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パンク経済危機

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パンク経済危機
論叢
第142巻
第2・3号
オ ー ス ト リ ア 経 済 思 想 史 研 究 の 課 題 と方 法 … … 八
W.A.ル
木
紀 一 郎1
イ ス の 世 界 シ ス テ ム 論 ・… ・
… … ・… … ・
・
小 野 塚
佳
光12
社 会 的 欲 求 の 充 足 と財 政 組 織 ・
… ・
… ・
… … … ・
・
・… 山
田
浩
貴31
タ ー ンパ イ ク ・モ デ ル の 初 期 調 整 プ ロ セ ス … … 長
沢
克
重49
技 術 革 新 と雇 用 … … ・
・
… ・… ・… … … ・
… ・ジ ャ γ カ ル ロ ・ ノ ソ ニ ス70
戦 後 日本 電 機 企 業 の 海 外 進 出 ・
… … ・
・
… … ・
… ・
・… 蘇
書
向
文
筆93
評
寿一 著
「世 界 マ ネ ー 循 環 と 多 国 籍 銀 行 」 … 小
倉
経 済 学 会 記 事
昭 和63年8・9月
室 押 大 罪 繧 濟 學 會
明
浩117
(305)工17
〈書
評〉
向
寿 一i著 「世 界 マ ネ ー循 環 と多 国籍 銀 行 」
(有 斐 閣1988年)
小
倉
明
浩
1
1987年,日
本 の対 外 債 権 は1兆
ドル を超 えた 。 一 方,ア
メ リカは1985年,純
で 一1,119億 ドル を記 録 し債 務 国 に転 落 した 。 また,1986年
資産残高
低 開 発 国 の 累積 債 務残 高 は1
兆 ドル超 の水 準 に あ り,多
くの諸 国 の経 済情 勢 は 開 発 へ の 尿 望 を持 つ こ と を許 さな い状
況 に あ る 。 こ の よ うな,国
際 間 の 債 権 ・債 務 関 係,即
ち世 界 の資 金 循 環 の 構 造 に,現 代
世界 経 済 分析 の一 つ の焦 点 が あ る こ とは 明 らか で あ る 。
ま た この資 金 循 環 の担 い 手 で あ り,最
も重 要 な主体 とな った 多 国 籍 銀 行 の分 析 は我 々
に とって 待 ち望 まれ て い た もの で あろ う。
これ ま で多 国 籍 銀 行 の 理 論 的 検 討 に よ り,そ れ を 発 生 史 的,形
しコ,,多 国籍 銀 行 生 成 の歴 史,邦 銀 の国 際 化 の特 徴,米
析 して きた2〕
著 者 に よ る本書 は,世
態 的,本
質 的 に規 定
国 に お け る 外 国銀 行 の 展 開 を分
界 の資 金 循環 の構 造,そ
して 多 国籍 銀 行 の 活動 が 実
証 的 に精 査 さ れ た各 車 か らな り,現 代 世 界 経 済 の研 究 に有 益 な貢 献 を成 し得 て い る。 本
書 の構 成 は 次 の通 りで あ る。
第一部
]章1970年
代 の 世 界 マ ネ ー循 環
2章1980年
代 の世 界 マ ネ ー循 環
第二部
1)向
3章1970年
代 の 国際 金 融 市 場.と多 国 籍 銀 行
4章1980年
代 の 国際 金 融 市 場 と多 国籍 銀 行
寿 一,「
収。
2)関
下 稔
多 国 籍 銀 行 生 成 の 論 理 」,宮 崎 義 一編 『多 国 籍 企 業 の研 究 』 筑 摩 書 房1982年,所
鶴 田廣 巳,奥
田 宏 司.向
寿 一共 著r多
国 籍 銀 行 』 有 斐 閣1984年
。
1工8(306>
第142巻
第2・3号
第三部
5章
多 国 籍 銀 行 と低 開 発 諸 国
6章
多 国籍 銀 行 と債 務 累 積
7章
多 国 籍 銀 行 と債 務 リス ケ ジ ュ ー ル
1亘
(1)第 一 部 に おい て は,世 界 各 地 域 の 基 礎 収 支 一
経常収支一
総合収支 の 三段階での
分 析 に よ っ て,世 界 資 金 循 環 の構 造 が 明 らか に され て い る。 そ れ に よれ ば,70年
代前半
に おい て は,北 米 と低 開 発 国の 貿 易 赤 字 を先 進 諸 国 に よ る公 的 資 金 の移 転 が フ ァイナ ン
ス して いた とい う。 著 者 の い う 「二 つ の 体 制 支 持 金 融 」(p.6)で
フ ァイ ナ ンスの この構 造 は70年 代 後 半,80年
対 北 米金 融 では70年 代 に お い て は,貿 易 収支,民
外 貨 準 備 に よっ て金 融 され てい た(p.8,13)も
あ る。
代 にか け て変 容 を遂 げ る 。
間 短 期 資 本 収 支 の赤 字 が 海 外 の 公 的
の が,80年
る需 要 拡 大 と,企 業 の多 国 籍 化 に よ る国 内産 業 空 洞 化,民
代 に は レー ガ ノ ミ クス に よ
生用 技 術 の 伸 び悩 み 等 の 要 因
に よ り輸 入 依 存 体 質 化 した 米 国 経 済 の対 外 不 均 衡 の拡 大(p.23)に
の シ ェアが 低 下 し,民 間資 本 の流 入(特
に 日本 か ら の)が
伴 い,公
的外国資本
大 きな 位 置 を 占め て くる(p.
