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2014年1月号 - 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社

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2014年1月号 - 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社
PL 情報 Update
Vol.30
by Tokio Marine & Nichido
CONTENTS
2014.1
■
米国自動車リコール発生時の通知を巡る NHTSA と自動車メーカーの争いについて
■
■
■
トランス脂肪酸に関する規制と企業の対応
フランスおよび英国における消費者の権利の発展
医薬品製造物責任訴訟におけるドイツ薬事法解釈について
■
中国消費者権利保護法の改正
■
医薬部外品の健康被害による回収
PL 情報 Update
目次
1. 米国自動車リコール発生時の通知を巡る NHTSA と自動車メーカーの争いについて.................... 3
1-1. 米国の自動車リコール制度およびその中で自動車メーカーに求められる通知の概要...... 3
1-2. NHTSA と自動車メーカーの欠陥を巡るやり取りの実例 .................................................. 4
1-3. 今回の NHTSA の判断の背景や判断に伴う影響................................................................ 5
1-4. おわりに .............................................................................................................................. 5
2. トランス脂肪酸に関する規制と企業の対応...................................................................................... 6
2-1. トランス脂肪酸とは ............................................................................................................ 6
2-2. 海外諸国の規制状況 ............................................................................................................ 6
2-3. 日本の規制状況 ................................................................................................................... 8
2-4. 日本国内における企業の対応状況 ...................................................................................... 8
2-5. 食品関連企業のリスク ........................................................................................................ 9
2-6. おわりに .............................................................................................................................. 9
3. フランスおよび英国における消費者の権利の発展......................................................................... 10
3-1. 消費者の権利に関する指令(Directive 2011/83/EU)について ..................................... 10
3-2. フランス ............................................................................................................................ 10
3-3. 英国.................................................................................................................................... 11
3-4. おわりに ............................................................................................................................ 13
4. 医薬品製造物責任訴訟におけるドイツ薬事法解釈について .......................................................... 14
4-1. 本訴訟の概要 ..................................................................................................................... 14
4-2. ドイツ薬事法の概要 .......................................................................................................... 15
4-3. 本訴訟の争点 ..................................................................................................................... 16
4-4. おわりに ............................................................................................................................ 17
5. 中国消費者権利保護法の改正.......................................................................................................... 19
5-1. 消費者権利保護法の概要と適用範囲 ................................................................................ 19
5-2. 改正のポイント ................................................................................................................. 19
5-3. おわりに ............................................................................................................................ 20
6. 医薬部外品の健康被害による回収 .................................................................................................. 21
6-1. 医薬部外品とは ................................................................................................................. 21
6-2. 医薬部外品の回収状況 ...................................................................................................... 21
6-3. 医薬部外品の健康被害拡大を防止するための組織体制と仕組みづくり.......................... 23
6-4. おわりに ............................................................................................................................ 24
