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★平成 18 年度 研究成果
サブプロジェクト I
サブプロジェクト I では、各担当者が 17 年度の成果をさらに発展させるこ
とにより、本年度の研究目標をほぼ達成することができたと考えられる。すな
わち、南雲は遺伝子発現プロファイルから扁平上皮癌の悪性転化マーカー候補
を見出した。また、上條はフリーラジカル種による歯随細胞の分化制御を発見
した。破骨細胞に関しては、佐々木が OPG 投与が骨吸収抑制に有効であるこ
とを示し、山田は細胞内オステオポンティンが破骨細胞分化と機能発現に関与
することを明らかにした。中村はメッケル軟骨消失において軟骨細胞の脱分化
とマクロファージの侵入が起ることを発見した。井上は吸啜様リズム誘発に関
与する神経回路の日齢変化を見出した。五十嵐は sortase に関して分子生物学的
解析を進めるとともに、いくつかの食品にバイオフィルム形成抑制効果を見出
した。
I-1: 加齢による顎口腔疾患発症機序に関する分子細胞生物学的研究
口腔白板症は加齢に伴って発症率が上昇する前癌病変である。本年度は、ヒ
ト口腔白板症と扁平上皮癌において特異的に発現変化している遺伝子を同定す
るため、遺伝子発現プロファイルを網羅的に解析した。全ての白板症組織にお
いて発現増強していた遺伝子は8 個で、発現増強の程度が特に大きかったのは
loricrin であった。また発現が減弱していた遺伝子は10 個で、発現減弱の程度
が特に大きかったのはIL-1RN であった。 白板症の悪性化に関与する遺伝子を
同定するため、白板症から発症した舌癌も同様に解析した。白板症と扁平上皮
癌の両方で増強されていたのはPTPRZ-1 のみであった。また、いくつかの遺伝
子の発現は扁平上皮癌でさらに減弱していた。 以上より、上記の遺伝子は白
板症の発症機序に関与し、また白板症の悪性転化を予測する臨床分子マーカー
として有用である可能性が示唆された。
I-2: 代謝性骨疾患に伴う顎口腔機能障害発症機序の分子・細胞生物学的研究
オステオプロテゲリン遺伝子欠損(OPG(-/-)) マウスの表現型には、骨端軟
骨の破壊や重篤な骨量の減少がある。本研究は OPG(-/-) マウスを用いて、長管
骨の骨端軟骨および骨梁に存在する破骨細胞の分化と微細構造を明らかにする
ことを試みた。走査型および透過型電子顕微鏡を用いた解析の結果から、
OPG(-/-) マウスにおいて破骨細胞は軟骨もしくは骨基質に依存して、その構造
が異なることが示唆された。また、OPG(-/-) マウスに対するリコンビナント
OPG の全身的投与により、海綿骨梁骨の減少が有意に抑制され、かつ海綿骨梁
の構造が維持されたが、破骨細胞数は減少していなかった。これらの結果から、
代謝性骨疾患において、OPG 投与は破骨細胞による骨吸収を抑制することによ
って正常な海綿骨梁の構造と骨梁骨の体積を維持する効果的な手段であること
が示唆された。
I-3: フリーラジカルによる顎口腔機能障害発症機序解明とその制御による新た
な治療法の開発
前年度の軟骨細胞を主対象とした研究を発展させ、他の硬組織構成細胞の分
化や機能調節におけるラジカル種の関わりについて解析を行った。 まず、歯
の表面への機械的刺激は歯髄細胞で誘導型 NO 合成酵素(iNOS) の発現を誘
導したことから、培養歯髄細胞を NO で刺激したところ、増殖の抑制と石灰化
の促進が認められた。さらに、エナメル芽細胞培養系およびマウス臼歯器官培
養系において炭酸脱水酵素-II が細胞内 pH を変化させ、JNK を介してエナメ
ル芽細胞の分化を調節することを見出した。また、野生型マウス由来の破骨細
胞前駆細胞から破骨細胞への分化過程で、グアニンを含む分子のニトロ化代謝
物が生じていることが明らかになった。
I-4: 顎口腔機能障害発症に関わる中枢神経機序
