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宗教の公的役割・再考

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宗教の公的役割・再考
187
宗 教 の 公 的 役 割 ・再 考
「国際宗 教 社 会 学会 」 参 加 報 告
中
本 年8月27日
か ら9月1日
に か け て,ロ
野
毅
ン ドン大 学 べ ドフ ォー ド ・カ レ ッ ジ
に て 第17回 国 際 宗 教 社 会 学 会(ConferenceInternationaledeSociologiedes
Religions:略
川 啓it授,放
した が,筆
称C.1.S.R.)が
開 か れ た 。 日本 か らは東 大 文 学 部 宗 教 学 科 の柳
送 教 育 開 発 セ ン タ ー(放
送 大 学)の
阿 部 美 哉 教 授 ら10名 が 参 加
者 も柳 川 教 授 に 同 行 して 出 席 す る こ とが で き た 。 さ ら に本 学 か らは ・
岡 安 博 司 事 務 局 長 が,パ
リの本 学 語 学 研 修 セ ン タ ー に 関 す る業 務 をす ま せ た 後
に 立 ち 寄 られ て 夕 食 会 で挨 拶 す る な ど,本
学 と して もC.1.S・R・
研 究 者 の 多 数 と親 交 を深 め る こ と が で き た 。 以 下,本
な らび に参 加
学 会 の成 り立 ち と今 回 の
学 会 で の 論 点 に つ い て 紹 介 した い 。
本 学 会 は1948年
ン ス,イ
タ リー,カ
に 設 立 さ れ,以
ナ ダ,ユ
来 ほ ぼ2年
ご とにベ ル ギー ・ オ ラ ンダ・ フ ラ
ー ゴ ス ラ ヴ ィ ア な ど,主
さ れ て き た 。 こ の こ とか ら分 か る よ うに,本
に ヨ ー ロ ッパ 各 地 で 開 催
学 会 は ヨー ロ ッパ の 研 究 者 を主 な
構 成 員 と して 形 成 さ れ た 学 会 で あ っ た が,C・1・S.R・
自体 が担 う歴 史 的 背 景 は
単 に 地 理 的 な 問 題 に と ゴま ら な い 。 こ の 学 会 の 創 設 お よび 後 述 す る性 格 上 の 変
化 が,ヨ
ー ロ ッパ に お け る宗 教 社 会 学 の 戦 後 の 展 開 過 程 を表 現 して い る か らで
あ るQ
周 知 の よ うに,1930年
と こ ろ が 第 二 次 大 戦 後,再
代 な い し40年 代 は宗 教 社 会 学 の不 毛 の 年 代 で あ っ た 。
ン の言 葉 を借 りれ ば,教
び 繁 栄 の 時 期 を迎 え た が,そ れ は社 会 学 が,ル
会 に よ っ てet見
され る"こ
ックマ
と に な っ た か らで あ った ・
第 二 次 大 戦 後 に お こ っ た 急 速 な教 区 人 口 の 変 化 が,世
俗 化 す な わ ち教 勢 の衰 退
と考 え られ た 危 機 感 が そ の 一 因 で あ る とい え る が,教
団 と社 会 学 者 の 連 携 を生
み,神
学 上 の 特 殊 な 問 題 の 追 求 を念 頭 に お い た 一一種 の社 会 誌(sociography)が
・
ヱ88
特 に フ ラ ンスや ベル ギー で展 開 された 。教会 と結 びつ い た社会 学 者 た ち は主 に
社 会 にお ける キ リス ト教 の影 響 や変 化 のパ ター ン を,例 え ば産業 化 との関 連 で
追跡 す るな ど多 くの統 計学 的調 査 結 果 が産 出 され,宗 教 社 会 学 の再生 をみ た。
しか しな が ら,こ の宗 教社 会 学 は基本 的 に応 用 科 学 ない しは補 助 科学 として発
展 した ので あ り・扱 う問題 は教 会 ・教 団の制 度 的 関心 に限 られ,世 論 調 査 技 術
の無批 判 な適用 な ど宗 教 研 究 の名 に値 しな い研究 技 術 ば か りが促 進 され た 。 そ
の担 い手 の大 半 は ロー マ教会 の聖 職 者 た ちで あ った。後 に ル ックマ ンやB .R.