Copyright (C) 2014 Tokio Marine & Nichido Fire Insurance Co., Ltd. All rights reserved.
本資料の見出し、記事及び図の無断転載を禁じます。
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PL 情報 Update
1.米国自動車リコール発生時の通知を巡る NHTSA と自動車メーカーの争いについて
米国では、連邦機関である道路交通安全局(National Highway Traffic Safety Administration; 以
下、NHTSA)が、自動車の安全に関する様々な規制を所管しており、その中にはリコール制度を定
め た 国 家 交 通 ・ 自 動 車 安 全 法 お よ び ト レ ッ ド 法 ( Transportation Recall Enhancement,
Accountability, and Documentation Act)があります。
トレッド法では、自動車メーカー等が自動車または装置に、安全に関わる欠陥、安全基準への不
適合があると判断した場合には、これらの欠陥、不適合の改善措置を実施するとともに、欠陥また
は不適合を有する自動車の所有者等、ディーラーおよび NHTSA へ通知しなければならないと定め
ています1。
しかし自動車メーカーは、自動車の欠陥については、安全面を考慮してリコールを実施すること
には同意はするものの、NHTSA への通知においてそれを否認する(欠陥があることを認めない)こ
とがあり、NHTSA と自動車メーカーとの間で意見を異にする状況が発生しています。
2012 年 9 月、NHTSA はこのような状況を受けて、通知の中で欠陥を否認することを禁止するよ
う規則改正することを提案しました。しかし、自動車メーカーの反対に遭い、2013 年 8 月 14 日に
公表された最終的な規則では、NHTSA はこの提案を取り下げることとなりました2。
本稿では、これらの概要や自動車メーカーに与える影響などについて紹介します。
1-1.米国の自動車リコール制度およびその中で自動車メーカーに求められる通知の概要
米国の自動車リコール制度の概要3は、次のとおりです。
リコールが実施される場合
自動車メーカー等が、自動車または装置に、安全に関わる欠陥、安全基準への不適合があると判
断した場合、リコールが実施される。
自動車メーカー等の義務
① 自動車メーカー等は、顧客(所有者等)および NHTSA に対して、欠陥または不適合の内容
を通知しなければならない。
② 自動車メーカー等は、該当する自動車を無償で改善しなければならない。ただし、最初の販売
から 10 年以上経過した自動車(タイヤについては 5 年以上)は有償での改修が認められる。
また、欠陥または不適合の内容が、安全にとって重大でないと行政当局が判断した場合には、
改善が免除される。
政府のリコール命令権限
NHTSA 長官は、自動車または装置に安全に関わる欠陥、安全基準への不適合があると判断した場
合、自動車メーカー等に対して「欠陥または不適合車両の所有者、ディーラー等への通知」
「欠陥ま
たは不適合の改善措置の実施」を命ずる。
上記自動車メーカー等の義務のうち、①については、以下のとおりです。
1
2
3
合衆国法律集 49 編 30118(C)
連邦行政規則集 78 編 51382(2013 年 8 月 20 日)
国土交通省「第二回リコール検討会(2007.11.13)
」配布資料 2
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3
PL 情報 Update
顧客への通知
自動車メーカー等に対し、次の義務または禁止事項が定められています。
「自動車メーカー等は、特定の自動車に安全性と関係する欠陥が存在していると判断した」
旨の表示の義務(577.5(c)節)
「欠陥はない旨もしくは欠陥が自動車の安全性とは無関係である旨の記述もしくは示唆」
の禁止(577.8(a)節)
NHTSA に対する顧客への通知内容の事前提出義務(577.5(a)節)
上記のとおり、顧客への通知については、欠陥が自動車の安全性に関係がないと記載することは
認められていません。
NHTSA への通知
自動車メーカー等は、NHTSA に対し、
「欠陥に関する説明」および「欠陥が自動車の安全性と関
係しているという判断の根拠になった主要事実と発生順序」を提出することを義務付けられていま
す(573.6 節)。
NHTSA への通知では、上記顧客への通知では禁止されている、欠陥が自動車の安全性に無関係
であると記載することは必ずしも禁止されていません。つまり、NHTSA への通知では、自動車メー
カー等が、
「安全性に関する独自の評価」および「実際には安全性と関係する欠陥は存在しないと考
える理由」の提示等の裁量が与えられていることになります。
今般の規則改正では、NHTSA への通知にも、顧客への通知と同様、欠陥と自動車の安全性との
関係を否認することを禁止することが提案されましたが、結局取下げとなりました。
1-2.NHTSA と自動車メーカーの欠陥を巡るやり取りの実例
ここで、NHTSA と自動車メーカーとの間で発生した自動車の安全上の欠陥を巡る事例を紹介し
ます。
フォード社の事例
フォード社は、
2011 年、
搭載されたエアバッグが必要でないときに作動するおそれがあるとして、
ピックアップトラック F-150 のリコールを実施しました。対象台数は数十万台とされています。
顧客向けの通知には、フォード社は安全性と関係する欠陥が存在していたと判断している旨の記
述が含まれていましたが、NHTSA への通知では、同社は次のように述べています。
安全面の欠陥があるとは判断していない。F-150 の誤作動発生率は、NHTSA の調査を受けてリ
コールされている他の車両での発生率を下回っていると考えている。
しかしながら、同社は、NHTSA との紛争の長期化を避けるため、同社の他の組立工場で同時
期に製造された車両よりも誤作動の可能性が高いことを理由に、これらの車両のリコールを
決定した。
同社はその後、NHTSA との交渉を続け、車両に安全性と関係する欠陥があるとは判断していな
いとしながらも、追加の車両をリコールすることに合意しました4。
4
NHTSA のリコール番号:11V107 を参照。
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4
PL 情報 Update
クライスラー社の事例
2013 年、NHTSA は、クライスラー社のジープが追突された際、燃料漏れを起こす危険性が高い
として、リコールの実施を求めました。対象台数は 270 万台にのぼるとされています。
これに対して同社は、追突された際の燃料漏れリスクは競合社の自動車と比較して変わらないと
してリコールを拒否しましたが、最終的には安全面を配慮してリコールを実施する旨、NHTSA と合
意しました5。
同社は、リコールの実施に同意はしたものの、あくまでも次の点を引き続き主張しています。
燃料漏れリスクが、欠陥に該当することには同意していない。
自社のリコール対象車には、欠陥は存在しないと判断している。
1-3.今回の NHTSA の判断の背景や判断に伴う影響
NHTSA はここ数年、自動車メーカーが欠陥と安全性との関係を否認することは、自動車の安全
性に影響を及ぼすとの考えに基づき、自動車メーカーが欠陥を否認することにいらだちを示してい
ました。今回の規則改正の提案は、この是正を図ることを意図していたと言えます。
一方で、自動車メーカーは、NHTSA に対する通知の中で、自らの製品の欠陥を認めることは、
製造物責任を公的に認めることにつながるため、企業が自らの見解を述べる権利が失われること、
「メーカー等が欠陥を否認しつつも安全を配慮してリコールは実施する」といった、NHTSA とメー
カー双方がある程度納得できる現実的な対応が失われ、紛争の長期化につながることなどを理由と
して、規則改正に対して激しく抵抗してきました。
結果として、今回 NHTSA が下した「自動車メーカーの NHTSA に対する通知において、欠陥が
あることを否認する旨記載することを禁止する規則改正」を取り下げる判断は、自動車メーカーの
主張を受け入れた形となり、NHTSA に対する通知の中では、自動車の安全性と欠陥との関係につい
て、自動車メーカーが自らの見解を主張することが今までどおり認められることになりました。
このことは、仮に NHTSA と自動車メーカーの欠陥の有無に関する見解が対立した場合において
も、リコールの実施については双方で合意した対応を見出す、従来型の手法が残されたことになり
ます。つまり、自動車にかかる製造物責任という非常に大きな問題に関し、自動車メーカーは、従
来どおりの対処方法を確保できたことを意味します。
1-4.おわりに
今まで述べてきたとおり、今回、NHTSA の意図した規制改正の実現は見送られ、自動車の安全
性と欠陥に関して、NHTSA に対し自動車メーカーが自らの見解を主張する裁量が残されることにな
りました。