平成 17 年度に確立した吸啜様リズム誘発方法のさらなる安定化のために、
用いる動物を生後 0 から 1 日齢の ICR マウスに変更し実験を行った。その結
果、a2 受容体阻害薬の投与を行わなくても三叉神経感覚根の電気刺激のみでリ
ズム誘発が可能であり、このリズミカルな神経活動によって下顎がリズミカル
に動くことが確認された。したがって、本実験モデルはリズミカルな顎運動を
制御する神経回路の解析に使用可能と考えられた。さらに、三叉神経上核(SupV)
と三叉神経運動核(MoV) の間の局所神経回路の発育様態を、光学的電位測定
法とパッチクランプ法を適用しラットを用いて検索した。その結果、新生ラッ
トでは SupV から MoV へグルタミン酸性、グリシン性および GABA 性の興
奮性出力を送るのに対して、7 日齢以降の動物では、グリシン性および GABA
性のシナプス伝達が抑制性に変化することが明らかとなった。
I-5: 骨吸収メカニズムの解明とそれに基づいた創薬の試み
Osteologic discTM 上に正常マウスより得た破骨細胞前駆細胞を播種し、
RANKL 、M-CSF 共存下で 2 日間培養すると破骨細胞によるミネラル吸収像
が観察されたが、オステオポンティン欠損マウス(OPN-/-) 由来前駆細胞では
吸収活性が顕著に低下していた。骨吸収促進因子である LPS 、PTH 、PGE2 存
在下で培養した頭蓋冠では活性化された破骨細胞により多数の吸収窩が形成さ
れたが、破骨細胞の sealing zone にはアクチン、オステオポンティン、b3 integrin
が共局在していた。一方、OPN-/- マウス由来頭蓋冠では吸収窩の大きさと深さ
が顕著に減少し sealing zone の形成はほとんど認められなかった。前年度の結
果も含め、骨吸収促進因子存在下では破骨細胞形成から骨吸収に至る複数の段
階において細胞内オステオポンティンが極めて重要な役割を果たしていること
が示された。
I-6: 組織障害・再生に関与する遊走系細胞の解析
組織構造変化および遊走系細胞の解析を目的に、マウスメッケル軟骨消失過
程を組織学的、免疫組織学的、また組織培養を用いて解析を行った。その結果、
基質内のムコ多糖減少が起こっていること、および軟骨細胞による積極的な基
質の改変が起きていることが示唆された。さらに、軟骨細胞の線維芽細胞への
脱分化が明らかになったことに加え、胎生14 日と17 日の間に軟骨細胞の脱分
化を誘導する因子の存在が示唆された。MOMA-2 によるマクロファージの挙
動を解析したところ、胎生 16 日以降、メッケル軟骨膜内へのマクロファージ
の侵入が認められた。
I-7: 口腔バイオフィルム感染症発症機序の解明と予防および診断に関する研究
平成 18 年度は、前年度の齲蝕細菌(S. mutans) による齲蝕誘発性バイオフ
ィルムの形成機構の解析を継続するとともに、歯周病原性バイオフィルムの形
成機構についても歯周病原性細菌の Sortase(SrtA) と Prolipoprotein
Diacylglyceryl Transferase(Lgt) について解析を行った。また、それらの形成抑
制法についても検討を加えた。 齲蝕誘発性バイオフィルムの形成機構の解析
の結果として、1) S. mutans の Sortase 支配下にある表層蛋白質はショ糖非依存
性付着のみならずショ糖依存性付着においても重要な役割を果たしていること、
2) 二次元ゲル電気泳動法を用いて S. mutans の Lgt 欠損株では少なくとも 25
個以上のリポ蛋白質が培養上清中に遊離すること、3) 分離されたリポ蛋白質の1
つである MsmE について、細胞膜局在性が Lgt によって触媒されていること、
4) MsmE が multiple sugar metabolism 系(S. mutansの糖取り込み系の1 つ) の
