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系統安定化対策コストを考慮した 日本における太陽光発電コスト見通し

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系統安定化対策コストを考慮した 日本における太陽光発電コスト見通し
(財)電力中央研究所社会経済研究所ディスカッションペーパー(SERC Discussion Paper):
SERC11027
系統安定化対策コストを考慮した
日本における太陽光発電コスト見通し
野中譲*
* 電源開発(株) 審議役(地球環境に関する事項担当)
朝野賢司**
**(財) 電力中央研究所社会経済研究所
主任研究員
要約:
太陽光発電の導入量に関する最新の想定に基づき、学習曲線を用いて将来の太陽光発電
コストを試算したところ、2020年代に20円/kWh を切る可能性はあるが、系統安定化対策コ
ストを加えると、2030年までに30円/kWh 前後に留まることがわかった。
これは、国内の導入速度を速めると、2020年代に発電コストの低下速度が僅かに速くな
るものの、導入量の増加に伴い系統安定化対策コストも急増するため、2030年までの発電
コストは2020年代に比べてむしろ高くなるためである。
国内の導入支援政策が学習効果を通じて「発電モジュール」価格の低下に与える影響は
小さく、「その他システム(いわゆる BOS、バランス・オブ・システム)」に与える影響が
重要だが、導入支援政策による学習効果では2030年までに正味の社会的便益を生み出す可
能性は少ない。
太陽光発電に系統電源との真の競争力を持たせるためには、「発電モジュール」だけで
なく、太陽光発電追加にともなう系統全体の限界コストを大幅に引き下げるような技術革
新が同時に必要と考えられる。
免責事項
本ディスカッションペーパー中,意見にかかる部分は筆者のものであり,
(財)電力中央研究所又はその他機関の見解を示すものではない。
Disclaimer
The views expressed in this paper are solely those of the author(s), and do not necessarily
reflect the views of CRIEPI or other organizations.
**
Corresponding author. [e-mail:[email protected]]
■この論文は、http://criepi.denken.or.jp/jp/serc/discussion/index.html
からダウンロードできます。
Copyright 2011 CRIEPI. All rights reserved.
目次
緒言 --------------------------------------------------------------------------------------- 2
1.
2.
3.
4.
5.
学習曲線の想定 ------------------------------------------------------------------ 3
1.1.
学習曲線の形状 ------------------------------------------------------------------------- 3
1.2.
「発電モジュール」のパラメータ設定 ------------------------------------------ 3
1.3.
「その他システム(BOS)」のパラメータ設定 ---------------------------------- 5
太陽光発電の導入量の想定 --------------------------------------------------- 7
2.1.
「発電モジュール」 ------------------------------------------------------------------- 7
2.2.
「その他システム(BOS)」 ----------------------------------------------------------- 9
2.3.
世界と日本の導入シナリオの比較------------------------------------------------ 10
太陽光発電コスト ------------------------------------------------------------- 11
3.1.
発電システム設置コスト ------------------------------------------------------------ 11
3.2.
発電コスト ------------------------------------------------------------------------------ 12
3.3.
系統安定化対策コスト --------------------------------------------------------------- 13
国内導入量に関するケース・スタディ ---------------------------------- 15
4.1.
太陽光発電+系統安定化対策コスト ---------------------------------------------- 15
4.2.
「発電モジュール」の価格--------------------------------------------------------- 16
4.3.
「その他システム(BOS)」の価格------------------------------------------------- 16
感度分析 ------------------------------------------------------------------------- 17
5.1.
耐用年数 --------------------------------------------------------------------------------- 17
5.2.
設備利用率 ------------------------------------------------------------------------------ 18
5.3.
「その他システム(BOS)」の進歩率---------------------------------------------- 19
結言 ------------------------------------------------------------------------------------- 20
参考文献 ------------------------------------------------------------------------------- 22
-1-
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緒言
現在、太陽光発電のコストは電気料金と比べてみてもかなり高価である。しかし、2009
年末に導入された住宅用太陽光発電の余剰電力買取制度や、来年7月から実施される再生可
能エネルギーの全量固定価格買取制度など、導入支援政策によって太陽光発電の普及が進
めば、学習効果によって発電コストは大幅に低下すると期待されている。では、このよう
な導入支援政策をいつまで続ければ、太陽光発電コストは系統電源と競合できる水準にま
で下がってくるのだろうか。そもそも、国内の導入支援政策が学習効果を通じて発電コス
ト低下に及ぼす効果はどの程度のものなのだろうか。
学習効果による太陽光発電コストの低下について試算した最近の研究には、カリフォル
ニアの Benthem 等(2007)、ドイツの Wand 等(2010)、および朝野(2010)によるもの
がある。いずれも学習曲線を用いて、将来の太陽光発電システム(「発電モジュール」+
「その他システム(いわゆる BOS: Balance of Systems)」)価格を推定し、発電コストを試算
している。しかし、Benthem 等と Wand 等の研究はカリフォルニアとドイツの市場を対象
とした評価であるため、日本にそのまま適用することはできない。また、欧州における強
力な太陽光発電の導入支援政策を背景として、最近の世界における太陽光発電の拡大ペー
スはすさまじく、彼らの想定を大きく上回るペースで導入が進んでいるから、学習曲線に
よるコスト低下の推定についても彼らの試算は見直される必要がある。一方、朝野の研究
は、学習曲線の設定において、「その他システム」価格の説明変数を国内における太陽光
発電システムの累積導入量とする点では Benthem 等や Wand 等と共通しているが、「発電
モジュール」価格の説明変数を日本メーカの累積生産量としている点で、世界における累
積導入量を説明変数とする Benthem 等や Wand 等と違いがある。
本ペーパは、世界と日本における将来の太陽光発電の導入量に関する最新の想定に基づ
き、学習曲線を用いて将来の日本における太陽光発電コストを試算したものである。学習
曲線の設定は、Benthem 等や Wand 等と同様、「発電モジュール」価格の説明変数を世界
の累積導入量とし、「その他システム(BOS)」価格の説明変数を国内における累積導入量
とした。これによって、最近の世界における急速な太陽光発電の拡大および国内の導入支
援政策が、世界商品である「発電モジュール」の価格に与える影響を適切に評価すること
ができ、また国内の導入支援政策が「その他システム(BOS)」価格に与える効果について
も適切に評価できたと考えられる。
-2-
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1. 学習曲線の想定
1.1.
