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「職業学位」は国家成長の鍵

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「職業学位」は国家成長の鍵
2
職業人教育学会・第5回研究会での基調講演
「フィンランドにおけるキャリア教育について〜職業学位の設置をめざして〜」
昨年9月、
その成長ぶりから世界の注目を集めるフィンランドのキャリア教育・職業教育を
視察するため、東京都私学財団による私立学校教職員海外研修が試行されました。この海外研
修に団長として参加した東専各会長・小林氏の講演を基調に、
フィンランドの教育システムと
日本のそれを比較しながら、
「職業学位」
の重要性と創設の意義について考えます。
「職業学位」は国家成長の鍵
講 師/小林 光俊 氏
(社団法人 東京都専修学校各種学校協会 会長)
日 時/平成23年3月31日(木)
17:30~19:00
会 場/アルカディア市ヶ谷私学会館
4F「飛鳥」
司会・進行/関口 正雄
職業人教育学会副会長
東京都専修学校各種学校協会副会長
【職業人教育学会】
職業教育やキャリア教育・指導に関わるすべての人を対象に、職業人教育に含まれる職業観を涵養
する教育、職業教育、就職支援のための指導などの研究およびそれら教育機関の連携の研究を通じ
て、
実効性の高い職業人教育のありかたを探求するため、2009 年10 月19 日に発足しました。
「職業」
と「教育」
の間に「人」
の文字が入っているところにこの学会の特色があります。
キャリアエデュ NO34
9
学術教育に向かない若者の
大学偏重による弊害
「国際通用性のある職業学位の創設が、必ずや日
本の活性化につながる」
。昨年9月にフィンランド
を訪れ、彼の国の教育制度を調べるほどにその思
いを強くして帰国しました。
ヨーロッパでは、学術教育と職業教育が並立
単位互換
【大 学】
アカデミック
ディグリー
(学術学位)
【高等職業専門学校】
プロフェッショナル
ディグリー
(職業学位)
(編集部註:フィンランドの教育システムにつ
いてはp.15 にまとめました)
私は文部科学省が生涯学習政策局を作った時の
ことを覚えているのですが、当時盛んに言われて
いたのは、
「学術教育体系と職業教育体系を並立さ
せるのだ」ということでした。私もそうなってほし
いと願っていましたが、
それは叶いませんでした。
高等職業専門学校の中には、日本の専門学校と
同じような校舎のところもあれば、大学をしのぐ
ほど立派なキャンパスを持ったところもありま
す。最近ではプロフェッショナルディグリーの方
が人気が高いそうです。なぜかというと、高等職業
専門学校で学んだ人は実践力があるから、それが
大学が学術教育として発展していくことも日本
にとって重要なことですから、学術に向く若者が
評価されてヨーロッパのどこに行っても就職にと
ても有利だからです。フィンランドでは「実践力
大学に進学するというなら良いのですが、残念な
がら勉学が嫌いな人まで親や先生方の勧めで何で
もかんでも大学に行ってしまう。結局、大学の授業
について行けないとか、中学校の教科書で補習を
受けているという情けない話が聞こえてきます。
評価」に非常に力を入れていて、
「 生活に役立つこ
とが最も大切だ」ということが国の教育の基本に
されているわけです。そしてそうした教育を徹底
して行っているのです。
では、日本の場合はどうでしょうか。
『 学問のす
すめ』の中で福沢諭吉は、
「 学問とはただ難しき字
学術教育にそぐわない人が大量に大学に行け
ば、本当に学術教育を受けようとする学生の足を
引っ張ってしまうことになります。さらに世界か
ら集まる留学生からは、
「日本にはまったく学術研
究をしていない大学がたくさんある。日本の大学
で学ぶことには、あまり意味がない」と言われてお
り、東南アジアの優秀な学生の多くがヨーロッパ
やアメリカに留学してしまう。そういった風潮は
非常に残念です。
実践力評価で人気が高まる
欧州の職業教育
一方で日本の専門学校の中には、ヨーロッパで
いうマスター(修士)に匹敵するレベルの職業教
育を行っている学校がたくさんあります。当然、3