ウ ィル ソンな どによ って,理 論 上 の進歩 が全 く伴 わ ない未 成 熟 な教 派 的社 会 学
(sociologiereligieuse)と
批 判 され る状 況 だ った の で あ る。
C.1.S・R・ は・ ま さに この よ うな教 派社 会 学 の担 い手 と して誕 生 した 。創 設
i の
の
e
時 の 学 会 名ConferenceInternationaledeSociologieReligieuseが
の 事 実 を物 語 っ て い る 。 文 字 通 り,カ
そ
ト リ ッ ク信 仰 に及 ぼ す 社 会 の 影 響 や,カ
ト リ ッ ク が 社 会 に お い て 行 使 す る影 響 力 に つ い て よ り深 い理 解 を得 た い と望 む
カ ト リッ ク司 祭 た ち に よ っ て創 設 され た の で あ る。
しか し な が ら1960年 代 後 半 に 入 る と,こ
批 判 が 高 ま り・C・1.S.R.内
の よ うな 教 派 的 宗 教 社 会 学 に対 す る
に お い て もそ の組 織 を初 期 の カ ト リ ッ ク的 な集 合
体 か ら脱 皮 させ た い とい う声 が 強 ま っ て きた 。1971年
C・1・S.R.は
純 粋 に学 術 的 な 団 体 で あ り,そ
関 連 す る現 象 の分 析 と解 釈,体
に 新 しい 規 約 が制 定 され,
の 目的 は 宗 教 現 象 な らび に そ れ と
系 化 に お け る社 会 学 とそ の 関 連 科 学 の 発 展 を め
ざ し・ そ の よ うな学 問 的 研 究 に 携 る す べ て の 人 々 に 開 か れ た 学 会 で あ る と明 記
され た 。 中立 的 ・ 客 観 的 な方 法 的 関 心 とい う基 準 を採 用 し,全
く科 学 的 で 学 問
的 な ア プ ロ ー チ に依 拠 した 宗 教 研 究 者 の集 合 体 へ と変 化 した の で あ る 。 こ の 時
そ の 転 換 を象 徴 し,ま
た 新 路 線 を確 実 な も の とす る た め,カ
ス ト教 徒 で も な い 社 会 学 者,オ
トリックで もキ リ
ッ ク ス フ ォー ド大 学 オ ー ル ・ソ ウル ズ ・カ レ ッ
ジ の ブ ラ イ ア ン ・ウ ィ ル ソ ン教 授 が新 会 長 に選 出 され た 。 彼 は75年 ま で 会 長 を
務 め て 新 路 線 を確 定 し,会
と に努 力 した 。1969年
員 を ヨー ロ ッパ や カ ト リ ッ ク国 に限 らず 拡 大 す る こ
に は参 加 者 数82名
大 会 に は40近 い 国 々 か ら326名
だ っ た の が,1977年
の ス トラ ス ブ ル グ
が 参 加 す る よ う に な っ た 。 ま た,こ
要 か ら学 会 名 も現 在 の もの が 表 記 され て お り,名
の 大 会 の紀
実 と も に社 会 科 学 的 宗 教 研 究
宗教 の公的 役割 ・再考189
の 国 際 的 学 術 団 体 に 発 展 した とい え る 。
75年 以 降 は,ロ
出 され,今
ン ドン大 学 社 会 学 部 教 授 デ ヴ ィ ッ ド ・マ ー チ ン氏 が会 長 に選
日に 到 っ て い る が,1982^-3年
フ ラ ンス,イ
タ リー,合
で は ポ ー ラ ン ド,ユ
ア フ リカ,南
衆 国,イ
度 の 正 会 員 数 は32ヵ 国261名
ギ リス,西
で あ り,
独 の 順 で 多 く登 録 して い る。 東 欧
ー ゴ ス ラ ヴ ィ ァ に会 員 が 多 い 。 な おC.1.S.R.は
ア ジア や
北 ア メ リカ の 多 くの 宗 教 社 会 学 者 に参 加 を呼 び か け て い る が,ア
メ リカ合 衆 国 に は ア メ リカ人 の 宗 教 社 会 学 者 を主 体 と した 「宗 教(科)学
(SocietyfortheScientificStudyofReligion:1949年
設 立)が
学 会 も国 際 的 な 性 格 を有 して い る。C.1.S.R.と
あ り・ こ の
の 関 係 も深 い 。 ま た,「 宗 教
社 会 学 会 」(AssociationfortheSociologyofReligion)も
