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脚気 - 沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 総合内科

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脚気 - 沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 総合内科
合同カンファレンス
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 初期研修医 永田恵蔵
症例:48歳 男性
【主訴】 下肢のしびれ・疼痛、呼吸苦、動悸
【現病歴】
統合失調症で近医精神科外来通院中の方。
来院の2ヶ月前から、両ふくらはぎのしびれ、疼痛があり、
湿布をするようになった。改善が見られず、2週間ほど
前から立位や歩行時にふらつくようになりあまり動けず、
ほとんど寝たきりの状態でトイレには這って行く状態。
そのころから両上肢の脱力および動悸、息苦しさも
出現した。これらの症状の増悪を認めたため当院救急搬送
となった。悪心・嘔吐や下痢なし、発熱なし。
【既往歴】
#統合失調症(17年前〜)
【薬剤歴】
① リスペリドン(2)3T/2(1T−0−2T)
② アキリデン(1)1T/1
③ フルニトラゼパム(1)1T/寝る前
【生活歴】 一人暮らし。 喫煙:20本/日以上
飲酒:以前は飲んでいたが、現在はほとんど飲まない。
Discussion 1
追加で聴取したいことは? 【来院時身体所見】
BP 100/30 HR 120 RR 18 BT 37℃ SpO2 97%
General: 下肢痛のためベット上臥床 Cons: GCS E4V5M6 eye: 貧血なし、黄疸なし oral:不衛生 tongue:繊維束攣縮なし Neck:甲状腺腫大なし、リンパ節腫脹なし lung:呼吸音 清 左右差なし
心音 整 S1↑S2→ S3(-) S(-) 心雑音なし
abd:肝脾腫なし。右下腹部便塊触知。
rectal exam:便塊を触知。肛門括約筋緊張低下。
ext:軽度下肢圧痕性浮腫、末梢四肢脈拍触知良好
skin:dry,四肢の日光が当たる部分の色素沈着
【神経学的所見】
・脳神経
眼球運動障害なし。顔面神経麻痺なし
聴覚消失なし。顔面感覚障害なし。舌運動良好。
その他の脳神経所見問題なし
・MMT
deltoid(5/5) triceps(5/5) biceps(5/5) brchio(5/5)
grip(4/4) wrist ext(4/4) wrist flex(4/4) iliopsoas(5/5)
quadriceps(5/5) hamstrings(4/4) gastro(5/5)
TA(4/4) FHL(5/5) DHL(5/5)
【神経所見続き】
•  両下腿〜足、前腕〜
手pin prickで感覚低
下 •  Babinski 反射± •  Romberg sign + 【現病歴つづき】
排尿、排便もどうにかできていた。
便秘で排尿は分かりにくいとのこと。
食事はごはんと蒲焼の缶詰が多く、たまに弁当を買う。
体重減少はなく、薬の管理は自分でしているが
怠薬や過剰摂取はない。
Discussion 2
追加で聴取したいことは? 鑑別疾患は? 必要な検査は? 採血結果
《CBC》 WBC 5500/μlRBC 301×104/μl Hb 11.1g/dl Hct 33.5% MCV 111 fl PLT 27.7×104/μl
《Biochemistry》
Na 132 mEq/l K 4.1 mEq/l Cl 99 mEq/l Ca 10.0 mg/dl
TP 6.2g/dl Alb 3.9g/dl BUN 21 mg/dl Cr 0.8 mg/dl GOT 31IU/ml GPT 17 IU/ml LDH 258 IU/L CPK 889 IU/L 血糖 164 mg/dl CRP <0.10mg/dl TSH 1.696 μU/ml FreeT4 1.60 ng/dl
《ABG》
pH 7.492 PO2 88 PCO2 31.1 HCO3 23.6 room air
心電図
・胸部Xp
Discussion 3
Problem list は? problem list
#下肢痛 #腱反射消失
#歩行障害