年以上の課程であればバチェラー(学士)の学位
がもらえるレベルです。
ヨーロッパには欧州単位互換制度というシステ
ムがあり、ユニバーシティ(大学)とポリテクニッ
ク(高等職業専門学校)との間で共通の単位互換
ができるようになっていて、アカデミックディグ
リー(学術学位)
とプロフェッショナルディグリー
(職業学位)が並立しているのが特徴です。
(右上の
図参照)
10 キャリアエデュ NO34
を知り、
( 中略)世上に実の無き文学をいうにあら
ず。
( 中略)今、かかる実なき学問はまず次にし、
もっぱら勤むべきは、人間普通日常に近き実学な
り」と述べています。さらに「学問とは広き言葉に
て、無形の学問もあり、有形の学問もあり。いずれ
にしてもみな知識見聞の領域を広くして、物事の
道理をわきまえ、人たる者の職分を知ることなり。
文字は学問を進めるための道具にて(中略)ゆえ
に世帯も学問なり、帳合いも学問なり、時勢を察す
るもまた学問なり」と。今から140 年前に「実学こ
そが学問である」と言っているのです。
ところが現在、日本の教育制度は大学というア
カデミズムの部分だけに偏向して、そこから脱す
ることができないでいる。戦後になってからその
傾向は特に強くなっていると感じますが、特にこ
の20 年、バブル崩壊以降に、日本が世界的な視野
で見た時に、中々立ち上がれないでいる根本原因
は、教育にあるという認識を強く持っています。
囲い込み教育、怖いものに近寄らない教育ばかり
やっているから、留学生として外国に出ることを
嫌う若者が多くなる。それこそが国際化の中での
大きな問題で、なるべく早いうちに直していかな
ければと思っています。
違いを認め、
国民全体の高度化による成長
フィンランドの教育の基本原則は「一部のエ
リートを作らず、また一人の落ちこぼれも出さな
い」であり、これは1994 年に若干29 歳で教育大臣
になったオリペッカ・ヘイノネン氏が定めたとい
われています。教育によって国民全体を高度化し、
それによって国造りをするのが国の方針である
と、はっきり定義がなされました。
どんな学生に対しても、それぞれ個人の特性や
能力を認め合うことに心を砕いた教育を行ってい
ます。子どもたちも「自分には何ができるのか」
「自分は何が好きなのか」という自問自答を幼い時
からしています。
「なぜ勉強しなければならないの
か」という意味を自覚した上で勉強するから、学習
時間は短くてもPISA(OECDの学習到達度
調査)で高得点を上げることができる。そういうシ
ステムは立派だと思います。
日本も明治初頭や敗戦直後は国民全体で国造り
をしたわけですが、
「 ジャパンアズナンバーワン」
なんて言われてしまってから日本人全体が増長し
てしまった。
「 日本国内が一番良いのだ」と新しい
ことにトライする情熱や冒険心を無くし、サバイ
バル能力の育成をせず、外形的な教育に専念する
ようになってしまいました。
「大学卒業の肩書があ
れば何とかなるだろう」と、中身が無いから外形的
と呼ぶのです。日本が沈んでいることの大きな原
因は、そこにあると思います。他のアジア諸国はみ
なかつての日本の高度成長期と同じような活気あ
る状況を続けているのに、世界中で日本の経済だ
けがこの20 年間シュリンクしているのです。
フィンランドの経済が活性化し、成長している
のは国民の教育の成果です。フィンランドでは教
育の最終目標を「生活に役立つ知識・技術を持ち、
自立することにある」と定めており、まさに福沢諭
吉が言ったように「実践的なことに価値がある」
と明言しているわけです。日本もそういう方向に
進まなければ、
浮上できません。
そのためには、専門学校など実践的な教育を
行っている学校も、ヨーロッパのような国際的単
位互換制度の導入も含め、きちんと評価が得られ
るような国際通用性のある制度にしていかなけれ
ばなりません。我々としては、日本でもヨーロッパ
にあるような「職業学位」というものを、文部科学
省に創っていただきたいのです。
アカデミズムに向く人は、大学に進んで一所懸
命学問をし、世界に羽ばたいてほしい。もう一方、
職業に向く人はプロフェッショナルを目指す。職
業教育を国民的に評価してもらえるような、そし