しかしながら、今後、いつ、どのような規則改正が提案されるかは予測することはできません。
したがって、自動車メーカー、自動車部品・装置メーカーをはじめ、米国で生産活動・販売活動を
行うすべての企業は、自社の製品安全に関する体制を構築・強化すると同時に、リコール制度や製
品安全に関する規制の動向について常に情報収集に努めていく必要があります。
5
NHTSA のリコール番号:13V252 を参照。
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PL 情報 Update
2.トランス脂肪酸に関する規制と企業の対応
米国食品医薬品局6(以下、FDA)は、2013 年 11 月、トランス脂肪酸の含有量規制に乗り出す方
針を明らかにしました。トランス脂肪酸の含有量はこれまでも表示義務項目となっていましたが、
より厳しい規制を加える形となります。
FDA は、60 日間のパブリックコメント期間を設け、食品メーカーや団体等の意見を募った上で最
終的な決定を下すとしています。これが正式に決定されれば、加工食品への使用が規制されること
になります。
本稿では、このトランス脂肪酸について、国内および海外諸国の規制の状況や食品関連企業のリ
スクについて解説します。
2-1.トランス脂肪酸とは
トランス脂肪酸は、
「水素添加」という、常温で液体の植物油や魚油を半固体または個体に製造す
る加工技術により生成されます。結果として、水素添加によって製造されるマーガリン、ショート
ニングや、これらを原材料に使用したパン、クッキーなどの洋菓子、揚げ物等にトランス脂肪酸が
含まれています。
人はエネルギー源等として食品から油脂を摂取していますが、トランス脂肪酸については、過多
に摂取することによる健康への悪影響が注目されています。具体的には、トランス脂肪酸を摂取す
る量が多いと、悪玉コレステロールが増え、善玉コレステロールが減ることが報告されており、日
常的にトランス脂肪酸を多く取りすぎている場合は、摂取量が少ない場合と比較して心臓病のリス
クを高めることが示されています7。米国疾病対策センター8(CDC)は、トランス脂肪酸を規制する
ことで、年間 2 万人の心筋梗塞を防ぎ、心臓病による死者を 7 千人減らすことができると推定して
います。
なお、天然に存在しているトランス脂肪酸もあります。油脂の加工によりできるトランス脂肪酸
と天然のトランス脂肪酸で、健康に及ぼす影響に違いがあるかどうか、また、沢山の種類があるト
ランス脂肪酸の中でどのトランス脂肪酸が健康に悪影響を及ぼすのかについては、十分な知見がな
いのが現状です。
2-2.海外諸国の規制状況
世界保健機関(WHO)、国際連合食糧農業機関(FAO)による 2003 年のレポート9において、ト
ランス脂肪酸は心疾患のリスク増加と強い関係性が指摘されており、摂取量は全カロリーの 1%未満
とするよう勧告されています。
海外諸国における規制状況は以下のとおりです。デンマーク、スイスにおける規制を皮切りに、
トランス脂肪酸の表示義務や含有量の規制を行っている国があります。
6
7
8
9
Food and Drug Administration:米国の政府機関で、食品および薬品を中心として、化粧品やタバコ等、消費者が
接する機会の多い製品の認可・取締りを行う。
WHO Technical Report Series 916 “Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases”
Centers for Disease Control and Prevention:保健社会福祉省の下部機関
WHO Technical Report Series 916 “Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases”
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PL 情報 Update
含有量表示義務
国・都市
アメリカ
カナダ
中国
シンガポール
規制の概要
2006 年 1 月より、表示を義務化。
ただし、トランス脂肪酸の含有量を一人前(Serving size)あたりで表示するルール
となっており、トランス脂肪酸含有量が一人前あたり 0.5g 未満の場合には、栄養表
示に「0 g」と表示することができる。
2005 年 12 月より、表示を義務化。
食品 1 回使用量あたり 0.2g 以上含まれる場合に表示を義務化。栄養表示にトランス
脂肪酸含有量を「0g」
、製品に「トランス脂肪酸フリー」と表示できる条件は、一人
前(serving of state size)および参照量(reference amount)当たり(包装された
調理食品の場合には一食当たり)のトランス脂肪酸の含有量が 0.2 g 未満等の条件を
満たした場合とされている。
2013 年 1 月より、包装食品における表示を義務化。
・水素添加又は部分水素添加をしている油脂が使用されている食品については、ト
ランス脂肪酸の含有量を表示しなければならない。
・固体 100 g または液体 100 ml 中 0.3 g 以下の場合は、含有量を 0 g と表示するこ
とができ、トランス脂肪酸を含まない旨を表示できる。
2013 年 5 月より、表示を義務化。
販売を目的とした包装容器入り食用油脂の包装には、栄養成分表示(エネルギー、
たんぱく質、炭水化物、脂質、トランス脂肪酸、その他強調表示をする栄養素)を
しなければならない。
含有量規制
国・都市
ニューヨーク市
カリフォルニア州
デンマーク
スイス
オーストリア
シンガポール
10
規制の概要
2008 年 7 月より、使用量等を規制。
飲食サービスにおける一人前あたり 0.5g 以上のトランス脂肪を含む油脂の保管、使
用、提供を禁止。ただし、容器包装に入ったクラッカーやポテトチップス等、食品
製造事業者によって製造、包装された食品を提供する場合は、この規制の適用外。
2011 年 1 月より、飲食サービスにおける人工的なトランス脂肪酸を含むあらゆる食
品の販売や使用を禁止。
ただし、食品製造事業者によってあらかじめ包装された食品は除く。
2004 年 1 月より、含有量を規制。
消費者向けに販売・供給される食品(中食10や外食を含む)に含まれるトランス脂肪
酸は、最終製品に含まれる油脂 100 g あたり 2 g まで。
2008 年 4 月より、含有量を規制。
食用植物油脂 100 g あたりトランス脂肪酸の総量は 2 g まで。
2009 年 9 月より、含有量を規制。
人工的なトランス脂肪酸が 100g あたり 2g 以上の油脂の国内流通を禁止。
脂肪分が 20%未満の加工食品やファストフードについては、人工的なトランス脂肪
酸の最大許容含有量を全脂肪 100g あたり 4g とする。
2013 年 5 月より、含有量の規制。
包装容器入り食用油脂には、2%を超えるトランス脂肪酸を含んではならない。
惣菜や弁当等の調理済み食品を購入者が持ち帰って食すこと。
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7
PL 情報 Update
2-3.日本の規制状況
2012 年 2 月に、消費者庁は、「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針11」を公表しました。
トランス脂肪酸の定義、表示方法、強調表示、分析方法等について記載されており、主な内容は
以下のとおりです。以下の内容は、食品事業者に対して情報を自主的に開示する取組みを進めるよ
う要請したものであり、義務や罰則等はありません。
表示方法
名称(「トランス脂肪酸」)および含有量を表示する。表示にあたっては、栄養表示基準に定める
一般表示事項(熱量およびたんぱく質、脂質等)に加え、飽和脂肪酸およびコレステロールの含有
量をあわせて表示する。
強調表示(
「含まない」または「低減された」旨の表示をすること)の基準
・
「含まない旨」の表示:食品 100g あたりトランス脂肪酸含有量 0.3g 未満、かつ、食品 100g あ
たり飽和脂肪酸量 1.5g 未満または当該食品熱量のうち飽和脂肪酸由来の熱量が 10%未満であ
る場合
・「低減された旨」の表示:比較対照する食品名、低減量・割合を表示する
なお、農林水産省によると、日本人の平均的なトランス脂肪酸の一日あたり摂取量は、成人一人
あたり 0.92~0.96g(エネルギー摂取量に換算すると、一日当たり 1900kcal として、0.44~0.47%)
程度であり、米国の 5.8g、欧州の 1.2~6.7g(男性)、1.7~4.1g(女性)と比べて、かなり少ないと
されています。そのため農林水産省は、平均的に見れば日本人のトランス脂肪酸による健康リスク
は低いと推定しています。
2-4.日本国内における企業の対応状況
国内企業におけるトランス脂肪酸に関する主な対応状況は以下のとおりです。日本国内での規制
は行われていないためか、トランス脂肪酸に関する取組状況を公開している企業は多くはありませ
ん。一方、ファストフードや製パン業を中心に、使用削減の取り組みや含有量の表示を行っている
企業もあります。
対応状況
企業名
ケンタッキーフラ
イドチキン
