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非食用系植物油脂の燃料化技術開発

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非食用系植物油脂の燃料化技術開発
研究レポート
非食用系植物油脂の燃料化技術開発
エネルギア総合研究所 再生可能エネルギー利用技術担当 内山 一郎
種子
まえがき
温水
フィルタプレス
残渣
油
排水
貯油
タンク
エンジン・発電機
ガス化装置
空気
灰
焙煎装置
種子
排ガス
図2 パイロット試験装置フロー
H21年度
∼H22年度
NEDO
脱リン装置
排ガス
カンボジアにおける電化率は未だ低く,35%程度
にとどまっている。
未電化地区の電化推進は喫緊の課題であり,利用
可能なバイオマスによる発電技術が望まれている。
そこで,非食用系バイオマス資源を活用した発電
技術の研究開発をカンボジアにおいて実施した。
この研究は,平成21∼22年度においては新エネル
ギー産業技術総合開発機構(NEDO)助成事業の一
環として,また平成23∼平成25年度においては,自
社研究として下図の研究体制により実施した。
搾油装置
H23年度
∼H25年度
産業技術総合研究所
中国電力エネ総研
広島環境研究所
カンボジア工科大学
図1 研究協力体制 平成21∼23年度は,20kW級ディーゼル発電機
によるジャトロファ油/バイオガス混焼発電実証試
験を,平成24年度は同装置を用い,バイオ燃料の多
様化に対応した試験として,廃棄物系バイオマスガ
ス化混焼による実証試験を行った。
平成25年度には,カンボジアへの技術移転のた
め,研究内容の講義(座学,実習)を行うとともに,
当該試験装置の譲渡を実施したので,その結果につ
いて報告する。
液体燃料は,ジャトロファ種子を搾油し脱リン・
フィルタリング等の行程を経て製造した。
ジャトロファ油にはリン成分が含有されており,
燃料噴射ノズルや燃焼室内における燃焼不良の原因
となることが知られている。
そのため,簡易な脱リン処理技術の開発を行い,
処理前のジャトロファ油中のリン濃度に関係なく,
ジャトロファ油中のリン濃度を10ppm程度まで除
去できることを確認した。
60.0
脱リン槽撹拌装置
電動機 1.5kW
ブロー弁
脱リン装置
130㍑
油中リン濃度
[ppm
(mg‒p/kg‒oil)
]
1
リン濃度
リン除去率
50.0
90
80
70
40.0
60
50
30.0
40
20.0
30
20
10.0
0.0
100
10
処理前
5wt%H2O処理
10wt%H2O処理 15wt%H2O処理
0
図3 脱リン装置および脱リン結果
バイオガスは,ジャトロファ種子搾油残渣ともみ
殻を混合した固形燃料(ブリケット)を原料とし,
バイオマスガス化装置により得られる。
2
写真1 パイロット試験装置
概 要
(1)ジャトロファ油/バイオガス混焼発電実証試験
a.実証試験装置
カンボジア産ジャトロファ油を燃料とした
ディーゼルエンジンの運転特性,環境特性に関す
る試験データを採取,ならびに長時間運転試験を
行うための装置を設置した。
Page 2
搾油残渣・籾殻混合物
ブリケット
図4 ブリケットマシン
エネルギア総研レビュー No.37
非食用系植物油脂の燃料化技術開発
固定床ガス化炉には,生成ガスを炉の上部から取
り出すアップドラフト型と,下部から取り出すダウ
ンドラフト型があるが,熱分解で生じたタール等の
大部分が分解されクリーンなガスが得られることか
ら,ダウンドラフト型を採用した。
空気
のタール成分抑制を行った。
① リアクター長さの変更
・燃焼域の拡大,反応温度の上昇
② 吸気ポートの増設
・吸気量を増加,燃焼域の早期到達
・様々なガス化原料に対し,上段・下段の吸気
量を調整することでタール抑制を可能にする。
原料
吸気ポートの増設
乾燥
水蒸気
300∼
100℃
熱分解 CO・H2・CH4
タール
900∼300℃
空気
酸化 CO2・H2O・CO
・H2・CH4
1000℃以下
