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石巻赤十字病院を中心に結成された 移動薬局チームの災害医療活動

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石巻赤十字病院を中心に結成された 移動薬局チームの災害医療活動
石巻赤十字病院を中心に結成された
移動薬局チームの災害医療活動
∼石巻赤十字病院 乳腺外科部長 古田昭彦先生に聞く∼
2011年3月11日の東日本大震災の直後、石巻医療圏(石巻市、女川町、東松島市)
で診療を継続できた
医療機関は、石巻赤十字病院を含めわずか5施設でした。災害医療拠点である同病院は、全国から参集
した医療救援チームとともに、避難所の巡回診療や仮救護所での救護活動を展開しました。乳腺外科部長
の古田昭彦先生は、同院の薬剤師を中心に、地元の薬剤師や全国から集まった薬剤師ボランティアととも
に薬剤の配達や服薬指導などを行う
「メロンパンチーム」を結成しました。その活動を中心に、地震直後
の病院の様子や救護活動の状況などをお聞きしました。
※このインタビューは2012年3月26日に行われました。
地震直後の状況と
「石巻合同救護チーム」の活動
3月11日、震災直後の石巻赤十
1日1,000人を超える状況となりました。
した。合同救護チームは限られた医薬
医療救援チームはどのように活
品しか避難所に持参できず、
また医薬
動したのでしょうか。
品の配付に対応していると、本来行う
古田 地震発生翌日から5日間程度
べき急性期の診療ができません。
しか
*
字病院の状況をお教えください。
は日赤救護班 とDMAT(災害派遣
し、
インスリンや循環器系の薬剤、抗凝
古田 地震による当院の被害は軽微
医療チーム)による救援活動が行わ
固薬など中断すると命に関わる薬剤も
で、患者さんや職員も皆無事でした。
れ、
その後は日赤救護班が活動を継
ありますから、手をこまねいているわけ
津波は当院から200mのところまで来
続するとともに、全国の病院や日本医
にはいかない状況でした。
ていましたが、幸いなことに、当院には
師会などから様々な医療救援チーム
到達しませんでした。
が参集しました。
これらのチームは、宮
地震発生の数分後に災害対策本部
城県から災害医療コーディネーターを
を設置し、1階にトリアージを行うための
委嘱された石井正先生(石巻赤十字
来院できない方への医薬品の
エリアを設け、薬剤部では病院玄関前
病院 医療社会事業部長)
の統括の
配付は、
どのようにして解決したので
に臨時薬局を設置して緊急搬送される
下、3月20日から「石巻圏合同救護チ
すか。
患者さんへの対応準備を進めました。
ーム
(以下、
合同救護チームと略)」
とし
古田 医薬品に特化したチームが配
地震当日の搬送患者さんは100人
て約300箇所の避難所の巡回診療や
付役を引き受ける必要があると考えま
程 度に留まりましたが 、翌日以 降は
仮設診療所での診療にあたりました。
した。そこで、私と当院の薬剤部が中
続々と患者さんが搬送され、3日目には
*日本赤十字社本部及び全国の支部から派遣さ
れた医療救援チーム。
心となって3月25日に
「メロンパンチーム」
医 薬 品の供 給 状 況はどうでし
たか。
古田
9
避難所に医薬品を届ける
「メロンパンチーム」の結成
を結成しました。
メロンパンを販売する
移動式パン屋のように、巡回して医薬
品を届ける薬局を目指したことが名前
当初は、避難所にいる方々が
の由来です。
震災で失った慢性疾患用薬剤などを
薬剤師不足の問題は、
日赤薬剤師
求めて当院に殺到しました。
そのため
会を始め、全国から数多くの薬剤師さ
医薬品が非常に不足し、
また薬剤師
んが当院に救援に来てくれたため解決
のマンパワー不足も問題になりました。
することができました
(図表1)
。
また、宮
震災後1∼2週間でようやく医薬品
城県薬剤師会副会長の丹野佳郎先
が届き始めましたが、今度は「来院す
生のご尽力もあり、地元の薬局や全国
石巻赤十字病院 乳腺外科部長
る手段がない方々に医薬品をどのよう
からのボランティアの役割分担がスム
古田 昭彦 先生
に配付するか」が新たな問題になりま
ーズに行え、多くの薬剤師さんにメロン
図表1 石巻赤十字病院への薬剤師の派遣人数
(2011年8月15日まで)
薬品のニーズの聞き取り
れると思います。
や、服薬指導、お薬手帳
近年、薬剤師は、病棟活動やがん
実人数(人)
のべ人数(人)
