って、ワークシートに考えをまとめて
いる。
(発言内容・ワークシート分析)
ない。
・相似の根拠があいまいである。
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4 班で課題について話し合う。
<視点2①>「いいねポイント」を明確にした話合い
◎ 課題を解決するための話合いを行ったところ、比例式は成り立つのか、平行な線分は相似の根拠として
正しいか、相似な三角形の辺についての比になっているのか等、新たに疑問を見いだし、主体的に解決し
ようとする様子が見られた。
5 全体で、裏技の秘密を確認し、測定器
を用いて高さを求める。
・紙コップの目盛面と校舎の壁が平行に
なるように測ると相似を利用して下の
比例式が成り立ち、高さを求められる。
21:x=0.08:a
x=262.5a
測定値 a=0.054を代入して、
x=262.5×0.054
【考えを説明している様子】
=14.175
答え 約14.2m
6 本時のまとめを行う。
【実際に測定している様子】
まとめ 相似な図形の性質を利用することで、実際に測ることができない距離や高さを求めることができる。
⑹ 授業後の考察
視点1の有効性や課題、新たに分かったこと
① 既習事項を基にした気付きの交流
○ 導入で紹介した高さの測定方法を使って、本時の問題の答えを求めることができるか問いかけた。生徒は
曖昧な根拠から発表をしていたが、既習事項を使って測定方法の仕組みを説明できないかという発問をする
ことで、相似を利用すること、根拠を明らかにすること、空間に三角形を見いだすこと等に気付いた。以下
に生徒の主な反応を示す。
T3:この裏技を使って高さを測るための道具を作ってきました。でも用意できた紙コップの長さは8㎝で、B棟までの距離は
21mもありました。これじゃあ、この裏技は使えませんね。
コップの長さの違いのみ調整
C1:目から2cm紙コップを離して、測ればいい。
T1:距離も10mじゃないよ。
距離についても着目させるための発問
C1:じゃあ、2cm離れて210倍すればいいと思う。
C2:よくわからない。168倍かも。
距離とコップの長さの積
C3:やってみないと分からない。
T3:裏技が、なぜ100倍で求めることができるか解明しないと、何倍すればいいか分かりませんね。今まで使った数学でど
ういったものが使えるだろう?
与えられた数値の単純な演算をしようとしていたので、
C4:相似です。
裏技の解明に関わる既習内容を想起させるための発問
T1:相似を使うなら、どんなことが使えそうですか。
C5:相似比。比の計算。相似条件。
C4:根拠が必要。
具体的な見通しをともなった問いの発生
T1:まず、何から取りかかればいいですか。
・相似を利用すること
C4:図形をかくこと。
・根拠を明らかにすること
C5:三角形をかけばいい。
・空間に三角形を見いだすこと
T1:よし、やってみよう。
【資料1 気付きの交流や教師の支援の様子】
事後のアンケートによると、個人思考の段階で、自分なりに答えを見付けようとしたと答えた生徒は77.
8%であった。これは、既習事項を基にした気付きの交流により生徒に問いをもたせることができた結果、
どのような相似な図形をかけばよいかや、比の式を使って求めることができるのではないかという見通しを
もつことができたと考えられる。
以上のように、視点1①は、問いをもたせ学習の見通しをもたせることに有効であったといえる。
○ 一方、適切な図形がかけなかったり、図形をかいても何に注目して考えればよいか絞って考えたりするこ
とができなった生徒もいた。相似の考えを用いることを教師が特に強調しなかったことが原因と考えられ
る。これらの生徒に対しては既習事項をまとめたカードを基に個別に指導を行ったが、気付きを交流する場
面で、明確な見通しをもつことができるように、展開を工夫する必要があった。
17
視点2の有効性や課題、新たに分かったこと
① 「いいねポイント」を明確にした話合い
○ いいねポイントを設定することにより、
「図で表さなければいけない」
「きっと相似を使うはず」
「それな
ら、根拠が必要だ」等といった絞った観点で話合いを進めることができた。しかし、相似な三角形の発見や、
相似の根拠、また相似を基にした計算方法の説明について十分な状態まではいたっていなかった(資料2)
。
(A班の交流の様子)
C1:単位を揃えると、10m は1000cmになるよ。
C2:距離1000cmと10cmだったら、1000÷10で100倍なのかな。
