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11 7
No.
2016年10月号
特 集 「高次脳機能障害とは」
●高次脳機能障害の理解と対応������������������������ 2
●高次脳機能障害への精神科リハビリテーション���������������� 4
もくじ
●子どもの高次脳機能障害への支援���������������������� 6
●ある日突然の、脳損傷による、高次脳機能障害
~当障害者とその家族の人生の再構築を支援するために~���������� 7
●高次脳機能障害の都の取組������������������������� 8
この「こころの健康だより」は中部総合精神保健福祉センターのホームページでもご覧になれます。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/chusou/index.html
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高次脳機能障害の理解と対応
東京慈恵会医科大学附属第三病院 リハビリテーション科
教授・診療部長 渡邉 修
高次脳機能障害とは?
「くも膜下出血」があります。また、高次脳機能障
高次脳機能障害とは、病気や交通事故など、さ
害の原因の1割ほどを占めるのが頭部外傷です。若
まざまな原因によって脳に損傷をきたしたことで
年層では交通事故が、壮年~高年層では転倒転落が
生じる、言語能力や記憶能力、思考能力、空間認
事故の原因となることが多いです。
知能力などのなんらかの認知機能の障害を指しま
す。日常生活場面では、たとえば、朝食の内容が
高次脳機能障害の診断
思い出せなくなった(記憶障害)、仕事に集中で
高次脳機能障害の診断は、①本人および家族に
きなくなった(注意障害)、計画がたてられなく
よって語られる病状の内容、②知能検査や記憶検査
なった(遂行機能障害)、言葉が上手に話せなく
など神経心理学的検査、③画像検査から行われま
なった(失語症)、人の話が理解できなくなった
す。診断にあたっては、①の内容が高次脳機能障害な
( 失 語 症 )、お 茶 の 入 れ 方 が わ か ら な く な っ た
のか、そして、それらが、病気や頭部外傷によって引
( 失 行 症 )、道 に 迷 う よ う に な っ た( 地 誌 的 失
き起こされた脳の損傷に関連(因果関係)するのかど
認)、左側にあるおかずに目がとまらず残してし
うかを見極めて行われます。記憶が悪くなったと言っ
まうようになった(左半側空間無視)、いらいらや
ても、②の記憶検査に異常がなかったり、原因となり
うつうつなど感情の起伏が激しくなった(社会的
そうな病気やケガが、③によって見つからなければ、
行動障害)など、さまざまな症状がみられます。
高次脳機能障害の診断をうけることはできません。
図1は、これらの症状を、右の脳、左の脳、それぞ
リハビリテーション
れの障害別に示してあります。
病気や事故によって入院されると、患者さんは、
以後、急性期、回復期、維持期を過ごしていきま
す。急性期とは、脳卒中や頭部外傷など、もともと
の疾患の治療が主体となる時期で、病状が安定する
までを指します。おおよそ、発症から1~2ヶ月の
期間です。回復期とは、その後の、リハビリテー
ションが主体となる時期です。この期間は、身体機
能や高次脳機能の回復がもっとも期待される時期で
す。現在の医療制度では、回復期病棟への入院は、
発症から2ヶ月以内と決められており、入院期間は
5ヶ月で、高次脳機能障害を伴った重症脳血管障
高次脳機能障害の原因
害、重度の頭部外傷を含む多部位外傷の場合は、
高次脳機能障害の原因として、8割を占めるのは