学習曲線の形状
Benthem 等(2007)、Wand 等(2010)、朝野(2010)に倣って、太陽光発電システムの
各構成要素(「発電モジュール」、「その他システム(BOS)」)について次のような学習
曲線を想定する:
P = αQ-β(1)
ただし、
P:価格
α:係数
Q:累積導入量
β:学習係数
進歩率 = 2-β (2)
1.2.
「発電モジュール」のパラメータ設定
「発電モジュール」の価格については、Benthem 等および Wand 等に倣い、世界市場の
価格を世界の累積導入量で説明する学習曲線によることとした。進歩率は、Benthem 等が
文献でしばしば用いられているのは0.8としていること1、Wand 等が文献調査を踏まえて0.8
を用いていること、Q.CELLS なども0.8を用いていることから0.8とした2。学習係数(β)
は、進歩率(0.8)を式(2)に代入して求めた。係数(α)は、Swanson(2006)が、シリ
コン価格高騰前の2002年のモジュール価格(P)を$3.1/W(2002年価格)としていること
から、これ(米国の GDP デフレータを用いて2010年価格に換算)を2002年の世界の累積
導入量(Q)の実績値(2261MW)と共に式(1)に代入して求めた。「発電モジュール」
の価格を円建てに換算するための為替レートは80円/ドルとした。
以上の設定によって推計した学習曲線を、国内生産者の出荷統計3による実績推定価格4、
およびドイツ銀行(2011)による世界のトップ生産者5の生産コストの推定価格と比較する
1
Benthem 等自身は保守的に0.9を用いている。
2
資エネ庁の「再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム」による「再生可能エネルギーの全量買取
制度による費用試算について」平成22年3月3日でも0.8が用いられている。
3
出荷額は METI 機械統計(太陽電池セル、太陽電池モジュール)、出荷量(太陽電池・セル・モジュールの国内出荷、
輸出の合計)は太陽光発電協会統計を用いた。
4
kW 単位のモジュール単独の出荷量を入手できないので、セルとモジュールとの価格比をドイツ銀行(2011)によって
推定し、セル価格に同比を乗じてセル出荷量に対応するモジュール出荷額を想定し、モジュール(単独の)出荷額を
加えたものを、セル・モジュール出荷量で除すことによってモジュール価格を推定した。
5
垂直統合型生産者(Trina Solar や Yingli Solar など)およびポリシリコン、ウェーハ、およびセル生産者のコストと価
格データに基づく総合的推定
-3-
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と図1のとおりである。図1は、世界市場におけるトップ生産者の実勢価格が、太陽電池の
原材料であるシリコン価格の高騰によって2008年まで高止まりしていたが、中国等でのシ
リコン設備急増による大幅な供給超過の発生、そしてリーマンショックを機に暴落に転じ、
最近は学習曲線による推計レベル近くにまで低下してきていることを説明している。よっ
て、学習曲線の設定に用いたパラメータは妥当なものであると考えられる。
図1 学習曲線、国内生産者出荷推定実績価格および
トップ生産者の発電モジュール推定価格の比較
40
35
30
円/kWh
25
国内出荷推定実績
ドイツ銀行推定
学習曲線
20
15
10
5
0
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
年
注:日米の GDP デフレータを用いて2010年価格表示(以下同様)
しかし、本ペーパが目的とする発電コストの推計を行うためには、メーカの出荷価格を
推計するだけでは充分でなく、実際に発電を行う者が太陽光発電システムを設置する際の
コストを推定する必要がある。そこで、資源総合(2008, 2011)による住宅用太陽光発電シ
ステム価格(屋根置3kW 標準工事のケース)から発電モジュールの価格を抜き出して上述
の学習曲線と併記したものが図2である。
図2 発電モジュールの学習曲線と標準的設置価格
50
45
40
万円/kW
35
30
学習曲線(出荷)
設置価格実績
学習曲線(設置)
25
20
15
10
5
0
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
年
設置価格と学習曲線(出荷価格)との比率をとってみると、2002年の1.5倍程度から2010
年には3倍程度にまで拡大し、国内の設置価格は高止まりしていることがわかる。そこで、
本ペーパでは2002年におけるスプレッドの比率を適切な流通マージンの比率であると仮定
-4-
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し、この比率を学習曲線(出荷価格)に乗じて、設置価格のシナリオ作成に用いる学習曲
線とすることにした。この学習曲線(設置価格)は、進歩率は学習曲線(出荷価格)と同
じ(0.8)であるが、2002年の価格推計値が国内設置価格実績(43.9万円/kW2010 年度価格)と
同値になるようにαを変更したものである(図1参照)。
1.3.