C1:それに対応して考えると、21mは2100cmだから、8cmなら
2100÷8=262.5倍になるよ。
C3:なら、B棟の校舎は何メートルになるのかな。
C1:実際に測りたいね。
C2:図はどうなるのか、よく分からないね。
裏技の値とB棟校舎に関す
る値を比較して、
B棟の高さ
を算出しようとしているが、
根拠がはっきりせず、実際に
紙コップで測定してから論
を組み立てようとしている
(B班の交流の様子)
C4:図にすると、見るポイントから校舎までに三角形ができるよ。
C5:紙コップはどこに表すのかな。
C4:紙コップをここにかくと、相似な三角形ができるよ。
C6:根拠は何だろう。
C4:相似の証明ができればいいんじゃない。
空間に相似な三角形を見い
だし、裏技を説明しようと
している。この後、相似の
証明をしたが不十分であっ
た
【資料2 話合いの様子】
班の話合いを中断し、十分でない点を指摘し、理解することができるように、途中経過を発表させた。
「数
字だけを比べて、測定値と距離の関係は分かったが、図がかけていないから、まだ、説明が不足しているんだ
ろう」や「この線分は平行なのか」
「そもそも相似と言ってもいいのか」という発言があり、そのことを課題
として再度班で話合いを行った。
【課題】ほぼ完成された証明
だが、図だけでは分からない
性質(平行)を使っている。
【課題】図がなく、対応するで
あろう数のみで考えている。
計算の仕方が正しいことの根拠
が足りない。
【資料4 B班が発表した考え】
【資料3 A班が発表した考え】
(C班の交流の様子)
C7:見る点から、B棟校舎に垂線を引いた線分の長さが、校舎までの距離だ。
C8:この長さの比が、測定値と校舎との比と同じなのかが、全体での話合いの内
容だった。
C9:垂線の上だけを見ると、相似な直角三角形になっている。直角三角形が相似
だから、校舎の高さの比と測定値と校舎の比が同じだ。
T :相似の性質を見直してごらん。
C8:まとめカードには「相似な図形の対応する線分の比は等しい」とあります。
C9:あっ、そうか。辺の比じゃなくて「線分の比」が等しい。この垂線も対応す
る線分だ。
(D班の交流の様子)
C10:この図を見ると、
「2組の角がそれぞれ等しい」という相似条件を使うんだ
よね。
C11:どうして。
C10:だって、測定する線分と校舎の壁の線分が平行だから、同位角が等しい。そ
れで2組の角がそれぞれ等しいことがいえる。
C12:でも、平行なのかな。
C13:平行じゃないと、同位角が等しいっていえないから、実は相似っていえない
のかな。
C10:紙コップの面と校舎の壁が平行になるように測ればいいよ。
C11:そっか。逆に平行になっていない状態で測った測定値は違うんだ。
【資料5 話合いや教師の支援の様子】
18
対応する線分を見付けた
が、根拠としてどのような
論法を用いたらよいか迷い
がある
いいねポイントをもう一度
意識させるための発問
新たな根拠の示し方に気付
いた発言
質問を繰り返して、生徒C
10 の考えを聞き出し、平行
であることを用いてよいた
めの条件を納得している
話合いでは、いいねポイントに沿いながら課題
コップの面と、校舎への
について自分たちの考えを見直し、資料6のよう
垂線は、垂直といってよ
な新たな問いをもち、主体的に考え問題解決しよ
いか考えていることが見
うとする様子を見取ることができた。この問い
取れる記述
は、裏技を解明し説明するための本質的なもので
コップの面と校舎の壁面
ある。
が平行といってよいのか
事後のアンケート(資料7)によると「いいね
考えていることが見取れ
ポイントがあると話合い活動がしやすかった」と
る記述
いう意見の生徒が70.4%、さらに「班での活
動をする際、いいねポイントにより見通しをもて
るようになった」と答えた生徒が66.7%であ
【資料6 班の話合いで生まれた問い】
ったことからも、視点2①は生徒が問い
をもち続け、主体的に活動する手だてとして有効であったといえる。
いいねポイントを設定してよかったと思った点(複数回答)
いいねポイントがあると、話合い活動をしやすい
班での活動の見通しをもつことができた
班で考えるときに、新たな疑問が出てきた
他の班の発表を聞くとき「今、このポイントについて言っているんだな」と聞くポイントになった
数学的に考えることは大切だと思った
70.4%
66.7%
55.6%
55.6%
44.4%
【資料7 いいねポイントに関する生徒アンケート】