糖結合蛋白質として melibiose の取り込みに関与していること、5) その作用の
発揮には Lgt による MsmE の細胞膜結合と共に、Lsp( リポ蛋白質シグナル
ルポプチダーゼ) によるシグナルペプチドの切断が必須であることが明らかと
なった。 歯周病原性バイオフィルムの形成機構について解析を行ったところ、
齲蝕細菌とは異なり歯周病原性細菌は Sortase を持たないことが明らかになっ
た。Lgt について研究を進めたところ、歯周病原性細菌の Lgt 欠損株は生存不
可能(Lgt の欠損は致死的) であることが明らかになった。 また、機能性食
品のバイオフィルム形成への影響に関する研究では、マスティック樹液(Mastic
Gum) と桑の実ジュース(Mulberry Juice) を用いてその効果を調べ、マステ
ィック樹液ならびに桑の実ジュースの機能の一つとして、歯周病原性バイオフ
ィルム抑制の可能性が示唆された。
サブプロジェクト II
それぞれ、前年度の成果をさらに発展させるとともに、新しい試みからの発
見も認められた。宮崎は無機生体活性型ナノコロイドの作製に成功している。
川和はブラキシズムの歯周組織への影響に加え歯の変位方向への影響を明らか
にした。岡野はプローブ接触面に関する問題を解決し、顎関節症患者の検査方
法としての超音波検査の有用性を示した。佐藤は患者口腔内の総合的口腔内状
態に関する基礎データを口腔内シュミレーションモデルの開発につなげている。
木村はレーザーを用いて種々の根管貼薬剤に特有の性状を見出し、さらに感染
根管治療中の患者において測定値と臨床症状の相関を見出した。伊藤は試作し
た齲蝕象牙質染色液が正常および齲蝕象牙質の染め分けに有用であることを示
した。入江はレーザーマイクロダイセクションで回収した少数の標的細胞から
ウェスタンブロットを行う方法を開発し、粘膜上皮の分化に関与する分子を発
見した。小林はヒト歯根膜細胞中のSP 細胞が種々の中胚葉系前駆細胞に富む細
胞集団であることを見出した。
II-1: ナノテクによる分子レベル制御の高機能生体適合型組織再建材料の開発
従来のゲル材料や組織再生足場材料とは構造が全く異なり、賦形成を有する
だけでなくナノスケールで化学的に架橋される革新的な生体高分子・ナノコロ
イド複合型の組織再建材料を試作した。無機生体活性型ナノコロイドの作製は
これまで技術的に困難であったが、電解液中で放電を印加することで、高アル
カリのリン酸カルシウムナノコロイドの作成に成功した。このうちb 型三リン
酸カルシウムナノコロイドとの合体は組織再生の足場であると同時に、臨床現
場での各種生理活性物質添加が容易であることから、これらの担体としての有
用性が高い。また反応性の高いナノ微粒子は、リン酸カルシウムの生体反応解
明のモデルとして利用価値がある。
II-2: 顎口腔機能回復を目指したオーラルディスキネジア・ブラキシズム制御
法の開発
平成 17 年度に続き、ブラキシズムが歯根膜の判別閾に及ぼす影響について
被験者を追加し検討した結果、28 名の被験者においてブラキシズム群の判別閾
は 17.9±3.6mm 、コントロール群の判別閾は 31.7±5.1mm であり、コントロー
ル群が有意に大きな値となった。 さらに、これらの被験者のうち 10 名に対
し、ブラキシズムが歯の変位に及ぼす影響について検討した。それぞれの被験
者に対し、上顎第一大臼歯の最大咬みしめ時の歯の変位を二次元微少変位計を
用いて記録した。咬みしめ時の歯の変位方向は、全ての被験者が口蓋側歯根方
向へ回転成分の強い変位を示し、ブラキシズムの有無による明らかな差はなか
った。一方、最大咬みしめ時の変位量は、コントロール群が、70.6〜164.8mm、
ブラキシズム群が、135.1〜193.1mm で、ブラキシズム群の変位量が大きくなる
傾向がみられた。
II-3: 最新の三次元超音波診断法を応用した顎口腔機能障害の新たな診断基準