「その他システム(BOS)」のパラメータ設定
「その他システム(BOS)」の価格については、Benthem 等、Wand 等および朝野ともに国
内(or 州内)の価格を国内(or 州内)の累積導入量で説明する学習曲線によっているので、
これに倣った。進歩率については、朝野が「その他システム(BOS)」を「インバータ」
「その他機器」「工事費」の3つの構成要素に分解して、それぞれの習熟率(1 - 進歩率)
を表1のように推計している。
表1 「その他システム(BOS)」の習熟率の推計
インバー
その他機
工事費
タ
器
全計測結果6
25%
20%
12%
直近年計測結
20%
16%
11%
果
7
出典:朝野(2010)
一方、資源総合(2008, 2011)から、これら構成要素の1997-2010の価格データが得られ
る(図3)。
図3 住宅用太陽光発電「その他システム(BOS)価格」(屋根置3kW)のトレンド
45
40
35
万円/kW
30
25
標準工事費
その他機器
20
インバータ
15
10
5
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
年
出典:資源総合(2008, 2011)により作成
6
1993-2008年の間で10年以上の計測期間について習熟率の計測を行った全28ケースの中央値
7
1993-2008年の間で2008年を含む10年以上の計測期間について習熟率の計測を行った全7ケースの中央値
-5-
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このデータを GDP デフレータによって2010年価格に換算し、対数線形の回帰分析によ
って、各構成要素の学習曲線を求めると図4のとおりである。
図4 「その他システム(BOS)」構成要素の学習曲線の推定
2.8
2.6
y = -0.0613x + 2.565
2.4
インバータ
その他機器
標準工事費
線形 (標準工事費)
線形 (インバータ)
線形 (その他機器)
lnP
2.2
2
1.8
y = -0.1922x + 3.0066
1.6
1.4
y = -0.1335x + 2.2584
1.2
1
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
lnQ
注:P は価格(万円/kW)、Q は累積導入量(万 kW)
回帰分析の結果から習熟率を求めると、「インバータ」が12.5%、「その他機器」が
8.8%、標準工事費が4.2%程度であり、朝野の推計よりかなり小さい。しかし、朝野の計測
結果からも時間の経過とともに習熟率が低下する傾向が見て取れるから、本ペーパの試算
には回帰分析で求めた学習曲線をそのまま用いることにした(表2)。
表2 本ペーパで用いる「その他システム(BOS)」構成要素の学習曲線のパラメータ
インバー
その他機
工事費
タ
器
α
60.6
28.7
39.0
β
0.192
0.134
0.061
習熟率
12.5%
8.8%
4.2%
進歩率
0.875
0.912
0.958
2009年の国内導入実績は82.6%が住宅用であり、新エネルギー部会資料8による2020年の
導入シナリオでも70%が住宅用とされていることから、簡単のため以下の試算では新規導
入量の全てが住宅用であると仮定した。
8
第14回買取制度小委員会資料2 p.5
-6-
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2. 太陽光発電の導入量の想定
2.1.
「発電モジュール」
図5は世界および日本における2000年代の太陽光発電の累積導入量の推移を示したもので
ある。世界の累積導入量は欧州における普及促進政策の効果を反映して加速的に増加して
きている。一方、日本の累積導入量は2005年で国の住宅用太陽光発電補助が一旦打ち切ら
れたこともあって増加率を落としたが、2009年の住宅用補助の再開および余剰電力買取制
度の導入などによって、再び増加率を増している。
図5 太陽光発電の累積導入量と増加率
45000
80%
40000
70%
60%
30000
50%
25000
40%
20000
30%
15000
増加率(%/年)
累積導入量(MW)
35000
導入量(世界)
導入量(日本)
増加率(世界)
増加率(日本)
20%
10000
10%
5000
0
0%
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
年
出典(データ):EPIA(2011b)、JPEA(2011)9
学習曲線を用いて「発電モジュール」の将来の価格を推計するためには、世界における
「発電モジュール」の将来の累積導入量を想定する必要がある。しかし、Benthem 等
(2007)は2030年までの世界の太陽光発電の累積設置数の増加率を10%/年、Wand 等
(2010)は15%/年と仮定しており、2000年代の実績増加率39%(2000-2010)と比べてかな
り保守的な想定をしているように思われる。
そこで本ペーパでは、将来の世界の累積設置量に関する最新の想定である IEA(2010a)
および European Photovoltaic Industry Association(EPIA, 2011a)によるシナリオ(図6)10を
用いて「発電モジュール」の将来の価格推計を行うことにした。なお、参考までに、これ
まで公表されている世界の将来導入シナリオについて、表3にまとめている(表3)(EPIA,
2008)(IEA, 2008)(IEA, 2009)(IEA, 2010b)。
9
日本の導入量は国内向電力用太陽電池年間出荷量の1981年からの累積値
10
IEA(2010a)および EPIA(2011a)の将来シナリオは5年または10年おきなどの離散的数値で与えられているため、間の年
は一定比率で増加するものとして補間した。
-7-
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図6 世界の太陽光発電の累積導入量シナリオ
10000
GW
1000
実績
IEA現政策
IEA新政策
IEA450
EPIA加速
EPIAシフト
100
10
20
00
20
02
20
04
20
06
20
08
20
10
20
12
20
14
20
16
20
18
20
20
20
22
20
24
20
26
20
28
20
30
1
年
表3 EPIA と IEA による太陽光発電導入シナリオ(累積導入量、単位 GW)
単位:GW
2010年実績
EPIA(2008)Advanced S.