の配付と使い方の説明な
化学療法、
緩和医療など、
多くのチーム
日赤薬剤師会
133
875
ど、次第に活動の幅を広
医療で他のスタッフからたいへん信頼
日本薬剤師会
33
181
げていきました。
される存在になっています。今回の被
7
51
宮城県病院薬剤師会
20
22
各大学より
24
74
217
1,203
日本病院薬剤師会
合 計
提供:石巻赤十字病院
パンチームに参加していただきました。
医師である古田先生がメロンパ
医薬品に関わるきめ
災地での活動でも、
その大半が医薬品
細かな活動は、薬剤師さ
に関わるものであり、多くの医療スタッフ
んならではのものですね。
が薬剤師の存在意義を身にしみて感
古田
じてくれたと思います。
お薬 手 帳がない
状況でも、患者さんが持っている薬剤
日本全国、
どこででも災害は起こりえ
の色や形状から薬剤名を特定したり、
ます。
そのとき即座に薬剤師が集まり、
ンチームの結成に関わられたのは、
ど
在庫がない薬剤は代替薬を提案する
チーム作りを先導し、医薬品の配付や
のような経緯からなのでしょうか。
など、薬剤師でなければ対応できない
避難所での服薬指導に当たる、
そんな
古田 私は2007年まで当院で災害
場面は数多くありました。
また、個々の
態勢が当たり前のようになることを期待
医療を担当する医療社会事業部長を
患者さんに合わせて丁寧な服薬指導
しています。
務めていたこともあり、今回の救護活
を行うなど、震災における混乱の中に
図表2 メロンパンチームの構成
動では合同救護チームのミーティング
あってもたいへん質の高い活動ができ
本部(石巻赤十字病院薬剤部内)
に参加していました。
ミーティングでは
たと思います。
各避難所への医薬品配付の要望が
活動はいつまで行われたのでし
度々訴えられていたので、当院の薬剤
ょうか。
部とともに移動薬局のアイディアを提
古田 6月19日まで、約3カ月間行いま
案しました。
また、丹野先生とは地域の
した。地域の医療機関や薬局が少し
がん勉強会等を通して顔なじみであっ
でも早く仕事を再開するためには、
メロ
たため、病院薬剤師と薬局薬剤師の
ンパンチームの役割を早期に地元に
連携活動が行えると思い、
チーム発足
引き継いでいく必要がありました。
メロ
を呼びかけました。
ンパンチームは地域の薬局と協働して
薬剤師だからこそ可能だった
きめ細かな服薬指導
メロンパンチームの活動の様子
をお教えください。
古田
薬剤師:2名
事務員:1∼2名
巡回チーム
医 師:1名(石巻赤十字病院)
薬剤師:3∼5名
事務員:1∼2名
運転手:
(医師、薬剤師、
石巻赤十字病院事務員)
車3台(ワゴン車)
活動しましたから、
スムーズに役割を移
行できたと思います。
災害時の迅速な対応には
日頃の地域での情報共有が不可欠
石巻赤十字病院の薬剤部内
大規模災害に迅速に、適切に対
にメロンパンチームの本部を置き、
その
応するためには、日頃からどのような
下で巡回チーム
(通常3チーム、最大4
準備が必要だとお感じですか。
チーム)が活動しました
(図表2)
。薬剤
古田 震災後、
お薬手帳を紛失し、服
師ボランティアなどは活動期間が限定
用している薬剤がわからなくなってしま
されますので、入れ替わりも多くありまし
う方が多くいらっしゃいました。
そのような
たが、
当院の薬剤師2∼3人がコアメン
状況に対応するためには、共通の電
バーとして固定していたので、業務は
子カルテの導入など、地域で診療情
スムーズに行えました。活動は石巻医
報を共有できるシステムの構築が必要
療圏全域で行い、多い時は1日30カ所
だと実感しています。災害時にスムーズ
近くの避難所を回りました。巡回チーム
に活用するためには、情報共有システ
には医師も同行し、追加処方にも対応
ムは平時から運用することが必要で
しました。
す。
また、
このような地域ネットワークは
当初の活動は、合同救護チームが
人間関係にも不可欠です。
日頃から薬
処方した医薬品の調剤と避難所への
薬連携などで密なコミュニケーションを
配達がメインでしたが、避難所での医
築いていれば、災害時もうまく連携がと
※本部、巡回チームとも、薬剤師・事務員は
石巻薬剤師会および石巻赤十字病院から派遣。
提供:石巻赤十字病院
医薬品のニーズを聞取り調査する
メロンパンチームの薬剤師。
配達する医薬品
(62名分)
。
提供:石巻赤十字病院
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