#Romberg sign 陽性 #上肢脱力
#大球性貧血 #偏食
#低ナトリウム血症 #呼吸苦
#動悸
#喫煙歴
#バイタル変化(HR>BP)
#脈圧開大
#Ⅰ音亢進
#便秘
#下肢浮腫
#感覚低下(両下腿〜足、前腕〜手) 四肢のしびれ、疼痛が来たら・・・。
1.アプローチ ① 具体的な症状 ・感覚障害(感覚低下、知覚過敏、異常知覚) ・疼痛(冷感も含む) ・運動障害(運動麻痺、運動失調、不随意運動) ② 発症 ・突発性(何時何分、何をしていたとき) → 血管障害を考える。 (急性動脈閉塞、脳血管障害、脊髄障害) ※ 「寝て起きたら」は突発性の可能性がある!! ・ 急性〜亜急性(◯日くらい前〜、◯週間くらい前〜) → コンパートメント症候群、多発性硬化症、帯状発疹 Guillan-­‐Barre症候群、絞扼性末梢神経障害 ・慢性〜緩徐(◯ヶ月くらい前〜) → 糖尿病性神経障害、ビタミン欠乏症(B1,B6,B12) 傍腫瘍症候群、脊椎障害(頸椎症、椎間板ヘルニア) ② 部位 ・まずは皮膚、筋肉、関節、骨のどこの問題かを調べる。 ・感覚障害があれば皮膚分節を意識!! A.脊髄障害(myelopathy) 原則的には病変が隣接する皮膚分節にまたがる 対麻痺が見られることがある。 B.神経根障害(radiculopathy) 病変が特定の皮膚分節に一致する。 ※ 末梢神経支配領域とは不一致。 C.末梢神経障害(neuropathy) 病変が末梢神経支配領域に一致。 ② 部位 ・末梢神経障害は3つに分かれる。 a.単神経障害(mononeuropathy) b.多発単神経障害(mononeuropathy mulFplex) 複数の単神経障害(基本的には非対称) c.多発神経障害(polyneuropathy) 四肢の末梢優位(手袋靴下型) ・一枝の場合:血流障害(末梢神経支配と不一致) 脊髄/神経根障害、単神経障害 ・複数の場合:脊髄障害(対麻痺型、宙吊り型、片側体幹型) 多発神経障害 多発単神経障害 1 重湾輔輔
上肢の末梢神経
I
末梢神経の解剖(1)°主な上肢の末梢神経の走行と機能( 連動支配・感覚支配) を以下に示す
・全身および局所( 陰部) のデルマトームを以下に示す
運動支配
運動支配
支配する
脊髄神経
脊髄神経
主な末梢神経
筋支配( 主な運動)
C 5 ∼C61°三角筋・…・
6 。 三角筋・…・ …・
一
再一服高神経lC5∼C
服窟神経
…・ ………………肩関節(
………………肩関節( 上腕) 外転
ごFi
C 5 ∼C 6 。 上腕二頭筋など(上腕屈筋)
一筋皮神経lC5∼C6・上碗一頭筋など(
一
筋皮神経
上腕屈筋)…肘屈曲と前腕回外
…肘屈曲と前腕回外
全身のデルマトーム
E腿
一梼骨神経
CC5∼C8
5 ∼C 8
。 上腕三頭筋など( 上腕伸筋群) …肘伸展と前腕回外
。・ 前 腕 の 伸 筋 群 … … … … … … 手 根 背 屈
一正中神経
経
CC6∼T
6 ∼T 1
。°前腕の屈筋群・………・
前腕の屈筋群・………・ ・ ……前腕回内. 手根掌屈
・。 母指球筋……………………母指∼中指屈曲,
母
指対立
母指対立
一尺骨神経
C088∼TT1
。 前腕前面尺側筋群…………手根掌屈
指の開閉
・ 手掌尺側の筋群・・…………・
手掌尺側の筋群……………指の開閉
EMG
- - C 2−
〃
C3
C4
T2
mM5
、M3
T3
一
一
T
5
一
一
T2
旧
一
ね
−
m
c9f,
T.
1NIP
T12
一一へ
恩●
戸
一、
S2
■:脹寓神経
上肢を支配する末梢神経は.
ロ:筋皮神経
全て腕神経叢出来である.特
画:棟骨神経
に.:正中神経
に,尺骨・正中・榛骨神経
は手指の運動と感覚を支配す
一:尺骨神経
るため.上肢の三大神経とよ
下肢の末梢神経
I
末梢神経の解剖( 2 ) 。主な下. 肢の末梢iIll経の走行と機能( 巡動支配・感覚支配) を以下に示す.
sf
2
'5
5
右足
L
3
、ノ
S2
悔
む
ロ
○
L4
運動支配
運動支配
支配する
脊髄神経
脊髄神経
主な末梢神経
Sp
、4
鴎
産
凸 凸 ■ ■ ■ ■ 白 白 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ▲ ■ ▲ ■ 凸 血 凸 ■
Ⅱ
2
目
2
■
5
■ ● ■ ■ ■ ■ ロ ■ ● ● ● ● 巴 ■ ● ■ ■ ■ 凸 ■ 凸 ■ ■ ■ ■ 。
ばれる.
