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2013年 - 理工学術院総合研究所

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2013年 - 理工学術院総合研究所
ASTE Vol.A21 (2013) : Annual Report of RISE, Waseda Univ.
医療福祉ロボット実用化研究(2013 年度研究成果報告)
研究代表者 藤江 正克
(理工学術院総合研究所・教授)
1
研究課題
近年,低侵襲医療と介護・福祉の促進に伴い,種々のロボットにて医療支援と福祉支援をする取
り組みが盛んである.藤江正克研究室では,医療支援と福祉支援のロボット技術は共通の基盤技術
から形成されるという理念の下,様々な医療支援ロボット・福祉支援ロボットの技術開発に取り組
んでいる.本研究室の実用化プロジェクトとして,「本態性振戦抑制ロボット」の開発があり,本
年度の研究成果を次節より報告する.本項では,「本態性振戦」の社会背景,特徴,及び課題点を
下記に述べる.
日常動作を行う際に上肢を主として体の一部が振動してしまう本態性振戦という疾患がある.日
本人のおよそ 2.5 ~ 10%が本態性振戦の症状を有するとされるほど有病率の高い疾患であるが,
「本態性」という名称が示す通り,病態機序は明らかにされていない.動作をする際や姿勢を維持
する際にふるえを生じるため,日常動作の遂行に支障を来たすことから,ふるえを抑制することが
求められる.そこで本研究室では,本態性振戦疾患者のふるえを低侵襲に抑制可能とする装着型ロ
ボットの開発を進めている.
2
主な研究成果(研究業績[5]の公開済み論文より抜粋)
2.1
装着型ロボット使用時の代償運動を低減する肘・前腕連動機構の開発
本態性振戦抑制ロボットは上肢に装着することにより,機械的拘束を与え,装着者のふるえを抑
制する(Fig. 1).ロボット装着後,装着者の表面筋電位より随意意図動作のみを抽出し,一定速度
で追従を行う.本ロボットの支援対象は,日常動作の中でもふるえによる障害が大きい,食事動作
である.本ロボットは人間の上肢の 7 自由度のうち,肘の 1 自由度をアクチュエータにより支援し,
前腕 1 自由度と手間接の 2 自由度を拘束するゆえ,装着者が自由に動かすことができる上肢の自由
度は,肩の 3 自由度と肘の 1 自由度のみとなる.ここで,前腕 1 自由度の拘束は,肩の代償運動の
原因となり得ると報告されている.拘束された前腕の回内,回外動作はそれぞれの肩の外転,内点
動作で代償される(Fig. 2).そこで,肩の代償運動低減を目的として,肘屈伸動作と前腕回旋動作
をパッシブに連動させる機構(Fig. 3)を開発することで,アクチュエータを追加することなく肘
と前腕の食事動作に沿って稼働させることを可能としてきた.これにより,装着者の動作負担の低
減を確認している.しかし,本機構は肘と前腕の 1 パターンの動作のみを再現するものであり,食
器の位置を固定した条件の元に設計製作がなされたものである.そこで,本研究にて,1 か所の食
器位置での使用目的に開発された肘・前腕連動装具が,食器位置が変化することによってどのよう
に代償運動低減効果が変動するかを明らかにすることを目的し,研究を行った.
ASTE Vol.A21 (2013) : Annual Report of RISE, Waseda Univ.
Fig. 1 本態性振戦抑制ロボット
2.2
Fig. 2 前腕拘束時の肩の代償運動
Fig. 3 肘・前腕連動機構
各食器位置における代償運動低減率測定実験
2.2.1
実験目的
食器位置を変化させた際の,肘の屈伸と前腕の回旋を連動させることの効果を検証する.
2.2.2
実験方法
被験者は若年健常者 3 名で,深さ 4 センチ程度の食器から箸を口元まで運ぶタスクを測定する.
食器位置を変化させる際,まず,上肢の可動域に近い座標系として,Fig. 5 のような肩関節を中心
とした極座標を設定した.そして,肘・前腕連動装具設計時に想定した食器位置(Fig. 5)から左
右に 10[deg]刻み,手前に 10[cm]刻みで計 15 箇所の測定位置を設けた.これらの位置において,
箸を用いた運搬動作を行った結果を解析し,器の位置の違いによる代償運動低減率を算出する.