て国際通用性のあるものにしてもらえれば、プロ
フェッショナルディグリー(職業学位)を目指す
学生も増え、日本の経済活性化につながると確信
しています。
国際通用性のある
「職業学位」を日本にも
ヨーロッパの場合、ボケーショナルスクール(職
業訓練学校)の上に位置するポリテクニック(高
度職業専門学校)のすべてのコースでバチェラー
(職業学位)が取れるわけではありません。2年制
課程修了ならボケーショナルスクールと同様に
デュプロマ(認定証)で、3年制課程以上の修了で
実践力評価によりプロフェッショナルディグリー
の中のバチェラー(学士)という「学位」がもらえ
る仕組みになっています。
10 年前に教育制度改革を行った韓国では、
「専
門大学」を設け、2年制課程修了者にはデュプロ
マ、3年制課程修了者にはプロフェッショナル
ディグリーのバチェラー(学士)を与えています。
韓国もヨーロッパ型の学位制度
韓国の専門大学
3 年 課 程 以 上 の 修 了 者 に は、プ ロ
フェッショナルディグリーのバチェ
ラー(学士)を授与
2年課程の修了者には、ディプロマ
(認定書)を授与
キャリアエデュ NO34
11
海外の職業学位制度を日本の専門学校の学科に置き換えてみると
課 程
取得できる学位、
認定証
4年制卒以上
マスター
(修士)
3年制以上
バチェラー
(学士)
2年制
ディプロマ
(認定証)
日本の専門学校の設置学科例
1級自動車整備、
建築工学、
言語聴覚士
(大卒2年)
など
理学療法、作業療法など
観光トラベル、デザイン、情報処理、通訳、ファッション技
術、
マンガ、アニメーション、理容、美容など
これら海外の教育システムに照らすと、文部科
学省関係者が「専門学校にはデュプロマだけだ」
とか、
「 専門学校は全部ボケーショナルスクール
抱き、新しいものに挑戦することが大切だと、警鐘
が鳴っているように感じます。
幸い今、内閣府が中心となり新しい試みとして
だ」と言っているのは間違っていることが明白で
す。フィンランドにおいてボケーショナルスクー
ルは高等学校レベルであり、ポリテクニックは高
「キャリア段位制度(日本版NVQ:P.8 参照)」に取
り組んでいます。この新しい仕組み作りに期待し
ている次第です。
等教育機関。さらにもっと高度なものを学べる大
学院レベルまである。そして、日本の専門学校は高
等教育機関なのです。その点の理解を深めた上で、
きちんと議論を進めていきたいのです。
日本再生の今こそ
新しい仕組みへの挑戦が重要
「キャリア段位」制度
「介護」
「保育」
「農林水産」
「環境・エネルギー」
「観光」などの新成長分野や、
「人づくり」の効
果の高い分野などを中心に、職業能力評価・
育成を推進
フィンランドが実践的な職業教育に力を入れて
いるのは、それが国民経済活性化の促進策だから
です。高度な職業人教育によって欧州での国際経
済競争力強化を図ることが、国の方針なのです。そ
してその実行役である国家教育委員会は、
「20 年
○段位
先、人類にとって何が必要になるか」を常にリサー
チしています。携帯電話で世界シェアの50%を占
めるノキアを生んだ国ですから、ネットを使った
○段位
リサーチはお手の物でしょう。
より成果が上がると思われる教育システムや
職業分野があれば、地球上のどこにでも出かけて
調査・評価を行い、それを自国の中で活かし、新し
○段位
い教育カリキュラムや学科を作る。フットケアな
んかもポリテクニックの中に学科が設けられてい
て、ちゃんとバチェラーが出るんですよ。日本では
考えられません。
『学問のすすめ』には、
「 文明の進歩は、その働き
の趣を詮索して真実を発明するにあり。西洋諸国
の人民が今日の文明に達したるその源を尋ぬれ
ば、疑いの一点より出でざるものなし」とありま
す。今回のような大震災があり、日本が新たに立ち
上がらなければならない今、既成の制度に疑問を
12 キャリアエデュ NO34
多様かつ高度で、
予測困難な業務が可能
○段位
座学+OJT
(ジョブ・カード制度の活用等)
主に予測できる定型業務
2段位
初段位
ここで小林氏の講演は一区切りとし、
会場参加者との意見交換になりました。
日本の教育の最終目標はどこにあるのか?