確立
嚥下動態に関する超音波検査では、被写体とプローブとの接触面間に空気層
が存在してはならず、より効果的な検査の実施のために、引き続きプローブ形
態に関する検討を継続した。顎関節部の検査に関しては、従来の超音波ゼリー
を用いることで空気層が生じない十分な効果があることがわかった。そこで、
ボランティアおよび顎関節症患者で顎関節の動態、特に関節円板と関節包の状
態について検討した。 その結果、感度が軸位断と冠状断とで感度がやや異な
っており、さらなる検討が必要と考えられた。臨床症状と関節包の厚さの関連
を検討した結果では、自発痛および運動痛の有無と関節包前方厚さおよび外側
厚さに、それぞれ有意な差がみられた。つまり、関節包の厚さは、単に円板転
位のために変化するだけでなく、病態との関連が示唆された。これらより、顎
関節疾患の検査法として超音波検査は有用と考えられた。さらに多くの被験者
について、また円板転位の判定基準についても、さらなる検討が必要であると
考えられた。
II-4: 老化による顎口腔機能障害の新しい診断法の開発
前年度に行った患者の実態調査をもとに、患者の口腔内の形状や粘膜の物性
の評価手法を確立する研究を行った。歯列・粘膜の形状については、レーザー
三次元形状測定装置およびマイクロCT による模型の計測と、口腔内三次元超音
波診断装置による粘膜厚さの測定を統合して行った。また、粘膜の物性につい
ては、当教室で開発した口腔内粘弾性測定プローブを用いた。歯の動揺度につ
いては、コンピュータ制御動揺度測定装置を使用した。以上のデータを統合し
て、患者個々の口腔内をシミュレートするオーダーメイドバイオメカニクス口
腔モデルの設計・開発を進めた。
II-5: レーザーを応用した新規齲蝕診断法の確立
根管貼薬剤の根管内への影響を調べるため、各種の根管貼薬剤をペーパーポ
イントに滲み込ませ、経時的な変化を DIAGNOdent® で測定した。次に、臨床
にて感染根管治療中に淡黄色膿汁と透明浸出液を採取し、これらの経時的な変
化を DIAGNOdent® で測定した。その結果、根管貼薬剤にはそれぞれ固有の D
値があり、経時的に増加するものや減少するものがあったが、D 値で 1-5 の範
囲であった。淡黄色膿汁のほうが透明浸出液より D 値が高く、淡黄色膿汁と透
明浸出液の D 値は経時的に緩やかに上昇した。感染根管治療中の患者において
は、臨床症状と D 値には有意な相関関係が認められたが、簡易細菌培養試験結
果と D 値には相関関係はなかった。レーザーを用いて根管内の状態を診断する
場合には、使用した根管貼薬剤の影響を考慮する必要があることを示唆してい
る。臨床症状と D 値で有意な相関関係が認められたことより、レーザーを応用
し D 値を測定することは臨床的に有用であることが示唆された。
II-6: 先進的齲蝕検知と欠損歯質の再構築に関する研究
これまでの多くの研究から、プロピレングリコールを赤色に着色した従来の
齲蝕検知液を指標に象牙質をすべて削除すると、削りすぎになる可能性が警告
された。そこで、我々はプロピレングリコールの約 4 倍の分子量をもつポリプ
ロピレングリコールを用いた新規検知液を作成し、象牙質に対する染色性を検
討した。その結果、新規検知液は、硬化象牙質を染色することなく、的確な歯
質内浸透性を示すことが明らかになった。このことは、レーザーを用いた蛍光
測定でも確認され、再石灰化可能な象牙質を的確に残存すことが可能となった。
II-7: 口腔癌による機能障害の機序解明と新たな診断・治療法の構築
レーザーマイクロダイセクション法により回収した少量の標的細胞からウエ
スタンブロット解析を行うことにより、組織切片上微小細胞での蛋白質発現を
解析する新しい手法を開発した。この手法を用いて口腔粘膜上皮及び口腔扁平
上皮癌における RAD21 蛋白の発現を検索した。INFa の浸潤様式を示す癌は比