96)3,。
低 開 発 国 へ の金 融 に おい て,そ の よ うな傾 向 は先 行 して生 じてい た。70年 代 後 半,低
開 発 国 へ の資 金 フ ロー にお いて は 多 国 籍 銀 行 に よ る ナ イル マ ネ ー の 環 流 を中 心 と した 民
間 長 期 資 本 が 拡 大 し,次 い でそ れ が 短 期 化 して い った の で あ る(p,11)。
流 こ そが 「巨 額 の 累 積 債 務 を もた ら し,80年
く」 み(p,17),80年
そ して この 環
代 の マ ネ ー フ ロ ーの 循 環 縮 小 の 危 機 をは ぐ
代世 界経 済 を揺 るが した 債 務 危 機 と して 顕 在 化 させ た の であ る。
低 開発 国 は長 期 資 本 収 支 黒 字 を上 回 るサ ー ビス 収 支 赤 字 と,巨 額 の資 本 逃 避 に見 舞 わ れ
る(P.19)。
70∼80年 代 の世 界 資 金 循 環 を ま とめれ ば,「'二 つ の 体 制 支 持 金 融.」
→対 低 開 発 国 金 融 の
民 間金 融化 → 資 金 循 環 縮 小 の危 機 → 対 米 金 融 の 民 間金 融 化,と
なる。
(2)以 上 の よ うな資 金 循 環 を媒 介 した 多 国 籍 銀 行 につ い て 我 漕 の 知 る と こ ろは 少 な い 。
第 二 部 にお い ては,こ
3)こ
の多 国 籍 銀 行 の 展 開,競 争 構 造,受.入 国 との 関 係 を,ユ
のこ とは米国のIBFの
創設 な どの金融市場 規制 の緩和 も重要 な意味 をもった。
ー ロ市 場
書評
向
寿一著 「
世 界 マネ ー循環 と多国籍銀行」(307)119
の中 心 で あ る イ ギ リス を舞 台 と して,日
本 の銀 行(邦 銀)と 米 銀 を対 象 と して 描 こ う と
す る貴 重 な試 み が 行 わ れ て い る。1それ に よれ ば,ロ
ン ド γ市 場 で は,イ
ンタ ーバ ン ク取
引 に お い て 米銀 が 貸 手 と して現 れ る の に対 し て,邦 銀 は借 手で あ り,母 国 通 貨 を 国 際 通
貨 と して利 用 で きる基 軸 通 貨 国 と貿 易 に よ っ て 国際 通貨 を獲 得 す る こ とが 要 求 され る周
辺 国 との格 差 が見 られ る、 ま た,ユ ー ロシ ン ジ ケ ー トロー ンを め ぐ って も,後 発 者 であ
る邦 銀 は ハ ラキ リ,バ ンザ イ ロー ン と呼ば れ る 劣悪 な利 潤 獲得 条 件 の 中 で シ ェ ア を拡 大
して い た とい う(3章)?す
な わ ち,基 軸 通 貨 国 の 銀行 で あ る 「大 手米 銀 を 頂 点 と した
重 層 的 構造 」4,を と り競争 しっ っ,70年
術 の 開 発(p.64)に
代 に は ロー ル オ ーバ ー,シ
よ って 対低 開 発 国 向 融 資 を 行 い,80年
証 券 化 の進 展 等 を通 じて(p.79)対
先 進 国(北
米)向
に 重 点 を 移 動 さ せ る こ とに よ っ
て,資 金 循 環 の 拡 大 を担 って きた の で あ る。 邦 銀 ほ そ の 中 で,量
の 地 位 を飛 躍 的 に高 めて きた が,米
ン ジ ケ ー トP一 ン技
代 に は 国際 貸 付 停 滞 の 中 で,
的 拡 大 を追 及 しっ っ そ
銀 に よ るヘ ゲ 手 二 一 ぽ依 然 と して維 持 さ れ て い る と
い うこ とで あ る(p.84)。
(3)本 書 第 三 部 で は低 開 発 国 と多 国 籍 銀 行 の関 係 が 開発 問 題 とか か わ る形 で 分 析 され て
