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3章 ものづくり創成実習とカリキュラム開発

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3章 ものづくり創成実習とカリキュラム開発
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
3.
ものづくり創成実習とカリキュラム開発
平成15年度における各学科の実験,実習の内,ものづくり創成実習に関係する内容を調査し
か結果をまとめた.以下に,一覧表と各学科の詳しい内容を示す.
3.1 一覧表
平成15年度ものづくり創成実習・実験・実習の内容調査
機械工学科
科目名
実験/実習
工学基礎実験及び工作実習
実習
必修
実験項目名
コマ数
人数
1.グライダー搭載ロケットの設計・製作
3×15 週
3
2.翼の設計・製作と模型グライダーによる
飛行テスト
3×15 週
4
3.対物識別センサの試作と移動ロボットへ
の搭載
3×15 週
3∼4
4.ものを壊してみよう!(
ものづくり設計と
製作そして破壊)
3×15 週
2∼3
工作実習 ペーパーウエイトの製作
3×3 週
5∼6
工作実習 NC 旋盤
工作実習 溶断・溶接
3×1 週
5∼6
3×1 週
5∼6
科目名
機械基礎製図Ⅰ
実験/実習
実習
実験項目名
コマ数
人数
機械基礎製図Ⅰ
2×15 週
1
-21-
必修・
選択 単位数 開講年次 期間
備考
航空宇宙教
育 コースは
1・
2から,機
械情報教育
2
2
通年
コースは3・
4から1つ選
択 ,工 作 実
習は全員
内
容
ペーパーグライダー設計・製作,ロケッ
ト設計・製作,機能評価,競技会
調査,翼の設計・製作,風洞実験,飛
行試験
力センサの設計・試作,センサ特性の
計測,移動ロボットに搭載し識別能力
の競技
自由な構造物の設計・製作,変形・破
壊実験と考察,より強度のある構造体
の製作
旋盤加工,フライス加工,手仕上げな
どを通してペーパーウェイトを製作
NC 工作機械のプログラミングと加工
ガス切断,ガス溶接,アーク溶接,プラ
ズマ切断などについて実習
必修・
選択 単位数 開講年次 期間
必修
1
2
前期
内
備考
容
マメジャッキの寸法などを測りスケッチ
し,それを基に製図を実施
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
科目名
実験/実習
機械基礎製図Ⅱ
実習
必修
実験項目名
コマ数
人数
機械基礎製図Ⅱ
2×15 週
1
科目名
機械工学実験
実験/実習
実習
実験項目名
コマ数
人数
小型エンジンの性能試験とインジケータ解
析
3×2 週
5∼6
小型エンジンの負荷試験・性能評価,
熱効率・機械効率などの算出・理解
軸対称噴流における速度分布の測定
3×2 週
5∼6
ピトー管による流速分布の測定 ,質
量・運動量保存則の理解
鉄鋼材料の引張実験
3×2 週
5∼6
連続体の固有振動数と固有モードの測定
3×2 週
5∼6
ボイスコイルモータ周波数特性の測定
3×2 週
5∼6
科目名
実験/実習
機械航空工学演習
実習
必修
実験項目名
コマ数
人数
2×15 週
3∼4
グライダーの設計
必修・
選択 単位数 開講年次 期間
後期
内
容
機械製図基礎Ⅰでのスケッチ図面をC
ADで製図
内
備考
容
鉄鋼材料の引張試験,応力? ひずみ
や変形挙動などの機械的性質の理解
梁や板の固有振動数・固有モードの理
論計算,実験による固有振動数・モー
ドの測定
ボイスコイルモータのフィードバック制
御系の理解,実験による周波数特性
の評価
必修・
選択 単位数 開講年次 期間
実験/実習
機械情報工学演習
実習
必修
実験項目名
コマ数
人数
移動ロボットの設計
2×15 週
3∼4
2×15 週
3∼4
-22-
2
必修・
選択 単位数 開講年次 期間
必修
1
3
通年
科目名
ロボットアームの設計
1
備考
2
3
内
備考
航空宇宙教
後期 育コースの
学生のみ
容
翼の空力計算,製作,風洞試験,強度
試験,飛行試験
必修・
選択 単位数 開講年次 期間
2
3
内
備考
機械情報教
後期 育コースの
学生のみ
容
回路設計,プログラミング,機械系の
設計,改造,試験
制御器の設計,図面の作成,数値シミ
ュレーション
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
応用化学工学科
科目名
実験/実習
必修・
選択 単位数 開講年次 期間
応用化学工学実験 I
実験
必修
実験項目名
コマ数
人数
洗剤の合成
2
8
染料と蛍光色素の合成
2
8
科目名
実験/実習
応用化学実験 II
実験
必修
実験項目名
コマ数
人数
ニュートラルキャリアーを用いたイオンセン
サ
3
8
エレクトロクロミックディスプレイ素子の作製
3
8
科目名
実験/実習
応用化学工学実験 III
実験
必修
実験項目名
コマ数
人数
ポリマー合成
3
8
ガラス細工
3
8
2
2
前期
内
容
せっけんと界面活性剤であるSDS を化
学合成する
染料と蛍光色素を化学合成する
必修・
選択 単位数 開講年次 期間
2
2年
内
備考
後期
容
イオン電極を作製し,実際に使用して
得た結果についてネルンスト式などを
用いて理論的に解釈する.
導電性高分子を用いて ECD 素子を作
製し,電気化学的手法により得た結果
を比較しデータを読む力を養う.
必修・
選択 単位数 開講年次 期間
2
3年
内
備考
前期
容
スチレン,メタクリル酸メチル,および
酢酸ビニルの合成
ガラスの切断,曲げ,接続等によりガ
ラス細工を行う
期
間
後
期
容
科目名
実験/実習
必修・
選択
単位数
開講年次
応用化学工学実験 IV
実験
必修
2
3年
実験項目名
コマ数
人数
化学・
バイオプロセスの設計
3
8
-23-
備考
内
備考
化学・バイオプロセスの設計ソフトを使
用し,排水処理プロセスを設計し,性
能評価,コスト評価などを行う.
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
社会建設工学科
科目名
実験/実習
必修・
選択
土木施設設計演習
実習
必修
実験項目名
コマ数
人数
コンクリート擁壁の設計
2
1
鋼矢板の設計
2
1
科目名
実験/実習
必修・
選択
設計Ⅲ(土木構造物設計演習)
実習
必修
実験項目名
コマ数
人数
防波堤の設計
2
1
下水管網の設計
2
1
鋼橋の設計
2
1
コンクリート橋の設計
2
1
科目名
実験/実習
必修・
選択
電気電子工学基礎実験Ⅰ
実験
必修
実験項目名
コマ数
人数
単位数 開講年次 期間
2
3
内
備考
下記 2 テー
後期 マから1 テー
マ選択
容
土圧の原理を理解し,土留めとしての
重力式コンクリート擁壁の安定性,安
全性を検討する.与えられた設計条件
から重力式コンクリート擁壁を設計す
る.
土圧の原理を理解し,土留めとしての
鋼矢板の安定性,安全性を検討する.
与えられた設計条件から鋼矢板を設
計する.
単位数 開講年次 期間
2
4
内
備考
防波堤・下
水管から1
テーマ,鋼
前期
橋・
コンクリ
ート橋から1
テーマ選択
容
防波堤の役割,波浪推算,波圧公式
を理解し,与えられた設計条件から防
波堤設計を行う.
実際の地図を用いて,簡単な水理計
算を行いながら下水管網の設計を行
う.
トラス構造を理解し,与えられた設計
条件からトラス橋を設計する.
プレストレスコンクリート(PC)の原理を
理解し,与えられた設計条件から PC
橋の設計を行う.
電気電子工学科
手作りインダクタの特性評価
2
3
-24-
単位数 開講年次 期間
1
2
備考
前期
内
容
インダクタを設計・製作する.製作した
インダクタを用いた RL 回路に正弦波を
加え,オシロスコープで読み取った電
圧信号からインダクタンスを求め,設
計値と比較する.
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
科目名
実験/実習
必修・
選択
電気電子工学基礎実験Ⅱ
実験
必修
実験項目名
コマ数
人数
単位数 開講年次 期間
1
2
備考
後期
内
容
動作伝達係数によるフィルタ理論に基
づいて種々の受動フィルタの回路合成
を行い,その働きを理解する.実際に
3
与えられた条件を満たす帯域通過フィ
ルタの設計を行う.
トランジスタ増幅回路の動作原理を理
3
解し,簡単な実験回路作成を通じて実
験技術を身に付ける.
ワンチップ・マイコン PIC の機能を理解
し,基本的な使用方法を習得するとと
もに,一般的な電子部品・センサの利
3(
予定) 用法を習得する.また,PIC を用いた
簡易温度制御システムを構築し,パソ
コンによる温度計測システムでその動
作を確認する.
受動フィルタ
2
電子回路の製作
2
ワンチップ・マイコンを利用した
基礎実験(仮題)
2
科目名
実験/実習
必修・
選択
電気電子工学応用実験Ⅱ
実験
必修
実験項目名
コマ数
人数
ベクトル及びスカラーネットワークアナライ
ザによる高周波回路測定
6
3
サーボ型傾斜計による時変傾斜の自動計
測
6
3
高温超伝導体の試作と超伝導性の評価
6
3
科目名
実験/実習
必修・
選択
電気設計
講義
選択
実験項目名
コマ数
人数
-25-
単位数 開講年次 期間
2
3
備考
後期
内
容
非測定物はマイクロ波回路で使用され
る基本的な素子で,その特性は理論
的な設計公式で求められる.実験者は
測定と設計式の値を比較し,設計公式
の妥当性や限界について理解すること
になる.
時変量の計測において,対象の動特
性に基づいてセンサ出力を情報処理
することの重要性を理解する.実際に
傾斜角の計測処理プログラム(カルマ
ン・フィルタ)を作成することにより,計
測のソフトウェア技術の基礎を身につ
ける.
超伝導現象を理解し,その応用に接す
ることを目的に,酸化物超伝導体を作
製し,その磁気的特性を測定する.複
数の材料を用いて,液体窒素温度以
上の転移温度を持つ酸化物超伝導体
を作製する.
単位数 開講年次 期間
2
4
備考
前期
内
容
電気設計概論,設計,製図(機械,電
気)を通して設 計の基本的知識 を培
う.
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
科目名
実験/実習
必修・
選択
基礎電子回路
講義
必修
実験項目名
コマ数
人数
単位数 開講年次 期間
2
2
備考
前期
内
容
シミュレーションソフトを用いてトランジ
スタ増幅回路の設計を行う.設計条件
として与えられた信号源の振幅,内部
インピーダンス,電源電圧,負荷抵抗
値に対して,電圧増幅度が最大となる
ような回路素子値を求め,設計回路の
ファイル,レポートを提出させる.
機能材料工学科
科目名
実験/実習
必修・
選択
機能材料工学実験 II
実験
必修
実験項目名
コマ数
人数
七宝焼きの実習
3
7
科目名
実験/実習
必修・
選択
機能材料工学実験 I
実験
必修
実験項目名
コマ数
人数
フォトクロミック色素の合成
2
3
科目名
実験/実習
必修・
選択
機能材料工学実験Ⅲ
実験
必修
実験項目名
コマ数
人数
ガラス細工
6
-26-
12
単位数 開講年次 期間
2
3
内
備考
前期
容
銅板にガラスを貼り合せて,七宝を作
製する実習.900℃という高温度を実
体験し,複合材料の基礎を学ぶ.コマ
数は,工夫することによって1コマにす
ることも可能である.
単位数 開講年次 期間
2
2
内
備考
後期
容
光異性化反応を起こす色素材料の合
成を通して,有機合成,薬品の取り扱
い,材料の評価方法を学ぶ.(注)現在
機能材料工学科の学生実験室にドラ
フト・チャンバーの設備がないため,こ
の実験は休止中である.設備が整い
次第,再開する予定.
単位数 開講年次 期間
2 単位
3年
内
備考
後期
容
ガラス管の切断・接合を組み合わせて
リービッヒの冷却管を作成することで,
ガラスの状態および性質の実体験に
基づく理解と,ガラス器具の取り扱い
について理解することを目的とする.