EPIA(2008)Moderate S.
WEO2009Blue Map
WEO2009Ref. S.
39.5
ETP2008Blue Map
ETP2008Act Map
ETP2008Baseline
IEA PV Road Map
EPIA(2011)Ref.シナリオ
EPIA(2011)加速シナリオ
EPIA(2011)パラダイムシナリオ
39.5
IEA(2010)新政策シナリオ
IEA(2010)現行政策シナリオ
IEA(2010)450シナリオ
2010年
25.4
21.6
27
30.2
34.9
36.6
2020年
278
211
210
102
210
76.9
345.2
737.2
74
101
138
2030年
1864
912
530
244
>150
<150
<60
872
155.8
1081.1
1844.9
145
206
485
2040年
2050年
1150
600
2019
268.9
2013.4
3255.9
3155
377.3
2988.1
4699.1
出所:各シナリオをもとに筆者まとめ
ここで、IEA(2010a)の現行政策シナリオは、2010年央時点で公式に採用されている政策
のみを考慮したものである。新政策シナリオは、各国においてまだ公式に採用されていな
いものも含めて、発表された公約や計画が慎重に実施されると想定したものである。450シ
ナリオは、平均温度上昇を2℃にとどめるための道筋を示すものである。
一方、EPIA(2011a)の加速シナリオは、現行の支援政策を維持するもので、電力系統に大
きな技術変化が無くても目標を20年以内に達成できると考えられるものである。パラダイ
ム・シフト・シナリオは太陽光発電のポテンシャルそのものであり、支援政策が強化され、
太陽光発電の開発を推進するための様々な方策や施策が実行されることを想定するもので
ある。
-8-
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IEA(2020a)のシナリオと EPIA(2011a)のシナリオは大きく乖離しているが、IEA のシナリ
オが足元(2010年)で実績を大きく下回っているのに対して、業界団体である EPIA のシ
ナリオのほうは実績に近いから、代表的シナリオを一つ選択する場合には EPIA の加速シ
ナリオを用いた。このシナリオを用いることによって、将来実現される導入量を楽観サイ
ドに評価することになると考えられるが、太陽光発電のポテンシャルを評価するためには、
学習曲線による価格低下を過少に評価しないことが重要であると考えた。
2.2.
「その他システム(BOS)」
「その他システム(BOS)」の将来の価格を推計するためには、日本における太陽光発電
システムの将来の累積導入量を想定する必要がある。本ペーパでは、朝野(2010)に倣っ
て「長期エネルギー需給見通し(再計算)2009.8」の最大導入ケース(経産省, 2009)を国内
の累積導入量の基準シナリオとし、中長期ロードマップ小委員会「中間整理, 2010.12」の
国内15%削減および国内25%削減の2つのシナリオ(環境省, 2010)についてもケース・スタデ
ィを行うことにした。図7と表3はこれら3つの政策シナリオについて将来の累積導入量を示
したものである11。
図7 日本の太陽光発電導入シナリオ
1000000
100000
10000
MW
実績
最大導入
15%削減
25%削減
1000
100
29
20
26
23
20
20
17
20
20
20
14
11
20
20
05
08
20
20
99
96
02
20
19
19
90
19
19
93
10
年
11
「長期エネルギー需給見通し」および「中間整理」の将来シナリオも10年おきなどの離散的数字で与えられているた
め、間の年は一定比率で増加するものとして補間した。また2020年までの値は、2010年実績と2020年目標値を用いて
補間した。
-9-
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表3 日本の太陽光発電導入シナリオ
長期エネルギー需給見通し
2020年
2030年
2800万 kW
5300万 kW
3500万 kW
9100万 kW
5000万 kW
1億100万 kW
最大導入ケース(経産省,2009)
中長期ロードマップ
国内15%削減ケース(環境省, 2010)
中長期ロードマップ
国内25%削減ケース(環境省, 2010)
2.3.
世界と日本の導入シナリオの比較
図8は日本の累積導入量に関する3つの政策シナリオ(最大導入ケース、国内15%削減、
国内25%削減)を世界の累積導入量に関する2つの代表シナリオ(IEA の新政策シナリオ&
EPIA の加速シナリオ)で除して、日本と世界の累積導入量に関するシナリオの比を見たも
のである。2010年までの実績値についてはこの比は日本の累積導入量の世界シェアそのも
のであるが、2010年以降のシナリオについてはそれぞれが独立に作成されたものであるか
ら正確なシェアにはならないことに注意が必要である。
図8日本の累積導入量シナリオの対世界比
50%
45%
40%
35%
実績
最大/IEA新
15%/IEA新
25%/IEA新
最大/EPIA加速
15%/EPIA加速
25%/EPIA加速
30%
25%
20%
15%
10%
5%
28
26
24
22
30
20
20
20
20
20
20
20
18
16
20
20
12
10
08
06
04
02
14
20
20
20
20
20
20
20
20
00
0%
図8を見ると、日本の累積導入量は2000年代に入ってから世界シェアを急速に失ってきた
ことがわかる。これに対して日本の3政策シナリオは、今後2020年までの間に世界シェアを
再度急速に拡大するような(or 少なくともこれ以上のシェア低下をくいとめるような)か
なり野心的なものである。しかし、それでも2020年以降になると、世界市場の拡大ペース
についてゆけなくなり、シェアを落としてゆくことが示唆されている。
- 10 -
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3. 太陽光発電コスト
3.1.