い る。5章
に お い て は,こ れ ま で 研 究 が 不 十 分 で あ った 低 開 発 国 内 で の 多 国 籍 銀 行 の 展
開 が,6章
で は債 務累 積 の深 刻 化 とそ の性 格 が,そ
して7章 で は債 務 リス ケ ジ ュ ー ルの
過 程 の 政治 経済 学 的意 味 が ペ ル ー を事 例 と して検 討 され て い る。
そ れ に よれ ば,多
くの低 開発 国政 府 は外 国銀 行 に よる支 配か ら 脱 却 す るた め に様 々 な
地 場 銀 行 育 成 政 策 を行 って い るが(p.106-p,115),全
業 務 を 貿 易 金 融 中 心 か ら多 様 化 させ て い る(n.142)。
般 的 に見 れ ば 多 国籍 銀 行 は そ の
しか も,規 制 に よ り多 国籍 銀 行 を
限 界 的 な地 位 に 制 限 し えて い る場 合 にお い て も,外 資 導 入 のパ イ プ と して依 存 は増 大 せ
ざ る を え ない 。 低 開 発 国 の 進 め る開 発 政策 が 生 む貯 蓄 一
投資 ギ ャ ッ プ,経
常収 支 ギ ャ
ップが そ れ を必 然 化 す るの で あ る(p,145)。
その よ う な環 境 にお いて 進 ん だ 低 開 発 国 へ の 多 国 籍銀 行 に よ る貸 付 の 拡 大 は,そ
の自
立 的 国 民経 済 形 成(経 済 発 展)へ の 新 た な構 造 的 問 題 を 提 起 した の で あ る(p.175)。
この点 につ い て7章 の分 析 は 興 味 深 い 。70年 代 ペ ル ー は多 国籍 銀 行 の積 極 的 な融 資 に
よ って開 発 政 策 を進 め てい た が,経 済 危 機 に陥 る。 その 決 定 的 要 因 は,政
の失 敗 以 上 に,一 次 産 品 輸 出国 とし て の構 造 に あ る(p.202)。
4)向
前掲論文55ペ
ージ。
府 の経 済 政策
それ に もかか わ らず,多
120(308)第142巻
第2・3号
国 籍 銀 行 とIMFは
国 内政 策 に の み 原 因 を帰 し,そ の 監 視 体 制 が とられ た 。 す な わ ち1
新 規 融 資 はIMFの
経 済 調 整 政 策 へ の勧 告 の受 入 れ を条 件 と した の で あ る。
この よ うな経 過 を見 れ ば,よ
く言 わ れ る プ ロジ ェ ク ト融 資 は善 で,国
だ とい うよ うな議 論 は成 立 た な い。 な ぜ な ら,ど
そ の 有効 性 如 何 に か か わ らず,国
際 収 支 融 資 は悪
の よ う な 目的 に融 資 を使 用 し よ う と屯,
際環 境 の 変 容 に よ り不 況 期 とな れ ば,自
を越 える経 済 調整 を余 儀 無 く され る干 渉 を 招 くの で あ って,前
主的調整能力
者 は後 者 と連 動 せ ざ る を
え ない か らで あ る。
III
以 上 の よ う に,本 書 は 世 界 資 金 循 環 の構 造,国
の競 争,多 国 籍 銀 行 一
際金 融 市 場 に お け る 日米 多 国 籍銀 行 間
低 開 発 国 間 関 係 のそ れ ぞ れ につ い て,こ
れ ま で に な い 視角 か ら
の厳 密 な分 析 に よ り新 鮮 か っ 重 要 な フ ァ ク トフ ァイ ソ デ ィ ソグ を行 って い る 。 「
多 国籍
銀 行 の グ ρ一バ ル な運 動 を主 として 受 入 国 側 のか らの デ ー タで 明 らか に す る」(は
き)と い う課 題 設 定 の制 約 に よ り,各 部,各