6ヶ月と定められています。維持期とは、回復期以後
脳卒中です。脳卒中には、脳を栄養する脳血管が閉
の時期を指し、通常は、退院されて在宅生活が始ま
塞する「脳梗塞」とその細い血管から出血する「脳
りますが、重度の場合は他の病院への転院または施
出血」と脳血管にできた瘤(脳動脈瘤)が破裂する
設入所などが選択されます。
2
期でもあります。すなわち、地域のサービスを利用す
図2にリハビリテーションの流れを記しました。
るために、障害者手帳の申請を行う場合があります。
障害者手帳には、身体障害者手帳、療育手帳(東京都
では愛の手帳)、精神障害者保健福祉手帳がありま
す。高次脳機能障害を有しても、身体障害がない場合
は、精神障害者保健福祉手帳を申請することができま
す。また、介護保険あるいは障害者総合支援法での
サービスを受ける方もおられるので書類上の手続き
を進めます。介護保険では、要支援1,2では予防給付
(介護予防サービス、地域密着型介護予防サービス)
関節可動域訓練や筋力増強訓練、基本動作訓練に引
が、要介護1-5では介護給付(施設サービス、居宅
き続いて、日常生活訓練を行います。日常生活訓練
サービス、地域密着型サービス)を受けることができ
では、食事、整容(歯磨きや化粧)、更衣、移動
ます。障害者総合支援法によるサービスは「障害福祉
(車椅子駆動・歩行)、排泄、入浴などの日常生活
サービス」と「地域生活支援事業」に大別され、前者
動作を、ひとつひとつ再学習していきます。こうし
には介護給付と訓練等給付があります。訓練等給付
て日常生活が自立できるようになれば、自宅に退院
の中には、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援、
となる場合が多いでしょう。そして、その後は、料
共同生活援助(グループホーム)があります。
理、洗濯、買物、外出、趣味、電話、金銭管理、交
(2) 維持期
通機関の利用などの練習に拡大し、各個人のニーズ
維持期に入り、発症から1年半が経過すると、書
に合わせて就学・就労にまで及びます。
類上、障害の固定を行う場合があります。障害に対
一方、重度の方で日常生活動作が自立できない場
し、障害年金の受領を申請できる時期です。障害年
合であっても、時間をかけた、なだらかな回復を示
金は、障害認定日(初診日から1年6か月が経過した
すのでリハビリテーションの機会をもつことが大切
時、またはそれ以前で症状が固定した時)に法令で
です。そのリハビリテーションの機会は「地域」に
定められる障害の状態にあるか、または65歳に達す
あります。それぞれの方のニーズや高次脳機能障害
るまでの間に障害の状態になった時に受給できま
の内容、将来の目標によって、適宜、高次脳機能障
す。保険料の未納期間があると受給できない場合が
害拠点機関、福祉事務所、保健所、地域包括支援セ
あります。また、交通事故や労災事故後の後遺症認
ンター、保健福祉センター、作業所、授産施設、介
定を行う時期でもあります。労災が認定された場
護保険サービス機関、就労支援機関、相談支援事業
合、障害の程度(1級~14級)により障害(補償)
所、患者家族会等と連携を図るようにします。
給付がされます。1級から7級には障害(補償)年金
が、8級から14級は障害(補償)一時金が支給され
知っておきたい制度
ます。窓口は労働基準監督署か勤務先担当です。自
(1)回復期
賠責保険の後遺障害等級の認定では、後遺障害の程
この時期は、在宅生活や地域生活を行う準備の時
度に応じて逸失利益および慰謝料等が支払われます。
3
高次脳機能障害への精神科リハビリテーション
東京都立中部総合精神保健福祉センター
広報援助課長 菅原 誠
1,高次脳機能障害で一番多い症状は何でしょう?
