...

製油所水素のトレーラー輸送等に関する技術課題と検討状

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

製油所水素のトレーラー輸送等に関する技術課題と検討状
製油所水素のトレーラー輸送等に関する技術開発と検討状況
(一般財団法人石油エネルギー技術センター 自動車・新燃料部)
遠藤明、吉田剛、小森雅浩、吉久憲司、大場伸和、佐藤克哉、相田敏春、○森本正史
1.研究開発の目的
1.1 規制改革会議の答申
現在、水素ステーションの普及拡大に向け、関連法規制の適正化が求められている。
内閣府の規制改革会議は、内閣総理大臣の諮問を受け、経済社会の構造改革を進める上
で必要な規制改革を進めるための調査審議を行い、内閣総理大臣へ意見を述べること等を
主要な任務として設置されたものであるが、この会議から出された『規制改革に関する答
申(平成 25 年 6 月 5 日)
』の中でも、
「次世代自動車の世界最速普及/水素トレーラーが運
送に用いる高圧水素複合容器に係る水素充てん、保管、移動時の上限温度の緩和」が規制
改革実施計画のテーマに選ばれ、閣議決定された。
1.2 NEDO 委託事業
一方、平成25年度より、水素インフラ市場の立上げ及び普及拡大に向け、NEDO 事業「水
素利用技術研究/燃料電池自動車及び水素供給インフラの国内規制適正化、国際標準化に
関する研究開発」が実施されている。JPEC もこの事業に参画しており、
「圧縮水素輸送自動
車用容器の上限温度の緩和」も「水素ステーションの設置・運用等における規制適正化に
関する研究開発」の一項目として、この NEDO 委託研究のテーマに含まれている。
表 1.1 NEDO 委託事業の概要
1.3 検討の背景
本報告は、規制適正化検討項目のうち、製油所水素の輸送に関する技術開発項目として、
圧縮水素輸送自動車用容器の上限温度の緩和について述べる。
検討の背景として、製油所等の水素製造設備で水素を作り、水素トレーラーの容器に充
填し、充填後、水素トレーラーは水素ステーションまで移動し、水素ステーションに水素
を供給することを考える。この際に、水素トレーラーの容器は、貯蔵、移動時に 40℃以下
に温度を保つことと、高圧ガス保安規則に規定されている。ところが、これを守ろうとす
ると、実際には容器温度を 40℃以下で充填する必要があり、一方で、水素トレーラー容器
へ水素を充填する際には、容器内の水素温度が上昇することがわかっているので、充填時
間が長時間となってしまうという問題点がある。また、外気温が高い夏場では、充填その
ものが困難となる可能性がある。
水素トレーラー容器の耐熱性能は、同様な設計基準である FCV の燃料容器の基準(一時的
には 85℃)から見ても、40℃以上あると考えられることから、容器の耐熱性能を超えない範
囲で、基準の上限温度をひき上げ、充填の効率化を図りたいというのがこの検討の目的で
ある。
図 1.1 検討のイメージ
2.研究開発の内容
2.1 水素トレーラー及び関連設備の概要
(1)充填設備及び水素ステーション
関連する設備について記す。先ず、石油精製工場などの集中製造場所で製造された水素
は、圧縮され、トレーラーに搭載された高圧容器に充填される。
図 2.1 集中水素製造場所の充填設備
トレーラーは、水素ステーションまで移動した後、ステーションに水素を供給する。ス
テーションで、この水素は、さらに、燃料電池自動車に供給される。
図 2.2 水素ステーションの設備
(2)集中製造場所の概要
図 2.3 は集中製造場所である。トレーラーに水素を供給する側の設備の例を示す。トレ
ーラーや蓄圧器、充填機器が建屋内に置かれている。
図 2.3 集中水素製造場所
(3)水素トレーラー
実際に運用される水素トレーラーを図 2.4 に示す。赤色に見えているのが、搭載してい
る水素の高圧容器である。
図 2.4 水素トレーラー
(4)高圧容器の種類