司
L
3
● ● ● ■ ● ● ● ● ● ● ● 。
8
誰
’
、ノ
■ ● ■ 巳 C e ● ● ● ● b ● 。
感覚支配( 皮膚)
││’'
示些ブ盾
四
2
■ 母 ■ ■ ● ■ ● ② 句 ● ● ● ● 車 ● 巳 ● 。
、AC
1-1
L
1
−
m
−
m
6
N
T
T7
7
2
一大腿神経
経
'L- 4
Lロ 22∼
∼
筋支配( 主な運動)
。。腸腰筋………………………大腿の屈曲(
腸腰筋………………………大腿の屈曲( 股)
・ 大腿四頭筋( 大腿直筋など) …下腿の伸展( 膝)
L 2 ∼L 4
−−閉鎖神経lL2∼L41o長内転筋.薄筋……………大腿の内転(
一
閉鎖神経
。 長内転筋,薄筋……………大腿の内転( 股)
S1
坐骨神経
L 4 ∼S 3
膝屈筋群……………………下腿の屈曲( 膝
)
。 膝屈筋群……………………下腿の屈曲(
膝)
L 4 ∼S 221・前1
総緋骨神経lL4∼S
浬骨筋など…………………足首・足吐の背屈
・総緋骨神経
。 前腰骨筋など…………………足首・足赴の背屈
= 2 階ヨ
S1
u5I
S1
S
1
1
1-5 S
L 5 ∼S 3 31。下腿三頭筋など………………足首・足赴の底屈
・ −−腰骨神経lL5∼S
一
睡骨神経
。 下腿三頭筋など………………足首・足赴の底屈
砂
、
、
.
。 ●●●●■。 ●■■●●●■。 ●●■●■●■●●●■●●●。 ●●●●●●●●●c●●■●■●●●●●ゆ●●●●●●●●●●●●●●ゆ●●●●◆●●Qq●●●●p ●●●●●●●●●ロ ●●●●
皮層)
感覚支配( 皮膚)
陰部のデル マ ト ー ム ’
ロ:大腿神経
垂
童:閉鎖神経
鴎
一:総緋骨神経
画:腿骨神経
川
川
″
f
l
い
S3
ロ2
叶
州
い
ふ
州
︾
。 人体で一番長いとされる坐骨
神経から.総排骨神経.腰
骨神経がそれぞれ分枝する.
このため.坐骨神経の障害で
は,総緋骨神総および腰骨神
S3
鰯
ロ2
∼ 一
経の障害が生じうる
ロ
鴎
配
⑧
o脹寓神経:a X i l l a l r y n e r V e o 筋皮神経:m U S C U I O C U t a n e O U S n e r V e o 撲骨神経:r a d i a l n e r V e o 正中神経:m e d i a n n e 『Ve
o尺骨神経:Ulna「nerVeo大腿神経:f e m O r a I n e 「 Veo閉鎖神経:O b t U r a t O r n e r V e o 坐骨神経:S C i a t i C n e r V e (i S C h i a t i C
n e r v e )。総緋骨神経:commonpe「 o n e a l ( i i b u I a r )nerveo腰骨神経:t i b i a l n e r v e
。 皮麿分節( デルマトーム):de「 matOme
254』"〃“/、『“Rg/もノ℃"“G"ノ火
256』〃〃h心”Iαノ況L2/Z,ノwI“G"雌
ところで、四肢のしびれ、疼痛を来す疾患の中で
・見逃してはいけない疾患 急性動静脈閉塞(血栓症、塞栓症)、急性大動脈解離 頭蓋内疾患(脳梗塞、脳出血、脳腫瘍)、Guillain-­‐Barre症候群 緊急性のある脊髄疾患(多発性硬化症、出血、膿瘍、腫瘍) Compartment症候群、傍腫瘍症候群 ・よくある疾患 絞扼性末梢神経障害(手根幹症候群、肘部管症候群) 脊髄障害(頸椎症、椎間板ヘルニア) 糖尿病、閉塞性動脈硬化症、ビタミン欠乏症(B1,B12など) 帯状疱疹(初診時は、皮疹がないことが多い。) 過換気発作(初回の場合は重篤な疾患の存在には注意が必要) 薬剤性 病歴、身体所見に注目すると
四肢のしびれ、疼痛 → NO → YES
↓ 血流障害の有無 →
↓ 中枢神経障害の有無 →
・急性動静脈閉塞症 ・急性大動脈解離 ・コンパートメント症候群 ・糖尿病性足壊疽 ・脳出血、梗塞 ・椎骨脳底動脈解離 ↓ 末梢神経障害の有無 →
↓ 感染、炎症性 →
・化膿性関節炎 ・膠原病性関節炎(RA,SSC) ・蜂窩織炎、静脈炎 ・帯状疱疹 ・痛風、偽痛風 →