発電システム設置コスト
ここで、「発電モジュール」の累積導入量に EPIA の「加速シナリオ」を用い、「その
他システム(BOS)」の累積導入量を「最大導入ケース」とした場合の太陽光発電システム
の将来価格を学習曲線を用いて計算した結果を示すと図9のとおりである。
図9 太陽光発電システム設置コストのシナリオ(EPIA 加速 + 最大導入)
100
90
80
設置工事
その他
インバータ
モジュール
設置工事(実績)
その他(実績)
インバータ(実績)
モジュール(実績)
万円/kW
70
60
50
40
30
20
10
20
29
20
25
20
27
20
21
20
23
20
17
20
19
20
13
20
15
20
09
20
11
20
05
20
07
20
03
19
99
20
01
19
97
0
年
「発電モジュール」の価格については実績と将来シナリオに大きなギャップがあるが、
1.2節で述べたとおり、世界のトップ生産者の出荷価格は学習曲線にほぼ沿った水準近くに
まで低下してきているのに、国内ではなんらかの理由で設置価格が高止まりしているのが
実態である。Solarbuzz の Retail Module Price Index(図10)によれば、欧米ではリーマンシ
ョックを機に小売価格も急速に低下してきているから、図9の将来シナリオは国内の「発電
モジュール」設置価格の潜在的な価格水準を示すものであり、今後の非常に大きな価格低
下余地を示唆するものであるといえる。
図10
- 11 -
Copyright 2011 CRIEPI. All rights reserved.
3.2.
発電コスト
太陽光発電コストの試算に必要な次の緒元は、朝野(2010)と同じ値を用いた。
耐用年数:
20年
金利:
4%/年
保守経率:
システム設置コストの1%/年
設備利用率:
11%
「その他システム(BOS)」の累積導入量を「最大導入ケース」とした場合、「発電モジュ
ール」の累積導入量シナリオ別の太陽光発電コストは図11のように計算される。
図11 太陽光発電コスト(最大導入ケース)
40
35
30
IEA現政策
IEA新政策
IEA450
EPIA加速
EPIAシフト
円/kWh
25
20
15
10
5
2030
2029
2028
2027
2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
0
年
図11によれば、EPIA の加速シナリオで2024年頃に太陽光発電のコストが20円/kWh を切
り、住宅用の太陽光発電システムが系統電源との競争力を持つことが示唆されている。
注:平成21年度の電灯用の平均単価が20.54円/kWh であることから、20円/kWh を系統電源
との競争力を持つための目安とした。
しかし、太陽光発電を大規模に導入するためには系統安定化対策が必要になるため、太
陽光発電の系統電源との真の競争力を論じるためには、系統安定化対策のために必要なコ
ストも併せて評価する必要がある。
- 12 -
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3.3.
系統安定化対策コスト
太陽光発電を大規模に導入するために必要な系統安定化対策コストの試算は METI のプ
ロジェクトチーム資料12に示されている。同資料には系統安定化対策について①~⑤のシ
ナリオが示され、それぞれ対策コストが異なるが、本ペーパの試算には、2020年までの対
策コストが最も安価とされているシナリオ④を用いた13。図12に資料から読み取ったグラ
フを示す。図12には導入量が3500万 kW を超える場合の対策コストがないので、本ペーパ
の試算では3500万 kW における傾向を外装して用いた。プロジェクトチーム資料には、
2020年までのコストを将来価値で試算との記載があるが、それ以上説明がないこと、検討
経過から将来の技術開発成果によるコスト低下を織り込んだものであると考えられること
から、本ペーパでは2010年価格で将来の対策コストを試算したものとみなし、検討期間に
亙って実質価格の変動は無いものとした。
図12 系統安定化対策コストの想定
2.5
対策費用(兆円)
2
1.5
1
0.5
0
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
太陽光発電導入量(万kW)
図12を用いて系統安定化対策コストを算出するために用いる太陽光発電導入量は、当該
年の導入量を含む過去の累積導入量を太陽光発電の耐用年数14に亙って積算したもの、即
ち太陽光発電の推定残存設置量とした。そして当該年の推定残存設置量に対する対策コス
トと前年の推定残存設置量に対する対策コストの差を当該年に新規に必要になる系統安定
化対策コストとした。ただし、系統安定化対策コストが必要になるのは2010年以降とし、
系統安定化対策コストを算出するための推定残存設置量は2009年の推定残存設置量(280万
kW)を控除した値を用いた(即ち2009年を0とした)。
系統安定化設備は主として蓄電池であるが、ナトリウム硫黄(NaS)電池の耐用年数が
現状で15年程度とされているものが、技術開発によって2020年で20年とすることが見込ま
12
再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム第4回会合資料1 p.22
13
シナリオ④は特異日と端境期に出力抑制をするものである。導入量が3300万 kW を超すと、④の対策に加えて余剰電