の 学 会 が 欧 米 に お け る,い
会」
あ る。 この三 つ
わ ゆ る科 学 的 宗 教 研 究 の 主 要 な学 術 会 議 体 で あ る。
日本 の研 究 者 とC.1.S.R.と
の つ な が りは,1971年
の ユ ー ゴス ラ ヴィ アの大
会 に現 ・成 城 大 教 授 の森 岡 清 美 氏 が 参 加 し た の が 最 初 で あ る 。 ま た,1973年
の
ハ ー グ大 会 に は現 ・筑 波 大 学 教 授 の 井 門 富 二 夫 氏 と現 ・南 山 大 学 教 授 の ヤ ン ・
ス ィ ンゲ ドー 氏,愛
学 会 か らの派 遣 者1名
知 学 院 大 学 教 授 の 赤 池 憲 昭 氏 が 参 加 した 。 以 来,日
を含 め毎 回 数 名 が参 加 して お り,ア
学 者 が 最 も深iく コ ミ ッ トして い る。 ま た,1978年12月
本宗教
ジ ア で は 日本 人 宗 教
に は東 京 会 議 が 開 か れ た
が,こ れ は カ ナ ダ を除 く と,ヨ ー ロ ッパ 以 外 の 地 域 で 開 催 され た 唯 一 のCJ・S・R・
で あ った。
以 上,C.1.S.R.の
た が,次
構 成 は,大
成 立 とそ の性 格 を宗 教 社 会 学 史 の 展 開 との 関 連 で 紹 介 し
に今 回 の 大 会 の 内 容 に ふ れ て み た い 。C.1.S。R.の
別 す る と,大
大会 プ ログ ラム の
会 参 加 者 全 員 に よ っ て 討 議 され る統 一 テ ー マ を論 議 す
る全 体 部 会(Plenarysessions)と,参
加 者 個 人 が 自分 の 研 究 課 題 を 自 由 に 発
表 す る部 会(SessionsofVariouspapers),お
よ び複 数 の研 究 者 に よ る特 定
テ ー マ ま た は 特 定 の地 域 に つ い て の研 究 ・調 査 を 発 表 す る 部 会(Research
groups)か
ら成 っ て い る。 そ れ に加 え て,今
回 は 主 催 国 イ ギ リス の 宗 教 事 情 に
つ い て の 特 別 パ ネ ル が 設 け られ た 。 本 稿 で そ の す べ て の 内 容 を紹 介 す る の は,
も と よ り不 可 能 で あ る か ら,主
す る こ と に した い 。
に統 一 テ ー マ に関 す る論 議 の 中心 的 論 点 を紹 介
190
今 大 会 は 「宗 教 と公 的 領 域 」 と い う統 一 テ ー マ が掲 げ られ,そ
の下 に 以 下 の
4部 会 が組 織 され て い た 。
GeneralTheme:RELIGIONANDPUBLICDOMAIN
lstSession:TheStateandtheRegulationofReligion
2ndSession:ReligiousInfluenceinContemporaryPolitics
3rdSession:State,Conscience,Religion
4thsession:Religion,Health,State
こ の よ うな各 テ ー マ ご とに,多
くの事 例 研 究 と,そ
れ を分 析 し解 釈 す る理 論 的
枠 組 が 提 起 さ れ た 。 各 セ ッ シ ョ ン の発 表 と論 議 の 大 綱 の み を紹 介 す る と,第
セ ッ シ ョ ンで は,成
文 法 と して の 憲 法 に 規 定 さ れ た 国 家 と宗 教 と の 関 係 が,現
実 の 社 会 関 係 の 構 造 に お い て は ど うな っ て い る の か,ま
る の か とい う観 点 か ら,ラ テ ン ・ア メ リカ,日 本,イ
た 。 第2セ
一
ッ シ ョ ン で は,中
た,ど
う変 化 しっ っ あ
ギ リス 等 の 事 例 が 発 表 され
東 に お け る イ ス ラ ム的 政 治,イ
タ リア や そ の 他 の
ヨー ロ ッパ 諸 国 に お け る カ ト リッ ク教 会 の 政 治 行 動 や 政 党 との 関 係 に つ い て の
パ タ ー ンが 各 国 の 文 化 史 の相 違 と の 関 連 で 分 析 した 発 表 が な さ れ た 。 第3セ
シ ョ ンで は,宗