・電解質異常 ・不随意運動 ・Raynaud現象 ・過換気症候群 ・心因性 ↓ その他 ・末梢神経障害 診断フローチャートへ つづき
末梢神経障害 → NO → YES
↓ A.脊髄障害 →
・多発性硬化症 ・脊髄空洞症 ・外傷性脊髄損傷 ・脊髄出血、梗塞、膿瘍、腫瘍 (myelopathy) ↓ B.神経根障害 → ・椎間板ヘルニア ・頸椎症 (radiculopathy) ↓ C.神経障害 (neuropathy) ①単神経障害(mononeuropathy) → ②多発単神経障害(mononeuropathy-­‐mulFplex) ③多発神経障害(polyeuropathy) 末梢神経障害を来す疾患 ①単神経障害(mononeuropathy) 絞扼性・圧迫性神経障害 ②多発単神経障害(mononeuropathy-­‐mulFplex) 血管炎:結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、SLE アレルギー性肉芽腫性血管炎、Wegener肉芽腫症 糖尿病性ニューロパチー ③多発神経障害(polyeuropathy) 代謝性:糖尿病性ニューロパチー、尿毒症 ビタミン欠乏症(B1,B6,B12)、アルコール性ニューロパチー 甲状腺機能低下症、アミロイドーシス 薬物性、傍腫瘍症候群、多発性骨髄腫、Guillan-­‐Barre症候群 慢性炎症性脱髄性多発根neuropathy(CIDP)HIV感染症、ライム病 Discussion3 現時点で考えられる鑑別は? 追加で必要な検査は? 鑑別
歩行障害、下肢脱力、下腿の感覚低下、前腕感覚低下 腱反射消失、Romberg sign陽性、 r/o 多発性神経障害 (糖尿病性神経障害、脚気 、Vit.B12欠乏性神経障害 ) r/o 慢性炎症性脱髄性多発根neuropathy(CIDP) ・採血結果(追加)
Mg 2.0 mg/dl ALP 131 IU/L γ-GTP 8 IU/L HbA1c 4.8
%PT(INR) 1.04 APTT 25.3 秒 D-dimer 0.7 μg/ml
HBs抗原 (-) HCV抗体(-) RPR定性 (-) TPHA定性 (-)
IgG 898 mg/dl IgA 205 mg/dl IgM 39 mg/dl 蛋白分画(ALB 64 % α1 3.5 % α2 7.7 % β 10.4 % γ 14.0 %)
VitB1 12 ng/ml(20〜50) VitB12 179 pg/ml (233〜914)
葉酸 1.8 ng/ml(3.6〜12.9)抗核抗体 40 未満 HIV1/2 (-)
・髄液検査
細胞数 1/μl (多核100%) 総蛋白 37 mg/dl 糖 87 mg/dl
・筋電図
運動神経伝導検査 正中神経では伝導速度、複合筋活動電位は正常 腓骨神経では伝導速度は遅延、複合筋活動電位は正常 感覚神経伝導検査 正中神経では伝導速度は遅延、活動電位も正常下限 腓腹神経では活動電位は検出できなかった。 下肢優位のsensory-­‐motor type neuropathy を認める 【診断】
食生活に偏りがある。
2ヶ月前から緩徐に進行する感覚障害と筋力低下。
画像所見、身体所見、髄液検査上中枢神経病変は否定的。
筋電図にて下肢優位の末梢神経障害の所見。
採血結果にてVitB1と葉酸の欠乏。
【入院後経過】
経静脈的にチアミンとVitB12の投与及び葉酸の経口を
行った。同時にリハビリ開始し、徐々に下肢の疼痛、しびれ
も改善。動悸、呼吸苦も改善した。
入院後も立位や歩行時にふらつきは見られたが、徐々に
改善。引き続きビタミン内服を行い、他院でのリハビリ継続
となり、退院となった。
ビタミンB1(チアミン)
・水溶性ビタミン ・豚肉、豆類、玄米、豆腐、ナッツ類に多く含まれる。 ・小腸上部で吸収され、空腸でチアミン二リン酸に変換。 ・体内貯蔵量少なく、半減期が短い。→ 持続摂取が必要。 ・消費カロリー1000kcalにつき0.5mg必要 (毎日1.0〜1.5mg摂取が望ましい。) ・過剰なビタミンは尿中に排泄される。 ァミン・ピロ燐酸TPPとも呼ばれる)である.