還元 CO・H2・CH4
900∼400℃
ガス化炉の延長
空気
タール燃焼
Tar free
ガス
(450℃)
炭
水タンク
水タンク
メイン
サブ
スクラバー
スクラバー
原料 空気
バイオマスフィルター
フレアー
図6 リアクター改修によるタール抑制対策
リングブロアー
空気
ウエット
サイクロン
ガス
サイクロン
リアクター
ファブリック
フィルター
水タンク
水タンク
ガスの流れ
水の流れ
エンジン 発電機
ガス洗浄タンク
図5 ダウンドラフト型ガス化炉
b.実証試験結果
ガス化試験の評価は冷ガス効率(原料の持つ熱
量が,生成ガスに変換された比率)および発電効
率(消費した燃料の発熱量に対する発生電力を熱
量に換算した比率)によって行った。
【タール抑制対策】
ジャトロファ搾油残渣を用いたガス化におい
ては,スクラバー水やエンジン等の後段設備へ
のタールの持ち込みは避けられない。
【ガス混焼発電試験結果】
搾油残渣70%∼90%のブリケットを原料と
した混焼運転における性能試験,および長時間
(400Hr)運転を実施した。
性能試験は,エンジン出力を変化させ,その
際のリアクター空気口開度・燃焼灰の抜き取り
量変化によるタール抑制効果の高いものを選定
し,その結果をもって長時間運転条件とした。
(%)
(%)
(ppm)
(ppm)
1400
1400
70
1200
1200
58.72 57.54
58.72 57.54
60
47.17
47.17
1000
1000
45.92
45.92
41.50 40.42
41.50
40.42
800
800
600
600
29.26
29.26
50
28.82
26.57 28.82
26.57
30.71
30.71
70
60
CO(平均)
CO(平均)
50
40 40
30 30
29.51
29.51
27.33
27.33
20 20
200
200
100
100
200
200
冷ガス効率
冷ガス効率
発電効率
発電効率
Nox(平均)
Nox(平均)
400
400
00
排気温度(平均)
排気温度(平均)
300
300
400400
多項式
(冷ガス効
多項式
(冷ガス効
率) 率)
10 10
多項式
(発電効率)
多項式
(発電効率)
0 0
多項式
(Nox(平均))
多項式
(Nox(平均))
運転時間
運転時間
図7 搾油残渣70%ブリケット原料による長時間運転
(ppm)
(ppm)
(%)
(%)
6000
5000
5000
8080
67.41
67.41
63.34
62.31
63.34
62.31
7070
64.32
64.32
63.49
63.49
4000
4000
写真2 スクラバー水に持ち込まれたタール
この影響を最小限に抑えることを目的に,本
研究ではガス化炉上部空気口を設置し,空気量
のコントロールによる燃焼調整でバイオガス中
エネルギア総研レビュー No.37
48.72
48.72
42.87
42.87
36.92
36.92
3000
3000
2000
2000
1000
1000
6060
53.64
53.64
22.80
22.80
27.37
25.40
27.37
25.40
28.73
27.34
28.73
27.34
10.40
10.40
0
0
運転時間
運転時間
41.23
39.37
41.23
39.37
35.23
35.23
29.86
29.36
27.99 29.8629.20
29.36
29.20
27.99
23.61
23.61
5050
COppm(平均)
COppm(平均)
排気温度℃(平均)
排気温度℃(平均)
冷ガス効率%
冷ガス効率%
4040
3030
発電効率%
発電効率%
20
20
10
10
0
0
対数 (排気温度℃(平
対数 (排気温度℃(平
対数 (COppm(平均)
対数 (COppm(平均)
対数 (冷ガス効率%)
対数 (冷ガス効率%)
対数 (発電効率%)
対数 (発電効率%)
図8 搾油残渣80%ブリケット原料による長時間運転
Page 3
研究レポート