【清水 眞 氏】
(御茶の水美術専門学校・企画広報部長)
フィンランドでは教育に関するコンセプトが明
確に示されていますが、日本の文部科学省は教育
の最終目標をどこに置いているのでしょうか。そ
れが無ければ、すべての制度の位置づけが出てく
るはずはありません。どういうコンセプトの教育
で若者を導こうとしているのか、はっきりさせる
ための議論が必要です。これはキャリア教育に止
まる話ではなく、
日本の教育全体の話です。
【関口 正雄 氏】
(東京都専修学校各種学校協会・副会長)
大学や専門学校あるいは高校が最終学校であ
れば、そこを卒業したら、正業に就き、一人前の社
会人のスタートを切る、親も社会もそのことを当
然期待しています。ところが大学を出ても正業に
就かないものの割合は大きくなっている。大学は
国民の期待に応えていない、このことが職業教育
の大切さを認識させる動きの根底にあると思い
ます。
【清水】フィンランドの教育が魅力的なのは、まず
基礎教育で「どのように生きるか」を教え、しか
る後に、頭脳的に伸びる子は大学教育のアカデ
ミックなところに伸びていけばいいという考え
方です。
もう一つ、職業教育システムがこまかく分かれ
ているのは、多様性を認めるという考え方を持っ
ているからだと思います。
「勉強ができるというの
は、ただの一部分にすぎない」ということでしょ
う。全体を見ず、1つの軸だけで捉える日本の教育
の評価基準には柔軟性を感じることができませ
ん。今こそ教育全体の議論が必要ではないでしょ
うか。
【小林】価値観の多様性を認める国なんです、フィ
ンランドは、物理ができる学生は素晴らしい。物
作りができる学生もまた素晴らしい、と。お互い
に持っている違う個性や価値を認め合うわけで
すね。学術だけが価値ではなく、
‘ 生きる力’には
いろいろな側面があるのだから、その多様性を認
め合っていきましょう。そして「実践力の無いも
のは評価しない」とも言っている。日本とは真逆
ですね。
「富士山型」から「八ヶ岳型」の
教育体系を目指し
【関口】大学に対する非大学(職業教育的、実践教
育的プログラムの学校)をどう位置づけるかとい
う課題について、各国は比較的明確な大学と非大
学の区分を示しているように思います。日本は少
しこの区分が曖昧で、例えば短大は、プログラムが
短期間であること、職業教育を行うことなどの定
義からは、本来非大学の仲間なのに、学術学位をも
らえることになっている。行政上の扱いも、大学側
として行われていることが多いですね。
【小林】専門学校サイドで「学位」に対する共通認
識を持ってあたらないと、議論は進みませんね。
【関口】職業学位の検討は、後期中等教育後の非大
学の教育を、将来に向けどう捉え、制度化するか、
という根本的な課題を常に喚起させることになり
ます。東専各としては、この検討を避けることな
く、研究、発信し続けていく方針でいます。
【小林】文部科学省が実践的な職業教育の検討会を
始める時に、キーワードは3つありました。
1つ目は、国民の価値観の多様化に対応し学術
教育体系と職業教育体系の並立した複線形教育体
系を検討することでした。それは生涯学習政策局
ができた時からのテーマであり、もっといえば専
修学校制度を作る時の命題でありました。
当時、永井文部大臣*は、
「 富士山型の教育体系
から、八ヶ岳型の教育体系に変える」・・・・・・ 東大
だけが頂点ではなく、教育の峰はいくつもあると
おっしゃいました。そして私学の建学の精神に基
キャリアエデュ NO34
13
づく教育体系を評価して、
「 私学を育てましょう」
我々の役割でしょうね。
と私学助成金を創設した。また、職業教育も大切だ
と、徒弟制度だったものを学校と認め、その振興策
として専修学校制度を作ったのです。
「 八ヶ岳型」
職業学位を掲げて峰が高くなれば
裾野も広がる
というのは、
教育の多様性を認めるものでした。
職業教育全体に高い理想を掲げ、国民の理解を
それ以来、約35 年間、日本の教育行政は硬直化
含め、国際的な通用性のあるものにしていくこと
し、国際的に見れば柔軟性を欠いていると感じて
が急務です。
います。