影響する.
DPは脊椎動物および微生物細胞のエネルギー
謝で重要な位置を占めるα一ケト酸デヒドロゲ
ド◎5聯繋一
ビタミンB1(チアミン)の働き
ナーゼ複合体による多段階反応に不可欠な5つの
ビタミン補酵素(TDP, FAD, NAD+, CoA,お
・グルコース代謝時の補酵素として働く。 よびリボ酸)の1つである.すなわちビタミンBl
図2 チアミンの構造
グルコースー→解糖経路
ピルビン酸
\\一+乳酸
,
←一一一ピルビン酸脱水素酵素+チアミン
アセチルCoA
‘
サクシζで二恥ル_
十
※安静時のグルコース消費量 神経系:18% 心臓:11% 筋:20%
α一ケトグルタル酸脱水素酵素十チアミン
図3TCA回路
ビタミンB1が慢性的に不足すると・・・ Presented by Medical*Online
グルコース消費量の多い神経系や心臓では症状がでやすい!!
はすべて脚気であることが明らかとなり,過去の
が明らかになった.
疾患と考えられていた脚気が再燃してきた.
その後,多くのマスコミは「今どき脚気とは」と
そこで,ビタミン欠乏全国調査を行った3).脚
いうテーマを取り上げ,テレビ・雑誌などで報告
気の発症は若年者に多く,その誘因は糖質過剰摂
してくれた.また,サプリメントのブームとなり
取とビタミンB1摂取不足であり,まさに過食時
脚気の再燃は鎮静化した.
脚気とは・・・ 代の偏食による微量栄養素不足であった.また,
・要因 アルコール多飲 極端な偏食 妊娠悪阻 激しい肉体労働。 ・症状 症状は多彩だが、 湿性脚気、乾性脚気 の2つに分けられる。 30
しびれ感
下肢倦怠
全身倦怠
どうき
脚気様愁訴
食欲不振
息切れ
頭痛
肩こり
めまい
腱反射異常
神経・筋症ij
知覚鈍麻
腓腹筋圧痛
運動麻痺
最低血圧降下
循環器症状
心電図異常
心拡大
第2肺動脈音充進
脈拍不整
浮 腫
下 肢
顔 薗
全 身
症
100(%)
表1脚気の病態
一
25
20
50
図2 脚気の症状
22
一
|
… 嗣
…
…
血中動態
ビタミンB1欠乏ゆピルビン酸,乳酸↑⇒細動脈拡張(末梢血
管抵抗↓・拡張期血圧↓)⇒静脈収縮⇒循環血液量↑⇒静脈
圧↑⇒心拍出量↑ゆ酸素消費量増(動静脈酸素較差小)⇒高拍
出性心不全(心臓への負荷)⇒心拡大⇒心筋張力↓⇒低拍出性
【湿性脚気】 ・心筋のエネルギー代謝障害と自立神経障害からの小動脈拡張。 ・収縮期血圧↑、拡張期血圧↓(脈圧↑)、頻脈、四肢温感。 ・高拍出性心不全、心拡大、末梢浮腫。 ・心電図:低電位、広範囲のT波異常、QT延長。 【乾性脚気】 ・末梢神経炎(glove&stocking型ニューロパチー) ・筋力低下(神経障害は下肢に強く、立ち上がり困難になる。) ・深部腱反射低下 1972(昭和47)年に,筆者らが属していた東邦大
定診断をつけるため血中ビタミンB1濃度とビタ
学第2内科(阿部内科)に16歳の少年の脚気患者が
ミンB1欠乏の指標として用いられていた溶赤血
入院してきた1).外来担当が腎専門医で尿量減少,
球トランスケトラーゼ値(現在はほとんど行われ
高度の浮腫があったので急性腎不全として即日入
ていない)を測定した.当時はビタミンB1濃:度の
院した.その時の胸部X線が図1(治療前)である.