ロッテリア
ダスキン
デニーズ
11
2006 年 11 月より、トランス脂肪酸の含有量を半減させた調理油に切り替
え。
トランス脂肪酸フリーの植物性油脂パーム油 100%を使用。
2007 年 12 月より、ミスタードーナツで使用する油を、トランス脂肪酸値
が大幅に低いものに変更。
使用する食材のトランス脂肪酸の含有量を可能な限り少なくするよう、付
け合わせをフレンチフライポテトから生野菜を多く使用したものに順次切
り替え。また、2007 年 1 月から、低トランス油脂への切り替えを進めてい
る。
消費者庁 http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin505.pdf
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PL 情報 Update
ハウス食品
2002 年よりトランス脂肪酸低減の実用化を開始。
山崎パン
約 10 年前より、トランス脂肪酸低減を実施。現在は 1/5~1/20 に低減。
敷島製パン
2006 年 2 月より、トランス脂肪酸含有量の少ない油脂に順次切り替え。ト
ランス脂肪酸含有量を表示。
セブンイレブン
2005 年より、フライ油、練り込み油脂、クリームの低トランス化を開始。
ホームページに、一例として代表的なパンのトランス脂肪酸含有量を掲載。
2-5.食品関連企業のリスク
米国では、トランス脂肪酸を原因として、ファストフード事業者が、健康問題の活動家らから訴
えられる事案が過去にありました。
2002 年 9 月、ファストフード事業者は、トランス脂肪酸による悪影響を減らすため、2003 年 2
月までに揚げ油を変更するという計画を公表しました。しかし、計画の遅れが発生していたにもか
かわらず、計画が遅れている事実を計画完了予定である 2003 年 2 月になって初めて公表しました。
この点について、活動家らは、消費者への告知が不十分であり、事実を隠ぺいし、消費者に損害を
与えたとしてファストフード事業者を訴えました。訴訟は和解で解決し、ファストフード事業者が
医療団体に約 850 万ドルを寄付することとなりました。
トランス脂肪酸は、健康への悪影響が懸念されていますが、懸念されている影響は慢性的な疾患
であり、その疾患は基本的な食生活等にも関係します。したがって、トランス脂肪酸を含む原材料・
食品の摂取と健康被害の因果関係を証明することは困難と考えられるため、たとえば、トランス脂
肪酸を大量に摂取し、疾患を患ったとしても、日本の訴訟において賠償責任が認められる可能性は
高くないと考えられます。
一方で、上記で紹介した訴訟事例のように、企業としての取組みの遅れや、発表した通りに計画
が進まなかった場合は、それにより消費者に損害を与えたとして訴訟に発展したり、企業価値やイ
メージの低下により損害が発生したとして、株主代表訴訟に発展する可能性も考えられます。
2-6.おわりに
現在、トランス脂肪酸を規制していない国においても、その含有量や表示について、規制が行わ
れる可能性があるため、食品輸出企業においては留意が必要です。日本国内においても、現状では、
企業の自主的な取組みを促すまでにとどまっていますが、今後、消費者の声の高まり等により、規
制が検討される可能性もあると考えられます。
また、今回はトランス脂肪酸について取り上げましたが、トランス脂肪酸以外にも健康への悪影
響が懸念されている物質12もあります。このような物質の規制動向についても、注視する必要がある
でしょう。
12
人に対して発がんの可能性があると考えられているアクリルアミドやクロロプロパノール等があげられる。
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PL 情報 Update
3.フランスおよび英国における消費者の権利の発展
EU 加盟国は、消費者の権利に関する指令(Directive 2011/83/EU13)の国内法化の準備を進めて
います14。本指令は、2011 年 10 月 10 日に採択された消費者・事業者間の契約に関する指令です。
EU 加盟国は、2013 年 12 月 13 日までに国内法化し、2014 年 6 月 13 日までに施行する必要があり
ます。
本稿では、本指令を国内法化する EU 加盟国の中で、より消費者の権利を強化する内容を含むフラ
ンスおよび英国の法案の特徴について紹介します。
3-1.消費者の権利に関する指令(Directive 2011/83/EU)について
本指令の目的は、事業者が EU 域内において物品の販売や役務を提供する場合に、その事業者の
所在地や取引手段にかかわらず、契約前の消費者に対して、価格および追加費用の情報を明示させ、
遅配、クーリングオフ期間、返品、返金、補償等に関する消費者の権利を強化することです。
本指令は、店舗での販売とインターネット等による遠隔地販売に関する契約について、事業者が
消費者に提供すべき情報(商品やサービスの内容、事業者名や住所、価格、配送料等)を規定して
います。特に、遠隔地販売については、提供すべき情報内容やその提供方法、消費者による商品・
サービス購入の取消し等について、より詳細な規定が設けられています。たとえば、新指令ではク
ーリングオフの期間が 14 日間に延長されました(Article9)。事業者が消費者にクーリングオフの権利
を伝えなかった場合は、1 年までクーリングオフが認められます(Article10)。また、クーリングオフ
が行われた場合、事業者は 14 日以内に消費者から受け取った料金(返送にかかった費用も含む)を
払い戻さなければなりません(Article13)。
遠隔地販売に関して消費者を保護する現行の指令(遠隔地契約指令:Directive 97/7/EC)および
営業所以外で交渉された売買契約に関して消費者を保護する現行の指令(訪問販売指令:Directive
85/577/EEC)が、2014 年 6 月 13 日に廃止され、本指令に代わります。
本指令の条項は、2014 年 6 月 14 日以降に締結された契約に適用されます。
3-2.フランス
フランスの消費者法(消費者法典:Code de la consommation)の改正案15は、2013 年 7 月 3 日
にフランス国民議会(下院)で採択され、9 月にフランス元老院(上院)で審議入りしました。
この法案では、クラス・アクション(集団訴訟)の仕組みが導入されることに最大の関心が集ま
っていますが、本稿では、製造事業者に影響を及ぼす可能性がある、他の変更点を 4 つ紹介します。
DGCCRF の局長から委嘱された職員の権限拡大
市場競争監視・取締り、消費者の経済的利益の保護、消費者安全(製品・食品・サービス)を所
管している、競争・消費者問題・不正行為防止総局16(Direction Générale de la Concurrence, de la
13
14
15
16
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2011:304:0064:0088:EN:PDF
欧州の法令の仕組みについては「PL 情報 Update Vol.16 基本シリーズ① 欧州法令」で解説しています。
http://www.senat.fr/leg/pjl12-725.html
http://www.economie.gouv.fr/dgccrf
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PL 情報 Update
Consommation et de la Répression des Fraudes , DGCCRF)の局長から委嘱された職員は、消費者保護に
関連した問題に対応できます。
DGCCRF の証拠収集権限が、製品の安全性モニタリングのために強化されます。たとえば、事業
所の調査時に、DGCCRF の職員は、企業の業務遂行に関連したすべての書類を入手することができ
ます。
また、DGCCRF は差し止め命令を出すこともできます。たとえば、DGCCRF の職員は、オンライ
ン販売を行う企業が製品の引渡義務を履行していない場合、製品の引渡しが確認されるまで支払い
金の受領を停止するように命令することができます。企業がこの命令に従わない場合には、最大で
15,000 ユーロ(約 210 万円17)の罰金が課されます。
製品の安全性を確保する行政措置の強化
関連する当局または機関(DGCCRF、通関当局、安全衛生検査官)の、輸入製品(特に食料品)
に対する監督権限と調査権限が強化されます。たとえば、それぞれの職員が匿名で製品(サンプル)
を入手し、開封することができるようになります。
また、知事18が製品の法適合性に関して確信を持てない場合および製品を販売している事業者が適
切な検査と管理を実施していることを証明できない場合、知事は第三者機関による検査の実施を当
該事業者に命じることができます。結果が判明するまで、当該製品の販売は認められなくなります。
製品が関連規則に違反している場合には、製品の販売停止を命令する権限が知事に付与されます。
適合性および保証(告知義務の新設)
製品の不適合を知った製造事業者は、その製品を販売した消費者だけでなく、製品の販売事業者