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
感性デザイン工学科
科目名
実験/実習
必修・
選択
空間表現Ⅲ
実習
選択必修
実験項目名
コマ数
人数
建築模型の制作
単位数 開講年次 期間
2
2
備考
前期
内
容
・建築作品の図面をトレースし,その図
を基に50分の1の模型を製作する手
順の理解と技術の習得
・家具の製作技術の習得
2
50
科目名
実験/実習
必修・
選択
感性工学実習
実験
選(人)必(メ)
実験項目名
コマ数
人数
タウンウォッチング
1
50
DTP(デスクトッププリンティング)
の基礎
1
50
ディジタル画像処理
コンピュータグラフィクスの基礎と光学測定
技術
PCとプリンタによるカラープリンティングに
関する色彩計測管理技術
ミューラー・リヤーの錯視
1
50
1
50
1
50
色彩管理技術における物体色測定法
1
50
音環境の快適性測定評価
1
50
温熱環境
1
50
調整法を用いた錯視量の測定
音楽聴取時の快適感の
測定
室内温熱環境の計測と評
価
家具の製作
建築図,製作図の描き方
-27-
単位数 開講年次 期間 備考
1
2
後
内
容
SFX21 方式まちづくり手
法
PC,スキャナ(OCR),カラープリンタ
使用への習熟
デジタル画像処理の基礎
コンピュータにおける数値指示色彩の
実現色評価
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
科目名
実験/実習
CADCG オペレーションⅠ
演習
項目名
コマ数
3DCG ソフトウエアを利用した透視図の作成
3
3DCG ソフトウエアにおける基本形状の記
述方法と論理演算を利用した複雑な形状の
生成方法
2.5
3DCG ソフトウエアにおける質感の表現方
法
4
総合演習
-28-
必修・
選択
単位数 開講年次 期間
備考
講義の目的:
自 分 の イメ
ー ジす る形
状や空間を
3 次元 CG に
より具体化し
て表 現 す る
ための 道 具
として,世界
的 に 広 く普
及 している
3DCG フリー
ソフトの基本
必修(メディア
的 な使 用 方
情報工学コー
1
2
前期 法 を理 解 さ
ス)/選択必修
せる.また,
(人間空間コー
画像創作 ・
ス)
生 成に付 随
して発 生 す
る著 作 権 を
はじめとする
知的財産権
に 関 しても
実 例 を挙 げ
て説明し,オ
リジナリティ
に関して正し
い認 識 を持
たせる.
人数
内
容
3DCG ソフトウエアの基本的な利用方
法(カメラの設定,光源の設定,画像の
生成)を個人所有のノート型パソコンで
66
実際にソフトウエアを動かしながら理
解する.課題(各人の名前の立体によ
る表示)製作(時間外自習)を通して理
解を深める.
基本形状の記述方法と論理演算の基
本を説明し,課題(個人ごとに異なる)を
62
製作(時間外自習)することにより具体
的な使用方法を身に付ける.
物体の質感を高めるための技法につ
いて基礎原理を説明し,CG ソフトウエ
アでどのように実装されているかを簡
単に説明した.テクスチャマッピングと
62
反射・屈折を考慮した物体の表現に関
する課題をそれぞれ出し,課題製作を
通して様々な便利な機能を使いこなせ
るようにする.
最終課題として,各人自由なテーマで
画像を製作させる(時間外自習).
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
科目名
実験/実習
必修・
選択
情報デザイン実習Ⅰ
実習
選択必修
実験項目名
コマ数
人数
2 次元空間のおける構成課題の制作
2
43
科目名
実験/実習
必修・
選択
情報デザイン実習Ⅱ
実習
選択必修
実験項目名
コマ数
人数
視覚情報コンテンツの課題制作
2
-29-
24
単位数 開講年次 期間
1
2
内
備考
前期
容
基礎的な 2 次元空間での構成課題制
作を通じて,視覚情報のデザインに求
められる形態,色彩の構成手法を体験
的に理解する.
単位数 開講年次 期間
1
2
内
備考
後期
容
情報メディアコンテンツのデザイン実習
を通して,情報分析,問題発見,企画,
制作,評価など,統合的なデザインの
構築・表現・伝達するための手法と思
考方法を学習する.
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
3.2 機械工学科
3.2.1 平成 15 年度機械工学科 工学基礎実験(ものづくり創成実習Ⅰ)
航空宇宙教育コース 実施報告書
1.「ものづくり教育」について
ものづくりの経験と勉学意欲の乏しい最近の学生に対して、手を動かしてものづくりの楽しさ
を教え、工学への興味を湧かせるため、また機械工学の原点である設計を教育する上で重要な位
置を占めている。
2.カリキュラムの位置付け
機械工学科では、ものづくり(設計)教育の流れとして、図学、機械基礎製図Ⅰ、Ⅱ、工学基礎
実験及び工作実習(ものづくり創成実習Ⅰ、Ⅱ)
、機械設計論、機械航空工学演習を教育科目とし
て設置している。
3.目的、目標
ものづくりの経験と勉学意欲の乏しい最近の学生に対して、2年次に
(1)実際に手で触らせてものづくりの楽しさを教える
(2)機械工学を学ぶことの必要性、重要性を実感させる
(3)教育コース(航空宇宙教育コース)に即した内容で学習へのモチベーションを高める
(4)グループワークの必要性を教える
(5)学生の創造性を引き出す
ことを目的とする。
4.授業の具体的内容
1.グライダー搭載ロケットの設計・製作
2.翼の設計・製作と模型グライダーによる飛行テスト
を設けて、前期、週3コマ(270 分)
、14 週をかけて実施した。各テーマ20名程度、3∼4名の
グループに分けた。各自積極的に取り組んだ。
具体的実施内容は別紙資料1、2に示す。
5.教育効果、成果
狙うべき教育効果として
・実際に手で触らせてものづくりの楽しさを教える
・機械工学を学ぶことの必要性、重要性を実感させる
・教育コース(航空宇宙教育コース)に即した内容で学習へのモチベーションを高める
・グループワークの必要性を教える
・学生の創造性を引き出す
-30-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
を考慮した。脱落者(履修放棄者)は見られなかった。演習におけるプランづくりと設計、実際
の製作、性能試験や競技会での失敗、失敗の分析と改良などを通して、上記の目的を十分達成す
ることができた。特に講義科目との関連性、あるいは失敗させることにより各人の知識不足を自
覚させ、講義を受けて学ぶことが重要であることを認識させることができた。
6.学生の反応
学生からの本実習に対する評価は高く、同様の実習を希望する声が多かったことが示すように、
学生たちの興味を引くことができ、生き生きと取り組む姿勢を引き出せた。
7.今後の課題
今後の検討課題として
・機械航空工学演習などの関連科目とのより明確な関連付け
・工学的に重要な項目の抽出、強調
が挙げられた。
【資料1】
2003 年度工学基礎実験(ものづくり創成実習)
「グライダー搭載ロケットの設計・製作」実施報告書
1.概要・目的
再使用型シャトルの打上回収を模擬したものづくり実習をおこなう.最終的に製作したグライ
ダー搭載ロケットを打上・回収する競技会も開催する.
2.演習内容
4/11 ガイダンス
4/18 ペーパーグライダー設計・製作
4/25 競技会1(ペーパーグライダー)→報告書
5/2 モデルロケット講習および技術調査(インターネット利用)
5/9 打上シミュレーション(EXEL を用いた運動方程式の数値計算プログラム作成)
5/16 概念設計(グライダー取り付け・放出機構)
5/23 構造設計(重心計算・空力計算・フリーボディダイアグラム検討)→報告書
5/30 製作
6/6 製作
6/13 機能評価(逆噴射時温度計測なども考えられる)
6/20 競技会2(ロケットによるグライダー打上)→報告書
6/27 結果評価&再設計
7/4 競技会3(ロケットによるグライダー打上)→最終報告書
-31-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
7/11 ディスカッション
※ディスカッションは基本的に常時行う.報告書提出翌週は報告書に基づいたディスカッショ
ンも行う.
3.評価方法
出席・報告書・ディスカッション内容を総合して評価
4.注意事項
・ノートパソコンを持参すること
・カッター利用時は下敷きを持参すること
・ESTES 社製 A8-3 エンジン,イグナイタ,リカバリーワディングについては規制品を各班に支
給する.打ち上げ台は貸し出しを行う.その他必要品は,自費購入すること.
5.参考図書・ホームページ例
航空宇宙関係全般
・「航空宇宙工学入門」
,室津義定,森北出版
ペーパーグライダー関係
・日本航空宇宙学会西部支部 手作り紙飛行機コンテスト
http://www.aero.kyushu-u.ac.jp/Jsass_west/westconf02/plane.htm
・A. Suzuki's Paper Aircraft Laboratory http://www.infosnow.ne.jp/~suzuki-a/
・つくば紙飛行機を飛ばす会 http://www.3nopage.com/~hikouki/
モデルロケット関係
・日本モデルロケット協会 http://www.ja-r.net/
・Rocket Equations http://my.execpc.com/~culp/rockets/rckt_eqn.html
ロケットの運動理論からシミュレータ,空力中心計算まで充実している
・ESTES Rocket http://www.estesrockets.com/
モデルロケットエンジンを製作している ESTES 社のページ.エンジン性能チャート,エン
ジン推力の時間変化特性もある.
・「手作りロケット完全マニュアル」
,日本モデルロケット協会,誠文堂新光社
-32-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
実施状況
4/11 インターネットを利用した情報収集(ロケット搭載予定のペーパーグライダーについて)
4/18 ペーパーグライダー設計・製作
4/25 製作ペーパーグライダーのプレゼン&競技会
5/2 モデルロケット講習および技術調査(インターネット利用)
5/9 打上シミュレーション(EXEL を用いた運動方程式の数値計算プログラム作成)
-33-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
5/16 概念設計(グライダー取り付け・放出機構)
5/23 放出機構発表会
(写真なし)
5/30 製作
6/6 製作&放出機構地上試験計画発表会
(写真なし)
6/13 放出機構地上試験
逆噴射によるグライダ放出例
6/20 競技会(ロケットによるグライダー打上)
-34-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
6/27 結果評価プレゼン&再設計
7/4 競技会(ロケットによるグライダー打上再試験)
雨のため中止.
.