範囲内で謝罪していただくことも社会性向上に有効
「高次脳機能障害」とは、頭部外傷、脳血管障害
です。
などによる脳損傷の後遺症として生じる、注意障害、
②易疲労性:短時間の能力が高くても、長時間の
失語、記憶障害、行動と情緒の障害、遂行機能障害
作業が継続できない方も多くみられます。自己の疲
など様々な症状のことです。脳損傷を受けた後、身
労度を把握できない方もあるため、本人申告のみで
体治療が終了した後も高次脳機能障害が残り、その
なく、観察による職員からの声掛けが必要です。逆
ために社会復帰が困難となり、長い期間を要する事
にまだ余力があるにもかかわらず離席してしまう場
例は少なくありません。このため、高次脳機能障害
合には、耐久性を向上させてゆけるようスモールス
者の社会復帰を支援するためには、身体的なリハビ
テップで粘り強く援助をする必要があります。
リに加えて、集団での社会的なリハビリが重要です。
③注意集中力の障害:作業時に集中できず周りの
平成 20 年 1 月に東京都が実施した高次脳機能障
刺激に反応したり、気が散り作業が進められないな
害実態調査では、都内の高次脳機能障害者数は約
どの状況もしばしば見られます。作業場面で変化を
49,000 人と推計され、障害の内容では、行動と感
評価してゆくことと、課題の種類により集中力に違
情の障害が 44.5%と最も多く、次いで記憶障害、注
いがあることもあるため、評価の際、さまざまな場
意障害、失語症が多いという結果でした。
面で総合して判断することが必要です。今後の社会
行動と感情の障害が症状の中で最も頻度が高いに
適応を考え、刺激を極力なくすという対応ではなく、
もかかわらず、これらの症状を専門とはしていない
就労や就学を想定したグループ場面で活動できるよ
脳神経外科や神経内科、リハビリ科が主治医医療機
うにするための助言を行っていくことが重要です。
関になっているケースが多く、精神科が併診になっ
④記憶障害:記憶障害は状況に応じて個々に合わ
ていても、その障害特性が統合失調症や気分障害な
せた対処法を検討する必要があります。具体的には、
どの内因性の精神障害と異なることから、一般的な
メモ帳、スマートフォン等の有効活用などを促しま
精神科デイケアでは敬遠されがちであった事など
す。記憶媒体は 1 ~ 2 種に絞り、使いこなすことが
が、高次脳機能障害の行動や感情の障害への集団で
できるようになるまで練習することが重要です。
の社会性を高めるリハビリを実施している施設が極
⑤脱抑制:受傷前には見られなかった、抑制を欠
めて少ないという問題の原因として考えられます。
く言動が社会復帰の妨げとなっている事例も少なく
2,高次脳機能障害への精神科リハビリテーション
ありません。暴言や暴力行為も脱抑制の症状の一つ
高次脳機能障害を対象とした集団でのリハビリを
です。些細なことで場に不自然な、あるいは過大な
実施する際、配慮が必要な特性について述べます。
笑い、嘆きや悲しみなどの感情を呈したり、セクハ
①易怒性:衝動コントロールが悪く、些細な事柄
ラ、パワハラと受け取られるような不適切な発言を
で怒りの感情を爆発させることがしばしばありま
したりします。感情を自分でコントロールできるよ
す。何らかの原因・誘因があり、特定できることが
う、問題があった際に放置せず都度介入し、一呼吸
ほとんどです。どのような刺激で怒りが出やすいか
置いてから次の行動や発言をすることを繰り返し助
を事前に把握しておくことが重要です。コントロー
言し、修正できるようになることを目指します。
ルできなかった場合、怒っている瞬間は物理的に距
⑥遂行機能障害:この障害は、何かしようとして
離を取っていただくよう促し、後日、なるべく早く
も、順序を立てられなかったり優先順位を付けて行
個別に振り返りを行います。振り返りの後、出来る
動できなかったり、ある手順にこだわり柔軟に対応
4
できないなどとして現れます。就労や復職を目指す
的とした概ね 2 ヶ月間のトライアル通所を行い、こ
場合にしばしば問題となり、職場の理解が必要です。
の期間に通所適応の検討と、リハビリ目標の検討を
思い込みで作業せず、作業に手を付ける前に手順を
行います。その後、復学や進学、福祉的就労施設へ
確認し、手順書がない場合は手順書を自ら作成し、
の定着や集団適応改善を目標とした「就学・福祉的
上司に確認してから着手するよう習慣づけること、