較的高分化型の癌が多いことから、正常上皮、過角化症、異型上皮より基底層、
棘細胞層下層、棘細胞層を越えた上層の細胞を回収し、ウエスタンブロット解
析を行ったところ、過角化症、異型上皮の上層部において 80 kD の分解産物が
検出された。この結果より、RAD21 蛋白の 80 kD の分解産物が粘膜上皮の分
化と関連する可能性が示唆されたため、口腔癌培養細胞株において口腔粘膜上
皮分化との関連が報告されているカルパインについて検討した。5-
AZACYTIDINE による分化誘導と ALLN によるカルパインの阻害を行ったと
ころ、分化誘導によって 80 kD の分解産物は増強され、カルパインの阻害でコ
ントロールレベルまで低下していた。これらの結果より、RAD21 蛋白の 80 kD
の分解産物は、口腔粘膜上皮の分化と関連し、その分解にはカルパインが関与
していることが明らかとなった。
II-8: 間葉系幹細胞を用いた歯周組織再生療法の確立
近年、組織構成細胞のフローサイトメトリー解析結果において認められる
Side Population(SP) 細胞分画には、多臓器に分化可能な最も未熟な組織幹細
胞( 間葉系幹細胞) が存在する可能性があることが示された。そこで平成 18
年度は、「培養ヒト歯根膜細胞 (HPDLC) 中における SP 細胞の存在確認と、
この SP 細胞に特徴的なフェノタイプの検討」を行った。その結果、①HPDLC 中
に SP 細胞は平均 0.02% 存在していた。②gene expression profile 解析の結果か
ら、CD73 (SH3/SH4 antigen) の遺伝子発現は SP 細胞以外の細胞集団である
main population (MP) 細胞と比較してSP 細胞で高く、一方、type Ⅰ 、type Ⅲ
collagen 、PLAP-1 、periostin 、decorin などの歯根膜組織で特徴的な細胞外基
質の遺伝子発現は MP 細胞で高かった。③SP 細胞は MP 細胞と比較して細胞
増殖能と骨・脂肪への分化能が高く、また SP 細胞のみ血管内皮細胞
(CD31/VE-cadhelin 陽性細胞) へ分化した。したがって、培養ヒト歯根膜細胞
中には SP 細胞が存在し、種々の中胚葉系前駆細胞に富む細胞集団であること
が明らかになった。
サブプロジェクト III
三次元造形システムにより機能遂行器官( 口狭部) は乳歯列期から永久歯
列期まで有意な成長変化がないことを明らかにした。固体別三次元有限要素解
析 (3D-FEM) の開発を行い下顎骨体の大きさを体積により評価する方法を確立
した。四次元 MRI では嚥下時の食道の開閉運動を画像化するのにはじめて成功
した。NIRS では種々の嚥下運動時の Oxy Hb 、Deoxy Hb の分析から大脳皮質
の活動と嚥下動態との関連性を明らかにした。
III-1: 3D CAD/CAM を応用した摂食・嚥下器官の総合的形態・機能解析と診
断・治療支援ソフトの開発
平成 17 年度に確立した歯顎顔面X 線コーンビーム装置(CB MercuRay®)
データをもとに 3D 画像ならびに模型の構築方法を用い、歯科矯正治療を目的
に来院した Hellman の Dental Age ⅡC~ⅣA 期に相当する男児、女児それぞ
れ5 名、各期合計 50 名を対象として総合的な形態・機能の評価を行った。口
狭部を中心に三次元造形システムを用いて画像ならびに模型の立体構築と解析
を行い、口狭部の断面積の計測を行った。 その結果、高さは Hellman の
Dental Age に関連性はなかったが、幅は相関する傾向が認められた。口狭部の
断面積は、男児では幅に関して Dental Age との相関する傾向が見られたが、
女児では傾向が見られなかった。また口蓋垂に関しては高さや幅に年齢・性別
による変化が見られなかった。計測が安静時であること、BMI 等によって咽頭