.ディスカッション
7/11 競技会(ロケットによるグライダー打上再試験)
打ち上げからグライダ放出までの成功例↓
グライダー3 機の放出成功例↓
【資料2】
ものづくり創成実習
「翼の設計・製作と模型グライダーによる飛行テスト」実施報告書
平成 15 年度から学部 2 年生を対象にものづくり創成実習がスタートし、4 月から 4 ヶ月に
わたって実施してきた。7 月の始めに予定の行事を終えたので、その結果についてまとめて
おく。
実施にあたっては、始めての試みでもあることから手探り状態の進行であった。目標とし
た教育効果は以下にあげる事柄であった。
-35-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
① 機械工学の基礎科目学習の重要性を体感する。
② グループワークの必要性とリーダーシップの重要性を認識する。
3∼4 名のグループを 6 班作成し、リーダーをおき、進めた。リーダーの選抜は、立候補ある
いは他薦とした。
最低限のルール(各段階における締め切り厳守と期待の完成)を提示し、各班において製
作するグライダーの仕様を決定した。
試作およびテスト等を行いながら機体を完成させ、7 月 4 日に体育館において競技を行っ
た。競技は 2m の高さから手放し、飛行距離と滞空時間を競うものであった。概観の優れた
ものは飛行が苦手であり、シンプルなものは飛行に優れていた。各班における気づきとメン
バーが得た主なものは以下である。
[1班]
テーマは「レトロ」で、ライト兄弟の飛行機ライトフライヤーⅠを 1/10 の寸法で製作する
ことを目標とした。たまたまであるが重
量は 1/1000 になっていた。下野君がリー
ダーとしての役割を果たし、非常にチー
ムワークの良いグループであった。扇風
機による揚力係数の算出も行っており、
機体は予定通りに順調に仕上がった。幾
何学的相似性のみにより機体 を製作 し
たため、飛行は困難であった。力学的相
似性の必要性を痛感 したことが最大 の
収穫であった。
[2班]
製作が困難な無尾翼機の製作が 目標
であった。リーダーとしての存在がない
ため、チームワークが良くなく、製作が
遅れていた。最大の問題は安定して飛行
する機体の決定であり、何種類もの形状
を紙で製作し、最良の形状を選択し、製
作した。製作された機体は安定性に欠け、
飛行はあまりできなかった。安定性の解
析とその実現が最大の難問であり、最大
の収穫であったと思われる。
-36-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
[3班]
グライダー製作に極めて意欲的な学生
のグループで、翼幅 2000mm で、操縦装
置(ラジコンによるエルロンを装備)を備
えた機体の製作を目標としていた。翼幅
2000mm の機体を製作する前に小型で操
縦装置を持たない機体を製作し、そこで製
作に関するノウハウを構築した点が特徴
である。機体は完成したが、競技において
は主翼が中央部分から折れ、飛行できなか
った。主翼の構造に問題があり、強度不足
が失敗の原因であった。
[4班]
羽ばたき飛行機の製作が目標であった。
非常に製作例が少ないため、サンプルを
購入し、その機体からノウハウを得てい
た。メンバーの協力体制が低く、製作が
進まなかった。一応は完成したものの、
羽ばたいて飛行することは困難であった。
報告書の製作には努力がみられた。
[5班]
丸みのある機体をもつゼロ戦を製作するのが目標であった。丸みのある機体の製作と塗装
をするため、スチレンペーパーで製作し
たいとの申し出で、材料を購入した。4
名中3名がボート部員であり、練習等の
都合で製作が遅れた。胴体の製作には苦
労していた。内部を発泡スチロールで製
作し、その周囲にスチレンペーパーを巻
くことで完成させた。翼部分も同様な制
作方法で、翼厚のあるものを製作できた。
見た目よりはよく飛行し、周囲を驚かせ
た。
-37-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
[6班]
Simple is best という言葉がぴったりで
あった。始めはケント紙を用いた紙飛行
機の優れた機体製作が目標であった。製
作段階で、紙よりもバルサ材の方が製作
および維持において優れていることが判
明し、バルサ材による製作に変更した。
かなりのテスト機を製作し、その経験か
ら最後の機体を完成させた。チームワー
クは極めて乏しい班であったが、何度に
もわたるテストからよく飛ぶ機体を見出
したことがよい記録につながった。
困難であったこと等
・ 材料の購入
様々な材料を必要な時に購入するのは容易ではない。宇部では入手できないため、東
京の画材業者から通信販売で購入することもあった。
・ 指導に関して
指導するというよりは、スケジュールを決め、相談にのり、材料を期日までに揃える
といったことが中心であった。学生のやる気を損なわないようにすることが重要であっ
たように思う。航空機の設計製作においては経験値が用いられていることが多い。
来年度に向けて検討課題
学生の努力により何とか機体が完成し、競技会を実行できたことは三上先生をはじめとする皆
様のご支援のおかげと感謝している。次回からの実行において、考慮したい事柄は以下のもの
である。
① 機械航空演習等の他の関連科目との関連づけ
② 学習すべき内容を吸収しやすいような支援(今年度の経験から、重要な項目の強調)
製作する機体の種類を制限しておくことも必要かと考えています。グライダー形式に制限
し、2年生のものづくり演習と、3年生の機械航空演習に関連をもたせることも必要かと思
います。
-38-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
3.2.2
平成 15 年度機械工学科 工学基礎実験(ものづくり創成実習Ⅰ)
機械情報教育コース 実施報告書
1.「ものづくり教育」について
ものづくりの経験と勉学意欲の乏しい最近の学生に対して、手を動かしてものづくりの楽しさ
を教え、工学への興味を湧かせるため、また機械工学の原点である設計を教育する上で重要な位
置を占めている。
2.カリキュラムの位置付け
機械工学科では、ものづくり(設計)教育の流れとして、図学、機械基礎製図Ⅰ、Ⅱ、工学基礎
実験及び工作実習(ものづくり創成実習Ⅰ、Ⅱ)
、機械設計論、機械航空工学演習を教育科目とし
て設置している。
3.目的、目標
ものづくりの経験と勉学意欲の乏しい最近の学生に対して、2年次に
(1)実際に手で触らせてものづくりの楽しさを教える
(2)機械工学を学ぶことの必要性、重要性を実感させる
(3)教育コース(機械情報教育コース)に即した内容で学習へのモチベーションを高める
(4)グループワークの必要性を教える
(5)学生の創造性を引き出す
ことを目的とする。
4.授業の具体的内容
1.移動ロボット
2.ものを壊してみよう!(ものづくり設計と製作そして破壊)
を設けて、後期、週3コマ(270 分)
、14 週をかけて実施した。各テーマ20名程度、2∼4名の
グループに分けた。各自積極的に取り組んだ。
具体的実施内容は別紙資料3、4に示す。
5.教育効果、成果
狙うべき教育効果として
・実際に手で触らせてものづくりの楽しさを教える
・機械工学を学ぶことの必要性、重要性を実感させる
・教育コース(航空宇宙教育コース)に即した内容で学習へのモチベーションを高める
・グループワークの必要性を教える
・学生の創造性を引き出す
を考慮した。残念ながら履修放棄者が1名いた。演習におけるプランづくりと設計、実際の製作、
-39-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
競技会での失敗、失敗の分析と改良などを通して、上記の目的を十分達成することができた。特
に講義科目との関連性、あるいは失敗させることにより各人の知識不足を自覚させ、講義を受け
て学ぶことが重要であることを認識させることができた。またグループワークのおもしろさも認
識させることができた。
6.学生の反応
学生からの本実習に対する評価は高く、
「グループ活動はおもしろい」
、
「座学で学んだことにつ
いてリアリティーが湧いてきた」
、など学生たちの興味を引くことができ、生き生きと取り組む姿
勢を引き出せた。
7.今後の課題
今後の検討課題として
・カリキュラムを開発したばかりなので工具類、器具類が足りず、また電池などの消耗品も
足りなかった。もう少し予算の追加が必要である。
・それまでに学んだ機械力学や材料力学が全く生かされなかった。この演習を1年次に持っ
て行き、この演習を行ってから機械力学や材料力学を講義すれば問題意識、学習意欲も格段に
違い、教育効果も高いと思われる。但し、キャンパスの問題もあり実現は簡単ではない。
が挙げられた。
添付資料:資料3,4 ものづくり創成実習 実施報告書
【資料3】
ものづくり創成実習Ⅰ 報告書
開講時期:機械工学科(昼間)機械情報コース 2 年次後学期
テーマ名:移動ロボット
担当教官:江 鐘偉 教授,藤井 文武 助手
受講者数:22 名(4 名班×1と 3 名班×6の計7班に分かれて受講)
1.演習の内容
(ア) 概要
本テーマは,機械工学科機械情報コース 2 年次の学生に対して開講された演習の 2 テ
ーマのうちの一つである.機械工学科メカトロニクス研究室(江研究室)で開発された
lazy vehicle 型の移動ロボット(ロボットキット:写真 1)を題材とし,これを利用し
た競技会を行うことを最終目標としてテーマのシラバスを構成した.本年度の競技会で
は
-40-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
◎
塀で仕切られた単純閉領域内にいくつかの障害物が配置されたフィールドが用意さ
れ,競技者はそのフィールド内を指定時間(3 分)障害物を避けながら走行し続ける競
技.実際に連続走行が可能だった時間の長さで優劣が決定する.
◎ それぞれ形状の特徴が異なり,検出するのに異なる戦略が要求される 3 種類の障害
物を,赤外線センサと接触センサをうまく使い分けることで判別する「物体識別」競技.
の2つの課題に挑んでもらった.これらの競技では,針金とプッシュスイッチを組み合
わせて構成される接触型センサの設計が成績の優劣を分けることになるが,
・センサの形状設計と加工
・センサの配置戦略
・キッドデフォルトの赤外線センサとの役割分担
の「ものづくりのアイディアと製作技術」に関する創意工夫と
・ルールに対応するアルゴリズム設計(アイディア)とプログラミング技術
の「プログラミングに関する創意工夫」
(広義の「ものづくり」
)の両面からのアプロー
チが可能なように配慮している.
写真 1:lazy vehicle 型移動ロボット(ロボットキット)
(イ)
演習の実施内容
本演習の対象は 2 年次の学生であり,C 言語の基礎知識は有しているものの「高級言語
と低級言語の差」
「アセンブリ言語の特色とできることの把握」
「PIC アセンブラの文法」
などの知識がないため,演習の 1/2 強はそのような基礎的素養の教授に費やした.同時
に「プログラムからロボットの動作制御を行う方法」についても演習を行い,ロボット
キット駆動プログラムの作成能力を身に付けさせた.なお本年度は初年度ということで,
キットの組み立て及びケーブルの作成にも 2.5 週を費やしている.
-41-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
<教授項目>
・演習の進め方と内容に関するガイダンス
・ロボットキッドの組み立てと各種ケーブルの作成
・制御用 CPU である PIC マイコンのプログラミング
・ロボットの簡単な駆動制御
・入出力のプログラミングの方法
・赤外線センサの駆動方法と,それを用いた動作制御
・接触センサからの情報の取得と,それを用いた動作制御
・簡易なタイマ機能の実現と,タイマを利用した実時間動作制御
・競技ルールの説明と競技用センサ(探触子)の設計
・中間報告会−競技に対するアイディアのプレゼンテーション+指定課題
・最終報告会−同上
本来,アセンブラのプログラミングを一通り習得しようと思えばそれだけで半期の演習が必
要となるだけの内容が含まれるが,本演習の目標を達成しようと思えばプログラミングだけ
に時間を費やすことは不可能であるため,ロボットの機能・動作を単位とし「それを実現す
るためのプログラムはこのようになる」と提示,学生はそれを習得する中でプログラミング
技術の細かいところを自発的に補間するという,いわばトップダウン型の教授法を採用した.
学生自身が興味のあるテーマであったことも手伝い,最終的にはプログラミングに関しても
一定のレベルに達し,競技に挑むレベルのプログラムを作成することができたと考えている.
(ウ)
成績評価について
最終成績は
・平素の演習への出席状況(欠格要件)
・教授事項に関する理解度を見るための小レポート
・最終発表の評価
・最終レポートの評価
を総合的に判断して行った.なお,最終レポートと同一の課題・フォーマットにて中間
レポートを提出させたが,受講生が本格的なレポートを作成するのは初めての経験とあ
って,形式・内容とも期待されるレベルに遠く及ばなかったため,修正点を指摘したレ
ポートを返却するとともに,
「レポートのまとめ方に関して」と題した小講義(別添の
PPT 資料を参照)を行い,レポートをまとめる上で留意すべき基礎的事項を教授した.
2.学科の教育プログラムにおける位置づけ
本科目は,機械工学科で従来 2 年次の学生に対して行われていた「工学基礎実験」に置き換
わるものとして導入されたものである.一方で機械工学科では数年前から就学意識の向上を
意図してコース制カリキュラムを導入しているが,昨年までの内容ではコース間の差異が余
-42-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
りなく,ともすれば学生の目的意識が希薄となりコース制導入の意図と実情が必ずしも符合
しない状態があったことは事実である.そのため,本科目の実施に当たっては「機械情報」
「航空宇宙」それぞれのコースの特色が反映されるようにテーマ設定が行われた.移動ロボ
ットは,機械情報コースを志望する多くの学生がロボットに対する興味を持っていること,
教授法の工夫により 2 年次学生に対しても演習が可能である点を考慮して選択されたテーマ
である.
3.期待される効果
(ア) 工学基礎実験に比べて
工学基礎実験においては当初からテーマが設定されており,学生は与えられたテーマを
順にこなしていく形となっていた.もちろん座学に較べれば実際的な対象を扱うもので
あり,学生の興味を喚起する効果もある程度期待できるが,テーマそのものは教育的観
点から選定されたものであった.
一方本演習では,各コースごとに 2 テーマが用意され,
学生の選択が可能な形となっているため,より自発的な学習を行う効果が期待される.
また,実験は 1 テーマ 1 週で完結するが,本演習は最終目標に対して段階を踏んで知識
を習得していく中で目標達成を指向するものであり,より「現実に要求される仕事の方
法」に近いアプローチが求められる点も,従来の個別テーマ実験ではなしえなかった利
点であるといえる.
(イ) グループ演習を行うことによるもの
グループを組んで作業を行うことで,
・課題に対するアイディアだしを複数人で行うことの意味(三人寄れば文殊の知恵)を
理解できる.
・自分が所属する班を基準とした相対的なものであるが,各人が自分の得手不得手を認
識することにつながり,それを教官がうまくサポートすることで弱点を克服するという
意識を持たせることが可能となる.
・前項にも関連するが,互いに影響を与え合うことのシナジー効果が期待できる
・一人ひとりがオールマイティではなくとも弱点を補完しあって目標を達成する役割分
担の持つ意味や,グループワークにおける構成員の責任の自覚を促す.
といった効果が期待できる.本年度は時間の都合でできなかったが,次年度はキットの
組み立てが不要となるため時間の余裕ができる予定である.そこで
・複数名でのアイディア出しの形式(brain storming)を実施する
ことも検討したい.一方,
・グループ内に 1 名「
(相対的に)できる」学生がいる場合,他の学生がその学生に依存
する形となる
傾向が 1∼2 の班において見られたので,その点については次年度以降担当教官がうまく
介入することで全構成員が有機的に機能するグループワークとなるよう指導を行う必要
-43-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
があるだろう.