にも情報を提供することを義務付けています。
また、消費者が法で定められた保証期間の存在に気付かず、製造事業者が定めた保証期間を延長
するために費用を支払うことを防止する条項も含まれています。この点に関し、法案では、保証に
関する権利、法的保証期間(保証期間を 6 か月から 24 か月に延長)および隠れた瑕疵に関する権利
を、消費者に告知することを製造事業者に義務付けています。
刑事罰の厳格化
本法案では、詐欺、改ざん、誤解を招く取引、禁止されている取引およびマルチ商法等に対する
罰金が増額されています。
現在の罰金の最高額は、個人は 37,500 ユーロ(約 525 万円)、法人は 187,500 ユーロ(約 2,625
万円)ですが、本法案では、30 年ぶりに個人は 300,000 ユーロ(約 4,200 万円)、法人は 1,500,000
ユーロ(約 2 億 1,000 万円)に引き上げられています。
3-3.英国
2013 年 6 月 12 日、英国政府は、既存の消費者保護に関する法令を大幅に見直した、消費者権利
17
18
1 ユーロ = 140 円で計算
フランスの地方自治体の最高行政責任者(Houghton Mifflin Company が発行した The American Heritage®
Dictionary of the English Language(第 4 版)©2000 年の定義 )
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PL 情報 Update
法(Consumer Rights Bill)の草案を公表しました19。
企業と消費者の間で締結される契約を規制する法律は、現在、複数の法規(消費者契約における
不公正条項規則(Unfair Terms in Consumer Contracts Regulations)、動産売買法(Sale of Goods
Act)など)に分かれています。
本法案は、複数の商品とサービスの供給に関する法規を一つに統合することで、消費者保護に関
する法規の簡素化を目指しています。
117 頁に及ぶ本法案は三部構成になっており、主に以下の三つの内容が記載されています。
・商品、サービスおよびデジタルコンテンツの提供に関連した権利と被害救済手段
・不公正条項
・執行の権限
以下に、主な変更点を紹介します。
商品、サービスおよびデジタルコンテンツの提供に関連した権利と被害救済手段
商品について満たすべき基準は、現在の動産売買法(Sale of Goods Act)とほぼ同じです。たと
えば、商品の売買契約には、商品が満足のゆく品質であり、目的にかなっていて、商品が説明と一
致しているということを保証する条項が、黙示的に含まれているとみなされることに変わりはあり
ません。
本法案では、新たに瑕疵に対する救済手段が明示された法定保証を導入しています。たとえば、
消費者は全額返金と引き換えに 30 日以内に瑕疵のある商品を返品できます(これに対し、現行制度
では「合理的な期間(reasonable time)
」という曖昧な規定が採用されています)
。また、30 日を経
過したものの、6 か月以内に返品した場合、消費者には商品の修理もしくは交換を受ける権利が付与
されます。修理または交換によって瑕疵を是正できない場合、または別の瑕疵が発生した場合、消
費者は購入価格の引き下げか、または契約の解除により、購入代金の返金を受けることができます。
サービスに瑕疵があった場合、消費者には再度の履行を請求する権利、また合理的な期間内にサ
ービスの再履行が不可能であるか、もしくは再履行されない場合には、価格(料金)の引き下げを
請求する権利が付与されます。
不公正条項
本法案では、消費者との契約における書面のすべての条項は「明白」
(平易でわかりやすい言葉を
使う)で「目立つ」ものでなければならず、消費者を不利な立場に追い込むような条項によって、
消費者に不利益を与えてはならないと規定されています。
本法案には、不公正とみなされる可能性がある条項の例が掲載されています。
事業者が、契約に規定されている正当な理由なしに、一方的に契約の条件を変更することを
可能にする目的または効力を有する条項 (11 項)
契約が締結されたときに合意された価格と比較して最終価格が高い場合に、事業者が消費者
にその契約を取消す権利を与えることなく、商品、デジタルコンテンツまたはサービスの価
19
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/206367/bis-19-925-draft-consume
r-rights-bill.pdf
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PL 情報 Update
格を値上げすることを許可する目的または効力を有する条項。(15 項)
事業者が事業者側の義務を履行しない場合において、消費者側の義務のすべてを履行するこ
とを、消費者に義務付ける目的または効力を有する条項。(18 項)
執行の権限
本法案では、消費者権利法の違反が疑われる事案の対策を講じるため、消費者保護市場機構
(Consumer Protection and Markets Authority, CPMA)および取引基準局(Trading Standards
Services, TSS)などの規制当局の権限が大幅に強化されています。
強化された権限には、企業による不公正な契約の締結を防止する差止命令を申請する権限、消費
者の権利を侵害する行為に関与しないことを企業に要求する権限、強化された消費者保護対策(消
費者に対する補償、または消費者に契約解除権を付与することを含む)の遵守を企業に命じる権限
などがあります。
企業に及ぼす影響
新しい法案は、主に商品とサービスに関する消費者の権利を強化し、企業に影響を及ぼす民事上
の追加的な救済手段と公的機関による執行に関する条項を定めています。たとえば、修理または交
換を請求する権利によって、消費者からの苦情を処理する費用が増加するため、企業はコスト面で
影響を受けるおそれがあります。
3-4.おわりに
消費者の権利に関する指令の発効により、フランスと英国では、指令よりも広範なレベルで消費
者保護に関する法規制の見直しが行われています。フランスと英国だけでなく、各国で特有の法規
制ができた場合、企業の影響がさらに大きくなる可能性があります。
EU 域内で製品・サービスを提供している事業者は、各国における規制制度を確認しながら事業を
行わなければなりません。
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13
PL 情報 Update
4.医薬品製造物責任訴訟におけるドイツ薬事法解釈について
2013 年 3 月 26 日、ドイツ連邦最高裁判所は、医薬品の副作用をめぐる損害賠償請求訴訟におい
て、原告の訴えを退ける判決を下しました。
本判決では、ドイツ薬事法20における医薬品の製造物責任についての解釈を医薬品事業者にとって
有利な方向に修正する考え方が示されており、今後の法的判断に一定の影響を与える可能性があり
ます。本稿では、今回の訴訟の概要および影響と、本訴訟の根拠法である薬事法の規定について紹
介します。
4-1.本訴訟の概要
本訴訟の概要は、表4-1のとおりです。
表 4-1 本訴訟の概要
リウマチ症による慢性多発性関節炎の治療のため、2003 年から 2004 年
にかけて非ステロイド性消炎鎮痛剤(販売名 Vioxx21)を医師の処方の
原告(72 歳男性) もと服用。
2004 年 1 月 16 日朝、左半身のしびれを感じて病院を受診したところ、
脳卒中と診断された。入院加療を受けたが、退院後も後遺症が残った。
被告
Vioxx をドイツで供給する事業者
原告主張
脳卒中を発症した原因は、発症当時服用していた Vioxx にある。
原告請求の内容
・過去および将来にわたる損害(精神的損害を含む)と裁判費用の賠償
・原告主張を裏付けるための情報開示を請求
原告男性は、脳卒中を発症した原因は当時服用していた Vioxx にあるとして、Vioxx をドイツ国
内で販売していた事業者に対して損害賠償を請求する訴訟を起こしました。
しかし、一審22、二審23とも、原告が服用していた薬剤と原告が発症した脳卒中との因果関係は認
められないとして、原告の訴えを棄却しました。原告はこれを不服としてドイツ連邦最高裁判所に
上告しましたが、2013 年 3 月 26 日、最高裁は原告の訴えを棄却、一審・二審判決を支持する判決24
を下し、原告の敗訴が確定しました。
Arzneimittelgesetz 、通称 AMG。http://www.gesetze-im-internet.de/bundesrecht/amg_1976/gesamt.pdf
米国メルク社が製造・販売する COX-2 選択的阻害薬。1999 年に米国で承認を受け、以降世界 80 か国以上で使用さ
れていたが、長期使用による心血管リスクの増加が確認されたとして、2004 年 9 月 30 日に世界の市場から全面的
に自主撤収することを発表。日本では未承認。
22 コブレンツ地方裁判所 2011 年 2 月 16 日判決 10 O 340/07