高圧容器には金属製容器と複合容器とがある。複合容器もライナーの種類や繊維の巻き
方により種類が分かれるが、今回は、タイプ3容器とタイプ4容器について検討を行った。
表 2.1 高圧容器の種類
2.2 問題点(課題)解決のための検討
2.2.1 充填容器内外の温度分布把握
先ず、充填容器内外の温度分布把握のために、水素充填温度測定試験を行った。また一
方で、シミュレーション計算を行い、測定と計算の結果を比較・検証した。
(1)目的
:水素充填時及び充填後の容器内水素と容器外表面の温度を、水素充
填温度測定試験を行って測定し、充填シミュレーション結果を検証
する。
(2)試験実施機関:一般財団法人日本自動車研究所(茨城県東茨城郡城里町)
(3)試験実施期間:平成 25 年 12 月~26 年 2 月 (タイプ 3 容器)
平成 26 年 4 月~6 月 (タイプ 4 容器)
(4)試験方法
i) 試験容器:タイプ 3 容器:最高充填圧力 35 MPa、内容積 205 L(D415mm×L2,030mm)
タイプ 4 容器:最高充填圧力 45 MPa、内容積 204 L(D563mm×L1,501mm)
ii) 試験条件:
iii) 温度測定位置:15 箇所
図 2.5 容器内部の温度測定位置
(容器内 5 箇所)
図 2.6 容器外表面の温度測定位置
(容器外側表面 9 箇所、容器口金 1 箇所)
(5)結果(抜粋)
i) タイプ 3 容器
試験結果として得られた温度変化の一例を図 2.7 に示す。充填を開始すると、容器内の
水素温度が上昇し、充填後放置することにより、徐々に温度が下がる。
図 2.7 タイプ 3 容器試験結果の例
[昇圧レート 45MPa/h、環境温度・容器内初期温度 20℃、充填水素温度 40℃]
このグラフ上に、容器外表面の熱伝達率を 4.5 と 15 に替えて、赤の実線と破線でシミュ
レーションによる計算結果をプロットし、シミュレーション適用の可能性を検討した。
・実験結果では充填終了時の容器内水素の温度むらは 5℃程度と小さい。外表面の熱伝達率
α(4.5~15)の範囲内にあり、α=4.5 を入力すれば、高温側の推定値となる。
※α=4.5:周囲が無風のケース
α=15:周囲にそよ風が吹いているケース
・適切なαを設定することで、シミュレーションによる水素温度、外表面温度の推定は可
能であると考えられる。
ii) タイプ 4 容器
タイプ 4 容器についても、同様に、一例を図 2.8 に示す。タイプ 4 容器でも、充填を開
始すると、容器内の水素温度が上昇する。
図 2.8 タイプ 4 容器試験結果の例
[昇圧レート 45MPa/h、環境温度・容器内初期温度 20℃、充填水素温度 40℃]
タイプ 4 容器では、容器内水素温度に上下方向の温度差が大きいが、容器内水素の平均
温度を取れば、シミュレーション値と一致すると考えられ、容器内水素温度の均一化を図
り、熱伝達率を小さく設定して、水素温度、外表面温度の推定は可能と考えられる。
2.2.2 安全性の検討
(1)問題点の抽出・解決策と法規上の対応要否
次に、安全性の検討として、水素トレーラー用複合容器の充填、貯蔵及び移動時の上限
温度を、40℃から使用可能な温度まで引き上げた場合の問題点を抽出し、それに対する充
填設備等に必要な安全対策を特定した。さらに、これらの安全対策について法規上の対応
の要否を検討した。その結果、
「容器使用上限温度超え」については、充填時の容器の破裂
防止措置が必要で、法規上、基準の制定が必要であるとした。「容器への人接触」
、
「配管・
継手接合部緩み」、
「水素透過量の増大」、「圧縮機吸入ガス温度上昇」については、それぞ
れ対策が考えられるものの、新たに法規上の対応をするほどの必要はなく、既存のもので
十分とした。
表 2.2 安全性の検討
(2)追加検討:飛来物対策・紫外線及び雨水劣化防止対策
i) 検討内容
安全上の追加検討として、
「飛来物対策・紫外線及び雨水劣化防止対策」についても調査・
検討した。これは、