基準値がなかったので,筆者の血液をコントロー
医局内でのケースカンファレンスで,心不全と多
ルとして使用した.その結果,患者のビタミンBl
前2者は否定できたので残るは脚気心である.確
1974年に第15回日本神経学会総会で,若年男
治療 ・ビタミンB1の補充は、500mg/dayの静注、または100mgの経口 濃度 トランスケトラーゼ活性値は著しく低下し
発性末梢神経障害があることは間違いないが診断
・心症状は補充によって極めて良好に反応する。 ていた〔現在では血中総ビタミンBl基準値は28~
がつかなかった.筆者は血圧120~OmmHgなの
56ng/mL(プレカラムHPLC-GPC法)である〕2).
で高拍出性心不全であると考え,調べてみると高
・神経症状はゆっくりと少しずつ改善が見られる。 さらに食事歴を詳細に調査すると,15歳時から飲
拍出性心不全をきたす疾患は甲状腺機能充進症と
・感覚障害より運動障害の方が回復しやすい。 酒を始め,食事の偏りが著しいことが判明した.
大動脈弁閉鎖不全症,それに脚気心であった.
図1脚気心
治療Vol.92, No.12<2010」 2>
Presented by Medical*Online
2647
忘れちゃいけないビタミンB1欠乏症!! 。 慢性アルコール中毒の他,消化管手術後( 胃切除など) .低栄養状態,妊娠悪阻,ビタミンB, を含まない高カロリー輸
液などが原因で起こる.
・ビタミンB1 欠乏により中枢神経障害を呈するのがW e m i c k e 脳症で,末梢神経障害を生じるのが脚気である.
・ビタミンBlは糖代謝に関わる酵素(トランスケトラーゼなど) の補酵素である大量の糖が負荷されるとビタミンB1は
Wernicke脳症とは・・・ 急速に消出される
匠
中枢神経障害ビタミン呈するB1欠乏症(脚気は末梢神経障害)
。 意識障害.眼球運動障害,連動失調が
(全てがそろわないこともある) .
・ 意識障害は傾眠せん妄,錯乱岳睡な
【症状】 眼球運動障害は外転障害や眼振が多く,
外眼筋麻卿となる.連動失調は体幹失調
・意識障害、眼球運動障害、運動失調が3徴 ・意識障害は傾眠、せん妄、錯乱、昏睡と多様 。 慢性アルコール中毒
・眼球運動障害は外転障害や眼振が多い。 。 摂食障害
進行する外眼筋麻痺。 ・運動失調は体幹失調が主体 ※3つがそろうのは30%ぐらい 原 |因
園
原
。 ビタミンB1の欠乏
。 消化管手術後
・ 妊娠悪阻
。 ビタミンB ' を含まない高カロリー輸液
検査所見
。 血中ビタミンB1低値
。 血中トランスケトラーゼ
活性低下
。( 重症例で) 乳酸アシド
一シスの合併
など
画像所見
画像所見
M R I プロトン密度強調像( 水平断)
。W e r n i c k e 脳症では,MRIT2強調像やFLAIR像などで,第三脳室周
囲( 視床内側) ,中脳水道周囲,第四脳室底,乳頭体に対称性の高信号
【画像所見】 。 これらの病変部位は拡散強調像では早期から尚信号域になる
MRI T2強調像やFLAIR像などで、第三脳室周囲、 中脳水道周囲、第四脳室底、乳頭体に対称性の 高信号域になる。拡散強調画像では早期から。 域がみられる
第97回院師国家試験A6 0
治
療・ 予防
治療,予防
・ 速やかにビタミンB, の大量経静脈的投与を行う
。 プロトン密度強調像( 4 7 0 頁) にて,第三脳室
周辺に異常信号域( - > ) を認める
【治療】 ・速やかにビタミンB1の大量経静脈的投与。 ・低栄養の患者ではビタミンB1を投与してからブドウ糖を補充。 ※最初にブドウ糖を投与すると、急激にビタミンB1が消費されて、 症状を増悪させる。ブドウ糖単独投与は禁忌!! 【Korsakoff症候群】 ・ Wernicke脳症引き続いて、Korsakoff症候群を来たす可能性がある。 ・記銘力障害、健忘、見当識障害、作話が特徴。 
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