教 的 少 数 派 に対 す る社 会 や 政 府 の 対 応 が テ ー マ とな っ た 。 こ の
揚 合 の少 数 派 とは,政
の 場 合 と,西
に2分
ッ
治 的 エ リー ト層 と緊 張 関 係 に あ る宗 教 者 ま た は そ の集 団
欧 諸 国 に進 出 して き た 非 西 欧 的 起 源 の 少 数 宗 教 集 団 を さ す 場 合 と
で き る。 前 者 の例 と して ポ ー ラ ン ドや イ ス ラ ム 国 に つ い て の発 表 が あ り,
後 者 に関 して は 統 一 教 会 や サ イ エ ン トロ ジ ー,ク
リシ ュ ナ 協 会,そ
教 運 動 に対 す る政 府 の統 制 が と りあ げ られ た 。 第4セ
ッ シ ヨ ン は 信 仰 治 療 と政
府 の 医 療 行 政 と の 緊 張 が と りあ げ られ た 。 古 くか ら瞑 想,感
受 性 の統 御,信
に よ る病 気 癒 し な ど は教 会 や 修 道 院 な どで 行 な わ れ て き た が,現
宗 教 の 中 に も精 神 療 法 を強 調 す る運 動 が種 々 あ り,政
の 他 の新 宗
仰
在 の様 々な新
府 の医療 政 策や 近 代科 学
そ の も の との 確 執 等 が論 議 され た 。
個 々 の 発 表 や 論 議 の意 義 につ い て の 検 討 は別 の機 会 に ゆ ず る と して(日
・教 学会
『宗 教 研 究 』 に や や 詳 し く報 告 す る予 定)
,こ
こで は,こ
本宗
れ ら の論 議 の
基 調 とな っ た 最 も包 括 的 な課 題 を記 して お き た い と思 う。 そ れ は,1960年
代 か
ら70年 代 に か け て の 世 俗 化 社 会 に お け る宗 教 の 変 化 に 関 す る現 実 理 解 お よ び 理
宗教の公的役割 ・再考191
論 構 成 を再 検討 し よ うとい うもの であ った。 こ こ十数 年 来 の宗 教 社会 学 にお け
る論 議 の大 勢 は,市 民宗 教(civilreligion)論
の世 俗 化(seculax-ization)お
争 とい う例外 もあ った が,社 会
よび宗 教 の私 事化(privatization)と
い う問題 に
集 中 して い た とい え る。 そ の論 議 の過 程 で広 く共 有 され た認 識 は,公 的 分 野 に
お い て は制 度 と して の宗 教 はそ の存 在意 義 を失 いつ つ あ る とい う見解 で あ った。
他 方,制 度 化 され た宗 教(教 会 や既 成教 団)へ の帰 依者 の減 少(例
え ば教 会 出
席 者数 の減少)と 裏 腹 に,極 めて 多様 な新 宗 教 や凝 似 宗教 が発 生 し,人 々 は こ
れ らの多種 多様 な崇 拝 形 態 の 中 か ら,自 分 の好 み に応 じて選 択 す る時 代 に な っ
て きた と考 え られ たの で あ る。 こ うした理 解 の背後 に は,ウ
ェー バ ーや デ ュル
ケ ー ム以 来 の,合 理 化 され た近 代 社会 に あ って は宗 教 は事 実 上 消滅 す るか,知
的 な代 替 物 に取 って かわ られ るだ ろ う とい う前 提 認識 が流 れ て いた とい え る。
しか しな が ら,そ の よ うな前 提 を離 れて,現 在 の諸 宗 教集 団や宗 教的 活動 を
公 正 に概 観 して み る と,依 然 として宗 教 が国家 との関係 のみ な らず,公 的 な関
心 の も とにあ る幅広 い領 域 にお い て重 要 な位 置 を 占めて い る こ とが明 らか にな
る。 目につ く顕 著 な例 のみ を挙 げてみ て も,イ ラ ンや エ ジ プ ト,そ の他 の 中東
諸 国 に お け るイ ス ラム教 の影響 力,ア
ッ クの政 治的力,ま
イ ル ラ ン ドや ポー ラ ン ドにお け る カ トリ
た同教 会 が今 だ に堅持 してい る受胎 調 節 や 堕胎,離 婚 の禁
止 な ど も大 きな倫 理 的 社会 的 影響 力 を及 して い る。 目本 におい て も靖 国神 社 問
題 な どの国家 そ の もの の宗 教 性 を問 う問題 以 外 に も,諸 宗 教 団 体 が もつ政 治 的