ここで本実験の代償運動の定義を,装具を使用することによる肘関節座標の移動した距離の増加
量と定義し,肘の 3 次元座標は磁気式 3 次元位置計測 FASTRAK®(POLHEMUS 製)を用いて測定
した.
Fig. 4 実験時の様子
Fig. 6 代償運動低減率[%]
マップ(被験者 A)
Fig. 5 食器位置の図解
Fig. 7 代償運動低減率[%]
マップ(被験者 B)
Fig. 8 代償運動低減率[%]
マップ(被験者 C)
ASTE Vol.A21 (2013) : Annual Report of RISE, Waseda Univ.
Fig. 9 設計位置での
肘・前腕連動関係
2.2.3
Fig. 10 設計位置 10[cm]手前
位置の肘・前腕連動関係
Fig. 11 設計位置 20[cm]手前
位置の肘・前腕連動関係
実験結果・考察
各食器位置における肘・前腕連動装具による代償運動低減率をマッピングした(Fig. 6 ~ Fig. 8).
いずれの被験者においても,設計位置およびその付近では高い代償運動低減率を示していることが
確認された.したがって,本装具は設計位置付近においては肩の代償運動低減に有効であり,装着
者の動作負担を低減することが可能であることが言える.一方で,食器位置が設計位置より肩側に
近い位置において,代償運動低減率が著しく低下する現象がいずれの被験者でも確認された.すな
わち,肘・前腕連動機構の持つ代償運動低減効果が弱まり,代償運動が残ってしまっていることが
分かる.
また,食器位置の変動によりと肘・前腕連動関係が変動した.Fig. 9 ~ Fig. 11 に設計位置・設計
位置から肩側に 10[cm]の位置・設計位置から肩側に 20[cm]の位置の 3 箇所における,肘・前腕連
動関係を示す.食器位置が肩側に近づくにつれ,グラフの傾きが大きくなっていくことが確認でき
る.本肘・前腕連動装具において,肘・前腕連動関係のグラフの傾きは,肘部と前腕部を繋ぐレー
ルの傾きによって決定する.したがって,食器位置を変化させた場合でも,適切なレールの傾きを
設定することで,これまで設計位置で発揮していた代償運動低減率と同等の結果が得られるものと
考えられる.
3
共同研究者
【本研究成果に該当する共同研究者】
小林 洋(理工学術院総合研究所・主任研究員)
関 雅俊(理工学術院総合研究所・客員次席研究員)
張 博(理工学術院総合研究所・客員次席研究員)
安藤 健(理工学術院総合研究所・客員次席研究員)
【上記以外で医療福祉ロボット実用化プロジェクトに参画している共同研究者】
菅野 重樹(理工学術院・教授)
高西 淳夫(理工学術院・教授)
山川 宏(理工学術院・教授)
宮下 朋之(理工学術院・教授)
岩田 浩康(理工学術院・准教授)
星 雄陽(理工学術院総合研究所・客員次席研究員)
4
4.1
研究業績
原著論文
[1] Yuya Matsumoto, Masatoshi Seki, Takeshi Ando, Yo Kobayashi, Yasutaka Nalashima,
ASTE Vol.A21 (2013) : Annual Report of RISE, Waseda Univ.