の容積は変化する事から機能時の形態変化についての詳細は不明であるが、静
的に口狭部の大きさは、少なくとも乳歯列から混合歯列後期までは変化があま
りないことが明らかになった。
III-2: 歯科用高度画像診断装置を用いた咀嚼・嚥下障害の診断と力学解析を用
いた治療計画の立案
平成 18 年度は、CT データを用いた個体別三次元有限要素解析法を開発し、
咀嚼筋牽引と咬合状態の変化による力学エネルギーの変動を調査、力学環境の
変化を定量的に解析する方法を確立すること、および前年度からの継続課題で
ある体積増加量とセファロ分析との関係を評価することを目的とした。まず、
CBCT データを用いた下顎骨の総体積、皮質骨体積、海綿骨体積の評価と自動
分割による個体別三次元有限要素解析 (3D-FEM) の開発を行うとともに、三次
元的に下顎骨の大きさを評価した。その結果、各体積計測項目に対する各セフ
ァロ分析項目の相関では、すべての組み合わせにおいて、きわめて低いr2 値が
示された。以上より、下顎骨の大きさを体積により評価する方法が確立された。
従来のセファロ分析による下顎骨の大きさの評価では、体積や厚さなどの評価
が不可能なために、従来「低成長」「成長抑制」などと評価されていたものが、
全く異なる骨の形態や形態変化として把握される可能性がある。 今後は、標
本数の増加により成長発育段階別の標準的な体積値を得ることにより、顎骨の
成長の評価や成長予測に有効な手法になるものと考えている。
III-3: ヒューマノイド型ロボットによる摂食・嚥下障害のメカニズムの解明
四次元 MRI を用いた観察では、嚥下中の声門の閉鎖運動を下方( 気管) か
らの水平断像として観察することができるため、声門閉鎖運動や開放運動と舌
運動や鼻咽腔閉鎖運動、さらには食道腔の開閉運動などの同時解析を正確に行
うことが可能となった。得られた結果を解析したところ、検査食注入後まもな
く他の器官にさきがけ声帯の内転が開始し、594 msec 後には声帯は完全に閉鎖
していた。声門閉鎖持続時間は 594 msec であった。また嚥下の食道期に声帯
の外転が始まるときには、鼻咽腔および喉頭は開放されていた。さらに今回、
嚥下時の食道腔の開閉運動を初めて画像化することに成功した。また、検査液
2ml 嚥下時の食道開放の持続時間は 198 msec と著しく短いことが判明した。
III-4: 摂食・嚥下障害と高次脳機能との関連の解明
平成 18 年度は、近赤外線分光法(NIRS) を用いて、喉頭閉鎖施行時、喉頭
挙上施行時、自由嚥下施行時、昭大式嚥下法施行時の大脳皮質の活動部位を比
較検討した。頭頂から左右側頭部にかけて合計 48ch の NIRS プローブを設置
し、喉頭閉鎖施行時、喉頭挙上施行時、昭大式嚥下法施行時、自由嚥下にて連
続水嚥下、昭大式嚥下法にて連続水嚥下時について大脳皮質の活動部位および
脳血流変化量を計測し、加算平均法により検討した。 以下のような結果が得
られた。1) 喉頭閉鎖施行時: 全チャンネルの Oxy Hb が大きく減少し、左右
前頭回領域において Deoxy 増加した。2) 喉頭挙上施行時: 左右の運動野・
感覚野において Oxy Hb が増加した。また、左右前 Hb が頭回領域の Oxy Hb
が減少し、Deoxy Hb が増加した。3) 昭大式嚥下法施行時: 左右の運動野・
感覚野において Oxy Hb が喉頭挙上施行時より増加した。また、左右前頭回領
域において Oxy Hb が喉頭挙上時より程度は少ないものの減少し、Deoxy Hb は
喉頭挙上施行時より増加した。4) 自由連続水嚥下時: 左右の運動野・感覚野
において Oxy Hb が大きく増加した。5) 昭大式嚥下法にて連続水嚥下時: 左
右の運動野・感覚野において自由連続水嚥下時より程度は少ないものの Oxy Hb
が増加した。
明された。
これらの結果から、嚥下運動と高次脳機能との関連の一端が解
Fly UP