4.実習の様子
本テーマ演習の模様を,いくつかの写真により紹介する.
-44-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
5.学生の感想
以下は,学生に提出させた最終レポートに記載された内容を抜き出したものである.全ての
内容を記載したため内容的に重複する部分もあるが,全ての意見を転記した.
(明らかに文法的におかしいものを除いて、基本的にはレポートの記載のままを書いてある)
l
本実習において、プログラミングでは思ったとおりにプログラムが組めず、どう直して
いいかもわからなくなったりして、プログラム言語を理解するのに大変苦労した。
接触センサの設計では、針金の強度の問題のため、針金の形や長さをどうするか何度も
作り直して、試行錯誤したことに大変苦労した。
-45-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
全体を通じて、ものづくりの難しさとともに楽しさを学び、グループの中で連携を取
り合って作業を進めていく行程は、他の講義にはない魅力を感じた。今後は、本実習で
経験したことを生かしてさまざまなことを学んでいきたいと考える。
l
センサについていろいろと理解でき、プログラミングも勉強になり、センサ工学の興味
が深まった。
l
センサの大体の仕組みが理解できたのが良かった。だが、調べていると他にもさまざま
なセンサの仕組みがあるので、そちらのほうもこれから学んで行きたい。
l
はじめはプログラムの意味などは全くわからなかったが、授業が進むにつれてだんだん
わかってきた。まだ完全ではないので継続して学んで行きたい。
l
私たちはこの実習を通じて、プログラミングの基礎と、仲間と試行錯誤する喜びを知る
ことができました。
l
うちの班は、一人もロボットに詳しい人やプログラミングに詳しい人がいなかったので
プログラミングがうまくできず、とても苦労した。しかし、こんな班でも同率 3 位とい
う結果となり、満足している。そして今回の実習で自分はソフトよりハードをいじるほ
うが好きな人間だと思わされた。
(自覚したということか?)
l
プログラムを作成するに関しても、ワイヤーでセンサを作ることに関しても、自分の思
い通りの動きをさせるということは非常に難しいと感じた。また、想像力と創造力の両
方が備わっていないと新しいものは作れないということを実感したが、同時に、自分の
頭の中で描いた形に近づけるための努力を惜しんではいけないと思った。
l
このものづくり創成工学演習では、プログラムなどの知識はもちろんだが、考えたこと
を形にすることの難しさ、思い通りのものを作ることの難しさを痛感した。苦労したこ
ともあったが、とてもいい体験ができた。他の機械工の授業でもこういう実験的なこと
ができたらいいと思う。
l
初めて PIC を使ったロボットを作成してみて、面白さと大変さがわかった。自分たちの
班は組み立て、プログラミング作業でよく苦戦していたので、TA や先生に助けられるこ
とが多かった。そのおかげで何とかここまでやってこれました。
l
ハンダ付けとか初めて経験するものもあって、いい経験になりました。プログラムを組
むのは難しかったけど、TA に助けられ何とかやれました。まだまだわからない事はいっ
ぱいあるけど、面白さがわかってきました。
l
ロボットを班員と一緒に作っていく中で、出来上がっていくのを見ると自分たちでもこ
のようなロボット製作ができるのだと実感できました。プログラミングは難しかったの
ですが、班員や TA に教えてもらいながら何とかやっていけました。
l
アセンブリ言語を使ったプログラムの作成は大変難しかった。
l
関係知識を調べてみて、原理や説明が理解しにくいものが多々あったため、調べるのに
苦労した。
l
タッチセンサーがうまく機能するときとしないときがあったため、その調整をすること
が大変だった。
-46-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
l
ロボットが物を避けることやプログラムでロボットを制御することは、大変興味深かっ
た。
l
これまでの授業でロボットを組み立てたり、動作プログラムを作ったり、接触センサを
作ってきたことの中で自分はロボットの組み立てのときはまだちゃんと儀やボックスを
組み立てるなどと仕事をしていたが、プログラムを作るのはどうしてもうまくいかなく
て結局できる人に任せることになったり、触覚センサ作りも作業するだけでアイディア
を出せなかったりしたが、みんなが協力してひとつのことをやっていくのはすごく楽し
かった。そのおかげで最後の競技会では満足のいく結果は出せなかったものの、残念で
はあるが余り落胆はしなくて済んだ。
l
今回 PIC を勉強してわかったことは、炉簿紺はプログラムとセンサの設計が鍵というこ
とだ。プログラムは C 言語等とは違うアセンブラと呼ばれる低級言語を使った。これは
C 言語等とは違いコンピュータに合わせている度合いが高いので理解が難しかった。し
かし命令等の構成は基本的に他の言語と似ているので、もっと勉強すればプログラムが
組めそうだと思った。一方センサは、どの部分に取り付けるか、どういった形にするか
が重要になってくるためいろいろ考えなければいけない。しかしセンサがよければプロ
グラムが楽になり、もっとできることが多くなるのでマイコンにおいてプログラムとセ
ンサは強いつながりがあるとわかった。最後の競技会では思うような結果が得られなか
ったが、競技会に向けて今までやってきたことは無駄じゃなかったと思った。今回の経
験はこれからの学習上、とても役立つと思う。
l
ものづくり創成演習では、センサつきの移動ロボットという比較的簡単なロボットにつ
いての構造や動作の説明、そしてアセンブリ言語を使った命令の書き方等を習ったが、
どれも基礎的ではあっても理解するのが困難だった。今回の競技会で、最終的にロボッ
トが全ての障害物を避けられるようになるかが楽しみである。
なお,ある班から以下の提案について記述があったので、それも以下に省略せず記載する。
一部の提案については来年度で対応することを考える。
l
授業中先生がパワーポイントで表示するプログラムを授業中に写すのは難しいので、
Web サイトなどで掲載してほしい。
l
PIC についての資料を何か下さい。
l
プログラムに割く時間を少し減らして、ロボットを作成する時間を増やしてほしい。
-47-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
【資料4】
ものづくり創成実習Ⅰ報告書
「ものを壊してみよう!(ものづくり設計と製作そして破壊)
」
○実習の内容
概要
1.教育コース名:機械情報コース
テーマ名:ものを壊してみよう!(ものづくり設計と製作そして破壊)
担当:専徳,木下,TA2 名
実施場所:D33 教室
グループ:
2∼3 名/1 班、計7班
2.持参するもの
ノートパソコン,はさみ,カッター,のり,テープなど,A1 ケント紙,方眼紙,銅線,ペンチ,
はんだ(銅専用)
3.日程
10/3
第 1 週:ガイダンス(全体説明,班分けなど)
10/10 第 2 週:設計(Shade を用いて全体設計)
10/17 第 3 週:設計(Shade を用いて全体設計)
10/24 第 4 週:設計(Shade を用いて全体設計)
10/31 第 5 週:製作
11/7
第 6 週:第 1 回競技会
11/14 第 7 週:第 1 回競技会
11/21 第 8 週:第 1 回報告会と再製作
11/28 第 9 週:再製作
12/5
第 10 週:第 2 回競技会
12/12 第 11 週:第 2 回報告会と再製作
12/19 第 12 週:第 3 回競技会
1/9
第 13 週:最終報告会
4.課題 「自動車」
条件
高さが 10cm 以上 15cm 未満
長さ 30cm 以上
5.競技会採点基準(10 点満点)
・変形量が 5mm 超えたものは破壊したとみなして,最も強度の大きいもの
-48-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
・総重量の軽いもの
・設計と実物の差が小さいもの
・デザインの優れたもの(案)教官,TA および学生で投票
上記 4 点の最も優れたものが優勝
○各学科の教育プログラムにおける位置
機械工学科での導入教育は1年次及び2年次において実施している。1年次における導入教育
は機械工学を学ぶための動機付けを行うものであり、2年次における導入教育は専門教育への橋
渡しをスムーズに行うためのものである。ものづくり創成実習Ⅰは2年次における導入教育とし
て位置付けられ、また、機械工学のもう一つの特徴である物作り教育への第一歩でもある。
○期待される効果
課題に対するものづくりを通して,ものづくりの面白さ,および課題と関連する物理現象を体
感し,工学との結びつきを考える.また,グループ作業を通してコミュニケーションやチームワ
ークの重要性を学ぶ.
・ものづくりの面白さを体験させる。
・物理現象を体感させ、工学との結びつきを考えさせる。
・学生が興味を持って機械工学に取り組んでいけるように、工学への興味を喚起させる。
・競技を通して学生が創造性を発揮できる雰囲気を作り、自由な発想を引き出す。
・グループで作業をさせることにより、コミュニケーションやチームワークの重要性を学ばせる。
○実習の様子(写真など)
○ Shade によるボディ設計
○
第 1 回競技会
○ 再製作
○ 授業開始時の成果発表
-49-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
○
○ 授業開始時の成果発表
○ 最終競技会
○ 骨組み製作
○
第 2 回競技会
○ 最終報告会
第 1 回競技会
○特に感心した班の写真
図
B 班の製作した F1 とハニカム構造
-50-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
○学生による評価など
学生による感想
l
この 3 回を通して,リアはほとんど変形しなかったのにフロントは何回やっても壊れた
ので,ほぼフロントの合成を上げるというのが課題になっていた.実際の車と同じレイ
アウトということでやっていたので,後方のように斜交バーを入れるわけにもいかなか
ったので難しかった.しかも,後部より人の乗る前部が先に壊れるなんて言語道断であ
る.後 1 回できたらと思うと無念でならない.しかし,実験自体は面白くもっとこのよ
うな実習的な授業があってくれた方が個人的にはうれしい限りである.
l
今まで材料力学しかり,力学を本や先生の話を聞いたりして学んできたが,どうも現実
味がなく力学は形耐状的なものだった.しかし,今回の実習により,材料力学というも
のを目で見る事ができリアリティーがわいた.
l
材料力学のことをあまり考えないでやったことが反省点です.
l
最初の条件は全班等しく,その中で最もよい結果を競うという点で非常に新鮮だった.
結果として目標は達成されなかったのではと思われる.その理由として軽量化というコ
ンセプトを優先したため,材料の変更や最適な底面からの角度を算出するなどはなかっ
た.今思うと,銅線はより太いものを使用する.3 度目のものなどはつなぎを一番下ま
で届かせるなどすればよかったと気付かなかったことが多々ある.
l
この実験より,良い物作りを完成するために本当に難しいということが分かった.どう
してかというと,軽量化と強度を一緒に果たすのが一番難しかった.
l
今回のこの実験をとうして,ものをつくることの難しさが痛感された.耐久性と軽量化
を考え,デザイン,快適さ(実際に人が乗れるかどうか)を考慮してつくる車が,今回
のようにそれがおもちゃであったとしてもそうとうな苦労を強いられた.三回目は残念
ながら納得のいかない結果になってしまった.自信があっただけになおさらくやしいも
のだった.