そうしなければ、優秀な留学生が日本に来てく
れなくなります。日本の職業教育には大変素晴ら
(*註)永井文部大臣=永井道雄氏
(1923 ~ 2000)
1974 年、三木内閣において朝日新聞論説委
員から民間人の閣僚起用で文部大臣に就任。
1976 年末の三木改造内閣退陣まで2年間文
相を務めた。
しいものがあるわけですから、そこで学んだ学生
が国際的にちゃんと評価されるようにしていかな
ければ、日本の職業教育はさらに落ち込んでしま
うという恐れがあります。職業教育の重要性を認
めて国もキチンと評価し、国際的に通用する制度
になれば、そこに優秀な学生が集まるし、職業教育
2つ目は国際化への対応でした。職業教育のグ
全体の繁栄につながるでしょう。
ローバル化対応ができていないから、国際通用性
「峰が高くなればなるほど裾野は広がっていく」
をきちんと描いてほしいというものです。
・・・・・・ 今 か ら35 年 前 の 永 井 文 部 大 臣 の 論 理 に
そして3つ目が一条校(大学、短大等)と、一条
戻って、職業教育の峰を高くすることが肝要です。
校ではない専門学校との格差是正です。この3つ
そのために、国際通用性のある「職業学位」が必要
がキーワードでした。その中で「学術教育体系と
なのです。裾野が広がればそこで学びたい人が集
職業教育体系の並立した複線化」は、現在「職業実
まり、それが日本の活性化につながるでしょう。
践的な教育に特化した新たな枠組み」として検討
フィンランドや欧州に行って調べてみればみる
が進められています。
ほど、その信念は確固たるものになった次第です。
「国際通用性」については単位互換などが考えら
れますが、まず日本の社会での理解を深める必要
があります。先述した内閣府の「キャリア段位制」
を進め、民間の社会と一体になって職業における
実践力を評価することが第一歩です。
ヨーロッパでは、評価をする人(アセッサー)が
教員になれます。教員資格は何もマスター(修士)
だけではありません。実践力があれば修士と同等
として評価します。実践力で評価された人が教員
になるのは、
日本の専門学校と同じですね。
大学で学ぶ学生に対しても、専門学校で学ぶ学
生に対しても、国としてのサービスは平等でなけ
ればいけないということが基本でしょう。今の内
閣は「不条理を正す」と言っているのですから、
専門学校生だけが国の支援を受けることができな
いような不条理があってはなりません。それを学
生の立場に立ち政界や行政に訴え続けていくのは
14 キャリアエデュ NO34
3 『職業学位』を検討する上で規範となる実践例
〜フィンランドの教育システム〜
【国の教育の基本原則】
●一部のエリートを作らず、また一人の落ちこぼれも出さない。
●教育の最終目標は、生活に役立つ知識と技術を持ち自立することにある。
出典:「フィンランドの教育」フィンランド国家教育委員会
■フィンランドの教育制度
※○付き数字の説明は、P . 16〜P . 17を参照してください。
博士課程
前博士課程
ポリテクニックの
学士以降研究(修士相当)
5 年生
4 年生
(修士課程)
3 年生
4 年生
3 年生 ポリテクニック教育 ①
(高等職業専門学校)
2 年生
■学術的学位
1 年生 ■資格認定証
大学教育 ②
2 年生
1 年生
(学士課程)
職業専門家資格
実務経験
職業上級資格
3 年生
2 年生
3 年生
(2)
高等学校教育
④
1 年生
(1)10 年生
義
16 歳
9 年生
15 歳
8 年生
14 歳
務
13 歳
教
育
10 歳
9歳
基礎教育 ⑤
4 年生
3 年生
8歳
2 年生
7歳
1 年生
6歳
(年齢)
(1)自発的基礎教育(10 年生)
は生徒たちの成績向上や、将
来の計画を明確にする機会
を与えるものとして設けら
れている。
6 年生
5 年生
実務経験 ⑦
⑥
7 年生
12 歳
11 歳
2 年生 職業訓練学校教育
③
1 年生
(2)職業訓練学校教育は職業
学校で(最低半年の実務研
修を含む)、あるいは現場で
の徒弟制の形式で行われて
いる。また成人が能力テスト
によって、職業訓練学校教育