就労コース」と、一般就労もしくは休職者が復職を
進行状況をこまめに報告するなどの対処法の習得を
目指す「一般就労・復職コース」のコースいずれか
目指します。障害に直面化することで「昔はこんな
に進みます。利用期限は最大で 1 年間です。
こと簡単だったのに」と抑うつ状態になったり、自
高次脳機能障害グループプログラム(CODY-G)
尊心の低下からリハビリに前向きに取り組めなくな
では、遂行機能障害や注意障害の改善、記憶障害に
る事例も少なくありません。障害受容できることは
対する適応や対処の改善、障害受容の促進、適応的
社会復帰を目指す上で重要です。あるがままの自分
な社会生活技能の獲得などを目的とした、認知行動
を受け入れられるよう、受容的な態度で、時間をか
療法を用いたプログラムを行っています。詳細は当
け、少しずつ受容を促します。
センター HP やパンフレットでご確認ください。
この他にも、地誌的障害、言語障害、半側空間失
4,高次脳機能障害者の転帰を左右する要因とは
認などを合併されている方もおり、個別の対応が求
当センターデイケア利用者の心理検査等の結果か
められます。高次脳機能障害は障害が単独であるこ
ら、知能障害、記憶障害、気分や感情の安定がそれ
とはほとんどなく、障害をいくつも合併している場
ぞれ転帰に影響を与えていることが示されました。
合がほとんどです。各障害の重篤さの程度、片麻痺
中でも特に知能障害、気分や感情の安定の与える要
などの身体合併症が生活に与える影響などを個別に
因が大きいことがわかっています。
評価し、必要に応じて身体あるいは精神の障害者手
各種障害の程度の大きさに加えて、就労や復職の
帳の取得、それを生かした障害者雇用の検討など、
転帰を分ける要因として、障害の内容や程度を本人
個別にアセスメントすることが求められます。
がどの程度受容し、それに対する対処法を身につけ
3,高次脳機能障害向け精神科デイケア「CODY」
ている ( 身につける努力をしている ) のか、職場の
中部総合精神保健福祉センターでは平成 19 年 12
担当者が障害の内容と程度に応じた配慮すべき内容
月、主に若年者向けの高次脳機能障害向け精神科デ
が具体的にどういうものであるか、把握できている
イケア「ユース CODY プロジェクト」を開始しまし
ことが大切です。そのためには訓練を通じて客観的
た。対象は、身体的リハビリが概ね終了した高次脳
本人評価を行い、それに基づいた職場への適切な助
機能障害者で、就労、就学希望者は都内在住で対象
言ができることが支援機関には求められます。
年齢中学校卒業以上~ 40 歳の方、復職希望者は都
高次脳機能障害者は、ストレス耐性が低く、些細
内在住もしくは在勤で、在職中の方(年齢制限無し)
な要因から情動不安定に陥りがちな傾向がありま
で、一人で通所でき介助なしで安全にプログラム参
す。自己効力感を高め、気分や感情を安定させてい
加できる方です。
「CODY」は高次脳機能障害の英訳
くためには、支援者がリハビリの内容や意図を十分
の一つである Cognitive Dysfunction から付けまし
に説明して納得を得た上で、一人一人のリハビリ目
た。
標に向けた動機づけを欠かさず行い、信頼関係を構
週 5 日午前 9 時から午後4時まで(水曜日は半日)
築し、伴走者として寄り添っていくことが重要です。
の精神科デイケアで、まず各種心理検査や評価を目
5
子どもの高次脳機能障害への支援
国立成育医療研究センターリハビリテーション科医員
はしもとクリニック経堂 院長 橋本 圭司
高次脳機能の問題は600万人
成人の高次脳機能障害の原因は、圧倒的に脳血管
我が国における後天性脳損傷による高次脳機能障
障害が多いのとは違い、子どもの高次脳機能障害の
害は約 50 万人、生まれつきの発達障害は約 60 万人、
原因は、急性脳症、頭部外傷、低酸素虚血性脳症、
中高年齢における認知症は約 462 万人などと推計さ
脳血管障害、脳腫瘍など多岐にわたります。
れています。そう考えると、人間が生まれてからそ
リハビリテーションには順番がある
の人生を全うするまでの間に、何らかの「高次脳機
脳損傷児のリハビリテーションを担当していると、
能の問題」に直面する確立が高いと言えます。3つ
患児の家族からは、
「もう1度子育てを最初からやり
の障害の特徴を表に示しました。