力を吸収するための需要創出を行う⑤の方が低コストになるが、需要創出の不確実性を考慮して採用しなかった。こ
のケースを除けば④が、導入量が1000万 kW 以下で需要家側に蓄電池を設置する特殊なケースを除いて最低コストで
ある。
14
20年(ケース・スタディでは設定に応じて変更)
- 13 -
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れている15ことから20年とした。2030年から更新需要が発生することになるが、評価期間
の最終年(2030年)のみであること、更新需要は新規需要に比べて数量および当初設置費
用ともに小さいため無視した。こうして求めたある年の対策コストを、当該年に設置され
る太陽光発電設備の発電電力量で除し、金利4%、耐用年数20年の元利均等払いを前提に
kWh あたりの年経費を求めた。これを図11の太陽光発電コストに加えたものを図13に示す。
図13 太陽光発電+系統安定化対策コスト
40
35
30
円/kWh
25
IEA現政策
IEA新政策
IEA450
EPIA加速
EPIAシフト
20
15
10
5
2030
2029
2028
2027
2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
0
年
図13によれば、将来太陽光発電コストが低下しても、国内導入量の増加とともに系統安
定化対策コストが増加することになるから、各年の更新需要を含む新規導入設備の kWh あ
たりのコストをトータルでみると、どの需要シナリオについても2030年までに20円/kWh を
切らないことが示唆されている。
ということは、図11が示すように住宅用の太陽光発電システムの発電コストが2020年代
に20円/kWh を割り込んで系統電源との競争力を持ち、自律的に導入が進むようなことがあ
ったとしても、太陽光発電の導入にともなう系統全体で見た社会的コストは20円/kWh を切
っていないから、太陽光発電の導入が進めば進むだけ他の電源を利用する場合に比べて機
会損失が発生することが示唆されていることになる。よって、効率的な電源選択を実現す
るためには、系統安定化対策コストを太陽光発電コストに加えて、系統電源との競争力を
総合的に評価する必要がある。
更に、図12に示した系統安定化対策コストには、蓄電池設置にともなう土地代が含まれ
ていない。また、特異日や端境期の出力抑制による設備利用率の低下16も評価に加える必
要がある。太陽光発電の導入にともなう火力および送変電設備の設備利用率低下に伴う
15
次世代送配電ネットワーク検討会報告書平成11年4月 p. 21
16
2020年2800万 kW 導入の場合、シナリオ④で利用率0.6%低下(再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクト
チーム第3回会合資料2 p.6)
- 14 -
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kWh 当たりの固定費負担額増加の問題も今後の課題として残されている。これらは太陽光
発電の導入にともなう直接的・間接的コストを増やし、太陽光発電導入にともなう社会的
負担は一層大きくなると考えられる。
また基本的な問題であるが、図12を算出するための前提として、電力需要には長期エネ
ルギー需給見通し(再計算)の努力継続ケースが、太陽光の導入量には最大導入ケースが
用いられているのだが、電力需要も最大導入ケースとした場合には、系統安定化対策のコ
ストがかなり大きくなるとの試算が検討過程で出されていることにも注意が必要である。
その一方で、東日本大震災に伴う原子力問題によって火力のウェイトが増加することか
ら、太陽光発電の出力変動対策および余剰電力対策としての蓄電池の設置ニーズが大幅に
後退し、系統安定化対策コストが飛躍的に小さくなる可能性もある。系統の実態を踏まえ
た安定化対策コストの見直しと、現在明らかにされていない対策コスト算定方法の詳細に
ついても併せて公開されることが望まれる。
4. 国内導入量に関するケース・スタディ
4.1.
太陽光発電+系統安定化対策コスト
図14は、図13における「発電モジュール」の導入シナリオを EPIA の加速シナリオに固
定し、「その他システム(BOS)」の導入シナリオとして、長期エネルギー需給見通しの最
大導入ケースだけでなく、中長期ロードマップ小委員会「中間整理」の国内15%削減およ
び国内25%削減の2ケースを加えたケース・スタディを示している。
図14 国内導入シナリオ(最大導入、15%削減、25%削減)
40
35
30
円/kWh
25
最大導入
15%削減
25%削減
20
15
10
5
20
11
20
12
20
13
20
14
20
15
20
16
20
17
20
18
20
19
20
20
20
21
20
22
20
23
20
24
20
25
20
26
20
27
20
28
20
29
20
30
0
年
図14は、国内導入の速度を速めれば(最大導入→15%削減→25%削減)、太陽光発電コ
- 15 -
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ストの低下速度は僅かに速くはなるものの、系統安定化対策コストが急増する変曲点の到
来時期も早くなるので、発電コストと系統安定化対策コストのトータルでみると、2030年
までに達成できるコストの下限はむしろ高くなる可能性があることを示唆している。
4.2.