の資格を取得することもで
きる。
学校または保育園での就学前教育
(学年)
キャリアエデュ NO34
15
国家成長の原動力は教育にあり。
教育に対する国の方針や到達目標が明確で、人々の違いを認め、
「学術学位」
と「職業学位」が等価値で並立するフィンランド。
我が国でも職業教育の将来を考える上で見習うべき点は多々あります。
国造りの基礎を教育に置いたフィンランドは、下記のような大きな成果を挙げ、
世界の注目を集めています。
(1)
中学校教育ではOECD(経済開発協力機構)国際学習到達度調査(PISA)
において、世界の参加国中最も授業時間数が少ないにもかかわらず、世界トッ
プクラスの成績を続けている。
(2)
世界経済フォーラム「世界経済競争力」6年連続世界第1位
(3)
世界経済フォーラム「世界環境持続性」世界第1位※
(4)
トランスペアレンシー・インターナショナル「世界汚職指数(清潔度)」
世界第1位※
(5)
ニューズウィーク誌「ベストカントリー・ランキング」総合第1位、
教育部門第1位
(3)、
(4)の※印は2005 年度の実績です。
①高等職業専門学校(ポリテクニック)
は大学と同等レベル。
高等学校や職業訓練学校の卒業者、
あるいは一度社会に出た人が学びます。
ECTS(欧州単位互換制度)
に基づく「職業学位(プロフェッショナルディグリー)」
が認定されます。
高等職業専門学校で修了した課程
認定される学位
大学院課程修了者
マスター(職業修士)
学士課程修了者
バチェラー(職業学士)
2年課程修了者
学位ではなくディプロマ(資格認定証)
②大学(ユニバーシティ)はECTS(欧州単位互換制度)に基づく
「学術学位(アカデミックディグリー)
」
が認定されます。
大学で修了した課程
認定される学位
大学院の博士課程修了者
ドクター(博士)
大学院の修士課程修了者
マスター(修士)
学士課程修了者
バチェラー(学士)
16 キャリアエデュ NO34
Pointo
「実践力評価」を重視するフィンランドでは、近年学術的な学位よりも専門
的な学位の方が人気が高まっています。学術的な学位を持っていても就職
状況があまり芳しくないのに比べ、専門的な学位所持者は実践力があるた
め、
それが評価されて就職が有利だからです。
2008 年以降、
高等職業専門学校希望者が50%を超えました。
③職業訓練学校(ボケーショナルスクール)
は高等学校レベル。
国際的な人気が高く、
学生の約20%は外国人。
個人学習プランに基づく少人数(20 人以下)クラスで、
生活の中で実践的に役立つ知識と技術を実習中心に学びます(実践スキルのスタディプラン)。
職業訓練学校修了者には「デュプロマ(資格認定証)」が与えられます。
職業訓練学校で修了した課程
認定されるもの
職業訓練学校課程修了者
ディプロマ(資格認定証)
Pointo
職業訓練学校(ボケーショナルスクール)は高等学校レベルと位置付けた
フィンランドの教育システムに照らせば、日本で「専門学校はボケーショ
ナルスクールである」とする考え方は正鵠を射ていないが、職業学位を与え
ることは国際的観点からも通用すると思われます。
また、デュプロマ(資格認定証)を与えることも、国際通用性の観点から矛
盾はありません。
④高等学校と職業訓練学校間の双方向矢印は、単位互換が可能なことを示します。たとえば普通高校で学び
ながら、
将来の職業に必要だと思われるものを職業訓練学校で学ぶことができます。
⑤6歳でほとんどの子供がプリスクールに通い、
日本とは1年遅れの7歳から9年一貫(日本でいえば小 中一貫)
の基礎教育が始まります。
したがって基礎教育9年生が日本の高校1年生と同年齢にあたります。
⑥基礎教育は9年制ですが、自発的基礎教育と呼ばれる「10 年生」が存在します。これは補修的に生徒の成
績向上を図ったり、
将来の計画を明確にする機会を与えたりする目的で設けられています。
⑦成人が能力テストによって職業訓練学校教育の資格を取得することもできます。 キャリアエデュ NO34
17
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