直しているようだ」
、周囲の医療者からは「回復の推
移がまるで赤ん坊の発達過程を見ているようだ」な
どとの指摘をよく受けます。確かに、リハビリテー
ションが整えるべき順序は、呼吸・循環→食事・睡眠・
情動→高次脳機能といった順番が好ましいとされて
います。全身状態が整って初めて安定した睡眠や食
事、感情のコントロールが可能になる。そして、身
体的耐久力が養われて初めて高次脳機能が回復する
前提が整います。身体的充実によって、人間は精神
的耐久力を持続させ、自分自身を抑制することがで
きるようになるわけです。一度よい循環にはまると、
自己モニタリングの障害
自ら物事に積極的に取り組む発動性が養われ、注意・
高次脳機能障害、発達障害、認知症、その3つに
集中力→実行機能(遂行機能)といった順番に機能
共通する問題点は、いずれも「自己モニタリングの障
が高まります。人間は段取りよく物事が進められて
害」
(重症な人ほど、自分のことを障害だという認識
(成功体験)初めて、自己への気づきや現実感が生ま
が乏しい)ということです。しかしながら、それぞれ
れ、自分を客観視することができるようになります。
の障害への対応は、別々の領域の専門家によって行わ
高次脳機能障害と発達障害の違い
れています。そのうち、最も見過ごされやすいのが、
高次脳機能障害児の持つ問題は、あくまで脳器質
子どもの高次脳機能障害であり、全国で約5万人と推
性病変の存在に裏付けされた脳機能の欠損であり、
計され、発達障害児のうち、少なくとも12人に1人
その部分に関して、
「子は親に似る」ということはあ
は高次脳機能障害児という計算になります。
りません。従って、脳損傷による欠損を残された機
子どもの高次脳機能障害が発見されにくい原因と
能でいかに補うかの戦略を、当事者や家族と共に考
して、発達障害者支援法においては、高次脳機能障
える必要があります。
害は発達障害の中に含まれているが、高次脳機能障
他方、生まれつきの高次脳機能の問題である発達
害診断基準から発達障害は除外されている、という
障害は、
「子は親に似る」という傾向があります。発
紛らわしい状況があります。医学的には、生まれつ
達障害児やその家族には「病前のイメージ」という
きの高次脳機能の問題を発達障害とよび、後天性脳
ものが存在しない一方で、高次脳機能障害児の場合、
損傷による高次脳機能の問題を高次脳機能障害とよ
本来あるべき機能への復活や回復に固執してしまい
ぶわけです。近年は発達障害の概念も、知能低下の
がちになります。つまり、ハビリテーション(適応
ない発達障害が増えており、知的障害から独立した
行動を獲得する)とリハビリテーション(元に戻す、
高次脳機能障害へシフトしてきています。
適させる)の違いがそこには存在しているのです。
6
ある日突然の、脳損傷による、高次脳機能障害
〜当障害者とその家族の人生の再構築を支援するために〜
特定非営利活動法人 東京高次脳機能障害協議会(TKK)
理事長 細見 みゑ
[1] ある日突然の、脳損傷による…
[3] 当事者とその家族のための事業活動 高次脳機能障害は、いつ、誰がなっても不思議ではあ
当初は、法制度の改善を求めて結成されましたが、法
りません。脳血管疾患(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)
、
人設立にあたっては、必然的に自助努力による事業活動
頭部 ( 脳 ) 外傷(交通事故・転落事故など)
、低酸素脳症
が求められます。支援事業(行政に提言要望・相談支援)
、
(溺水・窒息・ガス中毒・心筋梗塞など)
、脳炎、脳腫瘍
啓発事業(ホームページ運営・定期刊行物発行・講演会
など、様々な原因による脳の損傷によって生じます。救
開催)
、社会教育事業(講習会・研修会開催・講師派遣)
、
急医療の進歩によって救命されるようになり、増え続け
調査・研究及び情報収集・提供事業、情報交換及びネッ
ています。
トワーク構築事業など展開し、活動しています。
当障害者とその家族たちは、障害による様々な困難と
毎年開催している「実践的アプローチ講習会」には、
共に、中途障害であるが故の挫折感・喪失感・孤立感をも、
北は北海道、南は沖縄など、全国から大勢の受講生が集
乗り越えて行かなければなりません。
まり、当障害への理解と対応の充実・支援技術向上への
記憶 ( 憶えられない・すぐ忘れる )、注意 ( 気が散る・