期(フィルタ清掃,交換等)の変更は行ってい
ないが,前述のタール対策前に発生していたター
ボチャージャー圧縮機・エンジン吸気バルブ等
へのタール付着に起因するエンジンの不調は,
長時間運転では発生しなかったことから,ター
ル低減による運転支障対策効果が確認できた。
図9 搾油残渣90%ブリケット原料による長時間運転
いずれの原料条件における混焼発電でも,発
電効率は30∼35%と高効率が得られた。
80%搾油残渣および90%搾油残渣を用いた
ブリケットによるガス化において60%∼70%
の冷ガス効率が得られたが,90%搾油残渣を
用いた場合は炉内温度が不安定となる傾向があ
り,灰の炉内溶融が懸念された。
写真3 シリンダー
写真4 ターボチャージャー
写真5 燃料噴射ノズル
写真6 吸気バルブ
【凡例】 C…ジャトロファ残渣
R…もみ殻(バイオマスフィルタ使用後)
表1 運転ガス量30㎥/hにおけるガス組成と冷ガス効率
単位
項目
C70:R30
C80:R20
C90:R10
ガス流量
㎥/H
ブリケット投入量
kg/H
16.07
16.65
15.40
燃料流量
L/H
4.56
3.89
4.10
%
47.05
42.60
38.97
H2
17.41
16.74
11.67
O2
1.09
1.01
1.10
61.42
58.87
60.05
冷ガス効率
ガ
ス
組
成
30
N2
%
CH4
2.13
2.63
2.37
CO
16.51
12.23
13.30
表2 運転ガス量40㎥/hにおけるガス組成と冷ガス効率
C70:R30
C80:R20
C90:R10
項目
単位
ガス流量
㎥/H
ブリケット投入量
kg/H
16.56
15.45
燃料流量
L/H
3.84
3.02
3.17
冷ガス効率
%
56.00
58.48
50.81
H2
16.48
16.57
12.65
O2
2.74
1.22
1.08
ガ
ス
組
成
40
16.39
56.54
63.92
58.05
CH4
2.09
2.04
2.11
CO
14.99
12.68
11.34
N2
%
表3 運転ガス量50㎥/hにおけるガス組成と冷ガス効率
単位
項目
C70:R30
C80:R20
c.ホルボールエステルの分解特性の把握
ジャトロファは,植物全体に毒性があり,皮膚
刺激性や腫瘍促進作用で知られるホルボールエス
テルが含まれている (Haas & Mittelbach 2000)。
主要な毒性成分であるホルボールエステルを分
析,ジャトロファの取扱における挙動を把握した
結果,エンジン排ガス等系外へ排出されるホル
ボールエステルは検出されなかった。
C90:R10
No.
PEsの測定結果
[μg/mg]
試料名
H22年度*1
①
ジャトロファ種子(ジクロロメタン抽出)
1.52
②
搾油残渣
2.03
③
搾油後ジャトロファ油(脱リン前)
4.73
④
ジャトロファ油(脱リン後)
⑤
脱リン後の排水
H23年度*1
4.4
未検出
ガス流量
㎥/H
ブリケット投入量
kg/H
17.69
20.00
16.85
⑥
ジャトロファ油(フィルタプレス後)
燃料流量
L/H
6.30
3.76
2.66
⑦
ブリケット
冷ガス効率
%
65.93
58.63
59.13
⑧
ガス化炉煤塵
未検出
H2
17.11
16.82
12.57
⑨
ガス化炉灰
未検出
O2
0.29
1.22
1.34
⑩
ガス化装置排水
未検出
59.20
59.20
59.62
CH4
1.44
1.68
1.73
⑪
バイオガス
CO
16.32
15.22
10.54
⑫
エンジン排出ガス
未検出
⑬
エンジン排出粒子状物質
未検出
⑭
エンジンオイル(使用前)
ガ
ス
組
成
N2
%
50
表4 各部のホルボールエステル測定結果
*1:ジャトロファ油専焼,*2:ジャトロファ油/バイオガス混焼
【長時間運転試験終了後のエンジン等の点検結果】
長時間運転前後における補機メンテナンス周
Page 4
⑮
エンジンオイル(使用後)
⑯
ブランク(大気)
4.11
4.28
0.45