23 コブレンツ控訴裁判所 2012 年 2 月 15 日判決 5 U 320/11
24 ドイツ連邦最高裁判所 2013 年 3 月 26 日判決 VI ZR 109/12
20
21
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4-2.ドイツ薬事法の概要
日本とは異なり、ドイツでは医薬品は製造物責任法25の対象となっておらず、医薬品による副作用
等によって消費者が受けた損害は、薬事法によって救済が図られています26。
ドイツ薬事法は、適切に使用された既承認医薬品によって消費者が損害を受けた場合は、その医
薬品が現在の医学的知見に照らして許容できる範囲を逸脱した悪影響を有すること、または損害が
使用上の注意等の製品表示によって生じたものであることを前提に、その医薬品を市場に流通させ
た医薬品事業者に損害賠償義務を課しています(第 84 条(1)27)。
因果関係の推定
日本をはじめとする多くの国で取り入れられている製造物責任の考え方では、製造物責任に基づ
く損害賠償を請求する場合、原告側が(a)欠陥の存在、
(b)損害の発生、
(c)欠陥と損害の因果関
係を立証しなければなりません。
これに対して、ドイツ薬事法では、上記(c)にあたる医薬品による副作用と損害の因果関係の立
証を原告側に求めていません。個々の事案の状況を考慮したうえで、被害者が服用した医薬品が、
被害者が主張する損害を引き起こし得る場合には、その損害はその医薬品によって引き起こされた
と推定されます(因果関係の推定・第 84 条(2)第 1 文)。その医薬品がその損害を引き起こし得る
かどうかは、医薬品の成分と服用量、服用方法と服用期間、損害発生との時間的関係、症状と服用
時の被害者の健康状態および当該医薬品以外のものと損害との因果関係を示す、あるいは否定する
その他の状況によって判断されます(第 84 条(2)第 2 文)
。
この因果関係の推定の規定により、立証責任は被告側に移り、被告側は抗弁として、原告が主張
する損害がその医薬品の開発・製造工程が原因で生じたものではないことを証明しなくてはなりま
せん(表1-2)
。ただし、この因果関係の推定は、個々の事案の状況に照らし、その他の事実が損害
の原因になり得る場合には適用されません(第 84 条(2)第 3 文)。
情報開示請求
医薬品によって生じた損害の賠償を求めようとする者は、その医薬品により損害が生じたとする
推定を正当化する事実が存在する場合は、医薬品事業者に対し、その医薬品の効果、副作用等に関
する情報の開示を求めることができます(第 84 条 a)
。ただし、それらの情報が第 84 条に基づき損
害賠償を請求する権利を立証するのに必要でない場合には、情報開示請求は認められません(第 84
条 a(1))
。
Produkthaftungsgesetz、通称 ProdHaftG。http://www.gesetze-im-internet.de/bundesrecht/prodhaftg/gesamt.pdf
医薬品は、主作用と副作用を併せ持ち、副作用の発現を完全に避けることができないという特性を持つことから、
製造物責任の扱いについては各国で判断が分かれている。
27 別紙ドイツ薬事法第 84 条、第 84 条 a 抜粋抄訳参照。以下同様。
25
26
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PL 情報 Update
4-3.本訴訟の争点
因果関係の推定
本訴訟ではまず、前項で述べた因果関係の推定が適用されるかが争点となりました。
<これまでの一般的な解釈>
これまでドイツでは、ある医薬品の使用によって損害が生じた可能性が、別の要因により損害が
生じた可能性よりも高い場合は、その医薬品と損害との間に因果関係があるとみなすという解釈が
。
一般的でした(蓋然性28の優越)
<本判決における解釈>
最高裁では、本判決において上記の解釈を否定しました。第 84 条(2)の第 1 文と第 3 文は、原
則と例外の関係にあり、医薬品が損害の原因になり得るとしても、同時にその他の事実が損害の原
因になり得る場合には、医薬品と損害との因果関係は推定されないと理解するべきで、損害を生じ
させた可能性の高さによって因果関係を推定すべきと解釈するのは間違いであるという考えを示し
たのです。
つまり、医薬品の使用によって損害が生じた可能性があるとしても、損害の原因となった可能性
がある別の要因の存在を被告側が立証できれば、薬事法第 84 条(2)に基づく因果関係の推定はな
されません。これは、その医薬品によって損害が生じた可能性が、別の要因によって生じた可能性
よりも高い場合でも当てはまるということになります。
ある損害
ある損害が
損害が、その他
その他の要因によって
要因によって生
によって生じた可能性
じた可能性よりも
可能性よりも、
よりも、医薬品によって
医薬品によって生
によって生じた可能性
じた可能性が
可能性が高い場合
損害
因果関係
因果関係?
関係?
医薬品
その他
その他の
要因
その他
その他の
要因
その他
その他の
要因
【これまでの考え方】
その他の要因によって損害が生じた可能性よりも、医薬品によって損害が生じた可能性が高い場合、
その医薬品によって損害が生じたとみなす。 ⇒ 因果関係を推定
【本判決の考え方】
それ単独
それ単独で
単独で損害を
損害を生じさせうる要因
じさせうる要因が
要因が存在する
存在する場合
する場合、医薬品
場合 医薬品によって
医薬品によって損害
によって損害が
損害が生じた可能性
じた可能性のほうが
可能性のほうが高
のほうが高
いとしても、
としても、医薬品と
医薬品と損害との
損害との因果関係
との因果関係は
因果関係は推定されない
推定されない。
されない。
28
ある事象が起こり得る確実性の度合い
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PL 情報 Update
本訴訟においては、原告がそもそも有していた健康上の要因が、損害(=脳卒中の発症)の原因
となり得たと判断されたため、医薬品との因果関係の推定は認められませんでした。
薬事法第 84 条 a(情報開示請求)の適用についての解釈
本訴訟では、薬事法第 84 条 a に基づき、被告が有する情報の開示請求がなされていましたが、最
高裁はこれも棄却しました。第 84 条 a は第 84 条(2)(因果関係の推定)と密接な関係を有してお
り、第 84 条(2)に基づいて因果関係が推定されず損害賠償請求が認められる可能性が低い場合は、
第 84 条 a に基づく情報開示請求も一切認められないと判断しました。
第 84 条 a に基づく情報開示請求に応じることは、被告である医薬品事業者側に多大な労力を強い
ることになります。このような労力を強制するためには、相応の必要性がなくてはならず、まして
や情報の収集を目的とした訴訟が存在してはなりません。そのような訴訟を排除するため、第 84 条
a は「ある医薬品により損害が生じたとする推定を正当化する事実が存在する場合」にのみ情報開示
を認めています。最高裁は本判決において、第 84 条 a に基づく情報開示請求が認められるのは、裁
判の結果、原告の損害賠償請求が認められる可能性が高い場合に限られるべきという考え方を初め
て示したのです。
4-4.おわりに
本判決において、最高裁が、薬事法第 84 条の因果関係の推定に関して、これまで多くの法的文献
で示されてきた考え方を修正した点は注目に値します。
薬事法第 84 条に基づく因果関係の推定が認められないからといって、必ずしも原告敗訴と決まる
わけではありません。しかし、第 84 条に基づく因果関係の推定は、因果関係を証明できる証拠を持
たない原告にとっての最後の手段でしょうから、原告の立場は苦しいものになると推測できます。
また、第 84 条 a により原告側に認められた情報開示請求の権利は、研究、臨床試験、製造工程等
の企業秘密へのアクセスを許すもので、医薬品事業者にとって大きな脅威です。本判決において、
第 84 条 a の適用要件が明確に示されたことは、医薬品事業者にとって大きなメリットと言えるでし
ょう。
ドイツは、日本と同様に制定法主義をとっており、本判決に今後の裁判に対する法的拘束力はあ
りませんが、一定の影響を与える可能性はあります29。今後、同様の判決が下されるかどうか、注目
されます。
29
文書の形で制定された成文法を最も重要な法源とする考え方で、裁判所の判例に法的拘束力はない。ただし、法の
解釈・運用を補完するものとして判例も重視される。
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PL 情報 Update
別紙ドイツ薬事法第 84 条、第 84 条 a 抜粋抄訳
第 84 条 無過失責任
(1) (略)医薬品を使用した結果、人が死亡、または身体または健康に重大な損害を負った場合、
その医薬品を市場に流通させた医薬品事業者は、被害者に対して損害を賠償する義務を負う。
賠償義務は以下の要件を満たす場合にのみ生じる。
1.
その医薬品が目的に従って使用され、現在の医学的知見に照らして許容できる範囲を逸脱
した悪影響を有する場合 または
2.
