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フランス映画(99分)アンヌ・フォンテーヌ監督 小説と現実が入りまじり…

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フランス映画(99分)アンヌ・フォンテーヌ監督 小説と現実が入りまじり…
〈小説と現実が入りまじり…〉
ジャーナリスト
想がとめどもなく膨らんでゆく。
マとエマ、現実と小説が入りまじった妄
だ が、
『 ボ ヴ ァ リ ー 夫 人 』な ど 読 ん だ
こともない現代っ子のジェマは、そんな
監督アンヌ・フォンテーヌである。
うラブ・コメディに仕上げたのは、女性
会を重ねる。その現場を目撃したマルタ
ジェマは、夫の目を盗んでエルヴェと密
という結構なご身分。気分晴らしに村へ
場。村 の 古 い 城 に 滞 在 し て 受 験 勉 強 中
松本 侑壬子
うに人生を楽しもうとする。そこへまる
こ と な ど お 構 い な し。自 分 の 好 き な よ
フランス・ノルマンディ地方の美しい
田園地帯にある小さな村。パン屋のマル
ンは、仕事も手につかない。
でア ポロンのよ う な 美 青 年エルヴェ登
ばれている。片田舎に住む若妻エマ・ボ
タンはパリで十二年 間 出 版 社 勤 務の後
ネ リ、クロー ド・シャブロール、アレキ
ジャン・ルノワ ール、ヴ ィンセント・ミ
世界十大小説の一つに挙げ、これまでに
作 家 サ マ セ ッ ト・モ ー ム は こ の 小 説 を
と い う 言 葉 も よ く 知 ら れ て い る が、米
ベール自 身の「ボヴァリー夫人は私だ 」
のエマさながらに奔放で、目が離せなく
( 頭 文 字 の G を 取 れ ば エ マ だ )は、小 説
と知ったマルタンの驚き。美しいジェマ
と! ジ ェ マ と チ ャ ー リ ー・ボ ヴ ァ リ ー
あ る 日、向 か い の 家 に 若 い イ ギ リ ス
人夫婦が引っ越して来た。その名が、何
夫人 』だ。
繰り返し愛読しているのが『ボヴァリー
き甲斐。とりわけ、ぼろぼろになるまで
タンは、ある行動に出るのだが ・・・。
い女よ 」との妻の声も耳に入らないマル
滲 み 出 す。
「 あ ん な の、平 凡 な つ ま ら な
ファブリス・ルキーニの絶妙な表情から
恋 するおじさんのかわいらしさが 名 優
を保とうとするが、それは無理 ・・・。
る 程 度 に は 接 近 で き る う れ し さ。平 静
か り で は な く、至 近 距 離 で 体 温 を 感 じ
年男の乱れに乱れる胸の内。見ているば
下りて来たところを一目で恋に落ちた。
ヴァリーが、平凡な結婚生活に飽き、不
日の単調な暮らしの中で、文学だけが生
に帰郷、この地で父親の店を継いだ。毎
〝恋を恋する女〟―十九世紀仏作家
ギュスターブ・フローベールの長編小説
倫と借 金を重ねた末に追い詰められて
サ ン ダ ー・ソ ク ー ロ フ ら 主 に 芸 術 派 の
く パンのおいし さ に すっか り 虜 に なっ
なる。ジェマはジェマで、マルタンの焼
『ボヴァリー夫人 』のヒロインはそう 呼
服 毒 自 殺 を す る ま で の 悲 劇 だ。フ ロ ー
こ の ま ま で は ジェマ は エマ と 同 じ 運
命 を 辿 る の で は な い か ―― 思 い 悩 む 中
本作は、小説の熱烈な読者であるパン
屋を主人公に、勝手にヒロインのエマと
コミ カル な 勘 違い とロマンチ シ ズムの
想に走る男の物語。原作の愛の悲劇を、
とでいっぱい。パンをこねながら、ジェ
つれて、マルタンの頭の中はジェマのこ
てしまう。言葉を交わし、親しくなるに
が分かれるだろう。
化。ただし、あっと驚 く 結 末には、賛 否
映 画 は、フ ロ ー ベ ー ル の 小 説 を 基 に
した英国のグラフィック・ノベルの映画
監督が次々に映画化している。
現 実 の 隣 人 の 妻 を 同一視 し て あ ら ぬ 夢
入り混じった軽やかで上品な、ひと味違
『ボヴァリー夫人とパン屋 』
フランス映画(99 分)
監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:ファブリス・ルキーニ、ジェマ・アータートン、
ジェイソン・フレミング、ニールス・シュナイダー
公開中
© 2014 – Albertine Productions – Ciné-@ - Gaumont – Cinéfrance 1888 – France 2 Cinéma –
British Film Institute
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