未検出
未検出
未検出
未検出
未検出
未検出
未検出
エネルギア総研レビュー No.37
非食用系植物油脂の燃料化技術開発
(2)農業廃棄物を原料としたガス化混焼試験
ジャトロファ油および搾油残渣により確立したガ
ス混焼発電技術を用い,カンボジア・プノンペン近
郊で入手可能な廃棄物系バイオマスについてガス混
焼発電および性能試験を実施し,その可能性につい
て確認した。
a.試験に使用したバイオマス
・オイルパーム残渣(PKS,ファイバー)
・トウモロコシ芯
・ジャトロファ廃木
・オイルパームEFB(Empty Fruit Bunches)
・バガス
b.ガス化混焼試験の考察
上記廃棄物のうち,トウモロコシ芯は直接ガ
ス化可能,またオイルパーム残渣(PKS,ファ
イバー)は,ジャトロファ搾油残渣と混合する
ことで固形化しガス化することが可能であった。
これらのガス化効率は,表5,表6の通り60%
以上であり,一般的な木質バイオマスのガス化
率と比較しても大差なく,汎用性があることが
確認できた。
ジャトロファ廃木は,分割・天日乾燥後にお
いても水分が高く,ガス化中に炉内温度低下,
炉内閉塞が頻発し,ガス化原料として使用でき
なかった。また,EFB・バガスは,かさ密度が
低いことから固形化ができず,ガス化不可の原
料であった。
これらの廃棄物をガス化原料として使用する
には,乾燥技術や固形化技術の開発が必要とな
る。
表6 トウモロコシ芯のガス化成分等
項目
単位
2012/7/27
ファイバー
50%+JC50%
2012/6/14
ファイバー
80%+JC20%
%
17.206
14.119
15.502
酸素
%
1.035
2.033
1.168
窒素
%
54.115
54.443
53.161
水素
2012/6/26
三種混合
メタン
%
2.371
4.618
4.905
一酸化炭素
%
11.870
5.983
5.232
冷ガス効率
%
69.03
66.93
65.90
発電効率
%
28.14
34.00
43.99
エネルギア総研レビュー No.37
2012/8/3 2012/8/10
水素
%
15.366
14.752
14.561
%
1.361
1.307
1.783
11.205
0.827
窒素
%
56.124
56.961
57.796
57.639
メタン
%
0.889
0.857
1.081
1.352
一酸化炭素
%
11.152
11.921
11.110
14.955
二酸化炭素
%
15.158
14.202
13.669
14.022
総発熱量
3
MJ/Nm
3.37
3.73
3.69
3.85
真発熱量
MJ/Nm3
3.70
3.40
3.36
3.58
項目
単位
2012/8/2
2012/8/3
2012/8/10
総発熱量
%
69.23
64.80
68.51
真発熱量
%
−
−
26.27
(3)カンボジア工科大学への技術移転
平成25年度末で非食用系植物油脂の燃料化技術開
発が完了したことから,カンボジア工科大学に技術
移転講義,設備譲渡・セミナーを行った。
【講義】
期間:平成25年6月3日∼平成25年6月14日
場所:ITC内教室,および現場(実証試験装置)
対象:ITC先生2名,学生20名
【設備譲渡,セミナー】
日時:平成25年10月9日
場所:カンボジア工科大学構内
写真7 譲渡式およびセミナー
JC:ジャトロファ搾油残渣 三種混合:PKS,ファイバー,JCの混合物
単位
2012/8/2
酸素
表5 オイルパーム残渣のガス化成分等
項目
2012/8/1
3
あとがき
本研究において,非食用系植物油脂を用いたバイ
オオイル/バイオガスの混焼発電技術を確立し,同
技術を用いた,農業廃棄物の汎用性についても確認
できた。
本研究は,新エネルギー産業技術総合開発機構
(NEDO)助成事業の一環として行われたものであり,
ここに記して関係各位に感謝の意を表します。
Page 5
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