その損害が、現在の医学的知見に合致しない製品表示、専門的情報、あるいは使用上の注
意によって引き起こされた場合
(2) 個々の事案の
事案の状況に
状況に照らし、
らし、服用した
服用した医薬品
した医薬品が
医薬品が損害を
損害を引き起こし得
こし得る場合、
場合、その損害
その損害はその
損害はその医
はその医
薬品によって
薬品によって引
によって引き起こされたと推定
こされたと推定される
推定される。
される。個々の事案における可能性は、医薬品の成分と服
用量、服用方法と服用期間、損害発生との時間的関係、症状と服用時の被害者の健康状態、お
よび損害との因果関係を示すあるいは反対するその他の状況によって判断される。しかし
しかし、
しかし、こ
の推定は
推定は、個々の事案の
事案の状況に
状況に照らし、
らし、その他
その他の事実が
事実が損害の
損害の原因になり
原因になり得
になり得る場合には
場合には適用
には適用さ
適用さ
れない。
れない (略)
(3) 当該医薬品の有害作用が、その開発・製造工程によるものではない場合、医薬品事業者は、
(1)
の1. に従って損害を賠償する責任を免除される。
第 84 条 a 情報開示請求の権利
(1) ある医薬品により損害が生じたとする推定を正当化する事実が存在する場合、損害を受けた主
体は、医薬品事業者に対して情報開示を請求することができる。ただし、その情報が第 84 条に
基づく補償請求権を実証するのに必要ではない場合を除く。この権利は、医薬品事業者が知り
えた効用、副作用、相互作用、その存在が疑われる副作用と相互作用、その有害性を実証する
のに重要となり得るすべての情報に及ぶ。(略)
(ドイツ連邦保健省による英訳 http://hh.juris.de/englisch_amg/index.html を日本語に翻訳)
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5.中国消費者権利保護法の改正
消費者権利保護法(中华人民共和国消费者权益保护法、1994 年施行)は、製造物責任を含む広範
な消費者の権利保護を目的とした法律です。2013 年 10 月に改正法案が成立し、2014 年 3 月 15 日
に施行される予定です。
本改正では、消費者権利保護において大きな影響を及ぼすと想定される条項が複数追加されてお
り、中国国内で消費者向け製品・サービスを取り扱う事業者にとって、注目すべき内容となってい
ます。
5-1.消費者権利保護法の概要と適用範囲
現行の消費者権利保護法(以下、旧法)は、全 55 条からなっており、消費者の権利や事業者の義
務、消費者の権利に対する国の保護などを規定しています。消費者権利の保護について定めた最初
の法律であるだけでなく、事業者に対する懲罰的な賠償責任を規定した最初の法律でもあります。
また、本稿冒頭に記載のとおり、製造物責任に関する規定も含まれており、中国において消費者用
製品を製造、販売する事業者にとっては、非常に重要な法律です。
今回の改正の背景には、消費者意識の高まりや、インターネットを利用したオンライン取引の増
加に伴う消費環境の変化が挙げられます。
今回の改正では法の適用範囲については改正されていません。
「消費者が生活上で消費する必要の
ために商品を購入、使用しまたはサービスを受ける場合、その権益は本法が保護する」と規定され
ており30、製造物に限らず、サービスが適用範囲に含まれています。
5-2.改正のポイント
今回の改正では、各種の通信販売等におけるクーリングオフが初めて導入されたり31、事業者に対
する消費者の個人情報保護に関する義務が新たに盛り込まれる32など、消費者保護に関して重要な条
項が多数盛り込まれています。
今回の改正において、特にポイントとなる 3 点を以下に挙げます。
瑕疵に関する立証責任の転換
自動車・パソコン・テレビ・冷蔵庫等の耐久消費財について、また、部屋の内装などについて、
消費者が商品・サービスを受けた日から 6 か月以内に瑕疵が発見された場合、その瑕疵については
事業者が立証責任を負うことが新たに規定されました33。
通常、製品の瑕疵については、消費者が瑕疵の存在について立証するよう求められます。しかし、
この規定によって、耐久消費財や部屋の内装における瑕疵については、事業者側が「瑕疵がないこ
と」を立証することが求められ、立証できない場合は瑕疵に対する責任を負うことになります。
旧法・改正法第 2 条。旧法の訳は東京海上日動火災保険株式会社 「中国の製造物責任等をめぐる最新事情」 和訳:
森・濱田松本法律事務所。以下、本稿における旧法の条文の和訳は同書より引用。
31 改正法第 25 条 1 項
32 改正法第 29 条
33 改正法第 23 条 3 項
30
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PL 情報 Update
懲罰的損害賠償
旧法では事業者の詐欺行為による懲罰的賠償額を、消費者が購入した価格またはサービスを受け
た費用と同額としていました34。改正法では、この懲罰的損害賠償額を、消費者が購入した価格また
はサービスを受けた費用の 3 倍の金額(ただし、その金額が 500 人民元(約 8,500 円)に満たない
場合は 500 人民元)と規定しています。
また、事業者が、欠陥の存在を認識しながら製品、サービスを消費者に提供し、消費者またはそ
の他の被害者が死亡、または著しく健康を損なった場合には、被害者は、その受けた損害の 2 倍以
下の懲罰的賠償金を請求することができることとなりました35。これは、改正によって新たに追加さ
れた規定です。
中国では、権利侵害責任法36によって、事業者が製品の欠陥を認識しながら製品を製造・販売し、
その欠陥製品によって消費者が死亡または重度の健康被害等の損害を受けた場合には、被害者は、
懲罰的損害賠償金を請求することが認められています。権利侵害責任法では、懲罰的損害賠償の上
限が定められていませんが、消費者権利保護法で上限が定められることとなりました。
消費者協会37による公益訴訟
多くの消費者の権益を侵害する行為に対しては、改正法により、中国消費者協会および省級の消
費者協会が、複数の消費者の代理となって裁判所に提訴することが可能となりました38。消費者個人
の損害が小さい場合であっても、多数の消費者が損害を被っている場合などには、消費者協会が原
告の代わりに賠償請求を行うことなどが想定されています。
中国では、従来 2013 年 1 月 1 日に施行された改正民事訴訟法によって公益訴訟の制度が導入さ
れています。食品の安全や環境といった公益が害された場合に、法律で規定する指定機関および関
連団体が裁判所に、公益訴訟を提起することが可能です。消費者保護分野については、改正法によ
って、公益訴訟を提起できる団体が中国消費者協会および省級の消費者協会と定められました。39
具体的にどのようなプロセスで提訴されるのか、どのような問題が公益訴訟の対象となるかにつ
いては未定であるため、今後も動向を注視する必要があると言えます。
5-3.おわりに
今回の改正によって、中国で消費者保護がさらに強化されることは間違いありません。改正法の
施行にあたっては、新たな規定の具体的な手順を定める細則などが追加で策定されると想定されま
す。日本企業にとっても、留意すべき事項が多い改正となっていますので、今後の動向に注視すべ
きといえるでしょう。
旧法第 49 条
改正法第 55 条第 2 項
36 2009 年 12 月成立、翌年 7 月施行。不法行為に関する様々な法令および行政上の規制ならびに司法解釈の統一化を
図ることを目的として制定された法令。
37 消費者協会は、消費者の支援を目的として設立された社会団体であり、全国の消費者協会をとりまとめる中国消費
者協会は国家工商総局の直属機関となっている。省級(省・自治区・直轄市)はもちろんのこと、県級、郷級でも消
費者協会が設置されており、2012 年末時点で全国の県級以上に 3,270 の消費者協会が設置されている。各地域で行
政機関(工商局)と連携して活動しており、消費者関連分野では影響力が大きい。
38 改正法第 47 条
39 詳細は、PL 情報 Update2013 年 4 月号参照