「発電モジュール」の価格
図15は日本の導入量によって、「発電モジュール」の価格にどの程度の影響があるのか
見たものである。
図15 国内導入量と「発電モジュール」価格
3.00
2.50
IEA新政策(-日本)
IEA新政策(標準)
IEA新政策(15%)
IEA新政策(25%)
EPIA加速(標準)
EPIA加速(15%)
EPIA加速(25%)
US$/kW
2.00
1.50
1.00
0.50
2030
2029
2028
2027
2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
0.00
年
図15の IEA 新政策(-日本)の曲線は、IEA の新政策シナリオには日本の最大導入ケー
スが含まれていると仮定し、2010年以降に最大導入ケースで見込まれる導入量を控除した
シナリオで、日本が2010年以降に太陽光発電の導入を止めてしまう場合を想定したもので
ある。これを見ると、日本が太陽光発電の導入を全く止めてしまったとしても、世界の
「発電モジュール」価格の低下傾向に影響はあるが、かといって価格低下傾向の根幹を揺
るがすほどの影響はないことがわかる。まして、最大導入ケースを国内15%削減ケースや
国内25%削減ケースに変更しても、IEA の新政策シナリオおよび EPIA の加速シナリオによ
る「発電モジュール」価格低下に与える影響は極めて小さい。なお、国内15%削減ケース
と国内25%削減ケースでは IEA の新政策シナリオに最大導入ケースとの導入量の差分を加
えて評価した。また、EPIA の導入量には日本の導入シナリオを単純に加えて評価した。
4.3.
「その他システム(BOS)」の価格
図16は国内の導入量によって、「その他システム(BOS)」の価格にどの程度の影響があ
- 16 -
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るか見たものである。
図16 国内導入量と「その他システム(BOS)」価格
25
20
15
万円/kW
2012~導入なし
最大導入
15%削減
25%削減
10
5
2030
2029
2028
2027
2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
0
年
「その他システム(BOS)」の価格は国内における累積導入量で説明する学習曲線を用い
て算出しているので、世界の導入量を用いる「発電モジュール」とは異なり、国内導入を
止めてしまえば学習効果による価格低下はなくなってしまう。よって、日本の太陽光発電
システムの導入支援政策による学習効果は、「発電モジュール」の価格低下というよりも、
「その他システム(BOS)」の価格低下において重要な意味を持つことになる。そして「そ
の他システム(BOS)」の価格は2020年までの国内の野心的な導入政策によって大きく低下
することが期待されるが、2020年以降は導入ペースが落ちるので価格低下のペースも小さ
くなる。国内15%削減政策および国内25%削減政策が最大導入ケースに対して追加的にも
たらす価格低下は、導入を止めた場合に対して最大導入ケースがもたらす価格低下に比べ
れば大きなものではない。
5. 感度分析
以下の感度分析では「発電モジュール」の導入シナリオを EPIA の加速シナリオ、「そ
の他システム(BOS)」の導入シナリオを長期エネルギー需給見通しの最大導入ケースに固
定している。
5.1.
耐用年数
太陽光発電の耐用年数は朝野(2010)に倣って20年としたが、サンテック・パワーは現
に25年の発電保証を出しており、Benthem 等(2007)は30年として試算を行っている。よ
って、太陽光発電の耐用年数を25年および30年とした場合のケース・スタディを行った。
結果は図17のとおりである。
- 17 -
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図17 耐用年数を変更した場合(20年、25年、30年)
35
30
円/kWh
25
20
20年(基準ケース)
25年
30年
15
10
5
2030
2029
2028
2027
2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
0
年
耐用年数が長ければ太陽光発電システム設置コストの元利均等払いのコストが小さくな
り発電コストが低下し、太陽光発電の競争力が増す。しかし「発電+系統安定化対策コス
ト」でみると、20円/kWh を切ることはあまり期待できないことが示唆されている。
なお、本ペーパはインバータの耐用年数も発電パネルなどと同じとしたが、インバータ
の保証は10年程度となっており、交換の必要があるとされている。例えば Benthem 等
(2007)もインバータの耐用年数を10年としているから、同様の仮定を置けば発電コスト
がその分高くなる。
5.2.
設備利用率
基準ケースの設備利用率は朝野(2010)によって11%とした。一方 NEF の調査17によれ
ば、設備利用率の全国平均は11.3%であるが、最も高いのは高知県の12.7%であり、最も低
いのは秋田県の9.2%とかなり開きがある。よって、基準シナリオの11%に加えて、12.7%の
ケースと9.2%のケースとを加えて感度分析を行ったものが図18である。
17
都道府県別 kW 当たりの年間発生電力量と年間売電電力量(10年間)(1995年4月~2005年3月)
- 18 -
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図18 設備利用率を変更した場合(12.7%、11%、9.2%)
45
40
35
円/kWh
30
12.70%
11%(基準ケース)
9.20%
25
20
15
10
5
2030
2029
2028
2027
2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
0
年
設備利用率の違いによる影響はかなり大きく、設備利用率が大きい地域では太陽光発電
の競争力が増す。しかし、最も日照条件のよい高知県においても、「発電+系統安定化対
策コスト」でみれば20円/kWh を切ることはあまり期待できないことが示唆されている。
また、本ペーパが前提とする系統安定化対策には特異日と端境期の出力抑制が含まれて
いるから、その分設備利用率が悪化することも考慮する必要がある(脚注16参照)。
5.3.