Ⅲ 研究のまとめ
1 研究の成果
⑴ 視点1の手だて
① 「課題を明確にする気付きの交流」について
授業研究Ⅰでは、
「図や近似値を基にした気付きの交流」を行った。既習の内容を基に、面積と線分の長
さの関係や代数的な処理に関する問いをもたせることができた。これは、見通しをもった問題解決に効果
があった。しかし、図をかいたり式変形をしたりできた生徒のうち個人思考の段階でより数理に迫った一
般的な説明をしようとすることができた生徒は29.6%にとどまった。
そこで、授業研究Ⅱでは、既習内容を
十分引き出せるように、授業内容や数学
的な考え方をまとめた「まとめカード」
の準備や、パワーポイントを活用し復習
を行った。そして、問題提示後に、気付
きの交流を行った。その結果、資料8の
【資料8 交流後問いを見いだした生徒の割合(%)
】
ように数理に迫る問いをもち、解決に向
かう生徒が40.9%に増えた。これは、気付きの交流の工夫が問題を解決するための具体的な問いを見
いだし、明確な見通しをもつことに効果があることを示している。
⑵ 視点2の手だて
① 「具体的な観点を基にした話合い」について
話合いでは、問題解決のために数学的な用語を用いたり、既習の内容を使ったりした話合いになるよう
に、具体的な観点を示すようにした。また、どの班にも数学が得意な生徒が必ずいるようにしたり人間関
係を教師が考えたりして編成した数学班で活動させるようにした。
授業研究Ⅰでは様々な考えを引き出すことができたが、図を用いた考えと代数的に説明する考えの折り
合いを付けることができなかった班があった。
話合いの内容を絞り込むことができなかったことを反省し、観点をいいねポイントとしてまとめ、より
明確な観点で話合いをさせるようにした。その結果、授業研究Ⅱでは、いいねポイントの「根拠はしっか
りとしているか」が本時のキーワード的な扱いとなった。班の話合いで新たな問いが生まれたのは、課題
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をはっきりさせたことやいいねポイントを示したことにより、
自分たちの考えの不備を見付けやすくなり、
その部分を直そうとした姿ととらえることができる。
資料9は生徒アンケートの結果である。
「初めて見た問題にあったとき、あなたはどのようにして問題を
解決しようと
しますか」と
いう設問に対
し、授業前、
授業研究Ⅰ後、
授業研究Ⅱ後
で比べると、
55.6%
51.9%
37.0%
18.5%
授業前
77.8%
74.1%
85.2%
74.1%
63.0%
48.1%
問題をじっくりと考える。
既習事項が使えないか、ま
とめカードなどを振り返る
友達と相談する
11.1%
授業研究Ⅰ後
7.4%
授業研究Ⅱ後
解かない・空欄にする
「既習事項を
基にじっくり
【資料9 問題を解決しようとする方法に関する生徒アンケート】
と考える」を選択した生徒や「仲間と協力して問題を解こうとする」を選択した生徒が増加した。また、
「解かない、空白のまま」を選択した生徒は、減少した。
以上のことから、授業研究Ⅰ、授業研究Ⅱの視点1、2の手だてをとったことで、出会った問題に対し
て、解決するための見通しをもった問いをもち、自分で試行錯誤したり友達と交流したりして、考えを再
構築し、主体的に課題を解決する生徒の姿を表出することができたと考える。
2 今後の課題
○ 授業研究Ⅱでは、数理に迫る問いを見いださせるために「話合い活動」と「そこからの気付きの交流」
を2度行った。生徒が数理に迫る気付きを見いだせるようにするために、
「何を基に気付きの交流を行う
のか」
「どの段階で、気付きの交流を行うのか」ということについて更に研究を進めていく必要がある。
生徒は、最後まであきらめることなく課題に取り組もうとする姿勢が見られた。生徒が主体的に学ぶ状
況を、自ら問題を解決するまで持続させるためには、実態把握を十分行い、問題の提示方法を工夫する必
要がある。今後も、日頃から生徒の疑問や気付きを起点とした授業づくりに努めていきたい。
<参考文献>
・
清水静海 編著 「中学校新数学科 数学的活動の実現」 第 3 学年編 明治図書
・ 文部科学省「中学校 学習指導要領 解説 数学編」 平成 20 年
・ 北九州市教育委員会「北九州スタンダードカリキュラム 中学校 数学科」 平成 24 年
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