3.2.3 平成 15 年度機械工学科 工作実習(ものづくり創成実習Ⅱ)
1.目的
ものづくりの現場を知らなくては優れた機械装置の設計は困難であるため、
・ものづくりの基本である加工を体験させる
・ものづくりの面白さを体験させる
・学生が興味を持って機械工学に取り組んでいけるように、工学への興味を喚起させる
ことを目的とする。
2.実習の具体的内容
2年次通年で行われる。コースごとにものづくり創成実習Ⅰと半期ごと入れ替わりで実施され
る。1学年を16班に分け(6人程度/班)
、週2コマ、5週5テーマ(1テーマ/週)で行う。
-51-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
実習テーマは下記のとおりである。
1.旋盤加工(ペーパーウエイトの作製1)
2.フライス加工(ペーパーウエイトの作製2)
3.手仕上げ(ペーパーウエイトの作製3)
4.NC旋盤
5.溶断・溶接
ペーパーウエイト(文鎮)は、1年次授業 図学 で製図した図面をもとに、各自1個実際に製作
する。
3.実習風景
QuickTimeý Dz
ÉtÉHÉg - JPEG êLí£ÉvÉçÉOÉâÉÄ
ǙDZÇÃÉsÉNÉ`ÉÉǾå©ÇÈÇ…ÇÕïKóvÇ-Ç•ÅB
QuickTimeý Dz
ÉtÉHÉg - JPEG êLí£ÉvÉçÉOÉâÉÄ
ǙDZÇÃÉs ÉNÉ`ÉÉǾå©ÇÈÇ…ÇÕïKóvÇ-Ç• ÅB
フライス加工
ボール盤による穴開け加工
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溶接・溶断
-52-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
3.2.4 平成 15 年度競争的カリキュラム開発費会計報告(機械工学科)
収入
学部長裁量経費
¥1,100,000
機械工学科共通経費
¥47,266
計
¥1,147,266
支出
品名
数量
小計
分類 テーマ
ロードセル
1
¥34,650 消耗品
4
USB シリアル変換アダプター
2
¥13,230 消耗品
3
ステンレス管
5
¥15,750 消耗品
2
IO データカード
1
¥4,095 消耗品
2
DV テープ
1
¥1,480 消耗品
2
カッターナイフ
1
¥168 消耗品
2
V 字クリップ
1
¥105 消耗品
2
のり
1
¥294 消耗品
2
はさみ
1
¥924 消耗品
2
デジタルパネルメータ
1
¥5,145 消耗品
2
ポテンショメータ
1
¥3,240 消耗品
2
送料
1
¥1,212 消耗品
2
バルサ材
1
¥5,648 消耗品
2
フィルム
1
¥2,100 消耗品
2
接着剤
2
¥740 消耗品
2
モデルロケット入門セット
1
¥45,150 消耗品
1
ロードセル
1
¥34,020 消耗品
1
小型ロードセル
1
¥30,450 消耗品
4
スタンド
1
¥3,750 消耗品
4
アルミプレート
1
¥8,330 消耗品
4
ソニアシャフト
2
¥3,336 消耗品
4
PCMC カード型アナログ入力
1
¥44,000 消耗品
4
汎用端子台
1
¥22,675 消耗品
4
ブリッジボックス
1
¥26,250 消耗品
4
スタンド
1
¥3,350 消耗品
4
シンチュウクランプ
2
¥8,720 消耗品
4
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
カイテンジク
2
¥3,514 消耗品
4
カイテンジク
1
¥2,678 消耗品
4
アルミローレットハンドル
2
¥1,570 消耗品
4
ホルダ
2
¥5,340 消耗品
4
ネジ
2
¥2,320 消耗品
4
ネジ
1
¥3,480 消耗品
4
アジャスタパッド
1
¥210 消耗品
4
アジャスタパッド
4
¥440 消耗品
4
プレート
1
¥8,269 消耗品
4
三脚
1
¥8,925 消耗品 共通
カメラケース
1
¥4,063 消耗品 共通
ドライバー
5
¥3,570 消耗品 共通
はんだごて
5
¥4,950 消耗品 共通
はんだごて台
5
¥4,500 消耗品 共通
はんだ
5
¥4,252 消耗品 共通
カッターナイフ
2
¥554 消耗品
2
ボンド
1
¥181 消耗品
2
カッティングマット
6
¥4,632 消耗品
2
ケント紙
5
¥475 消耗品
2
バルサ材
2
¥400 消耗品
2
バルサ材
2
¥340 消耗品
2
バルサセルフ
1
¥230 消耗品
2
バルサセルフ
1
¥200 消耗品
2
タクザイセルフ
1
¥140 消耗品
2
アルミパイプ
1
¥300 消耗品
2
木工用アロンアルファ
3
¥960 消耗品
2
アロンアルファプラスティック
1
¥420 消耗品
2
ノンスリップ A ガタ
2
¥560 消耗品
2
シンチュウ栓
1
¥90 消耗品
2
SP ラッカーアクリル
1
¥740 消耗品
2
紙やすり
2
¥116 消耗品
2
紙やすり
1
¥285 消耗品
2
PIC16F873 用マイコン基板
20
¥56,700 消耗品
3
センサ用ボード部品代
20
¥56,700 消耗品
3
PIC16F873 マイコン
20
¥16,800 消耗品
3
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
ツインモータギヤボックス、タイヤ
30
¥25,305 消耗品
3
¥19,110 消耗品
3
¥2,500 消耗品
3
部品(スイッチ、電池ホルダー、針金、アクリル板等)
¥34,472 消耗品
3
電池
¥12,285 消耗品
3
スペーサー
¥13,230 消耗品
3
DVテープ
¥2,898 消耗品
3
コネクター
上質紙
微差圧変換機
1
¥97,650 備品
2
動ひずみ測定器
1
¥147,000 備品
4
ビデオカメラ
1
¥114,450 備品
共通
CAD ソフト
1
¥160,650 備品
4
計 ¥1,147,266
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
3.3 応用化学工学科
3.3.1 応用化学工学科 ものづくり創成実習テーマ
本年はこれまで行われている「応用化学工学実験Ⅰ∼Ⅳ」のうち、ものづくりの基礎となる7
つの実験テーマを当学科の実習テーマと位置付けて実施した。
<応用化学工学実験Ⅰより>
● 洗剤の合成:せっけんと界面活性剤であるSDSを化学合成する。
● 染料と蛍光色素の合成:染料と蛍光色素を化学合成する。
<応用化学工学実験Ⅱより>
● ニュートラルキャリアーを用いたイオンセンサー:イオン電極を作製し、実際に
使用して得た結果についてはネルンスト式などを用いて理論的に解釈する。
● エレクトロクロミックディスプレイ素子の作製:導電性高分子を用いてECD素
子を作製し、電気化学的手法により得た結果を比較しデータを読む力を養う。
<応用化学工学実験Ⅲより>
● ポリマー合成:スチレン、メタクリル酸メチル、および酢酸ビニルの合成
● ガラス細工:ガラスの切断、曲げ、接続等によりガラス細工を行う。
<応用化学工学実験Ⅳより>
● 化学・バイオプロセスの設計:化学・バイオプロセスの設計ソフトを使用し、排
水処理プロセスを設計し、性能評価、コスト評価などを行う。
本年は既存のテーマについて、実施方法を工夫したり、グループごとに内容を変えたり、プラ
スα的な実験を追加するなどして、ものづくりテーマを計画した。これらはものづくりの基礎と
なる技術を習得してもらうことに重点を置いたものである。しかし、学生にとってはⅠ∼Ⅳの実
験のどれがものづくり実習であるか知らせておらず、実際、実験をしてみてそれを意識できなか
ったものもあると考えられる。このような反省を踏まえ、来年度は応用化学工学実験Ⅰをすべて
ものづくり創成実習とし、基本的には前述したものづくりの基礎となる技術の習得に力点を置く
も、本年度の「競争的カリキュラム開発」
(上村助教授が実施)で行った少人数で興味を持って取
り組める実験の試行をから得られた効果や問題点(報告書参照)を考慮した内容にしていく。
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
3.3.2 ものづくり型教育方法の開発 化学系学科における試行的実験
1.序論
ものづくり型の教育が必要であると叫ばれるようになって久しい。戦後日本はものづくりを重
視することで復興し経済発展を遂げてきた。Japan as No1 といわれ、経済繁栄をもたらしたまさ
にそのとき、気がつけばものづくりを担う人材はいつしかいなくなり、空洞化が進んでいたと認
識されている。便利になったおかげで、コンピュータの画面上で「バーチャル」にものを作ること
はたやすくなった反面、現実に「プロダクト」としてものをつくれなくなっている、といわれる。
半田付けのできない電子技術者などはまさにその典型といえよう。
化学は工学と理学の中間に位置し、学問の科学的な側面が重要視されるのと同時に、産業とし
てのウエイトも非常に大きい。ものを生み出す側面の化学は、広く合成化学に位置づけられるが、
これの基本は化学反応であり、化学実験である。実験はすべての化学の基本であるのでこれまで
も応用化学工学科では、応用化学工学実験Ⅰ∼Ⅳの授業科目を設け、これを 2 年生前期から 3 年
生後期までの 2 年間割り当てて、実験授業を行ってきた。加えて、卒業研究以降の研究室配属後
は、学部・大学院を通じてその専門分野での実験中心の研究活動を通じた教育を行ってきた。
研究室配属前の応用化学工学実験は確かに少人数の学生向けの初歩的な実験を配置し、専門へ
の橋渡しを担ってきたが、その内容は、実際に学科・学部が所有する装置や面積に依存したり、
あるいはスタッフの力にも左右されたりして、昔ながらの実験が進められてきた。その結果、い
くつかの実験は明らかに時代に取り残されたテーマを継続して行っており、またいくつかの実験
は器具と装置の不足のために満足に実験が行えない状況のまま今日を迎えている。したがって、
現在の化学のレベルにあった教育が行えておらず、化学系の学部教育を貧弱化しているといえよ
う。化学の進歩をうまく取り入れて、時代にマッチした技術者を教育するためには、実験授業の
改善は「まったなし」であるといえる。
実験は一人でやってこそ楽しい。一人でやってこそ、最大の教育効果が得られる。実験から後
処理、精製そして構造決定までを一人で行うことで、実験の楽しみも生まれるし、実験者への学
習効果も最大限に上がる。2 名以上のグループ実験では、まったく効果が得られない。また、手
を動かしてこそ楽しいし、考える力も生まれる。そこで、ものづくりの側面から「合成化学」にお
ける新しい学生向け実験を企画し、合成化学を一から学習できる中身の濃い 21 世紀型の学生実験
の方法論を呈産すべく、以下の試行実験を企画し実行した。
2.実験に必要な条件
学生実験に必要な条件をいくつかまとめ、それに合致するテーマを選ぶ作業から始めた。学生
実験として必須の条件は以下のポイントにまとめられる。
第 1 条件は再現性である。実験をマニュアルどおりに実行し、少なくとも 90%以上の場合、想
定された結果を与えなければならない。合成化学において再現はすなわち予定生成物を単離でき
ることになる。化学実験にはいくつもの未確定なファクターが入り込む。それらには指針書を正
しく実行しない学生側の問題から、その日の温度や湿度、あるいは思わぬ事故や事件(試薬をこぼ
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
してしまうとか、試薬のさじを偶然入れ替えてしまうとかなど)まで含まれる。加えて合成反応の
中には本当に再現するのに「熟練した技」を要求するものもある。したがってはじめての合成実験
となる低年次の学生にとっては、再現性のよい(言い換えれば信頼性の高い)実験を課題として選ぶ
ことが最も重要となる。Organic Synthesis は古くから確実性の高い実験のみを掲載した雑誌で
あり、ここに掲載された実験は確実にうまく行くことが保障されている。そこで、今回のテーマ
はここから選ぶことにした。また、指導者自身の経験から、絶対にうまく行く反応もこれ以外に
いくつか知っている。それらも実験のテーマの候補として考えた。
次に、時間的制約が大きな問題なってくる。すなわち、学生実験の授業形態が現行では週に 1
度 5 時間という形をとっており、これが合成化学にははなはだ非常に不都合である。多くの合成
反応は、反応を仕掛けて、その後 12 時間以上かき混ぜて、それから反応をとめて単離・精製操作
に入るのが一般的である。したがって、「今日仕掛けた反応は、明日処理する」というスケジュー
ルにしたがって行うものばかりである。混ぜて(反応させて)数時間で反応完了し、単離精製まで 5
時間以内に行える反応は、稀有である。時間割の関係でやむをえないものがあるものの、実験カ
リキュラムを改善していくためには、2 日連続実験をクオーター制で導入するなどの対策が不可
欠であろう。今回は試行実験の形をとりカリキュラム上の夏休み期間に 2 日連続して実験するス
タイルをとることにして、この制約を離れて、適した実験題材を選ぶこととした。
装置の問題も大きい。学生実験では同一テーマで多くの学生が実験する。したがってその数だ
けのガラス器具をはじめとする装置が必要となる。また、同じ条件で実験するとほとんどの場合
同じ結果を与えるので、学生の学生意欲を保ちづらくなることも想定される。理想的には同じ反
応を違う基質(原料)を用いて一人一人異なる生成物を得る反応を行うのがよい。
そのためにはスケ
ールは小さくてよいが同じ実験を多数、同じ条件で実行できる装置が有効に作用する。これは近
年の合成化学で使われている「コンビナトリアルケミストリー」の考え方に他ならない。研究所で
はこのコンビナトリアルケミストリーを一人の研究者が実行し、短期間に膨大な種類の化合物を
合成し、生理活性探索を行っている。ここでは学生実験であるから、コンビナトリアルケミスト
リーの装置を使って、一つ一つの合成実験を一人一人の学生に操作させて行うことにした。この
考えに基づき、カローセル液相コンビナトリアルケミストリー実験装置(YMC 製)を導入した。
生成した化合物の単離精製の問題も重要な問題である。反応終了後の反応フラスコには、主生
成物のほかに未反応の原料や副生成物が反応溶媒中に混合物として混じっている。これらを分離
し、目的の主生成物のみを生成するにはいくつかの方法があるが、学生実験で使える精製法は、
抽出、再結晶、蒸留に限られてしまう。したがって、生成物がこのような精製法で単離できるか、
あるいは反応が非常にきれいに進んで未反応の原料や副生成物をきわめて微量にできる反応であ