「その他システム(BOS)」の進歩率
本ペーパで推計した「その他システム(BOS)」の習熟率(1 - 進歩率)は、朝野(2010)
の推計よりもかなり小さい。図4を見ると、原因はモジュール価格の高止まりと同時期に
「その他システム(BOS)」も値上がりしていることにある。しかし、2009年と2010年には
世界市場におけるモジュール価格の低下と連動するかのように再び価格が低下に転じてい
る。よって、「その他システム(BOS)」の習熟率についても感度分析を行うが、構成要素
のなかで「その他機器」と「工事費」については、2008~2010の学習曲線の傾きが実績の
傾きに極めて近いため感度分析の対象とはならない。一方で、「インバータ」については
2008~2010の学習曲線の傾きより実績の傾きが明らかに大きく、実績が学習曲線を下回っ
てきているため、シリコン価格上昇前の1997-2003年の学習曲線を推計して感度分析に用い
ることにした。推計結果は習熟率が21%程度であり、朝野(2010)の直近年計測結果20%
とほぼ一致している。「インバータ」の学習曲線を変更した結果が図19である。
- 19 -
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図19「インバータ」の学習曲線を変更した場合
35
30
円/kWh
25
20
基準ケース
1997-2003推計
15
10
5
2030
2029
2028
2027
2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
0
年
「インバータ」の価格が1997-2003年のデータで推計した学習曲線に沿って低下すれば、
太陽光発電コストがかなり低下することがわかる。国内の導入支援政策による発電コスト
の低下は主として「その他システム(BOS)」の価格低下によるものであるから、「その他
システム(BOS)」の価格動向には充分な注意が必要である。しかしその一方で、「その他
機器」と「工事費」の習熟率が実際に低下しているのだとしたら、国内の導入支援政策の
効果はそれだけ出にくくなっていることになる。太陽光発電コスト低下のためには、屋根
も含めたシステム全体の革新的な設計や工事方法の抜本的な改善も必要であると考えられ
る。
結言
○ IEA、EPIA、総合資エネ調、中環審による最新の太陽光発電導入シナリオによって、
日本の住宅用太陽光発電の将来のコストを学習曲線を用いて試算したところ、2020 年
代に 20 円/kWh を切り、系統電源と競合できるようになる可能性があることがわかっ
た。
○ しかし、太陽光発電の大量導入のためには系統安定化対策コストが追加的に必要にな
るため、発電コストに系統安定化対策コストを加え、系統全体から見た社会的コスト
の観点から評価すると、2030 年までに 20 円/kWh を切ることは簡単ではないこともわ
かった。
○ よって、太陽光発電システム単体で 2020 年代に系統電源との見かけの競争力を持ち、
導入が自律的に進むようなことになると、系統全体で見た社会的コストの最小化を実
現できない可能性がある。効率的な電源選択を実現するためには、系統安定化対策コ
ストを太陽光発電コストに加えて、系統電源との競争力を総合的に評価する必要があ
- 20 -
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る。
○ 国内の導入速度を速めると、発電コストの低下速度が僅かに速くはなるものの、系統
安定化対策コストの増加ペースも早くなるため、発電コストと系統安定化対策コスト
のトータルでみると、2030 年までに達成できるコストの下限がむしろ高くなる可能性
がある。
○ 国内における太陽光発電の導入支援政策が学習効果を通じて「発電モジュール」の価
格低下に与える影響は小さく、「その他システム(BOS)」の価格低下に与える影響のほ
うが重要であることがわかった。しかし、「その他システム(BOS)」の習熟率は「発電
モジュール」に比べて小さく、かつ近年低下傾向にあることから、導入支援政策の学
習効果は期待されているほど大きなものではないことが示唆される。
○ 基準シナリオに対して、発電コストがより早く低下する要因には「耐用年数の長期
化」、「地域による設備利用率の向上」、「インバータ」の進歩率改善がある。しか
し、いずれかが改善されたとしても、2030 年までに「発電+系統安定化対策コスト」
が 20 円/kWh を切ることはあまり期待できない。
○ 系統安定化対策コストは、METI のプロジェクトチーム資料を所与のものとしたが、試
算結果を左右するものであるにも拘わらず、根拠に不明確な点が多く、技術開発の不
確実性の影響も大きい。また、東日本大震災に伴って系統条件も大きく変化すること
から、系統の実態を踏まえた見直しと、算定方法の詳細についての公開が望まれる。
○ 本ペーパの試算は、導入支援政策による学習効果では太陽光発電コストが 2030 年まで
に正味の社会的便益を生み出すほどまでには低下しないことを示唆している。しかし
太陽光発電は技術開発による大幅なコスト低下の可能性を秘めているから、導入支援
政策によるよりも、技術開発を直接支援することのほうが効率的であると考えられる。
○ 特に、シリコン系発電モジュールのプライスリーダが既に中国企業になっていること
を考えれば、シリコン系に替わる技術の開発などを直接支援して大幅な性能向上やコ
スト低下を実現するのでなければ、導入支援政策は価格競争力の高い海外メーカの市
場進出を後押しすることになり、失われつつある日本の太陽光発電産業の競争力強化
には結びつきにくいと考えられる。
○ 一方「発電+系統安定化対策コスト」でみた場合、太陽光発電に系統電源との真の競
争力を持たせるためには、発電モジュールだけでなく、「その他システム(BOS)」およ
び「系統安定化対策」、ひいては太陽光発電追加にともなう系統全体の限界コストを
大幅に引き下げるような技術革新が同時に必要であると考えられる。
○ なお、国内の「発電モジュール」設置価格は短期的に大きく下げる可能性があること
がわかったが、これは国内の導入支援政策に基づく学習効果によるものではなく、需
給要因によって高止まりしていたものが、学習曲線推計レベルに近づいていくことに
- 21 -
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注意が必要である。
参考文献
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http://www.challenge25.go.jp/roadmap/roadmap_detail.html#about_roadmap
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January 28-29, 2010
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