「複合容器蓄圧器には、飛来物対策・紫外線及び雨水劣化防止のために
覆いを設けることが例示基準化されているが、現状の 35MPa、45MPa トレーラー用複合容器
ともこの対策の規制はないので必要ではないか。
」という観点による。
ii) 調査結果
・容器外側の材料(複合材)の劣化データ
水や紫外線についていくつかの試験をした例は存在するが、その試験結果では明らか
な劣化現象は確認できなかった。
・充填場所の屋根設置状況(現状)
充填場所、水素ステーションとも、屋根が設置されている。
・トレーラーの設計状況(現状)
図 2.9 トレーラーの設計状況
iii) 検討結果
これらにより、JPEC の委員会の結論としては、
「容器側面、容器上部の覆いとも、法によ
る一律の規制は困難で、製造者が自主的に管理することが望ましい。
」とした。その後、こ
の問題は KHK の審査委員会でも検討され、雨水対策について、シール材の塗布や防水塗料
による対応が必要との項目が追加され、以下のようになった。
・直射日光や風雨による劣化が発生しないように自主的に管理する方が望ましい。
・その上で、容器口金部への雨水の浸入などの懸念は残るため、シール材の塗布や防水
塗料による対応は必要である。
2.3 技術基準案の検討
以上を受け、一般高圧ガス保安規則(案)
・例示基準(案)の作成を検討した。温度測定
試験データ及びシミュレーション結果から明らかなように「充填速度」
、
「容器周囲環境(外
気温、風の有無など)
」によっては、水素ガス温度が容器使用可能温度を超え、容器の損傷
に繋がる可能性がある。よって、過度な温度上昇による容器損傷を防止する安全装置を設
置することを技術基準(案)に盛り込む事とした。
(1)容器の損傷防止方法
・容器の損傷を防止する方法としては、
「容器温度の監視」「充填速度の監視」の2つの方
法が考えられるが、今回は現状事業者が自主的に実施している「容器温度を監視する安
全装置を設置する」ことを採用した。
・容器温度の上昇を停止させる有効な手段は充填をやめることである。そこで、事業者は
容器損傷の可能性に繋がると判断した場合には、速やかに充填を中止することとした。
図 2.10 トレーラー水素充填設備の容器損傷防止措置
(2)容器温度の監視位置
水素トレーラー容器に水素を充填する場合、容器内壁面が最も高温となる。そのため本
来なら容器温度は容器内壁面温度を直接測定することが望ましい。しかしこの方法には以
下の問題が新たに発生する可能性があり現実的には実施困難なため、今回は実現可能な「容
器外表面」を監視位置とした。
(例)
『熱電対を容器外周部からライナー内壁まで貫通させ、熱電対の先端を内壁面に接
着した場合』の問題点。
①ライナーに熱電対を取り付けた状態で、容器を工業的に製作することが困難
②貫通部から水素ガス漏洩の可能性あり
③貫通部からき裂が発生する可能性あり
④熱電対の日常点検が不可能
(3)容器外表面温度を正確に測定する方法
容器外表面を正確に測定する方法について検討した。
・容器外表面の汚れを落とす。
・温度計をアルミテープ等で容器外表面に密着して張り付ける。
取り付けるアルミテープのサイズは十分な長さを確保する。
・温度計が動かないように、バンドなどで補助的に固定する。
【要点】
・温度計の剥がれを防止する。
・容器外表面から温度計に確実に熱を伝える。
・外部からの輻射熱を防止する。
図 2.11 温度計取付け実施例(複合容器)
(4)容器の上限温度の値
最後に、以下の理由により、容器の上限温度の値を 65℃とした。
・水素トレーラー容器の規定(JPEC-S 0005(2013)、JIGA-T-S/12/04)は、FCV 容器(一時的に
は 85℃まで使用可能)の規定(JARIS001(2004))と、温度に関しては同一内容である。
・ 使用方法を比較すると、充填時の容器温度を 85℃に引き上げた場合、水素トレーラー容
器は、FCV 容器より、高温持続時間が長期化する。そのため、上限温度は、FCV 容器の 85℃