影 響 力 は 日本 の政 治 的社 会 的状 況 を規 定す る0大 要 因 で あ り続 けて い る。
この よ うに,様 々 な地域 で,20数
年前 に は確 実 に衰退 して い くだ ろ うと考 え
られ た制度 宗 教(institutionalizedreligions)の
い て の既 成 観 念 は打 ち破 られ,よ
役割 や指 導性,エ
ー トス につ
り広範 な社 会 的 かつ政 治 的過 程 へ の宗 教 の参
加 や宗教 的行動 の可 能性 につ い て再 び注 意 を払 わ ね ばな らない状 況 が出現 した
とい っ て よい。宗 教 は,一 定 の状 況 にお い てで は あ るが,国 民的 または民 族的s
地 域 的,時
に は異 端 な政 治 的 主張 の代 弁人 と今 なお な りうるので あ り,ま た抑
圧 的 な体 制 を正 当化 す るのみ な らず,革 命 派 を正 当化 し,ま た時 に は,合 衆 国
に お け るMoralMajorityの
よ うに社 会 的文 化 的革 新 に対 抗 す る保 守的 運 動 を
正 当化 す る機 能 を も担 ってい るので あ る。
192
この よ うな状 況 を ど う理 解 すべ きな の か。 これ が今 学会 の最 大 の論 点 の1つ
で あ った とい え る。一種 の宗 教復 興 な のか。 宗 教 の社 会 的機能 の回復 と見 な し
うるの か。少 くと も,「 合 理 化 の進 展=世 俗 化,す
なわ ち宗 教 の衰退 また は 私
事化 」 とい う,多 分 に進化 論 的 含 意 に基 づ い た ス キー ムが再 検討 され な けれ ば
な らな い状 況 に我 々は直面 した ので あ る。問題 は,こ の状 況 が大枠 と し て は
「合 理化 」 が進 展 しつ っ あ る社会 にお け る一 時 的現 象,も
し くは,そ れ ぞ れ の
ケ ー ス が あ る特 定 の社 会 的条 件 下 で の特殊 現 象 で あ るの か。そ れ とも,単 線 的
な進 化 とは見 な しえな い新 た な変動 がお こ って い るの か,と い う点 に あ る。 も
ち ろん,こ の種 の論 議 は研 究者 の理 論的前 提 に左 右 され る もの で あ り,一一定 の
合 意 が形 成 され る には更 に多 くの論 議 が必 要 とされ るこ とは言 うまで もない。
しか し今 回 の学会 か ら受 けた 印象 と して は,ヤ
ンケ ロ ヴイ ッチ のい う よ う な
「文化 的 地 殻 変動 」 の徴候 または進 行 を,特 に欧米 の学者 は鋭敏 に感 じ とって
い る よ うに思 われ た。 イ ギ リス国教 会 や南 米 の カ トリッ ク教 会 が,も はや体 制
の補 完 物 として の正 当化機 能 の担 い手 た る こ とをや めよ う と してお り,国 家 か
らの 自立 を模 索 し始 め,時 には国家 と対 決 して い る。 ま た,ヨ ー ロッパ の各 地
で非 西 欧 的起 源 の宗 教 集 団が キ リス ト教 的倫 理 を抱 く人 々 に異和 感 と衝 撃 を与
え始 めてい る。 そ して この よ うな社 会 的,政 治 的,文 化 的諸 過 程 へ の宗 教 へ の
参 画 が政 府 に とって無 視 で きな い状 況 を生 み,国 家 の統 制 が あ る面 で強 ま りつ
っ あ る。 この よ うな状 況認 識 が,彼
らが共有 す る認識 の一部 で あ った こ とは疑
い ない 。 あ る種 の変動 は,確 か に起 こ ってお り,日 本 に おい て も,目 本 人 の宗
教 意識 の変化,特
に国家 の宗 教 性 か ら自立 した それ の表 出 が柳 川,阿 部 の両教
授 に よ って指 適 され た の で あ る。
以 上,論 点 の大 枠 のみ を紹 介 した が,研 究 領 域 を同 じ くす る筆者 に とって極
め て有 意義 で示 唆 され る ところ の多 い学会 で あ った こ とを付記 して,報 告 とす
る次 第 で あ る。
(創 価 大学 比較 文 化 研 究所 講 師 ・宗 教社 会 学)
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