きな か ったが,膨
しが
草 間 をつ な ぐ ヴ ィ ジ ョン を読 取 る こ と はで
大,繁 雑 な デ ー タ ー を分 析,整 理 し,我
々に 提 示 され た とい う貢 献 か
らす れ ば,そ れ を 不満 とす る こ とは控 えね ば な らな い だ ろ う。
た だ し,「70年
代 末 か ら80年 代 初 頭 のデ ー タ ー を分 析 す る こ とに 主 眼 を お い て い る」
(は しが き)と は い え,70年
代 に 関 す る分 析 の厳 密 さに比 べ れ ば,80年
代 の 国 際金 融 市
場 を扱 っ た4章 につ い て は残 され た 課 題 が 多 い よ うに 思 わ れ る。70年 代 に お い て は シ ン
ジ ケ ー トロ ー ン形 態 に よ る国 際 銀 行 貸 付 の 拡 大 が 国 際 金融 市 場 を主 導 して い た 。 そ の 点
で ユ ー ロシ ン ジ ケ ー トロー ン を中 心 と して,米
銀 一邦 銀 間 の競 争 構 造 を分 析 す る こ とは
大 きな意 義 を持 っ て い た と言 え よ う。 しか し,80年 代 にお い て は 著 者 が 示 す よ う に(p.
79),国
際金 融,資
本市 場 金 融 は 証券 化 が進 み,シ
ン ジ ケ ー トロー ン は そ の 比 重 を 著 し
く低 下 さ せ て い る。 そ れ に もか か わ らず著 者 が シ ン ジ ケ ー トロ ー ン の主 幹 事 ラ ンキ ン グ
の み を も って,米
銀 の ヘ ゲ モ ニ ー の維 持 を結 論 す る こ とは 不 適 当 で あ る と言 わ ね ば な ら
な い だ ろ う。80年 代 に おい ては,国 際 金 融 資 本 市 場 の証 券 化 とい う事 態 との 関連 で 多 国
籍 銀行 の 展 開が 論 じ られ る こ とが 必 要 で あ ろ う。 そ の こ と は本 書 が 第 一 部 の分 析 で抽 出
さ れ た,米
国 の双 子 の 赤 字 を フ ァ イナ ンス す る民 間資 本(p.26)の
で は な く,米 国 国 債 へ の 投 資 で あ る こ とや9,第
主 要 な ものが ロー ン
三 部 の対 象 で あ る累 積 債 務 問 題 へ の対
書評
向
寿一 著 「世 界 マ ネ ー循 環 と多 国籍 銀 行 」
(309)121
応 の 一 つ の 焦 点 が債 務 の 証 券化 で あ る こ と61か らも要 請 され る と考 え る。 国 際 金 融 市 場
の70年 代 か ら80年 代 へ の 構 造 変 化 とそ こで の 多 国籍 銀 行 の展 開 の 論 理 の究 明 が 要 求 され
るの で あ る。 多 国 籍 銀 行 の生 成 の 論 理 を明 らか に した 著 者 に よ っ て,そ れ が な され る こ
とを期 待 す る も の は評 者 一 人 で は ない だ ろ.ラ。
5)こ
れ につ い ては,松
村 文 武r債
務 国 ア メ リカの 構 造 』 同 文f,1988年
が参 考 に な る。
6)こ
れ を分 析 した もの と して,栗 原 昌子 「発 展 途上 国 債 務 の株 式化 と途 上国 向 け民 間資 本 フ ロ ー
拡 大 策 」r東 京 銀 行 月 報 』1987年9月
号,小 野 塚 佳 光 「金 融 革 新 と開 発 融 資 一
累 積債 務 の セキ
」 タ イ ゼ ー シ ョ ンー 」 『世 界経 済.評論 』1987年11月 号,が あ る.
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