るか、いずれかが学生実験で実行可能な反応となってくる。
最後に、生成した化合物の構造決定を行うことができることが重要となる。現在、化合物の決
定は NMR(核磁気共鳴装置)で構造決定するのが当たり前である。どんな化合物も NMR で決
定できるといって過言ではない。しかし、学生実験では今まで全く NMR を利用しておらず、実
験の生成物も作りっぱなしで、なにが出来たかきわめてあいまいなまま放置してきた。このこと
で、実験で作ったものにも愛着もわかないし、受講学生たちにもなにをしてきたか、満足感も与
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
えなかった。何よりも社会にでてこの分野で必須とされる NMR に関する教育も全く行えないま
ま放置されていたことは大きな問題であった。そこで、この実験では生成物を NMR で構造決定
まで行うことにした。しかし、複雑な化合物の NMR チャートをいきなり学生に示しても、解析
ができるわけがない。できるだけ単純でしかもそのエッセンスが凝集されたチャートを示すこと
ができる生成物を与える反応でなければ、来満足な教育効果は得られないことになる。そこで、
生成物の NMR チャートも考えながら実験テーマを選ぶことにした。
これらの問題を勘案して、実験テーマの設定と学生実験を行うマニュアルの作成を行った。
3.実験テーマの設定
実験させるからにはなるべく新しい化学反応を用いたほうがよい。さらに誘導体を似も適用で
きる汎用性の高い反応である必要がある。さらに窒素置換や無水操作などの少々熟練を要する操
作を必要としないものがよい。実験時間は一晩とし、第 1 日に実験の原料を仕込み、反応させる
までを行い、第 2 日に反応を停止して一連の後処理を行うように計画した。また、生成物の構造
決定も合成実験では重要な位置を占めるので、これもあわせて行えるように考えた。
実験のテーマのひとつは遷移金属触媒を用いるカップリング型の反応を選んだ。種々のカップ
リング反応の中でも、Org. Synth.に記載されているアミノ化反応を取り上げた。この反応は他の
カップリング反応と異なり、
1)カップリング相手の原料に市販の1級アミンを用いることができる
2)それほど反応操作に厳密性を要求しない
3)ハロゲン化アリールに臭化物を用いられるので、こちらも市販の原料が多種類入手できる
この反応を学生実験に適するようにマニュアルを書き換え(原文は英語)
、うまく進行するかど
うかのチェックを TA の大学院生を用いて事前実験を数回繰り返した。
種々のアミンを用いたが、
ブチルアミン以外では再現性のよい結果が得られなかったので、アミンとしてはブチルアミンだ
けに限定した。一方ハロゲン化アリールの方はいくつかの市販のブロモアレーンを用いても反応
はうまく進行することがわかったので、ブロモベンゼン、m-ブロモトルエン、o-(ヒドロキシメ
チル)ブロモベンゼンを基質として用いることにした。
この反応は操作が容易なので、反応を仕込む第1日の時間が大幅にあまってしまう。また、万
一反応がうまく行かなかったとき、第2日でする実験がなくなってしまう。そこで、確実に進行
し、何らかの結果を学生に与えるためにもうひとつ実験テーマを作ることにした。
ニトロアルカンのマイケル付加反応は Org.Synth.には記載されていないものの、非常にうまく
行く再現性のよい反応である。また、分子量が上がる反応なので、原料のニトロアルカンや不飽
和カルボニル化合物は、低沸点のため後処理中の溶媒除去の段階で除けてしまう。したがって特
に精製操作を行わずとも純度の高い生成物を得られる便利さもある。そこでこの反応もマニュア
ル化して、本実験に追加することにした。
最終的に作ったマニュアルを以下に示す。
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
応用化学工学実験 3 追加実験1
Sept. 2003
パラジウムを用いた芳香族アミンの合成
H
N
Br
+
CH3CH2CH2CH2NH2
R
Pd2(dba)3
rac-BINAP
NaOtBu
R
第1日
カローセルの反応容器にスターラーバーを入れる。ふたをして、5 分間窒素を流す。Pd2(dba)3,
ラセミ体の BINAP,NaOtBu を薬包紙で秤量する。反応容器のふたを取り、すばやくこれらを移し
たあと、再びふたをして、10 分間窒素を流す。次いで、トルエン(1ml)をシリンジで加えてよく
かき混ぜ、Pd 以外の試薬を溶かしたあと、置換ブロモベンゼン、ブチルアミンを規定量だけシリ
ンジで測り取り、反応容器に加える。最後に再びトルエン(1ml)をシリンジで加えながら、壁面に
ついた試薬を洗い流し、全量を反応できるようにする。反応溶液を攪拌しながら、冷却ヘッドに
水を通じてから 80℃にセットして加熱する。
第2日
反応容器のふたを開けて、キャピラリー差し込んで、反応溶液をすくいあげ、それを TLC にス
ポットする。反応の原料の溶液も同時にスポットする。展開して反応がどの程度進行したか目安
をつける。分液ロートおよび 100ml 三角フラスコを準備して、溶液を分液ロートにうつす。反応
容器を飽和食塩水(10ml),イオン交換水(10ml)ですすいで、分液ロートにうつす。さらに反応容器
をエーテル(10ml)で洗って、分液ロートにうつし、エーテル(10ml)で 3 回抽出する。有機層を一
緒にし硫酸ナトリウムで乾燥させる。質量をあらかじめ秤量した 50ml のナスフラスコとろうとを
使ってろ過し、溶媒をエバポレーターで減圧留去する。最後に真空ラインにつなぎ、過剰量のア
ミンを除去する。フラスコを秤量し収量ならびに収率を求める。できた生成物の、1H-NMR を測定
し生成物の構造ならびに純度を検定する。
entry
allyl halide
n-BuNH2
NaOtBu
Pd2(dba)3
BINAP
toluene
yield(mol%)
1
0.11ml
0.24ml
0.1345g
0.0075g
0.0090g
2.0ml
86%
2
0.187g
0.24ml
0.1345g
0.0076g
0.01g
2.0ml
88%
3
0.171g
0.24ml
0.1345g
0.0081g
0.0093g
2.0ml
82%
Br
Br
OH
Br
1
3
2
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
応用化学工学実験 3 追加実験2
Sept. 2003
ニトロ化合物のマイケル付加
R
DBU
+
NO2
Y
O2N
Y = CO2Me, CN, COCH3
Y
R
第1日
50mLの三角フラスコをはかりに乗せ、風袋消去ボタンを押す。2−ニトロプロパン(1.07 g, 12
mmol)を秤り取り、アセトニトリル(5mL)を加える。活性オレフィン(10 mmol)を加えて均一に溶
かす。DBU(1.52g)をフラスコに加えながら秤取る。フラスコが加熱するのがわかる。フラスコ
はアルミホイルでふたをしてそのまま室温で放置する。
第2日
キャピラリーを導入し、TLC をチェックする(実験 1 参照)
。反応溶液に 20mLの1M 塩酸を加
えて、分液漏斗に移す。反応フラスコにエーテル 20mLを追加して、内壁をリンスして、それ分
液漏斗に加える。分液漏斗を振騰してから静置し、有機相と水相を分離する。水相をさらにエー
テル 20mLを使って 2 回抽出する。有機相をまとめ、硫酸ナトリウムで乾燥する。ろ過し、溶媒
を減圧濃縮して、得られた生成物を秤量し、収量を求める。NMR にて構造決定と純度検定を行う。
活性オレフィンの例
Ph
CO2 Me
C5H8O2
Mol. Wt.: 100.12
Ph
CN
C4H5N
Mol. Wt.: 67.09
Ph
O
C10H10O
Mol. Wt.: 146.19
O
Ph
C15H12O
Mol. Wt.: 208.26
-61-
CN
C9H7N
Mol. Wt.: 129.16
Ph
CO2Me
C10H10O2
Mol. Wt.: 162.19
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
4.実験者の募集と実験の実施
マニュアルを作った時点で、実験を行う希望学生を募った。この実験は有機合成実験であるの
で、応用化学工学科3年生前期で行う応用化学工学実験Ⅲを履修済みの学生が対象となる。時期
も7月でちょうど応用化学工学実験Ⅲの終了するころであったので、この実験の時間でアナウン
スを行い、事務室で掲示、希望者の登録を行い、最終的に3名の応用化学工学科 3 年生の学生(大
原裕樹・永田義明・野口沙織)を対象に実験を行うことにした。この数は初めて設計した学生実
験を実施するには適正な数と思われた。
実験室の空き時間と学生たちの都合を考えて、
実験の実施を 2003 年 9 月中旬の 2 日間とした。
最終的に 9 月 17∼18 日(水・木)の午後、本館北側3階の化学実験室でこの実験を行った。
実験の準備(第 1 日)
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
試薬の秤量(第 1 日)
カローセルにアミノ化反応を仕込む(第 1 日)
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
仕込み終わったアミノ化反応。このまま一晩加熱
仕込み終わったマイケル付加反応。このまま一晩室温で放置
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
TLC による反応の進行ぐあいのチェック(第 2 日)
後処理の抽出操作
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
TA の指導による溶媒の除去(第 2 日)
6.実験の実施においてわかってきたこと
実験に対して簡単なレポート(成績は今回はつけていない)を課し、提出させた。レポートは
この報告書の巻末に添付してある。
実験そのものに対してのレポートは学生たちもある程度わかっていたが、今回最後に行った構
造決定に関する部分はずいぶんと苦労したようであった。しかし、NMR スペクトルの学習にお
ける問題、すなわち、自分と縁のない化合物を題材に勉強しても全く実感がわかず学習できない
問題、に関してはずいぶんと改善されたようで、各学生とも自分が苦労して作った化合物のスペ
クトルであるためか、真剣に考えてスペクトルの解釈と構造決定を行っていた。この点は非常に
学習効果の高い題材が提供できたと考えている。
学生たちの実験に対する評価はおおむねよく、楽しく実験できたと答えている。また、専門性
の高い実験を、自分ひとりの力で実験できることに満足してくれていた。したがって、当初の狙
いはおおむね達成できていると評価できる。
しかし、教員側や実験実施に対しては多くの問題が提起された。まず、負担の問題である。3
名の学生に対して教官 1 名 TA1 名の非常に教員/学生比の大きな、恵まれた体制で実験できたに
もかかわらず、実験授業前および最中の教員サイドの負担は著しく大きく、もしこの数倍の学生
がやってきたとしたら、実験が到底実施できなかった状態であった。ひとつにはこの実験がはじ
めて行ったものである点もあって、マニュアルをさらに改善することでこの問題の回避はある程
度可能であると思われる。しかし、そうもいかない点もある。例えば、実験の最後に行った NMR
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
の測定では、ひとつのサンプルあたり最低でも 5 分は必要で、また、この装置を習熟してない学
生に操作させることが出来ないために、
どうしてもTA もしくは教員が測定してやらねばならず、
これにかかわる教員サイドの拘束が非常に負担となった。
しかし、総じて教育効果は高い実験が開発でき、これをさらに洗練していくことで、低年次の
学生実験にも教育効果の高い実験の導入が可能になってくることと思われる。ちょうど学生実験
室の改築も行われ、さらに安全性ならびに教育効果の高いものつくり型の学生実験の導入が促さ
れていると思う。しかし、一人一人の学生が実験を進めるにはガラス器具などがまだまだ不足し
ている。今回はパイロット実験であったので、休みの期間を利用して 2 日間連続のプログラムを
組めたが、今のような学生実験の実施体制をとる限りこのようなことは出来ない。時間割やカリ
キュラム制度の問題の解決にも議論を始めていく必要がある。今回の成果はそれに大きな力にな
ることを期待したい。今回の実験企画を機会にこれからも予算措置を要求しながら、制度面の改
善も急ぎ、次年度以降も西日本の大学の化学系学科を代表するような学生実験の導入を目指した
検討を進めたい。
7.この実験の実施にかかわったメンバー
実験主催および実行:上村明男(応用化学工学科・助教授)
協力メンバー:堤宏守(応用化学工学科・助教授)
TA:田中啓一(理工学研究科応用化学工学専攻修士 1 年)
3.3.3 平成 15 年度競争的カリキュラム開発費会計報告(応用化学工学科)
収入
1,149,589 円
支出
カローセル
(液相コンビナトリアル反応装置)
600,000 円
同 消耗品セット
(シリコンゴムシール、攪拌子ほか)
150,000 円
ガラス器具等
(ガラス切り、丸底フラスコなど)
399,589 円
合計
1,149,589 円
-67-
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
3.4 電気電子工学科
3.4.1 競争的カリキュラム開発内容報告
∼ワンチップ・マイコンを利用した電気電子工学学生実験の拡充と
PC を用いた計測システムの整備∼
電気電子工学科 学生実験 G
1.ものづくり創成実習カリキュラムに関する背景と目的
電気電子工学科では,平成 15 年度入学生から「電気電子工学基礎実験Ⅰ,Ⅱ」
(各1単位)を
「ものづくり創成実習Ⅰ,Ⅱ」
(各1単位)と改め,学生にものづくりを通じて体験的な学習をさ
せることで,作る喜びや完成の達成感を体得させることを目指しているが,これらの実験実習科
目は電気主任技術者資格取得のための必須科目として位置づけられており,いわゆる完全な創成
科目的な取り扱いはできない.そこで,ものづくり教育を上記2科目のみに集中させるのではな
く,基礎セミナー,電気電子工学応用実験,情報処理関係科目,応用的科目,特別講義等と連携
することで,さらに実りのあるものづくり教育の実践を計画している.このうち,ものづくり創
成実習カリキュラム開発に関する助成を受け,以下のカリキュラム整備を進めたので報告する.