関心の高さが伺えて、有り難く思います。
作業ミス・同時にできない )、遂行機能 ( 計画できない・
[4] 当事者とその家族の人生の再構築に向けて
手順が分からない )、社会的行動(感情爆発・暴言・依存・
特筆すべき事業として、当法人主催で定期的に開催し
固執・自発性低下)など多彩な障害が生じ、これらが複
ている「医療及び家族相談会」があります。高次脳機能
雑に絡んで、
100人100通りの症状になります。
また、
障害に精通した医師や、多くの苦労を乗り越えてきて経
天候・疲労・人間関係などの環境因子により症状が増大
験豊かな家族である TKK 理事達が相談員となって相談
したりします。
に応じています。さらに、自治体や施設からも委託され、
高次脳機能障害が理解されにくい一番のネックは、
「見
他にも相談会を開催しています。
えない障害」
だからです。それぞれの障害は軽いようでも、
家族が脳卒中や脳外傷で入院中、この先どうして良い
重複しているので日常生活に大きな支障をきたします。
のか、どうなるのか分からない。退院後のリハビリや在
[2] 東京高次脳機能障害協議会・法人設立の原点
宅生活が心配。退院後の日中の居場所は?福祉サービス
2006年 ( 平成 18 年 ) に、国は高次脳機能障害診断
は?就学や就労は?経済的支援は?手帳や福祉手当や年
基準を定め、2007年(平成 19 年)5月、厚労省は
金は?補償や損害賠償は?労災は?など、ご家族は様々
高次脳機能障害支援事業を実施すべく、全国の都道府県
な不安に直面します。具体的な情報や支援が得られれば、
知事に通知し、高次脳機能障害に対する支援普及事業が
結果、心が癒されると考えます。
開始されました。これは、ほんの 10 年前のことです。
私達 TKK の相談支援は、医療、法律、制度、体験に
それ以前の高次脳機能障害者は、医療制度や社会福祉
よる知識を駆使し、有能で適切な専門家たちにも協力し
制度の谷間に置かれ、十分なリハビリや福祉サービスを
て頂き、共に支援し、実績を出しています。相談窓口を
受けられず、社会的な理解が遅れていたため、社会参加
転々とした末、当相談会に来られる方々が多いです。
や社会復帰さえも妨げられて、暗闇の中でもがいている
当障害者とその家族への相談支援は、中途障害である
ような状態でした。
が故に先ずは、経済的な生活基盤の安定が必須と考えま
そのような時、行政に働きかけて、
「医療・福祉・就
す。生活が安定すれば、心も安定し、生きていく意味を
労などの支援制度の確立」を求めようと、
2003年(平
見出し、将来の見通しが立てられます。より良き治療や
成 15 年)
、既存の家族会6団体が協力し、任意団体「東
リハビリで改善に向けて専心でき、やがて就学・就労、
京高次脳機能障害協議会(TKK)
」を立ち上げました。
子育てへなど、家族と共に将来に向かって歩み出せます。
私達(当法人)の相談支援は、当事者とその家族への、
目的や活動に賛同し加盟する団体も増え始め、10 団
「人生再構築支援」に重点を置いています。
体になった頃、信用性を高め、より多くの参加を促し、
さらなる協力と支援の輪を広げ、より確実に目的を遂げ
るためには、法人格が必要との考えに至り、2007年
★ TKK ホームページ http://www.brain-tkk.com
(平成 19 年)
、特定非営利活動法人を設立。遂に、同年
★ TKK 情報専用サイト http://www7b.biglobe.ne.jp/~brain-link/tkk.html
12 月、東京都の認証を得ることができました。2016
★ 問合せ先:TKK 事務局 :TEL/FAX:03-3408-3798
年(平成 28 年)現在、
加盟団体は 28 団体に増えています。
7
高次脳機能障害の都の取組
東京都福祉保健局精神保健医療課
課長代理 内川 貴義
1.地域の連携による社会的リハビリテーション
支援促進事業」が平成19年度に2区での実施からス
病気や事故後の高次脳機能障害は、重症例であっても、
タートし、平成27年度には34区市町村で実施するま
時間をかけて、なだらかな改善を示し、長い年月をかけ
でに至っており、区市町村における体制整備も着実に進
て回復していきます。そのため、地域の社会資源を活用
んできています。
したリハビリテーションを進めていくことが重要です。
3.医療機関との連携