より余裕が必要である。
・水素トレーラー容器は、現行規定により、長期間高温状態に晒されることを想定した、
「設
計確認試験における加速応力破壊試験」に合格する必要があり、この試験温度下限値の
65℃を充填時の容器の上限温度とすれば、安全の担保は可能である。
図 2.12 FCV 容器と水素トレーラー容器の充填時の温度変化
[外気温 40℃、無風状態で、充填終了後自然冷却の際の充填時温度変化シミュレーション例 (KHK 検討会資料より)]
3.研究開発の結果
3.1 作成された技術基準案
検討結果として、具体的な技術基準の改正案を示す。尚、これらは、KHK 検討委員会での
結論であり、今後、基準化の手続きが行われる予定である。
(1)一般高圧ガス保安規則 改正案(要点)
(2)一般高圧ガス保安規則例示基準関係 改正案(要点)
3.2 シミュレーションの活用例
さて、実際に充填をすることを考える。一例として、夏場の以下の条件を設定すると、
従来基準では充填すること自体が困難になる。
計算条件: タイプ 3 容器、初期水素圧力 5MPa、
外気温 40℃、供給水素温度 40℃、無風状態(最も厳しい)
新基準(案)では、充填が可能で、この際、シミュレーションを活用することが有効とな
る。その一例を以下に示す。
i) Case-1. 最短時間で容器を満タンにする(例: 280 分で満充填(45MPa))
充填水素流量をパラメータとし、満充填時に容器内表面温度が 65℃になる充填流量
23.3g/min を求める。この充填時間 280 分から、外表面の温度 62℃を求める。
⇒ これを外表面管理温度に活用する。
容器内表面温度
容器外表面温度
充填流量 23.3g/min で
満充填時 65℃となる
外表面
外表面
管理温度
管理温度 62℃
充填時間 280 分
62℃
充填時間 280 分
充填時間 280 分
図 3.1 シミュレーションの活用例(Case-1)
ii) Case-2. 充填流量を増やして充填時間を短縮し、その中でできるだけ多くの水素を
充填する(例: 120 分で 4.8kg (5MPa ⇒ 32.4MPa) まで充填)
充填水素流量をパラメータとし、(ここでは、40g/min)容器内表面温度が 65℃になる時
の充填時間 120 分を求める。この充填時間 120 分から、外表面の温度 62℃を求める。
⇒ これを外表面管理温度に活用する。
また、この充填時間 120 分から、充填水素量 4.8kg を求める。
容器外表面温度
容器内表面温度
充填流量 40g/min
容器内表面
外表面
使用最高温度
管理温度
65℃
62℃
充填時間 120 分
充填時間 120 分
容器内水素重量
容器内
水素重量
5.9kg
充填
水素重量
4.8kg
容器内
充填時間 120 分
初期水素重量
1.2kg
図 3.2 シミュレーションの活用例(Case-2)
このように、新基準(案)で、シミュレーションを活用することにより、夏場でのトレー
ラー充填が容易となり、充填時間の短縮が図られる。また、充填時の外表面管理温度を求
めることが出来る。
4.まとめ
・圧縮水素運送自動車用容器による充填・貯蔵・移動時の上限温度に関する関連法規の整
理・検討を実施した。
・水素充填温度測定試験やシミュレーションを実施し水素充填時の容器の温度変化の状況
を把握した。
・技術的な安全性の評価・検討を実施した。
・上限温度以下で安全が確認できた温度容器における安全対策を検討した。
・圧縮水素運送自動車容器の充填・貯蔵・移動時の上限温度を技術的に可能な限り引き上
げる検討を実施し、圧縮水素運送自動車用容器が、緩和された使用上限温度(65℃)以下
で使用可能となるように技術基準案を作成した。
・作成した技術基準案に対応した、シミュレーションの活用方法を検討した。
・以上により、トレーラーへの充填時間の短縮が図られ、夏場でのトレーラー充填が容
易となった。
以上
Fly UP