Hiroshi Iijima, Masanori Nagaoka, Masakatsu G. Fujie, “Development of an Exoskeleton to
Support Eating Movement in Patients with Essential Tremor”, Journal of Robotic and
Mechatronics (JRM), Vol. 25, No. 6, pp. 949-958, 2013
4.2
国内学会
[2] 松本 侑也, 關 雅俊, 安藤 健, 小林 洋, 中島 康貴, 飯島 浩, 長岡 正範, 藤江 正克, “本態性振
戦患者の食事動作を支援する肘装着型ロボットの装着による振戦抑制効果の検証”, 日本機械学会
ロボティクス・メカトロニクス講演会 2013, 1P1-E02, 2013 年 5 月, ポスター発表, 査読なし
[3] 松本侑也, 陳瑋煒, 雨宮元之, 金石大佑, 中島康貴, 關雅俊, 安藤健, 小林洋, 飯島浩, 長岡正範,
藤江正克, “ふるえを抑制する装着型ロボットのフレーム形状の工学的検討”, LIFE2013 生活生命
支援医療福祉工学系学会連合大会, GS3-1-1, 2013 年 9 月, 口頭発表, 査読なし
[4] 金石大佑, 松本侑也, 雨宮元之, 中島康貴, 關雅俊, 安藤健, 小林洋, 飯島浩 長岡正範, 藤江正
克, “加速度と姿勢情報を用いた本態性振戦患者の患部特定手法の構築”, LIFE2013 生活生命支援
医療福祉工学系学会連合大会, GS3-4-7, 2013 年 9 月, 口頭発表, 査読なし
[5] 雨宮元之, 金石大佑, 松本侑也,中島康貴, 關雅俊, 小林洋, 飯島浩 長岡正範, 藤江正克, “装着型ロ
ボット使用時の代償運動を低減する肘・前腕連動機構の開発
~食器位置と代償運動低減効果の関
係検証~”, 第 31 回日本ロボット学会学術講演会, RSJ2013AC3C3-02, 2013 年 9 月, 口頭発表,査
読なし
[6] 金石大佑, 松本侑也, 雨宮元之, 中島康貴, 關雅俊, 安藤健, 小林洋, 飯島浩 長岡正範, 藤江正
克, “振戦の加速度と上肢の姿勢計測に基づく本態性振戦患者の患部特定手法の構築”, 第 23 回 ラ
イフサポート学会フロンティア講演会, 1A3-3, 2014 年 2 月, 口頭発表,査読なし
4.3
受賞
[7] 金石 大佑, ライフサポート学会奨励賞, “振戦の加速度と上肢の姿勢計測に基づく本態性振戦患
者の患部特定手法の構築”, ライフサポート学会, 2014 年 2 月
[8] 松本 侑也, 若手優秀講演フェロー賞, “本態性振戦患者の食事動作を支援する肘装着型ロボット
の装着による振戦抑制効果の検証”, 日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス部門, 2014 年 2 月
受賞内定済み(2014 年 5 月受賞予定)
4.4
招待講演
[9] 小林 洋, “"医療福祉ロボットの最新動向と機械工学の貢献", 若手研究者が目指す医工学テクノ
ロジー - 異分野間の最新動向の紹介 -”, 日本機械学会年次大会 2013, 2013 年 9 月 10 日, 岡山県,
岡山市
[10] 藤江 正克, “特別講演「超高齢社会に働く早稲田のロボット」”, 上海交通大学, 2013 年 10 月
14 日, 中国, 上海
[11] 藤江 正克, “医療・福祉現場で必要とされるロボット技術の開発”, 平成25年度
国際医療福
祉大学技術情報交流会, 2013 年 2 月 13 日, 栃木, 那須塩原
[12] 藤江 正克, “卓越した大学院拠点形成事業 成果報告”, 卓越した大学院拠点形成活動報告,
2013 年 2 月 13 日, 栃木, 那須塩原
[13] 小林 洋, “医療福祉ロボットの実用化に向けた取り組み”, 早稲田大学グローバル COE プログ
ラムグローバルロボットアカデミア成果報告会, 2012 年 7 月 14 日, 東京都,早稲田大学
ASTE Vol.A21 (2013) : Annual Report of RISE, Waseda Univ.
5
研究活動の課題と展望
本研究の成果として,肘・前腕の連動により肩の代償運動を低減する装具に関して,食器の位置
が変化した際の代償運動低減効果の変動について報告した.本研究では食器の位置を本来想定され
ている位置から変化させ,各位置での代償運動低減率を計測した.計測の結果,課題として,肩側
に近い位置において代償運動低減率が小さくなる現象が見られた.これは肘・前腕連動関係のグラ
フの傾きが変化していることが原因であるため,レールの傾きを適切な値に変更することで,これ
までと同等の代償運動低減効果が得られることが予想される.今後は,食器位置によってレールの
傾きを適切に変化させる機構を持った装具の開発を目指す.
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