こうした社会的リハビリテーションを進めていくため
高次脳機能障害は、ゆるやかな回復過程をたどるため、
には、各個人のニーズや将来の目標、高次脳機能障害の
医療・福祉・介護等が長期間にわたり継続して連携をと
内容等により異なりますが、身近な地域である区市町村
りながら支援していく必要があります。そこで、区市町
を始め、医療機関や相談支援事業所、障害福祉サービス
村単位では完結しえない医療機関との連携体制の構築を
事業所、介護保険サービス事業所、就労支援機関、家族
目的として、平成22年度から順次、二次保健医療圏ご
会等が連携した地域支援ネットワークにより継続したリ
とに高次脳機能障害者のリハビリテーションにおける中
ハビリテーションを進めていくことが大切です。
核医療機関を中心とした「専門的リハビリテーションの
2.都における取組
充実事業」を実施しています。
都は、平成18年度から東京都心身障害者福祉セン
平成27年度からは、島しょ保健医療圏を除く、全
ターを支援拠点として、支援コーディネーターを配置し、
12圏域において取り組まれており、圏域内で高次脳機
高次脳機能障害者に対する専門的な相談支援、正しい理
能障害に携わる支援員などの技術や知識の向上を図るこ
解を促進するための普及啓発、支援に携わる人材の育成
とを目的とした症例検討会や研修会の実施、圏域内連携
に取り組むとともに、高次脳機能障害のある方や家族が
体制の構築を目指す連絡会の開催により、ネットワーク
身近な地域で、切れ目のない支援を受けられるよう、区
の充実を図っています。
市町村における相談支援体制や機関連携などのネット
4.地域で支える体制の構築を目指して
ワークの構築を進めています。
支援ネットワークは、高次脳機能障害の多様かつ複雑
また、自立した社会生活や就労などを目指す方に対し
なニーズに対して、関係する支援機関が連携して、支援
て、通所により、生活管理能力や作業能力、対人技能等
の事例を積み重ねていくことによって強化されます。
の評価と課題の整理などを行う「社会生活評価プログラ
こうした取組により「各機関の高次脳機能障害に対する
ム」や、職業評価、作業課題によるトレーニング、グルー
理解が進み、支援の受け皿が広がること」
、
「切れ目のない
プワーク等を組み合わせた「就労準備支援プログラム」
支援に向けて、機関相互の機能と役割が明確になること」
、
を実施し、高次脳機能障害の方の社会参加に向けた実践
「情報共有が進むことで、各機関がケースの将来像を見据
的な支援に取組んでいます。
えた支援が可能となること」などが挙げられます。
身近な地域における区市町村の実施状況を見ると、相
都は、引き続き、医療・保健・福祉等の連携体制の構
談支援の実施、介護・障害福祉サービス事業者や就労支
築を推進し、高次脳機能障害者が、医療と福祉、福祉の
援センター等の関係機関との連携による地域支援ネット
諸制度の谷間に置かれないよう、地域全体で支える体制
ワークの構築を目的とした「区市町村高次脳機能障害者
の充実を図っていきます。
東京都 こころの健康だより 平成 28 年 10 月 31 日発行
◆発行元 東京都立中部総合精神保健福祉センター 広報研修担当
◆問い合わせ先(ご意見・ご感想をお寄せください。)
〒 156-0057 東京都世田谷区上北沢二丁目1番地7号
東京都立多摩総合精神保健福祉センター 広報計画担当
電話 03-3302-7704 FAX 03-3302-7839
電話 042-376-6580 FAX 042-376-6885
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/chusou/index.html
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/tamasou/index.html
登録番号 27(10)
東京都立精神保健福祉センター 調査担当
(次号は平成 29 年 2 月 28 日発行予定です)
電話 03-3834-4100 FAX 03-5817-4063
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/sitaya/index.html
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