「ものづくり創成実習Ⅱ」
(2 年後期)
・ ワンチップ・マイコンを利用した基礎実験
・ PC を用いた計測システムの整備
「電気電子工学応用実験Ⅱ」
(3年後期)
・ ワンチップ・マイコンを利用した創成実習
・
PC を用いた計測システムの整備
2.カリキュラム内容と評価
(1)ワンチップ・マイコンを利用した基礎実験(ものづくり創成実習Ⅱ)
電気電子工学応用実験Ⅱ テーマM[3]の内容を基礎レベルに重点を置いた形でシェイプアップ
し,ものづくり創成実習Ⅱの1テーマとして新たに導入した.具体的には,前半の課題を整理し
て,1日のテーマとして運用できるようテキスト[2]と機器を整備した.これにより,動作する「も
の」を「つくる」ための土台作り(ソフトとハードの連携)ができたものと考える.
日程終了後に行ったアンケート結果[4]によると,実験のインパクトや面白みといった,その後
の学習につながる要素項目に高い評価を得ただけでなく,受講生の 8 割以上が実験後の達成感を
訴え,より高度な内容の履修について要望したことから.次年度(H16 年度下期)に予定するデ
ザイン型指向テーマ(電気電子応用実験 II で実施予定,内容については後述)への布石ができた
ものと判断している.
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
(2)ワンチップ・マイコンを利用した創成実習(電気電子工学応用実験Ⅱ)
今期は,H14年度に電気電子工学応用実験Ⅱで実施した「ワンチップ・マイコンの実験」にロ
ボット制御課題を組み込んだ形でテーマを再構成した[3].この内容は経費申請時の提案内容であ
る「コイン識別機」と異なるが,理由については後述する.
昨年度に続いて,ワンチップマイコンの実験(電気電子工学応用実験 II)の日程終了後に独自
の学生アンケートを行った.この中で特に「ものづくり」的要素の高い質問4項目を抜き出し,
前年度分と併せて整理した[5].なお,平成 15 年度の実験テーマ実施上,前年度からの変更点は
次の通りである.
・ループタイマの課題を省略した.
・ライントレース・ロボットの制御課題を追加した.
●結果
Q2:予備知識の有無
受講者のマイコンに関する予備知識は2割以下であり,これは前年度と変わらない.
Q3:実験後の達成感
両年とも,8割以上の学生に(実験後の)達成感を与えることができたようである.
Q7:より高度の内容への要求
より高い技術習得への要求が7割から9割へと高まった.
Q8:具体的なものづくりへの要求
ソフトウェアだけでなく,ハードウェア設計を含む実際のものづくりへの要望がほぼ倍増
した.
●評価
アンケート結果を見る限り[5],より高度な技術水準や内容を志向する学生の興味や活力を引き
出したという点において,今回導入したロボット課題導入が有効な教育的効果を及ぼしたものと
判断できる.これは,本実験テーマのゴール(あるいはターゲット)を「動く物の速さ」に設定
したことによるものと理解している.カリキュラム上の時間的制約により,今年度は予めこちら
で用意したハードウェア(ロボット)を使い,学生にはソフトウェア面での自由度を与えたに過
ぎないが,今後学生に設計段階から取り組ませるテーマ構成とすれば,
「ものづくり」への関心は
飛躍的に高まることが予想される.
以上を踏まえ,以下では平成16年度下期試行を想定した学生実験におけるものづくりテーマ
課題を見直す.なお,ハードウェアの設計・試作において,センサ類やその他電子部品の動作確
認やシミュレーションのために計測制御ソフトウェア LabVIEW の利用は欠かせないことを付記し
ておく.
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
<新カリキュラム修正案_H16 年度下期に試行予定>
● 背景
今期電気電子工学応用実験 II(2 日間)において,昨年度までの課題(温度制御)に加えてロ
ボット制御の課題を実施した.ロボット制御は温度制御に比べて視覚的なインパクトが高かった
ようであり,実験日程終了後に行った独自アンケートの結果にも反映されていた.すなわち,自
走して動く「もの」に対する高い興味と関心がうかがえた.これは多分に「速さ」を目標とした
「競争要因」を実験テーマ内容に持ち込んだことで,学生の興味や集中度を喚起することができ
たことによるものと考える.一方,ものづくり創成実習 II(旧電気電子基礎実験 II)でも PIC の
応用例としてロボットの概要説明と動作デモを行った.こちらも学生の感触は良好であった.
ここでは,ロボット制御の学生実験テーマへの具体的な導入を考える為,先ず申請時に提案し
た課題である「コイン識別機」との比較を行う.
課題の比較検討
(a)ロボット制御
・ 頭脳の部分(マイコン部分)以外はプラモデル感覚で取り組める要素があり,グループ間の
創意工夫の広がりが期待できる.
・ マイコン技術に対応できる少数のスタッフのみで基礎から応用段階まで一貫して対応できる.
・ ラップタイムによりランキングを付けるので,競争心をかきたて積極的な取り組みを引き出
す可能性がある.
(b)コイン識別
・ 金属材料,電子回路,電磁気,機械構造など幅広い知識が必要となり,対応に多くの専門ス
タッフを必要とする.
・ 電気的な識別の手段としては電気抵抗があるが,その値に大きな違いはないので選別のため
の電子回路系がシビアになる.
・ 識別の結果は正か誤の2段階となるので,(a)ほどの競争心が引き出せない.機械系の工作に
おいて多種多様な材料や部品が必要となり,それらの調達作業が繁雑となる.
従って,限られた時間配分の中で基礎から応用に至るだけでなく,ものをつくる工程を体感さ
せる素材として,現時点では「ロボット制御」を中心に試行するのが得策と考える.この試行に
より,情報を集約するだけでなく,常に内容のシェイプアップを図り,将来的なデザイン型指向
の課題作成に対する布石とする.
●概要
各班1台のライントレース・ロボットを製作し,最後に競技会を開催する.ロボット性能は,
予め決められた周回コースのラップタイムで評価する.また,スタート前に各班5分間程度,ppt
(パワーポイント)を用いてロボットの製作コンセプトや製作過程などの説明紹介をさせ,発表
内容を評価に加算する.なお,競技会当日の模様はネットワーク経由でライブ中継し,当日の録
画映像および製作の様子を後日 WEB サーバで配信する.
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
●基本方針
1) ものづくり創成実習 II(ワンチップマイコンの実験)で習得した技術をベースとする.
2) (競争のための)基本条件を揃えるため,以下の共通部品を各班に支給する.
駆動系(モータ,ギアボックス,車輪)
,光センサ,電子部品(PIC 等)
電池,車体材料
3) 規定のコースを何度も試走して,目標を達成するまでチューニングを行わせる.
なお,正確・俊敏な動作を実現するため,ロボットの性能を決める条件としては次の項目が想定
される.
・ホイールベース(最小回転半径,小回りが良すぎると脱線する)
・モータの回転速度(ロボットの速度,早さを競うが早すぎると脱線する)
・センサの取付け(路面との距離が適切でないと誤動作・脱線する)
● 具体的な課題とチェック要素(デザイン型実験のための布石)
・ DC モータの回転制御
コースに適した回転速度のための技術
単純に抵抗で電圧を落とすか,PWM を使うか等
PWM の場合,PIC のプログラムで対応するか,専用の IC を使うか等
左右の駆動方法に工夫
・ 光センサの適切な取扱い
仕様に従った取扱い,動作距離や感度,外乱光対策など
・ プログラムの良し悪し
無駄のないアルゴリズム,例外処理(脱線からの復旧など)
・ 電子回路の信頼性,半田付けの確実性
・ 全体のチューニング
よりスムーズな走行を目指した各部の調整作業(機械系・電気系)
●実施日程
月1回程度の3日間コースを想定しているが,将来的には各班で随時(夏休みも利用)作業す
る実施形態が望ましい.なお,日程の途中で一度代表者を呼びだして途中経過について中間報告
をさせ,その後の製作上のヒントを与える場合も想定している.評価は全日程終了後に行う予定
である.
1日目(設計)
・製作手順説明,競技ルール説明
・工程表作成,役割分担,必要物品リストアップ(企画力養成)
・設計図作成(外観・内部のデザイン力養成)
・機械加工(工作機械や工具の利用法習得)
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
・フローチャート作成(プログラミング)
2日目(製作)
・プログラミング
・ロボット製作(加工,組み立て)
3日目(調整)
・チューニング(試運転)と手直しの繰り返し
・試走ラップタイム計測,各自で評価
●注意事項その他
・工作作業に伴う怪我への対応(保険加入の確認)
・鍵付きロッカーを購入して期間中各班に貸与(製作途中のロボット保管)
・工作機械は工作室(A109)の機械を使用.工作センターも活用?
・工具は事前に必要な物を調達
・コース設置のための広いスペースを確保
●教育効果
本課題では,電気系のものづくりの楽しさを実感させることを目的とするため,試行錯誤を繰
り返しながら目標達成をはかるプロセスを重視する.期待される教育効果として以下のようなも
のがある.
・ 自分たちで工程管理しながらプロジェクトを進める能力を養う(MOT に関わる工程管理の実
践).
・ 調達物品の納期と自分たちのスケジュールの調整が行えること.
・ 競争原理により達成感を味わえるよう配慮する.
・ 簡単な工作機械・工具が扱えるようにする.道具の名前くらいは最低覚えさせる.
(3)PC を用いた計測システムの体験
(ものづくり創成実習 II,電気電子工学応用実験Ⅱ)
今期,ワンチップ・マイコンの実験他いくつかの学生実験テーマにおいて計測制御用グラフィ
カルプログラミングソフトウェア LabVIEW(National Instrument 社)による計測を体験させた.
具体的には,以下のテーマを対象とした.
「ものづくり創成実習Ⅱ」
(2 年後期)
・ CR 回路の過渡特性
・ 温度センサ:熱電対とサーミスタ
・ ワンチップ・マイコンの実験
・ ノート PC の活用 II(温度センサの一部を利用)
「電気電子工学応用実験Ⅱ」
(3年後期)
・ デジタル信号処理:DFT&FFT
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
・ ワンチップ・マイコンの実験
テキスト化した資料を別紙1∼3に添付する.以上の実験テーマのうち,
「CR 回路の過渡特性」
と「温度センサ」については,LabVIEW のリアルタイム信号計測を積極的に導入しただけでなく,
近年電気電子子学科で新入生に購入を義務付けているノート PC 活用の一環から,多機能表計算ソ
フトウェア EXCEL と連動することを試みた.なお,EXCEL の具体的な使用法については,別途「ノ
ート PC の活用 I,II」として実験テーマを設けている.ここでは,特に LabVIEW を積極的に導入
した「デジタル信号処理:DET&FFT」の実施内容と評価について報告する.
<電気電子工学応用実験Ⅱ ディジタル信号処理:DFT&FFT の実施概要>
●内容
実験内容理解の促進のため,積極的に LabVIEW を導入した学生実験テーマである「デジタル信
号処理(電気電子工学応用実験 II)」
では以下の項目順に実験を行った
(∼以降は理解させる項目).