34
35
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PL 情報 Update
6.医薬部外品の健康被害による回収
医薬部外品の健康被害による回収としては、加水分解小麦末含有石鹸によるアレルギー問題での
回収が記憶に新しいところです。加水分解小麦末含有石鹸によるアレルギー問題に関しては、現在
も各地で PL(製造物責任)訴訟が係争中です。独立行政法人国民生活センターのホームページによ
ると、39 件の訴訟が提起されています40。
本稿では、医薬部外品の回収の状況を紹介し、回収を要する事態が発生した場合に適切に対応す
るための組織体制と仕組みについて考察します。
6-1.医薬部外品とは
医薬部外品は、薬事法で分類されている 4 つの区分のうちの1つです41。
医薬品
病気の診断、予防、治療に用いられるもの。医療用医薬品(処方箋によ
る指示が必要なものとそれ以外)と一般の人が自らの判断で使用するこ
とができる一般用医薬品に分けられている。
医薬部外品
人体に対する作用が緩和なもので医療機器でないもの。厚生労働大臣
の指定するもの。育毛剤、染毛剤、薬用化粧品等の他、薬事法改正に
よりそれまで医薬品に分類されていたビタミン剤や尿素クリーム等が新
たに加わった。
化粧品
人体に対する作用が緩和なもので、皮膚、髪、爪の手入れや保護、着
色、賦香を目的として用いられるもの。
医療機器
病気の診断、予防、治療に用いられる機械機器。 MRI やペースメーカ
ーからメスやピンセット、コンタクトレンズなど幅ひろい製品があり、リスク
により分類されている。
たとえば、石鹸は、化粧品に分類されるものと、医薬部外品に分類されるものとがあります。化
粧品に分類される石鹸は、人の身体を清潔にし、皮膚を健やかに保つものですが、医薬部外品に分
類される石鹸には、このほかにたとえば、体臭を防ぐ、あせもを防ぐなど薬用効果を期待できる有
効成分が配合されているという違いがあります。
6-2.医薬部外品の回収状況
独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページ「医薬品等の回収に関する情報 2011 年度
~2013 年度42」に、過去 3 年分の医薬品、医薬部外品、化粧品および医療機器に関する回収情報の
一覧が掲載されています。
「医薬品等の回収に関する情報 2011 年度~2013 年度」より、東京海上日動リスクコンサルテ
40
41
42
http://www.kokusen.go.jp/pl_l/ 2014 年 1 月 15 日現在
日本化粧品工業連合会ホームページ http://www.jcia.org/n/pub/info/b/02-2/
http://www.info.pmda.go.jp/kaisyuu/menu.html
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ィング(株)にて「医薬部外品」の回収事例を抽出して、回収理由別に分類した結果を図 1 に示し
ます。
「医薬部外品」の回収 46 件のうち、健康被害のおそれによる回収は全体の 22%であり、表示ミ
ス(37%)や承認申請関連(9%)による回収など、健康被害のおそれ以外の理由による回収が医薬
部外品の回収の大部分を占めることがわかります。
容器包装
不良
異物混入 3件
3件
品質不良
4件
表示ミス
17件
46件
承認申請
関連
9件
健康被害
のおそれ
10件
図 6-1 医薬部外品の回収理由別件数
次に、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「医薬品等の回収に関する情報 2011 年度~2013
年度43」の医薬部外品の回収事例を、回収のクラス別に分類した結果を図 2 に示します。
医薬品等の回収は、回収される製品によりもたらされる健康への危険性の程度により、3 つに区
分されています44。
クラス I その製品の使用等が、重篤な健康被害または死亡の原因となり得る状況をいう。
その製品の使用等が、一時的なもしくは医学的に治癒可能な健康被害の原因となる可能性があるかまたは重篤な健
クラス II
康被害のおそれはまず考えられない状況をいう。
クラス III その製品の使用等が、健康被害の原因となるとはまず考えられない状況をいう。
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44
http://www.info.pmda.go.jp/kaisyuu/menu.html
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構ホームページ http://www.info.pmda.go.jp/kaisyuu/menu.html
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クラスⅠ
2件
クラスⅢ
10件
46件
クラスⅡ
34件
図 6-2 医薬部外品の回収のクラス分類別件数
回収の多くがクラスⅡ「その製品の使用等が、一時的なもしくは医学的に治療可能な健康被害の
原因となる可能性があるかまたは重篤な健康被害のおそれはまず考えられない状況」で実施されて
いることがわかります。
クラスⅠ「その製品の使用等が、重篤な健康被害または死亡の原因となり得る状況」で回収され
た事例が 2 件ありますが、このクラスⅠに分類された 2 件は、いずれも加水分解小麦末含有石鹸に
かかる回収です。
6-3.医薬部外品の健康被害拡大を防止するための組織体制と仕組みづくり
医薬部外品の健康被害拡大を防止するためには、自主回収の報道機関への発表、購入者への回収
案内はがき配布等の事後的な対応を迅速に行うことの他に、たとえ医薬部外品製造販売業者が想定
していないリスクであったとしても、異常事態の発生をいかに早期に把握できるかもポイントとな
ります。医薬部外品の製造販売業者には、より早く異常事態の発生を把握し、被害拡大防止のため
に回収を開始する等の対応ができるような体制の構築が望まれます。
そのために、医薬部外品の製造販売事業者は、以下のような組織、仕組みを整える必要がありま
す。
ユーザーや、販売店等から寄せられるクレーム情報が一元集約される部署がある。
異常と判断する具体的基準がある(例:今までにないクレームが発生したら異常)。
異常が発見された際に、迅速に対策を行う、また、ときには経営判断を下せる仕組みがある(例:
異常が発生したらリスク管理委員会を緊急招集して、自主回収を検討・実施する)。
上記の組織、仕組みは、消費生活用製品45を製造・販売している事業者に求められているものと共
45
消費生活用製品安全法第 2 条第1項「主として一般消費者の生活の用に供される製品(別表に掲げるものを除く。
)」
と定義される製品。薬事法により規定される医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、道路運送車両法に規定される
道路運送車両等をのぞく製品。
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通します。
経済産業省の「製品安全に関する事業者ハンドブック」等が上記仕組み構築の参考となります。
これらを参考として、社内組織、仕組みを整えるとよいでしょう。
6-4.おわりに
「6-4 医薬部外品の回収状況」で見たように、医薬部外品の回収は、クラスⅡで行われることが多
いですが、ときにはクラスⅠの回収が発生することがあります。
医薬部外品は、薬用効果を期待できる有効成分を含むという特徴から、健康被害が発生した場合
には、重篤な症状が現れる可能性があります。多数の健康被害を出さないためのポイントは、前述
のとおり、想定していないリスクも含め、いかに異常事態の発生を早期に把握できるかであり、食
品製造販売業者、化成品製造販売業者などの医薬部外品製造販売業者以外にも共通するものです。
本稿を参考に、自社の組織体制・仕組みを見直してみてはいかがでしょうか。
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