1) A/D 変換器による標本化の実習
∼解析対象信号の周波数成分とサンプリング条件の関係
2) フーリエ変換の信号処理法と物理的意味の理解
∼波形とスペクトルの関係
3) 窓関数のスペクトルに与える影響
∼窓関数の種類とスペクトルの形状の関係
4) 自己相関関数の物理的意味の理解
∼パワースペクトルとの違い
5) 計測制御ソフトウェア LabVIEW のプログラミング体験
∼ソフトウェアの基本的な使用法学習
6) 実際の生体信号計測と処理
∼心音センサを使って自分の心拍・呼吸信号を LabVIEW で可視化
●使用装置(1班・3名以内で1セット使用)
パーソナルコンピュータ、LabView、DAQ カード,オシロスコープ、発振器,心音マイク
●期待される効果
日本の大学での知名度や認識は未だ低いが,Test & Measurement World 誌によると,National
Instruments
(NI)
製計測・制御ソフトウェア LabVIEW は 2002 年を境に Microsoft 社の Visual Basic
系のシステムを抜いて世界一のシェアを持つ PC ベースの計測制御アプリケーションの地位を確
保した.アメリカの大小あらゆる企業や研究分野で導入が進んでおり,一部では学生の就職面談
の場で LabVIEW に関する知識やスキルを問われるケースも報告されている.従って,昨年度まで
実施されていた PC9801(NEC)と N88-Basic をベースとした教材に替わって今回導入した最新の
計測・制御環境の整備は,社会トレンドに適合した取り組みといえる.全国的にみてもこうした
ソフトウェアを教育現場への導入した事例は未だ少ないためか,2003 年以降,日本 NI はアカデ
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
ミック向け教育素材の開発に特に力を入れている. LabVIEW のメリット は Graphical User
Interface(GUI)が充実し,実感的要素に富むなど数多くあるが,特に次の点が学生の実験内容
理解と応用展開にとって効果的と考える.
・vi(仮想計測器)を中心としたオブジェクト指向であり,vi の中身を見れば大抵の処理フロ
ーが理解できる.
・コーディング(ワイヤリングという)環境が視覚的でユーザフレンドリィである.
・各計測器メーカが測定機器について vi をライブラリィ化している.
●学生の反応と今後の展開
今回は準備の都合上事前に実験書が配布できなかったが,LabVIEW ベースの環境下ではデータ
の処理の流れは vi により,またその解析結果はグラフにより瞬時に可視化されるので,学生の理
解も予想以上に速かった.また,現時点で LabVIEW が導入されていない他の計測系テーマを履修
した学生からは,
「なぜ LabVIEW で測定するようになってないのか?」といった指摘も多く寄せら
れた.従来の目視やコマンドラインで操作する計測系が時代遅れであることが学生に自然と伝わ
っただけでなく,実験テーマ毎に異なるニーズに合わせた計測・解析系の構築といった,研究室
レベルでの取り組みの一端を体験させることが,現象に対する学生の理解と興味の喚起を促して
いるようであった.
従って,今後積極的に学生実験の各テーマへの導入を試みるとともに,LabVIEW
を使えるような教育・訓練テーマを構築していく必要を感じた.
【参考資料】
[1] 山口大学工学部電気電子学生実験委員会編,電気電子基礎実験指導書,山口大学工学部電気
電子工学教室,2003 年.
[2] 基礎実験Ⅱ(M.ワンチップ・マイコンの実験)実験テキスト,2003 年.
[3] 応用実験Ⅱ(M.ワンチップ・マイコンの実験)実験テキスト,2003 年.
[4] 基礎実験Ⅱ
H15 年度授業評価アンケート集計結果,2004 年 2 月実施.
[5] 応用実験Ⅱ(M.ワンチップ・マイコンの実験)H15 年度授業評価アンケート集計結果,200
4年 1 月実施.
3.4.2 平成 15 年度競争的カリキュラム開発費会計報告(電気電子工学科)
収入
1,100 千円
支出
消耗品一式(電子部品等)
115 千円
LabVIEW 教育用ライセンス,DAQ カード
751 千円
LabVIEW Pro
136 千円
ノート PC(DELL INSPIRATION1100)
98 千円
合計
1,100 千円
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
3.5 知能情報システム工学科
3.5.1 ものづくり創成実習 情報工学実験及び演習Ⅲ
知能情報システム工学科(昼間コース3年前期・必修2単位)
ハードウェア系
ソフトウェア系
目的 ソフトウェア及びハードウェアに関する実際に即したテーマをそれぞれ6週間にわたって
行い、問題分析から実装までの総合的な能力を身に付ける。
※ハードウェア系2テーマ中1テーマ、ソフトウェア系2テーマ中1テーマを選択
1.画像処理(ソフトウェア系・前半)
基本的な画像処理手法を習得し、それらの手法を具体的な画像処理問題に応用する。ソフトウ
ェアの開発課程や内容についてプレゼンテーションを行う。
元画像
エッジ抽出
2.創造的コマンドウェアの作成(ソフトウェア系・後半)
自分の設定したテーマに沿ってソフトウェアの作成を行うことで、ソフトウェアの開発手順の
概要と流れを理解する。ソフトウェアの開発課程や内容についてプレゼンテーションを行う。
基本設計 → 外部設計 → 内部設計 → プログラム設計 → テスト,評価 → 運用
システム(ソフトウェア)開発の流れ
3.ハードウェア記述言語によるマイクロプロセッサ設計及びアセンブリプログラミング(ハー
ドウェア系・前半)
ハードウェア記述言語を用いた論理回路設計を通じて、LSI設計の流れを理解する。
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
Design
Entry Tools
回路
入力
Synthesis Tools
ネット
リスト
論理合成
Implementation
Tools
配置配線
論理
シミュレーション
FPGA搭載
ボード
タイミング
シミュレーション
回路設計の流れ
シミュレーションの一例
4.ディジタル信号処理(ハードウェア系・後半)
ディジタル信号処理の基礎理論を学び、その理論をディジタル信号処理専用ハードウェア
(Digital Signal Processor; DSP) を用いて実現する。
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
実験機器(マルチファンクションシンセサイザ、ディジタル信号処理システム開発用ボード、
オシロスコープ)
3.5.2 平成 15 年度競争的カリキュラム開発費会計報告(知能情報システム工学科)
収入
600,000 円
支出
単価
数量
合計
オシロスコープ
65,940
9台
593,460 円
3.6 機能材料工学科
ものづくり創製実習紹介(機能材料工学科)
概要:機能性材料を創製するためには分子・原子レベルのサブナノスケールからの物質合成およ
びナノスケールからパノスコピックスケールでの物質合成の制御および微細加工が必要となる。
当然、このスケールでの“もの”は目にはっきりと見ることはできない。機能材料工学科におけ
るものづくりではこのようなスケールで物質を扱い制御する“手”と物質の状態を観測し、評価
できる“目”を養う必要がある。このためには、実習外の講義・演習で得られる知識に基づいて、
無機物質、有機物質の取り扱いとその性質や構造等の観測手法を体験することが重要である。機
能材料工学科のものづくり創製実習では、このような物質の取り扱いの“手”
、
“目”を養成する
ための基礎的な操作について実習する。
また、講義・演習の進度にあわせ、高年次で開講する機能材料工学実験においてものづくり教
育の一環として、ガラスの性質、セラミックス−金属複合材料の性質をマクロな視点で体験する。
ここでは、実際に、七宝による金属―ガラス複合体の作成および、実験器具であるガラス細工に
よるリービッヒ冷却管の作成を行い、生活や実験で用いる身近な“もの”を作ることにより、物
質の性質の理解を深める。
以下に、七宝の製作とガラス細工によるリービッヒ管の製作に関して紹介する。
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
七宝の製作、
銅板上に銅と同じ膨張係数を有するガラスの粉末を組み合わせ複合体を作成する。
実習風景
銅板上への絵付け 電気炉で焼成
完成品
ガラス細工によるリービッヒ管の製作
ガラス管を切断、溶接、の工程を組み合わせてリービッヒの冷却管を作成する。
実習風景1
実習風景2
ガラス細工:完成品
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完成品
山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
3.7 感性デザイン工学科
3.7.1 競争的カリキュラム開発内容報告
科目名:感性工学実習(選択必修科目)
15年度責任教官:田渕義彦
実習の内容:
履修した34名の学生は6つの班に分けられた.毎回の実習で,各班は8つの実習テーマ
のうちいずれか一つを実施し,実験・調査データを得た.データ分析を行い,その内容をレ
ポートにまとめ,翌週に提出を行った.なお,実習テーマのうちには複数週にわたるものが
あった.また,実験・調査以外に,班分け,各テーマの内容と趣旨説明,レポートの書き方
の説明,研究・調査結果の発表会を行うコマが準備されていた.
競争的資金は,テーマのうち1つ(パソコンを用いたカラー印刷における色彩計測管理技
術)において利用する分光則色計,色彩照度計を購入するのに使用された.色彩は様々な製
品の印象や機能を決定する上で非常に重要な特性である.学生の関心も高い.しかしながら,
色彩の表現に関しては,主観的記述のみならず,物理的指標として数値化されていなければ
工学的なものづくりのプロセスには乗せ難い.これらの装置は,本来主観的事柄である色彩
の物理的特性の数値化と,その具体的特性の理解を可能にするために必要不可欠の道具であ
る.
本年度は,このテーマでの実習を実施した最初の年であり,まずは実験内容を軌道に乗せ
ることが目指された.マンセル色票を測定の対象とし,3波長型蛍光ランプ昼白色(5000K)
および白色蛍光ランプを用い,等価的座標を求めさせた.学生の提出したレポートの内容に
より,どの学生においても,色彩の物理的特性,その主観的特性と物理的特性との関係の理
解が達成されたこと,工学的ものづくりにおいて色彩に対してどのような配慮をすべきか自
発的に考察することを促せたことなどが見て取れた.これらのことより,本年度当初の目的
である,本テーマでの実習課題を軌道に乗せることは達成されたと評価している.来年度以
降も同様の内容での実習を行う予定をしている.
支出内訳
品目:分光則色計,ハードケース(ミツワ理化学)
1,228,500×1=1,228,500
品目:色彩照度計,フード(ミツワ理化学)
261,450×1=261,450
合計
1,489,950 円
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
3.7.2 ものづくり創成実習報告
科目名:感性工学実習(選択必修科目)
15年度責任教官:田渕義彦
実習の内容:
履修した34名の学生は6つの班に分けられた.毎回の実習で,各班は8つの実習テーマのうちい
ずれか一つを実施し,実験・調査データを得た.その結果得られたデータ分析を行い,その内容をレ
ポートにまとめ,翌週に提出した.
テーマA,B:タウンウォッチング(SFX21 方式まちづくり手法) 担当:酒井,山本
テーマC:Web 作成
担当:宗近
テーマD:ディジタル画像処理 担当:三池
テーマE:コンピュータグラフィクスの基礎と光学測定技術
担当:多田村
テーマF:パソコンを用いたカラー印刷における色彩計測管理技術
担当:田渕
テーマG:ミューラー・リヤーの錯視:調整法を用いた錯視量の測定 担当:一川
テーマH:音楽聴取時の快適感の脳波測定による評価 担当:北原
【担当教官休のため今年度は開講されなかった】
テーマ I:室内熱環境の測定と評価 担当:中村,福代,山下
これらの実習テーマのうちには複数週にわたるものがあった.また,実験・調査以外に,班分け,
各テーマの内容と趣旨説明,レポートの書き方の説明,研究・調査結果の発表会を行うコマが準備さ
れていた.
実習においては,研究対象に対して探索的にアプローチし,その結果を分かり易くかつ説得力ある
ように他者に伝えることを推奨した.例えば.テーマA,B(タウンウォッチング)に関しては,山
口大学工学部キャンパス内を班別に実地調査(フィールドワーク)し,キャンパス内の諸施設の特徴,
問題点をマップ上に整理させた.その上で可能な改善策をディスカッションさせ,その内容を報告会
において公表した.報告会においては,課長以下本学事務職員にも出席していただき,意見交換も行
われた.キャンパスという身近な環境における計画についての具体的方策について考えさせることに
より,ものづくりとしての環境設計,システム構築に関する実践を体験させることに成功したものと
評価している.
各テーマにおいても,実験条件や測定方法,分析方法を学生自らに考案させたり,得られた結果を
効果的に他者に伝える視点を培う工夫がなされた.そのまとめとして,各班がそれぞれの研究テーマ
に関して,分かったこと,考えたこと,課題などをまとめてプレゼンテーションする機会をもうけた.
現在,その報告会をまとめた URL を製作中である.各テーマ別に今年度の成果,問題点を整理した上
で,実習内容をさらに効果的にする改善を施した上で来年度の実習を実施する計画である.
なお,本学科では 2003 年度入学生より 2 コース制が取られている.そのため,来年度この科目は,
メディア情報コースでは必修科目,人間空間コースでは選択科目として実施される予定である.
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
3.7.3 教材開発
感性工学実習テキスト
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
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山口大学工学部附属ものづくり創成センター年報 Vol.1(平成15年度)
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